説明

車両用空調装置の制御方法

【課題】無駄な高負荷運転を抑制し、ヒートポンプとして暖房運転している時の消費電力を必要最小限に抑える。
【解決手段】ヒートポンプサイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置において、目標吹出温度TAOが制限値47℃より高くない時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPが目標吹出温度TAOになるよう、コンプレッサ14を制御する。目標吹出温度TAOが制限値47℃より高い時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを、目標吹出温度TAOより低くなるよう設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御する。これにより、目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう設定して、コンプレッサ制御することで、省電力運転を行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサを用いて熱交換器に冷媒を送り、車室内においてヒートポンプサイクルによる暖房を行う車両用空調装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載の車両用空調装置が知られており、これは、ヒートポンプサイクルによる暖房制御時において、暖房用熱交換器の温度が目標吹出温度TAOになるように、冷媒圧力を制御するものである。
【0003】
上記特許文献1の技術によれば、次の2つの問題を解決できる。第1の問題は、暖房用熱交換器の熱容量が大きく、温度センサの応答性が悪いこと等から、目標吹出温度を実現するために、コンプレッサの回転数を上げていく際に、目標吹出温度に達する前に、コンプレッサの吐出圧力が上がり過ぎてしまうという問題である。この第1問題では、冷凍サイクルの高圧側圧力を検出する高圧カット用の圧力スイッチが作動して、コンプレッサの作動が停止されるという不具合が発生する。
【0004】
第2の問題は、上記のように熱交換器の熱容量が大きく、温度センサの応答性が悪いこと等から目標吹出温度TAOに対する吹出空気温度がハンチングすることになり、特に暖房運転時の室内側風量(暖房用熱交換器への風量)を変えた時、あるいは、設定温度の変更に伴って目標吹出温度が変わった時等には、インバータ電流が著しく変動してコンプレッサの吐出圧力が変動するという問題である。
【0005】
そのために、特許文献1の技術は、コンプレッサの回転数制御によって暖房能力を可変する電気自動車用空調装置において、吹出空気温度のハンチングを抑えるとともに、冷凍サイクルの高圧側圧力が、コンプレッサの作動を停止する圧力まで上昇するのを防止している。
【0006】
そして、車室内へ送風空気を導くダクトと、このダクト内に空気を導入して前記車室内へ送る送風機と、吸引した冷媒を圧縮して吐出するコンプレッサと、ダクト内に配されてコンプレッサで圧縮された高温高圧冷媒と熱交換して空気を加熱する暖房用熱交換器とを有する冷凍サイクルを備えている。
【0007】
また、上記冷凍サイクルの高圧側圧力を検出する圧力検出手段と、室温を検出する室温検出手段と、車室内の設定温度と室温検出手段の検出温度とに基づいて目標吹出温度を算出する目標吹出温度算出手段と、目標吹出温度と暖房用熱交換器を通過する空気の条件とに基づいて暖房用熱交換器を流れる冷媒の飽和温度を算出する飽和冷媒温度算出手段とを備える。
【0008】
また、冷媒の飽和温度に基づいて、冷媒の飽和圧力を算出する飽和圧力算出手段と、この飽和圧力と圧力検出手段の検出値とに基づいて、コンプレッサの回転数を所定回転数に制御するコンプレッサ制御手段を備える。
【0009】
上記構成より成る特許文献1の電気自動車用空調装置は、冷凍サイクルの高圧側圧力と、冷媒の飽和圧力とに基づいて、コンプレッサの回転数を制御している。冷凍サイクルの高圧側圧力、つまりコンプレッサの吐出圧力は、ほぼ暖房用熱交換器の飽和圧力と見做すことができることから、冷凍サイクルの高圧側圧力は、飽和圧力に対応する冷媒の飽和温度(凝縮温度)と関係が有る。
【0010】
この冷媒の飽和温度の値に応じて、吹出空気温度が変化するため、目標とする吹出空気温度(目標吹出温度)に応じて、冷媒の飽和温度を求め、その飽和温度と対応する飽和圧力、つまり目標とする高圧側圧力を求めることができる。
【0011】
従って、圧力検出手段で検出された検出値が、目標とする高圧側圧力(目標吹出温度を基に算出される飽和圧力)となるようにコンプレッサの回転数をフィードバック制御することで、目標の吹出空気温度を得ることができている。
【0012】
次に、特許文献2のヒートポンプ式冷凍サイクルが公知であり、これは、コンプレッサ回転音の急激な増加による乗員の不快感を防止することを目的としている。そして、そのために、車速センサが検出した車速が所定値以上のときは、コンプレッサの回転数変化率の上限を1500rpm/secにし、車速が所定値以下のときは、コンプレッサの回転数変化率の上限を500rpm/secにしている。
【0013】
これにより、車速によりコンプレッサ回転音がかき消されるようなときには、吹出温度を速く目標吹出温度TAOにすることができ、周りが静かなときにはコンプレッサ回転音の急激な増加を抑え、乗員に不快感を与えることを防止できるものである。また、コンプレッサの回転数は目標エバポレータ温度TEOとエバポレータ温度TEとの偏差に基づいて、ファジー制御を用いて求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許3307466号公報
【特許文献2】特開2000−318435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記特許文献1及び2では、例えば、車室内の複数個所を独立して空調制御する、所謂、独立空調時等において、乗員のいない側の設定温度が高すぎたり、あるいは、車両に乗員が搭乗する前のプレ空調時に、何らかの原因で設定温度が高すぎたりした場合に、ヒートポンプサイクルが無駄に高負荷運転になり、多大な電力を消費するという問題がある。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑み、ヒートポンプサイクルで暖房運転している時の消費電力を必要最小限に抑えることができる車両用空調装置の制御方法を提供することを目的とする。
【0017】
従来技術として列挙された特許文献の記載内容は、この明細書に記載された技術的要素の説明として、参照によって導入ないし援用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、車室内への吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、ヒートポンプサイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置において、目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高くない(TAO>47℃でない)時は、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時の暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)が目標吹出温度(TAO)になるよう、コンプレッサ(14)を制御すると共に、目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高い(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を、目標吹出温度TAOより低くなるよう設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ(14)を制御することを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、基本的にエンジンの廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を目標吹出温度(TAO)より低くなるよう設定して(例えば、TAO HP=47℃として)、コンプレッサ(14)を制御することで、省電力運転を行うことが出来る。
【0020】
請求項2に記載の発明では、目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高く(TAO>47℃である)、かつ、設定温度(Tset)が所定設定値(31℃)より高くない(Tset>31℃でない)時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を目標吹出温度(TAO>47℃)より低くなるように低目標吹出温度に設定(TAO HP=47℃=低目標吹出温度)して、コンプレッサ(14)を制御すると共に、目標吹出温度(TAO)が所定値(47℃)より高く(TAO>47℃である)、かつ、設定温度(Tset)が所定設定値(31℃)より高い時(Tset>31℃である時)は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を低目標吹出温度よりも高く設定(TAO HP=TAO>47℃)することを特徴としている。
