説明

車両用制動装置

【課題】制動操作フィーリングの低下を抑制することができる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】操作部材21に入力された操作圧力を負圧式の制動倍力手段23により所定の倍力比で倍化させ当該倍化された操作圧力に基づいて車輪に制動力を発生させると共に、少なくとも操作部材21を付勢する付勢手段30の反力と制動倍力手段23の負圧量とに基づいて操作部材21が動き出す荷重が定まる制動手段2と、目標の負圧量である目標負圧量に基づいて制動倍力手段23の負圧量を可変制御する負圧量可変制御手段29と、予め設定される基準の動き出し荷重である基準動き出し荷重に対する実際の動き出し荷重である実動き出し荷重の変化量を検出する検出手段50と、変化量に基づいて目標負圧量を設定する設定手段51とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関し、特に、ブレーキペダルが操作されることで車両の車輪に制動力を発生させる車両用制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、走行中の車両を制動可能な車両用制動装置が設けられており、この車両用制動装置は、ブレーキペダルが操作されることで車両の車輪に所定の制動力を発生させる。このような車両用制動装置は、例えば、ブレーキペダルに入力された運転者のブレーキ操作に伴うペダル踏力を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段を備えたものがある。
【0003】
このような制動倍力手段を備えた従来の車両用制動装置として、例えば、特許文献1に記載の倍力装置は、バルブボデイをパワーピストンに摺動自在に設け、このバルブボデイをリターンスプリングによりリヤ側に付勢し、またバルブボデイに定圧室と変圧室との圧力を作用させて前進方向にするとともに、バルブボデイに定圧室と変圧室との圧力を作用させ、さらにこの倍力装置の作動時に出力軸に加わる反力をパワーピストンで受けさせて、この反力がバルブボデイおよび弁プランジャに伝達されないようにし、かつ操作杆の移動量に応じた擬似反力を操作杆に付与する擬似反力付与手段としてのスプリングを設けている。これにより、この倍力装置は、パワーピストンとは別個にバルブボデイを位置制御することができることから、バルブボデイの進退動を良好な操作フィーリングが得られるように設定でき、また擬似反力付与手段としてのスプリングによって必要な擬似反力を運転者に付与しているので、軽い踏力で急作動時に必要な大きな出力を得ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−016755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている倍力装置では、例えば、長期間の使用による経年変化によってスプリングがへたることでこのスプリングの反力が低下すると、運転者がブレーキペダルを操作しブレーキペダルにペダル踏力が入力された際に、このブレーキペダルが動き出すまでの荷重が変化してしまうおそれがあった。この結果、ブレーキペダルが動き出すまでの荷重が変化してしまうことで、例えば、運転者によるブレーキペダルの操作フィーリングが悪化してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで本発明は、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明による車両用制動装置は、操作部材に入力された操作圧力を負圧式の制動倍力手段により所定の倍力比で倍化させ当該倍化された操作圧力に基づいて車輪に制動力を発生させると共に、少なくとも前記操作部材を付勢する付勢手段の反力と前記制動倍力手段の負圧量とに基づいて前記操作部材が動き出す荷重が定まる制動手段と、目標の前記負圧量である目標負圧量に基づいて前記制動倍力手段の前記負圧量を可変制御する負圧量可変制御手段と、予め設定される基準の前記動き出し荷重である基準動き出し荷重に対する実際の前記動き出し荷重である実動き出し荷重の変化量を検出する検出手段と、前記変化量に基づいて前記目標負圧量を設定する設定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明による車両用制動装置では、前記検出手段は、前記制動手段が搭載される車両の走行距離を検出する走行距離検出手段と、前記走行距離に基づいて前記付勢手段のへたり量を算出するへたり量算出手段と、前記へたり量に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明による車両用制動装置では、前記検出手段は、前記操作部材の作動回数を検出する作動回数検出手段と、前記作動回数に基づいて前記付勢手段のへたり量を算出するへたり量算出手段と、前記へたり量に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明による車両用制動装置では、前記検出手段は、前記操作部材の移動量を検出する操作量検出手段と、前記操作圧力を検出する操作圧力検出手段と、前記移動量と前記操作圧力とに基づいて前記実動き出し荷重を算出し、該実動き出し荷重と前記基準動き出し荷重との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用制動装置によれば、予め設定される操作部材の基準の動き出し荷重である基準動き出し荷重に対する実際の動き出し荷重である実動き出し荷重の変化量を検出する検出手段と、変化量に基づいて目標負圧量を設定する設定手段とを備えるので、検出手段が基準動き出し荷重に対する実動き出し荷重の変化量を検出し、設定手段がこの変化量に基づいて制動倍力手段の目標負圧量を設定することで、操作部材の動き出し荷重を安定させることができることから、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明に係る車両用制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置の概略構成図、図2は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダルリターンスプリングのへたり量について説明する線図、図3は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重について説明する線図、図4は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。
【0014】
本実施例に係る車両用制動装置1は、図1に示すように、乗用車、トラックなどの車両に搭載され、運転者の制動操作に応じて車両の各車輪に配設されたキャリパ26やディスクロータ27等からなる制動手段としての制動装置本体2が車両の各車輪に制動力(制動トルク)を発生させるものである。
【0015】
