説明

車両用トルク表示装置

【課題】 左右の駆動輪に配分される駆動トルクおよび制動トルクの大きさを運転者が的確に認識可能にする。
【解決手段】 車両の各駆動輪に発生しているトルク量を表示するトルク表示手段21のトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRが、境界部23と、境界部23の上側に配置された4個のセグメントよりなる第1表示領域24と、前記境界部23の下側に配置された2個のセグメントよりなる第2表示領域25とを備えており、トルク量が駆動トルクである場合には第1表示領域24の点灯するセグメントの数で該駆動トルクの大きさを表示し、逆にトルク量が制動トルクである場合には第2表示領域25の点灯するセグメントの数で該制動トルクの大きさを表示するので、運転者は各駆動輪毎のトルクの大きさだけでなく、それが駆動トルクであるか制動トルクであるかを含めて認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の各駆動輪に発生しているトルク量を、前記各駆動輪毎に図形により表示するトルク表示手段を備える車両用トルク表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのトルクを前輪および後輪に配分可能な四輪駆動車両において、各車輪に現在配分されているトルクの大きさを、発光するLEDセグメントの数により表示するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またエンジンのトルクを前輪および後輪に配分可能であり、かつ左右の後輪に異なるトルクを配分可能なな四輪駆動車両において、旋回外輪に配分されるトルクと旋回内輪に配分されるトルクとの相対的な差分を、円弧状に配置した複数のLEDセグメントの右側部分および左側部分の異なる位置を発光させることで表示するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−42435号公報
【特許文献2】特開2009−29181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
四輪駆動車両の各車輪に配分されるトルクには、車両を加速する駆動トルクと車両を減速する制動トルクとが存在する。
【0006】
前記特許文献1に記載された発明は、各車輪毎のトルクの大きさを駆動トルクおよび制動トルクを区別せずに表示しているため、運転者は車輪が駆動力を発生しているのか制動力を発生しているのか確認することができず、トルクの配分状態を的確に把握できないという問題があった。
【0007】
また前記特許文献2に記載された発明は、トルクの左右配分により発生するヨーモーメントの状態を表示することは可能であるが、運転者は各車輪に駆動トルクあるいは制動トルクがどのように配分されているのか知ることができないという問題があった。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、左右の駆動輪に配分される駆動トルクおよび制動トルクの大きさを運転者が的確に認識可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両の各駆動輪に発生しているトルク量を、前記各駆動輪毎に図形により表示するトルク表示部を備える車両用トルク表示装置において、前記トルク表示部は、境界部と、前記境界部の一側に配置された第1表示領域と、前記境界部の他側に配置された第2表示領域とを備え、前記トルク量が駆動トルクである場合には、前記第1表示領域を前記駆動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示するとともに、前記トルク量が制動トルクである場合には、前記第2表示領域を前記制動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示することを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1表示領域は前記境界部の上側に配置され、前記駆動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが前記境界部から上方に向かって増加し、前記第2表示領域は前記境界部の下側に配置され、前記制動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが前記境界部から下方に向かって増加することを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0011】