説明

車両用空調装置

【課題】フェイスモードの際でも、所望の吹出空気温度の空調空気を送風することで快適性を向上させることができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】ヒータコア(18)を迂回する冷風バイパス通路(21)と、フェイス開口部(27)を通過する風量を調整する吹出モード切替ドア(28)と、冷風バイパス通路(21)とは別に形成される補助冷風バイパス通路(31)と、補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を調整し吹出モード切替ドア(28)と連動して開閉制御される冷風バイパスドア(32)と、フェイスモードとして冷風バイパスドア(32)の開度を異ならせて設定された複数の可変モードを有しいずれかの可変モードを選択することでフェイスモードの際に冷風バイパスドア(32)の開度を可変に制御する制御手段(100)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関するものであり、特に、補助冷風バイパス通路を通過する冷風量を調整する冷風バイパスドアを有する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるように、冷風バイパスドアを設けた車両用空調装置が知られている。この車両用空調装置では、冷風バイパスドアの開度調整によって、蒸発器を通過した空調空気を直接フェイス開口部(乗員の上半身)側へ導き、フェイス開口部へ流れる冷風量を調整して吹出空気温度を調整するようにしている。
【特許文献1】特開2007−125941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記構成の車両用空調装置では、頭寒足熱の観点から、主に冷房時に好適に使用されるフェイスモードの際には、フェイスフット切替ドアおよび冷風バイパスドアを全開にして、なるべく冷風をフェイス開口部へ導き易いようにしている。
【0004】
しかし、上記構成では、乗員が冬季時に、一時的に上半身あるいは手を温めようとしてモード設定をフェイスモードとし、かつ、温度設定を最大温度(暖房)とした場合には、冷風バイパスドアが全開であるために、冷風が直接フェイス開口部へ導かれてしまい、十分な温度の空調空気(温風)を供給することができないという問題があった。
【0005】
上記問題に鑑み、本発明は、フェイスモードの際でも、所望の吹出空気温度の空調空気を送風することで快適性を向上させることができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0007】
請求項1に記載の発明では、空気通路を形成する空調ケース(10)と、空調ケース(10)内に配置されて空気を加熱するヒータコア(18)と、ヒータコア(18)を迂回する冷風バイパス通路(21)と、空調空気を車室内の乗員頭胸部へ導くフェイス開口部(27)と、フェイス開口部(27)を通過する風量を調整する吹出モード切替ドア(28)と、冷風バイパス通路(21)とは別に形成されてヒータコア(18)を迂回した冷風をフェイス開口部(27)方向へ流通させる補助冷風バイパス通路(31)と、補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を調整し、吹出モード切替ドア(28)と連動して開閉制御される冷風バイパスドア(32)とを備えた車両用空調装置において、吹出モード切替ドア(28)および冷風バイパスドア(32)の開度を制御する制御手段(100)を備え、制御手段(100)は、フェイス開口部(27)が吹出モード切替ドア(28)によって全開とされるフェイスモードとして、冷風バイパスドア(32)の開度を異ならせて設定された複数の可変モードを有し、いずれかの可変モードを選択することでフェイスモードの際に冷風バイパスドア(32)の開度を可変に制御することを特徴とする。
【0008】
本構成によれば、冷風バイパスドア(32)の開度が異なる複数の可変モードからいずれかの可変モードを選択することで、フェイスモード時に補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を調整することができる。このように、フェイスモードであっても補助冷風バイパス通路(31)を常に全開状態とせず、そのときの状態における適切な開度に設定された可変モード(フェイスモードに含まれるモード)を選択することで所望の吹出空気温度の空調空気をフェイス開口部(27)へ送風することができる。本構成では、フェイスモードであっても、特に、温風を積極的にフェイス開口部(27)へ送風したい場合に、確実に温風をフェイス開口部(27)(ひいてはフェイス吹出口)へ送風することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、制御手段(100)は、フェイスモードが設定された場合に、運転状態が冷房高負荷運転状態であるか否かを判断し、冷房高負荷運転状態であると判断した場合には、可変モードのうち冷風バイパスドア(32)の開度が全開に設定される全開モードを採用することを特徴とする。
