説明

車両の車室側壁構造

【課題】側面衝突時に、ドアトリムの局部に大きな歪みが集中するといった事態を抑制する。
【解決手段】緩衝体10は、周側壁11における下側壁11aが、リクライニングレバー20と対応する位置に設定されている。これにより、車両の側面衝突時には、リクライニングレバー20を周側壁11における下側壁11aで受けるように、下側壁11aの位置が設定されることになる。そのため、周側壁11における下側壁11aをリクライニングレバー20が受けることで、緩衝体10とリクライニングレバー20とのせん断力が緩和されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室側壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両の側面衝突時における乗員保護対策として、サイドドアのドアトリムに固着して当該ドアトリムとドアインナパネルとの間の空間部に緩衝体を配設する構造が開示されている。この緩衝体は、車両の側面衝突時、ドアインナパネルとドアトリムとの間で圧潰変形して衝突エネルギーを吸収する。
【0003】
なお、例えば特許文献2には、車両用シートが開示されている。当該特許文献に記載されるように、車室内に配置された車両用シートのシートクッションには、ドア側の側面(横側面)に、シート調整を行うためのシート調整用レバー(例えばリフタレバーまたはリクライニングレバー)が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−55549号公報
【特許文献1】特開2010−184667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両の側面衝突時には、衝突荷重にともなう緩衝体とシート調整用レバーとのせん断力がドアトリムに作用することが考えられ、この場合には、ドアトリムの局部に大きな歪みが集中してしまう。このような歪みの集中は、ドアトリムに割れなどを発生させる要因となる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、側面衝突時に、ドアトリムの局部に大きな歪みが集中するといった事態を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、車室の側壁パネルの側面を覆って装着されたトリム材の裏面に、車両の側面衝突時に衝突荷重を受けて圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収可能な緩衝体を固着した車両の車室側壁構造を提供する。この場合、緩衝体は、一方が開口されて他方に端壁が連設された筒状の周側壁を備える合成樹脂製の角筒状体で構成され、開口側をトリム材の裏面に向けてトリム材に固着されるとともに、周側壁における下側壁が、乗員が着座するシートクッションの横側面に設けられたシート調整用レバーと対応する位置に設定されて、車両の側面衝突時に、シート調整用レバーが周側壁における下側壁を受けるようにした。
【0008】
また、本発明において、下側壁は、周側壁における上側壁に向かって凸となる湾曲形状に設定されている、あるいは、周側壁における上側壁に向かって凸となるV字形状に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の側面衝突時、周側壁における下側壁をシート調整用レバーが受けることで、トリム材に作用する、緩衝体とリクライニングレバーとのせん断力が緩和されることとなる。その結果、トリム材の局部に大きな歪みが集中するといった事態を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係るドアトリムが適用された車両のサイドドアを模式的に示す側面図
【図2】緩衝体10を模式的に示す側面図および斜視図
【図3】緩衝体10とリクライニングレバー20との関係を模式的に示す説明図
【図4】リクライニングレバー20を模式的に示す斜視図
【図5】本実施形態との対比となる緩衝体30とリクライニングレバー40との位置的な関係を示す説明図
【図6】本実施形態との対比となる緩衝体30とリクライニングレバー40との位置的な関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係るドアトリムが適用された車両のサイドドアを模式的に示す側面図である。サイドドアのドアインナパネル(図示せず)は車室の側壁パネルの一部を構成し、車室側の側面にはトリム材としてのドアトリム1が装着されている。
【0012】
ドアトリム1は、適宜の合成樹脂材をもって射出成形されており、車室側の側面にはクッションと表装を兼ねた表皮が貼合されている。このドアトリム1には、その上下方向中間部分にドアアームレスト2が車室側に向けて膨出成形されている。さらに、ドアトリム1には、ドアアームレスト2よりも下方位置にドアポケット3が形成され、また、このドアポケット3よりも下方には、ステップランプ4が配置されている。
【0013】
ドアトリム1の所要部位、具体的には、シートクッション(図示せず)に着座した乗員の腰部と対応する位置には、エラストマー樹脂等からなる高衝撃吸収性能を持つ緩衝体10が配設されている。
【0014】
図2は、緩衝体10を模式的に示す側面図および斜視図である。この緩衝体10は、一方が開口されて他方に端壁12が連設された筒状の周側壁11を備える合成樹脂製の角筒状体で構成される。本実施形態では、周側壁11は、例えば四角筒状に形成されている。この緩衝体10は、車両の側面衝突時、車幅方向の衝突荷重を受けることにより軸方向に圧潰変形することで、衝突エネルギーを吸収する機能を担っている。この緩衝体10において、衝突エネルギーの吸収特性は緩衝体10の軸方向の変形ストロークと変形反力とによって一義的に定められる。
