説明

車両用駆動装置及びこれを用いた車両

本発明の目的は、エネルギーの利用効率を向上できる車両用駆動装置及びこれを用いた車両を提供することにある。そのために、フライホイール手段(110)は、タイヤホイール10の内部に配置され、回転する車輪の有する運動エネルギーを、増速手段(120)により増速した上で、回転エネルギーとして蓄積する。増速手段(120)とフライホイール手段(110)との間には、フライホイルクラッチ(130)が設けられている。蓄積動力伝達手段(140)は、フライホイール手段(110)に蓄積された回転エネルギーを車輪に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、タイヤの回転により得られた運動エネルギーを蓄積し、蓄積したエネルギーをタイヤに放出する車両用駆動装置及びこれを用いた車両に関する。
【背景技術】
従来、電気自動車やハイブリッド車両において、例えば、特開2003−327103号公報に記載のように、制動時のエネルギーを回収して、バッテリーに電気エネルギーとして充電する方法が知られている。
また、例えば、特開2004−72980号公報に記載のように、回生された電力で小型の電動機を高速回転させ、回転力として蓄積するフライホイルバッテリーが知られている。
【発明の開示】
しかしながら、特開2003−327103号公報に記載の方式では、回転エネルギー→発電→バッテリーへの充電と機械的エネルギーを電気に変換し、さらに、バッテリー→モータと電気エネルギーを機械的エネルギーに逆変換するため、充電する時のエネルギー損失と、その逆の利用時のエネルギー損失が大きく、実際に使えるエネルギーは25%にも満たないものであった。このため、従来より、エネルギーの利用効率の向上が求められていた。
また、特開2004−72980号公報に記載の方式では、バッテリーへの化学変化での充電とは違い、若干効率は優れるものの、電力と運動エネルギーの変換が行われるため、エネルギーの利用効率が前例とほぼ同じものあった。
本発明の目的は、エネルギーの利用効率を向上できる車両用駆動装置及びこれを用いた車両を提供することにある。
(1)上記目的を達成するために、本発明は、車両用駆動装置をフライホイル駆動装置によって構成したもので、具体的には、回転する車輪の有する運動エネルギーを回転エネルギーとして蓄積するフライホイール手段と、このフライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達する蓄積動力伝達手段とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、フライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを車輪の駆動に利用することにより、エネルギーの利用効率を向上し得るものとなる。
(2)上記(1)において、好ましくは、前記車輪と前記フライホイール手段との間に配置され、前記車輪の回転数が所定回転数以上になると、前記車輪の回転を前記フライホイール手段に伝達する駆動力伝達手段を備えるようにしたものである。
(3)上記(2)において、好ましくは、前記駆動力伝達手段は、遠心クラッチである。
(4)上記(1)において、好ましくは、前記蓄積動力伝達手段は、前記蓄積動力伝達手段から前記車輪の方向にのみ動力を伝達可能なワンウェイクラッチであるである。
(5)上記(1)において、好ましくは、前記蓄積動力伝達手段は、外部からの指令により、前記蓄積動力伝達手段から前記車輪への動力伝達を可能とするアクチュエータであり、このアクチュエータの動作を制御する制御手段を備えるようにしたものである。
(6)上記(2)において、好ましくは、前記駆動力伝達手段及び前記蓄積動力伝達手段は、外部からの指令により、前記蓄積動力伝達手段と前記車輪との間の動力伝達を開放・締結する電磁クラッチであり、この電磁クラッチの動作を制御する制御手段を備えるようにしたものである。
(7)上記(5)または(6)において、好ましくは、前記制御手段は、前記車輪を備えた車両が中間加速状態若しくは減速状態を判断すると、前記電磁クラッチを締結して、前記車輪の運動エネルギーを前記フライホイール手段に蓄積し、前記車両が発進若しくは加速状態と判定すると、前記電磁クラッチを締結して、前記フライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達するようにしたものである。
(8)上記(1)において、好ましくは、前記車輪と前記フライホイール手段との間に配置され、前記車輪の回転速度を増速して伝達する増速手段を備えるようにしたものである。
(9)上記(1)において、好ましくは、前記フライホイール手段は、前記車輪を構成するタイヤとタイヤホイールの内、このタイヤホイールの内部に配置されたものである。
(10)また、上記目的を達成するために、本発明は、複数の車輪を有し、これらの複数の車輪の少なくとも一部が動力源によって駆動される車両において、前記車輪の有する運動エネルギーを回転エネルギーとして蓄積するフライホイール手段と、このフライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達する蓄積動力伝達手段とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、フライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを車輪の駆動に利用することにより、エネルギーの利用効率を向上し得るものとなる。
