説明

車体上部構造

【課題】 ルーフサイドレールの曲げ剛性をスチフナを用いることなく高める。
【解決手段】 車体外側のアウター部材20と車体内側のインナー部材21とを閉断面を成すように結合して構成したルーフサイドレール11のインナー部材21が、少なくともセンターピラー13を挟むように配置された前側のルーフアーチ17および後側のルーフアーチ17間に、車体内側から車体外側に向かって溝状に突出するビード21cを備えるので、ルーフサイドレール11の内部にスチフナを配置することなくルーフサイドレール11の曲げ剛性を高めることができる。これにより、側面衝突の荷重を受けた一方のルーフサイドレール11は簡単に折れ曲がることなく、前記衝突荷重を少なくとも前後のルーフアーチ17を介して他方のルーフサイドレール11に伝達し、効果的に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフの左右両側部に沿って車体前後方向に延び、左右方向に延びる複数のルーフアーチによって相互に接続された左右一対のルーフサイドレールを、車体外側のアウター部材と車体内側のインナー部材とを閉断面を成すように結合して構成した車体上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
サイドレールアウタとサイドレールインナとを閉断面形状に結合したルーフサイドレールがセンターピラーの上端に接続される位置において、前記サイドレールアウタに車幅方向に延びる2本のビード部を形成することで、側面衝突時にセンタピラーからルーフサイドレールに衝突荷重を効果的に伝達して吸収するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また図8に示すように、ルーフサイドレール01のアウター部材02とインナー部材03との間にスチフナ04を挟むことで、その曲げ剛性を高めるものも周知である。
【特許文献1】特開2003−212148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものは、ルーフサイドレールとセンターピラーとの接続部だけを補強しているので、衝突荷重でセンターピラーとの接続部以外の部分でルーフサイドレールが折れ曲がってしまい、衝突荷重をルーフアーチに効果的に伝達して分散することができない可能性がある。
【0005】
また図8に示す、ルーフサイドレール01のアウター部材02とインナー部材03との間にスチフナ04を挟むものは、スチフナ04の分だけ重量が増加する問題があるだけでなく、アウター部材02、インナー部材03、スチフナ04およびルーフパネル05の4枚の部材を重ねてスポット溶接Wする必要が生じ、重ねられる部材の枚数が多すぎて確実なスポット溶接が困難になる問題がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ルーフサイドレールの曲げ剛性をスチフナを用いることなく高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両のルーフの左右両側部に沿って車体前後方向に延び、左右方向に延びる複数のルーフアーチによって相互に接続された左右一対のルーフサイドレールを、車体外側のアウター部材と車体内側のインナー部材とを閉断面を成すように結合して構成した車体上部構造において、前記インナー部材は、少なくともセンターピラーを挟むように配置された前側のルーフアーチおよび後側のルーフアーチ間に、車体内側から車体外側に向かって溝状に突出するビードを備えることを特徴とする車体上部構造が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記溝状のビードの深さは、センターピラーの位置で最も深く、そこから前記前側のルーフアーチおよび後側のルーフアーチに向かって漸減することを特徴とする車体上部構造が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記溝状のビードの内部に、サイドエアバッグモジュールの少なくとも一部を配置したことを特徴とする車体上部構造が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第2ルーフアーチ16は本発明の前側のルーフアーチに対応し、実施の形態の第4ルーフアーチ16は本発明の後側のルーフアーチに対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、車体外側のアウター部材と車体内側のインナー部材とを閉断面を成すように結合して構成したルーフサイドレールのインナー部材が、少なくともセンターピラーを挟むように配置された前側のルーフアーチおよび後側のルーフアーチ間に、車体内側から車体外側に向かって溝状に突出するビードを備えるので、ルーフサイドレールの内部にスチフナを配置することなくルーフサイドレールの曲げ剛性を高めることができる。