説明

車両用空調制御装置

【課題】蓄熱器としてのエバポレータ26の蓄冷量が不足することでエンジン10の自動停止中の冷房制御を適切に行うことができなかったりエバポレータ26に蓄冷すべくコンプレッサ20が過剰に駆動されることでエンジン10の燃費低減効果が低下したりすること。
【解決手段】車室内冷房負荷に基づきエバポレータ26の蓄冷量の目標値(目標蓄冷量)を算出するとともに、都度の冷媒温度履歴等に基づきエバポレータ26の蓄冷量の現在値(現在蓄冷量)を算出する。目標蓄冷量及び現在蓄冷量に基づきコンプレッサ20の駆動によって生成される熱量に関してその単位量当たりに要求されると想定されるエンジン10の燃料消費量の許容量(上限熱費)を算出する。そして、上記想定されるエンジン10の燃料消費量(想定熱費)が上限熱費以下となるものに対応するコンプレッサトルクの最大値を目標コンプレッサトルクとして算出し、コンプレッサ20を駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動力により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機と、蓄冷剤により前記冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムを備える車両に適用され、前記蓄熱器に蓄冷するための前記圧縮機の駆動制御を行う制御手段を備え、前記圧縮機の停止中において前記蓄熱器で冷却された空気により車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に見られるように、冷凍サイクルの冷媒を圧縮する機関駆動式の圧縮機と、車室内の空調の目的で蓄冷剤により冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムに適用される車両用空調制御装置が知られている。これにより、例えばアイドルストップ制御による内燃機関の自動停止中などの圧縮機の停止中において、空調制御を行うために蓄えられる蓄熱器の熱量(蓄冷量)を確保することで、圧縮機の停止中における車室内の空調制御を行うことができ、ひいては車室内の快適性を向上させることが可能となる。
【0003】
また、上記制御装置の中には、下記特許文献2に見られるように、蓄熱器の蓄冷量に基づき蓄冷するための圧縮機の駆動制御を行うものもある。これにより、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃料消費量の増大を抑制し、燃費低減効果の低下を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−175721号公報
【特許文献2】特開2009−012721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記特許文献2に記載の技術では、蓄熱器の蓄冷量を精度よく把握することができないため、例えば蓄熱器の蓄冷量を実際よりも低く把握する場合には、圧縮機が過剰に駆動されることで、内燃機関の燃費低減効果が低下するおそれがある。また、上記特許文献2に記載の技術では、圧縮機の停止中の空調制御に要求される熱量を正確に考慮したものとなっていないため、圧縮機の停止中の蓄冷量が過剰な量となることで、内燃機関の燃費低減効果が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃費低減効果の低下を好適に抑制することのできる車両用空調制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、内燃機関の動力により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機と、蓄冷剤により前記冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムを備える車両に適用され、前記蓄熱器の蓄冷量の現在値に基づき、該蓄熱器に蓄冷するための前記圧縮機の駆動制御を行う制御手段を備え、前記圧縮機の停止中において前記蓄熱器で冷却された空気により車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、前記冷媒の都度の温度の履歴に基づき、前記蓄冷量の現在値を推定する現在蓄冷量推定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、蓄熱器に空調制御のために蓄えられる熱量(蓄冷量)の現在値(現在蓄冷量)の推定に冷媒の都度の温度の履歴を用いることで、冷媒と蓄冷剤との間を移動する熱量の履歴を把握し、現在蓄冷量を精度よく推定することができる。そして、現在蓄冷量に基づき圧縮機の駆動制御を行う。これにより、圧縮機が過剰に駆動される事態を回避することができ、ひいては内燃機関の燃費低減効果の低下を好適に抑制することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記蓄冷剤は、その使用領域において相転移を生じるものであり、前記現在蓄冷量推定手段は、前記蓄熱器の蓄冷量及び前記蓄冷剤の温度から把握される該蓄冷剤の相に基づき、該蓄冷剤の顕熱及び潜熱の推定を選択的に行うことを特徴とする。
【0011】
蓄熱器の蓄冷量が変化することで蓄冷剤の温度が変化すると、蓄冷剤の相転移が生じ得る。そして、例えば液相から固相への相転移が生じる期間においては、蓄冷量の変化は潜熱によって生じるため蓄冷剤の温度変化を伴わない。このため、蓄冷剤の温度のみによって蓄冷量を推定する場合には、その蓄冷量の推定精度が低下するおそれがある。この点、上記発明では、蓄熱器の蓄冷量及び蓄冷剤の温度から把握される蓄冷剤の相に基づき、蓄冷剤の顕熱及び潜熱の推定を選択的に行うことで、蓄冷量の変化量が蓄冷剤の顕熱及び潜熱のいずれに起因するものかを反映して現在蓄冷量を高精度に推定することができる。
【0012】
なお、前記現在蓄冷量推定手段は、冷媒と蓄冷剤との都度の温度差に基づき蓄冷量の変化量を算出する手段を備え、該変化量に基づき前記現在値を推定するものとしてもよい。この場合、都度の蓄冷剤の温度を、前記蓄冷量の変化量としての顕熱を推定する場合には都度の蓄冷量及び比熱に基づき推定し、前記変化量としての潜熱を推定する場合には都度の転移温度と推定してもよい。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記圧縮機の停止中において想定される前記車室内の空調制御に要求される熱量の想定値に基づき、前記蓄熱器の蓄冷量の目標値を可変設定する目標蓄冷量設定手段を更に備え、前記制御手段は、前記蓄冷量の現在値と、前記蓄冷量の目標値とに基づき、前記駆動制御を行うことを特徴とする。
【0014】
