説明

車両制御装置および車両制御方法

【課題】評価関数の収束判定のための条件を適切に設定して、演算時間と車両安定性を両立することができる車両制御装置および車両制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、記憶部と制御部を少なくとも備えた車両制御装置において、車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶し、記憶した走行路面情報に応じて、評価関数の収束判定基準を可変に設定し、設定した収束判定基準に基づいて、評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーナーを最短時間で通過するため、通過時間を評価関数として設定し、最適化手法を用いて理想軌跡の演算を行う方法が開発されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、人工衛星やシャトルなどの最適軌跡演算に使用されているSCGRA(Sequential Conjugate Gradient−Restoration Algorithm)を車両の運動計算に応用し、車両がコーナーを最短で通過するために通過時間を評価関数として設定する。
【0004】
また、特許文献1には、評価関数を用いて走行ルートを決定する技術であって、頂点に対する目的地までのルートに関連するコストの下限を表す評価関数を用いて、第1のグラフに基づく評価関数の値を決定し、決定した評価関数の値に基づいて、第2のグラフ上で出発点から目的地までのルートを検索することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、評価関数と拘束条件に基づいて横変位量の最適化制御を行う技術に関し、磁気センサによって検出された横変位が目標とする横変位になるように、操舵アクチュエータを制御し、磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ滑り速度を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−275621号公報
【特許文献2】特開平10−302199号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤岡健彦,江守大昌,「最適時間コーナリング法に関する理論的研究−第4報 状態量不等式拘束を用いた道路条件の導入−」,自動車技術会論文集,Vol.24,No.3,July 1993,p.106−111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の走行軌跡の最適化技術においては、運動方程式や拘束条件や境界条件等の収束判定を行う値をどのように設定すべきかについては開示されておらず、最適化手法を用いて自動車等の走行計画を算出する場合、車両安定性や演算時間等を考慮して収束判定のための条件を適切に設定することは難しいという問題点を有していた。
【0009】
すなわち、走行軌跡の算出は、評価関数が収束したと判断された場合に終了するが、シミュレーションを行う上で、収束したと判断する条件を厳しく設定すれば演算精度は高まるものの長い演算時間を必要とする。一方、収束条件を緩く設定すれば、計算は早期に終了するが、実走行における車両安定性を保つため収束条件の緩和について工夫が必要となる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、評価関数の収束判定のための条件を適切に設定して、演算時間と車両安定性を両立することができる車両制御装置および車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するため、本発明の車両制御装置は、評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する、記憶部と制御部を少なくとも備えた車両制御装置において、前記記憶部は、前記車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶する走行路面情報記憶手段を備え、前記制御部は、前記走行路面情報記憶手段により記憶された前記走行路面情報に応じて、前記評価関数の収束判定基準を可変に設定する収束判定基準設定手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記走行路面情報は、前記走行路面の道路幅に関する道路幅情報、前記走行路面の摩擦に関する摩擦情報、および、前記走行路面のカーブに関するカーブ情報のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記収束判定基準設定手段は、前記道路幅情報の前記道路幅が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記摩擦情報は、前記走行路面の摩擦係数を含み、前記収束判定基準設定手段は、前記摩擦情報の摩擦係数が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記カーブ情報は、前記走行路面の前記カーブの曲線半径を含み、前記収束判定基準設定手段は、前記カーブ情報の曲線半径が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記収束判定基準設定手段は、前記走行路面情報記憶手段に記憶された前記走行路面情報に基づいて、前記車両の制御を開始するまでの計算可能時間を演算し、前記計算可能時間に応じて、前記収束判定基準を可変に設定すること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明の車両制御装置は、上記記載の車両制御装置において、前記収束判定基設定手段は、前記計算可能時間が長いほど、前記収束判定基準を大きく設定