【0010】
冷房高負荷運転状態である場合、例えば冷房初期等、補助冷風バイパス通路(31)を全開にして冷風量をなるべく多くすることが望ましい。一方、冷房高負荷運転状態ではない場合、例えば、一時的に上半身を暖めたい場合など、乗員により暖房、風量最大かつフェイスモードが選択された場合には、補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を減らしてやることが望ましい。この場合に、補助冷風バイパス通路(31)が全開であると、冷風がフェイス開口部(27)へ導かれてしまい、十分に高温の温風をフェイス開口部(27)へ供給することができないためである。
【0011】
本構成によれば、フェイスモード時において、高い冷房能力が求められる冷房高負荷運転状態のときには、全開モードを選択して十分な冷風量を確保するとともに、高い冷房能力が求められないときには、その他の可変モードを選択することで補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を調整して所望の吹出温度に調整することができる。
【0012】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図6を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態における車両用空調装置1の構成を示す模式図である。
【0014】
図1に示すように、車両用空調装置1は主に、送風ユニット2と空調ユニット3とで構成されている。送風ユニット2の下流側に配置される空調ユニット3は、通常、車室内前部の計器盤内側において、車両幅方向の略中央位置に配置され、送風ユニット2は空調ユニット3に対して助手席側にオフセットして配置されている。
【0015】
車両用空調装置1は、空気を流通させる空気通路11を形成する空調ケース10を有している。空調ケース10は、車室内前部の計器盤内側に配置されており、ある程度の弾性を有して強度的に優れた樹脂の成形品でなっている。
【0016】
空調ケース10には、車室内に向かう空気流れを空気通路11内に発生させる遠心式のブロワ12が設けられている。ブロワ12は後述する空調用ECU100(図3参照)により作動制御され、駆動用モータに印加されるブロワ電圧に基づいて所定の回転数で回転するようになっている。
【0017】
ブロワ12の空気流れ上流側には、内外気切替箱13が設けられている。内外気切替箱13には、車室外の空気(外気)を導入する外気導入口14と、車室内の空気(内気)を導入する内気導入口15とが形成されている。また内外気切替箱13には、吸込口モードに基づいて外気又は内気を切替導入するために、外気導入口14及び内気導入口15を開閉する内外気切替ドア16が設けられている。内外気切替ドア16は、空調用ECU100により作動制御されるようになっている。
【0018】
次に空調ユニット3の構成について、図1、図2を参照しつつ説明する。図2は、車両用空調装置1の空調ユニット3の断面図である。なお、図1に示す空調ユニット3は、一般的な模式図であり簡単のため、図2で詳述する冷風バイパスドア32等の記載を省略している。図2に示すように、この空調ユニット3は、1つの共通の空調ケース10内に蒸発器17とヒータコア18の両方を一体的に内蔵するタイプのものである。また、空調ユニット3は、車両の前後方向および上下方向に対して、図2に示す形態で配置されている。空調ケース10の、最も車両前方側の部位の側面には空気入口19が形成されている。この空気入口19には、先の送風ユニット2から送風される空気が流入する。
【0019】
そして、空調ケース10内において空気入口19の直後の部位(ブロワ12よりも下流側)に、内部を流通する冷媒との熱交換により空調空気を冷却する上記蒸発器17が配置されている。蒸発器17は、車両前後方向には薄型の形態で、空調ケース10内通路を横断するように上下方向に配置されている。したがって、蒸発器17の車両上下方向に延びる全面に空気入口19からの送風空気が流入する。また、蒸発器17は、冷媒が循環する冷凍サイクル(圧縮機、凝縮器、膨張弁等で構成される周知の冷凍サイクル)の一部を構成する。
【0020】
蒸発器17の空気流れ下流側には、所定の間隔を開けてヒータコア18が配置されている。このヒータコア18は、空調ケース10内の下方側において、車両後方側に傾斜して配置されている。尚、図示しないが、蒸発器17とヒータコア18との車両左右方向の幅寸法は、空調ケース10の幅寸法と略同等に設計されている。
