車両用ブレーキ装置
【課題】 電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生させる液圧源を備えるブレーキ装置において、ブレーキ液圧発生の応答性を確保しながら電動モータを小型軽量化する。
【解決手段】 BBW式ブレーキ装置の液圧源は、電動モータ44の駆動力でピストン48を前進させてブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダ42と、ポンプ64でスレーブシリンダ42の下流側のブレーキ液を加圧するVSA装置23とからなる。ブレーキペダル12の操作量に基づいてスレーブシリンダ42およびVSA装置23を選択的に作動させるので、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されないときはスレーブシリンダ42を作動させることで電動モータ44の小型化を図ることができ、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されるときはVSA装置23を作動させることで高い応答性を確保することができる。
【解決手段】 BBW式ブレーキ装置の液圧源は、電動モータ44の駆動力でピストン48を前進させてブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダ42と、ポンプ64でスレーブシリンダ42の下流側のブレーキ液を加圧するVSA装置23とからなる。ブレーキペダル12の操作量に基づいてスレーブシリンダ42およびVSA装置23を選択的に作動させるので、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されないときはスレーブシリンダ42を作動させることで電動モータ44の小型化を図ることができ、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されるときはVSA装置23を作動させることで高い応答性を確保することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量検出手段で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源と、前記液圧源の作動を制御する制御手段と、前記液圧源が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダとを備える車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるBBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)式の車両用ブレーキ装置において、液圧源であるスレーブシリンダを作動させる電動モータを小型化してコストダウンを図りながらブレーキ液圧発生の応答性を高めるために、電動モータを弱め界磁制御して回転数を増加させるものが下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−184057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、電動モータを弱め界磁制御して回転数を増加させることでスレーブシリンダのピストンの駆動速度を高め、ブレーキ液圧発生の応答性をある程度高めることは可能であるが、衝突回避等の緊急時には必ずも充分な応答性を確保することができず、スレーブシリンダの電動モータの小型化には限界があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生させる液圧源を備えるブレーキ装置において、ブレーキ液圧発生の応答性を確保しながら電動モータを小型軽量化するとともに、これに伴う関連部品への最大負荷トルク低減によるギヤボックス等を含めたブレーキ装置の小型軽量化およびコスト削減を図ることを図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量検出手段で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源と、前記液圧源の作動を制御する制御手段と、前記液圧源が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダとを備えた車両用ブレーキ装置であって、前記液圧源は、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生する第1アクチュエータと、ポンプで前記第1アクチュエータの下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータとからなり、前記制御手段は、前記操作量検出手段で検出した操作量に基づいて、前記第1アクチュエータおよび前記第2アクチュエータを選択的に作動させることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータを一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータの前記ピストンの前進を停止して前記第2アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータの前記ピストンを一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1または請求項3の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータの前記ピストンの前進を停止して前記第2アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5のいずれか1項の構成に加えて、前記電動モータは弱め界磁制御が可能であり、前記制御手段は、前記操作量および該操作量の時間変化量の少なくとも一方に基づいて、前記弱め界磁制御を用いた前記第1アクチュエータによる前記ホイールシリンダの加圧と、前記第2アクチュエータによる前記ホイールシリンダの加圧とを選択的に実行することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0012】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項1、請求項3、前記5および請求項6の何れか1項の構成に加えて、前記第1アクチュエータの作動を停止して前記第2アクチュエータを作動させるとき、前記ホイールシリンダの圧力を保持する開閉弁を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0013】
また請求項8に記載された発明によれば、請求項1、請求項2、前記4、請求項6および請求項7の何れか1項の構成に加えて、前記ブレーキペダルへの操作入力に対応してブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと前記第1、第2アクチュエータとの間に配置され、前記マスタシリンダと前記第1、第2アクチュエータとの連通を遮断する遮断弁を更に備え、前記制御手段は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1、第2アクチュエータを作動させた状態で前記遮断弁を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0014】
また請求項9に記載された発明によれば、請求項1〜請求項8の何れか1項の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御するとともに、前記第2アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、前記第1アクチュエータのみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0015】
尚、実施の形態のVSA装置23は本発明の第2アクチュエータあるいは液圧源に対応し、実施の形態のスレーブシリンダ42は本発明の第1アクチュエータあるいは液圧源に対応し、実施の形態のレギュレータバルブ54は本発明の開閉弁に対応し、実施の形態の第1、第2マスタカットバルブ32,33は本発明の遮断弁に対応し、実施の形態のペダルストロークセンサSdは本発明の操作量検出手段に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、操作量検出手段がブレーキペダルの操作量を検出すると、制御手段により制御される液圧源が操作量に対応したブレーキ液圧を発生し、そのブレーキ液圧でホイールシリンダが作動する。液圧源は、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生させる第1アクチュエータと、ポンプで第1アクチュエータの下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータとからなり、制御手段はブレーキペダルの操作量に基づいて第1、第2アクチュエータを選択的に作動させるので、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されないときに第1アクチュエータを作動させることで電動モータの小型軽量化を図ることができ、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されるときに第2アクチュエータを作動させることで高い応答性を確保することができる。しかも電動モータの小型軽量化により関連部品への最大負荷トルクが低減するため、ギヤボックス等を含めたブレーキ装置の小型軽量化およびコスト削減を図ることができる。
【0017】
尚、請求項1の発明の「選択的に作動させる」とは、第1アクチュエータおよび第2アクチュエータの一方だけを作動させる場合と、両方を作動させる場合とを含むものとする。
【0018】
また請求項2に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作量が所定値に達するまでは、第1アクチュエータのみを作動させてブレーキフィールを確保することができ、ブレーキペダルの操作量が所定値に達した後は、第1アクチュエータを一定の駆動力で駆動するとともに第2アクチュエータを作動させてブレーキ液圧発生の応答性を高めることができる。
【0019】
また請求項3の構成によれば、ブレーキペダルの操作量が所定値に達するまでは、第1アクチュエータのみを作動させてブレーキフィールを確保することができ、ブレーキペダルの操作量が所定値に達した後は、第1アクチュエータのピストンの前進を停止して第2アクチュエータのみを作動させてブレーキ液圧発生の応答性を高めることができる。
【0020】
また請求項4の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の時間変化量あるいは目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、制御手段は第1アクチュエータのピストンを一定の駆動力で駆動するとともに第2アクチュエータを作動させるので、衝突回避等の緊急時に運転者がブレーキペダルを強く踏んだ場合に最大限のブレーキ液圧を発生させて応答性を確保することができる。
【0021】
また請求項5の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の時間変化量あるいは目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、制御手段はピストンの前進を停止して第2アクチュエータのみを作動させるので、衝突回避等の緊急時に運転者がブレーキペダルを強く踏んだ場合に第2アクチュエータのみを作動させて応答性を確保することができる。
【0022】
また請求項6の構成によれば、制御手段はブレーキペダルの操作量あるいは該操作量の時間変化量に基づいて、電動モータの弱め界磁制御を用いた第1アクチュエータの作動と第2アクチュエータの作動とを選択的に実行するので、第1アクチュエータだけを作動させた場合でも最大限の応答性を確保することができる。
【0023】
