説明

車両制御システム及び制御装置

【課題】確実に内燃機関を始動することができる車両制御システム及び制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】制御装置6は、内燃機関7、回転電機10、及び、クラッチ9を制御し、クラッチ9をスリップ状態とし回転電機10側からの動力により内燃機関7の出力軸20を回転させた後に内燃機関7の燃焼室71に燃料を噴射して点火し内燃機関7を始動する第1始動制御と、内燃機関7の出力軸71の回転が停止した状態で内燃機関7の燃焼室71に燃料を噴射して点火し出力軸20を回転させた後にクラッチ9を介した回転電機10側からの動力により出力軸20の回転をアシストし内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である。そして、制御装置6は、第2始動制御を実行し、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、検出装置55が検出する燃焼室71内の圧力が上昇しない場合、第2始動制御から第1始動制御に切り替えて内燃機関7を始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載され、車両を制御するための従来のシステムとして、例えば、特許文献1には、パラレルハイブリッド駆動部であって、ドライブトレーン内に内燃機関、特に燃料を直接噴射する機構を備えた内燃機関が統合されており、さらにこの内燃機関と少なくとも1つの電気駆動部との間には分離クラッチが配設されたハイブリッド駆動部が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−527411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載のハイブリッド駆動部は、クランクシャフトの停止位置が上死点100°〜120°である場合には直噴によりエンジン始動し、それ以外の場合には制御部によって分離クラッチが制御され、スタータ支援なしの動的な直結スタートによりエンジン始動を行っているが、例えば、より確実なエンジン始動の点で、更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、確実に内燃機関を始動することができる車両制御システム及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両制御システムは、車両の走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関及び回転電機と、前記内燃機関と前記回転電機とを連結可能であるクラッチと、前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である制御装置と、前記内燃機関の燃焼室内の圧力を検出する検出装置とを備え、前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇しない場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動することを特徴とする。
【0007】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が低下した場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動し、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が低下しなかった場合、前記第2始動制御を継続して前記内燃機関を始動するものとすることができる。
【0008】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、予め設定された判定時間経過するまでに、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が予め設定された判定値より大きくならなかった場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動するものとすることができる。
【0009】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記第2始動制御を実行する場合、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇した際に、前記内燃機関の出力軸の回転にかかわらず、前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸の回転のアシストを開始するものとすることができる。
【0010】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記第2始動制御として、前記内燃機関の出力軸が回転しない程度に前記クラッチをスリップ状態とした後、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記クラッチの伝達トルクを増大させて前記内燃機関を始動するものとすることができる。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る制御装置は、車両の駆動輪への動力の伝達経路に対して、走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関、クラッチ、走行用動力源である回転電機の順で配置される駆動装置を制御する制御装置であって、前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能であり、さらに、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇しない場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両制御システム、制御装置は、確実に内燃機関を始動することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成図である。
【図2】図2は、実施形態に係る車両制御システムのエンジンの燃焼室を含む部分断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両制御システムのエンジンの筒内圧について説明する線図である。
