車両用操舵制御装置
【課題】クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することで、実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる車両用操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵ハンドルとは機械的に切り離され、操舵ハンドルの操作状態に応じて左右前輪を転舵する舵取り機構と、前記操舵ハンドルと前記舵取り機構とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段(ステップS104)と、前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵ハンドルのトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段(ステップS105)と、を備えた。
【解決手段】操舵ハンドルとは機械的に切り離され、操舵ハンドルの操作状態に応じて左右前輪を転舵する舵取り機構と、前記操舵ハンドルと前記舵取り機構とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段(ステップS104)と、前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵ハンドルのトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段(ステップS105)と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が操作する操作部と操向輪を転舵する転舵部とを機械的に断接するバックアップクラッチを備えたステアバイワイヤシステムによる車両用操舵制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンドルと前輪の舵取り機構とが機械的に切り離された、いわゆるステアバイワイヤ(SBW)システムでは、ハンドルと舵取り機構とを機械的に連結するバックアップ手段としてバックアップクラッチを備えている。SBWシステムの一部に失陥が発生した場合には、速やかにバックアップクラッチを接続してSBW制御を中止する。
そして、例えば、反力アクチュエータの失陥時は、転舵アクチュエータの制御ゲインを低下またはゼロにすることで、失陥検出後からバックアップクラッチが締結するまでの所定時間、転舵アクチュエータの動作を制限し、車両の挙動が不安定になることを抑えるようにしている。前記所定時間は、クラッチ締結時間を予め実験などにより計測しておき、複数データの最大値など、確実にバックアップクラッチが締結する時間に設定される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−096745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、バックアップクラッチが締結動作中であると推定される所定時間中は転舵角が保持されるため、実際にバックアップクラッチの締結に要する時間が所定時間より短い場合、バックアップクラッチが締結された後も転舵角が保持されることになる。このため、実際にバックアップクラッチが締結してから所定時間が経過するまでの間、バックアップクラッチを介して操向輪とハンドルとが直結された状態となり、ハンドルが保持されるように反力が発生し、操舵違和感となってしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチが実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる車両用操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の車両用操舵制御装置では、
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記操作部に操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵トルク検出手段からの操舵トルク検出値がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
を備え、
前記クラッチ締結判定手段は、前記クラッチ締結判定閾値を、前記操作部と前記転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用操舵制御装置にあっては、バックアップクラッチの開放状態で、失陥などの発生により操作部と転舵部との機械的連結条件が成立すると、クラッチ締結指令手段において、バックアップクラッチに対し締結指令が出力される。そして、クラッチ締結判定手段において、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、操作部のトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定される。
すなわち、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された場合、反力制御を中止した状態でバックアップクラッチが締結されていない間は、操作部の操舵トルクはほぼゼロとなる。しかし、バックアップクラッチが締結されると、路面からのトルクがバックアップクラッチを介して操作部側へ伝達されるため、操作部の操舵トルクが増加する。
したがって、バックアップクラッチが締結されると操作部の操舵トルクが増加するという関係を利用すれば、バックアップクラッチの締結を判定することができる。
しかも、このクラッチ締結判定では、操舵状態によって変動し易いバックアップクラッチの締結所要時間の終点を、バックアップクラッチを介したトルク伝達の有無を監視することで判定するため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することができる。
そして、クラッチ締結判定結果に基づき、バックアップクラッチが実際に締結された直後から、例えば、電動パワーステアリング制御モードなどのように、スムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
この結果、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチが実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両用操舵制御装置を適用したステアバイワイヤシステムの全体構成図である。
【図2】実施例1のステアバイワイヤ制御のうち転舵制御としてロバストモデルマッチング手法を採用した場合の制御ブロック図である。
【図3】実施例1の反力コントローラおよび転舵コントローラにて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の制御モード切り替え制御処理のクラッチ締結判定ステップにて用いられる相対回転角速度と所定値Aとの関係の一例を示すマップ図である。
【図5】従来技術においてクラッチ締結時間と予め設定された所定時間Taとが一致すると仮定した場合の反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図6】従来技術においてクラッチ締結時間が予め設定された所定時間Taより短い場合の反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1での反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図8】実施例2の反力コントローラおよび転舵コントローラにて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャート(図8(a))、および、図8(a)のステップS206で実行される転舵スロー制御モードでの転舵モータへの指令転舵角の演算処理を示すフローチャート(図8(b))である。
【図9】実施例2の転舵スロー制御でのギア比設定ステップにて用いられる操舵角速度とギア比との関係の一例を示すマップ図である。
【図10】実施例2での反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図11】実施例3の転舵コントローラにて実行される電源電圧低下時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例3の反力コントローラにて実行される反力制御停止処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】実施例3の反力制御停止処理の所定時間設定ステップにて用いられる相対回転角速度と所定時間Bとの関係の一例を示すマップ図である。
【図14】従来技術での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図15】実施例3での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用操舵制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1〜実施例3に基づいて説明する。
〔実施例1〕
【0010】
まず、構成を説明する。
[全体構成]
図1は、実施例1の車両用操舵制御装置を適用したステアバイワイヤ(SBW)システムの構成図である。
実施例1のSBWシステムは、図1に示すように、操舵ハンドル1(操作部)と、操舵角センサ2と、トルクセンサ3(操舵トルク検出手段)と、反力モータ4(反力アクチュエータ)と、バックアップクラッチ5と、転舵モータ6(転舵アクチュエータ)と、転舵角度センサ7と、舵取り機構8(転舵部)と、左右前輪9,9(操向輪)と、反力コントローラ10と、転舵コントローラ11と、通信ライン12と、を備えている。
【0011】
実施例1のSBWシステムは、運転者が操作する操舵ハンドル1と、前記操舵ハンドル1とは機械的に切り離され、左右前輪9,9を転舵する舵取り機構8と、前記操舵ハンドル1に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記舵取り機構8に転舵力を付与する転舵モータ6と、を備え、操舵ハンドル1と舵取り機構8との間に機械的な繋がりが無い構成となっている。
ただし、機械的なバックアップ機構として、バックアップクラッチ5を備えており、操舵ハンドル1と舵取り機構8との間を機械的に連結することが可能である。つまり、SBWシステムに何らかの異常が発生した場合、バックアップクラッチ5を連結することで安全な走行が可能となる。
【0012】
実施例1では、操舵ハンドル1の回転操作を操舵角センサ2で検出し、反力コントローラ10で指令転舵角が演算される。前記転舵コントローラ11では、実際の転舵角が指令転舵角に一致するように、転舵モータ6の駆動指令値が演算され、転舵モータ6が駆動されることで転舵動作が行われる。
【0013】
前記転舵モータ6は、ブラシレスモータ等で構成される。また、操舵ハンドル1に操舵反力を与えるための前記反力モータ4は、転舵モータ6と同様に、ブラシレスモータ等で構成されており、反力コントローラ10で演算された駆動指令値に基づいて駆動される。反力コントローラ10および転舵コントローラ11で演算される駆動指令値は、反力モータ4および転舵モータ6への電流指令値となる。
【0014】
実施例1のSBWシステムは、操舵ハンドル1と、左右前輪9,9および転舵モータ6との間に機械的な繋がりが無い構成となっているので、反力モータ4によって操舵反力を発生させている。操舵反力は、舵取り機構8のラックにかかる軸力、操舵角、操舵角速度などに応じて生成される。また、操舵ハンドル1と反力モータ4との間にトルクセンサ3を設け、操舵トルクをモニタできるようになっている。トルクセンサ3は、シャフトのねじれを検出し、そこからトルクを算出する構成となっている。SBW制御時には、このトルクセンサ3の値を用いることはないが、反力モータ失陥時等において、バックアップクラッチ5を締結し、転舵モータ6をアシストに用いるEPS制御モード(=電動パワーステアリング制御モード)では、トルクセンサ3の値を制御に用いるので、反力失陥などが発生すると、トルクセンサ3の値を監視している。
【0015】
前記転舵コントローラ11で演算される電流指令値は、指令転舵角に所定の応答特性で実転舵角が追従するように制御演算する角度サーボ系により算出される。
転舵コントローラ11の角度サーボ系は、例えば、図2の転舵角制御ブロック図に示すように、ロバストモデルマッチング手法を用いた方法で構成される。この方法では、予め与えておいた所望の特性に一致させるためのモデルマッチング補償器により、指令転舵角に対し所定の規範応答特性を実現するための電流指令値を演算し、ロバスト補償器により外乱成分に応じた補償電流が演算される。これにより、外乱発生時においても実転舵角が規範応答特性で追従可能な、耐外乱性に優れた制御系が実現できる。
【0016】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御手段]
図3は、実施例1の反力コントローラ10および転舵コントローラ11にて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。
【0017】
ステップS101では、反力制御系に関する何らかの異常により反力失陥が発生したか否かを判断し、Yesの場合はステップS103へ移行し、Noの場合はステップS102へ移行する(第1の失陥判定手段)。
ここで、反力コントローラ10では、反力失陥を検出すると、SBW制御モードでの反力制御を中止すると共に、通信ライン12を通じて転舵コントローラ11へ反力失陥であると伝える。
【0018】
ステップS102では、ステップS101での反力失陥が発生していないとの判断に続き、正常時のSBW制御モード(反力モータ4への電流指令値の算出と転舵モータ6への電流指令値の算出)を実行し、リターンへ移行する。
【0019】
ステップS103では、ステップS101での反力失陥が発生したとの判断に続き、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS105へ移行し、Noの場合はステップS104へ移行する。
【0020】
ステップS104では、ステップS103でのクラッチ締結指令が出力されていないとの判断に続き、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令を出力し、ステップS105へ移行する(クラッチ締結指令手段)。
【0021】
ステップS105では、ステップS103での既にクラッチ締結指令が出力されているとの判断、あるいは、ステップS104でのクラッチ締結指令の出力に続き、トルクセンサ3で検出される操舵トルクが、予め設定された所定値A(クラッチ締結判定閾値)を超えているか否かを判断し、Yesの場合はステップS107へ移行し、Noの場合はステップS106へ移行する(クラッチ締結判定手段)。
ここで、所定値Aは、トルクセンサ3の検出誤差、操舵ハンドル1の慣性力、反力モータ4の慣性力、を考慮し、誤判定しない値に設定する。
前記所定値Aは、図4に示すように、操舵ハンドル1(操作部)と舵取り機構8(転舵部)の相対回転角速度(=バックアップクラッチ5を挟んだ上下の回転角速度差)が速いほど小さな値に設定する。なお、この相対回転角速度は、操舵角センサ2からの操舵角微分値と転舵角度センサ7からの転舵角度微分値により演算する。
【0022】
ステップS106では、ステップS105での操舵トルク≦所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが小さくバックアップクラッチ5がまだ締結していない状態である判定に続き、操向輪9,9をバックアップクラッチ5の締結指令出力時の値に保持するような指令転舵角を演算する転舵保持制御モードを実行し、リターンへ移行する(クラッチ締結過渡期転舵制御手段)。
