説明

車両室内隔離用エアバッグ装置

【課題】運転席の上部空間と、運転席と助手席との間の空間を確実に遮蔽することができ、運転手の身の安全性を高めることができる車両室内隔離用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】運転席5と助手席6との間の床面に配置されるコンソールボックス8内にエアバッグ13と立ち上げ機構33を折り畳んだ状態で収納するとともに膨張装置14を収納し、使用時に膨張装置14からの圧縮気体の供給によってエアバッグ13を膨張させる。また、立ち上げ機構33をコンソールボックス8から突出させて、エアバッグ13を所定高さまで上昇させる。エアバッグ13は圧縮気体の供給によって膨張することにより、運転席5のヘッドレスト5Cの上方空間12と、ヘッドレスト5Cの側方空間26,27を遮蔽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両室内隔離用エアバッグ装置に関するものであり、特に、タクシーの運転手が後部室側から暴漢等に襲われそうになったときに、運転手の身を守るために運転席の上部空間と、運転席と助手席との間の空間を後部室から遮蔽する車両室内隔離用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タクシーの運転手が後部室側から暴漢等に襲われそうになったときに、運転手の身を守る装置としては、特許文献1に提案された車両室内用遮蔽装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載されている車両室内用遮蔽装置は、フロントシートが設けられている前部室と、リヤシートが設けられている後部室とを有する車両において、車両室内に膨出して運転席側の前部室内を後部室内から遮蔽する膨張部材を設けたものである。膨張部材としては、所謂エアバッグを用いている。そして、タクシーの運転手が暴漢に襲われそうになったときにスイッチを押すことにより、圧縮ガスボンベからガスが流出して制御弁で調整された流量のガスがエアバッグ内に充填される。また、ガスの圧力によりエアバッグがケースの被破壊部もしくは開口部から膨出し、車両室内に膨張、展開することにより、車両の前部室内と後部室内とを隔離するので、タクシー運転手は暴漢から襲われることなく逃げることができる。なお、このような車両室内用遮蔽装置は、ヘッドレストに限らず、運転席と助手席との間にエアバッグを膨張、展開させるために、コンソールボックス内に設けることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−170172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の車両室内用遮蔽装置においては、エアバッグを運転席と助手席との間のコンソールボックス内に収納した場合、エアバッグが運転席と助手席との間から徐々に膨張、展開しながら運転席のシートバックの上部と車両の天井との間まで膨張、展開することになり、暴漢から襲われたときに瞬時に車両の前部室と後部室とを遮断することができない。また、これを解決するために圧縮ガスボンベのガス圧を高めてエアバッグの膨張、展開速度を速くすることも考えられるが、エアバッグはナイロンなどの繊維からなる織物であり、膨張、展開するときに運転席と助手席のシートバック間で運転席のシートバックの上部と車両の天井との間に膨張、展開する部分迄膨出してしまうと、エアバッグが完全に膨張、展開するまでの時間が遅くなり、暴漢から突然襲われたときに瞬時に車両の前部室と後部室をエアバッグにより隔離することができない場合があった。したがって、車両の前部室と後部室をエアバッグによって瞬時に隔離することができるエアバッグ装置の開発が要望されている。
【0006】
本発明は上記した従来の問題および要請に応えるべくなされたもので、その目的とするところは、車両のコンソールボックス内に収納され、車両の前部室と後部室をエアバッグによって瞬時に隔離することができ、タクシーの運転手の身の安全性を高めるようにした車両室内隔離用エアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、圧縮気体の充填によりエアバッグを膨張、展開させて運転席のシートバックの上部空間を後部室から遮蔽する車両室内隔離用エアバッグ装置であって、運転席と助手席との間の床面に配置されるコンソールボックスの内部または蓋部に折り畳まれた状態で収納される前記エアバッグと、このエアバッグに圧縮気体を供給する膨張装置と、前記エアバッグを運転席のヘッドレスト側方まで上昇させる折畳み自在な立ち上げ機構とを備えたものである。
【0008】