【図4】図4は、実施形態に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態に係る車両制御システムの動作の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成図、図2は、実施形態に係る車両制御システムのエンジンの燃焼室を含む部分断面図、図3は、実施形態に係る車両制御システムのエンジンの筒内圧について説明する線図、図4は、実施形態に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャート、図5は、実施形態に係る車両制御システムの動作の一例を示すタイムチャートである。
【0016】
本実施形態は、1つのモータジェネレータと1つのエンジンを備えたいわゆる1モータパラレルハイブリッド形式の車両制御システムである。本実施形態は、車両に適用されるものであり、典型的には、下記の構成要素を有している。
(1)筒内圧センサ(CPS)を取り付けた直噴エンジン。
(2)エンジンとモータジェネレータとを接断自在なクラッチ。
【0017】
そして、本実施形態は、これらの構成要素によって、エンジン始動を行う場合に、例えば、筒内圧に基づいて第1始動制御と第2始動制御とを切り替えることで、状況に応じたより確実なエンジン始動を実現している。
【0018】
具体的には、本実施形態の車両制御システム1は、図1に示すように、車両2に搭載され、この車両2を制御するためのシステムであり、典型的には、車両2のエンジン停止状態からの始動を制御するエンジン始動制御システムである。車両2は、車両2を走行させるための走行用動力源(原動機)として、内燃機関としてのエンジン7と、回転電機としてのモータジェネレータ10とを搭載したいわゆる「ハイブリッド車両」である。より詳細には、車両2は、1つのモータジェネレータ10と自動変速機である変速機12とを備えたいわゆる1MG+AT型の「パラレルハイブリッド車両」である。
【0019】
車両制御システム1は、車両2の駆動輪3を駆動する駆動装置4と、車両2の状態を検出する状態検出装置5と、駆動装置4を含む車両2の各部を制御する制御装置としてのECU6とを備える。
【0020】
駆動装置4は、車両2においてパラレルハイブリッド形式のパワートレーンを構成し、1つのエンジン7と、1つのモータジェネレータ10とを有し、これらにより駆動輪3を回転駆動するものである。
【0021】
駆動装置4は、エンジン7と、ダンパ機構8と、クラッチとしてのK0クラッチ9と、モータジェネレータ10とを備える。さらに、駆動装置4は、トルクコンバータ11と、変速機12と、プロペラ軸13と、デファレンシャルギヤ14と、ドライブ軸15とを備える。また、トルクコンバータ11は、ロックアップ機構16と、流体伝達機構17とを含んで構成される。変速機12は、C1クラッチ18と、変速機本体19とを含んで構成される。
【0022】
この駆動装置4は、各構成要素が駆動輪3への動力の伝達経路に対して、エンジン7、ダンパ機構8、K0クラッチ9、モータジェネレータ10、トルクコンバータ11のロックアップ機構16、流体伝達機構17、変速機12のC1クラッチ18、変速機本体19、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15の順で相互に動力伝達可能に配置される。この場合、駆動装置4は、エンジン7の出力軸(内燃機関出力軸)であるクランク軸20とモータジェネレータ10の出力軸(電動機出力軸)であるのロータ軸21とがダンパ機構8、K0クラッチ9を介して連結される。さらに、駆動装置4は、ロータ軸21と駆動輪3とがトルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15等を介して連結される。
【0023】
より詳細には、エンジン7は、燃焼室71(図2参照)で燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して動力として出力する熱機関である。エンジン7は、燃料の燃焼に伴ってクランク軸20に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この機械的動力をクランク軸20から出力可能である。
【0024】
ここで、本実施形態のエンジン7は、図2に示すように、いわゆる多気筒筒内直接噴射式の内燃機関である。すなわち、エンジン7は、燃料噴射装置(インジェクタ)70によって燃料噴霧70aを燃焼室71に直接噴射するものである。エンジン7は、シリンダボア72内に往復運動可能に設けられるピストン73が2往復する間に一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン7は、典型的には、ピストン73がシリンダボア72内を吸気行程上死点から下降することで、吸気弁74の開弁に伴って、吸気管、サージタンク、インテークマニホールド、吸気ポート75等の吸気通路76を介して燃焼室71内に空気が吸入される(吸気行程)。そして、エンジン7は、ピストン73が吸気行程下死点を経てシリンダボア72内を上昇することで空気が圧縮される(圧縮行程)。このとき、エンジン7は、吸気行程又は圧縮行程にて燃料噴射装置70から燃焼室71内へ燃料が噴射され、この燃料と空気とが混合して混合気を形成する。そして、エンジン7は、ピストン73が圧縮行程上死点付近に近づくと点火プラグ77により混合気に点火され、該混合気が着火して燃焼し、その燃焼圧力によりピストン73を下降させる(膨張行程)。燃焼後の混合気は、ピストン73が膨張行程下死点を経て吸気行程上死点に向かって再び上昇することで、排気弁78の開弁に伴って、排気ポート79を介して排気ガスとして放出される(排気行程)。このピストン73のシリンダボア72内での往復運動は、コネクティングロッドを介してクランク軸20(図1参照)に伝えられ、ここで回転運動に変換され、出力として取り出される。そして、ピストン73は、カウンタウェイトと共にクランク軸20が慣性力によりさらに回転することで、このクランク軸20の回転に伴ってシリンダボア72内を往復する。このクランク軸20が2回転することで、ピストン73はシリンダボア72を2往復し、この間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行い、燃焼室71内で1回の爆発が行われる。
【0025】
