説明

車両用エアバッグ装置

【課題】エアバッグドアのヒンジ部の破断を抑制できる車両用エアバッグ装置の提供。
【解決手段】車両用エアバッグ装置10はエアバッグドア40を備え、エアバッグドア40は一般部42と一般部42に対して開閉可能な一対のドア部41とを有する。一般部42と各ドア部41とは車両左右方向に延びるヒンジ部45で連結されており、各ドア部41の周囲にはヒンジ部45を除きスリット44が形成されている。ヒンジ部45はヒンジ部45の車両左右方向両端部に厚肉部45cを有し、厚肉部45cはヒンジ部の厚肉部以外の部分45dより厚肉とされている。厚肉部45cはヒンジ部45の車両左右方向各端部に車両左右方向に互いに間隔をおいて複数条設定されている。厚肉部45cを設けたことにより、エアバッグが展開膨張する時にエアバッグからの展開圧を受けてヒンジ部45が車両左右方向から破断することが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラブドア付けニーエアバッグ装置または助手席用エアバッグ装置からなる車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エアバッグドアの一般部と該一般部からスリットで隔てられたドア部とをヒンジ部を介して連結し、ヒンジ部を周辺部に比べて薄肉化し、ヒンジ部の車両左右方向両端の各端部に厚肉部を設け、厚肉部を該厚肉部以外のヒンジ部部分に比べて厚肉化した車両用エアバッグ装置を開示している。厚肉部を設けることによりエアバッグ展開時に厚肉部を含むヒンジ部が破断することを防止し、厚肉部を含むヒンジ部が全長にわたって破断すると生じるドア部の飛散を防止している。厚肉部の数は、ヒンジ部の車両左右方向の各端部に対し1条である。厚肉部を含むヒンジ部は一般部とドア部とを連結する方向に直線状かつ平面状に延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−053082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の車両用エアバッグ装置にはつぎの問題点がある。
厚肉部がヒンジ部の車両左右方向各端部に対して1条しか設定されていないので、万一、その厚肉部が破断すると厚肉部以外のヒンジ部部分の破断の進行を抑える機構がなく、フェールセーフ機構がない。
厚肉部の破断を抑えるために厚肉部の幅を増大しても、破断先端にノッチ効果があるので厚肉部の破断の進行を抑える効果は小さい。また、厚肉部の幅を増大すると、ドア部をヒンジ部まわりに開く剛性が増加してドア部が開きにくくなり、エアバッグによる乗員の拘束が遅れる。ドア部を早期に開くためにエアバッグ出力を増大させると、厚肉部を含むヒンジ部にかかる荷重が増加し厚肉部を含むヒンジ部が破断しやすくなる。したがって、厚肉部の破断を抑えるのに厚肉部の幅を増大する方法を採用することは難しい。
【0005】
本発明の目的は、エアバッグの展開時におけるエアバッグドアのヒンジ部の破断を抑制できる車両用エアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の車両用エアバッグ装置は、エアバッグドアを備え、該エアバッグドアは一般部と該一般部に対して開閉可能で車両左右方向と直交する方向に配置された一対のドア部とを有し、一般部と各ドア部とは車両左右方向に延びるヒンジ部で連結されており、各ドア部の周囲にはヒンジ部を除きスリットが形成されている、車両用エアバッグ装置である。
ヒンジ部は該ヒンジ部の車両左右方向両端部に車両左右方向と直交する方向に延びる厚肉部を有し、該厚肉部はヒンジ部の厚肉部以外の部分より厚肉とされており、厚肉部はヒンジ部の車両左右方向各端部に車両左右方向に互いに間隔をおいて複数条設定されている。厚肉部はヒンジ部の一部を構成する。
【0007】
(2) 上記(1)の車両用エアバッグ装置において、ヒンジ部の車両左右方向各端部に厚肉部が車両左右方向に2条設定されている。
【0008】
(3) 上記(1)または(2)の車両用エアバッグ装置において、厚肉部を含むヒンジ部は、車両左右方向と直交する方向に山形に屈曲しており、該山形の一端部で一般部に一体に接続しており山形の他端部で各ドア部に一体に接続している。
【0009】
(4) 上記(1)〜(3)の何れか1つの車両用エアバッグ装置において、厚肉部のスリット側の縁部と一般部のスリット側の縁部とはエアバッグドアの正面視で湾曲部を介して接続している。
【0010】
(5) 上記(1)〜(4)の何れか1つの車両用エアバッグ装置において、エアバッグドアの反車室側にはエアバッグモジュール収納用空間部が設けられ、該エアバッグモジュール収納空間部にはエアバッグとインフレータとを含むエアバッグモジュールが配置される。
エアバッグドアの車室側にはアウタ部材が設けられ、該アウタ部材はエアバッグドアのスリットとヒンジ部に対向する部位にエアバッグが展開する時に破断するティアラインを有し、アウタ部材はティアラインより内側に位置するティアライン内側部とティアラインより外側に位置するティアライン外側部とを有し、アウタ部材のティアライン内側部はエアバッグドアのドア部に固着され、アウタ部材のティアライン外側部はエアバッグドアの一般部に固着される。
【0011】
(6) 上記(1)〜(5)の何れか1つの車両用エアバッグ装置において、車両用エアバッグ装置は、車両の助手席前方のグラブドアに組み付けられるグラブドア付けニーエアバッグ装置である。
【0012】
(7) 上記(1)〜(5)の何れか1つの車両用エアバッグ装置において、車両用エアバッグ装置は、車両の助手席前方のインストルメントパネル裏面側に配置される助手席用エアバッグ装置である。
【発明の効果】
【0013】
上記(1)の車両用エアバッグ装置によれば、つぎの効果が得られる。
ヒンジ部の車両左右方向両端部には厚肉部が形成されているので、エアバッグ展開時に、エアバッグドアのヒンジ部に破断力が働いても、厚肉部が形成されていない場合に比べてヒンジ部の車両左右方向端部からの破断が抑制される。
また、厚肉部が車両左右方向に互いに間隔をおいて複数条に形成されているので、端の1条の厚肉部が破断されても次の条の厚肉部で破断の進行が止まり、フェールセーフ作用がある。端の1条の厚肉部のみを設けた場合は端の1条の厚肉部が破断した場合にフェールセーフ作用がない。
【0014】
また、複数条の厚肉部を互いに間隔をおいて設けたので、端の1条の厚肉部のみを設け該1条の厚肉部の幅を増加させた場合よりも大きな破断進行抑制効果がある。
本発明では、厚肉部を複数条互いに間隔をおいて設けたので、ヒンジ部の破断を抑制でき、その分エアバッグ出力を増大でき、乗員を早期に拘束できる。
【0015】
上記(2)の車両用エアバッグ装置によれば、厚肉部の条数を2条としたので、複数条とした破断進行抑制効果を得る場合における、3条以上の厚肉部を設けた場合に比べて厚肉部とそれらの間のヒンジ部分との合計幅を小さくすることができる。その結果、ドアの開き力を小さく維持できる。