尚、請求項6の発明の「選択的に実行する」とは、第1アクチュエータおよび第2アクチュエータの一方だけを作動させる場合と、両方を作動させる場合とを含むものとする。
【0024】
また請求項7の構成によれば、第1アクチュエータの作動を停止して第2アクチュエータを作動させるときに開閉弁でホイールシリンダの圧力を保持するので、アクチュエータの切換えに伴うブレーキ液圧の一時的な落ち込みを防止することができる。
【0025】
また請求項8の構成によれば、マスタシリンダと第1、第2アクチュエータとの間に遮断弁を備え、制御手段はブレーキペダルの操作量または目標液圧が所定値に達した後は、第1、第2アクチュエータを作動させた状態で遮断弁を開弁するので、第1アクチュエータのピストンが底付きして加圧能力が限界に達した場合でも、マスタシリンダが発生するブレーキ液圧でホイールシリンダの更なる加圧を可能にすることができる。
【0026】
また請求項9の構成によれば、前記制御手段は、ブレーキペダルの操作量または目標液圧が所定値に達した後は、第1アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御して第2アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、第1アクチュエータのみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動するので、ブレーキペダルを戻す復帰時に第2アクチュエータによる加圧から精度の高い第1アクチュエータによる加圧に早期に復帰させて制動フィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図(電源OFF時)。[第1の実施の形態]
【図2】制御系のブロック図。[第1の実施の形態]
【図3】通常制動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図4】VSA主体制動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図5】切換作動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図6】異常時(電源失陥時)の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図7】ブレーキペダルの踏み込み状態に応じたスレーブシリンダおよびVSA装置の作動態様を示すグラフ。[第1の実施の形態]
【図8】スレーブシリンダおよびVSA装置の作動態様をタイムチャート。[第1の実施の形態]
【図9】本発明の効果を示すグラフ。[第1の実施の形態]
【図10】VSA主体制動時の作用説明図。[第2の実施の形態]
【図11】VSA主体制動時の作用説明図。[第3の実施の形態]
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1〜図9に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0029】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者が操作するブレーキペダル12にプッシュロッド13を介して接続された第1ピストン14と、その前方に配置された第2ピストン15とを備えており、第1ピストン14および第2ピストン15間にリターンスプリング16が収納された第1液圧室17が区画され、第2ピストン15の前方にリターンスプリング18が収納された第2液圧室19が区画される。リザーバ20に連通可能な第1液圧室17および第2液圧室19はそれぞれ第1出力ポート21および第2出力ポート22を備えており、第1出力ポート21は液路Pa,Pb、VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置23および液路Pc,Pdを介して、例えば左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25のホイールシリンダ26,27(第1系統)に接続されるとともに、第2出力ポート22は液路Qa,Qb、VSA装置23および液路Qc,Qdを介して、例えば左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29のホイールシリンダ30,31(第2系統)に接続される。
【0030】
尚、本明細書で、液路Pa〜Pdおよび液路Qa〜Qdの上流側とはマスタシリンダ11側を意味し、下流側とはホイールシリンダ26,27;30,31側を意味するものとする。
【0031】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である第1マスタカットバルブ32が配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である第2マスタカットバルブ33が配置される。第1マスタカットバルブ32の上流側の液路Paから分岐する液路Ra,Rbは、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35に接続される。ストロークシミュレータ35は、シリンダ36にスプリング37で付勢されたピストン38を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン38の反スプリング37側に形成された液圧室39が液路Rbに連通する。シミュレータバルブ34には、ストロークシミュレータ35側から液路Pa側へのブレーキ液の流通のみを許容するチェックバルブ40が並列に接続される。
【0032】
第1、第2マスタカットバルブ32,33の下流側の液路Pbおよび液路Qbを相互に接続する第3液路Rcに常閉型電磁弁である連通制御バルブ41が配置され、液路Pbから分岐する液路Rdにスレーブシリンダ42が接続される。スレーブシリンダ42を作動させるアクチュエータ43は、電動モータ44の回転をギヤ列45を介してボールねじ機構46に伝達する。スレーブシリンダ42はマスタシリンダ11のリザーバ20に液路Reを介して接続されたシリンダ本体47を備えており、シリンダ本体47に摺動自在に嵌合するピストン48はリターンスプリング49で後退方向に付勢される。アクチュエータ43のボールねじ機構46でピストン48を前進方向に駆動すると、液圧室50に発生したブレーキ液圧が出力ポート51を介して液路Rdに伝達される。
【0033】
VSA装置23の構造は周知のもので、左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統を制御する第1ブレーキアクチュエータ23Aと、左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29の第2系統を制御する第2ブレーキアクチュエータ23Bとに同じ構造のものが設けられる。
【0034】
以下、その代表として左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統の第1ブレーキアクチュエータ23Aについて説明する。
【0035】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは、上流側に位置する第1マスタカットバルブ32に連なる液路Pbと、下流側に位置する左右の後輪のホイールシリンダ26,27にそれぞれ連なる液路Pc,Pdとの間に配置される。
【0036】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは左右の後輪のホイールシリンダ26,27に対して共通の液路52および液路53を備えており、液路Pbおよび液路52間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ54と、このレギュレータバルブ54に対して並列に配置されて液路Pb側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ55と、液路52および液路Pd間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ56と、このインバルブ56に対して並列に配置されて液路Pd側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ57と、液路52および液路Pc間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ58と、このインバルブ58に対して並列に配置されて液路Pc側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ59と、液路Pdおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60と、液路Pcおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ61と、液路53に接続されたリザーバ62と、液路53および液路Pb間に配置されて液路53側から液路Pb側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ63と、液路52および液路53間に配置されて液路53側から液路52側へブレーキ液を供給するポンプ64と、このポンプ64を駆動する電動モータ65と、ポンプ64の吸入側および吐出側に設けられてブレーキ液の逆流を阻止する一対のチェックバルブ66,67と、チェックバルブ63およびポンプ64の中間位置と液路Pbとの間に配置された常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ68とを備える。
【0037】
尚、前記電動モータ65は、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bのポンプ64,64に対して共用化されているが、各々のポンプ64,64に対して専用の電動モータ65,65を設けることも可能である。
【0038】
図1および図2に示すように、液路Paには、その液圧を検出する第1液圧センサSaが接続され、液路Qbには、その液圧を検出する第2液圧センサSbが接続される。第1、第2マスタカットバルブ32,33、シミュレータバルブ34、連通制御バルブ41、スレーブシリンダ42およびVSA装置23に接続された電子制御ユニットUには、前記第1液圧センサSaと、前記第2液圧センサSbと、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSc…と、ブレーキペダル12のストロークを検出するストロークセンサSdとが接続される。
【0039】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0040】
先ず、図3に基づいて正常時における通常の制動作用について説明する。
【0041】
システムが正常に機能する正常時に、液路Paに設けた第1液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33が励磁されて閉弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が励磁されて開弁し、常閉型電磁弁よりなる連通制御バルブ41が励磁されて開弁する。これと同時にスレーブシリンダ42のアクチュエータ43が作動してピストン48が前進することで、液圧室50にブレーキ液圧が発生する。このとき、常閉型電磁弁よりなる連通制御バルブ41は励磁されて開弁しているため、スレーブシリンダ42が発生したブレーキ液圧は液路Pbと、その液路Pbに第3液路Rcを介して接続された液路Qbとに伝達され、両液路Pb,QbからVSA装置23の開弁したインバルブ56,56;58,58を介してディスクブレーキ装置24,25;28,29のホイールシリンダ26,27;30,31に伝達されて各車輪を制動する。
【0042】
また常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34は励磁されて開弁するため、マスタシリンダ11の第1液圧室17が発生したブレーキ液圧は開弁したシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35の液圧室39に伝達され、そのピストン38をスプリング37に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0043】