このエンジン7は、車両2の停車中、走行中にかかわらず、作動状態と非作動状態とを切り替え可能である。ここで、エンジン7の作動状態(エンジン7を作動させた状態)とは、駆動輪3に作用させる動力を発生する状態であり、燃焼室71で燃料を燃焼して生じる熱エネルギをトルクなどの機械的エネルギの形で出力する状態である。つまり、エンジン7は、作動状態では燃焼室71で燃料を燃焼させて車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する。一方、エンジン7の非作動状態、すなわち、エンジン7の作動を停止させた状態とは、動力の発生を停止した状態であり、燃焼室71への燃料の供給をカットし(フューエルカット)、燃焼室71で燃料を燃焼させずトルクなどの機械的エネルギを出力しない状態である。
【0026】
図1に戻って、K0クラッチ9は、エンジン7のクランク軸20とモータジェネレータ10のロータ軸21とをダンパ機構8を介して連結可能である。K0クラッチ9は、クランク軸20とロータ軸21とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。K0クラッチ9は、係合状態となることで、クランク軸20とロータ軸21とをダンパ機構8を介して一体回転可能に連結し、エンジン7とモータジェネレータ10との間での動力伝達が可能な状態となる。一方、K0クラッチ9は、解放状態となることでクランク軸20とロータ軸21とを切り離しエンジン7とモータジェネレータ10との間での動力伝達が遮断された状態となる。
【0027】
K0クラッチ9は、種々のクラッチを用いることができ、例えば、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等の摩擦式ディスククラッチ装置を用いることができる。ここでは、K0クラッチ9は、例えば、K0クラッチ9に供給される作動油の油圧であるクラッチ油圧に応じて作動する油圧式の装置である。K0クラッチ9は、クラッチ油圧に応じた係合力(クラッチ板を係合する押圧力)が0である場合に係合が完全に解除された解放状態となり、係合力が大きくなるにしたがってスリップ状態(半係合状態)を経て完全に係合した係合状態となる。K0クラッチ9における伝達トルクは、解放状態では0であり、スリップ状態では係合力に応じた大きさとなり、係合状態では最大となる。なお、以下で説明するC1クラッチ18、ロックアップクラッチ25についてもこのK0クラッチ9とほぼ同様である。
【0028】
モータジェネレータ10は、例えば、交流同期電動機等である。モータジェネレータ10は、固定子としてのステータ22がケース等に固定され、回転子としてのロータ23がステータ22の径方向内側に配置されてロータ軸21に一体回転可能に結合される。モータジェネレータ10は、インバータなどを介して蓄電装置としてのバッテリ24から供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能(力行機能)と、入力された機械的動力を電力に変換しインバータなどを介してバッテリ24に充電する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えた回転電機である。モータジェネレータ10は、例えば、バッテリ24からインバータを介して交流電力の供給を受けて駆動し、ロータ軸21に機械的な動力(モータトルク)を発生させ、この機械的動力をロータ軸21から出力可能である。
【0029】
トルクコンバータ11は、流体継手の一種であり、モータジェネレータ10のロータ軸21に連結される。トルクコンバータ11は、エンジン7又はモータジェネレータ10からの動力を、ロックアップクラッチ25を介して伝達するロックアップ機構16と、作動油(作動流体)を介して伝達する流体伝達機構17とを有する。ロックアップ機構16は、ロックアップクラッチ25を介してロータ軸21とトルクコンバータ11の出力軸(流体伝達装置出力軸)26とを連結可能である。流体伝達機構17は、ポンプ(ポンプインペラ)17p、タービン(タービンランナ)17t、ステータ17s、ワンウェイクラッチ17c等を含んで構成され、内部に作動流体としての作動油が充填される。ポンプ17pは、ロータ軸21と一体回転可能に連結され、タービン17tは、出力軸26と一体回転可能に連結される。ロックアップクラッチ25は、ロータ軸21とタービン17tとを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。トルクコンバータ11は、エンジン7又はモータジェネレータ10からの動力を、ロックアップクラッチ25の状態に応じて、ロックアップ機構16、又は、流体伝達機構17を介して出力軸26に伝達し、この出力軸26から出力することができる。
【0030】
変速機12は、トルクコンバータ11からの動力を、C1クラッチ18を介して変速機本体19に伝達し、変速機本体19にて変速して駆動輪3側に出力する。C1クラッチ18は、トルクコンバータ11の出力軸26と駆動輪3とを変速機本体19、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15等を介して連結可能である。ここでは、C1クラッチ18は、トルクコンバータ11の出力軸26と変速機本体19の入力軸27とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。変速機本体19は、例えば、有段自動変速機(AT)、無段自動変速機(CVT)、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などのいわゆる自動変速機である。ここでは、変速機本体19は、例えば、有段自動変速機が適用される。
【0031】
デファレンシャルギヤ14は、プロペラ軸13からの動力を、各ドライブ軸15を介して各駆動輪3に伝達する。デファレンシャルギヤ14は、車両2が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の駆動輪3と、外側の駆動輪3との回転速度の差を吸収する。
【0032】
