説明

車両用パーキング装置

【課題】坂路でのパーキングシフト時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、坂路以外の通常のパーキングシフト時におけるシフトフィーリングを向上させることができる車両用パーキング装置を提供する。
【解決手段】乗員のシフト操作によりパーキングギヤ1とパーキングポール2とを噛み合わせて車両の停止状態を維持するパーキングポジションを設定するとともに、前記シフト操作に対応して作動するディテントプレート8と、前記ディテントプレートに押し付け力Fpを付与して係合することにより前記ディテントプレートの作動を規制して前記パーキングポジションを保持するディテントスプリング10とから構成されたディテント機構DTを備えた車両用パーキング装置Pにおいて、前記車両の前後方向における傾斜角に基づいて前記ディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減するアシスト機構ASを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗員の操作により車輪の回転を規制して、車両の停止状態を維持する車両用パーキング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両を停止状態に維持するための装置として、乗員のシフトレバー操作により変速機の出力軸の回転を規制して、車輪の回転を固定するように構成されたパーキング装置が知られている。このようなパーキング装置としては、例えば車輪の回転を規制するのに必要な荷重を可及的に小さくするために、駆動力源と車輪との間の動力伝達経路に設けられている回転部材の回転を規制する装置がある。その一例として、シフトレバーを操作すること、例えば自動変速機を搭載した車両であればシフトレバーの位置をP(パーキング)レンジに設定すること、すなわちパーキングシフトすることにより、パーキングカムでパーキングポールをパーキングギヤ側へ押圧し、パーキングポールをパーキングギヤに噛合させて、変速機の出力軸の回転を規制する、すなわち車輪の回転を禁止する(ロックする)ようにしたパーキング装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載されているパーキング装置は、傾斜面に駐車した状態から行う車輪のロック解除操作を容易にするために、車両の前後方向の傾斜角を検出し、その傾斜角に応じてパーキング装置をロック解除方向に動作させる油圧シリンダの油圧を制御することにより、車輪のロック解除に要するシフトレバーの操作力を補助する力が作用するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、上記の特許文献1と同様に、坂道駐車から発進しようとする際に、パーキング機構による駆動輪のロックを解除するシフトレバーの操作を容易にするため、車両の傾斜、および運転者がシフトレバーをPレンジから他の走行レンジへ操作しようとする意志を検出し、前記意志があり、かつ車両が前方上げ方向に傾斜していることが検出された場合に、出力軸に前進方向の駆動力が伝達されるようにして、前記意志があり、かつ車両が前方下げ方向に傾斜していることが検出された場合には、出力軸に後進方向の駆動力が伝達されるように構成されたパーキング装置が記載されている。
【0005】
そして、特許文献3には、車両が急な坂道で駐車されている場合に、外部からの衝撃によってパーキングスプレグ(パーキングポール)が環状ギヤ(パーキングギヤ)から分離されることを防ぐために、シフトレバーの作動によって回動するディテントプレートの突起と、パーキングポールのかかり部とが、パーキングポールがパーキングギヤから離脱しないように選択的に相互作用するように構成されたパーキング装置が記載されている。
【特許文献1】特開2001−295922号公報
【特許文献2】特開2001−289317号公報
【特許文献3】特開2001−341620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1ないし3に記載されている従来のパーキング装置においては、パーキングシフトされた際に、パーキングポールのパーキングギヤとの噛み合い部に対するパーキングギヤの歯の位置、すなわちパーキングポールの噛み合い部とパーキングギヤの歯との位相によって、パーキングポールとパーキングギヤとの噛み合い状態が異なる場合がある。すなわち、パーキングシフトされた際に、パーキングポールの噛み合い部とパーキングギヤの歯とが異なった位相にあると、パーキングポールの噛み合い部がパーキングギヤの歯先面に当接したいわゆる「非噛み合い」状態となる場合がある。
【0007】
このような「非噛み合い」の状態で、例えば車両に作用する外力あるいは重力などの影響により車両が移動すると、それに伴ってパーキングギヤが回転し、やがて、パーキングポールの噛み合い部とパーキングギヤの歯とが同一の位相になる。すると、パーキングポールの噛み合い部がパーキングギヤの歯先面から歯底面へ向かってストロークし、そのパーキングポールの噛み合い部がパーキングギヤの歯溝に嵌合した状態、すなわちパーキングギヤがロックされたいわゆる「噛み合い」状態に移行することになる。
【0008】
したがって、車両が坂路で停止されてパーキングシフトされた際に、パーキング装置が「非噛み合い」の状態となった場合には、その後に車両の制動力が解除されると、重力の影響により車両が坂路の下方へ移動する場合がある。その場合、パーキング装置が「非噛み合い」状態から「噛み合い」状態に移行されてパーキングギヤがロックされることにより、車両の停止状態が維持される、すなわちパーキング保持性能が確保される。
【0009】
また、坂路の傾斜角が大きい場合は、車両が坂路下方へ移動する際の速度が速くなるので、「非噛み合い」状態から「噛み合い」状態への移行を確実なものとするために、パーキングポールをパーキングギヤ側へ押圧もしくは付勢する力を大きくすることが考えられる。しかしながら、その場合には、乗員がシフトレバー操作によりパーキングシフトする際に要する操作力も大きくなってしまう。その結果、例えばパーキングポールをパーキングギヤ側への押圧力もしくは付勢力として相対的に大きな力を必要としない緩やかな坂路や平坦路でのパーキングシフト操作においても、大きな操作力が必要となり、パーキングシフト時の操作性いわゆるシフトフィーリングを低下させてしまう。
