説明

車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置

【課題】本発明は、シフトスケジュールの設計時間を短縮し、開発コストを抑制しつつ、最小燃費となるシフトスケジュールの設計を容易に行うことのできる車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置を提供する。
【解決手段】三次元燃費曲面形成ブロック(B20)にてドライバ要求出力Preq、車速V及びエンジン燃料消費率φeのそれぞれの軸からなる三次元空間にそれぞれのギヤ段の三次元燃費曲面を形成し、境界線形成ブロック(B22)にて隣り合うギヤ段の三次元燃費曲面の境界に境界線を形成し、最小燃費変速線生成ブロック(B24)にて、ドライバ要求出力Preqの軸及び車速Vの軸からなる二次元空間にそれぞれの境界線を投影し、シフトスケジュールを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置に係り、最小燃費となるシフトスケジュールを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機のシフトスケジュールは、平坦路での走行が最適となるように設定されている。また、登坂路でアップシフトにより駆動力が低下すると、走行抵抗が駆動力を上回ることとなり、車両が減速するので運転者が車両を加速させるべくアクセルを踏み込むとダウンシフトするようにシフトスケジュールが予め設計されている。
しかしながら、アップシフトとダウンシフトを短時間に連続して行うと、シフトハンチングが発生し運転者に違和感を与えることとなる。また、アップシフト後の駆動力により車速が増加すると、駆動力と走行抵抗が共に変化し、やがてある車速に到達すると駆動力が不足しダウンシフトが必要となり、当該車速に到達するまでの時間が短いとシフトハンチングに似たような違和感を運転者に与えることとなる。
【0003】
この様なことから、車速における走行抵抗と、アップシフト後の変速段での最大駆動力とを比較して、走行抵抗の方が小さい場合にのみアップシフトを許可することで、シフトハンチングを防止し、アップシフト後にどの程度の車速まで加速を続けられるかの加速性能を考慮した上でアップシフトを許可し、走行中にシフトハンチングに似たような違和感を運転者に与えることのない技術が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−208194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く、上記特許文献1の自動変速機の変速制御では、予め設計された自動変速機のシフトスケジュールに基づいて、アップシフト及びダウンシフトの変速制御を行っている。
しかしながら、シフトスケジュールの設計には、燃費性能と動力性能の最適化の他に、機構上の制約回避(異常高油温、異常低油圧等)、エンジンの制約回避(対エンスト余裕、対レブカット余裕、排ガス法規)及び車両の振動・騒音の制約回避(こもり音、びびり振動、車外音法規等)を車両の性格に適合させるべく、それぞれをバランス良く考慮する必要がある。
【0006】
この様なことから、有段自動変速機では車速−アクセル要求値に定義された変速線、無段変速機では車速−エンジン回転数における等アクセル要求値線による定義がされている。しかしながら、これらにおいて燃費性能を考えると、ドライバの操作量と車速に対して、エンジンの燃料消費率特性及び駆動軸の伝達効率特性を扱う必要があり、目的関数や制約の問題により複雑化する。故に、最小燃費となるシフトスケジュールの設計には、実車実験でのトライ&エラーによりシフトスケジュールの適正化を行っており、このようにすると、開発に時間が割かれ、開発コストの増加につながることとなり、好ましいことではない。
【0007】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シフトスケジュールの設計時間を短縮し、開発コストを抑制しつつ、最小燃費となるシフトスケジュールの設計を容易に行うことのできる車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置は、車両に搭載される複数のギヤ段数からなる自動変速機のギヤ比と該車両の車速及びタイヤ半径より、該車両に搭載される内燃機関の回転速度であるエンジン回転速度を算出するエンジン回転速度算出手段と、ドライバのアクセルの操作度合であるアクセル要求と前記車速に応じてドライバ要求出力を算出するドライバ要求出力算出手段と、前記ドライバ要求出力と前記自動変速機を含む前記車両に搭載される駆動系部品の伝達効率と該車両の走行路面により変化する出力である補正出力より前記内燃機関の出力であるエンジン出力を算出するエンジン出力算出手段と、前記エンジン回転速度と前記エンジン出力に応じて複数のギヤ段のそれぞれについて該内燃機関の燃料消費率を算出する燃料消費率算出手段と、前記燃料消費率と前記ドライバ要求出力と前記車速に基づき、ギヤの変速時期を示す変速線が最小燃費となる最小燃費変速線を生成する最小燃費変速線生成手段とを備え、前記最小燃費変速線生成手段は、前記燃料消費率の軸と前記ドライバ要求出力の軸と前記車速の軸からなる三次元空間に該燃料消費率と該ドライバ要求出力と該車速より前記複数のギヤ段について三次元燃費曲面をそれぞれ形成し、隣り合うギヤ段の該三次元燃費曲面の境界である境界線をそれぞれに形成し、該形成された境界線を該ドライバ要求出力の軸と該車速の軸からなる平面に直交射影させ最小燃費となる変速線である最小燃費変速線を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、最小燃費変速線生成手段は、燃料消費率とドライバ要求出力と車速をそれぞれ軸とする三次元空間に複数のギヤ段について三次元燃費曲面をそれぞれ形成し、隣り合うギヤ段の三次元燃費曲面の境界に境界線をそれぞれ形成し、ドライバ要求出力と車速をそれぞれ軸とする平面に境界線を直交射影させ最小燃費となる変速線である最小燃費変速線を生成するようにしている。
【0010】
このように、燃料消費率マップとドライバ要求出力とを統一して扱っているので最小燃費である変速線を容易に生成することができる。
従って、シミュレーションによって、最小燃費となるシフトスケジュールを設計することができるので、設計時間を短縮し、開発コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置の全体構成を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明に係るエンジン回転速度とエンジン出力におけるエンジンの燃費性能を示すマップである。
【図3】本発明に係るシフトスケジュール生成の概念図である。
【図4】本発明に係る車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置にて生成されるシフトスケジュールの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置は、車両用自動変速機のシフトスケジュールを生成するものであって、例えば車両及びエンジン(内燃機関)の諸条件を入力することにより最小燃費となるシフトスケジュールを生成するように構成されている。
【0013】
図1は、本発明に係る車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置の全体構成を示す制御ブロック図であり、図2は、予めエンジンの性能試験で決定されるエンジン回転速度とエンジン出力におけるエンジンの燃費性能を示すマップである。図3は、シフトスケジュール生成の概念図であり、図中の細線は各ギヤ段の三次元燃費曲面を、太破線は各ギヤ段の三次元燃費曲面の境界線を、一点鎖線は変速線を示す。また、図4は、生成されたシフトスケジュールの一例を示す図であり、図中の太実線は変速線を、細実線は燃費線を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明に係る車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置には、自動変速機のギヤ比i、車両のタイヤ外径rt、車速V、ドライバのアクセルの操作度合であるアクセル要求信号θaps、車両の走行路面状況により変化する出力である補正パワー(補正出力)Pveh及び自動変速機を含む車両に搭載される駆動系部品の伝達効率ηtm(クラッチのすべりやトルクコンバータのすべり等の損失も含む)が入力され、これらの入力条件に基づき、最小燃費となるシフトスケジュールが生成され、出力される。
【0015】
詳細は、同図に示すようにギヤ比i、タイヤ外径rt及び車速Vに基づきエンジン回転速度算出ブロック(エンジン回転速度算出手段)B10において、下記式(1)より、エンジン回転速度ωeが算出される。
【0016】
【数1】

