説明

車両用のインホイールモータ

【課題】第1のオイル通路および第2のオイル通路が、相対的に長くなることを防止できるインホイールモータを提供する。
【解決手段】電動モータ7を収納し、かつ、懸架装置に支持されたケーシングと、ケーシングの内部に設けられたオイル必要部と、ケーシングに取り付けられ、かつ、電動モータ7の動力により駆動されてオイルを吸入および吐出するオイルポンプと、オイルポンプから吐出されたオイルを冷却するオイルクーラ43と、オイルポンプから吐出されたオイルをオイルクーラ43に送る第1のオイル通路44と、オイルクーラ43で冷却されたオイルをオイル必要部に送る第2のオイル通路45とを有する、車両用のインホイールモータにおいて、車両の走行方向でホイールよりも前方に配置されて車体6に取り付けられ、かつ、車体6の下方を通過する空気を整流する整流部材41を有し、車両の走行方向に沿った平面内で整流部材41の隣りにオイルクーラ43が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の各車輪毎にモータが設けられており、その車輪を駆動する動力をモータで発生し、あるいは車輪に与える制動力をモータで発生することのできるモータを備えた、インホイールモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用のホイールは懸架装置を介在させて車体により支持されている。一方、車輪に動力を伝達する動力源として電動モータを用いる車両が知られており、その電動モータを、前記ホイールと共に懸架装置を介在させて車体により支持する構成が知られている。このように、ホイールおよび電動モータを、共に懸架装置を介在させて車体により支持する場合に、その電動モータは特にインホイールモータと呼ばれている。このようなインホイールモータの一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたインホイールモータは、ロータおよびステータを有しており、そのインホイールモータが、ハウジング内に配置されている。そして、このハウジングが、アッパーアームおよびロアーアームを介在させてフレームに懸架されている。また、モータのロータにはプラネタリギヤを介在させてシャフトが動力伝達可能に接続されており、そのシャフトにホイールが取り付けられている。また、ハウジング内にはオイルポンプが設けられており、前記シャフトの動力によりオイルポンプが駆動されるように構成されている。一方、前記インホイールモータを有する電動輪同士の間におけるボディの間には、オイルクーラーが設けられている。オイルクーラーは、複数のフィンを配列した構造を有している。そして、オイルポンプから吐出されたオイルをオイルクーラーに送る第1のオイル通路が設けられているとともに、オイルクーラーから出たオイルをハウジング内に戻す第2のオイル通路が設けられている。
【0003】
そして、モータが駆動されると、モータのトルクがシャフトを経由してホイールに伝達される。また、シャフトのトルクによりオイルポンプが駆動されて、ハウジング内のオイル溜まりのオイルがオイルポンプにより吸入される。このオイルポンプから吐出されたオイルは、第1のオイル通路を経由してオイルクーラーに送られて、オイルクーラーによりオイルが冷却される。オイルクーラーにより冷却されたオイルは、第1のオイル通路を経由してハウジングの内部に戻され、そのオイルによりモータが冷却される。また、プラネタリギヤを構成するギヤ同士の噛み合い部分が、前記オイルにより冷却および潤滑される。このようにして、ハウジング内の要素を冷却および潤滑する際に、ハウジング内の要素の熱がオイルに伝達されて、そのオイルの温度が上昇し、そのオイルが前記オイル溜まりに溜まる。なお、インホイールモータの冷却構造の他の例が、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−73364号公報
