説明

車両用走行支援装置

【課題】 さまざまな走行環境に適応した高精度な危険度の推定を実現し、もって信頼性の高い車両用走行支援装置を提供すること。
【解決手段】 撮像手段により車両前方の像を撮像し、その画像データを道路領域、路側帯領域、上空領域に分割する(S1)。分割された領域ごとに、領域に応じた観点の危険度を判定する(S2〜S10)。そして、判定された各危険度を、前記観点に応じた重み付け係数を用いて重み付け加算することで総合危険度を判定し(S11)、判定された前記総合危険度に基づき乗員に危険を報知する(S12)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突回避を支援する車両用走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、危険な場面を検出して運転者に報知することで事故を未然に防ぐ技術が提案されている。キーポイントは、危険な場面をいかに精度よく検出するかである。一般には、車両前方の画像を撮像手段により撮影し、その画像を解析することで危険場面を特定することが行われる。たとえば特許文献1は、撮影した車両前方の画像から道路端および垂直線分を検出し、道路端と垂直線分とが交わる部分を危険場面と判断し、これをドライバーに報知する技術を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−252550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、撮影した画像による危険場面の検出は、外観環境の影響を受けやすいため依然として精度がよくないという問題があり、精度のより一層の向上が求められている。本発明は、撮影した画像に対する解析手法を改良するものであり、これによりさまざまな走行環境に適応した高精度な危険度の推定を実現し、もって信頼性の高い車両用走行支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る車両用走行支援装置は、車両前方の像を撮像して画像データを出力する撮像手段と、出力された前記画像データを道路領域、路側帯領域、上空領域に分割する画像分割手段と、分割された領域ごとに、領域に応じた観点の危険度を判定する領域別危険度判定手段と、判定された各危険度を、前記観点に応じた重み付け係数を用いて重み付け加算することで総合危険度を判定する総合危険度判定手段と、判定された前記総合危険度に基づき乗員に危険を報知する報知手段とを有することを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、撮像手段により得られた車両前方の画像データが道路領域、路側帯領域、上空領域に分割され、それぞれの領域に応じた観点の危険度が判定される。これによって、さまざまな観点からの危険度を高精度に求めることができる。さらに、これらの危険度は前記観点に応じた重み付け係数を用いて重み付け加算されて総合危険度が求められ、これが乗員に報知される。これにより、予想される被害の大きさに応じて各危険度の軽重を付けたうえで総合的な危険度を算出することができ、実際的な危険度を、乗員に理解しやすいかたちで報知することができる。
【0007】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記上空領域の平均輝度およびその変化率を算出する手段と、算出した前記平均輝度およびその変化率に基づき車両前方の視認性に関する危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0008】
この構成によれば、走行時の日照状態に応じた危険度を推定することができる。このため、ドライバーの視界が十分に確保されなくなるような日照条件の急激な変化が訪れる前の段階でドライバーに注意を喚起することが可能になる。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記画像データのうち前記上空領域が占める割合を算出する手段と、算出した前記割合に基づき道路勾配に関する危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、走行路の勾配またはその変化に起因する潜在的な危険度を効果的に推定でき、ドライバーにこれについての注意を喚起することができる。
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における走行車線数および脇道の有無を推定する手段と、自車速度を計測する手段と、推定した前記走行車線数および脇道の有無と、計測した前記自車速度とに基づき、追突の危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、他車両や歩行者などの潜在的な飛び出しの危険を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0013】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における対向車の位置および速度を検出する手段と、自車速度を計測する手段と、検出した前記対向車の位置および速度と計測した前記自車速度とに基づき、前記対向車との衝突の危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、対向車との衝突の危