説明

車載レーザレーダ装置

【課題】検知すべき範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることが可能な車載レーザレーダ装置を提供する。
【解決手段】操舵角度センサによってステアリングの操舵角度が取得されると、レーザ光を一括して照射し該レーザ光の反射光を受光した受光信号に基づいて、測距部20が検知実行範囲に存在している検知対象物との距離を表す距離データを測距ユニット毎に求める。そして、制御部30は、測距部20にて求められた距離情報に従って検知対象物に関する情報を生成する。ここで、制御部30は、取得された操舵角度に基づいて距離情報の提供元となる測距IC21の一部を選択することで、検知実行範囲を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、車両周辺に存在する各種目標物の検知に用いられる車載レーザレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両搭載型レーザレーダ装置は、送光器から一定強度のレーザ光が送信光学系から視野領域へ送光され、受光部では複数の受光素子を用いて受光処理するものが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
上記特許文献1の車両搭載型レーザレーダ装置は、視野領域内の障害物で反射されたレーザ光が受信光学系で集光され、A、B、Cの独立した3つの分割視野領域からなる受光部に入力するよう構成されている。また各要素の受光部は、光・電気変換をする受光器と、この受光器の出力を増幅する増幅器(AMP)と、AMPの出力をディジタル化するA/Dコンバータとで構成されている。
【0004】
さらに車両搭載型レーザレーダ装置の信号処理部は、受光部の3つの出力を受けて、一定の順序で時系列的に処理し、各分割視野領域での障害物の有無判定、障害物までの測距及び各分割視野における障害物の時系列的な動向監視を行う。
【0005】
上記構成によって、例えばある分割視野領域に存在した車両が急接近してきたのではないとの判断が可能となる。また、3つの分割視野領域のそれぞれに存在していた車両が、ある一定時間内に次々に他の分割視野領域に移動した場合には、それを検知し、カーブにさしかかったとの判断が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−150045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、車載レーザレーダ装置をさまざまな状況で利用することが考えられている。このさまざまな状況として例えば、前方を走行する車両との車間距離を一定に保持したい状況もあれば、車線変更時など、隣接車線の状況を確認したいような状況もある。また、渋滞している状況もあれば、カーブを曲がる状況、交差点で右左折しようとしている状況もある。
【0008】
特に交差点で車両が右左折する状況のように、車両周囲の環境が大きく変化するような場合は、その変化に合わせて検知すべき範囲内の障害物等の物標に関する物標情報をより速やかに、また、より正確に求めることが望ましい。
【0009】
しかしながら上記特許文献1のように、受光部の出力を受けて、信号処理部で時系列的に処理して距離データを算出する方法は処理時間がかかる。つまり時系列で順次処理する方法では、レーザ光を複数回送光することによって視野領域の障害物を求める必要が発生する場合がある。例えば1回目の送光で視野領域の左側の障害物を検知し、2回目の送光で視野領域の右側の障害物を検知する場合が発生する。そのため、物標情報を求める処理に遅延が発生する恐れがある。
【0010】
その様な問題を避けるために、例えば信号処理部の障害物までの測距機能(距離データを求める機能)を有する測距ICの数を、受光器の受光素子の数と同数にして、並列処理することにより、測距機能の遅延処理を早めることが考えられる。
【0011】
ただし、上記並列処理を行ったとしても、距離データに基づき視野領域の障害物等の物標全てに関する物標情報を最終的に生成するための演算量は削減されていない。従って物標情報を求める処理全体の演算速度の向上を図るためには、物標情報を最終的に生成するための演算量も削減する必要がある。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するために、検知すべき範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることができる車載レーザレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明に係る車載レーザレーダ装置では、操舵角度取得手段によってステアリングの操舵角度が取得されると、距離測定手段が、レーザ光を照射し該レーザ光の反射光を受光した結果に基づいて、検知実行範囲に存在している検知対象物との距離を表す距離情報を測距ユニット毎に求める。