上記のように構成される駆動装置4は、エンジン7が発生させた動力をクランク軸20からダンパ機構8、K0クラッチ9、ロータ軸21、トルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15を介して駆動輪3に伝達することができる。また、駆動装置4は、モータジェネレータ10が発生させた動力をロータ軸21から、K0クラッチ9を介さずに、トルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15を介して駆動輪3に伝達することができる。この結果、車両2は、駆動輪3と路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0033】
状態検出装置5は、車両2の状態を検出するものであり、車両2の状態を表す種々の状態量や物理量、スイッチ類の作動状態等を検出するものである。状態検出装置5は、ECU6と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置5は、例えば、アクセル開度センサ50、ブレーキセンサ51、車速センサ52、クランク角センサ53、充電状態検出器54等を含む。アクセル開度センサ50は、運転者による車両2のアクセルペダルの操作量(アクセル操作量、加速要求操作量)に相当するアクセル開度を検出する。ブレーキセンサ51は、運転者による車両2のブレーキペダルの操作量(ブレーキ操作量、制動要求操作量)に相当するマスタシリンダ圧、あるいは、ブレーキ踏力等を検出する。車速センサ52は、車両2の走行速度である車速を検出する。クランク角センサ53は、クランク軸20の回転角度であるクランク角度を検出する。ECU6は、このクランク角度に基づいて、エンジン7の各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、クランク軸20の回転数(回転速度)であるエンジン回転数を算出することができる。充電状態検出器54は、バッテリ24の蓄電量(充電量)やバッテリ電圧等に応じた蓄電状態SOCを検出する。
【0034】
ECU6は、車両制御システム1の全体の制御を統括的に行い、エンジン7やモータジェネレータ10等を協調して制御するための制御ユニットである。ECU6は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU6は、状態検出装置5が電気的に接続され、また、エンジン7の燃料噴射装置70、点火プラグ77、スロットル装置、モータジェネレータ10のインバータ、バッテリ24等が電気的に接続される。さらに、ECU6は、K0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18及び変速機本体19等に油圧制御装置28を介して接続され、油圧制御装置28を介してこれらの動作を制御する。ECU6は、状態検出装置5が検出した検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果に応じてエンジン7、モータジェネレータ10のインバータ、油圧制御装置28等の駆動装置4の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。
【0035】
ここで、油圧制御装置28は、作動流体としての作動油(オイル)の油圧によって、変速機本体19の変速動作やK0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18等の係合要素の係合・解放・スリップ動作を制御するものである。油圧制御装置28は、ECU6により制御される種々の公知の油圧制御回路を含んで構成され、例えば、複数の油路、オイルリザーバ、オイルポンプ、複数の電磁弁などを含んで構成される。油圧制御装置28は、ECU6からの信号に応じて、駆動装置4の各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御する。
【0036】
ECU6は、例えば、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン7のスロットル装置を制御し、吸気通路76のスロットル開度を調節し、吸入空気量を調節して、その変化に対応して燃料噴射量を制御し、燃焼室71に充填される混合気の量を調節してエンジン7の出力を制御する。また、ECU6は、例えば、アクセル開度、車速等に基づいて油圧制御装置28を制御し、変速機本体19の変速動作やK0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18等の係合・解放・スリップ動作等を制御する。
【0037】
上記のように構成される車両制御システム1は、ECU6が駆動装置4を制御し、エンジン7とモータジェネレータ10とを併用又は選択使用することで、車両2を様々な走行モードで走行させることができる。
【0038】
ECU6は、例えば、K0クラッチ9を係合状態(K0クラッチON)としかつエンジン7を作動させ、走行用動力源であるエンジン7とモータジェネレータ10とのうちエンジン7から出力する動力(エンジントルク)のみを駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「エンジン走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、走行用動力源のうちエンジン7のみを用いて走行することができる。
【0039】
また、ECU6は、例えば、上記のようにK0クラッチ9を係合状態(K0クラッチON)としかつエンジン7を作動させた状態で、要求駆動力やバッテリ24の蓄電状態SOCに応じてモータジェネレータ10を力行させ、エンジン7から出力する動力と、モータジェネレータ10から出力する動力(モータトルク)とを統合して駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「HV走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、エンジン7とモータジェネレータ10とを併用して走行することができる。
【0040】
さらに、ECU6は、例えば、K0クラッチ9を解放状態(K0クラッチOFF)としかつエンジン7を停止し非作動状態とした上で、モータジェネレータ10を力行させ、走行用動力源であるエンジン7とモータジェネレータ10とのうちモータジェネレータ10から出力する動力のみを駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。また、エンジン7は、非作動状態でありかつK0クラッチ9が解放状態であるから、クランク軸20の回転も停止している。これにより、車両制御システム1は、「EV走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、走行用動力源のうちモータジェネレータ10のみを用いて走行することができる。このとき、車両2は、基本的にはクランク軸20とロータ軸21とがK0クラッチ9にて機械的に切り離された状態となり、エンジン7の回転抵抗が作用しない状態となる。