具体的には、車両用制動装置1の制動装置本体2は、操作部材としてのブレーキペダル21に入力された操作圧力としてのペダル踏力を負圧式の制動倍力手段としての負圧式ブースタ23により所定の倍力比で倍化させ、この倍化されたペダル踏力に基づいて車輪に制動力(制動トルク)を発生させるものである。制動装置本体2は、ブレーキペダル21と、操作ロッド22と、負圧式ブースタ23と、マスタシリンダ24と、ホイールシリンダ25と、キャリパ26と、ディスクロータ27と、油圧供給通路28aに設けられるABS(Anti−lock Brake System)アクチュエータ28と、負圧供給通路29aに設けられる負圧量可変制御手段としての負圧量可変制御装置29と、付勢手段としてのペダルリターンスプリング30とを備える。さらに、この車両用制動装置1は、制動装置本体2と共に電子制御ユニット(ECU)4を備える。
【0016】
ブレーキペダル21は、運転者が制動操作する部材であり、例えば、車両に搭乗する運転者が足で制動操作圧力としてのペダル踏力を入力する部分である。ブレーキペダル21は、踏面部を有しており、この踏面部にペダル踏力を入力した際に、回動軸を中心として回動可能に設けられている。
【0017】
操作ロッド22は、一端部にブレーキペダル21が接続される一方、他端部に負圧式ブースタ23を介してマスタシリンダ24のピストンが接続される。操作ロッド22は、ブレーキペダル21の回動に伴って長手方向に沿って移動可能(ストローク可能)に設けられている。この操作ロッド22は、ブレーキペダル21と共に長手方向に沿って負圧式ブースタ23に対して接近離間可能なように設けられている。
【0018】
負圧式ブースタ23は、後述のマスタシリンダ24に一体的に装着され、ブレーキペダル21に入力され操作ロッド22を介して伝達されるペダル踏力を負圧により所定の倍力比で倍化させ、マスタシリンダ24のピストンに伝達するものである。また、負圧式ブースタ23は、この負圧式ブースタ23に負圧を供給する負圧供給通路29aを介して後述する負圧量可変制御装置29に接続されている。したがって、負圧式ブースタ23は、ブレーキペダル21から入力され操作ロッド22を介して伝達されるペダル踏力を負圧量可変制御装置29から負圧供給通路29aを介して導入される負圧と大気圧との差により増力してマスタシリンダ24に伝達することができる。つまり、負圧式ブースタ23は、ブレーキペダル21を制動操作した際のペダル踏力を負圧によって増力させ、マスタシリンダ24へのペダル踏力入力をブレーキペダル21へのペダル踏力入力に対して増力させることで、ブレーキペダル21へのペダル踏力を軽減させることができる。
【0019】
マスタシリンダ24は、運転者によるブレーキペダル21の踏み込み操作に応じて駆動される。マスタシリンダ24は、ブレーキペダル21にペダル踏力が入力された際に油圧を発生させることができる。すなわち、マスタシリンダ24は、ブレーキペダル21の操作により操作ロッド22及び負圧式ブースタ23を介し倍化されたペダル踏力によりピストンが移動可能であると共にこのピストンが移動することで倍化されたペダル踏力に応じた制動油圧であるマスタシリンダ圧を出力可能なものである。マスタシリンダ24は、内部の2つの油圧室が作動油として用いられるブレーキ液(ブレーキフルード)により満たされており、負圧式ブースタ23により倍化されたペダル踏力を油圧室とピストンとによりブレーキペダル21の制動操作に応じてブレーキ液の液圧(油圧)であるマスタシリンダ圧へと変換する。
【0020】
また、マスタシリンダ24は、このマスタシリンダ24で発生した油圧(マスタシリンダ圧)をホイールシリンダ25に伝達可能な油圧供給通路28aが接続されている。マスタシリンダ24に接続される油圧供給通路28aは、複数系統(例えば、2系統)に分かれて構成されており、複数系統の油圧供給通路28aがそれぞれ独立してマスタシリンダ24に接続されている。言い換えれば、油圧供給通路28aは、複数系統に分岐し、各分岐系統の端部が各車輪(図示省略)の近傍に設けられる各ホイールシリンダ25にそれぞれ接続されている。
【0021】
ホイールシリンダ25は、キャリパ26、ディスクロータ27と共にそれぞれの車輪の近傍に組になって配設される。ホイールシリンダ25は、マスタシリンダ24、油圧供給通路28aを介したブレーキ液が導入され、キャリパ26に対して各々にブレーキ液の液圧(油圧)であるホイールシリンダ圧を供給する。キャリパ26は、ブレーキパッドを有する一方、ディスクロータ27は、車輪の回転時に車輪と一体となって回転する。そして、キャリパ26は、ブレーキパッドがこのディスクロータ27に各々に接触し押圧されることで機械的なブレーキ制動トルクを発生させる。したがって、この制動装置本体2は、ホイールシリンダ25に導入される油圧の押圧力によってキャリパ26のブレーキパッドをディスクロータ27に押し付け、キャリパ26のブレーキパッドとディスクロータ27との間にそれぞれ発生する摩擦力によって圧力制動トルクを作用させることができる。つまり、各ホイールシリンダ25、各キャリパ26及び各ディスクロータ27は、各ホイールシリンダ25に充填されたブレーキ液のホイールシリンダ圧が作用することで、圧力制動トルクを発生させることができ、作動時にディスクロータ27の回転を減速することができる。
【0022】
ABSアクチュエータ28は、マスタシリンダ24とホイールシリンダ25とを接続する油圧供給通路28aに設けられ、この油圧供給通路28aの油圧をそれぞれ調節するものである。つまり、ABSアクチュエータ28は、ブレーキペダル21の制動操作に応じてポンプ加圧等によりマスタシリンダ圧を助勢するものである。さらに言えば、ABSアクチュエータ28は、マスタシリンダ24によりブレーキ液に付与されたマスタシリンダ圧に応じて各ホイールシリンダ25に作用するホイールシリンダ圧を制御、あるいは、マスタシリンダ24によりブレーキ液にマスタシリンダ圧が付与されているか否かにかかわらず各ホイールシリンダ25にホイールシリンダ圧を作用させるものである。ABSアクチュエータ28は、不図示のオイルリザーバ、ポンプモータなどにより作動するオイルポンプ、油圧供給通路28aの油圧を各々に増減する為の増減圧制御弁などの種々の弁装置等を含んで構成され、いわゆる、ABS制御を行い得るよう構成されている。ABSアクチュエータ28は、ECU4に電気的に接続されており、このECU4によりその駆動が制御されている。したがって、ABSアクチュエータ28は、ECU4の制御に応じて上述した油圧供給通路28a内の油圧(マスタシリンダ圧)をそのまま又は調圧することで、ホイールシリンダ圧としてホイールシリンダ25に伝達することができる。
【0023】
負圧量可変制御装置29は、上述したように、負圧供給通路29aを介して負圧式ブースタ23に接続されている。つまり、負圧供給通路29aは、一端部に負圧量可変制御装置29が接続される一方、他端部に負圧式ブースタ23が接続される。負圧量可変制御装置29は、例えば、電気モータを駆動源として作動して負圧を発生させる電動バキュームポンプにより構成され、ECU4に電気的に接続されており、このECU4によりその駆動が制御されている。負圧量可変制御装置29は、車両用制動装置1の運転状態、言い換えれば、ブレーキペダル21の制動操作に応じて設定される目標の負圧量である目標負圧量に基づいて負圧式ブースタ23の負圧量を可変制御する。
【0024】
ペダルリターンスプリング30は、ブレーキペダル21を負圧式ブースタ23から離間する側に付勢するものであり、ブレーキペダル21と車体との間に設けられている。ペダルリターンスプリング30は、負圧式ブースタ23から操作ロッド22を介してブレーキペダル21に伝達される反力よりも大きな反力をこのブレーキペダル21に作用させる。したがって、ペダルリターンスプリング30は、運転者の制動操作時に回動軸を中心として負圧式ブースタ23に接近する側に回動(例えば、図1中反時計回り)されたブレーキペダル21をその付勢力により反対側、すなわち、負圧式ブースタ23から離間する側(例えば、図1中時計回り)に回動しリターンさせることができる。
