説明

車両用シート

【課題】モータの駆動力によりシートバックをシートクッションに対して傾倒させるリクライニング機構を備えた車両用シートにおける鞭打ち性能を向上する。
【解決手段】車両用シート10では、センターシャフト64に低剛性部66,68,70が設けられており、低剛性部66,68,70以外の部分の曲げ剛性に比べて、低剛性部66,68,70の曲げ剛性が低く設定されている。このため、乗員Pの腰部がシートバック40の下部を押圧する際に、センターシャフト64が車両後方へ大きく撓む。これにより、乗員Pの腰部が車両後方へ移動することで、乗員Pの身体全体が車両後方へ移動されるため、乗員Pの胸部における加速度と乗員Pの頭部における加速度との差が大きくなることを抑制できる。したがって、鞭打ち性能を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動力によりシートバックをシートクッションに対して傾倒させるリクライニング機構を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートでは、モータの駆動力によってシートクッションに対してシートバックを傾倒させるリクライニング装置(所謂、「パワーリクライニング装置」)を備えたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
一方、車両用シートでは、レバーを操作して、シートバックに対するロックを解除することで、シートクッションに対するシートバックの傾倒角度を調整可能にすると共に、操作されたレバーを戻して、シートバックに対してロックすることで、シートバックを調整された位置に保持するリクライニング装置(所謂、「マニュアル式リクライニング装置」)を備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−31733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の後突等によって乗員に衝撃力が付与された際の乗員に対する鞭打ち評価として、鞭打ち傷害値指数(以下、「NIC」と称する)を用いた評価がある。このNICを用いた鞭打ち評価では、NICの値が低いほど鞭打ち性能が良好とされており、パワーリクライニング装置を備えた車両用シートにおけるNICの値に比して、マニュアル式リクライニング装置を備えた車両用シートにおけるNICの値が低いことを解明した。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、モータの駆動力によりシートバックをシートクッションに対して傾倒させるリクライニング機構を備えた車両用シートにおける鞭打ち性能を向上できる車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、前記シートクッションの車両後方端部に設けられ、乗員の背部を支えるシートバックと、前記シートクッションに対して前記シートバックを傾倒可能に支持し、作動することで前記シートバックを傾倒させる一対のリクライニングユニットと一方の前記リクライニングユニット側に設けられて駆動することで一方の前記リクライニングユニットを作動させるモータとを含んで構成されたリクライニング機構と、前記リクライニング機構の一部を構成しかつ中実棒状に形成され、前記シートバックの下部においてシート幅方向に延設されて一対の前記リクライニングユニットを連結すると共に、前記モータの駆動力を一方の前記リクライニングユニットから他方の前記リクライニングユニットへ伝達して他方の前記リクライニングユニットを作動させ、かつ軸方向の他の部分に比べて曲げ剛性の低い低剛性部が一体に形成された連結軸と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の車両用シートでは、シートクッションの車両後方端部にシートバックが設けられており、シートクッションに着座した乗員の背部がシートバックに支えられる。また、リクライニング機構によってシートクッションに対してシートバックが傾倒可能に支持されており、このリクライニング機構は、一対のリクライニングユニットと連結軸とを含んで構成されている。連結軸は、中実棒状に形成されると共に、シートバックの下部においてシート幅方向に延設されて一対のリクライニングユニットを連結している。これにより、着座乗員の腰部の車両後方に連結軸が配置されている。
【0009】