【特許文献2】特開2006−304543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたインホイールモータでは、オイルクーラーが、電動輪同士の間に配置されているため、第1のオイル通路および第2のオイル通路の長さ(オイルの流れる距離)が相対的に長くなり、オイルの管路抵抗が大きくなる恐れがあった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、オイル通路の長さを相対的に短くすることの可能なインホイールモータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、路面に接触し、かつ、車体により形成されたホイルハウスに配置されるタイヤと、このタイヤが取り付けられ、かつ、懸架装置を介して前記車体に支持されたホイールと、このホイールに動力伝達可能に接続され、かつ、動力を発生する電動モータと、この電動モータを収納したケーシングと、このケーシングの内部に設けられ、かつ、オイルにより潤滑または冷却されるオイル必要部と、前記ケーシングに取り付けられ、かつ、前記電動モータの動力により駆動されてオイルを吸入および吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに送る第1のオイル通路と、このオイルクーラで冷却されたオイルを前記オイル必要部に送る第2のオイル通路とを有する、車両用のインホイールモータにおいて、車両の走行方向で前記ホイールよりも前方に配置されて前記車体に取り付けられ、かつ、前記車体の下方を通過する空気が前記ホイルハウス内に進入する量を相対的に少なくするように前記空気を整流する整流部材を有し、前記車両の走行方向に沿った平面内で前記整流部材の隣りに前記オイルクーラが配置されており、そのオイルクーラが前記車体に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記車両の走行方向で前記整流部材よりも前方に前記オイルクーラが配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、路面に接触し、かつ、車体により形成されたホイルハウスに配置されるタイヤと、このタイヤが取り付けられ、かつ、懸架装置により支持されたホイールと、このホイールに動力伝達可能に接続され、かつ、動力を発生する電動モータと、この電動モータを収納したケーシングと、このケーシングの内部に設けられ、かつ、オイルにより潤滑または冷却されるオイル必要部と、前記ケーシングに取り付けられ、かつ、前記電動モータの動力により駆動されてオイルを吸入および吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに送る第1のオイル通路と、このオイルクーラで冷却されたオイルを前記オイル必要部に送る第2のオイル通路とを有する、車両用のインホイールモータにおいて、前記オイルクーラは、車両の走行方向で前記ホイールよりも前方に配置されて前記車体に取り付けられ、かつ、前記車体の下方を通過する空気が前記ホイルハウス内に進入する量を相対的に少なくするように、前記空気を整流する構成であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、第1のオイル通路および第2のオイル通路の長さが、相対的に長くなることを回避でき、オイルの管路抵抗の増加を抑制できる。また、請求項2の発明によれば、請求項1の効果に加えて、整流部材により空気を整流する整流機能が、オイルクーラにより阻害されることを防止できる。
【0011】
請求項3の発明によれば、第1のオイル通路および第2のオイル通路の長さが、相対的に長くなることを回避でき、オイルの管路抵抗の増加を抑制できる。また、オイルクーラがオイルを冷却する機能と、空気がホイルハウス内に進入する量を相対的に少なくするように、空気の流れを整流する整流部材としての機能とを兼ねているため、構成を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明に係るインホイールモータは、車輪を支持する懸架装置が、ストラット形式またはダブルウィッシュボーン形式またはスイングアーム形式またはマルチリンク形式のいずれであっても、この発明を適用可能である。すなわち、左右の車輪が独立して上下方向に動作する、独立懸架装置を用いることが可能である。この発明におけるインホイールモータは、車両の前輪または後輪のいずれにも適用可能である。この発明において、電動モータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この発明におけるオイルクーラは、オイルと冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、オイルを冷却する構成を有している。オイルクーラにおける冷媒は、空気または液体のいずれでもよい。この発明において、オイルクーラは、整流部材に接触または非接触で配置する。また、車両の走行方向で、整流部材よりも前方にオイルクーラが配置される。この発明において、第1のオイル通路および第2のオイル通路はオイルが流れる流路であり、第1のオイル通路および第2のオイル通路には、パイプ、チューブ、ホース、油路、溝、窪み、凹部などが含まれる。この発明におけるケーシングは、電動モータを収納し、かつ、オイルを溜める機能を有しており、オイルが外部に漏れ出すことを防止できる。この発明において、オイルポンプはケーシングの内部または外部のいずれに配置されていてもよい。