【0025】
ECU4は、マイクロコンピュータを中心として構成され、車両用制動装置1やこの車両用制動装置を搭載する車両の運転状態に応じてABSアクチュエータ28や負圧量可変制御装置29などの車両用制動装置1の各部を制御するものである。すなわち、ECU4は、例えば、種々のセンサが検出するブレーキペダル21のペダルストローク及びペダル踏力、マスタシリンダ圧などに基づいてブレーキ制御プログラムを実行することにより制動制御を実行し、ABSアクチュエータ28や負圧量可変制御装置29を駆動することで、ホイールシリンダ25へのホイールシリンダ圧(制動油圧)を調整し、所定の制動トルクを車輪に作用させ、この車輪の回転を減速させる。
【0026】
上記のように構成される車両用制動装置1は、運転者がブレーキペダル21を操作しブレーキペダル21にペダル踏力が入力されると、このペダル踏力が操作ロッド22を介して負圧式ブースタ23に伝達される。そして、負圧式ブースタ23に伝達されたペダル踏力は、この負圧式ブースタ23にて、負圧量可変制御装置29によって設定される負圧量に応じて所定の倍力比で倍化されマスタシリンダ24に伝達される。負圧式ブースタ23によって倍化されマスタシリンダ24に伝達されたペダル踏力は、マスタシリンダ24にて、制動油圧であるマスタシリンダ圧に変換されると共に、油圧供給通路28a及びABSアクチュエータ28を介してホイールシリンダ25に伝達される。このとき、ホイールシリンダ25に供給される制動油圧であるホイールシリンダ圧は、ABSアクチュエータ28にて、所定の油圧に調圧されてホイールシリンダ25に伝達される。そして、各ホイールシリンダ25、各キャリパ26及び各ディスクロータ27は、各ホイールシリンダ25に所定のホイールシリンダ圧が作用しキャリパ26のブレーキパッドがディスクロータ27に押し付けられることで摩擦力によって圧力制動トルクが作用し、ディスクロータ27の回転を減速させる。この結果、このディスクロータ27が減速されることで車輪の回転を減速することができる。
【0027】
この間、ECU4は、種々のセンサが検出するブレーキペダル21のペダルストローク及びペダル踏力、マスタシリンダ圧などに基づいて目標の制動力である目標制動力や目標負圧量を設定し、この目標制動力や目標負圧量に基づいてABSアクチュエータ28や負圧量可変制御装置29などの車両用制動装置1の各部を制御することで、負圧式ブースタ23にてペダル踏力を所定の倍力比で倍化させると共に所定の制動トルクを発生させる。
【0028】
ところで、上記のような車両用制動装置1では、例えば、長期間の使用による経年変化によってペダルリターンスプリング30がへたり、反力特性が変化する可能性がある。そして、ペダルリターンスプリング30がへたることでこのペダルリターンスプリング30の反力が低下すると、運転者がブレーキペダル21を操作しブレーキペダル21にペダル踏力が入力された際に、このブレーキペダル21が動き出すまでの荷重が変化、ここでは、動き出すまでの荷重が小さくなってしまうおそれがある。この結果、ブレーキペダル21が動き出すまでの荷重が変化してしまうことで、例えば、運転者によるブレーキペダル21の操作フィーリングが悪化してしまうおそれがある。
【0029】
そこで、本実施例の車両用制動装置1は、図1に示すように、ブレーキペダル21の基準ペダル動き出し荷重(基準動き出し荷重)に対する実ペダル動き出し荷重(実動き出し荷重)の変化量を検出する検出手段としてのペダル動き出し荷重変化量検出部50と、ペダル動き出し荷重変化量検出部50が検出した変化量に基づいて負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定する設定手段としての目標負圧量設定部51とを備え、ペダル動き出し荷重変化量検出部50が基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を検出し、目標負圧量設定部51がこの変化量に基づいて負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させ、制動操作フィーリング低下の抑制を図っている。言い換えれば、車両用制動装置1は、適正な基準ペダル動き出し荷重と実ペダル動き出し荷重との偏差(基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当)が大きい場合に、この偏差に応じて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重に近づくように負圧量可変制御装置29を制御して負圧式ブースタ23の負圧量を制御することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させる。
【0030】
ここで、運転者がブレーキペダル21を操作しブレーキペダル21にペダル踏力が入力された場合にブレーキペダル21が動き出す荷重、すなわち、ペダル動き出し荷重は、少なくともブレーキペダル21を付勢するペダルリターンスプリング30の反力と負圧式ブースタ23の負圧量に応じた反力とに基づいて定まる。そして、基準ペダル動き出し荷重は、適正な制動操作フィーリングが得られるように予め設定される基準のペダル動き出し荷重である一方、実ペダル動き出し荷重は、運転者がブレーキペダル21を操作しブレーキペダル21にペダル踏力が入力された際の実際のペダル動き出し荷重である。
【0031】
具体的には、車両用制動装置1は、上述のペダル動き出し荷重変化量検出部50と、目標負圧量設定部51とがECU4に設けられると共に、さらに、目標指令値算出部52がECU4に設けられる。また、本実施例のペダル動き出し荷重変化量検出部50は、走行距離検出手段としての走行距離センサ53と、へたり量算出手段としてのへたり量算出部54と、変化量算出手段としての変化量算出部55とを含んで構成される。
【0032】
ここで、このECU4は、マイクロコンピュータを中心として構成され処理部41、記憶部42及び入出力部43を有し、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。入出力部43には車両用制動装置1の各部を駆動する不図示の駆動回路、上述した走行距離センサ53などの各種センサが接続されており、この入出力部43は、これらのセンサ等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部42には、車両用制動装置1の各部を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部42は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。処理部41は、不図示のメモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、上述のへたり量算出部54、変化量算出部55を含んで構成されるペダル動き出し荷重変化量検出部50と、目標負圧量設定部51と、目標指令値算出部52とを有している。図4で説明する車両用制動装置1のペダル動き出し荷重保持制御は、各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部41が前記コンピュータプログラムを当該処理部41に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて制御信号を送ることにより実行される。その際に処理部41は、適宜記憶部42へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、この車両用制動装置1を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU4とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0033】