さらに、一方のリクライニングユニット側にはモータが設けられており、連結軸によってモータの駆動力が一対のリクライニングユニットに伝達される。これにより、モータの駆動力により、一対のリクライニングユニットが作動されて、シートクッションに対してシートバックが傾倒される。
【0010】
ところで、車両の後突等によって乗員に衝撃力が付与された際には、慣性力によって乗員が車両後方へ移動して、乗員の腰部が主にシートバックの下部を押圧する。さらに、NICを用いた鞭打ち評価では、一般に、乗員の頭部における加速度と乗員の胸部(第1胸骨部)における加速度との差が大きいほど、NICの値が高くなる。
【0011】
ここで、連結軸には低剛性部が一体に形成されており、低剛性部では他の部分に比して曲げ剛性が低く設定されている。このため、低剛性部の部位において連結軸が曲がり易く構成されており、連結軸全体の曲げ剛性が低く設定されている。これにより、乗員の腰部がシートバックの下部を押圧する際に、シートバックを介して連結軸が押圧されて、連結軸が車両後方へ大きく撓む。したがって、乗員の腰部が車両後方へ移動することで、乗員の身体全体を車両後方へ移動させることができるため、乗員の背部がシートバックに衝突した際の乗員の頭部における車両後方への加速度と乗員の胸部における車両後方への加速度との差が大きくなることを抑制できる。これにより、鞭打ち傷害値指数(NIC)の値を低くできる。
【0012】
請求項2に記載の車両用シートは、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向両端部に設けられている。
【0013】
請求項2に記載の車両用シートでは、連結軸のシート幅方向両端部に低剛性部が設けられているため、連結軸のシート幅方向両端部の部位において、連結軸が曲がり易く構成されている。また、連結軸は一対のリクライニングユニットを連結しているため、連結軸が両端支持梁として作用する。これにより、両端支持梁として撓み変形量の少ない部分、つまり連結軸のシート幅方向両端部において、連結軸が曲がりやすく構成されているため、連結軸の撓み量を効果的に大きくできる。
【0014】
請求項3に記載の車両用シートは、請求項1又は請求項2に記載の車両用シートにおいて、前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向中間部に設けられている。
【0015】
請求項3に記載の車両用シートでは、連結軸のシート幅方向中間部に低剛性部が設けられているため、連結軸のシート幅方向中間部の部位において連結軸が曲がり易く構成されている。また、慣性力によって乗員が車両後方へ移動する際には、乗員の腰部が主に連結軸の略シート幅方向中間部を押圧する。このため、連結軸における乗員の腰部が押圧する部位と低剛性部とを接近させることができる。これにより、連結軸のシート幅方向中間部を効率よく撓ませることができる。
【0016】
請求項4に記載の車両用シートは、請求項3に記載の車両用シートにおいて、前記連結軸のシート幅方向中間部に設けられた前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向中央部に対して他方の前記リクライニングユニット側へ配置されている。
【0017】
請求項4に記載の車両用シートでは、連結軸のシート幅方向中間部に設けられた低剛性部が、連結軸のシート幅方向中央部に対して他方のリクライニングユニット側へ配置されているため、連結軸のシート幅方向中間部に設けられた低剛性部が、モータが配置されていないリクライニングユニット側に寄って配置されている。
【0018】
ところで、リクライニング機構では、一般に、モータを含んだ駆動ユニットが、一対のリクライニングユニットの間に配置されている。また、上述したように、一対のリクライニングユニットの一方のリクライニングユニット側にモータが配置されている。このため、車両の後突時に乗員がシートバックを押圧した際に、乗員の上半身が他方のリクライニングユニット側(モータの配置されていないリクライニングユニット側)へ寄る傾向がある。これにより、連結軸における乗員の腰部が押圧する部位と低剛性部とを一層接近させることができるため、連結軸のシート幅方向中間部を一層効率よく撓ませることができる。
【0019】
請求項5に記載の車両用シートは、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記低剛性部の断面が円形状に形成されている。
【0020】
