説明

車体前部構造

【課題】既存の電着槽を用いてフロントバンパビームおよび左右のエクステンションを車体とともに塗装することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造10は、車体側に左右のエクステンション13が取り付けられ、左右のエクステンション13に鋼製のバンパビーム16が架け渡されている。この車体前部構造10は、左右のエクステンション13を車体前方に向けた最終組付状態に組付け可能で、かつ、左右のエクステンション13を下方に向けた塗装組付状態に組付け可能な組付部15を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側に左右のバンパビームエクステンションが取り付けられ、各エクステンションに鋼製のバンパビームが架け渡された車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造のなかには、左右のフロントサイドメンバーの前端部にエクステンションが延出され、左右のエクステンションにフロントバンパビームが架け渡されたものがある。
フロントバンパビームに衝撃が作用した場合に、左右のエクステンションを変形させることにより衝撃エネルギを吸収することが可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−1358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、鋼製のフロントバンパビームを塗装(電着塗装)する場合、車体に取り付けた状態で、車体とともに電着槽に進入させて電着塗装をおこなうことが好ましい。
しかし、特許文献1の車体前部構造は、左右のフロントサイドメンバーの前端部とフロントバンパビームとの間にエクステンションが介在されているため車両全長が長くなっている。
【0004】
このため、車両全長が既存の電着槽の適用範囲を超えてしまうことが考えられる。
車両全長が既存の電着槽の適用範囲を超えた場合、フロントバンパビームを取り付けた車体を既存の電着槽で塗装することはできない。
【0005】
この対策として、フロントバンパビームを車体に取り付けた状態において、この状態の車体全長に対応するように、既存の電着槽の全長を長くすることが考えられる。
しかし、車体全長に合わせて既存の電着槽の全長を長くするには、例えば改修などの設備費が嵩み好ましくない。
【0006】
その他の対策として、塗装(電着塗装)の際に、フロントバンパビームおよび左右のエクステンションを車体から外して個別に塗装することが考えられる。
しかし、フロントバンパビームおよび左右のエクステンションを個別に塗装する場合、フロントバンパビームおよび左右のエクステンション専用の電着槽を新たに用意する必要がある。専用の電着槽を新たに用意するためには、設備費が嵩み好ましくない。
【0007】
本発明は、既存の電着槽を用いてフロントバンパビームおよび左右のエクステンションを車体とともに塗装することができる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体側に左右のバンパビームエクステンションが取り付けられ、前記左右のバンパビームエクステンションに鋼製のバンパビームが架け渡された車体前部構造において、前記左右のバンパビームエクステンションを車体前方に向けた最終組付状態に組付け可能で、かつ、前記左右のバンパビームエクステンションを下方に向けた塗装組付状態に組付け可能な組付部を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2において、前記組付部は、前記塗装組付状態で、前記左右のバンパビームエクステンションの少なくとも一方を前記車体側に係止可能な係止部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、最終組付状態に組付け可能で、かつ塗装組付状態に組付け可能な組付部を備えた。
この組付部で塗装組付状態に組み付けることで、左右のバンパビームエクステンションを下方に向けることができる。
【0011】
よって、左右のバンパビームエクステンションおよびバンパビームを車体側に組み付けた状態で車体全長を短く抑えることができる。
これにより、左右のバンパビームエクステンションおよびバンパビームを車体側に組み付けた状態において、既存の電着槽を用いてフロントバンパビームおよび左右のエクステンションを車体とともに塗装することができるという利点がある。
【0012】
そして、塗装完了後、組付部の塗装組付状態を最終組付状態に変えることで、左右のバンパビームエクステンションを車体前方に向けて組み付けることができる。
このように、一つの組付部に、最終組付用の機能と塗装組付用の機能とを備えることで、塗装組付用の機能を備えた部材を個別に用意する必要がない。
これにより、簡素な構成で塗装組付状態に組み付けることができるという利点がある。