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の車両制御方法は、評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する、記憶部と制御部を少なくとも備えた車両制御装置において実行される車両制御方法であって、前記記憶部は、前記車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶する走行路面情報記憶手段を備えており、前記制御部において実行される、前記走行路面情報記憶手段により記憶された前記走行路面情報に応じて、前記評価関数の収束判定基準を可変に設定する収束判定基準設定ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、記憶した走行路面情報に応じて、評価関数の収束判定基準を可変に設定し、設定した収束判定基準を満たすよう評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する。これにより、評価関数の収束判定のための条件を適切に設定して、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【0020】
また、この発明によれば、走行路面情報は、走行路面の道路幅に関する道路幅情報、走行路面の摩擦に関する摩擦情報、および、走行路面のカーブに関するカーブ情報のうち少なくとも一つを含む。これにより、道路幅や摩擦やカーブ等の走行路面の状態を考慮して、評価関数の収束判定のための条件を適切に設定し、演算時間と車両安定性を両立することができるという効果を奏する。
【0021】
また、この発明によれば、道路幅情報の道路幅が大きいほど、収束判定基準を大きく設定する。これにより、道路幅が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、道路幅が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【0022】
また、この発明によれば、摩擦情報は、走行路面の摩擦係数を含み、摩擦情報の摩擦係数が大きいほど、収束判定基準を大きく設定する。これにより、摩擦係数が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、摩擦係数が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【0023】
また、この発明によれば、カーブ情報は、走行路面のカーブの曲線半径を含み、カーブ情報の曲線半径が大きいほど、収束判定基準を大きく設定する。これにより、曲線半径が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、曲線半径が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【0024】
また、この発明によれば、記憶した走行路面情報に基づいて、車両の制御を開始するまでの計算可能時間を演算し、計算可能時間に応じて、収束判定基準を可変に設定する。これにより、走行路面に応じて演算した計算可能時間に応じて車両安定性を考慮した走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【0025】
また、この発明によれば、計算可能時間が長いほど、収束判定基準を大きく設定する。これにより、計算可能時間が比較的長い場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行い、計算可能時間が比較的短い場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、本システムが行う走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、収束判定基準設定処理を含む走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、道路上の実道路幅Wrと安全マージンWmと路肩の幅と中央線の関係を模式的に示した図である。
【図5】図5は、道路幅に対するはみ出し量とはみ出し面積を模式的に示した図である。
【図6】図6は、曲線半径が小さい場合と大きい場合における許容誤差Errの設定例を模式的に示した図である。
【図7】図7は、摩擦係数が大きい場合と小さい場合における許容誤差Errの設定例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明にかかる車両制御装置および車両制御方法並びにプログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0028】
[1.構成]
まず、本発明にかかる走行軌跡生成方法を実施するための電子制御装置および本発明にかかる車両制御装置を包含する本実施の形態のシステム(以下では本システムと記載する場合がある。)の構成について図1を参照して説明する。図1は、本システムの構成の一例を示すブロック図である。
【0029】
本システムは、道路を走行する際の車両の走行軌跡を走行時間や車両安定性や燃費等を指標とした評価関数を用いて最適化手法に基づいて演算し、演算した走行軌跡に基づいて車両の運動を制御するためのシステムである。なお、本実施の形態における「走行軌跡」とは、車両が通過するラインと、通過するラインにおける速度との両者を含み、特に、道路に対しての縦位置(例えば、加減速)や、横位置(例えば、白線に対するオフセット)を含む概念である。本システムは、図1に示すように、概略的に車両ECU100により構成されている。
【0030】
車両ECU100は電子制御装置であり、概略的に制御部102と記憶部106とを備えている。制御部102および記憶部106は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0031】