この転舵保持制御モードでは、転舵モータ6への電流指令値が、
今回指令転舵角δf=前回指令転舵角δf(1)
の式により算出される。
【0023】
ステップS107では、ステップS105での操舵トルク>所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが増加しバックアップクラッチ5が締結状態になったとの判定に続き、バックアップクラッチ5を締結した状態で転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへ切り替え、リターンへ移行する。
このEPS制御モードに入ると、転舵モータ6への電流指令値として、転舵保持制御モードでの電流指令値に代え、転舵アシスト用の電流指令値の演算を開始する。
【0024】
次に、作用を説明する。
上記のような構成のSBWシステムにおいて、反力制御系に何らかの異常(例えば、反力モータ4の故障など)が発生した場合は、バックアップクラッチ5を締結し、反力コントローラ10による反力制御を中止し、転舵コントローラ11ではトルクセンサ3の値に基づき操舵アシスト力となる転舵モータ6の電流を演算し、電動パワーステアリング装置(EPS装置)としての機能を実現する。
【0025】
しかし、バックアップクラッチ5に締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチ5が締結するまでには、数十ms〜数百msの時間がかかるため、その間は、操舵ハンドル1の回転操作が舵取り機構8に伝達されず、EPS制御を行うことができない。
また、バックアップクラッチ5が、インナレースとアウタレースにより形成される楔空間をローラが噛み合うことで締結状態とする噛み合い構造のものでは、締結指令後に、ハンドル側と転舵側とで相対回転が生じたときに、噛み合い状態となりクラッチ締結が完了してしまうため、締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチ5が締結するまでの時間は、操舵状態によりさらに変動する。
【0026】
例えば、反力アクチュエータの異常検出時に異常検出後から、予め設定した所定時間Taまでは、バックアップクラッチの締結指令時の転舵角に保持し、従来制御を行った場合について説明する。
クラッチ締結時間と、予め設定した所定時間Ta(EPS制御開始時T2と反力異常検出時T0との差)が一致すると仮定した場合、図5のタイムチャートに示すように、反力異常検出時T0からEPS制御開始時T2(=クラッチ締結時)までは、操舵トルクが低い値に保持され、EPS制御が開始された時点T2から操舵トルクが出る特性を示し、ドライバーの操舵が妨げられるようなことはない。
【0027】
しかし、予め設定した所定時間Ta(EPS制御開始時T2と反力異常検出時T0との差)が、クラッチ締結時間(クラッチ締結時T1と反力異常検出時T0との差)より長い時間である場合、図6のタイムチャートに示すように、反力異常検出時T0からクラッチ締結時T1までの間は、操舵トルクが低い値に保持されるが、クラッチ締結時T1からEPS制御開始時T2までの間は、バックアップクラッチ5が締結された後も転舵角が保持され、ハンドルが保持されるように反力が発生することで、操舵トルクが急激に突出する特性を示し、実操舵角がドライバーの所望の操舵角から乖離し、ドライバーの操舵が妨げられてしまう。
【0028】
これに対し、実施例1の車両用操舵制御装置では、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができるようにした。
【0029】
すなわち、バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された場合、反力制御を中止した状態でバックアップクラッチ5が締結されていない間は、操作部側の操舵トルクはほぼゼロとなる。しかし、バックアップクラッチ5が締結されると、路面からのトルクがバックアップクラッチ5を介して操作部側へ伝達されるため、操作部の操舵トルクが増加する。
【0030】
上記のように、バックアップクラッチ5が締結されると操作部の操舵トルクが増加するという点に着目し、実施例1では、バックアップクラッチ5の開放状態でバックアップクラッチ5の締結条件が成立すると、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力し、この締結指令が出力された後、バックアップクラッチ5を介して路面からのトルクが操作部に伝えられ、この伝達トルクにより操作部においてトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する手段を採用した。
【0031】
したがって、バックアップクラッチ5が締結されると操作部の操舵トルクが増加するという関係を利用することで、バックアップクラッチ5の締結を判定することができる。
しかも、このクラッチ締結判定では、操舵状態によって変動し易いバックアップクラッチ5の締結所要時間の終点を、バックアップクラッチ5を介したトルク伝達の有無を監視することで判定するため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することができる。
そして、クラッチ締結判定結果に基づき、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から、例えば、EPS制御モードなどのように、スムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
この結果、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
以下、実施例1の車両用操舵制御装置における、[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]、[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0032】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]
反力制御系が正常時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102へと進む流れとなり、ステップS102では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
反力制御系に失陥が発生すると初回の制御周期では、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS104へと進む流れとなり、SBW制御モードによる反力制御が中止され、ステップS104では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図3のフローチャートにおいて、ステップS104からステップS105→ステップS106へと進む流れとなり、ステップS106では、SBW制御モードでの転舵制御からクラッチ締結指令が出力された時点での転舵角を保持する転舵保持制御モードへと切り替えられる。
さらに、ステップS105のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS105→ステップS106へと進む流れが繰り返され、転舵保持制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS105→ステップS107へと進む流れとなり、ステップS107では、転舵保持制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0033】
[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図7に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図7は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例1の動作を示す。
まず、時刻T0で反力異常を検出すると、クラッチ締結指令をonにする。さらに、その時の転舵角を保持するように指令転舵角を出力する。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。反力異常検出時刻T0〜クラッチ締結時刻T1までの間は、反力異常を検出して反力制御を中止しているため、操舵トルクはほぼゼロとなっている。しかし、バックアップクラッチ5の締結により操舵トルクが増加し、時刻T1の時点で、操舵トルクが所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、保持した値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T1以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、時刻T0〜時刻T1までの間で反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても、転舵角は保持されているため、車両挙動が不安定になることを抑制できる。
【0034】
上記のように、実施例1の車両用操舵制御装置において、操作部に操舵トルクを検出するトルクセンサ3を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値Aを超えたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する。
例えば、操舵トルクが僅かに増加したことを検出したら、バックアップクラッチの締結判定を行う場合、ドライバーのハンドル操作等により操舵トルクが増加すると、バックアップクラッチが締結であると誤判定する。また、操舵トルクが大幅に増加したことを検出したら、バックアップクラッチの締結判定を行う場合、判定タイミングが遅れ、一時的に操舵反力が増大し、操舵違和感を与えてしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、所定値Aをクラッチ締結判定閾値とし、操舵トルクが所定値Aを超えたときバックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するため、バックアップクラッチ5の締結誤判定の防止と、判定タイミングの遅れ防止と、の両立を図ることができる。
【0035】
実施例1の車両用操舵制御装置において、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記クラッチ締結判定閾値である所定値Aを、操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する。
例えば、上述のように、バックアップクラッチが噛み合い構造のものでは、締結指令後にハンドル側と転舵側とで相対回転が生じると、噛み合い状態となりクラッチ締結が完了してしまう。このように、締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチが締結するまでに要する時間は、バックアップクラッチを挟んだ上下での相対回転が速いか遅いかで変動する。
これに対し、実施例1では、上記のように、所定値Aを操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定するため、バックアップクラッチ5として噛み合い構造のクラッチを適用した場合、バックアップクラッチ5を挟んだ上下での相対回転角速度が速いか遅いかにかかわらず、精度良くバックアップクラッチ5の締結が完了したタイミングを判定することができる。
【0036】
実施例1の車両用操舵制御装置において、操作部に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記転舵部に転舵力を付与する転舵モータ6と、を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるSBW制御モードから、前記反力モータ4と前記転舵モータ6の少なくとも一方をアシスト力付与手段とするEPS制御モードに切り替える(ステップS107)。
例えば、バックアップクラッチを締結した場合、SBW制御モードから操舵ハンドルと舵取り機構を直結するだけの直結ステアリングモードに切り替えるようにした場合、据え切り時などのように、路面からの操舵反力が大きなときにはドライバーへの操舵負担が過大となってしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるとEPS制御モードに切り替えるため、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から操舵負担の低いハンドル操作モードであるEPS制御モードへ移行することができる。
【0037】
実施例1の車両用操舵制御装置において、転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段(ステップS101)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)により前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるまでの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)を設けた。
例えば、反力失陥時でバックアップクラッチが締結されるまではSBW制御を継続するようにした場合、反力トルクが発生しない状況であるため、ドライバーの意思に反して操舵量が大きく変動する可能性が高くなる。この場合、SBW制御により操舵量の変動に応じて転舵角も変動することになり、車両挙動を不安定にさせてしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、締結指令を出力から締結判定までの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるため、反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0038】
実施例1の車両用操舵制御装置において、前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替える。
このため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、転舵角の保持により安定した車両挙動を維持することができる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用操舵制御装置にあっては、以下に列挙する効果が得られる。
【0040】
(1) 運転者が操作する操舵ハンドル1と、前記操舵ハンドル1とは機械的に切り離され、操舵ハンドル1の操作状態に応じて左右前輪9,9を転舵する舵取り機構8と、前記操舵ハンドル1と前記舵取り機構8とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチ5と、前記バックアップクラッチ5の開放状態で、前記バックアップクラッチ5の締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段(ステップS104)と、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記操舵ハンドル1のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段(ステップS105)と、を備えたため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
【0041】