(11)上記(10)において、好ましくは、前記フライホイール手段及び前記蓄積動力伝達手段は、前記車輪の内、前記動力源によって駆動されない被駆動車輪に対して備えるようにしたものである。
(12)上記(10)において、好ましくは、前記フライホイール手段及び前記蓄積動力伝達手段は、前記車輪の内、前記動力源によって駆動されない被駆動車輪及び前記動力源によって駆動される駆動車輪に対して備えるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。
図2は、本発明の一実施形態による車両用駆動装置の動作原理説明図である。
図3は、本発明の第2の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。
図4は、本発明の第2の実施形態による車両用駆動装置の動作説明のための要部断面図である。
図5は、本発明の第3の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。
図6は、本発明の第3の実施形態による車両用駆動装置の動作説明のための要部断面図である。
図7は、本発明の第4の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。
図8は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の構成を示す模式図である。
図9は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の第2の構成を示す模式図である。
図10は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した2輪車両の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図1及び図2を用いて、本発明の第1の実施形態による車両用駆動装置,具体的には、フライホイル駆動装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による車両用駆動装置の構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。
車両用駆動装置100は、タイヤホイール10の内部に設けられており、フライホイール手段110と、増速手段120と、フライホイルクラッチ130と、蓄積動力伝達手段140とを備えている。タイヤホイール10は、車両用駆動装置100に対するケーシングを兼ねている。タイヤホイール10の外周には、タイヤ20が取り付けられ、車輪を構成している。タイヤホイール10は、サスペンション構造部30に取り付けられた固定シャフト40に、軸受12A,12Bによって回動自在に支持されている。エンジンやモータ等の動力源からの駆動力は、チェーン,ベルト,ギヤ,スプラインなどにより、駆動軸50を介して、タイヤホイール10に伝達され、タイヤ20を回転駆動する。
フライホイール手段110は、フライホイールウェイト112と、フライホルディスク114とからなる。フライホルディスク114は、円盤状の形状であり、その内周部においては、固定シャフト40に対して軸受116A,116Bを介して回動自在に支持されている。フライホイールウェイト112は、フライホルディスク114の外周側に固定保持されており、車輪の運動エネルギーを回転エネルギーとして蓄積する部材である。フライホイールウェイト112は、重量が大きいほど蓄えられる運動エネルギーも大きいため、金属等の重量部材からなる。一方、フライホルディスク114は、軽量で剛性の大きなカーボン等の部材からなる。
増速手段120は、タイヤホイール10の回転駆動力(タイヤ20の回転駆動力)をフライホイール手段110に伝達して蓄積する際に、フライホイール手段110の回転が高速回転なほど蓄積されるエネルギーが大きくできるため、回転速度を増速するために用いられる。増速手段120としては、ここでは、2段構成の遊星歯車機構を用いており、プラネタリギヤ122と、リングギヤ124と、フライホイルドライブギヤ(ピニオンギヤ)126とを備えている。プラネタリギヤ122は、タイヤホイール10に固定されたプラネタリキャリア128によって回転可能に支持されている。また、プラネタリギヤ122は、第1のギヤ122Aと、第2のギヤ122Bとを備えている。リングギヤ124は、固定シャフト40に固定されたリングギヤ固定プレート129に固定されるとともに、プラネタリギヤ122と係合している。フライホイルドライブギヤ(ピニオンギヤ)126は、固定シャフト40に固定されている。タイヤホイール10の回転力は、リングギヤ124とプラネタリギヤ122とを介して、フライホイルドライブギヤ(ピニオンギヤ)126に伝達される。遊星歯車機構の増速比は、通常×3〜×5であるが、ここでは、2段の遊星歯車機構を用いることにより、×9〜×25とすることが可能であり、例えば、×16に選択されている。