記憶部106はストレージ手段であり、例えば、RAM・ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。記憶部106は、概略的に走行路面情報ファイル106aを備えている。
【0032】
走行路面情報ファイル106aは、車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶する走行路面情報記憶手段である。走行路面情報は、一例として、走行路面の道路幅に関する道路幅情報や、走行路面の摩擦に関する摩擦情報、走行路面のカーブに関するカーブ情報、車両走行制御部102dによる車両の制御を開始するまでの計算可能時間を演算するための道路情報(例えば、道路の区間距離を格納した道路区間情報)等である。ここで、道路幅情報には、道路幅のほか、路肩の幅や、道路の中央線からの安全マージン等の数値などの道路の境界に関する情報が格納されてもよい。また、摩擦情報には、走行路面の摩擦係数(μ)のほか、走行路面がウェットであるかドライであるかの情報等が格納されてもよい。なお、摩擦情報は、車外の外部装置から取得した天候に関する天候情報に従って変更するよう構成してもよい。また、カーブ情報には、走行路面のカーブの曲線半径(R)のほか、カーブ曲率(1/R)や、カーブの大小等の情報が格納されてもよい。
【0033】
制御部102は車両ECU100の全体を統括的に制御するCPU等である。制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラム、所要データなどを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。制御部102は、機能概念的に、収束判定基準設定部102aと、走行軌跡演算部102bと、収束判定部102cと、車両走行制御部102dを備えている。
【0034】
収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aに記憶された走行路面情報に応じて、評価関数の収束判定基準(例えば、収束判定値ε1)を可変に設定する収束判定基準設定手段である。すなわち、収束判定基準設定部102aは、走行路面の状態に従って収束判定基準を設定することにより、走行軌跡の演算時間を優先する程度や、走行軌跡の演算精度を優先する程度等を決定している。ここで、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aに記憶された道路幅情報の道路幅Wrが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定してもよい。また、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aに記憶された摩擦情報の摩擦係数μが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定してもよい。また、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aに記憶されたカーブ情報の曲線半径Rが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定してもよい。また、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106a等の記憶部106に記憶された道路情報(走行路面情報など)に基づいて、車両の制御を開始するまでの計算可能時間Tcalcを演算し、計算可能時間Tcalcに応じて、収束判定値ε1を可変に設定してもよい。この場合、収束判定基準設定部102aは、演算した計算可能時間Tcalcが長いほど、収束判定値ε1を大きく設定してもよい。
【0035】
また、ここで、収束判定基準設定部102aは、下記の関数に基づいて、道路幅Wrや曲線半径Rや摩擦係数μや計算可能時間Tcalc等の走行路面情報に応じて、車両の道路に対するはみ出し量の許容誤差Errを算出し、算出した許容誤差Errに応じて収束判定値ε1を設定してもよい。
許容誤差Err=f(Wr,R,μ,Tcalc
【0036】
走行軌跡演算部102bは、評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する走行軌跡演算手段である。より具体的には、走行軌跡演算部102bは、最適化手法に基づく演算の対象となる道路区間の形状(直線、曲線、幅員等)や道路区間の区間距離(区間の長さ)や道路の境界(車線等)等に関する道路情報を走行路面情報ファイル106a等の記憶部106から取得して、道路からはみ出していないか等の条件を拘束する拘束条件や、道路の初端条件や終端条件、走行軌跡の初期解、車両運動の物理的関係が成立しているか等の条件を定義した運動方程式や制御式等を設定し、設定した条件等に基づいて走行軌跡を生成し、評価関数を用いて繰り返し走行軌跡の生成を行って最適な走行軌跡を演算してもよい。ここで、走行軌跡演算部102bは、共役勾配法や最急降下法、Newton法、準Newton法等の最適化手法を用いて走行軌跡を生成してもよい。また、評価関数は、予め設定されたものであってもよく、車両走行制御部102dによる車両走行制御の目的(燃費重視や走行時間重視等)に応じて設定されてもよい。走行制御の目的(燃費重視や走行時間重視等)はドライバの運動操作から読み取られるものとして、時々刻々と変化するように設定するものとしてもよく、この場合には結果的にドライバの運転操作に合わせて評価関数が適宜設定されることになる。つまり、ドライバの運転操作に合わせて評価関数を動的に切り替えるようにしてもよい。
【0037】
収束判定部102cは、走行軌跡演算部102bにより演算された走行軌跡が、収束判定基準設定部102aにより設定された評価関数の収束判定値ε1を満たすか否かを判定する収束判定手段である。
【0038】