(2) 前記操作部に操舵トルクを検出するトルクセンサ3を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値Aを超えたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するため、バックアップクラッチ5の締結誤判定の防止と、判定タイミングの遅れ防止と、の両立を図ることができる。
【0042】
(3) 前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記クラッチ締結判定閾値である所定値Aを、操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する(図4)ため、バックアップクラッチ5として噛み合い構造のクラッチを適用した場合、バックアップクラッチ5を挟んだ上下での相対回転角速度が速いか遅いかにかかわらず、精度良くバックアップクラッチ5の締結が完了したタイミングを判定することができる。
【0043】
(4) 前記操作部に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記転舵部に転舵力を付与する転舵モータ6と、を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるSBW制御モードから、前記反力モータ4と前記転舵モータ6の少なくとも一方をアシスト力付与手段とするEPS制御モードに切り替える(ステップS107)ため、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から操舵負担の低いハンドル操作モードであるEPS制御モードへ移行することができる。
【0044】
(5) 転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段(ステップS101)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)により前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるまでの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)を設けたため、反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0045】
(6) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替えるため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、転舵角の保持により安定した車両挙動を維持することができる。
〔実施例2〕
【0046】
実施例2は、クラッチ締結過渡期転舵制御として実施例1の転舵保持制御に代え転舵スロー制御を行うようにした例である。
なお、全体構成については、図1及び図2に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0047】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御手段]
図8(a)は、実施例2の反力コントローラ10および転舵コントローラ11にて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。また、ステップS201〜ステップS205およびステップS207のそれぞれのステップは、図3のフローチャートのステップS101〜ステップS105およびステップS107のそれぞれのステップと同様の処理を行うので説明を省略する。
【0048】
ステップS208では、ステップS204でのクラッチ締結指令の出力に続き、最初にクラッチ締結指令が出力された時点での操舵角θoを記憶し、ステップS205へ移行する。
ここで、操舵角θoは、操舵角センサ2で検出した値である。記憶した操舵角θoは、ステップS206の転舵スロー制御における指令転舵角の演算に用いる。
【0049】
ステップS206では、ステップS205での操舵トルク≦所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが小さくバックアップクラッチ5がまだ締結していない状態である判定に続き、ステアリングギア比をスローギア比とする指令転舵角を演算する転舵スロー制御モードを実行し、リターンへ移行する(クラッチ締結過渡期転舵制御手段)。
【0050】
図8(b)は、図8(a)のステップS206で実行される転舵スロー制御モードでの転舵モータ6への指令転舵角の演算処理を示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0051】
ステップS206-1では、操舵角速度を算出し、ステップS206-2へ移行する。
ここで、操舵角速度は、例えば、操舵角センサ2の出力の時間微分値を算出する。
【0052】
ステップS206-2では、ステップS206-1での操舵角速度の算出に続き、図9に示す操舵角速度−ギア比マップを用い、ステップS206-1で算出された操舵角速度に基づき、設定するステアリングギア比を算出し、ステップS206-3へ移行する。
ここで、図9に示す操舵角速度−ギア比マップは、操舵角速度が速いほどスローなギア比とする特性を持つ。なお、スローギア比とは、操舵角が変化しても操舵角の変化勾配に対し転舵角の変化勾配が小さい、つまり、操舵ハンドル1に与えた回転角に対し左右前輪9,9の転舵角が小さく抑えられるギア比をいう。
【0053】
ステップS206-3では、ステップS206-2でのスローギア比算出に続き、下記の計算式を用いて、クラッチ締結指令がonとなってから、クラッチ締結判定されるまでの間、指令転舵角の算出を行い、ステップS206-4へ移行する。
指令転舵角の算出式は、
指令転舵角変化量dδf=ステアリングギア比N×(操舵角θ−締結指令時操舵角θo)
今回指令転舵角δf=前回指令転舵角δf(1)+指令転舵角変化量dδf
である。
【0054】
ステップS206-4では、ステップS206-3での指令転舵角演算に続き、今回の制御周期で演算された指令転舵角δfを実現するように、電流指令値が算出され、転舵モータ6が制御される。
【0055】
次に、作用を説明する。
以下、実施例2の車両用操舵制御装置における、[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]、[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0056】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]
反力制御系が正常時には、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202へと進む流れとなり、ステップS202では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
反力制御系に失陥が発生すると初回の制御周期では、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS204→ステップS208へと進む流れとなり、スSBW制御モードによる反力制御が中止され、ステップS204では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力され、ステップS208では、クラッチ締結指令開始時の操舵角θoが記憶される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS208からステップS205→ステップS206へと進む流れとなり、ステップS206では、SBW制御モードでの転舵制御からステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御モードへと切り替えられる。なお、転舵スロー制御では、図8(b)のフローチャートにしたがって、設定されたスローギア比に基づき転舵モータ6が制御される。
さらに、ステップS205のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS205→ステップS206へと進む流れが繰り返され、転舵スロー制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS205→ステップS207へと進む流れとなり、ステップS207では、転舵スロー制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0057】
[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図10に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図10は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例2の動作を示す。
まず、時刻T0で反力異常を検出すると、クラッチ締結指令をonにする。さらに、操舵角:転舵角が1:1のステアリングギア比からスローギア比に変更し、ゆっくりと転舵角を変化させるように指令転舵角を出力する。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。反力異常検出時刻T0〜クラッチ締結時刻T1までの間は、反力異常を検出して反力制御を中止しているため、操舵トルクはほぼゼロとなっている。しかし、バックアップクラッチ5の締結により操舵トルクが増加し、時刻T1の時点で、操舵トルクが所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、転舵スロー制御による値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T1以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、時刻T0〜時刻T1までの間のクラッチ締結動作中にもスローギア比による転舵動作が行われるため、ドライバーの意思を反映した車両コントロールが可能となる。
さらに、操舵速度に応じてギア比をスローにすることで、反力トルク不足でドライバーが意に反して操舵量が大きく変動するような場合でも、車両挙動が不安定になることを抑制できる。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果(1)〜(5)に加え、下記に列挙する効果が得られる。
【0059】
(7) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS206)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS204)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、ステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御に切り替えるため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、車両挙動の変化を抑えつつも、ドライバーの意思を反映して車両コントロールすることができる。
【0060】
(8) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS206)は、操舵角速度が速いほどステアリングギア比をスロー側のギア比とする(図9)ため、反力トルク不足でドライバーが意に反して操舵量が大きく変動するような場合でも、車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
〔実施例3〕
【0061】
実施例3は、電源電圧が低下した場合にSBW制御からバックアップクラッチを締結してEPS制御へ移行するようにした例である。
なお、全体構成については、図1及び図2に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0062】
[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御手段]
図11は、実施例3の転舵コントローラ11にて実行される電源電圧低下時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。また、ステップS302〜ステップS307のそれぞれのステップでの処理は、図3に示すフローチャートのステップS102〜ステップS107のそれぞれのステップでの処理と同様であるので説明を省略する。
【0063】
ステップS301では、電源電圧が所定値C未満か否かを判断し、Yesの場合はステップS303へ移行し、Noの場合はステップS302へ移行する(第2の失陥判定手段)。
ここで、所定値Cは、例えば、9Vとする。
なお、ステップS304でのバックアップクラッチ5に対するクラッチ締結指令の出力により、クラッチ締結動作が開始される。このクラッチ締結指令on情報は、通信ライン12を通じて反力コントローラ10へ伝達される。
【0064】
[反力制御停止手段]
図12は、実施例3の反力コントローラ10にて実行される反力制御停止処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(反力制御停止手段)。
【0065】
ステップS321では、クラッチ締結指令が転舵コントローラ11により出力されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS323へ移行し、Noの場合はステップS322へ移行する。
【0066】
ステップS322では、ステップS321でのクラッチ締結指令がoffという判断に続き、SBW制御モードでの反力制御をそのまま実行し、リターンへ移行する。
【0067】
ステップS323では、ステップS321でのクラッチ締結指令がonという判断に続き、所定時間Bが設定済みか否かを判断し、Yesの場合はステップS326へ移行し、Noの場合はステップS324へ移行する。
【0068】
ステップS324では、ステップS323での所定時間Bが設定されていないとの判断に続き、操作部と転舵部との相対回転角速度を算出し、ステップS325へ移行する。
ここで、操作部と転舵部との相対回転角速度は、例えば、操舵角センサ2の出力の時間微分値と転舵角度センサ7の出力の時間微分値の差を算出する。この場合、両角度センサ2,7の出力は、各ギア比を考慮して同じ軸(例えば、ステアリングシャフト軸)の角度となるように換算して演算に用いる。
【0069】
ステップS325では、ステップS324での相対回転角速度の算出に続き、算出した相対回転角速度に基づいて、図13に示す相対回転角速度−所定時間の関係を示すマップを用いて所定時間Bを設定し、ステップS326へ移行する。
ここで、所定時間Bは、測定データなどに基づき、クラッチ締結指令が出されてからクラッチ締結するまでに要する時間より短い時間に設定される。そして、例えば、図13のマップに示すように、相対回転角速度が速いほど所定時間Bは短い時間に設定される。
【0070】
ステップS326では、ステップS323での所定時間B設定済みとの判断、あるいは、ステップS325での所定時間Bの設定に続き、クラッチ締結指令が出されてからカウントされた時間が所定時間Bを経過したか否かを判断し、Yesの場合はステップS327へ移行し、Noの場合はステップS322へ移行する。
【0071】
ステップS327では、ステップS326での所定時間Bを経過したとの判断に続き、SBW制御モードでの反力制御を停止し、リターンへ移行する。
すなわち、ステップS326で所定時間Bを経過したと判断されるまではSBW制御モードでの反力制御を継続し、ステップS326で所定時間Bを経過したと判断されるとSBW制御モードでの反力制御を停止する。これにより、操舵トルクはほぼゼロになる。
【0072】
次に、作用を説明する。
