説明

車両用ストラットタワーバー

【課題】ストラットタワーの上端部を連結するストラットタワーバーにおいて、コストを抑えて対人保護性を向上する。
【解決手段】左右のストラットタワーの上端部に夫々取り付けるブラケット2と、ブラケット2間を連結する所定形状の棒状のタワーバー本体1とを有するストラットタワーバーにおいて、タワーバー本体1の両端部に、車両上方に開口する締結溝11を形成し、その締結溝11にボルト3を挿通してブラケット2に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両が歩行者に接触した際の衝撃から歩行者を保護する車両用ストラットタワーバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、フロントガラスを支持すると共にワイパー回転軸が取り付けられるカウルアッパーパネルを、板厚の大きい厚肉部と板厚の小さい薄肉部とからなる複合材によって一体形成し、且つ上記ワイパー回転軸の取り付け部を薄肉部に設定するなど、局部的に剛性を低下させる構造とすることで、歩行者の接触時に薄肉部を適度に変形させて歩行者に対するダメージを低減するというものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、フロントバンパに設置されたセンサにより歩行者との接触を検出したとき、フードを覆うようにエアバッグを展開して、歩行者への衝撃を吸収するというものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−80543号公報(第3頁、図4)
【特許文献2】特開平8−258667号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、車体の左右両側に設けられたストラットタワーの上端部間をストラットタワーバーで相互に連結することにより、車両の補強及び剛性の向上が図られており、このような車両が歩行者と接触した場合、強度の強いストラットタワーバーが歩行者に衝撃を与えることが懸念される。
上記特許文献1に記載の従来例にあっては、局部的に剛性を低下させて車体を変形し易くする構造としているので、ストラットタワーバーを設置している車両が歩行者と接触する場合に、ストラットタワーバーの反力により歩行者が衝撃を受ける可能性があるという未解決の課題がある。
【0005】
また、厚肉部と薄肉部とを設定しているため、車体成形時にコストと手間がかかると共に、薄肉部の変形後、エンジン等の動力部への干渉により走行に支障をきたす可能性があるという未解決の課題がある。
また、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、エンジンルーム内にフードエアバッグ装置を収納する必要があるので、レイアウトやコスト面で不利であると共に、フードエアバッグの展開はセンサからの入力信号に基づいて制御されるので、誤作動が起こる可能性があるという未解決の課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、コストを抑えて対人保護性を向上することができる車両用ストラットタワーバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用ストラットタワーバーは、左右のストラットタワーの上端部に夫々取り付ける取付部材と、前記取付部材間を連結するタワーバー本体とを備え、前記タワーバー本体の両端部に、車両上方に開口する溝を形成し、その溝に連結部材を挿通し、当該連結部材を前記取付部材に固定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タワーバー本体の両端部に車両上方に開口する溝を設けてブラケットと締結するので、フード上に衝撃を受けてタワーバーに上からの力が作用した場合には、タワーバーがブラケットから比較的容易に脱落する。そのため、走行中の車両が歩行者と接触し、歩行者がフード上に乗り上げた場合には、タワーバーがブラケットから脱落して反力が零になるので、ストラットタワーバーからの反力により歩行者が受ける衝撃を軽減し、対人保護性を向上することができると共に、追加部材を必要としない構成であるので、コストを大幅に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるストラットタワーバーの概略構成を示す斜視図であり、図中1は所定の肉厚の中空部材から成るタワーバー本体、2は車両の前部左右に設けられたストラットタワー上端部に固定される取付部材としてのブラケットである。タワーバー本体1とブラケット2は、タワーバー本体1の両端部の締結部A及びBでボルト3によって締結され、これにより、左右のストラットタワーの上端部間を連結するように構成されている。
【0010】
