説明

車両用制御装置

【課題】エンジンの自動停止中にスタータの駆動回路やエアコンシステム等の車載機器に異常が生じる状況下において、ユーザに車両の退避走行等の適切な対応をとらせる。
【解決手段】車両の走行中においてもエンジン10の自動停止が許可されるアイドルストップ制御(減速時IS制御)が行われる車両においてエンジン10の自動停止中において、ISS−ECU68やスタータ56の駆動回路等に異常が生じたと判断されて且つ車両が走行中であると判断された場合、エンジン10の再始動処理を強制的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行速度が0よりも高い規定速度以下になるとの条件を含む所定の停止条件が成立した場合に車載エンジンの自動停止処理を行い、該自動停止処理の後、所定の再始動条件が成立した場合に前記エンジンの再始動処理を行う制御手段と、車輪に制動力を付与すべく操作されるブレーキ装置と、前記車両の操作にかかわる複数の車載機器とを備える車両に適用される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に見られるように、所定の停止条件が成立する場合にエンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立する場合にエンジンを再始動させるいわゆるアイドルストップ制御が行われる車両が知られている。この制御によれば、エンジンの燃費低減効果の向上を図ることが可能となる。
【0003】
また、上記車両の中には、車両の走行中においてもエンジンの自動停止を許可するアイドルストップ制御(以下、減速時IS制御)が行われるものもある。これにより、エンジンの燃費低減効果の更なる向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4376749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、減速時IS制御によってエンジンが自動停止される状況下において、車両の操作にかかわる車載機器に異常が生じることがある。この場合、車両が走行中であるか否かによって種々の不都合が生じ、車両を適切に退避走行させることができなくなる等、ユーザに適切な対応をとらせることができなくなるおそれがある。詳しくは例えば、エンジンが自動停止されて且つ車両が走行する状況下において、車載機器の異常によってエンジンを再始動させることができなくなると、ユーザに適切な対応をとらせることができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、減速時IS制御が行われる車両において、エンジンの自動停止中に車載機器に異常が生じた場合であっても、ユーザに適切な対応をとらせることのできる車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、車両の走行速度が0よりも高い規定速度以下になるとの条件を含む所定の停止条件が成立した場合に車載エンジンの自動停止処理を行い、該自動停止処理の後、所定の再始動条件が成立した場合に前記エンジンの再始動処理を行う制御手段と、車輪に制動力を付与すべく操作されるブレーキ装置と、前記車両の操作にかかわる複数の車載機器とを備える車両に適用され、前記車載機器に異常が生じているか否かを判断する異常判断手段と、前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断された場合、強制的な前記再始動処理と、前記ブレーキ装置による前記制動力の付与を助勢する処理とのうち少なくとも1つを行うフェールセーフ手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、強制的な再始動処理と、上記ブレーキ装置による制動力の付与を助勢する処理とのうち少なくとも1つを行う。このため、エンジンの自動停止中に車載機器に異常が生じる状況下、車両の置かれた状況に応じて、エンジンを再始動させて車両の駆動力を確保したり、車輪に適切に制動力を付与したりする等、ユーザに適切な対応をとらせることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つユーザが乗車していると判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0011】
車載機器に何らかの異常が発生する状況下、例えばユーザが車両のフードを開けて点検を行う等、ユーザが車外に出ていることがある。このような状況においてエンジンが再始動されると、異常発生後にユーザに適切な対応をとらせることができなくなるおそれがある。この点、上記発明では、車載機器に異常が生じる状況下、ユーザが乗車していると判断された場合に再始動処理を強制的に行う。これにより、車載機器の異常発生後にユーザにより適切な対応をとらせることができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記車両が走行中であると判断されることをもって前記ユーザが乗車していると判断することを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、車両が走行中の場合、ユーザが乗車している蓋然性が高いことに着目した。そこで上記発明では、上記態様にてユーザが乗車していることを適切に判断することができる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段に異常が生じたと判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0015】
乗車把握手段に異常が生じると、ユーザが乗車しているか否かを適切に把握することができなくなることから、エンジンの再始動処理を行うことができなくなることがある。この点、上記発明では、エンジンが自動停止されて且つ車両が走行する状況下、乗車把握手段に異常が生じる場合であっても、強制的に再始動処理を行う。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記車載機器には、車載バッテリを電力供給源として且つ前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータと、前記バッテリの電圧を昇圧して出力するコンバータとが含まれ、当該制御装置は、前記コンバータから出力される電力によって駆動されて且つ、該コンバータの出力電圧が規定電圧以下となる場合にリセット処理が行われるものであり、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記コンバータに異常が生じたと判断された場合、前記強制的な再始動処理を制限禁止する制限手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、車両制御の信頼性を確保する観点から、制御装置の電力供給源となるコンバータの出力電圧が規定電圧以下となる場合にリセット処理が行われる。ここでコンバータに異常が生じると、バッテリの電圧を適切に昇圧することができなくなることがある。このような状況下、車両の走行中にエンジンを再始動させるべくスタータが駆動されると、バッテリの電圧が低下し、リセット処理が行われることがある。この場合、エンジンが自動停止されて且つ車両が走行する状況下において、車両制御を適切に行うことができなくなるおそれがある。
【0018】
この点、上記発明では、エンジンが自動停止されて且つ車両が走行中である状況下、コンバータに異常が生じた旨判断された場合、強制的な再始動処理を制限する。これにより、リセット処理が行われて車両制御を適切に行うことができなくなることを回避できる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記制限手段は、前記車両の走行速度が、前記規定速度よりも低い解除用速度未満になると判断されることを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする。
【0020】
車両の走行速度が低い状況下において上記リセット処理が行われる場合、リセット処理が車両操作に及ぼす影響が小さいと考えられる。この点に鑑み、上記発明では、上記態様にて再始動処理の制限を解除することで、車両の駆動力を極力確保することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載の発明において、前記車両には、該車両の加減速を指示すべくユーザによって操作される操作部材が備えられ、前記操作部材の操作状態に基づき、ユーザに前記エンジンを再始動させる意思があるか否かを判断する意思判断手段を更に備え、前記制限手段は、前記意思判断手段によって前記再始動させる意思があると判断されたことを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、ユーザの意思を反映して強制的な再始動処理の制限を解除することができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項3〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0024】
上記発明では、強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置に異常が生じる場合であっても、サブとなる制御装置で代替させて再始動処理を強制的に行うことができる。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項3〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、前記スタータは、当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれに対応する電気経路を介して当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれによって駆動可能とされるものであり、前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記スタータの駆動制御を行う前記メインとなる制御装置に対応する電気経路に異常が生じたと判断された場合、前記サブとなる制御装置に対応する電気経路を介して前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0026】
上記発明では、メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれに対応する電気経路を介してこれら制御装置のそれぞれによってスタータが駆動可能とされている。このため、スタータの駆動制御を行うメインとなる制御装置に対応する電気経路に異常が生じる場合であっても、サブとなる制御装置に対応する電気経路で代替させて上記サブとなる制御装置によってスタータを駆動させることで、再始動処理を強制的に行うことができる。
【0027】
請求項10記載の発明は、請求項2〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、前記スタータは、複数の電気経路のいずれかを介して当該制御装置によって駆動可能とされるものであり、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記電気経路に異常が生じたと判断された場合、該異常が生じた電気経路以外の電気経路によって前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0028】
上記発明では、複数の電気経路のいずれかを介して制御装置によってスタータが駆動可能とされている。このため、いずれかの電気経路に異常が生じる場合であっても、他の電気経路で代替させてスタータを駆動させることで、再始動処理を強制的に行うことができる。
【0029】
請求項11記載の発明は、請求項2〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段以外の前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記乗車把握手段によってユーザが乗車していると把握されることを条件として、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0030】
