説明

車両用ディフューザー

【課題】仕切り壁、仕切りリブ及び薄肉壁部を設けることで、雪や氷の侵入を防ぎ、凝固した氷が車両の前後動に応じて移動する際に生じる騒音を抑制し、後突時に衝突エネルギーを吸収する車両用ディフューザーを提供する。
【解決手段】車両床下部に配置され、底板2と、この底板2の各辺に立設された前壁3、両側壁4及び後壁5とを備え、箱型に構成された車両用ディフューザー1において、底板2の各側壁4,4の間には、車両の幅方向に延在し底板2の前後を仕切る仕切り壁7が設けられており、雪や氷などの侵入を防ぐことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペアタイヤ搭載部下のフロアパネル下面に取り付けられる床下空力部品である樹脂製の車両用ディフューザーに係り、特に仕切り壁や仕切りリブを設け、側壁部に薄肉壁部を設けた車両用ディフューザーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行安定性の向上と低燃費化を図るため車両床下側には空力特性を向上させるために、車両用ディフューザーを備えることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用ディフューザーは、車両後部のフロアーパネルの下面に配設された左右一対のアンダーカバーを備えており、また、リヤバンパーに向けて斜め上方に傾斜する車両後部外面とサイレンサーとの間に垂直下方に延在する仕切り板が配設されている。そして、この仕切り板がリヤバンパーと車両後部外面との間を流れる走行風を整流し、高速走行時の安定性、快適性を向上させることができるようになっている。
【0004】
また、道路と車両の床下部とが接触した際に衝撃を吸収する整流フィンを備えた技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
この整流フィン構造は、車両後部のタイヤホイールハウスからリヤバンパーにかけて床下面を覆うリヤアンダーカバーの外側に、車幅方向に対して等間隔に突出した整流フィンが設けられており、整流フィンには、車両前方の薄肉部と後端部付近の肉厚部とが設けられている。そして、整流フィンが床下外側の気流の乱れを防ぐことで高速走行時の安定性、快適性を向上させることができる。また、整流フィンが薄肉部と肉厚部とに分かれていることにより道路と車両の床下部とが接触した場合には整流フィンが変形して衝撃を吸収するので、リヤアンダーカバーの損傷を最小限にすることができるものである。
【特許文献1】特開平5−85416号公報
【特許文献2】特開2000−185673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる従来技術においては、走行時にスタビライザーなどの可動部品収容部の隙間を介して車両用ディフューザーの中に侵入した雪や氷が溶解して再び凝固することにより、大きな雪や氷の塊となり、車両用ディフューザーが膨張して破損するという問題を有している。
【0007】
また、侵入した雪や氷が車両用ディフューザーの中で溶解して集まり、再び凝固することでより大きな氷などの固体を形成し、このように凝固した固体が車両の振動によって移動することで騒音が発生してしまうという問題があった。
【0008】
さらに、車両用ディフューザーの剛性を高めた場合、後突時に車両がうまく潰れず、車両の衝突エネルギー吸収を妨げるおそれがあるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、外部からの雪や氷の侵入を防止し、また、侵入した雪や氷が融解し、融解した液滴が集まって凝固することで生じる氷の拡大化を防止し、さらには、後突時における衝撃エネルギー吸収の向上を図ることのできる車両用ディフューザーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、車両床下部に配置され、
底板と、この底板の各辺に立設された前壁、両側壁及び後壁とを備え、
箱型に構成された車両用ディフューザーにおいて、
前記底板の前記各側壁の間には、前記車両の幅方向に延在し前記底板の前後を仕切る仕切り壁が設けられていることを特徴としている。
【0011】
この請求項1に記載の発明によれば、仕切り壁により底板の前方と後方とを仕切ることができ、この仕切り壁により、前方から雪や氷などが侵入した場合でも、後方への侵入を防止することができるようになっている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用ディフューザーにおいて、
前記底板には、前記車両の前後方向または左右方向に延在する複数の仕切りリブが設けられていることを特徴としている。
【0013】
