説明

車両用生体情報取得装置

【課題】車両乗員の生体情報を、より適切に取得することが可能な車両用生体情報取得装置を提供すること。
【解決手段】車両乗員の上体に向けて設置され、電磁波又は音波を放射して反射波を受信することにより物体検知を行なう物体検知手段を備え、該物体検知手段の検知結果に基づき前記車両乗員の生体情報を取得する車両用生体情報取得装置であって、前記物体検知手段は、物体検知方向を変更可能に構成されており、所定のタイミングで所定範囲を走査するように前記物体検知手段における物体検知方向を変更し、次回の走査までの間、当該回の走査において前記物体検知手段が受信した受信波の強度に基づき決定される方向に前記物体検知手段における物体検知方向を固定するように、前記物体検知手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両乗員の生体情報を取得する車両用生体情報取得装置に関し、特に、電磁波や音波等の受信波を利用して非接触により車両乗員の生体情報を取得する車両用生体情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両乗員、特に運転者の心拍や呼吸数等の生体情報を取得し、種々の用途に用いる装置について研究が進められている。心拍については電極を身体に取り付けることで取得する手法が周知であるが、車両に搭載する場合には、乗員の煩わしさ等を考慮すると受容性が低いものとなってしまう。従って、非接触により車両乗員の生体情報を取得する手法が望ましい。
【0003】
これに関連し、人体に向けてマイクロ波を発信してその受信波を受信し、送信されたマイクロ波と受信されたマイクロ波の周波数の差分を求めて、その差分に応じた信号を生成するマイクロ波ドップラセンサ装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この装置では、ドップラー信号が最大になるよう調整手段を設けたことを特徴としており、調整手段の具体例として、装置と人体の距離を調整したり、マイクロ波の周波数を調整したり、マイクロ波の位相を調整したりすることが挙げられている。なお、この装置は車両に搭載することを前提としておらず、適用例として、就寝中の人の生体情報をベッドの裏側から取得することが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−65677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした生体情報取得装置が車両に搭載される場合、装置と人体の距離、マイクロ波の周波数や位相を調整することでは不十分な場合があり、また不要な調整である場合もある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、車両乗員の生体情報を、より適切に取得することが可能な車両用生体情報取得装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
車両乗員の上体に向けて設置され、電磁波又は音波を放射して反射波を受信することにより物体検知を行なう物体検知手段を備え、
該物体検知手段の検知結果に基づき前記車両乗員の生体情報を取得する車両用生体情報取得装置であって、
前記物体検知手段は、物体検知方向を変更可能に構成されており、
所定のタイミングで所定範囲を走査するように前記物体検知手段における物体検知方向を変更し、次回の走査までの間、当該回の走査において前記物体検知手段が受信した受信波の強度に基づき決定される方向に前記物体検知手段における物体検知方向を固定するように、前記物体検知手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする、
車両用生体情報取得装置である。
【0009】
車両乗員は、シートに着座しているため、装置との距離は余り変動しない。むしろ、シート上での姿勢変化等により、装置から見た心臓や肺の方向が変動する傾向にある。従って、所定のタイミングで所定範囲を走査するように物体検知手段における物体検知方向を変更し、次回の走査までの間、当該回の走査において物体検知手段が受信した受信波の強度に基づき決定される方向に物体検知手段における物体検知方向を固定する本発明の一態様によれば、車両乗員の生体情報を、より適切に取得することができる。
【0010】
本発明の一態様において、
前記物体検知手段は、電磁波又は音波を放射する放射部における放射角度を変更することにより、物体検知方向を変更可能な手段であるものとしてよい。
【0011】
また、本発明の一態様において、
前記物体検知手段は、電磁波を受信する受信部がアレイ状の複数のアンテナを有し、受信波を処理することにより物体検知方向を変更可能な手段であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両乗員の生体情報を、より適切に取得することが可能な車両用生体情報取得装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例に係る車両用生体情報取得装置1が作動する様子を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る車両用生体情報取得装置1のシステム構成例である。
【図3】アクチュエータ12の作動原理を模式的に示す図である。
【図4】シート上での姿勢変化等により、装置から見た心臓や肺の方向が変動し、心臓や肺以外の箇所を監視し続けるという不都合が生じる様子を示す図である。
【図5】車両乗員の上体に相当する基準範囲(所定範囲の一例である)を走査する様子を概念的に示す図である。
【図6】本発明の第1実施例に係るリフレッシュ制御装置50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】その時点で決定されている最適なアクチュエータ12の角度を中心に限定的な走査を行なう様子を模式的に示す図である。
【図8】本発明の第2実施例に係るリフレッシュ制御装置50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】アダプティブアレイレーダー等を用いて、物体検知方向を変更する場合の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0015】
