説明

車両用空調装置

【課題】暖房と除霜を同時に行いつつも短い時間で除霜を行うことが可能な車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置10Aは、圧縮機11、切換手段12A、室外熱交換器13、膨張機構15、室内熱交換器16を含むヒートポンプ回路2と、室外熱交換器14をバイパスするバイパス路3とを備えている。切換手段12Aは、冷媒の流れ方向を、冷房運転時には第1方向(矢印C)に切り換え、暖房運転時には第2方向(矢印H)に切り換える。膨張機構14と室外熱交換器13の間には、冷媒を過熱状態まで加熱可能な加熱器14が配置されている。バイパス路3は、加熱器14と室外熱交換器13の間でヒートポンプ回路2から分岐している。バイパス路3には第1流量調整弁31が設けられており、ヒートポンプ回路2には第2流量調整弁32が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の冷房および暖房を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばガソリンエンジンを備える自動車では、冷房にヒートポンプが用いられる一方、暖房にエンジンの廃熱が利用されていた。近年では、エンジンの廃熱量が少ないハイブリッド車、およびエンジンの廃熱が利用できない電気自動車が普及してきており、これに合わせて冷房だけでなく暖房にもヒートポンプを用いるようにした車両用空調装置が開発されてきている。例えば、特許文献1には、図9に示すようなエンジン150によって圧縮機111を駆動する空調装置100が開示されている。
【0003】
この空調装置100は、圧縮機111、四方弁112、室外熱交換器113、室外膨張弁114、室内膨張弁115および室内熱交換器116を含むヒートポンプ回路110を備えている。冷房運転時には、圧縮機111で圧縮された冷媒が破線矢印Cの向きに流され、室外熱交換器113が凝縮器として機能し、室内熱交換器116が蒸発器として機能する。一方、暖房運転時には、圧縮機111で圧縮された冷媒が実線矢印Hの向きに流され、室内熱交換器116が凝縮器として機能し、室外熱交換器113が蒸発器として機能する。
【0004】
また、ヒートポンプ回路110には、外気温度が低いときの外部吸熱を補うために、第1加熱器121および第2加熱器122が設けられている。第1加熱器121は、バーナー部160で加熱された水を放熱させる熱交換器であり、室内膨張弁115と室外膨張弁114の間に配置されている。第2加熱器122は、エンジン150を冷却した水を放熱させる熱交換器であり、四方弁112と圧縮機111の吸入口の間に配置されている。
【0005】
さらに、空調装置100は、室外熱交換器113に付着した霜を取り除く除霜運転を行うための構成として、第1バイパス路130と第2バイパス路140を備えている。第1バイパス路130は、圧縮機111の吐出口と四方弁112の間でヒートポンプ回路110から分岐して、室外膨張弁114と室外熱交換器113の間でヒートポンプ回路110につながっている。第2バイパス路140は、第1加熱器121と室外膨張弁114の間でヒートポンプ回路110から分岐して、四方弁112と第2加熱器122の間でヒートポンプ回路110につながっている。また、第1バイパス路130には制御弁131が設けられており、第2バイパス路140には開閉弁141が設けられている。
【0006】
そして、特許文献1には、暖房運転中に室外熱交換器113の除霜が必要と判定されたときに、開閉弁141が開かれるとともに室外膨張弁114が閉じられ、さらに制御弁131が開かれることにより、実線矢印D1〜D5で示すように冷媒が流れ、暖房と除霜とが同時に行われる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−106997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図9に示す構成では、第1バイパス路130を通じた圧縮機111の吐出口から吸入口までのルートには膨張弁が設けられておらず、制御弁131が単なる流量調整弁である場合にはそもそも冷凍サイクルが成立しない。