【0021】
ヒータコア18は、蒸発器17を通過した冷風を再加熱するものであり、その内部に高温の温水(エンジン冷却水)が流れ、この温水を熱源として空気を加熱するものである。空調ケース10内の空気通路において、ヒータコア18の上方部位には、このヒータコア18をバイパスして空気(冷風)が流れる冷風バイパス通路21が形成されている。
【0022】
また、ヒータコア18と蒸発器17との間の部位には、平板状のエアミックスドア20が配置されている。このエアミックスドア20は、ヒータコア18を通過して温風になる風量と、冷風バイパス通路21を通ってヒータコア18をバイパスする冷風の風量とを調節するものであり、この冷風と温風の風量割合の調節により、車室内への吹出空気温度の調節が行われる。
【0023】
エアミックスドア20は、水平方向(車両幅方向)に配置された回転軸20aと一体に結合されており、この回転軸20aを中心として車両上下方向に回動可能になっている。また、この回転軸20aは、空調ケース10に回転自在に支持され、かつ回転軸の一端部は空調ケース10の外部に突出しており、図示しないリンク機構を介してサーボモータなどを用いたアクチュエータ機構(図示略)に連結されている。このアクチュエータ機構は、空調用ECU100によって制御されてエアミックスドア20の回動位置を調節するようになっている。
【0024】
一方、空調ケース10において、ヒータコア18の空気下流側(車両後方側)の部位には、ヒータコア18との間に所定間隔を開けて上下方向に延びる壁面10aが空調ケース10の一部として形成されている。この壁面10aにより、ヒータコア18の直後(空気下流側)から上方へ向かう温風通路23が形成されている。
【0025】
この温風通路23の下流側には、ヒータコア18の上方部において冷風バイパス通路21の下流側と合流し、冷風と温風の混合を行う空気混合部24が形成されている。そして、空調ケース10の上面部において、車両前方寄りの部位に、空気混合部24にて温度調節された空調空気が流入するデフロスタ開口部25が開口している。このデフロスタ開口部25は、図示しないデフロスタダクトを介して車室内のデフロスタ吹出口に接続され、このデフロスタ吹出口から、車両前方窓ガラスの内面に向けて風を吹き出す。
【0026】
デフロスタ開口部25は、吹出モード切替ドアの1つである平板状のデフロスタドア26により開閉される。このデフロスタドア26は、空調ケース10の上面部近傍にて水平方向に配置された回転軸26aにより回動するようになっている。デフロスタドア26は、デフロスタ開口部25と連通口34との開口比率を調節するようになっている。そして、連通口34は、空気混合部24からの空調空気を、次のフェイス開口部27とフット開口部29側へ流すための通路となっている。
【0027】
空調ケース10の上面部において、デフロスタ開口部25よりも車両後方側(乗員寄り)の部位にフェイス開口部27が設けられており、このフェイス開口部27は、図示しないフェイスダクトを介して計器盤上方側に配置されているフェイス吹出口に接続され、このフェイス吹出口から車室内の乗員頭胸部に向けて風を吹き出す。
【0028】
次に、空調ケース10において、フェイス開口部27の下方側にはフット開口部29が設けられている。このフット開口部29は、空調ケース10の下方側で左右両側に向けて開口しており、左右両側に図示しないフットダクトが接続される。このフットダクトは、他端側が運転席および助手席の乗員足元に向けたフット吹出口となっており、このフット吹出口から運転席および助手席の乗員足元に風を吹き出す。
【0029】
フェイス開口部27とフット開口部29との間には、平板状のフェイスフット切替ドア(吹出モード切替ドア)28が回転軸28aにより回動可能に配置され、このフェイスフット切替ドア28によってフェイス開口部27とフット開口部29のフット入口部29aとの開口比率が調節されるようになっている。
【0030】
また、空調ケース10内の空気通路において、蒸発器17の空気流れ下流側でエアミックスドア20の上方部位には、冷風バイパス通路21と並設して補助冷風バイパス通路31が開口しており、この補助冷風バイパス通路31の空気上流側には開閉するための平板状の冷風バイパスドア32が配置されている。この補助冷風バイパス通路31からの冷風は、図2中に矢印で示すように、主にフェイス開口部27へ流れることとなる。
【0031】
冷風バイパスドア32は、水平方向に配置された回転軸32aと一体に結合されており、この回転軸32aとともに略車両前後方向に回動可能となっている。
【0032】
