説明

車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置

【課題】この発明は、エンジンの動力をコンプレッサに伝達・遮断する電磁クラッチの滑りによる発熱を抑え、温度ヒューズの溶断により電磁クラッチが接続できなくなることを防止し、コンプレッサを駆動することができるようにすることを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンの動力により電磁クラッチを介して作動するコンプレッサと、電磁クラッチの接続を制御する電磁クラッチ制御手段とを備え、電磁クラッチに温度ヒューズを設け、温度ヒューズの溶断に伴い電磁クラッチが開放される車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置において、電磁クラッチの電源電圧値を検出する電圧検出手段を設け、電磁クラッチ制御手段は、電圧検出手段により検出される電圧値が予め設定された値未満の時には、電磁クラッチを開放することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置に係り、特に、エンジンとコンプレッサとの間に設置した電磁クラッチを接続・開放することによりコンプレッサの作動を制御する車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載したエンジンの動力により電磁クラッチを介して作動する車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置としては、図3に示すものがある。図3において、101は車両に搭載したエンジン、102は車両用コンプレッサ(以下「コンプレッサ」と記す。)である。エンジン101は、クランク軸103にエンジン側プーリ104を取り付けている。コンプレッサ102は、例えばエアコン(空調装置)で使用されるものであり、コンプレッサ軸105にコンプレッサ側プーリ106を取り付けている。エンジン側プーリ104とコンプレッサ側プーリ106とには、ベルト107を巻き掛けている。
コンプレッサ102には、コンプレッサ軸105とコンプレッサ側プーリ106との間に電磁クラッチ108を介設している。電磁クラッチ108は、バッテリ109から電力を供給されると、電磁力を生じて接続する。また、電磁クラッチ108は、温度ヒューズ110を備えている。温度ヒューズ110は、所定温度以上になると熱で溶断し、バッテリ109から供給される電力を遮断することで、電磁クラッチ108を開放させる。電磁クラッチ108は、電磁クラッチ制御装置111の電磁クラッチ制御手段112によりバッテリ109の電力を供給・遮断され、接続・開放される。
【0003】
前記電磁クラッチ制御装置111は、図4に示すように、電磁クラッチ制御手段112により制御がスタートすると(S201)、エアコンON基本条件を満たしているか(エアコンスイッチONか、水温、吸気温の温度条件を満たしているか等)を判断する(S202)。
前記判断(S202)において、エアコンON基本条件を満たしていて、YESの場合は、バッテリ109から電力を供給して電磁クラッチ108を接続させ(S203)、スタート(S201)にリターンする(S204)。一方、前記判断(S202)において、エアコンON基本条件を満たしていず、NOの場合は、バッテリ7からの電力の供給を遮断して電磁クラッチ108を開放し(S205)、スタート(S201)にリターンする(S204)。
【0004】
こら電磁クラッチ制御装置111は、エアコンON基本条件を満たしている場合には、電磁クラッチ108にバッテリ109から電力を供給し、電磁クラッチ108を電磁力により接続させることで、コンプレッサ側プーリ106とコンプレッサ軸105とが接続され、コンプレッサ102にエンジン101の動力を伝達して駆動させる。
電磁クラッチ制御装置111は、電磁クラッチ108の接続後、上記判定を繰り返し、エアコンON基本条件を満たしてない場合には、電磁クラッチ108へのバッテリ109からの電力の供給を遮断し、電磁クラッチ108を電磁力の消滅により開放させることで、コンプレッサ側プーリ106とコンプレッサ軸105とが切断され、コンプッレッサ102に伝達されるエンジン101の動力を遮断して停止させる。
【0005】
