説明

車両用駆動装置

【課題】ケース内に貯留される液状流体の流動性を向上させ、液面の平準化を図ることができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】後輪駆動装置1は、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aを収容し、第1電動機2Aと動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供されるオイルを貯留する左貯留部RLを有する第1ケース11Lと、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bを収容し、第2電動機2Bと動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部RRを有する第2ケース11Rと、を有する。さらに、後輪駆動装置1は、左貯留部RLと右貯留部RRとを連通する第1左右連通路FPと、第1左右連通路FPと並列に形成され、左貯留部RLと右貯留部RRとを連通する第2左右連通路SPと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左車輪と右車輪をそれぞれ駆動する一対の電動機を少なくとも備える車両用駆動装置に関し、より詳細には、各電動機をそれぞれ収容する各ケース内に貯留された液状流体の流動性を考慮した車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両の駆動装置では、左右の車軸にそれぞれ独立して駆動力を出力可能な一対の電動機を備えると共に、車軸と電動機間の動力伝達経路上に遊星歯車式減速機が設けられる。また、動力伝達経路上には、電動機の一方向の回転動力を車軸に伝達するための一方向クラッチと、遊星歯車式減速機の1つの回転要素とケースとの断接により、電動機の双方向の回転動力を車軸に伝達する油圧ブレーキとが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような車両用駆動装置では、ケース内には、一対の電動機や動力伝達経路を潤滑、冷却するためにオイルが貯留されているが、オイルの流動が適切に行われないと、ケース内で油位の不均一が生じ、オイルの攪拌抵抗が増加するなどの課題がある。特許文献1では、油圧ブレーキのピストンを作動するオイルについて記載されているが、ケース内に貯留されたオイルの流動性についての記載はない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケース内に貯留される液状流体の流動性を向上させ、液面の平準化を図ることができる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
左車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr)を駆動する第1電動機(例えば、後述の実施形態の第1電動機2A)と、
前記第1電動機を収容し、前記第1電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する左貯留部(例えば、後述の実施形態の左貯留部RL)を有する第1ケース(例えば、後述の実施形態の第1ケース11L)と、
右車輪(例えば、後述の実施形態の右後輪RWr)を駆動する第2電動機(例えば、後述の実施形態の第2電動機2B)と、
前記第2電動機を収容し、前記第2電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部(例えば、後述の実施形態の右貯留部RR)を有する第2ケース(例えば、後述の実施形態の第2ケース11R)と、
前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第1左右連通路(例えば、後述の実施形態の第1左右連通路FP)と、
該第1左右連通路と並列に形成され、前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第2左右連通路(例えば、後述の実施形態の第2左右連通路SP)と、
を有する車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)を特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記液状流体を外部に排出する排液口(例えば、後述の実施形態の排液口91)と、前記第1左右連通路とを連通する排液通路(例えば、後述の実施形態のドレン通路90)をさらに備え、
前記第2左右連通路は、前記排液通路と交差して連通することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、
前記第1左右連通路は、前記液状流体の供給に用いられる液状流体供給装置の吸入口(例えば、後述の実施形態のストレーナ71の吸入口)が配設される中央容積室(例えば、後述の実施形態のストレーナ収容室86)を備え、
前記左貯留部と前記中央容積室は、左中連通路(例えば、後述の実施形態の貫通孔87a,87b)を介して連通し、
前記右貯留部と前記中央容積室は、右中連通路(例えば、後述の実施形態の貫通孔88)を介して連通することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記第2左右連通路の底部(例えば、後述の実施形態の底部SPa)は、前記左中連通路の底部(例えば、後述の実施形態の底部87ba)と前記右中連通路の底部(例えば、後述の実施形態の88a)の少なくとも一方より低いことを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、
左車輪を駆動する第1電動機と、
前記第1電動機と前記左車輪との動力伝達経路上に設けられた第1変速機(例えば、後述の実施形態の第1遊星歯車式減速機12A)と、