一般に、ストラットタワーバーは、エンジンルーム内で、エンジンを挟んで車両左右方向に設けられたストラットタワーの両上端部に直接取り付けられ、両ストラットタワーの上端部間がストラットタワーバーにて連結される。これにより、車両の側面方向からの荷重に対するフロントストラットタワーの支持剛性がより一層高くなり、ストラットタワーの倒れ防止を行うようにしている。
【0011】
ブラケット2は、ストラットタワーの上端部に挿入し固定する略円形の取付部材本体21と、この取付部材本体21の周縁部から連続して形成され、タワーバー本体1に連結するためのアーム部22とから構成されている。このアーム部22によって、タワーバー本体1を車両前後方向から挟み込む状態で締結する。
図2は、締結部Aの詳細を示す図であり、図2(a)は、タワーバー本体1とブラケット2との締結前の状態を示している。タワーバー本体1には車両上方に開口するU字型の締結溝11が設けられており、ブラケット2のアーム部22には締結穴23が設けられている。
【0012】
そして、図2(b)に示すように、タワーバー本体1とブラケット2とを向かい合わせて配置し、ブラケット2のアーム部22でタワーバー本体1を挟み込む状態で締結溝11と締結穴23とを一致させ、その穴にボルト3を挿入し、図示しないナットで固定することにより両者を締結するように構成されている。
ブラケット2のアーム部22には、タワーバー本体1との締結状態において、タワーバー本体1の下部にアーム部22の部材が存在しないように切り欠き部が設けられているものとする。
【0013】
このような構成とすることにより、タワーバー本体1に車両上下方向の上からの力が作用した場合には、タワーバー本体1がブラケット2から比較的容易に脱落する。逆にタワーバー本体に車両前後又は左右方向の力が作用した場合には、タワーバーの動きを規制し剛性を保つ。
図3は、車両前部の平面図であり、太実線はフードインナーに設けられているフード補強等を目的とした凸部(以下、エンボス部と称す)の配置を示している。また、破線はストラットタワーバーを連結した場合の位置状態を示している。なお、直線OYは、車両前左右輪を通る直線である。この図3に示すように、フードヒンジEからストライカーFに向けてフードインナーのエンボス部を設け、このエンボス部がストラットタワーバーの締結部A近傍の上部を通るようにする。
【0014】
図4は、図3の直線OYにおける断面図を示しており、図中4aはフードアウター、4bはフードインナーである。フードインナー4bにはエンボス部4cが設けられており、C部は図3におけるフードヒンジEとストライカーFとを結ぶエンボス部の断面を示している。本実施形態では、このフードインナーのエンボス部Cが、タワーバー本体1とブラケット2との締結部A付近において、タワーバー本体側の上方を通るように締結部Aの位置を設定するように構成されている。
【0015】
これにより、フード上に衝撃を受けてフードが撓むと、エンボス部Cがタワーバー本体1に接触し、タワーバー本体1を車両下方向へ押し込むことになりブラケット2から脱落させ易くなる。
ところで、ストラットタワーバーは、前述したように、エンジンルーム内で、エンジンを挟んで車両左右方向に設けられたストラットタワーの両上端部に直接取り付けられるものであり、取付後のストラットタワーバーの下にはエンジン等の動力部が設けられている。そのため、フードの撓みによりタワーバー本体1がブラケット2から脱落した場合、エンジンルーム内の隙間にタワーバー本体1が入り込み、動力部へ影響を与える可能性がある。
【0016】
そこで、本実施形態では、図5に示すように、タワーバー本体1とブラケット2とを離脱量規制部材としてのワイヤ5で接続する。このワイヤ5は所定の長さを有しており、タワーバー本体1が脱落した後、必要以上に上下左右に動くことを規制する。
つまり、タワーバー本体1にワイヤ5を通す穴12a及び12bを設けると共に、ブラケット2にもワイヤ5を通す穴24a及び24bを設け、図5に示すように、穴24aから穴12a、12b、24bの順にワイヤ5を通すことにより、タワーバー本体1とブラケット2とを連結する。なお、ワイヤ5の両端には抜け防止5aを施す。
【0017】
ここで、ワイヤ5の長さは、タワーバー本体1がブラケット2から脱落したとき、タワーバーの下部に配置されているエンジン等の動力部への巻き込みを考慮し、タワーバー本体1の脱落後、エンジンルーム内の隙間にタワーバー本体1が入り込んで動力部へ影響を与えることのない程度に設定する。
これにより、タワーバー本体1がブラケット2から脱落した場合でも、ブラケット2からの離脱量が規制されて、必要以上に両者が離れることはないので、タワーバー本体1が動力部へ巻き込まれることを確実に防止することができる。
【0018】
また、本実施形態では、図6に示すように、タワーバー本体の断面構造を凹凸形状のビードを有するハニカム構造とする。このような構造とすることにより、車両上下方向に対しては潰れ易くし、車両左右方向に対しては更に剛性を上げるようにする。