そして液路Qbに設けた第2液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ42によるブレーキ液圧が、液路Paに設けた第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11によるブレーキ液圧に応じた大きさになるように、スレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することで、運転者がブレーキペダル12に入力する操作量に応じた制動力をディスクブレーキ装置24,25;28,29に発生させることができる。
【0044】
尚、ブレーキペダル12の操作量の代わりに、電子制御ユニットUで算出した目標液圧に基づいてスレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することも可能である。
【0045】
次に、VSA装置23の作用を説明する。
【0046】
VSA装置23が作動していない状態では、レギュレータバルブ54,54が消磁されて開弁し、サクションバルブ68,68が消磁されて閉弁し、インバルブ56,56;58,58が消磁されて開弁し、アウトバルブ60,60;61,61が消磁されて閉弁する。従って、運転者が制動を行うべくブレーキペダル12を踏んでスレーブシリンダ42が作動すると、スレーブシリンダ42の出力ポート51から出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ54,54から開弁状態にあるインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ26,27;30,31に供給され、四輪を制動することができる。
【0047】
VSA装置23の作動時には、サクションバルブ68,68が励磁されて開弁した状態で電動モータ65でポンプ64,64が駆動され、スレーブシリンダ42側からサクションバルブ68,68を経て吸入されてポンプ64,64で加圧されたブレーキ液が、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58に供給される。従って、レギュレータバルブ54,54を励磁して開度を調整することで液路52,52のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。
【0048】
従って、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bにより四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0049】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左後輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを車輪速センサSc…の出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキアクチュエータ23Aの一方のインバルブ58を励磁して閉弁するとともに、一方のアウトバルブ61を励磁して開弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧をリザーバ62に逃がして所定の圧力まで減圧した後、アウトバルブ61を消磁して閉弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧を保持する。その結果、左後輪のホイールシリンダ26のロック傾向が解消に向かうと、インバルブ58を消磁して開弁することで、スレーブシリンダ42の出力ポート51からのブレーキ液圧を左後輪のホイールシリンダ26に供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0050】
この増圧によって左後輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左後輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0051】
以上、左後輪のホイールシリンダ26がロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右後輪のホイールシリンダ27、左前輪のホイールシリンダ30、右前輪のホイールシリンダ31がロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0052】
さて、本実施の形態では、図3で説明した通常制動時であっても、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み方に応じて、スレーブシリンダ42および/またはVSA装置23が作動してブレーキ液圧を発生する。即ち、ブレーキペダル12の踏み込み方に応じて、スレーブシリンダ42を作動させる態様とVSA装置23を作動させる態様とが切り換えられる。
【0053】
図7は、ストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12の操作量と、その操作量から算出した目標ブレーキ液圧と、スレーブシリンダ42のストロークと、VSA装置23の加圧量との時間変化を示すもので、実線は急制動時、破線は緩制動時、鎖線は急踏み判定時に対応する。
【0054】
急制動および急踏みは、電子制御ユニットUがストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12のストロークに基づいて判定する。即ち、ストロークの時間変化量が基準値以上であってストロークが基準値以上場合は急制動と判定され、ストロークの時間変化量が基準値以上であってストロークが基準値未満場合は急踏みと判定される。
【0055】
ストロークの時間変化量が基準値未満であって急制動も急踏みも判定されないとき、つまり緩制動時にはスレーブシリンダ42だけが作動して目標ブレーキ液圧を発生する。このとき、目標ブレーキ液圧はゆっくりと増加するため、スレーブシリンダ42の電動モータ44に小型で低コストのものを採用しても、ブレーキ液圧発生の応答性が低下することはない。
【0056】
ブレーキペダル12の急踏みが判定された場合、スレーブシリンダ42に設けられた小型の電動モータ44ではブレーキ液圧発生の応答性が低くなる懸念があるが、そのときに電動モータ44を弱め界磁制御して回転数を通常時よりも増加させることで、急踏みが判定された場合の応答性の低下を回避することができる。
【0057】
このように、緩制動時および急踏み判定時には、VSA装置23を作動させずにスレーブシリンダ42だけを作動させてブレーキ液圧を発生するので、VSA装置23の作動に伴う振動や騒音の発生を防止しながら、スレーブシリンダ42で静粛にかつ精度良く目標ブレーキ液圧を発生することができる。
【0058】
尚、緩制動時あるいは急踏み判定時であっても、ブレーキペダル12の最終的なストロークが大きくなると目標ブレーキ液圧が閾値(例えば、10MP)を超えてしまい、その目標ブレーキ液圧を小型の電動モータ44を備えたスレーブシリンダ42では発生し切れなくなる。このような場合には、スレーブシリンダ42の作動を停止した状態でVSA装置23を作動させ、VSA装置23により目標ブレーキ液圧を発生させる。
【0059】
即ち、衝突回避等の緊急時に急制動が判定されると、スレーブシリンダ42の作動を停止した状態で、つまり電動モータ44への電流を遮断してピストン48の前進を停止した状態でVSA装置23を作動させることで、VSA装置23によって目標ブレーキ液圧の全てを発生させる。VSA装置23は、電動モータ44でピストン48を前進させてブレーキ液圧を発生するスレーブシリンダ42に比べて、ブレーキ液圧発生の応答性が遥かに高いため、緊急時に素早くブレーキ液圧を立ち上げて急制動を行うことができる。尚、VSA装置23が作動すると若干の振動や騒音が発生することが避けられないが、このような急制動は発生頻度が極めて低いために問題になることはない。
【0060】
図4は、急制動時にスレーブシリンダ42が作動を停止した状態で、つまり電動モータ44への電流を遮断してピストン48の前進を停止した状態でVSA装置23が作動した状態を示すものである。このときVSA装置23のモジュレータバルブ54,54は励磁されて閉弁するとともに、サクションバルブ68,68は励磁されて開弁し、サクションバルブ68,68を介してスレーブシリンダ42側からポンプ64,64に吸入されたブレーキ液圧が、開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に供給される。
【0061】
この状態からポンプ64,64により発生したブレーキ液圧を、モジュレータバルブ54,54の開度を調整することによりスレーブシリンダ42側に解放し、これによりブレーキペダル12の操作量あるいは外部から要求される目標液圧に応じたブレーキ液圧が発生するように制御される。ポンプ64,64が作動してスレーブシリンダ42側からブレーキ液圧を吸入するとき、アクチュエータ43は作動せずにピストン48だけが負圧で前進してブレーキ液をVSA装置23側に供給する。
【0062】
図5は、急制動が判定されて、スレーブシリンダ42によるブレーキ液圧発生からVSA装置23によるブレーキ液圧発生に切り換えられるときの状態を示すものである。図3に示す通常制動の状態から図4に示す急制動の状態に切り換えるときにスレーブシリンダ42が作動を停止すると、ホイールシリンダ26,27;30,31のブレーキ液圧がモジュレータバルブ54,54を通過してスレーブシリンダ42側に逃げてしまい、ホイールシリンダ26,27;30,31の制動力が瞬間的に失われる可能性がある。しかしながら、図5に示すように、スレーブシリンダ42の作動を停止する前に予めモジュレータバルブ54,54を励磁して閉弁することで、ホイールシリンダ26,27;30,31のブレーキ液圧がスレーブシリンダ42側に逃げるのを防止することができる。
【0063】
またブレーキペダル12の操作量が第1の閾値を超えてVSA装置23が作動した状態からブレーキペダル12が戻された場合、ブレーキペダル12の操作量が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値を下まわったときに、VSA装置23の作動を停止してスレーブシリンダ42による制動に移行する。これにより、スレーブシリンダ42による精度の良い制御に早期に復帰させて制動フィーリングを改善することができる。
【0064】
図8は、上記各作用の一例を示すタイムチャートであり、領域(A)では急制動も急踏みも判定されず、かつ目標ブレーキ液圧が第1閾値(例えば、10MPa)以下であるため、スレーブシリンダ42だけが作動する。領域(B)では急制動も急踏みも判定されないが、目標ブレーキ液圧が前記第1閾値を超えるため、スレーブシリンダ42に加えてVSA装置23が作動することで、スレーブシリンダ42だけでは発生し切れないブレーキ液圧をVSA装置23により発生させる。
【0065】
領域(C)では急踏みが判定され、かつ最大ブレーキ液圧が前記第1閾値よりも低い第2閾値(例えば、7MPa)を超えているために急制動と判定され、スレーブシリンダ42が発生するブレーキ液圧が第2閾値を超えた時点で、スレーブシリンダ42が作動を停止し、VSA装置23のみで目標ブレーキ液圧を発生する。領域(D)では急踏みが判定されるが、最大ブレーキ液圧が前記第2閾値を超えないため、VSA装置23は作動せずにスレーブシリンダ42のみで目標ブレーキ液圧を発生する。第2閾値の第1閾値に対する減少量は、ブレーキペダル12の踏み込み速度により持ち替えることが可能である。
【0066】
図9の実線はスレーブシリンダ42の電動モータ44に充分な出力を持つ大型モータを採用した場合であり、ブレーキ液圧の立ち上がり(応答性)および最大ブレーキ液圧も充分に高くなっている。鎖線はコストダウンのために小型の電動モータ44を採用した場合であり、ブレーキ液圧の立ち上がりが悪くなり、最大ブレーキ液圧も低下している。点線は、小型の電動モータ44を採用しながら、応答性の低下をギヤ列45のギヤ比を小さくして補った場合であり、応答性は改善されるものの、最大ブレーキ液圧は更に低下している。
