車両
【課題】車体の降車方向傾斜確率を算出し、その値によって車体の傾斜方向を予測するとともに、転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段を備え、降車方向への車体傾斜を予測した場合には転倒防止装置の実行をあらかじめ禁止状態にしておくことにより、車体傾斜方向の予測に基づく的確な判断で必要な場合にのみ確実に転倒防止装置を作動させることができ、転倒防止装置の不要な作動によって使用者が余分な時間と費用を要することがなく、かつ、車体固定式片側ストッパのみで十分な安全性を保障可能な倒立型の車両を実現することができるようにする。
【解決手段】車両制御装置は、車体の姿勢の制御の停止時に車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備える。
【解決手段】車両制御装置は、車体の姿勢の制御の停止時に車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関する技術が提案されている。例えば、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両、球体状の単一の駆動輪に取り付けられた車体の姿勢を制御しながら移動する車両等の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、センサで車体のバランスや動作の状態を検出しながら、倒立制御を行って、車両を移動させる。また、乗員が降車するときや車両の電源を遮断したときには、倒立制御を停止するのと同時にストッパを作動させ、該ストッパを接地させることによって車体の姿勢を維持し、倒立制御の実行時にはストッパを路面から離脱させてストッパが走行の支障となることを防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、可動式のストッパを車両の前後に取り付ける必要があり、これにより、構成が複雑化するとともに、車両の軽量化及び低コスト化の妨げとなる。
【0006】
そこで、固定式のストッパを車両のいずれか一方側に取り付けることが考えられる。乗員が降車するときには、乗員が降車しやすい方向に車体を傾けて、車体に固定されたストッパを地面に接地させる。また、緊急停止時に車体が逆方向に傾斜した場合に備えて転倒防止装置を取り付ける。該転倒防止装置は非常時のみに作動するため、簡易なシステムが望ましく、例えば、転倒防止装置としてエアバッグを使用する。
【0007】
ここで、転倒防止装置は、車体が逆方向に傾斜しない限り、作動させない方が望ましい。例えば、エアバッグの場合、作動後に交換が必要であり、そのために乗員又は車両の管理者は時間と費用を要する。したがって、車体が逆方向に傾斜したときにのみ、転倒防止装置を作動させる方が望ましい。
【0008】
また、場合によっては、転倒防止装置を適切に作動させることができない可能性がある。例えば、車体の傾斜方向を確認した後に転倒防止装置を作動させる場合、転倒防止装置が機能する前に、車体の一部が路面に接触する可能性がある。また、車体の傾斜状態を計測するセンサの故障や制御に関する演算処理を行うECU(Electronic Control Unit)の故障、又は、それらに対する電力供給の遮断の結果として倒立制御を緊急停止した場合、その後の車体の傾斜方向を確認することは不可能である。
【0009】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、車体の降車方向傾斜確率を算出し、その値によって車体の傾斜方向を予測するとともに、転倒防止装置を作動させる転倒防止手段の実行を禁止する禁止手段を備え、降車方向への車体傾斜を予測した場合には転倒防止手段の実行をあらかじめ禁止状態にしておくことにより、車体傾斜方向の予測に基づく的確な判断で必要な場合にのみ確実に転倒防止装置を作動させることができるため、転倒防止装置の不要な作動によって使用者が余分な時間と費用を要することがなくなり、かつ、車体固定式片側ストッパのみで十分な安全性を保障でき、その結果、簡素で小型で軽量で安価で安全で便利な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明の車両においては、回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、前記車体の転倒を防止する転倒防止装置と、前記駆動輪に付与する駆動トルクを制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、該傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備える。
【0011】
本発明の他の車両においては、さらに、前記禁止手段は、前記車体の姿勢の制御を停止する直前に前記傾斜方向予測手段が予測した前記車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する。
【0012】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車体の姿勢角度を制限する姿勢制限手段を更に備え、前記車両制御装置は、前記傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向と前記姿勢制限手段が機能する方向とが一致するときに前記禁止手段は前記転倒防止装置の実行を禁止する。
【0013】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0014】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段を備え、該重心ずれ取得手段によって取得された前記車体の重心ずれ量によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0015】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記重心ずれ量取得手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態及び/又は前記駆動トルクの時間履歴に基づいて前記車体の重心ずれ量を推定する。
【0016】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、車両の走行速度に基づいて前記車体の姿勢の制御の停止後における車両の減速度と減速時間を予測する減速状態予測手段を更に備え、該減速状態予測手段によって予測された前記減速度と前記減速時間によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0017】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が特定方向へ傾斜する確率を算出し、算出した確率が所定の閾値以上であるときに前記車体が特定方向に傾斜すると予測する。
【0018】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御を停止するときに車両の電源を遮断する。
【0019】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記禁止手段は、前記傾斜方向予測手段が前記車体が特定方向へ傾斜すると予測したときに前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止信号を前記転倒防止装置に送信し、該転倒防止装置は、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信した場合には実行せず、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信しなかった場合には実行する。
【0020】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記転倒防止装置は、前記車体と路面の間に介在させて前記車体の傾斜角を所定の閾値以内に制限するエアバッグを作動させる。
【0021】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記転倒防止装置は、前記車体の重心位置を転倒する方向の逆側に移動させる可動質量を作動させる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の構成によれば、車体の傾斜方向を予測し、必要であると予測される場合にのみ確実に転倒防止装置の作動等を実行するため、不要な転倒防止手段の実行、及び、その事後処理に必要な労力や費用を無くすことができる。
【0023】
請求項2の構成によれば、姿勢制御を停止して車体が実際に傾斜する前に傾斜方向を予測して、必要に応じて転倒防止手段を実行するため、転倒防止装置の実行が遅れる場合、あるいは、センサの故障等により車体の傾斜状態の取得が困難な場合でも、必要な場合には確実に転倒防止手段を機能させることができる。また、姿勢制御を停止する前の最新の予測結果を用いることで、より信頼性の高い予測に基づいて転倒防止装置を実行又は禁止できる。
【0024】
請求項3の構成によれば、例えば車体傾斜角を制限するストッパを車体の片側のみに備え、通常時の停車は車体をストッパ側に傾斜させることで行い、逆側に傾斜する非常時のみ転倒防止装置を実行するような車両を実現可能とし、小型で安全な倒立型車両を提供できる。
【0025】
請求項4の構成によれば、車体の傾斜状態や駆動輪の回転状態を考慮し、車体傾斜に関する力学モデルに基づいて車体の傾斜方向を予測することにより、高い精度で車体の傾斜方向を予測することができる。
【0026】
請求項5の構成によれば、乗員や積載物の状況によって変化する車体の重心ずれを考慮することで、より高い精度で車体の傾斜方向を予測できる。
【0027】
請求項6の構成によれば、車体の重心ずれを推定によって取得することで、重心ずれを計測するセンサが不要であり、低コストかつ高精度の傾斜方向予測を実現できる。
【0028】
請求項7の構成によれば、姿勢制御停止後の車両の減速過程を予測し、その減速に伴って車体に作用する慣性力を考慮することで、より高い精度で車体の傾斜方向を予測できる。
【0029】
請求項8の構成によれば、傾斜方向の予測結果を確率という数値で決定することで、予測結果を定量的に判断することが可能となり、より適切に転倒防止装置を実行することができる。
【0030】
請求項9の構成によれば、様々な倒立制御停止の条件を電源遮断という最も厳しい条件に統一することで、姿勢制御停止時のいかなる条件に対しても必要に応じて確実に転倒防止装置を実行できる。また、1つの条件に統一されることで、制御の設計が容易になる。
【0031】
請求項10の構成によれば、電源遮断の情報を転倒防止手段実行の条件に用いることで、電源が遮断されても必要に応じて確実に転倒防止装置を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの入出力信号を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における実質車体傾斜角と前方傾斜確率の関係を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における傾斜方向予測処理の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図、図3は本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの構成を示すブロック図、図4は本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの入出力信号を示す図である。なお、図4において、(a)は転倒防止装置が作動しない場合、(b)は転倒防止装置が作動する場合をそれぞれ表す。
【0035】
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
【0036】
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
【0037】
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には搭乗部14が取り付けられている。なお、本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗部14に搭乗している例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備える。