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、左前輪用、右前輪用、左後輪用および右後輪用の四つのトルク表示部を備え、前記四つのトルク表示部は、前記左前輪、右前輪、左後輪および右後輪に発生しているトルク量を不均一に表示可能であることを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0012】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記車両の各駆動輪に配分されるトルク量を算出するトルク量算出手段を備え、前記トルク量算出手段により算出されたトルク量のうち、左右の前輪および左右の後輪の一方の左右輪に発生するトルク量がゼロのとき、前記一方の左右輪に対応する二つのトルク表示部の表示状態を、左右の前輪および左右の後輪の他方の左右輪に対応する他の二つのトルク表示部の表示状態と同じにすることを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0013】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、左右輪間あるいは前後輪間に設けられたディファレンシャルギヤが差動制限機構を備え、前記差動制限機構が作動制限を行っているときには、前記左前輪、右前輪、左後輪および右後輪のトルク量の不均一表示を禁止することを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0014】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5の何れか1項の構成に加えて、前記各駆動輪に発生しているトルク量に対する前記第1、第2表示領域の表示面積あるいは表示長さは、トランスミッションの変速段が高速変速段であるほど増加することを特徴とする車両用トルク表示装置が提案される。
【0015】
尚、実施の形態の左前輪WLF、右前輪WRF、左後輪WLRおよび右後輪WRRは本発明の駆動輪に対応し、実施の形態のリヤディファレンシャルギヤ19は本発明のディファレンシャルギヤに対応する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、車両の各駆動輪に発生しているトルク量を表示するトルク表示部が、境界部と、境界部の一側に配置された第1表示領域と、境界部の他側に配置された第2表示領域とを備えており、トルク量が駆動トルクである場合には第1表示領域を該駆動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示し、逆にトルク量が制動トルクである場合には第2表示領域を該制動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示するので、運転者は各駆動輪毎のトルクの大きさだけでなく、それが駆動トルクであるか制動トルクであるかを含めて認識することができる。
【0017】
また請求項2の構成によれば、境界部の上側に配置された第1表示領域は、駆動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが境界部から上方に向かって増加し、境界部の下側に配置された第2表示領域は、制動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが境界部から下方に向かって増加するので、運転者は駆動輪に発生しているトルクが駆動トルクであるか制動トルクであるかを直感的に把握することができる。
【0018】
また請求項3の構成によれば、左前輪用、右前輪用、左後輪用および右後輪用の四つのトルク表示部は、それらの車輪に発生しているトルク量を不均一に表示可能であるので、各車輪のトルク量がそれぞれ異なる場合であっても、個々の車輪のトルク量を正しく把握することができる。
【0019】
また請求項4の構成によれば、左右の前輪および左右の後輪の一方の左右輪に発生するトルク量の算出値がゼロであっても、実際の車両には4輪に駆動力または制動力が働いているため、その一方の左右輪に対応する二つのトルク表示部が表示するトルク量をゼロにせず、左右の前輪および左右の後輪の他方の左右輪に対応する他の二つのトルク表示部が表示するトルク量と同じトルク量を表示するので、四輪駆動車両でありながら前輪駆動車両あるいは後輪駆動車両であるような印象を運転者に与えるのを防止して違和感を解消することができる。
【0020】
また請求項5の構成によれば、左右輪間あるいは前後輪間に設けられたディファレンシャルギヤの差動制限機構が差動制限を行っているとき、つまりディファレンシャルギヤの両側の車輪のトルク量が均一になるとき、左前輪、右前輪、左後輪および右後輪のトルク量の不均一表示を禁止するので、各車輪の実際のトルク量を正しく表示して運転者の違和感を解消することができる。