また、本発明は、前記立ち上げ機構に膨張装置を内蔵させたものである。
【0009】
また、本発明は、 前記立ち上げ機構の外部に膨張装置を配設したものである。
【0010】
また、本発明は、前記エアバッグが膨張装置からの圧縮気体の供給によって膨張、展開することにより、運転席のヘッドレストの左右両側の空間と上部の空間の少なくともいずれか一方を後部室から遮蔽するものである。
【0011】
また、本発明は、前記エアバッグが運転席と助手席のヘッドレスト間の空間を遮蔽する第1の膨張部と、運転席側ヘッドレストより上方空間を遮蔽する第2の膨張部と、前記運転席側ヘッドレストの助手席側とは反対側の側方空間を遮蔽する第3の膨張部とを備え、前記第2の膨張部と前記第3の膨張部との連通部に絞りを設けたものである。
【0012】
さらに、本発明は、前記エアバッグがアラミド繊維を主原料として気密加工された布により製作されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、エアバッグの立ち上げ機構を備えているので、エアバッグを所定の高さ位置に瞬時に移動させて膨張、展開させることができ、また立ち上げ機構は上昇すると運転席と助手席との間の空間を遮蔽し障害物となるので、後部室側の暴漢が前記空間から腕を伸ばして運転手を襲うことができず運転手の身の安全を守ることができる。
【0014】
また、本発明においては、膨張装置を立ち上げ機構内に収納しているので、車両室内に膨張装置のための収納空間を確保する必要がない。
【0015】
また、本発明においては、膨張装置を立ち上げ機構の外部に収納しているので、エアバッグ装置自体に膨張装置のための収納空間を確保する必要がなく、エアバッグ装置を小型化することができる。膨張装置の収納空間としては、運転席の下やヘッドレストまたはコンソールボックスの内部などが考えられる。
【0016】
また、本発明においては、エアバッグが運転席のヘッドレストの左右両側の空間と上部の空間の少なくともいずれか一方を遮蔽しているので、後部室側の暴漢が運転席の上方から腕を伸ばして運転手を襲おうとした場合でも運転手の身の安全を守ることができる。
【0017】
また、本発明においては、エアバッグが運転席と助手席のヘッドレスト間の空間を遮蔽する第1の膨張部と、運転席側ヘッドレストの上方空間を遮蔽する第2の膨張部と、前記運転席側ヘッドレストの助手席側とは反対側の側方空間を遮蔽する第3の膨張部とを備えているので、後部室側の暴漢が運転席の上方から腕を伸ばして運転手を襲おうとした場合でも前方の視界を遮るため運転手の身の安全を守ることができる。また、前記第2の膨張部と前記第3の膨張部との連通部に絞りを設けているので、第3の膨張部を第2の膨張部より遅れて膨張、展開させることができる。したがって、膨張行程において、第3の膨張部がヘッドレストと干渉するようなことがない。
【0018】
さらに、本発明においては、エアバッグをアラミド繊維を主原料として気密加工された布により製作しているので、高強度、高弾性率を有し、刃物などで簡単に切ることができない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る車両室内隔離用エアバッグ装置の使用時におけるフロントシートの背面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は立ち上げ機構が立ち上がった状態を示す側面図、図4はコンソールボックスの一部を破断して示す平面図、図5はエアバッグを収納した状態を示すコンソールボックスの断面図、図6は立ち上げ機構の収納状態を示す平面図、図7はケース本体の蓋体が閉じた状態を示す断面図、図8は図4のA−A線断面図、図9は図4のB−B線断面図、図10は図6のC−C線断面図、図11(a)、(b)は膨張装置の断面図およびD−D線断面図である。
【0020】
図1および図2において、1はタクシーの天井部を示し、2は車両室内の前部室、3は後部室、4は前部室2に設けられたフロントシートであって、このフロントシート4は、運転席5と助手席6とが分離しているセパレートタイプのシートで構成されている。このため、運転席5と助手席6との間には空間7が形成されている。前記運転席5はボトムシート5Aと、シートバック5Bとヘッドレスト5Cとで構成されている。同じく、助手席6もボトムシート6Aと、シートバック6Bとヘッドレスト6Cとで構成されている。前記運転席5と前記助手席6との間の空間7の床面には、センターコンソールボックス(以下、コンソールボックスと略称する)8が設けられており、このコンソールボックス8の内部(収納スペース)または蓋部分にエアバッグ装置10が収納されている。またエアバッグ装置自体のケースがコンソールボックス8の蓋部材を構成する場合もある。