【0016】
上記(3)の車両用エアバッグ装置によれば、厚肉部を含むヒンジ部の断面形状を山形としたので、厚肉部をヒンジ部に一体に形成でき厚肉部の形成に部品点数の増加を伴わない。また、厚肉部を含むヒンジ部の断面形状を山形としてヒンジ部にたるみをもたせたので、ドア部がアウタ部材の開口部の端部を包み込むように180度回動することができ、ドア部を大きく開くことができる。
【0017】
上記(4)の車両用エアバッグ装置によれば、厚肉部のスリット側の縁部と一般部のスリット側の縁部とはエアバッグドアの正面視で湾曲部を介して接続しているので、該接続部が角部からなる場合のようなノッチ効果がなく、厚肉部からの亀裂発生を抑制できる。
【0018】
上記(5)の車両用エアバッグ装置ではつぎの作用、効果がある。
エアバッグ展開膨張時に、エアバッグドアのドア部がエアバッグによって車室側に押され、エアバッグドアの車室側に設けられたアウタ部材がドア部によって車室側に押されてティアラインで開裂する。アウタ部材がティアラインで開裂すると、エアバッグドアのドア部とそれに固着されたアウタ部材のティアライン内側部がエアバッグドアのヒンジ部まわりに車室側に上下方向に開き、それによってできた開口部を通してエアバッグが車室側に展開して乗員を前方から拘束する。
【0019】
エアバッグドアのドア部が開いた時、エアバッグドアのドア部と一般部とはヒンジ部を介してつながっているが、アウタ部材のティアライン内側部とティアライン外側部とはティアライン部位で破断されている。アウタ部材がティアラインで破断される時、エアバッグドアのヒンジ部には該ヒンジ部をアウタ部材のティアラインに沿って破断しようとする力が働く。もしも、エアバッグドアのヒンジ部がヒンジ部全長にわたってティアラインに沿って破断されると、エアバッグドアのドア部とアウタ部材のティアライン内側部とが室内側に飛散するので、エアバッグドアのヒンジ部での破断は抑制されなければならない。
【0020】
本発明ではヒンジ部の車両左右方向両端部には厚肉部が形成されているので、エアバッグ展開時に、エアバッグドアの車室側に設けたアウタ部材のティアラインに沿ってエアバッグドアのヒンジ部に破断力が働いても、厚肉部が形成されていない場合に比べてヒンジ部の車両左右方向端部からの破断が抑制される。
【0021】
上記(6)の車両用エアバッグ装置によれば、グラブドア付けニーエアバッグ装置に適用したので、ヒンジ部の破断を抑制でき、その分エアバッグ出力を増大でき、乗員の膝部を早期に拘束できる。
【0022】
上記(7)の車両用エアバッグ装置によれば、助手席用エアバッグ装置に適用したので、ヒンジ部の破断を抑制でき、その分エアバッグ出力を増大でき、乗員の上半身を早期に拘束できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用エアバッグ装置の車両左右方向から見た断面図である。
【図2】図1の装置の、グラブドア部位での拡大断面図である。
【図3】図2の装置のうちエアバッグドアの反車室側から見た正面図である。
【図4】図2の装置のうちエアバッグモジュールの車室側から見た正面図である。
【図5】図4の5−5線に沿って見た、エアバッグモジュールの拡大断面図である。
【図6】図4の6−6線に沿って見た、エアバッグモジュールの拡大断面図である。
【図7】図3のエアバッグドアのヒンジ部の厚肉部とその近傍の拡大正面図である。
【図8】図3のエアバッグドアの8−8線に沿って見た断面図である。
【図9】図3のエアバッグドアの9−9線に沿って見た断面図である。
【図10】図3のエアバッグドアの10−10線に沿って見た断面図である。
【図11】図2の装置のうち、エアバッグドアの上側立ち上がり壁およびカバーのストッパリブと、それらの近傍の断面図である。
【図12】図2の装置のうち、カバーの車室側から見た正面図である。
【図13】ヒンジ部および厚肉部の破断力Fと厚肉部からの破断進行距離Dとの関係を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例2に係る車両用エアバッグ装置の車両左右方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施例に係る車両用エアバッグ装置を図1〜図14を参照して説明する。図1〜図12は本発明をグラブドア付けニーエアバッグ装置に適用した本発明実施例1を示しており、図14は本発明を助手席用エアバッグ装置に適用した本発明実施例2を示している。図13はヒンジ部の破断特性を示し、実施例1と実施例2の両方に適用される。本発明の全実施例に共通に適用される部分には、本発明の全実施例にわたって同じ符号を付してある。なお、図中、矢印「FR」は車両前方を示し、矢印「UP」は車両上方を示す。
【0025】
<<実施例1>>
〔構成〕 (全体構成)
まず、本発明の実施例1に係る車両用エアバッグ装置10を説明する。
車両用エアバッグ装置10は、車両の前面衝突時に車室内にエアバッグを展開膨張させ、乗員を拘束して乗員を保護する装置である。
【0026】
図1および図2に示すように、車両用エアバッグ装置10は、車室70に面するアウタ部材20と、アウタ部材20の反車室側に設けられるインナ部材30と、アウタ部材20の反車室側に設けられるエアバッグドア40と、エアバッグドア40の反車室側に形成されたエアバッグモジュール収納用空間部33と、エアバッグモジュール収納用空間部33に収納されるエアバッグ51を含むエアバッグモジュール50と、エアバッグモジュール50を反車室側から覆うカバー55とを有する。
【0027】
以下、各構成部材を説明する。
(アウタ部材20)
図2に示すように、アウタ部材20の車室70側の面(車室側面)20aは、車室の意匠面の一部を構成している。アウタ部材20は硬質樹脂製であり、硬質樹脂はたとえばポリプロピレン(PP)である。アウタ部材20の車室側面20aは、高級感を得るために、表皮20cを備えていてもよい。表皮20cを備えている場合、アウタ部材20の車室側面20aは、表皮20cの車室側面になる。
アウタ部材20は、アウタ部材20に設けられたティアライン(「ティア」は「テア」ともいう。以下、同じ)21の内側のティアライン内側部22と、ティアライン21の外側のティアライン外側部23と、を備えている。
【0028】
ティアライン21は、エアバッグモジュール50のエアバッグ51が展開膨張する時にエアバッグ51の膨張圧力によって破断する部分である。ティアライン21は、たとえば連続する線状のノッチからなる。ノッチは周辺より板厚を薄くした薄肉部から構成されてもよい。ティアライン21は、車室から見たときの見栄えをよくするために、アウタ部材20の反車室側面20bに設けられる。ティアライン21は、アウタ部材20の成形型でアウタ部材20の成形と同時に形成されてもよく、アウタ部材20の成形後に加工を施すことにより形成されてもよい。
【0029】