【0038】
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
【0039】
また、前記入力装置30は、停止要求取得手段としての制御切替スイッチ32を備える。そして、乗員15が走行開始や降車を希望する場合には、制御切替スイッチ32を操作することによって、倒立制御の実行や停止の指令を入力するようになっている。ここで、乗員15が操作して倒立制御の実行や停止を入力することができる装置であれば、制御切替スイッチ32に代えて他の装置、例えば、押しボタンやタッチパネル、操作レバー、音声認識システム等の装置を停止要求取得手段として使用することもできる。また、これらは実行又は停止の一方のみを指令する装置であってもよい。
【0040】
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31及び制御切替スイッチ32に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31及び制御切替スイッチ32に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
【0041】
さらに、前記搭乗部14の足置き部には、固定式の姿勢制限手段としてのストッパ16が取り付けられている。なお、該ストッパ16は、足置き部と一体的に形成されていることが望ましい。そして、倒立制御を停止した時には、前記ストッパ16の少なくとも一部、例えば、前端部が路面に接地することによって車体の姿勢角度を制限し、車体が所定角度以上に傾斜することを防止する。
【0042】
降車時における車体の傾斜方向、すなわち、車両10を停車させて乗員15が降車する際に車体を傾斜させる方向である降車方向は、前方又は後方のいずれであってもよいが、本実施の形態における車両10では、前記降車方向が前方であるものとして説明する。そして、降車時に倒立制御を停止すると、車体が前方に傾斜してストッパ16の前端部が路面に接地するので、車体の姿勢が安定し、乗員15は安全に降車することができる。
【0043】
一方、前記搭乗部14の背面には、降車方向と逆方向へ車体が転倒することを防止するための転倒防止装置17が取り付けられている。該転倒防止装置17は、緊急の倒立制御停止時に自動的に作動して車体の転倒を防止する装置であれば、いかなる種類の装置であってもよいが、本実施の形態においては、エアバッグ装置であるものとして説明する。該エアバッグ装置は、作動させると、ガス発生器(インフレータ)の発生する高圧ガスがバッグ内に注入されて該バッグが急速に膨張して路面に接地するので、車体の後方への転倒が防止される。
【0044】
また、車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置としての制御ECU20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0045】
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
【0046】
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41及び駆動モータ52とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
【0047】
さらに、主制御ECU21は、作動禁止スイッチ61及び転倒防止装置17を備える転倒防止手段としての車体転倒防止システム60を制御する。車両10の緊急停止時には、転倒防止装置17を作動させる信号が主制御ECU21から車体転倒防止システム60に自動的に送信され、このとき、作動禁止スイッチ61が禁止信号を受信していない場合に限り、転倒防止装置17を作動させるようになっている。
【0048】
なお、前記作動禁止スイッチ61は、具体的には、図3に示されるように、入力信号の立下り時(ONからOFFに変化した時)に所定時間信号を出力する立下りトリガ62と、入力信号を所定の時間Tだけ遅らせる遅延要素63と、両方の信号が入力された場合(一方はその否定)にのみ信号を出力する論理積64とを備え、論理演算処理を実行する電子回路である。そして、作動禁止スイッチ61は、車両システムの電源投入状態に対応する電源信号、及び、主制御ECU21からの禁止信号が入力されると、図4に示されるような動作信号を転倒防止装置17に対して出力する。
【0049】
そして、前記立下りトリガ62は、車両システムの電源投入状態に対応する電源信号がOFF状態に変化すると、すなわち、電源が遮断されると、信号として電源信号の立下りトリガ信号を出力する。これにより、電源遮断(緊急停止)時以外の時に転倒防止装置17が作動することを防止する。また、前記遅延要素63は、主制御ECU21からの禁止信号を所定の時間だけ遅らせる。すなわち、電源遮断から所定の時間だけ前における禁止信号の状態に応じて、作動禁止の是非を判断する。これにより、車両システムの電源遮断とともに主制御ECU21の電源も遮断された結果、主制御ECU21が禁止信号を送信できなくなる場合であっても、確実に転倒防止装置17の作動を禁止することができる。さらに、前記論理積64は、電源信号の立下りトリガ信号を受信し、かつ、所定の時間Tだけ遅れた禁止信号を受信しなかった場合、すなわち、電源遮断の直前における禁止信号がOFFの場合、転倒防止装置17の動作信号を出力する。これにより、禁止信号によって転倒防止装置17を作動させるか否かをあらかじめ設定することができる。
【0050】
さらに、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
【0051】
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
【0052】
なお、制御ECU20は、機能の観点から、倒立制御の停止時に車体の傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段、及び、転倒防止手段の実行を禁止する禁止手段、車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段、倒立制御停止後の車両の減速過程を予測する減速状態予測手段を備える。
【0053】
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、車両制御処理の概要について説明する。
【0054】
図5は本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0055】
車両制御処理において、制御ECU20は、まず、システム異常判定を行い、異常発生か否かを判定する(ステップS1)。この場合、例えば、バッテリの異常による電力供給の遮断、各センサの故障、各アクチュエータの故障、各ECUの異常、各要素間の通信異常等の原因によって、倒立制御の維持が不可能な状態となっているか否かを判定する。
【0056】
そして、異常発生はないと判定すると、制御ECU20は、降車希望判定を行い、降車希望であるか否かを判定する(ステップS2)。この場合、入力装置30の制御切替スイッチ32から入力された実行/停止指令の信号を取得し、乗員15が降車を望んでいるか否かを判定する。具体的には、実行指令の場合には乗員15が降車を望んでいない、停止指令の場合には乗員15が降車を望んでいると判定する。
【0057】
そして、降車を望んでいないと判定すると、制御ECU20は、倒立制御を実行し(ステップS3)、車体の倒立姿勢を維持しつつ、乗員15が指令する走行状態を実現する。なお、倒立制御の内容については、通常の倒立型車両における倒立制御と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
続いて、制御ECU20は、傾斜方向予測処理を実行し(ステップS4)、倒立制御停止時における車体の傾斜方向の予測として、車体が前方に傾斜する確率を決定する。
【0059】
続いて、制御ECU20は、傾斜方向予測処理の結果に基づき、傾斜方向判定を行い、前方傾斜であるか否かを判定する(ステップS5)。この場合、車体が確実に前方に傾斜するか否かを、前方傾斜確率により判定する。具体的には、前方傾斜確率が所定の閾値以上である場合に前方傾斜と判定する。
【0060】
そして、前方傾斜でない場合、制御ECU20は、許可指令を行って(ステップS6)、処理を終了する。具体的は、主制御ECU21から作動禁止スイッチ61へ送信する禁止信号を停止することによって緊急停止時における車体転倒防止システム60の作動を許可する。
【0061】
また、前方傾斜である場合、制御ECU20は、禁止指令を行って(ステップS7)、処理を終了する。具体的には、主制御ECU21から作動禁止スイッチ61へ禁止信号を送信することによって緊急停止時における車体転倒防止システム60の作動を禁止する。
【0062】
一方、システム異常判定において異常が発生していると判定した場合、制御ECU20は、電源遮断、すなわち、緊急停止を行い(ステップS8)、車両システムの電源を遮断し、車両制御処理を終了する。前述のように、電源が遮断されると立下りトリガ62は電源信号の立下りトリガ信号を出力する。そして、論理積64は、電源信号の立下りトリガ信号を受信し、かつ、電源遮断の直前における禁止信号がOFFの場合、転倒防止装置17の動作信号を出力する。すると、転倒防止装置17が作動するので、車体の後方への転倒が防止される。また、電源遮断の直前における禁止信号がONである場合には、転倒防止装置17の動作信号が出力されないので、転倒防止装置17は作動しない。このように、許可指令又は禁止指令に応じた禁止信号によって、転倒防止装置17を作動させるか否かが設定される。
【0063】
また、降車希望判定において降車を希望していると判定した場合、制御ECU20は、着地制御を実行し(ステップS9)、車体を緩やかに前方に傾け、ストッパ16を路面に接地させ、車両制御処理を終了する。なお、該車両制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
【0064】
このように、本実施の形態においては、緊急停止としてシステムの電源が遮断されると、事前に予測した必要性に基づいて、転倒防止装置17が作動するようになっている。具体的には、転倒防止装置17は、作動を禁止する禁止信号を受信していない場合にのみ作動する。倒立制御実行時の傾斜方向予測において、転倒防止装置17の作動が不要である、とあらかじめ判断されていた場合には、緊急停止に関わらず、転倒防止装置17は作動しない。これにより、転倒防止装置17の不要な動作後に必要な乗員15等の利用者の負担、(例えば、転倒防止装置17がエアバッグ装置である場合には、新しいエアバッグ装置に交換する負担)を省くことができる。
【0065】
また、車体が後方に傾斜する可能性がある場合に限り、緊急停止時における転倒防止装置17の作動を許可するようになっている。具体的には、傾斜方向予測によって決定した前方傾斜確率に応じて、禁止信号の送信状態を切り替える。前方傾斜確率が所定の閾値よりも小さい場合には、転倒防止装置17の作動を許可する。この場合、電源遮断時に転倒防止装置17が自動的に作動するように、事前準備する。また、前方傾斜確率が所定の閾値よりも大きい場合には、転倒防止装置17の作動を禁止する。この場合、転倒防止装置17は作動することがなく、通常の乗降時と同様に、車体の前方のストッパ16を接地させた状態で車体姿勢が保たれる。
【0066】
なお、本実施の形態では、乗員15の降車希望に伴う車体前方傾斜動作時の快適性を保障するために、特別な着地制御を実行するが、緊急停止時と同様に、電源を遮断してもよい。これにより、制御系の設計が更に容易になる。
【0067】
次に、傾斜方向予測処理について説明する。
【0068】
図6は本発明の第1の実施の形態における実質車体傾斜角と前方傾斜確率の関係を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における傾斜方向予測処理の動作を示すフローチャートである。
【0069】
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
θW :駆動輪回転角〔rad〕
θ1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
τW :駆動トルク(2つの駆動輪の合計)〔Nm〕
g:重力加速度〔m/s2 〕
RW :駆動輪接地半径〔m〕
I1 :車体慣性モーメント〔kgm2 〕
m1 :車体質量(乗員を含む)〔kg〕