【0021】
また請求項6の構成によれば、駆動輪に発生しているトルク量が同じであっても、トランスミッションの変速段が高速変速段になるほど第1、第2表示領域の表示面積あるいは表示長さが増加するので、高速走行時にはトルク量を大きく表示して低速走行時にはトルク量を小さく表示し、運転者の違和感を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】四輪駆動車両の動力伝達系のスケルトン図(第1の実施の形態)。
【図2】メータパネルのトルク表示手段を示す図(第1の実施の形態)。
【図3】加速旋回時および減速旋回時におけるトルク表示手段の表示状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図4】前輪にのみ駆動トルクが配分されているときのトルク表示手段の表示状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図5】前輪にのみ制動トルクが配分されているときのトルク表示手段の表示状態を示す図(第1の実施の形態)。
【図6】トルク表示手段のセグメントの点灯数を示すマップ(第2の実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0024】
図1に示すように、四輪駆動車両は主駆動輪である左右の後輪WLR,WRRと、副駆動輪である左右の前輪WLF,WRFとを備える。エンジンEのトルクはトランスミッションTを介してトランスファー11に伝達され、トランスファー11からリヤプロペラシャフト12、トルク配分機構13および左右のリヤドライブシャフト14,14を介して左右の後輪WLR,WRRに伝達される。またトランスファー11から分岐するフロントプロペラシャフト15の中間部には前後トルク配分クラッチ16が設けられており、フロントプロペラシャフト15のトルクはフロントディファレンシャルギヤ17およびフロントドライブシャフト18,18を介して左右の前輪WLF,WRFに伝達される。
【0025】
トルク配分機構13は、リヤディファレンシャルギヤ19と、一対の左右トルク配分クラッチ20L,20Rと、3連ピニオン等を含む公知の差回転発生機構(不図示)とで構成される。一対の左右トルク配分クラッチ20L,20Rが共に非係合の状態では、トルク配分機構13はリヤディファレンシャルギヤ19のみが機能し、リヤプロペラシャフト12のトルクは左右の後輪WLR,WRRに均等に配分される。
【0026】
左側の左右トルク配分クラッチ20Lが係合すると、左右のリヤドライブシャフト14,14がギヤ列で連結されて所定の差回転が発生し、右後輪WRRの回転数が左後輪WLRの回転数に対して強制的に増速されることで、右後輪WRRのトルクの一部が左後輪WLRに配分されて左後輪WLRのトルクが右後輪WRRのトルクよりも大きくなる。逆に、右側の左右トルク配分クラッチ20Rが係合すると、左右のリヤドライブシャフト14,14がギヤ列で連結されて所定の差回転が発生し、左後輪WLRの回転数が右後輪WRRの回転数に対して強制的に増速されることで、左後輪WLRのトルクの一部が右後輪WRRに配分されて右後輪WRRのトルクが左後輪WLRのトルクよりも大きくなる。
【0027】
その際の左右の後輪WLR,WRR間のトルク配分量は、左右の左右トルク配分クラッチ20L,20Rの係合力を調整することで任意に制御することができる。
【0028】
また前後トルク配分クラッチ16を非係合にすると、エンジンEのトルクは全て後輪WLR,WRRに配分されて後輪駆動状態になり、前後トルク配分クラッチ16を係合すると、エンジンEのトルクの一部が前輪WLF,WRFにも配分されて四輪駆動状態になる。
【0029】
従って、例えば前後トルク配分クラッチ16を非係合にした後輪駆動状態で車両が発進するとき、後輪WLR,WRRがスリップして前輪WLF,WRFおよび後輪WLR,WRR間の差回転が増加した場合、前後トルク配分クラッチ16を係合して前輪WLF,WRFにトルクを配分することで、車両を四輪駆動状態にして発進性能を高めることができる。
【0030】
また車両の旋回時にトルク配分機構13の左右トルク配分クラッチ20L,20Rを選択的に係合し、旋回外輪となる後輪WLR,WRRのトルクを増加させて旋回内輪となる後輪WLR,WRRのトルクを減少させれば、旋回をアシストする方向のヨーモーメントを発生させて旋回性能を高めることができる。逆に旋回外輪となる後輪WLR,WRRのトルクを減少させて旋回内輪となる後輪WLR,WRRのトルクを増加させれば、旋回を抑制する方向のヨーモーメントを発生させて直線走行安定性能を高めることができる。
