車両用運転支援装置
【課題】自車両前方を横切って進路変更を行うすり抜け車両に対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者毎に個別に設定することができるようにする。
【解決手段】PB_ECU13は、運転者の携帯する無線携帯機5に登録されている運転者についての登録情報を読込み(S2)、この登録情報に基づいてすり抜け車両Mが自車両1の前方を横切る際の横移動速度Syに対するしきい値Syoを設定する(S4)。そして、ブリクラッシュブレーキ制御において、すり抜け車両Mが自車両1の前方を横切って車線変更する際の横移動速度Syとしきい値Syoとを比較し、Sy≧Syoの場合、すり抜け車Mを先行車から除外する(S24)。しきい値Syoは、機敏な運転を好む運転者は高く、緩やかな運転を好む運転者は低く設定される。しきい値Syoが高く設定されると当該すり抜け車両Mを先行車として認識する頻度が少なくなり、逆の場合は認識頻度が多くなる。
【解決手段】PB_ECU13は、運転者の携帯する無線携帯機5に登録されている運転者についての登録情報を読込み(S2)、この登録情報に基づいてすり抜け車両Mが自車両1の前方を横切る際の横移動速度Syに対するしきい値Syoを設定する(S4)。そして、ブリクラッシュブレーキ制御において、すり抜け車両Mが自車両1の前方を横切って車線変更する際の横移動速度Syとしきい値Syoとを比較し、Sy≧Syoの場合、すり抜け車Mを先行車から除外する(S24)。しきい値Syoは、機敏な運転を好む運転者は高く、緩やかな運転を好む運転者は低く設定される。しきい値Syoが高く設定されると当該すり抜け車両Mを先行車として認識する頻度が少なくなり、逆の場合は認識頻度が多くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者についての登録情報に基づいて、自車両前方を横切るすり抜け車両を先行車から除外するか否かを判定するようにした車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の安全性の向上を図るため、積極的に運転者の運転操作を支援する総合的な運転支援(ADA;Active Drive Assist)システムが知られている。このADAシステムは、車両の走行環境情報や自車両の走行状態から先行車両との衝突、障害物との接触、車線逸脱等の様々な可能性を推定し、それらの情報を運転者に報知すると共に、運転者が、フットブレーキを踏み込む等の衝突回避操作を行わない場合は、運転者に代わって自動ブレーキを作動させる等して衝突回避を行うものであり、周知の車間距離自動維持制御(ACC:Adaptive Cruise Control)システムやプリクラッシュブレーキシステム等が含まれる。
【0003】
ADAシステムで採用される自動ブレーキ制御は、先行車両を含む前方障害物と自車両との障害物間距離を、自車両と前方障害物との相対車速で除算して、衝突予測時間(TTC)を算出し、このTTCが予め設定した時間よりも短くなった場合、自動ブレーキを作動させるものである。
【0004】
この場合、例えば自車両の前方に他の車両が割り込むと、ADAシステムでは、この割り込んだ車両を先行車両と認識し、前述したプリクラッシュブレーキシステム等を動作させる。従って、例えば自動二輪車等のすり抜け車両が自車両と先行車両との間を横切って、隣接する走行レーンへ車線変更した場合であっても、ADAシステムにおいて、当該すり抜け車両を先行車両と認識し、当該すり抜け車に対する衝突予測時間(TTC)が求められ、このTTCが設定しきい値以内の場合、自動ブレーキが作動することになる。
【0005】
自車両と先行車両との間を単に横切るに過ぎないすり抜け車両を検知して自動ブレーキが作動した場合、その状況によって、自動ブレーキが運転者の期待に沿うものか、過介入と判断されるかには個人差がある。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2010−102641号公報)には、TTCに対するしきい値を、横移動体と、横移動体とは見なされなかった物体とでは異なる値とし、横移動体と判別された物体に対しては、横移動体と判別されなかった物体に比し、早期に警報、及び自動ブレーキを作動させて、運転者に注意を喚起するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−102641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した文献に開示されている横移動体は、交差点等において自車両に対し、ほぼ直交する方向に移動する移動体を想定しており、自車両と先行車両との間を横切るすり抜け車両とは、衝突回避の判断が相違する。
【0009】
すなわち、すり抜け車両は、少なくとも自車両よりもある程度速い速度で、自車両の走行している道路上を走行しているため、すり抜け車両が検出されても、当該すり抜け車両が自車両前方を横切るに過ぎない場合、自車両を敢えて急減速させる必要はない。
【0010】
しかし、当該すり抜け車両が自車両前方を横切る際に、当該すり抜け車両を先行車両と認識するか、先行車両から除外するかの判断は、運転者毎に相違する。自車両と先行車両との間をすり抜けるすり抜け車両を先行車両と認識する運転者は、すり抜け車両が自車両と先行車両との間を横切った際に、自動ブレーキが作動しなければ、そのことに違和感を覚える。一方、自車両と先行車両との間を横切るすり抜け車両を先行車両と認識しない、すなわち当該すり抜け車両は自車両前方を単に横切ったに過ぎないと判断した運転者は、すり抜け車両が自車両前方を横切る際に自動ブレーキが作動すれば、そのことに違和感を覚える。
【0011】
このように、すり抜け車両に対する認識は運転者毎に相違しており、上述した文献に開示されているように、横移動体に対して通常の移動体に対する制御とは異なる制御を画一的に行った場合、運転者によっては違和感を覚えることになり、良好な走行性能を得ることができなくなる問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、自車両前方を横切って進路変更するすり抜け車両に対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者毎に個別に設定することができ、良好な走行性能を得ることのできる車両用運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車両に搭載されて該車両の進行方向前方の走行環境を監視する前方監視手段と、前記前方監視手段で検出した自車両前方の走行環境に基づいて先行車両を検出する先行車両検出手段と、前記先行車両と前記車両との車間距離及び相対車速に基づいて衝突予測時間を求める衝突予測時間演算手段と、前記衝突予測時間演算手段で求めた前記衝突予測時間が予め設定したブレーキアシスト判定時間を下回った場合、自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段とを備える車両用運転支援装置において、上記先行車両検出手段は、検出した前記先行車両がすり抜け車両か否かを判定するすり抜け車両判定手段と、前記すり抜け車両と判定した場合は、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従い、該すり抜け車両がすり抜け除外車両か否かを判定し、すり抜け除外車両と判定した場合は、該すり抜け車両を先行車から除外するすり抜け除外車両判定手段とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従って、すり抜け車両を先行車から除外するか否かを判定するようにしたので、自車両前方を横切るすり抜け車両に対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者毎に個別に設定することができ、良好な走行性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両用運転支援装置を搭載する車両の概略構成図