これにより、側面衝突の荷重を受けた一方のルーフサイドレールは簡単に折れ曲がることなく、前記衝突荷重を少なくとも前後のルーフアーチを介して他方のルーフサイドレールに伝達して効果的に吸収することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、溝状のビードの深さをセンターピラーの位置から前側のルーフアーチおよび後側のルーフアーチに向かって漸減させたので、ルーフサイドレールの曲げ剛性の急変を回避して強度を高めることができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、溝状のビードの内部にサイドエアバッグモジュールの少なくとも一部を配置したので、サイドエアバッグモジュールの車室内への張り出しを最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図7は本発明の実施の形態を示すもので、図1は自動車のルーフ部の骨格を車体左側の斜め上方から見た図、図2は図1の2方向矢視図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図2の5−5線断面図、図6は図2の6−6線断面図、図7は図2の7−7線断面図である。
【0016】
図1および図2に示すように、自動車のルーフ部の側縁に沿って車体前後方向に延びるルーフサイドレール11の前端にはフロントピラー12の上端が接続され、中間部にはセンターピラー13の上端が接続され、後端にはリヤピラー14の上端が接続される。左右のルーフサイドレール11,11は車体左右方向に平行に延びる5本のルーフアーチ15〜19により相互に接続される。最も前側に位置する第1ルーフアーチ15はフロントピラー12の上端に接続され、最も後側に位置する第5ルーフアーチ19はリヤピラー14の上端に接続され、中央の第3ルーフアーチ17はセンターピラー13の上端に接続され、前から2番目の第2ルーフアーチ16はフロントピラー12およびセンターピラー13の間に接続され、前から4番目の第4ルーフアーチ18はセンターピラー13およびリヤピラー14の間に接続される。
【0017】
図4〜図7に示すようにルーフサイドレール11は車体外側に位置するアウター部材20と車体内側に位置するインナー部材21とで構成される。アウター部材20の両側縁に形成されたフランジ20a,20bと、インナー部材21の両側縁に形成されたフランジ21a,21bとがスポット溶接W1…,W2…により結合され,これによりルーフサイドレール11は閉断面に形成される。このとき、アウター部材20およびインナー部材21の上側のフランジ20a,21aの上面にルーフパネル22の側縁が重ね合わされ、前記スポット溶接W1により同時に結合される。
【0018】
図5に示すセンターピラー13の位置ではアウター部材20およびインナー部材21の上側のフランジ20a,21aの下面に第3ルーフアーチ17の端部が重ね合わされ、前記スポット溶接W1により同時に結合される。このスポット溶接W1の部分では、ルーフパネル22の側縁に局部的な切欠き22aが形成されており、ルーフパネル22を避けてアウター部材20、インナー部材21および第3ルーフアーチ17が三重に重ね合わされてスポット溶接W1により結合される。その理由は、四重に重ね合わされた部材を確実にスポット溶接するのは困難であるからである。
【0019】
図7に示すセンターピラー13およびリヤピラー14の中間位置ではアウター部材20およびインナー部材21の上側のフランジ20a,21aの下面に第4ルーフアーチ18の端部が重ね合わされ、前記スポット溶接W1により同時に結合される。このスポット溶接W1の部分では、ルーフパネル22の側縁に局部的な切欠き22bが形成されており、ルーフパネル22を避けてアウター部材20、インナー部材21および第4ルーフアーチ18が三重に重ね合わされてスポット溶接W1により結合される。その理由は、四重に重ね合わされた部材をスポット溶接するのは困難であるからである。
【0020】
尚、図示していないが、フロントピラー12とセンターピラー13との間の第2ルーフアーチ16の位置でも、上述した理由でルーフパネル22に切欠きが形成され、アウター部材20、インナー部材21および第2ルーフアーチ16が三重に重ね合わされてスポット溶接W1により結合される。
【0021】
図1および図3〜図6に示すように、ルーフサイドレール11のインナー部材21には、その長手方向に沿って車体内側から車体外側に向かって突出する溝状のビード21cが形成される。ビード21cが形成される範囲は、第2ルーフアーチ16の近傍から第3ルーフアーチ17の近傍を経て第4ルーフアーチ18に近傍に達しており、その断面形状は基端側(車内側)から先端側(車外側)に向かって幅狭になる概ね台形状である。ビード21cの深さは、その長手方向中間部、つまり図5に示すセンターピラー13および第3ルーフアーチ17の位置で最も深いbであり、そこから車体前方側および車体後方側に向かって浅くなっている。
【0022】
即ち、図4に示すセンターピラー13よりも前側の位置におけるビード21cの深さaと、図6に示すセンターピラー13よりも後側の位置におけるビード21cの深さcとは、前記センターピラー13および第3ルーフアーチ17の位置での深さbよりも小さくなっている。
【0023】
図2〜図6に示すように、車両の側面衝突時にルーフサイドレール11からドアの内面に沿って下向きにカーテン状に展開するエアバッグを棒状に折り畳んだサイドエアバックモジュール23の長手方向中央部が、インナー部材21のビード21cの内部に収納されるように取り付けられる。
