車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る車両用動力伝達装置において、作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する。
【解決手段】含泡量推定マップから作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度(エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2)に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数(カウントアップ)されることで作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る動力伝達装置10において、自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機10の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。
【解決手段】含泡量推定マップから作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度(エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2)に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数(カウントアップ)されることで作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る動力伝達装置10において、自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機10の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに動力伝達可能に連結されて差動状態が電気的に制御される差動機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排により変速が実行される自動変速機と、差動機構の出力軸に自動変速機を介して動力伝達可能に連結される電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、作動油内のエアー混入に対処する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有してその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、その電気式変速機構の出力軸に変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置が良く知られている。また、上記変速機としては、例えば油圧制御回路によって油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることにより変速が実行されて、所定の変速段が成立させられる自動変速機が良く知られている。
【0003】
一方、例えば上記自動変速機を含む車両用動力伝達装置を構成する回転メンバ(回転部材、回転要素)による攪拌等により油圧制御回路における作動油にエアーが混入する場合がある。作動油にエアーが混入した状態で変速を実行すると、例えば係合側の油圧式摩擦係合装置を係合に向けて制御する為の所望の係合過渡油圧が得られず、変速ショックの増大を招く可能性がある。このようなエアーの混入に対して、例えば特許文献1には、油圧式摩擦係合装置を含んだ回転メンバの回転速度と油圧式摩擦係合装置が解放状態に放置された継続時間とに基づいて作動油内のエアー混入進行度合いを判定し、その混入進行度合いが所定値以上となった場合に解放側の油圧式摩擦係合装置に対してピストンがストロークしない範囲で油圧を供給することにより作動油に混入したエアーを排出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−276796号公報
【特許文献2】特開2002−235848号公報
【特許文献3】特開2004−144233号公報
【特許文献4】特開2000−97326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記電気式変速機構の出力軸に変速機を介して走行用電動機が備えられるような構成の車両用動力伝達装置の場合、作動油にエアーを混入させる要因すなわち作動油の泡立ち(攪拌)に影響する要因であるエンジンの回転駆動と走行用電動機の回転駆動とが各々独立して制御されており、例えばそれら各制御の組み合わせにより作動油の攪拌状態が異なる為、見方を換えればエンジン回転速度や走行用電動機回転速度の各々の回転速度とエアー混入への寄与度とが異なる為、ある1つの回転メンバの回転速度からでは、エアーの混入進行度合いを適確に推定(判定)することができない可能性がある。また、例えばエアーの混入進行度合いを適確に推定できないと、エアーの混入に対して適切な処置を実行することができない可能性がある。尚、このような課題は未公知である。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る車両用動力伝達装置において、自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように、作動油内のエア混入進行度合を適確に算出することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有してその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる自動変速機と、その電気式変速機構の出力軸にその自動変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 回転速度が独立に制御可能であり且つ前記作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて単位時間当たりのその作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係を備え、(c) 前記関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて前記単位時間当たりのエア混入度合を逐次算出し、(d) そのエア混入度合を計数することで前記作動油内のエア混入進行度合を逐次算出することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてその単位時間当たりのエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る車両用動力伝達装置において、自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合(すなわちエア含泡具合)を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。尚、前記電気式変速機構は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0009】
ここで、好適には、前記逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合に応じて作動油からエアを排出しやすくしたり、変速ショックの増大を抑制することが可能になる。
【0010】
また、好適には、前記自動変速機は、最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線に従って前記油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることによりその最適な変速段が成立させられるものであり、前記最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線のうちの少なくともアップシフト線を、そのアップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更することにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機がアップシフトされ易くなり、その自動変速機のアップシフトによる走行用電動機の回転速度の低下により作動油の攪拌が減少させられて作動油からエアを排出し易くなる。つまり、変速ショックが悪化する前に早めにアップシフトさせることができ、実際のアップシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0011】
また、好適には、前記自動変速機は、前記油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構であり、エア混入による前記係合側の油圧式摩擦係合装置の油圧の上昇遅れを補償するように前記解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、変速過渡過程における解放側油圧の低下が遅延され易くなり、変速過渡過程における走行用電動機の回転速度の上昇(吹き)を抑制し易くなる。つまり、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合であっても、実際の変速時の変速ショックが適切に抑制される。
【0012】
また、好適には、前記2つの回転部材は、前記エンジンにより回転駆動される前記差動機構の回転部材、及び前記走行用電動機により回転駆動される前記自動変速機の回転部材である。このようにすれば、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が適切に備えられ、その関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0013】
また、好適には、前記2つの回転部材の各々の回転速度は、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度である。このようにすれば、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が適切に備えられ、その関係から前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0014】
また、好適には、前記エア混入度合を算出する為の予め設定された関係は、前記エンジンの回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定され、前記走行用電動機の回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定されていることにある。このようにすれば、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が一層適切に備えられる。
【0015】
また、好適には、前記自動変速機は、例えば複数組の遊星歯車装置の回転部材が油圧式摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進2段、前進3段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この油圧式摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合作動させる為の作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源であるエンジンにより回転駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、エンジンとは別に配設された専用の電動モータなどで回転駆動されるものでも良い。
【0016】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えば電磁弁装置としてのリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接的に油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブ(変速制御弁)を制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。また、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0017】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素(回転部材)と前記差動用電動機に連結された第2回転要素(回転部材)と前記出力軸に連結された第3回転要素(回転部材)との3つの回転要素(回転部材)を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0018】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0019】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置の車両に対する搭載姿勢は、駆動装置の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、駆動装置の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0020】
また、好適には、前記エンジンと前記差動機構とは作動的に連結されればよく、例えばエンジンと差動機構との間には、脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)、直結クラッチ、ダンパー付直結クラッチ、或いは流体伝動装置などが介在させられるものであってもよいが、エンジンと差動機構とが常時連結されたものであってもよい。また、流体伝動装置としては、ロックアップクラッチ付トルクコンバータやフルードカップリングなどが用いられる。
【0021】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が広く用いられる。さらに、補助的な走行用の駆動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両を説明する図である。
【図2】車両用動力伝達装置に備えられた動力分配機構における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
【図3】車両用動力伝達装置に備えられた自動変速機を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素の相互関係を表す共線図である。
【図4】第1ブレーキ及び第2ブレーキの係合解放によって自動変速機の変速を制御する為の油圧制御回路である。
【図5】非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型の第1リニヤソレノイド弁の弁特性を示す図である。
【図6】非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型の第2リニヤソレノイド弁の弁特性を示す図である。
【図7】油圧制御回路の作動を説明する図表である。
【図8】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図9】エンジンの燃費マップであって、破線は運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジンの最適燃費率曲線である。
【図10】自動変速機の変速制御において用いられる変速線図である。
【図11】第2電動機回転速度に対する作動油含泡率の一例を示す図である。
【図12】エンジン回転速度に対する作動油含泡率の一例を示す図である。
【図13】エンジン回転速度及び第2電動機回転速度に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係(含泡量推定マップ)である。
【図14】作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合に用いられる変速線図である。
【図15】電子制御装置の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図16】図15のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図17】電子制御装置の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図15のフローチャートに相当する別の実施例である。
【図18】図17のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両(以下、車両)8を説明する図である。この図1に示す車両8は、主動力源としてのエンジン12から出力される動力を第1電動機MG1と伝達部材としての出力軸14とに分配する動力分配機構16と、出力軸14に自動変速機18を介して作動的に(動力伝達可能に)連結された走行用電動機としての第2電動機MG2とを有する車両用動力伝達装置(以下、動力伝達装置)10を備えて構成されている。この動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、エンジン12、第2電動機MG2等から出力されるトルクが出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置20を介して左右一対の後輪(駆動輪)22にトルクが伝達されるようになっている。尚、動力伝達装置10は、その中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの半分を省略して示している。
【0025】
動力伝達装置10では、第2電動機MG2から出力軸14へ伝達されるトルクが自動変速機18において設定される変速比γs(=MG2の回転速度NMG2/出力軸14の回転速度NOUT)に応じて増減されるようになっている。この自動変速機18は、変速比γsが「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2電動機MG2から出力トルクTMG2を出力する力行時にはそのMG2トルクTMG2を増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2電動機MG2を一層低容量若しくは小型に構成することができる。これにより、例えば高車速に伴って出力軸14の回転速度が増大した場合には、第2電動機MG2の運転効率を良好な状態に維持する為に、自動変速機18の変速比γsを小さくする(ハイギヤ比側にする)ことで第2電動機MG2の回転速度(第2電動機回転速度)NMG2が低下させられる。また、出力軸14の回転速度が低下した場合には、自動変速機18の変速比γsを大きくする(ローギヤ比側にする)ことで第2電動機回転速度NMG2が適宜増大させられる。
【0026】
エンジン12は、車両8の主動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関である。また、車両8には、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置150が備えられており、エンジン12は、電子制御装置150が有するエンジン制御用電子制御装置(E−ECU)によって、スロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が電気的に制御されるように構成されている。また、上記エンジン制御用電子制御装置(E−ECU)には、アクセルペダル24の操作量を検出する為のアクセル開度センサAS、ブレーキペダル26の操作を検出する為のブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0027】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、発動機又は発電機として選択的に作動させられるモータジェネレータである。これら第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、インバータ28、30を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置32に接続されており、電子制御装置150が有するモータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)によってそのインバータ28、30が制御されることにより、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。また、上記モータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)には、シフトレバー34の操作位置を検出する為の操作位置センサSS、車速に対応する出力軸14の回転速度(出力軸回転速度)NOUTを検出する為の出力回転速度センサNOS等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0028】