険度を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における駐車車両を検出する手段と、前記駐車車両が検出された場合において、前記駐車車両付近の横断歩道を検出する手段と、自車速度を計測する手段と、前記駐車車両の有無および前記横断歩道の有無と、計測した前記自車速度とに基づき、前記駐車車両の陰からの歩行者の飛び出しの危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、駐車車両の陰からの歩行者などの飛び出しの危険を、その駐車車両付近の横断歩道の存否や自車速度を考慮して効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0017】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における道路の前方の曲率を算出する手段と、自車速度を計測する手段と、算出した前記曲率と計測した前記自車速度とに基づき、オーバーランの危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、走行中の車線をオーバーランする危険を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における車線境界線を検出する手段と、検出した前記車線境界線に基づき車線の解析を行う手段と、前記車線の解析の結果に基づき車線の分岐による判断誤りの危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0020】
この構成によれば、ドライバーが判断ミスを犯しやすい走行車線の分岐における危険度を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0021】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記道路領域における車線境界線のエッジ強度を算出する手段と、算出した前記エッジ強度に基づき、車線境界線の不在もしくは劣化による自車線の視認性悪化に関する危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、車線の不在、劣化による自車線の視認性悪化に関する危険度を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【0023】
本発明の好適な実施形態によれば、前記領域別危険度判定手段は、前記路側帯領域におけるエッジ強度を算出する手段と、算出した前記エッジ強度に基づき他車両または歩行者の飛び出しの危険度を判定する手段とを含むことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、路側帯領域における構造物の存在による見通しの悪さからくる歩行者などの飛び出しの危険度を効果的に推定でき、これをドライバーに報知することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、改良された撮影画像の解析手法によって、さまざまな走行環境に適応した高精度な危険度の推定が実現され、もって信頼性の高い車両用走行支援装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決手段として必須のものであるとは限らない。
【0027】
図1は、本実施形態における走行支援装置の車両への配置構成を示す図、図2は、本実施形態における走行支援装置のハードウェア構成を示す図である。
【0028】
1はブレーキを作動させるブレーキアクチュエータ、2は自車速度を計測するための車速センサである。3はたとえばウインドシールドの後方に設けられ、車両前方の像を撮像し画像データを出力する画像センサである。この画像センサはたとえばCCDカメラで構成される。もちろん、CCDカメラのかわりに、CMOSカメラ、赤外線カメラなどで構成してもよい。4は警報装置であり、画像および音声出力機能を備えている。10はこの走行支援装置の制御を司る制御ユニットである。図2に示されるように、上記の各ユニットはこの制御ユニット10に接続される。
【0029】
また、図2に示されるように、制御ユニット1は、CPU11、RAM12、ROM13を基本構成とするコンピュータである。ROM13には、図示のように本発明の走行支援装置を実現するための制御プログラム13aが記憶されている。
【0030】
図3は、本実施形態における走行支援装置の処理内容を示すフローチャートである。このフローチャートに対応するプログラムは制御プログラム13aに含まれ、CPU11によって実行されるものである。
【0031】
まず、ステップS1では、図4に示すように、画像センサ3より得られた車両前方の画像データ40を、道路領域41、路側帯領域42,42、上空領域43の3つの領域に分割する。
【0032】
道路領域41は、車線境界線認識、ガードレール認識などの公知の画像認識技術を利用することにより特定することができる。たとえば、車線境界線認識により認識された両端の車線境界線に挟まれた領域を道路領域41とする。また、たとえば、道路領域41の端部の車線境界線41aの消失点を含む水平線42aを軸として車線境界線41aを反転させて得た直線42bと、車線境界線41aとで囲まれる領域を、路側帯領域42とする。また、道路領域41および路側帯領域42以外の領域を上空領域43とする。
