説明

車両挙動制御装置

【課題】 ヨーレイトセンサの失陥時等における望ましくない車両挙動を抑制した車両挙動制御装置を提供する。
【解決手段】 制動継続時間Tbが第1故障判定閾値Tthに達することで、ステップS13の判定がYesになると、VSA−ECU6は、ステップS14で初期値1.0の制動ゲインGbから所定の漸減値ΔGbを減じた後、ステップS16で制動ゲインGbが0となったか否かを判定する。ステップS13の判定がYesの状態が所定時間続き、ステップS15の判定がYesになると、VSA−ECU6は、ステップS16で制動禁止フラグFpbを1とした後、ステップS17で失陥時処理を実行して制動禁止判定制御を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両挙動制御装置に係り、ヨーレイトセンサの失陥時等における望ましくない車両挙動を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行安全性を高める装置としては、制動時における車輪のロックを防止するABS(Anti-lock Breaking System)、加速時における車輪の空転を防止するTCS(Traction Control System)の他、旋回時における横滑りの抑制機能等をこれらに加えた車両姿勢制御装置が一部に採用されている。旋回走行時にアンダステアやオーバステア等によって横滑りが生じた場合、運転者が意図した走行軌跡(以下、目標進路と記す)から車両が逸脱することになる。そのため、車両姿勢制御装置では、目標進路からの逸脱を判定した段階で、独立式制動装置により左右車輪のどちらか一方を制動すること等によって車両を目標進路に復帰させる制御が行われている。
【0003】
通常、旋回走行時における車両の目標進路からの逸脱は、車体速センサから入力した車体速情報と操舵角センサから入力した操舵角情報とから規範ヨーレイトを算出し、この規範ヨーレイトとヨーレイトセンサから入力したヨーレイト検出値とを比較することによって判定される。例えば、車両姿勢制御装置は、規範ヨーレイトからヨーレイト検出値を減じた値が所定のアンダステア判定閾値を超えた場合、車両がアンダステア状態となっていると判定して旋回内側の車輪を制動する。逆に、車両姿勢制御装置は、規範ヨーレイトからヨーレイト検出値を減じた値が所定のオーバステア判定閾値(負の値)より小さい場合、車両がオーバステア状態となっていると判定して旋回外側の車輪を制動する(特許文献1参照)。なお、車体の運動状態量として車体横滑り角の微分値を推定する技術も存在し(特許文献2参照)、推定した車体横滑り角の微分値を用いることにより、車両の旋回走行時における目標進路からの逸脱を判定することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−117645号公報
【特許文献2】特開2003−165431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、旋回走行時にヨーレイトセンサやECU内の電子部品に失陥(作動不良や接触不良等)が生じた場合、ヨーレイト検出値が一定の値から変化しなくなって旋回方向が左右逆に誤判定され、オーバステア状態にも拘わらず旋回内側の車輪が制動されてしまう可能性がある。この場合、オーバステア状態が更に強くなって車両が目標進路に対して旋回内側に回り込み、運転者が、カウンターステアを強いられたり、操縦に不安を感じさせられたりする虞があった。また、実際のヨーレイトが大きな値となる時間が短いにも拘わらずヨーレイトセンサの故障によって大きなヨーレイト検出値が長時間出力されたような場合には、旋回外側の車輪が制動されることでアンダーステア状態となり、旋回走行が阻害される虞もあった。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、ヨーレイトセンサの失陥時等における望ましくない車両挙動を抑制した車両挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る車両挙動制御装置は、旋回走行時における車両の挙動を制御すべく、旋回内側または旋回外側の車輪を所定の制動力をもって制動する車両挙動制御装置において、前記制動が継続した時間を制動時間として計測する制動時間計測手段と、前記制動時間が所定値に達した場合に当該制動を禁止する制動禁止手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明に係る車両挙動制御装置は、旋回走行時における車両の挙動を制御すべく、旋回内側または旋回外側の車輪を所定の制