【0010】
このように、上述した従来技術によるパーキング装置においては、坂路におけるパーキング保持性能を確保する点と、坂路以外の通常時でのパーキングシフト時におけるシフトフィーリングを向上させる点との相反する課題があり、未だ改良の余地があった。
【0011】
この発明は、上記の事情を背景としてなされたものであり、坂路でのパーキングシフト時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、坂路以外の通常のパーキングシフト時におけるシフトフィーリングを向上させることができる車両用パーキング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため請求項1の発明は、乗員のシフト操作によりパーキングギヤとパーキングポールとを噛み合わせて車両の停止状態を維持するパーキングポジションを設定するとともに、前記シフト操作に対応して作動するディテントプレートと、前記ディテントプレートに押し付け力を付与して係合することにより前記ディテントプレートの作動を規制して前記パーキングポジションを保持するディテントスプリングとから構成されたディテント機構を備えた車両用パーキング装置において、前記車両の前後方向における傾斜角に基づいて前記ディテントスプリングの前記押し付け力を増減するアシスト機構を備えていることを特徴とする装置である。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記アシスト機構が、重力方向に対する車両姿勢の相対角度の変化に伴い発生する回転力に基づいて、前記押し付け力を増減することを特徴とする装置である。
【0014】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記アシスト機構が、前記回転力を発生させる振子と、前記回転力を前記押し付け力に変換する変換機構とを備えていることを特徴とする装置である。
【0015】
さらに、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記傾斜角を検出する傾斜角検出手段を更に有し、前記アシスト機構が、前記傾斜角検出手段により検出された前記傾斜角に基づいて、前記押し付け力を増減することを特徴とする装置である。
【0016】
さらに、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記アシスト機構が、前記傾斜角に基づいて制御信号を出力する装置と、その制御信号に基づいて制御される電動アクチュエータにより構成されていることを特徴とする装置である。
【0017】
さらに、請求項6の発明は、請求項4の発明において、前記アシスト機構が、前記傾斜角に基づいて圧力信号を出力する装置と、その圧力信号に基づいて制御される流体圧アクチュエータにより構成されていることを特徴とする装置である。
【0018】
そして、請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記アシスト機構が、前記傾斜角が大きいほど前記押し付け力を大きくすることを特徴とする装置である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、乗員のシフト操作によりパーキングポジションが設定されるパーキングシフトが行われる場合、ディテントスプリングの押し付け力によりディテントプレートとディテントスプリングとが係合して、ディテントプレートの作動が規制される。このとき、車両の前後方向における傾斜角に基づいて、ディテントスプリングの押し付け力、すなわちディテントプレートの作動を規制する力、言い換えるとパーキングシフト時のシフト操作に要する力の大きさが増減される。例えば、平坦路での駐車時などの前記傾斜角が小さい場合に、前記押し付け力が低下され、また、坂路での駐車時などの前記傾斜角が大きい場合には、前記押し付け力が増大される。そのため、より確実なパーキング保持性能が要求される坂路での駐車時に、ディテントスプリングの押し付け力を増大させることによりパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時には、ディテントスプリングの押し付け力を低下させることによりシフト操作に要する力を低減させて、パーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0020】
また、請求項2の発明によれば、例えば重力方向と車両の上下方向とのなす角度などの、重力方向に対する車両姿勢の相対角度が変化することに伴って発生する回転力の大きさに応じて、ディテントスプリングの押し付け力の大きさが増減される。例えば、坂路などでの駐車時に、重力方向に対する車両姿勢の相対角度が大きくなる方向に変化することにより、それに伴って発生する回転力が大きくなると、ディテントスプリングの押し付け力も増大される。また平坦路などの通常の駐車時には、重力方向に対する車両姿勢の相対角度が小さくなる方向に変化するもしくは変化しないことにより、前記回転力が小さくなるもしくは回転力が発生しなくなり、ディテントスプリングの押し付け力も低減される、もしくは最小にされる。そのため、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0021】
さらに、請求項3の発明によれば、重力方向に対する車両姿勢の相対角度が変化することにより回転力を発生するように構成された振子と、その振子により発生される回転力をディテントスプリングの押し付け力に変換する変換機構とによって、容易に、発生する回転力の大きさに応じてディテントスプリングの押し付け力の大きさが増減される。そのため、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0022】
