説明

車両の走行模擬試験システム

【課題】車両に搭載されるエアコンやカーオーディオなどの付属装置を実装することなく、それらの付属装置を作動することで生じる車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を仮想的に検証試験できる走行状態システムを提供する。
【解決手段】実際の車両に搭載されるブレーキシステムを搭載せずに、ドライブシャフト40に直結した負荷吸収モータ50a,50bがエンジン10やモータ20の駆動出力を吸収することで車両走行状態を模擬する試験システムにおいて、運転条件に示された所定のタイミングでバッテリに対する電気負荷の値を変動させるための負荷変動指令を走行状態模擬装置60が電気負荷装置25に出力し、電気負荷装置25がその負荷変動指令を受けてメインバッテリ24に所定の電気負荷変動を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の性能検査において、指定された運転条件に応じて仮想的に制動トルクや走行抵抗トルクなどの負荷トルクを、車両の駆動源からの出力を伝える出力軸に連結された負荷装置に発生させることで、車両の走行状態を模擬する走行模擬試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の性能試験を行う走行模擬試験システムとして、例えば特許文献1に開示されたシステムがある。特許文献1に示すようなシステムでは、実際の車両に搭載されるブレーキシステムを搭載せずに、ドライブシャフトに直結した負荷吸収モータがドライブシャフトに負荷トルクを発生させることで駆動出力を吸収し車両走行状態を模擬し、各々の性能試験を実施する。
【0003】
また、特許文献2には、電気自動車の動力系を構成するモータを動力吸収部と機械的に連結することで、電気自動車の動力系を車両に実装せずに電気自動車の動力系の性能試験を行う性能試験装置が開示されている。
【0004】
このような試験装置では、駆動源となるエンジンやモータなどの試験対象装置を車両に実装したのと等価の運転をさせることで、性能検査を行うことを目的としている。
【0005】
ところで、車両には、エアコンやカーオーディオなどの付属装置が搭載されており、それらの付属装置が作動する際には、車両に搭載されたバッテリから電力を供給することが必要な場合がある。その際に、例えば、バッテリからモータへの電力供給と付属装置への電力供給が同時に行われた場合に、車両に搭載するモータやバッテリなどへの影響がどのようなものかを検証試験したいという要望がある。
【0006】
しかし、上記のような走行模擬試験システムでは、エアコンやカーオーディオなどの付属装置が搭載されていないことが多く、そのような付属装置の作動によって発生する車両に搭載されたモータやバッテリなどへの影響を検証試験することはできなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−125583号公報
【特許文献2】特開2001−91410号公報
【特許文献3】特開平08−334439号公報
【特許文献4】特開2000−35380号公報
【特許文献5】特開2000−97811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、車両に搭載されるエアコンやカーオーディオなどの付属装置を実装することなく、それらの付属装置を作動することで生じる車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を仮想的に検証試験できる走行状態システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る走行模擬試験システムは、駆動源と、前記駆動源に電力を供給するバッテリと、前記駆動源を制御する制御装置と、前記駆動源からの出力を伝える出力軸と、前記出力軸に連結され、その出力軸に負荷トルクを発生させる負荷装置と、指定された運転条件に応じた負荷トルク発生指令を前記負荷装置に出力するとともに、指定された運転条件に応じた駆動制御指令を前記制御装置に出力する走行状態模擬装置とを備え、前記負荷装置が指定された運転条件に応じた負荷トルクを前記出力軸に発生させることで車両の走行状態を模擬し、車両の性能検査を行う走行模擬試験システムにおいて、前記走行模擬試験システムは、さらに、前記バッテリに電気負荷を可変的に与える電気負荷装置を備え、前記走行状態模擬装置は、前記運転条件に示された所定のタイミングで電気負荷の値を変化させるための負荷変動指令を前記電気負荷装置に出力し、前記電気負荷装置は、前記負荷変動指令を受けて、所定のタイミングで前記バッテリに対する電気負荷の値を変動させることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、走行状態模擬装置が、運転条件に示された所定のタイミングで電気負荷の値を変化させるための負荷変動指令を電気負荷装置に出力し、電気負荷装置がその負荷変動指令を受けて所定のタイミングでバッテリに対する電気負荷の値を変動させる。これにより、車両に搭載されるエアコンやカーオーディオなどの付属装置を実装することなく、それらの付属装置を作動することで生じる車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を仮想的に検証試験することができる。
【0011】
所定のタイミングとしては、例えば、バッテリから駆動源に対して供給する電力が変動するタイミングであり、モータのみを駆動源とする走行状態から、エンジンを駆動源として加える走行状態への切り換えタイミングや、バッテリからモータへの供給電圧の昇圧が開始されるタイミングなどである。
【0012】