そして、ペダル動き出し荷重変化量検出部50は、予め設定される基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を検出するものであり、上述したように、走行距離センサ53と、へたり量算出部54と、変化量算出部55とを含んで構成される。
【0034】
走行距離センサ53は、制動装置本体2を含む車両用制動装置1が搭載される車両の走行距離を検出するものであり、例えば、一般的に車両に設けられる既存の走行距離センサを兼用することができる。
【0035】
へたり量算出部54は、走行距離センサ53が検出した車両の走行距離に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量を算出するものである。ここでは、ECU4は、例えば、図2に示すように、平均的な回数の制動動作を伴った車両の走行距離に応じて予め実験等により作成されたペダルリターンスプリング30の反力変化マップを記憶部42に記憶している。そして、へたり量算出部54は、この車両の走行距離とペダルリターンスプリング30の反力との関係を示すマップに基づいて、走行距離センサ53が検出した車両の走行距離からペダルリターンスプリング30の反力を算出し、この車両の走行距離に応じたペダルリターンスプリング30の反力の減少分をペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値として算出(推定)する。なお、本図は、横軸を平均的な回数の制動動作を伴った車両の走行距離、縦軸をペダルリターンスプリング30の反力としており、平均的な回数の制動動作を伴った車両の走行距離が長くなると、経年変化に応じたスプリング反力の低下、すなわち、ペダルリターンスプリング30のへたり量が増加することを表している。
【0036】
変化量算出部55は、へたり量算出部54が算出したペダルリターンスプリング30のへたり量に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を算出するものである。ここで、基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量は、言い換えれば、実ペダル動き出し荷重を基準ペダル動き出し荷重に近づけるために必要な負圧式ブースタ23の目標の負圧変化量、すなわち、目標負圧変化量に相当する。さらに言えば、負圧式ブースタ23の目標負圧変化量は、ペダルリターンスプリング30の反力の減少分を補うための負圧量に相当する。
【0037】
ここでは、変化量算出部55は、へたり量算出部54が算出したペダルリターンスプリング30のへたり量に基づいて、例えば、下記に示す数式(1)を用いて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する目標負圧変化量を算出する。ここで、数式(1)において、「A」はへたりによって変化した量に応じた負圧式ブースタ23の負圧変化量を計算するための係数、「ペダル比」はブレーキペダル21の幾何学的形状によって定まる設計値であり、ブレーキペダル21の回動中心から操作ロッド22との連結位置までの距離に対する、ブレーキペダル21の回動中心から踏面部までの距離の比にて定義することができる。

目標負圧変化量=(基準ペダル動き出し荷重/ペダル比−ペダルリターンスプリングへたり量)/A ・・・ (1)
【0038】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部50は、走行距離センサ53が制動装置本体2を含む車両用制動装置1が搭載される車両の走行距離を検出し、へたり量算出部54が検出された走行距離に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値を算出し、変化量算出部55が算出されたへたり量に相当する値に基づいて目標負圧変化量を算出することで、予め設定される基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を検出することができる。
【0039】
目標負圧量設定部51は、変化量算出部55が算出した目標負圧変化量に基づいて負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定するものである。ここでは、目標負圧量設定部51は、変化量算出部55が算出した目標負圧変化量に基づいて、例えば、下記に示す数式(2)を用いて負圧式ブースタ23の目標負圧量を算出する。ここで、数式(2)において、「基準負圧量」は、ペダルリターンスプリング30のへたりが無い初期状態、すなわち、ペダルリターンスプリング30の反力の減少が無い状態で、ブレーキペダル21に基準ペダル動き出し荷重を作用させるための負圧式ブースタ23の負圧量である。

目標負圧量=基準負圧量+目標負圧変化量 ・・・ (2)
【0040】
そして、目標指令値算出部52は、目標負圧量設定部51が設定した目標負圧量に基づいて、負圧量可変制御装置29を制御するための負圧量制御指令値として負圧量可変制御装置29の目標指令値を算出し、この目標指令値に基づいて負圧量可変制御装置29の駆動を制御する。
【0041】
図3は、本実施例に係る車両用制動装置1のペダル動き出し荷重について説明する線図であり、横軸をペダル踏力、縦軸をペダルストロークとしている。本図中実線及び点Xは、実ペダル動き出し荷重が適正な基準ペダル動き出し荷重である場合のペダル踏力とペダルストロークとの関係を示す一方、本図中点線及び点Yは、実ペダル動き出し荷重が適正な基準ペダル動き出し荷重に対して変化した場合のペダル踏力とペダルストロークとの関係を示す。
【0042】
上記のように構成される車両用制動装置1では、例えば、図3に示すように、経年変化によってペダルリターンスプリング30がへたり、このペダルリターンスプリング30の反力が減少し適正な基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が減少すると、ペダルストロークが大きく変化するペダル踏力は、ペダルリターンスプリング30の反力が減少したがために、実ペダル動き出し荷重が適正な基準ペダル動き出し荷重である場合におけるペダル踏力より小さくなる。これにより、運転者によるブレーキペダル21の操作フィーリングが悪化するおそれがある。これに対し、本実施例の車両用制動装置1は、経年変化などによりペダルリターンスプリング30の反力が減少しても、このペダルリターンスプリング30の反力の減少分を負圧量可変制御装置29が負圧式ブースタ23の負圧量を可変制御しこの負圧式ブースタ23の負圧量によって補うことで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を一定に保持して安定させることができる。言い換えれば、車両用制動装置1は、適正な基準ペダル動き出し荷重と実ペダル動き出し荷重との偏差に応じて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重に近づくように負圧量可変制御装置29を制御して負圧式ブースタ23の負圧量を制御することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定化させることができる。この結果、運転者によるブレーキペダル21の操作フィーリングが悪化することを抑制すことができる。