さらに、請求項4の発明によれば、車両の前後方向における傾斜角が検出され、その検出結果に基づいて、精度良く、ディテントスプリングの押し付け力の大きさを増減することができる。その結果、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0023】
さらに、請求項5の発明によれば、車両の前後方向における傾斜角が検出され、その検出結果に基づいて電動アクチュエータを制御することにより、精度良く、容易に、ディテントスプリングの押し付け力の大きさを増減することができる。その結果、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0024】
さらに、請求項6の発明によれば、車両の前後方向における傾斜角が検出され、その検出結果に基づいて流体圧アクチュエータを制御することにより、精度良く、容易に、ディテントスプリングの押し付け力の大きさを増減することができる。その結果、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【0025】
そして、請求項7の発明によれば、車両の前後方向における傾斜角が大きいほど、ディテントスプリングの押し付け力が大きくされる。その結果、坂路での駐車時におけるパーキング保持性能を確保しつつ、平坦路などでの通常の駐車時におけるパーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
続いて、この発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明に係るパーキング装置Pの構成例を説明する。この発明に係るパーキング装置Pは、車輪の回転を規制する装置であり、例えば車両の停車時に変速機の出力軸を回転不能にロックするように構成されている。図1は、そのパーキング装置Pの第1の実施例における構成の概要を模式的に示す図である。また、図2は、特に図1に示すパーキング装置Pの後述するパーキングギヤとパーキングポールとの噛み合い状態を示すものであって、図2の(a)は、パーキング装置Pが「噛み合い」状態の場合を示す図であり、図2の(b)は、パーキング装置Pが「非噛み合い」状態の場合を示す図である。
【0027】
図1,2において、符号1はパーキングギヤの一部をその厚さ方向における断面図として示すものであり、そのパーキングギヤ1は、例えば変速機の出力軸やプロペラシャフトなど、車輪とともに常時回転する動力伝達部材(それぞれ図示せず)と一体回転・停止するように構成されている。そして、その外周部には、凸部(すなわち歯)と凹部(すなわち歯溝)とが円周方向に交互に形成されている。すなわち、パーキングギヤ1は、凹部と凸部とから構成される外歯1aを有している。
【0028】
パーキングギヤ1の外周と対向する位置に、パーキングポール2が設けられている。このパーキングポール2には、パーキングギヤ1の各外歯1a間の歯溝に嵌り込むもしくは噛み合うことが可能な噛み合い部2aが形成されている。そしてこのパーキングポール2は、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に選択的に噛み合うことが可能なように、パーキングポール2がパーキングギヤ1に接近・離脱する方向(図1の矢印Yで示す方向)にストロークできるように構成されている。なお、パーキングポール2は、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に噛み合った状態、すなわちパーキングポール2がパーキングギヤ1に噛みあった状態でパーキングギヤ1が回転しないように、例えば車体に固定されている変速機のケーシングCSなどに支持されている。
【0029】
具体的には、パーキングポール2がパーキングギヤ1に近づけられて噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に噛み合った状態、すなわちパーキングギヤ1の回転がパーキングポール2によってロックされた状態と、パーキングポール2がパーキングギヤ1から離れて噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に噛み合わない状態、すなわちパーキングポール2によるパーキングギヤ1の回転のロックが解除された状態とを選択的に設定できる位置にパーキングポール2が移動可能なように、パーキングポール2がストロークするように構成されている。
【0030】
例えば、噛み合い部2aと所定の間隔を有するパーキングポール2の一方の端部側に、パーキングギヤ1の回転軸方向(図1の矢印Xで示す方向)と平行もしくはほぼ平行な回転軸線を有する支軸を設け、その支軸を中心としてパーキングポール2を回転させることで、噛み合い部2aを各外歯1a間の歯溝に選択的に噛み合わせるようにパーキングポール2をストロークさせること、すなわちパーキングポール2をパーキングギヤ1に選択的に噛み合わせることが可能である。
【0031】
パーキングポール2の噛み合い部2aと反対側の端面には、パーキングカム3のガイド面3a,3bと当接する当接部2bが形成されている。この当接部2bは、例えば、前述のように一方の端部側に支軸が設けられた構成のパーキングポール2の場合は、その支軸と反対側の他方の端部側に形成される。
【0032】
パーキングカム3は、例えば円筒状の部材により形成されていて、その外周部には、第1ガイド面3aと第2ガイド面3bとが形成されている。第1ガイド面3aは、その先端側(図1での右側)、すなわち、パーキングカム3がパーキングポール2に近づく方向(図1の矢印X方向における右方向)をパーキングカム3の前進方向と規定し、パーキングカム3がパーキングポール2に遠ざかる方向(図1の矢印X方向における左方向)をパーキングカム3の後退方向と規定すると、パーキングカム3の前進端面3c側から第2ガイド面3b側に向かって拡径する傾斜を備えた円錐面状に形成されている。
【0033】