以下、実施例3の車両用操舵制御装置における、[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御作用]、[SBW制御モードでの反力制御停止作用]、[電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0073】
[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御作用]
電源電圧が正常レベルの時には、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302へと進む流れとなり、ステップS302では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
電源電圧が低下し、所定値C未満になると初回の制御周期では、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS304へと進む流れとなり、ステップS304では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図11のフローチャートにおいて、ステップS304からステップS305→ステップS306へと進む流れとなり、ステップS306では、SBW制御モードでの転舵制御からクラッチ締結指令が出力された時点での転舵角を保持する転舵保持制御モードへと切り替えられる。
さらに、ステップS305のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS305→ステップS306へと進む流れが繰り返され、転舵保持制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS305→ステップS307へと進む流れとなり、ステップS307では、転舵保持制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0074】
[SBW制御モードでの反力制御停止作用]
図11のステップS304にてバックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力されると、初回の制御周期では、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS324→ステップS325へと進む流れとなり、ステップS325では、操作部と転舵部との相対回転角速度に応じ、クラッチ締結指令が出力から反力制御の維持を継続する所定時間Bが設定される。
そして、所定時間Bの設定直後は、まだ所定時間Bを経過していないため、図12のフローチャートにおいて、ステップS325からステップS326→ステップS322へと進む流れとなり、ステップS322では、SBW制御モードでの反力制御が維持される。
さらに、ステップS326の時間条件が成立するまでは、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS326→ステップS322へと進む流れが繰り返され、SBW制御モードでの反力制御が維持される。
そして、ステップS326の時間条件が成立すると、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS326→ステップS327へと進み、ステップS327では、SBW制御モードでの反力制御が停止される。
【0075】
[電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
従来技術での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図14に示すタイムチャートに基づき説明する。
ドライバーが操舵ハンドルを回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合、クラッチ締結後も転舵角が保持されるため、操舵ハンドルが保持されるように反力が発生して(操舵トルク特性での突出特性部分)、ドライバーの操舵が妨げられる様子を示している。また、電力温存を目的にSBW制御からEPS制御へ移行するにもかかわらず、時刻T1〜時刻T2において、転舵コントローラは転舵角を保持するように転舵モータへの電流指令値を増加するため、電源電圧がさらに低下する様子も示している。
【0076】
実施例3での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図15に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図15は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例3の動作を示す。
まず、時刻T0で電源電圧が所定値C未満となると、クラッチ締結指令をoffからonにする。さらに転舵角を保持するように指令転舵角を出力する。そして、時刻T1において、クラッチ締結指令onから所定時間Bが経過すると、反力コントローラ10はそれまでの反力制御を停止する。これにより時刻t1以降は操舵トルクがほぼゼロになる。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。そして、操舵トルクが時刻T2の時点で所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、保持した値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T2以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
【0077】
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過した後、反力制御を停止させることで、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過するまでの間にて反力抜けを防止し、かつ、所定時間Bを経過すると反力制御によるトルク変動の影響を考慮せずに、クラッチ締結によるトルク変動を検出することができる。
さらに、所定時間Bを相対回転角速度に基づき、クラッチ締結時間の変化に対応して設定することで、クラッチ締結の所要時間に対し反力を発生しない時間を適切に設定できる。これにより、ドライバーの意に反して操舵量が大きくなる可能性がある反力抜け時間が最小の時間となり、ドライバーに与える違和感を抑えることができる。
【0078】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加え、下記に列挙する効果が得られる。
【0079】
(9) 反力制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第2の失陥判定手段(ステップS301)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS304)にて、反力制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、所定時間Bを経過したら、SBW制御での反力制御を停止する反力制御停止手段(図12)を設けたため、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過するまでの間の反力抜け防止と、トルク変動によるクラッチ締結判定精度の確保と、の両立を達成することができる。
【0080】
(10) 前記反力制御停止手段(図12)は、前記所定時間を、前記操作部と前記転舵部との相対回転角速度が速いほど短い時間に設定する(ステップS325)ため、クラッチ締結時間の変化に対応して反力を発生しない時間を適切に設定でき、これに伴って反力抜け時間が最小の時間となり、ドライバーに与える違和感を抑えることができる。
【0081】
以上、本発明の車両用操舵制御装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0082】
実施例1では、クラッチ締結判定手段として、バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値A(クラッチ締結判定閾値)を超えたとき、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する例を示したが、操舵トルクの微分値(操舵トルク変化速度)がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定するようにしても良い。
【0083】
実施例1では、クラッチ締結判定閾値としての所定値Aを、操作部と転舵部との相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する例を示したが、クラッチ締結判定閾値としての所定値A'を、操作部と転舵部との相対トルク変化速度(=バックアップクラッチ5を挟んだ上下のトルク変化速度差)が速いほど小さな値に設定するようにしても同様の効果を得ることができる。さらに、相対回転角速度により決めた所定値Aと相対トルク変化速度により決めた所定値A'とが異なる場合には、例えば、セレクトローにより最終的な所定値Aを設定しても良い。
【0084】
実施例2では、クラッチ締結動作中、操舵角速度に応じてギア比がスローとなるように転舵スロー制御を行う例を示したが、例えば、クラッチ締結動作中は、機械的なギア比に留めることによっても、従来技術の問題点を解消した上で、ドライバーの意思を反映した車両コントロールが可能となる。
【0085】
実施例3では、反力制御の停止するための所定時間Bを相対回転角速度が速いほど短い時間に設定する例を示したが、相対回転角速度の代わりに操作部と転舵部の相対トルク変化量を用いて所定時間Bを設定することも可能である。
【0086】
要するに、バックアップクラッチ締結判定手段としては、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、操作部のトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定する手段であれば本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
実施例1〜3では、バックアップ機構としてバックアップクラッチのみを備えたステアバイワイヤシステムへの適用例を示したが、例えば、バックアップクラッチとバックアップケーブルを有するSBWシステムであっても適用することができる。要するに、バックアップクラッチの開放により操作部と転舵部を切り離し、操作部の操作状態に応じた転舵角となるように転舵アクチュエータを駆動する制御指令を出力すると共に、転舵部の転舵状態に応じた操舵反力を付与するように反力アクチュエータを駆動する制御指令を出力するステアバイワイヤ制御を実行する車両用操舵制御装置であれば適用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 操舵ハンドル(操作部)
2 操舵角センサ
3 トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
4 反力モータ(反力アクチュエータ)
5 バックアップクラッチ
6 転舵モータ(転舵アクチュエータ)
7 転舵角度センサ
8 舵取り機構(転舵部)
9,9 左右前輪(操向輪)
10 反力コントローラ
11 転舵コントローラ
12 通信ライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が操作する操作部と操向輪を転舵する転舵部とを機械的に断接するバックアップクラッチを備えたステアバイワイヤシステムによる車両用操舵制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンドルと前輪の舵取り機構とが機械的に切り離された、いわゆるステアバイワイヤ(SBW)システムでは、ハンドルと舵取り機構とを機械的に連結するバックアップ手段としてバックアップクラッチを備えている。SBWシステムの一部に失陥が発生した場合には、速やかにバックアップクラッチを接続してSBW制御を中止する。
そして、例えば、反力アクチュエータの失陥時は、転舵アクチュエータの制御ゲインを低下またはゼロにすることで、失陥検出後からバックアップクラッチが締結するまでの所定時間、転舵アクチュエータの動作を制限し、車両の挙動が不安定になることを抑えるようにしている。前記所定時間は、クラッチ締結時間を予め実験などにより計測しておき、複数データの最大値など、確実にバックアップクラッチが締結する時間に設定される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−096745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、バックアップクラッチが締結動作中であると推定される所定時間中は転舵角が保持されるため、実際にバックアップクラッチの締結に要する時間が所定時間より短い場合、バックアップクラッチが締結された後も転舵角が保持されることになる。このため、実際にバックアップクラッチが締結してから所定時間が経過するまでの間、バックアップクラッチを介して操向輪とハンドルとが直結された状態となり、ハンドルが保持されるように反力が発生し、操舵違和感となってしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチが実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる車両用操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の車両用操舵制御装置では、
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記操作部に操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵トルク検出手段からの操舵トルク検出値がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
を備え、
前記クラッチ締結判定手段は、前記クラッチ締結判定閾値を、前記操作部と前記転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用操舵制御装置にあっては、バックアップクラッチの開放状態で、失陥などの発生により操作部と転舵部との機械的連結条件が成立すると、クラッチ締結指令手段において、バックアップクラッチに対し締結指令が出力される。そして、クラッチ締結判定手段において、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、操作部のトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定される。
すなわち、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された場合、反力制御を中止した状態でバックアップクラッチが締結されていない間は、操作部の操舵トルクはほぼゼロとなる。しかし、バックアップクラッチが締結されると、路面からのトルクがバックアップクラッチを介して操作部側へ伝達されるため、操作部の操舵トルクが増加する。
したがって、バックアップクラッチが締結されると操作部の操舵トルクが増加するという関係を利用すれば、バックアップクラッチの締結を判定することができる。
しかも、このクラッチ締結判定では、操舵状態によって変動し易いバックアップクラッチの締結所要時間の終点を、バックアップクラッチを介したトルク伝達の有無を監視することで判定するため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することができる。