仮に、制御弁131が膨張弁であるとしても、第1加熱器121および第2加熱器122で吸熱した熱が室外熱交換器113に直接伝達されずに、除霜に長い時間がかかることになる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みて、暖房と除霜を同時に行いつつも短い時間で除霜を行うことが可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、車室内の冷房および暖房を行う車両用空調装置であって、冷媒を圧縮する圧縮機、前記車室外の空気と冷媒との熱交換を行う室外熱交換器、冷媒を膨張させる膨張機構、およびダクト内に配置され、ブロワによって前記車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う室内熱交換器を含むヒートポンプ回路と、前記ヒートポンプ回路に流れる冷媒の流れ方向を、冷房運転時には前記圧縮機から吐出された冷媒が前記室外熱交換器、前記膨張機構および前記室内熱交換器をこの順に通過して前記圧縮機に戻る第1方向に切り換え、暖房運転時には前記圧縮機から吐出された冷媒が前記室内熱交換器、前記膨張機構および前記室外熱交換器をこの順に通過して前記圧縮機に戻る第2方向に切り換える切換手段と、前記膨張機構と前記室外熱交換器の間に配置され、前記ヒートポンプ回路を流れる冷媒を過熱状態まで加熱可能な加熱器と、前記ヒートポンプ回路における前記加熱器と前記室外熱交換器の間の第1室外側流路から分岐して、前記ヒートポンプ回路における前記室外熱交換器と前記切換手段の間の第2室外側流路または前記切換手段と前記圧縮機の吸入口の間の吸入側流路につながるバイパス路と、前記バイパス路に設けられた第1流量調整弁と、前記第1室外側流路における前記バイパス路が分岐する位置よりも前記室外熱交換器側に設けられた第2流量調整弁と、を備える車両用空調装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成によれば、冷媒を過熱状態まで加熱可能な加熱器が設けられているので、この加熱器を蒸発器として機能させることができる。このため、室外熱交換器に霜が付着したときには、加熱器で冷媒を過熱し、その過熱された冷媒をバイパス路に流すとともに室外熱交換器に導けば、暖房と除霜を同時に行うことができる。しかも、加熱器から冷媒に熱が与えられるために低圧でありながら高温度の冷媒によって除霜が行われるので、短い時間で除霜を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用空調装置の構成図
【図2】(a)は第1および第2流量調整弁の調整方法を説明する図、(b)はそのように調整したときの室外熱交換器に流れる冷媒量の比率を示すグラフ
【図3】(a)は通常暖房運転時のモリエル線図、(b)は暖房除霜運転時のモリエル線図
【図4】本発明の第2実施形態に係る車両用空調装置の構成図
【図5】第2実施形態の変形例の車両用空調装置の構成図
【図6】本発明の第3実施形態に係る車両用空調装置の構成図
【図7】第3実施形態の変形例の車両用空調装置の構成図
【図8】(a)および(b)は代替案の切換手段の構成図
【図9】従来の車両用空調装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用空調装置10Aの構成図である。この車両用空調装置10Aは、図略の車室内の冷房および暖房を行うものであり、冷媒を循環させるヒートポンプ回路2と、後述する室外熱交換器13をバイパスするバイパス路3と、制御装置6とを備えている。なお、冷媒としては、R134a、R410A、HFO−1234yf、HFO−1234ze、CO2などに加え、他のHFC系、HC系などが利用できる。
【0015】
ヒートポンプ回路2は、圧縮機11、四方弁12A、室外熱交換器13、膨張弁15、および室内熱交換器16を含んでいる。四方弁12Aは、本発明の切換手段として機能するものであり、ヒートポンプ回路2に流れる冷媒の流れ方向を、冷房運転時には破線矢印Cで示す第1方向に切り換え、暖房運転時には実線矢印Hで示す第2方向に切り換える。第1方向は、圧縮機11から吐出された冷媒が室外熱交換器13、膨張弁15および室内熱交換器16をこの順に通過して圧縮機11に戻る方向であり、第2方向は、圧縮機11から吐出された冷媒が室内熱交換器16、膨張弁15および室外熱交換器13をこの順に通過して圧縮機11に戻る方向である。また、膨張弁15と室外熱交換器13の間には、必要に応じて冷媒を加熱する加熱器14が配置されている。これらの機器11〜16は、第1流路21〜第7流路27によって循環的に接続されている。
【0016】