【0021】
前記エアバッグ装置10は、後部室3側に乗車している暴漢が運転手に危害を加えようとしたときに、運転席5のシートバック5Bの上部空間12と、ヘッドレスト5Cの両側の空間26,27を後部室3から遮蔽し、運転手の身の安全を守るために設置されたものであって、圧縮気体(通常空気)の充填により膨張すると前記空間12,26,27に展開するエアバッグ13と、このエアバッグ13に圧縮気体を供給する圧縮気体供給源である膨張装置14と、エアバッグ13を運転席5のヘッドレスト5Cの側方の高さ位置付近まで上昇させる折畳み自在なエアバッグ上昇装置15とを備えている。また、このエアバッグ上昇装置15の一部構成部材(後述する)は、エアバッグ装置10の使用時において、前記空間7を遮蔽する遮蔽体として機能する。
【0022】
前記コンソールボックス8は、車体の前後方向に長い箱型に形成されたボックス本体8Aと、このボックス本体8Aの上部に設けられた蓋部としての上ケース部8Bとからなり、ボックス本体8A内に前記膨張装置14を収納し、上ケース部8B内に前記エアバッグ13とエアバッグ上昇装置15を収納している。
【0023】
図4〜図7および図9において、前記上ケース部8Bは、前面板16a、後面板16b、底板16c、左右一対の側板16d,16eとからなる上方に開放した前後方向に長い箱型のケース本体16と、このケース本体16の上側の開口部を通常覆う開閉自在な左右一対の蓋体17とで構成されている。
【0024】
前記ケース本体16の前面板16aと後面板16bの両側部には、図7に示すように前記各蓋体17を支持、案内するガイド溝18がそれぞれ形成されている。このガイド溝18は、正面視形状で鉤形に形成することにより、ケース本体16の側端上部より略中央にまで延在する水平溝部18Aと、この水平溝部18Aの外端より下方に延設された垂直溝部18Bとで構成されている。
【0025】
前記各蓋体17は、ケース本体16の幅寸法の略半分の幅を有する前後方向に長い矩形の平板状に形成されており、下面の各角部付近にガイドピン19a,19bがそれぞれ取付けられている。これらのガイドピン19a,19bは、前記ガイド溝18内に摺動自在に挿入されており、蓋体17の開閉動作時にガイド溝18に沿って移動するように構成されている。すなわち、各蓋体17の内端側に取付けられているガイドピン19aは、ガイド溝18の水平溝部18Aに沿って移動し、蓋体17が閉じた通常時においては水平溝部18Aの内側終端部に位置している。一方、各蓋体17の外端側に取付けられているガイドピン19bは、ガイド溝18の垂直溝部18Bに沿って移動し、通常は垂直溝部18Bの上側終端部に位置し、後述トリガー機構50によって下方への移動を阻止されている。
【0026】
また、各蓋体17のガイドピン19bには、蓋体17を開方向に付勢する引張りコイルばね22の一端がそれぞれ係止されている。引張りコイルばね22の他端は、ケース本体16の底板16cの幅方向中央寄りに設けた係止金具23にそれぞれ係止されることにより斜めに張設されており、前記ガイドピン19bをそれぞれ下方に付勢している。
【0027】
このような引張りコイルばね22によってガイドピン19bを垂直溝部18Bに沿って下降させ、ガイドピン19aを水平溝部18Aに沿って移動させると、各蓋体17を図7に二点鎖線で示すようにケース本体16内に最小の突出量で落とし込むことができ、側板16d,16eの内面に沿って収納することができる。すなわち、蓋体17は、通常ケース本体16の上側の開口部を閉塞しており、開蓋時に引張りコイルばね22によって引き下げられると、ガイドピン19aが水平溝部18Aに沿って外側に移動し、ガイドピン19bが垂直溝部18Bに沿って下降することにより、図7に二点鎖線で示すように反時計方向と時計方向にそれぞれ回動し、略90°回動すると略垂直な状態となり、ケース本体16内に収納される。
【0028】
前記エアバッグ13は、ナイロン繊維より高強度と高弾性率を有するアラミド繊維を主原料として気密加工された布によって袋状に製作されており、通常は図5に示すように前記ケース本体16内に折り畳まれた状態で収納されており、上面が蓋体17の下面に接触している。そして、使用時に前記膨張装置14から圧縮空気が供給されると、エアバッグ13は膨張してトリガー機構50が作動するので、ケース本体16の蓋体17は2点鎖線で示すように回動されて開き、エアバッグ上昇装置15によってエアバッグ13は所定の高さ位置まで上昇されるように構成されている。このようなエアバッグ13は、完全に膨張して展開すると、図1に示すように運転席5のヘッドレスト5Cと助手席6のヘッドレスト6Cとの間の空間26を遮蔽する第1の膨張部13Aと、運転席側ヘッドレスト5Cの上方より天井1付近までの空間12を遮蔽する第2の膨張部13Bと、運転席5側ヘッドレスト5Cの助手席6側とは反対側の側方空間27を遮蔽する第3の膨張部13Cとで構成されている。第3の膨張部13Cは、第2の膨張部13Bの先端部下面に設けられている。