【0043】
次に、図4のフローチャートを参照して、本実施例に係る車両用制動装置1のペダル動き出し荷重保持制御を説明する。
【0044】
まず、ECU4は、例えば、車両用制動装置1による前回の制動動作が終了し、車両用制動装置1の制動がOFFになると、制動装置本体2を含む車両用制動装置1が搭載される車両の走行距離を走行距離センサ53により検出し当該走行距離を取得する(S100)。次に、へたり量算出部54は、例えば、図2に示したような車両の走行距離とペダルリターンスプリング30の反力との関係を示すマップに基づいて、S100にて走行距離センサ53が検出した車両の走行距離からペダルリターンスプリング30の反力を算出し、この車両の走行距離に応じたペダルリターンスプリング30の反力の減少分をペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値として算出(推定)する(S102)。
【0045】
次に、変化量算出部55は、S102にてへたり量算出部54が算出したペダルリターンスプリング30のへたり量に基づいて、例えば、数式(1)を用いて目標負圧変化量を算出し(S104)、目標負圧量設定部51は、S104にて変化量算出部55が算出した目標負圧変化量に基づいて、例えば、数式(2)を用いて負圧式ブースタ23の目標負圧量を算出する(S106)。そして、目標指令値算出部52は、S106にて目標負圧量設定部51が設定した目標負圧量に基づいて、負圧量可変制御装置29の目標指令値を算出し(S108)、次の制御周期に移行すると共に、車両用制動装置1の次回の制動動作時に、S108にて設定された目標指令値に基づいて負圧量可変制御装置29を駆動し、負圧式ブースタ23の負圧量を制御することで、ペダル動き出し荷重を一定に保持し安定化させる。
【0046】
以上で説明した本発明の実施例に係る車両用制動装置1によれば、ブレーキペダル21に入力されたペダル踏力を負圧式の負圧式ブースタ23により所定の倍力比で倍化させこの倍化されたペダル踏力に基づいて車輪に制動力を発生させると共に、少なくともブレーキペダル21を付勢するペダルリターンスプリング30の反力と負圧式ブースタ23の負圧量とに基づいてブレーキペダル21が動き出す荷重が定まる制動装置本体2と、目標の負圧量である目標負圧量に基づいて負圧式ブースタ23の負圧量を可変制御する負圧量可変制御装置29と、予め設定される基準の動き出し荷重である基準ペダル動き出し荷重に対する実際の動き出し荷重である実ペダル動き出し荷重の変化量を検出するペダル動き出し荷重変化量検出部50と、ペダル動き出し荷重変化量検出部50が検出した変化量に基づいて目標負圧量を設定する目標負圧量設定部51とを備える。
【0047】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部50が基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を検出し、目標負圧量設定部51がこの変化量に基づいて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重となるように負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させることができることから、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【0048】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る車両用制動装置1によれば、ペダル動き出し荷重変化量検出部50は、制動装置本体2が搭載される車両の走行距離を検出する走行距離センサ53と、走行距離センサ53が検出した走行距離に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量を算出するへたり量算出部54と、へたり量算出部54が検出したへたり量に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を算出する変化量算出部55とを有する。
【0049】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部50は、走行距離センサ53が制動装置本体2を含む車両用制動装置1が搭載される車両の走行距離を検出し、へたり量算出部54が検出された走行距離に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値を算出し、変化量算出部55が算出されたへたり量に相当する値に基づいて目標負圧変化量を算出することで、予め設定される基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を検出することができる。また、ペダル動き出し荷重変化量検出部50の走行距離センサ53と一般的に車両に設けられる既存の走行距離センサとを兼用することができることから製造コストの上昇を抑制することができる。
【0050】
なお、上述した本発明の実施例に係る車両用制動装置は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
図5は、本発明の変形例に係る車両用制動装置の概略構成図、図6は、本発明の変形例に係る車両用制動装置のペダルリターンスプリングのへたり量について説明する線図、図7は、本発明の変形例に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。変形例に係る車両用制動装置は、実施例1に係る車両用制動装置と略同様の構成であるが、検出手段の構成が実施例1に係る車両用制動装置とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0052】
変形例に係る車両用制動装置1Aが備える検出手段としてのペダル動き出し荷重変化量検出部50Aは、作動回数検出手段としてのペダルストロークセンサ53Aと、へたり量算出手段としてのへたり量算出部54Aと、変化量算出手段としての変化量算出部55とを含んで構成される。すなわち、変形例のペダル動き出し荷重変化量検出部50Aは、実施例1の走行距離センサ53に代えて、ペダルストロークセンサ53Aを含んで構成される。
【0053】
ペダルストロークセンサ53Aは、このブレーキペダル21のペダルストロークを検出するものであり、ここでは、ブレーキペダル21の作動回数を検出する本発明の作動回数検出手段としても兼用される。
【0054】