動力分配機構16は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、それらサンギヤS0及びリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転且つ公転自在に支持するキャリアCA0とを三つの回転要素(回転部材)として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。この遊星歯車装置は、エンジン12及び自動変速機18と同心に設けられている。また、動力伝達装置10において、エンジン12のクランク軸36は、ダンパ38を介して動力分配機構16のキャリアCA0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には出力軸14が連結されている。動力分配機構16において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
【0029】
動力分配機構16における各回転要素(回転部材)の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアCA0の回転速度、及びリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸CAとの間隔を1としたとき、縦軸CAと縦軸Rとの間隔がρ(サンギヤS0の歯数Zs/リングギヤR0の歯数Zr)となるように設定されたものである。斯かる動力分配機構16において、キャリアCA0に入力されるエンジン12の出力トルク(エンジントルク)TEに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン12から入力されたトルクより大きいトルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。すなわち、エンジン12に動力伝達可能に連結された差動機構としての動力分配機構16と動力分配機構16に動力伝達可能に連結された差動用電動機としての第1電動機MG1とを有して、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式変速機構としての電気式無段変速機17(図1参照)が構成される。つまり、電気式無段変速機17は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させられる。そして、エンジン12の動力は、この電気式変速機構17を介して出力軸14に伝達される。
【0030】
動力分配機構16の差動状態が制御されることにより、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOUTが一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度(第1電動機回転速度)NMG1を上下に変化させることで、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は第1電動機回転速度NMG1を実線に示す値から下げたときにエンジン回転速度NEが低下する状態を示している。また、動力分配機構16が無段変速機として機能することにより、例えば燃費が最もよいエンジン12の動作点(例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで定められるエンジン12の運転点)に設定する制御を、第1電動機MG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
【0031】
図1に戻って、自動変速機18は、例えば一組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にショートピニオンP1が噛合するとともに、そのショートピニオンP1がそれより軸長の長いロングピニオンP2に噛合し、そのロングピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心円上に配置されたリングギヤR1に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリアCA1によって自転且つ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がロングピニオンP2に噛合している。また、第2サンギヤS2には第2電動機MG2が連結され、キャリアCA1が出力軸14に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にタプルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ロングピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
【0032】
また、自動変速機18には、第1サンギヤS1を選択的に固定する為にその第1サンギヤS1と非回転部材であるハウジング40との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定する為にそのリングギヤR1とハウジング40との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって制動力を生じる所謂摩擦係合装置であって、好適には互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置などにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結する為のものである。そして、これらのブレーキB1、B2を作動させる為の作動油の油圧(係合圧)に応じてブレーキB1、B2のトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
【0033】
以上のように構成された自動変速機18では、第2サンギヤS2が入力回転要素(回転部材)として機能すると共にキャリアCA1が出力回転要素(回転部材)として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが達成される。また、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられるとその高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが設定されるように構成されている。このように、自動変速機18は、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる、すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構である。
【0034】
上記変速段H及びLの間での変速は、車速や要求駆動力関連値(目標駆動力関連値)等の走行状態に基づいて実行される。より具体的には、例えば変速段を選択する為の変速線を有する予め求められて設定された関係(変速線図、変速マップ、図10参照)を記憶しておき、検出された走行状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御を行う。電子制御装置150には、その制御を行う為の変速制御用電子制御装置(T−ECU)が設けられている。この変速制御用電子制御装置(T−ECU)には、作動油の温度(作動油温)THOILを検出する為の油温センサTS、出力軸回転速度NOUTを検出する為の出力回転速度センサNOS、エンジン回転速度NEを検出する為のエンジン回転速度センサNES、第1電動機回転速度NMG1を検出する為の第1電動機回転速度センサNM1S、及び第2電動機回転速度NMG2を検出する為の第2電動機回転速度センサNM2S等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0035】
また、前記要求駆動力関連値における駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するものであって、駆動輪22での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば出力軸14の出力トルク(出力軸トルク)、エンジントルク、車両加速度であってもよい。また、要求駆動力関連値は、例えばアクセル開度(或いはスロットル弁開度、吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)に基づいて決定される駆動力関連値の要求値(目標値)であるが、アクセル開度等がそのまま用いられても良い。
【0036】
図3は、自動変速機18を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素(回転部材)の相互関係を表す為に4本の縦軸S1、縦軸R1、縦軸CA1、及び縦軸S2を有する共線図を示している。これら縦軸S1、縦軸R1、縦軸CA1、及び縦軸S2は、第1サンギヤS1の回転速度、リングギヤR1の回転速度、キャリアCA1の回転速度、及び第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示すものである。自動変速機18では、第2ブレーキB2によってリングギヤR1が固定されると、低速段Lが設定され、第2電動機MG2の出力したアシストトルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて出力軸14に付加される。これに替えて、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、低速段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有する高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、第2電動機MG2の出力したアシストトルクがその変速比γshに応じて増大させられて出力軸14に付加される。尚、各変速段L、Hが定常的に設定されている状態では、出力軸14に付加されるトルクは、第2電動機MG2の出力トルクを各変速比に応じて増大させたトルクとなるが、自動変速機18の変速過渡状態では各ブレーキB1、B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルク等の影響を受けたトルクとなる。また、出力軸14に付加されるトルクは、第2電動機MG2の駆動状態では正トルク(駆動トルク)となり、被駆動状態では負トルク(ブレーキトルク)となる。すなわち、第2電動機MG2の被駆動状態においては、回生作動により各車輪18、46に回生制動力が発生させられる。
【0037】
図4は、上記各ブレーキB1、B2の係合と解放とによって自動変速機18の変速を制御する為の油圧制御回路50を示している。この油圧制御回路50には、エンジン12のクランク軸36に作動的に連結されることによりそのエンジン12により回転駆動される機械式油圧ポンプ46と、電動機48aとそれにより回転駆動されるポンプ48bを備えた電動式油圧ポンプ48とを油圧源として備えており、それら機械式油圧ポンプ46及び電動式油圧ポンプ48は、図示しないオイルパンに還流した作動油をストレーナ52を介して吸入し、或いは還流油路53を介して直接還流した作動油を吸入してライン圧油路54へ圧送する。上記還流した作動油温THOILを検出する為の油温センサTSが油圧制御回路50を形成するバルブボデー51に設けられているが、他の部位に接続されていてもよい。
【0038】
ライン圧調圧弁56は、リリーフ形式の調圧弁であって、ライン圧油路54に接続された供給ポート56aとドレン油路58に接続された排出ポート56bとの間を開閉するスプール弁子60と、そのスプール弁子60の閉弁方向の推力を発生させるスプリング62を収容すると同時にライン圧PLの設定圧を高く変更するときに電磁開閉弁64を介してモジュール圧油路66内のモジュール圧PMを受け入れる制御油室68と、スプール弁子60の開弁方向の推力を発生させる上記ライン圧油路54に接続されたフィードバック油室70とを備え、低圧及び高圧の2種類のいずれかの一定のライン圧PLを出力する。上記ライン圧油路54には、ライン圧PLが高圧側の値であるときにオン作動し、低圧側の値以下であるときにオフ作動する油圧スイッチSW3が設けられている。
【0039】
モジュール圧調圧弁72は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に拘わらず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定された一定のモジュール圧PMをモジュール圧油路66に出力する。第1ブレーキB1を制御する為の第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2ブレーキB2を制御する為の第2リニヤソレノイド弁SLB2は、上記モジュール圧PMを元圧として電子制御装置150からの指令値である駆動電流ISOL1及びISOL2に応じた制御圧PC1及びPC2を出力する。
【0040】
第1リニヤソレノイド弁SLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型の弁特性を備え、図5に示すように、駆動電流ISOL1の増加に伴って出力される制御圧PC1が低下させられる。図5に示すように、第1リニヤソレノイド弁SLB1の弁特性には、駆動電流ISOL1が所定値Iaを超えるまで出力される制御圧PC1が低下しない不感帯Aが設けられている。第2リニヤソレノイド弁SLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型の弁特性を備え、図6に示すように、駆動電流ISOL2の増加に伴って出力される制御圧PC2が増加させられる。図6に示すように、第2リニヤソレノイド弁SLB2の弁特性には、駆動電流ISOL2が所定値Ibを超えるまで出力される制御圧PC2が増加しない不感帯Bが設けられている。
【0041】
B1コントロール弁76は、ライン圧油路54に接続された入力ポート76a及びB1係合油圧PB1を出力する出力ポート76bとの間を開閉するスプール弁子78と、そのスプール弁子78を開弁方向に付勢する為に上記第1リニヤソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1を受け入れる制御油室80と、スプール弁子78を閉弁方向に付勢するスプリング82を収容し、出力圧であるB1係合油圧PB1を受け入れるフィードバック油室84とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第1リニヤソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1を出力し、インターロック弁として機能するB1アプライコントロール弁86を通してブレーキB1に供給する。
【0042】
B2コントロール弁90は、ライン圧油路54に接続された入力ポート90a及びB2係合油圧PB2を出力する出力ポート90bとの間を開閉するスプール弁子92と、そのスプール弁子92を開弁方向に付勢する為に上記第2リニヤソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2を受け入れる制御油室94と、スプール弁子92を閉弁方向に付勢するスプリング96を収容し、出力圧であるB2係合油圧PB2を受け入れるフィードバック油室98とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第2リニヤソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2を出力し、インターロック弁として機能するB2アプライコントロール弁100を通してブレーキB2に供給する。
【0043】
B1アプライコントロール弁86は、B1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる入力ポート86a及び第1ブレーキB1に接続された出力ポート86bとの間を開閉するスプール弁子102と、そのスプール弁子102を開弁方向に付勢する為にモジュール圧PMを受け入れる油室104と、そのスプール弁子102を閉弁方向に付勢するスプリング106を収容し且つB2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室108とを備え、第2ブレーキB2を係合させる為のB2係合油圧PB2が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB2係合油圧PB2が供給されると閉弁状態に切換られて、第1ブレーキB1の係合が阻止される。
【0044】
また、上記B1アプライコントロール弁86には、そのスプール弁子102が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子102が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート110a及び110bが設けられている。この一方のポート110aにはB2係合油圧PB2を検出する為の油圧スイッチSW2が接続され、他方のポート110bには第2ブレーキB2が直接接続されている。この油圧スイッチSW2は、B2係合油圧PB2が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B2係合油圧PB2が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW2は、B1アプライコントロール弁86を介して第2ブレーキB2に接続されているので、B2係合油圧PB2の異常と同時に、第1ブレーキB1の油圧系を構成する第1リニヤソレノイド弁SLB1、B1コントロール弁76、B1アプライコントロール弁86等の異常も判定可能となっている。
【0045】
B2アプライコントロール弁100も、B1アプライコントロール弁86と同様に、B2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる入力ポート100a及び第2ブレーキB2に接続された出力ポート100bとの間を開閉するスプール弁子112と、そのスプール弁子112を開弁方向に付勢する為にモジュール圧PMを受け入れる油室114と、そのスプール弁子112を閉弁方向に付勢するスプリング116を収容し且つB1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室118とを備え、第1ブレーキB1を係合させる為のB1係合油圧PB1が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB1係合油圧PB1が供給されると閉弁状態に切換られて、第2ブレーキB2の係合が阻止される。
【0046】
上記B2アプライコントロール弁100にも、そのスプール弁子112が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子112が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート120a及び120bが設けられている。この一方のポート120aにはB1係合油圧PB1を検出する為の油圧スイッチSW1が接続され、他方のポート120bには第1ブレーキB1が直接接続されている。この油圧スイッチSW1は、B1係合油圧PB1が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B1係合油圧PB1が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW1は、B2アプライコントロール弁100を介して第1ブレーキB1に接続されているので、B1係合油圧PB1の異常と同時に、第2ブレーキB2の油圧系を構成する第2リニヤソレノイド弁SLB2、B2コントロール弁90、B2アプライコントロール弁100等の異常も判定可能となっている。