【0029】
ここで、第3の膨張部13Cを第2の膨張部13Bと同時に膨張させると、ヘッドレスト5Cが障害となって第3の膨張部13Cが側方空間27に速やかに移動しない事態が発生するおそれがある。そこで、本実施の形態においては、第2の膨張部13Bと第3の膨張部13Cとの連通部に小孔からなる絞り28を設け、第2の膨張部13Bの先端部がヘッドレスト5Cの上方でかつ右方に展開した後に第3の膨張部13Cを膨張、展開させるようにしている。このような絞り28を設けておくと、第3の膨張部13Cは第1、第2の膨張部13A,13Bの膨張とともに僅かに膨張するが、ヘッドレスト5Cを乗り越えた後に完全に膨張して展開するので、エアバッグ13全体が安定した状態で膨張、展開し、前記空間12,26,27を確実に遮蔽することができる。なお、第1、第2の膨張部13A、13Bは同時に膨張、展開するものとする。
【0030】
このようなエアバッグ13は、前記エアバッグ上昇装置15のエアバッグ固定プレート31上に折り畳まれた状態で設置されて前記ケース本体16内に収納されており、前記膨張装置14に可撓性を有するパイプ32を介して接続されている。
【0031】
図11において、前記膨張装置14は、圧縮気体が充填されたガスボンベGと、駆動モータMと、駆動モータMの回転を減速する減速歯車機構Rと、ガスボンベGの吐出口を開閉する弁S等からなり、運転席5付近に設けたスイッチ(図示せず)を運転手が操作すると駆動モータMが駆動して弁Sを開き、ガスボンベGから所定量の圧縮気体をエアバッグ13にパイプ32を介して供給するように構成されている。
【0032】
前記エアバッグ上昇装置15は、折畳み自在な立ち上げ機構33と、この立ち上げ機構33を作動させる弾性体42とを備えている。
【0033】
図1〜図3において、前記立ち上げ機構33としては、左右一対のリンク機構33A,33Bによって構成される折畳み自在なパンダグラフ機構が用いられ、通常は前記エアバッグ13とともに前記ケース本体16内に折り畳まれた状態で収納されている。各リンク機構33A,33Bは、X字状に交叉する2本のリンク35(35a〜35c),36(36a〜36c)を複数本の連結ピン37(37a〜37h),38によって三段に接続したリンク機構からなり、同期して動作するように連結ピン37によって互いに連結されている。
【0034】
連結ピン37は、各リンク機構33A,33Bのリンク35,36どうしを連結する長いピンであり、連結ピン38は各リンク機構33A,33Bのリンク35,36の交叉部を連結する短いピンである。また、連結ピン37は、図6に示すように長さが異なり上段のリンク35,36程長さが短くなるように形成されている。このため、左右一対のリンク機構33A,33Bの各段のリンク35,36の間隔は、最下段の横幅が最大で、上段ほど狭くなっており、折り畳まれてケース本体16内に収納されると、図6に示すように同一平面上に面方向に重なって収納されるようになっている。言い換えれば、最下段のリンク35a,36aの内側に2段目のリンク35b,36bが収納され、さらにその内側に最上段のリンク35c,36cが収納されるように設計されている。同様に、最下段のリンク機構の連結ピン37a,37bが最も外側で、二段目の連結ピン37c,37dがその内側で、三段目の連結ピン37e,37fがさらにその内側で、最上段の連結ピン37g,37hが最も内側に収納されるように設計されている。
【0035】
また、最下段の2本の連結ピン37a,37bのうち車体前方側の連結ピン37aの両端部は、ケース本体16内に設けた左右一対のリンクアーム40の前端部側に形成した前後方向に長いガイド溝41にそれぞれ摺動自在に挿通されており、リフトアップ用ばね42の一端を係止している。そして、この連結ピン37aは、立ち上げ機構33の収納状態において、ガイド溝41の前方側終端部に位置している。一方、後方側の連結ピン37bは、前記リンクアーム40の後端に回転自在に軸支されており、前記リフトアップ用ばね42の後端を係止している。
【0036】
前記リフトアップ用ばね42は、立ち上げ機構33を上昇させるためのばねで、引張りコイルばねが用いられており、立ち上げ機構33がケース本体16内に収納され連結ピン37aがガイド溝41の前方側終端部に位置した状態において、最大に伸長された状態に保持されることにより、立ち上げ機構33を上昇させるための力を蓄積している。
【0037】