この請求項2に記載の発明によれば、仕切りリブにより底板を複数の領域に仕切ることができ、侵入した雪や氷が融解し、再び凝固することで生じる氷の拡大化を防止することができるようになっている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用ディフューザーにおいて、
前記各側壁には、厚さを他の部分の厚さよりも薄くした薄肉壁部が設けられていることを特徴としている。
【0015】
この請求項3に記載の発明によれば、薄肉壁部の厚さを側壁の厚さより薄くすることで薄肉壁部の剛性を低くすることができ、後突時などにおける衝撃エネルギーの集中を図ることができるようになっている。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車両用ディフューザーにおいて、
前記薄肉壁部は、前記底板から離れるにしたがって幅が広くなるように形成されていることを特徴としている。
【0017】
この請求項4に記載の発明によれば、薄肉壁部を底板から離れるにしたがって幅が広くなるように形成しているので、後突時に薄肉壁部の前方及び後方を容易に変形させることができるようになっている。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の車両用ディフューザーにおいて、
前記仕切り壁及び前記仕切りリブは、前記底板の前記各薄肉壁部を結ぶ直線上以外の部分に配置されていることを特徴としている。
【0019】
この請求項5に記載の発明によれば、仕切り壁及び仕切りリブを底板の各薄肉壁部を結ぶ直線上以外の部分に配置することで、この部分における剛性を低くするようになっている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、前壁と底板前方の間には底板から上方に突出した仕切り壁が設けられているので、車両走行時に前方から雪や氷などが侵入した場合でも、仕切り壁により底板の後方への侵入を防ぐことができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、仕切りリブにより底板を複数の領域に仕切ることができるので、侵入した雪や氷が融解し、再び凝固することで生じる氷の拡大化を防止することができ、凝固した氷が移動することを防止することによって車両の振動により騒音が発生することを防ぐことができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、側壁に薄肉壁部を設け、薄肉壁部の剛性を低くすることができるようにしているので、後突時などにおける衝撃エネルギーの集中を図ることができ、底板などを容易に変形させて車両の衝撃エネルギーの吸収を妨げないようにすることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、薄肉壁部を底板から離れるにしたがって幅が広くなるように形成し、後突時に薄肉壁部の前方及び後方を容易に変形させることができるようにしているので、後突時などにおいて底板などを容易に変形させることができ、車両の衝撃エネルギーの吸収を妨げないようにすることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、仕切り壁及び仕切りリブを底板の各薄肉壁部を結ぶ直線上以外の部分に配置することで、この部分における剛性を低くするようにしているので、薄肉壁部の前方及び後方の底板を容易に折曲させることができ、車両の衝撃エネルギーの吸収を妨げないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲は以下の実施形態及び図示例に限定されるものではない。
【0026】
図1は本実施形態に係る車両用ディフューザーの斜視図であり、図2〜図5はそれぞれ図1のA−A線、B−B線、C−C線、D−D線に沿った断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態において、車両幅方向をX方向とし、車両の前後方向をY方向として説明する。樹脂成形された車両用ディフューザー1には底板2が設けられており、底板2の4つの辺には車両前方の前壁3、車両両側の側壁4,4及び車両後方の後壁5がそれぞれ立設されて箱型に形成されている。なお、車両用ディフューザー1の前壁3、両側壁4及び後壁5の上端縁の形状は、車両の床下部における車両用ディフューザー1の取付位置の形状に応じて設定されるようになっている。
【0028】
車両用ディフューザー1の底板2の上面であって前壁3に近接した位置には、ほぼ円筒形状の2つの車両取付ボス6がX方向に所定間隔をもって固着されており、底板2の車両取付ボス6の配置部分であって各側壁4,4の間には、X方向に延在する仕切り壁7が立設されている。また、前壁3の上面であって各車両取付ボス6の前側には、Y方向に延在し仕切り壁7より低く形成された仕切りリブとしての2つの前方リブ8が突出形成されている。そして、車両取付ボス6、仕切り壁7及び前方リブ8は、車両取付ボス6に対して連結されるようになっている。また、前壁3には、前壁3を貫通する複数の貫通孔9がX方向に所定間隔をもって穿設されている。なお、本実施形態では図1に示すように貫通孔9は3つ示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。また、この貫通孔は、例えば、底板2の仕切り壁7より後方側にも形成するようにしてもよい。