動力をもって制動する車両挙動制御装置において、制動量の積算値を制動積算値として算出する制動量積算手段と、前記制動積算値が所定値に達した場合に前記制動を禁止する制動禁止手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明に係る車両挙動制御装置において、前記制動禁止手段は、前記制動を禁止するにあたり、前記制動力を所定の漸減量をもって漸減させてゆくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の車両挙動制御装置によれば、例えば、ヨーレイトセンサの失陥等によってヨーレイト検出値が一定の値から変化せず、旋回方向が左右逆に誤判定されて旋回内側の車輪が制動されたような場合においても、所定時間が経過すると制動が禁止されて目標進路に対して旋回内側に回り込む車両の挙動が抑制される。また、第2の発明の車両挙動制御装置によれば、例えば、ヨーレイトセンサの失陥等によってヨーレイト検出値が一定の値から変化せず、旋回方向が左右逆に誤判定されて旋回内側の車輪が制動されたような場合においても、制動の積算値が所定値に達すると制動が禁止されて目標進路に対して旋回内側に回り込む車両の挙動が抑制される。また、第3の発明の車両挙動制御装置によれば、制動の急激な禁止に起因する車両の不安定な挙動が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る車両の装置構成を示す平面図である。
【図2】実施形態に係るVSA−ECUの概略構成を示すブロック図である。
【図3】オーバステア抑制部および制動禁止判定部の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係るオーバステア抑制制御の手順を示すフローチャートである。
【図5】アンチスピン判定閾値の設定形態を示すグラフである。
【図6】第1実施形態に係る制動禁止判定制御の手順を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態に係る制動禁止判定時における制動ゲインの変化を示すグラフである。
【図8】第2実施形態に係る制動禁止判定制御の手順を示すフローチャートである。
【図9】第2実施形態に係る制動積算値−制動ゲインマップである。
【図10】制動禁止判定制御が行われない場合における各数値の時間変化を示すグラフである。
【図11】制動禁止判定制御が行われた場合における各数値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両挙動制御装置の2つの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る車両の装置構成を示す平面図であり、図2は第1実施形態に係るVSA−ECUの概略構成を示すブロック図であり、図3はオーバステア抑制部および制動禁止判定部の構成を示すブロック図である。
【0014】
<車両の装置構成>
先ず、図1を参照して、車両の装置構成について説明する。説明にあたり、4本のホイールやそれらに対応して配置された部材、すなわち、タイヤや車輪速センサ等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば、ホイール3fl(左前)、ホイール3fr(右前)、ホイール3rl(左後)、ホイール3rr(右後)と記すとともに、総称する場合には、例えば、ホイール3と記す。
【0015】
図1に示すように、車両(本実施形態では乗用車)1はタイヤ2が装着された4つのホイール3を備えており、これら各ホイール3にはブレーキ4と車輪速センサ(車体速検出手段)5とが内装されている。また、車両1には、車室内にVSA(Vehicle Stability Assist:車両挙動安定化制御システム)−ECU(Electronic Control Unit)6の他、EPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)7と、EPS7を制御するEPS−ECU8と、各ブレーキ4に圧油を供給する油圧ユニット9と、エンジン10を制御するENG−ECU11とが設置されている。なお、車両1は、車体15のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ12と、車体15の前後加速度を検出する前後Gセンサ13と、車体15の横加速度を検出する横Gセンサ14とを車室内に備えている。
【0016】