圧縮機11は、電動モータ61により駆動されるものであり、吸入口11aから吸入した冷媒を圧縮して吐出口11bから吐出する。電動モータ61は、圧縮機11の内部に配置されていてもよいし、外部に配置されていてもよい。圧縮機11の吐出口11bは第1流路(本発明の吐出側流路に相当)21を介して四方弁12Aの第1ポートに接続されており、圧縮機11の吸入口11aは第7流路(本発明の吸入側流路に相当)27を介して四方弁12Aの第4ポートに接続されている。また、四方弁12Aの第2ポートは第2流路(本発明の第2室外側流路に相当)22を介して室外熱交換器13に接続されており、四方弁12Aの第3ポートは第6流路26を介して室内熱交換器16に接続されている。第7流路27には、圧縮機11に吸入される冷媒の圧力を検出する圧力センサ71が設けられているとともに、圧縮機11に吸入される冷媒の温度を検出する過熱度センサ81が設けられている。
【0017】
室外熱交換器13は、例えば自動車のフロントに配置され、車両の走行およびファン17により供給される外気(車室外の空気)と冷媒との間で熱交換を行う。室外熱交換器13は、第3流路(本発明の第1室外側流路に相当)23を介して加熱器14に接続されている。
【0018】
加熱器14は、ヒートポンプ回路2を流れる冷媒を過熱状態まで加熱可能な能力を有している。本実施形態では、加熱器14として、熱媒体と冷媒との熱交換を行う熱交換器が採用されている。具体的には、ポンプ41によって熱媒体回路4を循環させられる熱媒体が、熱源42によって加熱された後に加熱器14で放熱するようになっている。
【0019】
なお、熱媒体回路4には、加熱器14と直列的または並列的に、大気中に熱を逃がす放熱器が設けられていてもよい。熱源42は車両を走行させる駆動手段に応じて適宜選定可能であり、例えば発電機またはインバータなどを用いることができる。熱媒体は、例えば水である。ただし、本発明の加熱器はこれに限られるものではなく、例えばヒータ(例えばPTCヒータ)などの冷媒を直接加熱する加熱器を採用してもよい。加熱器14は、第4流路24を介して膨張弁15に接続されている。
【0020】
膨張弁15は、冷媒を膨張させるものであり、本発明の膨張機構の一例である。本発明の膨張機構としては、膨張する冷媒から動力を回収する容積型の膨張機等を採用してもよい。膨張弁15は、第5流路25を介して室内熱交換器16に接続されている。
【0021】
室内熱交換器16は、ダクト52内に配置され、ブロワ51によって車室内に送られる空気と冷媒との間で熱交換を行う。本実施形態では、ダクト52内に、ブロワ51により車室内の空気が流される。すなわち、車室内の空気は、ダクト52を通じて循環する。なお、ブロア51によりダクト52内に流される空気は、必ずしも車室内空気100%である必要はなく、車室内換気用の外気をある程度含んでいてもよいし、全て外気としてもよい。以下では、一例として、ブロア51によってダクト52内に取り込まれて室内熱交換器16に供給される空気が車室内空気100%であるとする。
【0022】
ブロワ51は、図1に示すようにダクト52の入口側に配置されていてもよいし、ダクト52の出口側に配置されていてもよい。また、ブロワ51としては、ファンを用いてもよい。
【0023】
バイパス路3は、ヒートポンプ回路2の第3流路23から分岐して第2流路22につながっている。ただし、バイパス路3は、第3流路23から分岐して第7流路27につながっていてもよい。バイパス路3には第1流量調整弁31が設けられており、第3流路23におけるバイパス路3が分岐する位置よりも室外熱交換器13側には第2流量調整弁32が設けられている。第1流量調整弁31は、通常は全閉状態に保たれ、室外熱交換器13の除霜が必要なときなどに開かれる。第2流量調整弁32は、通常は全開状態に保たれる。
【0024】
本実施形態では、室外熱交換器13に霜が付着したことを判定するための着霜用検出手段として、蒸発器温度センサ82が用いられている。この蒸発器温度センサ82は、室外熱交換器13の表面温度を検出するように室外熱交換器13に設けられている。ただし、蒸発器温度センサ82は、必ずしも室外熱交換器13に設けられている必要はなく、室外熱交換器13に流入する冷媒の温度を検出するように第3流路23に設けられていてもよいし、室外熱交換器13と接触した後の空気の温度を検出するように室外熱交換器13の風下側に配置されていてもよい。
【0025】
さらに、上述したダクト52内には、ダクト52を通じて車室内に吹き出される空気の温度(吹出温度)を検出する吹出温度センサ83が設けられている。
【0026】
制御装置6は、車室内に配置された操作パネル(図示せず)および上述した各種のセンサ71,81〜83と接続されている。そして、制御装置6は、四方弁12Aを制御して冷房運転と暖房運転とを切り替えるとともに、ファン17およびブロワ51の稼働、ポンプ41の稼働、圧縮機11を駆動する電動モータ61の回転数、膨張弁15の開度、ならびに第1流量調整弁31および第2流量調整弁32の開度を制御する。さらに、制御装置6は、暖房運転時に蒸発器温度センサ82の検出値に基づいて室外熱交換器13に霜が付着したと判定したときに、加熱器14で過熱された冷媒の一部をバイパス路3に流しつつ残りを室外熱交換器13に導く暖房除霜運転を行う。