【0067】
破線は本実施の形態に対応するもので、小型の電動モータ44を採用してコストダウンを図りながらVSA装置23を併用することで、大型の電動モータ44を採用したスレーブシリンダ42(実線参照)に対して遜色のない程度まで、応答性の確保および最大ブレーキ液圧の確保が両立していることが分かる。
【0068】
次に、図6に基づいて電源の失陥等によりスレーブシリンダ42が作動不能になった場合の作用について説明する。
【0069】
電源が失陥すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34および連通制御バルブ41は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ56,56;58,58およびレギュレータバルブ54,54は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60,60;61,61およびサクションバルブ68,68は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の第1、第2液圧室17,19に発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ35に吸収されることなく第1、第2マスタカットバルブ32,33、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58を通過して各車輪のディスクブレーキ装置24,25;30,31のホイールシリンダ26,27;30,31を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0070】
このとき、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧がスレーブシリンダ42の液圧室50に作用してピストン48を後退させてしまうと、液圧室50の容積が拡大して前記ブレーキ液圧が減圧してしまい、ブレーキ液圧を維持しようとするとブレーキペダル12のストロークが増加してしまう可能性がある。しかしながら、スレーブシリンダ42のボールねじ機構46は、ピストン48側から荷重が入力した場合には後退を抑制されるため、液圧室50の容積増加が軽減される。尚、スレーブシリンダ42の失陥時にピストン48の後退を規制する部材を別途設けても良い。この場合は通常動作時に駆動抵抗を増加させない構造であることが望ましい。
【0071】
また電源の失陥時には連通制御バルブ41が閉弁して第1系統の液路Pa〜Pdと第2系統の液路Qa〜Qdとが完全に分離されるため、一方の系統の液路が液漏れ失陥しても他方の系統の制動力を維持することができ、冗長性が一層高められる。
【0072】
尚、ブレーキペダル12が踏み込まれた状態で電源が失陥すると、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が自動的に閉弁してストロークシミュレータ35にブレーキ液が閉じ込められてしまい、ブレーキ液の容量が不足する可能性があるが、このような場合にはストロークシミュレータ35のブレーキ液がチェックバルブ40を通過してマスタシリンダ11側に戻されるので支障はない。
【0073】
またVSA装置23を作動させるとき、スレーブシリンダ42のブレーキ液を活用してポンプ64,64による吸液を促進できるように、図10に示す第2の実施の形態の如く、ピストン48の前進量を最大にするためにスレーブシリンダ42を一定の最大駆動力で駆動した状態でVSA装置23を作動させても良く、あるいはスレーブシリンダ42をピストン48が底付きするまで駆動した状態でVSA装置23を作動させても良い。
【0074】
図10は、VSA装置23の作動初期の状態を示すもので、サクションバルブ68,68が開弁した状態でスレーブシリンダ42を最大駆動力で駆動することでVSA装置23側にブレーキ液を供給し、この状態でポンプ64,64を駆動してホイールシリンダ26,27;30,31を加圧する。これにより、極めて高い応答性でホイールシリンダ26,27;30,31を加圧することができる。そしてVSA装置23の作動中期から作動後期では、ポンプ64,64が吐出するブレーキ液の一部がレギュレータバルブ54,54の開度を調整することでスレーブシリンダ42側に戻され、スレーブシリンダ42のピストン48は図3の通常制動時の位置に復帰する。
【0075】
以上のように、VSA装置23の作動初期にスレーブシリンダ42を最大駆動力で駆動することでVSA装置23が作動するときの吸液を促進し、VSA装置23の作動初期の加圧応答性を高めることができる。またVSA装置23が加圧を終了してスレーブシリンダ42のみによる加圧に復帰する際に、スレーブシリンダ42の電動モータ44が既に通電された状態で待機しているので、ピストン48の移動をスムーズに開始させてブレーキ液圧の急変を防止することができる。
【0076】
ところで、上述した第2の実施の形態のように、VSA装置23を作動させるときにスレーブシリンダ42を一定の最大駆動力で駆動する場合、スレーブシリンダ42の加圧能力をVSA装置23の加圧能力よりも大きく設定する必要があるため、スレーブシリンダ42が大型化する可能性がある。このスレーブシリンダ42の大型化を回避するために、図11の第3の実施の形態に示すように、マスタシリンダ11が出力するブレーキ液を利用することが考えられる。
【0077】
即ち、第3の実施の形態では、VSA装置23を作動させるときに、第1、第2マスタカットバルブ32,33を消磁して開弁し、レギュレータバルブ54,54を励磁して閉弁し、サクションバルブ68,68を励磁して開弁する。これにより、スレーブシリンダ42が小型で液量が少ないために最大駆動力で駆動する際にピストン48が底付きしてしまい、VSA装置23に充分な量のブレーキ液を供給できない場合であっても、マスタシリンダ11からのブレーキ液をVSA装置23に供給することで、衝突回避等の緊急時に急制動が判定された場合にVSA装置23により充分な制動力を発生させることができる。この第3の実施の形態によれば、スレーブシリンダ42の大型化を回避することができる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0079】
例えば、本発明のブレーキペダル12の操作量は実施の形態のストロークに限定されず、踏力であっても良い。
【0080】
また実施の形態では電動モータ44の弱め界磁制御を行うかVSA装置23を作動させるかをブレーキペダル12のストローク(目標ブレーキ液圧)により判定しているが、それをブレーキペダル12のストロークの時間変化量により判定しても良い。
【0081】
また実施の形態ではスレーブシリンダ42が第1、第2のブレーキ系統に対して単一の液圧室50を備えているが、第1、第2のブレーキ系統に対してそれぞれ独立した2個の液圧室を備えるものであっても良い。
【符号の説明】
【0082】
12 ブレーキペダル
23 VSA装置(第2アクチュエータ、液圧源)
26 ホイールシリンダ
27 ホイールシリンダ
30 ホイールシリンダ
31 ホイールシリンダ
32 第1マスタカットバルブ(遮断弁)
33 第2マスタカットバルブ(遮断弁)
42 スレーブシリンダ(第1アクチュエータ、液圧源)
44 電動モータ
48 ピストン
54 レギュレータバルブ(開閉弁)
64 ポンプ
Sd ペダルストロークセンサ(操作量検出手段)
U 電子制御ユニット(制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量検出手段で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源と、前記液圧源の作動を制御する制御手段と、前記液圧源が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダとを備える車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるBBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)式の車両用ブレーキ装置において、液圧源であるスレーブシリンダを作動させる電動モータを小型化してコストダウンを図りながらブレーキ液圧発生の応答性を高めるために、電動モータを弱め界磁制御して回転数を増加させるものが下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−184057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、電動モータを弱め界磁制御して回転数を増加させることでスレーブシリンダのピストンの駆動速度を高め、ブレーキ液圧発生の応答性をある程度高めることは可能であるが、衝突回避等の緊急時には必ずも充分な応答性を確保することができず、スレーブシリンダの電動モータの小型化には限界があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生させる液圧源を備えるブレーキ装置において、ブレーキ液圧発生の応答性を確保しながら電動モータを小型軽量化するとともに、これに伴う関連部品への最大負荷トルク低減によるギヤボックス等を含めたブレーキ装置の小型軽量化およびコスト削減を図ることを図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量検出手段で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源と、前記液圧源の作動を制御する制御手段と、前記液圧源が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダとを備えた車両用ブレーキ装置であって、前記液圧源は、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生する第1アクチュエータと、ポンプで前記第1アクチュエータの下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータとからなり、前記制御手段は、前記操作量検出手段で検出した操作量に基づいて、前記第1アクチュエータおよび前記第2アクチュエータを選択的に作動させることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータを一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータの前記ピストンの前進を停止して前記第2アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータの前記ピストンを一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1または請求項3の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータの前記ピストンの前進を停止して前記第2アクチュエータのみを作動させて前記ホイールシリンダを加圧することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5のいずれか1項の構成に加えて、前記電動モータは弱め界磁制御が可能であり、前記制御手段は、前記操作量および該操作量の時間変化量の少なくとも一方に基づいて、前記弱め界磁制御を用いた前記第1アクチュエータによる前記ホイールシリンダの加圧と、前記第2アクチュエータによる前記ホイールシリンダの加圧とを選択的に実行することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0012】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項1、請求項3、前記5および請求項6の何れか1項の構成に加えて、前記第1アクチュエータの作動を停止して前記第2アクチュエータを作動させるとき、前記ホイールシリンダの圧力を保持する開閉弁を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0013】