上記発明では、乗車把握手段によってユーザの乗車を把握してからエンジンの再始動処理を行う。このため、車載機器の異常発生後にユーザにより適切な対応をとらせることができる。
【0031】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の発明において、前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、前記スタータは、当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれによって駆動可能とされるものであり、前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記スタータの駆動制御を行う前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする。
【0032】
上記発明では、メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれによってスタータが駆動可能とされている。このため、停車中においてスタータの駆動制御を行うメインとなる制御装置に異常が生じる場合であっても、ユーザが乗車していると把握されることを条件として、サブとなる制御装置で代替させてスタータを駆動させることで、再始動処理を強制的に行うことができる。
【0033】
請求項13記載の発明は、請求項11又は12記載の発明において、前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記強制的な再始動処理を制限する制限手段を備えることを特徴とする。
【0034】
メインとなる制御装置に異常が生じる場合、この制御装置の信頼性が低下し、例えばユーザが車外に出ている間にエンジンが再始動される等、異常発生後にユーザに適切な対応をとらせることができなくなるおそれがある。この点、上記発明では、制限手段を備えることで、メインとなる制御装置の信頼性が低下する状況下において、サブとなる制御装置によって再始動処理を制限することができる。このため、異常発生後においてユーザに適切な対応をとらせることができる。
【0035】
請求項14記載の発明は、請求項13記載の発明において、前記車両には、該車両の加減速を指示すべくユーザによって操作される操作部材が備えられ、前記操作部材の操作状態に基づき、ユーザに前記再始動させる意思があるか否かを判断する意思判断手段を更に備え、前記制限手段は、前記意思判断手段によって前記再始動させる意思があると判断されたことを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする。
【0036】
上記発明では、上記制限手段によって再始動処理が制限される場合であっても、ユーザに再始動させる意思があるときには、これを反映して再始動処理の制限を解除することができる。
【0037】
請求項15記載の発明は、請求項11〜14のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させる変速装置が備えられ、前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、前記フェールセーフ手段は、前記スタータが意図せず駆動状態となる異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記出力軸と前記駆動輪との間を動力遮断状態とすべく前記変速装置を操作することを特徴とする。
【0038】
変速装置によって出力軸と回転軸との間が動力伝達状態とされる状況下、エンジンの自動停止中であって且つ停車中に何らかの要因でスタータが意図せず駆動状態となる異常が生じることがある。この場合、スタータの駆動力が車両の力行に用いられることに起因して、ユーザの意図しない発車が生じるおそれがある。この点、上記発明では、上記態様にて変速装置を操作することで、スタータの駆動力が車両の力行に用いられることを適切に回避し、意図しない発車を回避することができる。
【0039】
請求項16記載の発明は、請求項2〜15のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザのブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置とが備えられ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段と、前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記ブレーキ操作部材の操作に注意すべき旨をユーザに報知する報知手段とを更に備えることを特徴とする。
【0040】
エンジンが停止されると、吸気通路上の吸気絞り弁の下流側に生じる負圧が小さくなることから、制動倍力装置によってユーザのブレーキ操作部材の操作を適切に助勢することができなくなるおそれがある。この場合、例えばユーザがポンピングブレーキ操作を行うと、車輪に制動力を適切に付与することができなくなることが懸念される。
【0041】
この点、上記発明では、車両の走行中にエンジンの再始動が失敗する旨判断された場合、ブレーキ操作部材の操作に注意すべき旨をユーザに報知する。これにより、車載機器の異常発生後において車両の退避走行をユーザに適切に行わせることができる。
【0042】
請求項17記載の発明は、請求項2〜16のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段と、前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断されて且つ停車中であると判断された場合、イグニッションキーの操作によって前記エンジンを始動すべき旨をユーザに報知する報知手段とを更に備えることを特徴とする。
【0043】
上記発明では、停車中にエンジンの再始動が失敗する旨判断された場合、イグニッションキーの操作によってエンジンを始動すべき旨をユーザに報知する。これにより、エンジンの始動をユーザに適切に行わせることができる。
【0044】
請求項18記載の発明は、請求項17記載の発明において、前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断される時点とは、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じた旨判断される時点であることを特徴とする。
【0045】
上記発明では、上記報知手段によるユーザへの報知を極力速やかに行うことができる。
【0046】
請求項19記載の発明は、請求項2〜18のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させるべくユーザによって操作されるクラッチ及び手動変速装置とが備えられ、前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記クラッチの操作がなされていると判断されることを条件として、前記強制的な前記再始動処理を行うことを特徴とする。
【0047】
乗車把握手段に異常が生じると、ユーザの乗車を適切に把握することができなくなることから、強制的な再始動処理を行うことが可能であるか否かを判断することができなくなることがある。ここでクラッチ操作がなされる場合、ユーザが乗車している蓋然性が高いと考えられる。この点に鑑み、上記発明では、上記態様にて強制的な再始動処理を行うことができる。
【0048】
請求項20記載の発明は、請求項2〜19のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させるべくユーザによって操作されるクラッチ及び手動変速装置が備えられ、前記フェールセーフ手段は、前記クラッチ及び前記手動変速装置のうち少なくとも1つによって前記出力軸と前記駆動輪との間が遮断されていると判断された場合、前記強制的な前記再始動処理を行うことを特徴とする。
【0049】
上記発明では、上記態様にて強制的な再始動処理を行うことで、エンジンの再始動に伴ってエンジンの駆動力が車両の力行に用いられることに起因するエンジンストールやユーザの意図せぬ発車を回避することができる。
【0050】
請求項21記載の発明は、請求項2〜20のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させる変速装置とが備えられ、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの再始動が失敗する旨判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記出力軸と前記駆動輪との間を動力伝達状態とすべく、前記変速装置を操作することを特徴とする。
【0051】
上記発明では、坂道で停車する状況下において、エンジンの再始動が失敗する旨判断された場合であっても、ユーザの意図しない車両の後退又は進行を回避することができる。
【0052】
請求項22記載の発明は、請求項2〜21のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記ブレーキ装置は、ユーザのブレーキ操作部材の操作又は電動式のアクチュエータの通電操作によって前記車輪に制動力を付与するものであり、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段と、前記エンジンの自動停止中において前記車輪に強制的に制動力を付与すべく、前記アクチュエータを通電操作する強制制動力付与手段とを更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記エンジンの再始動が完了したと判断されるまで前記強制制動力付与手段による強制的な制動力の付与を継続させることを特徴とする。
【0053】
上記発明では、エンジンの再始動が完了すると判断されるまで車輪に強制的に制動力を付与する。すなわち、車両の駆動力が確保されるまで制動力を付与する。このため、車両が坂道に位置する状況下において、ユーザが意図しない車両の後退や進行の発生を抑制することができ、ひいては異常発生後にユーザにより適切な対応をとらせることができる。
【0054】
請求項23記載の発明は、請求項22記載の発明において、前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの再始動が完了したと判断された場合、前記強制制動力付与手段による強制的な制動力の付与を停止させることを特徴とする。
【0055】
上記発明では、強制的な制動力の付与を適切なタイミングで停止させることができる。
【0056】
請求項24記載の発明は、請求項1〜23のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記ブレーキ装置は、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザの前記ブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置を備えるものであり、前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記ブレーキ操作部材の操作に応じた前記ブレーキ装置による制動力を助勢すべく前記アクチュエータを通電操作することを特徴とする。
【0057】
エンジンが停止されると、吸気通路上の吸気絞り弁の下流側に生じる負圧が小さくなることから、制動倍力装置によってユーザのブレーキ操作部材の操作を適切に助勢することができなくなり、車輪に制動力を適切に付与することができなくなるおそれがある。
【0058】
この点、上記発明では、電動式のアクチュエータの通電操作によって上記態様にてブレーキ装置による制動力を助勢することで、ユーザの意図を極力反映した制動力を車輪に付与することができる。
【0059】