【0047】
図7は、以上のように構成された油圧制御回路50の作動を説明する図表である。図7では、○印が励磁状態或いは係合状態を示し、×印が非励磁状態或いは解放状態を示している。すなわち、第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2リニヤソレノイド弁SLB2は共に励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が解放状態且つ第2ブレーキB2が係合状態とされ、自動変速機18の低速段Lが達成される。一方、第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2リニヤソレノイド弁SLB2は共に非励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が係合状態且つ第2ブレーキB2が解放状態とされ、自動変速機18の高速段Hが達成される。
【0048】
図8は、車両8(動力伝達装置10)を制御する為に電子制御装置150に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。尚、車両8には、斯かる制御機能による制御に用いられる関係等を記憶する記憶装置152が設けられている。
【0049】
図8において、ハイブリッド駆動制御部すなわちハイブリッド駆動制御手段154は、例えばキーが図示しないキースロットに挿入された後、ブレーキペダル26が操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、アクセル操作量に基づいて運転者の要求出力を算出し、低燃費で排ガス量の少ない運転となるようにエンジン12及び/又は第2電動機MG2から要求出力を発生させる。例えば、エンジン12を停止し専ら第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン12の動力で第1電動機MG1により発電を行いながらエンジン12の動力を機械的に出力軸14(駆動輪22)に伝えて走行するエンジン走行モード、エンジン走行モードにおいて第1電動機MG1による発電電力により第2電動機MG2を駆動して出力軸14にトルクを付加するアシスト走行モード等を、走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0050】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、エンジン12を駆動する場合に、エンジン12が最適燃費曲線上で作動するように第1電動機MG1によってエンジン回転速度NEを制御すると共に、エンジントルクTEを制御する。また、第2電動機MG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが比較的遅い状態では自動変速機18を低速段Lに設定して出力軸14に付加するトルクを大きくし、車速が比較的増大した状態では、自動変速機18を高速段Hに設定して第2電動機MG2の回転速度を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストを実行させる。更に、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギで例えば第2電動機MG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置32にその電力を蓄える。
【0051】
上記エンジン走行モードにおける制御を一例としてより具体的に説明すると、ハイブリッド駆動制御手段154は、動力性能や燃費向上などの為に、エンジン12を効率のよい作動域で作動させる一方で、そのエンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるよう制御する。
【0052】
例えば、ハイブリッド駆動制御手段154は、記憶装置152等に予め記憶された駆動力マップから運転者の出力要求量としてのアクセル開度や車速などに基づいて目標駆動力関連値例えば要求出力軸トルクTRを決定し、その要求出力軸トルクTRから充電要求値等を考慮して要求出力軸パワーを算出し、その要求出力軸パワーが得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルクや自動変速機18の変速段等を考慮して目標エンジンパワーPE*を算出する。そして、ハイブリッド駆動制御手段154は、例えば図9に示すようなエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶されたエンジンの最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン12を作動させつつ目標エンジンパワーPE*が得られるエンジン12の動作点(運転点)すなわちエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるように、エンジン12を制御すると共に第1電動機MG1の発電量を制御する。
【0053】
図9に破線で示すエンジン12の最適燃費率曲線は、等燃費率曲線のうちの最も低い燃費領域をエンジン回転速度NEの上昇に伴って通過するように形成された予め実験的に求められた最適燃費点を結ぶ曲線である。この最適燃費率曲線は、運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジン12の最低燃費動作点を表す点の連なりでもある。また、図9の実線a、b、cは、目標エンジンパワーPE*を表す例であって、等しいエンジンパワーとなるエンジン12の動作点を表す点の連なりでもあり、実線a、b、cの順に目標エンジンパワーPE*は大きくなる。例えば、目標エンジンパワーPE*が図9に示す実線aから実線bに増大させられると、その実線bの目標エンジンパワーPE*が得られる為にエンジン12は最適燃費率曲線に沿って点A1から点A2となるように作動させられる。すなわち、エンジン回転速度NEをNE1からNE2へ上昇させるように例えば第1電動機回転速度NMG1が引き上げられると共に、エンジントルクTEをTE1からTE2へ上昇させるように例えばスロットル制御、燃料噴射制御、点火時期制御等が行われる。
【0054】
ハイブリッド駆動制御手段154は、第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ28、30を介して蓄電装置32や第2電動機MG2へ供給する制御を行う。エンジン12の動力の主要部は機械的に出力軸14へ伝達されるが、そのエンジン12の動力の一部は第1電動機MG1の発電の為に消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ28、30を介してその電気エネルギが第2電動機MG2へ供給され、斯かる電気エネルギによりその第2電動機MG2が電動機として駆動されることで、その第2電動機MG2から出力される動力が自動変速機18を介して出力軸14へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン12の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。尚、ハイブリッド駆動制御手段154は、電気パスによる電気エネルギ以外に、蓄電装置32からインバータ30を介して直接的に電気エネルギを第2電動機MG2へ供給してその第2電動機MG2を駆動することが可能である。
【0055】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、動力分配機構16の差動作用により第1電動機MG1を制御することでエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御することができる。換言すれば、ハイブリッド駆動制御手段154は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機MG1を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0056】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、スロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御したり、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御する為の指令を単独で或いは組み合わせて図示しないエンジン出力制御装置に出力して、必要なエンジン出力を発生させるようにエンジン12の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0057】
図8に戻って、変速制御部すなわち変速制御手段156は、自動変速機18における変速動作を判定し、その判定された変速動作を実行する。例えば、変速制御手段156は、記憶装置152等に予め記憶された図10に示すような変速線図(変速マップ)から、車速V(出力軸回転速度NOUT)及び要求駆動力(例えば予め記憶された駆動力マップからアクセル操作量や車速などに基づいてハイブリッド駆動制御手段154により決定された要求出力軸トルクTR)に基づいて自動変速機18の変速を判断し、その判断結果に基づいた変速段に切り換えるように第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を制御する変速処理を実施する。
【0058】
例えば、変速制御手段156は、低速段Lから高速段Hへの変速動作を判定した場合、油圧制御回路50を介して第1ブレーキB1を係合させると共に第2ブレーキB2を解放させるようにそれらブレーキB1、B2の油圧アクチュエータを制御する。また、高速段Hから低速段Lへの変速動作が判定された場合、油圧制御回路50を介して第1ブレーキB1を解放させると共に第2ブレーキB2を係合させるようにそれらブレーキB1、B2の油圧アクチュエータを制御する。例えば、低速段Lから高速段Hへの変速動作、高速段Hから低速段Lへの変速動作の何れにおいても所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が行われる。
【0059】
図10に示す変速線図において、実線は低速段Lから高速段Hへ切り換える為のアップシフト線(アップ線)であり、破線は高速段Hから低速段Lへ切り換える為のダウンシフト線(ダウン線)であって、アップシフト線とダウンシフト線との間に所定のヒステリシスが設けられている。この図10に示す変速線図は、例えば車両8の性能を充分引き出しつつ燃費の良い状態で運転可能なようにすなわち燃費性能と走行性能(動力性能)とを両立させる変速段にて運転可能なように、予め実験的に求められて記憶装置152に記憶されたものである。つまり、図10に示す変速線図は、燃費性能と動力性能とを両立させる最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)を有する変速マップAである。このように、自動変速機18は、上記変速マップAに従って油圧式摩擦係合装置(ブレーキB1、B2)への作動油の給排が制御されることにより上記最適な変速段が成立させられる。
【0060】
ここで、例えば動力伝達装置10を構成する回転メンバ(回転要素、回転部材)による攪拌(例えばハウジング40内にて作動油に半浸する回転部材による攪拌)等により油圧制御回路50における作動油にエアーが混入する場合がある。そして、作動油にエアーが混入した状態で自動変速機18の変速を実行すると、例えば係合側の油圧式摩擦係合装置を係合に向けて制御する為の所望の係合過渡油圧が得られず、変速ショックの増大を招く可能性がある。一方で、本実施例の動力伝達装置10においては、一方の回転速度に拘わらず他方の回転速度が独立に制御可能であり且つ油圧制御回路50における作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転要素(回転部材)が存在する。例えば、本実施例の動力伝達装置10においては、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2とは一方の回転速度に拘わらず他方の回転速度が独立に制御可能である。また、図11及び図12に示すように、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2との各々の回転速度の変化によって作動油の含泡率が変化させられる。つまり、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2との各々の回転速度がエア混入に対して各々寄与している。従って、上記2つの回転部材としては、例えばエンジン回転速度NEに1対1に対応してエンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばキャリアCA0、及び第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応して第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素例えば第2サンギヤS2である。また、上記2つの回転部材の各々の回転速度としては、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2である。
【0061】
このように、本実施例の動力伝達装置10では、作動油にエアーを混入させる要因すなわち作動油の泡立ち(攪拌)に影響する要因であるエンジン12の回転駆動と第2電動機MG2の回転駆動とが各々独立して制御されており、例えばそれら各制御の組み合わせにより作動油の攪拌状態が異なる為、見方を換えればエンジン回転速度NEや第2電動機回転速度NMG2の各々の回転速度とエアー混入への寄与度とが異なる為、ある1つの回転メンバの回転速度からでは、エアーの混入進行度合い(エア混入進行度合)を適確に推定(判定)することができない可能性がある。その為、例えば作動油内のエアーの混入に対して適切な処置を実行することができない可能性がある。
【0062】
そこで、本実施例では、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて作動油内のエア混入進行度合を算出する。具体的には、記憶装置152には、例えばエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め求められて設定された関係(含泡量推定マップ)が記憶されている。図13は、上記含泡量推定マップの一例を示す図(図表)である。図13において、この含泡量推定マップは、例えば図11及び図12に示した各回転速度に対する作動油含泡率の特性図からも明らかなように、エンジン回転速度NEが高い程、エア混入度合が大きくなるように設定され、第2電動機回転速度NMG2が高い程、エア混入度合が大きくなるように設定されている。また、図13(b)は、図13(a)に示す関係を別の形で表したものであり、実質的に同じ含泡量推定マップである。この図13(b)では、エンジン回転速度NEをパラメータとして第2電動機回転速度NMG2と単位時間当たりのエア混入度合との予め実験的に求められて設定された関係としてマップ化されている。そして、図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を逐次算出し、そのエア混入度合を計数(カウント)することで作動油内のエア混入進行度合を逐次算出する。尚、上記単位時間は、例えば後述する電子制御装置150の制御作動を説明するフローチャート(図15)におけるサイクルタイムであっても良いし、1秒や1分等の所定の時間であっても良い。従って、設定する単位時間に合わせて上記含泡量推定マップが設定されることは言うまでもないことである。
【0063】
より具体的には、図8に戻り、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段158は、例えば車両8がローギヤにて走行中であるか否か、すなわち自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かを判定する。例えば、走行状態判定手段158は、変速制御手段156による油圧制御回路50を介した油圧アクチュエータの制御の状態に基づいて、自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かを判定する。
【0064】
エア混入進行度合算出部すなわちエア混入進行度合算出手段160は、例えば走行状態判定手段158により自動変速機18の変速段が低速段Lとされていると判定される場合には、例えば図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を逐次算出する。次いで、エア混入進行度合算出手段160は、そのエア混入度合を計数(カウントアップ)し、計数結果を作動油内のエア混入進行度合として逐次算出する。
【0065】
エア混入進行度合判定部すなわちエア混入進行度合判定手段162は、例えばエア混入進行度合算出手段160により逐次算出される作動油内のエア混入進行度合が予め実験的に求められて設定された所定値を超えたか否かを判定する。
【0066】
変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。例えば、変速制御手段156は、上記図10に示すような変速マップAのうちの少なくともアップシフト線を、その変速マップAのアップシフト線と比較してハイギヤ比側(すなわち高速段H)が選択されやすいようにすなわちアップシフトが早まるように予め設定されたアップシフト線へ変更する。これは、比較的早くアップシフトして第2電動機回転速度NMG2を低回転化することにより、第2電動機MG2の回転駆動による作動油の泡立ち(攪拌)の影響を抑制してすなわち泡の発生を抑制して作動油内のエアの排出確率を向上するのである。従って、上記所定値としては、例えば作動油内のエア混入により自動変速機18の変速作動に影響を及ぼす程のエア混入進行度合の値となる前の値として予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0067】
図14は、図10に示す変速マップAのアップシフト線(実線)のみをその変速マップAのアップシフト線と比較して高速段Hが選択されやすいように変更したエア抑制用アップシフト線(二点鎖線)を有する予め実験的に求められて記憶装置152に記憶された変速マップBである。図14に示すように、エア抑制用アップシフト線(二点鎖線)は、変速マップAのアップシフト線(実線)と比較して、例えば車速Vがより低い領域にて且つ要求駆動力がより高い領域にて高車速側(ハイギヤ側)の高速段Hが選択されるようにすなわちより早くアップシフトが判定されるように、あたかも変速マップAのアップシフト線を左側(低車速側)へずらした位置に予め設定されている。
【0068】
つまり、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が未だ所定値を超えていないと判定される場合には、図10に示すような変速マップAに従って変速を実行する。一方で、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、図14に示すような変速マップBに従って変速を実行する。
【0069】
図15は、電子制御装置150の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図16は、図15のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0070】