【0024】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0025】
車両の側面に他車両が衝突すると、その衝突荷重がセンターピラー13の上端から一方のルーフサイドレール11の前後方向中央部に伝達され、ルーフサイドレール11を車体内側に向けて折り曲げるような曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントによってルーフサイドレール11のアウター部材20には圧縮荷重が作用し、インナー部材21には引張荷重が作用する。このとき、インナー部材21に形成した溝状のビード21cの作用でルーフサイドレール11の曲げ剛性が向上するため、ルーフサイドレール11は容易に折れ曲がることがない。これにより、ルーフサイドレール11から第2ルーフアーチ16、第3ルーフアーチ17および第4ルーフアーチ18を介して他方ののルーフサイドレール11に衝突荷重を伝達して吸収することができ、最初に衝突荷重が伝達される前記一方のルーフサイドレール11の変形を最小限に抑えて車室を保護することができる。
【0026】
またインナー部材21のビード21cは、第2ルーフアーチ16から第3ルーフアーチ17を経て第4ルーフアーチ18に至る範囲に設けられているので、衝突荷重を第2〜第4ルーフアーチ16、17、18に効果的に分配して吸収することができる。しかもビード21cの深さは中央部から前後方向に向かって漸減するので、ルーフサイドレール11の曲げ剛性が急変するのを防止して衝突荷重による折れ曲がりを一層効果的に防止することができる。
【0027】
またルーフサイドレール11の内部にスチフナを配置することなく曲げ剛性を高めることができるので、スチフナの分だけ重量を軽減することができる。しかもスチフナを廃止したことでパネルの枚数が1枚減るため、4枚重ねのスポット溶接が必要になる部分を最小限に抑えることができる。
【0028】
更に、ルーフサイドレール11のインナー部材21のビード21cの内部にサイドエアバッグモジュール23の一部を収納したので、ルーフサイドレール11の車幅方向外端からサイドエアバッグモジュール23の車幅方向内端までの距離(図4のLb参照)を、従来例(図8のLa)よりも小さくし、車室の容積を最大限に確保することができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0030】
例えば、実施の形態ではビード21cを第2ルーフアーチ16から第4ルーフアーチ18までの範囲に設けているが、それを第1ルーフアーチ15あるいは第5ルーフアーチ19の近傍まで延長しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】自動車のルーフ部の骨格を車体左側の斜め上方から見た図
【図2】図2は図1の2方向矢視図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】図2の4−4線断面図
【図5】図2の5−5線断面図
【図6】図2の6−6線断面図
【図7】図2の7−7線断面図
【図8】従来例を示す、前記図4に対応する断面図
【符号の説明】
【0032】
11 ルーフサイドレール
13 センターピラー
15 第1ルーフアーチ
16 第2ルーフアーチ(前側のルーフアーチ)
17 第3ルーフアーチ
18 第4ルーフアーチ(後側のルーフアーチ)
19 第5ルーフアーチ
20 アウター部材
21 インナー部材
21c ビード
23 サイドエアバッグモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフの左右両側部に沿って車体前後方向に延び、左右方向に延びる複数のルーフアーチ(15〜19)によって相互に接続された左右一対のルーフサイドレール(11)を、車体外側のアウター部材(20)と車体内側のインナー部材(21)とを閉断面を成すように結合して構成した車体上部構造において、
前記インナー部材(21)は、少なくともセンターピラー(13)を挟むように配置された前側のルーフアーチ(16)および後側のルーフアーチ(18)間に、車体内側から車体外側に向かって溝状に突出するビード(21c)を備えることを特徴とする車体上部構造。
【請求項2】
前記溝状のビード(21c)の深さは、センターピラー(13)の位置で最も深く、そこから前記前側のルーフアーチ(16)および後側のルーフアーチ(18)に向かって漸減することを特徴とする、請求項1に記載の車体上部構造。
【請求項3】
前記溝状のビード(21c)の内部に、サイドエアバッグモジュール(23)の少なくとも一部を配置したことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車体上部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−35133(P2009−35133A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201146(P2007−201146)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】