【0031】
以上のように、四輪駆動車両は前輪WLF,WRFに配分されるトルクと後輪WLR,WRRに配分されるトルクとを任意の比率で制御することができ、かつ左右の後輪WLR,WRRに配分されるトルクを任意の比率で制御することができる。また車両がエンジンブレーキにより減速する場合には、前輪WLF,WRFあるいは後輪WLR,WRRに伝達されるトルクが負値(制動トルク)になる場合があり、左右の後輪WLR,WRR間でトルク配分制御を行う場合には、左右の後輪WLR,WRRの一方のトルクが正値(駆動トルク)で他方が負値(制動トルク)になる場合もある。このように、四輪に対するトルクの配分は様々の態様で行われるため、それを運転者に認識させるためのトルク表示手段21が、メータパネルのマルチインフォメーションディスプレイに設けられる。
【0032】
図2に示すように、LEDの発光により情報を表示するトルク表示手段21は、中央に左右の前輪WLF,WRFおよび左右の後輪WLR,WRRが模式的に表示されており、左前の左前輪WLFの左側には該左前輪WLFのトルク表示部22LFが設けられ、右前の右前輪WRFの右側には該右前輪WRFトルクの表示部22RFが設けられ、左後の左後輪WLRの左側には該左後輪WLRのトルク表示部22LRが設けられ、右後の右後輪WRRの右側には該右前後WRRのトルク表示部22RRが設けられる。
【0033】
四つのトルク表示部22LF、22RF,22LR,22RRは同一構造であるため、その一つの左前輪WLFのトルク表示部22LFの構造を説明する。トルク表示部22LFは、1本の細い横線状のセグメントよりなる境界部23と、境界部23の上方に配置された5本の太い横線状のセグメントよりなる第1表示領域24と、境界部23の下方に配置された2本の太い横線状のセグメントよりなる第2表示領域25とを備える。第1表示領域24の5本のセグメントおよび第2表示領域25の2本のセグメントは、僅かな隙間を存して平行に配置される。
【0034】
境界部23よりも上側の第1表示領域24は駆動トルクの大きさを表示するもので、駆動トルクの大きさが増加するのに応じて、5個のセグメントが境界部23に近い側のセグメントから順番に点灯してゆき、点灯しているセグメントの数が駆動トルクの大きさを表示する。境界部23よりも下側の第2表示領域25は制動トルクの大きさを表示するもので、制動トルクの大きさが増加するのに応じて、2個のセグメントが境界部23に近い側のセグメントから順番に点灯してゆき、点灯しているセグメントの数が制動トルクの大きさを表示する。
【0035】
図3(A)は、車両が左旋回しながら加速するときのトルク表示手段21の状態を示すもので、このとき前後トルク配分クラッチ16が係合してエンジンEの駆動トルクが前輪WLF,WRFおよび後輪WLR,WRRに配分にされるとともに、トルク配分機構13の右側の左右トルク配分クラッチ20Rが係合して右後輪WRRの駆動トルクが増加し、左後輪WLRの駆動トルクが減少して制動トルクとなる。
【0036】
車両の加速中に左右の前輪WLF,WRFには駆動トルクが配分されるため、左右の前輪WLF,WRFに対応する二つの表示部22LF、22RFは、それらの境界部23の上側の第1表示領域24の2個のセグメントが点灯する。尚、フロントディファレンシャルギヤ17はトルク配分機能を持たないため、左右の前輪WLF,WRFに配分されるトルクは常に同じになる。
【0037】
車両の左旋回中には、左後輪WLRに制動トルクを発生させ、右後輪WRRに駆動トルクを発生させて旋回をアシストする。左後輪WLRに対応する表示部22LRは、その境界部23の下側の第2表示領域25の2個のセグメントが点灯して制動トルクが発生中であることを表示し、右後輪WRRに対応する表示部22RRは、その境界部23の上側の第1表示領域24の4個のセグメントが点灯して駆動トルクが発生中であることを表示する。
【0038】
図3(B)は、車両が左旋回しながら減速するときのトルク表示手段21の状態を示すもので、このとき前後トルク配分クラッチ16が係合してエンジンブレーキによる制動トルクが前輪WLF,WRFおよび後輪WLR,WRRに配分にされるとともに、トルク配分機構13の右側の左右トルク配分クラッチ20Rが係合して右後輪WRRの駆動トルクが増加し、左後輪WLRの駆動トルクが減少して制動トルクとなる。
【0039】
車両の減速中には左右の前輪WLF,WRFには制動トルクが配分されるため、左右の前輪WLF,WRFに対応する二つの表示部22LF、22RFは、それらの境界部23の下側の第2表示領域25の2個のセグメントが点灯する。
【0040】