そして、クラッチ締結判定結果に基づき、バックアップクラッチが実際に締結された直後から、例えば、電動パワーステアリング制御モードなどのように、スムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
この結果、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチが実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチが実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両用操舵制御装置を適用したステアバイワイヤシステムの全体構成図である。
【図2】実施例1のステアバイワイヤ制御のうち転舵制御としてロバストモデルマッチング手法を採用した場合の制御ブロック図である。
【図3】実施例1の反力コントローラおよび転舵コントローラにて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の制御モード切り替え制御処理のクラッチ締結判定ステップにて用いられる相対回転角速度と所定値Aとの関係の一例を示すマップ図である。
【図5】従来技術においてクラッチ締結時間と予め設定された所定時間Taとが一致すると仮定した場合の反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図6】従来技術においてクラッチ締結時間が予め設定された所定時間Taより短い場合の反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1での反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図8】実施例2の反力コントローラおよび転舵コントローラにて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャート(図8(a))、および、図8(a)のステップS206で実行される転舵スロー制御モードでの転舵モータへの指令転舵角の演算処理を示すフローチャート(図8(b))である。
【図9】実施例2の転舵スロー制御でのギア比設定ステップにて用いられる操舵角速度とギア比との関係の一例を示すマップ図である。
【図10】実施例2での反力異常検出時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図11】実施例3の転舵コントローラにて実行される電源電圧低下時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例3の反力コントローラにて実行される反力制御停止処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】実施例3の反力制御停止処理の所定時間設定ステップにて用いられる相対回転角速度と所定時間Bとの関係の一例を示すマップ図である。
【図14】従来技術での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【図15】実施例3での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用操舵制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1〜実施例3に基づいて説明する。
〔実施例1〕
【0010】
まず、構成を説明する。
[全体構成]
図1は、実施例1の車両用操舵制御装置を適用したステアバイワイヤ(SBW)システムの構成図である。
実施例1のSBWシステムは、図1に示すように、操舵ハンドル1(操作部)と、操舵角センサ2と、トルクセンサ3(操舵トルク検出手段)と、反力モータ4(反力アクチュエータ)と、バックアップクラッチ5と、転舵モータ6(転舵アクチュエータ)と、転舵角度センサ7と、舵取り機構8(転舵部)と、左右前輪9,9(操向輪)と、反力コントローラ10と、転舵コントローラ11と、通信ライン12と、を備えている。
【0011】
実施例1のSBWシステムは、運転者が操作する操舵ハンドル1と、前記操舵ハンドル1とは機械的に切り離され、左右前輪9,9を転舵する舵取り機構8と、前記操舵ハンドル1に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記舵取り機構8に転舵力を付与する転舵モータ6と、を備え、操舵ハンドル1と舵取り機構8との間に機械的な繋がりが無い構成となっている。
ただし、機械的なバックアップ機構として、バックアップクラッチ5を備えており、操舵ハンドル1と舵取り機構8との間を機械的に連結することが可能である。つまり、SBWシステムに何らかの異常が発生した場合、バックアップクラッチ5を連結することで安全な走行が可能となる。
【0012】
実施例1では、操舵ハンドル1の回転操作を操舵角センサ2で検出し、反力コントローラ10で指令転舵角が演算される。前記転舵コントローラ11では、実際の転舵角が指令転舵角に一致するように、転舵モータ6の駆動指令値が演算され、転舵モータ6が駆動されることで転舵動作が行われる。
【0013】
前記転舵モータ6は、ブラシレスモータ等で構成される。また、操舵ハンドル1に操舵反力を与えるための前記反力モータ4は、転舵モータ6と同様に、ブラシレスモータ等で構成されており、反力コントローラ10で演算された駆動指令値に基づいて駆動される。反力コントローラ10および転舵コントローラ11で演算される駆動指令値は、反力モータ4および転舵モータ6への電流指令値となる。
【0014】
実施例1のSBWシステムは、操舵ハンドル1と、左右前輪9,9および転舵モータ6との間に機械的な繋がりが無い構成となっているので、反力モータ4によって操舵反力を発生させている。操舵反力は、舵取り機構8のラックにかかる軸力、操舵角、操舵角速度などに応じて生成される。また、操舵ハンドル1と反力モータ4との間にトルクセンサ3を設け、操舵トルクをモニタできるようになっている。トルクセンサ3は、シャフトのねじれを検出し、そこからトルクを算出する構成となっている。SBW制御時には、このトルクセンサ3の値を用いることはないが、反力モータ失陥時等において、バックアップクラッチ5を締結し、転舵モータ6をアシストに用いるEPS制御モード(=電動パワーステアリング制御モード)では、トルクセンサ3の値を制御に用いるので、反力失陥などが発生すると、トルクセンサ3の値を監視している。
【0015】
前記転舵コントローラ11で演算される電流指令値は、指令転舵角に所定の応答特性で実転舵角が追従するように制御演算する角度サーボ系により算出される。
転舵コントローラ11の角度サーボ系は、例えば、図2の転舵角制御ブロック図に示すように、ロバストモデルマッチング手法を用いた方法で構成される。この方法では、予め与えておいた所望の特性に一致させるためのモデルマッチング補償器により、指令転舵角に対し所定の規範応答特性を実現するための電流指令値を演算し、ロバスト補償器により外乱成分に応じた補償電流が演算される。これにより、外乱発生時においても実転舵角が規範応答特性で追従可能な、耐外乱性に優れた制御系が実現できる。
【0016】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御手段]
図3は、実施例1の反力コントローラ10および転舵コントローラ11にて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。
【0017】
ステップS101では、反力制御系に関する何らかの異常により反力失陥が発生したか否かを判断し、Yesの場合はステップS103へ移行し、Noの場合はステップS102へ移行する(第1の失陥判定手段)。
ここで、反力コントローラ10では、反力失陥を検出すると、SBW制御モードでの反力制御を中止すると共に、通信ライン12を通じて転舵コントローラ11へ反力失陥であると伝える。
【0018】
ステップS102では、ステップS101での反力失陥が発生していないとの判断に続き、正常時のSBW制御モード(反力モータ4への電流指令値の算出と転舵モータ6への電流指令値の算出)を実行し、リターンへ移行する。
【0019】
ステップS103では、ステップS101での反力失陥が発生したとの判断に続き、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS105へ移行し、Noの場合はステップS104へ移行する。
【0020】
ステップS104では、ステップS103でのクラッチ締結指令が出力されていないとの判断に続き、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令を出力し、ステップS105へ移行する(クラッチ締結指令手段)。
【0021】
ステップS105では、ステップS103での既にクラッチ締結指令が出力されているとの判断、あるいは、ステップS104でのクラッチ締結指令の出力に続き、トルクセンサ3で検出される操舵トルクが、予め設定された所定値A(クラッチ締結判定閾値)を超えているか否かを判断し、Yesの場合はステップS107へ移行し、Noの場合はステップS106へ移行する(クラッチ締結判定手段)。
ここで、所定値Aは、トルクセンサ3の検出誤差、操舵ハンドル1の慣性力、反力モータ4の慣性力、を考慮し、誤判定しない値に設定する。
前記所定値Aは、図4に示すように、操舵ハンドル1(操作部)と舵取り機構8(転舵部)の相対回転角速度(=バックアップクラッチ5を挟んだ上下の回転角速度差)が速いほど小さな値に設定する。なお、この相対回転角速度は、操舵角センサ2からの操舵角微分値と転舵角度センサ7からの転舵角度微分値により演算する。
【0022】
ステップS106では、ステップS105での操舵トルク≦所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが小さくバックアップクラッチ5がまだ締結していない状態である判定に続き、操向輪9,9をバックアップクラッチ5の締結指令出力時の値に保持するような指令転舵角を演算する転舵保持制御モードを実行し、リターンへ移行する(クラッチ締結過渡期転舵制御手段)。
この転舵保持制御モードでは、転舵モータ6への電流指令値が、
今回指令転舵角δf=前回指令転舵角δf(1)
の式により算出される。
【0023】
ステップS107では、ステップS105での操舵トルク>所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが増加しバックアップクラッチ5が締結状態になったとの判定に続き、バックアップクラッチ5を締結した状態で転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへ切り替え、リターンへ移行する。
このEPS制御モードに入ると、転舵モータ6への電流指令値として、転舵保持制御モードでの電流指令値に代え、転舵アシスト用の電流指令値の演算を開始する。
【0024】
次に、作用を説明する。
上記のような構成のSBWシステムにおいて、反力制御系に何らかの異常(例えば、反力モータ4の故障など)が発生した場合は、バックアップクラッチ5を締結し、反力コントローラ10による反力制御を中止し、転舵コントローラ11ではトルクセンサ3の値に基づき操舵アシスト力となる転舵モータ6の電流を演算し、電動パワーステアリング装置(EPS装置)としての機能を実現する。
【0025】
しかし、バックアップクラッチ5に締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチ5が締結するまでには、数十ms〜数百msの時間がかかるため、その間は、操舵ハンドル1の回転操作が舵取り機構8に伝達されず、EPS制御を行うことができない。
また、バックアップクラッチ5が、インナレースとアウタレースにより形成される楔空間をローラが噛み合うことで締結状態とする噛み合い構造のものでは、締結指令後に、ハンドル側と転舵側とで相対回転が生じたときに、噛み合い状態となりクラッチ締結が完了してしまうため、締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチ5が締結するまでの時間は、操舵状態によりさらに変動する。
【0026】
例えば、反力アクチュエータの異常検出時に異常検出後から、予め設定した所定時間Taまでは、バックアップクラッチの締結指令時の転舵角に保持し、従来制御を行った場合について説明する。
クラッチ締結時間と、予め設定した所定時間Ta(EPS制御開始時T2と反力異常検出時T0との差)が一致すると仮定した場合、図5のタイムチャートに示すように、反力異常検出時T0からEPS制御開始時T2(=クラッチ締結時)までは、操舵トルクが低い値に保持され、EPS制御が開始された時点T2から操舵トルクが出る特性を示し、ドライバーの操舵が妨げられるようなことはない。
【0027】
しかし、予め設定した所定時間Ta(EPS制御開始時T2と反力異常検出時T0との差)が、クラッチ締結時間(クラッチ締結時T1と反力異常検出時T0との差)より長い時間である場合、図6のタイムチャートに示すように、反力異常検出時T0からクラッチ締結時T1までの間は、操舵トルクが低い値に保持されるが、クラッチ締結時T1からEPS制御開始時T2までの間は、バックアップクラッチ5が締結された後も転舵角が保持され、ハンドルが保持されるように反力が発生することで、操舵トルクが急激に突出する特性を示し、実操舵角がドライバーの所望の操舵角から乖離し、ドライバーの操舵が妨げられてしまう。
【0028】
これに対し、実施例1の車両用操舵制御装置では、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができるようにした。
【0029】
すなわち、バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された場合、反力制御を中止した状態でバックアップクラッチ5が締結されていない間は、操作部側の操舵トルクはほぼゼロとなる。しかし、バックアップクラッチ5が締結されると、路面からのトルクがバックアップクラッチ5を介して操作部側へ伝達されるため、操作部の操舵トルクが増加する。
【0030】
上記のように、バックアップクラッチ5が締結されると操作部の操舵トルクが増加するという点に着目し、実施例1では、バックアップクラッチ5の開放状態でバックアップクラッチ5の締結条件が成立すると、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力し、この締結指令が出力された後、バックアップクラッチ5を介して路面からのトルクが操作部に伝えられ、この伝達トルクにより操作部においてトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する手段を採用した。
【0031】
したがって、バックアップクラッチ5が締結されると操作部の操舵トルクが増加するという関係を利用することで、バックアップクラッチ5の締結を判定することができる。
しかも、このクラッチ締結判定では、操舵状態によって変動し易いバックアップクラッチ5の締結所要時間の終点を、バックアップクラッチ5を介したトルク伝達の有無を監視することで判定するため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することができる。
そして、クラッチ締結判定結果に基づき、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から、例えば、EPS制御モードなどのように、スムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
この結果、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
以下、実施例1の車両用操舵制御装置における、[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]、[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0032】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]