【0021】
この発明によれば、基本的にエンジンの廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう低目標吹出温度に設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ(14)を制御することで、省電力運転を行うことが出来る。
【0022】
但し、設定温度(Tset)が高い(Tset>31℃)時は、ユーザーが明らかに通常よりも高い温度にしたいと希望していると判断できるので、この場合には、コンプレッサ(14)の稼動率を上げることで、ユーザーの好みを反映することが出来る。
【0023】
請求項3に記載の発明では、目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高く(TAO>47℃である)、かつ、暖房運転がウオームアップ中ではないと判断された(室温<20℃でない)時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を目標吹出温度(TAO>47℃)より低くなるように低目標吹出温度(TAO HP=47℃=低目標吹出温度)に設定して、コンプレッサ(14)を制御すると共に、目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高く(TAO>47℃である)、かつ、暖房運転がウオームアップ中であると判断(室温<20℃であると判断)された時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を低目標吹出温度よりも高く設定(TAO HP=TAO>47℃)することを特徴としている。
【0024】
この発明によれば、基本的にエンジン(30)等の廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房運転は、空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度(TAO)が通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度が、目標吹出温度(TAO)より低くなるよう、コンプレッサ(14)を制御することで、省電力運転を行う。但し、ウオームアップ時は、明らかに通常よりも高い温度にしたいとユーザーが希望していると判断できるので、この場合には、コンプレッサ(14)の稼動率を上げることで、早期に所望の室温に到達させることが出来る。
【0025】
請求項4に記載の発明では、室温(Tr)が所定室温設定値(20℃)より低くない(室温<20℃でない)時は、暖房運転がウオームアップ中ではないと判断され、
室温(Tr)が所定室温設定値(20℃)より低い(室温<20℃である)時は、暖房運転がウオームアップ中であると判断されることを特徴としている。
【0026】
この発明によれば、室温(Tr)が所定室温設定値(20℃)より低い時(室温<20℃である)は、ウオームアップ時とみなし、明らかに通常よりも高い吹出温度にしたいユーザーが希望していると判断できるので、この場合には、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を低目標吹出温度(47℃)よりも高く設定して、コンプレッサ(14)の稼動率を上げることで、早期に目標室温に到達させることが出来る。
【0027】
請求項5に記載の発明では、更に、車両用空調装置は、暖房用熱交換器(19)を通る空気と、冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御するエアミックス手段(38)と、冷却水の廃熱を利用する温水熱交換器(32)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行し、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時に、エアミックス手段(38)の位置を、温水暖房サイクルによる暖房運転時のエアミックス手段(38)の位置に比べて、より暖房側となる位置に固定した固定制御に切替えることを特徴としている。
【0028】
この発明によれば、基本的にエンジン(30)等の廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は、車両空調のために多大な電力を消費するため、目標温度に対する応答性よりも省電力を優先し、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時は、エアミックス手段(38)をマックスホット(MAX HOT)等の暖房側の位置に固定した制御(固定制御)に切替えることで、暖房用熱交換器(19)の発熱を空調に有効利用して省電力化することが出来る。また、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を目標吹出温度(TAO)より低くなるよう設定して(例えば、TAO HP=47℃として)、コンプレッサ(14)を制御する省電力運転と組み合わせることによって、一層の省電力効果が得られる。
【0029】
請求項6に記載の発明では、ヒートポンプサイクルによる暖房運転でない時であって、温水熱交換器(32)の温度、または冷却水の冷却水温度が、暖房用熱交換器(19)の暖房用熱交換器目標温度より高いときに、温水熱交換器(32)の温度、または、冷却水温度に応じてエアミックス手段(38)の位置を可変制御することを特徴としている。
【0030】
この発明によれば、冷却水温度が利用できる時は、温水熱交換器(32)、または冷却水温度に応じてエアミックス手段(38)を作動させることで、適切な空調風の吹出温度が確保できるので、ユーザーの快適性が向上する。
【0031】
請求項7に記載の発明では、冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、車室内への吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、ヒートポンプサイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置において、更に、暖房用熱交換器(19)を通る空気と、冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御するエアミックス手段(38)と、冷却水の廃熱を利用する温水熱交換器(32)を備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行し、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時に、エアミックス手段(38)の位置を、温水暖房サイクルによる暖房運転時のエアミックス手段(38)の位置に比べて、より暖房側となる位置に固定した固定制御に切替えることを特徴としている。
【0032】
この発明によれば、基本的にエンジン(30)等の廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は、車両空調のために多大な電力を消費するため、目標温度に対する応答性よりも省電力を優先し、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時は、エアミックス手段(38)をマックスホット(MAX HOT)等の暖房側の位置に固定した制御(固定制御)に切替えることで、暖房用熱交換器(19)の発熱を空調に有効利用して省電力化することが出来る。
【0033】
請求項8に記載の発明では、ヒートポンプサイクルによる暖房運転でない時であって、温水熱交換器(32)の温度、または冷却水の冷却水温度が、暖房用熱交換器(19)の暖房用熱交換器目標温度より高いときに、温水熱交換器(32)の温度、または、冷却水温度に応じてエアミックス手段(38)の位置を可変制御することを特徴としている。
【0034】
この発明によれば、冷却水温度が利用できる時は、温水熱交換器(32)、または冷却水温度に応じてエアミックス手段(38)を作動させることで、適切な空調風の吹出温度が確保できるので、ユーザーの快適性が向上する。
【0035】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号ないし説明は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を分かり易く示す一例であり、発明の内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に使用する電気自動車用空調装置のCOOLサイクル時の全体模式図である。
【図2】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のHOTサイクル時の全体模式図である。