【0027】
次に、車両用空調装置10Aにおける冷房運転時および暖房運転時の動作を説明する。
【0028】
冷房運転時は、圧縮機11で圧縮された高温高圧のガス冷媒が四方弁12Aを破線矢印Cの向きに流れる。ガス冷媒は、室外熱交換器13で外気に放熱して凝縮する。その後、液冷媒は、膨張弁15で絞られて断熱膨張し低温低圧となった後に、室内熱交換器16でブロワ51により供給される車室内循環空気から吸熱して蒸発するとともに、車室内循環空気を冷却する。室内熱交換器16から流出した冷媒は、再び四方弁12Aを通って再び圧縮機11に吸入される。
【0029】
制御装置6は記憶部(図示せず)を有しており、この記憶部には冷媒圧力に応じた飽和温度が格納されている。制御装置6は、適時、圧力センサ71で検出される圧力における飽和温度を記憶部から読み出し、読み出した飽和温度と過熱度温度センサ81で検出される冷媒の温度とを比較し、それらの温度差が所定の過熱度となるように膨張弁15の開度を制御する。
【0030】
なお、制御装置6の記憶部には必ずしも冷媒圧力に応じた飽和温度が格納されている必要はない。例えば、膨張弁15と蒸発器(冷房運転の場合は室内熱交換器16、暖房運転の場合は室外熱交換器13)の間の冷媒が気液二相状態であることを利用して飽和温度を取得するようにしてもよい。この場合は、圧力センサ71の代わりに温度センサを用いることができる。
【0031】
暖房運転時は、圧縮機11で圧縮された高温高圧のガス冷媒が四方弁12Aを実線矢印Hの向きに流れる。ガス冷媒は、室内熱交換器16でブロワ51により供給される車室内循環空気に放熱して凝縮するとともに、車室内循環空気を加熱する。その後、液冷媒は、膨張弁15で絞られて断熱膨張して低温低圧となった後に、室外熱交換器13で外気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器13から流出した冷媒は、再び四方弁12Aを通って再び圧縮機11に吸入される(通常暖房運転)。なお、暖房運転時の膨張弁15の開度の制御は、冷房運転時と同様である。
【0032】
図3(a)は、通常暖房運転時のモリエル線図を示す。冷媒は、点Aから点Dで示すように状態変化する。
【0033】
室外熱交換器13だけでは吸熱量が足りないとき、あるいは起動時などの急速に暖房を行いたいときには、制御装置6はポンプ41を稼働させて、加熱器14と室外熱交換器13の双方で冷媒を蒸発させる(補助加熱暖房運転)。また、室外熱交換器13が機能しないような超低外気温度時には、制御装置6は、第1流量調整弁31を全開状態にするとともに第2流量調整弁32を全閉状態にして、加熱器14のみで冷媒を蒸発させる(内熱暖房運転)。
【0034】
通常暖房運転時または補助加熱暖房運転時に、蒸発器温度センサ82で検出される蒸発器の温度が一定時間(例えば、30分)継続して氷点下である所定温度(例えば、−3℃または−5℃)以下となったときには、制御装置6は、室外熱交換器13に霜が付着したと判定し、暖房運転から暖房除霜運転に移行する。
【0035】
具体的に、制御装置6は、蒸発器温度センサ82で検出される蒸発器の温度が上記所定温度以下にある状態が上記一定時間維持されたときに、ファン17の稼働を停止するとともに、第1流量調整弁31を開き始める。これにより、実線矢印Dで示すようにバイパス路3にも冷媒が流れる。
【0036】
制御装置6は、吹出温度センサ83で検出される吹出温度が所定の温度(例えば、50℃)となるように、第1流量調整弁31の開度および第2流量調整弁32の開度を調整する。本実施形態では、制御装置6は、暖房除霜運転を行う間は、第1流量調整弁31と第2流量調整弁32のどちらか一方を全開状態に保つ。
【0037】
図2(a)に示すように第2流量調整弁32を全開状態に保ったままで第1流量調整弁31の開度を徐々に大きくすると、図2(b)に示すように室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率は徐々に低下する。室外熱交換器13は一般的にバイパス路3よりも圧力損失が大きな構造を有しているため、第1流量調整弁31と第2流量調整弁32の双方を全開状態にしても、室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率は0.5よりも小さくなる(図2(b)では例示として0.3と記している)。第1流量調整弁31が全開状態となった後は、第1流量調整弁31を全開状態に保ったままで第2流量調整弁32の開度を徐々に小さくすると、室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率はより緩やかな傾きで0まで徐々に低下する。