車両走行制御部102dは、収束判定部102cにより収束判定値ε1を満たすと判定された、走行軌跡演算部102bにより演算された走行軌跡に基づいて車両の走行を制御する車両走行制御手段である。
【0039】
[2.処理]
次に、上述のように構成された本システムの処理の一例について、以下に図2〜図7を参照して詳細に説明する。
【0040】
本システムにおける走行軌跡演算処理の詳細について図2を参照して説明する。図2は、本システムが行う走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
図2に示すように、まず、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aから走行路面情報(道路幅情報や摩擦情報やカーブ情報等)を取得する(ステップSA−1)。なお、収束判定基準設定部102aは、GPS等から得た自車両の位置情報に基づいて、車両が将来走行する道路にかかる走行路面情報を走行路面情報ファイル106aから取得してもよい。
【0042】
そして、収束判定基準設定部102aは、取得した走行路面情報に応じて、評価関数の収束判定基準(例えば、収束判定値ε1)を可変に設定する(ステップSA−2)。
【0043】
そして、走行軌跡演算部102bは、評価関数を用いて最適化手法により走行軌跡を演算する(ステップSA−3)。
【0044】
そして、収束判定部102cは、走行軌跡演算部102bにより演算された走行軌跡の値が、収束判定基準設定部102aにより設定された評価関数の収束判定値ε1を満たさないと判定した場合(ステップSA−4:No)、処理をステップSA−3に戻す。
【0045】
一方、収束判定部102cが、走行軌跡演算部102bにより演算された走行軌跡の値が、収束判定基準設定部102aにより設定された評価関数の収束判定値ε1を満たすと判定した場合は(ステップSA−4:Yes)、走行軌跡演算処理を終える。そして、走行軌跡演算処理により演算された走行軌跡に基づいて、車両走行制御部102dは、車両の走行を制御する(ステップSA−5)。これにて、走行軌跡演算処理の一例の説明を終える。
【0046】
[収束判定基準設定処理]
つづいて、上述した走行軌跡演算処理のうち、収束判定基準設定部102aによる収束判定基準設定処理を更に具体化した一例について、以下に図3〜図7を参照して説明する。図3は、収束判定基準設定処理を含む走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0047】
まず、収束判定基準設定部102aは、走行路面情報ファイル106aに記憶された道路幅情報に基づいて、車両が走行可能な道路幅に対するはみ出し量の許容誤差Err(%)を設定する(ステップSB−1)。ここで、許容誤差(許容はみ出し量)Errは、中央線付近に対する安全マージンや路肩の幅等から決定される数値である。具体的には、収束判定基準設定部102aは、以下の数式に基づいて許容誤差を算出してもよい。ここで、安全マージンWmは、任意に設定可能な値であり、例えば、車両の種類や路肩の幅や中央分離帯の有無等に応じて変更してもよい。
(Wr−Wm)*Err/100=Wm
(ここで、Errは、許容誤差(%)であり、Wrは、実道路幅であり、Wmは、安全マージンである。すなわち、許容誤差は、Err(%)=(Wr−Wm)/Wm*100で表せる。)
【0048】
そして、収束判定基準設定部102aは、W=Wr−Wmの式に基づいて、以下の計算に使用する道路幅の制約条件を走行可能幅Wで設定する(ステップSB−2)。ここで、図4は、道路上の実道路幅Wrと安全マージンWmと路肩の幅と中央線の関係を模式的に示した図である。
【0049】
図4に示すように、実道路幅Wrは、中央線から路肩に至るまでの幅であり、この実道路幅Wrから安全マージンWmを引いた値が走行可能幅Wとして設定される。
【0050】
そして、収束判定基準設定部102aは、道路幅に対するはみ出し量が許容誤差Err以内に収まるように収束判定値ε1を設定する(ステップSB−3)。本実施の形態において、一例として、走行軌跡演算部102bによる最適化演算内では、はみ出し量ははみ出している面積で表される。ここで、図5は、道路幅に対するはみ出し量とはみ出し面積を模式的に示した図である。
【0051】
図5に示すように、走行軌跡演算部102bにより演算された走行軌跡が道路幅からはみ出している場合、最適化演算内では、そのはみ出した幅をはみ出し量とし、はみ出している面積をはみ出し面積として扱っている。そこで、本実施の形態においては、収束判定基準設定部102aは、走行軌跡演算部102bによる最適化の結果、生成された走行軌跡がある1点だけではみ出している場合における(許容)面積を計算する。このとき、収束判定基準設定部102aにより計算される(許容)面積は、走行軌跡演算部102bによる最適化演算内で使用される計算ロジックと同じロジック(関数P2)で求められる。ここで、一例として、走行軌跡演算部102bは、シンプソン法により面積を計算しており、最適化演算の過程で座標の無次元化を行っていると仮定した場合の、収束判定基準設定部102aによる計算式を以下に示す。
P2=h/3(Err/100/Cx)^2
(ここで、hは、隣り合った点同士の幅、Cxは、座標無次元化係数である。)
【0052】
例えば、収束判定基準設定部102aは、h=0.01であり、Err=0.5(道路幅が3[m]の場合で許容誤差1.5[cm])、Cx=250である場合、上記の計算式に基づいて、P2=2.7*10^−12と求める。そして、収束判定基準設定部102aは、算出したP2を収束判定値ε1として、すなわちP2=ε1として設定する。これにより、最悪でも道路幅に対して0.5(%)のはみ出し量で最適化演算を終了できる閾値(収束判定値)を設定することができる。
【0053】
以上の収束判定基準設定処理を終えると、収束判定部102cにより設定された収束判定値ε1を達成したと判定されるまで(ステップSB−5、No)、走行軌跡演算部102bは、走行軌跡の最適化演算処理を行い(ステップSB−4)、収束判定部102cにより収束判定値ε1が達成されたと判定されると(ステップSB−5、Yes)、最適化演算の処理を終える。