【0033】
以下のステップでは、ステップS1で分割された領域ごとに、その領域に応じた観点(危険要素)の危険度を判定する。このうち、ステップS2〜S7では、道路領域から各種の危険度を判定する。ステップS8では、路側帯領域から危険度を判定する。また、ステップS9およびS10では、上空領域から危険度を推定する。以下ではそれぞれ、危険度の推定値として、危険度の低い順に、危険度0,1,2,…,10を求めることとする。そしてステップS11では、ステップS2〜S10で求められた各危険度に基づき総合危険度を算出し、ステップS12では、算出した総合危険度に応じた警報出力を行う。
【0034】
<A.道路領域からの危険度推定>
(ステップS2:追突危険度の推定)
ステップS2では、飛び出してきた他車両や歩行者などに追突する危険度(追突危険度)の推定を行う。一般的には、図5の(a)に示すように、複数車線道路で、しかも脇道もない状況では、他車両が隣接車線から急に車線変更してくる危険はあるが、その危険度としては低いものであろう。一方、同図(b)に示すように、単線道路で、かつ脇道がある場合には、脇道から他車両等が飛び出してくる危険があり、その危険度は(a)よりは高いものと考えられる。また、同図(c)に示すように、複数車線道路で、かつ脇道がある場合には、脇道から他車両等が飛び出してくる危険だけでなく、他車両が隣接車線から急に車線変更してくる危険もある。したがってこのような状況では危険度は高いものと考えられる。
【0035】
図6は、以上のような観点からの追突危険度の推定処理を示すフローチャートである。
【0036】
まず、ステップS21で、たとえば公知の車線境界線認識により車線数および脇道の認識を行う。つぎにステップS22で、ステップS21で得られた結果より、現在走行中の道路が複数車線か、または脇道があるかを判断する。ここで、単線道路で脇道もない場合には、ステップS23に進み、最低レベルの危険度0と推定する。
【0037】
その他の場合にはステップS24に進み、走行車線数、脇道の有無、および車速センサ2を用いて検出される自車速度の関係に応じて危険度を推定する。たとえば、走行車線は複数あるが脇道はない場合で、しかも自車速度が所定値(たとえば、20km/h)より遅い場合(ステップS25a)には、危険度1と推定する(ステップS25b)。一方、走行車線が複数で、脇道があり、しかも自車速度が所定値(たとえば、40km/h)より速い場合(ステップS27a)には、最高レベルの危険度10と推定する。また、これ以外の場合(ステップS26a)は、具体例は省略するが、走行車線数、脇道の有無、および自車速度の組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定する(ステップS26b)。
【0038】
(ステップS3:対向車との衝突危険度推定)
ステップS3では、対向車両との衝突の危険度を推定する。図7は、このステップS3における対向車との衝突危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0039】
一般には、右折待ちの対向車両が存在する場合、この対向車両が無理なタイミングで右折をしてきて衝突するのは典型的な衝突事故パターンの一つである。したがって対向車両が右折待ちをしている場合は危険度は高いと推定されるべきである。そこで本実施形態では、まず、ステップS31で画像データ40のうち道路領域41内の車両認識によって対向車両の検出を行い、ステップS32でその対向車両の位置および速度を検出した後、ステップS33で、その対向車両が右折待ち状態であるか否かを判定する。たとえば、対向車両が右ウインカーを点滅させながらセンターライン付近にて停止していることが検出された場合には、その対向車両は右折待ち状態であると判定する。ここで対向車両が右折待ち状態であると判定された場合には、危険度を、最高レベルの危険度10と推定する。
【0040】
対向車両は右折待ち状態ではないと判定された場合には、ステップS35に進み、道路線形情報を取得する。道路線形とは具体的には道路の曲率をいう。これはたとえば、画像データ40に対して車線境界線認識を行い、この車線境界線の曲率を算出するとよい。そして、ステップS36に進み、車両認識によって算出される自車と横の車両(対向車両)との間の距離、自車との相対速度、道路線形(曲率)とに基づいて危険度を推定する。たとえば、横の車両との間隔が所定値(たとえば、3m)より広く、相対速度が所定値(たとえば、30km/h)より遅く、かつ、道路の曲率半径が所定値より大きい(すなわち、道路のカーブがゆるい)場合(ステップS37a)には、危険度1と推定する(ステップS37b)。一方、横の車両との間隔が所定値(たとえば、2m)より狭く、相対速度が所定値(たとえば、50km/h)より速く、かつ、道路の曲率半径が所定値より小さい(すなわち、道路のカーブがきつい)場合(ステップS39a)には、最高レベルの危険度10と推定する(ステップS39b)。また、これ以外の場合(ステップS38a)は、横の車両間隔、相対速度、および曲率半径の組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定する(ステップS38b)。
【0041】
(ステップS4:駐車車両の陰からの飛び出し危険度推定)
ステップS4では、駐車車両の陰からの飛び出し危険度を推定する。図8は、このステップS4における飛び出し危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0042】