【0038】
例えば、制御装置6は、第1流量調整弁31を一定の開度まで開いた後、あるいは第1流量調整弁31を全開まで開き、第2流量調整弁32を一定の開度まで閉じた後に、吹出温度が所定の温度よりも高い場合は室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率を上げ(図2(a)の左向きへ補正し)、低い場合は室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率を下げ(図2(a)の右向きへ補正し)てもよい。
【0039】
さらに、制御装置6は、第1流量調整弁31を開き始めるのと同時に、今まで機能していなかったまたは補助的な加熱を行っていた加熱器14を蒸発器として機能させる。具体的には、制御装置6は、ポンプ41が稼働していなければポンプ41の稼働を開始する。制御装置6は、ポンプ41が稼働中であった場合には、ポンプ41の回転数を上げてもよい。加えて、制御装置6は、膨張弁15の開度を若干大きくして冷凍サイクルの高低圧差を小さくする。
【0040】
図3(b)は、暖房除霜運転時のモリエル線図を示す。なお、図3(b)では、第2流量調整弁32が全開状態、第1流量調整弁31が所定の開度とされた状態を描いている。膨張弁15を通過した冷媒(点D)は、加熱器14によって過熱される(点E)。過熱された冷媒の一部はバイパス路3を流れ、第1流量調整弁31によって若干減圧される(点F)。一方、過熱された冷媒の残りは室外熱交換器13に流入し、ここで放熱して室外熱交換器13に付着した霜を溶かす(点G)。その後、それらの冷媒が合流し(点A)、再び圧縮機11に吸入される。
【0041】
図3(b)に示すように、暖房除霜運転中は室内熱交換器16の入口(点B)と出口(点C)での比エンタルピ差が小さくなるため、制御装置6は、暖房運転から暖房除霜運転に移行したときに、圧縮機11を駆動する電動モータ61の回転数を大きくして冷媒の循環量を増大させることが好ましい。
【0042】
なお、暖房除霜運転中はブロワ51の風量を低減してダクト52から吹き出される空気の温度低下を防止することが好ましい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の車両用空調装置10Aでは、室外熱交換器13の除霜が必要と判定されたときには、加熱器14で冷媒を過熱し、その過熱された冷媒をバイパス路3に流すとともに室外熱交換器13に導いている。これにより、暖房と除霜を同時に行うことができる。しかも、加熱器14から冷媒に熱が与えられるために低圧でありながら高温度の冷媒によって除霜が行われるので、短い時間で除霜を行うことが可能になる。
【0044】
さらに、本実施形態では、暖房除霜運転を行う間は第1流量調整弁31と第2流量調整弁32のどちらか一方が全開状態に保たれるので、圧力損失を小さく抑えることができる。
【0045】
効率的な除霜を行うためには、室外熱交換器13に十分な量の冷媒を分配する必要があるが、氷点下になった室外熱交換器13に過熱された冷媒を流すと、凝縮温度と室外熱交換器13温度との温度差が大きすぎて冷媒の液化が激しく起こる。一方で、圧縮機11の液圧縮を防止するためには、圧縮機11に戻る冷媒を過熱状態で運転する必要がある。このため、上記した第1流量調整弁31と第2流量調整弁32の制御に加え、膨張弁15の開度による過熱度制御が必要になる。
【0046】
また、暖房の観点からも、吹出温度を所定の温度(例えば、50℃)へ調整することと、圧縮機11に戻る冷媒を過熱状態で運転することが必要である。
【0047】
このため、吹出温度センサ83を使用した第1流量調整弁31および第2流量調整弁32の開度調整と、膨張弁15の開度による過熱度制御とにより、暖房除霜運転時にも車室内に適温の空気を供給することができる。
【0048】
<変形例>
前記実施形態では、着霜用検出手段として蒸発器温度センサ82を用いたが、本発明の着霜用検出手段はこれに限られるものではない。例えば、第2流路22におけるバイパス路3がつながる位置よりも室外熱交換器13側に、室外熱交換器13から流出する冷媒の温度を検出する冷媒温度センサを設け、この冷媒温度センサを着霜用検出手段として用いてもよい。室外熱交換器13に霜が付着すると、室外熱交換器13を空気が通過できなくなって空気と冷媒との熱交換量が減少するため、室外熱交換器13から流出した冷媒の温度が外気温度よりも一定温度低くなったときに、室外熱交換器13に霜が付着したと判定することができる。
