説明

車両用駐車ブレーキ装置

【課題】両駐車ブレーキに連結されたインナワイヤに引張り力を円滑に分配することができ、経時変化により作動音が高くなることを防止可能な車両用駐車ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】太陽歯車21,21Cと、環状内歯歯車23,23B,23Cと、キャリア25,25Cと、キャリアに偏心して回転自在に支持された遊星歯車22,22Cよりなる遊星歯車機構20,20Cを用意し、電動モータ15,15Cにより太陽歯車に回転力を与えて、環状内歯歯車とキャリアに回転力を生じさせる。キャリアに生じる回転力を第1変換機構30,30B,30Cにより第1ブレーキワイヤ41,41B,41Cの引張り力に変換し、環状内歯歯車に生じる回転力を第2変換機構35,35B,35Cにより第2ブレーキワイヤ46,46B,46Cの引張り力に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを動力源として、電動モータの正方向回転により駐車ブレーキを制動状態とし、逆方向回転により駐車ブレーキを解除状態とする車両用駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駐車ブレーキの操作部と各車輪を結ぶ操作力伝達経路にイコライザを設けて、各車輪の制動力が等しくなるようにした電動式駐車ブレーキ装置としては例えば特許文献1に開示された技術がある。この特許文献1のイコライザは天秤形式のものであり、電動モータにより回転されるねじ軸にねじ係合されたナットにレバー状のイコライザの中央部が揺動自在に枢支され、駐車ブレーキに連結される各インナワイヤの一端がイコライザの両端部に連結されている。電動モータによりねじ軸が正方向に回転されれば、ナットによりイコライザが引き寄せられて各駐車ブレーキは等しい力で作動され、ねじ軸が逆方向に回転されれば、イコライザは戻されて各駐車ブレーキが解除される。
【0003】
また特許文献1とは異なる形式のイコライザを備えた駐車ブレーキ装置としては、例えば特許文献2の図5〜図9に開示された技術がある。この技術では、電動モータにより回転されるホイールを同軸上に摺動自在に貫通するねじ軸は中央部分の断面形状が四角でホイールとともに回転され、ねじ軸の両側の右ねじ部と左ねじ部にねじ係合されて回転が拘束された各ナットに各インナワイヤの一端が連結され、各インナワイヤの他端が各駐車ブレーキに連結されている。電動モータによりホイールが一方向に回転されれば、ホイールに対し摺動自在なねじ軸も回転され、各ナットが互いに引き寄せられて各駐車ブレーキは等しい力で作動され、ホイールが逆方向に回転されれば各ナットは戻されて各駐車ブレーキが解除される。また特許文献2と類似する技術として特許文献3に開示された技術があり、この技術では互いにねじ係合されたスプライン軸とスピンドルの各端部が各インナワイヤの一端に連結され、各インナワイヤの他端が各駐車ブレーキに連結され、前記スプライン軸はスプライン嵌合する歯車を介してモータにより回転されるようになっている。
【特許文献1】特開2007−092801号公報(段落〔0017〕〜〔0018〕、図1)。
【特許文献2】特開平08−295210号公報(段落〔0024〕〜〔0038〕、図5〜図9)。
【特許文献3】特表2001−513179号公報(第8頁第21行〜第9頁第26行、図2〜図5)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の技術では、各駐車ブレーキの摩耗や各インナワイヤの伸びが同じでなかったりするとねじ軸に対する天秤の傾斜角度が過大となりイコライザとして機能できなくなる問題が生じる。特許文献2に記載のイコライザにおいては、ねじ軸の中央部分がホイールに対して軸線方向に摺動して両インナワイヤに加わる力の大きさを同じにするイコライザ作用がなされる。しかしながら、ホイールからねじ軸に回転トルクが作用した状態でねじ軸がホイールに対して摺動するので、ねじ軸中央部分とホイールとの摺動部の軸線方向における摺動摩擦力が大きくなり、イコライザ作用が不十分となり、またねじ軸中央部分とホイールとの摺動部が使用時間の経過により摩耗し、摺動部にガタが生じて作動音が高くなるという問題が生じる。特許文献3の技術も、特許文献2の場合と同様、モータによって回転駆動される歯車とスプライン軸との間の軸線方向の摩擦力のためイコライザ作用が不十分となり、またスプライン嵌合部の摩耗が増大して作動音が高くなる問題がある。
【0005】
本発明は、両駐車ブレーキに連結されたインナワイヤに引張り力を円滑に分配することができ、経時変化により作動音が高くなることを防止可能な車両用駐車ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ハウジング(10)と、互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21,21C)と環状内歯歯車(23,23B,23C)とキャリア(25,25C)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24,24C)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22,22C)よりなる遊星歯車機構(20,20B,20C)と、前記太陽歯車(21,21C)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23,23B,23C)およびキャリア(25,25C)に回転力を生じさせる電動モータ(15,15C)と、互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、前記キャリア(25,25C)に生じる回転力を前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30,30B,30C)と、前記環状内歯歯車(23,23B,23C)に生じる回転力を前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35,35B,35C)を備えたことである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2変換機構(30,30B,30C,35,35B,35C)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記各変換機構(30,30B,35,35B)は互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(31,36,32B,37B)および雌ねじ部材(32,37,31B,36B)よりなるねじ対偶をそれぞれ有し、前記各ねじ対偶のリードを異ならせることによりそれぞれの変換特性を設定したことである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1変換機構(30,30B)