【図3】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のDRY EVAサイクル時の全体模式図である。
【図4】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のDRY ALLサイクル時の全体模式図である。
【図5】上記実施形態における上記各サイクルにおいて、エアコン制御装置が、各電磁弁をどのように制御するかを示す電磁弁作動表である。
【図6】上記実施形態におけるエアコン制御装置と主な各種センサ等との接続関係を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態におけるエアコン制御装置による基本的な空調制御処理を示したフローチャートである。
【図8】上記実施形態におけるサイクル選択の詳細を示すフローチャートである。
【図9】上記実施形態におけるエアミックスドアの開度を算出するフローチャートである。
【図10】上記実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【図11】上記実施形態における暖房用熱交換器目標温度と暖房用熱交換器の入口温度とから、仮の目標圧力を演算するためのマップである。
【図12】上記実施形態における偏差と、偏差変化率と、ヒートポンプサイクルによる暖房のためのコンプレッサ回転数変化量との関係を示すマップである。
【図13】上記実施形態における偏差と、偏差変化率と、COOLサイクルによる冷房のためのコンプレッサ回転数変化量との関係を示すマップである。
【図14】本発明の第2実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【図15】本発明の第3実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1乃至図13を用いて詳細に説明する。この第1実施形態は、蒸気圧縮式冷凍機をハイブリッド自動車用の空調装置に適用したものである。
【0038】
ハイブリッド自動車は、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関をなすエンジン(E/G)、走行補助用電動機機能及び発電機機能を備える走行補助用の電動発電機、エンジンへの燃料供給量や点火時期等を制御するエンジン用電子制御装置(エンジン用ECU)、電動発電機やエンジン用電子制御装置等に電力を供給するバッテリ、電動発電機の制御及び無断変速機や電磁クラッチの制御を行うと共にエンジン用電子制御装置に制御信号を出力するハイブリッド電子制御装置を備えている。
【0039】
そして、ハイブリッド用電子制御装置は、電動発電機及びエンジンのいずれの駆動力を駆動輪に伝達するかの駆動切替を制御する機能、及びバッテリの充放電を制御する機能を備えている。
【0040】
具体的には、以下のような制御を行う。
(1)車両が停止しているときは、基本的にエンジンを停止させる。
(2)走行中は、減速時を除き、エンジンで発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、減速時は、エンジンを停止させて電動発電機にて発電してバッテリに充電する。
(3)発進時、加速時、登坂時及び高速走行時等の走行負荷が大きいときには、電動発電機を電動モータとして機能させてエンジンで発生した駆動力に加えて、電動発電機に発生した駆動力を駆動輪に伝達する。
(4)バッテリの充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジンの動力を電動発電機に伝達して電動発電機を発電機として作動させてバッテリの充電を行う。
(5)車両が停止しているときにバッテリの充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジン用電子制御装置に対してエンジンを始動する指令を発するとともに、エンジンの動力を電動発電機に伝達する。
【0041】
図1は、第1実施形態における車両用空調装置となる電気自動車用空調装置のCOOLサイクル時の全体模式図である。アキュムレータ式冷凍サイクルを用いた電気自動車用空調装置1は、車室内に送風空気を導くダクト2、このダクト2内に空気を導入して車室内へ送る送風機3、及びエアコン制御装置5(後述の図6)を備える。
【0042】
送風機3は、図示しないブロワケース、遠心式ファン3b、ブロワモータ3cより成り、このブロワモータ3cへの印加電圧に応じて、ブロワモータ3cの回転速度が決定される。ブロワモータ3cへの印加電圧は、エアコン制御装置5からの制御信号に基づいて制御される。
【0043】
送風機3の図示しないブロワケースには、周知のように、車室内空気(内気)を導入する図示しない内気導入口と、車室外空気(外気)を導入する図示しない外気導入口とが形成されるとともに、内気導入口と外気導入口との開口割合を調節する図示しない内外気切替手段を成す内外気切替ダンパが設けられている。
【0044】
ダクト2の下流端(図1上)は、周知のように、車両のフロントガラスに向かって送風空気を吐出する図示しないデフロスタ吹出口、乗員の上半身に向かって送風空気を吐出するフェイス吹出口、乗員足元に向かって送風空気を吐出するフット吹出口に連絡されている。
【0045】
冷凍サイクルは、コンプレッサ14、室外熱交換器15、冷房用減圧装置16、暖房用減圧装置17、冷房用熱交換器(エバポレータとも言う)18、暖房用熱交換器19、アキュムレータ21、及び流路切替手段(後述する)を備える。
【0046】
コンプレッサ14は、内蔵された電動モータ14aにより駆動される。電動モータ14aは、図示しないインバータによって可変制御される周波数に応じて回転速度が決定される。従って、コンプレッサ14の冷媒吐出流量は、電動モータ14aの回転速度に応じて変化する。
【0047】
室外熱交換器15は、車室外に配置されて、外気と冷媒との熱交換を行うもので、室外ファン24の送風を受けて、暖房運転時にはエバポレータとして機能し、冷房運転時にはコンデンサとして機能する。
【0048】
冷房のために液化した冷媒は、図1の冷房用減圧装置(温度感応型エキスパンションバルブ)16に導入され、急激に減圧膨張し低温低圧の霧状となる。低温低圧の霧状冷媒は冷房用熱交換器18へ供給される。暖房用減圧装置(暖房用絞り)17は、暖房運転時に室外熱交換器15へ供給される冷媒を減圧膨脹させる。
【0049】
冷房用熱交換器18は、エバポレータとして機能するもので、ダクト2内に配設されている。この冷房用熱交換器18は、冷房用減圧装置16で減圧膨脹された低温低圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、冷房用熱交換器18を通過する空気を冷却する。
【0050】
暖房用熱交換器19は、コンデンサとして機能するもので、ダクト2内で冷房用熱交換器18の下流(風下)に配設されて、コンプレッサ14で圧縮された高温高圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、暖房用熱交換器19を通過する空気を加熱する。
【0051】
ウオータポンプ31は、エンジン冷却水から成る温水を温水熱交換器(ヒータコアとも言う)32に供給する。この温水熱交換器32は、上記暖房用熱交換器19と共に加熱器として機能する。
【0052】
エアミックス手段を成すエアミックスドア(A/M)38は、周知のように冷房用熱交換器18からの冷風と暖房用熱交換器19等(加熱器)との暖風との混合割合を制御する。アキュムレータ21は、冷凍サイクル内の過剰冷媒を一時蓄えると共に、気相冷媒のみを送り出して、コンプレッサ14に液冷媒が吸い込まれるのを防止する。
【0053】
暖房三方弁(HTMV)25a、高圧電磁弁(HPMV)25b、低圧電磁弁(LPMV)25c、除湿電磁弁(DHMV)25d、熱交(熱交換)シャット弁(HSMV)25e、第1逆止弁27、及び第2逆止弁28より流路切替手段が形成されている。
【0054】
この流路切替手段25a、25b、25c、25d、25e、27、及び28は、運転の種類であるCOOLサイクル時、HOTサイクル時、DRY EVAサイクル時、及びDRY ALLサイクル時で夫々、冷媒の流れ方向を切り替えるものである。
【0055】
エンジン30からの温水は、ウオータポンプ31によって、温水用熱交換器32に供給される。35は、冷媒吸入温度T35を測定する冷媒吸入温度センサである。また、矢印40、41、42、43、44は冷媒の流れる向きを示している。
【0056】
冷媒圧力センサ50PREは、冷房用熱交換器19より上流の冷媒の高圧圧力(コンプレッサ14の吐出圧力)PREを検出する。また、冷媒吸入温度センサ35は、室外熱交換器15の冷媒流れの下流側に設けられ冷媒吸入温度T35を検出する。また、室外熱交換器15に対して、冷房用熱交換器18と暖房用熱交換器19とで室内熱交換器(18及び19)を形成している。
【0057】
(COOLサイクル)
