説明

車体前部構造

【課題】車体重量の増加を抑制しつつ、フロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部を効果的に補強することができる車体前部構造を得る。
【解決手段】フロントサイドメンバインナ28の後端部のフランジ部(インナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との間には、平面視でL字状のフロントサイドメンバエクステンション34が介在されている。フロントサイドメンバエクステンション34はダッシュパネル14に沿って車両幅方向に延在する基部34Aと、この基部34Aの内側下端部から車両前方側へ垂直に延出する延出部34Bと、によって構成されている。基部34Aは両フランジ28D、28Eとスポット溶接されると共に、ダッシュパネル14ともスポット溶接されている。さらに延出部34Bは、フロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bにスポット溶接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドメンバとダッシュパネルとを含んで構成された車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ダッシュパネルの車室内側でかつフロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部分に、プレート状の降下防止手段を配設した車体前部構造が開示されている。これにより、前面衝突時にフロントサイドメンバの後端部が車両下方側へ降下することを防ぎ、ひいてはフロントサイドメンバに狙い通りの軸圧縮塑性変形を生じさせてエネルギー吸収効果を高めることができる、というものである。
【特許文献1】特開2001−30954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術による場合、車両背面視でフロントサイドメンバの後端部を覆うことが可能な大きさを有しかつ板厚が厚い降下防止手段を設定する構成であるため、仮にフロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部を補強できたとしても、車体重量が増加する。このため、車体重量の増加を抑制しつつ、フロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部を効果的に補強する車体前部構造の提案が望まれていた。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、車体重量の増加を抑制しつつ、フロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部を効果的に補強することができる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る車体前部構造は、車体前部とキャビンとを隔成するダッシュパネルと、車体前部の両側部に車両前後方向に沿って配置されると共に後端部にダッシュパネルへの結合用のフランジ部を備えた左右一対のフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバのフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に当該フランジ部及びダッシュパネルと溶接される基部と、当該基部から車両前方側へ延出されてフロントサイドメンバの内壁面に溶接される延出部と、を含んで構成された補強部材と、を有している。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1記載の車体前部構造において、前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、前記基部はフロントサイドメンバの少なくとも側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、前記延出部はフロントサイドメンバの側壁に溶接されている、ことを特徴としている。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1記載の車体前部構造において、前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、前記基部はフロントサイドメンバの少なくとも上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、前記延出部はフロントサイドメンバの上壁に溶接されている、ことを特徴としている。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1記載の車体前部構造において、前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、前記基部はフロントサイドメンバの側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共にこれらのフランジ部とダッシュパネルとの間に介在され、かつ前記延出部はフロントサイドメンバの側壁内面に溶接される第1脚部とフロントサイドメンバの上壁内面に溶接される第2脚部とを備えている、ことを特徴としている。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車体前部構造において、前記フランジ部は、フロントサイドメンバの長手方向に見てフロントサイドメンバの後端側の稜線部の周りに離れて配置された側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とを有し、前記基部は側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共に側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方と溶接されることにより側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とを繋いでいる、ことを特徴としている。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、フロントサイドメンバの後端部にはフランジ部が設けられており、このフランジ部がダッシュパネルに結合されることにより、フロントサイドメンバとダッシュパネルとが結合される。