【図2】車両用運転支援装置の構成図
【図3】運転者情報初期設定ルーチンを示すフローチャート
【図4】すり抜け車判定しきい値マニュアル調整ルーチンを示すフローチャート
【図5】プリクラッシュブレーキ制御ルーチンを示すフローチャート
【図6】自動ブレーキ制御サブルーチンを示すフローチャート
【図7】すり抜け車両の走行状態を示す説明図
【図8】すり抜け車両のフレーム毎の画像認識状態を示す説明図
【図9】運転者についての登録情報と認識ポイントとの関係を示す説明図
【図10】すり抜け車両判定しきい値テーブルの説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1の符号1は車両であり、この車両1に、前方監視手段としての車載カメラ2が搭載されている。この車載カメラ2はメインカメラ2aとサブカメラ2bとを有するステレオカメラであり、この両カメラ2a,2bで自車両1の進行方向前方の走行環境を撮像して監視する。そして、撮像した走行環境を示す画像が画像処理ユニット(IPU)3にて所定に画像処理されて出力される。
【0017】
一方、符号11は車両用運転支援装置であり、この運転支援装置11の入力側にIPU3、無線送受信機4が接続されている。この無線送受信機4は、運転者が携帯する無線携帯機5との間で信号を無線により送受信するものである。
【0018】
この無線携帯機5はスマートキー機能を有しており、内蔵するメモリには、運転者を識別する認証ID、及び運転者についての登録情報が記憶されている。登録情報として、本実施形態では、生年月日、性別、ハンドルの切り方、ブレーキを作動させるタイミング(ブレーキ動作タイミング)等が設定されている。この登録情報は、運転者の好む運転(機敏な運転、緩やかな運転等)を判別するものであり、上述した以外の項目を登録するようにしても良い。尚、この登録情報は、カーディーラ、或いは無線携帯機5の認証IDを認識した車両1内のコンピュータを介して入力される。
【0019】
又、図2に示すように、運転支援装置11は、プリクラッシュブレーキ制御ユニット(以下「PB_ECU」と称する)13、エンジン制御ユニット(以下「E/G_ECU」と称する)14、ブレーキ制御ユニット(以下「BK_ECU」と称する)15等の各制御ユニットを備え、この各制御ユニットが、CAN(Controller Area Network)等の車内通信回線16を通じて接続されている。尚、各ユニット13〜15はCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータにより構成されており、ROMにはシステム毎に設定されている動作を実現するための制御プログラム、及びマップデータやテーブルデータ等の各種固定データが記憶されている。
【0020】
又、PB_ECU13の入力側に、上述したIPU3及び送受信機4と、後述するしきい値Syoを手動で調整する調整手段としてのプリクラッシュブレーキ(PB)タイミング調整スイッチ6、車速S[Km/h]を検出する車速センサ7、運転者のアクセルペダルの踏込み量であるアクセル開度AP[%]を検出するアクセル開度センサ8、図示しないブレーキペダルの踏込みでONするブレーキスイッチ9、ステアリングの操舵角ST[deg]を検出する舵角センサ10等の各種センサ類が接続されている。更に、PB_ECU13の出力側に、ブザー、ウォーニングランプ、スピーカ等の警報手段12が接続されている。
【0021】
一方、E/G_ECU14の出力側に、電子制御スロットル21に設けられているスロットルアクチュエータ22が接続されており、BK_ECU15の出力側に、ブレーキを強制的に作動させるブレーキアクチュエータ23が接続されている。
【0022】
図1に示すように、電子制御スロットル21は、エンジン26の吸気通路側に設けられており、この電子制御スロットル21のスロットル弁21aがスロットルアクチュエータ22により開閉動作され、このスロットルアクチュエータ22の動作がE/G_ECU14で制御される。従って、E/G_ECU14がスロットルアクチュエータ22の動作を制御することで、スロットル弁21aの開度が調整されて、所望のエンジン出力が得られる。
【0023】
E/G_ECU14は、基本的にアクセル開度APに基づいて目標スロットル開度SV[%]を設定し、スロットル弁21aの実開度が目標スロットル開度SVに収束するようにフィードバック制御を行う。又、ブレーキアクチュエータ23は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダ23aに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、BK_ECU23からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ23が駆動されると、ブレーキホイールシリンダ23aにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、車両1が強制的に減速される。
【0024】
一方、図2に示すPB_ECU13は、IPU3からの画像信号に基づき自車両1の進行方向前方を走行する先行車を検出し、自車両1の先行車に対する衝突予測時間TTCを求め、この衝突予測時間TTCと予め設定したブレーキアシスト判定時間Toとを比較して、自車両1が先行車両を含む前方障害物に衝突する可能性を判定する。そして、衝突の可能性が高いと判定した場合は(TTC≦To)、警報手段12から警報を発すると共に、自動ブレーキ制御を実行させる。
【0025】
又、PB_ECU13は、自車両1の側方を走行するすり抜け車両M(図7参照)が、自車両1の前方を横切って車線変更を行う場合、当該すり抜け車両Mを先行車両と認識するか否かを判定するしきい値を、運転者についての登録情報に基づいて設定すると共に、このしきい値を運転者の好みに応じて微調整できるようにしている。尚、本実施形態では、自車両1の脇をすり抜けて、自車両1の前方に割り込む車両をすり抜け車両と称しており、主に自動二輪車を対象としている。
【0026】