なお、吹出モード切替ドアのデフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28と冷風バイパスドア32とは、それらの回転軸26a,28a,32aが図示しないリンク機構を介して互いに連動しており、そのリンク機構はサーボモータ等からなる吹出モード切替用のアクチュエータ機構(図示略)に連結されている。そして、このアクチュエータ機構は、空調用ECU100(図3参照)によって制御されてリンク機構の回動位置を調節するようになっている。
【0033】
図3は、車両用空調装置1の空調用ECU(制御手段)100の概略構成を示すブロック図である。図3に示すように、空調用ECU100には、計器盤近傍に設けられたコントロールパネル110の各種スイッチからのスイッチ信号、及び各種センサからの検出信号が入力される。また空調用ECU100は、スイッチ信号及び検出信号に基づいて、デフロスタドア26,フェイスフット切替ドア28、内外気切替ドア16、エアミックスドア20、ブロワ12等の制御機器を作動制御するようになっている。
【0034】
コントロールパネル110のスイッチには、冷凍サイクルを運転/停止させるためのエアコンスイッチ、吸込口モードを切り替えるための吸込口モード切替スイッチ、車室内の温度を設定するための温度設定スイッチ、送風量を切り替えるための風量切替スイッチ、及び吹出口モードを切り替えるための吹出口モード切替スイッチ等がある。
【0035】
各種センサには、車室内の空気温度(内気温度)を検出する内気温度センサ111、車室外の空気温度(外気温度)を検出する外気温度センサ112、車室内に照射される日射量を検出する日射量センサ113、蒸発器17を通過した直後の空気温度を検出する蒸発器吹出温度センサ114、ヒータコア18に流入するエンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ115、車両の走行速度を検出する車速センサ116、及び後席の乗員の在不在を検出する着座センサ117等がある。
【0036】
空調用ECU100は、CPU、ROM、RAM等を備え、種々の演算処理を行うマイクロコンピュータ101と、各種センサから入力された検出信号をA/D変換してマイクロコンピュータ101に出力する入力回路102と、マイクロコンピュータ101からの制御信号を出力信号仕様に変換して各制御機器に出力する出力回路103とを有している。ROMには、後述する各吹出口モードにおけるデフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28、冷風バイパスドア32の開度の推移を示すドアダイヤグラム(図5参照)が記憶されている。
【0037】
また空調用ECU100は、車両側のエンジンECU120等との間で所定の通信プロトコルに基づいてデータの送受信ができるようになっている。これにより空調用ECU100は、エンジンECU120の動作モード(通常モード/燃費優先モード)等の情報をエンジンECU120から受信できるようになっている。
【0038】
次に、本実施形態における車両用空調装置1の制御方法について説明する。図4は、本実施形態における空調用ECU100が実行する車両用空調装置1の制御手順(メインフロー)の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、イグニッションスイッチが投入されて空調用ECU100に電力が供給されると、まず、空調用ECU100は、各パラメータ等を初期化(イニシャライズ)する(ステップS1)。
【0039】
次に、温度設定スイッチや内気温度センサ111、外気温度センサ112、日射量センサ113、蒸発器吹出温度センサ114、冷却水温度センサ115、及び車速センサ116、着座センサ117の信号を読み込む(ステップS2、S3)。
【0040】
そして、内気温度、外気温度および日射量等の車室内の熱負荷と、乗員により設定された設定温度とに基づいて、前席の目標吹出温度TAOを算出する(ステップS4)。
【0041】
次に、目標吹出温度TAOに基づいて、ブロワ12の駆動用モータに印加されるブロワ電圧を算出する(ステップS5)。基本的には、ブロワ電圧は、高い冷暖房能力が必要なときほど高くなるようになっている。例えば冷房時には、目標吹出温度TAOが低いほどブロワ電圧が高くなる。また、暖房時には、目標吹出温度TAOが高いほどブロワ電圧が高くなる。
【0042】
ブロワ電圧を選定した後は、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する(ステップS6)。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには外気導入モードが選択される。
【0043】
