説明

車体側部構造

【課題】質量の増加を抑制しつつ、ロッカの強度・剛性を高めることを目的とする。
【解決手段】車幅方向外側に凸となる断面ハット形に形成されたアウタパネル10と車幅方向内側に凸となる断面ハット形に形成されたインナパネル12とが車両上側及び車両下側の合せ部において夫々結合されて閉断面構造とされ、車体側部において車両前後方向に延設されたロッカ16を有している。インナパネル12は、車幅方向内側における車両上側の角部12A及び車両下側の角部12Bの少なくとも一方が、該インナパネル12の一般部12Gよりも板厚が厚い厚板部12Tとされ、該厚板部12Tと一般部12Gとを差厚結合して構成されている。このため、車両の前面衝突時におけるロッカ16の曲げ変形や、車両の側面衝突時におけるロッカ16の面外変形を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造として、ロッカにおける車幅方向内側の隅部に、L字形のリインフォースメントを設けて、ロッカの曲げ圧縮に対する剛性を高めるようにした構造が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−203893号公報
【特許文献2】特開2000−85633号公報
【特許文献3】特開2000−85620号公報
【特許文献4】実開昭62−28666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例では、L字形のリインフォースメントがロッカの内壁面の上側領域から天井面に沿うように形成されており、ロッカ上部のフランジ状の接合部まで至っていないため、ロッカの内壁面と天井面との境界に形成されている稜線の補強はなされているものの、天井面と該接合部との境界に形成されている稜線の補強はなされていない。このような構造においてロッカの剛性を高めようとすると、リインフォースメントの厚板化や大型化が必要となるため、質量の増加を抑制することが難しい。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、質量の増加を抑制しつつ、ロッカの強度・剛性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、車幅方向外側に凸となる断面ハット形に形成されたアウタパネルと車幅方向内側に凸となる断面ハット形に形成されたインナパネルとが車両上側及び車両下側の合せ部において夫々結合されて閉断面構造とされ、車体側部において車両前後方向に延設されたロッカを有し、前記インナパネルは、車幅方向内側における車両上側の角部及び車両下側の角部の少なくとも一方が、該インナパネルの一般部よりも板厚が厚い厚板部とされ、該厚板部と前記一般部とを差厚結合して構成されていることを特徴としている。
【0006】
請求項1に記載の車体側部構造では、ロッカのインナパネルが、厚板部と一般部とを差厚結合して構成されているので、ロッカの強度・剛性が向上している。このため、車両の前面衝突時におけるロッカの曲げ変形や、車両の側面衝突時におけるロッカの面外変形を抑制することができる。即ち、請求項1に記載の車体側部構造では、ロッカの角部をL字形のリインフォースメントで補強する場合と比較して、質量の増加を抑制しつつ、ロッカの強度・剛性を高めることができる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車体側部構造において、前記厚板部は、対応する前記角部から該角部側の前記合せ部までを含む部位に形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の車体側部構造では、厚板部が、対応する角部から該角部側の合せ部までを含む部位に形成されているので、ロッカのインナパネルにおける車幅方向内側の角部の稜線だけでなく、合せ部の稜線の強度・剛性も向上している。角部及び合せ部における各稜線の強度・剛性を活用することで、車両の衝突時におけるロッカの変形をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車体側部構造によれば、質量の増加を抑制しつつ、ロッカの強度・剛性を高めることができる、という優れた効果が得られる。
【0010】
請求項2に記載の車体側部構造によれば、車両の衝突時におけるロッカの変形をより一層抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1,図2において、本実施の形態に係る車体側部構造Sは、車幅方向外側に凸となる断面ハット形に形成されたアウタパネル10と車幅方向内側に凸となる断面ハット形に形成されたインナパネル12とが車両上側及び車両下側の合せ部14,15において夫々結合されて例えば略矩形の閉断面構造とされ、車体側部において車両前後方向に延設されたロッカ16を有している。アウタパネル10及びインナパネル12には、例えば高張力鋼板が用いられる。
【0012】
図2に示されるように、ロッカ16の車幅方向外側には、サイドメンバアウタパネル18が設けられている。このサイドメンバアウタパネル18は、アウタパネル10と同様に、車幅方向外側へ凸となる略断面ハット形に形成されており、該アウタパネル10を車幅方向外側から覆うようにして上下の合せ部14,15に重ねて接合されている。合せ部14,15では、3枚の部材が重ねて接合される3枚接合となっているため、リインフォースメント(図示せず)等を加えて4枚接合とする場合よりも、接合が容易である。
【0013】