へたり量算出部54Aは、ペダルストロークセンサ53Aが検出したブレーキペダル21の作動回数に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量を算出するものである。ここでは、ECU4は、例えば、図6に示すように、ブレーキペダル21の作動回数に応じて予め実験等により作成されたペダルリターンスプリング30の反力変化マップを記憶部42に記憶している。そして、へたり量算出部54Aは、このブレーキペダル21の作動回数とペダルリターンスプリング30の反力との関係を示すマップに基づいて、ペダルストロークセンサ53Aが検出したブレーキペダル21の作動回数からペダルリターンスプリング30の反力を算出し、このブレーキペダル21の作動回数に応じたペダルリターンスプリング30の反力の減少分をペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値として算出(推定)する。なお、本図は、横軸をブレーキペダル21の作動回数、縦軸をペダルリターンスプリング30の反力としており、ブレーキペダル21の作動回数が多くなると、経年変化に応じたスプリング反力の低下、すなわち、ペダルリターンスプリング30のへたり量が増加することを表している。
【0055】
変化量算出部55は、へたり量算出部54Aが算出したペダルリターンスプリング30のへたり量に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を算出する。
【0056】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部50Aは、ペダルストロークセンサ53Aがブレーキペダル21の作動回数を検出し、へたり量算出部54Aが検出されたブレーキペダル21の作動回数に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値を算出し、変化量算出部55が算出されたへたり量に相当する値に基づいて目標負圧変化量を算出することで、予め設定される基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を検出することができる。
【0057】
次に、図7のフローチャートを参照して、本変形例に係る車両用制動装置1Aのペダル動き出し荷重保持制御を説明する。
【0058】
この図7に示すペダル動き出し荷重保持制御は、ECU4がS100Aにてペダルストロークセンサ53Aによりブレーキペダル21の作動回数を検出し当該作動回数を取得する点と、へたり量算出部54AがS102Aにて、例えば、図6に示したようなブレーキペダル21の作動回数とペダルリターンスプリング30の反力との関係を示すマップに基づいて、S100Aにて検出されたブレーキペダル21の作動回数からペダルリターンスプリング30の反力を算出し、このブレーキペダル21の作動回数に応じたペダルリターンスプリング30の反力の減少分をペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値として算出(推定)する点が図4で説明したペダル動き出し荷重保持制御とは異なる。その他の図7に示すペダル動き出し荷重保持制御のS104からS108は、図4で説明したペダル動き出し荷重保持制御のS104からS108と同様である。
【0059】
以上で説明した本発明の変形例に係る車両用制動装置1Aによれば、ペダル動き出し荷重変化量検出部50Aが基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を検出し、目標負圧量設定部51がこの変化量に基づいて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重となるように負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させることができることから、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【0060】
さらに、以上で説明した本発明の変形例に係る車両用制動装置1Aによれば、ペダル動き出し荷重変化量検出部50Aは、ブレーキペダル21の作動回数を検出するペダルストロークセンサ53Aと、ペダルストロークセンサ53Aが検出した作動回数に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量を算出するへたり量算出部54Aと、へたり量算出部54Aが検出したへたり量に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を算出する変化量算出部55を有する。
【0061】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部50Aは、ペダルストロークセンサ53Aがブレーキペダル21の作動回数を検出し、へたり量算出部54Aが検出されたブレーキペダル21の作動回数に基づいてペダルリターンスプリング30のへたり量に相当する値を算出し、変化量算出部55が算出されたへたり量に相当する値に基づいて目標負圧変化量を算出することで、予め設定される基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を検出することができる。また、ペダルリターンスプリング30のへたり量との関連性が高いブレーキペダル21の作動回数に基づいてより正確にペダルリターンスプリング30のへたり量を算出することができるので、より高精度にブレーキペダル21の動き出し荷重を安定化させることができる。
【実施例2】
【0062】
図8、本発明の実施例2に係る車両用制動装置の概略構成図、図9は、本発明の実施例2に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重について説明する線図、図10は、本発明の実施例2に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。実施例2に係る車両用制動装置は、実施例1に係る車両用制動装置と略同様の構成であるが、検出手段の構成が実施例1に係る車両用制動装置とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0063】
以上の実施例1の説明では、ペダルリターンスプリング30の経年変化等によってペダルリターンスプリング30の反力が減少することで、基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が変化してしまうものとして説明したが、以下で説明する本実施例の車両用制動装置201によれば、ペダルリターンスプリング30のへたりによる反力の変化に限らず、例えば、経年変化による操作ロッド22の摺動抵抗の変化など種々の要因により基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が変化した場合であっても、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させ、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる。すなわち、以上の実施例1の説明では、ペダルリターンスプリング30の反力の減少分を補うため負圧式ブースタ23の負圧量を増加させるものとして説明したが、以下で説明する本実施例の車両用制動装置201のように負圧式ブースタ23の負圧量を増減少させることで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させることもできる。