【0013】
請求項2に係る発明では、組付部に係止部を備え、塗装組付状態において、左右のバンパビームエクステンションの少なくとも一方を車体側に係止可能とした。
よって、車体側に係止部を係止させることで、左右のバンパビームエクステンションを係止位置に保持することができる。
これにより、塗装組付状態に手間をかけないで簡単に組み付けることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0015】
図1は本発明に係る車体前部構造の最終組付状態を示す斜視図、図2は本発明に係る車体前部構造の最終組付状態を示す分解斜視図である。
車体前部構造10は、左右のフロントサイドフレーム11(左側のみを図示する)と、左右のフロントサイドフレーム11間に設けられたバルクヘッド12と、左右のフロントサイドフレーム11の前方に配置された左右のバンパビームエクステンション13(左側のみを図示する)と、左右のフロントサイドフレーム11の前端部に左右のバンパビームエクステンション13を組み付ける左右の組付部15(左側のみを図示する)と、左右のバンパビームエクステンション13に架け渡された鋼製のバンパビーム16とを備える。
【0016】
ここで、左右のフロントサイドフレーム11は左右対称の部材なので、以下、左フロントサイドフレーム11について説明して右フロントサイドフレーム11の説明を省略する。
また、左右のバンパビームエクステンション13は左右対称の部材なので、以下、左バンパビームエクステンション13について説明して右バンパビームエクステンション13の説明を省略する。
なお、左右のバンパビームエクステンション13を、以下、左右のエクステンション13と略記する。
さらに、左右の組付部15は左右対称の部材なので、以下、左組付部15について説明して右組付部15の説明を省略する。
【0017】
左右のフロントサイドフレーム11は、エンジンルーム17の左右側の骨格を形成する車体側となる部材である。
エンジンルーム17の上側はエンジンフード18で覆われ、エンジンルーム17の上左右側は左右のサイドフェンダ19(左側のみを図示する)で覆われている。
【0018】
左フロントサイドフレーム11は、上下の壁部21,22および内外の側壁部23,24で断面略矩形状に形成されたフレーム部材である。
左エクステンション13は、上下の壁部26,27および内外の側壁部28,29で断面略矩形状に形成されたエクステンション部材である。
【0019】
左組付部15は、左フロントサイドフレーム11の前端部11aに設けられた第1組付部材31と、左エクステンション13の基端部13aに設けられた第2組付部材32とを備える。
【0020】
第1組付部材31は、内側壁部23および下壁部22に設けられた支持ブラケット35と、外側壁部24に設けられた外支持壁36と、上壁部21に形成された上取付孔37とを備える。
支持ブラケット35は、左フロントサイドフレーム11の前端と面一に設けられた略L字状の支持壁41を備える。
【0021】
支持壁41は、内側壁部23から車体中央側に張り出された内支持壁42と、下壁部22から下方に張り出された下支持壁43とを有する。
内支持壁42は、略中央に内取付孔45が形成され、外辺に車体前方に向けて折り曲げられた補強リブ46が設けられている。
内支持壁42の裏面には、内取付孔45と同軸上にナット48が溶接されている。
下支持壁43は、略中央に下取付孔51が形成されている。下支持壁43の裏面には、下取付孔51と同軸上にナット52が溶接されている。
【0022】
外支持壁36は、支持壁41に対して面一になるように外側壁部24から車体外側に向けて張り出され、略中央に外取付孔54が形成されている。
外支持壁36の裏面には、外取付孔54と同軸上にナット55が溶接されている。
【0023】
上取付孔37は、上壁部21の前端部に形成されている。上壁部21の裏面には、上取付孔37と同軸上にナット56が溶接されている。
【0024】
第2組付部材32は、左エクステンション13の基端部13aから張り出された張出ブラケット61と、張出ブラケット61の上辺61aに設けられた上支持片62と、張出ブラケット61の上左部61bに設けられた本係止部63と、張出ブラケット61の左下部61c(図4も参照)に設けられた仮係止部(係止部)64とを備える。
【0025】
張出ブラケット61は、第1組付部材31の支持壁41および外支持壁36に当接可能で、外形が略逆三角形状に形成されている。
この張出ブラケット61は、内側壁部28から車体中央側に向けて張り出された部位に内取付孔66が形成され、外側壁部29から車体外側に向けて張り出された部位に外取付孔67が形成され、下壁部27から下方に向けて張り出された部位に第1下取付孔68および第2下取付孔69が形成され、内辺および外辺に車体前方に向けて折り曲げられた補強リブ71が設けられている。
【0026】