まず、ステップS41で、画像データ40のうち道路領域41内の車両認識によって車両を検出し、ステップS42で、その検出した車両の位置および相対速度を検出する。その後、ステップS43で、その車両の位置および相対速度に基づきその車両は駐車車両か否かを判定する。たとえば、検出した車両が道路左端の車線境界線と重なる位置で停止している場合にはその車両は駐車車両と判定する。その車両が駐車車両ではないと判定されたときは、その車両は、単に停止した先行車両であると判断されることになる(ステップS44)。
【0043】
ステップS43で対象車両が駐車車両であると判定されたときは、ステップS45に進み、たとえば車線境界線認識を利用して、その駐車車両付近に横断歩道があるかどうかを判定する。
【0044】
次に、ステップS46で、上記横断歩道の有無と、車速センサ2を用いて検出される自車速度とに基づいて、駐車車両の陰からの歩行者の飛び出しの危険度を推定する。たとえば、駐車車両付近には横断歩道はなく、しかも自車速度が所定値(たとえば、20km/h)より遅い場合(ステップS47a)には、危険度1と推定する(ステップS47b)。一方、駐車車両の付近に横断歩道があり、自車速度が所定値(たとえば、40km/h)より速い場合(ステップS49a)には、最高レベルの危険度10と推定する(ステップS49b)。これは、駐車車両の向こう側に横断歩道がある場合には、駐車車両の陰から歩行者が出てくる可能性がきわめて高いからである。また、これ以外の場合(ステップS48a)は、駐車車両付近の横断歩道の有無および自車速度の組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定する(ステップS48b)。
【0045】
(ステップS5:オーバーラン危険度推定)
ステップS5では、走行中の車線をオーバーランする危険度を推定する。図9は、このステップS5におけるオーバーラン危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0046】
まず、ステップS51で、道路領域41内の車線境界線認識によって車線境界線を検出し、ステップS52で、その検出した車線に基づき、前方道路線形を予測する。具体的にはたとえば、検出した車線境界線の曲率を算出する。
【0047】
次に、ステップS54で、前方道路線形(曲率)、および車速センサ2を用いて検出される自車速度に基づいて、オーバーランの危険度を推定する。たとえば、道路の曲率半径が所定値より大きく(すなわち、道路のカーブがゆるい)、かつ、自車速度が所定値(たとえば、40km/h)より遅い場合(ステップS55a)には、危険度1と推定する。一方、道路の曲率半径が所定値より小さく(すなわち、道路のカーブがきつい)、かつ、自車速度が所定値(たとえば、60km/h)より速い場合(ステップS57a)には、最高レベルと危険度10と推定する(ステップS57b)。また、これ以外の場合(ステップS56a)は、曲率半径と自車速度との組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定される(ステップS56b)。
【0048】
図10は、上記のステップS5におけるオーバーラン危険度推定処理の変形例を示すフローチャートである。
【0049】
現実の走行環境では道路工事や反対車線側の駐車車両などの障害物によって走行スペースが減少する場合があり、オーバーランがこのような場合と重なると危険度は更に高いものとなる。したがって、上記のオーバーラン危険度の推定には、上記のような障害物の有無の情報を考慮することがより好ましいといえる。そこでこの変形例では、ステップS54を実行する前に、ステップS53として、道路領域41の路面上における障害物およびその大きさを検出している。
【0050】
そして、ステップS54では、前方道路線形(曲率)および自車速度に加え、障害物の有無、およびその障害物の大きさに基づいて、オーバーランの危険度を推定する。たとえば、道路の曲率半径が所定値より大きく(すなわち、道路のカーブがゆるい)、かつ、自車速度が所定値(たとえば、40km/h)より遅く、なおかつ、障害物はない場合(ステップS55a)には、危険度1と推定する。一方、道路の曲率半径が所定値より小さく(すなわち、道路のカーブがきつい)、かつ、自車速度が所定値(たとえば、60km/h)より速く、なおかつ、障害物があり、その大きさが大である場合(ステップS57a)には、最高レベルと危険度10と推定する(ステップS57b)。また、これ以外の場合(ステップS56a)は、曲率半径と自車速度と障害物の有無およびその大きさ、との組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定される(ステップS56b)。
【0051】
(ステップS6:車線分岐による判断ミスに係る危険度推定)
車線が分岐/合流する状況では、ドライバーは判断ミスを犯しやすく、また、他車両の割り込みなども考えられ、危険である。そこでステップS6では、車線分岐/合流による判断ミスに係る危険度を推定する。
【0052】
図11は、このステップS6の車線分岐による判断ミスに係る危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0053】