請求項25記載の発明は、請求項1〜24のいずれか1項に記載の発明において、前記車載機器には、前記エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射弁を含む該エンジンの燃焼制御のためのアクチュエータと、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザのブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置と、前記エンジンを動力供給源として前記車両の窓ガラスの曇りを除去する空調装置とのうち少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0060】
上記発明では、車載機器として、エンジンの燃焼制御のためのアクチュエータ等を備えている。ここで、これら車載機器に異常が生じると、エンジンの駆動によって車両の駆動力を確保したり、制動倍力装置によってブレーキ操作部材の操作を助勢したり、更には空調装置によって窓ガラスを介した視界を確保したりすることが困難となるおそれがある。このため、車載機器として上記アクチュエータ等を備える上記発明は、フェールセーフ手段を備えるメリットが大きい。
【0061】
請求項26記載の発明は、請求項1〜25のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、前記速度検出手段の検出値の信頼性が高いか否かを判断する信頼性判断手段を更に備え、前記フェールセーフ手段は、前記信頼性判断手段によって信頼性が高いと判断された前記速度検出手段の検出値を用いて前記車両が走行中であるか否かを判断することを特徴とする。
【0062】
上記発明では、車両が走行中であるか停車中であるかの判断の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかるスタータの駆動回路を示す図。
【図3】一実施形態にかかるアイドルストップ制御処理の手順を示すフローチャート。
【図4】一実施形態にかかる異常診断処理の手順を示すフローチャート。
【図5】一実施形態にかかる走行時フェール処理の手順を示すフローチャート。
【図6】一実施形態にかかる停車時フェール処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明にかかる制御装置を手動変速装置(マニュアルトランスミッション)を搭載した車両に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0065】
図1に本実施形態にかかるエンジンシステム、ブレーキシステム及び空気調節システム(エアコンシステム)等の構成図を示す。
【0066】
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。エンジン10の各気筒には、エンジン10の燃焼室に燃料を供給する電磁駆動式の燃料噴射弁12、及びエンジン10の吸気通路13を介して供給された吸気と、燃料噴射弁12から供給された燃料との混合気を燃焼させるべく放電火花を発生させる点火プラグ14が備えられている。燃料の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン10の出力軸(クランク軸16)の回転動力として取り出される。なお、クランク軸16付近には、クランク軸16の回転角度を検出するクランク角度センサ18が設けられている。また、吸気通路13には、DCモータ等のアクチュエータによって開度が調節される吸気絞り弁(スロットルバルブ20)が設けられている。
【0067】
上記クランク軸16の回転動力は、クラッチ装置22を介して手動変速装置(MT24)へと伝達される。クラッチ装置22は、クランク軸16に接続された円板22a(フライホイール等)と、MT24の入力軸24aに接続された円板22b(クラッチディスク等)とを備えて構成されている。これら円板22a,22b同士は、ユーザによるクラッチペダル26の踏み込み操作に応じて接触及び離間のいずれかの状態に切り替えられる。本実施形態では、クラッチペダル26が完全に踏み込まれた状態でのペダルの踏み込み量(クラッチ操作量)を100%とし、クラッチペダル26の踏み込み操作が解除された状態でのクラッチ操作量を0%とする。クラッチ操作量が所定量(例えば50%、ミートポイント)よりも大きくなると、これら円板22a,22bが互いに離れることで、クランク軸16からMT24へのクランク軸16の回転動力の伝達が遮断される(クラッチ遮断状態)。一方、クラッチ操作量が上記所定量以下となると、これら円板22a,22bが互いに接触することで、クランク軸16からMT24へと上記回転動力が伝達される(クラッチ伝達状態)。
【0068】
MT24は、図示しないシフト装置のシフト位置がユーザによって手動操作されることで、変速比が操作される有段式のものであり、複数段の前進ギア(1〜5速)や、ニュートラルギア(N)等を備えて構成されている。MT24では、入力軸24aの回転速度が変速比に従った回転速度に変換される。また、MT24は、シフト位置が1〜5速(駆動状態)に操作されることで、MT24の出力軸24bや、デファレンシャルギア28、ドライブシャフト30等を介してクランク軸16の回転動力を駆動輪32へと伝達可能な状態とする。一方、シフト位置がニュートラル(非駆動状態)に操作されることで、上記回転動力を駆動輪32へと伝達不可能な状態とする。なお、MT24には、通電操作によって強制的に変速比を変更するためのアクチュエータ(変速アクチュエータ24c)が設けられている。また、駆動輪32を含む各車輪付近には、車両の走行速度を検出するための車輪速センサ34が設けられている。
【0069】
上記ブレーキシステムは、各車輪に対して制動力を付与するブレーキ装置36、電動式のブレーキアクチュエータ38及び制動倍力装置(マスタバッグ40)等を備えて構成されている。詳しくは、ブレーキ装置36は、駆動輪32を含む各車輪付近に設けられており、ブレーキ装置36が車輪に付与する制動力は、ユーザのブレーキペダル42の踏み込み量(ブレーキ操作量)が大きくなったり、ブレーキアクチュエータ38が駆動されたりすることによってブレーキ油圧系統の油圧(ブレーキ油圧)が高くなることで大きくなる。なお本実施形態では、ブレーキ装置36として、ブレーキアクチュエータ38への通電によってブレーキ油圧を上昇・維持させ、通電の停止によってブレーキ油圧が低下するものを想定している。また本実施形態では、車輪速センサ34等の出力信号が入力されて且つ制動制御を行う制御装置(ブレーキECU)がブレーキアクチュエータ38に含まれることとする。
【0070】
上記マスタバッグ40は、ユーザのブレーキペダル42の踏み込み操作を助勢(アシスト)するためのものである。詳しくは、マスタバッグ40は、ブレーキペダル42の踏み込みに応じて大気が導入される大気室と、負圧供給経路44を介して吸気通路13のスロットルバルブ20下流側に接続された負圧室とを備えて構成されている。こうした構成において、ブレーキペダル42が踏み込まれていない場合、負圧室と大気圧室とが連通し、スロットルバルブ20下流側の負圧が負圧室に導入され、負圧室の圧力と、大気圧室の圧力とが等圧に維持される。一方、ブレーキペダル42が踏み込まれる場合には、上記連通がなくなり、大気圧室に大気圧が導入されることで、負圧室と大気圧室との差圧によって、ユーザのブレーキペダル42の踏み込み力が所定の倍率でアシストされる。ちなみに、上記負圧は大気圧との圧力差で表されるものであり、上記負圧が大きいとは、大気圧との圧力差が大きいこと、すなわち、絶対圧力としては低いことを意味する。
【0071】
上記ブレーキ油圧系統には、ブレーキ油圧(例えばマスタシリンダ圧)を検出する油圧センサ46が設けられ、マスタバッグ40には、上記負圧室の圧力(以下、マスタバッグ40の負圧)を検出する負圧センサ48が設けられている。
【0072】
上記エアコンシステム50は、冷凍サイクルに冷媒を循環させるべく冷媒を吸入・吐出する機関駆動式のコンプレッサ50aや、車室内に送風するためのファン50b等を備えて構成されている。詳しくは、エアコンシステム50は、コンプレッサ50aが駆動される状況下、ファン50bによって車両の窓ガラスに向かって送風させることで、窓ガラスの曇りを除去する防曇(デフロスタ)機能を有している。
【0073】
上記車両には、パワーステアリング装置52、ナビゲーションシステム54及びスタータ56等が備えられている。詳しくは、パワーステアリング装置52は、ユーザのハンドル操作力をアシストする電動式のアクチュエータを備えて構成されている。
【0074】
上記スタータ56は、図示しないピニオンを押し出すための電磁駆動式のアクチュエータを備える部分(押出部56a)及びピニオンを回転駆動させるためのモータ部56b等を備えて構成されている。スタータ56は、ユーザのイグニッションキー58の回動操作等によってスタータスイッチがオンされることによりバッテリ60(例えば12Vのもの)を電力供給源として駆動され、クランク軸16に初期回転を付与する(クランキングを行う)。なお、スタータ56の駆動回路については、後に詳述する。
【0075】
バッテリ60には、DCDCコンバータ62が接続されており、DCDCコンバータ62の出力側には、複数の電子制御装置が接続されている。DCDCコンバータ62は、バッテリ60の端子電圧の低下の影響が上記電子制御装置に及ぶことを抑制するためのものであり、バッテリ60の端子電圧を、所定電圧(通常時のバッテリ60の端子電圧として想定される電圧程度)に昇圧して出力するものである。ここで本実施形態では、複数の電子制御装置として、エンジンシステムを操作対象とする電子制御装置(以下、エンジンECU64)と、エアコンシステム及び後述するアイドルストップ制御に関する車載機器(スタータ56等)を操作対象とする電子制御装置(以下、ISS−ECU68)とを想定している。
【0076】
次に、本実施形態にかかるスタータ56の駆動回路について図2を用いて詳述する。
【0077】
図示されるように、バッテリ60と押出部56aとの間には、押出部56aへの通電又は通電の停止を切り替えるSL1駆動リレー70aが接続されている。
【0078】
また、バッテリ60とモータ部56bとの間には、モータ部56bへの通電又は通電の停止を切り替えるSL2駆動リレー72aと、図示しないICRリレーとの直列接続体が設けられている。なお、ICRリレーは、抵抗体及びリレーの並列接続体からなり、スタータ56の始動時にモータ部56bに流れる突入電流を抑制しつつ、バッテリ60からモータ部56bに電力を十分に供給するためのものである。
【0079】
上記SL1駆動リレー70a及びSL2駆動リレー72aのそれぞれには、バックアップリレー(以下、SL1バックアップリレー70b、SL2バックアップリレー72b)のそれぞれが並列接続されている。これらバックアップリレーは、SL1駆動リレー70a及びSL2駆動リレー72aのそれぞれに異常(例えばオフ故障)が生じた場合の代替用のものである。
【0080】
SL1駆動リレー70a、SL2駆動リレー72a、SL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bのそれぞれは、ISS−ECU68のスタータ駆動制御部68aによって各別にオン・オフ可能とされている。詳しくは、これらリレーのそれぞれは、スイッチング素子74a〜74dのそれぞれを介して通電又は通電の停止されるようになっている。具体的には、スイッチング素子74a〜74dのそれぞれは、Nチャネル型のMOSFETよりなり、これらスイッチング素子74a〜74dのそれぞれのドレイン側がバッテリ60に接続され、ソース側が、SL1駆動リレー70a、SL2駆動リレー72a、SL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bのそれぞれのコイル部に接続されている。また、スイッチング素子74a〜74dのそれぞれのゲートには、スタータ駆動制御部68aから出力されるオン・オフ信号がそれぞれ入力されるようになっている。
【0081】
なお本実施形態では、ISS−ECU68とは別のECUによってSL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bのそれぞれが各別にオン・オフ可能とされている。本実施形態では、上記別のECUとしてエンジンECU64を想定している。
