説明

車体構造

【課題】本発明は、衝突時、バッテリーに影響されずに、パネル部材前方のクラッシャブルゾーンを十分に変形可能とした車体構造を提供する。
【解決手段】本発明は、バッテリー15を、クラッシャブルゾーン8から外れたパネル部材3の車室外側近傍に配置した。これにより、クラッシャブルゾーン8では、バッテリー15の搭載に影響されずに、十分なエネルギー吸収をもたらす変形量が確保し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーの搭載構造を改善した車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)では、エンジンを始動させるなどのためにバッテリーが搭載されている。一般には、バッテリーは、車体前後方向に延設され、車室の内外を仕切るパネル部材(車室前後方向を区画する部材)前方へ張り出すサイドメンバの途中に設置されている(特許文献1などを参照)。
【特許文献1】特開平11−348689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、通常、自動車の車体は、パネル部材前方へ張り出すサイドメンバのフレーム部分を座屈変形可能な部分とし、同構造にて、パネル部材の前方にクラッシュブルゾーンを形成することが行なわれている。これにより、車体前部から所定値以上の衝撃荷重が加わると、ダッシュパネルの前方のフレーム部分が座屈変形し、加わる衝撃エネルギーを吸収して、車室内の乗員を衝撃から保護するようにしてある。
【0004】
ところが、一般のバッテリーの搭載は、クラッシャブルゾーンの途中にバッテリーが配置される結果となるので、衝突時、クラッシャブルゾーンの変形量(衝撃エネルギーを吸収するための変形量)が、バッテリーの影響を受けて、十分に確保されないおそれがある。
【0005】
そこで、自動車では、その対応として、クラッシャブルゾーンの長さを増加させて、衝撃吸収性能を補うことが行なわれている。しかし、これは、車体フロント部に制約を与え、デザインの自由度が損なわれてしまう問題になっている。
【0006】
本発明の目的は、衝突時、バッテリーに影響されずに、パネル部材前方のクラッシャブルゾーンを十分に変形可能とした車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、バッテリーを、クラッシャブルゾーンから外れた、パネル部材の車室外側近傍に配置したことにある。
【0008】
これにより、クラッシャブルゾーンは、バッテリーの搭載に影響されずに、十分なエネルギー吸収をもたらす変形量が確保し得る。
【0009】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加え、さらに併せて衝突時におけるバッテリーの破損や脱落が回避されるよう、バッテリーは、パネル部材とクラッシャブルゾーンとの間に有する非クラッシャブルゾーン内に収められて、パネル部材の直前方の位置に据え付けた。
【0010】
請求項3に記載の発明は、上記目的に加え、さらにバッテリーで良好な操縦安定性がもたらせられるよう、バッテリーが、車体に取り付く車輪の軸心を延長した軸線付近に配置されて、パネル部材の直前方の位置に据え付けられるようにした。
【0011】
請求項4に記載の発明は、上記目的加え、さらにバッテリーの搭載を活用して、車体の剛性強度を高めるために、バッテリーは、車幅方向へ延びるとともに車体の骨格部材をなすクロスメンバに支持されて、パネル部材の直前方の位置に据え付けられるようにした。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、バッテリーが、クラッシャブルゾーンにおける変形に影響を与えずにすむので、衝突時、クラッシャブルゾーンでは、十分なエネルギー吸収をもたらす変形量を確保することができる。
【0013】
それ故、別途、クラッシャブルゾーンを増加させずに、十分なエネルギー吸収性能を確保することができ、車体フロント部におけるデザインの自由度の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、さらにバッテリーがパネル部材直前の非クラッシャブルゾーン内に収めてあるので、衝突時、バッテリーの破損や脱落が回避できる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、さらにバッテリーの重量の大部分が車輪に直に加わるので、優れた操縦安定性がもたらせられる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、クロスメンバは、バッテリーの支持だけでなく、車体の剛性強度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[一実施形態]