VSA−ECU6、EPS−ECU8およびENG−ECU11は、それぞれ、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して互いに接続されている。また、油圧ユニット9は、PWM制御される電磁バルブや油圧回路等を4系統備えており、各ホイール3のブレーキ4にそれぞれ異なった圧力の圧油を送給することができる。
【0017】
EPS7は、図示しないラックやピニオンからなるステアリングギヤ21と、ステアリングホイール22が後端に取り付けられたステアリングシャフト23と、ステアリングシャフト23に操舵アシスト力を与えるEPSモータ24とを主要構成要素としている。なお、ステアリングシャフト23には、ステアリングホイール22の操舵角を検出する操舵角センサ25が取り付けられている。
【0018】
<VSA−ECU>
次に、図2を参照して、本実施形態のVSA−ECU6の要部構成を説明する。
本実施形態のVSA−ECU6は、車体速推定部31と、規範ヨーレイト算出部32と、制御量設定部33と、制御信号出力部34とを備えている。
【0019】
車体速推定部31は、各ホイール3の車輪速センサ5から入力した車輪速検出値Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに基づき、車両の車体速Vを推定する。また、規範ヨーレイト算出部32は、車体速推定部31から入力した車体速Vの推定値と、操舵角センサ25から入力した操舵角検出値δに基づき、規範ヨーレイトγNを算出する。
【0020】
制御量設定部33は、車体速推定部31から入力した車体速Vや、規範ヨーレイト算出部32から入力した規範ヨーレイトγN、操舵角センサ25から入力した操舵角検出値δ、ヨーレイトセンサ12から入力したヨーレイト検出値γ、前後Gセンサ13から入力した車体15の前後加速度検出値GF、横Gセンサ14から入力した車体15の横加速度検出値GLに基づき、油圧ユニット9やEPS−ECU8、ENG−ECU11の各制御量を設定する。また、制御信号出力部34は、制御量設定部33で設定された制御量に応じて、油圧ユニット9やEPS−ECU8、ENG−ECU11に制御信号を出力する。
【0021】
<オーバステア抑制部および制動禁止判定部>
制御量設定部33内には、図3に示すように、オーバステア抑制部40と、制動禁止判定部(制動禁止手段)50とが設けられている。オーバステア抑制部40は、横加速度検出値GLと車体速Vとヨーレイト検出値γとから車体スリップ角βの時間微分値(dβ/dt)をスリップ角微分値β’として算出するスリップ角微分値算出部41と、旋回外側のホイール3に付与する目標制動力Btgtをスリップ角微分値算出部41の算出結果に応じて設定する制動力設定部42とを有している。また、制動禁止判定部50は、オーバステア抑制部40の制動力設定部42から入力した制動実行信号に基づいて制動継続時間Tbを計数する制動時間計数部51と、制動力設定部42から入力した制動量信号に基づいて制動積算値Btotalを算出する制動量積算部52と、制動時間計数部51の計数結果および制動量積算部52の積算結果に応じて制動禁止指令(後述する制動禁止フラグFpb)を制動力設定部42に対して出力する制動禁止指令出力部53とを有している。なお、制動量積算部52は、後述する第2実施形態において使用される。
【0022】
≪第1実施形態の作用≫
<VSA−ECUの作用>
VSA−ECU6には、各ホイール3の車輪速センサ5からの車輪速検出値Wfl,Wfr,Wrl,Wrrを始め、操舵角センサ25からの操舵角検出値δ、ヨーレイトセンサ12からのヨーレイト検出値γ、前後Gセンサ13からの前後加速度検出値GF、横Gセンサ14からの横加速度検出値GLが入力する。VSA−ECU6内では、車輪速検出値Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに基づいて車体速推定部31で車体速Vが推定された後、車体速Vと操舵角検出値δとに基づいて規範ヨーレイト算出部32で規範ヨーレイトγNが算出される。次に、各センサからの入力情報と規範ヨーレイトγNとに基づき、制御量設定部33において制動制御量と操舵制御量と出力制御量とがそれぞれ設定された後、制御信号出力部34から油圧ユニット9やEPS−ECU8、ENG−ECU11に対して各制御量に応じた制御信号が出力される。これにより、旋回走行時や雨中走行時等においても、車体15の好ましくない挙動が抑制されるようになり、車両1の操縦安定性の向上が実現される。
【0023】
<オーバステア抑制制御>