l1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
【0070】
続いて、主制御ECU21は、車体重心ずれ量を推定する(ステップS4−2)。具体的には、取得した各状態量と駆動トルクの時間履歴とから、次の式(1)によって、車体重心ずれ量δ1 を推定する。
【0071】
【数1】
【0072】
なお、駆動トルクτW の値には、前回の制御処理時に決定した値を使用する。また、車体傾斜角加速度及び駆動輪回転角加速度の値は、車体傾斜角θ1 及び駆動輪回転角θW の計測値を2回時間微分(差分)することによって得られる。
【0073】
本実施の形態においては、駆動輪回転状態と車体傾斜状態と駆動トルクの時間履歴とに基づいて、車体の傾斜運動に関する力学モデルの偏差として、車体重心ずれ量を推定する。具体的には、車体の回転慣性、車両10の加減速に伴う慣性力、重力トルク、及び、駆動トルクの反トルクを考慮し、考慮していない作用が車体重心ずれによるものであると仮定して、車体重心ずれ量を推定する。したがって、例えば、車体傾斜センサ41の機械的及び電気的なオフセットも重心ずれ量として自動的に考慮できる。
【0074】
また、ローパスフィルタによって、外乱による影響を除く。例えば、乗員15の一時的な動作や路面の凹凸、センサ信号のノイズ等の影響を除く。
【0075】
なお、本実施の形態においては、簡単な線形モデルにより車体重心ずれ量を推定しているが、より厳密なモデルによって推定してもよい。例えば、非線形的な作用や車体の回転に対する粘性抵抗等の要素を考慮したモデルを用いて、より厳密に推定してもよい。また、より簡単なモデルによって推定してもよい。例えば、特性時間の短い車体の回転慣性や加減速に伴う慣性力を無視したモデルを用いて推定してもよい。さらに、車体傾斜角加速度や駆動輪回転角加速度が大きい場合には推定値を固定することで、推定値の精度を保つようにしてもよい。
【0076】
また、本実施の形態においては、1次のローパスフィルタによって推定値を補正しているが、より高次のフィルタを用いてもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態においては、推定によって車体重心ずれ量を取得しているが、他の方法を用いてもよい。例えば、乗員15や搭載物を含む搭乗部14の荷重分布を計測する複数の荷重センサを具備し、その計測値に基づいて搭乗部14及び車体重心ずれ量を推定してもよい。これにより、推定の精度や信頼性を更に高めることができる。また、この場合において、力学モデルで考慮していない他の要素、例えば、車体傾斜センサ41のオフセット等を本実施の形態と同様の手法によって推定してもよい。
【0078】
さらに、本実施の形態においては、車体の傾斜運動に関する力学モデルとの偏差を車体重心ずれ量として推定しているが、他の物理量によって偏差を評価してもよい。例えば、車体に作用する反トルクを偏差とし、その推定値を後述の車体傾斜角推定に利用してもよい。すなわち、車体重心ずれ量は力学モデルとの偏差に相当する物理量の1つであり、その限りではない。
【0079】
続いて、主制御ECU21は、前方傾斜確率を決定する(ステップS4−3)。この場合、取得した各状態量に応じて、次の式(2)によって、前方傾斜確率Pを決定する。
【0080】
【数2】
【0081】
図6には前方傾斜確率と実質車体傾斜角との関係が示されている。
【0082】
なお、制動トルクの予測値には、次の仮定の下で所定の値を予め与えておく。まず、緊急停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用する場合、性能予想値又は制御指令値であるブレーキトルクの値を与える。また、緊急停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用しない場合、駆動モータ52の逆起電力や駆動輪12の転がり抵抗などを考慮して制動トルクに相当する値を与える。
【0083】
このように、本実施の形態においては、車両10の状態に基づいて、倒立制御を停止した時に車体が傾斜する方向の予測として、車体の前方傾斜確率を決定する。
【0084】
具体的には、車体傾斜角と車体傾斜角速度に基づいて、前方傾斜確率を決定する。この場合、車体が前方に傾いているほど、また、車体の前方への傾斜速度が大きいほど、前方傾斜確率を大きくする。たとえ車体が後方に傾いていても、前方への車体傾斜角速度が大きければ、前方へ傾斜すると判断する。このように、車体傾斜角速度まで考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0085】
また、緊急停止時における車両10の減速に伴う慣性力の影響を考慮する。具体的には、予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、前方傾斜確率を決定する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を予測する。この場合、車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に及ぼす影響が大きい、すなわち、前方傾斜確率が大きいと判断する。このように、緊急停止後の慣性力を考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0086】
さらに、車体重心ずれ量に応じて、前方傾斜確率を修正する。具体的には、予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、前方傾斜確率を決定する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を予測する。この場合、車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に及ぼす影響が大きい、すなわち、前方傾斜確率が大きいと判断する。このように、車体重心ずれ量を考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0087】
さらに、車体傾斜方向の予測結果を確率値として決定する。具体的には、釣り合い状態(車体がどちらにも傾かない状態)を予測した場合の前方傾斜確率を1/2とし、車体を前方へ傾けようとする力学的作用が大きいほど、前方傾斜確率を大きくする。このように、傾斜方向予測結果を定量的な値として出力することで、その予測結果を柔軟に、かつ、適切に扱うことを可能とする。
【0088】
なお、本実施の形態においては、慣性と重力を考慮した力学モデルに基づいて、車体傾斜方向を予測しているが、他の影響を考慮してもよい。例えば、摩擦抵抗や空気抵抗、又は、車体の重心位置のずれを考慮して、車体傾斜方向を予測してもよい。さらに、車両10が水平方向に相対移動する能動重量部を備える場合、その能動重量部の位置や速度を考慮して、車体傾斜方向を予測してもよい。
【0089】
また、本実施の形態においては、非線形の関数によって前方傾斜確率を決定しているが、線形近似した簡単な関数によって決定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
【0090】
さらに、本実施の形態においては、予測信頼度を所定値としているが、予測信頼度を車両の状況等に応じて変化させてもよい。例えば、車両の加速度や車体傾斜角加速度が所定の閾値よりも大きい場合、あるいは、坂路や凹凸路など路面形状が平坦(たん)ではない場合には、予測信頼度を低下させてもよい。これにより、車体傾斜方向予測の実際の信頼性に応じた妥当な予測結果が出力され、適切な制御が実行される。
【0091】
また、前方傾斜確率が所定の閾値以上である場合に車体が前方へ傾斜すると予測するが、その閾値を車両10の状況等に応じて変化させてもよい。例えば、予測信頼度と同様に、車両の加速度や車体傾斜角加速度が所定の閾値よりも大きい場合、あるいは、坂路や凹凸路など路面形状が平坦ではない場合には、閾値を低下させてもよい。これにより、車体傾斜方向予測の実際の信頼性に応じた適切な制御が実行される。
【0092】
なお、本実施の形態においては、前方に車体を傾けた方が利便性や快適性が高いという前提で、前方への傾斜を促す制御を実行しているが、後方に傾けてもよい。例えば、車両10の前方にハンドルがあり、後方から搭乗する立ち乗り型の倒立型車両の場合、必ず後方に傾斜させることで、昇降時の利便性や快適性を高めることができる場合がある。
【0093】
このように、本実施の形態においては、車体の降車方向傾斜確率を算出し、その値によって車体の傾斜方向を予測するとともに、降車方向への車体傾斜を予測した場合には転倒防止装置17の作動をあらかじめ禁止状態にする。これにより、車体の傾斜方向を確実に判断し、必要な場合にのみ確実に転倒防止装置17を作動させることができる。
【0094】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0095】
図8は本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図9は本発明の第2の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
【0096】
本実施の形態において、車両10は、車軸12aより下方に配設された可動質量としてのウェイト71を備える。該ウェイト71は、車体の前後方向に延在するガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能である。前記ウェイト71及びガイド部材72は、例えば、リニアガイドのような構造を備え、ガイド部材72が案内レールであり、ウェイト71が案内レールに沿ってスライドするキャリッジであって、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体が配設されているような構造を備える。また、例えば、ボールねじのような構造を備え、ガイド部材72が螺(ら)旋溝を備えるねじ軸であり、ウェイト71がねじ軸に螺合するナットを備え、ねじ軸とナットとの間に介在するボール、コロ等の転動体が配設されているような構造を備える。なお、前記ガイド部材72の前端は、ストッパ16に固定された前方ブラケット73に取り付けられ、前記ガイド部材72の後端は、ストッパ16に固定された後方ブラケット74に取り付けられている。
【0097】
また、ウェイト71と後方ブラケット74との間には付勢手段としてばね部材75が配設され、ウェイト71を特定方向としての前方へ付勢する。前記ばね部材75は、例えば、圧縮コイルばねであり、ウェイト71に対し、前方へ向けて押し出す力を付与する。
【0098】
さらに、ストッパ16には、第1固定手段としての電源対応ホルダ76aが取り付けられ、後方ブラケット74には、第2固定手段及び第3固定手段としての制御対応ホルダ76bが取り付けられている。前記電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bは固定状態と解放状態との切替が可能な固定手段であり、解放状態においてはウェイト71の前後方向への移動を許し、固定状態ではウェイト71の前後方向への移動を妨げる。
【0099】
図8に示される状態では、電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bがともに固定状態となっており、ばね部材75の付勢力に抗して、ウェイト71の前方への移動を禁止している。これにより、ウェイト71は、その重心が駆動輪接地点を通る鉛直線上にある位置で固定される。なお、前記電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bは、必ずしも、ストッパ16及び後方ブラケット74に取り付けられる必要はなく、車体のいかなる部位に取り付けられていてもよい。
【0100】
また、車両10は、車両制御装置としてのホルダ制御ECU23を更に備える。該ホルダ制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22と、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0101】
そして、主制御ECU21は、ホルダ制御ECU23及びホルダモータ82とともに、制御対応ホルダ76bの動作を制御する制御対応ホルダシステム80の一部として機能する。前記ホルダモータ82は、制御対応ホルダ76bを作動させ、固定状態及び解放状態を切り換える。
【0102】