従来の車両用コンプレッサの制御装置としては、電磁クラッチに温度ヒューズを設け、コンプレッサが加熱等の理由でロックしてベルトに滑りが生じ、滑りの熱で温度の温度ヒューズが溶断した場合に、電磁クラッチを開放してベルトの保護を図ったものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−16603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記図3・図4に示す電磁クラッチ制御装置111においては、電磁クラッチ108に電力を供給するバッテリ109の電源電圧が低下した場合に、図5に示すように電磁クラッチ108の電磁力が弱まり、電磁クラッチ108のトルク容量が小さくなり、電磁クラッチ108が滑ることにより発熱する。電磁クラッチ108は、この発熱で温度ヒューズ110が溶断すると、バッテリ109から供給される電源が遮断されるので、開放されることになる。
このため、電磁クラッチ制御装置111は、バッテリ109の電源電圧が低下し、電磁クラッチ108内に設けた温度ヒューズ110が熱で溶断すると、その後、電磁クラッチ108にバッテリ109から電力を供給することができず、電磁クラッチ108が接続できなくなるという問題があった。
【0008】
この発明は、エンジンの動力をコンプレッサに伝達・遮断する電磁クラッチの滑りによる発熱を抑え、温度ヒューズの溶断により電磁クラッチが接続できなくなることを防止し、コンプレッサを駆動することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、エンジンの動力により電磁クラッチを介して作動するコンプレッサと、前記電磁クラッチの接続を制御する電磁クラッチ制御手段とを備え、前記電磁クラッチに温度ヒューズを設け、前記温度ヒューズの溶断に伴い前記電磁クラッチが開放される車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置において、前記電磁クラッチの電源電圧値を検出する電圧検出手段を設け、前記電磁クラッチ制御手段は、前記電圧検出手段により検出される電圧値が予め設定された値未満の時には、前記電磁クラッチを開放することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置は、電磁クラッチの電源電圧が低下した時には電磁クラッチを開放するので、電磁クラッチの滑りによる発熱を抑えることができる。
この結果、この発明の車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置は、電磁クラッチに設けられた温度ヒューズの溶断が避けられるため、電磁クラッチの電源電圧が復帰した時には、電磁クラッチを接続してコンプレッサを駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図2】図2は電磁クラッチ制御装置の制御フローチャートである。(実施例)
【図3】図3は車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置のシステム構成図である。(従来例)
【図4】図4は電磁クラッチ制御装置の制御フローチャートである。(従来例)
【図5】図5は電圧に対するクラッチトルク容量を示す図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0013】
図1・図2は、この発明の実施例を示すものである。図1において、1は車両に搭載したエンジン、2は車両用コンプレッサ(以下「コンプレッサ」と記す。)である。エンジン1は、クランク軸3にエンジン側プーリ4を取り付けている。コンプレッサ2は、例えばエアコン(空調装置)で使用されるものであり、コンプレッサ軸5にコンプレッサ側プーリ6を取り付けている。エンジン側プーリ4とコンプレッサ側プーリ6とには、ベルト7を巻き掛けている。
コンプレッサ2には、コンプレッサ軸5とコンプレッサ側プーリ6との間に電磁クラッチ8を介設している。電磁クラッチ8は、バッテリ9に接続されている。電磁クラッチ8は、バッテリ9から電力を供給されると、電磁力を生じて接続される。また、電磁クラッチ8は、温度ヒューズ10を備えている。温度ヒューズ10は、所定温度以上になると熱で溶断し、バッテリ9から電磁クラッチ8に供給される電力を遮断することで、電磁クラッチ8を開放させる。
電磁クラッチ8は、電磁クラッチ制御装置11の電磁クラッチ制御手段12に接続されている。電磁クラッチ8は、電磁クラッチ制御手段12によりバッテリ9の電力を供給・遮断され、接続・開放される。電磁クラッチ制御装置11は、電磁クラッチ8に供給される電源電圧値を検出する電圧検出手段13をバッテリ9に設け、電磁クラッチ制御手段12に接続している。電磁クラッチ制御手段12は、電圧検出手段13により検出される電圧値が予め設定された値未満の時には、バッテリ9からの電力の供給を停止して電磁クラッチ8を開放する。