【0029】
また、車両用ディフューザー1の底板2の上面には、Y方向に延在し仕切り壁7より低く形成された仕切りリブとしての3つのY方向仕切りリブ10,10…がX方向に所定間隔をもって突出形成されている。底板2の下面には、Y方向に延在する4つの整流フィン11がX方向に所定間隔をもって突出形成されている。また、底板2の上面中央付近には、ほぼ円筒形状の車両取付ボス12が固着されており、底板2の車両取付ボス12の配置部分であって各側壁4,4の間には、X方向に延在し仕切り壁7より低く形成された仕切りリブとしてのX方向仕切りリブ13が各Y方向仕切りリブ10の間に位置するように突出形成されている。このX方向仕切りリブ13は車両取付ボス12に対して連結されている。さらに、後壁5の上端縁中央部分には、車両床下部に取り付けるための取付爪14が配設されている。
【0030】
さらに、車両用ディフューザー1の各側壁4であって仕切り壁7の後方近傍には、他の側壁4より肉厚を薄くして剛性を低くした薄肉壁部15が設けられている。薄肉壁部15は底板2から上縁に行くにしたがって肉厚を薄くした部分の幅が広くなるような略逆三角形状に形成されている。また、底板2の頂部に相当する各薄肉壁部15を結ぶ車体幅方向に伸びる直線上には、車両取付ボス6,12、仕切り壁7、Y方向仕切りリブ10、整流フィン11及びX方向仕切りリブ13などの剛性のある部材を配置しないように構成されている。
【0031】
次に、上述のように構成された車両用ディフューザー1の車両に対する取り付け構造について説明する。
図2に示すように、車両床下部のフロアパン16の前側下方には、2つのスタビライザー17が配置されており、フロアパン16の前方には、クロスメンバ18が配設されている。また、フロアパン16の後端には、車両用ディフューザー1の取付爪14を係止するためのブラケット19が配設されており、フロアパン16の後方には、車両床下部上方に伸びるアウタパネル20が配設されている。アウタパネル20の後方にはリヤバンパー21が設けられている。図3に示すように、フロアパン16の下面であって車両用ディフューザー1の車両取付ボス6,12に対応する位置には、車両取付ブラケット22が配設されている。
【0032】
そして、車両用ディフューザー1を車両床下部に取り付ける場合は、まず、図2に示すように、車両用ディフューザー1の取付爪14をブラケット19に係止させるとともに、図3に示すように、車両取付ボス6,12の上面を車両取付ブラケット22に当接させた状態で、車両用ディフューザー1をフロアパン16の下面に配置させる。その後、車両取付ボス6,12の下側から車両取付ブラケット22にボルトなどにより締め付け固定することにより、車両用ディフューザー1を車両床下部に取り付ける構造となっている。この状態で、車両用ディフューザー1の前壁3の上端部がクロスメンバ18の下端より上方に位置され、前壁3と仕切り壁7との間にスタビライザー17が位置するようになっている。
【0033】
次に、本実施形態における車両用ディフューザー1の作用について説明する。
車両が走行している状態では、車両床下部と道路との間に空気が侵入して一定の空気流が形成されるが、本実施形態においては、車両用ディフューザー1の整流フィン11により空気の乱流を整え、後方への空気の整流が行われる。また、車両走行時に雪や氷などが降っている場合、車両床下部と道路との間に雪や氷などが侵入してくることがあるが、車両用ディフューザー1の前壁3により車両用ディフューザー1の内部に雪や氷などが侵入することを防ぐようになっている。しかし、前述のように外部から侵入してくる雪などを防いだにもかかわらず、スタビライザー17などの可動部品収容部の隙間を介して前壁3の内側に雪などが侵入してくる場合がある。この場合には、雪などは仕切り壁7により車両用ディフューザー1の後方への侵入が防止され、仕切り壁7の前方に溜められた雪が溶解してできた水などは、貫通孔9から車両用ディフューザー1の外部に排出される。
【0034】
また、貫通孔9から排出されず、さらに仕切り壁7を越えて後方に雪や氷などが侵入した場合は、Y方向仕切りリブ10及びX方向仕切りリブ13で仕切られた領域に溜められることになる。そのため、溶解した雪などが再び凝固する場合でも、Y方向仕切りリブ10及びX方向仕切りリブ13で仕切られた領域内で小さい固まりで凝固することになり、氷の拡大化を防止することができるものである。
【0035】
次に、車両が後方から追突された場合などのように、車両の後方から車両用ディフューザー1が衝撃を受けた場合、各側壁4に薄肉壁部15を形成するようにしているので、衝撃エネルギーを薄肉壁部15に集中させるようになっている。