第2ガイド面3bは、円筒状の部材であるパーキングカム3の中空部分の軸線方向(図1の矢印Xで示す方向)の所定長さに亘ってほぼ同一外径に設定された円柱面状に形成されている。なお、この第2ガイド面3bは、第1ガイド面3a側からパーキングカム3の前進端面3cと反対側の端面すなわち後進端面3d側に向かって拡径する傾斜(第1ガイド面の円錐面の傾斜よりは緩やかな傾斜)を備えた円錐面状に形成することも可能である。
【0034】
また、パーキングカム3は、その中空部分にパーキングロッド4が挿通されていて、パーキングロッド4にその軸線方向(図1の矢印Xで示す方向)に移動自在に保持されている。ここで、パーキングロッド4の軸線方向は、例えばパーキングポール2の当接部2bと、パーキングカム3の第1ガイド面3aおよび第2ガイド面3bとが当接する状態においては、前述のパーキングギヤ1の回転軸方向と平行もしくはほぼ平行な方向になるように設定されている。そのため、パーキングカム3がパーキングロッド4の軸線方向において移動することで、第1ガイド面3aおよび第2ガイド面3bに当接部2bが当接しているパーキングポール2が、前述のストローク方向にストロークされる。
【0035】
すなわち、パーキングカム3が前進方向に移動すると、第1ガイド面3aに当接している当接部2bがガイド面3aの傾斜に沿って摺動するため、パーキングポール2が次第にパーキングギヤ1に近づく方向(図1での上方向)に移動する。したがって、パーキングカム3をパーキングロッド4の軸線方向に前進移動させることによって、パーキングポール2をパーキングギヤ1側に押し付けることができる。
【0036】
パーキングロッド4には、パーキングロッド4に一体化されて固定されるスプリングストッパ5が設けられているとともに、そのスプリングストッパ5とパーキングカム3との間に、例えば圧縮コイルばねなどの弾性部材であるカムスプリング6が装着されている。このカムスプリング6の内径はパーキングカム3の中空部分の最大内径よりも大きく設定されていて、外径はパーキングカム3の後進端面3d部の外径およびスプリングストッパ5の外径よりも小さく設定されている。したがって、パーキングカム3はカムスプリング6の弾性力によりパーキングポール2に向けて、すなわちパーキングカム3の前進方向に押圧される。
【0037】
パーキングロッド4の自由端であって、パーキングロッド4のパーキングポール2に近い側(図1での右側)の端部4aに、カムストッパ7がパーキングロッド4に一体化されて設けられている。このカムストッパ7は、例えば円柱状の部材により形成されていて、その外径はパーキングカム3の中空部分の最大内径よりも大きく設定されている。したがって、このカムストッパ7は、パーキングカム3のパーキングロッド4の軸線方向(矢印Ax方向)における前進端面3cの位置を規制することができる。
【0038】
一方、パーキングロッド4のカムストッパ7が設けられている側と反対側(図1での左側)の端部4bは、例えば変速機のシフトレバー(図示せず)などによるシフト操作に連動して回転するディテントプレート8に連結されていて、そのディテントプレート8の回転に連動して、パーキングロッド4を、そのほぼ軸線方向において前進もしくは後進させるように構成されている。
【0039】
ディテントプレート8は、板状の部材によって形成されていて、その中心部分であって、例えばシフトレバーのシフト操作と連動して回転するパーキングシャフト9に相対回転不能に固定されるボス部8aと、ディテントプレート8の回転に伴って、パーキングロッド4に、パーキングロッド4を前進もしくは後進させる方向の力が作用するようにパーキングロッド4の端部4bに連結される連結部8bと、階段状の切り欠きが形成された切り欠き部8cとが設けられている。
【0040】
ディテントプレート8の切り欠き部8cには、シフト操作により、例えばP(パーキング)レンジなどが設定されるパーキングシフトが行われた場合に、後述のローラ10aが係合されるパーキングシフト位置用切り欠き部8dと、Pレンジ以外の、例えばD(ドライブ)レンジ、2nd(2速)レンジ、N(ニュートラル)レンジ、R(リバース)レンジなどにシフトされた場合に、ローラ10aが係合される非パーキングシフト位置用切り欠き部8eとが形成されている。
【0041】
切り欠き部8cの端面であるカム面8fと対向する位置に、ディテントスプリング10が設けられている。このディテントスプリング10は、例えば板ばねなどの板状の弾性部材によって形成されていて、その一方の先端部分に、切り欠き部8cに嵌り込んで係合部材として機能するローラ10aが設けられている。そして他方の端部である基体部10bが、ボルト11によりケーシングCSに固定されている。
【0042】
具体的には、ディテントスプリング10は、ディテントスプリング10の弾性力がローラ10aをボス部8aへ向けて押圧する押し付け力Fpとして作用し、ローラ10aがカム面8fに常に付勢される所定の位置に設置されて固定されている。したがって、シフト操作によりディテントプレート8が回転させられる際に、例えばシフトレバーがDレンジやNレンジなどに設定されると、ローラ10aが非パーキングシフト位置用切り欠き部8eに嵌り込んで係合して、シフトレバーの移動がDレンジやNレンジなどのシフト位置に保持される。そして、例えばシフトレバーがPレンジに設定されるパーキングシフトが行われると、ローラ10aがパーキングシフト位置用切り欠き部8dに嵌り込んで係合して、シフトレバーの移動がPレンジに保持されるとともに、パーキングロッド4が前進させられ、パーキングポール2がパーキングギヤ1と噛み合う位置に保持される。すなわちパーキング装置Pにおいてパーキングポジションが保持される。
【0043】
このように、上記のディテントプレート8とディテントスプリング10とによって構成されるいわゆるディテント機構DTが、パーキングシフトの際に、ディテントプレート8の回転を規制してパーキングポジションを保持する、ディテントプレート8の回り止め機構もしくはシフトポジションの位置決め機構として機能している。
【0044】