請求項5に記載の車両用シートでは、低剛性部の断面が円形状に形成されているため、連結軸が回転しても乗員に対する低剛性部の断面形状が一定の向きで配置される。このため、乗員が連結軸を押圧する際の押圧力に対する連結軸の断面2次モーメントを一定にできる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の車両用シートによれば、モータの駆動力によりシートバックをシートクッションに対して傾倒させるリクライニング機構を備えた車両用シートにおける鞭打ち性能を向上できる。
【0022】
請求項2に記載の車両用シートによれば、車両用シートにおける鞭打ち性能を効果的に向上できる。
【0023】
請求項3に記載の車両用シートによれば、車両用シートにおける鞭打ち性能を効率よく向上できる。
【0024】
請求項4に記載の車両用シートによれば、車両用シートにおける鞭打ち性能を一層効率よく向上できる。
【0025】
請求項5に記載の車両用シートによれば、連結軸の撓み量を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用シートに用いられるリクライニング機構を示すシート左斜め上方から見た斜視図である。
【図2】図1に示される車両用シートをシート左方から見た側面図である。
【図3】図1に示されるリクライニング機構を示すシート前方から見た概略図である。
【図4】比較例における車両の後突時の鞭打ち傷害値指数(NIC)を表すグラフである。
【図5】第1の実施の形態における車両の後突時の鞭打ち傷害値指数(NIC)を表すグラフである。
【図6】第2の実施の形態におけるリクライニング機構を示すシート前方から見た概略図である。
【図7】第3の実施の形態におけるリクライニング機構を示すシート前方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施の形態)
【0028】
図2には、本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート10の全体がシート左方から見た側面図にて示されている。なお、図面に適宜示される矢印FRはシート前方を示し、矢印RHはシート右方(シート幅方向一側)を示し、矢印UPは上方を示す。なお、車両用シート10は、シート前後方向を車両前後方向に一致させ、かつシート幅方向を車幅方向に一致させた状態で、車両に設置されている。
【0029】
この図に示されるように、車両用シート10は、乗員Pが着座するシートクッション20と、乗員Pの背部を支えるシートバック40と、シートクッション20を車両の車体フロアに連結するためのスライドレール12と、シートクッション20に対してシートバック40を傾倒可能に支持するリクライニング機構60と、を有している。
【0030】
スライドレール12は、車両用シート10の下部を構成している。スライドレール12は、一対の長尺状のロアレール14を有しており、一対のロアレール14は、シート前後方向に沿って平行に配置されている。ロアレール14は、車両前端部及び車両後端部において、レッグブラケット18を介して車体フロアに固定されている。各ロアレール14内には、アッパーレール16がそれぞれ設けられており、アッパーレール16はロアレール14に対してシート前後方向にスライド可能に支持されている。
【0031】
シートクッション20は、ロアレール14の上方に設けられている。シートクッション20は、車両後方に向かうに従い水平もしくは下向に傾斜して配置されており、シートクッション20の上部に乗員Pが着座する。シートクッション20の内部には、クッションフレーム22が設けられており、クッションフレーム22はシートクッション20の骨格を構成している。クッションフレーム22は、シート幅方向両側部において、一対のクッションサイドフレーム24を有しており、クッションサイドフレーム24はそれぞれアッパーレール16に固定されている。
【0032】
図1に示すように、クッションサイドフレーム24の車両後方端部には、ヒンジブラケット26が設けられている。ヒンジブラケット26は、板金により製作されると共に略三角形状に形成されており、ヒンジブラケット26の下部が、一対の締結ボルト28及び締結ナット30によってクッションサイドフレーム24に締結されている。また、ヒンジブラケット26には、上部において、後述するリクライニング機構60のリクライニングユニット62R,62Lを組付けるための組付部32が設けられている。
【0033】