上支持片62は、左フロントサイドフレーム11の上壁部21に載置可能となるように、張出ブラケット61の上辺61aから車体後方に向けて折り曲げられている。
この上支持片62は、略中央に上取付孔72が形成され、外辺に上方に向けて折り曲げられた補強リブ73が設けられている。
【0027】
本係止部63は、図1に示す最終組付状態において、第1組付部材31の外支持壁36(具体的には、外支持壁36の上辺36a)に係止可能な部材である。
この本係止部63は、張出ブラケット61の上左部61bから車体後方に向けて本係止アーム75が折り曲げられ、本係止アーム75の後端部から下方に向けて本係止爪76が突出している。
【0028】
仮係止部64は、図3に示す塗装組付状態において、第1組付部材31の内支持壁42の上辺42aに係止可能な部材である。
この仮係止部64は、張出ブラケット61の左下部61cから下方に向けて仮係止アーム77が折り曲げられ、仮係止アーム77の下端部から車体前方に向けて仮係止爪78が突出している。
【0029】
つぎに、左フロントサイドフレーム11の前端部に左エクステンション13を最終取付状態に取り付ける手順を図1〜図2に基づいて説明する。
第2組付部材32の張出ブラケット61を第1組付部材31の支持壁41および外支持壁36に当接するとともに、上支持片62を左フロントサイドフレーム11の上壁部21(詳しくは、上壁部21の前端部)に載置する。
【0030】
同時に、本係止部63を、第1組付部材31の外支持壁36(具体的には、外支持壁36の上辺36a)に係止させる。
本係止部63を上辺(車体側)36aに係止させることで、第2組付部材32が第1組付部材31に対して最終組付状態に保持される。
【0031】
この状態で、上支持片62の上取付孔72が、左フロントサイドフレーム11の上取付孔37に一致する。
張出ブラケット61の内取付孔66が、支持ブラケット35の内取付孔45に一致する。
張出ブラケット61の外取付孔67が、外支持壁36の外取付孔54に一致する。
張出ブラケット61の第1下取付孔68が、支持ブラケット35の下取付孔51に一致する。
【0032】
上取付孔72および上取付孔37にボルト81を差し込み、上取付孔37から突出したねじ部をナット56にねじ結合する。
内取付孔66および内取付孔45にボルト82を差し込み、内取付孔45から突出したねじ部をナット48にねじ結合する。
【0033】
外取付孔67および外取付孔54にボルト83を差し込み、外取付孔54から突出したねじ部をナット55にねじ結合する。
第1下取付孔68および下取付孔51にボルト84を差し込み、下取付孔51から突出したねじ部をナット52にねじ結合する。
【0034】
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aに、左エクステンション13が車体前方に向けて突出された最終組付状態に組み付けられる。
同様に、図示しない右フロントサイドフレーム11の前端部11aに、右エクステンション13が車体前方に向けて突出された最終組付状態に組み付けられる。
ここで、左右のエクステンション13の前端部に鋼製のバンパビーム16が架け渡されている。
【0035】
このように、左組付部15に本係止部63を備えることで、第1組付部材31の外支持壁36(具体的には、外支持壁36の上辺36a)、すなわち車体側に本係止部63を係止させて、最終組付状態に保持することができる。
これにより、最終組付状態に手間をかけないで簡単に組み付けることができる。
【0036】
つぎに、左フロントサイドフレーム11の前端部に左エクステンション13を仮取付状態に取り付ける手順を図3〜図4に基づいて説明する。
図3は本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す斜視図、図4は本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す分解斜視図である。
左右のエクステンション13(左エクステンション13のみを図示する)の前端部にバンパビーム16が架け渡された状態で、左右のエクステンション13を下向きにする。
【0037】
この状態で、第2組付部材32の張出ブラケット61のうち、下壁部27から下方に向けて張り出された部位86を左フロントサイドフレーム11の上壁部21(詳しくは、上壁部21の前端部)に載置する。
【0038】
同時に、仮係止部64を、第1組付部材31の内支持壁42(具体的には、内支持壁42の上辺42a)に係止させる。
仮係止部64を上辺42a(車体側)に係止させることで、第2組付部材32が第1組付部材31に対して塗装組付状態に保持される。
【0039】
この状態で、下壁部27から下方に向けて張り出された部位86の第2下取付孔69が、左フロントサイドフレーム11の上取付孔37に一致する。
第2下取付孔69および上取付孔37にボルト84を差し込み、上取付孔37から突出したねじ部をナット56にねじ結合する。
【0040】