また請求項8に記載された発明によれば、請求項1、請求項2、前記4、請求項6および請求項7の何れか1項の構成に加えて、前記ブレーキペダルへの操作入力に対応してブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと前記第1、第2アクチュエータとの間に配置され、前記マスタシリンダと前記第1、第2アクチュエータとの連通を遮断する遮断弁を更に備え、前記制御手段は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1、第2アクチュエータを作動させた状態で前記遮断弁を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0014】
また請求項9に記載された発明によれば、請求項1〜請求項8の何れか1項の構成に加えて、前記制御手段は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御するとともに、前記第2アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、前記第1アクチュエータのみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0015】
尚、実施の形態のVSA装置23は本発明の第2アクチュエータあるいは液圧源に対応し、実施の形態のスレーブシリンダ42は本発明の第1アクチュエータあるいは液圧源に対応し、実施の形態のレギュレータバルブ54は本発明の開閉弁に対応し、実施の形態の第1、第2マスタカットバルブ32,33は本発明の遮断弁に対応し、実施の形態のペダルストロークセンサSdは本発明の操作量検出手段に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、操作量検出手段がブレーキペダルの操作量を検出すると、制御手段により制御される液圧源が操作量に対応したブレーキ液圧を発生し、そのブレーキ液圧でホイールシリンダが作動する。液圧源は、電動モータの駆動力でピストンを前進させてブレーキ液圧を発生させる第1アクチュエータと、ポンプで第1アクチュエータの下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータとからなり、制御手段はブレーキペダルの操作量に基づいて第1、第2アクチュエータを選択的に作動させるので、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されないときに第1アクチュエータを作動させることで電動モータの小型軽量化を図ることができ、ブレーキ液圧発生の高い応答性が要求されるときに第2アクチュエータを作動させることで高い応答性を確保することができる。しかも電動モータの小型軽量化により関連部品への最大負荷トルクが低減するため、ギヤボックス等を含めたブレーキ装置の小型軽量化およびコスト削減を図ることができる。
【0017】
尚、請求項1の発明の「選択的に作動させる」とは、第1アクチュエータおよび第2アクチュエータの一方だけを作動させる場合と、両方を作動させる場合とを含むものとする。
【0018】
また請求項2に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作量が所定値に達するまでは、第1アクチュエータのみを作動させてブレーキフィールを確保することができ、ブレーキペダルの操作量が所定値に達した後は、第1アクチュエータを一定の駆動力で駆動するとともに第2アクチュエータを作動させてブレーキ液圧発生の応答性を高めることができる。
【0019】
また請求項3の構成によれば、ブレーキペダルの操作量が所定値に達するまでは、第1アクチュエータのみを作動させてブレーキフィールを確保することができ、ブレーキペダルの操作量が所定値に達した後は、第1アクチュエータのピストンの前進を停止して第2アクチュエータのみを作動させてブレーキ液圧発生の応答性を高めることができる。
【0020】
また請求項4の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の時間変化量あるいは目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、制御手段は第1アクチュエータのピストンを一定の駆動力で駆動するとともに第2アクチュエータを作動させるので、衝突回避等の緊急時に運転者がブレーキペダルを強く踏んだ場合に最大限のブレーキ液圧を発生させて応答性を確保することができる。
【0021】
また請求項5の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の時間変化量あるいは目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、制御手段はピストンの前進を停止して第2アクチュエータのみを作動させるので、衝突回避等の緊急時に運転者がブレーキペダルを強く踏んだ場合に第2アクチュエータのみを作動させて応答性を確保することができる。
【0022】
また請求項6の構成によれば、制御手段はブレーキペダルの操作量あるいは該操作量の時間変化量に基づいて、電動モータの弱め界磁制御を用いた第1アクチュエータの作動と第2アクチュエータの作動とを選択的に実行するので、第1アクチュエータだけを作動させた場合でも最大限の応答性を確保することができる。
【0023】
尚、請求項6の発明の「選択的に実行する」とは、第1アクチュエータおよび第2アクチュエータの一方だけを作動させる場合と、両方を作動させる場合とを含むものとする。
【0024】
また請求項7の構成によれば、第1アクチュエータの作動を停止して第2アクチュエータを作動させるときに開閉弁でホイールシリンダの圧力を保持するので、アクチュエータの切換えに伴うブレーキ液圧の一時的な落ち込みを防止することができる。
【0025】
また請求項8の構成によれば、マスタシリンダと第1、第2アクチュエータとの間に遮断弁を備え、制御手段はブレーキペダルの操作量または目標液圧が所定値に達した後は、第1、第2アクチュエータを作動させた状態で遮断弁を開弁するので、第1アクチュエータのピストンが底付きして加圧能力が限界に達した場合でも、マスタシリンダが発生するブレーキ液圧でホイールシリンダの更なる加圧を可能にすることができる。
【0026】
また請求項9の構成によれば、前記制御手段は、ブレーキペダルの操作量または目標液圧が所定値に達した後は、第1アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御して第2アクチュエータを前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、第1アクチュエータのみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動するので、ブレーキペダルを戻す復帰時に第2アクチュエータによる加圧から精度の高い第1アクチュエータによる加圧に早期に復帰させて制動フィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図(電源OFF時)。[第1の実施の形態]
【図2】制御系のブロック図。[第1の実施の形態]
【図3】通常制動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図4】VSA主体制動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図5】切換作動時の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図6】異常時(電源失陥時)の作用説明図。[第1の実施の形態]
【図7】ブレーキペダルの踏み込み状態に応じたスレーブシリンダおよびVSA装置の作動態様を示すグラフ。[第1の実施の形態]
【図8】スレーブシリンダおよびVSA装置の作動態様をタイムチャート。[第1の実施の形態]
【図9】本発明の効果を示すグラフ。[第1の実施の形態]
【図10】VSA主体制動時の作用説明図。[第2の実施の形態]
【図11】VSA主体制動時の作用説明図。[第3の実施の形態]
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1〜図9に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0029】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者が操作するブレーキペダル12にプッシュロッド13を介して接続された第1ピストン14と、その前方に配置された第2ピストン15とを備えており、第1ピストン14および第2ピストン15間にリターンスプリング16が収納された第1液圧室17が区画され、第2ピストン15の前方にリターンスプリング18が収納された第2液圧室19が区画される。リザーバ20に連通可能な第1液圧室17および第2液圧室19はそれぞれ第1出力ポート21および第2出力ポート22を備えており、第1出力ポート21は液路Pa,Pb、VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置23および液路Pc,Pdを介して、例えば左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25のホイールシリンダ26,27(第1系統)に接続されるとともに、第2出力ポート22は液路Qa,Qb、VSA装置23および液路Qc,Qdを介して、例えば左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29のホイールシリンダ30,31(第2系統)に接続される。
【0030】
尚、本明細書で、液路Pa〜Pdおよび液路Qa〜Qdの上流側とはマスタシリンダ11側を意味し、下流側とはホイールシリンダ26,27;30,31側を意味するものとする。
【0031】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である第1マスタカットバルブ32が配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である第2マスタカットバルブ33が配置される。第1マスタカットバルブ32の上流側の液路Paから分岐する液路Ra,Rbは、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35に接続される。ストロークシミュレータ35は、シリンダ36にスプリング37で付勢されたピストン38を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン38の反スプリング37側に形成された液圧室39が液路Rbに連通する。シミュレータバルブ34には、ストロークシミュレータ35側から液路Pa側へのブレーキ液の流通のみを許容するチェックバルブ40が並列に接続される。
【0032】
第1、第2マスタカットバルブ32,33の下流側の液路Pbおよび液路Qbを相互に接続する第3液路Rcに常閉型電磁弁である連通制御バルブ41が配置され、液路Pbから分岐する液路Rdにスレーブシリンダ42が接続される。スレーブシリンダ42を作動させるアクチュエータ43は、電動モータ44の回転をギヤ列45を介してボールねじ機構46に伝達する。スレーブシリンダ42はマスタシリンダ11のリザーバ20に液路Reを介して接続されたシリンダ本体47を備えており、シリンダ本体47に摺動自在に嵌合するピストン48はリターンスプリング49で後退方向に付勢される。アクチュエータ43のボールねじ機構46でピストン48を前進方向に駆動すると、液圧室50に発生したブレーキ液圧が出力ポート51を介して液路Rdに伝達される。
【0033】
VSA装置23の構造は周知のもので、左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統を制御する第1ブレーキアクチュエータ23Aと、左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29の第2系統を制御する第2ブレーキアクチュエータ23Bとに同じ構造のものが設けられる。
【0034】
以下、その代表として左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統の第1ブレーキアクチュエータ23Aについて説明する。