暖房性能無しであり、除湿能力が大レベルの運転時であるCOOLサイクルでは、図1のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁21→室外熱交換器15→高圧電磁弁25b→第1逆止弁27→冷房用減圧装置16→冷房用熱交換器18→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる様に上記流路切替手段25a、25b、25c、25d、25e、27、及び28が切り替えられる。この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、42、43、及び44で示す。
【0058】
その結果、コンデンサとして機能する室外熱交換器15から、熱が室外に放出され、冷房用熱交換器(エバポレータとして機能する)18から熱が吸収される。このとき、暖房用熱交換器19も発熱しているが、エアミックスドア38の位置制御で、車室内空気との熱交換量を少なくすることが出来る。
【0059】
(HOTサイクル)
図2は、第1実施形態における車両用空調装置となる電気自動車用空調装置のHOTサイクル時の全体模式図である。暖房性能が大であり、除湿能力無しの運転時であるHOTサイクルによる運転時では、図2のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁21→暖房用減圧装置17→熱交シャット弁25e→室外熱交換器15→低圧電磁弁25c→第2逆止弁28→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0060】
この運転時の冷媒の流れを、図中矢印40、41、45、42a、46、及び47で示す。なお、室外空気が極めて低いときは、HOTサイクルによる暖房は効率が悪いので、上述のCOOLサイクルにてエンジンを稼動させ、エンジン冷却水(温水)の温度を上げて、温水用熱交換器(ヒータコア)32の熱で車室内が暖房される。
【0061】
(DRY EVAサイクル)
図3は、第1実施形態における電気自動車用空調装置のDRY EVAサイクル時の全体模式図である。このDRY EVAサイクルは、この一実施形態では、暖房能力が小レベルで車室内の中レベルの除湿を行うときに選択される。
【0062】
このDRY EVAサイクルでは、図3のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁25a→暖房用減圧装置17→除湿電磁弁25d→冷房用熱交換器18→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0063】
この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、45,47、及び48で示す。このDRY EVAサイクルは、室外熱交換器15を使用せず冷房用熱交換器(エバポレータ)18を使用し、暖房性能は小レベルで除湿能力は中レベルの空調を行う。
【0064】
(DRY ALLサイクル)
図4は、第1実施形態における電気自動車用空調装置のDRY ALLサイクル時の全体模式図である。このDRY ALLサイクルは、この一実施形態では、暖房能力が中レベルで車室内の小レベルの除湿を行うときに選択されて実行される。このDRY ALLサイクルでは、冷房用熱交換器(エバポレータ)18と室外熱交換器15の両方を使用する。
【0065】
このDRY ALLサイクルでは、図4のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁25a→暖房用減圧装置17→熱交シャット弁25e→室外熱交換器15→低圧電磁弁25c→第2逆止弁28→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0066】
また、同時に、暖房用減圧装置17→除湿電磁弁25d→冷房用熱交換器18→→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に、上記冷媒が流れる。この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、45、42a、46、47、49、48で示す。
【0067】
図1乃至図4で図示を省略したエアコン制御装置5(図6)は、マイクロコンピュータ(図示しない)を内蔵する。図5は、上記各サイクルにおいて、エアコン制御装置5が、各電磁弁25a〜25eをどのように制御するかを示す電磁弁作動表である。
【0068】
図6は、エアコン制御装置5と各種センサ等との接続関係を示すブロック図である。センサは、室温Trを検出する内気センサ50Tr、外気温度Tamを検出する外気センサ50Tam、日射量Tsを検出する日射センサ50Ts、図2の暖房用熱交換器19の吸込側空気温度Tinを検出する入口温度センサ50Tin、上記暖房用熱交換器19より上流の冷媒の高圧圧力(コンプレッサ14の吐出圧力)PREを検出する冷媒圧力センサ50PRE、図2の室外熱交換器15の冷媒流れの下流側に設けられ冷媒吸入温度T35を検出する冷媒吸入温度センサ35等(以下、省略する)を備える。
【0069】
また、エアコン制御装置5は、エアコン操作パネル51から出力される操作信号および上記各センサからの検出信号に基づいて、送風機3、コンプレッサ14駆動用のインバータ52、室外ファン24、暖房三方弁25a、各種電磁弁25b〜25e、周知の内外気切替ダンパ53、及び吹出口切替ダンパ54、PTCヒータ35等の電気部品を通電制御する。なお、内外気切替ダンパ53、及び吹出口切替ダンパ54とあるのは、実際には、これらのダンパを駆動するアクチュエータ部分にエアコン制御装置5から通電される。
【0070】
また、エアコン制御装置5と、上述の図示しないハイブリッド用電子制御装置及びエンジン用電子制御装置は相互に通信可能になっており、この第1実施形態では、所定のプロトコルに基づいたデータ通信により通信している。
【0071】
また、上記エアコン操作パネル51には、冷凍サイクルの運転状態を手動で、上記COOLサイクル、HOTサイクル、DRY EVAサイクル、及びDRY ALLサイクルのいずれかに切替える図示しない手動スイッチを有し、この手動操作信号をエアコン制御装置5に入力している。
【0072】
また、図6のエアコン操作パネル51には、図2のコンプレッサ14に内蔵された電動モータ14aの起動及び停止を指令するためのエアコンスイッチ、吸込口モードをマニュアルモードで切り替えるための吸込口切替スイッチ、車室内の温度を所望の設定温度Tsetに設定するための温度設定スイッチ、図2の送風機3の送風量をマニュアルモードで切り替えるための風量切替スイッチ、及び図示しない吹出口モードをマニュアルモードで切り替えるための吹出口切替スイッチ等を備える。
【0073】
図7は、第1実施形態のエアコン制御装置5(図6)による基本的な制御処理を示したフローチャートである。図7において、イグニッションスイッチが投入されて、エアコン制御装置5に電源が供給されると制御がスタートする。
(プレ空調判定)
図6に示したエアコン制御装置5は、上記の各種センサからの信号、エアコン操作パネル51に設けられた各種操作部材からの信号、及び遠隔操作可能な操作手段である図示しないリモートコントロール装置を成す携帯機からの信号等に基づいて、車室内を空調するように構成されている。車両が継続的に停止して乗員が搭乗していないときには、エアコン制御装置5は、上記リモートコントロール装置からのプレ空調要求の有無を監視している。
【0074】
そして、リモートコントロール装置からプレ空調要求があった場合(即時空調の要求があった場合、または予め送信入力された空調要求時刻に基づいて空調を開始するタイミングとなった場合)には、車両が停止状態であるか否か判断するとともに、電源電力がプレ空調作動時の要求電力に対し大きいか否か判断する。
【0075】
車両が停止状態であり、電源電力がプレ空調要求電力より大きいことを確認したら、プレ空調の実施を許可するためにプレ空調フラグを立てる(ステップS1)。
【0076】
(イニシャライズ)
次に、図6のエアコン制御装置5内の各パラメータ等を初期化(イニシャライズ)する(ステップS2)。
【0077】
(スイッチ信号読み込み)
次に、図6に示したエアコン操作パネル51からのスイッチ信号等を読み込む(ステップS3)。
【0078】
(センサ信号読み込み)
次に、図6に示した各種センサからの信号を読み込む(ステップS4)。
【0079】
(TAO算出基本制御)
次に、ROMに記憶された下記の数式1に基づいて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する(ステップS5)。
【0080】
(数式1)TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
ここで、Tsetは温度設定スイッチにて設定した設定温度、Trは内気温センサ50Trにて検出した室温、Tamは外気温度センサ50Tamにて検出した外気温度、Tsは日射センサ50Tsにて検出した日射量である。また、Kset、Kr、Kam及びKsはゲインで、Cは補正用の定数である。
【0081】
そして、このTAO、及び上記各種センサからの信号により、周知のように、図2のエアミックスドア38のアクチュエータの制御値、及びウオータポンプ31の回転数等の制御値等を算出する。
【0082】