図15において、先ず、走行状態判定手段158に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば車両8がローギヤにて走行中であるか否かすなわち自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はエア混入進行度合算出手段160に対応するS20において、例えば図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が算出される。次いで、同じくエア混入進行度合算出手段160に対応するS30において、例えば上記S20にて算出されたエア混入度合が計数(カウントアップ)され、その計数結果が作動油内のエア混入進行度合として算出される。次いで、エア混入進行度合判定手段162に対応するS40において、例えば上記S30にて算出された作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えたか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は変速制御手段156に対応するS50において、例えば自動変速機16の変速に用いる変速マップとして図14に示すような変速マップBがセットされ、その変速マップBに従って変速が実行される。一方、上記S40の判断が否定される場合は同じく変速制御手段156に対応するS60において、例えば自動変速機16の変速に用いる変速マップとして図10に示すような変速マップAがセットされ、その変速マップAに従って変速が実行される。
【0071】
図16において、実線は適確に算出された作動油内のエア混入進行度合に応じて変速マップが変速マップAと変速マップBとで切り換えられる場合にアップシフトが実行された本実施例を示しており、破線は常時変速マップAを用いた場合或いは作動油内のエア混入進行度合が適確に算出されなかった場合にアップシフトが実行された従来例を示している。破線に示す従来例では、エアー混入により第1ブレーキB1を係合させる際の係合過渡油圧に応答遅れが発生し、変速過渡中において第2電動機回転速度NMG2が吹き上がり、車両加速度Gの落ち込みが発生し、変速ショックが増大している。これに対して、実線に示す本実施例では、第1ブレーキB1を係合させる際に所望の係合過渡油圧が得られ、変速過渡中における第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込みが確実に抑制されて、変速ショックが抑制される。尚、所望の係合過渡油圧が得られるということは、例えば予め求められて設定される変速時の係合過渡油圧指令値に対して想定した如く実際の係合過渡油圧が変化することである。
【0072】
上述のように、本実施例によれば、例えば図13に示すような含泡量推定マップから作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度(エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2)に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数(カウントアップ)されることで作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る動力伝達装置10において、自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機10の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。
【0073】
また、本実施例によれば、逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合に応じて作動油からエアを排出しやすくしたり、変速ショックの増大を抑制することが可能になる。
【0074】
また、本実施例によれば、最適な変速段が選択されるように予め設定された図10に示すような変速マップAのアップシフト線を、そのアップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定された図14に示すような変速マップBのアップシフト線へ変更することにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機18がアップシフトされ易くなり、その自動変速機18のアップシフトによる第2電動機回転速度NMG2の低下により作動油の攪拌が減少させられて作動油からエアを排出し易くなる。つまり、変速ショックが悪化する前に早めにアップシフトさせることができ、実際のアップシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0075】
また、本実施例によれば、前記2つの回転部材は、エンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばキャリアCA0、及び第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素例えば第2サンギヤS2であるので、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが適切に設定され、その含泡量推定マップから前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0076】
また、本実施例によれば、前記2つの回転部材の各々の回転速度は、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2であるので、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが適切に設定され、その含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0077】
また、本実施例によれば、前記エア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップは、エンジン回転速度NEが高い程、エア混入度合が大きくなるように設定され、第2電動機回転速度NMG2が高い程、エア混入度合が大きくなるように設定されているので、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが一層適切に備えられる。
【0078】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0079】
前述の実施例では、エア混入進行度合が所定値を超えた場合に自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する態様として、最適な変速段が選択されるように予め設定された図10に示すような変速マップAのアップシフト線を、その変速マップAのアップシフト線と比較して高速段Hが選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更した。本実施例では、エア混入進行度合が所定値を超えた場合に自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する別の態様として、自動変速機18の変速過渡中において、作動油内のエア混入による係合側の油圧式摩擦係合装置の実油圧の上昇遅れを補償するように解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることを提案する。これは、自動変速機18の変速過渡中において係合側の油圧式摩擦係合装置を係合させる際に、作動油内のエア混入により所望の係合過渡油圧が得らず、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込み等が生じることに対して、係合過渡油圧の上昇が遅れる分だけ解放側の油圧式摩擦係合装置の解放過渡油圧の低下を遅らせて、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等を抑制するのである。従って、本実施例における上記所定値としては、例えば作動油内のエア混入により自動変速機18の変速作動に影響を及ぼす程のエア混入進行度合の値として予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0080】
具体的には、図8に戻り、変速制御手段156は、前述の実施例における変速マップの変更に替えて、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、例えばアップシフト時に第1ブレーキB1を係合させると共に第2ブレーキB2を解放させる際のクラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期を所定時間だけ遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。上記所定時間は、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等が抑制される為の予め実験的に求められて設定された一定時間である。尚、この所定時間として一定時間を用いず、例えばエア混入進行度合が大きい程、所定時間が長く設定されるようにしても良い。これによって、一層適切に第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等が抑制される。
【0081】
図17は、電子制御装置150の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図17のフローチャートは、図15のフローチャートに相当する別の実施例であり、図15におけるステップS50及びS60がステップS50’及びS60’となっている点が主に相違する。従って、図17のフローチャートの説明では、その相違する部分のみを示す。また、図18は、図17のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0082】
図17において、S40の判断が肯定される場合は変速制御手段156に対応するS50’において、例えば自動変速機16のアップシフトが実行される際には、第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期が所定時間だけ遅延させられる。一方、上記S40の判断が否定される場合は同じく変速制御手段156に対応するS60’において、例えば自動変速機16のアップシフトが実行される際には、クラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される変速油圧指令値(第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧指令値及び第1ブレーキB1を係合させる際の係合過渡油圧)による通常変速制御が実行される。
【0083】
図18において、実線は適確に算出された作動油内のエア混入進行度合に応じてアップシフト時の第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値が変更された場合の本実施例を示しており、破線は作動油内のエア混入進行度合が適確に算出されなかった為にエア混入進行度合が大きいにも拘わらずアップシフト時の第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値が変更されなかった場合の従来例を示している。破線に示す従来例では、エアー混入による第1ブレーキB1の係合過渡油圧の応答遅れの発生により、変速過渡中において第2電動機回転速度NMG2が吹き上がり、車両加速度Gの落ち込みが発生し、変速ショックが増大している。これに対して、実線に示す本実施例では、第1ブレーキB1の係合過渡油圧の応答遅れ(上昇遅れ)を補償するように第2ブレーキB2の解放過渡油圧の低下が遅延させられ、変速過渡中における第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込みが確実に抑制されて、変速ショックが抑制される。
【0084】
上述のように、本実施例によれば、自動変速機18のアップシフトに際して、第1ブレーキB1を係合させる際のエア混入による係合過渡油圧の上昇遅れを補償するように第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧の低下を遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、変速過渡過程(アップシフト過程)における解放側油圧の低下が遅延され易くなり、変速過渡過程における第2電動機回転速度NMG2の上昇(吹き)を抑制し易くなる。つまり、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合であっても、実際の変速時(アップシフト時)の変速ショックが適切に抑制される。
【0085】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0086】
例えば、前述の実施例では、2つの回転部材として、例えばエンジン12により回転駆動されるキャリアCA0及び第2電動機MG2により回転駆動される第2サンギヤS2を例示したが、必ずしもそれに限られることはない。要は、回転速度が独立に制御可能であり且つ作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材であれば本発明は適用され得る。例えば、一方の回転部材が第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応して第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素である場合、他方の回転部材は第2電動機回転速度NMG2とは独立に(すなわち第2電動機回転速度NMG2の変化に関係なく)第1電動機回転速度NMG1に1対1に対応して第1電動機MG1により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばサンギヤS0などであれば良い。このような場合には、2つの回転部材の各々の回転速度は、例えば第2電動機回転速度NMG2及び第1電動機回転速度NMG1であり、第2電動機回転速度NMG2及び第1電動機回転速度NMG1を基に図13に示すような含泡量推定マップが設定される。また、例えば、一方の回転部材がエンジン回転速度NEに1対1に対応してエンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素である場合、他方の回転部材はエンジン回転速度NEとは独立に(すなわちエンジン回転速度NEの変化に関係なく)第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応する自動変速機18の回転要素例えばキャリアCA1(すなわち出力軸14)などであれば良い。このような場合には、2つの回転部材の各々の回転速度は、例えばエンジン回転速度NE及び出力軸回転速度NOUT(=第2電動機回転速度NMG2/自動変速機18の変速比γs)であり、エンジン回転速度NE及び出力軸回転速度NOUTを基に図13に示すような含泡量推定マップが設定される。このようにしても同様の効果が得られる。
【0087】
また、前述の実施例2では、自動変速機18の変速制御としてアップシフトを例示したが、ダウンシフトであっても本発明は適用され得る。具体的には、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、例えばダウンシフト時に第2ブレーキB2を係合させると共に第1ブレーキB1を解放させる際のクラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される第1ブレーキB1を解放させる際の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期を所定時間だけ遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。このようにしても、同様の効果が得られる。尚、この場合には、図17のフローチャートにおけるS10のステップは必要ない。
【0088】
また、前述の実施例では、自動変速機18は第2電動機MG2の出力したトルクが増大させられて出力軸14に付加されるように、第2電動機MG2と出力軸14との間に備えられた低速段Lと高速段Hとを有する2段の自動変速機(減速機)であったが、この自動変速機18に限らず、第2電動機MG2の出力したトルクが出力軸14に伝達されるように第2電動機MG2と出力軸14との間に備えられた自動変速機であれば本発明は適用され得る。例えば、3段以上の変速段を有する遊星歯車式多段変速機、一部或いは全部の変速段においてMG2の出力したトルクが増大させられて出力軸14に付加される有段式自動変速機などであっても良い。また、3段以上の変速段を有する遊星歯車式多段変速機が採用される場合には、図15のフローチャートにおけるS10のステップにおいて例えば最ハイギヤ比を除くギヤ段での走行中であるか否かが判定される。
【0089】
また、前述の実施例において、電気式無段変速機17は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させられる電気式変速機構であったが、電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0090】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。また、動力分配機構16は、例えばエンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び出力軸14に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0091】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
10:車両用動力伝達装置
12:エンジン
14:出力軸
16:動力分配機構(差動機構)
17:電気式無段変速機(電気式変速機構)
18:自動変速機(機械式変速機構)
150:電子制御装置(制御装置)
B1:第1ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
B2:第2ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
CA0:キャリア(差動機構の回転部材)
S2:第2サンギヤ(自動変速機の回転部材)
MG1:第1電動機(差動用電動機)
MG2:第2電動機(走行用電動機)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに動力伝達可能に連結されて差動状態が電気的に制御される差動機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排により変速が実行される自動変速機と、差動機構の出力軸に自動変速機を介して動力伝達可能に連結される電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、作動油内のエアー混入に対処する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有してその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、その電気式変速機構の出力軸に変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置が良く知られている。また、上記変速機としては、例えば油圧制御回路によって油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることにより変速が実行されて、所定の変速段が成立させられる自動変速機が良く知られている。
【0003】
一方、例えば上記自動変速機を含む車両用動力伝達装置を構成する回転メンバ(回転部材、回転要素)による攪拌等により油圧制御回路における作動油にエアーが混入する場合がある。作動油にエアーが混入した状態で変速を実行すると、例えば係合側の油圧式摩擦係合装置を係合に向けて制御する為の所望の係合過渡油圧が得られず、変速ショックの増大を招く可能性がある。このようなエアーの混入に対して、例えば特許文献1には、油圧式摩擦係合装置を含んだ回転メンバの回転速度と油圧式摩擦係合装置が解放状態に放置された継続時間とに基づいて作動油内のエアー混入進行度合いを判定し、その混入進行度合いが所定値以上となった場合に解放側の油圧式摩擦係合装置に対してピストンがストロークしない範囲で油圧を供給することにより作動油に混入したエアーを排出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−276796号公報
【特許文献2】特開2002−235848号公報