【0017】
また、下記式(2)に示す通り、ドライバ要求出力Preqは、車速V及びアクセル要求信号θapsの関数fpreqと定義されており、予めマップ化(ドライバ要求出力マップ)され、ドライバ要求出力算出ブロック(ドライバ要求出力算出手段)B12に入力される車速Vとアクセル要求信号θapsに応じて、ドライバ要求出力算出ブロックB12にて、ドライバ要求出力Preqが算出される。
【0018】
【数2】

【0019】
また、エンジン出力算出ブロック(エンジン出力算出手段)B14に入力される補正パワーPveh、伝達効率ηtm及びドライバ要求出力算出ブロックB12にて算出されたドライバ要求出力Preqに基づいて、エンジン出力算出ブロックB14にて、下記式(3)よりエンジン出力Peが算出される。
【0020】
【数3】

【0021】
また、下記式(4)に示す通り、エンジン燃料消費率φeは、エンジン出力Peとエンジン回転速度ωeの関数fφと定義されており、エンジンの性能試験により決定され、図2に示すように予めマップ化(燃料消費率マップ)されている。エンジン回転速度ブロックB10にて算出されたエンジン回転速度ωeとエンジン出力算出ブロックB14にて算出されたエンジン出力Peより、当該マップに基づき、エンジン燃料消費率算出ブロック(燃料消費率算出手段)B16にて、エンジン燃料消費率φeが算出される。
【0022】
【数4】