【0035】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは、上流側に位置する第1マスタカットバルブ32に連なる液路Pbと、下流側に位置する左右の後輪のホイールシリンダ26,27にそれぞれ連なる液路Pc,Pdとの間に配置される。
【0036】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは左右の後輪のホイールシリンダ26,27に対して共通の液路52および液路53を備えており、液路Pbおよび液路52間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ54と、このレギュレータバルブ54に対して並列に配置されて液路Pb側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ55と、液路52および液路Pd間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ56と、このインバルブ56に対して並列に配置されて液路Pd側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ57と、液路52および液路Pc間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ58と、このインバルブ58に対して並列に配置されて液路Pc側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ59と、液路Pdおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60と、液路Pcおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ61と、液路53に接続されたリザーバ62と、液路53および液路Pb間に配置されて液路53側から液路Pb側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ63と、液路52および液路53間に配置されて液路53側から液路52側へブレーキ液を供給するポンプ64と、このポンプ64を駆動する電動モータ65と、ポンプ64の吸入側および吐出側に設けられてブレーキ液の逆流を阻止する一対のチェックバルブ66,67と、チェックバルブ63およびポンプ64の中間位置と液路Pbとの間に配置された常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ68とを備える。
【0037】
尚、前記電動モータ65は、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bのポンプ64,64に対して共用化されているが、各々のポンプ64,64に対して専用の電動モータ65,65を設けることも可能である。
【0038】
図1および図2に示すように、液路Paには、その液圧を検出する第1液圧センサSaが接続され、液路Qbには、その液圧を検出する第2液圧センサSbが接続される。第1、第2マスタカットバルブ32,33、シミュレータバルブ34、連通制御バルブ41、スレーブシリンダ42およびVSA装置23に接続された電子制御ユニットUには、前記第1液圧センサSaと、前記第2液圧センサSbと、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSc…と、ブレーキペダル12のストロークを検出するストロークセンサSdとが接続される。
【0039】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0040】
先ず、図3に基づいて正常時における通常の制動作用について説明する。
【0041】
システムが正常に機能する正常時に、液路Paに設けた第1液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33が励磁されて閉弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が励磁されて開弁し、常閉型電磁弁よりなる連通制御バルブ41が励磁されて開弁する。これと同時にスレーブシリンダ42のアクチュエータ43が作動してピストン48が前進することで、液圧室50にブレーキ液圧が発生する。このとき、常閉型電磁弁よりなる連通制御バルブ41は励磁されて開弁しているため、スレーブシリンダ42が発生したブレーキ液圧は液路Pbと、その液路Pbに第3液路Rcを介して接続された液路Qbとに伝達され、両液路Pb,QbからVSA装置23の開弁したインバルブ56,56;58,58を介してディスクブレーキ装置24,25;28,29のホイールシリンダ26,27;30,31に伝達されて各車輪を制動する。
【0042】
また常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34は励磁されて開弁するため、マスタシリンダ11の第1液圧室17が発生したブレーキ液圧は開弁したシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35の液圧室39に伝達され、そのピストン38をスプリング37に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0043】
そして液路Qbに設けた第2液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ42によるブレーキ液圧が、液路Paに設けた第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11によるブレーキ液圧に応じた大きさになるように、スレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することで、運転者がブレーキペダル12に入力する操作量に応じた制動力をディスクブレーキ装置24,25;28,29に発生させることができる。
【0044】
尚、ブレーキペダル12の操作量の代わりに、電子制御ユニットUで算出した目標液圧に基づいてスレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することも可能である。
【0045】
次に、VSA装置23の作用を説明する。
【0046】
VSA装置23が作動していない状態では、レギュレータバルブ54,54が消磁されて開弁し、サクションバルブ68,68が消磁されて閉弁し、インバルブ56,56;58,58が消磁されて開弁し、アウトバルブ60,60;61,61が消磁されて閉弁する。従って、運転者が制動を行うべくブレーキペダル12を踏んでスレーブシリンダ42が作動すると、スレーブシリンダ42の出力ポート51から出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ54,54から開弁状態にあるインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ26,27;30,31に供給され、四輪を制動することができる。
【0047】
VSA装置23の作動時には、サクションバルブ68,68が励磁されて開弁した状態で電動モータ65でポンプ64,64が駆動され、スレーブシリンダ42側からサクションバルブ68,68を経て吸入されてポンプ64,64で加圧されたブレーキ液が、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58に供給される。従って、レギュレータバルブ54,54を励磁して開度を調整することで液路52,52のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。
【0048】
従って、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bにより四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0049】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左後輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを車輪速センサSc…の出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキアクチュエータ23Aの一方のインバルブ58を励磁して閉弁するとともに、一方のアウトバルブ61を励磁して開弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧をリザーバ62に逃がして所定の圧力まで減圧した後、アウトバルブ61を消磁して閉弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧を保持する。その結果、左後輪のホイールシリンダ26のロック傾向が解消に向かうと、インバルブ58を消磁して開弁することで、スレーブシリンダ42の出力ポート51からのブレーキ液圧を左後輪のホイールシリンダ26に供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0050】
この増圧によって左後輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左後輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0051】
以上、左後輪のホイールシリンダ26がロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右後輪のホイールシリンダ27、左前輪のホイールシリンダ30、右前輪のホイールシリンダ31がロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0052】
さて、本実施の形態では、図3で説明した通常制動時であっても、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み方に応じて、スレーブシリンダ42および/またはVSA装置23が作動してブレーキ液圧を発生する。即ち、ブレーキペダル12の踏み込み方に応じて、スレーブシリンダ42を作動させる態様とVSA装置23を作動させる態様とが切り換えられる。
【0053】
図7は、ストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12の操作量と、その操作量から算出した目標ブレーキ液圧と、スレーブシリンダ42のストロークと、VSA装置23の加圧量との時間変化を示すもので、実線は急制動時、破線は緩制動時、鎖線は急踏み判定時に対応する。
【0054】
急制動および急踏みは、電子制御ユニットUがストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12のストロークに基づいて判定する。即ち、ストロークの時間変化量が基準値以上であってストロークが基準値以上場合は急制動と判定され、ストロークの時間変化量が基準値以上であってストロークが基準値未満場合は急踏みと判定される。
【0055】
ストロークの時間変化量が基準値未満であって急制動も急踏みも判定されないとき、つまり緩制動時にはスレーブシリンダ42だけが作動して目標ブレーキ液圧を発生する。このとき、目標ブレーキ液圧はゆっくりと増加するため、スレーブシリンダ42の電動モータ44に小型で低コストのものを採用しても、ブレーキ液圧発生の応答性が低下することはない。
【0056】
ブレーキペダル12の急踏みが判定された場合、スレーブシリンダ42に設けられた小型の電動モータ44ではブレーキ液圧発生の応答性が低くなる懸念があるが、そのときに電動モータ44を弱め界磁制御して回転数を通常時よりも増加させることで、急踏みが判定された場合の応答性の低下を回避することができる。
【0057】
このように、緩制動時および急踏み判定時には、VSA装置23を作動させずにスレーブシリンダ42だけを作動させてブレーキ液圧を発生するので、VSA装置23の作動に伴う振動や騒音の発生を防止しながら、スレーブシリンダ42で静粛にかつ精度良く目標ブレーキ液圧を発生することができる。