(サイクル選択)
次に、運転すべきサイクルの選択を図7のステップS6にて行う。このステップS6は、具体的には、図8に基づいて行う。図8は、図7のステップS6におけるサイクル選択の詳細を示すフローチャートである。
【0083】
図8において、制御がスタートすると、ステップS30にて、外気温度が−3℃より低いか否かを判定する。外気温度が−3℃より低いと、ヒートポンプの性能が十分に出ないため、ステップS32にてCOOLサイクルとする。なお、このとき、エンジン冷却水(温水)の温度が低いときで、図2のエンジン30が停止している場合は、エンジン30を始動させる。外気温度が−3℃より低くない場合、ステップS31にて、自動制御での吹出口モードが、フェイス(FACE)モードか否かを判定する。
【0084】
フェイスモードの場合、「ヒートポンプサイクルの必要無し」と判断して、ステップS32にて、COOLサイクルとする。フェイスモードでない場合、ステップS33にて、窓曇りの可能性が有るか否かを判定する。
【0085】
この窓ガラスの曇り判定は、特開2002−120545号公報等にて公知である。曇り判定を簡単に説明する。RH25を車室内の相対湿度の快適湿度(25℃相当の相対湿度)とし、RHW25を25℃相当の飽和絶対湿度としたとき、RH25、及びRHW25は下記の数式2及び3に基づいて演算できる。
【0086】
(数式2)RH25=f(Tr)×RH/100(%)
但し、RHは、図示しない湿度センサの検出値である相対湿度で、f(Tr)は、図6の内気センサ50Trの検出値である室温Trの関数である。
【0087】
(数式3)RHW25=f(TWG)(%)
但し、f(TWG)はウインドウ温度TWGの関数である。このウインドウ温度は、室温(Tr)、日射量(Ts)、外気温度(Tam)、車速(SPD)の関数で表されるが、雨天時には、ウインドウ温度(TWG)=外気温度(Tam)となる。
【0088】
そして、25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が100より大きければ、窓曇りの可能性有りと判定する。窓曇りの可能性が無ければ、暖房効率が最も高い除湿無し暖房(HOTサイクル)をステップS38にて行う。
【0089】
ステップS33において、25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が100より大きく、窓曇りの可能性有りと判定した場合は、ステップS34に進み、冷却水温度(=図2の温水用熱交換器32の温度)の影響で、図2の暖房用熱交換器19では充分に空気と熱交換できない可能性があるか否かを判定する。なお、図8では、RHW25を単にRHWと略記した。
【0090】
このために、ステップS34において、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が、−3℃より高く+3℃より低いか否かを判定する。暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度とが接近しており、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が−3℃より高く、+3℃より低い場合は、図2の暖房用熱交換器19では充分に熱交換が出来ない(空気に熱を与えることが出来ない)と判断し、ステップS35に進む。
【0091】
このステップS35では、図6のエアコン制御装置5から図示しないエンジン用電子制御装置(エンジン用ECU)に対して、+500rpmのエンジン回転数アップを要求する。このエンジン回転数アップにより、以後の各ステップでCOOLサイクルに切替えた時に、吹出温度が下がらないようにするため、冷却水温度を上げておく。
【0092】
ステップS34において、暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度とが接近しておらず、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が−3℃より高くないか、または、+3℃より低くない場合は、図2の暖房用熱交換器19で、充分に空気と熱交換が出来る判断し、ステップS36に進む。
【0093】
このステップS36では、暖房用熱交換器19の暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度(=温水用熱交換器32の温度)の差が、+1℃より低いか否かを判定する。暖房用熱交換器目標温度が冷却水温度に比べて高く、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が+1℃より低くなければ、暖房用熱交換器19で充分に熱交換することができるので、ステップS37に進む。
【0094】
ステップS37では、図2の冷房用熱交換器(エバポレータ)18の表面温度の測定値であるエバポレータ温度TEを使用する。ステップS37での「2℃−エバポレータ温度(2−TEと記す)」が、2<(2−TE)となり、(2−TE)が2℃より高いと、除湿能力の無いHOTサイクルに切替える(ステップS38)。
【0095】
上記2−TEが、1℃より高く2℃以下であり、1<(2−TE)≦2の条件を満たす場合は、ステップS39において、DRY ALLサイクル(除湿能力小、暖房能力中)の運転に切替える。上記2−TEが、1℃以下だと、ステップS40において、DRY EVAサイクル(除湿能力中、暖房能力小)の運転に切替える。
【0096】
上記ステップS36で、(暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度)<1を満たし、冷却水温度に比べて暖房用熱交換器目標温度TAO HPが低い場合は、暖房用熱交換器19では、充分に熱交換ができない。よって、このときは、ステップS41で、COOLサイクルに切替える必要があるか否かを判定する。
【0097】
ステップS41では、窓曇りの可能性が高いか否かで、クーラサイクルの要否を判定する。これは、上述の25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が、110以上か否かで判定する。ステップS41で、RHW>110ではなく、窓曇りの可能性が高くないと判断した場合は、ステップS37を経て上述の除湿制御を行う。ステップS41で、RHW>110となり、窓曇りの可能性が高いと判断した場合は、ステップS32で、COOLサイクルに切替えることにより、高い除湿性能を得る。
(ブロワ電圧決定)
次に、図7のステップS7において、ROMに記憶された図示しない周知の特性図から、目標吹出温度TAOに対応するブロワ電圧を決定する。つまり送風機3のブロワモータ3cへの印可電圧を決定する。
【0098】
基本的には、ブロワ電圧は、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が大きくなるほど高い値に選定され、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が小さくなるほど低い値が選定される。
(吸込口モード決定)
次に、図7のステップS8において、ROMに記憶された図示しない特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには、外気導入モードが選択される。
(吹出口モード決定)
次に、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する(図7のステップS9)。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、フットモードが選択され、目標吹出温度TAOの低下に伴って、バイレベルモード、更にはフェイスモードの順に選択される。
(SW算出)
次に、図7のステップS10において、図2のエアミックスドア38の開度SWをTAO等により算出する。図9は、この第1実施形態のエアミックスドア38の開度SWを算出するフローチャートである。
【0099】
図9において、制御がスタートすると、ステップS50にて、ヒートポンプサイクルによる室内暖房制御か否かを判定する。図8のステップS38、S39及びS40のいずれかのサイクルが選択され、選択されたサイクルが、ヒートポンプサイクルによる室内暖房制御であれば、ステップS52にて、図2のエアミックスドア38を、マックスホット(MAX HOT;実質的に全ての空調風が暖房用熱交換器19を通過するようになるエアミックスドア38の位置)に固定する。
【0100】
これにより、暖房用熱交換器19の温度と、車室内への吹出温度がおおよそ等しくなり、所望の吹出温度に対して、必要最低限の暖房用熱交換器19の温度で済むため、省電力制御が可能になる。なお、この省電力制御のときは、エアミックスドア38の開度SWの制御による吹出温度調整ではなく、暖房用熱交換器19の温度の制御より吹出温度を調整する。
【0101】
次に、図9のステップS50において、ヒートポンプサイクルによる暖房制御でなければ、ステップS53にて、エアミックスドア38の制御に用いる制御水温TWを算出する。このステップS53において、制御水温TWは、冷却水温度と暖房用熱交換器19の目標温度である暖房用熱交換器目標温度との高い方の温度を、制御水温TWとして選択する。