ティアライン21は、図2に示されており、エアバッグドア40のスリットとの位置関係を示すために図3に2点鎖線で示されている。ティアライン21は、アウタ部材20の上下方向中間部で車両左右方向に直線状に延びる第1のライン21aと、第1のライン21aの車両左右方向両端から車両左右方向外側かつ上下方向に二股に分かれて直線状または湾曲線状に延びる第2のライン21bと、第2のライン21bの延び方向先端から上下方向に第2のライン21bから離れる方向に延び延び方向先端でアウタ部材20の車両左右方向中央側に湾曲する第3のライン21cと、車両左右方向に延び左右の第3のライン21cの延び方向先端同士を結ぶ第4のライン21dと、を備えている。
【0030】
ティアライン内側部22は、上下方向に一対設けられ、上側ティアライン内側部22aと下側ティアライン内側部22bとを有する。ティアライン内側部22はティアライン21が破断したときにエアバッグ51によって押されて車室側に両開きする。ティアライン内側部22は、平板状またはほぼ平板状である。
ティアライン外側部23は、ティアライン21の外側でアウタ部材20の面内方向に第2〜第4のラインの外側に位置する。
【0031】
図2に示すように、ティアライン21のうち第1のライン21aは上下の第4のティアライン21dの上下方向中央部より下側に設定してもよい。その場合は上側ティアライン内側部22aの上下方向幅は下側ティアライン内側部22bの上下方向幅より大きい。これによってエアバッグ51が車室70側に展開膨張する時の位置を、第1のライン21aが上下の第4のティアライン21dの上下方向中央部にある場合に比べて下げることができ、小柄な乗員の膝部の拘束に有利となる。
【0032】
(インナ部材30)
インナ部材30は、アウタ部材20と同じ樹脂材、すなわち硬質の樹脂材で作製される。インナ部材30は、図2に示すように、アウタ部材20の反車室側に配置される。アウタ部材20とインナ部材30とは、アウタ部材20とインナ部材30のいずれか少なくとも一方に形成したリブ63の先端部を他方に溶着部63aで固着することで、互いに固定される。なお、図示例は、アウタ部材20とインナ部材30とが互いに振動溶着された場合を示す。
【0033】
インナ部材30は、インナ部材30からアウタ部材20側にエアバッグドア40の後述の一般部42に向かって延びる延長部31を備える。延長部31は、上下に2本設けられており、エアバッグドア40の後述の立ち上がり壁43の上側と下側において上下方向にアウタ部材20側に延びると共に、車両左右方向に延びている。上下の延長部31はそれらの間にエアバッグモジュール収納用空間部33を形成している。エアバッグモジュール収納用空間部33は反車室側に開口しており、開口部33aでカバー55により覆われている。延長部31の延び方向の先端部は、折れ曲り、立ち上がり壁43に接近する方向に延びる延び部31aを備えていてもよい。延長部31はインナ部材30の一部であり、延び部31aは延長部31の一部である。
【0034】
(エアバッグドア40)
エアバッグドア40は、アウタ部材20の反車室側に配置され、インナ部材30のエアバッグモジュール収納用空間部33に配置される。エアバッグドア40は、アウタ部材20およびインナ部材30に振動溶着等で固定される。エアバッグドア40は、アウタ部材20およびインナ部材30とは別工程で作製されてアウタ部材20およびインナ部材30に固定される。
【0035】
図3に示すように、エアバッグドア40は、一般部42と、一般部42に対して開閉可能で車両左右方向と直交する方向に配置されたドア部41と、ドア部41を一般部42に連結するヒンジ部45と、一般部42から一般部42の面に直交する方向に反車室側に立ち上がる立ち上がり壁43とを有する。ヒンジ部45は後述する厚肉部45cを除き、ドア部41および一般部42の厚さより薄い。ドア部41の周囲にはエアバッグドア40の壁を貫通するスリット44が設けられており、スリット44はヒンジ部45を除きドア部41を一般部42から切り離している。ヒンジ部45は車両左右方向と直交する方向の断面視で反車室方向に山形に突出しており、たるませてある。ヒンジ部45は一端でドア部41につながり他端で一般部42につながっており、ドア部41と一般部42に一体のインテグラルヒンジからなる。以下、ヒンジ部45をインテグラルヒンジ45ともいう。
【0036】
ドア部41は上下方向に一対設けられており、上下一対のドア部は上側ドア部41aと下側ドア部41bを含む。ヒンジ部45は上下方向に一対設けられており、上下一対のヒンジ部は上側ヒンジ部45aと下側ヒンジ部45bを含む。立ち上がり壁43は、一般部42のドア部41周囲部から立ち上がる枠状体からなり、一般部42のうち上側ヒンジ部45aより上側部分から立ち上がり車両左右方向に延びる上側立ち上がり壁43aと一般部42のうち下側ヒンジ部45aより下側部分から立ち上がり車両左右方向に延びる下側立ち上がり壁43bとを含む。上下の立ち上がり壁43a、43bには、それぞれ、フック挿通用孔43cが設けられている。上側立ち上がり壁43aは下側立ち上がり壁43bよりも立ち上がり長さが長い。
【0037】
エアバッグドア40は、アウタ部材20とインナ部材30の材料の硬質樹脂より軟質の軟質樹脂、たとえばオレフィン系エラストマー(TPO、一般的にPPの中にあるエチレンプロピレンゴムを微分散させた熱可塑性エラストマー)からなる。これは、常温下でもエラストマー(弾性体)であり、極低温(たとえば、マイナス30℃)下でも、インテグラルヒンジ45部位が弾性変形してドア部41を開くことができるようにするためである。TPOもアウタ部材20とインナ部材30のポリプロピレン樹脂もオレフィン系であるため、TPOのエアバッグドア40は、アウタ部材20とインナ部材30に溶着可能である。
【0038】
エアバッグドア40の各部の構成をさらに説明する。
スリット44は、ドア部41と一般部42の間に設けられる。スリット44は、エアバッグドア40を貫通している。スリット44は、エアバッグ装置10の正面視で、第4のライン21dを無くしたティアライン21の形状と略同じであり、略「H」形状である。
スリット44は、図3に示すように、エアバッグドア40の上下方向中央部かそれより下方で車両左右方向に直線状に延びる第1のスリット部44aと、第1のスリット部44aの車両左右方向両端から車両左右方向外側かつ上下方向に二股に分かれて直線状または湾曲線状に延びる第2のスリット部44bと、第2のスリット部44bの延び方向先端から上下方向に第2のスリット部44bから離れる方向に延び延び方向先端でエアバッグドア40の車両左右方向中央側に湾曲しヒンジ部45の車両左右方向端で終わる第3のスリット部44cと、を備えている。ヒンジ部45の部位では、一般部42とドア部41とはヒンジ部45のみでつながっており、一般部42のヒンジ部側の縁部とドア部41のヒンジ部側の縁部との間は、図8〜図10に示すように、スリット状の空間44dである。
【0039】