フライホイルクラッチ130は、増速手段120で増速された回転駆動力をフライホイール手段110に伝達し、また、非伝達とする駆動力伝達手段であり、ここでは、遠心クラッチを用いている。すなわち、タイヤホイール10の回転数が所定数以上になると、タイヤホイール10の回転力は、増速手段120及びフライホイルクラッチ130を介して、フライホイール手段110に伝達され、所定回転数より低い場合には、タイヤホイール10の回転力は、フライホイール手段110には伝達されないものである。ここで、所定回転数とは、動力源がエンジン(内燃機関)の場合、例えば、1500rpmとする。エンジンのトルクカーブは、例えば、数千回転にピークがあり、低回転ではトルクも小さいため、フライホイール手段110の運動エネルギー蓄積のために、その小さいトルクを用いるのは得策でない。また、エンジンの燃料消費率は、低回転ほど燃料消費率が悪いものである。したがって、エンジンの出力トルクもある程度有り、しかも、燃料消費率もある程度良い状態で、フライホイール手段110に運動エネルギーを蓄積することが好ましく、その回転数は、例えば、1500rpmである。なお、エンジンと車輪の間には、変速機やデファレンシャルギヤ等の減速機構があり、その全体としての減速比を例えば3.0とすると、エンジンが1500rpmの時、車輪は500rpmとなるため、フライホイルクラッチ130は、500rpm以上で、増速手段120で増速された回転駆動力をフライホイール手段110に伝達するように設定されたものを用いればよいものである。
蓄積動力伝達手段140は、フライホイール手段110に蓄積された運動エネルギーを、タイヤホイール10に伝達して、タイヤ20を駆動する場合に用いられる。蓄積動力伝達手段140としては、例えば、ワンウェイクラッチを用いる。このワンウェイクラッチは、フライホイール手段110からは増速手段120を介してタイヤホイール10にエネルギーを伝達できるが、逆方向の増速手段120からフライホイール手段110の方向にはエネルギーを伝達できないものである。これは、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD)には、タイヤ20の回転による運動エネルギーをフライホイール手段110に蓄積できるが、減速時や制動時のように逆の場合(FWDG>FWD)には、タイヤの回転数を減速することになる。そこで、運動エネルギーの伝達は、フライホイール手段110から増速手段120の方向の一方向となるように、ワンウェイクラッチを用いている。そして、減速時や制動時には、蓄積された回転エネルギーをフライホイール手段110に保持する。
蓄積動力伝達手段140により、フライホイール手段110に蓄積された運動エネルギーを、タイヤホイール10に伝達して、タイヤ20を駆動する場合、増速手段120は、減速機構として作用するため、発進や加速などにはフライホイルウェイト122に蓄積された回転エネルギーは、減速され,そして、トルクを増大させた上で、車両駆動トルクとして利用することができる。
次に、図2を用いて、本実施形態による車両用駆動装置の原理動作について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による車両用駆動装置の動作原理説明図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
図2(B)は、空走時等において、タイヤ20からフライホイールウェイト112に運動エネルギーを蓄積している状態を示している。このときは、図2(A)に示すように、タイヤ20と、フライホイール手段110のフライホールウェイト112は、運動エネルギーを蓄積可能なように連結され、タイヤ20からフライホイールウェイト112に運動エネルギーを蓄積する。
また、図2(D)は、減速時や制動時等において、フライホイールウェイト112は、蓄積した運動エネルギーを保持している状態を示している。このときは、図2(C)に示すように、タイヤ20と、フライホイール手段110のフライホールウェイト112は非連結となり、フライホイールウェイト112は蓄積された運動エネルギーを保持している。
図2(F)は、発進時や加速時等において、フライホイールウェイト112に蓄積した運動エネルギーを、タイヤ20に伝達して、タイヤ20の駆動をアシストしている状態を示している。このときは、図2(E)に示すように、タイヤ20と、フライホイール手段110のフライホールウェイト112は、蓄積された運動エネルギーを放出可能なように連結され、フライホイールウェイト112に蓄積された運動エネルギーによってタイヤ20を駆動する。
以上のような構成により、発進時や加速時のように、大きな駆動力を必要とするときに、フライホイール手段110に蓄積された運動エネルギーによりタイヤ20を駆動することにより、発進がスムーズになり、また発進時や加速時の加速性を向上することができる。また、エンジンの馬力が小さい場合でも、発進性加速性を向上することができる。このとき、従来の回生制動や、フライホイルバッテリーのように、運動エネルギー(機械的エネルギー)を電気エネルギーに変換したり、逆に変換したりする過程がないため、エネルギーの損失が少なく、エネルギーの利用効率を向上できる。
