説明

車両用主電動機の軸受装置

【課題】潤滑油を用いた軸受装置において、主電動機内部と外部の圧力差が大きくなるなどため潤滑油のにじみを抑制し,軸受への油供給を良好に保つ軸受装置を構成する必要がある。
【解決手段】圧力緩和室Bと貯油室を連通する油戻し穴Bを設けて,ラビリンスを通り流れてきた油や霧状の潤滑油を貯油室に戻すことである。ほかに油戻し穴Bは,圧力緩和室Aと貯油室を連通した油戻し穴Aに繋げることで,油掻揚げ円板が起す圧力差を緩和させる特徴を有している。潤滑油が圧力緩和室へ引き込まれることを防ぎ,軸受の潤滑性能を良好に維持することができ、潤滑油が機内外へにじみ出る現象を防ぎ,車両用主電動機の保守作業の低減に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両用主電動機の軸受装置の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用主電動機の軸受潤滑は従来からグリースが用いられているが,分解保守期間の延長による保守作業の省力化を図る目的から,分解保守期間の延長が図れる潤滑油の軸受構造の開発研究が進められている。
【0003】
図2は,潤滑油を用いた従来の軸受構造の一例である。1は軸受,2は軸受箱,3は軸受カバ−B,4は軸受押さえ,5は回転子軸,6は油掻揚げ円板,7は軸受カバ−A,8は貯油室,9は圧力緩和室A,10は油戻し穴A,11は圧力緩和室Bである。
従来の軸受構造は,軸受箱と油掻揚げ円板でラビリンス構造をつくり,更に圧力緩和室AおよびBを設けて,圧力緩和室Aと貯油室を連通する油戻し穴Aを設けた構造となっている。この様な構造は潤滑油を用いた軸受シールの従来技術として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−228682公報
【特許文献2】特開2009−041634公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】飯田秀樹・加我敦著,「インバータ制御電車概論」電気車研究会出版,2003年8月1日発行,p.29〜32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,このような手段では次のような課題があった。
軸受潤滑に潤滑油を使用した場合,車両用主電動機使用時の主電動機内部の温度上昇や回転子の回転による主電動機内部の圧力変化や主電動機を使用するときの天候や時期の変化によって,主電動機内部と外部の圧力差が大きくなるため,油掻揚げ円板により掻揚げられた油が霧状になりラビリンスのすきまを通って機内外へにじみ出ることがあった。
潤滑油は機内外を汚損し,そのまま長期運転した場合には,貯油室の油量が低下して軸受潤滑不良を起す恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明によれば、
軸受箱と機外側側面に設けられる第1の軸受カバ−、第2の軸受カバ−のうち、第2の軸受カバ−により形成される貯油室に、回転子軸とともに回転する油掻揚げ円板を設け、該油掻揚げ円板により、該貯油室に貯められた潤滑油を掻き揚げ、潤滑油を回転子軸に設けた軸受内に供給し、
該第1の軸受カバ−と回転子軸の間のすきまを通って漏れてくる潤滑油を溜める円環状の第1の圧力緩和室と、該第2の軸受カバ−と回転子軸の間のすきまを通って漏れてくる潤滑油を溜める円環状の第2の圧力緩和室とを設けて、前記第1の圧力緩和室と前記貯油室とを第1の油戻し穴で連通させた軸受を潤滑する車両用主電動機の軸受構造であって、該第2の圧力緩和室と前記貯油室を連通する第2の油戻し穴を設けたことを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は,回転子軸に設けた軸受内に潤滑油を供給して軸受を潤滑する車両用主電動機の軸受構造において,圧力緩和室Bと貯油室を連通する油戻し穴Bを設けて,ラビリンスを通り流れてきた油や霧状の潤滑油を貯油室に戻すことである。
【0009】
請求項2の発明によれば、請求項1において、前記第2の圧力緩和室と前記貯油室を連通した前記第2の油戻し穴と,前記第1の軸受カバーにある前記第1の圧力緩和室と前記貯油室とを連通した前記第1の油戻し穴を繋げたことを特徴とする。
【0010】
すなわち、油戻し穴Bは,圧力緩和室Aと貯油室を連通した油戻し穴Aに繋げることで,油掻揚げ円板が起す圧力差を緩和させることである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は,油潤滑構造の軸受装置を有する車両用主電動機において,潤滑油が圧力緩和室へ引き込まれることを防ぎ,軸受の潤滑性能を良好に維持することができる。また,潤滑油が機内外へにじみ出る現象を防ぎ,車両用主電動機の保守作業の低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を示す軸受構造の説明図である。
【図2】従来の軸受潤滑構造の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は,本発明の実施例を示す車両用主電動機の軸受装置の断面図である。
1は軸受,2は軸受箱,3は軸受カバ−B,4は軸受押さえ,5は回転子軸,6は油掻揚げ円板,7は軸受カバ−A,8は貯油室,9は圧力緩和室A,10は油戻し穴A,11は圧力緩和室B,12は油戻し穴Bである。
【実施例1】
【0014】
軸受1への油の供給は貯油室8に溜められた潤滑油を油掻揚げ円板6が回転することにより上部へ掻揚げ,掻揚げられた潤滑油が軸受箱2や油掻揚げ円板6の側面を伝って軸受1に進入することにより潤滑される。
軸受装置はラビリンス構造によってシールされ,潤滑油の主電動機内外へにじみ出ることを抑制している。
9の圧力緩和室Aと貯油室8を連通する10の油戻し穴Aと11の圧力緩和室Bと貯油室8を連通する12の油戻し穴Bは,ラビリンスを通り流れてきた潤滑油を貯油室8に流れ落ちるよう設けられている。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は,潤滑油を用いた電動機の軸受構造に設けることができ,油戻し穴を貯油室と繋げることによって,円板などによる軸受内の圧力差が生じる軸受構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0016】
1 軸受
2 軸受箱
3 軸受カバ−B
4 軸受押さえ
5 回転子軸
6 油掻揚げ円板
7 軸受カバ−A
8 貯油室
9 圧力緩和室A
10 油戻し穴A
11 圧力緩和室B
12 油戻し穴B


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受箱と機外側側面に設けられる第1の軸受カバー、第2の軸受カバーのうち、第2の軸受カバーにより形成される貯油室に、回転子軸とともに回転する油掻揚げ円板を設け、該油掻揚げ円板により、該貯油室に貯められた潤滑油を掻き揚げ、潤滑油を回転子軸に設けた軸受内に供給し、
該第1の軸受カバーと回転子軸の間のすきまを通って漏れてくる潤滑油を溜める円環状の第1の圧力緩和室と、該第2の軸受カバーと回転子軸の間のすきまを通って漏れてくる潤滑油を溜める円環状の第2の圧力緩和室とを設けて、前記第1の圧力緩和室と前記貯油室とを第1の油戻し穴で連通させた軸受を潤滑する車両用主電動機の軸受構造であって、該第2の圧力緩和室と前記貯油室を連通する第2の油戻し穴を設けたことを特徴とする車両用主電動機の軸受構造。
【請求項2】
前記第2の圧力緩和室と前記貯油室を連通した前記第2の油戻し穴と,前記第1の軸受カバーにある前記第1の圧力緩和室と前記貯油室とを連通した前記第1の油戻し穴を繋げたことを特徴とする請求項1記載の車両用主電動機の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−244787(P2012−244787A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113044(P2011−113044)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】