【0054】
なお、上記の収束判定基準設定処理においては、走行路面情報ファイル106aに記憶された走行路面情報のうち道路幅情報に応じてはみ出し量の許容誤差Errを設定したが、本実施の形態はこれに限られず、収束判定基準設定部102aは、道路幅Wrのほか、曲線半径Rや路面摩擦係数μや計算可能時間Tcalcに応じて、許容誤差Errを設定してもよい。例えば、収束判定基準設定部102aは、以下の関数に基づいて許容誤差Errを設定する。
許容誤差Err=f(Wr,R,μ,Tcalc
【0055】
曲線半径Rに応じて許容誤差Errを設定する場合、収束判定基準設定部102aは、曲線半径Rが大きければ大きいほど、許容誤差Errを大きく設定し、曲線半径Rが小さければ小さいほど、許容誤差Errを小さく設定してもよい。ここで、図6は、曲線半径が小さい場合と大きい場合における許容誤差Errの設定例を模式的に示した図である。図6左図に示すように、道路形状が直線であり曲線半径Rが大きい場合は、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが大きく設定されることにより、演算時間を短縮することができる。一方、図6右図に示すように、道路形状が曲線であり曲線半径Rが小さい場合は、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが小さく設定されることにより、走行軌跡を演算する上で道路幅を大きく使用することができ、車両安定性に富んだ走行軌跡を演算することができる。
【0056】
路面の摩擦係数μに応じて許容誤差Errを設定する場合、収束判定基準設定部102aは、摩擦係数μが大きければ大きいほど、許容誤差Errを大きく設定し、摩擦係数μが小さければ小さいほど、許容誤差Errを小さく設定してもよい。ここで、図7は、摩擦係数が大きい場合と小さい場合における許容誤差Errの設定例を模式的に示した図である。図7左図に示すように、ドライ路面のように摩擦係数μが大きい場合は、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが大きく設定されることにより、演算時間を短縮することができる。一方、図7右図に示すように、道路上に水溜りがありウェット路面である場合のように摩擦係数μが小さい場合は、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが小さく設定されることにより、走行軌跡を演算する上で道路幅を大きく使用することができ、車両安定性に富んだ走行軌跡を演算することができる。
【0057】
計算可能時間Tcalcに応じて許容誤差Errを設定する場合、収束判定基準設定部102aは、計算可能時間Tcalcが短ければ短いほど、許容誤差Errを大きく設定し、計算可能時間Tcalcが長ければ長いほど、許容誤差Errを小さく設定してもよい。計算可能時間Tcalcが短い場合は、早急に計算を終了する必要があり、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが大きく設定されることにより、演算時間を短縮することができる。一方、計算可能時間Tcalcが長い場合は、収束判定基準設定部102aにより許容誤差Errが小さく設定されることにより、十分な計算可能時間を利用して、車両安定性に富んだ走行軌跡を演算することができる。
【0058】
以上で、本実施の形態における本システムの処理の説明を終える。
【0059】
[3.本実施の形態のまとめ、および他の実施の形態]
本実施の形態によれば、走行路面情報ファイル106aに記憶した走行路面情報に応じて、評価関数の収束判定値ε1を可変に設定し、設定した収束判定値ε1を満たすよう評価関数を用いて走行軌跡を演算する。これにより、評価関数の収束判定のための条件を適切に設定して、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができる。
【0060】
本実施の形態によれば、走行路面情報は、走行路面の道路幅に関する道路幅情報、走行路面の摩擦に関する摩擦情報、および、走行路面のカーブに関するカーブ情報のうち少なくとも一つを含む。これにより、道路幅や摩擦やカーブ等の走行路面の状態を考慮して、評価関数の収束判定のための条件を適切に設定し、演算時間と車両安定性を両立することができる。
【0061】
本実施の形態によれば、道路幅情報の道路幅Wが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定する。これにより、道路幅が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、道路幅が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができる。
【0062】
本実施の形態によれば、摩擦情報の摩擦係数μが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定する。これにより、摩擦係数が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、摩擦係数が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができる。
【0063】
本実施の形態によれば、カーブ情報の曲線半径Rが大きいほど、収束判定値ε1を大きく設定する。これにより、曲線半径が比較的大きい場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行い、曲線半径が比較的小さい場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができる。
【0064】