【0082】
押出部56a及びモータ部56bへは、ユーザのイグニッションキー58の操作によってもバッテリ60から電力が供給される構成となっている。詳しくは、イグニッションキー58の操作によってスタータスイッチ76がオンされると、初期駆動リレー78がオンされることで、上記SL1駆動リレー70a、SL2駆動リレー72a、SL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bのそれぞれからバッテリ60の電力が供給される電気経路とは別の電気経路によって押出部56a及びモータ部56bへとバッテリ60の電力が供給される。
【0083】
こうした構成において、SL1駆動リレー70a、SL1バックアップリレー70b又は初期駆動リレー78のオンによってバッテリ60から押出部56aに通電されて且つ、SL2駆動リレー72a、SL2バックアップリレー72b又は初期駆動リレー78のオンによってバッテリ60からモータ部56bに通電されると、クランキングが行われる。
【0084】
なお、ISS−ECU68は、異常診断部68bを備えている。異常診断部68bは、スタータ56の駆動回路や、ISS−ECU68とスタータ56とを接続する電気経路等に異常が生じているか否かを診断するためのものである。本実施形態では、通常時に使用されるスイッチング素子74a,74cのそれぞれと、SL1駆動リレー70a、SL2駆動リレー72aのそれぞれとを接続する電気経路、及びバッテリ60と、押出部56a及びモータ部56bのそれぞれとを接続する電気経路の通電状態を検出することで、各種駆動リレーやスイッチング素子に異常が生じていないか否かを診断可能となっている。なお、ISS−ECU68は、CAN通信によって診断結果をエンジンECU64に伝達している。
【0085】
図1の説明に戻り、上記エンジンECU64は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。エンジンECU64には、ユーザのアクセルペダルの踏み込み量(アクセル操作量)を検出するアクセルセンサ80や、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ82、クラッチ操作量を検出するクラッチセンサ84、シフト装置のシフト位置を検出するシフト位置センサ86、クランク角度センサ18、更には車輪速センサ34等の出力信号が入力される。エンジンECU64は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁12や、点火プラグ14、更にはスロットルバルブ20等によるエンジン10の燃焼制御処理等を行う。
【0086】
なお、エンジンECU64は、車輪速センサ34の検出値を用いた車両制御の信頼性を向上させるべく、上記検出値の信頼性が高いか否かを判断する信頼性判断処理を行う。ここで車輪速センサ34の検出値の信頼性が高いか否かの判断手法としては、具体的には例えば、車両が直進する状況下において、各車輪の車輪速センサ34のそれぞれの検出値が過度にずれていないと判断された場合、車輪速センサ34の検出値の信頼性が高いと判断すればよい。これは、車両が直進する状況下においては、各車輪速センサ34のそれぞれの検出値が略同一になることに基づくものである。ちなみに、本実施形態における種々の処理には、上記信頼性判断処理によって信頼性が高いと判断された車輪速センサ34の検出値が用いられることとする。
【0087】
一方、ISS−ECU68は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ISS−ECU68には、車両ドアの開放を検出するドアスイッチ88や、ユーザのシートベルトの着脱を検出するバックルスイッチ90、車両のフードの開放を検出するフードスイッチ92、バッテリ60の電圧や入出力電流等を検出するバッテリセンサ94、油圧センサ46、更には負圧センサ48等の出力信号が入力される。ISS−ECU68は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エアコンシステム50による空調制御処理や、パワーステアリング装置52の制御処理、ブレーキアクチュエータ38に対する制動制御の指令処理、スタータ56の駆動制御処理、更にはアイドルストップ制御処理等を行う。
【0088】
アイドルストップ制御処理は、エンジン10の運転中に所定の停止条件が成立する場合に、燃料噴射弁12からの燃料噴射の停止等をエンジンECU64に指令するエンジン10の自動停止処理を行い、その後、所定の再始動条件が成立する場合に、スタータ56の駆動制御処理を行うとともに、燃料噴射弁12からの燃料噴射の開始等をエンジンECU64に指令するエンジン10の再始動処理を行うものである。
【0089】
なお、本実施形態では、エンジンECU64及びISS−ECU68のそれぞれについて、リセット処理が行われる。リセット処理は、バッテリセンサ94の出力値に基づくバッテリ電圧が動作補償電圧(例えば6V)以下になると判断された場合、RAMに記憶されているデータをクリアしたり、マイクロコンピュータをリセットしたりする処理である。この処理は、車両の各種制御を適切に行うことができなくなる事態を回避するためのものである。
【0090】
また、エアコンシステム50及びパワーステアリング装置52等のそれぞれは、実際には各別の電子制御装置のそれぞれによって操作されるが、ここではこれらの電子制御装置をISS−ECU68と表記している。また、エンジンECU64及びISS−ECU68は、双方向の通信を行うことで情報のやりとりを行う。この情報には、各ECUに入力される各種センサの出力信号や、各ECUに異常が生じているか否かを相互に監視するための信号等が含まれている。
【0091】
図3に、本実施形態にかかるアイドルストップ制御処理の手順を示す。この処理は、ISS−ECU68によって所定周期で実行される。
【0092】
この一連の処理では、ステップS10において、自動停止フラグFの値が「1」であるか否かを判断する。ここで自動停止フラグFの値は、「0」によって自動停止処理がなされていないことを示し、「1」によって自動停止処理がなされていることを示す。
【0093】
ステップS10において自動停止フラグFの値が「0」であると判断された場合には、ステップS12に進み、エンジン10の停止条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態では、エンジン10の停止条件を、(A)クラッチ遮断状態であるとの条件、(B)ブレーキ操作がなされているとの条件及び(C)車両の走行速度が0よりも高い第1の規定速度(例えば20km/h)以下になるとの条件の論理積が真であるとの条件とする。ここで上記停止条件のうち、車両の走行速度についての条件は、アイドルストップ制御による燃費低減効果の更なる向上を図るために設定される条件である。
【0094】
つまり、本実施形態にかかるアイドルストップ制御(以下、減速時IS制御)によれば、停車する以前にもエンジン10を自動停止させるため、エンジン10の自動停止時間を長くすることができるため、エンジン10の燃費低減効果を向上させることが可能となる。なお、ブレーキ操作がなされているか否かは、例えばブレーキセンサ82の出力値に基づくブレーキ操作量が0よりも大きいか否かで判断すればよい。また、車両の走行速度は、車輪速センサ34の出力値に基づき算出すればよい。
【0095】
ステップS12において停止条件が成立したと判断された場合には、ステップS14に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。そして、自動停止フラグFの値を「1」とする。
【0096】
上記ステップS10において肯定判断された場合や、ステップS14の処理が完了した場合には、ステップS16に進み、停車したか否かを判断する。この処理は、上記ブレーキECUに対してブレーキ加圧処理の実行を指示するか否かを判断するためのものである。ここでブレーキ加圧処理は、減速時IS制御によってエンジン10が自動停止される状況下、停車したと判断されてからエンジン10の再始動が完了したと判断されるまでの期間において、車輪に強制的に制動力を付与すべく、ブレーキアクチュエータ38を通電操作するものである。この処理は、車両が坂道に位置する状況下において、ユーザの意図しない車両の後退や進行を回避するためのものである。ここでブレーキ加圧処理は、具体的には、油圧センサ46に基づくブレーキ油圧を規定圧以上とすべくブレーキアクチュエータ38を通電操作する処理となる。なお、停車しているか否かは、車輪速センサ34の出力値に基づく車両の走行速度が0であるか否かで判断すればよい。
【0097】
ステップ16において肯定判断される場合、ステップS18に進み、上記ブレーキ加圧処理を行う。
【0098】
一方、ステップS16において否定判断された場合や、ステップS18の処理が完了した場合には、ステップS20に進み、エンジン10の再始動条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態では、エンジン10の再始動条件を、(D)ブレーキ操作がなされていないとの条件と、(E)クラッチ遮断状態であるとの条件とを含む条件とする。
【0099】
ステップS20において再始動条件が成立したと判断された場合には、ステップS22に進み、エンジン10の再始動処理を行う。そして、自動停止フラグFの値を「0」とする。
【0100】
なお、上記ステップS12、S20において否定判断された場合や、ステップS22の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0101】
ところで、燃料噴射弁12等のエンジン10の燃焼制御のためのアクチュエータや、スタータ56の駆動回路、エアコンシステム50、更にはISS−ECU68等の車載機器に関する各種異常が生じることがある。この場合、以下のような不都合が生じるおそれがある。
【0102】
例えば、スタータ56の駆動回路等の異常に起因してエンジン10を再始動させることができないと、車両の駆動力を確保することができないため、異常発生後に車両の退避走行を適切に行うことができなくなるおそれがある。また、スロットルバルブ20下流側に生じる負圧が小さくなることから、マスタバッグ40によってユーザのブレーキペダル42の操作を適切にアシストすることができず、車輪に制動力を適切に付与することができなくなるおそれがある。更に、コンプレッサ50aを駆動させることができないことから、エアコンシステム50のデフロスタ機能を利用することができなくなることがある。この場合、窓ガラスに曇りが生じるときには、窓ガラスを介したユーザの視界が制限されるおそれがある。
【0103】
特に本実施形態では、減速時IS制御を採用していることから、車両の走行中にエンジン10が自動停止されることがあるため、走行中のブレーキ操作等の車両操作に上記不都合が及ぼす影響が大きくなることが懸念される。
【0104】
このような事態を回避すべく、車載機器に異常が生じたと判断された場合、車両の駆動力を確保したり、デフロスタ機能を確保したりすること等を目的として一律にエンジン10の再始動処理を強制的に行うことも考えられる。しかしながらこの場合、異常発生後にユーザに適切な対応をとらせることが困難となるおそれがある。困難となる状況としては例えば、エンジン10が自動停止されて停車している場合において、ユーザが車両のフードを開けて点検を行う等、ユーザが車外に出ている場合にエンジン10が再始動される状況がある。
【0105】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、エンジン10の自動停止中において、車載機器のいずれに異常が生じているかを診断する異常診断処理を行い、車載機器のいずれかに異常が生じている旨診断された場合、走行時フェール処理又は停車時フェール処理を行う。これにより、車載機器に異常が生じる場合であっても、車両の走行状況に応じてユーザが適切な対応をとることを可能とする。以下、図4〜図6を用いて、本実施形態にかかる異常診断処理及び上記フェール処理について説明する。
【0106】