【0058】
尚、緩制動時あるいは急踏み判定時であっても、ブレーキペダル12の最終的なストロークが大きくなると目標ブレーキ液圧が閾値(例えば、10MP)を超えてしまい、その目標ブレーキ液圧を小型の電動モータ44を備えたスレーブシリンダ42では発生し切れなくなる。このような場合には、スレーブシリンダ42の作動を停止した状態でVSA装置23を作動させ、VSA装置23により目標ブレーキ液圧を発生させる。
【0059】
即ち、衝突回避等の緊急時に急制動が判定されると、スレーブシリンダ42の作動を停止した状態で、つまり電動モータ44への電流を遮断してピストン48の前進を停止した状態でVSA装置23を作動させることで、VSA装置23によって目標ブレーキ液圧の全てを発生させる。VSA装置23は、電動モータ44でピストン48を前進させてブレーキ液圧を発生するスレーブシリンダ42に比べて、ブレーキ液圧発生の応答性が遥かに高いため、緊急時に素早くブレーキ液圧を立ち上げて急制動を行うことができる。尚、VSA装置23が作動すると若干の振動や騒音が発生することが避けられないが、このような急制動は発生頻度が極めて低いために問題になることはない。
【0060】
図4は、急制動時にスレーブシリンダ42が作動を停止した状態で、つまり電動モータ44への電流を遮断してピストン48の前進を停止した状態でVSA装置23が作動した状態を示すものである。このときVSA装置23のモジュレータバルブ54,54は励磁されて閉弁するとともに、サクションバルブ68,68は励磁されて開弁し、サクションバルブ68,68を介してスレーブシリンダ42側からポンプ64,64に吸入されたブレーキ液圧が、開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に供給される。
【0061】
この状態からポンプ64,64により発生したブレーキ液圧を、モジュレータバルブ54,54の開度を調整することによりスレーブシリンダ42側に解放し、これによりブレーキペダル12の操作量あるいは外部から要求される目標液圧に応じたブレーキ液圧が発生するように制御される。ポンプ64,64が作動してスレーブシリンダ42側からブレーキ液圧を吸入するとき、アクチュエータ43は作動せずにピストン48だけが負圧で前進してブレーキ液をVSA装置23側に供給する。
【0062】
図5は、急制動が判定されて、スレーブシリンダ42によるブレーキ液圧発生からVSA装置23によるブレーキ液圧発生に切り換えられるときの状態を示すものである。図3に示す通常制動の状態から図4に示す急制動の状態に切り換えるときにスレーブシリンダ42が作動を停止すると、ホイールシリンダ26,27;30,31のブレーキ液圧がモジュレータバルブ54,54を通過してスレーブシリンダ42側に逃げてしまい、ホイールシリンダ26,27;30,31の制動力が瞬間的に失われる可能性がある。しかしながら、図5に示すように、スレーブシリンダ42の作動を停止する前に予めモジュレータバルブ54,54を励磁して閉弁することで、ホイールシリンダ26,27;30,31のブレーキ液圧がスレーブシリンダ42側に逃げるのを防止することができる。
【0063】
またブレーキペダル12の操作量が第1の閾値を超えてVSA装置23が作動した状態からブレーキペダル12が戻された場合、ブレーキペダル12の操作量が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値を下まわったときに、VSA装置23の作動を停止してスレーブシリンダ42による制動に移行する。これにより、スレーブシリンダ42による精度の良い制御に早期に復帰させて制動フィーリングを改善することができる。
【0064】
図8は、上記各作用の一例を示すタイムチャートであり、領域(A)では急制動も急踏みも判定されず、かつ目標ブレーキ液圧が第1閾値(例えば、10MPa)以下であるため、スレーブシリンダ42だけが作動する。領域(B)では急制動も急踏みも判定されないが、目標ブレーキ液圧が前記第1閾値を超えるため、スレーブシリンダ42に加えてVSA装置23が作動することで、スレーブシリンダ42だけでは発生し切れないブレーキ液圧をVSA装置23により発生させる。
【0065】
領域(C)では急踏みが判定され、かつ最大ブレーキ液圧が前記第1閾値よりも低い第2閾値(例えば、7MPa)を超えているために急制動と判定され、スレーブシリンダ42が発生するブレーキ液圧が第2閾値を超えた時点で、スレーブシリンダ42が作動を停止し、VSA装置23のみで目標ブレーキ液圧を発生する。領域(D)では急踏みが判定されるが、最大ブレーキ液圧が前記第2閾値を超えないため、VSA装置23は作動せずにスレーブシリンダ42のみで目標ブレーキ液圧を発生する。第2閾値の第1閾値に対する減少量は、ブレーキペダル12の踏み込み速度により持ち替えることが可能である。
【0066】
図9の実線はスレーブシリンダ42の電動モータ44に充分な出力を持つ大型モータを採用した場合であり、ブレーキ液圧の立ち上がり(応答性)および最大ブレーキ液圧も充分に高くなっている。鎖線はコストダウンのために小型の電動モータ44を採用した場合であり、ブレーキ液圧の立ち上がりが悪くなり、最大ブレーキ液圧も低下している。点線は、小型の電動モータ44を採用しながら、応答性の低下をギヤ列45のギヤ比を小さくして補った場合であり、応答性は改善されるものの、最大ブレーキ液圧は更に低下している。
【0067】
破線は本実施の形態に対応するもので、小型の電動モータ44を採用してコストダウンを図りながらVSA装置23を併用することで、大型の電動モータ44を採用したスレーブシリンダ42(実線参照)に対して遜色のない程度まで、応答性の確保および最大ブレーキ液圧の確保が両立していることが分かる。
【0068】
次に、図6に基づいて電源の失陥等によりスレーブシリンダ42が作動不能になった場合の作用について説明する。
【0069】
電源が失陥すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34および連通制御バルブ41は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ56,56;58,58およびレギュレータバルブ54,54は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60,60;61,61およびサクションバルブ68,68は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の第1、第2液圧室17,19に発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ35に吸収されることなく第1、第2マスタカットバルブ32,33、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58を通過して各車輪のディスクブレーキ装置24,25;30,31のホイールシリンダ26,27;30,31を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0070】
このとき、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧がスレーブシリンダ42の液圧室50に作用してピストン48を後退させてしまうと、液圧室50の容積が拡大して前記ブレーキ液圧が減圧してしまい、ブレーキ液圧を維持しようとするとブレーキペダル12のストロークが増加してしまう可能性がある。しかしながら、スレーブシリンダ42のボールねじ機構46は、ピストン48側から荷重が入力した場合には後退を抑制されるため、液圧室50の容積増加が軽減される。尚、スレーブシリンダ42の失陥時にピストン48の後退を規制する部材を別途設けても良い。この場合は通常動作時に駆動抵抗を増加させない構造であることが望ましい。
【0071】
また電源の失陥時には連通制御バルブ41が閉弁して第1系統の液路Pa〜Pdと第2系統の液路Qa〜Qdとが完全に分離されるため、一方の系統の液路が液漏れ失陥しても他方の系統の制動力を維持することができ、冗長性が一層高められる。
【0072】
尚、ブレーキペダル12が踏み込まれた状態で電源が失陥すると、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が自動的に閉弁してストロークシミュレータ35にブレーキ液が閉じ込められてしまい、ブレーキ液の容量が不足する可能性があるが、このような場合にはストロークシミュレータ35のブレーキ液がチェックバルブ40を通過してマスタシリンダ11側に戻されるので支障はない。
【0073】
またVSA装置23を作動させるとき、スレーブシリンダ42のブレーキ液を活用してポンプ64,64による吸液を促進できるように、図10に示す第2の実施の形態の如く、ピストン48の前進量を最大にするためにスレーブシリンダ42を一定の最大駆動力で駆動した状態でVSA装置23を作動させても良く、あるいはスレーブシリンダ42をピストン48が底付きするまで駆動した状態でVSA装置23を作動させても良い。
【0074】
図10は、VSA装置23の作動初期の状態を示すもので、サクションバルブ68,68が開弁した状態でスレーブシリンダ42を最大駆動力で駆動することでVSA装置23側にブレーキ液を供給し、この状態でポンプ64,64を駆動してホイールシリンダ26,27;30,31を加圧する。これにより、極めて高い応答性でホイールシリンダ26,27;30,31を加圧することができる。そしてVSA装置23の作動中期から作動後期では、ポンプ64,64が吐出するブレーキ液の一部がレギュレータバルブ54,54の開度を調整することでスレーブシリンダ42側に戻され、スレーブシリンダ42のピストン48は図3の通常制動時の位置に復帰する。
【0075】
以上のように、VSA装置23の作動初期にスレーブシリンダ42を最大駆動力で駆動することでVSA装置23が作動するときの吸液を促進し、VSA装置23の作動初期の加圧応答性を高めることができる。またVSA装置23が加圧を終了してスレーブシリンダ42のみによる加圧に復帰する際に、スレーブシリンダ42の電動モータ44が既に通電された状態で待機しているので、ピストン48の移動をスムーズに開始させてブレーキ液圧の急変を防止することができる。
【0076】
ところで、上述した第2の実施の形態のように、VSA装置23を作動させるときにスレーブシリンダ42を一定の最大駆動力で駆動する場合、スレーブシリンダ42の加圧能力をVSA装置23の加圧能力よりも大きく設定する必要があるため、スレーブシリンダ42が大型化する可能性がある。このスレーブシリンダ42の大型化を回避するために、図11の第3の実施の形態に示すように、マスタシリンダ11が出力するブレーキ液を利用することが考えられる。
【0077】
即ち、第3の実施の形態では、VSA装置23を作動させるときに、第1、第2マスタカットバルブ32,33を消磁して開弁し、レギュレータバルブ54,54を励磁して閉弁し、サクションバルブ68,68を励磁して開弁する。これにより、スレーブシリンダ42が小型で液量が少ないために最大駆動力で駆動する際にピストン48が底付きしてしまい、VSA装置23に充分な量のブレーキ液を供給できない場合であっても、マスタシリンダ11からのブレーキ液をVSA装置23に供給することで、衝突回避等の緊急時に急制動が判定された場合にVSA装置23により充分な制動力を発生させることができる。この第3の実施の形態によれば、スレーブシリンダ42の大型化を回避することができる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0079】
例えば、本発明のブレーキペダル12の操作量は実施の形態のストロークに限定されず、踏力であっても良い。
【0080】
また実施の形態では電動モータ44の弱め界磁制御を行うかVSA装置23を作動させるかをブレーキペダル12のストローク(目標ブレーキ液圧)により判定しているが、それをブレーキペダル12のストロークの時間変化量により判定しても良い。
【0081】
また実施の形態ではスレーブシリンダ42が第1、第2のブレーキ系統に対して単一の液圧室50を備えているが、第1、第2のブレーキ系統に対してそれぞれ独立した2個の液圧室を備えるものであっても良い。