図2に示すように、シートバック40は、シートクッション20の車両後方端部に起立した状態で設けられている。シートバック40の内部には、バックフレーム42が設けられており、バックフレーム42はシートバック40の骨格を構成している。バックフレーム42には、シート幅方向両側部において、一対のバックサイドフレーム44が設けられており、バックサイドフレーム44は、後述するリクライニング機構60を介してヒンジブラケット26に連結されている。
【0034】
バックフレーム42には、上部において、アッパーフレーム46が設けられている。アッパーフレーム46は、車両前方から見て略逆U字形状に形成されており、アッパーフレーム46の両端部が、バックサイドフレーム44の上部に溶接等で結合されている。アッパーフレーム46のシート幅方向中間部には、略矩形筒状の一対のホルダ48が設けられており、ホルダ48内には、後述するヘッドレスト50を保持するためのグロメット(図示省略)が設けられている。
【0035】
シートバック40の上方には、ヘッドレスト50が設けられている。ヘッドレスト50内には、ステー52が設けられており、ステー52は、ヘッドレスト50から下方へ突出されて、グロメット内に保持されている。これにより、ヘッドレスト50がシートバック40の上方に組付けられている。
【0036】
次に、本発明の要部であるリクライニング機構60について説明する。図1及び図3に示すように、リクライニング機構60は、一対のリクライニングユニット62R,62Lと、連結軸としてのセンターシャフト64と、を含んで構成されている。
【0037】
一対のリクライニングユニット62R,62Lは、それぞれ略円盤状に形成されている。一対のリクライニングユニット62R,62Lは、それぞれ、ヒンジブラケット26の組付部32とバックサイドフレーム44の下部との間に配置されて、両者に組付けられている。リクライニングユニット62R,62Lは、シートクッション20に対してシートバック40を傾倒可能に支持しており、リクライニングユニット62R,62Lが作動されることで、シートクッション20に対してシートバック40が傾倒されるように構成されている。
【0038】
センターシャフト64は、ブローチ引き抜き材により略中実丸棒状に形成されており、センターシャフト64の外周部がスプライン状に形成されている。センターシャフト64のシート右方端は、シート右方(一方)のリクライニングユニット62Rに連結されており、センターシャフト64のシート左方端は、シート左方(他方)のリクライニングユニット62Lに連結されている。これにより、センターシャフト64が、シートバック40の下部において、シート幅方向に延設されており、乗員Pがシートクッション20に着座した際に、センターシャフト64の車両前方に乗員Pの腰部が配置される。また、このセンターシャフト64が回転することで、リクライニングユニット62R,62Lが作動されるように構成されている。
【0039】
さらに、リクライニング機構60は、駆動ユニット72を備えている。駆動ユニット72は、一対のリクライニングユニット62R,62Lの間に設けられると共に、リクライニング機構60のリクライニングユニット62R側に配置されている。この駆動ユニット72はモータ(図示省略)とギヤユニット(図示省略)とを有している。モータはギヤユニットを介してセンターシャフト64のシート右方端に連結されており、これにより、モータが駆動することで、センターシャフト64が回転されると共に、モータの駆動力が一対のリクライニングユニット62R,62Lに伝達されるように構成されている。
【0040】
センターシャフト64には、シート幅方向両端部及びシート幅方向中間部において、3箇所の低剛性部66,68,70が一体に設けられている。低剛性部66,68,70は、例えば切削加工等でセンターシャフト64の外周部を切削することで形成されており、低剛性部66,68,70の断面が円形状に形成されると共に、低剛性部66,68,70の径寸法がセンターシャフト64の外径寸法に比して小さく設定されている。これにより、シート幅方向(センターシャフト64の軸方向)において、センターシャフト64の低剛性部66,68,70以外の部分における曲げ剛性に比べて、低剛性部66,68,70の曲げ剛性が低く設定されている。
【0041】
次に、第1の実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
第1の実施の形態の車両用シート10では、車両用シート10に乗員Pが着座している状態で、車両後方から他の車両によって車両が衝突(後突)された場合や車両が後方に走行している際に他の車両等に車両が衝突した場合に、乗員Pに車両後方への慣性力が作用する。この際には、この慣性力によって、乗員Pがシートバック40側(車両後方)へ移動して、乗員Pの上半身がシートバック40を車両後方へ押圧する。