図1に示されるように、ロッカ16の前端にはAピラー20の下部が接合され、ロッカ16の車両前後方向中央部にはBピラー22の下部が接合されている。ロッカ16の後端は、例えば結合パネル24を介してリヤホイールハウス26に結合されている。また左右のロッカ16間(車両右側のロッカについて図示せず)には、フロアパネル28が設けられ、該フロアパネル28の車幅方向中央部には、車両前後方向に延びるトンネル部28Aが車両上方に凸に形成されている。
【0014】
Bピラー24の下部位置におけるロッカ16とトンネル部28Aとの間には、フロアクロスメンバ30が車幅方向に配設されている。またAピラー20とBピラー22との間におけるロッカ16とトンネル部28Aとの間にも、フロアクロスメンバ32が車幅方向に配設されている。このフロアクロスメンバ32は、例えば前席(図示せず)の固定部となる部位である。更にBピラー22より車両後方における左右のロッカ16間にも、フロアクロスメンバ34が車幅方向に配設されている。このフロアクロスメンバ34は、例えば後席(図示せず)の固定部となる部位である。なお、フロアクロスメンバ30,32,34の配設位置は、これらの位置には限られない。
【0015】
図2において、ロッカ16のインナパネル12は、車幅方向内側における車両上側の角部12A及び車両下側の角部12Bのうち、車両上側の角部12Aが該インナパネル12の一般部12Gよりも板厚が厚い厚板部12Tとされ、該厚板部12Tと一般部12Gとを結合部12Dにおいて差厚結合して構成されている。この結合部12Dは、例えばインナパネル12の側壁部12Cに位置している。
【0016】
この厚板部12Tは、車両上側の角部12Aから車両上側の合せ部14までを含む部位に形成されており、例えばインナパネル12のうち結合部12Dより車両上側の部分の全体が厚板部12Tとなっている。このインナパネル12のうち結合部12Dより車両上側の部分には、側壁部12Cの上部と、上壁部12Sと、合せ部14とが含まれており、図3において、車両上側の角部12Aの稜線12E及び合せ部14の稜線12Fも厚板部12Tに含まれている。
【0017】
図4に示されるように、インナパネル12を構成する厚板部12T及び一般部12Gは、差厚結合の前に、プレス成形により夫々別々に製造される。厚板部12T及び上壁部12Sの板厚は、夫々例えば一定とされているので、材料が高張力鋼板であっても成形性は良好である。そして、図3に示されるように、インナパネル12は、厚板部12Tと一般部12Gとを、例えば車両前後方向(インナパネル12の長手方向)に沿った結合部12Dにおいて、例えばレーザビーム溶接により差厚結合して構成されている。言い換えれば、インナパネル12は、厚板部12Tと一般部12Gとを、該インナパネル12の長手方向と直交する車両上下方向に差厚結合して構成されている。
【0018】
インナパネル12の板厚は、結合部12Dを境にして変化するため、インナパネル12の車幅方向内側面においては段差形状となっているが、車幅方向外側面(ロッカ16の閉断面内)においては段差となっていない。これはロッカ16内の防錆性を高めるためである。
【0019】
なお、ロッカ16において、インナパネル12の一般部12Gの板厚は、アウタパネル10の板厚と同等に設定されている。厚板部12Tの板厚は、ロッカ16の強度・剛性を考慮して任意に定められるが、図示の例では、一般部12Gの板厚の略2倍に設定されている。また厚板部12Tについては、インナパネル12の長手方向の全長にわたって設けてもよいし、局部的に設けてもよい。
【0020】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図2において、本実施形態に係る車体側部構造Sでは、ロッカ16のインナパネル12が、車両上側の厚板部12Tと車両下側の一般部12Gとを差厚結合して構成されているので、ロッカ16の強度・剛性が向上している。このため、車両の前面衝突時におけるロッカ16の車両上方に凸となる曲げ変形や、車両の側面衝突時におけるロッカ16の面外変形を抑制することができる。即ち、車体側部構造Sでは、ロッカ16の車両上側の角部12Aを、従来のようにL字形のリインフォースメントで補強する場合と比較して、質量の増加を抑制しつつ、ロッカ16の強度・剛性を高めることができる。
【0021】
特に、車体側部構造Sでは、図3に示されるように、厚板部12Tが、車両上側の角部12Aから該角部12A側の合せ部14までを含む部位に形成されているので、ロッカ16のインナパネル12における車両上側の角部12Aの稜線12Eだけでなく、合せ部14の稜線12Fの強度・剛性も向上している。これらの稜線12E,稜線12Fの強度・剛性を夫々活用することで、車両の衝突時におけるロッカ16の変形をより一層抑制することができる。
【0022】
(変形例1)
ロッカ16におけるインナパネル12については、図5,図6に示されるような構成とすることも可能である。図5に示される車体側部構造Sでは、車幅方向内側における車両上側の角部12A及び車両下側の角部12Bのうち、車両下側の角部12Bが該インナパネル12の一般部12Gよりも板厚が厚い厚板部12Tとされ、該厚板部12Tと一般部12Gとを結合部12Dにおいて差厚結合して構成されている。この厚板部12Tは、車両下側の角部12Bから車両下側の合せ部15までを含む部位に形成されており、例えばインナパネル12のうち結合部12Dより車両下側の部分の全体が厚板部12Tとなっている。このインナパネル12のうち結合部12Dより車両下側の部分には、側壁部12Cの下部と、下壁部12Hと、合せ部15とが含まれており、車両下側の角部12Bの稜線12J及び合せ部15の稜線12Kも厚板部12Tに含まれている。