【特許文献3】特開2004−144233号公報
【特許文献4】特開2000−97326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記電気式変速機構の出力軸に変速機を介して走行用電動機が備えられるような構成の車両用動力伝達装置の場合、作動油にエアーを混入させる要因すなわち作動油の泡立ち(攪拌)に影響する要因であるエンジンの回転駆動と走行用電動機の回転駆動とが各々独立して制御されており、例えばそれら各制御の組み合わせにより作動油の攪拌状態が異なる為、見方を換えればエンジン回転速度や走行用電動機回転速度の各々の回転速度とエアー混入への寄与度とが異なる為、ある1つの回転メンバの回転速度からでは、エアーの混入進行度合いを適確に推定(判定)することができない可能性がある。また、例えばエアーの混入進行度合いを適確に推定できないと、エアーの混入に対して適切な処置を実行することができない可能性がある。尚、このような課題は未公知である。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る車両用動力伝達装置において、自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように、作動油内のエア混入進行度合を適確に算出することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有してその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる自動変速機と、その電気式変速機構の出力軸にその自動変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 回転速度が独立に制御可能であり且つ前記作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて単位時間当たりのその作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係を備え、(c) 前記関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて前記単位時間当たりのエア混入度合を逐次算出し、(d) そのエア混入度合を計数することで前記作動油内のエア混入進行度合を逐次算出することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてその単位時間当たりのエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る車両用動力伝達装置において、自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合(すなわちエア含泡具合)を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。尚、前記電気式変速機構は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0009】
ここで、好適には、前記逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば自動変速機の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合に応じて作動油からエアを排出しやすくしたり、変速ショックの増大を抑制することが可能になる。
【0010】
また、好適には、前記自動変速機は、最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線に従って前記油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることによりその最適な変速段が成立させられるものであり、前記最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線のうちの少なくともアップシフト線を、そのアップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更することにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機がアップシフトされ易くなり、その自動変速機のアップシフトによる走行用電動機の回転速度の低下により作動油の攪拌が減少させられて作動油からエアを排出し易くなる。つまり、変速ショックが悪化する前に早めにアップシフトさせることができ、実際のアップシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0011】
また、好適には、前記自動変速機は、前記油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構であり、エア混入による前記係合側の油圧式摩擦係合装置の油圧の上昇遅れを補償するように前記解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することにある。このようにすれば、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、変速過渡過程における解放側油圧の低下が遅延され易くなり、変速過渡過程における走行用電動機の回転速度の上昇(吹き)を抑制し易くなる。つまり、例えば前記作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合であっても、実際の変速時の変速ショックが適切に抑制される。
【0012】
また、好適には、前記2つの回転部材は、前記エンジンにより回転駆動される前記差動機構の回転部材、及び前記走行用電動機により回転駆動される前記自動変速機の回転部材である。このようにすれば、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が適切に備えられ、その関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0013】
また、好適には、前記2つの回転部材の各々の回転速度は、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度である。このようにすれば、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が適切に備えられ、その関係から前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで前記作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0014】
また、好適には、前記エア混入度合を算出する為の予め設定された関係は、前記エンジンの回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定され、前記走行用電動機の回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定されていることにある。このようにすれば、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係が一層適切に備えられる。
【0015】
また、好適には、前記自動変速機は、例えば複数組の遊星歯車装置の回転部材が油圧式摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進2段、前進3段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この油圧式摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合作動させる為の作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源であるエンジンにより回転駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、エンジンとは別に配設された専用の電動モータなどで回転駆動されるものでも良い。
【0016】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えば電磁弁装置としてのリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接的に油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブ(変速制御弁)を制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。また、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0017】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素(回転部材)と前記差動用電動機に連結された第2回転要素(回転部材)と前記出力軸に連結された第3回転要素(回転部材)との3つの回転要素(回転部材)を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0018】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0019】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置の車両に対する搭載姿勢は、駆動装置の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、駆動装置の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0020】
また、好適には、前記エンジンと前記差動機構とは作動的に連結されればよく、例えばエンジンと差動機構との間には、脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)、直結クラッチ、ダンパー付直結クラッチ、或いは流体伝動装置などが介在させられるものであってもよいが、エンジンと差動機構とが常時連結されたものであってもよい。また、流体伝動装置としては、ロックアップクラッチ付トルクコンバータやフルードカップリングなどが用いられる。
【0021】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が広く用いられる。さらに、補助的な走行用の駆動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両を説明する図である。
【図2】車両用動力伝達装置に備えられた動力分配機構における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
【図3】車両用動力伝達装置に備えられた自動変速機を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素の相互関係を表す共線図である。
【図4】第1ブレーキ及び第2ブレーキの係合解放によって自動変速機の変速を制御する為の油圧制御回路である。
【図5】非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型の第1リニヤソレノイド弁の弁特性を示す図である。
【図6】非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型の第2リニヤソレノイド弁の弁特性を示す図である。
【図7】油圧制御回路の作動を説明する図表である。
【図8】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図9】エンジンの燃費マップであって、破線は運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジンの最適燃費率曲線である。
【図10】自動変速機の変速制御において用いられる変速線図である。
【図11】第2電動機回転速度に対する作動油含泡率の一例を示す図である。
【図12】エンジン回転速度に対する作動油含泡率の一例を示す図である。
【図13】エンジン回転速度及び第2電動機回転速度に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係(含泡量推定マップ)である。
【図14】作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合に用いられる変速線図である。
【図15】電子制御装置の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図16】図15のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図17】電子制御装置の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図15のフローチャートに相当する別の実施例である。
【図18】図17のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両(以下、車両)8を説明する図である。この図1に示す車両8は、主動力源としてのエンジン12から出力される動力を第1電動機MG1と伝達部材としての出力軸14とに分配する動力分配機構16と、出力軸14に自動変速機18を介して作動的に(動力伝達可能に)連結された走行用電動機としての第2電動機MG2とを有する車両用動力伝達装置(以下、動力伝達装置)10を備えて構成されている。この動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、エンジン12、第2電動機MG2等から出力されるトルクが出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置20を介して左右一対の後輪(駆動輪)22にトルクが伝達されるようになっている。尚、動力伝達装置10は、その中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの半分を省略して示している。
【0025】
動力伝達装置10では、第2電動機MG2から出力軸14へ伝達されるトルクが自動変速機18において設定される変速比γs(=MG2の回転速度NMG2/出力軸14の回転速度NOUT)に応じて増減されるようになっている。この自動変速機18は、変速比γsが「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2電動機MG2から出力トルクTMG2を出力する力行時にはそのMG2トルクTMG2を増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2電動機MG2を一層低容量若しくは小型に構成することができる。これにより、例えば高車速に伴って出力軸14の回転速度が増大した場合には、第2電動機MG2の運転効率を良好な状態に維持する為に、自動変速機18の変速比γsを小さくする(ハイギヤ比側にする)ことで第2電動機MG2の回転速度(第2電動機回転速度)NMG2が低下させられる。また、出力軸14の回転速度が低下した場合には、自動変速機18の変速比γsを大きくする(ローギヤ比側にする)ことで第2電動機回転速度NMG2が適宜増大させられる。
【0026】
エンジン12は、車両8の主動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関である。また、車両8には、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置150が備えられており、エンジン12は、電子制御装置150が有するエンジン制御用電子制御装置(E−ECU)によって、スロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が電気的に制御されるように構成されている。また、上記エンジン制御用電子制御装置(E−ECU)には、アクセルペダル24の操作量を検出する為のアクセル開度センサAS、ブレーキペダル26の操作を検出する為のブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0027】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、発動機又は発電機として選択的に作動させられるモータジェネレータである。これら第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、インバータ28、30を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置32に接続されており、電子制御装置150が有するモータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)によってそのインバータ28、30が制御されることにより、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。また、上記モータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)には、シフトレバー34の操作位置を検出する為の操作位置センサSS、車速に対応する出力軸14の回転速度(出力軸回転速度)NOUTを検出する為の出力回転速度センサNOS等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0028】
動力分配機構16は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、それらサンギヤS0及びリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転且つ公転自在に支持するキャリアCA0とを三つの回転要素(回転部材)として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。この遊星歯車装置は、エンジン12及び自動変速機18と同心に設けられている。また、動力伝達装置10において、エンジン12のクランク軸36は、ダンパ38を介して動力分配機構16のキャリアCA0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には出力軸14が連結されている。動力分配機構16において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
【0029】
動力分配機構16における各回転要素(回転部材)の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアCA0の回転速度、及びリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸CAとの間隔を1としたとき、縦軸CAと縦軸Rとの間隔がρ(サンギヤS0の歯数Zs/リングギヤR0の歯数Zr)となるように設定されたものである。斯かる動力分配機構16において、キャリアCA0に入力されるエンジン12の出力トルク(エンジントルク)TEに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、エンジン12から入力されたトルクより大きいトルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。すなわち、エンジン12に動力伝達可能に連結された差動機構としての動力分配機構16と動力分配機構16に動力伝達可能に連結された差動用電動機としての第1電動機MG1とを有して、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式変速機構としての電気式無段変速機17(図1参照)が構成される。つまり、電気式無段変速機17は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させられる。そして、エンジン12の動力は、この電気式変速機構17を介して出力軸14に伝達される。
【0030】