反力制御系が正常時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102へと進む流れとなり、ステップS102では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
反力制御系に失陥が発生すると初回の制御周期では、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS104へと進む流れとなり、SBW制御モードによる反力制御が中止され、ステップS104では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図3のフローチャートにおいて、ステップS104からステップS105→ステップS106へと進む流れとなり、ステップS106では、SBW制御モードでの転舵制御からクラッチ締結指令が出力された時点での転舵角を保持する転舵保持制御モードへと切り替えられる。
さらに、ステップS105のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS105→ステップS106へと進む流れが繰り返され、転舵保持制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS103→ステップS105→ステップS107へと進む流れとなり、ステップS107では、転舵保持制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0033】
[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図7に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図7は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例1の動作を示す。
まず、時刻T0で反力異常を検出すると、クラッチ締結指令をonにする。さらに、その時の転舵角を保持するように指令転舵角を出力する。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。反力異常検出時刻T0〜クラッチ締結時刻T1までの間は、反力異常を検出して反力制御を中止しているため、操舵トルクはほぼゼロとなっている。しかし、バックアップクラッチ5の締結により操舵トルクが増加し、時刻T1の時点で、操舵トルクが所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、保持した値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T1以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、時刻T0〜時刻T1までの間で反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても、転舵角は保持されているため、車両挙動が不安定になることを抑制できる。
【0034】
上記のように、実施例1の車両用操舵制御装置において、操作部に操舵トルクを検出するトルクセンサ3を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値Aを超えたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する。
例えば、操舵トルクが僅かに増加したことを検出したら、バックアップクラッチの締結判定を行う場合、ドライバーのハンドル操作等により操舵トルクが増加すると、バックアップクラッチが締結であると誤判定する。また、操舵トルクが大幅に増加したことを検出したら、バックアップクラッチの締結判定を行う場合、判定タイミングが遅れ、一時的に操舵反力が増大し、操舵違和感を与えてしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、所定値Aをクラッチ締結判定閾値とし、操舵トルクが所定値Aを超えたときバックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するため、バックアップクラッチ5の締結誤判定の防止と、判定タイミングの遅れ防止と、の両立を図ることができる。
【0035】
実施例1の車両用操舵制御装置において、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記クラッチ締結判定閾値である所定値Aを、操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する。
例えば、上述のように、バックアップクラッチが噛み合い構造のものでは、締結指令後にハンドル側と転舵側とで相対回転が生じると、噛み合い状態となりクラッチ締結が完了してしまう。このように、締結指令を出力してから実際にバックアップクラッチが締結するまでに要する時間は、バックアップクラッチを挟んだ上下での相対回転が速いか遅いかで変動する。
これに対し、実施例1では、上記のように、所定値Aを操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定するため、バックアップクラッチ5として噛み合い構造のクラッチを適用した場合、バックアップクラッチ5を挟んだ上下での相対回転角速度が速いか遅いかにかかわらず、精度良くバックアップクラッチ5の締結が完了したタイミングを判定することができる。
【0036】
実施例1の車両用操舵制御装置において、操作部に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記転舵部に転舵力を付与する転舵モータ6と、を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるSBW制御モードから、前記反力モータ4と前記転舵モータ6の少なくとも一方をアシスト力付与手段とするEPS制御モードに切り替える(ステップS107)。
例えば、バックアップクラッチを締結した場合、SBW制御モードから操舵ハンドルと舵取り機構を直結するだけの直結ステアリングモードに切り替えるようにした場合、据え切り時などのように、路面からの操舵反力が大きなときにはドライバーへの操舵負担が過大となってしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるとEPS制御モードに切り替えるため、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から操舵負担の低いハンドル操作モードであるEPS制御モードへ移行することができる。
【0037】
実施例1の車両用操舵制御装置において、転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段(ステップS101)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)により前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるまでの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)を設けた。
例えば、反力失陥時でバックアップクラッチが締結されるまではSBW制御を継続するようにした場合、反力トルクが発生しない状況であるため、ドライバーの意思に反して操舵量が大きく変動する可能性が高くなる。この場合、SBW制御により操舵量の変動に応じて転舵角も変動することになり、車両挙動を不安定にさせてしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、締結指令を出力から締結判定までの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるため、反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0038】
実施例1の車両用操舵制御装置において、前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替える。
このため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、転舵角の保持により安定した車両挙動を維持することができる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用操舵制御装置にあっては、以下に列挙する効果が得られる。
【0040】
(1) 運転者が操作する操舵ハンドル1と、前記操舵ハンドル1とは機械的に切り離され、操舵ハンドル1の操作状態に応じて左右前輪9,9を転舵する舵取り機構8と、前記操舵ハンドル1と前記舵取り機構8とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチ5と、前記バックアップクラッチ5の開放状態で、前記バックアップクラッチ5の締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段(ステップS104)と、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記操舵ハンドル1のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段(ステップS105)と、を備えたため、クラッチ締結時間の変動にかかわらずバックアップクラッチ5が実際に締結されたことを的確に判定することで、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後からスムーズなハンドル操作モードへ移行することができる。
【0041】
(2) 前記操作部に操舵トルクを検出するトルクセンサ3を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、前記トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値Aを超えたとき、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定するため、バックアップクラッチ5の締結誤判定の防止と、判定タイミングの遅れ防止と、の両立を図ることができる。
【0042】
(3) 前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記クラッチ締結判定閾値である所定値Aを、操作部と転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する(図4)ため、バックアップクラッチ5として噛み合い構造のクラッチを適用した場合、バックアップクラッチ5を挟んだ上下での相対回転角速度が速いか遅いかにかかわらず、精度良くバックアップクラッチ5の締結が完了したタイミングを判定することができる。
【0043】
(4) 前記操作部に操舵反力を付与する反力モータ4と、前記転舵部に転舵力を付与する転舵モータ6と、を設け、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)は、前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるSBW制御モードから、前記反力モータ4と前記転舵モータ6の少なくとも一方をアシスト力付与手段とするEPS制御モードに切り替える(ステップS107)ため、バックアップクラッチ5が実際に締結された直後から操舵負担の低いハンドル操作モードであるEPS制御モードへ移行することができる。
【0044】
(5) 転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段(ステップS101)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段(ステップS105)により前記バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定されるまでの間、SBW制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)を設けたため、反力トルクが発生しない状況において、ドライバーの意に反して操舵量が大きく変動しても車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0045】
(6) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS106)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS104)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替えるため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、転舵角の保持により安定した車両挙動を維持することができる。
〔実施例2〕
【0046】
実施例2は、クラッチ締結過渡期転舵制御として実施例1の転舵保持制御に代え転舵スロー制御を行うようにした例である。
なお、全体構成については、図1及び図2に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0047】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御手段]
図8(a)は、実施例2の反力コントローラ10および転舵コントローラ11にて実行される反力失陥時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。また、ステップS201〜ステップS205およびステップS207のそれぞれのステップは、図3のフローチャートのステップS101〜ステップS105およびステップS107のそれぞれのステップと同様の処理を行うので説明を省略する。
【0048】
ステップS208では、ステップS204でのクラッチ締結指令の出力に続き、最初にクラッチ締結指令が出力された時点での操舵角θoを記憶し、ステップS205へ移行する。
ここで、操舵角θoは、操舵角センサ2で検出した値である。記憶した操舵角θoは、ステップS206の転舵スロー制御における指令転舵角の演算に用いる。
【0049】
ステップS206では、ステップS205での操舵トルク≦所定値Aとの判断、つまり、操舵トルクが小さくバックアップクラッチ5がまだ締結していない状態である判定に続き、ステアリングギア比をスローギア比とする指令転舵角を演算する転舵スロー制御モードを実行し、リターンへ移行する(クラッチ締結過渡期転舵制御手段)。
【0050】
図8(b)は、図8(a)のステップS206で実行される転舵スロー制御モードでの転舵モータ6への指令転舵角の演算処理を示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0051】
ステップS206-1では、操舵角速度を算出し、ステップS206-2へ移行する。
ここで、操舵角速度は、例えば、操舵角センサ2の出力の時間微分値を算出する。
【0052】
ステップS206-2では、ステップS206-1での操舵角速度の算出に続き、図9に示す操舵角速度−ギア比マップを用い、ステップS206-1で算出された操舵角速度に基づき、設定するステアリングギア比を算出し、ステップS206-3へ移行する。
ここで、図9に示す操舵角速度−ギア比マップは、操舵角速度が速いほどスローなギア比とする特性を持つ。なお、スローギア比とは、操舵角が変化しても操舵角の変化勾配に対し転舵角の変化勾配が小さい、つまり、操舵ハンドル1に与えた回転角に対し左右前輪9,9の転舵角が小さく抑えられるギア比をいう。