ドア部41は、第1のスリット部44aと上側ヒンジ部45aとの間にある上側ドア部41aと、第1のスリット部44aと下側ヒンジ部45bとの間にある下側ドア部41bとの、上下一対のドア部41a、41bからなる。上側ドア部41aの上下方向幅は下側ドア部41bの上下方向幅より大きい。図3に示すように、上下一対のドア部41の各ドア部41a、41bは、エアバッグドア40を反車室側から見た時に、アウタ部材20のティアライン21の第1〜第4のライン21a〜21dより内側にある。これによって、ドア部41a、41bが開く時にアウタ部材20の開口縁部に引っ掛かることはない。図2に示すように、ドア部41はアウタ部材20のティアライン内側部22の反車室側面と略平行である。ドア部41は車室側面でアウタ部材20のティアライン内側部22の反車室側面に振動溶着等で固定される。
【0040】
エアバッグドア40の上側ドア部41aはアウタ部材20の上側ティアライン内側部22aに固定され、下側ドア部41bはアウタ部材20の下側ティアライン内側部22bに固定される。上下のドア部41a、41bは、車両が前面衝突しエアバッグ51が展開膨張するときに、車室70側に上下一対のインテグラルヒンジ45a、45bまわりに回動、変形して開く。上下のドア部41a、41bと上下のティアライン内側部22a、22bとが互いに固定されているため、エアバッグ51が膨張する時、上下のドア部41a、41bと上下のティアライン内側部22a、22bとが互いに一体となって車室70側に両開きする。
【0041】
図3に示すように、一般部42はスリット44およびインテグラルヒンジ45a、45bの外側に位置する。図2に示すように、一般部42はアウタ部材20のティアライン外側部23の反車室側面と略平行である。一般部42は、車室側面でティアライン外側部23の反車室側面に振動溶着等で固定される。
【0042】
一般部42は、立ち上がり壁43より外側に位置し、反車室側面で、インナ部材30の延び部31aを含む延長部31の延び方向先端部に振動溶着等で固定される。一般部42は、アウタ部材20とインナ部材30とで挟まれる。一般部42が立ち上がり壁43より外側でインナ部材30に固定されるため、延長部31がエアバッグモジュール50のエアバッグドア40への組付けに悪影響を及ぼすことはない。
【0043】
(エアバッグドア40のヒンジ部45と厚肉部45c)
ヒンジ部45は上下一対のドア部41a、41bの上下縁部で車両左右方向に延び、ヒンジ部45の車両左右方向両端部はスリット44の端部を形成している。アウタ部材20のティアライン21の第4のライン部21dは、エアバッグドア40のヒンジ部45の車室側でヒンジ部45に沿って車両左右方向に延びている。エアバッグ51の膨張展開時に、アウタ部材20の開裂はティアライン21の上下方向中央の第1のライン部21aの車両左右方向中央部で始まり、図3において矢印で示すように、第2のライン部21b、第3のライン部21c、第4のライン部21dへと進行する。アウタ部材20の開裂が第3のライン部21cから第4のライン部21dへと進行する時、ヒンジ部45の車両左右方向両端部を第4のライン部21dに沿って破断する力がかかる。ヒンジ部45がヒンジ部全長にわたって破断すると上下一対のドア部41a、41bと上下のティアライン内側部22a、22bが車室側に飛散するので、ヒンジ部45の全長にわたる破断は抑制されなければならない。
【0044】
ヒンジ部45の破断を抑制するために、ヒンジ部45の車両左右方向両端部に車両左右方向と直交する方向に延びる厚肉部45cが形成されている。厚肉部45cは、厚肉化される前の元のヒンジ部厚さの部分と厚さが増加された部分とを合わせた部分である。厚肉部45cはヒンジ部45の一部を構成する。厚肉部45cはヒンジ部45の厚肉部45c以外の部分45dより厚肉とされている。ヒンジ部45の厚肉部45c以外の部分45dは、ドア部41a、41bの開閉を円滑にするために、ドア部41a、41bおよび一般部42の厚さより薄い。
【0045】
厚肉部45cは、ヒンジ部45の車両左右方向の各端部に、車両左右方向に厚肉部45c間に互いに間隔をおいて、複数条設定されている。複数条の厚肉部45c間は、ヒンジ部45の厚肉部以外の部分45dと同じ厚さである。
【0046】
図3および図7では、ヒンジ部45の車両左右方向各端部に厚肉部45cが車両左右方向に互いに間隔をおいて2条設定されている。ただし、ヒンジ部45の車両左右方向各端部における厚肉部45cの条数は2に限定されるものではなく、3以上であってもよい。複数条設定される厚肉部45cは互いに同形状かほぼ同形状とされている。
【0047】
厚肉部45cを含むヒンジ部45は、車両左右方向と直交する方向にかつ反車室側に突出する山形に屈曲しており、該山形の一端部で一般部42に一体に接続しており山形の他端部で一対のドア部41a、41bの各ドア部41a、41bに一体に接続している。厚肉部45cの増肉部は、山形の外側に設けられてもよいし、山形の内側に設けられてもよいし、山形の外側と内側との両方に設けられてもよい。山形の厚肉部45cの一端が接続する一般部42の縁部と山形の厚肉部45cの他端部が接続するドア部41a、41bの縁部との間の部分44dは、図8〜図10に示すように、車両左右方向にスリット状に延びる空間である。
【0048】
図7に示すように、複数条の厚肉部45cのうちヒンジ部45の車両左右方向最端部に位置する厚肉部45cのスリット44側の縁部46と、一般部42のスリット44側の縁部47とは、エアバッグドア40の正面視で半径Rの湾曲部48を介して接続している。湾曲部48とすることにより、直角の場合に比べて、エアバッグ51の展開膨張時に、車両左右方向最端部にある厚肉部45cに破断の亀裂が生じにくくなる。
【0049】
(エアバッグモジュール50)
エアバッグモジュール50は、図2および図4に示すように、エアバッグ51と、インフレータ52と、エアバッグ51およびインフレータ52を支持するケース(リテーナ)53と、エアバッグ51を車室側から覆って保護する保護布54を備える。保護布54には、エアバッグ51の展開膨張時に保護布54が容易に破断できるように、切れ目54aが設けられている。
【0050】
エアバッグ51は、折り畳まれた状態でケース53に支持され、車両前面衝突時に展開膨張して、エアバッグドア40のドア部41とアウタ部材20のティア内側部22を押し開き、押し開くことによって生じた開口部を通して車室70内に展開して乗員を前方から拘束する。
インフレータ52は、車両前面衝突時にエアバッグ51内に膨張用ガスを供給する。
インフレータ52は、ケース53の車両左右方向中央部にボルト締結、かしめ等で取り付けられ、固定される。
【0051】
図2および図6に示すように、ケース53の車両左右方向中央部に設けられたインフレータ取り付け部53cはエアバッグドア51のドア部41に対して上下方向に傾けられており、インフレータ52からケース53のインフレータ取り付け部53cを貫通して延びるスタッドボルト(図示せず)の先端がカバー55に干渉しないようにしてある。これによって、アウタ部材20とカバー55との間隔を狭くすることができ、グラブドア60の厚みが小さくなった分、グラブボックス62内の容積を車両前後方向に拡大することができる。