本実施の形態において、電源対応ホルダ76aは、電源投入時には自動的に固定状態に、電源遮断時には自動的に解放状態になる。また、制御対応ホルダ76bは、電源投入時には主制御ECU21からのホルダ切り換え指令に応じて、固定状態及び解放状態が切り換わり、電源遮断時にはその直前の状態を維持する。
【0103】
なお、ホルダ制御ECU23を省略して、ホルダモータ82の入力電圧を主制御ECU21から直接供給するようにしてもよい。その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0104】
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。
【0105】
車両制御処理において、制御ECU20は、前記第1の実施の形態と同様に、傾斜方向予測処理を実行し、該傾斜方向予測処理の結果に基づき、傾斜方向判定を行い、前方傾斜であるか否かを判定する。
【0106】
そして、前方傾斜でない場合、制御ECU20は、ウェイト解放を行う。具体的は、ホルダ制御ECU23に解放指令信号を送信することによって、制御対応ホルダ76bを解放状態に切り換える。これにより、ウェイト71の前方への移動は電源対応ホルダ76aのみによって阻止されている状態となる。
【0107】
また、前方傾斜の場合、制御ECU20は、ウェイト固定を行う。具体的には、ホルダ制御ECU23に固定指令信号を送信することによって制御対応ホルダ76bを固定状態に切り換える。これにより、ウェイト71の前方への移動は、電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bの両方によって阻止されている状態となる。なお、降車希望判定において降車を希望していると判定した場合にも、制御ECU20は、同様にウェイト固定を行う。
【0108】
そして、システム異常判定において異常が発生していると判定した場合、制御ECU20は、前記第1の実施の形態と同様に、電源遮断、すなわち、緊急停止を行い、車両10のシステムの電源を遮断し、車両制御処理を終了する。前述のように、電源対応ホルダ76aは、電源投入時には自動的に固定され、電源遮断時には自動的に解放される。したがって、既にウェイト解放を行い、制御対応ホルダ76bが解放状態に切り換えられている場合には、ばね部材75の付勢力によってウェイト71が前方へ移動する。これにより、車体全体の重心が前方に移動するので、車体が確実に前方に傾斜する。また、ウェイト71を前方に移動させるばね部材75の反力が車軸12aの下方に位置する後方ブラケット74に作用することにより、該後方ブラケット74を後方に移動させるような回転モーメント、すなわち、搭乗部14を前方に傾斜させるような回転モーメントが作用し、車体が前方に傾斜するのを補助する。なお、ウェイト固定を行い、制御対応ホルダ76bが固定状態に切り換えられている場合には、電源対応ホルダ76aが解放されても、ウェイト71は前方へ移動しない。
【0109】
このように、本実施の形態においては、緊急停止としてシステムの電源が遮断されると、車両10の状況に応じて、可動質量としてのウェイト71が自動的に前方へ移動するようになっている。まず、電源遮断時、電源対応ホルダ76aは解放状態になる。したがって、電源遮断による倒立制御の停止時においても、車体を確実に前方に傾斜させることができる。また、制御対応ホルダ76bは倒立制御実行時の設定状態を保持する。そのため、倒立制御実行時の傾斜方向予測処理においてウェイト71の前方移動が不要であるとあらかじめ判断されていた場合には、緊急停止に関わらず、ウェイト71は中立位置で保持される。したがって、倒立制御再開時に、再びウェイト71を中立位置まで移動させる作業の手間を省くことができる。
【0110】
また、乗員15の降車希望による通常の倒立制御停止時には、ウェイト71を移動させない。具体的には、乗員15による倒立制御停止指令を受けると、着地制御に移行する前に、制御対応ホルダ76bを固定状態にする。これにより、倒立制御再開時に、再びウェイト71を中立位置まで移動させる作業の手間を省くことができる。また、車体を前方に傾ける制御がウェイト71の前方移動によって乱されることが無くなり、着地制御の設計が容易になる。
【0111】
なお、本実施の形態では、緊急停止に伴い前方に移動したウェイト71を、倒立制御再開前に手動で中立位置まで復帰させるシステムを想定しているが、復帰用のアクチュエータを具備し、該アクチュエータを用いてウェイト71を自動的に復帰させてもよい。この場合においても、本実施の形態は、エネルギの浪費低減及び起動時間の短縮の点で非常に効果的である。
【0112】
また、本実施の形態では、乗員15の降車希望に伴う車体前方傾斜動作時の快適性を保障するために、特別な着地制御を実行するが、緊急停止時と同様に、電源を遮断してもよい。これにより、制御系の設計が更に容易になる。
【0113】
このように、本実施の形態においては、車体の前方傾斜確率に応じて、制御対応ホルダ76bを制御する。具体的には、前方傾斜確率が所定値以下の場合に、制御対応ホルダ76bを解放状態とする。これにより、緊急停止時に車体を前方に傾斜させるモーメントが過剰に発生することを防ぎ、接地時の衝撃や車両転倒の危険性を低減することができる。
【0114】
また、ウェイト71が車軸12aよりも鉛直下方に位置するので、ウェイト71を付勢するばね部材75の反力によるモーメントが車体を前方に傾けるように作用する。これにより、ウェイト71の質量が小さくても、車体をより確実に前方に傾斜させることができる。
【0115】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0116】
図10は本発明の第3の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【0117】
本実施の形態においては、ストッパ16がウェイト71の代わりに可動質量として機能し、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能となっている。なお、支持部13の下端には、前後に延在する補助部13aが固定され、該補助部13aの前端及び後端に前方ブラケット73及び後方ブラケット74が固定されている。また、電源対応ホルダ76aは、補助部13aに取り付けられている。
【0118】
その他の点の構成及び動作については、前記第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0119】
このように、本実施の形態においては、車両10の必須の構成要素であるストッパ16に可動質量としての付加的な役割を持たせるようになっている。これにより、あらためて可動質量を追加する必要が無いため、車両の重量を大きく増やすことなく、車体が必ず前方に傾斜する車両を実現できる。また、非常停止時にストッパが前方に移動するため、ストッパが接地した状態の車体の安定性が増し、より安全な車両を実現できる。
【0120】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0121】
図11は本発明の第4の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【0122】
本実施の形態においては、搭乗部14がウェイト71の代わりに可動質量として機能し、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能となっている。この場合、駆動輪12の上方に位置する本体部11の上に上方ブラケット77が固定され、該上方ブラケット77にガイド部材72の前端及び後端が取り付けられている。そして、搭乗部14から下方に向けて延出する搭乗脚部14aの下端部14bが、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能に取り付けられている。これにより、搭乗部14が可動質量として前後方向へ移動することができる。
【0123】
なお、前記搭乗脚部14aの下端部14bと上方ブラケット77との間にばね部材75が配設され、上方ブラケット77に電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bが取り付けられている。
【0124】
その他の点の構成及び動作については、前記第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0125】
このように、本実施の形態においては、大きな重量物である乗員15を含む搭乗部14に可動質量としての付加的な役割を持たせるようになっている。これにより、あらためて可動質量を追加する必要が無いため、車両の重量を大きく増やすことなく、車体が必ず前方に傾斜する車両を実現できる。また、小型の車両10における最大の重量物である乗員15を有効に活用することで、短い可動距離でも十分な効果が得られるため、より軽量・小型で、安価な車両10を実現できる。また、非常停止時に搭乗部が前方に移動するため、停止後の乗員15の降車が容易になる。
【0126】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
10 車両
12 駆動輪
17 転倒防止装置
20 制御ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関する技術が提案されている。例えば、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両、球体状の単一の駆動輪に取り付けられた車体の姿勢を制御しながら移動する車両等の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、センサで車体のバランスや動作の状態を検出しながら、倒立制御を行って、車両を移動させる。また、乗員が降車するときや車両の電源を遮断したときには、倒立制御を停止するのと同時にストッパを作動させ、該ストッパを接地させることによって車体の姿勢を維持し、倒立制御の実行時にはストッパを路面から離脱させてストッパが走行の支障となることを防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、可動式のストッパを車両の前後に取り付ける必要があり、これにより、構成が複雑化するとともに、車両の軽量化及び低コスト化の妨げとなる。
【0006】
そこで、固定式のストッパを車両のいずれか一方側に取り付けることが考えられる。乗員が降車するときには、乗員が降車しやすい方向に車体を傾けて、車体に固定されたストッパを地面に接地させる。また、緊急停止時に車体が逆方向に傾斜した場合に備えて転倒防止装置を取り付ける。該転倒防止装置は非常時のみに作動するため、簡易なシステムが望ましく、例えば、転倒防止装置としてエアバッグを使用する。
【0007】
ここで、転倒防止装置は、車体が逆方向に傾斜しない限り、作動させない方が望ましい。例えば、エアバッグの場合、作動後に交換が必要であり、そのために乗員又は車両の管理者は時間と費用を要する。したがって、車体が逆方向に傾斜したときにのみ、転倒防止装置を作動させる方が望ましい。
【0008】
また、場合によっては、転倒防止装置を適切に作動させることができない可能性がある。例えば、車体の傾斜方向を確認した後に転倒防止装置を作動させる場合、転倒防止装置が機能する前に、車体の一部が路面に接触する可能性がある。また、車体の傾斜状態を計測するセンサの故障や制御に関する演算処理を行うECU(Electronic Control Unit)の故障、又は、それらに対する電力供給の遮断の結果として倒立制御を緊急停止した場合、その後の車体の傾斜方向を確認することは不可能である。
【0009】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、車体の降車方向傾斜確率を算出し、その値によって車体の傾斜方向を予測するとともに、転倒防止装置を作動させる転倒防止手段の実行を禁止する禁止手段を備え、降車方向への車体傾斜を予測した場合には転倒防止手段の実行をあらかじめ禁止状態にしておくことにより、車体傾斜方向の予測に基づく的確な判断で必要な場合にのみ確実に転倒防止装置を作動させることができるため、転倒防止装置の不要な作動によって使用者が余分な時間と費用を要することがなくなり、かつ、車体固定式片側ストッパのみで十分な安全性を保障でき、その結果、簡素で小型で軽量で安価で安全で便利な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明の車両においては、回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、前記車体の転倒を防止する転倒防止装置と、前記駆動輪に付与する駆動トルクを制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、該傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備える。