さらに、ディテントスプリング10のディテントプレート8と反対側(図1での右側)に、振子に作用する重力を利用して、その重力に対する振子の回転半径方向の分力である回転力Frを、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向の力に変換する変換機構TRが設けられている。
【0045】
変換機構TRは、車両の前後方向(図1での紙面に垂直な方向)の傾斜角に応じて車両に対して相対回転する振子12と、ディテントスプリング10のディテントプレート8と反対側(図1での右側)の側面に設けられた係止部10cとによって構成されている。このうち、振子12は、図3の(a)に示すように、例えばほぼ扇形の板状の部材によって形成されていて、その円周側の端部が厚肉化された重錘部12aと、扇形の要部分に相当する他方の端部である要部12bとから構成されている。そして、要部12bにおいて、ボルト11によりケーシングCSおよびディテントスプリング10に対して相対回転が可能なように、ケーシングCSに取り付けられている。
【0046】
図3の(b)は、図3の(a)における矢視A図であって、この図3の(b)に示すように、振子12の重錘部12aには、重錘部12aの円周方向における中心部で最深となり、円周方向における両端方向に向けて平面状の傾斜面が形成された、断面がほぼV字型の溝部12cが設けられている。なお、図3の(c)は、溝部12cの他の形状例を示している。すなわち、図3の(b)は、溝部12cが平面状の傾斜面により形成された例であるのに対し、図3の(c)は、溝部12cが曲面状の傾斜面により形成された例である。
【0047】
一方、係止部10cには、ボール10dが転動自在に保持されていて、そのボール10dが、振子12の溝部12cに嵌り込むように当接されている。そのため、ディテントスプリング10は、振子12側(図1での右側)への変形もしくは移動が規制されるとともに、振子12が車両の前後方向の傾斜により回転しようとする際には、溝部12cの傾斜面からボール10dを押圧する力が作用し、その力によりディテントスプリング10にはボール10dから押圧される力が作用するように構成されている。
【0048】
つぎに、上記のパーキング装置Pの動作例を説明する。パーキングロッド4は、前述したように、例えば変速機のシフトレバーのシフト操作に連動するように構成されていて、シフトレバーがパーキングポジションに切り換えられると、ディテントプレート8が、ディテントスプリング10のローラ10aとパーキングシフト位置用切り欠き部8dとが係合する方向(図1の矢印Lで示す方向)に回転し、パーキングロッド4がパーキングポール2に近づく方向(図1での右方向)に移動する。そして、ローラ10aがパーキングシフト位置用切り欠き部8dに嵌り込んで係合し、ディテントスプリング10の押し付け力Fpが、ディテントプレート8に作用させられることにより、パーキングポジションが保持される。
【0049】
また、パーキングロッド4の移動に伴って、パーキングカム3も同様にパーキングポール2に近づく方向、すなわちパーキングカム3の前進方向(図1での右方向)に移動する。パーキングカム3が前進方向に移動すると、パーキングカム3の第1ガイド面3aが、パーキングポール2の当接部2bと当接する。さらにパーキングロッド4とパーキングカム3とがパーキングカム3の前進方向に移動すると、当接部2bが第1ガイド面3aの傾斜に沿って摺動しながら、パーキングポール2が、パーキングロッド4から離れる方向すなわちパーキングギヤ1に近づく方向(図1での上方向)に移動する。言い換えると、パーキングポール2が、そのストローク方向(図1の矢印Yで示す方向)において、パーキングギヤ1に接近するようにストロークする。
【0050】
したがって、上記のようにパーキング装置Pが作動すると、パーキングポール2がパーキングギヤ1に接近するようにストロークする。このとき、パーキングギヤ1の円周方向において、パーキングギヤ1の各外歯1a間の歯溝とパーキングポール2の噛み合い部2aとが同一の位相にあれば、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌合する。すなわち、パーキングポール2がパーキングギヤ1側に押し付けられ、パーキングポール2とパーキングギヤ1とが噛み合わされる。
【0051】
具体的には、各外歯1a間の歯溝と噛み合い部2aとが同一の位相になると、シフト操作によりパーキングロッド4がパーキングカム3の前進方向に移動し、それに伴ってパーキングカム3もパーキングカム3の前進方向に移動して、当接部2aが第1ガイド面3aに沿って作動する。さらにパーキングカム3がシフト操作によりパーキングカム3の前進方向に移動することによって、図2の(a)に示すように、パーキングポール2が第2ガイド面3bに乗り上げる。そして、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌り込み、パーキングポール2のストローク方向における移動が停止する。
【0052】
その結果、パーキングシフトされた際にパーキングポール2の噛み合い部2aがパーキングギヤ1の各外歯1a間の歯溝に嵌り込み、パーキングギヤ1の回転がパーキングポール2によってロックされた状態となってパーキングギヤ1および出力軸の回転が規制される、いわゆる「噛み合い」状態になる。
【0053】
これに対して、パーキングギヤ1の円周方向において、各外歯1a間の歯溝と噛み合い部2aとが異なる位相にある場合には、外歯1aの歯先面1bと、噛み合い部2aのパーキングギヤ1と対向する側(図1での上側)の先端面2cとが当接する。すなわち、図2の(b)に示すように、パーキングシフトされた際にパーキングポール2の噛み合い部2aがパーキングギヤ1の各外歯1a間の歯溝に嵌り込まない、いわゆる「非噛み合い」状態になる。
【0054】
このような「非噛み合い」状態になると、歯先面1bと先端面2cとが当接することによって、パーキングポール2の、そのストローク方向における移動が停止するとともに、パーキングカム3が、その第1ガイド面3aがパーキングポール2の当接部2bに当接したまま停止し、パーキングロッド4とパーキングカム3とが相対移動して、パーキングカム3とスプリングストッパ5とによりカムスプリング6が圧縮される。その結果、パーキングポール2とパーキングギヤ1とが噛み合わない状態が継続される。