車両の左旋回中には、上述した加速時と同様に、左後輪WLRに制動トルクを発生させ、右後輪WRRに駆動トルクを発生させて旋回をアシストする。左後輪WLRに対応する表示部22LRは、その境界部23の下側の第2表示領域25の2個のセグメントが点灯して制動トルクが発生中であることを表示し、右後輪WRRに対応する表示部22RRは、その境界部23の上側の第1表示領域24の3個のセグメントが点灯して駆動トルクが発生中であることを表示する。
【0041】
以上のように、四つのトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRは、左右の前輪WLF,WRFおよび左右の後輪WLR,WRRの四輪に発生しているトルク量を不均一に、つまり個々の車輪の実際のトルク状態に応じて表示可能であるため、各車輪のトルク量がそれぞれ異なる場合であっても、個々の車輪のトルク量を正しく把握することができる。
【0042】
また各車輪のトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRが境界部23の上下に第1表示領域24および第2表示領域25を備えており、トルク量が駆動トルクである場合には上側の第1表示領域24のセグメントが該駆動トルクの大きさに応じた数だけ点灯し、逆にトルク量が制動トルクである場合には第2表示領域25のセグメントが該制動トルクの大きさに応じた数だけ点灯するので、運転者は各車輪毎のトルクの大きさだけでなく、それが駆動トルクであるか制動トルクであるかを含めて認識することができる。
【0043】
また前後左右の車輪に対応する四つのトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRを、運転者から見て前後左右の車輪の位置関係と同じ位置関係で配置し、かつ境界部23の上側に配置された第1表示領域24は、駆動トルクの増加に応じて点灯するセグメントの数が上方に向かって増加し、境界部23の下側に配置された第2表示領域25は、制動トルクの増加に応じて点灯するセグメントの数が下方に向かって増加するので、運転者は各車輪と各トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRとの対応関係を誤認する虞がないだけでなく、運転者は車輪に発生しているトルクが駆動トルクであるか制動トルクであるかを直感的に把握することができる。
【0044】
次に、トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRのセグメントを点灯制御するために、各駆動輪WLF,WRF,WLR,WRRに配分するトルク量の算出手法を説明する。このトルク量の算出は、電子制御ユニットよりなるトルク算出手段において実行される。
【0045】
トランスミッションTより出力される車両全体の駆動力ないし制動力を所定の手法により算出し、その算出値からフロント側へのトルク配分制御量を除いた値をリヤ側のトルク量とし、リヤ側のトルク量から左右配分制御量を加算・減算した値をリヤ一輪のトルク量とする。
【0046】
その計算手法(リヤ側駆動システムでフロント配分およびリヤ左右配分機能を有する場合)を以下に示す。
【0047】
左前輪WLF推定トルク量=フロントトルク配分制御量÷2
右前輪WRF推定トルク量=フロントトルク配分制御量÷2
リヤトルク量=推定ミッション出力トルク÷2−左右配分制御量÷2
左後輪WLR推定トルク量=リヤトルク量÷2+左右配分制御量÷2
右後輪WRR推定トルク量=リヤトルク量÷2−左右配分制御量÷2
以上の計算により、各駆動輪WLF,WRF,WLR,WRRに配分されるトルク量を算出し、メータパネルのトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRに表示するセグメント数(トルク量)を決定する。
【0048】
ところで、前述のように計算により各駆動輪WLF,WRF,WLR,WRRに発生するトルク量を求める場合、路面状況や運転者のアクセル操作等により実際に各駆動輪に配分されるトルク量と計算結果との間に誤差が生じる場合がある。例えば、前輪WLF,WRFに駆動トルクが配分されており、後輪WLR,WRRにもトルクが配分されているにも関わらず、後輪WLR,WRRのトルク算出結果がゼロとなってしまう場合がある。そのとき、各トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRのトルク表示状態は図4(A)に示すようになるが、このような表示を行うと、四輪駆動車両でありながら前輪駆動車両であるような印象を与えて運転者が違和感を感じる可能性がある。そこで、図4(B)に示すように、トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRに表示されるトルク表示状態と、実際に前後輪に配分されているトルク量とが一致するように、後輪WLR,WRRのトルク表示部22LR,22RRに前輪WLF,WRFのトルク表示部22LF,22RFと同じ駆動トルクを表示することで、運転者の違和感を解消することができる。