次に、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する(ステップS7)。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときにはフットモードが選択され、目標吹出温度TAOが低くなるに伴って、バイレベルモード、更にはフェイスモードの順に選択される。また、乗員の手動操作によってコントロールパネル110の吹出口モード切替スイッチから吹出口モードが設定された場合には、その設定されたモードが選択される。なお、このステップにおける吹出口モードの決定については、本発明の要部であるため、詳細は後述する。
【0044】
次に、目標吹出温度TAO、蒸発器吹出温度センサ114で検出した蒸発器吹出温度、冷却水温度センサ115で検出した冷却水温度等に応じて、エアミックスドア20の開度SWを決定する(ステップS8)。
【0045】
次に、デフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28、内外気切替ドア16、エアミックスドア20、冷風バイパスドア32、ブロワ12等の制御機器に対し、ステップS4〜S8で算出または決定された制御状態が得られるように制御信号を出力する(ステップS9)。
【0046】
その後、ステップS2〜S9の各ステップを時間T(例えば0.25秒)毎に繰り返す(ステップS10)。
【0047】
次に、本発明の要部である吹出口モード決定ステップ(図4におけるステップS7)の詳細について、まず、本実施形態で採用している各吹出口モードの形態から説明する。図5は、各吹出口モードにおけるデフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28、冷風バイパスドア32の開度の推移を示すドアダイヤグラムである。本実施形態では、吹出モード切替用ドアのデフロスタドア26とフェイスフット切替ドア28との開度位置を選択することにより、以下の7つの吹出モードを設定している。以下、図5を参照しつつ各吹出モードの態様について説明する。
【0048】
(1)フェイス1(FACE1)モード(本発明の一実施形態における可変モードおよび全開モード)
図5に示すように、フェイスフット切替ドア28は、フェイス開口部27を100%開度(全開)とし、フット開口部29を0%開度(全閉)とする。また、冷風バイパスドア32は100%開度(全開)とする。
【0049】
なお、エアミックスドア20は冷風バイパス通路21を全開として、補助冷風バイパス通路31とともに最大冷房状態を設定する。この状態において、車両用空調装置1が運転されると、送風ユニット2からの送風空気が空気入口19から流入した後、蒸発器17で冷却されて冷風となる。最大冷房状態ではこの冷風がそのまま、冷風バイパス通路21と補助冷風バイパス通路31との両方を通過して空気混合部24を経てフェイス開口部27へ向かい、フェイス吹出口から乗員の頭胸部に向けて冷風を吹き出す。
【0050】
(2)フェイス2(FACE2)モード(本発明の一実施形態における可変モード)
このモードでは、フェイス1モードに対して、フェイスフット切替ドア28は同じく100%開度(全開)であるが、冷風バイパスドア32は略70%開度としており、フェイス1モードの100%開度(全開)としていない点が異なっている。
【0051】
また、エアミックスドア20の開度については、目標吹出温度TAOに応じて適宜設定されるが、概ね、目標吹出温度TAOが高い場合(暖房運転時)には冷風バイパス通路21を閉じる側へ、目標吹出温度TAOが低い場合(冷房運転時)には冷風バイパス通路21を開く側へ制御される。この状態において、車両用空調装置1が運転されると、例えば冷房運転時であれば、上記フェイス1モードと同様に、冷風バイパス通路21と補助冷風バイパス通路31(開状態とされている一部)を通過した冷風がフェイス開口部27側へ送風される。
【0052】
一方、暖房運転時には、補助冷風バイパス通路31が全開状態ではないため、フェイス1モードの場合よりも補助冷風バイパス通路31を通過する冷風量は減少し(本実施形態では30%減少し)、ヒータコア18で加熱された温風が温風通路23を通過して空気混合部24を経てフェイス開口部27へ向かい、フェイス吹出口から乗員の頭胸部に向けて温風を吹き出す。
【0053】
本発明は、このフェイス2モードのように、フェイス開口部27が全開とされる一方で、冷風バイパスドア32が全開とされないフェイスモード(可変モード)を有する点が特徴である。
【0054】
(3)バイレベル1(B/L1)モード
フェイスフット切替ドア28は略中間開度とされ、冷風バイパスドア32は略70%開度とされる。
【0055】