【0043】
次に、乗員Pの上半身がシートバック40を押圧する際の乗員Pの挙動について、以下に示す比較例と比較して説明する。なお、比較例の車両用シート10’では、リクライニング機構60’のセンターシャフト64’に本発明の低剛性部66,68,70が省略されている。
【0044】
比較例のシートバック40’を乗員Pの上半身が押圧する際には、乗員Pの腰部が主にシートバック40’の下部を押圧する。比較例では、センターシャフト64’に低剛性部66,68,70が省略されているため、センターシャフト64’全体の曲げ剛性が比較的高く設定されている。このため、乗員Pの腰部がシートバック40’の下部を押圧する際に、シートバック40’を介してセンターシャフト64が押圧されるが、センターシャフト64’の撓み変形が抑制されて(センターシャフト64’の撓み量が小さくなり)、乗員Pの腰部の車両後方への移動が抑制される。これにより、乗員Pの上半身が、乗員Pの腰部を回転中心として、車両後方へ回動するため、乗員Pの胸部における加速度と乗員の頭部における加速度との差が大きくなる。
【0045】
さらに、図4に示すように、比較例における車両用シート10’を鞭打ち傷害値指数(NIC)を用いて表すと、車両用シート10’では、車両の後突時から約75msecにおいて、NICの値が最大となる。なお、図4では、横軸を車両後突時からの時間として、縦軸を鞭打ち傷害値指数(NIC)としている。
【0046】
一方、第1の実施の形態における車両用シート10では、上述と同様に、シートバック40を乗員Pの上半身が押圧する際に、乗員Pの腰部が主にシートバック40の下部を押圧する。
【0047】
ここで、センターシャフト64には低剛性部66,68,70が一体に形成されており、センターシャフト64の低剛性部66,68,70以外の部分の曲げ剛性に比べて、低剛性部66,68,70の曲げ剛性が低く設定されている。これにより、低剛性部66,68,70の部位において、センターシャフト64が曲がり易く構成されており、比較例のセンターシャフト64’全体に比べて、センターシャフト64全体の曲げ剛性が低く設定されている。
【0048】
このため、乗員Pの腰部がシートバック40の下部を押圧する際に、シートバック40を介してセンターシャフト64が押圧されて、センターシャフト64が車両後方へ大きく撓む。これにより、乗員Pの腰部が車両後方へ移動することで、乗員Pの身体全体が車両後方へ移動されるため、上記比較例に比べて、乗員Pの胸部における加速度と乗員Pの頭部における加速度との差が大きくなることを抑制できる。
【0049】
さらに、図5に示すように、第1の実施の形態における車両用シート10を鞭打ち傷害値指数(NIC)を用いて表すと、車両用シート10では、車両の後突時から約75msecにおいて、NICの値が最大となる。なお、図5では、横軸を車両後突時からの時間として、縦軸を鞭打ち傷害値指数(NIC)としている。また、鞭打ち傷害値指数(NIC)を用いた評価では、一般に、乗員Pの胸部における加速度と乗員の頭部における加速度との差が小さいほど、NICの値が低くなり、鞭打ち性能が良好になる。したがって、図4及び図5から明らかなように、前述した比較例におけるNICの最大値に比して、第1の実施の形態におけるNICの最大値が大幅に低減されて、比較例に対して鞭打ち性能を大幅に向上できる。
【0050】
以上により、モータの駆動力によりシートバック40をシートクッション20に対して傾倒させるリクライニング機構60を備えた車両用シート10における鞭打ち性能を向上できる。
【0051】
また、第1の実施の形態における車両用シート10は、所謂マニュアル式リクライニング装置(手動操作によりシートクッションに対するシートバックの傾倒角度を調整可能にする装置)を備えた車両用シートと略同等の鞭打ち性能を得ることができる。
【0052】
この点について詳述すると、マニュアル式リクライニング装置では、モータが省略されており、モータの駆動力をリクライニングユニットにセンターシャフトが伝達する必要がないため、一般に、センターシャフトが円筒状のパイプ材で製作されている。これにより、上述した比較例のセンターシャフト64’の曲げ剛性に比べてマニュアル式リクライニング装置のセンターシャフトの曲げ剛性も低く設定されている。したがって、車両の後突によって乗員の腰部がセンターシャフトを押圧する際に、センターシャフトが車両後方へ大きく撓み、比較例における車両用シート10’に比べて、マニュアル式リクライニング装置を備えた車両用シートの鞭打ち性能も良好にされている。そして、第1の実施の形態では、センターシャフト64に低剛性部66,68,70を設けることで、車両用シート10が、マニュアル式リクライニング装置を備えた車両用シートと略同等の鞭打ち性能を得ることができる。