最上段の2本の連結ピン37g,37hのうち車体前方側の連結ピン37gの両端部は、前記エアバッグ固定プレート31の下面側に固定した左右一対のリンクアーム44(図3)の前端に回動自在に枢支されている。一方、後方側の連結ピン37hは、前記リンクアーム44の後端部側に設けた前後方向に長いガイド溝45に摺動自在に挿通されている。そして、この後方側連結ピン37hは、エアバッグ13と立ち上げ機構33がケース本体16内に収納された状態においてガイド溝45の後方側終端部に位置しており、立ち上げ機構33が立ち上がると図3に示すようにガイド溝45に沿って前方側終端部に移動する。したがって、エアバッグ固定プレート31は、最下段の前方側連結ピン37aの後方側への移動と、最上段の後方側連結ピン37hの前方側への移動に相俟って相対的に車体後方側に移動される。このため、エアバッグ13も後方側に移動し、これにより運転席周りの空間を広く確保することができ、エアバッグ13による運転者への圧迫感を少なくすることができる。
【0038】
このような立ち上げ機構33は、通常ケース本体16内に折り畳まれた状態で収納されており、トリガー機構50の作動によって解放されると前記リフトアップ用ばね42も解放されるので、このばね42に蓄積されている力によってケース本体16から上方に突出するように構成されている。
【0039】
図4、図5および図9において、前記トリガー機構50は、前記ケース本体16の内部前方側と後方側の上方で幅方向中央部にそれぞれ2つずつ設けられた合計4つの押圧プレート51,52を備えている。ただし、図4においては車体後方側のトリガー機構50のみを示し、車体前方側のトリガー機構については図示を省略している。また、前方側と後方側のトリガー機構50は全く同一構造であるため、後方側のトリガー機構50についてのみ説明し、前方側のトリガー機構についてはその説明を省略する。
【0040】
前記押圧プレート51は、平面視くの字状に折り曲げられたプレートで構成されることにより、前端側アーム部51aと、後端側アーム部51bとで構成されている。同じく押圧プレート52も平面視くの字状に折り曲げられたプレートで構成されることにより、前端側アーム部52aと、後端側アーム部52bとで構成されている。ただし、この押圧プレート52は、左右対称になるように押圧プレート51の下面側に重ね合わされて配設されている。そして、これらの押圧プレート51,52は、屈曲部が共通な軸ピン53によって回動自在に軸支されている。前記軸ピン53は、取付板54上に立設されており、またこの取付板54は、ケース本体16の内部後方に立設した固定プレート55に固定されている。固定プレート55の前面側には、押圧プレート51,52の両側に位置する左右一対の支持ピン56が前方に向かって突設されており、これらの支持ピン56によって作動プレート57を前後方向に移動自在に支持している。
【0041】
前記作動プレート57は、前記押圧プレート51,52を所定角度回動させ、トリガー機構50によるエアバッグ装置10のロック状態を解除するためのプレートであり、通常は支持ピン56に弾装された圧縮コイルばね58によって前方に付勢されていることにより、下端が前記エアバッグ固定プレート31の後端に圧接されている。また、作動プレート57の背面側には、図4に示すように前記押圧プレート51,52の前端側アーム部51a,52aがそれぞれ当接している。この当接した状態において、上側の押圧プレート51の前端側アーム部51aは車体の右斜め前方を指向し、下側の押圧プレート52の前端側アーム部52aは車体の左斜め前方を指向し、両プレート51,52の後端側アーム部51b,52bは互いに重なり合い、車体後方を指向している。
【0042】
図9において、上側の押圧プレート51は、ワイヤ60を介して蓋体ロック部材61に連結されている。蓋体ロック部材61は、ケース本体16の車体右側の蓋体17を閉状態にロックするための部材であり、下端側が軸62によって左右方向に回動自在に軸支されており、引張りコイルばね66によって図9において反時計方向の復帰習性が付与されていることにより、通常は上端がガイドピン19bの下面に当接し、当該ピン19bの下方への移動を阻止している。
【0043】
下側の押圧プレート52は、同じくワイヤ64を介して別の蓋体ロック部材67に連結されている。この蓋体ロック部材67は、ケース本体16の車体左側の蓋体17を閉状態にロックするための部材であり、下端側が軸68によって左右方向に回動自在に軸支されており、引張りコイルばね69によって図9において時計方向の復帰習性が付与されていることにより、通常は上端がガイドピン19bの下面に当接し、当該ピン19bの下方への移動を阻止している。
【0044】
次に、上記構造からなるエアバッグ装置10の動作について説明する。