図4に、本実施形態にかかる車載機器の異常診断処理の手順を示す。この処理は、基本的にはISS−ECU68によって例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0107】
この一連の処理では、まずステップS30において、ISS−ECU68に異常が生じたか否かを判断する。ここでISS−ECU68に異常(ECU自身の異常や通信異常)が生じているか否かは、上述したように、ISS−ECU68と双方向通信を行うエンジンECU64によって検出される。
【0108】
続くステップS32では、乗車把握機能としてのドアスイッチ88、バックルスイッチ90及びフードスイッチ92のうち少なくとも1つに異常が生じたか否かを判断する。ここで乗車把握機能の異常診断手法としては、例えば、定電圧電源からドアスイッチ88、バックルスイッチ90及びフードスイッチ92のそれぞれに電圧を印加し、これらスイッチの通電状態の検出結果に基づき、これらスイッチのオフ故障やオン故障が検出された場合に、乗車把握機能に異常が生じた旨診断する手法を採用すればよい。
【0109】
次に、ステップS34においては、車両システムに異常が生じたか否かを判断する。ここで車両システムとは、エンジンシステムの燃焼制御のための各種アクチュエータ(燃料噴射弁12、点火プラグ14、スロットルバルブ20等)、エアコンシステム50及びブレーキシステム等を含むものである。ここで車両システムの異常診断手法としては、例えば、乗車把握機能の異常診断手法と同様の手法を採用すればよい。
【0110】
次に、ステップS36においては、始動機能に異常が生じたか否かを判断する。ここで始動機能とは、ISS−ECU68の異常診断部68bによって異常の有無が判断可能な部分(駆動リレーやスイッチング素子等)を含むものである。
【0111】
続くステップS38においては、上記ステップS30〜S36の処理において異常が生じたか否かを判断する。そして、ステップS38において肯定判断された場合には、ステップS40に進み、自動停止処理がなされているか否か(自動停止フラグFの値が「1」であるか否か)を判断する。
【0112】
ステップS40において肯定判断された場合には、ステップS42に進み、検出された異常がISS―ECU68の異常であるか否かを判断する。そして、ステップS42において肯定判断された場合には、ステップS44に進み、以降の処理を、ISS−ECU68(メインとなる制御装置)に代えて、エンジンECU64(サブとなる制御装置)において行うこととする。
【0113】
一方、上記ステップS42において否定判断された場合や、ステップS44の処理が完了した場合には、ステップS46に進み、停車中であるか否かを判断する。この処理は、車載機器に異常が生じた場合にフェールセーフ処理としていかなる処理を行うべきかを判断するためのものである。すなわち、異常が生じた場合、車両の駆動力を確保する等の目的からはエンジン10の再始動処理を速やかに行うことが望ましい一方、ユーザが乗車していない等、車両の駆動力を要求する状況ではないことも考えられる。そこで本実施形態では、停車中でないこと(車両が走行中であること)を持って原則再始動処理を行う走行時フェール処理を行う一方(ステップS50)、停車中である場合にはユーザの乗車の有無を車両の走行速度以外から判断しつつ再始動処理等を行う停車時フェール処理を行う(ステップS48)。
【0114】
なお、上記ステップS38,40において否定判断された場合や、ステップS48、S50の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0115】
図5に、上記走行時フェール処理の詳細を示す。この処理は、ISS―ECU68やエンジンECU64によって実行される。
【0116】
この一連の処理では、まずステップS60において、車載機器に生じた異常がISS―ECU68の異常であるか否かを判断する。そして、ステップS60において肯定判断された場合には、ステップS62に進み、ブレーキ操作量Sbrkに応じたブレーキ装置36による制動力を助勢するブレーキアシスト処理を開始する。この処理は、エンジン10が再始動されるまでの期間における車両制動力を確保するためのものである。つまり、エンジン10が停止されると、マスタバッグ40によってユーザのブレーキペダル42の操作を適切にアシストすることができなくなるおそれがある。このため、エンジン10の自動停止中であって且つ車両が走行中である状況下、ブレーキ操作量Sbrkに応じてブレーキアクチュエータ38によって油圧を上昇させることで、ユーザの意図するブレーキ操作を反映して車輪に制動力を付与する。
【0117】
ここでブレーキアシスト処理手法について説明すると、具体的には例えば、まず、ブレーキ操作量Sbrkに応じたブレーキ油圧よりも高い油圧に実際のブレーキ油圧を制御するためのブレーキアクチュエータ38のフィードフォワード操作量と、ブレーキ操作量Sbrkとの関係が規定されたマップを予め実験等によって作成する。そして、ブレーキ操作量Sbrkを入力として、上記マップを用いて算出されたフィードフォワード操作量に従ってブレーキアクチュエータ38を通電操作する。なお、本ステップのブレーキアシスト処理においてフィードフォワード制御を採用するのは、ISS−ECU68を介して油圧センサ46の出力値が得られなかったり、この出力値の信頼性が低下したりすることによるものである。
【0118】
一方、ステップS60において否定判断された場合には、ステップS64に進み、マスタバッグ40の負圧Pbrkを加味しつつ上記ブレーキアシスト処理を開始する。ここで本ステップにおけるブレーキアシスト処理手法について説明すると、具体的には例えば、ブレーキ操作量Sbrkに応じたブレーキ油圧よりも高い目標油圧に実際のブレーキ油圧をフィードバック制御すべく、ブレーキアクチュエータ38を通電操作する手法を採用すればよい。この際、マスタバッグ40の負圧Pbrkが小さいほど、上記目標油圧を高くすればよい。これは、マスタバッグ40の負圧が小さいと、ユーザの所定のブレーキペダルの踏み込み力に対するブレーキ操作量が小さくなり、ユーザの意図するブレーキ操作を実現することができなくなるおそれがあることから、これを補償するための設定である。なお、本ステップにおけるブレーキアシスト処理において、ブレーキ油圧及びマスタバッグ40の負圧Pbrkを用いることが可能であるのは、ISS−ECU68に異常が生じていないことによるものである。
【0119】
ステップS64の処理が完了した場合、ステップS66において、車載機器に生じた異常が車両システム異常であるか否かを判断する。そして、ステップS66において否定判断された場合には、ステップS68に進み、車載機器に生じた異常が始動機能異常であるか否かを判断する。そして、ステップS68において肯定判断された場合には、ステップS70において、エンジン10を再始動させるための始動代替設定処理を行う。ここで本実施形態では、始動代替設定処理として、スタータ56の始動に際して、SL1駆動リレー70a及びSL2駆動リレー72aに代えて、SL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bを用いる設定変更処理を行う。この処理は、異常診断部68bの診断結果に基づきスイッチング素子74a,74cや、SL1駆動リレー70a、SL2駆動リレー72a等に異常が生じたと判断された場合、これら駆動リレーを迂回可能な電気経路を用いてスタータ56を駆動させるためのものである。
【0120】
一方、上記ステップS66において肯定判断された場合には、ステップS72に進み、点火プラグ14、燃料噴射弁12及びスロットルバルブ20のいずれかに異常が生じていないか否かを判断する。この処理は、エンジン10を適切に再始動させることができなかったり、再始動させることはできるもののその後エンジン10を適切に運転することができなかったりすることが予め把握された場合、強制的な再始動処理を制限するためのものである。
【0121】
ステップS72において肯定判断された場合には、ステップS74に進み、DCDCコンバータ62に異常が生じているか否かを判断する。この処理は、強制的な再始動処理を制限すべきか否かを判断するためのものである。ここで上記再始動処理を制限する必要があるのは、以下の理由によるものである。
【0122】
DCDCコンバータ62に異常が生じると、バッテリ60の電圧を適切に昇圧することができなくなることがある。このような状況下、車両の走行中にエンジン10を再始動させるべくスタータ56が駆動されると、バッテリ60の電圧が低下し、リセット処理が行われることがある。この場合、ブレーキアクチュエータ38によるブレーキアシスト処理を適切に行うことができなかったり、パワーステアリング装置52によってユーザのハンドル操作を適切にアシストすることができなかったりするおそれがある。このため、上記再始動処理を制限するか否かを判断する。
【0123】
ステップS74において肯定判断された場合には、ステップS76に進み、車両の走行速度Vが、上記第1の規定速度V1よりも低くて且つ0よりも高い第2の規定速度V2(例えば7km/h)未満であるとの条件と、ブレーキ操作がなされていないとの条件との論理和が真であるか否かを判断する。この処理は、DCDCコンバータ62に異常が生じた場合であっても、強制的な再始動処理の制限の解除が可能か否かを判断するためのものである。これは、車両の走行速度Vが低い場合や、ブレーキ操作がなされなくなることによってユーザの発車意思が把握できる場合には、リセット処理が車両操作に及ぼす影響が小さいと考えられることに基づくものである。
【0124】
ここで、ステップS78に移行する時点では、再始動処理を行う上で制約となり得る状況(ステップS72、S76において否定判断される状況)にはないと判断されている。このため、車両の走行中であることを持ってユーザが乗車していると判断し、エンジン10の再始動処理を強制的に行う。
【0125】
続くステップS80では、エンジン10の再始動が完了したか否かを判断する。ここでエンジン10の再始動が完了したか否かは、例えば、クランク角度センサ18の出力値に基づくエンジン回転速度が、エンジン10の自立運転が可能な所定速度以上になるか否かで判断すればよい。
【0126】
ステップS80においてエンジン10の再始動が完了したと判断された場合には、ステップS82に進み、ブレーキアシスト処理を停止させる。これは、エンジン10の運転が再開されたことから、マスタバッグ40によってブレーキ操作をアシストすることが可能となることに鑑みたものである。
【0127】
一方、上記ステップS80において否定判断された場合には、エンジン10の再始動が失敗したと判断し、ステップS84においてブレーキ操作に注意しつつ車両を退避走行させる旨をユーザに報知する報知処理を行う。この処理は、車載機器の異常発生後にユーザに適切な対応をとらせるためのものである。つまり、エンジン10が停止されると、マスタバッグ40によってユーザによるブレーキペダル42の操作を適切に助勢することができなくなるおそれがある。この場合、例えばユーザがポンピングブレーキ操作を行うと、マスタバッグ40の負圧を確保できず、車輪に制動力を適切に付与することができなくなるおそれがある。このため、上記態様の報知処理を行うことで、異常発生後にユーザに適切な対応をとらせる。ここで上記報知処理による報知態様としては、具体的には例えば、ポンピングブレーキ操作を行わずに車両を路肩等の安全な場所に退避させる旨を、ナビゲーションシステム54の表示部に表示させて視覚的に報知したり、ナビゲーションシステム54の音声によって聴覚的に報知したりすればよい。
【0128】
なお、上記ステップS72、S76において否定判断された場合や、ステップS82、S84の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。ちなみに、上記ステップS60、S62の処理や、これに続くステップS78〜S84の処理は、エンジンECU64によって行われ、それ以外の処理は、ISS―ECU68によって行われる。
【0129】
図6に、上記停車時フェール処理の手順を示す。この処理は、ISS―ECU68やエンジンECU64によって実行される。
【0130】