【0011】
ここで、悪路走行時、フロントサイドメンバは車両上下方向及び車両前後方向へ変位する。具体的には、悪路走行時の路面入力により、フロントサイドメンバは車両下方側及び車両前方側へ変位すると共に、車両上方側及び車両後方側へ変位する。このとき、フロントサイドメンバの車両上下方向への変位により、フロントサイドメンバとダッシュパネルとの結合部(即ち、フロントサイドメンバのフランジ部)には、剥離方向への荷重が入力される。
【0012】
しかし、本発明では、フロントサイドメンバのフランジ部とダッシュパネルとの間に補強部材が介在されており、当該補強部材の基部をフランジ部及びダッシュパネルに溶接し、かつ基部から車両前方側へ延出された延出部をフロントサイドメンバの内壁面に溶接したので、フランジ部の溶接部位に作用する剥離方向への荷重を、延出部を介してフロントサイドメンバの側壁にせん断方向への荷重として伝達し、更にダッシュパネルへの溶接部位に分散して伝達することができる。このため、フロントサイドメンバのフランジ部とダッシュパネルとの溶接部位にかかる荷重負担が軽減されるので、当該溶接部位に過度な応力が集中することはない。
【0013】
また、補強部材は基部と延出部とを備えていればよいので、先行技術のようにフロントサイドメンバの後端部を覆うような大きなものである必要はない。従って、本発明によれば、先行技術と比べて補強部材を小型軽量化することができる。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、補強部材の基部はフロントサイドメンバの少なくとも側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、補強部材の延出部はフロントサイドメンバの側壁に溶接されるので、フロントサイドメンバの側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位に作用する剥離方向への荷重を特に軽減したい場合に有効である。
【0015】
請求項3記載の本発明によれば、フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、補強部材の基部はフロントサイドメンバの少なくとも上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、補強部材の延出部はフロントサイドメンバの上壁に溶接されるので、フロントサイドメンバの上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位に作用する剥離方向への荷重を特に軽減したい場合に有効である。
【0016】
請求項4記載の本発明によれば、フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、補強部材の基部はフロントサイドメンバの側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共にこれらのフランジ部とダッシュパネルとの間に介在される。さらに、補強部材の延出部が備える第1脚部はフロントサイドメンバの側壁内面に溶接されると共に、補強部材の延出部が備える第2脚部はフロントサイドメンバの上壁内面に溶接される。従って、本発明に係る車体前部構造は、請求項2に係る発明と請求項3に係る発明とを併有した構造となり、側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位並びに上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位の双方に作用する剥離方向への荷重をバランス良く軽減したい場合に有効である。
【0017】
請求項5記載の本発明によれば、以下の作用が得られる。
【0018】
悪路走行時、前述したようにフロントサイドメンバは車両上下方向及び車両前後方向へ変位するが、このときのフロントサイドメンバの車両前後方向への変位により、フロントサイドメンバの後端側の稜線部に応力が集中する。すなわち、本発明では、フロントサイドメンバの後端部に形成された側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とが稜線部の周りに離れて配置されているため、側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部との間は大きく切り欠かれている(即ち、フランジ部を形成する板の肉がない。)のと同じことになる。そのため、フロントサイドメンバが車両前後方向に変位すると、側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部との間の切欠部が広がったり狭まったりする。このため、切欠部に臨む稜線部の後端に応力が集中しやすくなる。
【0019】
しかし、本発明では、補強部材の基部が、側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共に、当該基部を側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方と溶接することで側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とを繋いだので、稜線部の後端が補強される。その結果、稜線部の後端に過度な応力が集中することはない。