【0053】
さらに、センターシャフト64の両端は一対のリクライニングユニット62R,62Lを連結しているため、センターシャフト64が両端支持梁として作用する。また、車両用シート10では、センターシャフト64のシート幅方向両端部に低剛性部66,70が設けられている。このため、両端支持梁として撓み変形量の少ない部分、つまりセンターシャフト64のシート幅方向両端部において、センターシャフト64が曲がりやすく構成されているため、センターシャフト64の撓み量を効果的に大きくできる。これにより、車両用シート10における鞭打ち性能を効果的に向上できる。
【0054】
また、乗員Pの上半身がシートバック40を押圧する際には、乗員Pの腰部が主にセンターシャフト64の略シート幅方向中間部を押圧する。さらに、センターシャフト64のシート幅方向中間部に低剛性部68が設けられている。このため、センターシャフト64における乗員Pの腰部が押圧する部位と低剛性部68とを接近させることができる。これにより、センターシャフト64のシート幅方向中間部を効率よく撓ませることができるため、車両用シート10における鞭打ち性能を効率よく向上できる。
【0055】
さらに、低剛性部66,68,70の断面形状は円形状に形成されている。このため、モータの駆動によってセンターシャフト64が回転しても、乗員Pに対する低剛性部66,68,70の断面形状が一定の向きで配置される。これにより、乗員Pがセンターシャフト64を押圧する際の押圧力に対するセンターシャフト64の断面2次モーメントを一定にできる。したがって、センターシャフト64の撓み量を安定化できる。
【0056】
(第2の実施の形態)
【0057】
図6には、第2の実施の形態に係る車両用シート100のリクライニング機構60がシート前方から見た概略図で示されている。第2の実施の形態では、第1の実施の形態と略同様の構成であるが、以下の点で異なる。
【0058】
第2の実施の形態におけるセンターシャフト64では、シート幅方向中間部に配置された低剛性部68が省略されている。つまり、第2の実施の形態におけるセンターシャフト64には、シート幅方向両端部において、2箇所の低剛性部66,70が設けられている。このため、第1の実施の形態で示した比較例のセンターシャフト64’の曲げ剛性に対して、第2の実施の形態におけるセンターシャフト64の曲げ剛性も低く設定されている。
【0059】
これにより、第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0060】
(第3の実施の形態)
【0061】
図7には、第3の実施の形態に係る車両用シート200のリクライニング機構60がシート前方から見た概略図で示されている。第3の実施の形態では、第1の実施の形態と略同様の構成であるが、以下の点で異なる。
【0062】
第3の実施の形態におけるセンターシャフト64では、シート幅方向中間部に配置された低剛性部68が、センターシャフト64のシート幅方向中央部に対して、シート左方(駆動ユニット72が配置されていない側)に配置されている。つまり、シート幅方向中間部に配置された低剛性部68が、リクライニングユニット62L側へ寄って配置されている。このため、第1の実施の形態で示した比較例のセンターシャフト64’の曲げ剛性に対して、第3の実施の形態におけるセンターシャフト64の曲げ剛性も低く設定されている。
【0063】
これにより、第3の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0064】
また、リクライニング機構60の駆動ユニット72は、一対のリクライニングユニット62R、62Lの間に設けられると共に、リクライニングユニット62R側に配置されている。このため、車両の後突時に乗員がシートバック40を押圧した際に、乗員の上半身が他方のリクライニングユニット62L側(駆動ユニット72の配置されていない側)へ寄る傾向がある。
【0065】
ここで、低剛性部68が、センターシャフト64のシート幅方向中央部に対して、シート左方(リクライニングユニット62L側)に配置されている。このため、センターシャフト64における乗員Pが押圧する部位と低剛性部68とを一層接近させることができる。これにより、センターシャフト64のシート幅方向中間部を一層効率よく撓ませることができるため、車両用シート10における鞭打ち性能を一層効率よく向上できる。