次に、図3及び図4を用いて、本発明の第2の実施形態による車両用駆動装置の構成及び動作について説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。図4は、本発明の第2の実施形態による車両用駆動装置の動作説明のための要部断面図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態の基本的な構成は、図1に示したものと同様であるが、フライホイールウェイト122に蓄積された運動エネルギーを、タイヤ20に伝達する手段が異なっている。すなわち、本実施形態の車両用駆動装置100Aでは、蓄積動力伝達手段140を用いていないで、軸受12A,12B,116A,116Bをスラスト軸受とし、また、駆動軸50Aとタイヤホイール20Aとの間には、螺旋状の溝とピンとを設け、発進時のように、駆動軸50Aに駆動力がかかると、タイヤホイール10Aが矢印H1方向に移動し、それによって、フライホイルディスク114とフライホイルドライブギヤ126を接触させて、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達するようにしている。
すなわち、図4(A)に示す状態では、フライホイルディスク114とフライホイルクラッチ130との間には、矢印X1で示す部分にギャップがあり、フライホイルディスク114は、フライホイルドライブギヤ126と非接触状態である。それに対して、図4(B)に示すように、発進時のように、駆動軸50Aに駆動力がかかると、タイヤホイール10Aが矢印H1方向に移動し、それによって、フライホイルディスク114とフライホイルドライブギヤ126を接触させて、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達するようにしている。
なお、タイヤホイール10を矢印H1方向に移動することにより、多少タイヤ間の距離(トレッド)が変化するが、タイヤホイール10の移動量は1mm程度でよいため、トレッドの変動の影響はほとんどないものである。
本実施形態によっても、エネルギーの損失が少なく、エネルギーの利用効率を向上できる。
次に、図5及び図6を用いて、本発明の第3の実施形態による車両用駆動装置の構成及び動作について説明する。
図5は、本発明の第3の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。図6は、本発明の第3の実施形態による車両用駆動装置の動作説明のための要部断面図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態の基本的な構成は、図1に示したものと同様であるが、フライホイールウェイト122に蓄積された運動エネルギーを、タイヤ20に伝達する手段が異なっている。すなわち、本実施形態の車両用駆動装置100Bでは、蓄積動力伝達手段140を用いていないで、軸受116A,116Bをスラスト軸受としアクチュエータ142により、フライホイルディスク114を矢印H2方向に移動して、フライホイルドライブギヤ126を接触させて、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達するようにしている。
アクチュエータ142の動作を制御するため、フライホイール制御手段(FWCU)150を備えている。FWCU150は、アクセル開度信号θth,ブレーキペダル踏込み信号Br,エンジン回転数Neや車速Vおよび回転数差検出器160からの信号に基づいて、アクチュエータ142のオン・オフを制御する。回転数差検出器160は、回転数検出器162,164からの信号に基づいて、フライホイルディスク114とタイヤホイール10の回転数をそれぞれ検出する。回転数検出器162,164は、例えば磁歪素子からなる。一方、回転数検出器162,164のそれぞれの位置に対応して、フライホイルディスク114には切り欠き162Bが形成され、タイヤホイール10には切り欠き162Bが形成されている。切り欠き162Bは、フライホイルディスク114が円柱形状の固定シャフト40と接触する面の円周方向に1個以上設けられている。また、切り欠き164Bは、タイヤホイール10が円柱形状の固定シャフト40と接触する面の円周方向に1個以上設けられている。
磁歪素子を用いた回転数検出器162,164は、切り欠き162B,164Bを検出して、回転数に相当する信号を出力する。ここで、前述したように、フライホイルディスク114は、増速手段120を介してタイヤホイール10により回転駆動されるため、両者には、増速手段120の増速比に相当する回転数差がある。ここで、例えば、増速比Gを16とすると、(切り欠き162Bの個数):(切り欠き164Bの個数)=1:16とすることにより、フライホイルディスク114が16回転した時の回転数検出器162の検出値と、タイヤホイール10が1回転したときの回転数検出器164の検出値を等しくできる。したがって、あたかも、増速手段120がない場合と同様にして、回転数差検出器160は、回転数検出器162,164の差をとることにより、あたかも、増速手段120がない場合と同様にして、フライホイルディスク114とタイヤホイール10との回転数差を検出することができる。ここでいう回転数差とは、実際の回転数差ではなく、タイヤホイール10からフライホイルディスク114に対して運動エネルギーを蓄積可能かどうかを判定できる基準である。すなわち、前述したように、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD)には、タイヤ20の回転による運動エネルギーをフライホイール手段110に蓄積できるが、減速時や制動時のように逆の場合(FWDG>FWD)には、蓄積できないことになる。そこで、回転数差検出器160は、蓄積した運動エネルギーを放出できるかできないかの基準を示す信号を、出力するものである。