【0014】
ここで、距離測定手段は、検知可能範囲の全体にレーザ光を一括して照射する照射部と、検知可能範囲に存在する検知対象物からの反射光を個別に受光するように配置された複数の受光素子からなる受光部と、複数の測距ユニットからなる測距部とで構成されている。
【0015】
複数の測距ユニットは、受光素子毎に設けられ、それぞれが、照射部によってレーザ光が照射されてから受光素子が反射光を受光するまでに要した時間を測定し該測定結果を距離情報として出力する。
【0016】
そして、物標情報生成手段は、距離測定手段にて求められた距離情報に従って検知対象物に関する情報を生成する。ここで、検知実行範囲とは検知可能範囲の内、実際に検知される範囲をいう。
【0017】
そして、本発明の車載レーザレーダ装置では、操舵角度取得手段がステアリングの操舵角度を取得すると、検知実行範囲制御手段が、物標情報生成手段にて用いられる距離情報の提供元となる測距ユニットの一部を選択することで、検知実行範囲を設定する。
【0018】
つまり、物標情報生成手段は、複数の測距ユニットから出力される距離情報を全て使用して物標情報を求めるのではなく、選択された測距ユニット、即ち、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子に対応する測距ユニットから出力される距離情報を使用して物標情報を求めることになる。
【0019】
従って、本発明の車載レーザレーダ装置によれば、物標情報生成手段での演算量の削減、および演算速度の向上を図ることができるため、検知実行範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることができる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明に係る車載レーザレーダ装置では、距離測定手段は、検知可能範囲の全体にレーザ光を一括して照射する照射部と、検知可能範囲に存在する検知対象物からの反射光を個別に受光するように配置された複数の受光素子からなる受光部と、複数の測距ユニットを有する測距部と、測距ユニットに接続する受光素子を選択する選択部とで構成されている。
【0021】
ここで、複数の測距ユニットは受光素子毎に設けられ、それぞれが、照射部によってレーザ光が照射されてから受光素子が反射光を受光するまでに要した時間を測定し該測定結果を距離情報として出力する。
照射部によってレーザ光が照射されてから受光素子が反射光を受光するまでに要した時間を測定し、該測定結果を距離情報として出力する。
【0022】
そして、検知実行範囲制御手段は、選択部の設定を切り替えることで、検知実行範囲を設定する。
つまり、物標情報生成手段は、選択部にて選択された受光素子、即ち、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子について測距ユニットで距離情報が生成され、その生成された一部の受光素子に基づく距離情報を使用して物標情報を求めることになる。
【0023】
従って、本発明の車載レーザレーダ装置によれば、請求項1の場合と同様に、物標情報生成手段での演算量の削減、および演算速度の向上を図ることができるため、検知実行範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることができる。
【0024】
また、請求項3に記載のように、測距ユニットの数は受光素子の数よりも少ないので、測距ユニットの数が受光素子と同数だけ必要な請求項1の場合と比較して装置の小型化を図ることができる。
【0025】
また、本願発明の車載レーザレーダ装置において、例えば請求項4に記載のように、ステアリングの中立位置を基準として、該ステアリングを左回りに回転させたときの操舵角度を左回り操舵角度とし、右回りに回転させたときの操舵角度を右回り操舵角度としたとき、検知実行範囲制御手段が、操舵角度取得手段で取得された操舵角度が左回り操舵角度である場合には、車両の直進方向を中心として、検知実行範囲を、左回り操舵角度に基づいて中心より左側の範囲に設定し、操舵角度取得手段で取得された操舵角度が右回り操舵角度である場合には、検知実行範囲を、右回り操舵角度に基づいて中心より右側の範囲に設定するように構成されていてもよい(請求項4)。
【0026】
このように構成することによって、例えば、交差点で右折しようとしている状況においては、確実に車両の前方右側の範囲に検知実行範囲を設定し、左折しようとしている状況においては、確実に車両の前方左側の範囲に検知実行範囲を設定することができる。
【0027】
従って、交差点を右左折しようとしている状況に的確に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