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車体前部構造は、車体重量の増加を抑制しつつ、フロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部を効果的に補強することができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項2記載の本発明に係る車体前部構造は、フロントサイドメンバの側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位に作用する剥離方向への荷重対策が特に必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重に変換することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項3記載の本発明に係る車体前部構造は、フロントサイドメンバの上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位に作用する剥離方向への荷重対策が特に必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重に変換することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項4記載の本発明に係る車体前部構造は、フロントサイドメンバの側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位並びにフロントサイドメンバの上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの結合部位に作用する剥離方向への荷重対策がいずれも必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重にバランス良く変換することができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項5記載に本発明に係る車体前部構造は、フロントサイドメンバの後端部とダッシュパネルとの結合部をより一層効果的に補強することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図1〜図9を用いて、本発明に係る車体前部構造の幾つかの実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0026】
図4には、本実施形態に係る車体前部構造を備えた車両の全体斜視図が示されている。この図に示されるように、車両のエンジンルーム10とキャビン12とを隔成する位置には車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在するダッシュパネル14が立設されている。このダッシュパネル14によって隔成された車体前部16の両側下部には、車両前後方向に沿って左右一対のフロントサイドメンバ18が配設されている。フロントサイドメンバ18は、後述するように矩形閉断面構造を成す車体骨格部材として構成されている。なお、左右一対のフロントサイドメンバ18の前端部は、車両前端部に車両幅方向を長手方向として配置された一例として矩形閉断面構造のフロントバンパリインフォースメント20に直接又はクラッシュボックスを介してボルト締結等により結合されている。
【0027】
図1には、上述したフロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との結合部(図4の1線矢視部)を拡大した状態が示されている。また、図3には、フロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との結合部の分解斜視図が示されている。さらに、図2には、フロントサイドメンバ18をダッシュパネル14へ組み付ける前の中間工程の斜視図が示されている。
【0028】
これらの図に示されるように、フロントサイドメンバ18は、全体形状的には、車両前後方向に沿って直線状に延在する本体22と、この本体22の後端部からダッシュパネル14の下部形状に沿って車両斜め後方下側へ屈曲された屈曲部24と、によって構成されている。また、フロントサイドメンバ18は、構造的には、車両幅方向外側に配置されたフロントサイドメンバアウタ26と、このフロントサイドメンバアウタ26の車両幅方向内側に隣接して配置されたフロントサイドメンバインナ28と、によって構成されている。フロントサイドメンバアウタ26は、車両上下方向及び車両前後方向に沿って延在する平板状のパネルとして構成されている。一方、フロントサイドメンバインナ28は、縦断面形状がハット形状とされた長尺状のパネルとして構成されている。
【0029】
フロントサイドメンバインナ28は、開放側が車両幅方向外側を向くように配置され、略水平面を成す上壁部28Aと、フロントサイドメンバアウタ26と平行に配置された側壁部28Bと、上壁部28Aと平行に配置された下壁部28Cと、を備えている。上壁部28Aの車両幅方向外側の端部は、車両上方側へ屈曲されて上フランジ部30とされている。同様に、下壁部28Cの車両幅方向外側の端部は、車両下方側へ屈曲されて下フランジ部32とされている。これらの上フランジ部30及び下フランジ部32がフロントサイドメンバアウタ26にスポット溶接されることにより、フロントサイドメンバアウタ26とフロントサイドメンバインナ28とが一体化されて、矩形閉断面構造の筒状の車両骨格部材が形成されている。なお、図1等においては、スポット溶接の打点を白丸で図示している。
【0030】
上述したフロントサイドメンバインナ28の上壁部28Aの後端には、車両上方側へ向けて屈曲された上壁側のフランジ部としてのインナ側上部フランジ28Dが形成されている。また、フロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bの後端には、車両幅方向内側へ向けて屈曲された側壁側のフランジ部としてのインナ側側部フランジ28Eが形成されている。なお、図示は省略するが、フロントサイドメンバインナ28の下壁部28Cの後端には、車両下方側へ向けて屈曲されたインナ側下部フランジが形成されている。また、フロントサイドメンバアウタ26の後端には、車両幅方向外側へ屈曲されたアウタ側側部フランジ28Aが形成されている。
【0031】
ここで、図3に示されるように、上述したフロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との間には、平面視で略L字状に形成された補強部材としてのフロントサイドメンバエクステンション34が介在されている。フロントサイドメンバエクステンション34は、車両前方側から見て略鉤状に形成されかつダッシュパネル14に沿って車両幅方向に延在する略矩形平板状の基部34Aと、この基部34Aの車両幅方向内側端部の近傍から車両前方側へ向けて延出された延出部34Bと、によって構成されている。