前記第1電動機及び前記第1変速機を収容し、前記第1電動機と前記動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する左貯留部を有する第1ケースと、
右車輪を駆動する第2電動機と、
前記第2電動機と前記右車輪との動力伝達経路上に設けられた第2変速機(例えば、後述の実施形態の第2遊星歯車式減速機12B)と、
前記第2電動機及び前記第2変速機を収容し、前記第2電動機と前記動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部を有する第2ケースと、
前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第1左右連通路と、
該第1左右連通路と並列に形成され、前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第2左右連通路と、
を有する車両用駆動装置を特徴とする。
【0011】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加えて、
前記液状流体を外部に排出する排液口と、前記第1左右連通路とを連通する排液通路をさらに備え、
前記第2左右連通路は、前記排液通路と交差して連通することを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の構成に加えて、
前記第1左右連通路は、前記液状流体の供給に用いられる液状流体供給装置の吸入口が配設される中央容積室を備え、
前記左貯留部と前記中央容積室は、左中連通路を介して連通し、
前記右貯留部と前記中央容積室は、右中連通路を介して連通することを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の構成に加えて、
前記第2左右連通路の底部は、前記左中連通路の底部と前記右中連通路の底部の少なくとも一方より低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、第1及び第2左右連通路によって、左貯留部及び右貯留部の液状流体の流動性が向上し、液面の平準化を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、第1左右連通路に加えて、第2左右連通路から排液口に至る経路が増えることで、排液性が向上する。特に、第2左右連通路は、排液口までの距離が短いので、排液性をより向上することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、左貯留部及び右貯留部に比べ液位が安定している第1左右連通路に液状流体供給装置の吸入口が配設されるので、液状流体供給装置へのエアの吸入を抑制することができる。また、第1左右連通路に中央容積室が区画されているので、エアの吸入をさらに低減することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、左中及び右中連通路を越えられなかった液状流体を第2左右連通路を介して排出することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、第1及び第2変速機を有する構成においても、第1及び第2左右連通路によって、左貯留部及び右貯留部の液状流体の流動性が向上し、液面の平準化を図ることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、第1左右連通路に加えて、第2左右連通路から排液口に至る経路が増えることで、排液性が向上する。特に、第2左右連通路は、排液口までの距離が短いので、排液性をより向上することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、左貯留部及び右貯留部に比べ液位が安定している第1左右連通路に液状流体供給装置の吸入口が配設されるので、液状流体供給装置へのエアの吸入を抑制することができる。また、第1左右連通路に中央容積室が区画されているので、エアの吸入をさらに低減することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、左中及び右中連通路を越えられなかった液状流体を第2左右連通路を介して排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両用駆動装置を搭載可能な車両の一実施形態であるハイブリッド車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図5(b)に示すII−II線に沿って、第1実施形態の後輪駆動装置全体を破断した断面図である。
【図3】図2に示す後輪駆動装置の部分拡大図である。
【図4】図1の車両用駆動装置がフレームに搭載された状態を示す斜視図である。
【図5】(a)は、中央ケース周辺の構造を示す正面図であり、(b)は、(a)の右方斜視図であり、(c)は、(a)の左方斜視図である。
【図6】(a)は、中央ケースの背面図であり、(b)は、中央ケースの右側面図であり、(c)は、中央ケースの正面図であり、(d)は、中央ケースの左側面図である。
【図7】図6(b)のVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】図6(c)のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図6(c)のIX−IX線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る車両用駆動装置は、電動機を車輪駆動用の駆動源とするものであり、例えば、図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。以下の説明では車両用駆動装置を後輪駆動用として用いる場合を例に説明するが、前輪駆動用に用いてもよい。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。図1中、符号8は車両全体を制御するための制御装置である。