【0041】
また、ECU6は、例えば、車両2の減速走行時に、モータジェネレータ10を制御し、駆動輪3からロータ軸21に伝達される動力によってモータジェネレータ10にて回生により発電し、これに伴ってロータ軸21に生じる機械的動力(負のモータトルク)を駆動輪3に伝達する。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「回生走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、モータジェネレータ10により回生制動されて減速走行することができる。
【0042】
そして、ECU6は、例えば、エンジン7が非作動状態でありクランク軸20の回転が停止した状態からエンジン7を始動する場合、異なる2つの始動モードでエンジン7を始動することができる。ECU6は、状況に応じて第1始動制御としてのK0始動制御と、第2始動制御としての着火始動制御とを使い分けることができる。
【0043】
ECU6は、K0始動制御を実行する場合、モータジェネレータ10をエンジン7のスタータモータとして利用しエンジン7を始動させる。この場合、ECU6は、下記のようにしてK0始動制御を実行する。すなわち、ECU6は、エンジン7、モータジェネレータ10、及び、K0クラッチ9を制御し、まず、K0クラッチ9をスリップ状態としモータジェネレータ10側からの動力によりエンジン7のクランク軸20を回転(クランキング)させる。すなわち、ECU6は、K0クラッチ9をスリップ状態としモータジェネレータ10が出力する動力の一部をクランク軸20のクランキングトルク(始動トルク)として利用してクランク軸20を回転させる。そして、ECU6は、クランク軸20を回転させた後に、回転数が所定回転数を超えたら、燃料噴射装置70から燃焼室71に燃料を噴射し点火プラグ77によって点火しエンジン7を始動する(K0始動)。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した際にK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。
【0044】
また、ECU6は、エンジン7が筒内直接噴射式の内燃機関であるため、下記のようにして着火始動制御を実行することでもエンジン7を始動させることができる。すなわち、ECU6は、エンジン7を制御し、クランク軸20の回転が停止した状態で燃料噴射装置70から燃焼室71に燃料を噴射し点火プラグ77によって点火してクランク軸20を回転させてエンジン7を始動する。ここでは、ECU6は、エンジン7、モータジェネレータ10、及び、K0クラッチ9を制御し、まず、クランク軸20の回転が停止した状態でエンジン7の燃焼室71、典型的には膨張行程で停止した気筒の燃焼室71に燃料を噴射して点火し、燃料の燃焼エネルギによってクランク軸20の回転を開始する。その後、ECU6は、燃焼によりクランク軸20が回転を開始した状態でK0クラッチ9の伝達トルクを増大させて、K0クラッチ9を介したモータジェネレータ10側からの動力の一部によりクランク軸20の回転をアシストしてエンジン7を始動する(着火始動)。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した際にK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。
【0045】
このとき、ECU6は、この着火始動制御では混合気への点火が完了するまではK0クラッチ9のトルク容量をクランク軸20が回転し始めない程度の大きさの待機時トルク容量に設定しておく。つまり、ECU6は、着火始動制御として、点火が完了するまではクランク軸20が回転しない程度にK0クラッチ9をスリップ状態としK0クラッチ9のトルク容量を待機時トルク容量とする。その後、ECU6は、燃焼室71に燃料を噴射して点火しクランク軸20を回転させた後にK0クラッチ9の伝達トルク(トルク容量)を増大させてエンジン7を始動する。これにより、この車両制御システム1は、燃焼が開始してクランク軸20の回転が始まったら、すぐにK0クラッチ9のトルク容量を着火始動アシストトルク容量に増加し、K0クラッチ9を介してクランク軸20にアシストトルクを伝達することができる。この結果、車両制御システム1は、より確実にかつ迅速にエンジン7を始動することができる。なお、この待機時トルク容量は、0であってもよい。この場合、ECU6は、着火始動制御として、クランク軸20の回転が停止した状態で燃焼室71に燃料を噴射して点火しクランク軸20を回転させた後にK0クラッチ9をスリップ状態としK0クラッチ9の伝達トルク(トルク容量)を増大させてエンジン7を始動する。
【0046】
なお、ECU6は、油圧制御装置28を制御して、K0クラッチ9に供給されるクラッチ油圧であるK0圧を調節し、K0クラッチ9のトルク容量を調節することで、エンジン7の始動時におけるK0クラッチ9の伝達トルク(以下、「K0トルク」という場合がある。)を調節することができる。ここでは、K0クラッチ9のトルク容量は、K0始動と着火始動とを比較した場合、K0始動でのトルク容量の方が相対的に大きく、着火始動でのトルク容量の方が相対的に小さくなる。すなわち、着火始動制御でのクランク軸20のアシストトルクは、着火始動では燃焼室71での燃焼エネルギを利用してクランク軸20の回転を開始している分、K0始動制御でのクランク軸20のクランキングトルクよりも少なくてすむ。このため、K0クラッチ9の伝達トルク容量は、着火始動制御の方がK0始動制御の場合と比較して相対的に小さくてすむ。したがって、車両制御システム1は、着火始動制御では、その分、電力消費を抑制してモータジェネレータ10の負荷を相対的に低減することができる。ここでは、ECU6は、例えば、燃焼室71内の空気量の推定値やクランク軸20の停止位置(停止クランク角度)、エンジン停止後からの経過時間等に応じて、着火始動が可能な状況において積極的に着火始動制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、電力消費を抑制し燃費性能を向上することができる。