<第1実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第1実施例に係る車両用生体情報取得装置1について説明する。車両用生体情報取得装置1は、運転者等の車両乗員の前方に設置され、当該車両乗員の心拍や呼吸数等の生体情報を取得する装置である。
【0016】
本装置によって取得された生体情報は、例えば携帯電話の電波網等を用いて外部の監視機関に送信され、必要に応じてレスキュー車両の派遣等が行なわれることになる。また、単にアラーム等を鳴らすことによって車両乗員の異常を本人又は同乗者に知らせるものであってもよいし、プリクラッシュ・エアバッグを作動させてもよい。
【0017】
このように、取得された生体情報の使用態様については本発明の本質的部分ではなく、如何なる使用態様に適用されても構わない。
【0018】
図1は、本発明の第1実施例に係る車両用生体情報取得装置1が作動する様子を模式的に示す図である。本図は、運転者の生体情報を取得することを前提としている。
【0019】
また、図2は、本発明の第1実施例に係る車両用生体情報取得装置1のシステム構成例である。車両用生体情報取得装置1は、主要な構成として、送信器10と、受信器15と、信号処理装置20と、生体情報処理装置30と、記憶装置40と、リフレッシュ制御装置50と、を備える。
【0020】
送信器10は、車両乗員が運転者である場合は、ステアリングホイールの中央部であるボス部等に取り付けられる。また、他の乗員である場合は、インストルメントパネルや前席シートの裏側等に取り付けられる。
【0021】
送信器10は、例えば図示しない変調信号発生装置やVCO(Voltage-Controlled Oscillator)を内蔵し、VOCの出力をアンプにより増幅した送信用信号に基づいて、運転者の状態に向けて電磁波又は音波を放射する。電磁波を放射する場合、送信器10は送信アンテナを含み、音波を放射する場合、送信機10はマイクロホン等を含む。
【0022】
また、送信器10には、アクチュエータ12が取り付けられており、電磁波又は音波の放射方向を変更可能な構成となっている。図3は、アクチュエータ12の作動原理を模式的に示す図である。アクチュエータ12は、リフレッシュ制御装置50によって駆動制御がなされている。
【0023】
受信器15は、送信器10付近の位置に取り付けられる。受信器15は、送信器10により放射された電磁波又は音波が運転者の上体で反射された受信波を受信し、これを電圧信号に変換して信号処理装置20に出力する。
【0024】
なお、電磁波を送受信する場合、送信器10が有するアンテナと受信器15が有するアンテナは別体であってもよいし同体であってもよい。
【0025】
信号処理装置20では、受信器15から入力された信号の位相や周波数変化等を解析し、運転者の上体の対象箇所における本装置との距離及び移動速度を検出する。また、受信器15から入力された信号の大きさ(電圧)によって受信波の強度を把握し、受信波の強度に関する情報をリフレッシュ制御装置50に出力する。
【0026】
生体情報処理装置30は、信号処理装置20が検出した距離の変化を時系列で観察し、運転者の心拍や呼吸数等の生体情報を取得する。こうして取得された生体情報は、前述の如く種々の用途に用いられる。
【0027】
ところで、車両乗員は、シートに着座しているため、装置との距離は余り変動しないが、シート上での姿勢変化等により、装置から見た心臓や肺の方向が変動する傾向にある。従って、常に同じ方向に電磁波又は音波を放射して受信波を監視していると、心臓や肺以外の箇所を監視し続けることにもなりかねない。図4は、係る不都合が生じる様子を示す図である。このような状態に陥ると、受信器15の出力波形における振幅が低下し、生態情報を正確に取得するのが困難になってしまう。
【0028】
そこで、車両用生体情報取得装置1は、以下の構成により、最適な方向に電磁波又は音波を放射するように制御を行なっている。
【0029】
記憶装置40は、例えばフラッシュメモリやEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の読み書き可能な記憶装置である。
【0030】
リフレッシュ制御装置50は、例えばCPUやROM、RAM、内部タイマー等を有するマイクロコンピュータであり、信号処理装置20からの入力に基づいてアクチュエータ12を駆動制御し、最適な方向に電磁波又は音波を放射するように制御する。
【0031】
より具体的には、所定のタイミングで所定範囲を走査するようにアクチュエータ12の角度を変更し、当該回の走査において信号処理装置20から入力された受信波の強度に基づき最適なアクチュエータ12の角度を決定する。そして、次回の走査までの間、決定したアクチュエータ12の角度を維持するようにアクチュエータ12を制御する。
【0032】
図5は、車両乗員の上体に相当する基準範囲(所定範囲の一例である)を走査する様子を概念的に示す図である。装置から見た車両乗員の上体に相当する基準範囲は幾つかのブロックに分割され、それぞれのブロックと対応付けられたアクチュエータ12の角度がROM等に予め記憶されている。
【0033】
リフレッシュ制御装置50は、各ブロックに対応するアクチュエータ12の角度を順に実現するようにアクチュエータ12を制御し、それぞれの角度における受信波の強度を記憶装置40に記憶させる。そして、例えば最も受信波が強くなったアクチュエータ12の角度を、最適なアクチュエータ12の角度と決定する。
【0034】
図6は、本発明の第1実施例に係るリフレッシュ制御装置50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、例えば所定周期をもって繰り返し実行される。なお、本フローによって、前述の走査を開始する所定のタイミングが決定される。
【0035】
まず、現在、信号処理装置20から入力されている受信波の強度が閾値未満であるか否かを判定する(S100)。ここで、閾値は、一定値であってもよいし、現在シートに着座している車両乗員について予め算出されている平均値を基準とした値であってもよい。