【0024】
先ず、本発明に係る第1実施形態の車両用駆動装置について、図2〜図4に基づいて説明する。
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、図3は、図2の部分拡大図である。同図において、符号11は、後輪駆動装置1のケースであり、ケース11は、車幅方向略中央部に配置される中央ケース11Mと、中央ケース11Mを挟むように中央ケース11Mの左右に配置される側方ケース11A、11Bと、から構成され、全体が略円筒状に形成される。ケース11は、その内部に、後輪Wr用の車軸10A、10Bと、車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、これら電動機2A,2Bと左右後輪Wrとの動力伝達経路上に設けられ、これら電動機2A、2Bの駆動回転を減速する第1及び第2変速機としての第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bとが、同一軸線上に配置されている。この車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを駆動制御し、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを駆動制御する。車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは、ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。
【0025】
側方ケース11A、11Bの中央ケース11M側には、それぞれ径方向内側に延びる隔壁18A、18Bが設けられ、側方ケース11A、11Bと隔壁18A、18Bとの間には、第1及び第2電動機2A、2Bがそれぞれ配置される。また、中央ケース11Mと隔壁18A、18Bとに囲まれた空間には、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bが配置されている。なお、図2〜9中の矢印は、後輪駆動装置1が車両に搭載された状態における位置関係を示している。
【0026】
後輪駆動装置1には、ケース11の内部と外部を連通するブリーザ装置40が設けられ、内部の空気が過度に高温・高圧とならないように内部の空気をブリーザ室41を介して外部に逃がすように構成される。ブリーザ室41は、ケース11の鉛直方向上方に配置され、中央ケース11Mの外壁と、中央ケース11M内に側方ケース11A側に略水平に延設された第1円筒壁43と、側方ケース11B側に略水平に延設された第2円筒壁44と、第1及び第2円筒壁43、44の内側端部同士をつなぐ左右分割壁45と、第1円筒壁43の側方ケース11A側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47
Aと、第2円筒壁44の側方ケース11B側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Bと、により形成された空間により構成される。
【0027】
ブリーザ室41の下面を形成する第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45は、第1円筒壁43が第2円筒壁44より径方向内側に位置し、左右分割壁45が、第2円筒壁44の内側端部から縮径しつつ屈曲しながら第1円筒壁43の内側端部まで延設され、さらに径方向内側に延設されて略水平に延設された第3円筒壁46に達する。第3円筒壁46は、第1円筒壁43と第2円筒壁44の両外側端部より内側に且つその略中央に位置している。
【0028】
また、中央ケース11Mには、ブリーザ室41と外部とを連通する外部連通路49がブリーザ室41の鉛直方向上面に接続される。外部連通路49のブリーザ室側端部49aは、鉛直方向下方を指向して配置されている。従って、オイルが外部連通路49を通って外部に排出されるのが抑制される。
【0029】
第1及び第2電動機2A、2Bは、ステータ14A、14Bがそれぞれ側方ケース11A、11Bに固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸上に相対回転可能となるように側方ケース11A、11Bの端部壁17A、17Bと隔壁18A、18Bに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。
【0030】
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して出力されるようになっている。
【0031】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはプラネタリキャリア23A、23Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して隔壁18A、18Bに支持されている。
【0032】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径でケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。この実施形態の場合、リングギヤ24A、24Bの径方向外縁は、第1ピニオン26A、26Bの車軸10A、10Bの中心からの最大距離よりも小さくなるように設定されている。
【0033】
ギヤ部28A、28Bは、中央ケース11Mの左右分割壁45の内径側端部に形成された第3円筒壁46を挟んで軸方向に対向している。小径部29A、29Bは、その外周面がそれぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように互いに連結されて構成されている。
【0034】