まず、ステップS61で、道路領域41に対する車線境界線認識によって車線境界線を検出し、ステップS62で、その車線境界線の検出結果に基づき車線の解析を行う。
【0054】
この結果、分岐のない単車線(S63)または複数車線(S64)の場合は危険は少ないといえるので、この場合は車線数に応じて危険度1〜3のいずれかに推定される。一方、分岐(S65)、合流(S66)、あるいは、分岐および合流が複合している場合(S67)には、ドライバーが車線選択を行う必要があるため危険度が増えるので、その具体的な状況に応じて、適宜、危険度4〜9のいずれかに推定される。さらに、車線がより複雑である場合、あるいは、強い雨などによって車線境界線認識が行えない状況では、危険度10に推定される。
【0055】
(ステップS7:車線の視認性悪化に係る危険度推定)
実際の走行環境下では、車線境界線の不在、劣化などによって現在走行中の車線の視認性が悪化し、車線維持が困難な場合がある。そこでステップS7では、このような車線の視認性悪化に係る危険度を推定する。
【0056】
図12は、このステップS7における車線の視認性悪化に係る危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0057】
まず、ステップS71で、車線境界線のエッジ強度を算出する。具体的にはたとえば、道路領域41における車線境界線認識によって車線境界線を検出し、この検出した車線境界線の領域の各画素信号を、たとえば3画素×3画素の周知のラプラシアンフィルタに入力する。ラプラシアンフィルタは、それぞれ縦方向、第1および第2の対角線方向、横方向の4方向のフィルタであり、エッジ量の絶対値を出力する。これらのフィルタ出力値のうち最大値をとるもののフィルタに係る方向が「エッジ方向」となる。本明細書では、各ラプラシアンフィルタ出力の最大値を画素ごとに求め、その合計値を「エッジ強度」とする。このエッジ強度の値によって車線境界線の不在または劣化を予測することが可能である。
【0058】
そこで、ステップS72で、エッジ強度に基づき、車線境界線の視認性悪化に係る危険度を推定する。たとえば、エッジ強度範囲をあらかじめ想定しておいて、その範囲を高・中・低に区分しておく。そして、ステップS71で算出したエッジ強度が「高」であれば(S73)、車線境界線は鮮明であり、危険度1と推定される。一方、エッジ強度が「低」であれば(S75)、車線境界線は不在または劣化しており、危険度10と推定される。また、エッジ強度が「中」であれば(S74)、その程度に応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定される。
【0059】
<B.路側帯領域からの危険度推定>
(ステップS8:路側帯構造物による危険度推定)
以上のステップS2〜S7はそれぞれ、道路領域41から各種危険度を推定するものであったが、次のステップS8は、路側帯領域42から、路側帯における構造物による危険度を推定するものである。
【0060】
このステップS8では、路側帯領域42のエッジ強度(上述のステップS7を参照)を算出し、その値に基づき路側帯構造物による危険度を推定する。たとえば、図13の(a)は、路側帯領域に構造物が何もなく、見渡しがよい状況を示している。この場合、歩行者の飛び出しなどに気付きやすく、危険度は低いと考えられる。この状況では路側帯領域におけるエッジ成分は少ないので、エッジ強度は低い値である。一方、同図(b)に示すように、路側帯領域にビルディングなどの構造物が乱立している場合には、その間から歩行者などが飛び出してくる危険が高い。この場合、路側帯領域内で検出されるエッジ成分は多く、エッジ強度は高い値を示す。したがって、路側帯領域のエッジ強度によって危険度を推定することが可能である。
【0061】
図14は、ステップS8における路側帯構造物による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、ステップS81で、路側帯領域におけるエッジ強度を算出する。そして、ステップS82で、エッジ強度に基づき危険度を推定する。たとえば、エッジ強度範囲をあらかじめ想定しておいて、その範囲を高・中・低に区分しておく。そして、ステップS81で算出した路側帯領域におけるエッジ強度が「低」であれば(S83)、路側帯領域における構造物は少なく見渡しがよいと判断され、危険度1と推定される。一方、エッジ強度が「高」であれば(S85)、路側帯領域における構造物が乱立しているため、危険度10と推定される。また、エッジ強度が「中」であれば(S84)、その程度に応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定される。
【0063】
<C.上空領域からの危険度推定>
(ステップS9:視認性悪化による危険度推定)
実際の走行環境下では、トンネルの出入り口などのように、日照条件が急激に変化したり、日照不十分あるいは直射日光の影響などにより、ドライバーの視界が十分に確保できない場合があり、危険である。そこで、ステップS9は、上空領域43から、視認性悪化による危険度を推定する。
【0064】
図15は、ステップS9における視認性悪化による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0065】