上記発明では、上記空調制御に要求される熱量の想定値に基づき蓄熱器の蓄冷量の目標値(目標蓄冷量)を可変設定することで、目標蓄冷量が過剰に設定される事態を回避することができる。そして、現在蓄冷量及び目標蓄冷量に基づき圧縮機の駆動制御を行うことで、圧縮機が過剰に駆動される事態を好適に回避するとともに、圧縮機の停止中に蓄熱器の蓄冷量が不足する事態を回避することができる。これにより、内燃機関の燃費低減効果の低下をより好適に抑制するとともに、圧縮機の停止中における空調制御を適切に行うことができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を更に備え、前記車両の減速時における運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することによる前記蓄冷量の増大量を予測する予測手段を更に備え、前記目標蓄冷量設定手段は、前記蓄冷量の目標値から前記予測された増大量に応じた量を減算した量を前記蓄冷量の最終的な目標値として算出するものであり、前記制御手段は、前記車両の減速時において前記圧縮機を駆動させるものであることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、車両の減速時における運動エネルギを圧縮機の駆動エネルギとして利用することで、上記目標蓄冷量を上記増大量に応じた量だけ減少させることができる。これにより、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃料消費量の増大を好適に抑制することができ、ひいては内燃機関の燃費低減効果の低下をより好適に抑制することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、内燃機関の動力により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機と、蓄冷剤により前記冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムを備える車両に適用され、前記蓄熱器に蓄冷するための前記圧縮機の駆動制御を行う制御手段を備え、前記圧縮機の停止中において前記蓄熱器で冷却された空気により車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を備え、前記車両の減速時における運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することによる前記蓄熱器の蓄冷量の増大量を予測する予測手段と、前記圧縮機の停止中において前記車室内の空調制御に要求される熱量としての前記蓄冷量の目標値から前記予測された増大量に応じた量を減算した量を前記蓄冷量の最終的な目標値として設定する目標蓄冷量設定手段とを備え、前記制御手段は、前記最終的な目標値に基づき前記駆動制御を行い、前記車両の減速時において前記圧縮機を駆動させるものであることを特徴とする。
【0018】
車両の減速時における運動エネルギを圧縮機の駆動エネルギとして利用することで、目標蓄冷量を上記増大量に応じた量だけ減少させることができる。そして、上記最終的な目標値に基づき圧縮機の駆動制御を行うことで、圧縮機が過剰に駆動される事態を回避するとともに、圧縮機の停止中に蓄熱器の蓄冷量が不足する事態を回避することができる。これにより、内燃機関の燃費低減効果の低下を好適に抑制するとともに、圧縮機の停止中における空調制御を適切に行うことができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記目標蓄冷量設定手段は、前記蓄熱器で冷却される空気の温度と相関を有する温度、前記圧縮機が停止されると想定される時間、前記車室内への送風量及び車室内温度の目標値のうち少なくとも1つに基づき、前記蓄冷量の目標値を可変設定することを特徴とする。
【0020】
上記発明では、上記パラメータを用いることで、上記空調制御に要求される熱量を精度よく定めることができる。このため、上記熱量に応じた空調制御を行うための目標蓄冷量を精度よく設定することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記圧縮機の駆動によって生成される熱量に関して、その単位量当たりに要求されると想定される内燃機関の燃料消費量である想定熱費の許容量を可変設定する許容量設定手段を更に備え、前記制御手段は、前記想定熱費が前記許容量以下となることを条件として前記駆動制御を行うことを特徴とする。
【0022】
上記発明では、上記想定熱費の許容量(上限熱費)を可変設定し、想定熱費が上限熱費以下となることを条件として圧縮機の駆動制御を行う。これにより、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃料消費量が多くなる同内燃機関の運転領域(内燃機関の熱効率が低い領域)において、圧縮機が駆動される事態をいっそう好適に回避することができる。これにより、内燃機関の燃費低減効果の低下をいっそう好適に抑制することができる。
【0023】
なお、上記上限熱費は、蓄熱器の蓄冷量の目標値と上記現在蓄冷量との差に応じた値に基づき可変設定することが望ましい。これにより、圧縮機の停止中の空調制御に要求される蓄熱器の蓄冷量の不足度合いを適切に把握することができ、蓄冷量が不足する事態を好適に回避することができる。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記許容量設定手段は、前記圧縮機の駆動トルクを互いに相違する複数の値に仮設定した場合のそれぞれの前記想定熱費を算出するものであり、前記制御手段は、前記駆動トルクをその目標値に制御するものであり、前記算出される複数の想定熱費のうち前記許容量以下となるものに対応する駆動トルクを前記目標値として設定する目標値設定手段を備えることを特徴とする。
【0025】
圧縮機の駆動トルクが変化すると、冷媒圧送量が変化することで圧縮機の駆動によって冷凍サイクルで生成される熱量が変化したり、内燃機関の運転状態(発生トルクや機関回転速度)が変化したりする。ここで、内燃機関の燃料消費量は、同内燃機関の運転状態に応じて変化する。このため、圧縮機の駆動トルクの変化によって、上記熱量及び燃料消費量に基づく想定熱費が変化することとなる。したがって、圧縮機の駆動トルクと想定熱費とを関連づけることが可能となる。上記発明では、この点に鑑み、圧縮機の駆動トルクを互いに相違する複数の値に仮設定した場合のそれぞれの想定熱費を算出し、想定熱費が上記上限熱費以下となるものに対応する圧縮機の駆動トルクをその目標値として設定する。これにより、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃料消費量の増大を抑制するための圧縮機の駆動制御を適切に行うことができる。
【0026】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記目標値設定手段は、前記許容量以下となるものに対応する駆動トルクの最大値を前記目標値として設定することを特徴とする。
【0027】
上記発明では、圧縮機の駆動に伴う内燃機関の燃料消費量の増大を抑制しつつも、冷媒圧送量を極力多くすることができ、蓄熱器に迅速に蓄冷することができる。これにより、圧縮機の停止中における空調制御をより適切に行うことができる。
【0028】
請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載の発明において、前記制御手段は、前記駆動トルクの目標値の変動に対して一定幅の不感帯を有することを特徴とする。
【0029】
上記発明では、上記駆動トルクの目標値の変動を抑制することで、内燃機関の発生トルクの変動を好適に抑制することができる。これにより、ドライバビリティの低下を好適に回避することができる。
【0030】
請求項11記載の発明は、請求項8〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記制御手段は、前記駆動トルクをその目標値に応じてフィードフォワード制御する手段と、該圧縮機の駆動トルクとその目標値との差に応じた値に基づきフィードバック制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0031】
上記発明では、圧縮機の駆動トルクの応答性及び追従性の双方を向上させることができるため、圧縮機の駆動制御をいっそう適切に行うことができる。
【0032】
請求項12記載の発明は、請求項8〜11のいずれか1項に記載の発明において、前記駆動トルクの目標値が変更されると判断された場合、該駆動トルクの目標値を変更後の目標値まで徐々に変化させる徐変手段を更に備えることを特徴とする。
【0033】
上記発明では、車両の駆動トルクが適切なものからずれる事態を回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に回避することができる。
【0034】