は互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(31,32B)および雌ねじ部材(32,31B)よりなる第1ねじ対偶を有し、前記第2変換機構(35,35B)は互いに噛合する1対の歯車(23a,38,23Bb,38B))ならびに互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(36,37B)および雌ねじ部材(37,36B)よりなる第2ねじ対偶を有し、前記互いに噛合する1対の歯車(23a,38,23Bb,38B))の変速比を調整することにより前記各変換機構(30,30B,35,35B)の変換特性を設定したことである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、ハウジング(10)と、互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15)と、互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、前記キャリア(25)に同軸上に一体的に連結されて前記電動モータ(15)と反対側に突出する第1ねじ軸(31)と、この第1ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第1ねじ軸にねじ係合された第1摺動部材(32)よりなる第1ねじ対偶を備え、前記キャリア(25)に生じる回転力を前記第1摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30)と、前記第1ねじ軸(31)と平行な軸線回りに回転自在に前記ハウジング(10)に支持され前記環状内歯歯車(23)と同軸上に一体形成された第1外歯歯車(23a)と噛合される第2外歯歯車(38)および、この第2外歯歯車に同軸上に一体的に連結されて前記第1ねじ軸と反対側に突出する第2ねじ軸(36)と、この第2ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジングに支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第2ねじ軸にねじ係合された第2摺動部材(37)よりなる第2ねじ対偶を備え、前記環状内歯歯車に生じる回転力を前記第2摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35)を備え、互いに噛合される前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整することにより、前記第1および第2変換機構(30,35)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、ハウジング(10)と、互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15)と、互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、前記キャリア(25)に同軸上に一体的に連結されて前記電動モータ(15)と反対側に突出する第1ねじ軸(31)と、この第1ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第1ねじ軸にねじ係合された第1摺動部材(32)よりなる第1ねじ対偶を備え、前記キャリアに生じる回転力を前記第1摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30)と、前記第1ねじ軸(31)と平行な軸線回りに回転自在に前記ハウジング(10)に支持され前記環状内歯歯車(23)と同軸上に一体形成された第1外歯歯車(23a)と噛合される第2外歯歯車(38)および、この第2外歯歯車に同軸上に一体的に連結されて前記第1ねじ軸と同じ側に突出する第2ねじ軸(36)と、この第2ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジングに支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第2ねじ軸にねじ係合された第2摺動部材(37)よりなる第2ねじ対偶を備え、前記環状内歯歯車に生じる回転力を前記第2摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35)を備え、互いに噛合される前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整することにより、前記第1および第2変換機構(30,35)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることである。
【0012】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項5または請求項6に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記各変換機構(30,35)の変換特性は、前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整するのに加えて、またはそれに代えて、前記各ねじ対偶のリードを異ならせることにより前記各変換機構の変換特性を設定したことである。
【0013】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項5〜請求項7の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2ねじ軸(31,36)は前記キャリア(25)および前記第2外歯歯車(38)に同軸上に一体的に連結された第1および第2ねじ筒(31B,36B)にそれぞれ代え、前記第1および第2摺動部材(32,37)は前記第1および第2ねじ筒と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雄ねじ部が前記第1および第2ねじ筒にねじ係合される第1および第2摺動部材(32B,37B)にそれぞれ代えたことである。
【0014】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項5〜請求項8の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記環状内歯歯車(23B)は軸線方向一側に小径の筒状部(23Bb)が同軸上に一体形成され、前記第1外歯歯車(23Ba)は前記筒状部の外周に形成されたことである。
【0015】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至9のいずれか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2変換機構(30,30B,30C,35,35B,35C)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力が発生するように各ブレーキワイヤ(41,46)に等しい引張り力を分配する特性に設定されていることである。