【0052】
ケース53は、たとえば金属製(鉄製)である。ただし、ケース53は、金属製でなくてもよく、たとえば樹脂と金属とを組み合わせた複数部品、たとえば2部品から構成されていてもよく、布と金属とを組み合わせが複数部品、たとえば2部品から構成されていてもよい。ケース53は、エアバッグ51を反車室側から覆っている。
【0053】
ケース53は車両左右方向に延び、ケース53の左右方向両端部に設けられたブラケット53b部位でボルト、ネジ、その他の固定手段等によりインナ部材30に固定される。
また、ケース53は金属製のフック部53aを備えている。フック部53aは、ケースの上下側面に沿ってケースの上下側面から上下方向に突出させて、車両左右方向に複数設けられている。ケース53は、フック部53aがエアバッグドア40の上下立ち上がり壁43a、43bに設けられたフック挿通用孔43cに挿通され係合されることで、エアバッグドア40に係合される。フック部53aとフック挿通用孔43cとの係合で、エアバッグ51の展開膨張時にケース53が車両左右方向中間部で反車室側に大きく撓み、移動することが抑制される。
【0054】
エアバッグモジュール50は、ケース53の下側側面から下方に突出するフック部53aをエアバッグドア40の下側立ち上がり壁43bに設けられたフック挿通用孔43cに挿通し係合させ、ついでケース53の上側側面から上方に突出するフック部53aをエアバッグドア40の上側立ち上がり壁43aに設けられたフック挿通用孔43cに挿通し係合させることにより、エアバッグドア40に取り付けられる。下側のフック部53aを下側立ち上がり壁43bのフック挿通用孔43cに挿入する時には、エアバッグモジュール50をエアバッグモジュール50の上部が上側立ち上がり壁43bから反車室側に離れる方向に傾ける。ついで、上側のフック部53aを上側立ち上がり壁43aのフック挿通用孔43cに挿入する。この時、フック部53aが上側立ち上がり壁43aを押し、上側立ち上がり壁43aを一般部42に対して上方に弾性変形させて倒す。エアバッグモジュール50をフック部53aが上側立ち上がり壁43aのフック挿通用孔43cに対向する位置まで来ると上側立ち上がり壁43aは弾性で元の位置に復帰し、フック部53aが上側立ち上がり壁43aのフック挿通用孔43cに挿通される。
【0055】
フック部53aが上下の立ち上がり壁43a、43bのフック挿通用孔43cに挿通された状態では、フック部53aとフック挿通用孔43cの縁部との間には立ち上がり壁43a、43bの立ち上がり方向に隙間があるが、エアバッグ51が展開膨張した時にはその反力でエアバッグモジュール50が反車室方向に移動し、フック部53は上下の立ち上がり壁43a、43bのフック挿通用孔43cの反車室側の縁部に係合して止まる。フック部53がフック挿通用孔43cの縁部に係合できれば、フック部53はフック挿通用孔43cから外れず、エアバッグ51の車室70内への展開、膨張は、正常に行われる。
【0056】
(カバー55)
カバー55は、アウタ部材20およびインナ部材30と同様に、硬質樹脂材の成形品からなる。カバー55は、インナ部材30のエアバッグモジュール収納用空間部33の開口部33aに取付けられるか嵌め込まれて、エアバッグモジュール収納用空間部33およびエアバッグモジュール50を反車室側から覆う。
カバー55はカバー上部と該カバー上部に対して車室側に折れ曲がり部55aで折れ曲がってグラブドア下部の反車室側面まで延びるカバー下部を有している。カバー下部がカバー上部に対して車室側に折れ曲がっていることにより、カバー下部でのグラブドア60の厚みが薄くなり、その分グラブボックス62の容積がカバー下部において車室側に拡大される。
【0057】
(カバー55のストッパリブ56)
エアバッグドア40の立ち上がり壁43はエアバッグ51が展開膨張する時にエアバッグ51から圧力を受けて上方に倒れ変形する。上側立ち上がり壁43aは下側立ち上がり壁43bに比べて立ち上がり長さが長いため倒れ量が大きい。図11に2点鎖線で示すように、上側立ち上がり壁43aがインナ部材30の延長部31に当たる位置まで倒れると、フック部53aが立ち上がり壁43のフック挿通用孔43cから外れてしまう。外れた状態でエアバッグ51からの圧力がケース53にかかると、ケーシング53が反車室側に変形して移動し、カバー53に当たりカバー55を外して、反車室側のグラブボックス62内にさらに変形、移動する。その結果、エアバッグ51の展開反力を正常に支持できなくなり、エアバッグ51の車室70への展開、膨張に支障が出るおそれがある。
【0058】
フック部53aが外れる程に立ち上がり壁43が倒れることを抑制するために、図2、図11、図12に示すように、カバー55には、エアバッグドア40の上下の立ち上がり壁43a、43bの少なくとも上側立ち上がり壁43aの、エアバッグ51と反対側から対向する部位に延びるストッパリブ56が形成されている。ストッパリブ56は立ち上がり壁43がそれに対向するインナ部材部分に当たる前に立ち上がり壁43に当たって、立ち上がり壁43のそれ以上の変形、倒れを防止する。
【0059】
図2は、ストッパリブ56が上側立ち上がり壁43aのみのエアバッグ51と反対側から対向する部位に延びる場合を示しているが、ストッパリブ56は下側立ち上がり壁43bのエアバッグ51と反対側から対向する部位にも設けられてもよい。
ストッパリブ56をカバー55に設ける理由は、ストッパリブをインナ部材30に設けると、エアバッグモジュール50をエアバッグモジュール収納用空間部33に挿入するときにストッパリブがエアバッグモジュール50に干渉してエアバッグモジュール50の挿入を妨害するからである。ストッパリブ56をカバー55に設けた場合は、エアバッグモジュール50をエアバッグモジュール収納用空間部33に設置した後にカバー55をインナ部材30に設置するだけで自動的に、ストッパリブ56をエアバッグドア40の上下の立ち上がり壁43a、43bの少なくとも上側立ち上がり壁43aのエアバッグ51と反対側から対向する部位に挿入することができる。
【0060】
ストッパリブ56はカバー55と一体成形で作製されてもよいし、カバー55と別体で作製されてカバー55に固定されてもよい。ストッパリブ56はカバー55と一体成形で作製される場合は、ストッパリブ56は硬質樹脂製となる。ストッパリブ56がカバー55と別体で作製される場合は、ストッパリブ56は金属製であってもよい。
【0061】
図2、図11、図12に示すように、ストッパリブ56は、車両左右方向に連続して延びる第1のリブ56aと、第1のリブ56aから第1のリブ56aと直交する方向に立ち上がり壁43側に延びる第2のリブ56bとを有する。第2のリブ56bと立ち上がり壁43の第2のリブ56bとの対向面との間の間隔d(図11)は、エアバッグ展開時の立ち上がり壁43の倒れ角度をフック部53aが立ち上がり壁43のフック挿通用孔43cから外れない角度に抑制する間隔に設定される。