請求項13記載の発明は、請求項1〜4又は請求項6〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を更に備えることを特徴とする。
【0035】
上記発明では、内燃機関の自動停止・始動処理によって内燃機関の燃費低減効果の向上を図っている。しかしながら、内燃機関が自動停止されると、圧縮機を駆動させることができなくなる。このため、上記自動停止中の車室内の空調制御を適切に行うには、内燃機関が運転される車両の走行中において蓄熱器に蓄冷することが要求される。したがって、上記発明は、請求項1記載の発明特定事項を備えるメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかるコンプレッサの駆動制御処理を示す機能ブロック図。
【図3】一実施形態にかかる目標蓄冷量の算出処理を示す機能ブロック図。
【図4】一実施形態にかかる現在蓄冷量の算出手法の概略を示す図。
【図5】一実施形態にかかる上限熱費の算出手法の概略を示す図。
【図6】一実施形態にかかるエンジンの燃料消費率を規定するマップを示す図。
【図7】一実施形態にかかる目標コンプレッサトルクの算出手法の概略を示す図。
【図8】一実施形態にかかる熱費制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明にかかる車両用空調制御装置を内燃機関(エンジン)を搭載した車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
図1に本実施形態にかかるエンジンシステム及び空気調節システム(エアコンシステム)の全体構成を示す。
【0039】
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。エンジン10の各気筒には、エンジン10の燃焼室に燃料を供給するための燃料噴射弁12と、供給された燃料と吸気との混合気を燃焼させるための放電火花を発生させる図示しない点火プラグとが備えられている。燃料の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン10の出力軸(クランク軸14)の回転動力として取り出される。なお、クランク軸14近傍には、クランク軸14の回転角度を検出するクランク角度センサ16が設けられている。また、内燃機関としては、ガソリンエンジンのような火花点火式内燃機関に限らず、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関であってもよい。
【0040】
クランク軸14には、スタータ18が接続されている。スタータ18は、図示しないイグニッションスイッチのオンにより始動し、エンジン10を始動させるべくクランク軸14に初期回転を付与する。
【0041】
一方、エアコンシステムは、冷凍サイクルに冷媒を循環させるべく冷媒を吸入・吐出するコンプレッサ20や、コンデンサ22、レシーバ24、更にはエバポレータ26(蒸発器)等を備えて構成されている。
【0042】
上記コンプレッサ20は、これが備える電磁駆動式のコントロールバルブ(CV20a)の通電操作によって冷媒の吐出容量を連続的に可変設定可能な可変容量型圧縮機である。コンプレッサ20の駆動軸に機械的に連結されたプーリ(コンプレッサプーリ30)は、ベルト32及びクランクプーリ34を介してクランク軸14と機械的に連結されている。このクランク軸14の回転動力がコンプレッサ20に伝達される状況下、CV20aへの通電操作により上記吐出容量が調節される。なお、以下の説明では、上記吐出容量が0より大きくなる状態をコンプレッサ20が駆動されるものとし、上記吐出容量が0となる状態をコンプレッサ20が停止されるものとする。
【0043】
コンデンサ22は、DCモータ等によって回転駆動される図示しないファンから送風される空気と、コンプレッサ20から吐出供給される冷媒との熱交換が行われる部材である。レシーバ24は、コンデンサ22より流入した冷媒を気液分離して且つ分離された液冷媒を一時的に貯蔵し、液冷媒のみを下流側に供給するために設けられるものである。レシーバ24に貯蔵された液冷媒は、温度式膨張弁36によって急激に膨張され霧状とされる。霧状とされた冷媒は、車室内の空気を冷却するエバポレータ26に供給される。エバポレータ26では、DCモータ等によって回転駆動されるファン(エバファン38)から送風される空気と上記霧状とされた冷媒とが熱交換することで、冷媒の一部又は全部が気化する。これにより、エバファン38から送風された空気(外気又は車室内の空気である内気)が冷却され、冷却された空気が車室内に設けられる図示しない吹出し口を介して車室へと送られることで車室内を冷房することが可能となる。
【0044】
また、エバポレータ26は、その内部に封入される蓄冷剤27(例えばパラフィン)により冷媒の熱を蓄える蓄熱器として用いられる。これは、後述するアイドルストップ制御によりエンジン10が自動停止される間において、車室内を冷房するための構成である。詳しくは、コンプレッサ20が駆動されることでエバポレータ26に供給された冷媒と蓄冷剤27との熱交換によって、冷媒の熱がエバポレータ26に蓄えられる。その後、コンプレッサ20が停止される状況下、エバファン38から送風された空気と蓄冷剤27とが熱交換することにより、上記送風された空気が冷却され、冷却された空気が上記吹出し口を介して車室へと送られることでエンジン10の自動停止中において車室内を冷房することが可能となる。なお、エバポレータ26の入口直近には、冷媒温度を検出する冷媒温度センサ40が設けられている。また、エバポレータ26から流出した冷媒は、コンプレッサ20の吸入口に吸入される。
【0045】
エアコンシステムを操作対象とする電子制御装置(以下、エアコンECU46)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。エアコンECU46には、外気を導入する外気モード又は内気を循環させる内気モードを選択すべく操作対象とされるスイッチ(内外切替スイッチ48)や、車室内を冷房すべくコンプレッサ20の駆動指令となるA/Cスイッチ50、車室内温度の目標値(目標温度)を設定する目標温度設定スイッチ52、車室内温度を検出する車室内温度センサ54、更には冷媒温度センサ40等の出力信号が入力される。エアコンECU46は、これら入力に応じてROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エバファン38や、CV20a等の各種機器を操作する。そして、これら各種機器を操作することで、コンプレッサ20の駆動制御や、車室内の冷房制御等を行う。ここで、エンジン10の自動停止中における冷房制御としては、具体的には、上記吹出口から車室内へと供給される空気の温度(吹出温度)が、目標温度設定スイッチ52の出力値から算出される目標温度(例えば25℃)に応じて定まる温度(例えば15℃)から所定温度(例えば3℃)以上上昇しないように制御すればよい。
【0046】
エンジンシステムを操作対象とする電子制御装置(以下、エンジンECU56)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。エンジンECU56には、車両の走行速度を検出する車速センサ60や、外気温度を検出する外気温センサ62、更にはクランク角度センサ16等の出力信号が入力される。また、エンジンECU56とエアコンECU46とは、双方向の通信を行うことで情報のやりとりを行う。詳しくは、エンジンECU56には、エアコンECU46から出力されるA/Cスイッチ50等の信号が入力される。一方、エアコンECU46には、エンジンECU56から出力されるクランク角度センサ16や、車速センサ60、外気温センサ62等の信号が入力される。
【0047】
