説明

車両用物体検知装置

【課題】 自車が衝突する可能性のない走行路上方の走行案内板を精度良く判定する。
【解決手段】 レーダー装置Rが送信した電磁波が物体により反射された反射波に基づいて物体検知手段が自車Vから物体までの距離および自車Vの進行方向に対する物体の左右方向の検知幅Wを取得し、制御対象判定手段がレーダー装置Rの出力に基づいて制御対象となる物体を判定する。このとき、制御対象判定手段は、取得された検知幅Wが予め設定された判定閾値以上であり、かつ自車Vから物体までの距離の減少に応じて検知幅Wが減少する場合に該物体を走行案内板Tであると判定して制御対象から除外するので、つまり走行案内板Tは検知幅Wが実際の左右幅Wtよりも大きく検知され、かつ自車Vの接近に応じて検知幅Wが減少することを利用し、走行案内板Tを精度良く判定して制御対象から除外することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車の進行方向に設定された所定領域に向けて電磁波を送信するとともに該電磁波が物体により反射されて生じる反射波を受信する送受信手段と、受信された反射波に基づいて自車から物体までの距離および自車の進行方向に対する物体の左右方向の検知幅を取得する物体検知手段と、前記物体検知手段の出力に基づいて制御対象となる物体を判定する制御対象判定手段とを備えた車両用物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダー装置で検知した先行車のような制御対象物との車間距離が所定値以下になると自動制動を行ったり運転者に警報を発したりする車両制御装置において、自車が衝突する可能性のない静止物である背の低いゲート等を制御対象物と誤認して不必要な車両制御が行われるのを防止すべく、静止物を検知する反射波の受信強度の閾値を先行車のような制御対象物を検知する反射波の受信強度の閾値よりも高く設定することで、障害物となり得ない静止物を制御対象物から除外するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−40646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来のものは、背の低いゲート等の比較的に電磁波の反射強度が低い物体に対しては有効であったが、高速道路の上方に設置されて行き先等を表示する走行案内板のように電磁波の反射強度が高い物体に対しては、その物体を先行車等の制御対象として誤認する可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自車が衝突する可能性のない走行路の上方物を精度良く判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自車の進行方向に設定された所定領域に向けて電磁波を送信するとともに該電磁波が物体により反射されて生じる反射波を受信する送受信手段と、受信された反射波に基づいて自車から物体までの距離および自車の進行方向に対する物体の左右方向の検知幅を取得する物体検知手段と、前記物体検知手段の出力に基づいて制御対象となる物体を判定する制御対象判定手段とを備えた車両用物体検知装置において、前記制御対象判定手段は、取得された前記検知幅が予め設定された判定閾値以上であり、かつ自車から前記物体までの距離の減少に応じて前記検知幅が減少する場合に、前記物体を制御対象から除外することを特徴とする車両用物体検知装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記物体の反射波の受信強度を判定する受信強度判定手段を備え、前記制御対象判定手段は、自車から前記物体までの距離の減少に応じて前記受信強度が減少する場合に、前記物体を制御対象から除外することを特徴とする車両用物体検知装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記判定閾値は制御対象から除外すべき物体の左右幅に基づいて設定されることを特徴とする車両用物体検知装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、制御対象から除外すべき物体は走行路の上方に設置される走行案内板であることを特徴とする車両用物体検知装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、制御対象から除外すべき物体は走行路の上方に設置される信号機筐体であることを特徴とする車両用物体検知装置が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のレーダー装置Rは本発明の送受信手段に対応し、実施の形態の走行案内板Tおよび信号機筐体Tは本発明の物体に対応し、実施の形態の想定幅W thr1は本発明の判定閾値に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、送受信手段が自車の進行方向に設定された所定領域に向けて電磁波を送信するとともに該電磁波が物体により反射されて生じる反射波を受信すると、物体検知手段が受信された反射波に基づいて自車から物体までの距離および自車の進行方向に対する物体の左右方向の検知幅を取得し、制御対象判定手段が物体検知手段の出力に基づいて制御対象となる物体を判定する。