また、本願発明の車載レーザレーダ装置において、例えば請求項5に記載のように、車両の速度を取得する車速取得手段を備え、状況情報が車速取得手段で取得された車両の速度を含むようにしてもよい(請求項5)。
【0028】
このようにすることにより、車速に応じた検知実行範囲を制御することができるので、検知実行範囲の制御のバリエーションを増やすことができ、より的確にさまざまな状況に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【0029】
また、本願発明の車載レーザレーダ装置において、例えば請求項6に記載のように、検知実行範囲制御手段が、車両の速度が低速の時には前記検知実行範囲を所定の広角範囲に設定し、車両の速度が高速の時には前記検知実行範囲を所定の狭角範囲に設定するように構成されていてもよい(請求項6)。
【0030】
このように構成することにより、低速の時、高速時に応じて検知実行範囲をそれぞれ広角範囲、狭角範囲に設定することができるので、低速時、高速時の状況に的確に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車載レーザレーダ装置の全体構成の一例を示した図である。
【図2】制御部の測距部に対する選択制御を説明するための図である。
【図3】制御部が実行する処理内容の一例を示すフローチャートである。
【図4】車両状況に応じて異なる検知実行範囲を説明するための図である。
【図5】制御部のスイッチ部に対するスイッチング制御を説明するための図である。
【図6】制御部が実行する処理内容の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る車載レーザレーダ装置1について図1〜図4を参照して説明する。
【0033】
図1は、自動車に搭載して使用される車載レーザレーダ装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の説明では、検知可能範囲とは、車載レーザレーダ装置1が検知対象物を検知することができる最大検知範囲を意味し、単位範囲とは、検知可能範囲を複数に分割した範囲を意味し、検知実行範囲とは、少なくとも一つの単位範囲で構成される検知範囲を意味する。
【0034】
なお、本実施形態では、単位範囲は、検知可能範囲を例えば7分割することで形成され、検知実行範囲は、連続する例えば3個の単位範囲で形成されている。
以下では、7個の単位範囲を、単位範囲(a)〜(g)で示す。ただし、検知可能範囲中で最も左側に位置するものを単位範囲(a)、最も右側に位置するものを単位範囲(g)として、左から右に向けて(a)〜(g)が順番に並んでいるものとする。
【0035】
また、検知実行範囲は、単位範囲(a)〜(c)で構成される左検知実行範囲(図1参照)と、単位範囲(c)〜(e)で構成される正面検知実行範囲と、単位範囲(e)〜(g)で構成される右検知実行範囲とからなり、3段階に分けられている。
【0036】
なお、本実施形態では検知可能範囲を3段階に分けているが、これに限定されるものではない。
<全体構成>
車載レーザレーダ装置1は、図1に示すように、検知可能範囲の全体にレーザ光を一括して照射する照射部9と、単位範囲からの反射光を個別に受光する受光部13と、検知実行範囲に存在する検知対象物と車載レーザレーダ装置1との距離を表す距離情報を、レーザ光を照射し該レーザ光の反射光を受光した結果に基づいて、単位範囲毎に求める測距部20と、ステアリングの操舵角度を取得する操舵角度センサ22と、車両の車速を取得する車速センサ23と、操舵角度センサ22で取得された操舵角度および車速センサ23で取得された車速に基づいて、検知実行範囲を設定する制御部30とを備えている。
【0037】
なお、車載レーザレーダ装置1は、例えば、車室内のルームミラー周辺など、車両前方の路面を見渡すことが可能な位置に取り付けられる。
<照射部>
照射部9は、レーザ光を発生させるレーザダイオード(LD)11と、制御部30からのLD駆動信号に従って、LD11にパルス状のレーザ光を発生させるLD駆動回路10と、LD11が発生させたレーザ光のビーム幅を変えるための発光レンズ(コリメートレンズ)12とを備えている。
【0038】
なお、本実施形態では、あらかじめレーザ光のビーム幅を検知可能範囲に合わせるようにLD11と発光レンズ12との距離を調整している。このようにしてレーザ光が検知可能範囲内に一括して照射される。
【0039】
<受光部>
受光部13は、レーザ光(水平ビーム)を反射した検知対象物からの反射光を集光する受光レンズ14と、受光レンズ14を介して反射光を受光し、その強度に応じた電圧値を有する受光信号を発生させる受光ユニット15と、受光ユニット15からの受光信号を増幅する増幅部(アンプ)17とを備えている。
【0040】