以上の構成は、本発明の実施例1と実施例2に共通に成立する。
【0062】
本発明の実施例1はつぎの構成を有する。
図1、図2に示すように、車両用エアバッグ装置10はグラブドア60に組み付けられている。アウタ部材20はグラブドアアウタであり、インナ部材30はグラブドアインナである。グラブドアアウタ20とグラブドアインナ30がグラブドア60を構成する。グラブドア60は、車両のグラブボックス62のドアで、助手席前方のインストルメントパネル部位に、グラブボックス62の開口部の下端部に位置する回動中心回りに上下方向に回動可能に、すなわち、グラブボックス62内空間を開閉可能に、配置される。図2では、実線Aがグラブドア60を閉めた状態、2点鎖線Bがグラブドア60を開いた状態を示す。回動中心は、グラブドア60の断面内にあってもよいし、グラブドア60の断面外にあってもよい。回動中心がグラブドア60の断面外にある場合、たとえば、グラブドア60からブラケット(図示略)をグラブドア60の断面の外側に突出させ該ブラケットに回動軸を通してその中心を回動中心としてもよい。グラブボックス62は内部に棚62aを有してもよい。
グラブドア60は、閉状態で、上方にいくに従って車室70側(車両後方側)に傾いており、グラブドア60の上下端はインストルメントパネルの外形に位置を合わせてある。
【0063】
エアバッグモジュール収納用空間部33は、グラブドアインナ30の上下・左右方向中間部に位置する。収納用空間部33は、平均体型の成人男性(AM50)の乗員が助手席に着座したときの乗員の膝の車両前方に位置する。
グラブドア60の場合、展開膨張したエアバッグ51は乗員の膝部を拘束する。エアバッグ51が乗員の脛部のみを拘束することがないようにアウタ部材20の開裂位置、すなわち第1のライン21aのアウタ部材20に沿って見た上下方向位置が設定されている。
カバー55の折れ曲がり部55aに対応させて、グラブドアインナ30の外形もグラブドアアウタ20側に曲がっており、グラブドア60の下部が上部に比べて厚さが薄くなっている。
【0064】
〔作用、効果〕
つぎに、本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
(全体の作用、効果)
図示略のセンサが車両の前面衝突を検知すると、その信号が車両の電子制御装置に送られ、電子制御装置からの出力信号により、インフレータ52が作動され、膨張用ガスをエアバッグ51に供給する。
エアバッグ51の展開膨張時に、エアバッグドア40のドア部41がエアバッグ51によって車室側に押され、エアバッグドア41の車室側に設けられたアウタ部材20がドア部41によって車室側に押され、ティアライン21で開裂する。アウタ部材20がティアライン21で開裂すると、エアバッグドア40のドア部41とそれに固着されたアウタ部材20のティアライン内側部22がエアバッグドア40のヒンジ部45まわりに車室側に上下方向に開き、それによってできた開口部を通してエアバッグ51が車室側に展開して乗員を前方から拘束する。
【0065】
エアバッグドア40のドア部41が開いた時、エアバッグドア40のドア部41と一般部42とはヒンジ部45を介してつながっているが、アウタ部材20のティアライン内側部22とティアライン外側部23とはティアライン21部位で破断されている。アウタ部材20がティアライン21部位で破断される時、エアバッグドア40のヒンジ部45には該ヒンジ部45をアウタ部材20のティアライン21部位に沿って破断しようとする力が働く。
【0066】
アウタ部材20の開裂はティアライン21の第1のライン21aの左右方向中央部で始まり、第1のライン21aから第2のライン21b、第3のライン21c、第4のライン21dへと進行する。開裂が第3のライン21cから第4のライン21dへと進行する時、エアバッグドア40のヒンジ部45の左右端部に破断力が働く。
【0067】
もしも、エアバッグドア40のヒンジ部45がヒンジ部全長にわたってティアライン21部位に沿って破断されると、エアバッグドア40のドア部41とアウタ部材20のティアライン内側部22とが室内側に飛散するので、エアバッグドア40のヒンジ部45での破断は抑制されなければならない。
【0068】
(ヒンジ部45および厚肉部45cの作用、効果)
ヒンジ部45の車両左右方向両端部には厚肉部45cが形成されているので、エアバッグ展開時に、エアバッグドア40のヒンジ部45に破断力が働いても、厚肉部45cが形成されていない場合に比べてヒンジ部45の車両左右方向端部からの破断が抑制される。
さらに、厚肉部45cが車両左右方向に互いに間隔をおいて複数条に形成されているので、端の1条の厚肉部45cが切断されても次の条の厚肉部45cで破断の進行が止まり、フェールセーフ作用がある。端の1条の厚肉部45cのみを設けた場合は端の1条の厚肉部45cが切断された場合にフェールセーフ作用がない。
【0069】
また、複数条の厚肉部45cを互いに間隔をおいて設けたので、端の1条の厚肉部45cのみを設けかつ該1条の厚肉部45cの幅を増加させた場合、たとえば幅を複数条の条数倍分増加させた場合に比べて、大きな破断進行抑制効果がある。
【0070】
その理由はつぎのとおりである。
図13に示すように、破断は厚肉部45cの側部にかかる破断力Fが第1の力F1より大きくなった時に始まり、破断の進行につれて破断力Fが低下していき、破断力Fがノッチによる破断が止まる第2の力F2(F2<F1)に低下するまで進行する。
1条の拡大幅厚肉部の場合は、図13で破線Cで示すように、破断力Fが第1の力F1より大の時に破断が始まり、破断の進行につれて破断力Fが低下する。そして、破断がヒンジ部45の左右方向中央部にまで進行してもなお破断力Fが第2の力F2より大の時には、破断線がヒンジ部全長Lの約1/2の部位まで進行した時に左右から進行してくる破断線がつながってヒンジ部45は全長にわたって破断してしまう。
【0071】
これに対し、厚肉部45cが2条以上の場合は、図13で実線Pで示すように、端にある第1の厚肉部45cにかかる破断力Fが第1の力F1より大の時に破断が始まり、破断の進行につれて破断力Fが低下する。そして、破断が端にある第1の厚肉部45cの幅W1とつぎの第2の厚肉部45cとの間の薄肉部45dの幅W2との和の距離だけ進行して第2の厚肉部45cの第1の厚肉部45c側の縁部Sに至ると、第2の厚肉部45cにかかる破断力Fが第1の力F1より小になっているので、第2の厚肉部45cにかかる破断力Fが第2の力F2より大であっても、破断の進行が止まる。
【0072】
本発明では、厚肉部45cを複数条互いに間隔をおいて設けたので、ヒンジ部45の破断の進行を抑制できる。そして、その分、破断の進行を抑制したままエアバッグ出力を増大でき、エアバッグ51の展開時間を短縮でき、乗員を早期に拘束できる。
【0073】
厚肉部45cの条数を2条とした場合、3条以上の場合に比べて、複数条の厚肉部45cとそれらの間の薄肉ヒンジ部分45dとの合計幅を小さくすることができる。その結果、ドア部41の開き力を小さく維持したまま、ドア部41を早期に開くことができる。