【0047】
ところで、この車両制御システム1は、上記で説明した着火始動を行う場合、クランク軸20が回転を開始した際に、この回転が燃料の燃焼エネルギによるものか、K0トルクによるものか区別して K0トルクなどを変更し始動パターンを変更することが好ましい。しかしながら、ECU6は、クランク角センサ53等の回転数センサによる検出結果では、燃料の燃焼エネルギによる回転開始と、K0トルクによる回転開始とを好適に区別することができないおそれがある。
【0048】
そこで、本実施形態の車両制御システム1は、状態検出装置5が検出装置としての筒内圧センサ55を含んで構成され、例えば、ECU6が筒内圧センサ55による検出結果に基づいて燃焼の開始の有無を判定し、これによって始動パターンを変更することで、より確実なエンジン始動を実現している。
【0049】
本実施形態の筒内圧センサ55は、燃焼室71内の圧力である筒内圧を検出する。そして、ECU6は、筒内圧センサ55が検出する筒内圧に基づいて、K0始動制御と着火始動制御とを切り替える。
【0050】
具体的には、ECU6は、着火始動制御を実行し、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が上昇しない場合、着火始動制御からK0始動制御に切り替えてエンジン7を始動する。
【0051】
より詳細には、ECU6は、着火始動制御を実行し、膨張行程で停止した気筒の燃焼室71に燃料を噴射して点火した場合に、筒内圧センサ55が検出する当該燃焼室71の筒内圧を監視する。ECU6は、着火始動制御を実行し、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が低下した場合、着火始動制御からK0始動制御に切り替えてエンジン7を始動する。一方、ECU6は、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が低下しなかった場合、着火始動制御を継続してエンジン7を始動する。
【0052】
ここで、図3は、着火始動時の筒内圧の一例を表している。図3は、横軸をクランク角度とし、縦軸を筒内圧としている。図3中、実線L11は適正な燃焼時の筒内圧、点線L12は非燃焼時の筒内圧を表している。また、図3中、クランク角度θ1は始動処理開始前位置、クランク角度θ2は回転数センサ等による回転検知可能位置、クランク角度θ3は排気弁78開弁位置を表している。本図からも明らかなように、着火始動により燃焼室71内で適正に燃焼が発生した場合、筒内圧は、実線L11に示すように上昇する。一方、燃焼室71内で適正に燃焼が発生せず、K0トルク等によってクランク軸20の回転が始まってしまった場合、典型的には、燃焼室71内で燃料が燃焼しておらず、また、膨張行程で停止していたピストン73が下降し燃焼室71の容積が増えるので、筒内圧は、点線L12に示すように低下する傾向にある。
【0053】
したがって、ECU6は、図3中に実線L11で示すように、筒内圧が低下せず、上昇した場合、燃焼室71内の燃料(混合気)が適正に着火、燃焼し、燃料の燃焼エネルギによって適正にクランク軸20が回転し始めた状態であるものと推定することができる。この場合、ECU6は、そのまま着火始動制御を継続してエンジン7を始動する。
【0054】
一方、ECU6は、筒内圧が低下した場合、一例として、[筒内圧<始動前筒内圧×0.95]を満たした場合、図3中に点線L12で示すように、燃料(混合気)に点火したものの燃焼室71内の燃料が適正に着火、燃焼せず、このため、燃料の燃焼エネルギによってではなく、K0トルクによってクランク軸20が回転し始めてしまった状態であるものと推定できる。この場合、ECU6は、燃焼室71で燃料が適正に着火、燃焼していない状態で、着火始動を継続しても異常燃焼により始動時にショックが発生したり、始動に失敗(エンジンストール)したりするおそれがあることから、着火始動制御を中止し、K0始動制御に切り替えてエンジン7を始動する。
【0055】
また、車両制御システム1は、着火始動を行う場合、例えば、燃料に点火し適正に燃焼が開始する前にクランク軸20が回転し始めると、筒内の空気量が変化したり、排気弁78が開弁したりしてしまい、そのままの状態で着火始動を継続してしまうと、始動に失敗するだけでなく、排気性能悪化や触媒劣化をまねくおそれがある。
【0056】
これに対して、車両制御システム1は、上記のようにECU6が着火始動時に筒内圧センサ55によって検出される筒内圧を監視することで、クランク軸20の回転が燃料の燃焼エネルギによるものであるか、K0トルクによるものであるかを、すばやく正確に区別することができる。この結果、ECU6は、着火始動を行う際に、正確に燃焼の有無の判定を行うことができ、燃料が適正に燃焼していると判定した場合には、そのまま着火始動でエンジン7を始動することができる。一方、ECU6は、燃料が適正に燃焼していないと判定した場合には、K0始動に移行することで、エンジン始動時に異常燃焼によるショック発生、始動失敗、排気性能悪化、触媒劣化等をまねくことなく、適正にエンジン7を始動することができる。
【0057】
またここで、ECU6は、好適には、着火始動制御を実行し、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、予め設定された判定時間経過するまでに、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が予め設定された判定値より大きくならなかった場合、着火始動制御からK0始動制御に切り替えてエンジン7を始動することが好ましい。ここで、判定時間は、例えば、燃焼室71内の燃料(混合気)に点火してから適正に着火し火炎が伝播する時間に応じて設定される。また、判定値は、例えば、点火時の筒内圧よりもやや高い筒内圧に応じて設定される。判定時間、判定値は、実車評価等に応じて予め設定され、ECU6の記憶部に記憶されている。
【0058】
ECU6は、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、判定時間が経過しても、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が判定値より大きくならなかった場合、すなわち、筒内圧が想定どおりに上昇しなかった場合、点火したものの、着火に失敗した、あるいは、失火した状態であるものと推定できる。この場合、ECU6は、上記と同様に、着火始動制御を中止し、K0始動制御に切り替えてエンジン7を始動する。