この一連の処理では、まずステップS90において、車載機器に生じた異常が始動機能異常であるか否かを判断する。そしてステップS90において肯定判断された場合には、ステップS92に進み、意図しないスタータ56の駆動があるか否かを判断する。この処理は、スタータ56の始動要求がないにもかかわらず、何らかの要因でスタータ56の始動要求がなされる異常の発生を把握するためのものである。
【0131】
ステップS92において肯定判断された場合には、ステップS94に進み、変速装置非係合処理を行う。この処理は、クランク軸16と駆動輪32との間を動力遮断状態とすべく変速アクチュエータ24cを通電操作する処理であり、スタータ56の意図しない駆動時における車両の力行を回避するためのものである。
【0132】
一方、上記ステップS90、S92において否定判断された場合には、ステップS96〜S104において、ユーザの乗車の有無等を確認する処理を行う。すなわち、ステップS90において否定判断された場合、まず、ステップS96、S98において車載機器に生じた異常が乗車把握機能異常、車両システム異常であるか否かを判断する。
【0133】
ステップS96、S98において、車載機器に生じた異常が、乗車把握機能異常でないが、車両システム異常であると判断された場合には、ステップS100に進み、ユーザが乗車しているとの条件と、クランク軸16と駆動輪32との間が動力遮断状態であるとの条件との論理積が真であるか否かを判断する。この処理は、始動機能異常がある場合や車両システム異常がある場合に、車両にユーザが乗車していることを確かめ、強制的な再始動処理を行うためのものである。ここでユーザが乗車しているか否かは、ドアスイッチ88の出力値に基づきドアが閉状態にあるとの条件、バックルスイッチ90の出力値に基づきシートベルトが装着されているとの条件、及びフードスイッチ92の出力値に基づきフードが閉状態にあるとの条件の論理積が真であるか否かに基づき判断すればよい。
【0134】
また、上記動力遮断状態である旨の条件は、エンジン10の再始動に伴うエンジンストールやユーザの意図しない発車を回避するためのものである。つまり、エンジン10の再始動時に動力伝達状態とされていると、スタータ56の駆動力が車両の力行に用いられることに起因して、エンジンストールが生じたり、発車したりするおそれがある。このため、上記条件を設けることで、エンジンストールやユーザの意図しない発車を回避する。なお、動力遮断状態であるか否かは、シフト位置がニュートラルにされているとの条件と、クラッチ遮断状態であるとの条件との論理和が真であるか否かで判断すればよい。
【0135】
一方、上記ステップS98において否定判断された場合には、車載機器に生じた異常がISS−ECU68の異常であると判断し、ステップS102において、ユーザのアクセル操作がなされているとの条件と、上記動力遮断状態であるとの条件との論理積が真であるか否かを判断する。この処理は、ISS―ECU68に異常が生じた場合に、車両にユーザが乗車していることを確かめ、強制的な再始動処理を行うためのものである。
【0136】
ここで上記アクセル操作についての条件は、ユーザにエンジン10を再始動させる意思があるか否かを把握するためのものである。つまり、ISS−ECU68に異常が生じていることから、ドアスイッチ88、バックルスイッチ90及びフードスイッチ92の出力値の信頼性が低下し、これら出力値に基づきユーザが乗車しているか否かを適切に把握することができなくなるおそれがある。ここでアクセル操作がなされている場合には、ユーザが乗車してエンジン10を再始動させる意思を示していると考えられるため、再始動処理を行ってもよいと考えられる。なお、アクセル操作がなされているか否かは、例えばアクセルセンサ80の出力値に基づくアクセル操作量が0よりも大きいか否かで判断すればよい。
【0137】
これに対し、上記ステップS96において肯定判断された場合には、ステップS104に進み、クラッチ操作がなされているとの条件と、上記動力遮断状態であるとの条件との論理積が真であるか否かを判断する。この処理は、乗車把握機能に異常が生じた場合に、再始動処理の制限を解除すべきか否かを判断するためのものである。ここで、クラッチ操作についての条件は、ユーザが乗車していることを把握するためのものである。つまり、乗車把握機能に異常が生じた場合であっても、クラッチ操作がなされているときは、ユーザが乗車している蓋然性が高いと考えられる。ここでクラッチ操作がなされているか否かは、クラッチ操作量が0%よりも大きいか否かで判断すればよい。なお、上記動力遮断状態であるとの条件は、上述したように、エンジンストール等の発生を回避するための条件である。
【0138】
上記ステップS100、S102、S104において肯定判断された場合には、ステップS106に進み、強制的な再始動処理を行う。ステップS106の処理の完了後、続くステップS108では、エンジン10の再始動が完了したか否かを判断する。そして、エンジン10の再始動が完了したと判断された場合には、ステップS110に進み、ブレーキ加圧処理を停止させる。なお、ブレーキアシスト処理が行われている場合には、この処理も停止させる。
【0139】
一方、上記ステップS102、S104、S108において否定判断された場合には、ステップS112において、イグニッションキー58の操作によってエンジン10を始動させるようユーザに促す報知処理と、変速装置係合処理とを行う。ここで報知処理をステップS108において否定判断された場合に行うのは、エンジン10の強制的な再始動が失敗した後、エンジン10が停止した状態が継続されると、ユーザに違和感を与えるおそれがあるため、これを回避するためである。また、上記報知処理をステップS102、S104において否定判断された場合に行うのは、ユーザにエンジン10を再始動させる意思がない場合や、スタータ56の駆動力が車両の力行に用いられるおそれのある場合に、ユーザにその後の対応を適切にとらせるためである。
【0140】
また、上記変速装置係合処理は、クランク軸16と駆動輪32との間を動力伝達状態とすべく変速アクチュエータ24cを通電操作するものである。この処理は、坂道で停車する状況下において、エンジン10の再始動が失敗する場合等であっても、ユーザの意図しない車両の後退又は進行を抑制するためのものである。なお、変速装置係合処理手法としては、具体的には例えば、上り坂で停車する場合、MT24の変速比を最も小さい前進レンジ(1速)とし、下り坂で停車する場合、上記変速比を後退レンジ(R)とすべく変速アクチュエータ24cを通電操作すればよい。
【0141】
ちなみに、上記報知処理を、上記ステップS102、S104、S108において否定判断された後に行うことに代えて、エンジンECU64によってISS−ECU68に異常が生じた旨判断されたり、ISS−ECU68等によって始動機能異常が生じた旨判断されたりする時点で行ってもよい。これにより、イグニッションキー58の操作によって始動させる旨をより早期にユーザに報知することが可能となる。また、上記報知処理の後、イグニッションキー58の操作によるエンジン10の再始動が完了したと判断された場合、ブレーキ加圧処理やブレーキアシスト処理を停止させればよい。この場合、ISS−ECU68に異常が生じた旨判断された時点を、エンジン10の再始動が失敗した旨判断された時点とする。
【0142】
なお、上記ステップS100において否定判断された場合や、ステップS94、S110、S112の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0143】
ちなみに、上記停車時フェール処理によってエンジン10の再始動が完了すると判断されるまでは、ブレーキ加圧処理を継続する。これにより、上り坂(下り坂)で車両の発進時に車両の後退(進行)を防止する機能(ヒルホールド機能)を維持することが可能となる。
【0144】
また、上記走行時フェール処理や停車時フェール処理によってエンジン10の再始動が完了したと判断された後は、例えば車両が修理工場において修理されるまで、エンジン10の自動停止処理を禁止するのが望ましい。
【0145】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0146】
(1)エンジン10の自動停止中において、ISS−ECU68、乗車把握機能、車両システム機能及び始動機能のうちいずれかに異常が生じたと判断されて且つ車両が走行中であると判断された場合、エンジン10の再始動処理を強制的に行った。これにより、車両の駆動力等を確保することができ、ひいては退避走行を適切に行うことができる等、異常発生後にユーザが適切な対応をとることが可能となる。
【0147】
(2)エンジン10の自動停止中であって且つ車両の走行中にDCDCコンバータ62に異常が生じたと判断された場合、強制的な再始動処理を制限した。これにより、リセット処理が行われることに起因して、ブレーキアシスト処理等を適切に行うことができなくなる事態の発生を回避することができる。
【0148】
ここで車両の走行速度Vが第2の規定速度V2未満になると判断された場合、又はブレーキ操作がなされていないと判断された場合、強制的な再始動処理の制限を解除した。これにより、車両の駆動力を極力早期に確保することができる。
【0149】
(3)エンジン10の自動停止中において、ISS−ECU68に異常が生じたと判断されて且つ車両が走行中であると判断された場合、その後の処理をエンジンECU64に代替させる処理を行った。これにより、ISS−ECU68に異常が生じる場合であってもスタータ56を駆動させることができ、再始動処理を行うことができる。
【0150】
(4)スタータ56の駆動回路のSL1駆動リレー70a等に異常が生じたと判断された場合、SL1バックアップリレー70b及びSL2バックアップリレー72bを用いて再始動処理を強制的に行った。これにより、上記駆動回路等に異常が生じる場合であってもスタータ56を駆動させることができ、再始動処理を行うことができる。
【0151】
(5)エンジン10の自動停止中において、車両システム及び始動機能のうち少なくとも1つに異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、バックルスイッチ90等の出力値に基づきユーザが乗車していると把握された場合、再始動処理を強制的に行った。これにより、その後ユーザが適切な対応をとることが可能となる。
【0152】
(6)エンジン10の自動停止中において、意図しないスタータ56の駆動が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、クランク軸16と駆動輪32との間を動力遮断状態とすべく変速アクチュエータ24cを通電操作する変速装置非係合処理を行った。このため、スタータ56の駆動力が車両の力行に用いられることを適切に回避することができる。
【0153】
(7)エンジン10の自動停止中において、ISS−ECU68に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、強制的な再始動処理を制限した。これにより、その後ユーザに適切な対応をとらせることができる。
【0154】
ここで、アクセル操作がなされていると判断された場合、強制的な再始動処理の制限を解除した。これにより、車両の駆動力等を極力早期に確保することができる。
【0155】
(8)エンジン10の強制的な再始動が失敗して且つ車両が走行中であると判断された場合、ブレーキ操作部材の操作に注意すべき旨をユーザに報知する報知処理を行った。これにより、車両の退避走行をユーザに適切に行わせることができる。
【0156】
(9)エンジン10の強制的な再始動が失敗して且つ停車中であると判断された場合、イグニッションキー58の操作によってエンジン10を始動すべき旨をユーザに報知する報知処理を行った。これにより、ユーザに違和感を与える事態の発生を回避しつつ、エンジン10の始動操作をユーザに適切に行わせることができる。
【0157】
(10)エンジン10の自動停止中において、乗車把握機能に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、クラッチ装置22及びMT24のうち少なくとも1つによってクランク軸16と駆動輪32との間が動力遮断状態であると判断されることを条件として、強制的な再始動処理の制限を解除した。これにより、エンジン10の再始動に伴ってエンジン10の駆動力が車両の力行に用いられることに起因して、エンジンストールやユーザの意図しない発車の発生を適切に回避することができる。