【0074】
厚肉部45cを含むヒンジ部45の断面形状が山形であるので、厚肉部45cをヒンジ部45に一体に形成でき厚肉部45cの形成に部品点数の増加を伴わない。また、厚肉部45cを含むヒンジ部45の断面形状を山形としたので、ヒンジ部45にたるみをもたせることができる。これによって、ドア部41がアウタ部材20のティアライン21に沿った開口部の縁部を包み込むように180度回動することができ、ヒンジ部45にたるみが無い場合よりドア部41を大きく開くことができる。
【0075】
また、図7に示すように、厚肉部45cのスリット44側の縁部46と一般部42のスリット44側の縁部47とがエアバッグドア40の正面視で湾曲部48を介して接続しているので、湾曲部が角部であった場合のようなノッチ効果がなく、厚肉部45cを含むヒンジ部45の、スリット44側の縁部46からの亀裂発生を抑制できる。湾曲部48を設けたことは、図13においてはF1が大きくなり、FがF1を越えにくい、すなわち亀裂が発生しにくい効果を生じる。
【0076】
(ストッパリブ56の作用、効果)
エアバッグ51が展開膨張する時、エアバッグ51がエアアッグドア40の立ち上がり壁43に展開圧をかけて立ち上がり壁43をエアバッグ51と反対側に、図11の2点鎖線で示した位置に、倒そうとする。しかし、本発明では、図2、図11に示すように、立ち上がり壁43のエアバッグ51と反対側にはストッパリブ56が設けられているため、立ち上がり壁43がストッパリブ56に当たった位置以上にエアバッグ51と反対側に倒れることが防止される。
【0077】
立ち上がり壁43がエアバッグ51と反対側に過度に倒れると、フック部53aが立ち上がり壁43のフック挿通用孔43cから抜けてエアバッグの展開反力を受けた時にケース53が反車室側に変形、移動し、エアバッグ51の正常な展開膨張を阻害するおそれがある。しかし、ストッパリブ56が設けられているため、フック部53は立ち上がり壁43のフック挿通用孔43cからの抜けが防止され、エアバッグ51は車室70内に正常に展開膨張する。
【0078】
また、ストッパリブ56が設けられているため、立ち上がり壁43の倒れからの制限を受けることなくエアバッグ作動圧力を増大でき、エアバッグ作動圧力を増大しない場合に比べてエアバッグ展開膨張時に乗員を早期に拘束することができる。
【0079】
エアバッグモジュール50をエアバッグモジュール収納用空間部33に組み付けた後カバー55が装着されるが、ストッパリブ56がカバー55に設けられているため、エアバッグモジュール50をエアバッグモジュール収納用空間部33に挿入する時にストッパリブ56がエアバッグモジュール50と干渉せず、エアバッグモジュール50の装着に支障が生じることはない。
【0080】
エアバッグドア40の立ち上がり壁43とインナ部材30の延長部31との間に車両左右方向に延びる空間があるが、そこにストッパリブ56が挿入されるようにストッパリブ56がカバー55に設けられているため、カバー55を装着するだけで、ストッパリブ56をエアバッグドア40の立ち上がり壁43の上下方向外側に自動的に挿入、配置することができる。
【0081】
エアバッグドア40の上下の立ち上がり壁43a、43bのうち上側立ち上がり壁43aは下側立ち上がり壁43bより立ち上がり長さが長いため、エアバッグ51の展開圧を受けた時に上側立ち上がり壁43aは下側立ち上がり壁43bより倒れやすい。そして、ストッパリブ56が上側立ち上がり壁43aに対してのみエアバッグ51と反対側から対向する部位に設けられているので、ストッパリブ56を上下の立ち上がり壁43a、43bの両方に対して設けた場合に比べて、効果的にストッパリブ56を設けることができる。ストッパリブ56を上下の立ち上がり壁43a、43bの両方に対して設けてもよいが、モジュール収納用空間部33のスペースが狭くなり、かつコストアップになる。
(その他の作用、効果)
【0082】
下側立ち上がり壁43bの立ち上がり長さが上側立ち上がり壁43aの立ち上がり長さより短いことに対応してカバー55が折れ曲がり部55aでアウタ部材20側に折れ曲がっているため、折れ曲がり部が無い場合に比べてグラブボックス62の下部の容積を車両前後方向に拡大することができる。
【0083】
上下のドア部41a、41bのうち上側ドア部41aの上下方向幅は下側ドア部41bの上下方向幅より大に設定されており、上下のティアライン内側部22a、22bのうち上側ティアライン内側部22aの上下方向幅は下側ティアライン内側部22bの上下方向幅より大に設定されているので、上下のドア部41a、41bの上下方向幅が互いに等しくかつ上下のティアライン内側部22a、22bの上下方向幅が互いに等しい場合に比べて、乗員の脛部に大きな拘束力をかけることなく、膝部を優先的に拘束するのに有利となる。また、小柄な乗員の膝部の拘束にも有利となる。
以上の作用、効果は本発明の実施例1と実施例2の両方に適用できるか、または適用してもよい。
【0084】
本発明の実施例1はつぎの作用、効果を有する。
図2に示すように、グラブドアインナ30の、収納用空間部33の反車室側部位に、開口部33aを設けているため、開口部33aを通してエアバッグモジュール50を収納用空間部33に挿入し収納することができ、ついでカバー55を装着できる。そのため、グラブドアアウタ20とグラブドアインナ30とエアバッグドア40を互いに溶着してグラブドア60を製作した後でも、エアバッグモジュール50をグラブドア60に組付けることができ、ついでカバー55を装着できる。これによって、グラブドア60の製作工程とエアバッグモジュール50、カバー55の製作工程を互いに独立の工程とすることができ、グラブドア60とエアバッグモジュール50とカバー55を別々の部品メーカで作製でき、製作工程の自由度が向上する。
【0085】
<<実施例2>>
つぎに、本発明の実施例2の車両用エアバッグ装置10を、図14を参照して説明する。本発明の実施例2の車両用エアバッグ装置10は、助手席用エアバッグ装置からなる。
上記の本発明の実施例1のうち、本発明の実施例1、2に適用可能な構成、作用、効果は、本発明の実施例2にも適用される。本発明の実施例2では、「車両用エアバッグ装置」、「アウタ部材20」、「インナ部材30」は、それぞれ、「助手席用エアバッグ装置」、「インストルメントパネル61」、「ダクトまたは補強部材34」からなる。
【0086】
本発明の実施例2の助手席エアバッグ装置10は、つぎの構成を有する。
助手席エアバッグ装置10はインストルメントパネル61部位にエアバッグモジュール50を配置したものである。エアバッグモジュール50は、インストルメントパネル61部位のうち、図示略のフロントウインドウの下端部から車両後方側に略水平に延びる部分61aの車両後方側端部またはその近傍に配置されている。
【0087】