本実施の形態によれば、走行路面情報ファイル106aに記憶した走行路面情報に基づいて、車両の制御を開始するまでの計算可能時間Tcalcを演算し、計算可能時間Tcalcに応じて、収束判定値ε1を可変に設定する。これにより、走行路面に応じて演算した計算可能時間に応じて車両安定性を考慮した走行軌跡の演算を行うことができる。
【0065】
本実施の形態によれば、計算可能時間Tcalcが長いほど、収束判定値ε1を大きく設定する。これにより、計算可能時間が比較的長い場合には、演算時間よりも演算精度を重視する演算を行い、計算可能時間が比較的短い場合には、演算精度よりも演算時間を重視する演算を行うので、演算時間と車両安定性を両立させた走行軌跡の演算を行うことができる。
【0066】
最後に、本発明にかかる車両制御装置は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。例えば、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。また、本明細書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。また、車両ECU100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。また、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて又は機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。また、上述した実施の形態では車両ECU100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、車両ECU100が、当該車両ECU100とは別筐体で構成されるECUからの要求に応じて情報処理を行い、その処理結果を当該ECUに返却するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明にかかる車両制御装置は、特に自動車製造産業で好適に実施することができ、極めて有用である。
【符号の説明】
【0068】
100 車両ECU
102 制御部
102a 収束判定基準設定部
102b 走行軌跡演算部
102c 収束判定部
102d 車両走行制御部
106 記憶部
106a 走行路面情報ファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する、記憶部と制御部を少なくとも備えた車両制御装置において、
前記記憶部は、
前記車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶する走行路面情報記憶手段
を備え、
前記制御部は、
前記走行路面情報記憶手段により記憶された前記走行路面情報に応じて、前記評価関数の収束判定基準を可変に設定する収束判定基準設定手段
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記走行路面情報は、
前記走行路面の道路幅に関する道路幅情報、前記走行路面の摩擦に関する摩擦情報、および、前記走行路面のカーブに関するカーブ情報のうち少なくとも一つを含むこと
を特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記収束判定基準設定手段は、前記道路幅情報の前記道路幅が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定すること
を特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記摩擦情報は、前記走行路面の摩擦係数を含み、
前記収束判定基準設定手段は、前記摩擦情報の摩擦係数が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定すること
を特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記カーブ情報は、前記走行路面の前記カーブの曲線半径を含み、
前記収束判定基準設定手段は、前記カーブ情報の曲線半径が大きいほど、前記収束判定基準を大きく設定すること
を特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の車両制御装置において、
前記収束判定基準設定手段は、前記走行路面情報記憶手段に記憶された前記走行路面情報に基づいて、前記車両の制御を開始するまでの計算可能時間を演算し、前記計算可能時間に応じて、前記収束判定基準を可変に設定すること、
を特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両制御装置において、
前記収束判定基準設定手段は、前記計算可能時間が長いほど、前記収束判定基準を大きく設定すること
を特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
評価関数を用いて車両の将来の走行軌跡を演算する、記憶部と制御部を少なくとも備えた車両制御装置において実行される車両制御方法であって、
前記記憶部は、
前記車両が走行する走行路面に関する走行路面情報を記憶する走行路面情報記憶手段
を備えており、
前記制御部において実行される、
前記走行路面情報記憶手段により記憶された前記走行路面情報に応じて、前記評価関数の収束判定基準を可変に設定する収束判定基準設定ステップ
を含むことを特徴とする車両制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−247589(P2010−247589A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97312(P2009−97312)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】