バイレベルモードは、通常、春秋の中間シーズンで多く用いられるので、エアミックスドア20は中間開度位置とされ、所望温度に調整された空調空気が、フェイス開口部27とフット開口部29との両方から車室内の上下に同時に吹き出す。また、冬場であっても直射日光が当たって日射量が大きい場合等、上半身はそれほど暖めなくても良い場合がある。このような場合に、補助冷風バイパス通路31を開けてやることで、フェイス吹出口から吹き出す空調空気温度Tfaceとフット吹出口から吹き出す空調空気温度Tfootとの温度差ΔTを設定し(Tfoot>Tface)、乗員の上半身へは冷風を送風し、足元へは温風を送風することができる。
【0056】
(4)バイレベル2(B/L2)モード
フェイスフット切替ドア28は略中間開度とされ、冷風バイパスドア32は0%開度とされる。このバイレベル2モードでは、補助冷風バイパス通路31が全閉されるため、バイレベル1モードと比較すると、補助冷風バイパス通路31を通過する冷風量、すなわちフェイス開口部27へ導かれる冷風量が少ない。このため、フェイス吹出口から吹き出す空調空気温度Tfaceとフット吹出口から吹き出す空調空気温度Tfootとの温度差ΔTがバイレベル1モードと比較して小さくなる。
【0057】
なお、バイレベル1およびバイレベル2モードにおけるエアミックスドア20は、基本的には略中間位置に調整される。
【0058】
(5)フット(FOOT)モード
フェイスフット切替ドア28はフェイス開口部27を0%開度(全閉)とし、フット開口部29を100%開度(全開)とする。デフロスタドア26はデフロスタ開口部25を略20%開度とし、連通口34を80%開度とする。また、冷風バイパスドア32は0%開度(全閉)とする。
【0059】
このモードは、主に暖房時に乗員の足へ温風を送るために用いられ、この状態でエアミックスドア20は、ヒータコア18を通る温風通路23側を全開とする。これにより、送風ユニット2からの送風空気の全量をヒータコア18で加熱した後、大部分の温風はフット開口部29からフット吹出口を経て乗員の足元に向けて温風を吹き出し車室内の暖房が行われる。また、少量の温風をデフロスタ開口部25を通してデフロスタ吹出口から車両前面窓ガラスの内側に向けて吹き出し、前面窓ガラスの曇り止めが行われる。
【0060】
(6)フットデフロスタ(F/D)モード
デフロスタドア26はデフロスタ開口部25を略中間開度とし、連通口34も略中間開度とする。また、フェイスフット切替ドア28はフェイス開口部27を0%開度(全閉)とし、フット入口部29aを100%開度(全開)とする。また、冷風バイパスドア32は0%開度(全閉)とする。
【0061】
この状態でエアミックスドア20は、ヒータコア18を通る温風通路23側を全開とする。これにより、送風ユニット2からの送風空気の全量をヒータコア18で加熱した後、略半分の温風はデフロスタ開口部25を通して、デフロスタ吹出口から車両前面窓ガラスの内側に向けて吹き出し、前面窓ガラスの曇り止めを行うとともに、略半分の温風はフット開口部29からフット吹出口を経て乗員の足元に向けて温風が吹き出し車室内の暖房を行う。
【0062】
(7)デフロスタ(DEF)モード
デフロスタドア26はデフロスタ開口部25を100%開度(全開)とし、連通口34は0%開度(全閉)とする。また、フェイスフット切替ドア28はフェイス開口部27を0%開度(全閉)とし、フット入口部29aを100%開度(全開)とする。また、冷風バイパスドア32は0%開度(全閉)とする。
【0063】
この状態でエアミックスドア20は、ヒータコア18を通る温風通路23側を全開とする。これにより、送風ユニット2からの送風空気の全量をヒータコア18で加熱した後、この温風はデフロスタ開口部25を通して、デフロスタ吹出口から車両前面窓ガラスの内側に向けて吹き出し、前面窓ガラスの曇り止めが行われる。
【0064】
次に、上記詳述した吹出口モードを決定する制御について説明する。図6は、吹出口モード決定ステップ(図4におけるステップS7)の詳細を示すフローチャートである。図6に示すように、まず、ステップS71では、前述したように目標吹出温度TAOや、乗員による吹出口モード切替スイッチの操作に応じて設定すべき吹出口モードを判定する。ステップS71での判定結果がフェイス(FACE)モードであればステップS72に進んで、空調装置の運転状態がクールダウン(冷房)初期(例えば、設定温度が最低値、風量設定が最大)であるか否かの判断を行う。ここで、「クールダウン初期であるか否か」の判断とは、「冷房高負荷運転状態であるか否か」の判断の一実施形態である。
【0065】
ステップS72でクールダウン初期であると判断された場合(S72:YES)、すなわち冷房高負荷運転状態である場合には、ステップS73に進み、フェイス1モードを設定する。一方、ステップS72でクールダウン初期ではないと判断された場合(S72:NO)、すなわち冷房高負荷運転状態ではない場合には、ステップS74に進み、フェイス2モードを設定する。クールダウン初期か否かは、例えば、設定温度が最も低く、設定風量が最大値である場合等にクールダウン初期であると判断できる。