以下、本発明を図1〜図3に示す一実施形態にもとづいて説明する。
【0018】
図1は、車両、例えばRR式(リヤエンジン、リヤドライブ)の乗用車(自動車)の車体の前部側を示し、図2は同じく同部分の平面図を示している。
【0019】
図1および図2を参照して車体の構造を説明すると、同図中1は、車幅方向両側に配設された一対のサイドメンバ(車体の骨格を形成する部材)である。サイドメンバ1は、筒状(閉断面)をなして、車体前後方向に延びている。このサイドメンバ1間には、フロア面を形成するフロアパネル部材2が敷設されている。このフロアパネル部材2の前端部には、フロア面から立ち上がるダッシュパネル部材3(本願のパネル部材に相当)が設けられている。このダッシュパネル部材3には、ブレーキ操作力を増加する装置、例えば倍力装置4や各種ペダル機器(図示しない)やステアリング機器(図示しない)が組み込まれる。またフロアパネル部材2の後端部には、車体後方の荷室の続くリヤパネル部材(いずれも図示しない)が設けられていて、ダッシュパネル部材3から後側の領域に、乗員が収容可能な車室内6を形成する。
【0020】
また車室内6の前部(車体前後方向)を区画するダッシュパネル部材3からは、サイドメンバ1の各前部が、前方へ張り出している。これら張り出したフレーム部分1aの各端部間には、フロントエンドを形成するクロスメンバ7(図2に図示)が結合してある。これら前方に張り出したフレーム部分1aを用いて、ダッシュパネル部材3の前方(車室外側)の部位、すなわち車体のフロント部分16に、クラッシャブルゾーン8を形成している。すなわち、フレーム部分1aは、いずれも衝突などで、車体前部(フロントエンドのクロスメンバ7:車体端部)から所定値以上の衝撃荷重が加わると、座屈変形が生じる構造となっている。つまり、フレーム部分1aに座屈変形が生じると、加わる衝撃エネルギーを吸収して、加わる衝撃から、車室内6に居る乗員が保護されるようにしてある。この衝撃を吸収する変形可能領域をクラッシャブルゾーン8という。
【0021】
またフレーム部材1aの根元部となる、ダッシュパネル部材3から前方直前の各フレーム部位には、サスペンション支持用の一対の台座部材、例えばストラットハウス9が取着されている。ストラットハウス9は、いずれもタワー状に形成されている。そして、各ストラットハウス9に、サスペンション装置、例えばストラット式のサスペンション装置(図示しない)を介して、車輪、ここでは前輪10(操舵輪)が支持される。またこれらストラットハウス9の剛性強度から、ダッシュパネル部材3の直前(車室外側近傍)の部位、具体的にはストラットハウス9を挟んだダッシュパネル部材3とクラッシャブルゾーン8の後端との間に、座屈変形が発生しにくい部分、すなわち非クラッシャブルゾーン11を有してある。
【0022】
一方、15は、エンジンの始動などで用いられる自動車用のバッテリーを示す。このバッテリー15が、ダッシュパネル部材3の前方(車室外側)のフロント部分16のうち、クラッシャブルゾーン8からずれた地点、すなわち最もダッシュパネル部材3寄り(車室外)の地点に配設してある。これで、バッテリー15は、ダッシュパネル部材3の直前(車室外側近傍)の位置に配置させてある。さらに述べると、バッテリー15は、倍力装置4と並んで、各ストラットハウス9間で挟まれるスペース内に横向きに収めてある。この地点は、前輪10の軸心を延長した軸線Sの付近となっている。
【0023】
バッテリー15は、この軸線付近にならって車幅方向に延びる艤装機器用クロスメンバ17に搭載されている。なお、18は、バッテリー15をクロスメンバ17に保持させるホルダー部材を示す。このサイドメンバ1間に沿うクロスメンバ17の各端部は、それぞれサイドメンバ1に結合されている。つまり、同クロスメンバ17は、バッテリー15をダッシュパネル部材3の直前(車室外側近傍)の地点で支持するだけでなく、車体の骨格部材をなす構造にもしてある。
【0024】
なお、フロント部分16には、バッテリー15の他、ラジエータやスペアタイヤ(図示しない)などしか搭載されない構造となっている。
【0025】