エアバッグ13と立ち上げ機構33は、図5および図6に示すように通常ケース本体16内に折り畳まれた状態で収納されている。この収納状態において、左右一対の蓋体17は、閉じておりケース本体16の上方側開口部を閉塞している。この閉状態において、トリガー機構50の蓋体ロック部材61,67は、図9に実線で示すように各蓋体17のガイドピン19bを下方から係止し、下方への移動を阻止している。
【0045】
また、圧縮コイルばね58(図4および図5)は、作動プレート57をエアバッグ13方向に付勢しエアバッグ固定プレート31に押し付けている。
【0046】
このような収納状態において、エアバッグ装置10は運転手がスイッチを操作することで動作する。すなわち、スイッチを操作するとその信号によって膨張装置14の駆動モータMが駆動して弁Sを開き、ガスボンベGから圧縮気体をパイプ32を介してエアバッグ13に供給する。エアバッグ13は圧縮気体が供給されるとエアバッグ自体の膨張により蓋体17と作動プレート57を押圧する。
【0047】
作動プレート57は、エアバッグ13によって押圧されると圧縮コイルばね58に抗して後退し、押圧プレート51,52を図4において反時計方向と時計方向にそれぞれ回動させる。押圧プレート51が反時計方向に回動すると、ワイヤ60(図9)は右方に引張られるため、蓋体ロック部材61を軸62を中心として引張りコイルばね66に抗して時計方向に回動させる。このため、蓋体ロック部材61の上端は、車体右側の蓋体17のガイドピン19bの下方から退避しガイドピン19bの係止状態を解除する。
【0048】
同様に押圧プレート52が時計方向に回動すると、ワイヤ64は図9において左方に引張られるため蓋体ロック部材67を軸68を中心として反時計方向に回動させる。このため、蓋体ロック部材67の上端は、車体左側の蓋体17のガイドピン19bの下方から退避しガイドピン19bの係止状態を解除する。
【0049】
蓋体ロック部材61,67による各蓋体17のガイドピン19bのロック状態が解除されると、各蓋体17は、エアバッグ13の膨張力と引張りコイルばね22のばね力とによって一気に開く。すなわち、蓋体17は、引張りコイルばね22によって外側のガイドピン19bが下方に引っ張られるため、内側のガイドピン19aが水平溝部18Aに沿って移動し、外側のガイドピン19bがガイド溝18の垂直溝部18Bに沿って下降して下端側終端部に到達すると完全に開いて側板16d,16eの内面に沿って収納される。これにより、エアバッグ13は蓋体17から解放され、ケース本体16から外部に膨出する。
【0050】
エアバッグ13が蓋体17から解放されると、立ち上げ機構33も解放されるため、リフトアップ用ばね42が短縮して連結ピン37aをリンクアーム40のガイド溝41に沿って図5において右方に移動させる。このため、連結ピン37aと連結ピン37bとの間隔が狭まって立ち上げ機構33が図3に示すように立ち上がり、エアバッグ13を所定の高さに持ち上げる。このエアバッグ13の上昇高さは、運転席5のシートバック5Bと略同一高さである。
【0051】
エアバッグ13は、立ち上げ機構33によって所定高さに押し上げられても膨張装置14からの圧縮気体の供給を受け続けることにより膨張、展開する。そして、完全に膨張すると、運転席5のヘッドレスト5Cの上方空間12と、運転席5と助手席6のヘッドレスト5C,6C間の空間26と、運転席側ヘッドレスト5Cの助手席6側とは反対側の側方空間27を遮蔽する。また、立ち上げ機構33は、運転席5と助手席6との間の空間7を遮蔽する。図1はこの状態を示す。
【0052】
このように本発明においては、立ち上げ機構33によってエアバッグ13を所定の高さ位置まで上昇させて膨張、展開させるように構成したので、車両室内の前部室2と後部室3を短時間に隔離することができる。また、剛体からなる立ち上げ機構33は運転席5と助手席6との間の空間7を遮蔽するので、後部室3側のリアシートに座っている暴漢が前記空間7から手を伸ばそうとしても立ち上げ機構33が障害となって手を伸ばすことができず、また、エアバッグ13は運転席5の周りの空間12,26,27を遮蔽して暴漢の前方の視界を遮るため、暴漢から運転手の身の安全を守ることができる。
【0053】
なお、上記した実施の形態においては、蓋体17を引張りコイルばね22とエアバッグ13の膨張時の押圧力によって開くようにしたが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、モータ、電磁ソレノイド等の駆動装置を用いて動作させるようにしてもよい。このような駆動装置を用いる場合は、引張りコイルばね22を必ずしも必要としない。
【0054】
