説明

車体前部構造

【課題】車体前部の剛性を向上しかつ製造・組立を容易にする。
【解決手段】フロントバルクヘッドのサイド部材の中間部分にて、サイド部材の車体後側壁部を車体前側に潰して車体前側壁部に当接させ、その当接した部分にフロントサイドフレームの車体前側端部を結合する。フロントバルクヘッドのサイド部材とフロントサイドフレームとの各中立軸を一致(交差)させて両部材を結合することができるため、フロントバルクヘッドのサイド部材とフロントサイドフレームとの結合効率を向上させることができ、車体前部の剛性が向上し、操縦安定性も向上する。また、フロントバルクヘッドのサイド部材の車体後側壁部を潰した形状にして、サイド部材の上下分割を不要としたことから、サイド部材に切り欠きを入れたり分割したりする構造に対して製造・組立が容易となり、製造コスト・時間を削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体の前後方向に延在しかつ車体前端部に至るフロントサイドフレームと、車体前端部に配置されたフロントバルクヘッドとを有する車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車体前部構造にあっては、車体前部において左右の側面に沿って延在するように左右一対のフロントサイドフレームが設けられ、両フロントサイドフレームの車体前側端部間をクロスメンバやフロントバルクヘッドなどを介して連結している。そのような車体前部構造において、衝突時のフロントサイドフレームの潰れストロークの確保などから、フロントサイドフレームとクロスメンバとの結合強度の高い直接結合状態が得られると共に両部材の結合位置もフロントサイドメンバ(フロントサイドフレーム)の最先端位置にするものがあった(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】実登第2588709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1にあっては、フロントサイドメンバとクロスメンバロアとをそれぞれ切り欠いて結合しているため、各フレーム自体の強度が低下すると共に製造が困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を解決して、車体前部の剛性を向上しかつ製造・組立を容易にすることを実現するために本発明に於いては、車体(1)の前後方向に延在しかつ車体前端部に至るフロントサイドフレーム(11)と、前記車体前端部に配置されたフロントバルクヘッド(17)とを有する車体前部構造であって、前記フロントバルクヘッド(17)が前記車体の上下方向に延在する中空断面形状のサイド部材(21)を有し、前記サイド部材(21)の中間部分が、前記サイド部材(21)の車体後側壁部(21b)が車体前側に潰されて前記サイド部材(21)の車体前側壁部(21c)に当接するように形成され、前記サイド部材(21)の前記車体後側壁部(21b)の前記車体前側壁部(21c)に当接した部分(26)に前記フロントサイドフレーム(11)の車体前側端部が結合されているものとした。
【0005】
特に、前記フロントサイドフレーム(11)が矩形閉断面形状に形成され、前記サイド部材(21)の前記中空断面形状が、車体後方に開口するコ字状断面部材(21a)と前記コ字状断面部材の前記開口を閉塞する蓋状部材(21b)とにより形成されていると共に、前記車体前側壁部(21c)が前記コ字状断面部材(21a)の底壁部分からなり、前記車体後側壁部が前記蓋状部材(21b)からなり、前記フロントサイドフレーム(11)と前記サイド部材(21)とが、前記コ字状断面部材(21a)に嵌り込んで受容されるコ字状断面形状の連結ブラケット(23)を介して結合され、前記連結ブラケット(23)の前記コ字状断面形状における両側壁部(23a)が前記フロントサイドフレーム(11)の車幅方向両側面に溶接され、かつ前記連結ブラケット(23)の前記コ字状断面形状における三方の壁部と前記サイド部材(21)の前記コ字状断面部材(21a)における三方の壁部とが溶接されていると良い。また、前記連結ブラケット(23)の前記コ字状断面形状における底壁部(23b)にバンパ取付用のねじ部材(25)が一体的に設けられていると良く、また、前記フロントサイドフレーム(11)の前記サイド部材(23)への結合部近傍に衝突時の脆弱部となるクラッシュビード(24)が設けられていると良い。
【発明の効果】
【0006】
このように本発明によれば、フロントバルクヘッドのサイド部材の中間部分にて、サイド部材の車体後側壁部を車体前側に潰して車体前側壁部に当接させ、その当接した部分にフロントサイドフレームの車体前側端部を結合したことから、フロントバルクヘッドのサイド部材とフロントサイドフレームとの各中立軸を一致(交差)させて両部材を結合することができるため、フロントバルクヘッドのサイド部材とフロントサイドフレームとの結合効率を向上させることができ、車体前部の剛性が向上し、操縦安定性も向上する。また、フロントバルクヘッドのサイド部材の車体後側壁部を潰した形状にして、サイド部材の上下分割を不要としたことから、サイド部材に切り欠きを入れたり分割したりする構造に対して製造・組立が容易となり、製造コスト・時間を削減できる。
【0007】