ケース11を構成する中央ケース11Mの第2円筒壁44とリングギヤ24Bのギヤ部28Bとの間には空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24Bに対する制動手段を構成する油圧ブレーキ60が第1ピニオン26Bと径方向でオーバーラップし、第2ピニオン27Bと軸方向でオーバーラップするように配置されている。油圧ブレーキ60は、第2円筒壁44の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35と、リングギヤ24Bのギヤ部28Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36が軸方向に交互に配置され、これらのプレート35,36が環状のピストン37によって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37は、中央ケース11Mの左右分割壁45と第3円筒壁46間に形成された環状のシリンダ室に進退自在に収容されており、さらに第3円筒壁46の外周面に設けられた受け座38に支持される弾性部材39によって、常時、固定プレート35と回転プレート36とを解放する方向に付勢される。
【0035】
また、さらに詳細には、左右分割壁45とピストン37の間はオイルが直接導入される作動室Sとされ、作動室Sに導入されるオイルの圧力が弾性部材39の付勢力に勝ると、ピストン37が前進(右動)し、固定プレート35と回転プレート36とが相互に押し付けられて締結することとなる。また、弾性部材39の付勢力が作動室Sに導入されるオイルの圧力に勝ると、ピストン37が後進(左動)し、固定プレート35と回転プレート36とが離間して解放することとなる。なお、油圧ブレーキ60は液状流体供給装置としての電動オイルポンプ70(図4参照)に接続されている。
【0036】
この油圧ブレーキ60の場合、固定プレート35がケース11を構成する中央ケース11Mの左右分割壁45から伸びる第2円筒壁44に支持される一方で、回転プレート36がリングギヤ24Bのギヤ部28Bに支持されているため、両プレート35、36がピストン37によって押し付けられると、両プレート35、36間の摩擦締結によってリングギヤ24Bに制動力が作用し固定される。その状態からピストン37による締結が解放されると、リングギヤ24Bの自由な回転が許容される。なお、上述したように、リングギヤ24A、24Bは互いに連結されているため、油圧ブレーキ60が締結することによりリングギヤ24Aにも制動力が作用し固定され、油圧ブレーキ60が解放することによりリングギヤ24Aも自由な回転が許容される。
【0037】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、第3円筒壁46により位置決めされるとともに、回り止めされている。
【0038】
一方向クラッチ50は、車両3が電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、車輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに車輪Wr側の逆方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。
【0039】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、電動機2A、2Bと車輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60とが並列に設けられている。なお、油圧ブレーキ60は、車両の走行状態や一方向クラッチ50の係合・非係合状態に応じて、オイルポンプ70から供給されるオイルの圧力により、解放状態、弱締結状態、締結状態に制御される。例えば、車両3が電動機2A、2Bの力行駆動により前進する時(低車速時、中車速時)は、一方向クラッチ50が締結するため動力伝達可能な状態となるが油圧ブレーキ60が弱締結状態に制御されることで、電動機2A、2B側からの順方向の回転動力の入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、電動機2A、2B側と車輪Wr側とで動力伝達不能になることが抑制される。また、車両3が内燃機関4及び/又は電動機5の力行駆動により前進する時(高車速時)は、一方向クラッチ50が非係合となりさらに油圧ブレーキが解放状態に制御されることで、電動機2A、2Bの過回転が防止される。一方、車両3の後進時や回生時には、一方向クラッチ50が非係合となるため油圧ブレーキ60が締結状態に制御されることで、電動機2A、2B側からの逆方向の回転動力が車輪Wr側に出力され、又は車輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力される。
【0040】
また、図2に示すように、本実施形態では、左側方ケース11Aと中央ケース11Mは、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aを収容する本発明の第1ケース11Lを構成し、また、右側方ケース11Bと中央ケース11Mは、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bを収容する第2ケース11Rを構成している。そして、第1ケース11Lは、第1電動機2Aと動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体としてのオイルを貯留する左貯留部RLを有し、第2のケース11Rは、第2電動機2Bと動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供されるオイルを貯留する右貯留部RRを有する。
【0041】
図5〜図9に示すように、中央ケース11Mの第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面は、ブリーザ室41を形成する以外の部分において外部に露出しており、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面には、その軸方向両端部から半径方向に張り出した一対の張り出し部81,82が形成されている。