【0011】
本発明の他の車両においては、さらに、前記禁止手段は、前記車体の姿勢の制御を停止する直前に前記傾斜方向予測手段が予測した前記車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する。
【0012】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車体の姿勢角度を制限する姿勢制限手段を更に備え、前記車両制御装置は、前記傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向と前記姿勢制限手段が機能する方向とが一致するときに前記禁止手段は前記転倒防止装置の実行を禁止する。
【0013】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0014】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段を備え、該重心ずれ取得手段によって取得された前記車体の重心ずれ量によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0015】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記重心ずれ量取得手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態及び/又は前記駆動トルクの時間履歴に基づいて前記車体の重心ずれ量を推定する。
【0016】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、車両の走行速度に基づいて前記車体の姿勢の制御の停止後における車両の減速度と減速時間を予測する減速状態予測手段を更に備え、該減速状態予測手段によって予測された前記減速度と前記減速時間によって、前記車体が傾斜する方向を予測する。
【0017】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記傾斜方向予測手段は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が特定方向へ傾斜する確率を算出し、算出した確率が所定の閾値以上であるときに前記車体が特定方向に傾斜すると予測する。
【0018】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御を停止するときに車両の電源を遮断する。
【0019】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記禁止手段は、前記傾斜方向予測手段が前記車体が特定方向へ傾斜すると予測したときに前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止信号を前記転倒防止装置に送信し、該転倒防止装置は、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信した場合には実行せず、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信しなかった場合には実行する。
【0020】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記転倒防止装置は、前記車体と路面の間に介在させて前記車体の傾斜角を所定の閾値以内に制限するエアバッグを作動させる。
【0021】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記転倒防止装置は、前記車体の重心位置を転倒する方向の逆側に移動させる可動質量を作動させる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の構成によれば、車体の傾斜方向を予測し、必要であると予測される場合にのみ確実に転倒防止装置の作動等を実行するため、不要な転倒防止手段の実行、及び、その事後処理に必要な労力や費用を無くすことができる。
【0023】
請求項2の構成によれば、姿勢制御を停止して車体が実際に傾斜する前に傾斜方向を予測して、必要に応じて転倒防止手段を実行するため、転倒防止装置の実行が遅れる場合、あるいは、センサの故障等により車体の傾斜状態の取得が困難な場合でも、必要な場合には確実に転倒防止手段を機能させることができる。また、姿勢制御を停止する前の最新の予測結果を用いることで、より信頼性の高い予測に基づいて転倒防止装置を実行又は禁止できる。
【0024】
請求項3の構成によれば、例えば車体傾斜角を制限するストッパを車体の片側のみに備え、通常時の停車は車体をストッパ側に傾斜させることで行い、逆側に傾斜する非常時のみ転倒防止装置を実行するような車両を実現可能とし、小型で安全な倒立型車両を提供できる。
【0025】
請求項4の構成によれば、車体の傾斜状態や駆動輪の回転状態を考慮し、車体傾斜に関する力学モデルに基づいて車体の傾斜方向を予測することにより、高い精度で車体の傾斜方向を予測することができる。
【0026】
請求項5の構成によれば、乗員や積載物の状況によって変化する車体の重心ずれを考慮することで、より高い精度で車体の傾斜方向を予測できる。
【0027】
請求項6の構成によれば、車体の重心ずれを推定によって取得することで、重心ずれを計測するセンサが不要であり、低コストかつ高精度の傾斜方向予測を実現できる。
【0028】
請求項7の構成によれば、姿勢制御停止後の車両の減速過程を予測し、その減速に伴って車体に作用する慣性力を考慮することで、より高い精度で車体の傾斜方向を予測できる。
【0029】
請求項8の構成によれば、傾斜方向の予測結果を確率という数値で決定することで、予測結果を定量的に判断することが可能となり、より適切に転倒防止装置を実行することができる。
【0030】
請求項9の構成によれば、様々な倒立制御停止の条件を電源遮断という最も厳しい条件に統一することで、姿勢制御停止時のいかなる条件に対しても必要に応じて確実に転倒防止装置を実行できる。また、1つの条件に統一されることで、制御の設計が容易になる。
【0031】
請求項10の構成によれば、電源遮断の情報を転倒防止手段実行の条件に用いることで、電源が遮断されても必要に応じて確実に転倒防止装置を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの入出力信号を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における実質車体傾斜角と前方傾斜確率の関係を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における傾斜方向予測処理の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図、図3は本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの構成を示すブロック図、図4は本発明の第1の実施の形態における車両の車体転倒防止システムの入出力信号を示す図である。なお、図4において、(a)は転倒防止装置が作動しない場合、(b)は転倒防止装置が作動する場合をそれぞれ表す。
【0035】
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
【0036】
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
【0037】
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には搭乗部14が取り付けられている。なお、本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗部14に搭乗している例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備える。
【0038】
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
【0039】
また、前記入力装置30は、停止要求取得手段としての制御切替スイッチ32を備える。そして、乗員15が走行開始や降車を希望する場合には、制御切替スイッチ32を操作することによって、倒立制御の実行や停止の指令を入力するようになっている。ここで、乗員15が操作して倒立制御の実行や停止を入力することができる装置であれば、制御切替スイッチ32に代えて他の装置、例えば、押しボタンやタッチパネル、操作レバー、音声認識システム等の装置を停止要求取得手段として使用することもできる。また、これらは実行又は停止の一方のみを指令する装置であってもよい。
【0040】
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31及び制御切替スイッチ32に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31及び制御切替スイッチ32に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
【0041】
さらに、前記搭乗部14の足置き部には、固定式の姿勢制限手段としてのストッパ16が取り付けられている。なお、該ストッパ16は、足置き部と一体的に形成されていることが望ましい。そして、倒立制御を停止した時には、前記ストッパ16の少なくとも一部、例えば、前端部が路面に接地することによって車体の姿勢角度を制限し、車体が所定角度以上に傾斜することを防止する。
【0042】
降車時における車体の傾斜方向、すなわち、車両10を停車させて乗員15が降車する際に車体を傾斜させる方向である降車方向は、前方又は後方のいずれであってもよいが、本実施の形態における車両10では、前記降車方向が前方であるものとして説明する。そして、降車時に倒立制御を停止すると、車体が前方に傾斜してストッパ16の前端部が路面に接地するので、車体の姿勢が安定し、乗員15は安全に降車することができる。
【0043】
一方、前記搭乗部14の背面には、降車方向と逆方向へ車体が転倒することを防止するための転倒防止装置17が取り付けられている。該転倒防止装置17は、緊急の倒立制御停止時に自動的に作動して車体の転倒を防止する装置であれば、いかなる種類の装置であってもよいが、本実施の形態においては、エアバッグ装置であるものとして説明する。該エアバッグ装置は、作動させると、ガス発生器(インフレータ)の発生する高圧ガスがバッグ内に注入されて該バッグが急速に膨張して路面に接地するので、車体の後方への転倒が防止される。
【0044】
また、車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置としての制御ECU20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0045】
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
【0046】
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41及び駆動モータ52とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
【0047】
さらに、主制御ECU21は、作動禁止スイッチ61及び転倒防止装置17を備える転倒防止手段としての車体転倒防止システム60を制御する。車両10の緊急停止時には、転倒防止装置17を作動させる信号が主制御ECU21から車体転倒防止システム60に自動的に送信され、このとき、作動禁止スイッチ61が禁止信号を受信していない場合に限り、転倒防止装置17を作動させるようになっている。
【0048】
なお、前記作動禁止スイッチ61は、具体的には、図3に示されるように、入力信号の立下り時(ONからOFFに変化した時)に所定時間信号を出力する立下りトリガ62と、入力信号を所定の時間Tだけ遅らせる遅延要素63と、両方の信号が入力された場合(一方はその否定)にのみ信号を出力する論理積64とを備え、論理演算処理を実行する電子回路である。そして、作動禁止スイッチ61は、車両システムの電源投入状態に対応する電源信号、及び、主制御ECU21からの禁止信号が入力されると、図4に示されるような動作信号を転倒防止装置17に対して出力する。
