説明

車両用補助電源装置

【課題】装置としての出力電力の変動を抑えられる車両用補助電源装置を提供する。
【解決手段】実施の形態の車両用補助電源装置は、架線からの直流電力を3相交流電力に変換するインバータ3と、インバータの交流側に接続された交流LCフィルタ4,5と、インバータの交流側の電流を検出するインバータ出力電流検出手段10と、交流LCフィルタの出力電圧を検出する出力電圧検出手段12と、インバータ制御装置8を備え、インバータ制御装置8は、インバータの交流側の電圧を検出するインバータ出力電圧検出手段811と、インバータの出力電力を演算するインバータ電力演算手段812と、出力電圧検出手段12で検出した出力電圧の振幅を一定に保ちながら、インバータ電力演算手段で計算されたインバータ3の出力電力の変化を抑えるように制御する電力変化量制御手段814とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、車両用補助電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用補助電源装置(SIV)の目的は、車両に安定な電力を供給することである。従って、あらゆる負荷条件の中で、出力電圧の振幅を一定に保つことが理想的である。ところが、脈動負荷である空調用コンプレッサの振動によるエネルギーは、インバータの直流側の入力電流の振動として現れ、誘導障害を引き起こす問題点がある。この入力電流の振動は、場合によっては系を不安定にし、補助電源装置の電力にて点灯する蛍光灯のちらつき、また電流トリップなどの問題を引き起こすことがある。
【0003】
このような問題を解決する技術としては、特開平4−340369号公報(特許文献1)、特開2006−325326号公報(特許文献2)に記載されたものが知られている。特許文献1では、負荷の脈動との逆位相の電圧制御信号を生成してインバータに与えることで、蛍光灯のちらつきを防止する。この方法では、負荷の脈動による振動エネルギーを交流側で吸収することによって直流側の振動を抑える。その結果、系の安定度が高くなり、蛍光灯がちらつきにくくなる。しかし、蛍光灯のちらつきの要因は、出力電圧の変動である。特許文献1の技術の場合、電圧指令値に脈動を与える結果として、出力電圧のレベルを一定に保つことができなくなり、負荷の脈動がある程度大きくなると蛍光灯のちらつきが発生することが避けられない。
【0004】
特許文献2では、出力電圧の振幅ではなく、出力電流の無効分に応じて周波数を変化させる制御をする。これは、誘導機負荷である空調のコンプレッサのすべりが変わり、電力の変動を抑え、出力電圧を一定に保ちながら直流側の変動を抑えることを目的とする。しかし、無効電流を単純にフィルタに通して位相を調整することは、電力を抑える保証とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−340369号公報
【特許文献2】特開2006−325326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、インバータの出力電圧の振幅を一定に保ちながら、インバータの入出力の電力のバランスを考慮し、結果として装置の出力電力の変動を抑えることができる車両用の補助電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態の1つの特徴は、架線から供給される直流電力を3相交流電力に変換するインバータと、前記インバータの交流側に接続された交流LCフィルタと、前記インバータの交流側の電流を検出するインバータ出力電流検出手段と、前記交流LCフィルタの出力電圧を検出する出力電圧検出手段と、前記インバータの交流側の電圧を検出するインバータ出力電圧検出手段と、前記インバータの出力電力を演算するインバータ電力演算手段と、前記出力電圧検出手段で検出した出力電圧の振幅を一定に保ちながら、前記インバータ電力演算手段で計算された前記インバータの出力電力の変化を抑えるように制御する電力変化量制御手段とを備えた車両用補助電源装置である。
【0008】