ここで、図6を用いて、アクチュエータ142の具体的な構成について説明する。アクチュエータ142は、固定シャフト40の内部に設けられており、矢印H3方向に往復動可能な構成である。図6(A)に示す状態では、フライホイルディスク114とフライホイルクラッチ130との間には、矢印X1で示す部分にギャップがあり、フライホイルディスク114は、フライホイルドライブギヤ126と非接触状態である。それに対して、アクチュエータ152をオンすると、図6(B)に示すように、フライホイルディスク114が矢印H3方向に移動し、それによって、フライホイルディスク114とフライホイルドライブギヤ126を接触させて(矢印X2部)、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達するようにしている。
次に、FWCU150の制御内容について説明する。FWCU150は、回転数差検出器160の検出信号により、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD),すなわち、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、タイヤホイール10の回転数TFに増速比Gを掛けた回転数(G・TF)が低い場合(G・TF<FWD)の場合であって、発進時(車速Vが0〜3km/hで、アクセル開度が全開の1/8以上の場合)や、加速時(アクセル開度θthの時間変化分が所定値よりも大きい場合)に、アクチュエータ142を動作させて、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達する。
なお、回転数検出器164に代えて、車速センサの信号により、タイヤホイールの回転数に相当する信号を得て、この車速センサの出力と、回転数検出器162の出力により、制御するようにしてもよいものである。
本実施形態によっても、エネルギーの損失が少なく、エネルギーの利用効率を向上できる。
次に、図7を用いて、本発明の第4の実施形態による車両用駆動装置の構成及び動作について説明する。
図7は、本発明の第4の実施形態による車両用駆動装置の構成を示す断面図である。なお、図1,図5と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態の基本的な構成は、図1に示したものと同様であるが、図1に示したワンウェイクラッチからなるフライホイルクラッチ130及び蓄積動力伝達手段140の代わりに、本実施形態の車両用駆動装置100Cでは、電磁クラッチ130Aを用いている。電磁クラッチ130Aは、FWCU150Aによってオン・オフ(開放・締結)制御され、タイヤ20の運動エネルギーをフライホイールウェイト122に蓄積したり、フライホイールウェイト122に蓄積された運動エネルギーを、タイヤ20に伝達する制御を実行する。
次に、FWCU150Aの制御内容について説明する。フライホイール手段110へのエネルギーの蓄積は、中間加速時に行われる。すなわち、FWCU150Aは、回転数差検出器160の検出信号により、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD),すなわち、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、タイヤホイール10の回転数TFに増速比Gを掛けた回転数(G・TF)が高い場合(G・TF>FWD)の場合であって、エンジン回転数Neが1500rpm〜4000rpmの時に、中間加速時と判断して、電磁クラッチ130Aをオンして、クラッチを締結し、タイヤ20の回転による運動エネルギーを増速手段120を介してフライホールウェイト112に蓄積する。
また、フライホイール手段110へのエネルギーの蓄積は、減速時にも行われる。すなわち、FWCU150Aは、回転数差検出器160の検出信号により、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD),すなわち、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、タイヤホイール10の回転数TFに増速比Gを掛けた回転数(G・TF)が高い場合(G・TF>FWD)の場合であって、アクセル開度θthが0で、ブレーキペダル踏込み信号Brがオンの時に、減速時と判断して、電磁クラッチ130Aをオンして、クラッチを締結し、タイヤ20の回転による運動エネルギーを増速手段120を介してフライホールウェイト112に蓄積する。また、同じく(G・TF>FWD)の場合であって、アクセル開度θthが0で、自動変速機の場合にオーバドライブ(OD)がオフとされたり、Dレンジから2レンジにシフトダウンされた場合にも、減速時と判断して、電磁クラッチ130Aをオンして、クラッチを締結し、タイヤ20の回転による運動エネルギーを増速手段120を介してフライホールウェイト112に蓄積する。