【0032】
詳細には、フロントサイドメンバエクステンション34は、以下の如くして製作されている。すなわち、プレス加工により、基部34A及び延出部34Bを合わせた平面展開形状を母材から打ち抜く際に、基部34Aと延出部34Bとの境目となる位置に所定長さの切り込み40を入れる。そして、切り込み40により基部34Aと分離された延出部34Bを、切り込み40の終端を通る車両上下方向に沿った線を折れ線として垂直に立ち上げる。これにより、延出部34Bはフロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bの内壁面(車両幅方向外側の面)に面接触状態で配置可能となり、延出部34Bが側壁部28Bにスポット溶接(第1スポット溶接部42)により接合されている。なお、図2に示されるように、組付けに際しては、フロントサイドメンバエクステンション34は、フロントサイドメンバインナ28の後端部にスポット溶接により先付けされてから、ダッシュパネル14へスポット溶接される。
【0033】
また、略鉤状に形成された基部34Aとフロントサイドメンバインナ28とは、フロントサイドメンバインナ28のインナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28Eと重なる位置にてスポット溶接されている(第2スポット溶接部44)。さらに、基部34Aは第2スポット溶接部44の溶接代を超える上下方向寸法を有しており、ダッシュパネル14と重なる位置にてスポット溶接されている(第3スポット溶接部46)。言い換えると、基部34Aの上下方向寸法は、インナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28Eのフランジ幅にダッシュパネル14への溶接代を加算した上下方向寸法に設定されている。
【0034】
なお、上述したフロントサイドメンバエクステンション34を始め、フロントサイドメンバインナ28及びフロントサイドメンバアウタ26並びにダッシュパネル14は、金属材料によって構成されている。また、フロントサイドメンバエクステンション34の板厚は、ダッシュパネル14の板厚よりも厚く、かつフロントサイドメンバ18の板厚と同一又は同等に設定されている。
【0035】
(本実施形態の作用並びに効果)
【0036】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0037】
まず、本実施形態に係る車体前部構造を備えていない図5に示される対比例を例にして、悪路走行時にフロントサイドメンバとダッシュパネルとの結合部に生じる現象について説明する。
【0038】
図5(A)に示される車体前部構造では、上述したフロントサイドメンバエクステンション34は設けられておらず、フロントサイドメンバ50の後端部50Aがダッシュパネル52に直接スポット溶接されている。この車体前部構造を備えた車両が悪路走行すると、図5(B)に示されるように、路面入力により、フロントサイドメンバ50は車両下方側及び車両前方側へ変位すると共に、車両上方側及び車両後方側へ変位する。なお、図5(B)は、前者の変位時の状態を描いたものである。
【0039】
このときのフロントサイドメンバ50の車両前後方向への変位並びに車両上下方向への変位に起因して、フロントサイドメンバ50の後端部50Aとダッシュパネル52との結合部には、以下に説明する二種類の応力集中が発生する。
【0040】
まず、図5(B)に示されるように、フロントサイドメンバ50が車両上下方向へ変位(図5(B)の矢印A方向への変位及び矢印A方向と反対方向への変位)することにより、フロントサイドメンバ50のインナ側上部フランジ50B(図6(A)参照)及びインナ側側部フランジ50Cのスポット溶接部位54に、剥離方向への荷重が入力される。このため、フロントサイドメンバ50のインナ側上部フランジ50B及びインナ側側部フランジ50Cとダッシュパネル52とのスポット溶接部位54(特には、切欠部58に隣接する×印を付けたスポット溶接部位54)に高い応力が発生する(応力集中が発生する)。
【0041】
次に、フロントサイドメンバ50が車両前後方向へ変位(図5(B)の矢印B方向への変位及び矢印B方向と反対方向への変位)することにより、フロントサイドメンバ50の稜線部56(図6(A)参照)に応力が集中する。すなわち、悪路走行時、前述したようにフロントサイドメンバ50は車両上下方向及び車両前後方向へ変位するが、このときのフロントサイドメンバ50の車両前後方向への変位により、インナ側上部フランジ50Bとインナ側側部フランジ50Cとの間の切欠部58が開いたり閉じたり方向(因みに、図6(B)の矢印C方向は開く方向を表している。)へ変形する。このため、切欠部58の根元(即ち、フロントサイドメンバ50の後端部50Aの稜線部56の後端)が変形の起点となって、この部位に最初に応力集中が生じ、その後稜線部56に沿って応力集中部が順次伝播していく。
【0042】
これに対し、図1〜図3に示されるように、本実施形態に係る車体前部構造では、フロントサイドメンバ18の車両上下方向への変位に起因したスポット溶接部での剥離に対しては、フロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との間にフロントサイドメンバエクステンション34を介在させ、フロントサイドメンバエクステンション34の基部34Aをフロントサイドメンバ18のインナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28Eと第2スポット溶接部44でスポット溶接すると共に、フロントサイドメンバエクステンション34の基部34Aをダッシュパネル14と第3スポット溶接部46でスポット溶接し、かつ基部34Aから車両前方側へ延出させた延出部34Bをフロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bに第1スポット溶接部42でスポット溶接させたので、フロントサイドメンバ18の車両上下方向への変位時にフロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との結合部に作用する剥離方向の荷重を延出部34Bに伝えてせん断方向の荷重として受け止め、更に新たに追加設定された打点である第3スポット溶接部46に分散してダッシュパネル14に伝達することができる。上記より、フロントサイドメンバ18の後端部18Aのフランジ部(インナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との結合部位に、過度な応力が集中するのを避けることができる。