【0016】
である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、遊星歯車機構がイコライザ作用を有しており、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力は所定の比率で分配されてキャリアおよび環状内歯歯車に伝達され、この伝達された各回転力が第1変換機構および第2変換機構により第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤの各引張り力に変換されて各駐車ブレーキを作動させる。これにより、両ブレーキワイヤの長さがかなり異なっていても、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力がキャリアおよび環状内歯歯車を介して第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤに所望の比率で分配して伝達され、さらに、経時変化によって摺動部分にガタを生じて作動音が高くなることを防止することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、第1および第2変換機構の各変換特性は、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が第1および第2パーキングブレーキに等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されているので、駐車中に各車輪に発生するブレーキ力を等しくすることができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、各変換機構の各ねじ対偶のリードを異ならせているので、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力をキャリア、環状内歯歯車および各変換機構を介して第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤに所望の比率で分配して伝達することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、第1変換機構は第1ねじ対偶を有し、第2変換機構は互いに噛合する1対の歯車および第2ねじ対偶を有し、この1対の歯車の変速比を調整することによって、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力をキャリア、環状内歯歯車および各変換機構を介して第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤに所望の比率で分配して伝達することができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、第2変換機構の第2ねじ軸を第1変換機構の第1ねじ軸と反対側に突出させたので、ハウジングの両側からそれぞれ1つのブレーキワイヤを引き出すことができる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、第2変換機構の第2ねじ軸を第1変換機構の第1ねじ軸と同じ側に突出させたので、ハウジングの同じ側から2つのブレーキワイヤを引き出すことができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、第2変換機構の第1および第2外歯歯車の変速比を調整するのに加えて、またはそれに代えて、第1および第2変換機構の各ねじ対偶のリードを異ならせることによって、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力をキャリア、環状内歯歯車および各変換機構を介して第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤに所望の比率で分配して伝達することができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、第1、第2変換機構の第1、第2ねじ軸は、キャリア、第2外歯歯車に同軸上に一体的に連結された第1、第2ねじ筒にそれぞれ代えられ、第1、第2摺動部材は、第1、第2ねじ筒と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されてハウジングに支持され一端部に形成された雄ねじ部が第1、第2ねじ筒にねじ係合される第1、第2摺動部材にそれぞれ代えられるので、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力をキャリア、環状内歯歯車および各変換機構を介して第1ブレーキワイヤおよび第2ブレーキワイヤに所望の比率で分配して伝達することができる。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、環状内歯歯車の軸線方向一側に一体形成された小径の筒状部の外周に第1外歯歯車を形成しており、これにより第1ねじ軸と第2ねじ軸の間または第1ねじ筒と第2ねじ筒の間の距離を減少させて車両用駐車ブレーキ装置を小型化することができる。
【0026】
請求項10に係る発明によれば、各ブレーキワイヤに分配される引張り力が互いに等しくなるので、各車輪に同一仕様の駐車ブレーキを設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
先ず図1および図2により本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第1実施形態の説明をする。この第1実施形態は、主として図1に示すように、太陽歯車21と環状内歯歯車23とキャリア25と3個の遊星歯車22よりなる遊星歯車機構20と、太陽歯車21に回転力を与えて環状内歯歯車23およびキャリア25に回転力を生じさせる電動モータ15と、第1および第2コントロールケーブル40,45と、キャリア25と環状内歯歯車23に生じる回転力をそれぞれ第1および第2コントロールケーブル40,45の各インナワイヤ(ブレーキワイヤ)41,46の引張り力に変換する第1および第2変換機構30,35と、これらを覆って保持するハウジング10よりなるものである。
【0028】
この第1実施形態のハウジング10は、図1に示すように、第1および第2の隔壁10a,10bを有する箱状で、互いに一体的に連結される複数部分により構成されている。両隔壁10a,10bの間となる第1室R1内には遊星歯車機構20が設けられ、第1隔壁10aを挟んで第1室R1と反対側となる第2室R2内には第1変換機構30が設けられ、第2隔壁10bを挟んで第1室R1と反対側となる第3室R3内には第2変換機構35と電動モータ15が設けられている。