上述したPB_ECU13で実行されるすり抜け車両判定しきい値の設定、及びプリクラッシュ制御は、具体的には、図3〜図6に示すルーチンに従って処理される。
【0027】
無線携帯機5を携帯する運転者が車両1に接近すると、車両1に搭載されている無線送受信機4から、無線携帯機5に登録されている認証IDの送信が要求される。そして、運転支援装置11が無線携帯機5から送信された認証IDと、運転支援装置11に予め登録されている認証IDとを照合し、一致した場合、この無線携帯機5を認証すると共に、図3に示す初期設定ルーチンが起動される。
【0028】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、認証IDに基づいて運転者を識別し、次いで、ステップS2へ進み、無線携帯機5のメモリに記憶されている運転者についての登録情報を読込む。その後、ステップS3へ進み、PB_ECU13の不揮発性メモリに登録されている情報と照合し、変更されているか否かを調べ、変更されている場合は、ステップS4へ進み、変更されていない場合は、そのままルーチンを抜ける。尚、PB_ECU13の不揮発性メモリに運転者についての登録情報が未登録のときは、変更有りと判定して、ステップS4へ進む。
【0029】
登録情報が変更されていると判定されて、ステップS4へ進むと、登録情報に基づきすり抜け車両M(図7参照)の横移動速度Sy(図8参照)を比較する判定基準としてのしきい値Syoを設定する。しきい値Syoは、自車両1の前方を横切るすり抜け車両Mを先行車両として認識するか否かを判定するものである。本実施形態では、機敏な運転を好む運転者のしきい値Syoが高く、緩やかな運転を好む運転者のしきい値Syoが低くなるように設定される。
【0030】
具体的には、図9に示すように、生年月日から算出した年齢、性別、ハンドルの切り方、ブレーキタイミングを数値化すべく、認識ポイントを予め設定し、各認識ポイントの総和に基づき、図10に示すすり抜け車両判定しきい値テーブルを参照してしきい値Syoを設定する。例えば、年齢が若く、男性で、ハンドルの切り方が速く、且つブレーキタイミングの遅い運転者は、機敏な運転を好むと判定し、最も高い認識ポイントが設定される。逆に、年齢が高く、女性で、ハンドルの切り方がゆっくりで、且つブレーキタイミングの速い運転者は、緩やかな運転を好むと判定し最も低い認識ポイントが設定される。
【0031】
図10に示すすり抜け車両判定しきい値テーブルに格納されているしきい値Syoは、認識ポイントが低い方から高い方へ移行するに従い、ほぼ比例的に高くなる特性に設定されている。従って、認識ポイントが高く設定されると、すり抜け車両Mの横移動速度Syに対するしきい値Syoが高くなり、すり抜け車両Mを先行車両と認識する頻度が少なくなる。逆に、認識ポイントが低く設定されるとしきい値Syoは低く設定され、すり抜け車両Mを先行車両と認識する頻度が多くなる。
【0032】
その後、ステップS5へ進み、ステップS4で設定したしきい値SyoをPB_ECU13の不揮発性メモリに登録して、ルーチンを抜ける。
【0033】
又、図4に示すすり抜け車両判定しきい値マニュアル調整ルーチンは、上述の初期設定ルーチンで設定されたしきい値Syoを、運転者の好みに応じて微調整するものであり、ステップS11で、運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作した否かを調べ、操作されるまで待機する。
【0034】
そして、運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作したと判定すると、ステップS12へ進み、PBタイミング調整スイッチ6の操作量に応じた調整レベルΔSyを設定する。その後、ステップS13へ進み、PB_ECU13の不揮発性メモリに登録されているしきい値Syoを、このしきい値SyoにΔSyを加算した値で更新し(Syo←Syo+ΔSy)、ルーチンを抜ける。尚、このΔSyは正値と負値があり、負値の場合はすり抜け車両Mを先行車両として認識する頻度が多く設定され、正値の場合はその頻度が少なく設定される。
【0035】
又、図5に示すプリクラッシュブレーキ制御ルーチンは、イグニッションスイッチをONした後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS21で、車載カメラ2で撮像した自車両1前方の画像データ、車速センサ7で検出した車速S、アクセル開度センサ8で検出したアクセルペダル踏込み量AP、舵角センサ10で検出したステアリングの操舵角ST等、プリクラッシュブレーキ制御に必要なパラメータを読込む。
【0036】
続く、ステップS22で、車載カメラ2で撮像した自車両前方の画像データに基づき自車進行方向に先行車両が存在するか否かを調べる。そして、先行車両が検出された場合は、ステップS23へ進み、検出されない場合はそのままルーチンを抜ける。
【0037】
ステップS23へ進むと、先行車両がすり抜け車両Mか否かを判定する。尚、このステップでの処理が、本発明のすり抜け車両判定手段に対応している。
【0038】
先行車両がすり抜け車両Mか否かは、例えば画像データとすり抜け車両の対象(本実施形態では、主に自動二輪車)となるテンプレートデータとのマッチング処理により判定し、すり抜け車両Mと判定した場合は、ステップS24へ進み、すり抜け車両Mではないと判定した場合は、ステップS27へジャンプする。
【0039】
ステップS24に進むと、ステップS23で検出したすり抜け車両Mが、除外車両か否かを調べる。そして、すり抜け除外車両と判定したときは、当該すり抜け車両を先行車から除外し、ステップS25へ進む。又、すり抜け車両Mと判定したときは、当該すり抜け車両Mを先行車両と認識してステップS27へ進む。尚、このステップS24での処理が、本発明のすり抜け除外車両判定手段に対応している。
【0040】
すり抜け除外車両か否かは、ステップS23で検出したすり抜け車両Mの横移動速度Sy(図8参照)と、PB_ECU13に記憶されているしきい値Syoとを比較して判定する。すなわち、図8に示すように、すり抜け車両Mの所定時間(フレーム毎)における横移動量から横移動速度Syを検出し、この横移動速度Syがしきい値Syo以上(Sy≧Syo)の場合、すり抜け車Mを先行車から除外する。上述したように、基本的なしきい値Syoは、運転者についての登録情報に基づいて設定されており、年齢が若く、男性で、ハンドルの切り方が速く、且つブレーキタイミングの遅い運転者が高く設定され、逆に、年齢が高く、女性で、ハンドルの切り方が遅く、且つブレーキタイミングの速い運転者が低く設定される。
【0041】
このしきい値Syoが高く設定されている場合は、運転者のブレーキ操作等で対応できる範囲が広げられ、自動ブレーキの作動頻度が少なくなる。その結果、すり抜け車両Mが検出される都度に自動ブレーキが作動することによる煩わしさを解消することができる。一方、このしきい値Syoが低く設定されている場合は、運転者のブレーキ操作を自動ブレーキがアシストすることで、すり抜け車両Mに対するブレーキ応答性を良好にし、プリクラッシュブレーキ制御の応答遅れを防止することができる。
【0042】