【0102】
この制御水温TWの選択により、車両の加速やバッテリ残量減少によるエンジン作動に伴って冷却水温度が高くなると、制御水温TW、ひいては、暖房用熱交換器19と温水用熱交換器32から成る加熱器の温度も高くなる傾向がある。このため、ステップS56で求めるエアミックスドア38の開度SWの演算式の分母が大きくなり、エアミックスドア38の開度SWが小さくなるので、エアミックスドア38の位置が冷房側に移動する。
【0103】
つまり、冷却水温度が高くなると、エアミックスドア38の位置が上記マックスホット位置と反対側に動き、図2の冷房用熱交換器(エバポレータ)18からの冷風が加熱器19及び32通過後の暖風と混合されて、室内に吹出す空気の温度を調節する。
【0104】
ステップS53の次に、ステップS54において、エバポレータ温度補正値となるf(エバポレータ温度)を算出する。このエバポレータ温度補正値となるf(エバポレータ温度)は、図2の冷房用熱交換器(エバポレータ)18の表面温度であるエバポレータ温度TEの関数値として図9のステップS54に記載したマップから求める。なお、f(エバポレータ温度)の「f」は、関数を表している。
【0105】
次に、ステップS55において、加熱器温度を(制御水温TW×0.8)+f(エバポレータ温度)として算出する。この加熱器とは、上述したように、図2の温水用熱交換器32と暖房用熱交換器19とを総称したものである。
【0106】
次に、ステップS56において、エアミックスドア(A/M)38の開度SWを、ステップS55で求めた加熱器温度、目標吹出温度TAO、及びエバポレータ温度TEを用いて、下記の数式4にて演算する。この演算式の分母は、加熱器温度とエバポレータ温度TEの差の値と、10とのいずれか大きいほうを分母とする。また、TAOとエバポレータ温度TEとの差を分子とする。
【0107】
(数式4)SW={(TAO−TE)/MAX(10、加熱器温度−TE)}×100(%)
上述のように、車両の加速やバッテリ残量減少によるエンジン作動に伴って、ステップS53の冷却水温度が高くなると、ステップS55で求めた加熱器温度が高くなるため、ステップS55で求めるエアミックスドア38の開度SWの演算式の分母が大きくなり、エアミックスドア38の開度SWが小さくなるので、エアミックスドア38の位置がクール(COOL)側になる。このため、冷却水温度が高くなっても、実際の吹出温度は目標吹出温度TAOを大きく外れることは無い。
(コンプレッサ回転数決定)
次に、図7のステップS11においてコンプレッサ回転数の決定を行う。図10は、図7のステップS11におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【0108】
図10において、制御がスタートすると、ステップS60にて、目標吹出温度TAOが、制限値である47℃以上か否かを判定する。このTAO=47℃の値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値を設定する。
【0109】
目標吹出温度TAOが、比較的低く、47℃以下であれば、目標吹出温度TAOを、そのまま図2の暖房用熱交換器19の目標温度である暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS61)。
【0110】
目標吹出温度TAOが、比較的高く、47℃以上であれば、47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS62)。即ち、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを低目標吹出温度(TAO HP=47℃=低目標吹出温度)に設定する。
【0111】
ステップS63で、図2のウオータポンプ31が作動中か否かを判定する。ウオータポンプ31が作動中であれば、図2の暖房用熱交換器19の入口温度は、冷却水温度の影響を大きく受けるので、ステップS64で暖房用熱交換器19の入口温度=冷却水温度とする。
【0112】
ステップS63で、ウオータポンプ31が停止していれば、冷房用熱交換器(エバポレータ)18の温度の影響がそのまま暖房用熱交換器19の入口に来るので、ステップS65で、暖房用熱交換器19の入口温度=エバポレータ温度とする。
【0113】
ステップS66で、暖房用熱交換器19の下流側の空気温度であるコンデンサ後温度が暖房用熱交換器目標温度TAO HPとおおよそ等しくなるための、仮の目標圧力PDODを演算する。この仮の目標圧力PDODは、ブロワ電圧4V時の場合を演算する。図11は、暖房用熱交換器19の入口温度と暖房用熱交換器目標温度TAO HPとから、仮の目標圧力PDODを演算するためのマップである。
【0114】
図10のステップS67では、図2の送風機3の風量(ブロワ電圧)による目標圧力PDОへの影響値である目標圧力(PDO)補正係数を演算する。風量が多いと、同じ室内コンデンサ後温度を得たい場合でも、室内コンデンサ温度(暖房用熱交換器19の暖房用熱交換器目標温度)を高くしておく必要があるので、ブロワ電圧に応じた目標圧力(PDO)補正係数を算出する。
【0115】
ステップS68では、ステップS66で求めた仮の目標圧力PDО(仮の目標温度PDOをPDODと称する。)に対して、ステップS67で求めた目標圧力(PDO)補正係数を乗算して、今回の目標圧力PDОを演算する。図12は、偏差Pnと、偏差変化率PDOTとから、ヒートポンプサイクルによる暖房のためのコンプレッサ回転数変化量ΔfHを求めるためのマップである。
【0116】
ステップS69では、図12のマップを用いて、ステップS68で演算した目標圧力PDОを用いて、HOTサイクル(ヒートポンプサイクルによる暖房)のためのコンプレッサ回転数変化量ΔfHを演算する。なお、上述のように、図2の冷媒圧力センサ50PREは、コンプレッサ14と暖房用熱交換器19とを連絡する冷媒配管55に取りつけられている。
【0117】
図10のステップS68で求めた目標圧力PDOと冷媒圧力センサ50PREにて検出された高圧圧力PREとの圧力の偏差Pnを下記数式5に基づいて算出する。なお、Pnのnは自然数、Pnは、今回の偏差であり、P(n−1)は前回の偏差である。
【0118】
(数式5)Pn=PDO−PRE
また、偏差変化率PDOTを下記数式6に基づいて算出する。
【0119】
(数式6)PDOT=Pn−P(n−1)
次に、上記偏差Pnと上記偏差変化率PDOTとを用いて、図6のエアコン制御装置5内のROMに記憶された図12のマップから、1秒前のコンプレッサ回転数に対して増減する回転数変化量ΔfHを求める。次に、図13は、偏差Pnと、偏差変化率PDOTと、COOLサイクルのためのコンプレッサ回転数変化量ΔfCとの関係を示すマップである。
【0120】
図10のステップS70では、図13のマップを用いて、ステップS68で演算した目標圧力PDОを用いて、COOLサイクル時のコンプレッサ回転数変化量ΔfCを演算する。
【0121】
次に、ステップS71では、図8のサイクル選択のステップで選択したサイクルが、COOLサイクルか否かを判定する。COOLサイクルでなければ、ステップS72にて、HOTサイクル、DRY ALLサイクル、及びDRY EVAサイクルで、「今回のコンプレッサ回転数=前回のコンプレッサ回転数+ΔfH」として求めた目標回転数のもとで、コンプレッサ14を制御する。
【0122】
また、ステップS71において、図8のサイクル選択のステップで選択したサイクルがCOOLサイクルであれば、ステップS73にて、「今回のコンプレッサ回転数=前回のコンプレッサ回転数+ΔfC」として求めた目標回転数において、コンプレッサ14を制御する。
(バルブON/OFF決定)
次に、図7のステップS12において、所定のサイクルで制御が実行できるよう、サイクル中の電磁弁のONまたはOFF作動について決定する。この制御は、図5のサイクルの変更に応じて、各電磁弁の作動をオンオフする出力信号を生成する。
(制御信号出力)
次に、図7のステップS13において、上記各ステップで算出または決定した各制御状態が得られるように、図示しないエンジン用ECU、各種のアクチュエータ、電磁弁、及びサーボモータに対して制御信号を出力する。そして、図7のステップS14において所定時間の経過を待ってから、ステップS3に戻る。
【0123】
上記第1実施形態では、第1に、ヒートポンプサイクルで暖房を行うHOTサイクルでの運転時は、エアミックスドア38の開度を暖房側の特定位置であるMAX HOTの位置にしている。
【0124】
具体的には、上述したように、図9において、ヒートポンプサイクルによる暖房中と判断したときに、図2のエアミックスドア38を、マックスホット(MAX HOT)に固定する制御(固定制御と称する)に切替えている。
【0125】
これにより、暖房用熱交換器19の温度と吹出温度がおおよそ等しくなり、所望の吹出温度に対して、必要最低限の暖房用熱交換器19の温度で済むため、省電力制御が可能になる。なお、この省電力制御のときは、エアミックスドア38の開度調整による吹出温度調整ではなく、暖房用熱交換器19の温度の調整により吹出温度が調整される。