エンジンECU56は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁12による燃料噴射制御や、スタータ18によるエンジン10の始動制御等を行う。特にエンジンECU56は、エンジン10のアイドルストップ制御を行う。アイドルストップ制御は、エンジン10の運転中に所定の停止条件が成立することでエンジン10を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立することでエンジン10を再始動させるものである。これにより、エンジン10の燃費低減効果を得ることが可能となる。
【0048】
次に、本実施形態にかかるエアコンECU46の行う熱費制御について説明する。熱費制御は、エンジン10の自動停止中の車室内の冷房制御のためにエバポレータ26(蓄冷剤27)に蓄えられる熱量(蓄冷量)が不足する事態を回避するとともに、蓄冷のためにコンプレッサ20を駆動することに伴うエンジン10の燃料消費量の増大を抑制するための制御である。この制御では、まず、エンジン10の自動停止中に想定される車室内の冷房負荷に基づきエバポレータ26の蓄冷量の目標値(目標蓄冷量)を可変設定するとともに、エバポレータ26の蓄冷量の現在値(現在蓄冷量)を推定する。次に、コンプレッサ20の駆動によって冷凍サイクルにおいて生成される熱量に関して、その単位量当たりに要求されると想定されるエンジン10の燃料消費量(想定熱費)を算出するとともに、現在蓄冷量と目標蓄冷量とに基づき上記想定熱費の許容量(上限熱費)を可変設定する。そして、想定熱費が上限熱費以下となることを条件としてコンプレッサ20の駆動制御を行う。これにより、上記自動停止中における冷房制御に要求されるエバポレータ26の蓄冷量を適切に確保するとともに、エンジン10の燃費低減効果の低下の抑制を図る。以下、<1>〜<6>の処理に分けて上記熱費制御について詳述する。
【0049】
<1.コンプレッサ20の駆動制御処理>
コンプレッサ20の駆動制御処理は、A/Cスイッチ50がオンされることを条件として、コンプレッサ20の現在の駆動トルク(実コンプレッサトルク)を、後述する目標コンプレッサトルク算出処理により算出される同駆動トルクの目標値(目標コンプレッサトルク)に制御すべくCV20aが通電操作されることで行われる。本実施形態では、この目標コンプレッサトルクへの制御を、フィードフォワード制御とフィードバック制御とに基づき行うことで、実コンプレッサトルクの応答性と追従性との双方の向上を図っている。
【0050】
図2に、コンプレッサ20の駆動制御処理についての機能ブロック図を示す。
【0051】
フィードフォワード制御部B1は、目標コンプレッサトルクに応じて、CV20aのフィードフォワード操作量を算出する。
【0052】
フィードバック制御部B2は、実コンプレッサトルクと目標コンプレッサトルクとの偏差を算出し、この偏差に基づき、CV20aのフィードバック操作量を算出する。詳しくは、上記偏差に基づく比例積分微分制御(PID制御)によって、フィードバック操作量を算出する。なお、実コンプレッサトルクは、クランク角度センサ16の出力値に基づくエンジン回転速度や、車速センサ60の出力値に基づく車両の走行速度、外気温センサ62の出力値に基づく外気温度、レシーバ24と温度式膨張弁36との間の冷媒圧力を検出する図示しない圧力センサの出力値に基づく冷媒圧力等から算出すればよい。
【0053】
加算部B3は、上記フィードフォワード操作量及び上記フィードバック操作量を加算する。この加算部B3の出力がコンプレッサ20に対する指令吐出容量となる。そして、駆動電流換算部B4は、上記指令吐出容量を、CV20aの駆動電流値に換算し、この駆動電流値をデューティ値に換算する。ここで、デューティ値は、オン・オフ周期に対するオン時間の比で定義されている。このデューティ値を調節することで、CV20aに流れる駆動電流が調節される。これにより、実コンプレッサトルクを目標コンプレッサトルクに制御することが可能となる。
<2.目標蓄冷量算出処理>
図3を用いて、目標蓄冷量の算出処理について説明する。詳しくは、図3に、上記処理についての機能ブロック図を示す。
【0054】
温度差算出部B5は、車室内温度センサ54の出力値から算出される車室内温度又は外気温度と、目標温度との温度差を算出する。ここで上記温度差の算出に際し、内外切替スイッチ48の出力値に基づき内気モードが選択されていると判断された場合、車室内温度を用いる。一方、外気モードが選択されていると判断された場合は、外気温度を用いる。
【0055】
冷房負荷算出部B6は、上記温度差と、エバファン38の送風量とを乗算することで、エンジン10の自動停止中における車室内の冷房負荷の想定値を算出する。
【0056】
基本目標蓄冷量算出部B7は、上記冷房負荷と、アイドルストップ制御によってエンジン10が自動停止されると想定される時間(アイドルストップ目標時間、例えば60秒)とを乗算することで、エバポレータ26の基本となる目標蓄冷量を算出する。これにより、エンジン10の自動停止中の冷房制御に要求されるエバポレータ26の蓄冷量を高精度に算出することが可能となる。なお、アイドルストップ目標時間は、例えば、車両が市街地を走行する場合において通常想定されるエンジン10の自動停止時間に基づき予め設定すればよい。
【0057】
最終目標蓄冷量算出部B8は、上記基本となる目標蓄冷量から減速回生予想量を減算することで、最終的な目標蓄冷量を算出する。ここで、減速回生予想量は、車両の減速時における運動エネルギをコンプレッサ20の駆動エネルギに変換することによる蓄冷量の増大量の予測値である。ブレーキ操作によって減少する車両の運動エネルギをコンプレッサ20の駆動エネルギとして利用することで、蓄冷のための燃料消費量を減少させることができ、エンジン10の燃料消費量の増大を抑制することが可能となる。ここで減速時回生予想量の予測手法は、具体的には、車両の走行速度及び車両の重量から算出される車両の運動エネルギに空調回生割合を乗算することで減速回生予想量を算出する処理となる。空調回生割合は、車両の運動エネルギのうち、車両の減速時においてコンプレッサ20の駆動エネルギとして利用可能な量の割合の想定値である。この空調回生割合は、例えば、ドライバの通常のブレーキ操作によって減少する車両の運動エネルギを実験で把握した結果に基づき、車両の走行速度等をパラメータとして予め作成されるマップを用いて算出すればよい。
【0058】
なお本実施形態では、車両の減速時においてコンプレッサ20の吐出容量が最大容量(100%)となるようにコンプレッサ20の駆動制御を行う。これにより、ブレーキ操作によって車両の運動エネルギの減少量が増大する以前にエバポレータ26の蓄冷量を好適に増大させることが可能となる。
<3.現在蓄冷量推定処理>
本実施形態では、エバポレータ26の蓄冷量及び蓄冷剤27の温度から把握される蓄冷剤27の相と、都度の冷媒温度の履歴と、冷媒流量とに基づき現在蓄冷量を推定する。これは、現在蓄冷量を高精度に推定するためである。つまり、蓄冷剤27と冷媒との熱交換によってエバポレータ26の蓄冷量は変化する。そして、液相から固相(又は固相から液相)への相転移が生じる期間においては、蓄冷量の変化は潜熱によって生じるため蓄冷剤27の温度変化を伴わない。このため、蓄冷剤27の温度及び比熱のみから蓄冷量を推定したのでは、現在蓄冷量の推定精度が大きく低下するおそれがある。これに対し、本実施形態にかかる推定手法では、蓄冷剤27の相を把握することで、蓄冷剤27の顕熱及び潜熱の推定を選択的に行う。これにより、蓄冷量の変化量が蓄冷剤27の顕熱及び潜熱のいずれに起因するものかを反映して現在蓄冷量を高精度に推定することが可能となる。以下、図4を用いて、現在蓄冷量の推定手法について詳述する。
【0059】
<(A)第1象限>
第1象限は、蓄冷剤27の温度が蓄冷剤27の凝固点T0(例えば16℃程度)よりも高温側であるとともに、エバポレータ26の蓄冷量が、蓄冷剤27が凝固し始める蓄冷量QAよりも少ない状況である。このため、エバポレータ26の単位時間当たりの蓄冷量の変化量(蓄冷変化量)は、主に蓄冷剤27の顕熱によるものである。したがって、現在蓄冷量を下式(1)によって算出することが可能となる。