【0042】
そして、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の斜め下方には、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面、これら外周面の下方に形成される壁部83、この壁部83の下方から前方へ延出する底部84、これら外周面の中間部から前方に延出する上壁85、及び一対の張り出し部81,82によって、液状流体供給装置としてのストレーナ71を収容するストレーナ収容室(中央容積室)86が形成されている。このストレーナ収容室86の前方開口は、電動オイルポンプ70が取り付けられる蓋部材72(図4参照。)によって塞がれており、ストレーナ71の排出口71aは電動オイルポンプ70に接続されている。このため、ストレーナ71の下面に設けられた吸入口(図示せず)から吸入されたオイルはストレーナ71によって異物を除去され、電動オイルポンプ70へと送られる。
【0043】
ストレーナ収容室86を形成する一対の張り出し部81,82には、左貯留部RLとストレーナ収容室86とを連通する左中連通路としての貫通孔87a,87bと、右貯留部RRとストレーナ収容室86とを連通する右中連通路としての貫通孔88とがそれぞれ形成されている。これにより、左貯留部RLと右貯留部RRは、ストレーナ収容室86によって構成される第1左右連通路FPを介して連通する。
【0044】
下方の壁部83には、一端がストレーナ収容室86に臨んで前後方向に貫通する排液通路としてのドレン通路90が形成されており、ドレン通路90の後方の他端は、オイルを外部に排出する排液口91を形成している。この排液口91は、ドレンボルト92によって閉塞されており、ドレンボルト92を取り外すことでオイルを外部に排出する。また、下方の壁部83には、ドレン通路90と交差して車幅方向に貫通し、左貯留部RLと右貯留部RRとを連通する第2左右連通路SPが形成されている。従って、第2左右連通路SPは、ストレーナ収容室86によって構成される第1左右連通路FPと並列に形成される。
【0045】
なお、ストレーナ収容室86は、壁部83を介さずに、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面と、底部84とが連続している場合には、これら外周面と底部84との境界部分にドレン通路90が形成され、第2左右連通路SPもこの境界部分に形成される。
【0046】
また、図6に示すように、この第2左右連通路SPの底部SPaは、左中連通路としての貫通孔87bの底部87baと右中連通路としての貫通孔88の底部88aよりも低く形成されている。これにより、2つの貫通孔87b,88を越えられなかったオイルが、第2左右連通路SPから排出可能となる。なお、第2左右連通路SPは、図6(d)及び図7に示すように、その円周方向位置において、ドレン通路90から左方の張り出し部81まで大きく切り欠いて形成されている。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の後輪駆動装置1によれば、互いに並列に形成された、左貯留部RLと右貯留部RRとを連通する第1及び第2左右連通路FP,SPによって、左貯留部RL及び右貯留部RRのオイルの流動性が向上し、油面の平準化を図ることができる。また、一方の左右連通路FP,SPに先天的に障害物が置かれた場合や、後天的に異物が侵入した場合にも他方の左右連通路FP,SPによって左貯留部RL及び右貯留部RRの流動性を確保することができる。
【0048】
また、第2左右連通路SPは、排液口91と第1左右連通路FPとを連通するドレン通路90と交差して連通するので、第1左右連通路FPに加えて、第2左右連通路SPから排液口91に至る経路が増えることで、排油性が向上する。特に、第2左右連通路SPは、排液口91までの距離が短いので、排油性をより向上することができる。
【0049】
また、第1左右連通路FPは、オイルの供給に用いられるストレーナ71の吸入口が配設されるストレーナ収容室86を備え、左貯留部RRとストレーナ収容室86は、貫通孔87a,87bを介して連通し、右貯留部RLとストレーナ収容室86は、貫通孔88を介して連通する。これにより、左貯留部RR及び右貯留部RLに比べ液位が安定している第1左右連通路FPにストレーナ71の吸入口が配設されるので、ストレーナ71及びオイルポンプ70へのエアの吸入を抑制することができる。また、第1左右連通路FPにストレーナ収容室86が区画されているので、エアの吸入をさらに低減することができる。
【0050】
また、第2左右連通路SPの底部SPaは、貫通孔87bの底部87baと貫通孔88の底部88aより低いので、貫通孔87b,88を越えられなかったオイルを第2左右連通路SPを介して排出することができる。
【0051】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
また、電動機2A、2Bの出力軸と車軸10A、10Bとは同軸上に配置される必要はない。
また、前輪駆動装置6を内燃機関4を用いずに電動機5を唯一の駆動源とするものでもよい。
【0052】
本実施形態では、左側方ケース11Aと中央ケース11Mとで第1ケース11Lを、また、右側方ケース11Bと中央ケース11Mとで第2ケース11Rをそれぞれ構成している。しかしながら、本発明の第1ケース11Lは、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aを収容し、左貯留部RLを有するものであれば、また、第2ケース11Rは、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bを収容し、右貯留部RRを有するものであれば、この構成に限定されるものでない。
【0053】