【0158】
(11)停車中であって且つエンジン10の自動停止中において車輪に強制的に制動力を付与するブレーキ加圧処理を行い、エンジン10の再始動が完了したと判断されるまでブレーキ加圧処理を継続させた。これにより、車両が坂道に位置する状況下において、ユーザが意図しない車両の後退や進行の発生を回避することができる。
【0159】
そしてその後、エンジン10の再始動が完了したと判断された場合、ブレーキ加圧処理を停止させた。これにより、適切なタイミングで上記処理を停止させることができる。
【0160】
(12)エンジン10の再始動が失敗したと判断されて且つ停車中であると判断された場合、クランク軸16と駆動輪32との間を動力伝達状態とすべく、変速アクチュエータ24cを通電操作する変速装置係合処理を行った。これにより、坂道で停車する状況下において、エンジン10の再始動が失敗する場合であっても、ユーザの意図しない車両の後退又は進行を回避することができる。
【0161】
(13)エンジン10の自動停止中において車両が走行中であると判断された場合、ブレーキ操作量に応じたブレーキ装置36による制動力をアシストするブレーキアシスト処理を行った。これにより、ユーザの想定するブレーキ操作を極力実現することができる。
【0162】
(14)車輪速センサ34の検出値の信頼性が高いか否かを判断する信頼性判断処理を行い、この処理によって信頼性が高いと判断された上記検出値を用いて車両が走行中であるか否かを判断した。これにより、車両が走行中であるか否かに応じたフェールセーフ処理を適切に行うことができる。
【0163】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0164】
・車輪速センサ34の検出値の信頼性が高いか否かを判断する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、所定時間継続して車輪速センサ34の検出値がその上下限値になると判断された場合、車輪速センサ34の検出値の信頼性が低いと判断してもよい。これは、車輪速センサ34の検出値が継続してその上下限値となる場合、車輪速センサ34に異常が生じていたり、車輪速センサ34とエンジンECU64とを接続する電気経路が断線していたりする等の異常が生じていると考えられることに基づくものである。
【0165】
・変速装置としては、手動変速装置に限らず、自動変速装置であってもよい。この場合、エンジン10の停止条件及び再始動条件から「クラッチ遮断状態であるとの条件」を除けばよい。またこの場合、先の図6のステップS100、S102、S104の条件から、「上記動力遮断状態であるとの条件」を除けばよい。
【0166】
・ISS−ECU68に異常が生じる状況下におけるブレーキアシスト処理手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、油圧センサ46の出力値がエンジンECU64に入力される場合、油圧センサ46の出力値に基づくフィードバッグ制御を行ってもよい。更に、負圧センサ48の出力値もエンジンECU64に入力される場合、マスタバッグ40の負圧を加味したブレーキアシスト処理を行ってもよい。
【0167】
・上記実施形態では、ユーザにエンジン10を再始動させる意思があるか否かを、ブレーキ操作がなされていないか否かで判断したがこれに限らない(先の図5のステップS76)。例えば、アクセル操作がなされたと判断されたり、シフト位置が非駆動状態から駆動状態に切り替えられたと判断されたりする場合、再始動させる意思があると判断してもよい。
【0168】
・ユーザが乗車しているか否かを把握する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、バックルスイッチ90の出力値に基づきシートベルトが装着されていると判断された場合、ユーザが乗車していると判断してもよい。
【0169】
・上記実施形態では、ナビゲーションシステム54を用いて報知処理を行ったがこれに限らない。例えば警告灯を用いて報知処理を行ってもよい。この場合、「点灯」「点滅」を使い分けたり、点滅の時間間隔を変更したりすることで、警告灯によって種々の報知態様を実現すればよい。
【0170】
・サブとなる制御装置としては、エンジンECU64に限らず、例えばエンジンECU64以外の他の車載ECUであってもよい。
【0171】
・SL1駆動リレー70a及びSL2駆動リレー72aのそれぞれに並列接続されるバックアップリレーとしては1つに限らず、例えば2つ以上であってもよい。
【0172】
・上記実施形態では、エンジン10の再始動が完了したと判断されるまでブレーキ加圧処理によって強制的に制動力を付与したがこれに限らない。例えば、エンジン10の再始動が完了したと判断された後、アクセル操作がなされたと判断されるまで上記強制的な制動力の付与を継続させてもよい。
【0173】
・乗車把握機能異常が生じる状況下、クラッチ操作に基づきユーザが乗車しているか否かを判断する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、先の図6のステップS104における条件を、クラッチ遮断状態であるとの条件としてもよい。この場合、クラッチ操作のみに関する条件によって、ユーザの乗車と、上記動力遮断状態との双方を把握することが可能となる。
【0174】
・停車中であるか否かの判断手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、車両の走行速度Vが0よりも高い閾値速度(例えば3km/h等の極低速度)未満であると判断された場合、停車中であると判断し、車両の走行速度Vが上記閾値速度以上であると判断された場合、車両が走行中であると判断してもよい。この場合、車両の走行速度Vが極低速度となる場合にブレーキ加圧処理によって車輪に強制的に制動力が付与され得るが、これによってユーザに与える違和感は小さいと考えられる。
【0175】
・上記実施形態では、走行時又は停車時フェール処理において、強制的な再始動処理と、ブレーキ装置36による制動力の付与を助勢する処理との双方を行う制御ロジックとしたがこれに限らない。例えば、これら処理のうち一方を行う制御ロジックとしてもよい。ここで例えば、強制的な再始動処理のみを行う制御ロジックとする場合であっても、エンジン10の再始動が失敗したと判断されるときに、変速装置係合処理を行うなら、ユーザの意図しない車両の後退又は進行を回避することができる。
【0176】
・DCDCコンバータ62から電力が供給される車載機器としては、先の図1に示したエンジンECU64及びISS−ECU68に限らない。例えば、車両の走行制御にかかわる他の車載機器(例えばブレーキECU)や、車両の走行をアシストする車載機器(例えば、パワーステアリング装置52や、方向指示器、外部との情報通信制御を行うナビゲーションシステム54の備えるECU)であってもよい。こうした場合であっても、電力供給に際してバッテリ電圧の低下の影響をDCDCコンバータ62によって抑制できない状況下にあっては、走行を適切に制御したり、適切にアシストしたりすることができなくなるおそれがあるため、強制的な再始動処理を制限することは有効である。
【0177】
・エンジン10の再始動条件としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、ブレーキ操作に代えて、アクセル操作がなされるとの条件を含む条件としてもよい。
【0178】
・エンジン10としては、火花点火式のものに限らず、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式のものであってもよい。
【符号の説明】
【0179】
10…エンジン、16…クランク軸、20…スロットルバルブ、22…クラッチ装置、24…MT、32…駆動輪、36…ブレーキ装置、38…ブレーキアクチュエータ、40…マスタバッグ、42…ブレーキペダル、50…エアコンシステム、56…スタータ、60…バッテリ、62…DCDCコンバータ、64…エンジンECU、68…ISS−ECU(64,68:車両用制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行速度が0よりも高い規定速度以下になるとの条件を含む所定の停止条件が成立した場合に車載エンジンの自動停止処理を行い、該自動停止処理の後、所定の再始動条件が成立した場合に前記エンジンの再始動処理を行う制御手段と、車輪に制動力を付与すべく操作されるブレーキ装置と、前記車両の操作にかかわる複数の車載機器とを備える車両に適用され、
前記車載機器に異常が生じているか否かを判断する異常判断手段と、
前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断された場合、強制的な前記再始動処理と、前記ブレーキ装置による前記制動力の付与を助勢する処理とのうち少なくとも1つを行うフェールセーフ手段とを備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つユーザが乗車していると判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記車両が走行中であると判断されることをもって前記ユーザが乗車していると判断することを特徴とする請求項2記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段に異常が生じたと判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項3記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記車載機器には、車載バッテリを電力供給源として且つ前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータと、前記バッテリの電圧を昇圧して出力するコンバータとが含まれ、
当該制御装置は、前記コンバータから出力される電力によって駆動されて且つ、該コンバータの出力電圧が規定電圧以下となる場合にリセット処理が行われるものであり、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記コンバータに異常が生じたと判断された場合、前記強制的な再始動処理を制限する制限手段を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記制限手段は、前記車両の走行速度が、前記規定速度よりも低い解除用速度未満になると判断されることを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする請求項5記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記車両には、該車両の加減速を指示すべくユーザによって操作される操作部材が備えられ、
前記操作部材の操作状態に基づき、ユーザに前記エンジンを再始動させる意思があるか否かを判断する意思判断手段を更に備え、
前記制限手段は、前記意思判断手段によって前記再始動させる意思があると判断されたことを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする請求項5又は6記載の車両用制御装置。
【請求項8】
前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、
前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、
前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断された場合、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項9】
前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、
前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、