特に、請求項2によれば、サイド部材のコ字状断面部材に三方の壁部分同士を溶接し得る連結ブラケットを介してフロントサイドフレームを結合することができ、ブラケットをサイド部材に嵌め込んだ状態で溶接することができ、溶接作業を容易に行うことができる。また、請求項3によれば、連結ブラケットにバンパ取付用ネジ部材を設けることにより、スタッドボルトを挿通させる孔をサイド部材に設けることになり、その孔とネジ部材との整合が連結ブラケットとサイド部材との溶接作業の位置決めとなり、高精度に位置決めされた溶接作業を容易に行うことができる。また、請求項4によれば、サイド部材の車体後側部材を車体前側に潰した分だけフロントサイドフレームが長くなり、それによりフロントサイドフレームのサイド部材との結合部に近い位置にクラッシュビードを設けることができ、衝突時の好適な衝突エネルギ吸収を実現し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された自動車の車体前部構造を斜め前方から見た要部斜視図である。
【0009】
図1に示される車体前部構造にあっては、車体前部の骨格強度部材として、車体1の前部にて左右方向に間隔をおいて車体前後方向に延在する左右一対のフロントサイドフレーム11・12と、左右のフロントピラー13・14から左右のフロントサイドフレーム11・12の車体前側端部の上方近傍に至る左右のメンバー15・16と、左右のフロントサイドフレーム11・12の車体前側端部と左右のメンバー15・16の車体前側端部とに結合されて支持されているフロントバルクヘッド17とを有し、これらの内側にエンジンルーム18が画定されている。
【0010】
なお、車体前記部構造としての上記各骨格強度部材は例えばコ字状断面部材と板状の蓋状部材とにより矩形閉断面を形成するものであって良く、この形状は車体の骨格強度部材として公知であり、その詳しい説明は省略する。また、左右のメンバー15・16と左右のフロントサイドフレーム11・12とにより確定される空間には前輪用の左右のホイールハウス19・20が設けられている。
【0011】
上記フロントバルクヘッド17は、車体前方に臨む矩形状の枠部分を有する形状に形成されており、枠部分を構成する車体幅方向の左右にて車体上下方向に延在する左右のサイド部材21・22の中間部で各フロントサイドフレーム11・12の前端部と結合されている。フロントバルクヘッド17の枠部分を構成する車体上下方向にて車体幅方向に延在する上下のクロス部材17a・17bが設けられているが、上側のクロス部材17aにあっては、左右のサイド部材21・22の車体上側端部となる枠部分の上側左右角部から上記した左右のメンバー15・16に至る左右の後方延出部17c・17dが延出しており、左右の後方延出部17c・17dの後端が左右のメンバー15・16の前端と結合されている。
【0012】
なお、上側クロス部材17aと左右の後方延出部17c・17dとは平面視で拡開されたU字形となるように曲成されており、その左右の角部に左右のサイド部材21・22の上端が結合されている。具体的には、上側クロス部材17aと左右の後方延出部17c・17dとの間の角部には車体前方に突出するラジエータ取り付け用ブラケット28が固着されており、上記角部の下面となる上側クロス部材17aの下面にサイド部材21・22の上端が溶接されている。
【0013】
図2は図1の矢印II線から見た車体前部構造の要部左側面図であり、図3はその組立要領を示す要部拡大斜視図である。なお、車体前部構造にあっては左右対称であり、以下、特に断らない限り車体前部の左側部分について説明する。
【0014】
図2および図3に示されるように、フロントサイドフレーム11の車体前側端部は連結ブラケット23を介してサイド部材21と結合されている。連結ブラケット23は、鋼板をコ字状断面に曲折した形状をなし、その両側壁部分23aでフロントサイドフレーム11の車幅方向両側面を両側から密着状態に挟む幅を有し、またフロントサイドフレーム11の車体上下方向長さよりもある程度長く形成されている。そして、連結ブラケット23の両側壁部分23aがフロントサイドフレーム11の両側面に図3の×印で示される点でスポット溶接される。
【0015】
なお、フロントサイドフレーム11は、縦長で底が深いコ字状断面部材11aと、その縦長方向の中間部で横切るように設けられたロアリッド11bと、開口部を閉塞するように設けられたアッパリッド11cとの3部材を溶接して形成されている。また、フロントサイドフレーム11の両側面には車体上下方向に延在する突条のクラッシュビード(脆弱部)24が全長方向(車体前後方向)の複数箇所に配設されている。
【0016】
連結ブラケット23のコ字状における底壁部分23bには上下2本ずつ計4本のバンパ取付用のねじ部材としてのスタッドボルト25が固設されている。なお、図示していないが、連結ブラケット23の両側壁部分23aにはフロントサイドフレーム11への位置決め用となるビード状の凹凸部が形成されている。
【0017】
サイド部材21は、上記したようにコ字状断面部材21aと蓋状部材21bとにより矩形閉断面を形成する形状をなしているが、図2に示されるように車体上下方向中間部で車体後側壁部としての蓋状部材21bが、車体前側に潰されて、車体前側壁部としてのコ字状断面部材21aの底壁部分21cに当接するまで曲折されている。その当接部分26の大きさは連結ブラケット23の底壁部分23bを載置状態可能にする程度であって良い。
【0018】