動力分配機構16の差動状態が制御されることにより、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOUTが一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度(第1電動機回転速度)NMG1を上下に変化させることで、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は第1電動機回転速度NMG1を実線に示す値から下げたときにエンジン回転速度NEが低下する状態を示している。また、動力分配機構16が無段変速機として機能することにより、例えば燃費が最もよいエンジン12の動作点(例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで定められるエンジン12の運転点)に設定する制御を、第1電動機MG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
【0031】
図1に戻って、自動変速機18は、例えば一組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にショートピニオンP1が噛合するとともに、そのショートピニオンP1がそれより軸長の長いロングピニオンP2に噛合し、そのロングピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心円上に配置されたリングギヤR1に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリアCA1によって自転且つ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がロングピニオンP2に噛合している。また、第2サンギヤS2には第2電動機MG2が連結され、キャリアCA1が出力軸14に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にタプルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ロングピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
【0032】
また、自動変速機18には、第1サンギヤS1を選択的に固定する為にその第1サンギヤS1と非回転部材であるハウジング40との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定する為にそのリングギヤR1とハウジング40との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって制動力を生じる所謂摩擦係合装置であって、好適には互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置などにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結する為のものである。そして、これらのブレーキB1、B2を作動させる為の作動油の油圧(係合圧)に応じてブレーキB1、B2のトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
【0033】
以上のように構成された自動変速機18では、第2サンギヤS2が入力回転要素(回転部材)として機能すると共にキャリアCA1が出力回転要素(回転部材)として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが達成される。また、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられるとその高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが設定されるように構成されている。このように、自動変速機18は、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる、すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構である。
【0034】
上記変速段H及びLの間での変速は、車速や要求駆動力関連値(目標駆動力関連値)等の走行状態に基づいて実行される。より具体的には、例えば変速段を選択する為の変速線を有する予め求められて設定された関係(変速線図、変速マップ、図10参照)を記憶しておき、検出された走行状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御を行う。電子制御装置150には、その制御を行う為の変速制御用電子制御装置(T−ECU)が設けられている。この変速制御用電子制御装置(T−ECU)には、作動油の温度(作動油温)THOILを検出する為の油温センサTS、出力軸回転速度NOUTを検出する為の出力回転速度センサNOS、エンジン回転速度NEを検出する為のエンジン回転速度センサNES、第1電動機回転速度NMG1を検出する為の第1電動機回転速度センサNM1S、及び第2電動機回転速度NMG2を検出する為の第2電動機回転速度センサNM2S等からの検出信号が供給されるようになっている。
【0035】
また、前記要求駆動力関連値における駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するものであって、駆動輪22での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば出力軸14の出力トルク(出力軸トルク)、エンジントルク、車両加速度であってもよい。また、要求駆動力関連値は、例えばアクセル開度(或いはスロットル弁開度、吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)に基づいて決定される駆動力関連値の要求値(目標値)であるが、アクセル開度等がそのまま用いられても良い。
【0036】
図3は、自動変速機18を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構についての各回転要素(回転部材)の相互関係を表す為に4本の縦軸S1、縦軸R1、縦軸CA1、及び縦軸S2を有する共線図を示している。これら縦軸S1、縦軸R1、縦軸CA1、及び縦軸S2は、第1サンギヤS1の回転速度、リングギヤR1の回転速度、キャリアCA1の回転速度、及び第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示すものである。自動変速機18では、第2ブレーキB2によってリングギヤR1が固定されると、低速段Lが設定され、第2電動機MG2の出力したアシストトルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて出力軸14に付加される。これに替えて、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、低速段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有する高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、第2電動機MG2の出力したアシストトルクがその変速比γshに応じて増大させられて出力軸14に付加される。尚、各変速段L、Hが定常的に設定されている状態では、出力軸14に付加されるトルクは、第2電動機MG2の出力トルクを各変速比に応じて増大させたトルクとなるが、自動変速機18の変速過渡状態では各ブレーキB1、B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルク等の影響を受けたトルクとなる。また、出力軸14に付加されるトルクは、第2電動機MG2の駆動状態では正トルク(駆動トルク)となり、被駆動状態では負トルク(ブレーキトルク)となる。すなわち、第2電動機MG2の被駆動状態においては、回生作動により各車輪18、46に回生制動力が発生させられる。
【0037】
図4は、上記各ブレーキB1、B2の係合と解放とによって自動変速機18の変速を制御する為の油圧制御回路50を示している。この油圧制御回路50には、エンジン12のクランク軸36に作動的に連結されることによりそのエンジン12により回転駆動される機械式油圧ポンプ46と、電動機48aとそれにより回転駆動されるポンプ48bを備えた電動式油圧ポンプ48とを油圧源として備えており、それら機械式油圧ポンプ46及び電動式油圧ポンプ48は、図示しないオイルパンに還流した作動油をストレーナ52を介して吸入し、或いは還流油路53を介して直接還流した作動油を吸入してライン圧油路54へ圧送する。上記還流した作動油温THOILを検出する為の油温センサTSが油圧制御回路50を形成するバルブボデー51に設けられているが、他の部位に接続されていてもよい。
【0038】
ライン圧調圧弁56は、リリーフ形式の調圧弁であって、ライン圧油路54に接続された供給ポート56aとドレン油路58に接続された排出ポート56bとの間を開閉するスプール弁子60と、そのスプール弁子60の閉弁方向の推力を発生させるスプリング62を収容すると同時にライン圧PLの設定圧を高く変更するときに電磁開閉弁64を介してモジュール圧油路66内のモジュール圧PMを受け入れる制御油室68と、スプール弁子60の開弁方向の推力を発生させる上記ライン圧油路54に接続されたフィードバック油室70とを備え、低圧及び高圧の2種類のいずれかの一定のライン圧PLを出力する。上記ライン圧油路54には、ライン圧PLが高圧側の値であるときにオン作動し、低圧側の値以下であるときにオフ作動する油圧スイッチSW3が設けられている。
【0039】
モジュール圧調圧弁72は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に拘わらず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定された一定のモジュール圧PMをモジュール圧油路66に出力する。第1ブレーキB1を制御する為の第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2ブレーキB2を制御する為の第2リニヤソレノイド弁SLB2は、上記モジュール圧PMを元圧として電子制御装置150からの指令値である駆動電流ISOL1及びISOL2に応じた制御圧PC1及びPC2を出力する。
【0040】
第1リニヤソレノイド弁SLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)される常開型の弁特性を備え、図5に示すように、駆動電流ISOL1の増加に伴って出力される制御圧PC1が低下させられる。図5に示すように、第1リニヤソレノイド弁SLB1の弁特性には、駆動電流ISOL1が所定値Iaを超えるまで出力される制御圧PC1が低下しない不感帯Aが設けられている。第2リニヤソレノイド弁SLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)される常閉型の弁特性を備え、図6に示すように、駆動電流ISOL2の増加に伴って出力される制御圧PC2が増加させられる。図6に示すように、第2リニヤソレノイド弁SLB2の弁特性には、駆動電流ISOL2が所定値Ibを超えるまで出力される制御圧PC2が増加しない不感帯Bが設けられている。
【0041】
B1コントロール弁76は、ライン圧油路54に接続された入力ポート76a及びB1係合油圧PB1を出力する出力ポート76bとの間を開閉するスプール弁子78と、そのスプール弁子78を開弁方向に付勢する為に上記第1リニヤソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1を受け入れる制御油室80と、スプール弁子78を閉弁方向に付勢するスプリング82を収容し、出力圧であるB1係合油圧PB1を受け入れるフィードバック油室84とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第1リニヤソレノイド弁SLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1を出力し、インターロック弁として機能するB1アプライコントロール弁86を通してブレーキB1に供給する。
【0042】
B2コントロール弁90は、ライン圧油路54に接続された入力ポート90a及びB2係合油圧PB2を出力する出力ポート90bとの間を開閉するスプール弁子92と、そのスプール弁子92を開弁方向に付勢する為に上記第2リニヤソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2を受け入れる制御油室94と、スプール弁子92を閉弁方向に付勢するスプリング96を収容し、出力圧であるB2係合油圧PB2を受け入れるフィードバック油室98とを備え、ライン圧油路54内のライン圧PLを元圧として、第2リニヤソレノイド弁SLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2を出力し、インターロック弁として機能するB2アプライコントロール弁100を通してブレーキB2に供給する。
【0043】
B1アプライコントロール弁86は、B1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる入力ポート86a及び第1ブレーキB1に接続された出力ポート86bとの間を開閉するスプール弁子102と、そのスプール弁子102を開弁方向に付勢する為にモジュール圧PMを受け入れる油室104と、そのスプール弁子102を閉弁方向に付勢するスプリング106を収容し且つB2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室108とを備え、第2ブレーキB2を係合させる為のB2係合油圧PB2が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB2係合油圧PB2が供給されると閉弁状態に切換られて、第1ブレーキB1の係合が阻止される。
【0044】
また、上記B1アプライコントロール弁86には、そのスプール弁子102が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子102が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート110a及び110bが設けられている。この一方のポート110aにはB2係合油圧PB2を検出する為の油圧スイッチSW2が接続され、他方のポート110bには第2ブレーキB2が直接接続されている。この油圧スイッチSW2は、B2係合油圧PB2が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B2係合油圧PB2が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW2は、B1アプライコントロール弁86を介して第2ブレーキB2に接続されているので、B2係合油圧PB2の異常と同時に、第1ブレーキB1の油圧系を構成する第1リニヤソレノイド弁SLB1、B1コントロール弁76、B1アプライコントロール弁86等の異常も判定可能となっている。
【0045】
B2アプライコントロール弁100も、B1アプライコントロール弁86と同様に、B2コントロール弁90から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる入力ポート100a及び第2ブレーキB2に接続された出力ポート100bとの間を開閉するスプール弁子112と、そのスプール弁子112を開弁方向に付勢する為にモジュール圧PMを受け入れる油室114と、そのスプール弁子112を閉弁方向に付勢するスプリング116を収容し且つB1コントロール弁76から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室118とを備え、第1ブレーキB1を係合させる為のB1係合油圧PB1が供給されるまでは開弁状態とされるが、そのB1係合油圧PB1が供給されると閉弁状態に切換られて、第2ブレーキB2の係合が阻止される。
【0046】
上記B2アプライコントロール弁100にも、そのスプール弁子112が開弁位置(図4の中心線の右側に示す位置)であるときに閉じられ、逆にそのスプール弁子112が閉弁位置(図4の中心線の左側に示す位置)にあるときに開かれる一対のポート120a及び120bが設けられている。この一方のポート120aにはB1係合油圧PB1を検出する為の油圧スイッチSW1が接続され、他方のポート120bには第1ブレーキB1が直接接続されている。この油圧スイッチSW1は、B1係合油圧PB1が予め設定された高圧状態となるとオン状態となり、B1係合油圧PB1が予め設定された低圧状態以下となるとオフ状態に切り換えられるように構成されている。この油圧スイッチSW1は、B2アプライコントロール弁100を介して第1ブレーキB1に接続されているので、B1係合油圧PB1の異常と同時に、第2ブレーキB2の油圧系を構成する第2リニヤソレノイド弁SLB2、B2コントロール弁90、B2アプライコントロール弁100等の異常も判定可能となっている。
【0047】
図7は、以上のように構成された油圧制御回路50の作動を説明する図表である。図7では、○印が励磁状態或いは係合状態を示し、×印が非励磁状態或いは解放状態を示している。すなわち、第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2リニヤソレノイド弁SLB2は共に励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が解放状態且つ第2ブレーキB2が係合状態とされ、自動変速機18の低速段Lが達成される。一方、第1リニヤソレノイド弁SLB1及び第2リニヤソレノイド弁SLB2は共に非励磁状態とされることによって、第1ブレーキB1が係合状態且つ第2ブレーキB2が解放状態とされ、自動変速機18の高速段Hが達成される。
【0048】
図8は、車両8(動力伝達装置10)を制御する為に電子制御装置150に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。尚、車両8には、斯かる制御機能による制御に用いられる関係等を記憶する記憶装置152が設けられている。
【0049】
図8において、ハイブリッド駆動制御部すなわちハイブリッド駆動制御手段154は、例えばキーが図示しないキースロットに挿入された後、ブレーキペダル26が操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、アクセル操作量に基づいて運転者の要求出力を算出し、低燃費で排ガス量の少ない運転となるようにエンジン12及び/又は第2電動機MG2から要求出力を発生させる。例えば、エンジン12を停止し専ら第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン12の動力で第1電動機MG1により発電を行いながらエンジン12の動力を機械的に出力軸14(駆動輪22)に伝えて走行するエンジン走行モード、エンジン走行モードにおいて第1電動機MG1による発電電力により第2電動機MG2を駆動して出力軸14にトルクを付加するアシスト走行モード等を、走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0050】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、エンジン12を駆動する場合に、エンジン12が最適燃費曲線上で作動するように第1電動機MG1によってエンジン回転速度NEを制御すると共に、エンジントルクTEを制御する。また、第2電動機MG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが比較的遅い状態では自動変速機18を低速段Lに設定して出力軸14に付加するトルクを大きくし、車速が比較的増大した状態では、自動変速機18を高速段Hに設定して第2電動機MG2の回転速度を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストを実行させる。更に、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギで例えば第2電動機MG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置32にその電力を蓄える。
【0051】
上記エンジン走行モードにおける制御を一例としてより具体的に説明すると、ハイブリッド駆動制御手段154は、動力性能や燃費向上などの為に、エンジン12を効率のよい作動域で作動させる一方で、そのエンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるよう制御する。