【0013】
つぎに、この発明に係るインホイールモータを有する車両の第1の具体例を、図面に基づいて説明する。図1は車両1の模式的な平面図、図2は車両1の模式的な側面図である。第1の具体例は、請求項1および請求項2に対応する。この車両1は、車両1の前後方向における異なる位置に、前輪および後輪が配置されている。この図1および図2では、矢印A1に沿った方向が前進方向である。また、前輪は右前輪2と左前輪3とに区別され、後輪は左後輪4と右後輪5とに区別されている。これらの車輪は、全て懸架装置を介在させて車体6により支持されている。例えば、前輪を支持する懸架装置は、ストラット形式またはダブルウィッシュボーン形式とすることが可能であり、後輪を支持する懸架装置は、スイングアーム形式またはマルチリンク形式とすることが可能である。すなわち、全ての車輪は車体6に対して上下方向、つまり高さ方向に相対移動可能である。この第1の具体例では、全ての車輪の数と同じ数の電動モータ7が設けられており、各電動モータ7の動力により、各車輪が駆動されるように構成された電気自動車である。つまり、前輪および後輪の4輪に電動モータ7の動力を伝達可能な四輪駆動車である。
【0014】
以下、右前輪2を対象として具体的な構成を説明する。図3は、右前輪2の構成を示す縦断面図、図4は右前輪2の模式的な背面図である。この右前輪2は、環状のホイール8と、そのホイール8の外周に取り付けられたタイヤ9とを有している。このタイヤ9の外周が、図2に示すように路面42に接触する。ホイール8は、車両1の高さ方向に沿って形成された円板形状部10と、円板形状部10の外周に連続して形成され、かつ、ほぼ水平方向に延ばされた円筒部11とを有している。そして、円筒部11の内側にケーシング12が配置されている。このケーシング12は、アッパアーム13およびロアアーム14を介して車体6に取り付けられている。また、ロアアーム14はショックアブソーバ15を介して前記車体6と接続されている。なお、車体6とロアアーム14との間にはコイルスプリング(図示せず)が設けられている。このコイルスプリングは、車両1の上下方向に伸縮可能である。このように構成されたアッパアーム13およびロアアーム14およびショックアブソーバ15およびコイルスプリングにより、懸架装置16が構成されている。図4に示された懸架装置16は、ダブルウィッシュボーン形式の懸架装置である。
【0015】
前記ケーシング12は中空に構成されており、ケーシング12の内部には電動モータ7が設けられている。この電動モータ7は、ステータ17およびロータ18を有している。このステータ17はケーシング12に固定されて回転不可能に構成されている。また、ロータ18は回転可能に構成されている。この電動モータ7としては、例えば三相交流型のモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この電動モータ7に電力が供給されて電動機として駆動され、そのトルクをホイール8に伝達することが可能である。このロータ18からホイール8に至る動力伝達経路の構成を説明する。ロータ18には円筒形状の中空軸19が連続されている。つまり、ロータ18は中空軸19と一体回転する。また、中空軸19とホイール8との間の動力伝達経路には、減速機20が設けられている。この減速機20はケーシング12の内部に配置されており、減速機20は歯車伝動装置、具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、同軸上に配置されたサンギヤ21およびリングギヤ22と、サンギヤ21およびリングギヤ22に噛合されたピニオンギヤ23と、ピニオンギヤ23を自転可能、かつ、公転可能に支持したキャリヤ24とを有している。
【0016】