【0049】
または、上記のような現象が発生すると、着霜により室外熱交換器13の通風抵抗が増加してファン17への入力が増加するため、ファン17の駆動電流が一定値以上になったときに室外熱交換器13に霜が付着したと判定することもできる。
【0050】
あるいは、室内熱交換器16の温度を検出する凝縮器温度センサと車室内の温度を検出する車室内温度センサを設け、これらの温度センサの検出値の温度差から室外熱交換器13に霜が付着したと判定してもよい。
【0051】
また、暖房よりも除霜が優先されるときには、ファン17およびブロア51を稼働させずに破線矢印Cの向きに冷媒を流して、急速除霜運転を行うようにしてもよい。あるいは、この急速除霜運転中にポンプ41を稼働させて、室外熱交換器13で放熱した冷媒を加熱器14で加熱することにより、さらに除霜に使用する熱量を増大させてもよい。ただし、これらの運転は、ヒートポンプ回路2に冷媒を暖房運転と反対向きに流す必要があるために、暖房運転と連続して行うことができない。これに対し、前記実施形態のような暖房除霜運転では、ヒートポンプ回路2に暖房運転と同じ向きに冷媒が流れるため、暖房運転から直ちに除霜を開始することができる。
【0052】
前記実施形態では、吹出温度が所定の温度となるように第1流量調整弁31および第2流量調整弁32の開度を調整している。ただし、第1流量調整弁31および第2流量調整弁32の開度の調整方法はこれに限られない。他の調整方法としては、外気温度Tair(℃)と暖房連続時間t(sec)から室外熱交換器13に流れる冷媒量の比率rを決定する方法がある。比率rは、例えば次の式によって算出することができる。
r=(10−Tair)/40×t/30
(0.1<r<0.6、−10<Tair<10、10<t<60)
【0053】
さらに、第1流量調整弁31および第2流量調整弁32の開度の調整は、必ずしもどちらか一方を全開状態に保ちながら行う必要はなく、双方の開度を同時に所定の開度に調整することも可能である。
【0054】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る車両用空調装置10Bの構成図である。なお、本実施形態では、第1実施形態と同じ構成部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。この点は、後述する第3実施形態でも同様である。
【0055】
本実施形態では、第1流路21に、ブロワ51によって車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う副熱交換器18が設けられている。この副熱交換器18は、ダクト52内で室内熱交換器16の風下側に配置されている。なお、車両用空調装置10Bのその他の構成は、第1実施形態の車両用空調装置10Aと同じである。
【0056】
具体的に、副室内熱交換器18は、ダクト52内で当該副室内熱交換器18を経由する第1風路と当該副室内熱交換器18を経由しない第2風路とが層をなすように配置されている。これを実現するには、例えば、副室内熱交換器18の脇から室内熱交換器16がダクト52の出口側に露出するように、換言すれば副室内熱交換器18の脇に副室内熱交換器18をバイパスする空気が流れる一定の空間が確保されるように、副室内熱交換器18をダクト52の壁面近くに片寄せて配置してもよい。あるいは、ダクト52における副室内熱交換器18を取り囲む部分の一部を膨らませて、その膨らませた部分に副室内熱交換器18をバイパスする空気を流すようにしてもよい。
【0057】
なお、本実施形態では、ダクト52内に、上記第1風路と上記第2風路とを仕切る仕切り板、および上記第1風路を流れる風量と上記第2風路を流れる風量の比率を調整するダンパが設けられていることが好ましい。
【0058】
このような構成では、室内熱交換器16で加熱された車室内循環空気を副室内熱交換器18でさらに加熱することができるので、暖房能力を高める効果を得ることができる。なお、車両用空調装置10Bでも、第1実施形態の車両用空調装置10Aと同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0059】
<変形例>
ところで、前記実施形態の車両用空調装置10Bでは、副室内熱交換器18からは常に熱が放出されるため、暖房しながら車室内循環空気を除湿するには室内熱交換器16を蒸発器として機能させる必要がある。これを実現するには、冷媒を破線矢印Cで示す向きに流さなければならない。しかしながら、このようにすると室外熱交換器13からも熱が放出されるため、外気の熱を利用したヒートポンプ暖房を行うことができない。