その後、ステップS25に進むと、車載カメラ2で撮像した自車両1前方の画像データに基づき先々行車両が検出されているか否かを調べ、先々行車両が検出されている場合(例えば、図7の車間距離L有して自車両1前方を走行している車両)、ステップS26へ進み、先々行車両が検出されていない場合は、ルーチンを抜ける。
【0043】
又、ステップS26に進むと、先々行車両を先行車両に設定して(先行車両←先々行車両)、ステップS27へ進む。尚、上述したステップS22〜S26での処理が、本発明の先行車両検出手段に対応している。
【0044】
ステップS27では、両カメラ2a,2bの視差に基づき、車載カメラ2で撮像した先行車両と自車両1との車間距離L(図7参照)を算出し、この車間距離Lを先行車両と自車両1との相対車速ΔSで除算して、衝突予測時間TTCを算出する(TTC←L/ΔS)。尚、図7では、すり抜け車両Mと自車両1との車間距離をL’で表わしている。従って、この場合、すり抜け車両Mを先行車両と設定した場合、衝突予測時間TTCは、車間距離L’と相対車速ΔSから求められる(TTC←L’/ΔS)。尚、このステップS27での処理が、本発明の衝突予測時間演算手段に対応している。
【0045】
その後、ステップS28へ進み、衝突予測時間TTCと予め設定したブレーキアシスト判定時間Toとを比較する。このブレーキアシスト判定時間Toは、先行車両との衝突を避けることができないと判定される予測時間であり、例えば1.0〜0.5[sec}程度に設定されている。
【0046】
そして、衝突予測時間TTCがブレーキアシスト判定時間Toを下回った場合(TTC≦To)、運転者のブレーキ操作が行われておらず、或いは運転者の操作したブレーキ力が弱いために、自車両1が先行車両に近接していると判定し、ステップS29へ進む。又、TTC>Toと判定されたときは、運転者のブレーキ操作により停止可能と判定し、そのままルーチンを抜ける。
【0047】
ステップS29へ進むと、警報手段12に対して警報信号を出力し、運転者に対し自車両1が先行車両に近接している旨を、ブザー音、ウォーニングランプの点灯/点滅、或いは音声等により報知する。
【0048】
次いで、ステップS30へ進み、PB_ECU13からE/G_ECU14へスロットル全閉信号を出力する。すると、E/G_ECU14はスロットルアクチュエータ22に全閉信号を出力し、スロットル弁21aを全閉状態にする。その結果、エンジンブレーキの働きにより車両が減速される。
【0049】
次いで、ステップS31へ進み、制動力をアシストすべく、自動ブレーキ制御を実行してルーチンを抜ける。尚、このステップS31での処理が、本発明の自動ブレーキ制御手段に対応している。
【0050】
上述した自動ブレーキ制御は、図6に示す自動ブレーキ制御サブルーチンに従って処理される。このサブルーチンでは、先ず、ステップS41で予め設定されている目標減速度と実際の減速度(実減速度)との差分から相対減速度を求める(相対減速度←目標減速度−実減速度)。そして、ステップS42で相対減速度に対応するブレーキ圧を設定し、ルーチンを抜ける。尚、本実施形態では、目標減速度を最大減速度に近い減速度(例えば0.8G)に設定しているが、車速等に応じて可変設定するようにしても良い。又、実減速度は車速センサ7で検出した車速Sを時間微分して求めたり、前後Gセンサが備えられている車両では、この前後Gセンサで検出した前後Gから求めるようにしても良い。
【0051】
BK_ECU15は、PB_ECU13で設定したブレーキ圧を読込み、対応する駆動信号をブレーキアクチュエータ23へ出力し、ブレーキホイールシリンダ23aを所定に制動動作させて、実減速度を目標減速度に一致させる。その際、スロットル弁21aが全閉状態であり、エンジンブレーキが作動しているため、ブレーキアクチュエータ23に対するブレーキ圧は、エンジンブレーキの分だけ負荷が軽減されると共に、ブレーキホイールシリンダ23aの制動動作による急減速が緩和される。
【0052】
このように、本実施形態では、すり抜け車両Mが走行レーンを変更すべく、自車両1の前方を横切った場合、そのときの横移動速度Syを算出し、この横移動速度Syと運転者についての登録情報に基づいて設定したしきい値Syoとを比較して、当該すり抜け車両Mを先行車として設定するか否かを判定するようにしたので、当該すり抜け車両Mに対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者の認識に応じて個別に設定することができる。その結果、良好な走行安定性を得ることができる。
【0053】
又、当該しきい値Syoは運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作することで調整することができるため、すり抜け車両Mに対する自動ブレーキの動作タイミングを、より運転者の認識に沿って設定することができる。
【0054】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば無線携帯機5のメモリに登録されている運転者についての登録情報は、図9に示す項目以外であっても良く、更に、認識ポイントも任意に設定することができる。
【0055】
又、本実施形態では、すり抜け車両Mを先行車両と認識した場合、当該すり抜け車両Mに対する自車両1の衝突予測時間TTCを算出するようにしているが、すり抜け車両Mを先行車として設定した場合、ACCシステムを起動させて車間距離を自動制御させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0056】
1…車両、
2…車載カメラ、
5…無線携帯機、
6…タイミング調整スイッチ、
9…ブレーキスイッチ、
11…運転支援装置、
13…プリクラッシュブレーキ制御ユニット(PB_ECU)
15…ブレーキ制御ユニット(BK_ECU)
23…ブレーキアクチュエータ、
26…エンジン、
ΔS…相対車速、
ΔSy…調整レベル、
L,L’…車間距離、
M…すり抜け車両、
S…車速、
Sy…横移動速度、
Syo…しきい値、
TTC…衝突予測時間、
To…ブレーキアシスト判定時間
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者についての登録情報に基づいて、自車両前方を横切るすり抜け車両を先行車から除外するか否かを判定するようにした車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の安全性の向上を図るため、積極的に運転者の運転操作を支援する総合的な運転支援(ADA;Active Drive Assist)システムが知られている。このADAシステムは、車両の走行環境情報や自車両の走行状態から先行車両との衝突、障害物との接触、車線逸脱等の様々な可能性を推定し、それらの情報を運転者に報知すると共に、運転者が、フットブレーキを踏み込む等の衝突回避操作を行わない場合は、運転者に代わって自動ブレーキを作動させる等して衝突回避を行うものであり、周知の車間距離自動維持制御(ACC:Adaptive Cruise Control)システムやプリクラッシュブレーキシステム等が含まれる。