【0023】
この車体側部構造Sでは、車両の前面衝突時にロッカ16の車両下方に凸となる曲げ変形や、車両の側面衝突時におけるロッカ16の面外変形を抑制することができ、この車体側部構造Sでは、ロッカ16の車両下側の角部12BをL字形のリインフォースメントで補強する場合と比較して、質量の増加を抑制しつつ、ロッカ16の強度・剛性を高めることができる。
【0024】
特に、この車体側部構造Sでは、厚板部12Tが、車両下側の角部12Bから該角部12B側の合せ部15までを含む部位に形成されているので、ロッカ16のインナパネル12における車両下側の角部12Bの稜線12Jだけでなく、合せ部15の稜線12Kの強度・剛性も向上している。これらの稜線12J,12Kの強度・剛性を夫々活用することで、車両の衝突時におけるロッカ16の変形をより一層抑制することができる。
【0025】
なお、図5において、結合部12Dの位置は、図示の位置には限られず、例えば車両上下方向におけるインナパネル12の中央部に結合部12Dを設けてもよい。
【0026】
(変形例2)
図6に示される車体側部構造Sでは、車両上側の角部12A及び車両下側の角部12Bの双方が厚板部12Tとされ、該厚板部12Tと一般部12Gとを結合部12D,12Lにおいて差厚結合して構成されている。この厚板部12Tは、車両上側の角部12Aから車両上側の合せ部14までを含む部位と、車両下側の角部12Bから車両下側の合せ部15までを含む部位とに夫々形成されている。即ち、インナパネル12のうち結合部12Dより車両上側の部分の全体と、結合部12Lより車両下側の部分の全体とが、夫々厚板部12Tとなっている。
【0027】
このインナパネル12のうち結合部12Dより車両上側の部分には、側壁部12Cの上部と、上壁部12Sと、合せ部14とが含まれており、車両上側の角部12Aの稜線12E及び合せ部14の稜線12Fも厚板部12Tに含まれている。またインナパネル12のうち結合部12Lより車両下側の部分には、側壁部12Cの下部と、下壁部12Hと、合せ部15とが含まれており、車両下側の角部12Bの稜線12J及び合せ部15の稜線12Kも厚板部12Tに含まれている。なお、一般部12Gは、上下の厚板部12Tの間に配置され、インナパネル12における側壁部12Cの一部を構成している。
【0028】
この車体側部構造Sでは、車両の前面衝突時におけるロッカ16の曲げ変形や、車両の側面衝突時におけるロッカ16の面外変形を抑制することができ、ロッカ16の車両上側の角部12A及び車両下側の角部12BをL字形のリインフォースメントで夫々補強する場合と比較して、質量の増加を抑制しつつ、ロッカ16の強度・剛性を高めることができる。
【0029】
特に、この車体側部構造Sでは、厚板部12Tが、車両上側の角部12Aから該角部12A側の合せ部14までを含む部位に形成されると共に、車両下側の角部12Bから該角部12B側の合せ部15までを含む部位に形成されているので、ロッカ16のインナパネル12における車両上側の稜線12E,12F及び車両下側の稜線12J,12Kの強度・剛性が夫々向上している。これらの稜線12E,12F,12J,12Kの強度・剛性を夫々活用することで、車両の衝突時におけるロッカ16の変形をより一層抑制することができる。
【0030】
なお、図6において、結合部12D,12Lの位置は、図示の位置には限られない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車体側部構造を示す斜視図である。
【図2】車体側部構造を示す、図1における2−2矢視拡大断面図である。
【図3】車体側部構造を示す、部分破断拡大斜視図である。
【図4】インナパネルの拡大分解斜視図である。
【図5】車体側部構造において、インナパネルの車両下側の部分を厚板部とした変形例を示す拡大断面図である。
【図6】車体側部構造において、インナパネルの車両上側の部分及び車両下側の部分を厚板部とし、その間を一般部とした変形例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 アウタパネル
12 インナパネル
12A 車両上側の角部
12B 車両下側の角部
12G 一般部
12T 厚板部
14 車両上側の合せ部
15 車両下側の合せ部
16 ロッカ
S 車体側部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向外側に凸となる断面ハット形に形成されたアウタパネルと車幅方向内側に凸となる断面ハット形に形成されたインナパネルとが車両上側及び車両下側の合せ部において夫々結合されて閉断面構造とされ、車体側部において車両前後方向に延設されたロッカを有し、
前記インナパネルは、車幅方向内側における車両上側の角部及び車両下側の角部の少なくとも一方が、該インナパネルの一般部よりも板厚が厚い厚板部とされ、該厚板部と前記一般部とを差厚結合して構成されていることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記厚板部は、対応する前記角部から該角部側の前記合せ部までを含む部位に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−173110(P2009−173110A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12476(P2008−12476)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】