また、バッテリ以外に、車両に搭載される各種電装品に電力供給する補機バッテリを備える場合には、電気負荷装置は、所定のタイミングで補機バッテリに対する電気負荷の値を変動させてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態(以下、実施形態とする)について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態におけるハイブリッド車用試験装置である。なお、本実施形態では、試験対象の車両として、ハイブリッド車を例に説明するが、一般的な内燃機関の車両の性能試験を行う場合にも適用可能である。
【0014】
ハイブリッド車用試験装置では、試供体として、エンジン10、モータ20、ジェネレータ21、動力分配機構30、ドライブシャフト40などが接続されている。さらに、モータ20とジェネレータ21とは、インバータ22、昇圧コンバータ23を介してメインバッテリ24に接続されている。昇圧コンバータ23は、モータ20およびジェネレータ21とメインバッテリ24との間の電圧を約200Vから最大500Vまでに昇圧するコンバータである。
【0015】
そして、ECU90の制御のもと、エンジン10、モータ20から出力された駆動出力は、動力分配機構30を介してドライブシャフト40に伝えられる。さらに、ドライブシャフト40の両端には負荷装置として負荷吸収モータ50a,50bが接続されている。負荷吸収モータ50a,50bは、車両走行状態を模擬するために、ドライブシャフト40に対して仮想的に制動トルクや走行抵抗トルクを発生させる負荷装置である。このように、負荷吸収モータ50a,50bにおいて、仮想的に制動トルクや走行抵抗トルクを発生させることで、実際に車両を走らせることなく、さらに、実際の車両に搭載されるブレーキシステムを搭載することなく、模擬的に車両走行状態を作り出し、車両の各種性能試験を行うことができる。
【0016】
走行模擬装置60は、指定された運転条件に基づいて、仮想的に発生させる制動トルクや走行抵抗トルクといった負荷トルクの値を算出し、その負荷トルクを負荷吸収モータ50a,50bに発生させるように制御する装置である。さらに、走行模擬装置60は、指定された運転条件に応じた動作を各試供体がするように、ECU90に対して制御指令を出力する。ECU90は、この制御指令に基づいて、エンジン10、モータ20を制御して駆動トルクを発生させたり、モータ20を制御して回生トルクを発生させる。
【0017】
センサ70a,70bは、それぞれドライブシャフト40の片端の回転数とトルクを測定する検出器である。センサ70a,70bで測定された測定値は、走行模擬装置60へ出力される。走行模擬装置60は、センサ70a,70bで測定された値をもとに、指定された運転条件に応じて試供体が動作しているか否かを判定して、必要に応じて、負荷吸収モータを補正制御したり、ECU90に対して補正制御指令を出力する。ECU90はこの補正制御指令を受けて、エンジン10、モータ20、ジェネレータ21を補正制御する。操作端末80は、車両の性能検査の検査項目に応じて運転条件を指定して、その指定した運転条件を走行模擬装置60に提供する装置である。
【0018】
加えて、本実施形態では、メインバッテリ24にさらに電気負荷装置25が接続されている。電気負荷装置25は、例えば、実車両に搭載されるエアコン用のブロアモータやカーオーディオなどを作動する際に発生する電気負荷変動を仮想的にメインバッテリ24に与える装置である。すなわち、電気負荷装置25は、メインバッテリ24に対する電気負荷の値を所定のタイミングで切り換えることで、ブロアモータやカーオーディオなどの付属装置が搭載されているのと等価の電気負荷変動をメインバッテリ24に与える。これにより、本実施形態によれば、それらの付属装置を作動することで生じる車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を仮想的に検証試験することができる。
【0019】
操作端末80で指定される運転条件とは、車速の時間変化またはアクセル開度とブレーキ開度の時間変化、路面摩擦係数や勾配抵抗などの道路条件、車両重量などの車両諸元、ころがり抵抗などの各種走行抵抗などである。そして、本実施形態では、運転条件としてさらに、電気負荷装置25がメインバッテリ24に対して発生させるべき電気負荷変動のパターンを示す電気負荷条件が示されている。
【0020】
このように構成されたハイブリッド車用試験装置において、走行模擬装置60が、指定された運転条件に応じた制動トルクや走行抵抗トルクといった負荷トルクを発生させるように負荷吸収モータ50a,50bを制御すると共に、指定された運転条件に応じた動作を各試供体がするように、ECU90に対して制御指令を出力する。さらに、走行模擬装置60は、運転条件に示された電気負荷条件に基づいて、所定の電気負荷変動をメインバッテリ24に対して与えるように電気負荷装置25を制御する。これにより、車両に搭載されるエアコンやカーオーディオなどの付属装置を実装することなく、それらの付属装置を作動することで生じる車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を仮想的に検証試験することができる。
【0021】
ここで、運転条件に示される電気負荷条件についてさらに説明する。この電気負荷条件には、電気負荷装置25がいつのタイミングで、メインバッテリ24に対する電気負荷の値の切り換えを行うかが示されている。
【0022】
電気負荷条件に示されるタイミングとしては、例えば、メインバッテリ24にエンジン10やモータ20などの駆動源が駆動する際に必然的には発生しない電気負荷が加わることで、車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響が発生しうるタイミングである。
【0023】