【0043】
また、フロントサイドメンバ18の車両前後方向への変位に起因したスポット溶接部での応力集中に対しては、インナ側上部フランジ28Dとインナ側側部フランジ28Eとの対向角部(図6(A)のスポット溶接部位54のうち、×印を付けたスポット溶接部位54同士)をフロントサイドメンバエクステンション34の基部34Aで連結したので、切欠部58が補強される。このため、切欠部58が閉じたり開いたりする方向へ変形することが抑制される。従って、稜線部56の後端に過度な応が集中するのを避けることができる。
【0044】
さらに、フロントサイドメンバエクステンション34は、機能的には、基部34Aと延出部34Bとを備えていればよいので、前述した先行技術のようにフロントサイドメンバの後端部を覆うような大きな補強部材である必要はない。従って、本実施形態によれば、当該先行技術と比べて補強部材を小型軽量化することができる。
【0045】
以上により、本実施形態に係る車体前部構造によれば、車体重量の増加を抑制しつつ、フロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との結合部を効果的に補強することができる。
【0046】
なお、フロントサイドメンバエクステンション34を設けたことにより、ダッシュパネル14の前面にパッチを設定するかたちとなるため、ダッシュパネル14を補強することができる。この点も、フロントサイドメンバ18の後端部18Aとダッシュパネル14との結合部の耐久強度の向上に寄与している。
【0047】
また、本実施形態に係る車体前部構造では、フロントサイドメンバエクステンション34の基部34Aはフロントサイドメンバインナ28のインナ側上部フランジ28D及びインナ側側部フランジ28Eとダッシュパネル14との間に介在されると共に、フロントサイドメンバエクステンション34の延出部34Bはフロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bに溶接される構成を採っているので、フロントサイドメンバインナ28の側壁部28B側のフランジ部(インナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との結合部位に作用する剥離方向への荷重を特に軽減したい場合に有効である。従って、フロントサイドメンバ18の側壁部28B側のフランジ部(インナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との結合部位に作用する剥離方向への荷重対策が必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重に変換することができる。
【0048】
〔本実施形態の補足説明〕
【0049】
以下に、他の実施形態について説明する。なお、上述した実施形態と同一構成部分については、同一番号を付して適宜その説明を省略する。
【0050】
図7に示されるフロントサイドメンバエクステンション60は、図3に示される基部34Aと同様形状の基部60Aと、この基部60Aの下縁を折り曲げて車両前方側へ水平に延出させた延出部60Bと、によって構成されている。そして、組付に際しては、フロントサイドメンバインナ28の上壁部28Aの下面にフロントサイドメンバエクステンション60の延出部60Bを添わせ、スポット溶接により接合するようになっている。
【0051】
上記構成によれば、フロントサイドメンバエクステンション60の下縁から延出部60Bが車両前方側へ延出されているので、フロントサイドメンバ18の上壁部28A側のフランジ部(インナ側上部フランジ28D)とダッシュパネル14との結合部位に作用する剥離方向への荷重を特に軽減したい場合に有効である。換言すれば、上記構成によれば、フロントサイドメンバ18の上壁部28A側のフランジ部(インナ側上部フランジ28D)とダッシュパネル14との結合部位に作用する剥離方向への荷重対策が必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重に変換することができる。
【0052】
図8に示されるフロントサイドメンバエクステンション62は、図3に示されるフロントサイドメンバエクステンション34と図7に示されるフロントサイドメンバエクステンション60とを複合させたものである。すなわち、フロントサイドメンバエクステンション62は、図3に示される基部34Aと同様形状の基部62Aと、この基部62Aの車両幅方向内側の端部近傍から車両前方側へ垂直に延出された第1脚部62Bと、基部62Aの下縁から車両前方側へ水平に延出された第2脚部62Cと、によって構成されている。第1脚部62Bはフロントサイドメンバインナ28の側壁部28Bの内壁面にスポット溶接されており、又第2脚部62Cはフロントサイドメンバインナ28の上壁部28Aの下面にスポット溶接されている。
【0053】
上記構成によれば、図3に示されるフロントサイドメンバエクステンション34の機能と図7に示されるフロントサイドメンバエクステンション60の機能との両方を発揮させることができる。従って、フロントサイドメンバ18の後端部18Aの側壁部28B側のフランジ部(インナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との結合部位並びに上壁部28A側のフランジ部(インナ側上部フランジ28D)とダッシュパネル14との結合部位の双方に作用する剥離方向への荷重をバランス良く軽減したい場合に有効である。換言すれば、フロントサイドメンバ18の側壁部28B側のフランジ部(インナ側側部フランジ28E)とダッシュパネル14との結合部位並びにフロントサイドメンバ18の上壁部28A側のフランジ部(インナ側上部フランジ28D)とダッシュパネル14との結合部位に作用する剥離方向への荷重対策がいずれも必要な車種に対して、必要最小限の部材(量)で剥離方向の荷重をせん断方向の荷重に変換することができる。