サンギヤ21は前記中空軸19の外周面に形成されている。また、リングギヤ22はケーシング12に対して、回転不可能な状態で固定されている。さらに、キャリヤ24は軸受25,26を介在させてケーシング12により回転可能に支持されている。また、中空軸19は、軸受27およびキャリヤ24および軸受26を介在させて、ケーシング12により回転可能に支持されている。これら、減速機20を構成するサンギヤ21およびキャリヤ24は、その回転中心が軸線B1であり、前記ロータ18も軸線A1を中心として回転可能に構成されている。さらに、キャリヤ24と一体回転する回転軸28が設けられている。回転軸28の外周には環状のホルダ29が取り付けられており、そのホルダ29が軸受30を介在させてケーシング12により回転可能に支持されている。このようにして、回転軸28も軸線B1を中心として回転可能に構成されている。さらに、ケーシング12の内部にはオイルポンプ31が設けられている。このオイルポンプ31は、キャリヤ24のトルクによって駆動されて、ケーシング12の底部に溜められたオイルを吸入し、かつ、吸入したオイルを吐出するように構成されている。
【0017】
さらに、ホルダ29と前記ホイール8とが一体回転するように連結固定されており、ホルダ29の外周にはディスク32が取り付けられている。このディスク32は円板形状を有しており、ディスク32の外周にはロータ32Aが固定されている。さらにまた、ケーシング12の外部にはディスクキャリパ33が取り付けられている。このディスクキャリパ33は、油圧室34およびブレーキパッド35,36を有しており、油圧室35の油圧が制御されて、ブレーキパッド35を他方のブレーキパッド36に押し付ける力が変化し、ブレーキパッド35,36同士によりロータ32Aが挟み付けられて、ホイール8に与える制動力が発生するように構成されている。このように、ディスクキャリパ33は、ホイール8に与える制動力を制御する制動装置の一部を構成している。
【0018】
さらにまた、ケーシング12の内部には、オイル必要部、具体的には、減速機20を構成するギヤ同士の噛み合い部分、軸受25,26,27,30の摺動部分、電動モータ7の発熱部分などにオイルを供給する油路が形成されている。すなわち、オイル必要部は、発熱・摩耗・焼き付きなどが発生する要素または機構あるいは部分であり、オイル必要部はオイルにより潤滑および冷却される。油路としては、ケーシング12を厚さ方向に貫通する孔、ケーシング12の壁面方向に沿って貫通する孔、ケーシング12の内面に形成された溝または凹部または窪みまたは切欠部などが挙げられる。つまり、油路はオイルが、自重または運動エネルギにより移動可能な通路である。
【0019】
つぎに、車体6の構成について説明する。車体6は、フレームを有する構造、またはフレームのない構造(モノコック形)のいずれでもよい。この車体6は鋼鈑、プラスチック、軽合金などの材料により構成されている。車体6にはホイルハウスが4箇所設けられている。ホイルハウスは、車両1の前後・左右方向で異なる位置に4箇所に配置されており、ホイルハウスは車輪を配置する空間を形成するものである。ホイルハウス37には右前輪2が配置され、ホイルハウス38には左前輪3が配置され、ホイルハウス39には右後輪5が配置され、ホイルハウス40には左後輪4が配置されている。これらのホイルハウス37,38,39,40は、図2に示すように、車両1を側面から見た場合に、ホイルハウス37,38,39,40がほぼ半円形状となるように車体6が成形されている。そして、車輪と車体6とが上下方向に相対移動した場合でも、車体6と車輪とが接触しないように、車輪の外周と車体6との隙間が形成されている。そして、車体6の下面におけるホイルハウス37よりも前方、つまり、車両1の走行方向でホイルハウス37よりも前方には、整流部材41が取り付けられている。また、車体6の下面におけるホイルハウス38よりも前方、つまり、車両1の走行方向でホイルハウス38よりも前方には、整流部材41がそれぞれ取り付けられている。すなわち、整流部材41は、車体6のフロントフェンダの下部に取り付けられている。この整流部材41は、車体6の下面から路面42に向けて突出して設けられており、車両1の走行にともなって車体6の下方を通過する空気を整流する機構である。
【0020】