【0064】
具体的には、実施例2に係る車両用制動装置201が備える検出手段としてのペダル動き出し荷重変化量検出部250は、操作量検出手段としてのペダルストロークセンサ253と、操作圧力検出手段としてのペダル踏力センサ254と、偏差算出手段としてのペダル動き出し荷重偏差算出部255と、変化量算出手段としての変化量算出部256とを含んで構成される。すなわち、本実施例のペダル動き出し荷重変化量検出部250は、実施例1の走行距離センサ53、へたり量算出部54に代えて、ペダルストロークセンサ253、ペダル踏力センサ254及びペダル動き出し荷重偏差算出部255を含んで構成される。
【0065】
ペダルストロークセンサ253は、ブレーキペダル21の移動量、すなわち、ペダルストロークを検出するものである。
【0066】
ペダル踏力センサ254は、ブレーキペダル21の操作圧力、すなわち、ペダル踏力を検出するものである。
【0067】
ペダル動き出し荷重偏差算出部255は、ペダルストロークセンサ253が検出したペダルストロークとペダル踏力センサ254が検出したペダル踏力とに基づいて実ペダル動き出し荷重を算出すると共に、算出した実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差を算出するものである。ペダル動き出し荷重偏差算出部255は、例えば、ペダルストロークセンサ253が検出するペダルストロークが大きく変化した際のペダル踏力に応じて実ペダル動き出し荷重を算出することができる。
【0068】
変化量算出部256は、ペダル動き出し荷重偏差算出部255が算出した実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差に基づいて、基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値として目標負圧変化量を算出する。
【0069】
ここで、図9は、本実施例に係る車両用制動装置201のペダル動き出し荷重について説明する線図であり、横軸をペダル踏力、縦軸をペダルストロークとしている。本図中実線及び点Xは、実ペダル動き出し荷重が適正な基準ペダル動き出し荷重である場合のペダル踏力とペダルストロークとの関係を示す一方、本図中点線及び点Y1、Y2は、実ペダル動き出し荷重が適正な基準ペダル動き出し荷重に対して変化した場合(基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が減少した場合及び増加した場合)のペダル踏力とペダルストロークとの関係を示す。
【0070】
例えば、本図中点Y1に示すように、実ペダル動き出し荷重においてペダルストロークが大きく変化するペダル踏力が、適正な基準ペダル動き出し荷重においてペダルストロークが大きく変化するペダル踏力より小さくなっていれば、基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が減少していることから、基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の減少分を補うように負圧式ブースタ23の目標負圧変化量を設定し目標負圧量を増加させることで、実ペダル動き出し荷重を基準ペダル動き出し荷重に近づけることができる。一方、本図中点Y2に示すように、実ペダル動き出し荷重においてペダルストロークが大きく変化するペダル踏力が、適正な基準ペダル動き出し荷重においてペダルストロークが大きく変化するペダル踏力より大きくなっていれば、基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が増加していることから、基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の増加分を減じるように負圧式ブースタ23の目標負圧変化量を設定し目標負圧量を減少させることで、実ペダル動き出し荷重を基準ペダル動き出し荷重に近づけることができる。
【0071】
つまり、実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差は、実ペダル動き出し荷重を基準ペダル動き出し荷重に近づけるための負圧式ブースタ23の目標負圧変化量に相当する。さらに言えば、負圧式ブースタ23の目標負圧変化量は、ペダルリターンスプリング30のへたりによる反力の変化や操作ロッド22の摺動抵抗の変化など種々の要因により基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が変化した場合にこの実ペダル動き出し荷重を基準ペダル動き出し荷重に追従させるための負圧量に相当する。
【0072】
したがって、ペダル動き出し荷重変化量検出部250は、ペダルストロークセンサ253がブレーキペダル21のペダルストロークを検出し、ペダル踏力センサ254がブレーキペダル21のペダル踏力を検出し、ペダル動き出し荷重偏差算出部255がこのペダルストロークとペダル踏力とに基づいて実ペダル動き出し荷重を算出すると共に、算出した実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差を算出し、変化量算出部256がこの偏差に基づいて、基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値として目標負圧変化量を算出する。これにより、車両用制動装置201は、適正な基準ペダル動き出し荷重と実ペダル動き出し荷重との偏差に応じて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重に近づくように負圧量可変制御装置29を制御して負圧式ブースタ23の負圧量を制御することで、ペダルリターンスプリング30のへたりによる反力の変化や操作ロッド22の摺動抵抗の変化に限らず、種々の要因により基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が変化した場合であっても、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定化させることができる。
【0073】
次に、図10のフローチャートを参照して、本実施例に係る車両用制動装置201のペダル動き出し荷重保持制御を説明する。
【0074】
この図10に示すペダル動き出し荷重保持制御は、ECU4がS200にてペダルストロークセンサ253によりペダルストロークを検出しペダル踏力センサ254によりペダル踏力を検出して、ブレーキペダル21のペダルストローク及びペダル踏力を取得する点と、ペダル動き出し荷重偏差算出部255がS202にてこのペダルストロークとペダル踏力とに基づいて実ペダル動き出し荷重を算出すると共に、算出した実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差を算出する点と、変化量算出部256がS204にてこの偏差に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値として目標負圧変化量を算出する点が図4で説明したペダル動き出し荷重保持制御とは異なる。その他の図10に示すペダル動き出し荷重保持制御のS106及びS108は、図4で説明したペダル動き出し荷重保持制御のS106及びS108と同様である。
【0075】