さらに、上記実施形態の後輪駆動装置1は、第1及び第2遊星歯車式減速機12A,12Bを有しない構成であっても、上記実施形態の効果を奏することができる。即ち、本発明は、左車輪を駆動する第1電動機と、第1電動機を収容し、第1電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する左貯留部を有する第1ケースと、右車輪を駆動する第2電動機と、第2電動機を収容し、第2電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部を有する第2ケースと、左貯留部と右貯留部とを連通する第1左右連通路と、第1左右連通路と並列に形成され、左貯留部と右貯留部とを連通する第2左右連通路と、を有する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 後輪駆動装置(車両用駆動装置)
2A 第1電動機
2B 第2電動機
11 ケース
12A 第1遊星歯車式減速機(第1変速機)
12B 第2遊星歯車式減速機(第2変速機)
21A、21B サンギヤ(第2の回転要素)
22A、22B プラネタリギヤ(2連ピニオン)
23A、23B プラネタリキャリア(キャリア、第3の回転要素)
24A、24B リングギヤ(第1の回転要素)
26A、26B 第1ピニオン(大径ピニオン)
27A、27B 第2ピニオン(小径ピニオン)
35 固定プレート
36 回転プレート
49 外部連通路
50 一方向クラッチ(一方向動力伝達手段)
60 油圧ブレーキ(断接手段)
87a,87b 貫通孔(左中連通路)
88 貫通孔(右中連通路)
FP 第1左右連通路
LWr 左後輪(左車輪)
RWr 右後輪(右車輪)
RL 左貯留部
RR 右貯留部
SP 第2左右連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左車輪を駆動する第1電動機と、
前記第1電動機を収容し、前記第1電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する左貯留部を有する第1ケースと、
右車輪を駆動する第2電動機と、
前記第2電動機を収容し、前記第2電動機の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部を有する第2ケースと、
前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第1左右連通路と、
該第1左右連通路と並列に形成され、前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第2左右連通路と、
を有することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記液状流体を外部に排出する排液口と、前記第1左右連通路とを連通する排液通路をさらに備え、
前記第2左右連通路は、前記排液通路と交差して連通することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1左右連通路は、前記液状流体の供給に用いられる液状流体供給装置の吸入口が配設される中央容積室を備え、
前記左貯留部と前記中央容積室は、左中連通路を介して連通し、
前記右貯留部と前記中央容積室は、右中連通路を介して連通することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第2左右連通路の底部は、前記左中連通路の底部と前記右中連通路の底部の少なくとも一方より低いことを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
左車輪を駆動する第1電動機と、
前記第1電動機と前記左車輪との動力伝達経路上に設けられた第1変速機と、
前記第1電動機及び前記第1変速機を収容し、前記第1電動機と前記動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する左貯留部を有する第1ケースと、
右車輪を駆動する第2電動機と、
前記第2電動機と前記右車輪との動力伝達経路上に設けられた第2変速機と、
前記第2電動機及び前記第2変速機を収容し、前記第2電動機と前記動力伝達経路の少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を貯留する右貯留部を有する第2ケースと、
前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第1左右連通路と、
該第1左右連通路と並列に形成され、前記左貯留部と前記右貯留部とを連通する第2左右連通路と、
を有することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項6】
前記液状流体を外部に排出する排液口と、前記第1左右連通路とを連通する排液通路をさらに備え、
前記第2左右連通路は、前記排液通路と交差して連通することを特徴とする請求項5に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記第1左右連通路は、前記液状流体の供給に用いられる液状流体供給装置の吸入口が配設される中央容積室を備え、
前記左貯留部と前記中央容積室は、左中連通路を介して連通し、
前記右貯留部と前記中央容積室は、右中連通路を介して連通することを特徴とする請求項5または6に記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記第2左右連通路の底部は、前記左中連通路の底部と前記右中連通路の底部の少なくとも一方より低いことを特徴とする請求項7に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222905(P2012−222905A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84621(P2011−84621)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】