より具体的には、車体6の下方を流れる空気が、ホイルハウス37,38内に流れ込む量を相対的に少なくすることにより、車両1の操縦安定性を向上させ、かつ、車輪の空気抵抗を抑制するための機構である。この整流部材41は、例えば、金属またはプラスチックなどの材料により構成されており、空気抵抗により塑性変形することがないように構成されている。さらに、整流部材41は、ボルトまたはねじの締め付け、あるいは溶接などの方法により、車体6に固定されている。また、整流部材41には、空気に流れを付与する案内面が設けられており、その案内面の形状は、路面42との間に一定の角度が形成されるように傾斜された平坦面、または、路面42に近づく向きで膨らんだ湾曲面、路面42から遠ざかる向きで膨らんだ湾曲面などに成形することが可能である。なお、案内面の形状とは、車両1の高さ方向に沿った平面内における形状を意味する。図1および図2は、ホイルハウス37,38の前方に整流部材41を設け、ホイルハウス39,40の前方には設けられていない例を示す。
【0021】
そして、この第1の具体例では、車両1の前後方向で整流部材41の前方にオイルクーラ43が設けられている。つまり、シフトポジションとしてドライブポジションが選択されて車両1が前進走行する場合に、整流部材41の前方にオイルクーラ43が配置されている。このオイルクーラ43は、放熱管を有し、車体6の下方を通過する空気と、放熱管内を流れるオイルとの間で熱交換をおこない、オイルの温度を低下させる、空冷式の冷却装置(熱交換器)である。そして、オイルクーラ43は入口部および出口部を有している。この入口部と前記オイルポンプ31の吐出部とが、第1のオイル通路44により接続されている。また、出口部と前記ケーシング12の油路とが、第2のオイル通路45により接続されている。第1のオイル通路44および第2のオイル通路45は、共にオイルが通る流路であり、金属製のパイプ、ゴム材料を主体とするフレキシブルホースなどにより構成されている。フレキシブルホースは撓むことが可能に構成されている。
【0022】
さらに、図1に示すように、車体6には、電動モータ7との間で電力の授受をおこなうことの可能な蓄電装置46が設けられている。この蓄電装置46は、充電および放電をおこなうことの可能な二次電池であり、二次電池としてバッテリまたはキャパシタを用いることが可能である。なお、蓄電装置46と電動モータ7との間の回路にはインバータ(図示せず)が設けられている。さらに、4個の蓄電装置46が、4個の電動モータ7に別個に接続されていてもよいし、1個の蓄電装置46が全ての電動モータ7に電気回路を介して接続されていてもよい。また、車体6には電子制御装置(図示せず)が設けられており、電子制御装置には、シフトポジション、車速、加速要求、減速要求、各車輪の回転数などを検知するセンサ、あるいはスイッチの信号が入力される。また、電子制御装置からは電動モータ7のトルクおよび回転数を制御する信号が出力される。なお、左前輪3および左後輪4は、右前輪2の構成とは左右対称の構成であり、右後輪5は右前輪2の構成と同じである。
【0023】
上記のように構成された車両1において、アクセルペダルが踏み込まれて、加速要求が発生すると、前記の蓄電装置46から電動モータ7に電力が供給される。電動モータ7が駆動されると、そのトルクがサンギヤ21に伝達される。すると、リングギヤ22が反力要素として機能し、キャリヤ24からトルクが出力される。すなわち、減速機20はサンギヤ21が入力要素であり、キャリヤ24が出力要素である。また、サンギヤ21の回転数よりもキャリヤ24の回転数の方が低くなるため、電動モータ7のトルクが増幅されてキャリヤ24に伝達される。キャリヤ24に伝達されたトルクは、回転軸28を経由してホイール8に伝達されて、各車輪で駆動力が発生する。また、ブレーキペダルが踏み込まれるか、またはアクセルペダルが戻されて、減速要求が発生した場合、車両1の運動エネルギが車輪から電動モータ7に伝達されるため、電動モータ7を発電機として起動させると、回生制動力が発生する。電動モータ7で発電された電力は、蓄電装置46に充電可能である。また、ブレーキペダルが踏み込まれた場合は、油圧室34の油圧が上昇して、ブレーキパッド35,36同士の挟圧力が高められ、車輪に与えられる制動力が増加する。
【0024】
ところで、電動モータ7からキャリヤ24に伝達された動力によりオイルポンプ31が駆動されると、ケーシング12の底部に溜められているオイルが、オイルポンプ31の吸入口に吸い込まれて、オイルポンプ31の吐出口から第1のオイル通路44に吐出される。このオイルはオイルクーラ43に送られて、車体6の下方を流れる空気とオイルとの間で熱交換がおこなわれて、オイルが冷却される。オイルクーラ43で冷却されたオイルは、第2のオイル通路45を経由してケーシング12の内部に戻され、そのオイルによりオイル必要部が潤滑および冷却される。オイル必要部を潤滑および冷却したオイルは、ケーシング12の底部のオイル溜めに戻る。また、この第1の具体例では、車両1の走行中に、車体6の下方を通過する空気が整流部材41により整流されるため、ホイルハウス37,38内に流入する空気用量が相対的に少なくなる。さらに、この第1の具体例では、車両1が前進走行する場合に、車両1の走行方向で、ホイルハウス37,38の前方にオイルクーラ43が配置されている。