前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、
前記スタータは、当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれに対応する電気経路を介して当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれによって駆動可能とされるものであり、
前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記スタータの駆動制御を行う前記メインとなる制御装置に対応する電気経路に異常が生じたと判断された場合、前記サブとなる制御装置に対応する電気経路を介して前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項10】
前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、
前記スタータは、複数の電気経路のいずれかを介して当該制御装置によって駆動可能とされるものであり、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記電気経路に異常が生じたと判断された場合、該異常が生じた電気経路以外の電気経路によって前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項11】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段以外の前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記乗車把握手段によってユーザが乗車していると把握されることを条件として、前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項2〜10のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項12】
前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、
前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、
前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、
前記スタータは、当該メイン及びサブとなる制御装置のそれぞれによって駆動可能とされるものであり、
前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記スタータの駆動制御を行う前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記スタータを駆動させることで前記再始動処理を強制的に行うことを特徴とする請求項11記載の車両用制御装置。
【請求項13】
前記フェールセーフ手段は、互いに通信する複数の制御装置に搭載されるものであり、
前記複数の制御装置は、前記強制的な再始動処理に関してメインとなる制御装置と、サブとなる制御装置とを備え、
前記サブとなる制御装置は、前記異常判断手段によって前記メインとなる制御装置に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記強制的な再始動処理を制限する制限手段を備えることを特徴とする請求項11又は12記載の車両用制御装置。
【請求項14】
前記車両には、該車両の加減速を指示すべくユーザによって操作される操作部材が備えられ、
前記操作部材の操作状態に基づき、ユーザに前記再始動させる意思があるか否かを判断する意思判断手段を更に備え、
前記制限手段は、前記意思判断手段によって前記再始動させる意思があると判断されたことを、前記強制的な再始動処理の制限を解除する条件とすることを特徴とする請求項13記載の車両用制御装置。
【請求項15】
前記車両には、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させる変速装置が備えられ、
前記車載機器には、前記エンジンの出力軸に初期回転を付与するスタータが含まれ、
前記フェールセーフ手段は、前記スタータが意図せず駆動状態となる異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記出力軸と前記駆動輪との間を動力遮断状態とすべく前記変速装置を操作することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項16】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザのブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置とが備えられ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段と、
前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記ブレーキ操作部材の操作に注意すべき旨をユーザに報知する報知手段とを更に備えることを特徴とする請求項2〜15のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項17】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段と、
前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断されて且つ停車中であると判断された場合、イグニッションキーの操作によって前記エンジンを始動すべき旨をユーザに報知する報知手段とを更に備えることを特徴とする請求項2〜16のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項18】
前記エンジンの強制的な再始動が失敗する旨判断される時点とは、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じた旨判断される時点であることを特徴とする請求項17記載の車両用制御装置。
【請求項19】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させるべくユーザによって操作されるクラッチ及び手動変速装置とが備えられ、
前記車載機器には、ユーザが乗車しているか否かを把握する乗車把握手段が含まれ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記乗車把握手段に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記クラッチの操作がなされていると判断されることを条件として、前記強制的な前記再始動処理を行うことを特徴とする請求項2〜18のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項20】
前記車両には、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させるべくユーザによって操作されるクラッチ及び手動変速装置が備えられ、
前記フェールセーフ手段は、前記クラッチ及び前記手動変速装置のうち少なくとも1つによって前記出力軸と前記駆動輪との間が遮断されていると判断された場合、前記強制的な前記再始動処理を行うことを特徴とする請求項2〜19のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項21】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段と、前記エンジンの出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させる変速装置とが備えられ、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの再始動が失敗する旨判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記出力軸と前記駆動輪との間を動力伝達状態とすべく、前記変速装置を操作することを特徴とする請求項2〜20のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項22】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記ブレーキ装置は、ユーザのブレーキ操作部材の操作又は電動式のアクチュエータの通電操作によって前記車輪に制動力を付与するものであり、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度未満になることをもって、停車中であると判断する停車判断手段と、
前記エンジンの自動停止中において前記車輪に強制的に制動力を付与すべく、前記アクチュエータを通電操作する強制制動力付与手段とを更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ停車中であると判断された場合、前記エンジンの再始動が完了したと判断されるまで前記強制制動力付与手段による強制的な制動力の付与を継続させることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項23】
前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの再始動が完了したと判断された場合、前記強制制動力付与手段による強制的な制動力の付与を停止させることを特徴とする請求項22記載の車両用制御装置。
【請求項24】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記ブレーキ装置は、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザの前記ブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置を備えるものであり、
前記車両の走行速度の検出値が0よりも高い閾値速度以上になることをもって、前記車両が走行中であると判断する走行判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記エンジンの自動停止中において、前記異常判断手段によって前記車載機器に異常が生じたと判断されて且つ前記車両が走行中であると判断された場合、前記ブレーキ操作部材の操作に応じた前記ブレーキ装置による制動力を助勢すべく前記アクチュエータを通電操作することを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項25】
前記車載機器には、前記エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射弁を含む該エンジンの燃焼制御のためのアクチュエータと、前記エンジンの吸気通路上に設けられた吸気絞り弁の下流側の負圧を利用してユーザのブレーキ操作部材の操作を助勢する制動倍力装置と、前記エンジンを動力供給源として前記車両の窓ガラスの曇りを除去する空調装置とのうち少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項26】
前記車両には、該車両の走行速度を検出する速度検出手段が備えられ、
前記速度検出手段の検出値の信頼性が高いか否かを判断する信頼性判断手段を更に備え、
前記フェールセーフ手段は、前記信頼性判断手段によって信頼性が高いと判断された前記速度検出手段の検出値を用いて前記車両が走行中であるか否かを判断することを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122459(P2012−122459A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276077(P2010−276077)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】