【0060】
これに対し、図5に示す変形例の車両用空調装置10Cのように、第2流路22に第2の膨張弁19を設けるとともに、ヒートポンプ回路2に、膨張弁15をバイパスする、開閉弁92付の第1選択路91と、第2の膨張弁19をバイパスする、開閉弁94付の第2選択路93とを設けてもよい。この構成では、開閉弁92を開くとともに膨張弁15を全閉にし、さらに開閉弁94を閉じた上で、冷媒を破線矢印Cの向きに流せば、暖房しながら車室内循環空気を除湿することができる。
【0061】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係る車両用空調装置10Dの構成図である。本実施形態では、第7流路27に、ブロワ51によって車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う副熱交換器18が設けられている。この副熱交換器18は、ダクト52内で室内熱交換器16の風上側に配置されている。なお、車両用空調装置10Dのその他の構成は、第1実施形態の車両用空調装置10Aと同じである。
【0062】
具体的に、副室内熱交換器18は、ダクト52内で当該副室内熱交換器18を経由する第1風路と当該副室内熱交換器18を経由しない第2風路とが層をなすように配置されている。これを実現するには、例えば、副室内熱交換器18の脇から室内熱交換器16がダクト52の入口側に露出するように、換言すれば副室内熱交換器18の脇に副室内熱交換器18をバイパスする空気が流れる一定の空間が確保されるように、副室内熱交換器18をダクト52の壁面近くに片寄せて配置してもよい。あるいは、ダクト52における副室内熱交換器18を取り囲む部分の一部を膨らませて、その膨らませた部分に副室内熱交換器18をバイパスする空気を流すようにしてもよい。
【0063】
なお、本実施形態では、ダクト52内に、上記第1風路と上記第2風路とを仕切る仕切り板、および上記第1風路を流れる風量と上記第2風路を流れる風量の比率を調整するダンパが設けられていることが好ましい。
【0064】
このような構成では、冷房運転時には2つの熱交換器16,18で車室内循環空気を冷却することができ、暖房運転時には副室内熱交換器18で車室内循環空気を除湿することができる。なお、車両用空調装置10Bでも、第1実施形態の車両用空調装置10Aと同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0065】
<変形例>
前記実施形態では、副室内熱交換器18がダクト52内で当該副室内熱交換器18を経由する第1風路と当該副室内熱交換器18を経由しない第2風路とが層をなすように配置されている。これに対し、図7に示す変形例の車両用空調装置10Eのように、室内熱交換器16のみをダクト52内で当該室内熱交換器16を経由する第3風路と当該室内熱交換器16を経由しない第4風路とが層をなすように配置することも可能である。
【0066】
あるいは、図示は省略するが、副室内熱交換器18と室内熱交換器16の双方を、第1風路と第2風路とが層をなし、かつ、第3風路と第4風路とが層をなすように配置することも可能である。
【0067】
(その他の実施形態)
前記各実施形態では、切換手段として四方弁12Aが用いられていたが、本発明の切換手段はこれに限られるものではない。例えば、切換手段は、図8(a)に示すような、第1流路21および第7流路27と接続された2つの三方弁121が一対の配管122によってループ状に接続され、それらの配管122に第2流路22および第6流路26が接続された回路12Bであってもよい。あるいは、切換手段は、図8(b)に示すようないわゆるブリッジ回路12Cであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の車両用空調装置は、排熱を有効に活用することができるので、特に電気自動車や燃料電池自動車などの非燃焼系の自動車に有用である。
【符号の説明】
【0069】
10A〜10E 車両用空調装置
11 圧縮機
11a 吸入口
11b 吐出口
12A 四方弁(切換手段)
12B 回路(切換手段)
12C ブリッジ回路(切換手段)
13 室外熱交換器
14 加熱器
15 膨張機構
16 室内熱交換器
18 副室内熱交換器
2 ヒートポンプ回路
21 第1流路(吐出側流路)
22 第2流路(第2室外側流路)
23 第3流路(第1室外側流路)