【0126】
第2に、ヒートポンプで暖房を行うHOTサイクルでの暖房用熱交換器19の目標温度(暖房用熱交換器目標温度TAO HP)を、目標吹出温度TAOよりも低く設定している。
【0127】
つまり、上述したように、図10において、目標吹出温度TAOが、比較的高く、47℃より高ければ、47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する。なお、このTAO=47℃の値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値である。
【0128】
具体的に述べれば、目標吹出温度TAOが所定の制限値47℃より高くない(TAO>47℃でない)時は、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時の暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOになるよう、コンプレッサ14を制御すると共に、目標吹出温度TAOが所定値47℃より高い(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを、このときの目標吹出温度TAOよりも低い上記制限値47℃になるように設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御している。
【0129】
基本的にエンジンの廃熱を利用する温水暖房に比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御することで、省電力運転を行うことが出来る。
【0130】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図14は、第2実施形態における、コンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。
【0131】
この図14は図10に比べると、ユーザーの設定温度に対する意思表示を制御に取り込む点で相違し、設定温度Tsetが31℃以上か否かで制御を切替えている。そして、設定温度Tsetが、所定設定値31℃以上の場合は、ユーザーが意図的に高温を望んでいるとして、省電力のための暖房用熱交換器目標温度TAO HPの制限を行わない。
【0132】
図14のステップS80にて、目標吹出温度TAOが、47℃より高いか否かを判定する。この47℃の制限値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値を設定している。目標吹出温度TAOが47℃より高くなければ、目標吹出温度TAOをそのまま暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS81)。
【0133】
ステップS80にて、目標吹出温度TAOが、47℃より高ければ、ステップS82にて、設定温度Tsetが31℃を超えているか否かを判定する。設定温度Tsetが、31℃より高ければ、乗員が明らかに高い吹出温度を望んでいると判断して、ステップS81で上記制限値47℃よりも高い値であるTAO(TAO>47℃)を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する。
【0134】
設定温度Tsetが31℃より高くなければ、乗員の誤操作や意図的な高温空調には無関係と判断して、上記制限値47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS83)。
【0135】
ステップS84で、図2のウオータポンプ31が作動中か否かを判定する。ウオータポンプ31が作動中であれば、暖房用熱交換器19の入口温度は、冷却水温度の影響を大きく受けるので、ステップS85で、「暖房用熱交換器入口温度=冷却水温度」とする。
【0136】
ウオータポンプ31が停止していれば、冷房用熱交換器(エバポレータ)18の温度の影響が、そのまま暖房用熱交換器19の入口に来るので、ステップS86で、「暖房用熱交換器入口温度=エバポレータ温度」とする。ステップS87からステップS94までは、図10の第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0137】
このように、この第2実施形態では、設定温度Tsetが、所定設定値31℃より高い時(Tset>31℃である時)は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを所定設定値31℃の温度以上に設定(TAO HO=TAO>47℃に設定)している。
【0138】
基本的にエンジンの廃熱を利用する温水暖房に比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御することで、省電力運転を行うことが出来る。
【0139】
但し、設定温度Tsetが高い(Tset>31℃)時は、ユーザーが明らかに通常よりも高い温度にしたいと希望していると判断できるので、この場合には、コンプレッサ14の稼動率を上げることで、ユーザーの好みを反映することが出来る。
【0140】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。上述した実施形態と異なる特徴部分を説明する。図15は、第3実施形態における、コンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【0141】
図15において、この制御は、室温が所定室温設定値である20℃より低いかどうかを考慮するものである。室温が20℃より低い場合は、省電力のためのTAOの制限を行わないものである。つまり室温が20℃以下のときは寒いため、このような場合は、TAO制限による省電力制御を行わないものである。
【0142】
ステップS803にて、目標吹出温度TAOが47℃より高いか否かを判定する。この制限値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値を設定している。
【0143】
目標吹出温度TAOが47℃より高くなければ、目標吹出温度TAOをそのまま暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(S813)。
【0144】
目標吹出温度TAO が47℃より高ければ、ステップS823にて、室温が20℃より低いか否かを判定する。室温が20℃より低ければ、乗員が明らかに高い吹出温度を望んでいると判断して、ステップS813で制限値47℃よりも高い値TAO(TAO>47℃)を、暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する。室温が20℃より低くなければ、ステップS833で、制限値47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する。
【0145】
次に、ステップS843で、図2のウオータポンプ31が作動中か否かを判定する。ウオータポンプ31が作動中であれば、暖房用熱交換器19の入口温度は、冷却水温度の影響を大きく受けるので、ステップS853で「暖房用熱交換器入口温度=冷却水温度」とする。
【0146】
ウオータポンプ31が停止していれば、図2の冷房用熱交換器(エバポレータ)18の温度の影響がそのまま暖房用熱交換器入口に来るので、ステップS863で「暖房用熱交換器入口温度=エバポレータ温度」とする。ステップS873からステップS943までは、図10の第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0147】
この図15の第3実施形態では、上述のように、目標吹出温度TAOが制限値47℃より高く(TAO>47℃である)、かつ、室温Trが所定室温設定値20℃より低くない(室温<20℃でない)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAO(TAO>47℃)より低くなるように設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御している。
【0148】
また、目標吹出温度TAOが、制限値47℃より高く(TAO>47℃である)、かつ、室温Trが、所定室温設定値20℃より低い(室温<20℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを制限値47℃より高く設定している(TAO HC=TAO>47℃)。
【0149】
基本的に図2のエンジン30の廃熱を利用する温水暖房サイクルに比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう、コンプレッサ14を制御することで、省電力運転を行う。
【0150】
但し、室温Trが所定室温設定値20℃より低い時(室温<20℃である)は、ウオームアップ時とみなし、明らかに通常よりも高い吹出温度にしたいと、ユーザーが希望していると判断できるので、この場合には、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを制限値47℃より高く設定(TAO HC=TAO>47℃)して、コンプレッサ14の稼動率を上げることで、早期に目標室温に到達させることが出来る。