【0052】
例えば、ハイブリッド駆動制御手段154は、記憶装置152等に予め記憶された駆動力マップから運転者の出力要求量としてのアクセル開度や車速などに基づいて目標駆動力関連値例えば要求出力軸トルクTRを決定し、その要求出力軸トルクTRから充電要求値等を考慮して要求出力軸パワーを算出し、その要求出力軸パワーが得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルクや自動変速機18の変速段等を考慮して目標エンジンパワーPE*を算出する。そして、ハイブリッド駆動制御手段154は、例えば図9に示すようなエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶されたエンジンの最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン12を作動させつつ目標エンジンパワーPE*が得られるエンジン12の動作点(運転点)すなわちエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるように、エンジン12を制御すると共に第1電動機MG1の発電量を制御する。
【0053】
図9に破線で示すエンジン12の最適燃費率曲線は、等燃費率曲線のうちの最も低い燃費領域をエンジン回転速度NEの上昇に伴って通過するように形成された予め実験的に求められた最適燃費点を結ぶ曲線である。この最適燃費率曲線は、運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジン12の最低燃費動作点を表す点の連なりでもある。また、図9の実線a、b、cは、目標エンジンパワーPE*を表す例であって、等しいエンジンパワーとなるエンジン12の動作点を表す点の連なりでもあり、実線a、b、cの順に目標エンジンパワーPE*は大きくなる。例えば、目標エンジンパワーPE*が図9に示す実線aから実線bに増大させられると、その実線bの目標エンジンパワーPE*が得られる為にエンジン12は最適燃費率曲線に沿って点A1から点A2となるように作動させられる。すなわち、エンジン回転速度NEをNE1からNE2へ上昇させるように例えば第1電動機回転速度NMG1が引き上げられると共に、エンジントルクTEをTE1からTE2へ上昇させるように例えばスロットル制御、燃料噴射制御、点火時期制御等が行われる。
【0054】
ハイブリッド駆動制御手段154は、第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ28、30を介して蓄電装置32や第2電動機MG2へ供給する制御を行う。エンジン12の動力の主要部は機械的に出力軸14へ伝達されるが、そのエンジン12の動力の一部は第1電動機MG1の発電の為に消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ28、30を介してその電気エネルギが第2電動機MG2へ供給され、斯かる電気エネルギによりその第2電動機MG2が電動機として駆動されることで、その第2電動機MG2から出力される動力が自動変速機18を介して出力軸14へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン12の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。尚、ハイブリッド駆動制御手段154は、電気パスによる電気エネルギ以外に、蓄電装置32からインバータ30を介して直接的に電気エネルギを第2電動機MG2へ供給してその第2電動機MG2を駆動することが可能である。
【0055】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、動力分配機構16の差動作用により第1電動機MG1を制御することでエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御することができる。換言すれば、ハイブリッド駆動制御手段154は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機MG1を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0056】
また、ハイブリッド駆動制御手段154は、スロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御したり、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御する為の指令を単独で或いは組み合わせて図示しないエンジン出力制御装置に出力して、必要なエンジン出力を発生させるようにエンジン12の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0057】
図8に戻って、変速制御部すなわち変速制御手段156は、自動変速機18における変速動作を判定し、その判定された変速動作を実行する。例えば、変速制御手段156は、記憶装置152等に予め記憶された図10に示すような変速線図(変速マップ)から、車速V(出力軸回転速度NOUT)及び要求駆動力(例えば予め記憶された駆動力マップからアクセル操作量や車速などに基づいてハイブリッド駆動制御手段154により決定された要求出力軸トルクTR)に基づいて自動変速機18の変速を判断し、その判断結果に基づいた変速段に切り換えるように第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を制御する変速処理を実施する。
【0058】
例えば、変速制御手段156は、低速段Lから高速段Hへの変速動作を判定した場合、油圧制御回路50を介して第1ブレーキB1を係合させると共に第2ブレーキB2を解放させるようにそれらブレーキB1、B2の油圧アクチュエータを制御する。また、高速段Hから低速段Lへの変速動作が判定された場合、油圧制御回路50を介して第1ブレーキB1を解放させると共に第2ブレーキB2を係合させるようにそれらブレーキB1、B2の油圧アクチュエータを制御する。例えば、低速段Lから高速段Hへの変速動作、高速段Hから低速段Lへの変速動作の何れにおいても所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が行われる。
【0059】
図10に示す変速線図において、実線は低速段Lから高速段Hへ切り換える為のアップシフト線(アップ線)であり、破線は高速段Hから低速段Lへ切り換える為のダウンシフト線(ダウン線)であって、アップシフト線とダウンシフト線との間に所定のヒステリシスが設けられている。この図10に示す変速線図は、例えば車両8の性能を充分引き出しつつ燃費の良い状態で運転可能なようにすなわち燃費性能と走行性能(動力性能)とを両立させる変速段にて運転可能なように、予め実験的に求められて記憶装置152に記憶されたものである。つまり、図10に示す変速線図は、燃費性能と動力性能とを両立させる最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)を有する変速マップAである。このように、自動変速機18は、上記変速マップAに従って油圧式摩擦係合装置(ブレーキB1、B2)への作動油の給排が制御されることにより上記最適な変速段が成立させられる。
【0060】
ここで、例えば動力伝達装置10を構成する回転メンバ(回転要素、回転部材)による攪拌(例えばハウジング40内にて作動油に半浸する回転部材による攪拌)等により油圧制御回路50における作動油にエアーが混入する場合がある。そして、作動油にエアーが混入した状態で自動変速機18の変速を実行すると、例えば係合側の油圧式摩擦係合装置を係合に向けて制御する為の所望の係合過渡油圧が得られず、変速ショックの増大を招く可能性がある。一方で、本実施例の動力伝達装置10においては、一方の回転速度に拘わらず他方の回転速度が独立に制御可能であり且つ油圧制御回路50における作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転要素(回転部材)が存在する。例えば、本実施例の動力伝達装置10においては、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2とは一方の回転速度に拘わらず他方の回転速度が独立に制御可能である。また、図11及び図12に示すように、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2との各々の回転速度の変化によって作動油の含泡率が変化させられる。つまり、エンジン回転速度NEと第2電動機回転速度NMG2との各々の回転速度がエア混入に対して各々寄与している。従って、上記2つの回転部材としては、例えばエンジン回転速度NEに1対1に対応してエンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばキャリアCA0、及び第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応して第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素例えば第2サンギヤS2である。また、上記2つの回転部材の各々の回転速度としては、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2である。
【0061】
このように、本実施例の動力伝達装置10では、作動油にエアーを混入させる要因すなわち作動油の泡立ち(攪拌)に影響する要因であるエンジン12の回転駆動と第2電動機MG2の回転駆動とが各々独立して制御されており、例えばそれら各制御の組み合わせにより作動油の攪拌状態が異なる為、見方を換えればエンジン回転速度NEや第2電動機回転速度NMG2の各々の回転速度とエアー混入への寄与度とが異なる為、ある1つの回転メンバの回転速度からでは、エアーの混入進行度合い(エア混入進行度合)を適確に推定(判定)することができない可能性がある。その為、例えば作動油内のエアーの混入に対して適切な処置を実行することができない可能性がある。
【0062】
そこで、本実施例では、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて作動油内のエア混入進行度合を算出する。具体的には、記憶装置152には、例えばエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の予め求められて設定された関係(含泡量推定マップ)が記憶されている。図13は、上記含泡量推定マップの一例を示す図(図表)である。図13において、この含泡量推定マップは、例えば図11及び図12に示した各回転速度に対する作動油含泡率の特性図からも明らかなように、エンジン回転速度NEが高い程、エア混入度合が大きくなるように設定され、第2電動機回転速度NMG2が高い程、エア混入度合が大きくなるように設定されている。また、図13(b)は、図13(a)に示す関係を別の形で表したものであり、実質的に同じ含泡量推定マップである。この図13(b)では、エンジン回転速度NEをパラメータとして第2電動機回転速度NMG2と単位時間当たりのエア混入度合との予め実験的に求められて設定された関係としてマップ化されている。そして、図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を逐次算出し、そのエア混入度合を計数(カウント)することで作動油内のエア混入進行度合を逐次算出する。尚、上記単位時間は、例えば後述する電子制御装置150の制御作動を説明するフローチャート(図15)におけるサイクルタイムであっても良いし、1秒や1分等の所定の時間であっても良い。従って、設定する単位時間に合わせて上記含泡量推定マップが設定されることは言うまでもないことである。
【0063】
より具体的には、図8に戻り、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段158は、例えば車両8がローギヤにて走行中であるか否か、すなわち自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かを判定する。例えば、走行状態判定手段158は、変速制御手段156による油圧制御回路50を介した油圧アクチュエータの制御の状態に基づいて、自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かを判定する。
【0064】
エア混入進行度合算出部すなわちエア混入進行度合算出手段160は、例えば走行状態判定手段158により自動変速機18の変速段が低速段Lとされていると判定される場合には、例えば図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を逐次算出する。次いで、エア混入進行度合算出手段160は、そのエア混入度合を計数(カウントアップ)し、計数結果を作動油内のエア混入進行度合として逐次算出する。
【0065】
エア混入進行度合判定部すなわちエア混入進行度合判定手段162は、例えばエア混入進行度合算出手段160により逐次算出される作動油内のエア混入進行度合が予め実験的に求められて設定された所定値を超えたか否かを判定する。
【0066】
変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。例えば、変速制御手段156は、上記図10に示すような変速マップAのうちの少なくともアップシフト線を、その変速マップAのアップシフト線と比較してハイギヤ比側(すなわち高速段H)が選択されやすいようにすなわちアップシフトが早まるように予め設定されたアップシフト線へ変更する。これは、比較的早くアップシフトして第2電動機回転速度NMG2を低回転化することにより、第2電動機MG2の回転駆動による作動油の泡立ち(攪拌)の影響を抑制してすなわち泡の発生を抑制して作動油内のエアの排出確率を向上するのである。従って、上記所定値としては、例えば作動油内のエア混入により自動変速機18の変速作動に影響を及ぼす程のエア混入進行度合の値となる前の値として予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0067】
図14は、図10に示す変速マップAのアップシフト線(実線)のみをその変速マップAのアップシフト線と比較して高速段Hが選択されやすいように変更したエア抑制用アップシフト線(二点鎖線)を有する予め実験的に求められて記憶装置152に記憶された変速マップBである。図14に示すように、エア抑制用アップシフト線(二点鎖線)は、変速マップAのアップシフト線(実線)と比較して、例えば車速Vがより低い領域にて且つ要求駆動力がより高い領域にて高車速側(ハイギヤ側)の高速段Hが選択されるようにすなわちより早くアップシフトが判定されるように、あたかも変速マップAのアップシフト線を左側(低車速側)へずらした位置に予め設定されている。
【0068】
つまり、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が未だ所定値を超えていないと判定される場合には、図10に示すような変速マップAに従って変速を実行する。一方で、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、図14に示すような変速マップBに従って変速を実行する。
【0069】
図15は、電子制御装置150の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図16は、図15のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0070】
図15において、先ず、走行状態判定手段158に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば車両8がローギヤにて走行中であるか否かすなわち自動変速機18の変速段が低速段Lとされているか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はエア混入進行度合算出手段160に対応するS20において、例えば図13に示すような含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が算出される。次いで、同じくエア混入進行度合算出手段160に対応するS30において、例えば上記S20にて算出されたエア混入度合が計数(カウントアップ)され、その計数結果が作動油内のエア混入進行度合として算出される。次いで、エア混入進行度合判定手段162に対応するS40において、例えば上記S30にて算出された作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えたか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は変速制御手段156に対応するS50において、例えば自動変速機16の変速に用いる変速マップとして図14に示すような変速マップBがセットされ、その変速マップBに従って変速が実行される。一方、上記S40の判断が否定される場合は同じく変速制御手段156に対応するS60において、例えば自動変速機16の変速に用いる変速マップとして図10に示すような変速マップAがセットされ、その変速マップAに従って変速が実行される。
【0071】
図16において、実線は適確に算出された作動油内のエア混入進行度合に応じて変速マップが変速マップAと変速マップBとで切り換えられる場合にアップシフトが実行された本実施例を示しており、破線は常時変速マップAを用いた場合或いは作動油内のエア混入進行度合が適確に算出されなかった場合にアップシフトが実行された従来例を示している。破線に示す従来例では、エアー混入により第1ブレーキB1を係合させる際の係合過渡油圧に応答遅れが発生し、変速過渡中において第2電動機回転速度NMG2が吹き上がり、車両加速度Gの落ち込みが発生し、変速ショックが増大している。これに対して、実線に示す本実施例では、第1ブレーキB1を係合させる際に所望の係合過渡油圧が得られ、変速過渡中における第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込みが確実に抑制されて、変速ショックが抑制される。尚、所望の係合過渡油圧が得られるということは、例えば予め求められて設定される変速時の係合過渡油圧指令値に対して想定した如く実際の係合過渡油圧が変化することである。
【0072】
上述のように、本実施例によれば、例えば図13に示すような含泡量推定マップから作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度(エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2)に基づいて単位時間当たりの作動油内のエア混入度合が逐次算出され、そのエア混入度合が計数(カウントアップ)されることで作動油内のエア混入進行度合が逐次算出されるので、2つの回転部材の回転駆動が各々独立に制御され得る動力伝達装置10において、自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合を適確に算出(推定)することができる。これにより、例えば自動変速機10の変速に関する油圧制御を変更するなど作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができる。
【0073】
また、本実施例によれば、逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば自動変速機18の変速に関与する作動油内のエア混入進行度合に応じて作動油からエアを排出しやすくしたり、変速ショックの増大を抑制することが可能になる。
【0074】
また、本実施例によれば、最適な変速段が選択されるように予め設定された図10に示すような変速マップAのアップシフト線を、そのアップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定された図14に示すような変速マップBのアップシフト線へ変更することにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、自動変速機18がアップシフトされ易くなり、その自動変速機18のアップシフトによる第2電動機回転速度NMG2の低下により作動油の攪拌が減少させられて作動油からエアを排出し易くなる。つまり、変速ショックが悪化する前に早めにアップシフトさせることができ、実際のアップシフト時の変速ショックが適切に抑制される。