一方、フライホイール手段110からのエネルギーの放出時には、FWCU150Aは、回転数差検出器160の検出信号により、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、フライホイルドライブギヤ126の回転数FWDGが低い場合(FWDG<FWD),すなわち、フライホイールディスク114の回転数FWDに対して、タイヤホイール10の回転数TFに増速比Gを掛けた回転数(G・TF)が低い場合(G・TF<FWD)の場合であって、発進時(車速Vが0〜3km/hで、アクセル開度が全開の1/8以上の場合)や、加速時(アクセル開度θthの時間変化分が所定値よりも大きい場合)に、アクチュエータ142を動作させて、フライホールウェイト112に蓄積された運動エネルギーを増速手段120を介して、タイヤ20に伝達する。
以上の中間加速時,減速時,発進・加速時の場合に以外には、電磁クラッチ130Aはオフ(開放状態)となり、フライホイール手段110に蓄積された運動エネルギーは、保持されている。
本実施形態によっても、エネルギーの損失が少なく、エネルギーの利用効率を向上できる。
次に、図8を用いて、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の構成を示す模式図である。なお、図1〜図7と同一符号は、同一部分を示している。
2つの前輪WH−FL,WH−FRは、エンジンENGによって駆動される駆動輪である。エンジンENGは、エンジンコントロール装置ECUによって制御される。後輪WH−RL,WH−RRは、動力源には接続されていない被駆動輪である。この後輪WH−RL,WH−RRの内部には、図5に示された車両用駆動装置100B若しくは図7に示された車両用駆動装置100Cが内蔵されている。車両用駆動装置100B(100C)は、FWCU150(150A)によって制御される。図5や図7で説明したアクセル開度信号θth,ブレーキペダル踏込み信号Br,エンジン回転数Neや車速Vは、エンジンコントロール装置ECUからFWCU150(150A)に与えられる。
以上のように、被駆動輪の内部に車両用駆動装置を備えることにより、中間加速時のタイヤの回転による運動エネルギーを蓄積し、発進・加速時に蓄積したエネルギーを放出することにより、発進性,加速性が向上する。また、通常は2輪駆動(前輪駆動)であるが、発進・加速時には4輪駆動となり、走行性が向上する。
なお、前述の例は、前輪駆動であるが、後輪駆動車両の場合には、被駆動輪である前輪の内部に車両用駆動装置を備えるようにしてもよいものである。また、動力源としては、エンジンに限らず、モータを用いてもよいものである。さらに、前後輪の一方をエンジンで駆動し、他方の車輪をモータで駆動するハイブリット自動車において、モータ駆動輪側に車両用駆動装置を備えることにより、発進・加速時のモータトルクをアシストすることができる。
また、車両用駆動装置としては、図1や図3に示した車両用駆動装置100,100Aを用いることもでき、このときは、FWCU150(150A)は不要である。
次に、図9を用いて、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の第2の構成及び動作について説明する。
図9は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した4輪車両の第2の構成を示す模式図である。なお、図1〜図8と同一符号は、同一部分を示している。
2つの前輪WH−FL,WH−FRは、エンジンENGによって駆動される駆動輪である。エンジンENGは、エンジンコントロール装置ECUによって制御される。後輪WH−RL,WH−RRは、動力源には接続されていない被駆動輪である。前輪WH−FL,WH−FR及び後輪WH−RL,WH−RRの内部には、図5に示された車両用駆動装置100B若しくは図7に示された車両用駆動装置100Cが内蔵されている。車両用駆動装置100B(100C)は、FWCU150(150A)によって制御される。図5や図7で説明したアクセル開度信号θth,ブレーキペダル踏込み信号Br,エンジン回転数Neや車速Vは、エンジンコントロール装置ECUからFWCU150(150A)に与えられる。
以上のように、被駆動輪の内部に車両用駆動装置を備えることにより、中間加速時のタイヤの回転による運動エネルギーを蓄積し、発進・加速時に蓄積したエネルギーを4輪のタイヤより放出することにより、発進性,加速性がさらに向上する。また、通常は2輪駆動(前輪駆動)であるが、発進・加速時には4輪駆動となり、走行性が向上する。
なお、動力源としては、エンジンに限らず、モータを用いてもよいものである。さらに、前後輪の一方をエンジンで駆動し、他方の車輪をモータで駆動するハイブリット自動車に適用してもよいものである。また、車両用駆動装置としては、図1や図3に示した車両用駆動装置100,100Aを用いることもでき、このときは、FWCU150(150A)は不要である。
次に、図10を用いて、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した2輪車両の構成及び動作について説明する。
図10は、本発明の各実施形態による車両用駆動装置を搭載した2輪車両の構成を示す模式図である。なお、図1〜図7と同一符号は、同一部分を示している。
エンジンEの駆動力は、チェーンやシャフト等の伝達手段TRによって後輪WH−Rに伝達される。前輪WH−Fは、動力源には接続されていない被駆動輪である。この前輪WH−Fの内部には、図3に示された車両用駆動装置100Aが内蔵されている。
