説明

車両用心電計測装置

【課題】電極からの距離が長くても、ノイズの影響を受け難い車両用心電計測装置を得る。
【解決手段】車両のステアリングホイール1に設けられ、運転者の皮膚に接触して運転者の身体電位を検出する直接電極2と、車両のシート4に設けられ、電気的絶縁状態で運転者の身体電位を検出する容量結合型電極6と、直接電極2における電位と容量結合型電極6における電位とに基づき運転者の心電図波形を計測する心電図波形計測器8とを備える。また、直接電極2からの検出信号を増幅して心電図波形計測器8に出力するステアリング側アンプ16を設けると共に、ステアリング側アンプ16は心電図波形計測器8とステアリング側アンプ16とを接続するスパイラルケーブル10aよりもステアリング側に設ける。かつ、容量結合型電極6からの検出信号を増幅して心電図波形計測器8に出力するシート側アンプ22をシート4の座部4aの表皮30の下側に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の心電図波形を計測する車両用心電計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、身体電位を計測する電極を用いて心臓の電気的な活動を検出し、グラフの形に記録した心電図が、医療の現場で広く利用されている。このような心電図波形を車両を運転中の運転者について計測する技術について研究が進められており、運転者の心臓の活動を監視することにより、運転中における運転者の心臓の異常に起因する種々の不都合を未然に抑制することが期待されている。
【0003】
このような装置として、特許文献1にあるように、ステアリングに運転者の皮膚に接触して運転者の身体電位を検出する直接電極を設け、また、シートに運転者の皮膚に接触せずに運転者の身体電位を検出する容量結合型電極を設け、両電極と計測回路とを接続し、直接電極における電位と容量結合型電極における電位とに基づき運転者の心電図波形を計測する車両用心電計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−24903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こうした従来のものでは、両電極と計測回路との距離が長く、また、両電極により検出される信号は微小であるため、車両のようなノイズが大きい環境ではノイズの影響を大きく受けて心電図波形を適切に得ることが難しい場合があるという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、電極からの距離が長くても、ノイズの影響を受け難い車両用心電計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、
車両のステアリングホイールに設けられ、運転者の皮膚に接触して前記運転者の身体電位を検出する直接電極と、
前記車両のシートに設けられ、電気的絶縁状態で前記運転者の身体電位を検出する容量結合型電極と、
前記直接電極における電位と前記容量結合型電極における電位とに基づき前記運転者の心電図波形を計測する心電図波形計測器とを備えた車両用心電計測装置において、
前記直接電極からの検出信号を増幅して前記心電図波形計測器に出力するステアリング側アンプを設けると共に、該ステアリング側アンプは前記心電図波形計測器と前記ステアリング側アンプとを接続するスパイラルケーブルよりもステアリングホイール側に設け、
かつ、前記容量結合型電極からの検出信号を増幅して前記心電図波形計測器に出力するシート側アンプを前記シートの座部の表皮の下側に設けたことを特徴とする車両用心電計測装置がそれである。
【0008】
前記シート側アンプは前記シートの座部の表皮の下側で、前記座部のウレタン内に収納した構成としてもよい。また、前記直接電極または前記容量結合型電極を複数に分割した構成としてもよい。更に、前記容量結合型電極を前記シートの表皮の裏面側に固定した構成としてもよい。また、導電性の縫い糸を用いた表皮または導電性の織布からなる表皮を前記直接電極あるいは前記容量結合型電極とした構成としてもよい。前記容量結合型電極を固定する前記シートの表皮を薄く形成した構成としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用心電計測装置は、直接電極による検出信号がスパイラルケーブルを通る前にステアリング側アンプにより増幅され、容量結合型電極による検出信号もシート側アンプにより増幅されるので、心電図波形計測器に入力される際にノイズレベルが相対的に小さくなり、電極からの距離が長くても、ノイズの影響を受け難く、しかも、スパイラルケーブルを通る前にステアリング側アンプにより増幅されるので、スパイラルケーブルでノイズを拾ってもノイズレベルが相対的に小さくなるという効果を奏する。