【0003】
ADAシステムで採用される自動ブレーキ制御は、先行車両を含む前方障害物と自車両との障害物間距離を、自車両と前方障害物との相対車速で除算して、衝突予測時間(TTC)を算出し、このTTCが予め設定した時間よりも短くなった場合、自動ブレーキを作動させるものである。
【0004】
この場合、例えば自車両の前方に他の車両が割り込むと、ADAシステムでは、この割り込んだ車両を先行車両と認識し、前述したプリクラッシュブレーキシステム等を動作させる。従って、例えば自動二輪車等のすり抜け車両が自車両と先行車両との間を横切って、隣接する走行レーンへ車線変更した場合であっても、ADAシステムにおいて、当該すり抜け車両を先行車両と認識し、当該すり抜け車に対する衝突予測時間(TTC)が求められ、このTTCが設定しきい値以内の場合、自動ブレーキが作動することになる。
【0005】
自車両と先行車両との間を単に横切るに過ぎないすり抜け車両を検知して自動ブレーキが作動した場合、その状況によって、自動ブレーキが運転者の期待に沿うものか、過介入と判断されるかには個人差がある。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2010−102641号公報)には、TTCに対するしきい値を、横移動体と、横移動体とは見なされなかった物体とでは異なる値とし、横移動体と判別された物体に対しては、横移動体と判別されなかった物体に比し、早期に警報、及び自動ブレーキを作動させて、運転者に注意を喚起するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−102641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した文献に開示されている横移動体は、交差点等において自車両に対し、ほぼ直交する方向に移動する移動体を想定しており、自車両と先行車両との間を横切るすり抜け車両とは、衝突回避の判断が相違する。
【0009】
すなわち、すり抜け車両は、少なくとも自車両よりもある程度速い速度で、自車両の走行している道路上を走行しているため、すり抜け車両が検出されても、当該すり抜け車両が自車両前方を横切るに過ぎない場合、自車両を敢えて急減速させる必要はない。
【0010】
しかし、当該すり抜け車両が自車両前方を横切る際に、当該すり抜け車両を先行車両と認識するか、先行車両から除外するかの判断は、運転者毎に相違する。自車両と先行車両との間をすり抜けるすり抜け車両を先行車両と認識する運転者は、すり抜け車両が自車両と先行車両との間を横切った際に、自動ブレーキが作動しなければ、そのことに違和感を覚える。一方、自車両と先行車両との間を横切るすり抜け車両を先行車両と認識しない、すなわち当該すり抜け車両は自車両前方を単に横切ったに過ぎないと判断した運転者は、すり抜け車両が自車両前方を横切る際に自動ブレーキが作動すれば、そのことに違和感を覚える。
【0011】
このように、すり抜け車両に対する認識は運転者毎に相違しており、上述した文献に開示されているように、横移動体に対して通常の移動体に対する制御とは異なる制御を画一的に行った場合、運転者によっては違和感を覚えることになり、良好な走行性能を得ることができなくなる問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、自車両前方を横切って進路変更するすり抜け車両に対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者毎に個別に設定することができ、良好な走行性能を得ることのできる車両用運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車両に搭載されて該車両の進行方向前方の走行環境を監視する前方監視手段と、前記前方監視手段で検出した自車両前方の走行環境に基づいて先行車両を検出する先行車両検出手段と、前記先行車両と前記車両との車間距離及び相対車速に基づいて衝突予測時間を求める衝突予測時間演算手段と、前記衝突予測時間演算手段で求めた前記衝突予測時間が予め設定したブレーキアシスト判定時間を下回った場合、自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段とを備える車両用運転支援装置において、上記先行車両検出手段は、検出した前記先行車両がすり抜け車両か否かを判定するすり抜け車両判定手段と、前記すり抜け車両と判定した場合は、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従い、該すり抜け車両がすり抜け除外車両か否かを判定し、すり抜け除外車両と判定した場合は、該すり抜け車両を先行車から除外するすり抜け除外車両判定手段とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従って、すり抜け車両を先行車から除外するか否かを判定するようにしたので、自車両前方を横切るすり抜け車両に対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者毎に個別に設定することができ、良好な走行性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両用運転支援装置を搭載する車両の概略構成図
【図2】車両用運転支援装置の構成図
【図3】運転者情報初期設定ルーチンを示すフローチャート
【図4】すり抜け車判定しきい値マニュアル調整ルーチンを示すフローチャート
【図5】プリクラッシュブレーキ制御ルーチンを示すフローチャート
【図6】自動ブレーキ制御サブルーチンを示すフローチャート
【図7】すり抜け車両の走行状態を示す説明図
【図8】すり抜け車両のフレーム毎の画像認識状態を示す説明図
【図9】運転者についての登録情報と認識ポイントとの関係を示す説明図
【図10】すり抜け車両判定しきい値テーブルの説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1の符号1は車両であり、この車両1に、前方監視手段としての車載カメラ2が搭載されている。この車載カメラ2はメインカメラ2aとサブカメラ2bとを有するステレオカメラであり、この両カメラ2a,2bで自車両1の進行方向前方の走行環境を撮像して監視する。そして、撮像した走行環境を示す画像が画像処理ユニット(IPU)3にて所定に画像処理されて出力される。
【0017】
一方、符号11は車両用運転支援装置であり、この運転支援装置11の入力側にIPU3、無線送受信機4が接続されている。この無線送受信機4は、運転者が携帯する無線携帯機5との間で信号を無線により送受信するものである。
【0018】
この無線携帯機5はスマートキー機能を有しており、内蔵するメモリには、運転者を識別する認証ID、及び運転者についての登録情報が記憶されている。登録情報として、本実施形態では、生年月日、性別、ハンドルの切り方、ブレーキを作動させるタイミング(ブレーキ動作タイミング)等が設定されている。この登録情報は、運転者の好む運転(機敏な運転、緩やかな運転等)を判別するものであり、上述した以外の項目を登録するようにしても良い。尚、この登録情報は、カーディーラ、或いは無線携帯機5の認証IDを認識した車両1内のコンピュータを介して入力される。