【0066】
なお、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び第3の実施の形態における低剛性部66,68,70のシート幅方向の寸法は、任意に設定できる。例えば、第1の実施の形態を用いて説明すると、センターシャフト64のシート幅方向中間部に設けられた低剛性部68のシート幅方向の寸法に比べて、センターシャフト64のシート幅方向両端部に設けられた低剛性部66,70のシート幅方向の寸法を大きく設定してもよい。これにより、センターシャフト64の撓み変形量を一層大きくできる。
【0067】
また、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び第3の実施の形態では、低剛性部66,68,70の断面が円形状に形成されているが、低剛性部66,68,70の断面形状はこれに限らない。例えば、低剛性部66,68,70の断面を矩形状に形成してもよいし、トラック形状に形成してもよい。
【0068】
さらに、第1の実施の形態、第2の実施の形態、及び第3の実施の形態では、クライニング機構60のシート右方の部分において、駆動ユニット72(モータ)が設けられているが、駆動ユニット72(モータ)が、クライニング機構60のシート左方の部分に設けられてもよい。この場合における第3の実施の形態では、低剛性部68が、センターシャフト64のシート幅方向中央部に対して、シート右方(リクライニングユニット62R側)に配置される。
【0069】
また、第1の実施の形態及び第3の実施の形態では、センターシャフト64に低剛性部66,68,70が設けられており、第2の実施の形態では、センターシャフト64に低剛性部66,70が設けられている。これに替えて、センターシャフト64に低剛性部68のみを設けてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 車両用シート
20 シートクッション
40 シートバック
60 リクライニング機構
62R リクライニングユニット
62L リクライニングユニット
64 センターシャフト(連結軸)
66 低剛性部
68 低剛性部
70 低剛性部
100 車両用シート
200 車両用シート
P 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートクッションと、
前記シートクッションの車両後方端部に設けられ、乗員の背部を支えるシートバックと、
前記シートクッションに対して前記シートバックを傾倒可能に支持し、作動することで前記シートバックを傾倒させる一対のリクライニングユニットと一方の前記リクライニングユニット側に設けられて駆動することで一方の前記リクライニングユニットを作動させるモータとを含んで構成されたリクライニング機構と、
前記リクライニング機構の一部を構成しかつ中実棒状に形成され、前記シートバックの下部においてシート幅方向に延設されて一対の前記リクライニングユニットを連結すると共に、前記モータの駆動力を一方の前記リクライニングユニットから他方の前記リクライニングユニットへ伝達して他方の前記リクライニングユニットを作動させ、かつ軸方向の他の部分に比べて曲げ剛性の低い低剛性部が一体に形成された連結軸と、
を備えた車両用シート。
【請求項2】
前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向両端部に設けられた請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向中間部に設けられた請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記連結軸のシート幅方向中間部に設けられた前記低剛性部が前記連結軸のシート幅方向中央部に対して他方の前記リクライニングユニット側へ配置された請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記低剛性部の断面が円形状に形成された請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−91390(P2013−91390A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234149(P2011−234149)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】