【0029】
次に遊星歯車機構20の説明をする。第1変換機構30の第1ねじ軸(第1雄ねじ部材)31は第1隔壁10aを貫通してボールベアリング34により支持されている。第1室R1内に突出する第1ねじ軸31の先端には遊星歯車機構20のキャリア25が同軸上に一体形成されている。図1および図2に示すように、キャリア25に、その回転軸線から同一距離偏心して等角度間隔で立設された3本の支持軸24には、それぞれ遊星歯車22が回転自在に支持されている。第2隔壁10bの第1室R1側にはキャリア25と同軸上に一方向クラッチ16が取り付けられ、その出力軸16aに固定された遊星歯車機構20の太陽歯車21は各遊星歯車22と噛合されている。遊星歯車機構20の環状内歯歯車23は太陽歯車21およびキャリア25と同軸上に設けられて、その内周の内歯歯車は各遊星歯車22と噛合され、環状内歯歯車23の外周には第1外歯歯車23aが形成されている。なお図1および図2における噛合された各歯車は、JIS に規定された簡略図法に従い噛み合いピッチ円だけを表示した。
【0030】
第2隔壁10bの第3室R3側には一方向クラッチ16と同軸上に電動モータ15が取り付けられ、電動モータ15の出力軸は一方向クラッチ16の入力軸と連結され、一方向クラッチ16の出力軸には遊星歯車機構20の太陽歯車21が同軸に固定されている。一方向クラッチ16は、例えば、特許文献1に記載のものを使用するとよく、一方向クラッチ16の入力軸から出力軸側への回転は、正逆いずれ方向においても伝達されるが、出力軸から入力軸側への回転は、正逆いずれ方向においても阻止されるようになっている。
【0031】
第1変換機構30は、上述した第1ねじ軸31と、第1隔壁10aと対向するハウジング10の外壁から第1ねじ軸31と同軸上に内向きに突出される第1支持筒部11により支持された第1摺動部材(第1雌ねじ部材)32により構成されている。第1摺動部材32は角筒状で、第1支持筒部11の四角い内孔により回転が拘束されて軸線方向摺動自在に支持され、その先端部に形成された雌ねじ部32aは第1ねじ軸31にねじ係合されている。互いにねじ係合される第1ねじ軸31と第1摺動部材32よりなる第1ねじ対偶は右ねじである。第1摺動部材32の長手方向中間部の、図1において紙面と直交方向で奥側となる一側は開口されており、ハウジング10の底面に固定されて立ち上がる第1支持部材13の先端部は、第1摺動部材32内に入って第1ねじ軸31の先端部を回転自在に支持している。
【0032】
第2変換機構35は、環状内歯歯車23の外周に形成された第1外歯歯車23aと、これと噛合する第2外歯歯車38と、第1変換機構30と実質的に同一構造の第2ねじ軸36および第2摺動部材37により構成されている。第1変換機構30と同様、第2ねじ軸(第2雄ねじ部材)36は第2隔壁10bを貫通してボールベアリング39により支持され、第1室R1内に突出する第2ねじ軸36の先端には第2外歯歯車38が同軸上に一体形成されている。また第2摺動部材37は、第1変換機構30と同様、第2支持筒部12により回転が拘束されて軸線方向摺動自在に支持され、その先端部の雌ねじ部37aは第2ねじ軸36にねじ係合されている。互いにねじ係合される第2ねじ軸36と第2摺動部材37よりなる第2ねじ対偶は第1ねじ対偶と逆の左ねじであるがリードは同一である。
【0033】
第1インナワイヤ41と第1アウタチューブ42よりなる第1コントロールケーブル40は、第1アウタチューブ42の一端が第1支持筒部11の取付部の中央となるハウジング10の外壁に取付金具42aを介して取り付けられ、第1アウタチューブ42を通って延びる第1インナワイヤ41の一端は第1支持筒部11内に入って、その先端の連結金具41aは雌ねじ部32aと反対側となる第1摺動部材32の一端に係止されている。同様に、第2コントロールケーブル45は第2アウタチューブ47の一端が取付金具47aを介してハウジング10の外壁に取り付けられ、第2インナワイヤ46の一端は第2摺動部材37の一端に係止されている。各コントロールケーブル40,45のインナワイヤ41,46の他端はそれぞれ異なる車輪の駐車ブレーキ50,51の作動部に連結され、アウタチューブ42,47の他端は駐車ブレーキ50,51の固定部に取り付けられている。
【0034】
次に上述した第1実施形態の作動の説明をする。図2において電動モータ15により太陽歯車21が時計回転方向に回転されれば、キャリア25および第2外歯歯車38は何れも時計回転方向に回転され、第1および第2インナワイヤ41,46は何れも第1ねじ軸31および第1摺動部材32よりなる第1ねじ対偶ならびに第2ねじ軸36および第2摺動部材37よりなる第2ねじ対偶により引き寄せられ、最後まで引き寄せられたところで各駐車ブレーキ50,51は同じブレーキ力を発生する。電動モータ15により太陽歯車21が反時計回転方向に回転されれば第1および第2インナワイヤ41,46は何れも戻されて各駐車ブレーキ50,51は解除される。
【0035】
上述のように駐車ブレーキ50,51が作動され、各インナワイヤ41,46が最後まで引っ張られて停止され、遊星歯車機構20も停止された状態において、電動モータ15により太陽歯車21に与えられる回転力をT(=F・b/2;bは太陽歯車21の噛み合いピッチ円径)とすれば、遊星歯車22の太陽歯車21と噛合する箇所には、図2に示すようにFなる力が作用する。なお、簡単にするために遊星歯車22は1個として説明する。また遊星歯車22の環状内歯歯車23との各噛合箇所、遊星歯車22を枢支するキャリア25の支持軸24の中心、および第2外歯歯車38の第1外歯歯車23aとの噛合箇所に作用する力は、それぞれF、2F、c・F/dとなる。これにより、キャリア25および第1ねじ軸31に生じる回転力T、環状内歯歯車23に生じる回転力T、第2外歯歯車38および第2ねじ軸36に生じる時計回転方向の回転力Tは次のようになる。
【0036】
=2F(c+b)/4=F(c+b)/2
【0037】
=−c・F/2
【0038】
=(c・F/d)(e/2)=c・e・F/2d
【0039】
ただし
【0040】
a:遊星歯車22の噛み合いピッチ円径
【0041】
c:環状内歯歯車23の内歯の噛み合いピッチ円径
【0042】
d:第1外歯歯車23aの噛み合いピッチ円径
【0043】
e:第2外歯歯車38の噛み合いピッチ円径
【0044】
(c+b)/4:支持軸24の中心の偏心量
【0045】
ここにおいて、T=Tとすれば、遊星歯車機構20が停止されている状態では、第1ねじ軸31に生じる回転力Tと第2ねじ軸36に生じる回転力Tは等しくなる。この場合には、第1および第2外歯歯車23a,38による増速比(e/d)は 1+b/c となる。
【0046】
1組の数値例を次に示す。
a=17.5、b=5、c=40、d=48、e=54、e/d=1.125
【0047】