【0049】
そして、前記立下りトリガ62は、車両システムの電源投入状態に対応する電源信号がOFF状態に変化すると、すなわち、電源が遮断されると、信号として電源信号の立下りトリガ信号を出力する。これにより、電源遮断(緊急停止)時以外の時に転倒防止装置17が作動することを防止する。また、前記遅延要素63は、主制御ECU21からの禁止信号を所定の時間だけ遅らせる。すなわち、電源遮断から所定の時間だけ前における禁止信号の状態に応じて、作動禁止の是非を判断する。これにより、車両システムの電源遮断とともに主制御ECU21の電源も遮断された結果、主制御ECU21が禁止信号を送信できなくなる場合であっても、確実に転倒防止装置17の作動を禁止することができる。さらに、前記論理積64は、電源信号の立下りトリガ信号を受信し、かつ、所定の時間Tだけ遅れた禁止信号を受信しなかった場合、すなわち、電源遮断の直前における禁止信号がOFFの場合、転倒防止装置17の動作信号を出力する。これにより、禁止信号によって転倒防止装置17を作動させるか否かをあらかじめ設定することができる。
【0050】
さらに、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
【0051】
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
【0052】
なお、制御ECU20は、機能の観点から、倒立制御の停止時に車体の傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段、及び、転倒防止手段の実行を禁止する禁止手段、車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段、倒立制御停止後の車両の減速過程を予測する減速状態予測手段を備える。
【0053】
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、車両制御処理の概要について説明する。
【0054】
図5は本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0055】
車両制御処理において、制御ECU20は、まず、システム異常判定を行い、異常発生か否かを判定する(ステップS1)。この場合、例えば、バッテリの異常による電力供給の遮断、各センサの故障、各アクチュエータの故障、各ECUの異常、各要素間の通信異常等の原因によって、倒立制御の維持が不可能な状態となっているか否かを判定する。
【0056】
そして、異常発生はないと判定すると、制御ECU20は、降車希望判定を行い、降車希望であるか否かを判定する(ステップS2)。この場合、入力装置30の制御切替スイッチ32から入力された実行/停止指令の信号を取得し、乗員15が降車を望んでいるか否かを判定する。具体的には、実行指令の場合には乗員15が降車を望んでいない、停止指令の場合には乗員15が降車を望んでいると判定する。
【0057】
そして、降車を望んでいないと判定すると、制御ECU20は、倒立制御を実行し(ステップS3)、車体の倒立姿勢を維持しつつ、乗員15が指令する走行状態を実現する。なお、倒立制御の内容については、通常の倒立型車両における倒立制御と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
続いて、制御ECU20は、傾斜方向予測処理を実行し(ステップS4)、倒立制御停止時における車体の傾斜方向の予測として、車体が前方に傾斜する確率を決定する。
【0059】
続いて、制御ECU20は、傾斜方向予測処理の結果に基づき、傾斜方向判定を行い、前方傾斜であるか否かを判定する(ステップS5)。この場合、車体が確実に前方に傾斜するか否かを、前方傾斜確率により判定する。具体的には、前方傾斜確率が所定の閾値以上である場合に前方傾斜と判定する。
【0060】
そして、前方傾斜でない場合、制御ECU20は、許可指令を行って(ステップS6)、処理を終了する。具体的は、主制御ECU21から作動禁止スイッチ61へ送信する禁止信号を停止することによって緊急停止時における車体転倒防止システム60の作動を許可する。
【0061】
また、前方傾斜である場合、制御ECU20は、禁止指令を行って(ステップS7)、処理を終了する。具体的には、主制御ECU21から作動禁止スイッチ61へ禁止信号を送信することによって緊急停止時における車体転倒防止システム60の作動を禁止する。
【0062】
一方、システム異常判定において異常が発生していると判定した場合、制御ECU20は、電源遮断、すなわち、緊急停止を行い(ステップS8)、車両システムの電源を遮断し、車両制御処理を終了する。前述のように、電源が遮断されると立下りトリガ62は電源信号の立下りトリガ信号を出力する。そして、論理積64は、電源信号の立下りトリガ信号を受信し、かつ、電源遮断の直前における禁止信号がOFFの場合、転倒防止装置17の動作信号を出力する。すると、転倒防止装置17が作動するので、車体の後方への転倒が防止される。また、電源遮断の直前における禁止信号がONである場合には、転倒防止装置17の動作信号が出力されないので、転倒防止装置17は作動しない。このように、許可指令又は禁止指令に応じた禁止信号によって、転倒防止装置17を作動させるか否かが設定される。
【0063】
また、降車希望判定において降車を希望していると判定した場合、制御ECU20は、着地制御を実行し(ステップS9)、車体を緩やかに前方に傾け、ストッパ16を路面に接地させ、車両制御処理を終了する。なお、該車両制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
【0064】
このように、本実施の形態においては、緊急停止としてシステムの電源が遮断されると、事前に予測した必要性に基づいて、転倒防止装置17が作動するようになっている。具体的には、転倒防止装置17は、作動を禁止する禁止信号を受信していない場合にのみ作動する。倒立制御実行時の傾斜方向予測において、転倒防止装置17の作動が不要である、とあらかじめ判断されていた場合には、緊急停止に関わらず、転倒防止装置17は作動しない。これにより、転倒防止装置17の不要な動作後に必要な乗員15等の利用者の負担、(例えば、転倒防止装置17がエアバッグ装置である場合には、新しいエアバッグ装置に交換する負担)を省くことができる。
【0065】
また、車体が後方に傾斜する可能性がある場合に限り、緊急停止時における転倒防止装置17の作動を許可するようになっている。具体的には、傾斜方向予測によって決定した前方傾斜確率に応じて、禁止信号の送信状態を切り替える。前方傾斜確率が所定の閾値よりも小さい場合には、転倒防止装置17の作動を許可する。この場合、電源遮断時に転倒防止装置17が自動的に作動するように、事前準備する。また、前方傾斜確率が所定の閾値よりも大きい場合には、転倒防止装置17の作動を禁止する。この場合、転倒防止装置17は作動することがなく、通常の乗降時と同様に、車体の前方のストッパ16を接地させた状態で車体姿勢が保たれる。
【0066】
なお、本実施の形態では、乗員15の降車希望に伴う車体前方傾斜動作時の快適性を保障するために、特別な着地制御を実行するが、緊急停止時と同様に、電源を遮断してもよい。これにより、制御系の設計が更に容易になる。
【0067】
次に、傾斜方向予測処理について説明する。
【0068】
図6は本発明の第1の実施の形態における実質車体傾斜角と前方傾斜確率の関係を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における傾斜方向予測処理の動作を示すフローチャートである。
【0069】
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
θW :駆動輪回転角〔rad〕
θ1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
τW :駆動トルク(2つの駆動輪の合計)〔Nm〕
g:重力加速度〔m/s2 〕
RW :駆動輪接地半径〔m〕
I1 :車体慣性モーメント〔kgm2 〕
m1 :車体質量(乗員を含む)〔kg〕
l1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
【0070】
続いて、主制御ECU21は、車体重心ずれ量を推定する(ステップS4−2)。具体的には、取得した各状態量と駆動トルクの時間履歴とから、次の式(1)によって、車体重心ずれ量δ1 を推定する。
【0071】
【数1】
【0072】
なお、駆動トルクτW の値には、前回の制御処理時に決定した値を使用する。また、車体傾斜角加速度及び駆動輪回転角加速度の値は、車体傾斜角θ1 及び駆動輪回転角θW の計測値を2回時間微分(差分)することによって得られる。
【0073】
本実施の形態においては、駆動輪回転状態と車体傾斜状態と駆動トルクの時間履歴とに基づいて、車体の傾斜運動に関する力学モデルの偏差として、車体重心ずれ量を推定する。具体的には、車体の回転慣性、車両10の加減速に伴う慣性力、重力トルク、及び、駆動トルクの反トルクを考慮し、考慮していない作用が車体重心ずれによるものであると仮定して、車体重心ずれ量を推定する。したがって、例えば、車体傾斜センサ41の機械的及び電気的なオフセットも重心ずれ量として自動的に考慮できる。
【0074】
また、ローパスフィルタによって、外乱による影響を除く。例えば、乗員15の一時的な動作や路面の凹凸、センサ信号のノイズ等の影響を除く。
【0075】
なお、本実施の形態においては、簡単な線形モデルにより車体重心ずれ量を推定しているが、より厳密なモデルによって推定してもよい。例えば、非線形的な作用や車体の回転に対する粘性抵抗等の要素を考慮したモデルを用いて、より厳密に推定してもよい。また、より簡単なモデルによって推定してもよい。例えば、特性時間の短い車体の回転慣性や加減速に伴う慣性力を無視したモデルを用いて推定してもよい。さらに、車体傾斜角加速度や駆動輪回転角加速度が大きい場合には推定値を固定することで、推定値の精度を保つようにしてもよい。
【0076】
また、本実施の形態においては、1次のローパスフィルタによって推定値を補正しているが、より高次のフィルタを用いてもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態においては、推定によって車体重心ずれ量を取得しているが、他の方法を用いてもよい。例えば、乗員15や搭載物を含む搭乗部14の荷重分布を計測する複数の荷重センサを具備し、その計測値に基づいて搭乗部14及び車体重心ずれ量を推定してもよい。これにより、推定の精度や信頼性を更に高めることができる。また、この場合において、力学モデルで考慮していない他の要素、例えば、車体傾斜センサ41のオフセット等を本実施の形態と同様の手法によって推定してもよい。
【0078】
さらに、本実施の形態においては、車体の傾斜運動に関する力学モデルとの偏差を車体重心ずれ量として推定しているが、他の物理量によって偏差を評価してもよい。例えば、車体に作用する反トルクを偏差とし、その推定値を後述の車体傾斜角推定に利用してもよい。すなわち、車体重心ずれ量は力学モデルとの偏差に相当する物理量の1つであり、その限りではない。
【0079】
続いて、主制御ECU21は、前方傾斜確率を決定する(ステップS4−3)。この場合、取得した各状態量に応じて、次の式(2)によって、前方傾斜確率Pを決定する。
【0080】
【数2】
【0081】
図6には前方傾斜確率と実質車体傾斜角との関係が示されている。
【0082】
なお、制動トルクの予測値には、次の仮定の下で所定の値を予め与えておく。まず、緊急停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用する場合、性能予想値又は制御指令値であるブレーキトルクの値を与える。また、緊急停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用しない場合、駆動モータ52の逆起電力や駆動輪12の転がり抵抗などを考慮して制動トルクに相当する値を与える。
【0083】
このように、本実施の形態においては、車両10の状態に基づいて、倒立制御を停止した時に車体が傾斜する方向の予測として、車体の前方傾斜確率を決定する。
【0084】