【0019】
又、図2に示すように、運転支援装置11は、プリクラッシュブレーキ制御ユニット(以下「PB_ECU」と称する)13、エンジン制御ユニット(以下「E/G_ECU」と称する)14、ブレーキ制御ユニット(以下「BK_ECU」と称する)15等の各制御ユニットを備え、この各制御ユニットが、CAN(Controller Area Network)等の車内通信回線16を通じて接続されている。尚、各ユニット13〜15はCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータにより構成されており、ROMにはシステム毎に設定されている動作を実現するための制御プログラム、及びマップデータやテーブルデータ等の各種固定データが記憶されている。
【0020】
又、PB_ECU13の入力側に、上述したIPU3及び送受信機4と、後述するしきい値Syoを手動で調整する調整手段としてのプリクラッシュブレーキ(PB)タイミング調整スイッチ6、車速S[Km/h]を検出する車速センサ7、運転者のアクセルペダルの踏込み量であるアクセル開度AP[%]を検出するアクセル開度センサ8、図示しないブレーキペダルの踏込みでONするブレーキスイッチ9、ステアリングの操舵角ST[deg]を検出する舵角センサ10等の各種センサ類が接続されている。更に、PB_ECU13の出力側に、ブザー、ウォーニングランプ、スピーカ等の警報手段12が接続されている。
【0021】
一方、E/G_ECU14の出力側に、電子制御スロットル21に設けられているスロットルアクチュエータ22が接続されており、BK_ECU15の出力側に、ブレーキを強制的に作動させるブレーキアクチュエータ23が接続されている。
【0022】
図1に示すように、電子制御スロットル21は、エンジン26の吸気通路側に設けられており、この電子制御スロットル21のスロットル弁21aがスロットルアクチュエータ22により開閉動作され、このスロットルアクチュエータ22の動作がE/G_ECU14で制御される。従って、E/G_ECU14がスロットルアクチュエータ22の動作を制御することで、スロットル弁21aの開度が調整されて、所望のエンジン出力が得られる。
【0023】
E/G_ECU14は、基本的にアクセル開度APに基づいて目標スロットル開度SV[%]を設定し、スロットル弁21aの実開度が目標スロットル開度SVに収束するようにフィードバック制御を行う。又、ブレーキアクチュエータ23は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダ23aに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、BK_ECU23からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ23が駆動されると、ブレーキホイールシリンダ23aにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、車両1が強制的に減速される。
【0024】
一方、図2に示すPB_ECU13は、IPU3からの画像信号に基づき自車両1の進行方向前方を走行する先行車を検出し、自車両1の先行車に対する衝突予測時間TTCを求め、この衝突予測時間TTCと予め設定したブレーキアシスト判定時間Toとを比較して、自車両1が先行車両を含む前方障害物に衝突する可能性を判定する。そして、衝突の可能性が高いと判定した場合は(TTC≦To)、警報手段12から警報を発すると共に、自動ブレーキ制御を実行させる。
【0025】
又、PB_ECU13は、自車両1の側方を走行するすり抜け車両M(図7参照)が、自車両1の前方を横切って車線変更を行う場合、当該すり抜け車両Mを先行車両と認識するか否かを判定するしきい値を、運転者についての登録情報に基づいて設定すると共に、このしきい値を運転者の好みに応じて微調整できるようにしている。尚、本実施形態では、自車両1の脇をすり抜けて、自車両1の前方に割り込む車両をすり抜け車両と称しており、主に自動二輪車を対象としている。
【0026】
上述したPB_ECU13で実行されるすり抜け車両判定しきい値の設定、及びプリクラッシュ制御は、具体的には、図3〜図6に示すルーチンに従って処理される。
【0027】
無線携帯機5を携帯する運転者が車両1に接近すると、車両1に搭載されている無線送受信機4から、無線携帯機5に登録されている認証IDの送信が要求される。そして、運転支援装置11が無線携帯機5から送信された認証IDと、運転支援装置11に予め登録されている認証IDとを照合し、一致した場合、この無線携帯機5を認証すると共に、図3に示す初期設定ルーチンが起動される。
【0028】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、認証IDに基づいて運転者を識別し、次いで、ステップS2へ進み、無線携帯機5のメモリに記憶されている運転者についての登録情報を読込む。その後、ステップS3へ進み、PB_ECU13の不揮発性メモリに登録されている情報と照合し、変更されているか否かを調べ、変更されている場合は、ステップS4へ進み、変更されていない場合は、そのままルーチンを抜ける。尚、PB_ECU13の不揮発性メモリに運転者についての登録情報が未登録のときは、変更有りと判定して、ステップS4へ進む。
【0029】
登録情報が変更されていると判定されて、ステップS4へ進むと、登録情報に基づきすり抜け車両M(図7参照)の横移動速度Sy(図8参照)を比較する判定基準としてのしきい値Syoを設定する。しきい値Syoは、自車両1の前方を横切るすり抜け車両Mを先行車両として認識するか否かを判定するものである。本実施形態では、機敏な運転を好む運転者のしきい値Syoが高く、緩やかな運転を好む運転者のしきい値Syoが低くなるように設定される。
【0030】
具体的には、図9に示すように、生年月日から算出した年齢、性別、ハンドルの切り方、ブレーキタイミングを数値化すべく、認識ポイントを予め設定し、各認識ポイントの総和に基づき、図10に示すすり抜け車両判定しきい値テーブルを参照してしきい値Syoを設定する。例えば、年齢が若く、男性で、ハンドルの切り方が速く、且つブレーキタイミングの遅い運転者は、機敏な運転を好むと判定し、最も高い認識ポイントが設定される。逆に、年齢が高く、女性で、ハンドルの切り方がゆっくりで、且つブレーキタイミングの速い運転者は、緩やかな運転を好むと判定し最も低い認識ポイントが設定される。
【0031】
図10に示すすり抜け車両判定しきい値テーブルに格納されているしきい値Syoは、認識ポイントが低い方から高い方へ移行するに従い、ほぼ比例的に高くなる特性に設定されている。従って、認識ポイントが高く設定されると、すり抜け車両Mの横移動速度Syに対するしきい値Syoが高くなり、すり抜け車両Mを先行車両と認識する頻度が少なくなる。逆に、認識ポイントが低く設定されるとしきい値Syoは低く設定され、すり抜け車両Mを先行車両と認識する頻度が多くなる。