【0049】
同様に、前輪WLF,WRFに制動トルクが配分されており、後輪WLR,WRRにも制動トルクが配分されているにも関わらず、後輪WLR,WRRのトルク算出結果がゼロとなってしまう場合がある。そのとき、各トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRのトルク表示状態は図5(A)に示すようになるが、このような表示を行うと、四輪駆動車両でありながら前輪駆動車両であるような印象を与えて運転者が違和感を感じる可能性がある。そこで、図5(B)に示すように、トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRに表示されるトルク表示状態と、実際に前後輪に配分されているトルク量とが一致するように、後輪WLR,WRRのトルク表示部22LR,22RRに前輪WLF,WRFのトルク表示部22LF,22RFと同じ制動トルクを表示することで、運転者の違和感を解消することができる。
【0050】
尚、各セグメントはON/OFFで点灯あるいは消灯するものに限定されず、セグメントの上下方向の点灯幅が連続的に増減するものであっても良い。
【0051】
次に、図6に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0052】
上述した第1の実施の形態では、各トルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRの第1表示領域24および第2表示領域25の点灯するセグメントの数は、トランスミッションTの変速段に関わりなく、対応する車輪の実際のトルク量に対応している。
【0053】
図6は、前輪WLF,WRFあるいは後輪WLR,WRRのトルク(駆動トルクあるいは制動トルク)と第1、第2表示領域24,25の点灯するセグメントの数との関係を、トランスミッションTの変速段が低速変速段(1速変速段あるいは2速変速段:実線参照)の場合と、トランスミッションTの変速段が高速変速段(3速変速段以上:破線参照)の場合とについて示すマップである。同図から明らかなように、前輪WLF,WRFあるいは後輪WLR,WRRのトルクの大きさが同じであっても、点灯するセグメントの数は高速変速段の方が大きくなっている。
【0054】
以上のように、第2の実施の形態では、車輪のトルクが同じであっても、車両が低速走行する低速変速段では点灯するセグメントの数が少なくなり、車両が高速走行する高速変速段では点灯するセグメントの数が多くなるため、トルク表示手段21を見たときの運転者の違和感を減少させることができる。
【0055】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0056】
この四輪駆動車両のリヤディファレンシャルギヤ19は差動制限機構を備えており、左右の後輪WLR,WRRの一方が低摩擦係数路面に乗ってスリップしたような場合に、リヤディファレンシャルギヤ19の差動を制限することで、左右の後輪WLR,WRRに均等なトルクを配分して走破性を高めることができる。
【0057】
このような場合には、四輪のトルクの不均一表示を禁止し、左右の左右の後輪WLR,WRRに対応するトルク表示部22LR,22RRに均等なトルク量を表示することで、運転者は差動制限により実際に際に左右の後輪WLR,WRRに発生している均等なトルクを認識することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0059】
例えば、実施の形態では第1表示領域24および第2表示領域25がそれぞれ複数のセグメントを備えており、点灯するセグメントの数でトルクの大きさを表示しているが、セグメントの数をそれぞれ1個とし、その点灯面積の大小によってトルクの大きさを示しても良い。つまり、セグメントの分割あるいは非分割に関わらず、セグメントの点灯面積の大小によりトルクの大きさを表示するものであれば良い。
【0060】
また第1表示領域24および第2表示領域25をそれぞれ棒状のセグメントで構成し、その点灯する部分の長さによってトルクの大きさを表示しても良い。
【0061】
また実施の形態は四輪駆動車両の四つの駆動輪に対応して四つのトルク表示部22LF,22RF,22LR,22RRを備えているが、本発明は前輪駆動車両あるいは後輪駆動車両の二つの駆動輪に対応して二つのトルク表示部を備えるものであっても良い。