これにより、タワーバー本体がブラケットから脱落した後、エンジン等の構造物に接触したときには潰れ易くなることから、対人保護性をさらに向上することができる。また、左右方向に対しては剛性が上がるため、ストラットタワーバー性能を向上することができ、車体の補強度を上げることができる。さらに、タワーバー本体の軽量化を実現することができるので、加速悪化や悪路走行時の燃費悪化を抑制することができる。
【0019】
次に、本発明の実施形態における動作を説明する。
今、ストラットタワーバーを設けた車両が、走行中に歩行者と接触し、歩行者が車両のフード上に乗り上げたものとする。この場合には、フード上から衝撃を受けてフードが撓む。このとき、図4に示すように、フードインナーにはエンボス部Cが設けられており、このエンボス部Cは、タワーバー本体1とブラケット2との締結部A近傍で、且つタワーバー本体1の上部を通る位置に設けられているので、フードの撓みによってエンボス部Cがタワーバー本体1に接触して車両下方向に押し込むことになる。
【0020】
ここで、タワーバー本体1とブラケット2との締結部Aは、図2に示すように、タワーバー本体1に設けられた車両上方に開口したU字型の締結溝11とブラケット2に設けられた締結穴23とを一致させてボルト3で締結する構成となっているので、タワーバー本体1が車両上方向から力を受けると、締結溝11の作用によりタワーバー本体1がブラケット2から脱落することになる。
【0021】
つまり、図7に示すように、エンボス部Cがタワーバー本体1の締結部A付近を押し込むことにより、タワーバー本体1がブラケット2から脱落する。
このエンボス部Cは、タワーバー本体1を押し込んでブラケット2から脱落しやすくするだけでなく、フード上のどの位置に衝撃が加わっても最初にタワーバー本体1の締結部A付近が押し込まれるような働きをするためのものである。これにより、タワーバー本体1の脱落モードを安定させることができる。
【0022】
その後、タワーバー本体1はブラケット2から完全に脱落した状態となるが、タワーバー本体1とブラケット2とは、図5に示すように、ワイヤ5で所定の距離以上離れないように接続されているので、タワーバー本体1が必要以上に上下左右に動くことが規制される。
これにより、例えば、ブラケット2から脱落したタワーバー本体1が、エンジンルーム内の隙間に入り込み、エンジン等の動力部に巻き込まれることにより、その後の走行に支障をきたす等の不具合を確実に防止することができる。
【0023】
このように、上記実施形態では、左右のストラットタワーの上端部に固定されるブラケットと、これら左右のブラケットに両端部が締結されるタワーバー本体とを有するストラットタワーバーにおいて、タワーバー本体のブラケットとの締結部に、車両上方に開口したU字型の締結溝を設け、この締結溝とブラケットに設けられた締結穴とをボルトで締結するので、タワーバー本体に上からの力が与えられたときには、U字型の締結溝の作用によりタワーバー本体がブラケットから脱落し易くすることができる。
【0024】
そのため、このようなストラットタワーバーを設けた車両が走行中に歩行者と接触し、歩行者がフード上に乗り上げた場合には、その衝撃によってフードが撓むことによりタワーバー本体に上からの力が与えられて、タワーバー本体が容易にブラケットから脱落し、タワーバーからの反力が零となるので、強度の強いストラットタワーバーによって歩行者が受ける衝撃を軽減し、対人保護性を向上することができる。
【0025】
また、車両左右方向の力が加わった場合には、タワーバーの動きを規制することができるので、ストラットタワーの支持剛性を高めることができ、車両を補強することができる。
さらに、フードインナーに既設されているエンボス部が、タワーバー本体とブラケットとの締結部近傍且つタワーバー本体上方を通るように、当該締結部の位置を設定するので、フード上に衝撃を受けた場合には、エンボス部によってタワーバー本体を車両下方向に押し込み、タワーバー本体をブラケットからより脱落し易くすることができると共に、フード上のどの位置に衝撃が加わっても、その衝撃が中央や端部に寄らず、最初にエンボス部がタワーバー本体に接触するので、タワーバー本体の脱落モードを安定させることができ、対人保護性を安定させることができる。
【0026】
また、エンボス部とタワーバー本体との物理的接触によりタワーバー本体が脱落するので、例えば、歩行者との接触を検出するセンサ等を設け、そのセンサの入力信号に基づいて対人保護装置を作動させる場合等と比較して、誤作動を起こすことがなく、対人保護の安定性と信頼性を向上することができる。
さらにまた、フードインナーのエンボス部をフードヒンジからストライカーに向けて繋げるので、フード剛性を向上することができると共に、音振性能にも有利となる。
【0027】