電動モータ15により回転される太陽歯車21によりキャリア25と環状内歯歯車23と第1および第2変換機構30,35を介して引っ張られる第1および第2インナワイヤ41,46は、抵抗が小さく先に最後まで引き寄せられたインナワイヤ41,46と対応するキャリア25または環状内歯歯車23の回転が停止される。残る環状内歯歯車23またはキャリア25の回転により他方のインナワイヤ46または41が最後まで引き寄せられると、電動モータ15から太陽歯車21に与えられる回転力は遊星歯車機構20のイコライザ作用により所定の比率でキャリア25と環状内歯歯車23に分配され、第1変換機構30および第2変換機構35により互いに等しい引張り力に変換され、第1インナワイヤ41および第2インナワイヤ46に伝達されて各駐車ブレーキ50,51を作動させる。従って第1および第2インナワイヤ41,46はほゞ等しい力で引っ張られる。
【0048】
次に図3に示す第2実施形態の説明をする。前述した第1実施形態では第1および第2コントロールケーブル40,45はハウジング10の反対側から引き出しているが、この第2実施形態ではハウジング10Aの同じ側から引き出している点が異なっている。第2実施形態のその他の構造は第1実施形態とほとんど同じであるので、主としてこの相違点について説明する。
【0049】
この第2実施形態のハウジング10Aは、一方の外壁の近くに隔壁10Aaを有する箱状で、第1実施形態と同様、互いに一体的に連結される複数部分により構成されている。隔壁10Aaとそれに近い外壁との間となる第1室R1A内には遊星歯車機構20が設けられ、第1隔壁10Aaを挟んで第1室R1Aと反対側となる第2室R2A内には第1および第2変換機構30,35が設けられ、電動モータ15はハウジング10Aの外側に設けられている。
【0050】
遊星歯車機構20は第1実施形態と実質的に同一構造で、太陽歯車21と、3個の遊星歯車22と、環状内歯歯車23と、支持軸24と、キャリア25からなり、キャリア25は第1実施形態と同様に隔壁10Aaを貫通して第1室R1A内に突出する第1ねじ軸31の先端に一体形成されている。第1室R1Aの壁部の一部を形成するハウジング10Aの外壁の内面にはキャリア25と同軸上に一方向クラッチ16が取り付けられ、その出力軸16aに設けられた遊星歯車機構20の太陽歯車21は各遊星歯車22と噛合されている。一方向クラッチ16が取り付けられる外壁の外側には第1実施形態と同様な電動モータ15が設けられている。
【0051】
第1変換機構30は、前述した第1実施形態と全く同一構造で、第1ねじ軸31とこれにねじ係合された第1摺動部材32により構成されている。第2変換機構35は、第2ねじ軸36が隔壁10Aaに支持されて第1ねじ軸31と同じ側に突出されている点を除き、第1実施形態と同じである。また第1および第2コントロールケーブル40,45は第1実施形態と全く同一で、同じようにしてハウジング10Aおよび第1および第2摺動部材32,37に取り付けられている。各コントロールケーブル40,45のインナワイヤ41,46の他端はそれぞれ異なる車輪の駐車ブレーキ50,51の作動部に連結され、アウタチューブ42,47の他端は駐車ブレーキ50,51の固定部に取り付けられている。
【0052】
この第2実施形態も第1実施形態と同様に作動され、電動モータ15により太陽歯車21が一方向に回転されれば、第1および第2インナワイヤ41,46が引き寄せられて各駐車ブレーキ50,51は作動され、太陽歯車21が逆方向に回転されれば各インナワイヤ41,46は戻されて各駐車ブレーキ50,51は解除される。
【0053】
この第2実施形態でも、第1実施形態と同様、第1ねじ軸31に生じる回転力と第2ねじ軸36に生じる回転力が等しくなるように各歯車の噛み合いピッチ円径は設定されており、太陽歯車21に与えられた回転力が第1インナワイヤ41および第2インナワイヤ46に等しい引張り力を生じるように変換されるというイコライザ作用が妨げられることはなく、また摩耗によるガタの発生もきわめてわずかである。
【0054】
第1実施形態ではハウジング10の両側からそれぞれ第1および第2インナワイヤ41,46を引き出しているのに対し、第2実施形態ではハウジング10Aの同じ側から第1および第2インナワイヤ41,46を引き出すことができる。
【0055】
次に図4に示す第3実施形態の説明をする。前述した第1実施形態では、第1および第2変換機構30,35は、それぞれ遊星歯車機構20側に連結されて回転される第1および第2ねじ軸31,36と、これにねじ係合される雌ねじ部32a,37aを有しハウジング10に回転が拘束されて軸線方向摺動自在に支持された第1および第2摺動部材32,37よりなり、また第1外歯歯車23aは環状内歯歯車23の外周に形成されている。これに対し第3実施形態では、第1および第2変換機構30B,35Bは、それぞれ遊星歯車機構20B側に連結されて回転される第1および第2ねじ筒31B,36Bと、これにねじ係合される雄ねじ部32Bb,37Bbを有しハウジング10Bに回転が拘束されて軸線方向摺動自在に支持された第1および第2摺動部材(雄ねじ部材)32B,37Bよりなり、また第1外歯歯車23Baは環状内歯歯車23Bの軸線方向一側に一体形成された小径の筒状部23Bbの外周に形成されている点が相違している。第3実施形態のその他の構造は第1実施形態とほとんど同じであるので、主としてこの相違点について説明する。
【0056】
第1実施形態の第1ねじ軸31と同様、第1変換機構30Bの第1ねじ筒(第1雌ねじ部材)31Bは第1隔壁10Baを貫通してボールベアリング34により支持され、第1室R1B内に突出する第1ねじ筒31Bの先端には遊星歯車機構20Bのキャリア25が同軸上に一体形成されている。第1隔壁10Baと対向するハウジング10Bの外壁から第1ねじ筒31Bと同軸上に内向きに突出される第1支持筒部11Bの先端部には、第1筒状支持部材33Bが取り付けられている。第1筒状支持部材33Bは小径の角筒部33Baと大径の円筒部33Bbよりなり、小径の角筒部33Baを第1支持筒部11Bの四角い内孔に嵌合して取り付けられ、第1ねじ筒31Bの先端部は大径の円筒部33Bbの内周により回転自在に支持されている。第1摺動部材(第1雄ねじ部材)32Bは、一端の雄ねじ部32Bbが第1ねじ筒31B内にねじ係合され、残る角棒部32Baが第1筒状支持部材33Bの角筒部33Baに嵌合されて軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて支持されている。第1コントロールケーブル40Bの第1インナワイヤ41Bは一端が角棒部32Ba内に入って、その先端の連結金具41Baは雄ねじ部32Bb内に係止されている。
【0057】
第2変換機構35Bは、環状内歯歯車23Bの軸線方向一側に同軸上に一体形成された小径の筒状部23Bbの外周に形成された第1外歯歯車23Baと、これと噛合する第2外歯歯車38Bと、第1変換機構30Bと実質的に同一構造の第2ねじ筒36Bおよび第2摺動部材37Bにより構成されている。第1変換機構30Bと同様、第2ねじ筒(第2雌ねじ部材)36Bは第2隔壁10Bbを貫通してボールベアリング39により支持され、第1室R1B内に突出する第2ねじ筒36Bの先端には、第1外歯歯車23Baと噛合される第2外歯歯車38Bが同軸上に一体形成されている。第1実施形態と同様、第1コントロールケーブル40Bと反対側となるハウジング10Bの外壁に第2アウタチューブが固定された第2コントロールケーブルの第2インナワイヤ(図示省略)は、第1変換機構30Bと同様にして第2摺動部材37Bに連結されている。