【0059】
この結果、ECU6は、着火始動を行う際に、失火の判定を行うことができ、失火したと判定した場合には、K0始動に移行することで、エンジン始動時に異常燃焼によりショックが発生したり、始動に失敗したりすることなく、より確実にエンジン7を始動することができる。
【0060】
さらに、本実施形態のECU6は、より好適には、着火始動制御を実行する場合、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が上昇した際に、クランク軸20の回転にかかわらず、K0クラッチ9をスリップ状態としモータジェネレータ10側からの動力によりクランク軸20の回転のアシストを即座に開始することが好ましい。
【0061】
この場合、ECU6は、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が上昇した場合に、クランク角センサ53等によってクランク軸20の回転を検出する場合よりも早期に燃焼室71での燃焼の開始を検出することができる。そして、ECU6は、クランク軸20の回転が検出される前であっても、燃焼室71内の燃料が適正に着火、燃焼し筒内圧が上昇し、例えば、上述の判定値より大きくなったらすぐに油圧制御装置28を制御し、K0クラッチ9に供給されるK0圧を増圧し、K0クラッチ9のトルク容量を待機時トルク容量から着火始動アシストトルク容量に増加させる。
【0062】
これにより、車両制御システム1は、着火始動時にエンジン7に燃料噴射と点火信号を出力した後、クランク軸20の回転が検出される前であっても、回転開始前に燃焼室71内の燃料が適正に着火し燃焼が開始したことが確認された段階で、クランク軸20の回転が開始することを先読みすることができ、すぐにK0トルクによってクランク軸20の回転をアシストすることができる。この結果、車両制御システム1は、エンジン7始動時間を短縮することができ、より確実にかつ迅速にエンジン7を始動することができる。
【0063】
次に、図4フローチャートを参照して車両制御システム1におけるECU6による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
【0064】
まず、ECU6は、状態検出装置5による検出結果や各部の作動状態に基づいて、着火始動制御を実行し着火始動を実施中であるか否かを判定する(ST1)。ECU6は、着火始動を実施中でないと判定した場合(ST1:No)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
【0065】
ECU6は、着火始動を実施中であると判定した場合(ST1:Yes)、着火始動制御を実行し、燃焼室71に燃料を噴射して点火した後、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が低下したか否かを判定する(ST2)。
【0066】
ECU6は、筒内圧が低下したと判定した場合(ST2:Yes)、着火始動制御を中止し、K0始動制御に切り替えてK0始動へ移行し(ST3)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。この場合、ECU6は、油圧制御装置28を制御し、K0クラッチ9に供給されるK0圧を増圧し、K0クラッチ9のトルク容量を待機時トルク容量からK0始動クランキングトルク容量に増加させる。これにより。ECU6は、K0トルクによってクランク軸20をクランキングし、K0始動によってエンジン7を始動することができる。
【0067】
ECU6は、ST2にて筒内圧が低下していないと判定した場合(ST2:No)、着火始動を継続し(ST4)、筒内圧センサ55が検出する筒内圧が増加し判定値より大きくなったか否かを判定する(ST5)。
【0068】
ECU6は、筒内圧が増加し判定値より大きくなったと判定した場合(ST5:Yes)、油圧制御装置28を制御し、K0クラッチ9に供給されるK0圧を増圧し、K0クラッチ9のトルク容量を待機時トルク容量から着火始動アシストトルク容量に増加させ(ST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。これにより、ECU6は、K0トルクによってクランク軸20の回転をアシストし、着火始動によってエンジン7を始動することができる。
【0069】
ECU6は、筒内圧が増加しておらず判定値より大きくなっていないと判定した場合(ST5:No)、燃焼室71に燃料を噴射して点火してから判定時間Tdが経過したか否かを判定する(ST7)。ECU6は、判定時間Tdが経過していないと判定した場合(ST7:No)、ST5に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
【0070】
ECU6は、判定時間Tdが経過したと判定した場合(ST7:Yes)、着火始動制御を中止し、K0始動制御に切り替えてK0始動へ移行し(ST8)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。この場合、ECU6は、ST3とほぼ同様の制御を実行する。
【0071】
次に、図5のタイムチャートを参照して上記のように構成された車両制御システム1の動作の一例を説明する。図5は、横軸を時間軸とし、縦軸をK0圧設定値、回転数、筒内圧としている。図5中、実線L21はK0圧設定値、実線L22はモータ回転数、実線L23はエンジン回転数、実線L24は筒内圧を表している。この図5は、着火始動制御が実行された場合を表している。
【0072】
ECU6は、着火始動制御を実行する場合、図5に示すように、まず、油圧制御装置28を制御しプレチャージ圧Pqfを発生させた後、K0クラッチ9のK0圧をクランク軸20が回転し始めない程度の待機時トルクに応じた待機時油圧P1に調圧し、K0クラッチ9のトルク容量を待機時トルク容量とする。そして、ECU6は、時刻t1にてエンジン7を制御し燃焼室71に燃料を噴射し点火を開始する。この際、ECU6は、モータジェネレータ10を制御してモータ回転数をエンジン始動可能な回転数で保っておく。そして、ECU6は、筒内圧が判定値より大きくなった時刻t2にて油圧制御装置28を制御しK0クラッチ9のK0圧を着火始動時のアシストトルクに応じた着火始動アシスト時油圧P2に増圧し、K0クラッチ9のトルク容量を着火始動アシストトルク容量とする。この場合、ECU6は、例えば、点線L25に示すようにクランク角センサ53等によってクランク軸20の回転を検出する場合よりも早期に、クランク軸20の回転のアシストを開始することができる。そして、ECU6は、モータジェネレータ10側からの動力の一部によりクランク軸20の回転をアシストしてエンジン7を完全に始動する。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した時刻t3にて、油圧制御装置28を制御しK0クラッチ9のK0圧を係合油圧P3に増圧しK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。