車両1が走行を開始すると、VSA−ECU6(オーバステア抑制部40)は、図4のフローチャートにその手順を示すオーバステア抑制制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。オーバステア抑制制御を開始すると、VSA−ECU6は、先ず図4のステップS1で、横加速度検出値GLと車体速Vとヨーレイト検出値γとを用いて、スリップ角微分値β’を下記の式(1)を用いて算出する。
β’=GL/V−γ ・・・式(1)
なお、式(1)は、車両の横滑り運動に関して成立する下記の運動方程式
mV(β’+γ)=m・GL
から導かれる。ここで、mは車両の慣性質量である。
【0024】
次に、VSA−ECU6は、ステップS2で、スリップ角微分値β’の絶対値|β’|がアンチスピン判定閾値βthの絶対値|βth|を超えているか否かを判定し、この判定がNoであれば何ら処理を行わずにスタートに戻る。なお、アンチスピン判定閾値βthは、ヨーレイト検出値γから得られる旋回方向および不安定レベルの高低に応じて、図5のグラフに示すように設定される。
【0025】
車両1がオーバステア状態に陥いってスリップ角微分値β’の絶対値|β’|が増大し、ステップS2の判定がYesとなった場合、VSA−ECU6は、ステップS3で後述の制動禁止フラグFpbが0であるか否かを判定し、この判定がNoとなった場合も何ら処理を行わずにスタートに戻る。
【0026】
制動禁止フラグFpbが0であり、ステップS3の判定もYesとなった場合、VSA−ECU6は、ステップS4で、スリップ角微分値β’の絶対値|β’|がアンチスピン判定閾値βthの絶対値|βth|以下となるように、旋回外側のホイール3に対する制動力ベース値Bbaseを算出する。しかる後、VSA−ECU6は、ステップS5で、制動力ベース値Bbaseに後述する制動ゲインGbを乗じて目標制動力Btgtを算出した後、ステップS6で目標制動力Btgtを達成するための制動制御信号を油圧ユニット9に出力する。これにより、旋回走行時にオーバステア状態となっても、オーバステアの強さに応じて旋回外側のホイール3が制動されることになり、車両1の目標進路からの逸脱が抑制される。
【0027】
<制動禁止判定制御>
上述したオーバステア抑制制御と並行して、VSA−ECU6(制動禁止判定部50)は、制動禁止判定制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。図6のフローチャートにその手順を示す制動禁止判定制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。制動禁止判定制御を開始すると、VSA−ECU6は、先ず図6のステップS11でオーバステア抑制制御による制動が実行されているか否かを判定し、この判定がNoであればステップS12で制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。なお、制動禁止フラグFpbはその初期値が0に設定されており、VSA−ECU6は、制動禁止フラグFpbが1とならない限りは上述したオーバステア抑制制御による制動を実行する。
【0028】
オーバステア抑制制御による制動が実行され、ステップS11の判定がYesになると、VSA−ECU6は、ステップS13で制動継続時間Tbが第1故障判定閾値Tth(例えば、200ms)に達したか否かを判定する。通常、オーバステア抑制制御による制動はごく短時間で終了し、その間の制動量(ブレーキ油圧)の積算値も比較的小さな値であるため、ステップS13はNoとなり、VSA−ECU6は、ステップS12で制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。
【0029】
何らかの原因でヨーレイトセンサ12に失陥(固着等)が生じ、例えば、ヨーレイト検出値γが右旋回方向あるいは左旋回方向の値で固定されると、オーバステア状態が続いていると誤判定されてオーバステア抑制制御による制動が続けられることがある。この場合、制動継続時間Tbが第1故障判定閾値Tthに達することで、ステップS13の判定がYesになる。
【0030】
すると、VSA−ECU6は、ステップS14で初期値1.0の制動ゲインGbから所定の漸減値ΔGb(例えば、0.05)を減じた後、ステップS15で制動ゲインGbが0となったか否かを判定する。ステップS13の判定がYesになった直後はステップS15の判定がNoとなるため、VSA−ECU6は、ステップS12で制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。これにより、図7に示すように制動ゲインGbが徐々に減少するため、オーバステア抑制制御での目標制動力Btgtが漸減し、旋回内側のホイール3の制動が徐々に弱められてゆく。このように、目標制動力Btgtを漸減させる理由は、旋回外側のホイール3の制動を急激に禁止した場合、車両挙動が一時的に不安定になることによる。