27 第7流路(吸入側流路)
3 バイパス路
31 第1流量調整弁
32 第2流量調整弁
51 ブロア
52 ダクト
6 制御装置
82 蒸発器温度センサ(着霜用検出手段)
83 吹出温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の冷房および暖房を行う車両用空調装置であって、
冷媒を圧縮する圧縮機、前記車室外の空気と冷媒との熱交換を行う室外熱交換器、冷媒を膨張させる膨張機構、およびダクト内に配置され、ブロワによって前記車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う室内熱交換器を含むヒートポンプ回路と、
前記ヒートポンプ回路に流れる冷媒の流れ方向を、冷房運転時には前記圧縮機から吐出された冷媒が前記室外熱交換器、前記膨張機構および前記室内熱交換器をこの順に通過して前記圧縮機に戻る第1方向に切り換え、暖房運転時には前記圧縮機から吐出された冷媒が前記室内熱交換器、前記膨張機構および前記室外熱交換器をこの順に通過して前記圧縮機に戻る第2方向に切り換える切換手段と、
前記膨張機構と前記室外熱交換器の間に配置され、前記ヒートポンプ回路を流れる冷媒を過熱状態まで加熱可能な加熱器と、
前記ヒートポンプ回路における前記加熱器と前記室外熱交換器の間の第1室外側流路から分岐して、前記ヒートポンプ回路における前記室外熱交換器と前記切換手段の間の第2室外側流路または前記切換手段と前記圧縮機の吸入口の間の吸入側流路につながるバイパス路と、
前記バイパス路に設けられた第1流量調整弁と、
前記第1室外側流路における前記バイパス路が分岐する位置よりも前記室外熱交換器側に設けられた第2流量調整弁と、
を備える車両用空調装置。
【請求項2】
前記室外熱交換器に霜が付着したことを判定するための着霜用検出手段と、
暖房運転時に前記着霜用検出手段の検出値に基づいて前記室外熱交換器に霜が付着したと判定したときに、前記加熱器で過熱された冷媒の一部を前記バイパス路に流しつつ残りを前記室外熱交換器に導く暖房除霜運転を行う制御装置と、
をさらに備える請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記ダクトを通じて前記車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサをさらに備え、
前記制御装置は、前記吹出温度センサで検出される温度が所定の温度となるように前記第1流量調整弁の開度および前記第2流量調整弁の開度を調整する、請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記暖房除霜運転を行う間は、前記第1流量調整弁と前記第2流量調整弁の一方を全開状態に保つ、請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記圧縮機は、電動モータによって駆動されるものであり、
前記制御装置は、前記暖房運転から前記暖房除霜運転に移行したときに、前記電動モータの回転数を大きくする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記ヒートポンプ回路における前記圧縮機の吐出口と前記切換手段の間の吐出側流路には、前記ブロワによって前記車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う副室内熱交換器が設けられており、
前記副室内熱交換器は、前記ダクト内で前記室内熱交換器の風下側に配置されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記吸入側流路には、前記ブロワによって前記車室内に送られる空気と冷媒との熱交換を行う副室内熱交換器が設けられており、
前記副室内熱交換器は、前記ダクト内で前記室内熱交換器の風上側に配置されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記副室内熱交換器は、前記ダクト内で当該副室内熱交換器を経由する第1風路と当該副室内熱交換器を経由しない第2風路とが層をなすように配置されている、請求項6または7に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76589(P2012−76589A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223509(P2010−223509)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】