但し、図1および図2において、19は、ストラットハウス9に形成されたホイールハウスインナ部材を示す。
【0026】
こうした車体構造により、衝撃の吸収の際、クラッシャブルゾーン8を十分に活用した衝撃吸収が行なわれる。
【0027】
すなわち、今、例えば衝突(車体前部)により、図2に示されるように所定値以上の衝撃荷重Fが、車体前部(車体端部)のクロスメンバ7から、それぞれフレーム部分1aへ入力されたとする。すると、図3に示されるようにクラッシャブルゾーン8を形成するフレーム部分1aは、その荷重Fに耐え切れなくなり、4面の壁部が波形状に押し潰される。これにより、フロント部分16におけるクラッシャブルゾーン8は圧潰され(座屈変形)、加わる衝撃エネルギーを吸収する。
【0028】
このとき、バッテリー15は、クラッシャブルゾーン8の途中ではなく、ダッシュパネル部材3の直前(車室外側近傍)の地点といった、クラッシャブルゾーン8から外れた地点に据え付けてあるから、クラッシャブルゾーン8は、バッテリー15に影響されず、ストラットハウス9まで十分に変形できる状態が確保される。図3中のLは、クラッシャブルゾーン8で確保される最大変形量を示す。
【0029】
それ故、フロント部分16において、別途、クラッシャブルゾーン8を増加する手法を用いずに、十分なるエネルギー吸収性能が確保できる。したがって、フロント部分16におけるデザインの自由度の向上を図ることができる。特にバッテリー15は、クラッシャブルゾーン8の後端に形成される非クラッシャブルゾーン11内に収まるように配置してあるので、クロスメンバ7による挟み付けを要因としたバッテリー15の破損や脱落も防げる。
【0030】
しかも、バッテリー15は、前輪10の軸線付近に配置してあるので、前輪10には、バッテリー15の大部分の荷重が、直接、加わり、操縦安定性も併せて向上する。
【0031】
そのうえ、バッテリー15の据え付けには、車体の骨格部材をなすクロスメンバ17に設置する構造を採用したので、バッテリー15の支持だけでなく、併せて車体の剛性強度の向上が図れる利点もある。
【0032】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。例えば一実施形態は、リヤエンジンリヤドライブの自動車を例に挙げたが、これに限らず、他のエンジン搭載タイプ、ドライブタイプの自動車に本発明を適用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の要部となる車体構造の前部側を示す斜視図。
【図2】同じく平面図。
【図3】衝突時におけるダッシュパネル前方の状態を説明するための平面図。
【符号の説明】
【0034】
1a…フレーム部分、2…フロアパネル部材、3…ダッシュパネル部材(車室内外を区画するパネル部材)、8…クラッシャブルゾーン、9…ストラットハウス、10…前輪(車輪)、11…非クラッシャブルゾーン、15…バッテリー、17…クロスメンバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の内外を区画するパネル部材と、同パネル部材の車室外側に形成され、衝突時、車体端部から加わる衝突エネルギーを吸収するクラッシャブルゾーンと、車体に据え付けられるバッテリーとを有し、
前記バッテリーが、前記クラッシャブルゾーンから外れた前記パネル部材の車室外側近傍に配置されることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記パネル部材と前記クラッシャブルゾーンとの間には、非クラッシャブルゾーンを有し、
前記バッテリーは、前記非クラッシャブルゾーン内に収められることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記バッテリーは、車体に取り付く車輪の軸心を延長した軸線付近に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記バッテリーは、車幅方向へ延びるとともに車体の骨格部材をなすクロスメンバで支持されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−240518(P2006−240518A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60301(P2005−60301)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】