インナ部材30としてのダクトまたは補強部材34は、(i)車内空調のため、図示略のフロントウインドウの曇り抑制のため等に用いられる車両左右方向に延びるダクト(図14参照)、または、(ii)インストルメントパネル61を補強する補強部材(図示略)である。
【0088】
ダクトまたは補強部材34は、例えば樹脂製である。ダクトまたは補強部材34がダクトである場合、断面形状は、車室70側に開放するコ字状(U字状を含む)またはコ字以外の多角形状であってもよく、何れの方向にも開放しない三、四、五角形等の多角形状であってもよい。図示例は、断面形状が車室70側に開放するコ字状である場合を示している。
ダクトまたは補強部材34がダクトであり断面形状が車室70側に開放するコ字状またはコ字以外の多角形状である場合、開放端は、アウタ部材20としてのインストルメントパネル61とエアバッグドア40の一般部42とに反車室側から溶着等で固定される。ダクトまたは補強部材34がダクトであり断面形状が何れの方向にも開放しない多角形状である場合、ダクトは、インストルメントパネル61とエアバッグドア40の一般部42とに反車室側から振動溶着等で固定される。
ダクトまたは補強部材34がダクトである場合、延長部31は、ダクトを構成する壁の一部からなり、エアバッグドア40の一般部42に固定される部位から反車室側に延びる壁からなる。
【0089】
エアバッグモジュール50のケース53は、ブラケット65を介して、車両左右方向に延びておりインストルメントパネル61が固定支持されるインストルメントパネルリインホースメント64に固定されている。
【0090】
本発明実施例2は、つぎの作用、効果を有する。
助手席エアバッグ装置10は、前面衝突が検出されてインフレータ52が作動すると、エアバッグ51が膨張してインストルメントパネル61のティアライン21を破断する。その結果、エアバッグドア40のドア部41が車室70側に向けて展開し、形成された開口からエアバッグ51が車室70に膨張展開して乗員の上半身を拘束する。
【0091】
エアバッグ51が膨張するときにエアバッグ反力がケース53を介してエアバッグドア40にかかる。ここで、エアバッグドア40の一般部42が、車室側面でインストルメントパネル61のティアライン外側部23の反車室側面に固定され反車室側面でダクトまたは補強部材34に固定されている。そのため、エアバッグ51が膨張してインストルメントパネル61のティアライン21を破断するまで、エアバッグドア40にかかる反力を、エアバッグドア40の一般部42とインストルメントパネル61のティアライン外側部23との固定強度で保持することができるだけでなく、ダクトまたは補強部材34に伝達することもできる。
【符号の説明】
【0092】
10 車両用エアバッグ装置
20 アウタ部材(グラブドアアウタまたはインストルメントパネル)
21 ティアライン
22 ティアライン内側部
23 ティアライン外側部
30 インナ部材(グラブドアインナ、またはダクトまたは補強部材)
33 エアバッグモジュール収納用空間部
40 エアバッグドア
41 ドア部
41a 上側ドア部
41b 下側ドア部
42 一般部
43 立ち上がり壁
43a 上側立ち上がり壁
43b 下側立ち上がり壁
43c フック挿通用孔
44 スリット
45 ヒンジ部
45a 上側ヒンジ部
45b 下側ヒンジ部
45c 厚肉部
45b 厚肉部以外のヒンジ部分
46 厚肉部のスリット側縁部
47 一般部のスリット側縁部
48 湾曲部
50 エアバッグモジュール
51 エアバッグ
53a フック部
55 カバー
55a 折れ曲がり部
56 ストッパリブ
56a 第1のリブ
56b 第2のリブ
60 グラブドア
61 (アウタ部材としての)インストルメントパネル
62 グラブボックス
70 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグドアを備え、該エアバッグドアは一般部と該一般部に対して開閉可能で車両左右方向と直交する方向に配置された一対のドア部とを有し、前記一般部と各ドア部とは車両左右方向に延びるヒンジ部で連結されており、前記各ドア部の周囲には前記ヒンジ部を除きスリットが形成されている、車両用エアバッグ装置であって、
前記ヒンジ部は該ヒンジ部の車両左右方向両端部に車両左右方向と直交する方向に延びる厚肉部を有し、該厚肉部は前記ヒンジ部の前記厚肉部以外の部分より厚肉とされており、前記厚肉部は前記ヒンジ部の車両左右方向各端部に車両左右方向に互いに間隔をおいて複数条設定されている車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記ヒンジ部の車両左右方向各端部に前記厚肉部が車両左右方向に2条設定されている請求項1記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記厚肉部を含む前記ヒンジ部は、車両左右方向と直交する方向に山形に屈曲しており、該山形の一端部で前記一般部に一体に接続しており山形の他端部で前記各ドア部に一体に接続している請求項1または請求項2記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記厚肉部の前記スリット側の縁部と前記一般部の前記スリット側の縁部とはエアバッグドアの正面視で湾曲部を介して接続している請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグドアの反車室側にはエアバッグモジュール収納用空間部が設けられ、該エアバッグモジュール収納空間部にはエアバッグとインフレータとを含むエアバッグモジュールが配置され、
前記エアバッグドアの車室側にはアウタ部材が設けられ、該アウタ部材は前記エアバッグドアの前記スリットと前記ヒンジ部に対向する部位に前記エアバッグが展開する時に破断するテアラインを有し、前記アウタ部材は前記テアラインより内側に位置するテアライン内側部と前記テアラインより外側に位置するテアライン外側部とを有し、前記アウタ部材のテアライン内側部は前記エアバッグドアのドア部に固着され、前記アウタ部材のテアライン外側部は前記エアバッグドアの一般部に固着される、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記車両用エアバッグ装置は、車両の助手席前方のグラブドアに組み付けられるグラブドア付けニーエアバッグ装置である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記車両用エアバッグ装置は、車両の助手席前方のインストルメントパネル裏面側に配置される助手席用エアバッグ装置である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−39860(P2013−39860A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176611(P2011−176611)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】