説明

車両用ニーエアバッグ装置

【課題】重量増加、コストアップ、割れ片の飛散などの不具合を生じることなく、ニーエアバッグ展開時における割れを対策できるロワーパネルを提供。
【解決手段】本発明の車両用ニーエアバッグ装置1は、ニーエアバッグ開口11を設けた樹脂製のロワーパネル10を備え、ニーエアバッグ開口11にニーエアバッグモジュールを配設した車両用ニーエアバッグ装置1である。ロワーパネル下端にはフランジ部16が設けられている。ロワーパネル10には、ニーエアバッグ開口11の周縁部から、下方に、フランジ部16まで延びる弱体部30が設けられている。弱体部30は、ノッチからなる。本発明は、ロワーパネル10の割れを容認して、割れを弱体部30のみに特定させることにより、重量増加、コストアップ、割れ片の飛散などの不具合を生じることなく、ニーエアバッグ展開時における割れを対策した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ニーエアバッグ装置に関し、とくに車両用ニーエアバッグ装置の運転席ロワーパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両用ニーエアバッグ装置を開示している。そのニーエアバッグ装置では、ニーエアバッグモジュールがロワーパネルの裏側に配設され、ブラケットを介して、インストルメントリーンフォースメントに取り付けられたニーパネルに固定されている。
【0003】
従来のニーエアバッグ装置では、ニーエアバッグの展開時に発生する衝撃によってロワーパネルが割れ、ロワーパネルの割れ片が車両後方側(乗員側)に飛散することが考えられる。その対策として、ロワーパネルに対し、リブによる補強、パネル板厚増加、板金インサート追加等の補強対策が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−098867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の補強による、ロワーパネルの割れ対策には、以下の課題がある。
リブを追加したり、板厚を増加したり、板金インサートを追加する対策では、重量が増加したり、材料費、製造費が増加してコストアップとなる。
また、割れ部位が安定しないため、割れ片が乗員側に飛散する、などの不具合が生じるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、重量増加、コストアップを伴うことなく、また、望ましくは割れ片の飛散などの不具合の発生を生じることなく、ニーエアバッグ展開時におけるロワーパネルの割れを対策できる車両用ニーエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する、または上記目的を達成する本発明の車両用ニーエアバッグ装置は、つぎのとおりである。
【0008】
(1) 本発明の車両用ニーエアバッグ装置は、ニーエアバッグ開口が設けられた樹脂製のロワーパネルを備え、ニーエアバッグ開口にニーエアバッグモジュールが配設された車両用ニーエアバッグ装置である。ロワーパネルの下端部に車両前後方向前方に延びるフランジ部が形成されている。ロワーパネルには、ニーエアバッグ開口の縁から下方にフランジ部まで延びる弱体部が設けられている。
【0009】
(2) 上記(1)の車両用ニーエアバッグ装置において、フランジ部から車両前後方向前方に突出するクリップ座が設けられており、該クリップ座にはクリップ挿通穴が形成されている。フランジ部まで延びた弱体部は、フランジ部とクリップ座の上面に沿って車両前後方向前方にクリップ挿通穴まで、またはクリップ座のフランジと反対側の端部まで、延びる。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)の車両用ニーエアバッグ装置によれば、ロワーパネルに弱体部が形成されているので、車両衝突時、ニーエアバッグモジュールからの衝撃がニーエアバッグ開口周縁部にかかった時に、ロワーパネルは、弱体部で割れ、かつ衝撃を吸収する。
本発明では、ロワーパネルが割れることを容認し、その割れを生じさせる手段(弱体部)を弱体部にて構成したものである。したがって、従来のようにリブを追加したり、板厚を増加したり、板金インサートを追加する対策をとらないため、ロワーパネルの重量増加やコストアップを招くことがない。
【0011】
また、弱体部が、ニーエアバッグ開口の縁から下方にフランジ部まで延びているので、つぎの効果が得られる。
まず、ニーエアバッグ展開時に運転席ロワーパネルが弱体部で切断した時、運転席ロワーパネルのうちニーエアバッグ開口の下側で横方向(車両左右方向)に延びる帯状部は、弱体部が形成されている側の端部と反対側の端部で下側に折れ曲がるように変形する。したがって、帯状部が、運転席ロワーパネルの帯状部以外の部分とつながったままであり、乗員に向かって飛散することはない。