【0015】
具体的には、緩衝体10は、図1に示すように、その周側壁11を横向きにして、すなわち、周側壁11の軸方向を車幅方向と一致させて、ドアインナパネルとドアトリム1との間の空間部に配置される。この場合、緩衝体10は、周側壁11の開放側をドアトリム1の裏面に向けて、その開放側の周縁部がドアトリム1裏面に当接または近接した状態で該ドアトリム1に固着される。
【0016】
緩衝体10のドアトリム1裏面への固着手法としては、例えば以下に示すような手法が挙げられる。すなわち、緩衝体10において、周側壁11の開放側の周縁部の全域に、フランジ状の取付片15を径方向の外側に張り出して形成するとともに、当該取付片15に小径の開口を適宜の間隔で形成する。一方、ドアトリム1の裏面には、取付片15の開口と位置的に対応して取付座部およびピンを一体成形する。そして、個々のピンに、取付片15に設けられた開口をそれぞれ挿通し、ピンの突出端を熱カシメすることによって、緩衝体10側の取付片15とドアトリム1側の取付座部とを結合する。
【0017】
また、この取付片15は、緩衝体10の圧潰変形時には、ドアトリム1の裏面に面接触することにより、ドアトリム1の面方向に圧潰荷重を分散することができる。
【0018】
本実施形態では、端壁12の中央領域に、周側壁11の開口側へと向かって起立する円柱状の柱部13が形成されている。この柱部13は、当該端壁12と一体成形されており、端壁12の中央部分に位置する円状開口の縁部と連設されている。この柱部13は、車幅方向の衝突荷重に伴い周側壁11が圧潰変形すると、この柱部13が衝突荷重を二次的に受けて、周側壁11とともに圧潰変形する。この柱部13を設けることにより、緩衝体10が衝突エネルギーを段階的に吸収することができる。
【0019】
また、緩衝体10は、図2に示すように、周側壁11と端壁12とが連設した周方向の稜線aと、周側壁11の軸方向の稜線bとが集合したコーナー部分にカット部14が形成されている。このカット部14は、緩衝体10の圧潰初期反力の急激な立上がりを抑制する機能を担っている。また、カット部14は、緩衝体10の圧潰変形時、カット部14を起点とした周側壁11の軸方向稜線bの亀裂が伴うことにより、衝突初期から後期に亘って良好な衝突エネルギー吸収作用を得るようにしている。
【0020】
図3は、緩衝体10とリクライニングレバー20との関係を模式的に示す説明図である。本実施形態の特徴の一つとして、この緩衝体10は、周側壁11における下側壁11a、より具体的には下側壁11aの開放側の縁部(取付片15が連設する周方向の稜線)が、リクライニングレバー20と対応する位置に設定されている。
【0021】
ここで、リクライニングレバー20は、乗員が着座するシートクッション(図示せず)の横側面(ドアトリム1と対向する横側面)に設けられており、乗員の背面を保持するシートバックを回動させるためのシート調整用レバーである。このリクライニングレバー20は、図4に示すように、図示しないリクライニング機構と連結されたレバー本体21と、レバー本体21の前方に連設されてリクライニングレバー20を可動操作するためのレバー操作部22とを備えている。レバー操作部22は、主要部22aが肉厚に形成されており、屈曲部位22bを境に屈曲したL字形状を呈している。また、レバー本体21も主要部21a(上側領域)が肉厚に形成されている。
【0022】
このようなリクライニングレバー20の形状に起因して、本実施形態では、周側壁11における下側壁11aは、レバー本体21の主要部21a、およびレバー操作部22の主要部22aの一部(具体的には、屈曲部位22bよりも後方の部位)と対応する位置に設定されている。このような設定により、周側壁11における下側壁11aは、リクライニングレバー20の主要部と、オーバーラップするような位置関係に設定される。
【0023】
なお、下側壁11aは、リクライニングレバー20との位置的な対応関係を有効に得るために、形状的な部分についても、リクライニングレバー20との対応が図られている。すなわち、下側壁11aは、周側壁11における上側壁に向かって凸となる湾曲形状に設定されており、リクライニングレバー20の主要な形状軌跡である湾曲形状との対応を図っている。
【0024】
また、このような湾曲面として下側壁11aを構成した場合、これと連設する前方の横側壁11bと、当該下側壁11aとの接続位置は、下側壁11aの湾曲部の頂点よりも下方に設定される。この場合、リクライニングレバー20を構成するレバー操作部22は、その一部が下側壁11aの位置に設定され、さらに、その一部が横側壁11bの位置に設定されることとなる。より具体的には、レバー操作部22は、屈曲部位22bよりも後方部位が下側壁11aと位置的に対応し、その前方部位が横側壁11bと位置的に対応するような関係に設定されている。
【0025】
図5は、本実施形態との対比となる緩衝体30とリクライニングレバー40との位置的な関係を示す説明図である。同図(a)は、緩衝体30とリクライニングレバー40とがオフセットしている場合、具体的には、緩衝体30の周側壁31を構成する下側壁31aがリクライニングレバー40よりも上方に位置する状況を示している。このような位置関係において、車両の側面衝突を想定すると、緩衝体10とリクライニングレバー20とのせん断力をうけ、A1,A2,A3の領域に示すように、ドアトリム1の局部に大きな歪みが集中し、これにより、ドアトリム1に割れなどが発生する結果となる。
【0026】