以上のように、被駆動輪の内部に車両用駆動装置を備えることにより、中間加速時のタイヤの回転による運動エネルギーを蓄積し、発進・加速時に蓄積したエネルギーを放出することにより、発進性,加速性が向上する。また、フライホイール手段は、ジャイロ効果を有するため、走行中の安定性が向上する。
なお、前述の例では、4輪車両であるが、4輪に限られるものでなく、また、乗用に限らず、貨物車両,軽車両,荷役補助車両,鉄道車両等にも適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、車輪,車両のエネルギーの利用効率を向上できるものとなる。
【図1】


【図3】


【図5】


【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する車輪の有する運動エネルギーを回転エネルギーとして蓄積するフライホイール手段と、
このフライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達する蓄積動力伝達手段とを備えたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記車輪と前記フライホイール手段との間に配置され、前記車輪の回転数が所定回転数以上になると、前記車輪の回転を前記フライホイール手段に伝達する駆動力伝達手段を備えたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用駆動装置において、
前記駆動力伝達手段は、遠心クラッチであることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記蓄積動力伝達手段は、前記蓄積動力伝達手段から前記車輪の方向にのみ動力を伝達可能なワンウェイクラッチであるであることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記蓄積動力伝達手段は、外部からの指令により、前記蓄積動力伝達手段から前記車輪への動力伝達を可能とするアクチュエータであり、
このアクチュエータの動作を制御する制御手段を備えたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項6】
請求項2記載の車両用駆動装置において、
前記駆動力伝達手段及び前記蓄積動力伝達手段は、外部からの指令により、前記蓄積動力伝達手段と前記車輪との間の動力伝達を開放・締結する電磁クラッチであり、
この電磁クラッチの動作を制御する制御手段を備えたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項7】
請求項5若しくは請求項6のいずれかに記載の車両用駆動装置において、
前記制御手段は、前記車輪を備えた車両が中間加速状態若しくは減速状態を判断すると、前記電磁クラッチを締結して、前記車輪の運動エネルギーを前記フライホイール手段に蓄積し、前記車両が発進若しくは加速状態と判定すると、前記電磁クラッチを締結して、前記フライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項8】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記車輪と前記フライホイール手段との間に配置され、前記車輪の回転速度を増速して伝達する増速手段を備えたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項9】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記フライホイール手段は、前記車輪を構成するタイヤとタイヤホイールの内、このタイヤホイールの内部に配置されたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項10】
複数の車輪を有し、これらの複数の車輪の少なくとも一部が動力源によって駆動される車両において、
前記車輪の有する運動エネルギーを回転エネルギーとして蓄積するフライホイール手段と、
このフライホイール手段に蓄積された回転エネルギーを前記車輪に伝達する蓄積動力伝達手段とを備えたことを特徴とする車両。
【請求項11】
請求項10記載の車両において、
前記フライホイール手段及び前記蓄積動力伝達手段は、前記車輪の内、前記動力源によって駆動されない被駆動車輪に対して備えられたことを特徴とする車両。
【請求項12】
請求項10記載の車両において、
前記フライホイール手段及び前記蓄積動力伝達手段は、前記車輪の内、前記動力源によって駆動されない被駆動車輪及び前記動力源によって駆動される駆動車輪に対して備えられたことを特徴とする車両。

【国際公開番号】WO2005/100068
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519122(P2006−519122)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005359
【国際出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】