【0031】
ステップS13の判定がYesの状態が所定時間t(本実施形態では、200ms)継続し、ステップS15の判定がYesになると、VSA−ECU6は、ステップS16で制動禁止フラグFpbを1とした後、ステップS17で失陥時処理(インストルメントパネル内の警告灯の点灯等)を実行して制動禁止判定制御を終了する。これにより、オーバステア抑制制御による旋回外側のホイール3の制動が行われなくなるため、運転者は、操縦に不安を感じさせられたりすることなく、整備工場等に車両1を走行させることができる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、制動禁止判定制御の手順を除き、その装置構成やオーバステア抑制制御の手順が上述した第1実施形態と同様であるため、重複する部分についての説明を省略する。
【0033】
<制動禁止判定制御>
前述したオーバステア抑制制御と並行して、VSA−ECU6(制動禁止判定部50)は、制動禁止判定制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。図8のフローチャートにその手順を示す制動禁止判定制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。制動禁止判定制御を開始すると、VSA−ECU6は、先ず図8のステップS21でオーバステア抑制制御による制動が実行されているか否かを判定し、この判定がNoであればステップS22で制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。なお、制動禁止フラグFpbはその初期値が0に設定されており、VSA−ECU6は、制動禁止フラグFpbが1とならない限りは上述したオーバステア抑制制御による制動を実行する。
【0034】
オーバステア抑制制御による制動が実行され、ステップS11の判定がYesになると、VSA−ECU6は、ステップS23で制動積算値Btotalが第2故障判定閾値Bth(本実施形態では、3MPa・sec)に達したか否かを更に判定する。通常、オーバステア抑制制御による制動はごく短時間で終了し、その間の制動量(ブレーキ油圧)の積算値も比較的小さな値であるため、ステップS23はNoとなり、VSA−ECU6は、ステップS12で制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。
【0035】
何らかの原因でヨーレイトセンサ12に失陥(固着等)が生じ、例えば、ヨーレイト検出値γが右旋回方向あるいは左旋回方向の値で固定されると、オーバステア状態が続いていると誤判定されてオーバステア抑制制御による制動が続けられることがある。この場合、制動積算値Btotalが第2故障判定閾値Bthに達することで、ステップS23の判定がYesになる。
【0036】
すると、VSA−ECU6は、ステップS24で図9に示す制動積算値−制動ゲインマップから現在の制動積算値Btotalに応じた制動ゲインGbを検索して出力した後、ステップS25で制動ゲインGbが0となったか否かを判定する。ステップS23の判定がYesになった直後はステップS16の判定がNoとなるため、VSA−ECU6は、ステップSで制動禁止フラグFpbを0としてスタートに戻る。これにより、制動積算値Btotalの増加に伴って制動ゲインGbが徐々に減少するため、オーバステア抑制制御での目標制動力Btgtが漸減し、旋回外側のホイール3の制動が徐々に弱められてゆく。
【0037】
制動積算値Btotalが所定値(本実施形態では、6MPa・sec)に達し、制動ゲインGbが0になると(ステップS25の判定がYesになると)、VSA−ECU6は、ステップS25で制動禁止フラグFpbを1とした後、ステップS27で失陥時処理(インストルメントパネル内の警告灯の点灯等)を実行して制動禁止判定制御を終了する。これにより、オーバステア抑制制御による旋回外側のホイール3の制動が行われなくなるため、第1実施形態と同様に、運転者は、操縦に不安を感じさせられたりすることなく、整備工場等に車両1を走行させることができる。第2実施形態では、制動禁止判定制御のパラメータとして制動積算値Btotalを採用したため、制動継続時間Tbを用いる第1実施形態に較べ、故障判定閾値の設定が容易になるとともに、オーバステア抑制制御による制動量もより反映されやすくなる。
【0038】
(制動禁止判定制御が行われない場合)