【0012】
また、弱体部が下方にフランジ部まで延びているので、割れがニーエアバッグ開口の車両左右方向に位置するフードオープナ部などの部品に向かって進展することがない。これによって、ニーエアバッグ展開時に予期せぬフードの開きが発生することはない。
【0013】
上記(2)の車両用ニーエアバッグ装置によれば、フランジ部まで延びた弱体部は、フランジ部とクリップ座の上面に沿って車両前後方向前方にクリップ挿通穴まで、またはクリップ座のフランジと反対側の端部まで、延びるので、ニーエアバッグ展開時にロワーパネルは弱体部で完全破断できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用ニーエアバッグ装置の運転席ロワーパネルの、車両前方から後方に向かって見た正面図(運転者側から見ると運転席ロワーパネルの背面図)である。
【図2】図1のA部の拡大正面図である。
【図3】図2のC−C線に沿って見た断面図である。
【図4】図1のB−B線に沿って見た、車両用ニーエアバッグ装置の概略断面図(2点鎖線はエアバッグの展開状態を示す)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施例に係る車両用ニーエアバッグ装置を、図1〜図4を参照して、説明する。図1〜図3は、車両用ニーエアバッグ装置のうち、運転席ロワーパネルを示し、図4は車両用ニーエアバッグ装置を示す。
図中、「UP」は車両上下方向の上側を示し、「OUT」は車両左右方向外側を示し、「FR」は車両前後方向における前方を示す。
【0016】
図1および図4において、本発明の車両用ニーエアバッグ装置1は、ニーエアバッグ開口11を設けた樹脂製のロワーパネル10と、ニーエアバッグ開口11に配設したニーエアバッグモジュール20とを備えている。ロワーパネル10は、運転席側のロワーパネル(以下、運転席ロワーパネル10ともいう)である。ニーエアバッグ開口11は、コーナ部11cが湾曲状にされた、ほぼ矩形の形状を有し、上下に左右方向に延びる左右方向辺11aと、左右に上下方向に延びる上下方向辺11bを有する。
【0017】
ニーエアバッグモジュール20は、図4に示すように、エアバッグドア21、エアバッグドア21に係合されたエアバッグケース22、エアバッグケース22内に保持されたニーエアバッグ23およびインフレータ24を有している。エアバッグドア21は、H字状の溝部21aとその上下のドア部21b、21cを有する。運転席ロワーパネル10とエアバッグドア21とは別体である。エアバッグドア21は、ニーエアバッグ開口11に嵌められてニーエアバッグ開口11に配置される。運転席ロワーパネル10の外面(乗員側の表面)の延長上に、エアバッグドア21の外面(乗員側の表面)が位置する。
【0018】
ニーエアバッグ23は、展開前にはエアバッグドア21のドア部21b、21cの車両前後方向前方に折り畳まれて配置されており、車両の前突がセンサーにより検出または予知されると、インフレータ24から膨張用ガスが供給されて、車両後方かつ上方に向けて展開、膨張する。ニーエアバッグ23は、展開時に、エアバッグドア21のドア部21b、21cを押し開き、乗員(運転者)40の膝側に展開し、乗員40の膝を拘束する。
図4で2点鎖線はニーエアバッグ23が展開した状態を示す。
【0019】
ニーエアバッグ23の展開に伴って、エアバッグケース22が上下に押し広げられ、さらにエアバッグドア21の上下の立壁21d、21eとエアバッグドア21の上下の部分21f、21gとが上下に押し広げられる。エアバッグドア21の上下の部分21f、21gが上下に変形すると、エアバッグドア21の上下の部分21f、21gは、運転席ロワーパネル10のニーエアバッグ開口11の上下で横方向(車両左右方向)に延びている上下の帯状部12、13を上下に押し広げるように、帯状部12、13に上下荷重をかける。ニーエアバッグ23の展開の反力でニーエアバッグモジュール20が車両前方に若干移動すると、ニーエアバッグ23自体が直接帯状部12、13に上下荷重をかける。いずれの場合にも、ニーエアバッグ23の展開時には、帯状部12、13に上下荷重がかかる。
【0020】
図1において、帯状部12、13にかかる上下方向荷重は、帯状部12、13の左右方向中央部(帯状部13の中央部に符号13cを付してある)で最も大きい。したがって、帯状部12、13の左右方向端部には、曲げモーメントが生じ、帯状部12、13の左右端部(帯状部13の端部に、符号13a、13bを付してある)、またはその近傍で運転席ロワーパネル10に割れが生じるおそれがある。