【0066】
なお、ステップS71の吹出口モード判定において、判定結果がバイレベル(B/L)モードであればステップS75に進み、バイレベルモードを設定する。また、ステップS71の吹出口モード判定において、判定結果がフット(FOOT)モードであればステップS76に進み、フットモードを設定する。
【0067】
なお、図6では、本発明の要部以外については簡単のため一部の吹出口モード(バイレベル1モード、バイレベル2モード、フットモード、フットデフロスタモード、デフロスタモード)を省略してあるが、バイレベルモード中には、上記バイレベル1モードとバイレベル2モードとを含んでいる。そして、例えば日射量が所定値以上である場合にはバイレベル1モードを設定し、日射量が所定値以下である場合にはバイレベル2モードを設定する等の処理を行っている。さらに、ステップS71の吹出口モード判定において、判定結果が上記フットデフロスタモードやデフロスタモードである場合には、それぞれその吹出口モードに設定するものである。
【0068】
(効果)
本実施形態の特徴は、フェイスモードとして、冷風バイパスドア32の開度を異ならせて設定された複数の可変モード(フェイス1モード、フェイス2モード)を有し、いずれかの可変モードを選択することでフェイスモードの際に冷風バイパスドア32の開度を可変に制御するようにしている点である。
【0069】
具体的には、図6のステップS72〜S74に示すように、フェイスモードが選択された場合に、クールダウン初期であるか否かを判断するようにしている。そして、より高い冷房能力が求められるクールダウン初期である場合には、フェイス1モード(全開モード)を設定するため、冷風バイパス通路21とともに補助冷風バイパス通路31が全開となって、十分な冷風を確実にフェイス開口部27側へ送風することができる。
【0070】
一方、クールダウン初期ではない場合(ウォームアップ(暖房)時、クールダウン開始から所定時間経過した定常状態時等)には、フェイス2モードを設定する。フェイス2モードは、補助冷風バイパス通路31が全開ではないため、フェイス1モードと比較して補助冷風バイパス通路31を通過してフェイス開口部27へ導かれる冷風量が抑えられる。このため、特に、冬場、一時的に上半身を暖めたいときに、乗員が、暖房かつ最大風量、フェイスモードを選択した際等、温風を積極的にフェイス開口部27へ送風したい場合に、補助冷風バイパス通路31を通過する冷風量を減らしてやることで確実に温風をフェイス開口部27へ送風することができる。
【0071】
このように、暖房かつ最大風量、フェイスモードの場合において、ヒータコア18を迂回して補助冷風バイパス通路31を通過した冷風がフェイス吹出口から吹き出すことを抑制し、乗員への快適性を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態では、冷風バイパスドア32と各吹出モード切替ドア(デフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28)とを連動させることで専用の駆動機構が不要となることにより、連動機構のコストやスペースの削減、装置の軽重量化を図ることができる。また、冷風バイパスドア32の開閉制御が煩雑になることもない。
【0073】
(その他の実施形態)
上記第1実施形態では、フェイス開口部27が全開とされるフェイスモードとして、冷風バイパスドア32の開度が異なる2つの可変モード(フェイス1モード(全開モード)、フェイス2モード)を有するものとしたが、3つ以上の複数の可変モードを予め設定しておいても良い。複数の可変モードは、例えば、冷風バイパスドア32の開度が徐々に小さくなるように、順にフェイス3モード(50%開度)、フェイス4モード(30%開度)…というように設定できる。
【0074】
その複数モード(フェイス2モード、フェイス3モード、フェイス4モード…)のうちいずれかの可変モードにするかの決定については、例えば、暖房時に外気温度センサ112により検出される外気温度が低いほど、冷風バイパスドア32の開度が小さくなるモードを選択するように設定しても良い。これは、外気温度が低い場合には、暖房能力がより必要とされるため、冷風バイパスドア32の開度を小さくして補助冷風バイパス通路31を通過する冷風量を減少させることで十分高温な吹出温度を確保することが望ましいためである。
【0075】
この形態によれば、冷風バイパスドア32の開度が異なって設定された複数の可変モードのうちいずれかを選択することで、フェイス開口部27が全開とされるフェイスモードであっても、補助冷風バイパス通路31を通過する冷風量を調整して所望の吹出温度に調整された空調空気をフェイス開口部27へ送風することができる。