図10は、制動禁止判定制御が行われず、右旋回走行時にヨーレイトセンサ12が失陥した(ヨーレイト検出値γが一定の値で変化しなくなった)場合における、各数値(ヨーレイト検出値γ、操舵角検出値δ、横加速度検出値GL、スリップ角微分値β’、目標制動力Btgt、左前輪ブレーキ油圧Pbfl、左後輪ブレーキ油圧Pbrl)の時間変化を示すグラフである。同図から判るように、ヨーレイトセンサ12の失陥により、ヨーレイト検出値γが負の値から変化しなくなると、図10中に破線で囲んだように、左前輪ブレーキ油圧Pbflおよび左後輪ブレーキ油圧Pbrlが印加され(すなわち、旋回外側のホイール3が制動され)、アンダステア状態に陥って車両1の旋回が阻害される。
【0039】
(制動禁止判定制御が行われた場合)
〈ヨーレイトセンサ失陥時〉
図11は、制動禁止判定制御が行われ、右旋回走行時にヨーレイトセンサ12が失陥した(ヨーレイト検出値γが一定の値で変化しなくなった)場合における、各数値(ヨーレイト検出値γ、操舵角検出値δ、横加速度検出値GL、スリップ角微分値β’、目標制動力Btgt、左前輪ブレーキ油圧Pbfl、左後輪ブレーキ油圧Pbrl、制動積算値Btotal、制動ゲインGb)の時間変化を示すグラフである。同図から判るように、ヨーレイトセンサ12の失陥により、ヨーレイト検出値γが負の値から変化しなくなると、左前輪ブレーキ油圧Pbflおよび左後輪ブレーキ油圧Pbrlが左前後ブレーキ4fl,4rlに印加される。ところが、本実施形態では、制動積算値Btotalが第2故障判定閾値Bthに達することにより制動禁止判定がなされると、オーバステア抑制制御による左前輪ブレーキ油圧Pbflおよび左後輪ブレーキ油圧Pbrlが徐々に弱められ、制動積算値Btotalがつ所定値に達したところで左前輪ブレーキ油圧Pbflおよび左後輪ブレーキ油圧Pbrlの印加が完全に禁止される。その結果、制動禁止判定制御が行われない場合とは異なり、車両1がアンダステア状態に陥ることがなくなり、極めて安定した旋回走行が実現される。
【0040】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、ヨーレイトセンサの失陥時等に旋回外側のホイールに対する制動を禁止するようにしたが、電動パワーステアリング装置による旋回内側への操舵やエンジンECUによるエンジンの出力制御等を禁止するようにしてもよい。その他、車両の具体的構成や制御の具体的手順等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
3 ホイール
4 ブレーキ
6 VSA−ECU
9 油圧ユニット
12 ヨーレイトセンサ
14 横Gセンサ
15 車体
25 操舵角センサ
31 車体速推定部
32 規範ヨーレイト算出部
40 オーバステア抑制部
41 スリップ角微分値算出部
42 制動力設定部
50 制動禁止判定部(制動禁止手段)
51 制動時間計数部
52 制動量積算部
53 制動禁止指令出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回走行時における車両の挙動を制御すべく、旋回内側または旋回外側の車輪を所定の制動力をもって制動する車両挙動制御装置において、
前記制動が継続した時間を制動時間として計測する制動時間計測手段と、
前記制動時間が所定値に達した場合に当該制動を禁止する制動禁止手段と
を備えたことを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
旋回走行時における車両の挙動を制御すべく、旋回内側または旋回外側の車輪を所定の制動力をもって制動する車両挙動制御装置において、
制動量の積算値を制動積算値として算出する制動量積算手段と、
前記制動積算値が所定値に達した場合に前記制動を禁止する制動禁止手段と
を備えたことを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記制動禁止手段は、前記制動を禁止するにあたり、前記制動力を所定の漸減量をもって漸減させてゆくことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−153368(P2012−153368A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−117807(P2012−117807)
【出願日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【分割の表示】特願2007−297606(P2007−297606)の分割
【原出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】