【符号の説明】
【0062】
T トランスミッション
WLF 左前輪(駆動輪)
WRF 右前輪(駆動輪)
WLR 左後輪(駆動輪)
WRR 右後輪(駆動輪)
19 リヤディファレンシャルギヤ(ディファレンシャルギヤ)
22LF トルク表示部
22RF トルク表示部
22LR トルク表示部
22RR トルク表示部
23 境界部
24 第1表示領域
25 第2表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各駆動輪(WLF,WRF,WLR,WRR)に発生しているトルク量を、前記各駆動輪(WLF,WRF,WLR,WRR)毎に図形により表示するトルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)を備える車両用トルク表示装置において、
前記トルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)は、境界部(23)と、前記境界部(23)の一側に配置された第1表示領域(24)と、前記境界部(23)の他側に配置された第2表示領域(25)とを備え、
前記トルク量が駆動トルクである場合には、前記第1表示領域(24)を前記駆動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示するとともに、前記トルク量が制動トルクである場合には、前記第2表示領域(25)を前記制動トルクの大きさに応じた面積あるいは長さで表示することを特徴とする車両用トルク表示装置。
【請求項2】
前記第1表示領域(24)は前記境界部(23)の上側に配置され、前記駆動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが前記境界部(23)から上方に向かって増加し、
前記第2表示領域(25)は前記境界部(23)の下側に配置され、前記制動トルクの増加に応じて表示面積あるいは表示長さが前記境界部(23)から下方に向かって増加することを特徴とする、請求項1に記載の車両用トルク表示装置。
【請求項3】
左前輪(WLF)用、右前輪(WRF)用、左後輪(WLR)用および右後輪(WRR)用の四つのトルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)を備え、前記四つのトルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)は、前記左前輪(WLF)、右前輪(WRF)、左後輪(WLR)および右後輪(WRR)に発生しているトルク量を不均一に表示可能であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用トルク表示装置。
【請求項4】
前記車両の各駆動輪(WLF,WRF,WLR,WRR)に配分されるトルク量を算出するトルク量算出手段を備え、前記トルク量算出手段により算出されたトルク量のうち、左右の前輪(WLF,WRF)および左右の後輪(WLR,WRR)の一方の左右輪に発生するトルク量がゼロのとき、前記一方の左右輪に対応する二つのトルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)の表示状態を、左右の前輪(WLF,WRF)および左右の後輪(WLR,WRR)の他方の左右輪に対応する他の二つのトルク表示部(22LF,22RF,22LR,22RR)の表示状態と同じにすることを特徴とする、請求項3に記載の車両用トルク表示装置。
【請求項5】
左右輪間あるいは前後輪間に設けられたディファレンシャルギヤ(19)が差動制限機構を備え、前記差動制限機構が作動制限を行っているときには、前記左前輪(WLF)、右前輪(WRF)、左後輪(WLR)および右後輪(WRR)のトルク量の不均一表示を禁止することを特徴とする、請求項3に記載の車両用トルク表示装置。
【請求項6】
前記各駆動輪(WLF,WRF,WLR,WRR)に発生しているトルク量に対する前記第1、第2表示領域(24,25)の表示面積あるいは表示長さは、トランスミッション(T)の変速段が高速変速段であるほど増加することを特徴とする、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用トルク表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−46362(P2011−46362A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198814(P2009−198814)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】