現在蓄冷量=前回蓄冷量+蓄冷変化量
=前回蓄冷量+β×K×A×(Tt−Tf)×Δt…(1)
(ただし、Tt>T0、前回蓄冷量<QA)
・β:冷媒流量に応じて0〜1の値をとる所定の係数
・A[m^2]:冷媒と蓄冷剤27との間の伝熱面積
・Tt[K]:蓄冷剤27の温度
・Tf[K]:冷媒温度
・Δt[s]:エアコンECU46の演算周期
・K[kJ/(m^2・s・K)]:冷媒と蓄冷剤27との間の熱通過率
=1/{(1/αf)+(dm/λm)+(1/αt)}
・αf[kJ/(m^2・s・K)]:冷媒とエバポレータ26の壁面との間の熱伝達率
・λm[kJ/(m・s・K)]:エバポレータ26の壁面の熱伝導率
・dm[m]:エバポレータ26の壁面の厚さ
・αt[kJ/(m^2・s・K)]:エバポレータ26の壁面と蓄冷剤27との間の熱伝達率
なお、エバポレータ26の壁面とは、エバポレータ26のうち、冷媒と蓄冷剤27とを隔てる部材のことである。
【0060】
上記凝固し始める蓄冷量QA[kJ]は、予め実験等に基づき設定し、蓄冷剤27の温度は、蓄冷剤27の比熱c1と蓄冷剤27の質量Mとを乗算した値で、上記前回蓄冷量を除算することで推定すればよい。また、エバポレータ26の壁面と蓄冷剤27との間の熱伝達率αtは、蓄冷剤27の相(液相又は固相)に基づき変更するのが望ましい。これにより、現在蓄冷量の推定精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0061】
また、上記所定の係数βは、蓄冷変化量を高精度に推定すべく冷媒流量に応じて定まるものである。冷媒流量が少ないと、蓄冷剤27と冷媒との熱交換によって冷媒温度の上昇度合いが増大し、熱交換時における実際の冷媒温度が冷媒温度センサ40の出力値に基づく冷媒温度よりも高くなることで、蓄冷変化量の推定精度が低下する。このため、冷媒流量に依存する冷媒温度の上昇度合いを上記所定の係数βによって加味することで、蓄冷変化量の推定精度を向上させることが可能となる。ここで、所定の係数βの具体的な設定手法は、冷媒流量が、上記熱交換による冷媒温度の上昇度合いが無視できる程度の流量である場合は1に設定され、冷媒流量が少なくなるほど0に近い値に設定されるものとなる。なお、冷媒流量は、エンジン回転速度及びコンプレッサ20の実際の吐出容量に基づき算出すればよい。
【0062】
なお、前回蓄冷量は、現在蓄冷量の前回値を示す。ここで、現在蓄冷量推定処理の開始時における現在蓄冷量は、蓄冷剤27(液相)の比熱c1[kJ/(kg・K)]と、蓄冷剤27の質量M[kg]と、上記推定処理開始時における冷媒温度とを乗算することで推定すればよい。これは、現在蓄冷量推定処理の開始時においては通常、例えば車両放置時間が長くなることで蓄冷剤27の温度が上昇し、蓄冷剤27が液相であるとともに冷媒温度と蓄冷剤27の温度とが略等しくなり、蓄冷剤27の潜熱を考慮しなくてもよいと考えられることに基づくものである。
【0063】
<(B)第2象限>
第2象限は、蓄冷剤27の温度が蓄冷剤27の転移温度(凝固点T0)であるとともに、エバポレータ26の蓄冷量が、蓄冷剤27が完全に凝固する蓄冷量QB(>QA)よりも少ない状況である。この場合、液相の蓄冷剤27から冷媒への熱の移動によりエバポレータ26の伝熱面から蓄冷剤27の凝固が徐々に進行するため、エバポレータ26の蓄冷変化量は、主に蓄冷剤27の潜熱によるものである。したがって、現在蓄冷量を下式(2)によって算出することが可能となる。
現在蓄冷量=前回蓄冷量+蓄冷変化量
=前回蓄冷量+β×K×A×(T0−Tf)×Δt…(2)
(ただし、Tt=T0、QA≦前回蓄冷量≦QB)
・K=1/{(1/αf)+(dm/λm)+(1/αt)+(dt/λt)}
・λt[kJ/(m・s・K)]:エバポレータ26と蓄冷剤27との伝熱面から蓄冷剤27の相転移が生じている面までの蓄冷剤27の熱伝導率
・dt[m]:上記相転移が生じている面までの蓄冷剤27の厚さ
上式(2)において、蓄冷剤27の相転移が蓄冷変化量の推定に及ぼす影響を加味すべく、蓄冷剤27の熱伝導率λt及び蓄冷剤27の厚さdtを加味して熱通過率Kを設定することで現在蓄冷量の推定精度の更なる向上を図ることが可能となる。ここで、上記蓄冷剤27の熱伝導率λt及び厚さdtは、前回蓄冷量及び蓄冷剤27の温度に基づき算出すればよい。また、上記凝固する蓄冷量QB[kJ]は、予め実験等に基づき設定すればよい。
【0064】
<(C)第3象限>
第3象限は、蓄冷剤27の温度が蓄冷剤27の融点T0よりも低温側であるとともに、エバポレータ26の蓄冷量が、蓄冷剤27が完全に凝固する蓄冷量QB以上となる状況である。このため、蓄冷剤27の蓄冷変化量は、主に蓄冷剤27の顕熱によるものである。したがって、現在蓄冷量を上式(1)によって算出することが可能となる(ただし、Tt<T0、前回蓄冷量≧QB)。なお、蓄冷剤27の温度は、蓄冷剤27(固相)の比熱c2[kJ/(kg・K)]と蓄冷剤27の質量Mとを乗算した値で、上記前回蓄冷量を除算することで推定すればよい。
【0065】
<(D)第4象限>
第4象限は、蓄冷剤27の温度が蓄冷剤27の転移温度(融点T0)であるとともに、エバポレータ26の蓄冷量が、蓄冷剤27が完全に融解する蓄冷量QAよりも多い状況である。この場合、冷媒から固相の蓄冷剤27への熱の移動によりエバポレータ26の伝熱面から蓄冷剤27の融解が徐々に進行するため、蓄冷剤27の蓄冷変化量は、主に蓄冷剤27の潜熱によるものである。したがって、現在蓄冷量を上式(2)によって算出することが可能となる。
<4.上限熱費算出処理>
本実施形態では、図5に示すように、目標蓄冷量から現在蓄冷量を減算した量(要求蓄冷量ΔQ)に所定の正数(比例ゲイン)を乗算した比例項として上限熱費を算出する。これは、エンジン10の自動停止中の冷房制御に要求される蓄冷量の不足度合いを高精度に把握し、この不足度合いが増大する状況下においてコンプレッサ20の冷媒圧送量を好適に向上させるためである。
【0066】
なお、要求蓄冷量ΔQを入力とする積分要素の出力(積分項)や、要求蓄冷量ΔQを入力とする微分要素の出力(微分項)を、上記比例項に加えることで上限熱費を算出してもよい。上記比例項のみを用いる場合、目標蓄冷量と現在蓄冷量との間に定常的な乖離が生じることがある。この場合、アイドルストップ制御によってエンジン10が自動停止されると、エバポレータ26の蓄冷量が不足することで、吹出温度が目標温度に応じて定まる温度よりも過度に上昇することがある。ここで、上記積分項を加えるなら、上記定常的な乖離を低減するように上限熱費を増大させ、蓄冷時におけるコンプレッサ20の冷媒圧送量を増大させることができる。これにより、エンジン10の自動停止中に要する蓄冷量を確保することができ、吹出温度が過度に上昇する事態を回避することが可能となる。一方、エバポレータ26への蓄冷時において、蓄冷量の増大速度が大きくなり、現在蓄冷量が目標蓄冷量を大きく超えることがある。この場合、エンジン10の自動停止中の冷房制御による吹出温度が目標温度に応じて定まる温度よりも低下することがある。ここで、上記微分項を加えるなら、上限熱費を減少させ、過剰な蓄冷を回避することで吹出温度が低下する事態を回避することが可能となる。
<5.想定熱費算出処理>
想定熱費は、下式(3)によって表すことができる。
想定熱費[g/Wh]=要求燃料消費量[g/h]
/{トルクT時のコンプレッサ動力[W]×COP}…(3)
ここで、上式(3)における分母は、コンプレッサトルクがT(>0)の場合に冷凍サイクルにおいて生成される熱量である。なお、上式(3)におけるコンプレッサ動力は、コンプレッサトルクTとエンジン回転速度との積として算出すればよい。また、上記成績係数COPは、コンプレッサ20の動力を熱量に変換するパラメータである。この成績係数COPは、例えば車室内温度や、外気温度、目標温度、エンジン回転速度等を入力パラメータとして予め作成されたマップ等を用いて算出すればよい。
【0067】