【0058】
この第3実施形態も第1実施形態と同様に作動され、電動モータ15により太陽歯車21が一方向に回転されれば、第1インナワイヤ41B、第2インナワイヤが引き寄せられて各駐車ブレーキは作動され、太陽歯車21が逆方向に回転されれば各インナワイヤは戻されて各駐車ブレーキは解除される。
【0059】
この第3実施形態でも、第1実施形態と同様、第1ねじ筒31Bに生じる回転力と第2第2ねじ筒36Bに生じる回転力が等しくなるように各歯車の噛み合いピッチ円径は設定されており、太陽歯車21に与えられた回転力が第1インナワイヤ41Bおよび第2インナワイヤに等しい引張り力を生じさせるように変換されるというイコライザ作用が妨げられることはなく、また摩耗による耐久性の低下もきわめてわずかである。
【0060】
前述した第1実施形態では、第2外歯歯車38と噛合する第1外歯歯車23aを環状内歯歯車23の外周に形成しているのに対し、第3実施形態では、第2外歯歯車38Bと噛合する第1外歯歯車23Baを環状内歯歯車23Bの軸線方向一側に一体形成された小径の筒状部23Bbの外周に形成しており、このようにすれば第1ねじ筒31Bと第2ねじ筒36Bの間の距離を第1ねじ軸31と第2ねじ軸36の間の距離よりも減少させて車両用駐車ブレーキ装置を小型化することができる。
【0061】
上述した第1〜第3実施形態では、第1および第2変換機構の各変換特性は、電動モータ15によりブレーキワイヤが引っ張られて駐車ブレーキ50,51が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が互いに等しくなるように、互いに噛合する1対の歯車23a,38,23Bb,38Bの変速比が調整されている。これにより、各車輪に同一仕様の駐車ブレーキ50,51を設けることができる。
【0062】
雄ねじ部材31,36,32B,37Bおよび雌ねじ部材32,37,31B,36Bからなるねじ対偶のリードを異ならせて、第1および第2変換機構の各変換特性を調整することにより、第1および第2インナワイヤ41,41Bおよび46,46Bに分配される引張り力が同じになるようにしてもよい。
【0063】
次に図5および図6に示す第4実施形態の説明をする。この第4実施形態は、遊星歯車機構20Cは支持部を除き第1実施形態の遊星歯車機構20と実質的に同じであるが、第1および第2変換機構30C,35Cは第1実施形態の第1および第2変換機構30,35と全く異なり、電動モータ15Cと遊星歯車機構20Cの太陽歯車21Cの間の駆動機構も全く異なっている。
【0064】
図5および図6に示すように、この第4実施形態のハウジング10Cは、第1室R1Cを形成する四角の箱状の第1部分と、その一側から突出して第2室R2Cを形成する第2部分からなり、第1実施形態と同様、互いに一体的に連結される複数部分により構成されている。第1部分内には遊星歯車機構20Cと第1および第2変換機構30C,35Cが設けられ、太陽歯車21Cの駆動機構は第2部分内に設けられ、電動モータ15Cは第2部分の外側に設けられている。
【0065】
遊星歯車機構20Cは、太陽歯車21Cと、3個の遊星歯車22Cと、環状内歯歯車23Cと、支持軸24Cと、キャリア25Cからなり、環状内歯歯車23Cはハウジング10Cの第1部分の第2部分側となる壁部の内面のほゞ中央部に、ボールベアリング27Cを介して回転自在に支持されている。円盤状のキャリア25Cは、第2部分と反対側となるハウジング10Cの壁部に、ボールベアリング26Cを介して遊星歯車22Cと同軸上に回転自在に支持され、その回転軸線から同一距離偏心して等角度間隔で立設された3本の支持軸24Cにはそれぞれ遊星歯車22Cが回転自在に支持されて、環状内歯歯車23Cの内歯に噛合されている。
【0066】
ハウジング10Cの第2室R2C内には、ウオームホイール18Cの出力軸18Caが、環状内歯歯車23およびキャリア25と同軸上にボールベアリング19Cを介して回転自在に支持され、第1室R1C内に突出する出力軸18Caの先端部には遊星歯車機構20Cの太陽歯車21Cが固定されて、各遊星歯車22Cと噛合されている。ハウジング10Cの第2部分に取り付けられた電動モータ15Cの出力軸15Caは、ウオームホイール18Cと直角に第2室R2C内に入り、出力軸15Caに固定されたウオーム17Cはウオームホイール18Cと噛合されて太陽歯車21Cを駆動するようになっている。
【0067】
図5および図6に示すように、第1変換機構30Cはほゞ一定の厚さの環状で、キャリア25Cの外周に同軸上に固着された第1プーリ(第1回動部材)31Cの外周に一定の深さで全周にわたる第1外周溝(第1円弧状部)31Caを形成したものであり、外周付近の一部には後述する第1コントロールケーブル40Cの第1インナワイヤ41Cの先端の連結金具41Caを係止する取付穴31Cbが形成されている。第2変換機構35Cは、固着先が環状内歯歯車23Cの外周であり外径が多少小さい点を除き、第1変換機構30Cと同様な第2プーリ(第2回動部材)35Cの外周に一定の深さで全周にわたる第2外周溝(第2円弧状部)36Caを形成し、取付穴31Cbと同様な取付穴36Cbを形成したものである。それぞれ一体的に固着された環状内歯歯車23Cおよび第2プーリ36Cと、キャリア25Cおよび第1プーリ31Cの間には、同軸上にニードルローラベアリング28Cが介装されている。なお、環状内歯歯車23Cと第2プーリ36Cおよびキャリア25Cと第1プーリ31Cは、それぞれ一体形成してもよい。
【0068】
第1および第2コントロールケーブル40C,45Cは、各インナワイヤ41C,46Cの連結金具41Ca,46Caを除き、第1実施形態の各コントロールケーブル40,45と同一である。各アウタチューブ42,47は第1実施形態と同様にしてハウジング10Cに取り付けられ、各インナワイヤ41C,46Cは各アウタチューブ42,47の取付金具42a,47aから突出する一端部が対応する各外周溝31Ca,36Caの底面に接線方向から当接され各底面に沿って導かれてその先端の各連結金具41Ca,46Caが各取付穴31Cb,36Cbに係止されている。第2外周溝36Caの半径に対する第1外周溝31Caの半径の比は、第1実施形態における第1および第2外歯歯車23a,38による増速比(e/d)すなわち 1+b/c とする。これにより、第1インナワイヤ41Cと第2ブレーキワイヤ46Cに生じる引張り力は等しくなる。
【0069】
この第4実施形態では、ウオーム17Cおよびウオームホイール18Cを介して電動モータ15Cにより太陽歯車21Cが回転されれば、第1プーリ31Cと第2プーリ36Cは互いに逆向きに回転される。電動モータ15Cにより太陽歯車21Cが一方向に回転されれば、第1および第2プーリ31C,36Cにより第1および第2インナワイヤ41C,46Cが引き寄せられて各駐車ブレーキ50,51は作動され、太陽歯車21が逆方向に回転されれば各インナワイヤ41C,46Cは戻されて各駐車ブレーキ50,51は解除される。