また、タワーバー本体とブラケットとを所定の長さのワイヤで接続するので、タワーバー本体がブラケットから脱落した後、タワーバー本体がエンジンルーム内の隙間に入り込み、エンジン等の動力部に巻き込まれることにより、その後の走行に支障をきたす等の不具合を確実に防止することができると共に、タワーバー本体の脱落後の修理が容易である。
【0028】
さらに、追加部材(装置)を必要としない構成であるので、コストを大幅に抑えることができる。また、ストラットタワーバーを設置するスペースがあれば設定可能であるため、エンジンルーム内のレイアウトの問題がない。
また、タワーバー本体の断面構造をビード付きハニカム構造とするので、車両上下方向の力に対して非常に潰れ易くなり、タワーバー本体がブラケットから脱落した後、エンジン等の構造物に接触してからも反力を低減することができ、対人保護性をさらに向上することができる。
【0029】
さらに、車両左右方向に対しては剛性を向上することができるので、ストラットタワーバー性能を向上することができ、車体の補強度を上げることができる。また、タワーバー本体の軽量化を実現することができるので、加速悪化や悪路走行時の燃費悪化を抑制することができる。
なお、上記実施形態においては、タワーバー本体におけるブラケットとの締結部は、車両上方に開口するU字型の締結溝を形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、タワーバー本体とブラケットとを角材によって締結する場合などでは、矩形状の締結溝を形成するようにしてもよく、車両上方に開口する溝であればよい。
【0030】
また、上記実施形態においては、図5に示すように、タワーバー本体とブラケットに夫々2つのワイヤ通し穴を設け、所定の長さを有するワイヤによって両者を連結する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、タワーバー本体のブラケットからの離脱量を規制することができる連結手法であればよく、更には、タワーバー本体の脱落時に動力部へ巻き込まれないよう動きを規制するような他の離脱量規制部材(例えば、チェーン、ベルト等)を適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態におけるストラットタワーバーの概略構成図である。
【図2】タワーバー本体とブラケットとの締結部の詳細を示す図である。
【図3】フードインナーのエンボス部を示す図である。
【図4】フードインナーエンボス部とストラットタワーバー締結部との位置関係を示す図である。
【図5】タワーバー本体とブラケットとのワイヤによる連結を示す図である。
【図6】タワーバー本体の断面構造を示す図である。
【図7】タワーバー本体の脱落時を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 タワーバー本体
2 ブラケット
3 ボルト
4a フードアウター
4b フードインナー
4c フードインナーエンボス部
5 ワイヤ
11 締結溝
12a,12b ワイヤ通し穴
21 取付部材本体
22 アーム部
23 締結穴
24a,24b ワイヤ通し穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部左右に設けられたストラットタワーの上端部間を連結する車両用ストラットタワーバーにおいて、
前記左右のストラットタワーの上端部に夫々取り付ける取付部材と、前記取付部材間を連結する所定形状の棒状のタワーバー本体とを備え、前記タワーバー本体の両端部に、車両上方に開口する溝を形成し、その溝に連結部材を挿通し、当該連結部材を前記取付部材に固定することを特徴とする車両用ストラットタワーバー。
【請求項2】
フードインナーに設けられた凸部が、前記タワーバー本体の上方で且つ前記タワーバー本体と前記取付部材との締結部近傍に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ストラットタワーバー。
【請求項3】
前記タワーバー本体が前記取付部材から脱落したとき、前記タワーバー本体の前記取付部材からの離脱量を規制する離脱量規制部材を、前記タワーバー本体と前記取付部材との間に介装するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ストラットタワーバー。
【請求項4】
前記タワーバー本体は、ビード付きハニカム構造としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用ストラットタワーバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−7912(P2006−7912A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186328(P2004−186328)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】