サイド部材21における当接部分26以外の所は矩形閉断面形状を有し、当接部分26にあっては2枚の板を積層した状態になっている。したがって、サイド部材21における当接部分26にあってはコ字状断面部材21aによるコ字状断面形状となり、そのコ字状断面形状部分内に連結ブラケット23が嵌合状態に受容される。なお、当接部分26には各スタッドボルト25を挿通させるための同数の孔27が設けられており、各スタッドボルト25を対応する各孔27に挿通することにより、サイド部材21に対して連結ブラケット23すなわちフロントサイドフレーム11が位置決めされる。
【0019】
そして、サイド部材21と連結ブラケット23とが図3の二点鎖線で示されるように、上側部分で4箇所、下側部分で3箇所にてそれぞれスポット溶接されてサイド部材21に連結ブラケット23が結合される。なお、それらの溶接部分にあっては、上下でそれぞれ、コ字状における底壁部分と両壁部分との3方の壁部同士となり、結合効率が良くかつ剛性の高い結合状態が得られる。
【0020】
このようにして、フロントバルクヘッド17のサイド部材21とフロントサイドフレーム11とが連結ブラケット23を介して一体的に結合され、上記結合構造により、図2に示されるように車幅方向から見て、フロントサイドフレーム11の中立軸C1とサイド部材21の中立軸C2とが一致(交差)するようになる。また、図4に示されるように、車体前側から見て、両中立軸C1・C2が一致(交差)する。これにより、上記3方の壁部同士の結合構造と合わせて、車体前部の剛性が向上し、操縦安定性能が向上し得る。
【0021】
また、上記したようにサイド部材21の蓋状部材21bを車体前側に潰す形状にして、サイド部材21を上下に分割することなく、フロントサイドフレーム11とサイド部材21とを結合したことから、部品点数の増加を抑制することができる。そして、フロントサイドフレーム11とサイド部材21とをそれぞれ一体物同士として取り扱ってT字形に結合することができ、製造・組立が容易となり、製造のコスト・時間を削減できる。
【0022】
また、サイド部材21の蓋状部材21bを車体前側に潰す形状にしたことにより、フロントサイドフレーム11の車体前後方向長さを潰した分だけ車体前側に延長することができるため、フロントサイドフレーム11における前方衝突時のより一層長い衝突ストロークを確保することができる。さらに、より長くなったフロントサイドフレーム11に対してクラッシュビード24を設ける場合により効率良く配設することができ、上記と合わせて衝突エネルギ吸収を高効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用された自動車の車体前部構造を斜め前方から見た要部斜視図である。
【図2】図1の矢印II線から見た車体前部構造の要部左側面図である。
【図3】車体前部構造の組立要領を示す要部拡大斜視図である。
【図4】図1の矢印IV線から見た車体前部構造の要部正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 車体
11 フロントサイドフレーム
17 フロントバルクヘッド
21 サイド部材
21a コ字状断面部材
21b 蓋状部材(車体後側壁部)
21c 車体前側壁部
26 当接部分
23 連結ブラケット
23a 側壁部
23b 底壁部
24 クラッシュビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後方向に延在しかつ車体前端部に至るフロントサイドフレームと、前記前端部に配置されたフロントバルクヘッドとを有する車体前部構造であって、
前記フロントバルクヘッドが前記車体の上下方向に延在する中空断面形状のサイド部材を有し、
前記サイド部材の中間部分が、前記サイド部材の車体後側壁部が車体前側に潰されて前記サイド部材の車体前側壁部に当接するように形成され、
前記サイド部材の前記車体後側壁部の前記車体前側壁部に当接した部分に前記フロントサイドフレームの車体前側端部が結合されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームが矩形閉断面形状に形成され、
前記サイド部材の前記中空断面形状が、車体後方に開口するコ字状断面部材と前記コ字状断面部材の前記開口を閉塞する蓋状部材とにより形成されていると共に、前記車体前側壁部が前記コ字状断面部材の底壁部分からなり、前記車体後側壁部が前記蓋状部材からなり、
前記フロントサイドフレームと前記サイド部材とが、前記コ字状断面部材に嵌り込んで受容されるコ字状断面形状の連結ブラケットを介して結合され、
前記連結ブラケットの前記コ字状断面形状における両側壁部が前記フロントサイドフレームの車幅方向両側面に溶接され、かつ前記連結ブラケットの前記コ字状断面形状における三方の壁部と前記サイド部材の前記コ字状断面部材における三方の壁部とが溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記連結ブラケットの前記コ字状断面形状における底壁部にバンパ取付用のねじ部材が一体的に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記フロントサイドフレームの前記サイド部材への結合部近傍に衝突時の脆弱部となるクラッシュビードが設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−248820(P2009−248820A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100629(P2008−100629)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】