実施の形態の別の特徴は、架線から供給される直流電力を3相交流電力に変換するインバータと、前記インバータの交流側の電流を検出するインバータ出力電流検出手段と、前記インバータの交流側の電圧を検出するインバータ出力電圧検出手段と、前記インバータの出力電力を演算するインバータ電力演算手段と、前記インバータの入力側の減衰特性を改善する理想入力電力を有し、前記インバータ出力電圧検出手段で検出したインバータ出力電圧の振幅を一定に保ちながら、前記インバータ電力演算手段で計算された前記インバータの出力電力の変化を抑えるように制御する電力変化量制御手段とを備えた車両用補助電源装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態の車両用補助電源装置の回路図。
【図2】第1の実施の形態の車両用補助電源装置における制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1の実施の形態における制御装置による電力変動抑制制御の説明図。
【図4】第2の実施の形態の車両用補助電源装置における制御装置の制御ブロック図。
【図5】第3の実施の形態の車両用補助電源装置における制御装置の制御ブロック図。
【図6】第3の実施の形態に車両用補助電源装置の等価回路。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態の車両用補助電源装置の構成を示している。図1において、1はフィルタリアクトル、2はフィルタコンデンサ、3は架線の直流電力を交流電力に変換して出力するインバータ、4u,4v,4wは各相の交流リアクトル、5u,5v,5wは各相間に挿入された交流コンデンサ、6はインバータ出力を変圧する変圧器、7は蛍光灯、空調機等の負荷、8はインバータ3を制御する制御装置である。
【0012】
さらに、9はフィルタコンデンサ2の直流電圧Vdcを検出する電圧センサ、10u,10wはインバータ3の出力交流電流Iacu,Iacwを検出する電流センサ、11u,11wは5u,5v,5wに流れる交流コンデンサ電流Icu,Icwを検出する電流センサ、12u,12wは変圧器6から負荷に出力される各相間の交流電圧Vouv,Vovwを検出する電圧センサである。
【0013】
制御装置8は、フィルタコンデンサ電圧Vdc、インバータ出力電流Iacu,Iacw、出力電圧Vouv,Vovw、交流コンデンサ電流Icu,Icvに基づいてゲート信号を算出し、インバータ3を制御する。
【0014】
この制御装置8の詳細な構成を図2に示す。図2の制御装置8において、800は相間電圧Vouv,Vovwから相電圧Vou,Vowを得る相電圧変換部、801は電圧制御部、802は電流制御部、803は変調率演算部、804は2軸3軸座標変換部、805はゲート信号演算部、806は3軸2軸座標変換部、807は3軸2軸座標変換部、808はローパスフィルタ(LPF)、809は積分演算部、810は電力変化量演算部である。
【0015】
そして、この電力変化量演算部810において、811はインバータ出力電圧演算部、812は有効電力演算部、813はハイパスフィルタ(HPF)、814は有効電力制御部、815は加算器である。
【0016】
この制御装置8では、回転座標(dq座標)で制御を行うため、各相出力電圧Vouv,Vovw及び交流コンデンサ電流Icu,Icwをそれぞれ3軸2軸座標変換部806,807で回転座標に変換する。その変換した電圧信号Vod,Voqを電圧制御部801に入力し、変換した電流信号Icd,Icqを電流制御部802に入力する。電圧制御部801では、変換した電圧信号Vod,Voqを電圧指令値Vdref,Vqrefと比較して電流指令値Idref,Iqrefを求めて電流制御部802に対して出力する。電流制御部802では、変換した電流信号Icd,Icqを電流指令値Idref,Iqrefと比較し、制御後電圧指令値Vd*,Vq*を計算する。
【0017】
その後、制御装置8の変調率演算部803にて、制御後電圧指令値Vd*,Vq*のLPF808から入力される直流電圧VdcFに対する変調率VdAL,VqALを演算して、2軸3軸変換部804に出力する。この2軸3軸座標変換部804では、後述の電力変化量制御部810が計算した位相φにより2軸3軸変換して3軸電圧指令Vu,Vv,Vwを求め、ゲート信号演算部805に出力する。ゲート信号演算部805では、ゲート信号を計算して出力する。
【0018】
本実施の形態の特徴は、電力変化量制御部810の制御手法にあり、出力電圧の振幅を一定に保ちながら直流側の入力電流の振動を抑える制御をする。この制御の原理を、図3を用いて説明する。
【0019】
交流側の電力Pacは、(1)式に示すようにインバータ出力電圧ベクトルVacとインバータ出力電流ベクトルIacの内積で決める。
【数1】