【0075】
また、本実施例によれば、前記2つの回転部材は、エンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばキャリアCA0、及び第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素例えば第2サンギヤS2であるので、前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが適切に設定され、その含泡量推定マップから前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0076】
また、本実施例によれば、前記2つの回転部材の各々の回転速度は、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2であるので、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが適切に設定され、その含泡量推定マップからエンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいてエア混入度合が適切に算出される。そして、そのエア混入度合が計数されることで作動油内のエア混入進行度合が適切に算出される。
【0077】
また、本実施例によれば、前記エア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップは、エンジン回転速度NEが高い程、エア混入度合が大きくなるように設定され、第2電動機回転速度NMG2が高い程、エア混入度合が大きくなるように設定されているので、エンジン回転速度NE及び第2電動機回転速度NMG2に基づいて前記単位時間当たりの作動油内のエア混入度合を算出する為の例えば図13に示すような含泡量推定マップが一層適切に備えられる。
【0078】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0079】
前述の実施例では、エア混入進行度合が所定値を超えた場合に自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する態様として、最適な変速段が選択されるように予め設定された図10に示すような変速マップAのアップシフト線を、その変速マップAのアップシフト線と比較して高速段Hが選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更した。本実施例では、エア混入進行度合が所定値を超えた場合に自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する別の態様として、自動変速機18の変速過渡中において、作動油内のエア混入による係合側の油圧式摩擦係合装置の実油圧の上昇遅れを補償するように解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることを提案する。これは、自動変速機18の変速過渡中において係合側の油圧式摩擦係合装置を係合させる際に、作動油内のエア混入により所望の係合過渡油圧が得らず、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込み等が生じることに対して、係合過渡油圧の上昇が遅れる分だけ解放側の油圧式摩擦係合装置の解放過渡油圧の低下を遅らせて、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等を抑制するのである。従って、本実施例における上記所定値としては、例えば作動油内のエア混入により自動変速機18の変速作動に影響を及ぼす程のエア混入進行度合の値として予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0080】
具体的には、図8に戻り、変速制御手段156は、前述の実施例における変速マップの変更に替えて、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、例えばアップシフト時に第1ブレーキB1を係合させると共に第2ブレーキB2を解放させる際のクラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期を所定時間だけ遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。上記所定時間は、第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等が抑制される為の予め実験的に求められて設定された一定時間である。尚、この所定時間として一定時間を用いず、例えばエア混入進行度合が大きい程、所定時間が長く設定されるようにしても良い。これによって、一層適切に第2電動機回転速度NMG2の吹き上がり等が抑制される。
【0081】
図17は、電子制御装置150の制御作動の要部すなわち作動油内のエア混入に対して適切な処置を実行することができるように作動油内のエア混入進行度合を適確に算出する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図17のフローチャートは、図15のフローチャートに相当する別の実施例であり、図15におけるステップS50及びS60がステップS50’及びS60’となっている点が主に相違する。従って、図17のフローチャートの説明では、その相違する部分のみを示す。また、図18は、図17のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0082】
図17において、S40の判断が肯定される場合は変速制御手段156に対応するS50’において、例えば自動変速機16のアップシフトが実行される際には、第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期が所定時間だけ遅延させられる。一方、上記S40の判断が否定される場合は同じく変速制御手段156に対応するS60’において、例えば自動変速機16のアップシフトが実行される際には、クラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される変速油圧指令値(第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧指令値及び第1ブレーキB1を係合させる際の係合過渡油圧)による通常変速制御が実行される。
【0083】
図18において、実線は適確に算出された作動油内のエア混入進行度合に応じてアップシフト時の第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値が変更された場合の本実施例を示しており、破線は作動油内のエア混入進行度合が適確に算出されなかった為にエア混入進行度合が大きいにも拘わらずアップシフト時の第2ブレーキB2の解放過渡油圧指令値が変更されなかった場合の従来例を示している。破線に示す従来例では、エアー混入による第1ブレーキB1の係合過渡油圧の応答遅れの発生により、変速過渡中において第2電動機回転速度NMG2が吹き上がり、車両加速度Gの落ち込みが発生し、変速ショックが増大している。これに対して、実線に示す本実施例では、第1ブレーキB1の係合過渡油圧の応答遅れ(上昇遅れ)を補償するように第2ブレーキB2の解放過渡油圧の低下が遅延させられ、変速過渡中における第2電動機回転速度NMG2の吹き上がりや車両加速度Gの落ち込みが確実に抑制されて、変速ショックが抑制される。
【0084】
上述のように、本実施例によれば、自動変速機18のアップシフトに際して、第1ブレーキB1を係合させる際のエア混入による係合過渡油圧の上昇遅れを補償するように第2ブレーキB2を解放させる際の解放過渡油圧の低下を遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更するので、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、変速過渡過程(アップシフト過程)における解放側油圧の低下が遅延され易くなり、変速過渡過程における第2電動機回転速度NMG2の上昇(吹き)を抑制し易くなる。つまり、例えば作動油内のエア混入進行度合が所定値を超えた場合であっても、実際の変速時(アップシフト時)の変速ショックが適切に抑制される。
【0085】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0086】
例えば、前述の実施例では、2つの回転部材として、例えばエンジン12により回転駆動されるキャリアCA0及び第2電動機MG2により回転駆動される第2サンギヤS2を例示したが、必ずしもそれに限られることはない。要は、回転速度が独立に制御可能であり且つ作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材であれば本発明は適用され得る。例えば、一方の回転部材が第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応して第2電動機MG2により回転駆動される自動変速機18の回転要素である場合、他方の回転部材は第2電動機回転速度NMG2とは独立に(すなわち第2電動機回転速度NMG2の変化に関係なく)第1電動機回転速度NMG1に1対1に対応して第1電動機MG1により回転駆動される動力分配機構16の回転要素例えばサンギヤS0などであれば良い。このような場合には、2つの回転部材の各々の回転速度は、例えば第2電動機回転速度NMG2及び第1電動機回転速度NMG1であり、第2電動機回転速度NMG2及び第1電動機回転速度NMG1を基に図13に示すような含泡量推定マップが設定される。また、例えば、一方の回転部材がエンジン回転速度NEに1対1に対応してエンジン12により回転駆動される動力分配機構16の回転要素である場合、他方の回転部材はエンジン回転速度NEとは独立に(すなわちエンジン回転速度NEの変化に関係なく)第2電動機回転速度NMG2に1対1に対応する自動変速機18の回転要素例えばキャリアCA1(すなわち出力軸14)などであれば良い。このような場合には、2つの回転部材の各々の回転速度は、例えばエンジン回転速度NE及び出力軸回転速度NOUT(=第2電動機回転速度NMG2/自動変速機18の変速比γs)であり、エンジン回転速度NE及び出力軸回転速度NOUTを基に図13に示すような含泡量推定マップが設定される。このようにしても同様の効果が得られる。
【0087】
また、前述の実施例2では、自動変速機18の変速制御としてアップシフトを例示したが、ダウンシフトであっても本発明は適用され得る。具体的には、変速制御手段156は、エア混入進行度合判定手段162によりエア混入進行度合が所定値を超えたと判定される場合には、例えばダウンシフト時に第2ブレーキB2を係合させると共に第1ブレーキB1を解放させる際のクラッチ・ツウ・クラッチ変速において予め求められて設定される第1ブレーキB1を解放させる際の解放過渡油圧指令値におけるスイープダウン(油圧漸減指令)の開始時期を所定時間だけ遅延させることにより、自動変速機18の変速に関する油圧制御を変更する。このようにしても、同様の効果が得られる。尚、この場合には、図17のフローチャートにおけるS10のステップは必要ない。
【0088】
また、前述の実施例では、自動変速機18は第2電動機MG2の出力したトルクが増大させられて出力軸14に付加されるように、第2電動機MG2と出力軸14との間に備えられた低速段Lと高速段Hとを有する2段の自動変速機(減速機)であったが、この自動変速機18に限らず、第2電動機MG2の出力したトルクが出力軸14に伝達されるように第2電動機MG2と出力軸14との間に備えられた自動変速機であれば本発明は適用され得る。例えば、3段以上の変速段を有する遊星歯車式多段変速機、一部或いは全部の変速段においてMG2の出力したトルクが増大させられて出力軸14に付加される有段式自動変速機などであっても良い。また、3段以上の変速段を有する遊星歯車式多段変速機が採用される場合には、図15のフローチャートにおけるS10のステップにおいて例えば最ハイギヤ比を除くギヤ段での走行中であるか否かが判定される。
【0089】
また、前述の実施例において、電気式無段変速機17は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させられる電気式変速機構であったが、電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0090】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。また、動力分配機構16は、例えばエンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び出力軸14に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0091】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
10:車両用動力伝達装置
12:エンジン
14:出力軸
16:動力分配機構(差動機構)
17:電気式無段変速機(電気式変速機構)
18:自動変速機(機械式変速機構)
150:電子制御装置(制御装置)
B1:第1ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
B2:第2ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
CA0:キャリア(差動機構の回転部材)
S2:第2サンギヤ(自動変速機の回転部材)
MG1:第1電動機(差動用電動機)
MG2:第2電動機(走行用電動機)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有して該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる自動変速機と、該電気式変速機構の出力軸に該自動変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
回転速度が独立に制御可能であり且つ前記作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて単位時間当たりの該作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係を備え、
前記関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて前記単位時間当たりのエア混入度合を逐次算出し、
該エア混入度合を計数することで前記作動油内のエア混入進行度合を逐次算出することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機は、最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線に従って前記油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることにより該最適な変速段が成立させられるものであり、
前記最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線のうちの少なくともアップシフト線を、該アップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更することにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機は、前記油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構であり、
エア混入による前記係合側の油圧式摩擦係合装置の油圧の上昇遅れを補償するように前記解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記2つの回転部材は、前記エンジンにより回転駆動される前記差動機構の回転部材、及び前記走行用電動機により回転駆動される前記自動変速機の回転部材であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記2つの回転部材の各々の回転速度は、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記エア混入度合を算出する為の予め設定された関係は、前記エンジンの回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定され、前記走行用電動機の回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有して該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる自動変速機と、該電気式変速機構の出力軸に該自動変速機を介して動力伝達可能に連結される走行用電動機とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
回転速度が独立に制御可能であり且つ前記作動油に対するエア混入への寄与度が異なる2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて単位時間当たりの該作動油内のエア混入度合を算出する為の予め設定された関係を備え、
前記関係から前記2つの回転部材の各々の回転速度に基づいて前記単位時間当たりのエア混入度合を逐次算出し、
該エア混入度合を計数することで前記作動油内のエア混入進行度合を逐次算出することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記逐次算出されるエア混入進行度合が所定値を超えた場合には、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機は、最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線に従って前記油圧式摩擦係合装置への作動油の給排が制御されることにより該最適な変速段が成立させられるものであり、
前記最適な変速段が選択されるように予め設定された変速線のうちの少なくともアップシフト線を、該アップシフト線と比較してハイギヤ比側が選択されやすいように予め設定されたアップシフト線へ変更することにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機は、前記油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速段が切り替えられる機械式変速機構であり、
エア混入による前記係合側の油圧式摩擦係合装置の油圧の上昇遅れを補償するように前記解放側の油圧式摩擦係合装置の油圧の低下を遅延させることにより、前記自動変速機の変速に関する油圧制御を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記2つの回転部材は、前記エンジンにより回転駆動される前記差動機構の回転部材、及び前記走行用電動機により回転駆動される前記自動変速機の回転部材であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記2つの回転部材の各々の回転速度は、前記エンジンの回転速度及び前記走行用電動機の回転速度であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記エア混入度合を算出する為の予め設定された関係は、前記エンジンの回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定され、前記走行用電動機の回転速度が高い程、前記エア混入度合が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−179627(P2011−179627A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46131(P2010−46131)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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