一方、上式(3)における分子は、コンプレッサ20の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量の増大量であり、図6に示すエンジン10の発生トルク及びエンジン回転速度と関連付けられた燃料消費率が規定されるマップを用いて算出可能である。詳しくは、まず、コンプレッサ20の駆動がある場合とない場合とのそれぞれについて、エンジン10の発生トルク及びエンジン回転速度を入力として上記マップから定まる燃料消費率を算出する。次に、これら一対の燃料噴射率のそれぞれに、そのときのエンジン10の発生トルク及びエンジン回転速度の積として算出されるエンジン動力を乗算することで、コンプレッサ20が駆動されない場合におけるエンジン10の燃料消費量(トルク0時の燃料消費量、図中「×」にて表記)と、コンプレッサ20が駆動される場合におけるエンジン10の燃料消費量(トルクT時の燃料消費量、図中「●」にて表記)とを算出する。そして、これら燃料消費量の差を上記要求燃料消費量として算出する。したがって、上記要求燃料消費量は、下式(4)によって表すことができる。
要求燃料消費量[g/h]=
トルクT時の燃料消費量[g/h]―トルク0時の燃料消費量[g/h]…(4)
上式(4)を上式(3)に代入することで得られる下式(5)により、想定熱費を算出することが可能となる。
想定熱費[g/Wh]=
{トルクT時の燃料消費量[g/h]―トルク0時の燃料消費量[g/h]}
/{トルクT時のコンプレッサ動力[W]×COP}…(5)
<6.目標コンプレッサトルク算出処理>
上限熱費と想定熱費とに基づく目標コンプレッサトルクの算出処理について説明する。
【0068】
図7に、上記上限熱費算出処理により設定された上限熱費及び上記想定熱費算出処理により算出された想定熱費の一例を示す。詳しくは、図中、一点鎖線にて上限熱費を示し、実線にて想定熱費を示す。なお、図中横軸のコンプレッサトルクは、コンプレッサ20が最大容量で冷媒を吐出する場合におけるコンプレッサトルクを100%とする。
【0069】
本実施形態では、上式(5)によってコンプレッサトルクを互いに相違する複数の値に仮設定した場合のそれぞれの想定熱費を算出する。そして、想定熱費が上限熱費以下となるものに対応するコンプレッサトルクの最大値を目標コンプレッサトルクとして算出する。これにより、コンプレッサ20の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量の増大を抑制しつつも、上記不足度合いを反映して冷媒圧送量を極力多くすることができ、エバポレータ26に迅速に蓄冷することが可能となる。
【0070】
ここで本実施形態では、目標コンプレッサトルクの変動に対して一定幅(例えば、算出された目標コンプレッサトルクに対して±5%)の不感帯を設定する。ここで、不感帯は、前回の目標コンプレッサトルクと今回の目標コンプレッサトルクとの変化量の下限値を設定するものである。これにより、今回の目標コンプレッサトルクは、前回値に等しいか前回値に対して不感帯幅以上に変化するかのいずれかとなる。これは、図中点線及び破線で示すように、想定熱費の変動による目標コンプレッサトルクの変動を抑制するために設けられるものである。つまり、エンジン10の都度の運転状態の変化に伴い想定熱費が変動すると、目標コンプレッサトルクが変動し、実コンプレッサトルクが変動し得る。この場合、例えばドライバのアクセル操作量が一定にもかかわらず、エンジン10の発生トルクが変動することで、ドライバビリティが低下するおそれがある。このため、上記不感帯を設定することで、実コンプレッサトルクの変動を回避することができ、ドライバビリティの低下を回避することが可能となる。
【0071】
図8に、本実施形態にかかる熱費制御処理の手順を示す。この処理は、エアコンECU46によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0072】
この一連の処理では、まずステップS10において、上記目標蓄冷量算出処理を行う。続くステップS12では、上記現在蓄冷量推定処理を行う。そしてステップS14では、上記上限熱費算出処理を行い、続くステップS16では、上記想定熱費算出処理を行う。更にステップS18では、上記目標コンプレッサトルクの算出処理を行う。
【0073】
ステップS18の処理の完了後、ステップS20に進み、目標コンプレッサトルクが急変するか否かを判断する。
【0074】
ステップS20において目標コンプレッサトルクが急変すると判断された場合には、ステップS22に進み、目標コンプレッサトルクの徐変処理を行う。この処理は、目標コンプレッサトルクを変更後の目標値まで徐々に(例えば数秒かけて)変化させることで、ドライバビリティの低下を回避するためのものである。つまり、目標コンプレッサトルクが急変されてから、これに実コンプレッサトルクが追従するまでには一定の時間(例えば数秒)を要する。このため、実コンプレッサトルクの目標コンプレッサトルクへの追従速度よりもエンジン10の発生トルクの変更速度の方が高い場合、車両の駆動トルクが適切なものからずれることで、ドライバビリティが低下するおそれがある。このため、上記徐変処理を行うことで、車両の駆動トルクが適切なものからずれる事態を回避し、ドライバビリティの低下を回避することが可能となる。
【0075】
ステップS22の処理が完了した場合や、上記ステップS20において否定判断された場合には、ステップS24に進み、コンプレッサ20の上記駆動制御処理を行う。なお、上記ステップS18の処理で算出される上記複数の値に仮設定した場合のそれぞれの想定熱費が上限熱費を上回る場合、目標コンプレッサトルクを0とし、コンプレッサ20を停止させる。
【0076】
なお、ステップS24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0077】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0078】
(1)エバポレータ26の蓄冷量及び蓄冷剤27の温度から把握される蓄冷剤27の相と、都度の冷媒温度の履歴と、冷媒流量とに基づき現在蓄冷量を推定した。これにより、上記蓄冷変化量が蓄冷剤27の顕熱及び潜熱のいずれに起因するものかを反映して現在蓄冷量を高精度に推定することができる。
【0079】
(2)車室内温度又は外気温度と目標温度との温度差と、エバファン38の送風量と、アイドルストップ目標時間とに基づき、目標蓄冷量を算出した。これにより、エンジン10の自動停止中の冷房制御を行うための目標蓄冷量を高精度に算出することができる。
【0080】
(3)現在蓄冷量及び目標蓄冷量に基づき上限熱費を算出するとともに、コンプレッサトルクを互いに相違する複数の値に仮設定した場合のそれぞれの想定熱費を算出した。そして、想定熱費が上限熱費以下となるものに対応するコンプレッサトルクの最大値を目標コンプレッサトルクとして算出し、コンプレッサ20の駆動制御を行った。これにより、エンジン10の自動停止中の冷房制御に要求されるエバポレータ26の蓄冷量が不足する事態を回避することができ、ひいては上記自動停止中における冷房制御を適切に行うことができる。また、コンプレッサ20が過剰に駆動される事態を回避することができ、ひいてはエンジン10の燃費低減効果の低下を好適に抑制することができる。
【0081】
(4)車両の減速時においてコンプレッサ20の吐出容量が最大容量となるようにコンプレッサ20の駆動制御を行った。これにより、エバポレータ26の蓄冷量を好適に増大させることができ、ひいてはエンジン10の燃費低減効果の低下をより好適に抑制することができる。
【0082】
(5)目標コンプレッサトルクの変動に対して一定幅の不感帯を設定した。これにより、エンジン10の発生トルクの変動を好適に抑制することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に回避することができる。
【0083】