【0032】
その後、ステップS5へ進み、ステップS4で設定したしきい値SyoをPB_ECU13の不揮発性メモリに登録して、ルーチンを抜ける。
【0033】
又、図4に示すすり抜け車両判定しきい値マニュアル調整ルーチンは、上述の初期設定ルーチンで設定されたしきい値Syoを、運転者の好みに応じて微調整するものであり、ステップS11で、運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作した否かを調べ、操作されるまで待機する。
【0034】
そして、運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作したと判定すると、ステップS12へ進み、PBタイミング調整スイッチ6の操作量に応じた調整レベルΔSyを設定する。その後、ステップS13へ進み、PB_ECU13の不揮発性メモリに登録されているしきい値Syoを、このしきい値SyoにΔSyを加算した値で更新し(Syo←Syo+ΔSy)、ルーチンを抜ける。尚、このΔSyは正値と負値があり、負値の場合はすり抜け車両Mを先行車両として認識する頻度が多く設定され、正値の場合はその頻度が少なく設定される。
【0035】
又、図5に示すプリクラッシュブレーキ制御ルーチンは、イグニッションスイッチをONした後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS21で、車載カメラ2で撮像した自車両1前方の画像データ、車速センサ7で検出した車速S、アクセル開度センサ8で検出したアクセルペダル踏込み量AP、舵角センサ10で検出したステアリングの操舵角ST等、プリクラッシュブレーキ制御に必要なパラメータを読込む。
【0036】
続く、ステップS22で、車載カメラ2で撮像した自車両前方の画像データに基づき自車進行方向に先行車両が存在するか否かを調べる。そして、先行車両が検出された場合は、ステップS23へ進み、検出されない場合はそのままルーチンを抜ける。
【0037】
ステップS23へ進むと、先行車両がすり抜け車両Mか否かを判定する。尚、このステップでの処理が、本発明のすり抜け車両判定手段に対応している。
【0038】
先行車両がすり抜け車両Mか否かは、例えば画像データとすり抜け車両の対象(本実施形態では、主に自動二輪車)となるテンプレートデータとのマッチング処理により判定し、すり抜け車両Mと判定した場合は、ステップS24へ進み、すり抜け車両Mではないと判定した場合は、ステップS27へジャンプする。
【0039】
ステップS24に進むと、ステップS23で検出したすり抜け車両Mが、除外車両か否かを調べる。そして、すり抜け除外車両と判定したときは、当該すり抜け車両を先行車から除外し、ステップS25へ進む。又、すり抜け車両Mと判定したときは、当該すり抜け車両Mを先行車両と認識してステップS27へ進む。尚、このステップS24での処理が、本発明のすり抜け除外車両判定手段に対応している。
【0040】
すり抜け除外車両か否かは、ステップS23で検出したすり抜け車両Mの横移動速度Sy(図8参照)と、PB_ECU13に記憶されているしきい値Syoとを比較して判定する。すなわち、図8に示すように、すり抜け車両Mの所定時間(フレーム毎)における横移動量から横移動速度Syを検出し、この横移動速度Syがしきい値Syo以上(Sy≧Syo)の場合、すり抜け車Mを先行車から除外する。上述したように、基本的なしきい値Syoは、運転者についての登録情報に基づいて設定されており、年齢が若く、男性で、ハンドルの切り方が速く、且つブレーキタイミングの遅い運転者が高く設定され、逆に、年齢が高く、女性で、ハンドルの切り方が遅く、且つブレーキタイミングの速い運転者が低く設定される。
【0041】
このしきい値Syoが高く設定されている場合は、運転者のブレーキ操作等で対応できる範囲が広げられ、自動ブレーキの作動頻度が少なくなる。その結果、すり抜け車両Mが検出される都度に自動ブレーキが作動することによる煩わしさを解消することができる。一方、このしきい値Syoが低く設定されている場合は、運転者のブレーキ操作を自動ブレーキがアシストすることで、すり抜け車両Mに対するブレーキ応答性を良好にし、プリクラッシュブレーキ制御の応答遅れを防止することができる。
【0042】
その後、ステップS25に進むと、車載カメラ2で撮像した自車両1前方の画像データに基づき先々行車両が検出されているか否かを調べ、先々行車両が検出されている場合(例えば、図7の車間距離L有して自車両1前方を走行している車両)、ステップS26へ進み、先々行車両が検出されていない場合は、ルーチンを抜ける。
【0043】
又、ステップS26に進むと、先々行車両を先行車両に設定して(先行車両←先々行車両)、ステップS27へ進む。尚、上述したステップS22〜S26での処理が、本発明の先行車両検出手段に対応している。
【0044】
ステップS27では、両カメラ2a,2bの視差に基づき、車載カメラ2で撮像した先行車両と自車両1との車間距離L(図7参照)を算出し、この車間距離Lを先行車両と自車両1との相対車速ΔSで除算して、衝突予測時間TTCを算出する(TTC←L/ΔS)。尚、図7では、すり抜け車両Mと自車両1との車間距離をL’で表わしている。従って、この場合、すり抜け車両Mを先行車両と設定した場合、衝突予測時間TTCは、車間距離L’と相対車速ΔSから求められる(TTC←L’/ΔS)。尚、このステップS27での処理が、本発明の衝突予測時間演算手段に対応している。
【0045】
その後、ステップS28へ進み、衝突予測時間TTCと予め設定したブレーキアシスト判定時間Toとを比較する。このブレーキアシスト判定時間Toは、先行車両との衝突を避けることができないと判定される予測時間であり、例えば1.0〜0.5[sec}程度に設定されている。
【0046】
そして、衝突予測時間TTCがブレーキアシスト判定時間Toを下回った場合(TTC≦To)、運転者のブレーキ操作が行われておらず、或いは運転者の操作したブレーキ力が弱いために、自車両1が先行車両に近接していると判定し、ステップS29へ進む。又、TTC>Toと判定されたときは、運転者のブレーキ操作により停止可能と判定し、そのままルーチンを抜ける。
【0047】
ステップS29へ進むと、警報手段12に対して警報信号を出力し、運転者に対し自車両1が先行車両に近接している旨を、ブザー音、ウォーニングランプの点灯/点滅、或いは音声等により報知する。
【0048】
次いで、ステップS30へ進み、PB_ECU13からE/G_ECU14へスロットル全閉信号を出力する。すると、E/G_ECU14はスロットルアクチュエータ22に全閉信号を出力し、スロットル弁21aを全閉状態にする。その結果、エンジンブレーキの働きにより車両が減速される。
【0049】
次いで、ステップS31へ進み、制動力をアシストすべく、自動ブレーキ制御を実行してルーチンを抜ける。尚、このステップS31での処理が、本発明の自動ブレーキ制御手段に対応している。
【0050】