【0053】
ステップS206-3では、ステップS206-2でのスローギア比算出に続き、下記の計算式を用いて、クラッチ締結指令がonとなってから、クラッチ締結判定されるまでの間、指令転舵角の算出を行い、ステップS206-4へ移行する。
指令転舵角の算出式は、
指令転舵角変化量dδf=ステアリングギア比N×(操舵角θ−締結指令時操舵角θo)
今回指令転舵角δf=前回指令転舵角δf(1)+指令転舵角変化量dδf
である。
【0054】
ステップS206-4では、ステップS206-3での指令転舵角演算に続き、今回の制御周期で演算された指令転舵角δfを実現するように、電流指令値が算出され、転舵モータ6が制御される。
【0055】
次に、作用を説明する。
以下、実施例2の車両用操舵制御装置における、[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]、[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0056】
[反力失陥時の制御モード切り替え制御作用]
反力制御系が正常時には、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202へと進む流れとなり、ステップS202では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
反力制御系に失陥が発生すると初回の制御周期では、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS204→ステップS208へと進む流れとなり、スSBW制御モードによる反力制御が中止され、ステップS204では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力され、ステップS208では、クラッチ締結指令開始時の操舵角θoが記憶される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS208からステップS205→ステップS206へと進む流れとなり、ステップS206では、SBW制御モードでの転舵制御からステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御モードへと切り替えられる。なお、転舵スロー制御では、図8(b)のフローチャートにしたがって、設定されたスローギア比に基づき転舵モータ6が制御される。
さらに、ステップS205のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS205→ステップS206へと進む流れが繰り返され、転舵スロー制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図8(a)のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS203→ステップS205→ステップS207へと進む流れとなり、ステップS207では、転舵スロー制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0057】
[反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
反力失陥時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図10に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図10は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例2の動作を示す。
まず、時刻T0で反力異常を検出すると、クラッチ締結指令をonにする。さらに、操舵角:転舵角が1:1のステアリングギア比からスローギア比に変更し、ゆっくりと転舵角を変化させるように指令転舵角を出力する。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。反力異常検出時刻T0〜クラッチ締結時刻T1までの間は、反力異常を検出して反力制御を中止しているため、操舵トルクはほぼゼロとなっている。しかし、バックアップクラッチ5の締結により操舵トルクが増加し、時刻T1の時点で、操舵トルクが所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、転舵スロー制御による値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T1以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、時刻T0〜時刻T1までの間のクラッチ締結動作中にもスローギア比による転舵動作が行われるため、ドライバーの意思を反映した車両コントロールが可能となる。
さらに、操舵速度に応じてギア比をスローにすることで、反力トルク不足でドライバーが意に反して操舵量が大きく変動するような場合でも、車両挙動が不安定になることを抑制できる。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果(1)〜(5)に加え、下記に列挙する効果が得られる。
【0059】
(7) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS206)は、前記クラッチ締結指令手段(ステップS204)により前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、ステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御に切り替えるため、バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力してからクラッチ締結が判定されるまでの間、車両挙動の変化を抑えつつも、ドライバーの意思を反映して車両コントロールすることができる。
【0060】
(8) 前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段(ステップS206)は、操舵角速度が速いほどステアリングギア比をスロー側のギア比とする(図9)ため、反力トルク不足でドライバーが意に反して操舵量が大きく変動するような場合でも、車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
〔実施例3〕
【0061】
実施例3は、電源電圧が低下した場合にSBW制御からバックアップクラッチを締結してEPS制御へ移行するようにした例である。
なお、全体構成については、図1及び図2に示した実施例1の構成と同様であるため、図示並びに説明を省略する。
【0062】
[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御手段]
図11は、実施例3の転舵コントローラ11にて実行される電源電圧低下時の制御モード切り替え制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、各コントローラ10,11においてSBW制御演算周期(例えば、5msec)毎に実行される。また、ステップS302〜ステップS307のそれぞれのステップでの処理は、図3に示すフローチャートのステップS102〜ステップS107のそれぞれのステップでの処理と同様であるので説明を省略する。
【0063】
ステップS301では、電源電圧が所定値C未満か否かを判断し、Yesの場合はステップS303へ移行し、Noの場合はステップS302へ移行する(第2の失陥判定手段)。
ここで、所定値Cは、例えば、9Vとする。
なお、ステップS304でのバックアップクラッチ5に対するクラッチ締結指令の出力により、クラッチ締結動作が開始される。このクラッチ締結指令on情報は、通信ライン12を通じて反力コントローラ10へ伝達される。
【0064】
[反力制御停止手段]
図12は、実施例3の反力コントローラ10にて実行される反力制御停止処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(反力制御停止手段)。
【0065】
ステップS321では、クラッチ締結指令が転舵コントローラ11により出力されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS323へ移行し、Noの場合はステップS322へ移行する。
【0066】
ステップS322では、ステップS321でのクラッチ締結指令がoffという判断に続き、SBW制御モードでの反力制御をそのまま実行し、リターンへ移行する。
【0067】
ステップS323では、ステップS321でのクラッチ締結指令がonという判断に続き、所定時間Bが設定済みか否かを判断し、Yesの場合はステップS326へ移行し、Noの場合はステップS324へ移行する。
【0068】
ステップS324では、ステップS323での所定時間Bが設定されていないとの判断に続き、操作部と転舵部との相対回転角速度を算出し、ステップS325へ移行する。
ここで、操作部と転舵部との相対回転角速度は、例えば、操舵角センサ2の出力の時間微分値と転舵角度センサ7の出力の時間微分値の差を算出する。この場合、両角度センサ2,7の出力は、各ギア比を考慮して同じ軸(例えば、ステアリングシャフト軸)の角度となるように換算して演算に用いる。
【0069】
ステップS325では、ステップS324での相対回転角速度の算出に続き、算出した相対回転角速度に基づいて、図13に示す相対回転角速度−所定時間の関係を示すマップを用いて所定時間Bを設定し、ステップS326へ移行する。
ここで、所定時間Bは、測定データなどに基づき、クラッチ締結指令が出されてからクラッチ締結するまでに要する時間より短い時間に設定される。そして、例えば、図13のマップに示すように、相対回転角速度が速いほど所定時間Bは短い時間に設定される。
【0070】
ステップS326では、ステップS323での所定時間B設定済みとの判断、あるいは、ステップS325での所定時間Bの設定に続き、クラッチ締結指令が出されてからカウントされた時間が所定時間Bを経過したか否かを判断し、Yesの場合はステップS327へ移行し、Noの場合はステップS322へ移行する。
【0071】
ステップS327では、ステップS326での所定時間Bを経過したとの判断に続き、SBW制御モードでの反力制御を停止し、リターンへ移行する。
すなわち、ステップS326で所定時間Bを経過したと判断されるまではSBW制御モードでの反力制御を継続し、ステップS326で所定時間Bを経過したと判断されるとSBW制御モードでの反力制御を停止する。これにより、操舵トルクはほぼゼロになる。
【0072】
次に、作用を説明する。
以下、実施例3の車両用操舵制御装置における、[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御作用]、[SBW制御モードでの反力制御停止作用]、[電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]について説明する。
【0073】
[電源電圧低下時の制御モード切り替え制御作用]
電源電圧が正常レベルの時には、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302へと進む流れとなり、ステップS302では、バックアップクラッチ5を開放したままで、正常時のSBW制御モードによる反力制御と転舵制御が実行される。
電源電圧が低下し、所定値C未満になると初回の制御周期では、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS304へと進む流れとなり、ステップS304では、バックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力される。
そして、クラッチ締結指令開始直後は、操舵トルクが所定値A以下であるため、図11のフローチャートにおいて、ステップS304からステップS305→ステップS306へと進む流れとなり、ステップS306では、SBW制御モードでの転舵制御からクラッチ締結指令が出力された時点での転舵角を保持する転舵保持制御モードへと切り替えられる。
さらに、ステップS305のクラッチ締結判定条件が成立しない限り、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS305→ステップS306へと進む流れが繰り返され、転舵保持制御が維持される。
その後、バックアップクラッチ5が締結状態に移行することで操舵トルクが増加し、操舵トルクが所定値Aを超えると、図11のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS303→ステップS305→ステップS307へと進む流れとなり、ステップS307では、転舵保持制御モードから転舵モータ6をアシスト力付与手段とするEPS制御モードへと切り替えられる。
【0074】
[SBW制御モードでの反力制御停止作用]
図11のステップS304にてバックアップクラッチ5に対しクラッチ締結指令が出力されると、初回の制御周期では、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS324→ステップS325へと進む流れとなり、ステップS325では、操作部と転舵部との相対回転角速度に応じ、クラッチ締結指令が出力から反力制御の維持を継続する所定時間Bが設定される。
そして、所定時間Bの設定直後は、まだ所定時間Bを経過していないため、図12のフローチャートにおいて、ステップS325からステップS326→ステップS322へと進む流れとなり、ステップS322では、SBW制御モードでの反力制御が維持される。
さらに、ステップS326の時間条件が成立するまでは、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS326→ステップS322へと進む流れが繰り返され、SBW制御モードでの反力制御が維持される。
そして、ステップS326の時間条件が成立すると、図12のフローチャートにおいて、ステップS321→ステップS323→ステップS326→ステップS327へと進み、ステップS327では、SBW制御モードでの反力制御が停止される。
【0075】
[電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作]
従来技術での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図14に示すタイムチャートに基づき説明する。
ドライバーが操舵ハンドルを回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合、クラッチ締結後も転舵角が保持されるため、操舵ハンドルが保持されるように反力が発生して(操舵トルク特性での突出特性部分)、ドライバーの操舵が妨げられる様子を示している。また、電力温存を目的にSBW制御からEPS制御へ移行するにもかかわらず、時刻T1〜時刻T2において、転舵コントローラは転舵角を保持するように転舵モータへの電流指令値を増加するため、電源電圧がさらに低下する様子も示している。
【0076】
実施例3での電源電圧低下時におけるSBW制御からEPS制御への移行動作を図15に示すタイムチャートに基づき説明する。なお、図15は、ドライバーが操舵ハンドル1を回し、操舵角が増えている状況で、バックアップクラッチ5が所定時間Taよりも短い時間で締結した場合の実施例3の動作を示す。