【0010】
また、シート側アンプをシートの内部に設けることにより、よりノイズ耐性を向上できる。更に、電極を複数に分割して、検出信号の振幅レベルが大きくなる部分を抽出することにより、ノイズ耐性を向上できる。容量結合型電極をシートに固定することにより、擦れることによるノイズの発生を抑制できる。また、導電性の縫い糸を電極として用いることにより、意匠性を向上できると共にノイズを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態としての車両用心電計測装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態のステアリングホイールの拡大側面図である。
【図3】本実施形態のシートの拡大側面図である。
【図4】本実施形態のシート座部の要部拡大断面図である。
【図5】別の実施形態のステアリングホイールの正面図である。
【図6】別の実施形態のシート座部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態としての車両用心電計測装置の概略構成図である。図1に示すように、1はステアリングホイールで、ステアリングホイール1には導電性材料により形成された直接電極2がステアリングホイール1の外周表面に露出して設けられている。直接電極2は、車両の運転者の皮膚に接触して運転者の身体電位を検出するための電極であり、例えば、クロムメッキ樹脂等により形成して、ステアリングホイール1の表面に取り付けるようにするとよい。
【0013】
運転者が着座するシート4には、その座部4aに容量結合型電極6が設けられている。容量結合型電極6は、運転者の皮膚に接触せずに運転者の身体と仮想コンデンサを形成し、電気的絶縁状態で静電容量結合によって運転者の身体電位を検出するための電極である。
【0014】
直接電極2と心電図波形計測器8とがステアリング側信号線10により接続されており、また、容量結合型電極6と心電図波形計測器8とがシート側信号線12により接続され、運転者の身体電位の変動に応じて変動する容量結合型電極6の電位を心電図波形計測器8に伝達する。
【0015】
心電図波形計測器8は、図示しないボルテージフォロアやアンプ、マイクロコンピュータ、メモリ等により構成されており、直接電極2及び容量結合型電極6を介して検出される運転者の身体電位の電位差を算出する。この電位差に基づく電圧信号をフィルタリング処理等すると共に所定周期でサンプリングし、時系列データとしてメモリに記憶する。この時系列データが心電図波形である。
【0016】
心電図波形計測器8は、心電図波形に異常がないか否かを監視し、異常があると判断した場合に警報を発したり、車両を徐々に停止させたりする等の運転支援制御を行うことができる。また、無線通信によって車外設備に心電図波形に係るデータを送信し、車外設備において波形に異常がないか否かを監視することもできる。
【0017】
心電図波形計測器8は車両制御コンピュータ14に接続されており、車速センサ等の出力が入力されるように構成され、車両が走行中であると判定した場合には、心電図波形のうちR波ピーク(R波の波高)の間隔等に基づいて運転者の心臓状態を大局的に判定し、車両が停車中であると判定された場合には、心電図波形のうちR波ピークを含む心電図波形全体に基づいて運転者の心臓状態をより厳密に判定するものとしてもよい。
【0018】
ここで、心電図波形は、主に、心房の電気的興奮を反映するP波と、心室の電気的興奮を反映するQ、RおよびS波と、興奮した心室の心筋細胞が再分極する過程を反映するT波とから構成され、R波の波高(電位差)が最も大きい。
【0019】
従って、車両走行中においては、心電図波形のうち波高が最も大きい部分であるR波ピークの間隔等に基づき運転者の心臓状態を大局的に判定する。一方、車両停車中においては運転者が安静状態になり易く筋電位等のノイズを少なくすることができるので、R波よりも波高の小さいT波およびP波を含めた心電図波形全体に基づき運転者の心臓状態をより厳密に判定する。
【0020】
車両の走行中においては、心電図波形からR波ピークのみを検出し、その周期から一分間当たりの心拍数を算出する。そして、RR間隔から心拍数のゆらぎを監視し、この心拍数のゆらぎを周波数解析し低周波成分および高周波成分を算出する。そして、算出した心拍数および低周波成分/高周波成分比に基づいて不整脈の有無を判定する。不整脈のおそれがあると判定した場合は、車両の駆動装置やブレーキ装置に干渉制御して車両を徐々に停止させたり、表示装置に警告画面を表示させたりする制御を行なってもよい。