上述した自動ブレーキ制御は、図6に示す自動ブレーキ制御サブルーチンに従って処理される。このサブルーチンでは、先ず、ステップS41で予め設定されている目標減速度と実際の減速度(実減速度)との差分から相対減速度を求める(相対減速度←目標減速度−実減速度)。そして、ステップS42で相対減速度に対応するブレーキ圧を設定し、ルーチンを抜ける。尚、本実施形態では、目標減速度を最大減速度に近い減速度(例えば0.8G)に設定しているが、車速等に応じて可変設定するようにしても良い。又、実減速度は車速センサ7で検出した車速Sを時間微分して求めたり、前後Gセンサが備えられている車両では、この前後Gセンサで検出した前後Gから求めるようにしても良い。
【0051】
BK_ECU15は、PB_ECU13で設定したブレーキ圧を読込み、対応する駆動信号をブレーキアクチュエータ23へ出力し、ブレーキホイールシリンダ23aを所定に制動動作させて、実減速度を目標減速度に一致させる。その際、スロットル弁21aが全閉状態であり、エンジンブレーキが作動しているため、ブレーキアクチュエータ23に対するブレーキ圧は、エンジンブレーキの分だけ負荷が軽減されると共に、ブレーキホイールシリンダ23aの制動動作による急減速が緩和される。
【0052】
このように、本実施形態では、すり抜け車両Mが走行レーンを変更すべく、自車両1の前方を横切った場合、そのときの横移動速度Syを算出し、この横移動速度Syと運転者についての登録情報に基づいて設定したしきい値Syoとを比較して、当該すり抜け車両Mを先行車として設定するか否かを判定するようにしたので、当該すり抜け車両Mに対する自動ブレーキの作動/非作動を、運転者の認識に応じて個別に設定することができる。その結果、良好な走行安定性を得ることができる。
【0053】
又、当該しきい値Syoは運転者がPBタイミング調整スイッチ6を操作することで調整することができるため、すり抜け車両Mに対する自動ブレーキの動作タイミングを、より運転者の認識に沿って設定することができる。
【0054】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば無線携帯機5のメモリに登録されている運転者についての登録情報は、図9に示す項目以外であっても良く、更に、認識ポイントも任意に設定することができる。
【0055】
又、本実施形態では、すり抜け車両Mを先行車両と認識した場合、当該すり抜け車両Mに対する自車両1の衝突予測時間TTCを算出するようにしているが、すり抜け車両Mを先行車として設定した場合、ACCシステムを起動させて車間距離を自動制御させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0056】
1…車両、
2…車載カメラ、
5…無線携帯機、
6…タイミング調整スイッチ、
9…ブレーキスイッチ、
11…運転支援装置、
13…プリクラッシュブレーキ制御ユニット(PB_ECU)
15…ブレーキ制御ユニット(BK_ECU)
23…ブレーキアクチュエータ、
26…エンジン、
ΔS…相対車速、
ΔSy…調整レベル、
L,L’…車間距離、
M…すり抜け車両、
S…車速、
Sy…横移動速度、
Syo…しきい値、
TTC…衝突予測時間、
To…ブレーキアシスト判定時間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて該車両の進行方向前方の走行環境を監視する前方監視手段と、
前記前方監視手段で検出した自車両前方の走行環境に基づいて先行車両を検出する先行車両検出手段と、
前記先行車両と前記車両との車間距離及び相対車速に基づいて衝突予測時間を求める衝突予測時間演算手段と、
前記衝突予測時間演算手段で求めた前記衝突予測時間が予め設定したブレーキアシスト判定時間を下回った場合、自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段と
を備える車両用運転支援装置において、
上記先行車両検出手段は、
検出した前記先行車両がすり抜け車両か否かを判定するすり抜け車両判定手段と、
前記すり抜け車両と判定した場合は、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従い、該すり抜け車両がすり抜け除外車両か否かを判定し、すり抜け除外車両と判定した場合は、該すり抜け車両を先行車から除外するすり抜け除外車両判定手段と
を有することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記車両に前記判定基準を手動で調整する調整手段が備えられている
ことを特徴とする請求項1記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記運転者についての登録情報は、前記車両からの要求に従って該車両に該認証IDを送信する無線携帯機に記憶されている
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の車両用運転支援装置。
【請求項1】
車両に搭載されて該車両の進行方向前方の走行環境を監視する前方監視手段と、
前記前方監視手段で検出した自車両前方の走行環境に基づいて先行車両を検出する先行車両検出手段と、
前記先行車両と前記車両との車間距離及び相対車速に基づいて衝突予測時間を求める衝突予測時間演算手段と、
前記衝突予測時間演算手段で求めた前記衝突予測時間が予め設定したブレーキアシスト判定時間を下回った場合、自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段と
を備える車両用運転支援装置において、
上記先行車両検出手段は、
検出した前記先行車両がすり抜け車両か否かを判定するすり抜け車両判定手段と、
前記すり抜け車両と判定した場合は、運転者についての登録情報に基づいて設定した判定基準に従い、該すり抜け車両がすり抜け除外車両か否かを判定し、すり抜け除外車両と判定した場合は、該すり抜け車両を先行車から除外するすり抜け除外車両判定手段と
を有することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記車両に前記判定基準を手動で調整する調整手段が備えられている
ことを特徴とする請求項1記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記運転者についての登録情報は、前記車両からの要求に従って該車両に該認証IDを送信する無線携帯機に記憶されている
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の車両用運転支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−206592(P2012−206592A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73349(P2011−73349)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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