【0076】
上記第1実施形態では、バイレベル1モードでの冷風バイパスドア32の開度を略70%開度としたが、フェイス吹出口から吹き出す空調空気温度Tfaceとフット吹出口から吹き出す空調空気温度Tfootとの所望の温度差ΔTに応じて適宜設定変更可能である、例えば、温度差ΔTを大きくしたい場合には、冷風バイパスドア32の開度をより大きく設定することができ、温度差ΔTを小さくしたい場合には、冷風バイパスドア32の開度をより小さく設定することで対応できる。
【0077】
上記第1実施形態では、デフロスタドア26、フェイスフット切替ドア28、冷風バイパスドア32はリンク機構を介して共通のアクチュエータ機構(図示略)に連結されているものとしたが、独立したアクチュエータを設けて空調用ECU100の制御により各ドア26,28,32を連動させるようにしても良い。
【0078】
上記第1実施形態では、「冷房高負荷運転状態か否か」の判断の一実施形態として「クールダウン初期であるか否か」を判断するものとした。しかし、この判断は、クールダウン初期のみに限定されるものではなく、クールダウン開始から所定時間経過した定常状態であっても、例えば、設定が最低温度かつ風量最大であれば冷風量を確保する必要のある冷房高負荷運転状態であるとみなして、フェイス1モード(全開モード)を採用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本実施形態における車両用空調装置の構成を示す模式図である。
【図2】車両用空調装置の空調ユニットの断面図である。
【図3】車両用空調装置の空調用ECU(制御手段)の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本実施形態における空調用ECUが実行する車両用空調装置の制御手順(メインフロー)の一例を示すフローチャートである。
【図5】各吹出口モードにおけるデフロスタドア、フェイスフット切替ドア、冷風バイパスドアの開度の推移を示すドアダイヤグラムである。
【図6】吹出口モード決定ステップ(図4におけるステップS7)の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1 車両用空調装置
10 空調ケース
18 ヒータコア
20 エアミックスドア
21 冷風バイパス通路
27 フェイス開口部
28 フェイスフット切替ドア(吹出モード切替ドア)
31 補助冷風バイパス通路
32 冷風バイパスドア
100 空調用ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気通路を形成する空調ケース(10)と、
当該空調ケース(10)内に配置されて空気を加熱するヒータコア(18)と、
当該ヒータコア(18)を迂回する冷風バイパス通路(21)と、
空調空気を車室内の乗員頭胸部へ導くフェイス開口部(27)と、
当該フェイス開口部(27)を通過する風量を調整する吹出モード切替ドア(28)と、
前記冷風バイパス通路(21)とは別に形成されて前記ヒータコア(18)を迂回した冷風を前記フェイス開口部(27)方向へ流通させる補助冷風バイパス通路(31)と、
当該補助冷風バイパス通路(31)を通過する冷風量を調整し、前記吹出モード切替ドア(28)と連動して開閉制御される冷風バイパスドア(32)とを備えた車両用空調装置において、
前記吹出モード切替ドア(28)および前記冷風バイパスドア(32)の開度を制御する制御手段(100)を備え、当該制御手段(100)は、前記フェイス開口部(27)が前記吹出モード切替ドア(28)によって全開とされるフェイスモードとして、前記冷風バイパスドア(32)の開度を異ならせて設定された複数の可変モードを有し、いずれかの前記可変モードを選択することで前記フェイスモードの際に前記冷風バイパスドア(32)の開度を可変に制御することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御手段(100)は、前記フェイスモードが設定された場合に、運転状態が冷房高負荷運転状態であるか否かを判断し、前記冷房高負荷運転状態であると判断した場合には、前記可変モードのうち前記冷風バイパスドア(32)の開度が全開に設定される全開モードを採用することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−208573(P2009−208573A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52517(P2008−52517)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】