【0055】
「非噛み合い」状態が継続されている間はパーキングギヤ1および出力軸の回転が規制されないため、例えば、車両が坂路の途中で停車した場合に車両が坂路を降下することによって出力軸すなわちパーキングギヤ1が回転する場合がある。その場合、外歯1aの歯先面1bと噛み合い部2aの先端面2cとが当接している状態が変化して、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌合された「噛み合い」状態に移行しようとする。すなわち、「非噛み合い」状態のときにパーキングギヤ1が回転すると、各外歯1a間の歯溝と噛み合い部2aとが異なる位相にある状態から、各外歯1a間の歯溝と噛み合い部2aとが同一の位相にある状態に変化しようとすることにより、噛み合い部2aの先端面2cと外歯1aの歯先面1bとが当接していた状態から、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌り込んだ状態に変化しようとする。
【0056】
その状態の変化の際、すなわち噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌り込む際には、パーキングポール2と当接してカムスプリング6を圧縮した状態で停止していたパーキングカム3が、パーキングポール2との当接状態が解消されることによって、カムスプリング6の弾性力によりパーキングカム3の前進方向に向かって移動することになる。このとき、パーキングカム3がカムスプリング6に押圧されてパーキングカム3の前進方向、すなわちカムストッパ7側(図1での右側)に向かって移動し、完全に「噛み合い」状態に移行することができれば、パーキングギヤ1の回転がパーキングポール2によってロックされた状態、言い換えれば駆動輪の回転がロックされた状態を維持し、車両の停止状態を維持すること、すなわちパーキング保持性能を確保することができる。
【0057】
しかしながら、例えば急な坂路で車両が制動されて停止された際に、上記のようにパーキング装置Pが「非噛み合い」状態になり、その後に車両の制動力が解除されると、車両が重力の影響によって坂路を降下し、それに伴って、パーキングポール2の噛み合い部2aの先端面2cと、パーキングギヤ1の外歯1aの歯先面1bとが当接していた状態から、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に嵌り込んだ状態に変化しようとする。このとき坂路の傾斜角が大きいと、車両が降下する速度が速くなるので、噛み合い部2aが各外歯1a間の歯溝に完全に嵌り込む「噛み合い」状態への移行を確実にするためには、パーキングポール2をパーキングギヤ1の方向へ押圧もしくは付勢する力を大きくすることが考えられるが、その場合、乗員がパーキングシフトする際に要する操作力も大きくなってしまう。その結果、パーキングシフト時の操作性、すなわちシフトフィーリングを低下させてしまう。
【0058】
そこで、この発明によるパーキング装置Pは、坂路でのパーキング保持性能を維持しつつ、平坦路などの通常時のパーキングシフト時におけるシフトフィーリングを向上することを目的として、上述したように、車両の前後方向の傾斜角に基づいてディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減する、例えば、車両の前後方向の傾斜角が大きいほど押し付け力Fpを増大することができるアシスト機構ASが設けられている。
【0059】
すなわち、坂路においてパーキングシフトされた際には、図3に示すように、車両の前後方向の傾斜角に応じて振子12が重力方向に対して相対回転しようとして、その際に振子12には、振子12に作用する重力の振子12の回転半径方向の分力である回転力Frが発生する。すると、溝部12cの傾斜面からボール10dを押圧する力Faが作用し、その力によりディテントスプリング10にはボール10dから押圧される力が作用する。すなわち、振子12に生じる回転力Frが、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向の力であるアシスト力Faに変換される。
【0060】
このように、振子12に生じる回転力Frが、押し付け力Fp方向のアシスト力Faに変換され、このアシスト力Faが押し付け力Fpに付加されることによって、押し付け力Fpが増大される。その結果、車両の前後方向の傾斜角が大きくなり、振子12に生じる回転力Frが大きくなるほど、アシスト力Faも大きくなり、押し付け力Fpを大きくすることができる。言い換えると、車両の前後方向の傾斜角に応じて増減する回転力Frに基づいて、ディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減することができる。したがって、上記の振子12と、ディテントスプリング10の係止部10cとによって構成される変換機構TRが、車両の前後方向の傾斜角に基づいてディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減するアシスト機構ASとして機能している。
【0061】
なお、上記のようにして押し付け力Fpに付加されて押し付け力Fpを増大させるアシスト力Faは、振子12の質量w、および振子12のアーム長さdに基づいて、その大きさを調整することができる。すなわち、質量wを重くすること、もしくはアーム長さdを長くすることによって、アシスト力Faを大きくすることができる。
【0062】
一般に、車両が坂路を降下する場合、車輪の径が小さいほど車両の降下速度すなわちパーキングギヤ1の回転速度が速くなる。そのため、車輪径が大きいときと比較して車輪径が小さい場合は、前述したように、パーキング装置Pが「非噛み合い」状態になって坂路を降下すると、パーキングポール2がパーキングギヤ1に噛み合おうとする際の衝撃力が大きくなる。そこで、その場合には、上記のように振子12の質量wを重くする、もしくはアーム長さdを長くする調整を行い、アシスト力Faを大きくすることによって、押し付け力Fpを増大させて、パーキング保持性能を向上させることができる。