(6)目標コンプレッサトルクが急変すると判断された場合、目標コンプレッサトルクの徐変処理を行った。これにより、車両の駆動トルクが適切なものからずれる事態を回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下をより好適に回避することができる。
【0084】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0085】
・CV20aのフィードバック操作量を算出する手段としては、実コンプレッサトルクと目標コンプレッサトルクとの偏差に基づく比例積分微分制御によるものに限らない。例えば比例制御のみや、比例微分制御によってフィードバック操作量を算出してもよい。
【0086】
・上記実施形態では、コンプレッサ20を可変容量型圧縮機としたがこれに限らない。例えば駆動中は吐出容量が一定の固定容量型圧縮機としてもよい。この場合、クランク軸14からコンプレッサ20の駆動軸へのクランク軸14の回転動力を通電操作により伝達(オン)又は遮断(オフ)する電磁クラッチを備えればよい。ここでは、上記熱費制御処理を、例えば想定熱費が上限熱費以下となることを条件としてコンプレッサ20をオンさせる処理とすればよい。
【0087】
・実コンプレッサトルクを目標コンプレッサトルクに制御する手段としては、フィードバック制御手段及びフィードフォワード制御手段の双方を備えるものに限らない。例えば、これら手段のうちいずれか1つを備えるものとしてもよい。また、上記フィードバック制御手段によるフィードバック操作量の算出手法としては、実コンプレッサトルクと目標コンプレッサトルクとの偏差に応じた補正量をテーブルに割り付けておき、この補正量を選択することでフィードバック操作量を算出してもよい。
【0088】
・冷媒流量の算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、エアコンシステムに冷凍サイクルの冷媒流量を検出する流量センサが備えられる場合、流量センサの出力値に基づき冷媒流量を算出してもよい。
【0089】
・上記実施形態では、アイドルストップ目標時間を固定値として設定したがこれに限らない。例えば、車両の周囲の情報を取得する手段(周囲情報取得手段)の取得値(例えば、ナビゲーションシステムにより取得される道路交通情報や、車間距離を検出するセンサの検出値)に基づき可変設定してもよい。これにより、アイドルストップ目標時間を車両の周囲の状況に応じて設定することができ、目標蓄冷量を高精度に算出することができる。また、エンジン10の燃費低減効果を優先する車両の走行モード(エコモード)を選択するスイッチが備えられる場合、このスイッチがオンされるときのアイドルストップ目標時間を、同スイッチがオフされるときよりも短めに設定してもよい。これにより、燃費低減効果の向上を図ることができる。
【0090】
・上記実施形態において、空調回生割合を、上記周囲情報取得手段の取得値に基づき補正してもよい。具体的には、上記取得値に基づき算出される車間距離が長いほど、空調回生割合を大きくする補正を行ってもよい。また、上記取得値に基づき算出される車両と信号機との距離が短いほど、空調回生割合を小さくする補正を行ってもよい。これにより、減速時回生予想量の予測精度を向上させることができる。
【0091】
・上記実施形態では、車両の減速中においてコンプレッサ20の吐出容量が最大容量となるようにコンプレッサ20の駆動制御を行ったがこれに限らない。例えば最大容量未満の容量で駆動制御を行ってもよい。
【0092】
・目標コンプレッサトルクの算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、想定熱費が上限熱費以下となるものに対応する任意のコンプレッサトルクを目標コンプレッサトルクとして算出してもよい。ここでは、エンジン10の燃費低減効果及びエンジン10の自動停止中の冷房制御による快適性の要求に応じて目標コンプレッサトルクを適宜算出すればよい。また例えば、現在蓄冷量と目標蓄冷量とに基づき目標コンプレッサトルクを算出してもよい。具体的には、例えば、現在蓄冷量と目標蓄冷量との差に応じた値に基づくPID制御から目標コンプレッサトルクを算出すればよい。更に例えば、目標蓄冷量を固定値としてもよい。また例えば、現在蓄冷量のフィードバック制御を行うものにも限らず、実際の蓄冷量を目標蓄冷量に開ループ制御するための操作量として目標コンプレッサトルクを設定してもよい。
【0093】
・現在蓄冷量の推定手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、エバポレータ26の出口側の冷媒温度を検出する第2の冷媒温度センサを更に備え、エバポレータ26の通過前後の都度の冷媒温度の履歴と、冷媒流量とから上記蓄冷変化量を推定することで、現在蓄冷量を推定してもよい。この場合、蓄冷剤27が使用領域で相転移を生じるものであっても、蓄冷剤27の潜熱及び顕熱を考慮することなく現在蓄冷量を高精度に推定することができる。また例えば、都度の冷媒温度を入力として、現在蓄冷量を推定するためのモデルを用いて現在蓄冷量を推定してもよい。
【0094】
・上記実施形態では、蓄冷剤27の温度を、蓄冷剤27の比熱と、蓄冷剤27の質量と、前回蓄冷量とに基づき推定したがこれに限らない。例えば、蓄冷剤27の温度を検出する蓄冷剤温度センサを備える場合、このセンサの出力値に基づき蓄冷剤27の温度を算出してもよい。
【0095】
・目標蓄冷量の算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、アイドルストップ目標時間、エバファン38の送風量、目標温度及び車室内温度(又は外気温度)のうち少なくとも1つ以上(全部を除く)に基づき、目標蓄冷量を算出してもよい。また例えば、季節や使用地域に基づき予め設定された車室内の冷房制御に要する冷房負荷の想定値に応じた目標蓄冷量を設定してもよい。
【0096】
・上限熱費の算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、要求蓄冷量ΔQが多くなるほど上限熱費が多くなるように予め規定されたマップ等を用いて算出してもよい。また例えば、要求蓄冷量ΔQが0以下となる場合、上限熱費を0としてもよい。
【0097】
・上記実施形態では、エバポレータ26に蓄えられる冷媒の熱によって冷却された空気による冷房制御をエンジン10の自動停止中に行ったがこれに限らない。例えば、エバポレータ26の蓄冷量が目標蓄冷量よりも多くなる場合、エンジン10の運転中においてエバポレータ26に蓄えられる冷媒の熱を補助的に利用して冷房制御を行ったり、エンジン10の運転中においてコンプレッサ20を停止してエバポレータ26に蓄えられる冷媒の熱によって冷却された空気のみを利用して冷房制御を行ったりしてもよい。
【0098】
・上記実施形態にかかる車両用空調制御装置が適用される車両としては、アイドルストップ制御を行うものに限らず、この制御を行わないものであってもよい。この場合、エンジン10の運転中において車室内の冷房要求を満たすうえで要求される冷房能力を実現するための想定熱費が上限熱費を上回る場合、コンプレッサ20を停止してエバポレータ26に蓄えられる冷媒の熱によって冷却された空気のみを利用して冷房制御を行ってもよい。なお、冷房負荷の算出に際しては、アイドルストップ目標時間に代えて、エバポレータ26の蓄熱容量に応じて予め設定されるコンプレッサ20停止中の冷房制御の目標時間(コンプレッサ20が停止されると想定される時間)を用いればよい。
【0099】
・上記実施形態において、想定熱費の算出に際してのコンプレッサトルクTの設定に、車室内を冷房するうえで要求されるコンプレッサトルクT以上とするとの条件を設けてもよい。なお、車室内を冷房するうえで要求されるコンプレッサトルクに応じた想定熱費が上限熱費を上回る場合には、この要求されるコンプレッサトルクを目標コンプレッサトルクとしてコンプレッサを駆動してもよい。
【0100】