このとき、制御対象判定手段は、取得された検知幅が予め設定された判定閾値以上であり、かつ自車から物体までの距離の減少に応じて検知幅が減少する場合に該物体を制御対象から除外するので、つまり走行路の上方物は検知幅が物体の左右幅よりも大きく、かつ走行路の上方物は自車の接近に応じて検知幅が減少することを利用し、走行路の上方物を精度良く判定して制御対象から除外することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、走行路の上方物に自車が接近すると、電磁波の反射面積が次第に減少して反射波の受信強度が減少することを利用し、その物体を走行路の上方物と判定して制御対象から除外するので、上方物の判定精度を更に高めることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、制御対象から除外すべき物体を判定するための判定閾値を該物体の左右幅に基づいて設定するので、除外すべき物体を精度良く判定することができる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、走行路の上方に設置される走行案内板を制御対象から除外するので、走行案内板を制御対象とする不必要な車両制御が行われるのを防止することができる。
【0016】
また請求項5の構成によれば、走行路の上方に設置される信号機筐体を制御対象から除外するので、信号機筐体を制御対象とする不必要な車両制御が行われるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両用走行制御装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】走行路の上方の走行案内板を示す図。
【図3】レーダー装置のビームの広がりと検知精度との関係を示す図。
【図4】レーダー装置のビームの漏光部の作用を示す図。
【図5】物体の距離と左右方向の検知幅との関係を示す図。
【図6】物体の距離と反射強度との関係を示す図。
【図7】実施の形態の作用を説明するフローチャート。
【図8】走行路の上方の信号機筐体を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、先行車等の障害物をレーダー装置により判定し、その障害物に自車が衝突する可能性があるときに自動制動を行ったり運転者に警報を発したりすることで衝突を回避する車両制御装置の構造を示すものである。
【0020】
車両制御装置の電子制御ユニットUは、物体検知手段M1と、受信強度判定手段M2と、制御対象判定手段M3と、車両制御手段M4とを備える。自車の進行方向の所定の検知領域に電磁波を送信し、その電磁波が物体Tに反射された反射波を受信するレーダー装置Rが、前記物体検知手段M1および前記受信強度判定手段M2に接続される。車両制御手段M4には、障害物との衝突を回避すべく、あるいは衝突した場合の被害を軽減すべく、自車を自動的に制動するブレーキアクチュエータA1と、自車が障害物に衝突する可能性があることを音響やランプで運転者に報知して回避操作を促す警報手段A2とに接続される。
【0021】
物体検知手段M1は、レーダー装置Rの出力に基づいて検知された物体の方向、物体の左右幅、相対距離、相対速度等を算出する。受信強度判定手段M2は、レーダー装置Rの出力に基づいて物体からの反射波の受信強度を判定する。制御対象判定手段M3は、物体検知手段M1の出力および受信強度判定手段M2の出力に基づいて自車が衝突する可能性のある物体を制御対象として判定する。この制御対象は先行車を想定しており、自車が衝突する可能性がない走行路の上方の走行案内板のような上方物を制御対象から除外する処理が行われる。
【0022】
このようにして、制御対象判定手段M3により先行車のような自車が衝突する可能性のある障害物が判定されると、車両制御手段M4が障害物との衝突を回避すべく、あるいは衝突した場合の被害を軽減すべく、ブレーキアクチュエータA1や警報手段A2の作動を制御する。
【0023】
次に、制御対象判定手段M3が、自車が衝突する可能性のある先行車のような障害物から、自車が衝突する可能性がない走行路の走行案内板のような上方物を識別する原理を説明する。