まず、時刻T0で電源電圧が所定値C未満となると、クラッチ締結指令をoffからonにする。さらに転舵角を保持するように指令転舵角を出力する。そして、時刻T1において、クラッチ締結指令onから所定時間Bが経過すると、反力コントローラ10はそれまでの反力制御を停止する。これにより時刻t1以降は操舵トルクがほぼゼロになる。バックアップクラッチ5が締結すると、前述のように、路面からの力が締結されたバックアップクラッチ5を介して操舵ハンドル1に伝わるため、操舵トルクが増加する。そして、操舵トルクが時刻T2の時点で所定値Aを超えると、クラッチ締結と判定し、転舵保持制御モードからEPS制御モードへ切り替え、指令転舵角は、保持した値からEPS制御に基づいて算出される値に変更される。これにより、クラッチ締結時刻T2以降は、ドライバーの操舵動作が転舵角に反映され、さらに、操舵反力も正常に発生されるため、通常のスムーズな操舵動作が可能になる。
【0077】
これらの動作により、クラッチ締結時間が変動した場合においても、バックアップクラッチ5の締結を操舵トルクに基づいて判定するため、従来技術の問題点であるドライバーの操舵を妨げるという問題点を解消することができる。
また、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過した後、反力制御を停止させることで、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過するまでの間にて反力抜けを防止し、かつ、所定時間Bを経過すると反力制御によるトルク変動の影響を考慮せずに、クラッチ締結によるトルク変動を検出することができる。
さらに、所定時間Bを相対回転角速度に基づき、クラッチ締結時間の変化に対応して設定することで、クラッチ締結の所要時間に対し反力を発生しない時間を適切に設定できる。これにより、ドライバーの意に反して操舵量が大きくなる可能性がある反力抜け時間が最小の時間となり、ドライバーに与える違和感を抑えることができる。
【0078】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加え、下記に列挙する効果が得られる。
【0079】
(9) 反力制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第2の失陥判定手段(ステップS301)を設け、前記クラッチ締結指令手段(ステップS304)にて、反力制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき、前記バックアップクラッチ5に対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、所定時間Bを経過したら、SBW制御での反力制御を停止する反力制御停止手段(図12)を設けたため、クラッチ締結指令を出してから所定時間Bを経過するまでの間の反力抜け防止と、トルク変動によるクラッチ締結判定精度の確保と、の両立を達成することができる。
【0080】
(10) 前記反力制御停止手段(図12)は、前記所定時間を、前記操作部と前記転舵部との相対回転角速度が速いほど短い時間に設定する(ステップS325)ため、クラッチ締結時間の変化に対応して反力を発生しない時間を適切に設定でき、これに伴って反力抜け時間が最小の時間となり、ドライバーに与える違和感を抑えることができる。
【0081】
以上、本発明の車両用操舵制御装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0082】
実施例1では、クラッチ締結判定手段として、バックアップクラッチ5に対し締結指令が出力された後、トルクセンサ3からの操舵トルクが所定値A(クラッチ締結判定閾値)を超えたとき、バックアップクラッチ5が締結状態になったと判定する例を示したが、操舵トルクの微分値(操舵トルク変化速度)がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定するようにしても良い。
【0083】
実施例1では、クラッチ締結判定閾値としての所定値Aを、操作部と転舵部との相対回転角速度が速いほど小さな値に設定する例を示したが、クラッチ締結判定閾値としての所定値A'を、操作部と転舵部との相対トルク変化速度(=バックアップクラッチ5を挟んだ上下のトルク変化速度差)が速いほど小さな値に設定するようにしても同様の効果を得ることができる。さらに、相対回転角速度により決めた所定値Aと相対トルク変化速度により決めた所定値A'とが異なる場合には、例えば、セレクトローにより最終的な所定値Aを設定しても良い。
【0084】
実施例2では、クラッチ締結動作中、操舵角速度に応じてギア比がスローとなるように転舵スロー制御を行う例を示したが、例えば、クラッチ締結動作中は、機械的なギア比に留めることによっても、従来技術の問題点を解消した上で、ドライバーの意思を反映した車両コントロールが可能となる。
【0085】
実施例3では、反力制御の停止するための所定時間Bを相対回転角速度が速いほど短い時間に設定する例を示したが、相対回転角速度の代わりに操作部と転舵部の相対トルク変化量を用いて所定時間Bを設定することも可能である。
【0086】
要するに、バックアップクラッチ締結判定手段としては、バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、操作部のトルク増加が検出されたとき、バックアップクラッチが締結状態になったと判定する手段であれば本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
実施例1〜3では、バックアップ機構としてバックアップクラッチのみを備えたステアバイワイヤシステムへの適用例を示したが、例えば、バックアップクラッチとバックアップケーブルを有するSBWシステムであっても適用することができる。要するに、バックアップクラッチの開放により操作部と転舵部を切り離し、操作部の操作状態に応じた転舵角となるように転舵アクチュエータを駆動する制御指令を出力すると共に、転舵部の転舵状態に応じた操舵反力を付与するように反力アクチュエータを駆動する制御指令を出力するステアバイワイヤ制御を実行する車両用操舵制御装置であれば適用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 操舵ハンドル(操作部)
2 操舵角センサ
3 トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
4 反力モータ(反力アクチュエータ)
5 バックアップクラッチ
6 転舵モータ(転舵アクチュエータ)
7 転舵角度センサ
8 舵取り機構(転舵部)
9,9 左右前輪(操向輪)
10 反力コントローラ
11 転舵コントローラ
12 通信ライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記操作部に操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵トルク検出手段からの操舵トルク検出値がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
を備え、
前記クラッチ締結判定手段は、前記クラッチ締結判定閾値を、前記操作部と前記転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操作部のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段と、
前記クラッチ締結指令手段にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段により前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定されるまでの間、ステアバイワイヤ制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段と、
を備え、
前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段は、前記クラッチ締結指令手段により前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、ステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御に切り替えると共に、操舵角速度が速いほどステアリングギア比をスロー側のギア比とすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項3】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操作部のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
反力制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第2の失陥判定手段と、
前記クラッチ締結指令手段にて、反力制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、所定時間を経過したら、ステアバイワイヤ制御での反力制御を停止する反力制御停止手段と、
を備えたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用操舵制御装置において、
前記反力制御停止手段は、前記所定時間を、前記操作部と前記転舵部との相対回転角速度が速いほど短い時間に設定することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
前記操作部に操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
前記転舵部に転舵力を付与する転舵アクチュエータと、
を設け、
前記クラッチ締結判定手段は、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるステアバイワイヤ制御から、前記反力アクチュエータと前記転舵アクチュエータの少なくとも一方をアシスト力付与手段とする電動パワーステアリング制御に切り替えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1、3乃至5の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段は、前記クラッチ締結指令手段により前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項1】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記操作部に操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操舵トルク検出手段からの操舵トルク検出値がクラッチ締結判定閾値を超えたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
を備え、
前記クラッチ締結判定手段は、前記クラッチ締結判定閾値を、前記操作部と前記転舵部の相対回転角速度が速いほど小さな値に設定することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操作部のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
転舵制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第1の失陥判定手段と、
前記クラッチ締結指令手段にて、転舵制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、前記クラッチ締結判定手段により前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定されるまでの間、ステアバイワイヤ制御での転舵制御を車両挙動抑制転舵制御に切り替えるクラッチ締結過渡期転舵制御手段と、
を備え、
前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段は、前記クラッチ締結指令手段により前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、ステアリングギア比をスローギア比とする転舵スロー制御に切り替えると共に、操舵角速度が速いほどステアリングギア比をスロー側のギア比とすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項3】
運転者が操作する操作部と、
前記操作部とは機械的に切り離され、前記操作部の操作状態に応じて操向輪を転舵する転舵部と、
前記操作部と前記転舵部とを締結により機械的に連結するバックアップクラッチと、
前記バックアップクラッチの開放状態で、前記バックアップクラッチの締結条件が成立すると、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力するクラッチ締結指令手段と、
前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力された後、前記操作部のトルク増加が検出されたとき、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定するクラッチ締結判定手段と、
反力制御系を除く部位に失陥が発生しているか否かを判定する第2の失陥判定手段と、
前記クラッチ締結指令手段にて、反力制御系を除く部位に失陥が発生したとの判定に基づき、前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した場合、締結指令を出力した後、所定時間を経過したら、ステアバイワイヤ制御での反力制御を停止する反力制御停止手段と、
を備えたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用操舵制御装置において、
前記反力制御停止手段は、前記所定時間を、前記操作部と前記転舵部との相対回転角速度が速いほど短い時間に設定することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
前記操作部に操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
前記転舵部に転舵力を付与する転舵アクチュエータと、
を設け、
前記クラッチ締結判定手段は、前記バックアップクラッチが締結状態になったと判定したとき、前記バックアップクラッチに対し締結指令が出力される前の反力制御と転舵制御によるステアバイワイヤ制御から、前記反力アクチュエータと前記転舵アクチュエータの少なくとも一方をアシスト力付与手段とする電動パワーステアリング制御に切り替えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1、3乃至5の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
前記クラッチ締結過渡期転舵制御手段は、前記クラッチ締結指令手段により前記バックアップクラッチに対し締結指令を出力した時の転舵角を保持する転舵保持制御に切り替えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−235891(P2011−235891A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155517(P2011−155517)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【分割の表示】特願2006−57271(P2006−57271)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【分割の表示】特願2006−57271(P2006−57271)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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