【0070】
この第4実施形態では、各歯車の噛み合いピッチ円径および各外周溝31Ca,36Caの径は、太陽歯車21に与えられた回転力が第1インナワイヤ41Cおよび第2インナワイヤ46Cに等しい引張り力を生じるように設定されている。これにより、第1および第2インナワイヤ41C,46Cはほゞ等しい力で円滑に引っ張られ、また摩耗によるガタの発生もきわめてわずかである。
【0071】
上記実施の形態では、第1および第2インナワイヤに分配される引張り力が互いに等しくなるように、第1および第2変換機構の各変換特性を調整している。この場合、第1および第2駐車ブレーキの特性が同じであると、第1、第2駐車ブレーキに等しいブレーキ力が発生する。しかしながら、例えば、ブレーキパッドの摩擦係数、ブレーキシューを移動させる作動部のレバー比などが相違して第1および第2駐車ブレーキの特性が異なる場合は、電動モータ15によりブレーキワイヤが引っ張られて駐車ブレーキ50,51が制動状態にされたとき、第1、第2駐車ブレーキに等しいブレーキ力が発生するように、第1および第2変換機構の各変換特性を調整するとよい。この場合は、第1、第2駐車ブレーキに等しいブレーキ力を発生させるために必要な第1、第2ブレーキワイヤの各引張り力を求め、電動モータにより各ブレーキワイヤが引っ張られて駐車ブレーキが制動状態にされたとき、第1および第2インナワイヤに分配された各引張り力が、この求められた各引張り力となるように、第1および第2変換機構の各変換特性を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第1実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第2実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図4】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第3実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図5】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第4実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図6】図5の6−6断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10,10A,10B,10C…ハウジング、15,15C…電動モータ、20,20B,20C…遊星歯車機構、21,21C…太陽歯車、22,22C…遊星歯車、23,23B,23C…環状内歯歯車、23a…第1外歯歯車、24,24C…支持軸、25,25C…キャリア、30,30B,30C…第1変換機構、31,36…雄ねじ部材(ねじ軸)、31B,36B…雌ねじ部材(ねじ筒)、32,37…雌ねじ部材(摺動部材)、32B,37B…雄ねじ部材(摺動部材)、35,35B,35C…第2変換機構、38,38B…第2外歯歯車、41,41B,41C…第1ブレーキワイヤ、46,46C…第2ブレーキワイヤ、50,51…第1及び第2駐車ブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(10)と、
互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21,21C)と環状内歯歯車(23,23B,23C)とキャリア(25,25C)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24,24C)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22,22C)よりなる遊星歯車機構(20,20B,20C)と、
前記太陽歯車(21,21C)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23,23B,23C)およびキャリア(25,25C)に回転力を生じさせる電動モータ(15,15C)と、
互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、
前記キャリア(25,25C)に生じる回転力を前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30,30B,30C)と、
前記環状内歯歯車(23,23B,23C)に生じる回転力を前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35,35B,35C)を備えたことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2変換機構(30,30B,30C,35,35B,35C)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記各変換機構(30,30B,35,35B)は互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(31,36,32B,37B)および雌ねじ部材(32,37,31B,36B)よりなるねじ対偶をそれぞれ有し、前記各ねじ対偶のリードを異ならせることによりそれぞれの変換特性を設定したことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1変換機構(30,30B)は互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(31,32B)および雌ねじ部材(32,31B)よりなる第1ねじ対偶を有し、前記第2変換機構(35,35B)は互いに噛合する1対の歯車(23a,38,23Bb,38B))ならびに互いに回動自在にねじ込まれる雄ねじ部材(36,37B)および雌ねじ部材(37,36B)よりなる第2ねじ対偶を有し、前記互いに噛合する1対の歯車(23a,38,23Bb,38B))の変速比を調整することにより前記各変換機構(30,30B,35,35B)の変換特性を設定したことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
ハウジング(10)と、
互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、
前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15)と、
互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、