具体的には、車体傾斜角と車体傾斜角速度に基づいて、前方傾斜確率を決定する。この場合、車体が前方に傾いているほど、また、車体の前方への傾斜速度が大きいほど、前方傾斜確率を大きくする。たとえ車体が後方に傾いていても、前方への車体傾斜角速度が大きければ、前方へ傾斜すると判断する。このように、車体傾斜角速度まで考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0085】
また、緊急停止時における車両10の減速に伴う慣性力の影響を考慮する。具体的には、予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、前方傾斜確率を決定する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を予測する。この場合、車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に及ぼす影響が大きい、すなわち、前方傾斜確率が大きいと判断する。このように、緊急停止後の慣性力を考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0086】
さらに、車体重心ずれ量に応じて、前方傾斜確率を修正する。具体的には、予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、前方傾斜確率を決定する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を予測する。この場合、車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に及ぼす影響が大きい、すなわち、前方傾斜確率が大きいと判断する。このように、車体重心ずれ量を考慮することで、より高精度に傾斜方向を予測できる。
【0087】
さらに、車体傾斜方向の予測結果を確率値として決定する。具体的には、釣り合い状態(車体がどちらにも傾かない状態)を予測した場合の前方傾斜確率を1/2とし、車体を前方へ傾けようとする力学的作用が大きいほど、前方傾斜確率を大きくする。このように、傾斜方向予測結果を定量的な値として出力することで、その予測結果を柔軟に、かつ、適切に扱うことを可能とする。
【0088】
なお、本実施の形態においては、慣性と重力を考慮した力学モデルに基づいて、車体傾斜方向を予測しているが、他の影響を考慮してもよい。例えば、摩擦抵抗や空気抵抗、又は、車体の重心位置のずれを考慮して、車体傾斜方向を予測してもよい。さらに、車両10が水平方向に相対移動する能動重量部を備える場合、その能動重量部の位置や速度を考慮して、車体傾斜方向を予測してもよい。
【0089】
また、本実施の形態においては、非線形の関数によって前方傾斜確率を決定しているが、線形近似した簡単な関数によって決定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
【0090】
さらに、本実施の形態においては、予測信頼度を所定値としているが、予測信頼度を車両の状況等に応じて変化させてもよい。例えば、車両の加速度や車体傾斜角加速度が所定の閾値よりも大きい場合、あるいは、坂路や凹凸路など路面形状が平坦(たん)ではない場合には、予測信頼度を低下させてもよい。これにより、車体傾斜方向予測の実際の信頼性に応じた妥当な予測結果が出力され、適切な制御が実行される。
【0091】
また、前方傾斜確率が所定の閾値以上である場合に車体が前方へ傾斜すると予測するが、その閾値を車両10の状況等に応じて変化させてもよい。例えば、予測信頼度と同様に、車両の加速度や車体傾斜角加速度が所定の閾値よりも大きい場合、あるいは、坂路や凹凸路など路面形状が平坦ではない場合には、閾値を低下させてもよい。これにより、車体傾斜方向予測の実際の信頼性に応じた適切な制御が実行される。
【0092】
なお、本実施の形態においては、前方に車体を傾けた方が利便性や快適性が高いという前提で、前方への傾斜を促す制御を実行しているが、後方に傾けてもよい。例えば、車両10の前方にハンドルがあり、後方から搭乗する立ち乗り型の倒立型車両の場合、必ず後方に傾斜させることで、昇降時の利便性や快適性を高めることができる場合がある。
【0093】
このように、本実施の形態においては、車体の降車方向傾斜確率を算出し、その値によって車体の傾斜方向を予測するとともに、降車方向への車体傾斜を予測した場合には転倒防止装置17の作動をあらかじめ禁止状態にする。これにより、車体の傾斜方向を確実に判断し、必要な場合にのみ確実に転倒防止装置17を作動させることができる。
【0094】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0095】
図8は本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図9は本発明の第2の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。
【0096】
本実施の形態において、車両10は、車軸12aより下方に配設された可動質量としてのウェイト71を備える。該ウェイト71は、車体の前後方向に延在するガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能である。前記ウェイト71及びガイド部材72は、例えば、リニアガイドのような構造を備え、ガイド部材72が案内レールであり、ウェイト71が案内レールに沿ってスライドするキャリッジであって、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体が配設されているような構造を備える。また、例えば、ボールねじのような構造を備え、ガイド部材72が螺(ら)旋溝を備えるねじ軸であり、ウェイト71がねじ軸に螺合するナットを備え、ねじ軸とナットとの間に介在するボール、コロ等の転動体が配設されているような構造を備える。なお、前記ガイド部材72の前端は、ストッパ16に固定された前方ブラケット73に取り付けられ、前記ガイド部材72の後端は、ストッパ16に固定された後方ブラケット74に取り付けられている。
【0097】
また、ウェイト71と後方ブラケット74との間には付勢手段としてばね部材75が配設され、ウェイト71を特定方向としての前方へ付勢する。前記ばね部材75は、例えば、圧縮コイルばねであり、ウェイト71に対し、前方へ向けて押し出す力を付与する。
【0098】
さらに、ストッパ16には、第1固定手段としての電源対応ホルダ76aが取り付けられ、後方ブラケット74には、第2固定手段及び第3固定手段としての制御対応ホルダ76bが取り付けられている。前記電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bは固定状態と解放状態との切替が可能な固定手段であり、解放状態においてはウェイト71の前後方向への移動を許し、固定状態ではウェイト71の前後方向への移動を妨げる。
【0099】
図8に示される状態では、電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bがともに固定状態となっており、ばね部材75の付勢力に抗して、ウェイト71の前方への移動を禁止している。これにより、ウェイト71は、その重心が駆動輪接地点を通る鉛直線上にある位置で固定される。なお、前記電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bは、必ずしも、ストッパ16及び後方ブラケット74に取り付けられる必要はなく、車体のいかなる部位に取り付けられていてもよい。
【0100】
また、車両10は、車両制御装置としてのホルダ制御ECU23を更に備える。該ホルダ制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21及び駆動輪制御ECU22と、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0101】
そして、主制御ECU21は、ホルダ制御ECU23及びホルダモータ82とともに、制御対応ホルダ76bの動作を制御する制御対応ホルダシステム80の一部として機能する。前記ホルダモータ82は、制御対応ホルダ76bを作動させ、固定状態及び解放状態を切り換える。
【0102】
本実施の形態において、電源対応ホルダ76aは、電源投入時には自動的に固定状態に、電源遮断時には自動的に解放状態になる。また、制御対応ホルダ76bは、電源投入時には主制御ECU21からのホルダ切り換え指令に応じて、固定状態及び解放状態が切り換わり、電源遮断時にはその直前の状態を維持する。
【0103】
なお、ホルダ制御ECU23を省略して、ホルダモータ82の入力電圧を主制御ECU21から直接供給するようにしてもよい。その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0104】
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。
【0105】
車両制御処理において、制御ECU20は、前記第1の実施の形態と同様に、傾斜方向予測処理を実行し、該傾斜方向予測処理の結果に基づき、傾斜方向判定を行い、前方傾斜であるか否かを判定する。
【0106】
そして、前方傾斜でない場合、制御ECU20は、ウェイト解放を行う。具体的は、ホルダ制御ECU23に解放指令信号を送信することによって、制御対応ホルダ76bを解放状態に切り換える。これにより、ウェイト71の前方への移動は電源対応ホルダ76aのみによって阻止されている状態となる。
【0107】
また、前方傾斜の場合、制御ECU20は、ウェイト固定を行う。具体的には、ホルダ制御ECU23に固定指令信号を送信することによって制御対応ホルダ76bを固定状態に切り換える。これにより、ウェイト71の前方への移動は、電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bの両方によって阻止されている状態となる。なお、降車希望判定において降車を希望していると判定した場合にも、制御ECU20は、同様にウェイト固定を行う。
【0108】
そして、システム異常判定において異常が発生していると判定した場合、制御ECU20は、前記第1の実施の形態と同様に、電源遮断、すなわち、緊急停止を行い、車両10のシステムの電源を遮断し、車両制御処理を終了する。前述のように、電源対応ホルダ76aは、電源投入時には自動的に固定され、電源遮断時には自動的に解放される。したがって、既にウェイト解放を行い、制御対応ホルダ76bが解放状態に切り換えられている場合には、ばね部材75の付勢力によってウェイト71が前方へ移動する。これにより、車体全体の重心が前方に移動するので、車体が確実に前方に傾斜する。また、ウェイト71を前方に移動させるばね部材75の反力が車軸12aの下方に位置する後方ブラケット74に作用することにより、該後方ブラケット74を後方に移動させるような回転モーメント、すなわち、搭乗部14を前方に傾斜させるような回転モーメントが作用し、車体が前方に傾斜するのを補助する。なお、ウェイト固定を行い、制御対応ホルダ76bが固定状態に切り換えられている場合には、電源対応ホルダ76aが解放されても、ウェイト71は前方へ移動しない。
【0109】
このように、本実施の形態においては、緊急停止としてシステムの電源が遮断されると、車両10の状況に応じて、可動質量としてのウェイト71が自動的に前方へ移動するようになっている。まず、電源遮断時、電源対応ホルダ76aは解放状態になる。したがって、電源遮断による倒立制御の停止時においても、車体を確実に前方に傾斜させることができる。また、制御対応ホルダ76bは倒立制御実行時の設定状態を保持する。そのため、倒立制御実行時の傾斜方向予測処理においてウェイト71の前方移動が不要であるとあらかじめ判断されていた場合には、緊急停止に関わらず、ウェイト71は中立位置で保持される。したがって、倒立制御再開時に、再びウェイト71を中立位置まで移動させる作業の手間を省くことができる。
【0110】
また、乗員15の降車希望による通常の倒立制御停止時には、ウェイト71を移動させない。具体的には、乗員15による倒立制御停止指令を受けると、着地制御に移行する前に、制御対応ホルダ76bを固定状態にする。これにより、倒立制御再開時に、再びウェイト71を中立位置まで移動させる作業の手間を省くことができる。また、車体を前方に傾ける制御がウェイト71の前方移動によって乱されることが無くなり、着地制御の設計が容易になる。
【0111】
なお、本実施の形態では、緊急停止に伴い前方に移動したウェイト71を、倒立制御再開前に手動で中立位置まで復帰させるシステムを想定しているが、復帰用のアクチュエータを具備し、該アクチュエータを用いてウェイト71を自動的に復帰させてもよい。この場合においても、本実施の形態は、エネルギの浪費低減及び起動時間の短縮の点で非常に効果的である。