これを対策するために、従来は運転席ロワーパネル10にリブを追加して設けたり(リブは運転席ロワーパネル10の面外剛性を高めるために必要であるが、割れ防止用にさらにリブを追加して設ける)、板厚を増加したり、板金インサートを設けたりしていたが、本発明では、後述するように下側の帯状部13に弱体部を30を設ける。
【0021】
図1に示すように、運転席ロワーパネル10の、ニーエアバッグ開口11の上側には、下方に凹む凹部14が形成されている。この凹部14は、運転席アッパーパネルに形成された上方に凹む凹部と協働して、ステアリングコラム25が挿通する開口を構成する。
運転席ロワーパネル10の、ニーエアバッグ開口11の車両左右方向外側の横位置(運転者から見て右側位置)には、フードを開くためのフードオープナーレバー17が設けられている。
【0022】
図2および図4に示すように、運転席ロワーパネル10の外形の周囲部には、運転席ロワーパネル10の車室に面する一般部15から折れ曲がって車両前方に延びるフランジ部16が設けられている。ニーエアバッグ開口11の車両左右方向外側(したがって、フードオープナーレバー17側)の下側コーナ部11cの下方には、運転席ロワーパネル10の下辺のフランジ部16から、車両前後方向前方に向かって突出するクリップ座18が形成されている。クリップ座18にはほぼ長方形のクリップ挿通穴18aが形成されている。運転席ロワーパネル10の下側にはアンダーカバー26が設けられており、アンダーカバー26に固定されたクリップ27がクリップ挿通穴18aを挿通して、運転席ロワーパネル10をアンダーカバー26に固定している。
【0023】
運転席ロワーパネル10の一般部15の、車両前後方向前面には、一般部15から車両前方に突出するリブ(運転席ロワーパネル10の一般部15を補強するリブ)19が形成されている。リブ19は、運転席ロワーパネル10の一般部15の車両前後方向前面に沿って上下方向および/または横方向に延びている。リブ19は、ニーエアバッグ開口11の上下の帯状部12、13にも形成されている。
【0024】
運転席ロワーパネル10には、ニーエアバッグ開口11の周縁部(縁)を起点として、該開口11から離れる方向に向かって延びる弱体部30が形成されている。
弱体部30は、運転席ロワーパネル10の弱体部30以外の部分(運転席ロワーパネル10の一般部15およびフランジ部16)よりも厚さを薄くしたノッチ30(弱体部と同じであるためノッチにも符号30を付す)からなる。ノッチ30は、図3に示すように、断面がV字状、またはU字状、または矩形断面、のノッチからなる。
【0025】
図1、図2に示すように、弱体部30は、運転席ロワーパネル10のニーエアバッグ開口11の下側で車両左右方向に延びる帯状部13のフードオープナーレバー17側の端部13aに、設けられている。弱体部30は、ニーエアバッグ開口11のニーエアバッグ開口の周縁部から、下方に延びている。弱体部30は、下側帯状部13の車両前後方向前面に沿って下側フランジ部16まで延び、下側フランジ16とクリップ座18の上面に沿って車両前後方向前方に、クリップ座18のクリップ挿通穴18aまで、延びる。弱体部30のニーエアバッグ開口11側の端部は、ニーエアバッグ開口11の、フードオープナーレバー17側で下側のコーナ部11cに位置する。弱体部30のニーエアバッグ開口11側端部と反対側の端部はクリップ座18のクリップ挿通穴18aの周縁部に位置する。弱体部30を、弱体部30伸長方向に、クリップ座18の全突出長(クリップ挿通穴18aからクリップ座の突出先端までの部分18b)にわたって設ける必要はない。該部分18bに弱体部30を設けなくても、破断がクリップ挿通穴18aまで進展してきた時に、部分18bでクリップ座18は割れる、ただし、部分18bに弱体部30を設けてもよい。
【0026】
下側帯状部13の、フードオープナーレバー17と反対側の端部13bには、弱体部30は形成されていない。そのため、帯状部13が、ニーエアバッグ展開時にフードオープナーレバー17側の端部13aで弱体部30に沿って切断されると、帯状部13はフードオープナーレバー17と反対側の端部13bで、帯状部13以外の部分に対して(切断されずに)折れ曲がり、垂れ下がる。図1で帯状部13が垂れ下がった状態を2点鎖線(13’の符号を付した部分)で示してある。帯状部13が、たとえ端部13bで帯状部13以外の部分から破断しても下方に落下するだけで、乗員40に向かって飛散することがない。
【0027】
弱体部30が、帯状部13に形成されたリブ19を横切る場合、リブ19には、ノッチを形成する必要はない。弱体部30で割れる時に、リブ19部位で割れの進展が止まることはない。ただし、リブ19にも弱体部30を形成しておいてもよい。
【0028】
つぎに、本発明のニーエアバッグ装置1の作用、効果を説明する。