【0151】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の各実施形態では、単純にマップを用いて回転数変更分ΔfH、及びΔfCを演算したが、この回転数変更分ΔfH、及びΔfCは、図6のエアコン制御装置5内の図示しないROMに記憶された所定のメンバーシップ関数、及びルールに基づいて、公知のファジー制御にて求めることも出来る。
【0152】
また、上記各実施形態において、図2の冷媒吸入温度センサ35は、室外熱交換器15に設けても構わないし、低圧冷媒圧力等のパラメータを検出するなどして、この検出したパラメータを温度換算して、冷媒吸入温度の予測値を演算し、この演算結果を、上記冷媒吸入温度の代わりに使用しても良い。つまり、冷媒吸入温度T35は、室外熱交換器15の着霜状態を監視できる測定値であれば良い。
【0153】
但し、冷媒吸入温度T35を冷媒吸入温度センサ35にて検出する場合は、室外熱交換器15を、従来の一般的車両と共通使用することができる。かつ、上記低圧冷媒圧力を検出する圧力検出素子よりも低価格にてシステムが構成できる。その上、測定誤差も小さいので、冷媒吸入温度センサ35を冷媒配管に設けることが望ましい。
【0154】
そして、この冷媒吸入温度T35を活用して、室外熱交換器15の着霜時のための除霜運転ステップを図7のステップ中に入れても良い。
【0155】
また、第2及び第3実施形態におけるエアミックスドア38の制御は、図9に示したものと同様であるが、本発明の一部は、エアミックスドア38の装備されていない車両用空調装置にも適用することが出来る。
【0156】
なお、MAX HOTの位置にエアミックスドア38を固定する制御を行ったが、完全なMAX HOT位置でなく、その近傍の位置に固定してもかまわない。
【符号の説明】
【0157】
1 電気自動車用空調装置
2 室内に送風空気を導くダクト
3 送風機
5 エアコン制御装置
14 コンプレッサ
14a コンプレッサに内蔵された電動モータ
15 室外熱交換器
18 冷房用熱交換器(エバポレータ)
19 暖房用熱交換器
18及び19 室内熱交換器
30 エンジン
31 ウオータポンプ
32 温水熱交換器(ヒータコア)
35 冷媒吸入温度センサ
38 エアミックスドア(エアミックス手段)
50PRE 冷媒圧力センサ
PRE 高圧圧力(測定値)
51 エアコン操作パネル
Tset 温度設定スイッチにて設定した設定温度
TAO 目標吹出温度
TAO HP 暖房用熱交換器目標温度
PDO 目標圧力
PDOD 仮の目標圧力
PDOT 偏差変化率
Pn 偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、車室内への吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、ヒートポンプサイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置において、
前記目標吹出温度(TAO)が制限値(47℃)より高くない時は、前記ヒートポンプサイクルによる暖房運転時の前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)が前記目標吹出温度(TAO)になるよう、コンプレッサ(14)を制御すると共に、
前記目標吹出温度(TAO)が前記制限値(47℃)より高い時は、前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を、前記目標吹出温度TAOより低くなるよう設定して、前記コンプレッサ(14)を制御することを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項2】
前記目標吹出温度(TAO)が前記制限値(47℃)より高く、かつ、前記設定温度(Tset)が所定設定値(31℃)より高くない時は、前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を前記目標吹出温度(TAO)より低くなるように低目標吹出温度に設定して、前記コンプレッサ(14)を制御すると共に、
前記目標吹出温度(TAO)が所定値(47℃)より高く、かつ、 前記設定温度(Tset)が前記所定設定値(31℃)より高い時は、前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を前記低目標吹出温度よりも高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項3】
前記目標吹出温度(TAO)が前記制限値(47℃)より高く、かつ、前記暖房運転がウオームアップ中ではないと判断された時は、前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を目標吹出温度(TAO)より低くなるように低目標吹出温度(TAO HP)に設定して、前記コンプレッサ(14)を制御すると共に、
前記目標吹出温度(TAO)が前記制限値(47℃)より高く、かつ、前記暖房運転がウオームアップ中であると判断された時は、前記暖房用熱交換器目標温度(TAO HP)を前記低目標吹出温度よりも高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項4】
前記室温(Tr)が所定室温設定値(20℃)より低くない時は、前記暖房運転がウオームアップ中ではないと判断され、
前記室温(Tr)が前記所定室温設定値(20℃)より低い時は、前記暖房運転がウオームアップ中であると判断されることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項5】
更に、前記車両用空調装置は、前記暖房用熱交換器(19)を通る空気と、前記冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御するエアミックス手段(38)と、冷却水の廃熱を利用する温水熱交換器(32)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行し、
前記ヒートポンプサイクルによる暖房運転時に、前記エアミックス手段(38)の位置を、前記温水暖房サイクルによる暖房運転時の前記エアミックス手段(38)の位置に比べて、より暖房側となる位置に固定した固定制御に切替えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項6】
前記ヒートポンプサイクルによる暖房運転でない時であって、前記温水熱交換器(32)の温度、または前記冷却水の冷却水温度が、前記暖房用熱交換器(19)の暖房用熱交換器目標温度より高いときに、前記温水熱交換器(32)の温度、または、前記冷却水温度に応じて前記エアミックス手段(38)の位置を可変制御することを特徴とする請求項5に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項7】
冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、車室内への吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、ヒートポンプサイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置において、
更に、前記暖房用熱交換器(19)を通る空気と、前記冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御するエアミックス手段(38)と、冷却水の廃熱を利用する温水熱交換器(32)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行し、
前記ヒートポンプサイクルによる暖房運転時に、前記エアミックス手段(38)の位置を、前記温水暖房サイクルによる暖房運転時の前記エアミックス手段(38)の位置に比べて、より暖房側となる位置に固定した固定制御に切替えることを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項8】
前記ヒートポンプサイクルによる暖房運転でない時であって、前記温水熱交換器(32)の温度、または前記冷却水の冷却水温度が、前記暖房用熱交換器(19)の暖房用熱交換器目標温度より高いときに、前記温水熱交換器(32)の温度、または、前記冷却水温度に応じて前記エアミックス手段(38)の位置を可変制御することを特徴とする請求項7に記載の車両用空調装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−12939(P2011−12939A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160132(P2009−160132)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】