まず、ステップS91で、上空領域43内の各画素の輝度の平均値(平均輝度)を算出する。続くステップS92では、所定フレーム数にわたる平均輝度の変化率を算出する。なお、平均輝度については、そのとりうる範囲を高・中・低に区分しておく。そして、算出した平均輝度およびその変化率に基づき、視認性の悪化に係る危険度を推定する。たとえば、平均輝度が「中」、その変化率がない(あるいは、無視できるほどに小さい)場合は、危険度1と推定する。一方、平均輝度が「低」、その変化率が所定値より大きい場合には、危険度10と推定する。また、それ以外の場合は、平均輝度およびその変化率の組み合わせに応じて、適宜、危険度2〜9のいずれかに推定される。
【0066】
(ステップS10:道路勾配による危険度推定)
道路勾配(上り坂/下り坂)によって、前方視界が変化したり、速度超過となる場合があり、これによって危険を招くおそれがある。そこで、ステップS10では、道路勾配およびその変化率に基づいて危険度を算出する。
【0067】
図16は、ステップS10における道路勾配による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【0068】
上り坂であれば、その傾斜度に応じて上空領域43の面積は小さくなる。逆に、下り坂であれば、その傾斜度に応じて上空領域43の面積は大きくなる。つまり、上空領域43の面積が分かれば、傾斜度が推定できる。そこでまず、ステップS101では、上空領域43の面積を算出し、続くステップS102で、その算出した面積に基づき道路勾配を推定する。たとえば上空領域43の面積と傾斜度との対応関係を記述したテーブルをあらかじめ用意しておき、これを参照して道路勾配を求めるようにすればよい。なお、ステップS101では上空領域43の面積を算出しているが、これは画像データ40の全域の面積が既知かつ一定であるためそのようにしているにすぎない。より正確には、画像データ40の全域に対する上空領域43の占める割合を求めることになる。
【0069】
次に、ステップS103では、所定フレーム数にわたる勾配の変化率を算出する。そして、算出した勾配およびその変化率に基づき、危険度を推定する。たとえば、勾配がなく(すなわち、勾配が無視できるほど平坦である)、その変化率もほぼ0である場合には、危険度0と推定する。一方、勾配が急な下り坂に相当し、しかもその変化率が大きい場合には、危険度10と推定する。また、それ以外の場合には、勾配およびその変化率の組み合わせに応じて、適宜、危険度1〜9のいずれかに推定される。
【0070】
<D.総合危険度の算出>
そしてステップS11では、上述のステップS2〜S10で求められた各観点からの危険度に基づき総合危険度を算出する。
【0071】
総合危険度は、上述のステップS2〜S10で求められた各観点(危険要素)からの危険度の重み付け加算値とする。ここで、重み付け係数は、各観点からの危険度について予想される被害の大きさに応じた値に設定される。こうすることで代表値としての総合危険度を、現実の走行環境に即した値に設定することができる。総合危険度Kはたとえば、図17に示す式で表される。
【0072】
<E.警報出力>
ステップS12では、警報装置4を用いて、総合危険度に応じた警報出力を行うことで、乗員に危険を報知する。たとえば、図18に示すように、総合危険度Kの値が小さいときは画像のみの警報出力とし、総合危険度Kが所定値よりも大きくなると、画像および音声による警報出力とするとよい。このようにして、乗員に対して、さまざまな危険について注意を喚起することができる。
【0073】
また、総合危険度Kがさらに大きくなった場合には、画像および音声による警報出力のみならず、ブレーキアクチュエータ1を作動させて強制減速を行うなど運転制限を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態における走行支援装置の車両への配置構成を示す図である。
【図2】実施形態における走行支援装置のハードウェア構成を示す図である。
【図3】実施形態における走行支援装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】実施形態における画像データの領域分割を説明する図である。
【図5】実施形態における追突危険度の推定処理を説明する図である。
【図6】実施形態における追突危険度の推定処理を示すフローチャートである。
【図7】実施形態における対向車との衝突危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図8】実施形態における飛び出し危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図9】実施形態におけるオーバーラン危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図10】実施形態におけるオーバーラン危険度推定処理の変形例を示すフローチャートである。
【図11】実施形態における車線分岐による判断ミスに係る危険度推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図12】実施形態における車線の視認性悪化に係る危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図13】実施形態における路側帯構造物による危険度の推定処理を説明する図である。