【0036】
さらに、車両取付ボス6に対して仕切り壁7と前方リブ8とを連結することにより、薄肉壁部15より前方の剛性を高め、また、Y方向仕切りリブ10、X方向仕切りリブ13、整流フィン11及び車両取付ボス12により薄肉壁部15より後方の剛性を高めるようになっており、各薄肉壁部15を結ぶ直線上に衝撃エネルギーを集中させることにより、底板2を容易に折曲させることができるようになっている。
【0037】
このように本実施形態においては、底板2の外側で突部を形成した整流フィン11を設けたので、外気の乱流を整流し、雪や氷など侵入を防ぐことができる。また、前壁3と底板2との間に突出した仕切り壁7を設けたので、走行時に車両用ディフューザー1内に侵入する雪や氷を防ぎ、侵入した雪や氷が融解し、再び凝固することで大きな雪や氷の塊となり、車両用ディフューザー1の底板2が膨張して破損することを防ぐことができる。さらに、貫通孔9を設けたので、侵入した雪や氷あるいは雪や氷が融解した水が外部に排出され、車両用ディフューザー1に対する雪や氷あるいは雪や氷が融解した水による重量増加が軽減され、重量増加による車両用ディフューザー1の破損を防ぐことができる。
【0038】
また、本実施形態では、車両用ディフューザー1の後方の内側にY方向仕切りリブ10及びX方向仕切りリブ13を設けたので、侵入した雪や氷が融解し、融解した液滴が集まって再び凝固されることで生じる氷の拡大化を防ぐことができ、さらに、Y方向仕切りリブ10及びX方向仕切りリブ13により、凝固した氷の移動を防止することができるので、走行時に発生する騒音を抑制することができる。
【0039】
さらに、車両用ディフューザー1の前方に前壁3、前方リブ8、車両取付ボス6と仕切り壁7とを設けるとともに、車両用ディフューザー1の後方にY方向仕切りリブ10及びX方向仕切りリブ13に加え整流フィン11や車両取付ボス12を設け、車両用ディフューザー1の前方と後方の剛性を高く構成し、各薄肉壁部15を結ぶ直線上に衝撃エネルギーを集中させることにより、底板2を容易に折曲させることができるようにしたので、車両が後突時に潰れる際に、その変形を妨げることがない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係る車両用ディフューザーの斜視図である。
【図2】図1に示す車両用ディフューザーのA−A線における断面図である。
【図3】図1に示す車両用ディフューザーのB−B線における断面図である。
【図4】図1に示す車両用ディフューザーのC−C線における断面図である。
【図5】図1に示す車両用ディフューザーのD−D線における断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両用ディフューザー
2 底板
3 前壁
4 側壁
5 後壁
6,12 車両取付ボス
7 仕切り壁
8 前方リブ
9 貫通孔
10 Y方向仕切りリブ
11 整流フィン
13 X方向仕切りリブ
14 取付爪
15 薄肉壁部
16 フロアパン
19 ブラケット
22 車両取付ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両床下部に配置され、
底板と、この底板の各辺に立設された前壁、両側壁及び後壁とを備え、
箱型に構成された車両用ディフューザーにおいて、
前記底板の前記各側壁の間には、前記車両の幅方向に延在し前記底板の前後を仕切る仕切り壁が設けられていることを特徴とする車両用ディフューザー。
【請求項2】
前記底板には、前記車両の前後方向または左右方向に延在する複数の仕切りリブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ディフューザー。
【請求項3】
前記各側壁には、厚さを他の部分の厚さよりも薄くした薄肉壁部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ディフューザー。
【請求項4】
前記薄肉壁部は、前記底板から離れるにしたがって幅が広くなるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用ディフューザー。
【請求項5】
前記仕切り壁及び前記仕切りリブは、前記底板の前記各薄肉壁部を結ぶ直線上以外の部分に配置されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の車両用ディフューザー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−347266(P2006−347266A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173729(P2005−173729)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】