一般に駆動源としてエンジンとモータとを備えるハイブリッド車は、低速域では、モータのみで駆動し、車速がある閾値を越えた時点でエンジンの駆動力が加わる。このエンジンの駆動力が加わるタイミングでモータの駆動制御が切り替わる。そこで、このタイミングで、例えば、搭乗者がエアコンのスイッチをオンした場合における、車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を検証するのであれば、電気負荷条件に示されるタイミングとしては、エンジンの駆動力が加わる速度に車両の仮想的な走行速度が達した時点である。そして、同じく電気負荷条件に示される電気負荷装置25が発生すべき電気負荷の値は、実車両においてエアコンのスイッチをオンした場合にメインバッテリ24に与えられると推定される電気負荷の値と等価の値である。図2に、エンジンの駆動力が加わる速度Vと、電気負荷条件に示されるタイミングTと、電気負荷装置25がメインバッテリ24に与える電気負荷Rとの関係を示す。図2では、車速がV1となったタイミングT1において、電気負荷装置25に発生させる電気負荷をR1からR2に変化させ、メインバッテリ24に電気負荷変動を与えている。
【0024】
その他のタイミングとしては、例えば、昇圧コンバータ23が、モータ20およびジェネレータ21とメインバッテリ24との間の電圧の昇圧を開始するタイミングや、PMW制御から単波形制御へ切り替わるタイミングなどのモータ20の駆動制御が切り替わるタイミングが挙げられる。なお、上記で述べた各タイミングついては、走行模擬装置60が、モータ20等を制御するECU90から各試供体に対する制御信号を取得して、その制御信号に基づいて決定すればよい。
【0025】
また、本実施形態では、駆動源としてのモータ20に電力供給するメインバッテリ24に電気負荷装置25が接続され、メインバッテリ24に対して所定の電気負荷変動を与える例を示した。しかし、駆動源としてのモータを除く各種電装品(照明装置、パワーウィンドウ、ワイパー、エアコンなど)に電力供給する低電圧の補機バッテリに電気負荷装置25を接続して、補機バッテリに対して電気負荷変動を与えることで、車両走行中の電気負荷変動による車両走行制御への影響を検証試験することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態におけるハイブリッド車用試験装置のシステム構成を示す図である。
【図2】本実施形態において、エンジンの駆動力が加わる速度Vと、電気負荷条件に示されるタイミングTと、電気負荷装置25がメインバッテリ24に与える電気負荷Rとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 エンジン、20 モータ、21 ジェネレータ、22 インバータ、23 昇圧コンバータ、24 メインバッテリ、25 電気負荷装置、30 動力分配機構、40 ドライブシャフト、50a,50b 負荷吸収モータ、60 走行模擬装置、70a,70b センサ、80 操作端末、90 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、前記駆動源に電力を供給するバッテリと、前記駆動源を制御する制御装置と、前記駆動源からの出力を伝える出力軸と、前記出力軸に連結され、その出力軸に負荷トルクを発生させる負荷装置と、指定された運転条件に応じた負荷トルク発生指令を前記負荷装置に出力するとともに、指定された運転条件に応じた駆動制御指令を前記制御装置に出力する走行状態模擬装置とを備え、前記負荷装置が指定された運転条件に応じた負荷トルクを前記出力軸に発生させることで車両の走行状態を模擬し、車両の性能検査を行う走行模擬試験システムにおいて、
前記走行模擬試験システムは、さらに、
前記バッテリに電気負荷を可変的に与える電気負荷装置を備え、
前記走行状態模擬装置は、
前記運転条件に示された所定のタイミングで電気負荷の値を変化させるための負荷変動指令を前記電気負荷装置に出力し、
前記電気負荷装置は、
前記負荷変動指令を受けて、所定のタイミングで前記バッテリに対する電気負荷の値を変動させることを特徴とする走行模擬試験システム。
【請求項2】
請求項1に記載の走行模擬試験システムにおいて、
前記走行状態模擬装置は、
前記バッテリから前記駆動源に対して供給する電力の変動タイミングで前記電気負荷装置が前記バッテリに対する電気負荷の値を変動するように、前記電気負荷装置に対して前記負荷変動指令を出力することを特徴とする走行模擬試験システム。
【請求項3】
請求項2に記載の走行模擬試験システムにおいて、
前記駆動源には、モータとエンジンとを含み、
前記バッテリから前記駆動源に対して供給する電力の変動タイミングは、前記モータのみを駆動源とする走行状態から、前記エンジンを駆動源として追加する走行状態への切り換えタイミングであることを特徴とする走行模擬試験システム。
【請求項4】
請求項2に記載の走行模擬試験システムにおいて、
前記駆動源には、モータを含み、
前記バッテリから前記駆動源に対して供給する電力の変動タイミングは、前記バッテリから前記モータへの供給電圧の昇圧が開始されるタイミングであることを特徴とする走行模擬試験システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の走行模擬試験システムにおいて、
前記走行模擬試験システムは、
前記バッテリ以外に、車両に搭載される各種電装品に電力供給する補機バッテリを備え、
前記電気負荷装置は、
前記負荷変動指令を受けて、所定のタイミングで前記補機バッテリに対する電気負荷の値を変動させることを特徴とする走行模擬試験システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−170952(P2006−170952A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367723(P2004−367723)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】