この点、本実施形態によれば、緩衝体10は、周側壁11における下側壁11aが、リクライニングレバー20と対応する位置に設定されている。これにより、車両の側面衝突時には、リクライニングレバー20が周側壁11における下側壁11aを受けるように、下側壁11aの位置が設定されることになる。そのため、周側壁11における下側壁11aをリクライニングレバー20が受けることで、緩衝体10とリクライニングレバー20とのせん断力が緩和されることとなる。その結果、ドアトリム1の局部に大きな歪みが集中するといった事態を抑制することができる。
【0027】
また、同図(b)に示すように、緩衝体30とリクライニングレバー40とがオフセットしている場合、具体的には、緩衝体30の周側壁31を構成する下側壁31aがリクライニングレバー40よりも下方に位置する状況を示している。このような位置関係の場合、リクライニングレバー20は、周側壁31によって内包される。この位置(領域)では、周側壁31が開放されているため、車両の側面衝突が生じた場合を考えると、B1,B2の領域に示すように、リクライングレバー40がドアトリム1を突き破ってしまうという虞がある。
【0028】
すなわち、リクライニングレバー20の位置に併せて周側壁31における下側壁31aを設定することは、ドアトリム1における歪みの集中という課題を解決するための手法として導き出されたものであるが、単に、周側壁31における下側壁31aを下方へとシフトさせるたけでは、本実施形態に示すような効果を有効に得ることはできない。
【0029】
図6は、本実施形態との対比となる緩衝体30とリクライニングレバー40との位置的な関係を示す説明図である。同図(a),(b)に示すように、リクライニングレバー40の主要な形状軌跡が全体として湾曲した形状を備える。下側壁31aを直線形状とした場合には、この下側壁31bを傾斜させた格好に設定したとしても、リクライニングレバー40の一方の部位との位置的な対応を図ると、他方の部位との位置的な対応を図ることができないという問題が生じる。
【0030】
この点、本実施形態によれば、下側壁11aは、周側壁11における上側壁に向かって凸となる湾曲形状に設定されている。これにより、下側壁11aの全域と、リクライニングレバー20との位置的な関係を良好に一致させることができる。これにより、ドアトリム1の局部に大きな歪みが集中するといった事態を効果的に抑制することができる。なお、本実施形態では、湾曲形状を例示したが、下側壁11aは、周側壁11における上側壁に向かって凸となるV字形状に設定してもよい。
【0031】
また、緩衝体10は、リクライニングレバー20(レバー操作部22)の屈曲部位22bを境としてレバー操作部22の後方部位と下側壁11aとを位置的に対応させ、レバー操作部22の前方部位と横側壁11bとを位置的に対応させて設定されている。
【0032】
かかる構成によれば、車両の側面衝突時、リクライニングレバー20の屈曲部位22bでは、他の部位よりも大きな力がドアトリム1側へと作用する。しかしながら、上記の構成によれば、車両の側面衝突時、この屈曲部位22bから作用する大きな力を、周側壁11における下側壁11aと横側壁11bとの交点、すなわち、剛性が高い部分で受けることとなるので、緩衝体10が容易に圧潰せず、局所へ大きな歪みが集中するといった事態を抑制することができる。これにより、ドアトリム1の局部に大きな歪みが集中するといった事態を効果的に抑制することができる。
【0033】
なお、上述した実施形態では、緩衝体10の下側壁11aの位置合わせを行うレバーとして、シートリクライニングレバーを説明したが、これに限らず、シートリフトレバーといったように、シート位置を調整する種々のレバーに対応させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…ドアトリム
2…ドアアームレスト
3…ドアポケット
4…ステップランプ
10…緩衝体
11…周側壁
11a…下側壁
11b…横側壁
12…端壁
13…柱部
14…カット部
15…取付片
20…リクライニングレバー
21…レバー本体
22…レバー操作部
22b…屈曲部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の側壁パネルの側面を覆って装着されたトリム材の裏面に、車両の側面衝突時に衝突荷重を受けて圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収可能な緩衝体を固着した構造において、
前記緩衝体は、一方が開口されて他方に端壁が連設された筒状の周側壁を備える合成樹脂製の角筒状体で構成され、前記開口側を前記トリム材の裏面に向けて前記トリム材に固着されるとともに、
前記周側壁における下側壁が、乗員が着座するシートクッションの横側面に設けられたシート調整用レバーと対応する位置に設定されて、前記車両の側面衝突時に、前記シート調整用レバーが前記周側壁における下側壁を受けるようにしたことを特徴とする車両の車室側壁構造。
【請求項2】
前記下側壁は、前記周側壁における上側壁に向かって凸となる湾曲形状、または前記周側壁における上側壁に向かって凸となるV字形状に設定されていることを特徴とする請求項1に記載された車両の車室側壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131443(P2012−131443A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287026(P2010−287026)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】