【0020】
ただし、φをこれらの電流、電圧ベクトルの位相差である。
【0021】
蛍光灯のちらつきを防止するために、出力電圧ベクトルの大きさを一定に保つ必要がある。空調のコンプレッサなどの脈動負荷の影響で、インバータの出力電流ベクトルの大きさと位相が変動する。その結果、インバータの交流側の電力が変動してしまう。その電力の変動は直流側へ伝わり、入力電流の振動となって誘導障害を引き起こす。
【0022】
そこで出力電圧ベクトルを一定に保つべく、以下の制御を行う。インバータ出力電流ベクトルVacの変化に応じて、電力ベクトルPacの変化量を抑えるように位相差φを変える制御をする。本実施の形態では、この制御を電力変化量制御部810により実行する。
【0023】
まず、インバータ電圧演算部811にて相出力電圧Vou,Vowから各相のインバータ出力電圧Vacu,Vacwを計算する。そして電力演算部812にて、この各相のインバータ出力電圧Vacu,Vacwと各相のインバータ出力電流Iacu,Iacwとから電力を計算する。その計算式は(2)式で計算する
【数2】

【0024】
ただし、
【数3】

【0025】
次にハイパスフィルタ(HPF)813を用いて計算された電力の変動Pac’を抽出し、有効電力制御部814で電力がゼロになるように位相差φを計算する。この演算は、PIまたはPIDで行う。計算された位相差φは加算器815にてインバータ3の位相θと加算し、2軸3軸座標変換部804に入力する。
【0026】
制御装置8の2軸3軸座標変換部804では、このθ+φを用いて、三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwを計算する。そして、ゲート信号演算部805はこれらの信号に基づいてゲート信号を計算し、インバータ制御を行う。
【0027】
このようにして本実施の形態の補助電源装置によれば、電力変化量制御部810にて、インバータ出力電圧ベクトルVacの変化に応じて電力ベクトルPacの変化量を抑えるように位相差φを変える制御をする。これにより、出力電圧ベクトルを一定に保つことができ、空調機のコンプレッサなどの脈動負荷の影響でインバータ3の出力電流ベクトルの大きさと位相が変動するような場合にも、インバータ3の交流側の電力変動を抑えることができる。この結果、インバータ3の交流側の電力変動に起因していた蛍光灯のちらつきを防止することができる。
【0028】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態の車両用補助電源装置について、図4を用いて説明する。本実施の形態の車両用補助電源装置の全体的な構成は第1の実施の形態と同様であり、図1に示すものである。そして、制御装置8の構成も第1の実施の形態におけるものと同様であるが、電力変化量制御部810Aの構成において若干の変更がある。第1の実施の形態の場合、電力変化量制御部810にはハイパスフィルタ(HPF)813を用いたが、本実施の形態の場合、このHPF813の代わりにバンドパスフィルタ(BPF)813Aを用いている。その他の構成は、第1の実施の形態と共通である。
【0029】
本実施の形態における制御装置8における電力変化量制御部810Aでは、BPF813Aにより電力変化量の特定の周波数帯の成分を抽出する。そして第1の実施の形態と同様に、直流側のフィルタリアクトル1とフィルタコンデンサ2による共振周波数成分周辺だけの電力の変動を抑える制御をする。これにより、他の周波数領域の応答性を変えずに、直流側の変動を抑えることができる。
【0030】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態の車両用補助電源装置について、図5を用いて説明する。本実施の形態の場合、制御装置8における電力制御演算部810Bが、第1の実施の形態における電力変化量制御部810のように電力変化量を抑える制御をするのではなく、直流側の減衰特性を改善するように電力制御することを特徴とする。図5において、図2に示した第1の実施の形態の構成要素と共通するものには同一の符号を付して示してある。
【0031】
本実施の形態における電力制御の原理を以下説明する。
【0032】
まず、インバータの入出力がバランスするため、
【数4】

【0033】
直流側の電力Pdcおよび交流側の電力Pacは次のように計算できる。
【数5】

【数6】

【0034】
車両用補助電源装置の目的は、出力電圧を一定にするため、負荷変動がない状態では、定電力特性が強い。(4)式からわかるように、インバータ入力電圧Vdcが低下すると、電力を一定にするためにインバータ入力電流Idcが増える。従って、補助電源装置のインバータ3は非線形特性をもつ。これを解析するために、(4)式をPdc0、Vdc0周辺で線形化する。
【数7】

【0035】
(6)式の右辺第一項は出力による電流、第二項は電圧変動による電流と考えられる。また、第二項は、電圧から電流への関係をもつため、その係数は抵抗相当である。
【数8】