【0024】
図2に示すように、本発明の上方物としての高速道路の走行案内板Tは走行路の上方に配置されており、その左右方向の寸法は規格による一定値Wtである。
【0025】
図3に示すように、自車Vの先端に設けられたレーダー装置Rは、前方の検知領域を左右方向に所定の角度を有するビームBでスキャンすることで物体を検知する。各ビームBの左右方向の幅はレーダー装置Rからの距離が増加するに応じて増加するため、近距離の物体は左右方向の分解能が高くなって検知精度が高くなる一方、遠距離の物体は左右方向の分解能が低くなって検知精度が低くなる。
【0026】
特に、図4に示すように、各ビームBの左右両側には電磁波が漏れる漏光部が存在するため、本来のビームBの幅の外側に存在して検知されない筈の物体にビームBの漏光部が当たって反射することで、前記物体が本来のビームBの方向に誤検知される場合がある。従って、走行案内板Tの左右の縁の外側を通過して本来は反射されない電磁波が、その外側に漏れた漏光部が反射されることで走行案内板Tの左右の縁を検知してしまい、結果として走行案内板Tの検知幅Wが走行案内板Tの実際の左右幅Wtよりも大きくなってしまう。この事象は、自車Vからの走行案内板Tの距離が大きくなるほど、漏光部が左右方向に大きく広がるために顕著になる。
【0027】
図5は上記事象を示すもので、遠距離の走行案内板Tの検知幅Wは実際の左右幅Wtよりもかなり大きく、中距離の走行案内板Tの検知幅Wは実際の左右幅Wtよりも若干大きく、近距離の走行案内板Tの検知幅Wは実際の左右幅Wtにほぼ一致する。このように、走行案内板Tが自車Vに接近するにつれて、その検知幅Wは実際の左右幅Wtよりも大きい状態から実際の左右幅Wtに向けて減少する。
【0028】
また反射波の反射強度Pは、走行案内板Tの距離が小さくなるほど小さくなる。その理由は、図6に示すように、走行案内板Tが遠距離にあるときには、遠方ほど上下方向に大きく広がったレーダー装置Rの検知領域に走行案内板Tの下部の広い面積が入るために反射強度Pが強くなるが、走行案内板Tの距離が小さくなるほど、レーダー装置Rの検知領域に走行案内板Tの下部の狭い面積しか入らなくなるために反射強度Pが弱くなるからである。
【0029】
本実施の形態によれば、走行案内板Tの距離が小さくなるほど検知幅Wが小さくなる事象と、走行案内板Tの距離が小さくなるほど反射強度Pが小さくなる事象とに基づいて、レーダー装置Rにより検知された物体が走行案内板Tであると判定し、車両制御の対象から除外することができ、これにより自車Vが衝突する可能性のない走行案内板Tを対象とする無駄な自動減速や警報が行われるのを防止することができる。
【0030】
上記作用を、図7のフローチャートに基づいて更に説明する。
【0031】
先ずステップS1で自車Vが走行中であるとき、ステップS2で物体検知手段M1により検知された物体の検知幅Wを、該物体が過去に検知された最大値である検知幅最大値W Maxと比較し、今回の検知幅Wが検知幅最大値W Max以上であれば、ステップS3で今回の検知幅Wで検知幅最大値W Maxを更新する。一方、前記ステップS2で今回の検知幅Wが検知幅最大値W Max以上でなければ、つまり今回の検知幅Wが検知幅最大値W Maxを更新しない場合には、ステップS4に移行する。
【0032】
ここで、走行路の上方に設置された物体として高速道路の走行案内板Tを想定している場合には、走行案内板Tの左右幅Wtに所定幅αを加算した値を想定幅W thr1とし、走行案内板Tの左右幅Wtから所定幅βを減算した値を最小幅閾値W thr2とする。
【0033】
ステップS4で連続して検知されている同一物体の過去の検知幅最大値W Maxが走行案内板Tの左右幅Wtに所定幅αを加算した想定幅W thr1を超えており、かつ前回の検知幅W Z1が今回の検知幅Wを超えており、かつ今回の反射強度Pが前回の反射強度P Z1以下であれば、物体が走行案内板Tである可能性があると判断し、ステップS5で上方物カウンタをインクリメントし、また前記三つの条件の何れかが不成立であれば、物体が走行案内板Tである可能性がないと判断し、ステップS6で上方物カウンタをデクリメントする。
【0034】
上記第1の条件である検知幅最大値W Max>想定幅W thr1の意味するところは、検知された物体が走行案内板Tであれば、それが過去に遠方で検知されたときにレーダー装置Rのビームの漏光部により走行案内板Tの実際の左右幅Wtよりも大きく検知される筈だからである。
【0035】
上記第2の条件である前回の検知幅W Z1>今回の検知幅Wの意味するところは、自車Vが走行案内板Tに接近するに伴って、ビームの漏光部が小さくなることで走行案内板Tの検知幅Wが次第に小さくなる筈だからである。