【0021】
不整脈のおそれがあると判定した場合は、通信装置を介して、予め登録された連絡先に自動的に通報したり、或いは、車外に緊急事態を知らせるようホーンを鳴らしたり、ライトを点滅させたりするようにするとよい。
【0022】
直接電極2と心電図波形計測器8とを接続するステアリング側信号線10には、ステアリング側アンプ16が介装されており、ステアリング側アンプ16は直接電極2からの検出信号を増幅して心電図波形計測器8に出力する周知の増幅器である。
【0023】
心電図波形計測器8とステアリング側アンプ16との間のステアリング側信号線10には、図2に示すように、一部にスパイラルケーブル10aが用いられており、本実施形態では、スパイラルケーブル10aには薄板状のフレキシブルフラットケーブルが用いられ、ステアリングシャフト18の周囲に巻回されている。
【0024】
スパイラルケーブル10aはステアリングシャフト18の回転に応じて巻き緩み、巻き締まりして、ステアリングシャフト18の回転の影響を受けることなく、信号の送受信ができるように構成されている。スパイラルケーブル10aにはステアリング側信号線10以外にも他の電力線や信号線も複数設けられている。ステアリング側アンプ16は直接電極2の近傍に設けられ、ステアリングホイール1の回転と共に回転するハウジング20に配置されている。
【0025】
容量結合型電極6と心電図波形計測器8とを接続するシート側信号線12には、シート側アンプ22が介装されており、シート側アンプ22は容量結合型電極6からの検出信号を増幅して心電図波形計測器8に出力する周知の増幅器である。ステアリング側アンプ16とシート側アンプ22とは接地線24により共に接地されている。ステアリング側アンプ16とシート側アンプ22とには、同性能のものが用いられている。
【0026】
シート側アンプ22は、図3に示すように、シート4の座部4aの内部に設けられると共に、容量結合型電極6とシート側アンプ22との間のシート側信号線12の長さが短くなるように容量結合型電極6の近傍に設けられている。図4に示すように、シート4は、硬質ウレタン26、ウレタン28、表皮30が順に積層されており、運転者の臀部が乗る座部4aの硬質ウレタン26には凹部26aが形成されている。凹部26aに対応して、ウレタン28には穴部28aが形成されおり、凹部26aにシート側アンプ22が収納されて、シート側アンプ22が座部4aの表皮30の下側に設けられると共に、座部4aのウレタン28の内部に収納されている。
【0027】
本実施形態では、容量結合型電極6は導電性繊維からなるシート状の導電体で、容量結合型電極6の背面側にはゴムプレート32が配置されている。また、ゴムプレート32の下面には、容量結合型電極6の背面側を覆ってノイズ侵入のシールドをするようにガード電極34が設けられており、容量結合型電極6、ゴムプレート32、ガード電極34は接着剤等により一体的に固定されている。
【0028】
また、容量結合型電極6、ゴムプレート32、ガード電極34はシート側アンプ22の上側で凹部26aと穴部28aとに収納されている。凹部26aに対応する表皮30は薄く形成されており、本実施形態では、表皮30の裏側が窪まされ、この薄くされた表皮30の裏面側に容量結合型電極6が接着剤等で固定されている。容量結合型電極6がシート4の表皮30に固定されていることで車両の振動等により発生するシート4の表皮30と容量結合型電極6間の振動(摩擦)ノイズに対しても改善することができる。尚、表皮30には皮革やファブリック等の周知の非導電性の材料が用いられている。
【0029】
次に、前述した本実施形態の車両用心電計測装置の作動について説明する。運転者がシート4に着座して運転が開始されると、運転者の手が直接接触している直接電極2による検出信号がステアリング側アンプ16に入力され、ステアリング側アンプ16により増幅されてスパイラルケーブル10a、ステアリング側信号線10を介して心電図波形計測器8に入力される。
【0030】
検出信号がスパイラルケーブル10aを通る前に、ステアリング側アンプ16により増幅されるので、スパイラルケーブル10aでノイズを拾っても、心電図波形計測器8に入力される際には、ノイズのレベルが相対的に小さくなり、S/N比が改善される。
【0031】
また、容量結合型電極6による検出信号がシート側アンプ22に入力され、シート側アンプ22により増幅されてシート側信号線12を介して心電図波形計測器8に入力される。心電図波形計測器8は両信号による電位差に基づく電圧信号をフィルタリング処理等すると共に所定周期でサンプリングし、心電図波形を得る。