【0014】
前記電磁クラッチ制御装置11は、図2に示すように、電磁クラッチ制御手段12により制御がスタートすると(S101)、エアコンON基本条件を満たしているか(エアコンスイッチONか、水温、吸気温の温度条件を満たしているか等)を判断する(S102)。
前記判断(S102)において、エアコンON基本条件を満たしていて、YESの場合は、バッテリ9の電圧値があらかじめ設定した閾値以上であるかを判断する(S103)。この判断(S103)において、バッテリ9の電圧値が閾値以上で、YESの場合は、バッテリ9から電力を供給して電磁クラッチ8を接続させ(S104)、スタート(S101)にリターンする(S105)。
一方、前記判断(S102)において、エアコンON基本条件を満たしていず、NOの場合、また、前記判断(S103)において、バッテリ9の電圧値が閾値未満で、NOの場合は、バッテリ9からの電力の供給を遮断して電磁クラッチ8を開放し(S106)、スタート(S101)にリターンする(S105)。
【0015】
この電磁クラッチ制御装置11は、エアコンON基本条件を満たし、かつバッテリ9の電圧値が閾値以上の場合には、電磁クラッチ8にバッテリ9から電力を供給し、電磁クラッチ8を電磁力により接続させることで、コンプレッサ側プーリ6とコンプレッサ軸5とが接続され、コンプッレッサ2にエンジン1の動力を伝達して駆動させる。
電磁クラッチ制御装置11は、電磁クラッチ8の接続後、上記判定を繰り返し、エアコンON基本条件を満たしてない場合、または、バッテリ9の電圧値が閾値未満の場合には、電磁クラッチ8へのバッテリ9からの電力の供給を遮断し、電磁クラッチ8の電磁力を消して開放させることで、コンプレッサ側プーリ6とコンプレッサ軸5とが切断され、コンプッレッサ2に伝達されるエンジン1の動力を遮断して停止させる。
【0016】
このように、電磁クラッチ制御装置11は、電磁クラッチ8に電力を供給するバッテリ9の電源電圧が閾値未満に低下した時には電磁クラッチ8を開放するので、電圧低下で電磁力が弱まって電磁クラッチ8が滑ることを防止でき、電磁クラッチ8の滑りによる発熱を抑えることができる。
この結果、この電磁クラッチ制御装置11は、電磁クラッチ8に設けられた温度ヒューズ10の溶断が避けられるため、電磁クラッチ8の電源電圧が閾値以上に復帰した時には、電磁クラッチ8にバッテリ9から電力を供給することができ、電磁クラッチ8を接続してコンプレッサ2を駆動することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、電磁クラッチの電源電圧が低下したときの滑りによる発熱で温度ヒューズが溶断することを回避し、電源電圧が復帰したときに電磁クラッチを接続してコンプレッサを駆動することができるものであり、車両に搭載された空調装置等の機器にかぎらず、電磁クラッチを介して作動されるコンプレッサを備えた機器について利用することが可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 エンジン
2 コンプレッサ
3 クランク軸
4 エンジン側プーリ
5 コンプレッサ軸
6 コンプレッサ側プーリ
7 ベルト
8 電磁クラッチ
9 バッテリ
10 温度ヒューズ
11 電磁クラッチ制御装置
12 電磁クラッチ制御手段
13 電圧検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力により電磁クラッチを介して作動するコンプレッサと、
前記電磁クラッチの接続を制御する電磁クラッチ制御手段とを備え、
前記電磁クラッチに温度ヒューズを設け、
前記温度ヒューズの溶断に伴い前記電磁クラッチが開放される車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置において、
前記電磁クラッチの電源電圧値を検出する電圧検出手段を設け、
前記電磁クラッチ制御手段は、前記電圧検出手段により検出される電圧値が予め設定された値未満の時には、前記電磁クラッチを開放することを特徴とする車両用コンプレッサの電磁クラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82858(P2012−82858A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227449(P2010−227449)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】