【0073】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1、ECU6は、着火始動を行う際に、筒内圧センサ55が検出する筒内圧に基づいて、正確に燃焼の有無の判定を行うことができるので、状況に応じてより適切に着火始動とK0始動とを切り替えて、確実にエンジン7を始動することができる。
【0074】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システム及び制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0075】
以上で説明した車両制御システム1は、ダンパ機構8等を備えない構成であってもよい。
【0076】
以上で説明した車両制御システム1は、エンジン7自体にスタータを設けて、このスタータによってエンジン7のクランク軸20を回転(クランキング)し、エンジン7を始動させる第3始動制御(スタータ始動制御)を併用してもよい。
【0077】
以上で説明したECU6は、筒内圧センサ55による検出結果に基づいて、K0圧等を切り替えて着火始動とK0始動とを切り替えるだけでなく、エンジン7の始動時に、燃料噴射装置70による噴射量、点火プラグ77による点火時期の遅角量等を変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車両制御システム
2 車両
3 駆動輪
4 駆動装置
5 状態検出装置
6 ECU(制御装置)
7 エンジン(内燃機関)
9 K0クラッチ(クラッチ)
10 モータジェネレータ(回転電機)
20 クランク軸(出力軸)
28 油圧制御装置
55 筒内圧センサ(検出装置)
71 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関及び回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機とを連結可能であるクラッチと、
前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である制御装置と、
前記内燃機関の燃焼室内の圧力を検出する検出装置とを備え、
前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇しない場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動することを特徴とする、
車両制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が低下した場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動し、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が低下しなかった場合、前記第2始動制御を継続して前記内燃機関を始動する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、予め設定された判定時間経過するまでに、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が予め設定された判定値より大きくならなかった場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動する、
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第2始動制御を実行する場合、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火した後、前記検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇した際に、前記内燃機関の出力軸の回転にかかわらず、前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸の回転のアシストを開始する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第2始動制御として、前記内燃機関の出力軸が回転しない程度に前記クラッチをスリップ状態とした後、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記クラッチの伝達トルクを増大させて前記内燃機関を始動する、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
車両の駆動輪への動力の伝達経路に対して、走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関、クラッチ、走行用動力源である回転電機の順で配置される駆動装置を制御する制御装置であって、
前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能であり、
さらに、前記第2始動制御を実行し、前記燃焼室に燃料を噴射して点火した後、検出装置が検出する前記燃焼室内の圧力が上昇しない場合、前記第2始動制御から前記第1始動制御に切り替えて前記内燃機関を始動することを特徴とする、
制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95155(P2013−95155A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236509(P2011−236509)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】