【符号の説明】
【0082】
12 ブレーキペダル
23 VSA装置(第2アクチュエータ、液圧源)
26 ホイールシリンダ
27 ホイールシリンダ
30 ホイールシリンダ
31 ホイールシリンダ
32 第1マスタカットバルブ(遮断弁)
33 第2マスタカットバルブ(遮断弁)
42 スレーブシリンダ(第1アクチュエータ、液圧源)
44 電動モータ
48 ピストン
54 レギュレータバルブ(開閉弁)
64 ポンプ
Sd ペダルストロークセンサ(操作量検出手段)
U 電子制御ユニット(制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(12)の操作量を検出する操作量検出手段(Sd)と、前記操作量検出手段(Sd)で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源(42,23)と、前記液圧源(42,23)の作動を制御する制御手段(U)と、前記液圧源(42,23)が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダ(26,27;30,31)とを備える車両用ブレーキ装置であって、
前記液圧源(42,23)は、電動モータ(44)の駆動力でピストン(48)を前進させてブレーキ液圧を発生する第1アクチュエータ(42)と、ポンプ(64)で前記第1アクチュエータ(42)の下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータ(23)とからなり、
前記制御手段(U)は、前記操作量検出手段(Sd)で検出した操作量に基づいて、前記第1アクチュエータ(42)および前記第2アクチュエータ(23)を選択的に作動させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御手段(U)は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータ(42)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)を一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータ(23)を作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記制御手段(U)は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータ(42)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)の前進を停止して前記第2アクチュエータ(23)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御手段(U)は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)を一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータ(23)を作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記制御手段(U)は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)の前進を停止して前記第2アクチュエータ(23)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1または請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記電動モータ(44)は弱め界磁制御が可能であり、
前記制御手段(U)は、前記操作量および該操作量の時間変化量の少なくとも一方に基づいて、前記弱め界磁制御を用いた前記第1アクチュエータ(42)による前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の加圧と、前記第2アクチュエータ(23)による前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の加圧とを選択的に実行することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記第1アクチュエータ(42)の作動を停止して前記第2アクチュエータ(23)を作動させるとき、前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の圧力を保持する開閉弁(54)を備えることを特徴とする、請求項1、請求項3、前記5および請求項6の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
前記ブレーキペダル(12)への操作入力に対応してブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)と前記第1、第2アクチュエータ(42,23)との間に配置され、前記マスタシリンダ(11)と前記第1、第2アクチュエータ(42,23)との連通を遮断する遮断弁(32,33)を更に備え、
前記制御手段(U)は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1、第2アクチュエータ(42,23)を作動させた状態で前記遮断弁(32,33)を開弁することを特徴とする、請求項1、請求項2、前記4、請求項6および請求項7の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
前記制御手段(U)は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)を前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御するとともに、前記第2アクチュエータ(23)を前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、前記第1アクチュエータ(42)のみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動することを特徴とする、請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項1】
ブレーキペダル(12)の操作量を検出する操作量検出手段(Sd)と、前記操作量検出手段(Sd)で検出した操作量に対応するブレーキ液圧を発生する液圧源(42,23)と、前記液圧源(42,23)の作動を制御する制御手段(U)と、前記液圧源(42,23)が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダ(26,27;30,31)とを備える車両用ブレーキ装置であって、
前記液圧源(42,23)は、電動モータ(44)の駆動力でピストン(48)を前進させてブレーキ液圧を発生する第1アクチュエータ(42)と、ポンプ(64)で前記第1アクチュエータ(42)の下流側のブレーキ液を加圧する第2アクチュエータ(23)とからなり、
前記制御手段(U)は、前記操作量検出手段(Sd)で検出した操作量に基づいて、前記第1アクチュエータ(42)および前記第2アクチュエータ(23)を選択的に作動させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御手段(U)は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータ(42)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)を一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータ(23)を作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記制御手段(U)は、前記操作量が所定値に達するまでは、前記第1アクチュエータ(42)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧し、前記操作量が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)の前進を停止して前記第2アクチュエータ(23)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御手段(U)は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)を一定の駆動力で駆動するとともに前記第2アクチュエータ(23)を作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記制御手段(U)は、前記操作量の時間変化量または目標液圧の時間変化量が基準値よりも大きいときに、前記第1アクチュエータ(42)の前記ピストン(48)の前進を停止して前記第2アクチュエータ(23)のみを作動させて前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)を加圧することを特徴とする、請求項1または請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記電動モータ(44)は弱め界磁制御が可能であり、
前記制御手段(U)は、前記操作量および該操作量の時間変化量の少なくとも一方に基づいて、前記弱め界磁制御を用いた前記第1アクチュエータ(42)による前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の加圧と、前記第2アクチュエータ(23)による前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の加圧とを選択的に実行することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記第1アクチュエータ(42)の作動を停止して前記第2アクチュエータ(23)を作動させるとき、前記ホイールシリンダ(26,27;30,31)の圧力を保持する開閉弁(54)を備えることを特徴とする、請求項1、請求項3、前記5および請求項6の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
前記ブレーキペダル(12)への操作入力に対応してブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)と前記第1、第2アクチュエータ(42,23)との間に配置され、前記マスタシリンダ(11)と前記第1、第2アクチュエータ(42,23)との連通を遮断する遮断弁(32,33)を更に備え、
前記制御手段(U)は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1、第2アクチュエータ(42,23)を作動させた状態で前記遮断弁(32,33)を開弁することを特徴とする、請求項1、請求項2、前記4、請求項6および請求項7の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
前記制御手段(U)は、前記操作量または前記目標液圧が所定値に達した後は、前記第1アクチュエータ(42)を前記操作量または前記目標液圧によらない所定の方法で制御するとともに、前記第2アクチュエータ(23)を前記操作量または前記目標液圧により駆動し、かつ前記操作量または前記目標液圧が前記所定値がよりも大きい復帰時の所定値を下まわったときに、前記第1アクチュエータ(42)のみを前記操作量または前記目標液圧に応じて駆動することを特徴とする、請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−101591(P2012−101591A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249646(P2010−249646)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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