前記キャリア(25)に同軸上に一体的に連結されて前記電動モータ(15)と反対側に突出する第1ねじ軸(31)と、この第1ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第1ねじ軸にねじ係合された第1摺動部材(32)よりなる第1ねじ対偶を備え、前記キャリア(25)に生じる回転力を前記第1摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30)と、
前記第1ねじ軸(31)と平行な軸線回りに回転自在に前記ハウジング(10)に支持され前記環状内歯歯車(23)と同軸上に一体形成された第1外歯歯車(23a)と噛合される第2外歯歯車(38)および、この第2外歯歯車に同軸上に一体的に連結されて前記第1ねじ軸と反対側に突出する第2ねじ軸(36)と、この第2ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジングに支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第2ねじ軸にねじ係合された第2摺動部材(37)よりなる第2ねじ対偶を備え、前記環状内歯歯車に生じる回転力を前記第2摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35)を備え、
互いに噛合される前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整することにより、前記第1および第2変換機構(30,35)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項6】
ハウジング(10)と、
互いに同軸上にかつ相対回転自在に前記ハウジング(10)内に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリアに偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車と環状内歯歯車の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、
前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15)と、
互いに異なる車輪に設けられた第1および第2駐車ブレーキ(50,51)にブレーキ力を発生させる第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、
前記キャリア(25)に同軸上に一体的に連結されて前記電動モータ(15)と反対側に突出する第1ねじ軸(31)と、この第1ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第1ねじ軸にねじ係合された第1摺動部材(32)よりなる第1ねじ対偶を備え、前記キャリアに生じる回転力を前記第1摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第1ブレーキワイヤ(41)の引張り力に変換する第1変換機構(30)と、
前記第1ねじ軸(31)と平行な軸線回りに回転自在に前記ハウジング(10)に支持され前記環状内歯歯車(23)と同軸上に一体形成された第1外歯歯車(23a)と噛合される第2外歯歯車(38)および、この第2外歯歯車に同軸上に一体的に連結されて前記第1ねじ軸と同じ側に突出する第2ねじ軸(36)と、この第2ねじ軸と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジングに支持され一端部に形成された雌ねじ部が前記第2ねじ軸にねじ係合された第2摺動部材(37)よりなる第2ねじ対偶を備え、前記環状内歯歯車に生じる回転力を前記第2摺動部材の他端に軸線方向より一端が連結された前記第2ブレーキワイヤ(46)の引張り力に変換する第2変換機構(35)を備え、
互いに噛合される前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整することにより、前記第1および第2変換機構(30,35)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、各ブレーキワイヤに分配された引張り力が前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力を発生させる特性に設定されていることを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記各変換機構(30,35)の変換特性は、前記第1および第2外歯歯車(23a,38)の変速比を調整するのに加えて、またはそれに代えて、前記各ねじ対偶のリードを異ならせることにより前記各変換機構の変換特性を設定したことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項5〜請求項7の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2ねじ軸(31,36)は前記キャリア(25)および前記第2外歯歯車(38)に同軸上に一体的に連結された第1および第2ねじ筒(31B,36B)にそれぞれ代え、前記第1および第2摺動部材(32,37)は前記第1および第2ねじ筒と同軸上に軸線方向摺動自在にかつ回転が拘束されて前記ハウジング(10)に支持され一端部に形成された雄ねじ部が前記第1および第2ねじ筒にねじ係合される第1および第2摺動部材(32B,37B)にそれぞれ代えたことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項5〜請求項8の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記環状内歯歯車(23B)は軸線方向一側に小径の筒状部(23Bb)が同軸上に一体形成され、前記第1外歯歯車(23Ba)は前記筒状部の外周に形成されたことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項2乃至9のいずれか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記第1および第2変換機構(30,30B,30C,35,35B,35C)の各変換特性は、前記電動モータ(15)により前記ブレーキワイヤ(41,46)が引っ張られて前記駐車ブレーキ(50,51)が制動状態にされたとき、前記第1および第2駐車ブレーキ(50,51)に等しいブレーキ力が発生するように各ブレーキワイヤ(41,46)に等しい引張り力を分配する特性に設定されていることを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−296843(P2008−296843A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147484(P2007−147484)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】