なお、上記した実施の形態においては、エアバッグ装置10のトリガー機構50をエアバッグ13に圧縮気体を供給することにより動作させるようにしたが、これに何ら限定されるものではなく、モータ、電磁ソレノイド等の駆動装置を用いて動作させるようにしてもよい。
【0055】
さらに、上記した実施の形態においては、膨張装置14をコンソールボックス8内に収納した例を示したが、収納場所については車両室内であれば何処でもよく、例えば立ち上げ機構33やヘッドレスト5Cの内部に収納してもよく、また運転席5の下に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る車両室内隔離用エアバッグ装置の使用時におけるフロントシートの背面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】立ち上げ機構が立ち上がった状態を示す側面図である。
【図4】コンソールボックスの一部を破断して示す平面図である。
【図5】エアバッグを収納した状態を示すコンソールボックスの断面図である。
【図6】立ち上げ機構の収納状態を示す平面図である。
【図7】ケース本体の蓋体が閉じた状態を示す断面図である。
【図8】図4のA−A線断面図である。
【図9】図4のB−B線断面図である。
【図10】図6のC−C線断面図である。
【図11】(a)、(b)は膨張装置の断面図およびD−D線断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1…タクシーの天井部、2…前部室、3…後部室、4…フロントシート、5…運転席、6…助手席、5C,6C…ヘッドレスト、7…空間、8…コンソールボックス、10…エアバッグ装置、12…空間、13…エアバッグ、13A…第1の膨張部、13B…第2の膨張部、13C…第3の膨張部、14…膨張装置、15…エアバッグ上昇装置、33…立ち上げ機構、26,27…空間、28…絞り、G…ガスボンベ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮気体の充填によりエアバッグを膨張、展開させて運転席のシートバックの上部空間を後部室から遮蔽する車両室内隔離用エアバック装置であって、
運転席と助手席との間の床面に配置されるコンソールボックスの内部または蓋部に折り畳まれた状態で収納される前記エアバックと、このエアバッグに圧縮気体を供給するボンベと、前記エアバッグを運転席のヘッドレスト側方まで上昇させる折畳み自在な立ち上げ機構とを備えたことを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両室内隔離用エアバッグ装置において、
前記立ち上げ機構に膨張装置を内蔵させたことを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両室内隔離用エアバッグ装置において、
前記立ち上げ機構の外部に膨張装置を配設したことを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両室内隔離用エアバッグ装置において、
前記エアバッグは、膨張装置からの圧縮気体の供給によって膨張、展開することにより、運転席のヘッドレストの左右両側の空間と上部の空間の少なくともいずれか一方を後部室から遮蔽することを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項4記載の車両室内隔離用エアバッグ装置において、
前記エアバッグは、運転席と助手席のヘッドレスト間の空間を遮蔽する第1の膨張部と、運転席側ヘッドレストより上方空間を遮蔽する第2の膨張部と、前記運転席側ヘッドレストの助手席側とは反対側の側方空間を遮蔽する第3の膨張部とを備え、前記第2の膨張部と前記第3の膨張部との連通部に絞りを設けたことを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。
【請求項6】
請求項1記載の車両室内隔離用エアバッグ装置において、
前記エアバッグがアラミド繊維を主原料として気密加工された布により製作されていることを特徴とする車両室内隔離用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−112215(P2007−112215A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303469(P2005−303469)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000185248)小倉クラッチ株式会社 (55)
【出願人】(591199741)株式会社プロップ (26)
【Fターム(参考)】