【0036】
(7)式からわかるように、この抵抗は負の値をもつので補助電源装置の安定度を悪化させる。特に出力が大きい(負荷が大きい)、またはインバータ入力が低下したときに不安定になりやすい。これを解決するため、(6)式の第一項である出力電流を適切に操作して振動を抑える必要がある。
【0037】
図6は、補助電源装置の等価回路を示している。図6において、入力電圧Es、入力電流Isまでの伝達関数は、
【数9】

【0038】
安定化条件は、(8)式の右辺の分母のすべての係数が正になることである。つまり、次の(9)式、(10)式の条件を満たす等価負荷の抵抗RxとLxを計算する必要がある。
【数10】

【0039】
等価負荷の抵抗分は出力電力から計算できる。
【数11】

【0040】
すると安定化条件は次のようになる。
【数12】

【0041】
等価負荷が、
【数13】

【0042】
になるような入力側の等価出力電流Iac’は、
【数14】

【0043】
である。その電力は、
【数15】

【0044】
である。これを電力制御部814の入力とし、実の電力Pacが理想の入力電力と一致するように、出力電圧ベクトルを一定に保ちながら電流ベクトルとの位相差φを変える。
【0045】
これにより、本実施の形態によれば、制御装置8における電力制御演算部810Bが直流側の減衰特性を改善するように電力制御することにより、出力電力ベクトルを一定に保つことができる。
【0046】
上記のように本発明の各実施の形態によれば、インバータの出力電圧の振幅を一定に保ちながら、インバータの入出力の電力のバランスを考慮し、結果として電源装置の出力電力の変動を抑えることができる。
【0047】
尚、本発明は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の構成要素の変形、組み合わせの変更、さらには削除が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:フィルタリアクトル
2:フィルタコンデンサ
3:インバータ
4u,4v,4w:交流リアクトル
5u,5v,5w:交流コンデンサ
6:変圧器
7:負荷
8:制御装置
9:電圧センサ(フィルタコンデンサ電圧用)
10u,10w:電流センサ(インバータ出力電流用)
11u,11w:電流センサ(交流コンデンサ電流用)
12u,12w:電圧センサ(出力電流用)
800:相電圧変換部
801:電圧制御部
802:電流制御部
803:変調率演算部
804:座標変換部
805:ゲート信号演算部
806:座標変換部
807:座標変換部
808:ローパスフィルタ(LPF)
808A:バンドパスフィルタ(BPF)
809:積分演算部
810,810A,810B:電力変化量演算部
811:インバータ出力電圧演算部
812:電力演算部
813:ハイパスフィルタ(HPF)
814:電力制御部
815:加算器
816:減衰特性演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線から供給される直流電力を3相交流電力に変換するインバータと、
前記インバータの交流側に接続された交流LCフィルタと
前記インバータの交流側の電流を検出するインバータ出力電流検出手段と、
前記交流LCフィルタの出力電圧を検出する出力電圧検出手段と、
前記インバータの交流側の電圧を検出するインバータ出力電圧検出手段と、
前記インバータの出力電力を演算するインバータ電力演算手段と、
前記出力電圧検出手段で検出した出力電圧の振幅を一定に保ちながら、前記インバータ電力演算手段で計算された前記インバータの出力電力の変化を抑えるように制御する電力変化量制御手段とを備えたことを特徴とする車両用補助電源装置。
【請求項2】
前記インバータ電力演算手段の出力するインバータの出力電力の変化量を抽出して前記電力変化量制御手段に出力するハイパスフィルタを備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用補助電源装置。
【請求項3】
前記インバータ電力演算手段の出力するインバータの出力電力の変化量を抽出して前記電力変化量制御手段に出力するバンドパスフィルタを備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用補助電源装置。
【請求項4】
架線から供給される直流電力を3相交流電力に変換するインバータと、
前記インバータの交流側の電流を検出するインバータ出力電流検出手段と、
前記インバータの交流側の電圧を検出するインバータ出力電圧検出手段と、
前記インバータの出力電力を演算するインバータ電力演算手段と、
前記インバータの入力側の減衰特性を改善する理想入力電力を有し、
前記インバータ出力電圧検出手段で検出したインバータ出力電圧の振幅を一定に保ちながら、前記インバータ電力演算手段で計算された前記インバータの出力電力の変化を抑えるように制御する電力変化量制御手段とを備えたことを特徴とする車両用補助電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−39753(P2012−39753A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177517(P2010−177517)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】