以上で説明した本発明の実施例に係る車両用制動装置201によれば、ペダル動き出し荷重変化量検出部250が基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量を検出し、目標負圧量設定部51がこの変化量に基づいて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重となるように負圧式ブースタ23の目標負圧量を設定することで、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定させることができることから、制動操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【0076】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る車両用制動装置201によれば、ペダル動き出し荷重変化量検出部250は、ブレーキペダル21のペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ253と、ペダル踏力を検出するペダル踏力センサ254と、ペダルストロークとペダル踏力とに基づいて実ペダル動き出し荷重を算出し、この実ペダル動き出し荷重と基準ペダル動き出し荷重との偏差を算出するペダル動き出し荷重偏差算出部255と、この偏差に基づいて基準ペダル動き出し荷重に対する実ペダル動き出し荷重の変化量に相当する値を算出する変化量算出部256とを有する。
【0077】
したがって、適正な基準ペダル動き出し荷重と実ペダル動き出し荷重との偏差に応じて実ペダル動き出し荷重が基準ペダル動き出し荷重に近づくように負圧量可変制御装置29を制御して負圧式ブースタ23の負圧量を制御することで、種々の要因により基準ペダル動き出し荷重に対して実ペダル動き出し荷重が変化した場合であっても、ブレーキペダル21の動き出し荷重を安定化させることができる。この結果、運転者によるブレーキペダル21の操作フィーリングが悪化することを抑制すことができる。
【0078】
なお、上述した本発明の実施例に係る車両用制動装置は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明に係る車両用制動装置は、制動操作フィーリングの低下を抑制することができるものであり、種々の車両用制動装置に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダルリターンスプリングのへたり量について説明する線図である。
【図3】本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重について説明する線図である。
【図4】本発明の実施例1に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の変形例に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【図6】本発明の変形例に係る車両用制動装置のペダルリターンスプリングのへたり量について説明する線図である。
【図7】本発明の変形例に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る車両用制動装置の概略構成図である。
【図9】本発明の実施例2に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重について説明する線図である。
【図10】本発明の実施例2に係る車両用制動装置のペダル動き出し荷重保持制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1、1A、201 車両用制動装置
2 制動装置本体(制動手段)
4 ECU
21 ブレーキペダル(操作部材)
22 操作ロッド
23 負圧式ブースタ(制動倍力手段)
24 マスタシリンダ
25 ホイールシリンダ
26 キャリパ
27 ディスクロータ
28 ABSアクチュエータ
28a 油圧供給通路
29 負圧量可変制御装置(負圧量可変制御手段)
29a 負圧供給通路
30 ペダルリターンスプリング(付勢手段)
50、50A、250 ペダル動き出し荷重変化量検出部(検出手段)
51 目標負圧量設定部(設定手段)
52 目標指令値算出部
53 走行距離センサ(走行距離検出手段)
53A ペダルストロークセンサ(作動回数検出手段)
54、54A へたり量算出部(へたり量算出手段)
55 変化量算出部(変化量算出手段)
253 ペダルストロークセンサ(操作量検出手段)
254 ペダル踏力センサ(操作圧力検出手段)
255 ペダル動き出し荷重偏差算出部(偏差算出手段)
256 変化量算出部(変化量算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材に入力された操作圧力を負圧式の制動倍力手段により所定の倍力比で倍化させ当該倍化された操作圧力に基づいて車輪に制動力を発生させると共に、少なくとも前記操作部材を付勢する付勢手段の反力と前記制動倍力手段の負圧量とに基づいて前記操作部材が動き出す荷重が定まる制動手段と、
目標の前記負圧量である目標負圧量に基づいて前記制動倍力手段の前記負圧量を可変制御する負圧量可変制御手段と、
予め設定される基準の前記動き出し荷重である基準動き出し荷重に対する実際の前記動き出し荷重である実動き出し荷重の変化量を検出する検出手段と、
前記変化量に基づいて前記目標負圧量を設定する設定手段とを備えることを特徴とする、
車両用制動装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記制動手段が搭載される車両の走行距離を検出する走行距離検出手段と、前記走行距離に基づいて前記付勢手段のへたり量を算出するへたり量算出手段と、前記へたり量に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする、
請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記操作部材の作動回数を検出する作動回数検出手段と、前記作動回数に基づいて前記付勢手段のへたり量を算出するへたり量算出手段と、前記へたり量に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする、
請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記操作部材の移動量を検出する操作量検出手段と、前記操作圧力を検出する操作圧力検出手段と、前記移動量と前記操作圧力とに基づいて前記実動き出し荷重を算出し、該実動き出し荷重と前記基準動き出し荷重との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差に基づいて前記変化量を算出する変化量算出手段とを有することを特徴とする、
請求項1に記載の車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−166788(P2009−166788A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9788(P2008−9788)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】