【0036】
受信波の強度が閾値以上である場合は、生体情報処理装置30による生体情報の取得を実行する(継続する)ように信号処理装置20や生体情報処理装置30に指示する(S102)。この場合、アクチュエータ12の角度変更は行なわない。
【0037】
一方、受信波の強度が閾値未満である場合は、生体情報処理装置30による生体情報の取得を一時停止させて(S104)、前述した走査を行なって最適なアクチュエータ12の角度を決定し(S106)、これを実現するようにアクチュエータ12の角度変更を行なう(S108)。また、この際に最適なアクチュエータ12の角度を記憶装置40に記憶させておく(S110)。
【0038】
なお、2回目以降の走査においては、前述の基準領域を全て走査するのではなく、その時点で決定されている最適なアクチュエータ12の角度を中心に限定的な走査を行なってもよい(「所定範囲」を必要に応じて縮小する)。
【0039】
図7は、係る様子を模式的に示す図である。また、元々のアクチュエータ12の角度を中心に走査を行なって、受信波の強度が閾値未満となる前の受信波強度に戻った段階で、走査を終了してもよい。こうすれば、各ブロックに対応するアクチュエータ12の角度を全て走査する場合に比して、処理時間を短縮することができる。
【0040】
以上説明した本実施例の車両用生体情報取得装置1によれば、装置から見た心臓や肺の方向変動に対応することができるため、車両乗員の生体情報を、より適切に取得することができる。
【0041】
<第2実施例>
以下、本発明の第2実施例に係る車両用生体情報取得装置2について説明する。車両用生体情報取得装置2は、第1実施例と同様、運転者等の車両乗員の前方に設置され、当該車両乗員の心拍や呼吸数等の生体情報を取得する装置である。
【0042】
また、車両用生体情報取得装置2は、第1実施例と同様のハードウエア構成を有し、リフレッシュ制御装置50の処理内容のみが第1実施例と異なるため、構成については図2を参照することとし、係る相違点を中心に説明する。
【0043】
図8は、本発明の第2実施例に係るリフレッシュ制御装置50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。なお、本フローによって、前述の走査を開始する所定のタイミングが決定される。
【0044】
まず、内部タイマーの値を初期値(ゼロ)に設定する(S200)。
【0045】
次に、生体情報処理装置30による生体情報の取得を実行する(継続する)ように信号処理装置20や生体情報処理装置30に指示する(S202)。
【0046】
そして、内部タイマーの値が所定値に至ったか否かを判定する(S204)。内部タイマーの値が所定値に至っていないと判定した場合は、S202に戻る。
【0047】
一方、内部タイマーの値が所定値に至ったと判定した場合は、生体情報処理装置30による生体情報の取得を一時停止させて(S206)、前述した基準領域について走査を行なって最適なアクチュエータ12の角度を決定し(S208)、これを実現するようにアクチュエータ12の角度変更を行なう(S210)。また、この際に最適なアクチュエータ12の角度を記憶装置40に記憶させておく(S212)。
【0048】
その後は、S200に戻り内部タイマーの値を初期値に戻す。係る処理によって、定期的に基準領域についての走査が行なわれることになる。
【0049】
以上説明した本実施例の車両用生体情報取得装置2によれば、装置から見た心臓や肺の方向変動に対応することができるため、車両乗員の生体情報を、より適切に取得することができる。
【0050】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0051】
例えば、第1実施例、第2実施例共に、送信器10が電磁波又は音波を放射する方向を変更することにより物体検知方向を変更するものとしたが、これに限定されず、例えばアダプティブアレイレーダー等を用いて、物体検知方向を変更するものとしてもよい。この場合、機械的な首振り機構は不要となる。
【0052】
そのための構成として、例えば、送信器10は拡散的に電磁波又は音波を放射し、受信器15はアレイ状の複数のアンテナを有し、信号処理装置20が受信器15から入力される受信信号をデジタル処理して方向(方位)、距離を測定する。係る技術は、DBF(Digital Beam Forming)等と称されている。また、送信器10がアレイ状の複数のアンテナを有するものとしてもよい。図9は、このような場合の構成を模式的に示す図である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1、2 車両用生体情報取得装置
10 送信器
12 アクチュエータ
15 受信器
20 信号処理装置
30 生体情報処理装置
40 記憶装置
50 リフレッシュ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両乗員の上体に向けて設置され、電磁波又は音波を放射して反射波を受信することにより物体検知を行なう物体検知手段を備え、
該物体検知手段の検知結果に基づき前記車両乗員の生体情報を取得する車両用生体情報取得装置であって、
前記物体検知手段は、物体検知方向を変更可能に構成されており、
所定のタイミングで所定範囲を走査するように前記物体検知手段における物体検知方向を変更し、次回の走査までの間、当該回の走査において前記物体検知手段が受信した受信波の強度に基づき決定される方向に前記物体検知手段における物体検知方向を固定するように、前記物体検知手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする、
車両用生体情報取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−187859(P2010−187859A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34363(P2009−34363)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】