【0063】
また、パーキング装置Pは、車両の駆動力源から車輪までの動力伝達系統におけるイナーシャトルクによっても、「非噛み合い」状態から「噛み合い」状態へ移行しようとする場合がある。そのため、車両の前記イナーシャトルクが大きい場合も、パーキングポール2がパーキングギヤ1に噛み合おうとする際の衝撃力が大きくなる。そこで、この場合も上記の車輪径が小さい場合と同様に、振子12の質量wおよびアーム長さdを適宜に調整することで、アシスト力Faを大きくして押し付け力Fpを増大させて、パーキング保持性能を向上させることができる。
【0064】
図4および図5は、この発明に係るパーキング装置Pの第2の実施例および第3の実施例における構成を説明するための模式図である。図4,図5において、図1に示す構成と同様の部分には、図1に付した符号と同様の符号を付してその説明を省略する。図4に示す第2の実施例では、図1の第1の実施例における振子12とディテントスプリング10の係止部10cとによるアシスト機構ASが、振子13と、その振子13と連動して、もしくは一体回転するロータリエンコーダ14と、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向において伸縮動作する電動アクチュエータ15と、ロータリーエンコーダ14が出力する信号に基づいて電動アクチュエータ15の動作を制御する制御信号を演算して出力する電子制御回路もしくは電子制御装置(ECU)16とによって構成されている例を示している。
【0065】
振子13は、第1の制御例における振子12と同様に、車両の前後方向の傾斜角に基づいて車両に対して相対回転するものであって、ケーシングCSおよびディテントスプリング10に対して相対回転が可能なように、ケーシングCSに取り付けられている。また、ロータリエンコーダ14は、振子13の車両すなわちケーシングCSに対する相対回転角度を検出するものであり、振子13の回転に連動してもしくは一体に回転するように設置されている。そのため、これら振子13とロータリエンコーダ14とによって、車両の前後方向の傾斜角を検出することができる。
【0066】
そして、電動アクチュエータ15は、その可動部15aの先端が、可動部15aのストロークの範囲内においてディテントスプリング10に当接するように、例えばケーシングCSなどに固定されている。
【0067】
このようにアシスト機構ASが構成されることによって、車両の前後方向の傾斜角に基づいて可動部15aの動作を制御し、可動部15aとディテントスプリング10との当接部分にアシスト力Faを作用させて、ディテントスプリング10の押し付け力Fpを増大させることができる。すなわち、振子13に生じる回転力Frを、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向の力であるアシスト力Faに変換して、アシスト力Faを押し付け力Fpに付加することによって、押し付け力Fpを増大させることができる。言い換えると、車両の前後方向の傾斜角に基づいてディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減することができる。
【0068】
図5に示す第3の実施例では、図1の第1の実施例における振子12とディテントスプリング10の係止部10cとによるアシスト機構ASが、振子17と、その振子16と連動して、もしくは一体回転して開度が増減する、言い換えると、振子16の回転角度すなわち車両の前後方向の傾斜角に比例してバルブ開度が変化する油圧バルブ18と、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向において伸縮動作する油圧アクチュエータ19と、油圧バルブ18のバルブ開度に応じて出力される油圧に基づいて油圧アクチュエータ19の動作を制御する信号圧を出力する油圧回路もしくは油圧制御装置(HCU)20とによって構成されている例を示している。
【0069】
振子17は、第1,第2の制御例における振子12,13と同様に、車両の前後方向の傾斜角に基づいて車両に対して相対回転するものであって、ケーシングCSおよびディテントスプリング10に対して相対回転が可能なように、ケーシングCSに取り付けられている。また、油圧バルブ18は、振子17の車両すなわちケーシングCSに対する相対回転角度を検出するものであり、振子17の回転に連動してもしくは一体に回転するように設置されている。そのため、これら振子17と油圧バルブ18とによって、車両の前後方向の傾斜角を検出することができる。したがって、前述の振子13とロータリエンコーダ14と、およびこの振子17と油圧バルブ18とによって構成される機構が、車両の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段として機能している。
【0070】
そして、油圧アクチュエータ19は、その可動部19aの先端が、可動部19aのストロークの範囲内においてディテントスプリング10に当接するように、例えばケーシングCSなどに固定されている。
【0071】
このようにアシスト機構ASが構成されることによって、車両の前後方向の傾斜角に応じて、振子17に回転力Frを生じさせ、その回転力Frに基づいて可動部19aの動作を制御し、可動部19aとディテントスプリング10との当接部分にアシスト力Faを作用させて、ディテントスプリング10の押し付け力Fpを増大させることができる。すなわち、振子12に生じる回転力Frを、ディテントスプリング10の押し付け力Fp方向の力であるアシスト力Faに変換して、アシスト力Faを押し付け力Fpに付加することによって、押し付け力Fpを増大させることができる。言い換えると、車両の前後方向の傾斜角に基づいてディテントスプリング10の押し付け力Fpを増減することができる。
【0072】