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aに、左エクステンション13が下方に向けられた塗装組付状態に組み付けられる。
同様に、右フロントサイドフレーム11の前端部11aに、右エクステンション13が下方に向けられた塗装組付状態に組み付けられる。
【0041】
このように、左組付部15に仮係止部64を備えることで、第1組付部材31の内支持壁42(具体的には、内支持壁42の上辺42a)、すなわち車体側に仮係止部64を係止させて、塗装組付状態に保持することができる。
これにより、塗装組付状態に手間をかけないで簡単に組み付けることができる。
【0042】
以上説明したように、左組付部15は、最終組付用の機能と塗装組付用の機能とを備えている。
これにより、最終組付用の左組付部15を、塗装組付用の部材として兼用することができ、塗装組付用の部材を個別に用意する必要がないので構成の簡素化を図ることができる。
【0043】
図5は本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す側面図である。
左右のフロントサイドフレーム11の前端部11aに、左右のエクステンション13を塗装組付状態に組み付けることで、左右のエクステンション13を下向きに配置できる。
【0044】
よって、左右のエクステンション13および鋼製のバンパビーム16を車体側に組み付けた状態で車体全長Lを短く抑えることができる。
これにより、左右のエクステンション13および鋼製のバンパビーム16を車体側に組み付けた状態において、既存の電着槽(図示せず)を用いて鋼製のバンパビーム16および左右のエクステンション13を車体とともに塗装(電着塗装)することができる。
【0045】
既存の電着槽において塗装完了後、左右の組付部15による塗装組付状態を最終組付状態に変える。これにより、図1に示すように、左右のエクステンション13を車体前方に向けて組み付けることができる。
【0046】
なお、前記実施の形態では、左右の組付部15にそれぞれ本係止部63を備えた例について説明したが、これに限らないで、左右の組付部15のいずれか一方にのみ本係止部63を備えることも可能である。
【0047】
また、前記実施の形態では、左右の組付部15にそれぞれ仮係止部64を備えた例について説明したが、これに限らないで、左右の組付部15のいずれか一方にのみ仮係止部64を備えることも可能である。
【0048】
さらに、前記実施の形態で例示した本係止部63および仮係止部64の形状は適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の車体前部構造は、車体側に左右のバンパビームエクステンションが設けられ、各エクステンションに鋼製のバンパビームが架け渡された自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る車体前部構造の最終組付状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る車体前部構造の最終組付状態を示す分解斜視図である。
【図3】本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す分解斜視図である。
【図5】本発明に係る車体前部構造の塗装組付状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0051】
10…車体前部構造、11…左右のフロントサイドフレーム(車体側)、13…左右のエクステンション(左右のバンパビームエクステンション)、15…左右の組付部(組付部)、16…バンパビーム、63…本係止部、64…仮係止部(係止部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に左右のバンパビームエクステンションが取り付けられ、前記左右のバンパビームエクステンションに鋼製のバンパビームが架け渡された車体前部構造において、
前記左右のバンパビームエクステンションを車体前方に向けた最終組付状態に組付け可能で、かつ、前記左右のバンパビームエクステンションを下方に向けた塗装組付状態に組付け可能な組付部を備えたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記組付部は、前記塗装組付状態で、前記左右のバンパビームエクステンションの少なくとも一方を前記車体側に係止可能な係止部を備えたことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−35035(P2009−35035A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198795(P2007−198795)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】