【0025】
このため、整流部材41により空気が整流される前の段階で、空気とオイルとの間で熱交換をおこない、オイルを冷却することができる。したがって、整流部材41による空気の整流作用が低下することを抑制できる。さらに、ホイルハウス37,38の前方にオイルクーラ43が配置されているため、第1のオイル通路44および第2のオイル通路45が、そのオイルの流れ方向に相対的に長くなることを抑制できる。したがって、オイルの管路抵抗が大きくなることを防止できる。このように、オイルの管路抵抗が大きくなることを抑制できるため、オイルポンプ31の容量を増加させずに済む。さらに、オイルの管路抵抗の増加によるオイルポンプ31の駆動損失の増加を抑制できる。さらに、オイル通路を長くすることにともなうホースまたはチューブの重量増加、オイルポンプ31の大型化にともなう重量増加を抑制できる。また、オイルクーラ41がフロントフェンダの下部に設けられているため、車体6により形成されている室内空間が、オイルクーラ41の配置領域により狭められることを抑制できる。なお、図1に示された具体例では、前輪および後輪の全てを電動モータ7により駆動する構成のパワートレーンであるが、前輪または後輪のいずれか一方を電動モータにより駆動する構成のパワートレーンでもよい。また、減速機20を、遊星ローラ機構により構成することも可能である。この遊星ローラ機構はトラクション伝動装置である。
【0026】
さらに、図1に示されたホイルハウス39,40よりも前方に整流部材を設けて、その整流部材を車体6に固定して、ホイルハウス39,40に流入する空気量を相対的に少なくすることも可能である。具体的には、車体6のロッカパネルまたはフロアーの下面に整流部材を取り付けることが可能である。そして、その整流部材よりも前方にオイルクーラ43を設けて、右後輪5の電動モータ7が設けられたケーシングの内部と、オイルクーラとの間でオイルを行き来させる第1のオイル通路および第2のオイル通路を設けることも可能である。また、その整流部材よりも前方にオイルクーラ43を設けて、左後輪4の電動モータ7が設けられたケーシングの内部と、オイルクーラとの間でオイルを行き来させる第1のオイル通路および第2のオイル通路を設けることも可能である。このように、ホイルハウス39,40の前方に整流部材およびオイルクーラを設けた場合にも、上記と同様の作用効果を得られる。
【0027】
ここで、この第1の具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、車体6が、この発明の車体に相当し、懸架装置16が、この発明の懸架装置に相当し、ホイール8が、この発明のホイールに相当し、電動モータ7が、この発明の電動モータに相当し、ケーシング12が、この発明のケーシングに相当し、オイルポンプ31が、この発明のオイルポンプに相当し、オイルクーラ43が、この発明のオイルクーラに相当し、第1のオイル通路44が、この発明の「第1のオイル通路」に相当し、第2のオイル通路45が、この発明の「第2のオイル通路」に相当し、車両1が、この発明における車両に相当し、整流部材41が、この発明の整流部材に相当し、減速機20および軸受25,27,30および電動モータ7が、この発明のオイル必要部に相当する。
【0028】
つぎに、請求項3に対応する第2の具体例を、図5および図6および図7に基づいて説明する。図5は、第2の具体例における車両の模式的な平面図であり、図6はオイルクーラ50の正面図、図7はオイルクーラ50の側面図である。この第2の具体例も、ホイルハウス37,38よりも前方にオイルクーラ50が配置されている。このオイルクーラ50は、車体6の下部に取り付けられている。この第2の具体例では、オイルクーラ50が整流部材の機能を兼ねている。つまり、第1の具体例で説明した整流部材41は設けられていない。オイルクーラ50は、図6に示すように、車両1の高さ方向に配置された上板56および下板57を有しており、その上板56と下板57との間に、フィン51,52が設けられている。フィン51,52は、車両1の正面から見て左右方向に蛇行している。このフィン51,52は板状片をジグザグ状に蛇行させたものである。つまり、フィン51,52は山部と谷部とを、車両1の高さ方向で交互に形成したものである。また、車両1の左右方向で両側にフィン52が配置され、そのフィン52同士の間に複数のフィン51が配置されている。各フィン52の両端は、上板56および下板57に連続されている。また、フィン51は一端が上板56または下板57に連続されている。