【0112】
また、本実施の形態では、乗員15の降車希望に伴う車体前方傾斜動作時の快適性を保障するために、特別な着地制御を実行するが、緊急停止時と同様に、電源を遮断してもよい。これにより、制御系の設計が更に容易になる。
【0113】
このように、本実施の形態においては、車体の前方傾斜確率に応じて、制御対応ホルダ76bを制御する。具体的には、前方傾斜確率が所定値以下の場合に、制御対応ホルダ76bを解放状態とする。これにより、緊急停止時に車体を前方に傾斜させるモーメントが過剰に発生することを防ぎ、接地時の衝撃や車両転倒の危険性を低減することができる。
【0114】
また、ウェイト71が車軸12aよりも鉛直下方に位置するので、ウェイト71を付勢するばね部材75の反力によるモーメントが車体を前方に傾けるように作用する。これにより、ウェイト71の質量が小さくても、車体をより確実に前方に傾斜させることができる。
【0115】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0116】
図10は本発明の第3の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【0117】
本実施の形態においては、ストッパ16がウェイト71の代わりに可動質量として機能し、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能となっている。なお、支持部13の下端には、前後に延在する補助部13aが固定され、該補助部13aの前端及び後端に前方ブラケット73及び後方ブラケット74が固定されている。また、電源対応ホルダ76aは、補助部13aに取り付けられている。
【0118】
その他の点の構成及び動作については、前記第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0119】
このように、本実施の形態においては、車両10の必須の構成要素であるストッパ16に可動質量としての付加的な役割を持たせるようになっている。これにより、あらためて可動質量を追加する必要が無いため、車両の重量を大きく増やすことなく、車体が必ず前方に傾斜する車両を実現できる。また、非常停止時にストッパが前方に移動するため、ストッパが接地した状態の車体の安定性が増し、より安全な車両を実現できる。
【0120】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0121】
図11は本発明の第4の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【0122】
本実施の形態においては、搭乗部14がウェイト71の代わりに可動質量として機能し、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能となっている。この場合、駆動輪12の上方に位置する本体部11の上に上方ブラケット77が固定され、該上方ブラケット77にガイド部材72の前端及び後端が取り付けられている。そして、搭乗部14から下方に向けて延出する搭乗脚部14aの下端部14bが、ガイド部材72に沿って車体の前後方向に移動可能に取り付けられている。これにより、搭乗部14が可動質量として前後方向へ移動することができる。
【0123】
なお、前記搭乗脚部14aの下端部14bと上方ブラケット77との間にばね部材75が配設され、上方ブラケット77に電源対応ホルダ76a及び制御対応ホルダ76bが取り付けられている。
【0124】
その他の点の構成及び動作については、前記第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0125】
このように、本実施の形態においては、大きな重量物である乗員15を含む搭乗部14に可動質量としての付加的な役割を持たせるようになっている。これにより、あらためて可動質量を追加する必要が無いため、車両の重量を大きく増やすことなく、車体が必ず前方に傾斜する車両を実現できる。また、小型の車両10における最大の重量物である乗員15を有効に活用することで、短い可動距離でも十分な効果が得られるため、より軽量・小型で、安価な車両10を実現できる。また、非常停止時に搭乗部が前方に移動するため、停止後の乗員15の降車が容易になる。
【0126】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
10 車両
12 駆動輪
17 転倒防止装置
20 制御ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、
前記車体の転倒を防止する転倒防止装置と、
前記駆動輪に付与する駆動トルクを制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、
該車両制御装置は、
前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、
該傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記禁止手段は、前記車体の姿勢の制御を停止する直前に前記傾斜方向予測手段が予測した前記車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車体の姿勢角度を制限する姿勢制限手段を更に備え、
前記車両制御装置は、前記傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向と前記姿勢制限手段が機能する方向とが一致するときに前記禁止手段は前記転倒防止装置の実行を禁止する請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段を備え、
該重心ずれ取得手段によって取得された前記車体の重心ずれ量によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
前記重心ずれ量取得手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態及び/又は前記駆動トルクの時間履歴に基づいて前記車体の重心ずれ量を推定する請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記傾斜方向予測手段は、車両の走行速度に基づいて前記車体の姿勢の制御の停止後における車両の減速度と減速時間を予測する減速状態予測手段を更に備え、該減速状態予測手段によって予測された前記減速度と前記減速時間によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が特定方向へ傾斜する確率を算出し、算出した確率が所定の閾値以上であるときに前記車体が特定方向に傾斜すると予測する請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前記車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御を停止するときに車両の電源を遮断する請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両。
【請求項10】
前記禁止手段は、前記傾斜方向予測手段が前記車体が特定方向へ傾斜すると予測したときに前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止信号を前記転倒防止装置に送信し、
該転倒防止装置は、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信した場合には実行せず、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信しなかった場合には実行する請求項9に記載の車両。
【請求項11】
前記転倒防止装置は、前記車体と路面の間に介在させて前記車体の傾斜角を所定の閾値以内に制限するエアバッグを作動させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項12】
前記転倒防止装置は、前記車体の重心位置を転倒する方向の逆側に移動させる可動質量を作動させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項1】
回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、
前記車体の転倒を防止する転倒防止装置と、
前記駆動輪に付与する駆動トルクを制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、
該車両制御装置は、
前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が傾斜する方向を予測する傾斜方向予測手段と、
該傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記禁止手段は、前記車体の姿勢の制御を停止する直前に前記傾斜方向予測手段が予測した前記車体が傾斜する方向に基づいて前記転倒防止装置の実行を禁止する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車体の姿勢角度を制限する姿勢制限手段を更に備え、
前記車両制御装置は、前記傾斜方向予測手段が予測した車体が傾斜する方向と前記姿勢制限手段が機能する方向とが一致するときに前記禁止手段は前記転倒防止装置の実行を禁止する請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の重心ずれ量を取得する重心ずれ量取得手段を備え、
該重心ずれ取得手段によって取得された前記車体の重心ずれ量によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
前記重心ずれ量取得手段は、前記車体の傾斜状態及び/又は前記駆動輪の回転状態及び/又は前記駆動トルクの時間履歴に基づいて前記車体の重心ずれ量を推定する請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記傾斜方向予測手段は、車両の走行速度に基づいて前記車体の姿勢の制御の停止後における車両の減速度と減速時間を予測する減速状態予測手段を更に備え、該減速状態予測手段によって予測された前記減速度と前記減速時間によって、前記車体が傾斜する方向を予測する請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
前記傾斜方向予測手段は、前記車体の姿勢の制御の停止時に前記車体が特定方向へ傾斜する確率を算出し、算出した確率が所定の閾値以上であるときに前記車体が特定方向に傾斜すると予測する請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前記車両制御装置は、前記車体の姿勢の制御を停止するときに車両の電源を遮断する請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両。
【請求項10】
前記禁止手段は、前記傾斜方向予測手段が前記車体が特定方向へ傾斜すると予測したときに前記転倒防止装置の実行を禁止する禁止信号を前記転倒防止装置に送信し、
該転倒防止装置は、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信した場合には実行せず、前記車体の電源が遮断される直前に前記禁止信号を受信しなかった場合には実行する請求項9に記載の車両。
【請求項11】
前記転倒防止装置は、前記車体と路面の間に介在させて前記車体の傾斜角を所定の閾値以内に制限するエアバッグを作動させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項12】
前記転倒防止装置は、前記車体の重心位置を転倒する方向の逆側に移動させる可動質量を作動させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−202117(P2010−202117A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52007(P2009−52007)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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