以上のように、この発明に係るパーキング装置Pによれば、乗員のシフト操作によりパーキングポジションが設定されるパーキングシフトが行われる場合、ディテントスプリング10の押し付け力Fpによりディテントプレート8とディテントスプリング10とが係合して、ディテントプレート8の回転が規制される。このとき、車両の前後方向における傾斜角に基づいて、押し付け力Fpの大きさが増減される。
【0073】
具体的には、重力方向と車両の上下方向とのなす角度が変化することに伴って発生する回転力Frの大きさに応じて、押し付け力Fpの大きさが増減される。例えば、坂路などでの駐車時に、重力方向と車両の上下方向とのなす角度が大きくなる方向に変化することにより、それに伴って発生する回転力Frが大きくなると、押し付け力Fpも増大される。また平坦路などの通常の駐車時には、重力方向と車両の上下方向とのなす角度が小さくなる方向に変化するもしくは変化しないことにより、回転力Frが小さくなるもしくは回転力Frが発生しなくなり、押し付け力Fpも低減されるもしくは最小にされる。
【0074】
そのため、平坦路などでの通常の駐車時に、押し付け力Fpを低下させるもしくは弱く設定することにより、シフト操作に要する力を低減させて、パーキングシフト時のシフトフィーリングを向上もしくは維持することができる。そして、より確実なパーキング保持性能が要求される坂路での駐車時には、押し付け力Fpを増大させることによりパーキング保持性能を向上させ、確実に車両の停車状態を維持することができる。
【0075】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、車両の前後方向の傾斜角に基づいて車両に対して相対回転する振子12,13,17の取付方向、すなわち振子12,13,17の回転軸方向が、パーキングギヤ1の軸方向(図1,図4,図5の矢印Xで示す方向)と平行な例を示しているが、特に、図4,図5に示す第2,第3の実施例における振子13とロータリエンコーダ14と、あるいは振子17と油圧バルブ18とにより構成される傾斜角検出手段によれば、上記のようなパーキングギヤ1の軸方向と平行な方向以外の、振子が車両の前後方向の傾斜角の変化に応じて車両に対して相対回転できる任意の方向に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明のパーキング装置の第1の実施例を示す模式図である。
【図2】この発明のパーキング装置の実施例を示す模式図であって、(a)はパーキングギヤとパーキングポールとの「噛み合い」状態を示し、(b)はパーキングギヤとパーキングポールとの「非噛み合い」状態を示す図である。
【図3】この発明のパーキング装置における振子の形状を説明するための模式図であって、(a),(b)はその形状の一例を示し、(c)は他の形状例を示す図である。
【図4】この発明のパーキング装置の第2の実施例を示す模式図である。
【図5】この発明のパーキング装置の第3の実施例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1…パーキングギヤ、 2…パーキングポール、 3…パーキングカム、 4…パーキングロッド、 8…ディテントプレート、 10…ディテントスプリング、 10c…係止部、 10d…ボール、 12…振子、 12a…重錘部、 12c…溝部、 DT…ディテント機構、 AS(TR)…アシスト機構(変換機構)、 P…パーキング装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員のシフト操作によりパーキングギヤとパーキングポールとを噛み合わせて車両の停止状態を維持するパーキングポジションを設定するとともに、前記シフト操作に対応して作動するディテントプレートと、前記ディテントプレートに押し付け力を付与して係合することにより前記ディテントプレートの作動を規制して前記パーキングポジションを保持するディテントスプリングとから構成されたディテント機構を備えた車両用パーキング装置において、
前記車両の前後方向における傾斜角に基づいて前記ディテントスプリングの前記押し付け力を増減するアシスト機構を備えていることを特徴とする車両用パーキング装置。
【請求項2】
前記アシスト機構は、重力方向に対する車両姿勢の相対角度の変化に伴い発生する回転力に基づいて、前記押し付け力を増減することを特徴とする請求項1に記載の車両用パーキング装置。
【請求項3】
前記アシスト機構は、前記回転力を発生させる振子と、前記回転力を前記押し付け力に変換する変換機構とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用パーキング装置。
【請求項4】
前記傾斜角を検出する傾斜角検出手段を更に有し、
前記アシスト機構は、前記傾斜角検出手段により検出された前記傾斜角に基づいて、前記押し付け力を増減することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用パーキング装置。
【請求項5】
前記アシスト機構は、前記傾斜角に基づいて制御信号を出力する装置と、その制御信号に基づいて制御される電動アクチュエータにより構成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用パーキング装置。
【請求項6】
前記アシスト機構は、前記傾斜角に基づいて圧力信号を出力する装置と、その圧力信号に基づいて制御される流体圧アクチュエータにより構成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用パーキング装置。
【請求項7】
前記アシスト機構は、前記傾斜角が大きいほど前記押し付け力を大きくすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の車両用パーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−106327(P2007−106327A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300846(P2005−300846)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】