【0023】
また、車両燃料消費率算出ブロック(最小燃費変速線生成手段)B18に入力されるエンジン燃料消費率φe及び伝達効率ηtmに基づいて、車両燃料消費率算出ブロックB18にて、下記式(5)より車両燃料消費率φvが算出される。
【0024】
【数5】

【0025】
また、図3に示すようにドライバ要求出力Preqの軸、車速Vの軸及びエンジン燃料消費率φeの軸からなる三次元空間に、上記式(5)からなる下記式(6)に基づいて、三次元燃費曲面形成ブロック(最小燃費変速線生成手段)B20にて、それぞれのギヤ段の三次元燃費曲面が形成される。
【0026】
【数6】

【0027】
また、三次元燃費曲面形成ブロックB20にて形成されたそれぞれのギヤ段の三次元燃費曲面より、境界線形成ブロック(最小燃費変速線生成手段)B22にて、隣り合うギヤ段(例えば、1段目と2段目、2段目と3段目等)の当該三次元燃費曲面の境界に境界線が形成される。
そして、図3に示すように境界線形成ブロックB22にて形成されたそれぞれの境界線より、最小燃費変速線生成ブロック(最小燃費変速線生成手段)B24にて、ドライバ要求出力Preqの軸及び車速Vの軸からなる二次元空間(平面)にそれぞれの境界線が投影(直交射影)され、各ギヤ段の変速線を生成し、図4に示すようなシフトスケジュール(最小燃費変速線)が生成される。
【0028】
このように、本発明の車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置では、燃料消費率マップとドライバ要求出力Peとを統一して扱い、シフトスケジュールの生成が行われる。
よって、燃料消費率マップとドライバ要求出力Peとを統一して扱っているので、最小燃費となるシフトスケジュールを容易に生成することができる。
【0029】
また、シミュレーションによって、最小燃費となるシフトスケジュールを設計することができるので、設計時間を短縮し、開発コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0030】
B10 エンジン回転速度算出ブロック(エンジン回転速度算出手段)
B12 ドライバ要求出力算出ブロック(ドライバ要求出力算出手段)
B14 エンジン出力算出ブロック(エンジン出力算出手段)
B16 エンジン燃料消費率算出ブロック(エンジン燃料消費率算出手段)
B18 車両燃料消費率算出ブロック(車両燃料消費率算出手段)
B20 三次元燃費曲面形成ブロック(最小燃費変速線生成手段)
B22 境界線形成ブロック(最小燃費変速線生成手段)
B24 最小燃費変速線生成手段(最小燃費変速線生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される複数のギヤ段数からなる自動変速機のギヤ比と該車両の車速及びタイヤ半径より、該車両に搭載される内燃機関の回転速度であるエンジン回転速度を算出するエンジン回転速度算出手段と、
ドライバのアクセルの操作度合であるアクセル要求と前記車速に応じてドライバ要求出力を算出するドライバ要求出力算出手段と、
前記ドライバ要求出力と前記自動変速機を含む前記車両に搭載される駆動系部品の伝達効率と該車両の走行路面により変化する出力である補正出力より前記内燃機関の出力であるエンジン出力を算出するエンジン出力算出手段と、
前記エンジン回転速度と前記エンジン出力に応じて複数のギヤ段のそれぞれについて該内燃機関の燃料消費率を算出する燃料消費率算出手段と、
前記燃料消費率と前記ドライバ要求出力と前記車速に基づき、ギヤの変速時期を示す変速線が最小燃費となる最小燃費変速線を生成する最小燃費変速線生成手段とを備え、
前記最小燃費変速線生成手段は、前記燃料消費率の軸と前記ドライバ要求出力の軸と前記車速の軸からなる三次元空間に該燃料消費率と該ドライバ要求出力と該車速より前記複数のギヤ段について三次元燃費曲面をそれぞれ形成し、隣り合うギヤ段の該三次元燃費曲面の境界である境界線をそれぞれに形成し、該形成された境界線を該ドライバ要求出力の軸と該車速の軸からなる平面に直交射影させ最小燃費となる変速線である最小燃費変速線を生成することを特徴とする車両用自動変速機のシフトスケジュール生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−241898(P2011−241898A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114520(P2010−114520)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】