【0032】
容量結合型電極6による検出信号もシート側アンプ22により増幅されるので、シート側信号線12でノイズを拾っても、心電図波形計測器8に入力される際には、ノイズのレベルが相対的に小さくなると共に、両信号による電位差を算出する際に、同じ車両ノイズをキャンセルすることができるので、ノイズ耐性を向上させることができる。
【0033】
また、容量結合型電極6は表皮30に固定されているので、容量結合型電極6と表皮30とが擦れることにより発生するノイズを抑制できるので、ノイズの低減を図ることができる。
【0034】
直接電極2をステアリングホイール1の周方向に沿って複数に分割したり、容量結合型電極6を前後左右に分割してもよい。電極面積が大きくなるとアンテナとして空間のノイズを拾いやすくなり、電極2,6を分割し、分割した各電極の比較を行い検出信号の振幅レベルが大きくなる部分を抽出することでノイズ耐性を向上できる。
【0035】
図5に示すように、前述した直接電極2に代えて、ステアリングホイール1のカバーの縫い目に導電性の縫い糸42を用いてもよい。これにより、意匠性に優れたものになる。また、図6に示すように、容量結合型電極6を導電性を有する縫い糸44により表皮30に固定してもよく、あるいは、前述した容量結合型電極6を用いることなく、縫い糸44を容量結合型電極として用いてもよい。縫い糸44が表面に露出していても、運転者の被服により縫い糸44とは電気的絶縁が保たれ、ノイズの低減も図ることができる。更に、ステアリングホイール1の表皮やシート4の表皮を導電性の織布から形成して、これらの表皮を直接電極や容量結合型電極としてもよい。
【0036】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0037】
1…ステアリングホイール 2…直接電極
4…シート 4a…座部
6…容量結合型電極 8…心電図波形計測器
10…ステアリング側信号線 10a…スパイラルケーブル
12…シート側信号線 14…車両制御コンピュータ
16…ステアリング側アンプ 22…シート側アンプ
24…接地線 26…硬質ウレタン
26a…凹部 28…ウレタン
28a…穴部 30…表皮
32…ゴムプレート 34…ガード電極
42,44…縫い糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールに設けられ、運転者の皮膚に接触して前記運転者の身体電位を検出する直接電極と、
前記車両のシートに設けられ、電気的絶縁状態で前記運転者の身体電位を検出する容量結合型電極と、
前記直接電極における電位と前記容量結合型電極における電位とに基づき前記運転者の心電図波形を計測する心電図波形計測器とを備えた車両用心電計測装置において、
前記直接電極からの検出信号を増幅して前記心電図波形計測器に出力するステアリング側アンプを設けると共に、該ステアリング側アンプは前記心電図波形計測器と前記ステアリング側アンプとを接続するスパイラルケーブルよりもステアリングホイール側に設け、
かつ、前記容量結合型電極からの検出信号を増幅して前記心電図波形計測器に出力するシート側アンプを前記シートの座部の表皮の下側に設けたことを特徴とする車両用心電計測装置。
【請求項2】
前記シート側アンプは前記シートの座部の表皮の下側で、前記座部のウレタン内に収納したことを特徴とする請求項1に記載の車両用心電計測装置。
【請求項3】
前記直接電極または前記容量結合型電極を複数に分割したことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の車両用心電計測装置。
【請求項4】
前記容量結合型電極を前記シートの表皮の裏面側に固定したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用心電計測装置。
【請求項5】
導電性の縫い糸を用いた表皮または導電性の織布からなる表皮を前記直接電極あるいは前記容量結合型電極としたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用心電計測装置。
【請求項6】
前記容量結合型電極を固定する前記シートの表皮を薄く形成したことを特徴とする請求項4に記載の車両用心電計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63214(P2013−63214A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204548(P2011−204548)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】