・上記実施形態では、エバポレータ26と蓄熱器とを一体としたがこれに限らない。例えば、エバポレータ26とは別に、蓄冷剤27が封入された蓄熱器をエアコンシステムに更に備えてもよい。この場合、エバポレータ26とコンプレッサ20の吸入口との間に蓄熱器を接続したり、エバポレータ26と蓄熱器とを並列に接続したりすればよい。
【0101】
・車室内の空調制御としては、冷房制御に限らず、例えば車両の窓ガラスの曇りを除去する等の目的で行われる除湿制御であってもよい。この場合、除湿制御に要する熱量に基づき、目標蓄冷量を設定すればよい。
【符号の説明】
【0102】
10…エンジン、12…燃料噴射弁、20…コンプレッサ、26…エバポレータ、27…蓄冷剤、38…エバファン、40…冷媒温度センサ、46…エアコンECU(車両用空調制御装置の一実施形態)、52…目標温度設定スイッチ、54…車室内温度センサ、56…エンジンECU、62…外気温センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の動力により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機と、蓄冷剤により前記冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムを備える車両に適用され、前記蓄熱器の蓄冷量の現在値に基づき、該蓄熱器に蓄冷するための前記圧縮機の駆動制御を行う制御手段を備え、前記圧縮機の停止中において前記蓄熱器で冷却された空気により車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、
前記冷媒の都度の温度の履歴に基づき、前記蓄冷量の現在値を推定する現在蓄冷量推定手段を備えることを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項2】
前記蓄冷剤は、その使用領域において相転移を生じるものであり、
前記現在蓄冷量推定手段は、前記蓄熱器の蓄冷量及び前記蓄冷剤の温度から把握される該蓄冷剤の相に基づき、該蓄冷剤の顕熱及び潜熱の推定を選択的に行うことを特徴とする請求項1記載の車両用空調制御装置。
【請求項3】
前記圧縮機の停止中において前記車室内の空調制御に要求される熱量の想定値に基づき、前記蓄熱器の蓄冷量の目標値を可変設定する目標蓄冷量設定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記蓄冷量の現在値と、前記蓄冷量の目標値とに基づき、前記駆動制御を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用空調制御装置。
【請求項4】
前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を更に備え、
前記車両の減速時における運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することによる前記蓄冷量の増大量を予測する予測手段を更に備え、
前記目標蓄冷量設定手段は、前記蓄冷量の目標値から前記予測された増大量に応じた量を減算した量を前記蓄冷量の最終的な目標値として設定するものであり、
前記制御手段は、前記車両の減速時において前記圧縮機を駆動させるものであることを特徴とする請求項3記載の車両用空調制御装置。
【請求項5】
内燃機関の動力により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機と、蓄冷剤により前記冷媒の熱を蓄える蓄熱器とを有して構成される空気調節システムを備える車両に適用され、前記蓄熱器に蓄冷するための前記圧縮機の駆動制御を行う制御手段を備え、前記圧縮機の停止中において前記蓄熱器で冷却された空気により車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、
前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を備え、
前記車両の減速時における運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することによる前記蓄熱器の蓄冷量の増大量を予測する予測手段と、
前記圧縮機の停止中において前記車室内の空調制御に要求される熱量としての前記蓄冷量の目標値から前記予測された増大量に応じた量を減算した量を前記蓄冷量の最終的な目標値として設定する目標蓄冷量設定手段とを備え、
前記制御手段は、前記最終的な目標値に基づき前記駆動制御を行い、前記車両の減速時において前記圧縮機を駆動させるものであることを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項6】
前記目標蓄冷量設定手段は、前記蓄熱器で冷却される空気の温度と相関を有する温度、前記圧縮機が停止されると想定される時間、前記車室内への送風量及び車室内温度の目標値のうち少なくとも1つに基づき、前記蓄冷量の目標値を可変設定することを特徴とする請求項3又は4記載の車両用空調制御装置。
【請求項7】
前記圧縮機の駆動によって生成される熱量に関して、その単位量当たりに要求されると想定される内燃機関の燃料消費量である想定熱費の許容量を可変設定する許容量設定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記想定熱費が前記許容量以下となることを条件として前記駆動制御を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用空調制御装置。
【請求項8】
前記許容量設定手段は、前記圧縮機の駆動トルクを互いに相違する複数の値に仮設定した場合のそれぞれの前記想定熱費を算出するものであり、
前記制御手段は、前記駆動トルクをその目標値に制御するものであり、前記算出される複数の想定熱費のうち前記許容量以下となるものに対応する駆動トルクを前記目標値として設定する目標値設定手段を備えることを特徴とする請求項7記載の車両用空調制御装置。
【請求項9】
前記目標値設定手段は、前記許容量以下となるものに対応する駆動トルクの最大値を前記目標値として設定することを特徴とする請求項8記載の車両用空調制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記駆動トルクの目標値の変動に対して一定幅の不感帯を有することを特徴とする請求項8又は9記載の車両用空調制御装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記駆動トルクをその目標値に応じてフィードフォワード制御する手段と、該駆動トルクとその目標値との差に応じた値に基づきフィードバック制御する手段とを備えることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の車両用空調制御装置。
【請求項12】
前記駆動トルクの目標値が変更されると判断された場合、該駆動トルクの目標値を変更後の目標値まで徐々に変化させる徐変手段を更に備えることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の車両用空調制御装置。
【請求項13】
前記車両は、前記内燃機関の自動停止処理及び再始動処理を行う自動停止始動手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4又は請求項6〜12のいずれか1項に記載の車両用空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−68190(P2011−68190A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218971(P2009−218971)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】