【0054】
図9に示されるフロントサイドメンバエクステンション64は、図8に示されるフロントサイドメンバエクステンション62を車両幅方向に二分割したものである。すなわち、フロントサイドメンバエクステンション64は、第1基部66A及び第1脚部66Bから成る第1フロントサイドメンバエクステンション部材66と、第2基部68A及び第2脚部68Bから成る第2フロントサイドメンバエクステンション部材68と、によって構成されている。なお、この場合、インナ側上部フランジ28Dとインナ側側部フランジ28Eとの対向する角部同士の連結は行っていないので、フロントサイドメンバ18の車両前後方向への変位に起因した稜線部56での応力集中を抑制する機能は持たせていない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係る車体前部構造の要部を拡大して示す図4の1線矢視部の拡大斜視図ある。
【図2】図1に示されるフロントサイドメンバエクステンションがフロントサイドメンバの後端部に先付けされた状態を示す拡大斜視図である。
【図3】図1に示されるフロントサイドメンバ、フロントサイドメンバエクステンション、ダッシュパネルを分離して示す拡大斜視図である。
【図4】本実施形態に係る車体前部構造を備えた車両の全体斜視図である。
【図5】(A)は対比例に係る車体前部構造の変位前の状態を示す側面図であり、(B)は悪路走行時の路面入力によりフロントサイドメンバが変位した状態を示す側面図ある。
【図6】(A)はフロントサイドメンバの車両前後方向への変位が生じる前の状態を示すフロントサイドメンバとダッシュパネルとの結合部の拡大斜視図であり、(B)はフロントサイドメンバの車両前後方向への変位が生じた状態を示す同結合部の拡大斜視図である。
【図7】フロントサイドメンバエクステンションの別の実施形態をフロントサイドメンバインナとの関係で示す拡大斜視図である。
【図8】フロントサイドメンバエクステンションの別の実施形態をフロントサイドメンバインナとの関係で示す拡大斜視図である。
【図9】フロントサイドメンバエクステンションの別の実施形態をフロントサイドメンバインナとの関係で示す拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
14 ダッシュパネル
16 車体前部
18 フロントサイドメンバ
18A 後端部
28A 上壁部
28B 側壁部
28D インナ側上部フランジ(上壁側のフランジ部)
28E インナ側側部フランジ(側壁側のフランジ部)
34 フロントサイドメンバエクステンション
34A 基部
34B 延出部
42 第1スポット溶接部
44 第1スポット溶接部
46 第1スポット溶接部
60 フロントサイドメンバエクステンション(補強部材)
60A 基部
60B 延出部
62 フロントサイドメンバエクステンション(補強部材)
62A 基部
62B 第1脚部
62C 第2脚部
64 フロントサイドメンバエクステンション(補強部材)
66 第1フロントサイドメンバエクステンション部材
66A 第1基部
66B 第1脚部
68 第2フロントサイドメンバエクステンション部材
68A 第2基部
68B 第2脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部とキャビンとを隔成するダッシュパネルと、
車体前部の両側部に車両前後方向に沿って配置されると共に後端部にダッシュパネルへの結合用のフランジ部を備えた左右一対のフロントサイドメンバと、
フロントサイドメンバのフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に当該フランジ部及びダッシュパネルと溶接される基部と、当該基部から車両前方側へ延出されてフロントサイドメンバの内壁面に溶接される延出部と、を含んで構成された補強部材と、
を有する車体前部構造。
【請求項2】
前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、
前記基部はフロントサイドメンバの少なくとも側壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、前記延出部はフロントサイドメンバの側壁に溶接されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、
前記基部はフロントサイドメンバの少なくとも上壁側のフランジ部とダッシュパネルとの間に介在されると共に、前記延出部はフロントサイドメンバの上壁に溶接されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記フロントサイドメンバは略矩形断面形状を成しており、
前記基部はフロントサイドメンバの側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共にこれらのフランジ部とダッシュパネルとの間に介在され、かつ前記延出部はフロントサイドメンバの側壁内面に溶接される第1脚部とフロントサイドメンバの上壁内面に溶接される第2脚部とを備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記フランジ部は、フロントサイドメンバの長手方向に見てフロントサイドメンバの後端側の稜線部の周りに離れて配置された側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とを有し、
前記基部は側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方に跨った形状とされると共に側壁側のフランジ部及び上壁側のフランジ部の双方と溶接されることにより側壁側のフランジ部と上壁側のフランジ部とを繋いでいる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−23799(P2010−23799A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190963(P2008−190963)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】