【0036】
上記第3の条件である今回の反射強度P<前回の反射強度P Z1は、自車Vが走行案内板Tに接近するに伴って、ビームが走行案内板Tに反射される面積が次第に小さくなり、反射強度が次第に小さくなる筈だからである。
【0037】
続くステップS7で今回の検知幅Wが最小幅閾値W thr2を超えており、かつ上方物カウンタが閾値CNTUPPER以上であれば、物体は走行案内板Tであると確定し、ステップS8で上方物判断フラグfJud=1(上方物)にセットする。
【0038】
上記第1の条件である検知幅W>最小幅閾値W thr2の意味するところは、検知された物体が走行案内板Tであれば、その検知幅Wが実際の左右幅Wtよりも小さく設定した最小幅閾値W thr2よりも必ず大きい筈だからである。
【0039】
上記第2の条件である上方物カウンタ≧閾値CNTUPPERの意味するところは、検知された物体が走行案内板Tであれば、上方物カウンタがインクリメントされる回数がデクリメントされる回数よりも際立って大きい筈だからである。
【0040】
前記ステップS7の条件が不成立の場合、ステップS9で上方物カウンタが0以下であれば、物体は走行案内板Tでないと確定し、ステップS10で上方物判断フラグfJud=0(非上方物)にセットする。また前記ステップS7の条件が不成立の場合、ステップS9で上方物カウンタが1以上であれば、物体は走行案内板Tであるか否か確定できないため、ステップS11で上方物判断フラグfJudを前回値に保持する。
【0041】
前記ステップS1で自車Vが走行中でなければ、ステップS12で検知幅最大値W Maxを初期値0にセットし、ステップS13で上方物判断フラグfJud=0(非上方物)にセットする。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0043】
例えば、実施の形態では走行路の上方物として走行案内板Tを例示したが、図8に示すように走行路の上方物は信号機筐体Tや、その他の物体であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
M1 物体検知手段
M2 受信強度判定手段
M3 制御対象判定手段
P 反射波の受信強度
R レーダー装置(送受信手段)
T 走行案内板、信号機筐体(物体)
V 自車
W 物体の検知幅
Wt 物体の左右幅
thr1 想定幅(判定閾値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車(V)の進行方向に設定された所定領域に向けて電磁波を送信するとともに該電磁波が物体(T)により反射されて生じる反射波を受信する送受信手段(R)と、
受信された反射波に基づいて自車(V)から物体(T)までの距離および自車(V)の進行方向に対する物体(T)の左右方向の検知幅(W)を取得する物体検知手段(M1)と、
前記物体検知手段(M1)の出力に基づいて制御対象となる物体(T)を判定する制御対象判定手段(M3)とを備えた車両用物体検知装置において、
前記制御対象判定手段(M3)は、
取得された前記検知幅(W)が予め設定された判定閾値(W thr1)以上であり、かつ自車(V)から前記物体(T)までの距離の減少に応じて前記検知幅(W)が減少する場合に、前記物体(T)を制御対象から除外することを特徴とする車両用物体検知装置。
【請求項2】
前記物体(T)の反射波の受信強度(P)を判定する受信強度判定手段(M2)を備え、
前記制御対象判定手段(M3)は、
自車(V)から前記物体(T)までの距離の減少に応じて前記受信強度(P)が減少する場合に、前記物体(T)を制御対象から除外することを特徴とする、請求項1に記載の車両用物体検知装置。
【請求項3】
前記判定閾値(W thr1)は制御対象から除外すべき物体(T)の左右幅(Wt)に基づいて設定されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用物体検知装置。
【請求項4】
制御対象から除外すべき物体(T)は走行路の上方に設置される走行案内板であることを特徴とする、請求項3に記載の車両用物体検知装置。
【請求項5】
制御対象から除外すべき物体(T)は走行路の上方に設置される信号機筐体であることを特徴とする、請求項3に記載の車両用物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−286246(P2010−286246A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137830(P2009−137830)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】