まず、運転席ロワーパネル10に弱体部30が形成されているので、車両衝突時、ニーエアバッグモジュール20からの衝撃荷重がニーエアバッグ開口11の周縁部(とくに下側帯状部13の中央部13c)にかかった時に、運転席ロワーパネル10は、選択的に弱体部30にて、割れる。そして、弱体部30で割れる時の衝撃吸収により、他の部位にかかる衝撃を緩和し、他の部位で割れないようにする。
【0029】
本発明では、運転席ロワーパネル10が割れても不具合を生じない部位で割れることを容認したものである。したがって、従来のように、リブを追加したり、板厚を増加したり、板金インサートを追加して割れを生じさせないようにする対策をとらないため、ロワーパネルの重量増加やコストアップを招くことがない。
【0030】
弱体部30が、ロワーパネル板厚方向に厚さを薄く形成したノッチ30からなるので、割れが確実に弱体部30で起こるようにすることができる。
【0031】
弱体部30が、運転席ロワーパネル10のニーエアバッグ開口11の下側で車両左右方向に延びる帯状部13のフードオープナーレバー17側の端部部位13aに設けられ、弱体部30がニーエアバッグ開口11の縁から下方に延びているので、つぎの、不具合発生防止効果が得られる。
【0032】
まず、ニーエアバッグ展開時に運転席ロワーパネル10が弱体部30で切断した時、運転席ロワーパネル10のうちニーエアバッグ開口11の下側で車両左右方向(横方向)に延びる帯状部13は、帯状部13の弱体部30が形成されている側の端部13aと反対側の端部13bで、図1の2点鎖線で示すように、下側に折れ曲がるように変形する。したがって、帯状部13が、運転席ロワーパネル10の帯状部13以外の部分とつながったままであり、乗員40に向かって飛散することはない。たとえ、帯状部13が、弱体部30と、該弱体30が形成されている側と反対側の端部13aとの両方で破損しても、下方に落ちるだけで、乗員40に向かって飛散することはない。
【0033】
また、弱体部30が下方に延びているので、割れがニーエアバッグ開口の横に位置するフードオープナーレバー17側に向かって進展することがない。これによって、ニーエアバッグ展開時に予期せぬフードの開きが発生することはない。
【符号の説明】
【0034】
1 ニーエアバッグ装置
10 ロワーパネル(運転席ロワーパネル)
11 ニーエアバッグ開口
11a 左右方向辺
11b 上下方向辺
11c 湾曲状のコーナ部
12、13 ニーエアバッグ開口上下の帯状部
13a 下側帯状部のフードオープナーレバー側の端部
13b 下側帯状部のフードオープナーレバーと反対側の端部
14 凹部
15 一般部(車室に面する部分)
16 フランジ部(一般部から折れ曲がって後方に延びる部分)
17 フードオープナーレバー
18 クリップ座
18a クリップ挿通穴
19 リブ
20 ニーエアバッグモジュール
21 エアバッグドア
21a エアバッグドアの溝部
21b、21c エアバッグドアの上下のドア部
21d、21e エアバッグドアの上下の立ち上がり壁
21f、21g エアバッグドアの上下の部分
22 エアバッグケース
23 ニーエアバッグ
24 インフレータ
25 ステアリングコラム
26 アンダーカバー
27 クリップ
30 弱体部
40 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニーエアバッグ開口が設けられた樹脂製のロワーパネルを備え、前記ニーエアバッグ開口にニーエアバッグモジュールが配設された車両用ニーエアバッグ装置において、
前記ロワーパネルの下端部に車両前後方向前方に延びるフランジ部が形成されており、前記ロワーパネルに、前記ニーエアバッグ開口の縁から下方に前記フランジ部まで延びる弱体部が設けられている、車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項2】
前記フランジ部から車両前後方向前方に突出するクリップ座が設けられており、該クリップ座にはクリップ挿通穴が形成されており、
前記フランジ部まで延びた弱体部は、前記フランジ部と前記クリップ座の上面に沿って車両前後方向前方に前記クリップ挿通穴まで、または前記クリップ座の前記フランジと反対側の端部まで、延びる請求項1記載の車両用ニーエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67383(P2013−67383A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251821(P2012−251821)
【出願日】平成24年11月16日(2012.11.16)
【分割の表示】特願2009−197595(P2009−197595)の分割
【原出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】