【0029】
そして、フィン51同士の間、フィン51とフィン52との間を蛇行して配置された配管53が設けられている。この配管53内を前記オイルが通る構成であり、熱伝導性を有する金属材料、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅などにより構成されている。この配管53における、オイルの流通方向の一端に第1のオイル通路44が接続され、他端に第2のオイル通路45が接続されている。そして、フィン51同士の間、およびフィン51とフィン52との間に通路55が形成されている。この通路55は、車両1が走行した場合に空気が通過する空間である。この通路55は、オイルクーラ50を車両1の前後方向に沿って貫通して形成されている。また、図7に示すように、フィン51は車両1の前後方向で、車両1の前方から後方に向けて高さが低くなるように傾斜されている。また、図5に示すように、オイルクーラ50の平面形状は、略長方形(四角形)に構成されており、オイルクーラ50を構成する一辺54、具体的には、車両1の前後方向で最も前側に位置する一辺54が、左右方向の仮想線(図示せず)に対して傾斜している。具体的には、車両1の幅方向の中央に近づくことにともない、前記仮想線と一辺54との間の距離が長くなる向きで傾斜している。言い換えれば、オイルクーラ50の前壁が、車両1の幅方向で中央に向かうほど、車両1の後方に位置するように傾斜されている。以下、一辺54を、便宜上「前壁54」と記す。なお、この前壁54には、通路55の一端が開口されており、実際には空気が車両1の前後方向に通過可能である。さらに、フィン51,52は、図7に示すように、車両1の前方から後方に向けて、高さが低くなる向きで傾斜されている。なお、図7では、便宜上、フィン52が示され、フィン51は示されていない。この第2の具体例におけるその他の構成は、第1の具体例と同じである。
【0030】
そして、第2の具体例において、第1の具体例と同じ構成部分については、第1の具体例と同じ作用効果を得られる。また、この第2の具体例では、オイルが第1のオイル通路54を経由してオイルが配管53に流れ込み、その配管53内のオイルは第2のオイル通路45に至る。そして、車両1が走行すると、前壁54の前方の空気の一部が、通路55に進入し、車両1の前後方向でオイルクーラ50の後方に流れ出る。その空気と配管53内のオイルとの間で熱交換がおこなわれてオイルが冷却される。具体的には、オイルの熱が配管53に伝達され、配管53の熱が空気中に放散される。また、この第2の具体例では、車両1の前後方向で、フィン51,52は、車両1の前方から後方に向けて高さが低くなるように傾斜されている。このため、通路55を通過する空気、およびフィン52の山部と谷部との間を通過する空気は、図7に矢印で示すように流れの方向が付与される。具体的には路面に近づくように、空気の流れ方向が整流される。さらに、前壁54の前方の空気の一部は、前壁54の形状に沿って整流される。具体的には図5に示すように、車両1の幅方向(左右方向)に整流される。すなわち、車両1の幅方向で中央に向けて矢印で示すように整流される。第2の具体例では、このような作用により、オイルクーラ50の周囲を通過する空気、または通路55内を通過する空気が、ホイルハウス37内に進入することを抑制できる。なお、この第2の具体例は、右前輪2の他に、左前輪3または右後輪5または左後輪4の前方に、オイルクーラ50を配置することが可能である。この具体例2においては、オイルクーラ50が整流部材としての機能を兼ねているため、構成を簡素化することができる。具体的には、部品点数が低減されて車両1の製造コストの増加を抑制でき、かつ、車両1の軽量化に寄与することができる。なお、第2の具体例において、オイルクーラ50を、車両1の前後方向でホイルハウス39,40の前方に配置することも可能である。このように構成すると、左後輪4および右後輪5の電動モータ7を冷却するオイルを、オイルクーラ50により冷却できる。また、ホイルハウス39,40内に空気が進入することを抑制できる。なお、第1の具体例および第2の具体例は、共に「インホイールモータの冷却構造」を提供していると言い換えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明のインホイールモータを有する車両の模式的な平面図である。