【図14】実施形態における路側帯構造物による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図15】実施形態における視認性悪化による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図16】実施形態における道路勾配による危険度の推定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図17】実施形態における総合危険度の算出例を示す図である。
【図18】実施形態における総合危険度に応じた警報出力を説明する図である。
【符号の説明】
【0075】
1:ブレーキアクチュエータ
2:車速センサ
3:画像センサ
4:警報装置
10:制御ユニット
11:CPU
12:RAM
13:ROM
13a:制御プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突回避を支援する車両用走行支援装置であって、
車両前方の像を撮像して画像データを出力する撮像手段と、
出力された前記画像データを道路領域、路側帯領域、上空領域に分割する画像分割手段と、
分割された領域ごとに、領域に応じた観点の危険度を判定する領域別危険度判定手段と、
判定された各危険度を、前記観点に応じた重み付け係数を用いて重み付け加算することで総合危険度を判定する総合危険度判定手段と、
判定された前記総合危険度に基づき乗員に危険を報知する報知手段と、
を有することを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項2】
前記領域別危険度判定手段は、
前記上空領域の平均輝度およびその変化率を算出する手段と、
算出した前記平均輝度およびその変化率に基づき車両前方の視認性に関する危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項3】
前記領域別危険度判定手段は、
前記画像データのうち前記上空領域が占める割合を算出する手段と、
算出した前記割合に基づき道路勾配に関する危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項4】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における走行車線数および脇道の有無を推定する手段と、
自車速度を計測する手段と、
推定した前記走行車線数および脇道の有無と、計測した前記自車速度とに基づき、追突の危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項5】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における対向車の位置および速度を検出する手段と、
自車速度を計測する手段と、
検出した前記対向車の位置および速度と、計測した前記自車速度とに基づき、前記対向車との衝突の危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項6】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における駐車車両を検出する手段と、
前記駐車車両が検出された場合において、前記駐車車両付近の横断歩道を検出する手段と、
自車速度を計測する手段と、
前記駐車車両の有無および前記横断歩道の有無と、計測した前記自車速度とに基づき、前記駐車車両の陰からの歩行者の飛び出しの危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項7】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における道路の前方の曲率を算出する手段と、
自車速度を計測する手段と、
算出した前記曲率と計測した前記自車速度とに基づき、オーバーランの危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項8】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における車線境界線を検出する手段と、
検出した前記車線境界線に基づき車線の解析を行う手段と、
前記車線の解析の結果に基づき車線の分岐による判断誤りの危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項9】
前記領域別危険度判定手段は、
前記道路領域における車線境界線のエッジ強度を算出する手段と、
算出した前記エッジ強度に基づき、車線境界線の不在もしくは劣化による自車線の視認性悪化に関する危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。
【請求項10】
前記領域別危険度判定手段は、
前記路側帯領域におけるエッジ強度を算出する手段と、
算出した前記エッジ強度に基づき他車両または歩行者の飛び出しの危険度を判定する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行支援装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2007−233470(P2007−233470A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51095(P2006−51095)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】