【図2】この発明のインホイールモータを有する車両の模式的な側面図である。
【図3】この発明のインホイールモータを示す縦断面図である。
【図4】この発明のインホイールモータを有する車両の縦断面図である。
【図5】この発明のインホイールモータを有する他の車両の模式的な平面図である。
【図6】図5の車両に取り付けられたオイルクーラを示す正面図である。
【図7】図6に示されたオイルクーラを示す側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…車両、 6…車体、 7…電動モータ、 8…ホイール、 9…タイヤ、 12…ケーシング、 16…懸架装置、 20…減速機、 26,27,30…軸受、 31…オイルポンプ、 41…整流部材、 42…路面、 43,50…オイルクーラ、 44…第1のオイル通路、 45…第2のオイル通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接触し、かつ、車体により形成されたホイルハウスに配置されるタイヤと、このタイヤが取り付けられ、かつ、懸架装置を介して前記車体に支持されたホイールと、このホイールに動力伝達可能に接続され、かつ、動力を発生する電動モータと、この電動モータを収納したケーシングと、このケーシングの内部に設けられ、かつ、オイルにより潤滑または冷却されるオイル必要部と、前記ケーシングに取り付けられ、かつ、前記電動モータの動力により駆動されてオイルを吸入および吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに送る第1のオイル通路と、このオイルクーラで冷却されたオイルを前記オイル必要部に送る第2のオイル通路とを有する、車両用のインホイールモータにおいて、
車両の走行方向で前記ホイールよりも前方に配置されて前記車体に取り付けられ、かつ、前記車体の下方を通過する空気が前記ホイルハウス内に進入する量を相対的に少なくするように前記空気を整流する整流部材を有し、前記車両の走行方向に沿った平面内で前記整流部材の隣りに前記オイルクーラが配置されており、そのオイルクーラが前記車体に取り付けられていることを特徴とする車両用のインホイールモータ。
【請求項2】
前記車両の走行方向で前記整流部材よりも前方に前記オイルクーラが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用のインホイールモータ。
【請求項3】
路面に接触し、かつ、車体により形成されたホイルハウスに配置されるタイヤと、このタイヤが取り付けられ、かつ、懸架装置により支持されたホイールと、このホイールに動力伝達可能に接続され、かつ、動力を発生する電動モータと、この電動モータを収納したケーシングと、このケーシングの内部に設けられ、かつ、オイルにより潤滑または冷却されるオイル必要部と、前記ケーシングに取り付けられ、かつ、前記電動モータの動力により駆動されてオイルを吸入および吐出するオイルポンプと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを冷却するオイルクーラと、前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに送る第1のオイル通路と、このオイルクーラで冷却されたオイルを前記オイル必要部に送る第2のオイル通路とを有する、車両用のインホイールモータにおいて、
前記オイルクーラは、車両の走行方向で前記ホイールよりも前方に配置されて前記車体に取り付けられ、かつ、前記車体の下方を通過する空気が前記ホイルハウス内に進入する量を相対的に少なくするように、前記空気を整流する構成であることを特徴とする車両用のインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−132252(P2009−132252A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309430(P2007−309430)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】