ここで、受光ユニット15は、図2に示すように複数の受光素子16を備えて構成され、増幅部17は複数の増幅器18を備えて構成されている。各増幅器18は、複数の受光素子16のいずれかにそれぞれ接続されている。
【0041】
各受光素子16は、検知可能範囲を構成する単位範囲における反射光を受光する。なお、本実施形態では、受光素子の数は単位範囲の数と等しくなるように設定されているが、これに限定するものではない。
【0042】
<測距部>
測距部20は、図2に示すように複数の測距IC21からなり、各測距IC21は、増幅部を構成する増幅器18のいずれかにそれぞれ接続され、増幅された受光信号を入力している。各測距IC21は、制御部30からのLD駆動信号が入力される毎に、レーザ光が照射されてから受光素子16が受光するまでに要した時間を計測し、その計測結果を距離に換算した距離データを生成する。
【0043】
そして、測距部20を構成する各測距IC21は、生成した距離データを制御部30に出力する。
なお、上記した測定の周期は一定ではなく、制御部30の処理負荷に応じて可変できる。
【0044】
また、測距IC21は積分回路(図示せず)を用いてパルス積分できるように構成されている。従って、車両と物標との距離が離れているようなSN比が低い条件であっても、複数の測定の周期における増幅器18から出力される受光信号の積分によってより正確に検知することができる。複数の測定の周期とは、一定ではなく、制御部30の処理負荷、検知実行範囲、車両の車速等から可変できるものである。
【0045】
<各種センサ>
図1において、操舵角度センサ22は、ステアリングを回転させたときの操舵角度を検出するセンサであり、ステアリングの操舵角度を取得し、取得された操舵角度を制御部30に供給する。
【0046】
ここで、操舵角度を検出することによって車両の状況を大体予測することができる。例えば、ステアリングの中立位置を基準として、ステアリングを左回りに回転させたときには左折若しくは左側に車線変更している状況が予想され、ステアリングを右回りに回転させたときには右折若しくは右側に車線変更している状況が予想される。
【0047】
なお、以下の説明では、ステアリングの中立位置(操舵角度が0度)を基準として、該ステアリングを左回りに回転させたときの操舵角度を「左回り操舵角度」と呼び、右回りに回転させたときの操舵角度を「右回り操舵角度」と呼ぶこととする。
【0048】
車速センサ23は、車両の車速を取得し、取得された車速を制御部30に供給する。なお、以下では、低速を20km未満、高速を20km以上であるとして説明するが、これに限定されるものではない。
【0049】
<制御部>
制御部30は、CPU,ROM,RAM等により構成された周知のマイクロコンピュータからなる。
【0050】
制御部30は、LD駆動回路10を動作させてレーザ光を検知可能範囲の全体に一括照射して得られた測定データ(距離データ等)に基づいて、レーザ光を反射した検知対象物に関する物体データ(物標情報)を生成するメイン処理を実行する。
【0051】
ここで、制御部30は、LD駆動回路10を動作させるためのLD駆動信号をLD駆動回路10に出力することによってレーザ光の照射を行う。
また、制御部30は、操舵角度センサ22で取得された操舵角度に基づいて測距IC21を選択するための測距選択信号を測距部20に出力することによって検知実行範囲の設定を行う。
【0052】
ここで、選択される測距IC21は、全受光素子に対応する測距IC21の内、設定された検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21である。検知実行範囲を、「左側検知実行範囲」に設定する場合には、例えば単位範囲(a)〜(c)からの反射光を受光する各受光素子16に対応する測距IC21を選択する。「右側検知実行範囲」に設定する場合には、例えば単位範囲(e)〜(g)からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21を選択する。「中央検知実行範囲」に設定する場合には、例えば単位範囲(c)〜(e)からの反射光を受光する各受光素子16に対応する測距IC21を選択する。
【0053】
<<メイン処理>>
次に、メイン処理について、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が起動すると、まず、操舵角度センサ22から操舵角度を取得する(S110)。そして、取得された操舵角度に基づいて車両が直進方向か否かを判断する(S120)。ここで、取得された操舵角度が0度であった場合には、車両が直進方向であると判断され、検知実行範囲を車両の直進方向を中心として該中心付近の範囲(中央検知実行範囲)に設定する(S130)。
【0054】
次に、レーザ光を設定された検知実行範囲に一括照射させるための指示をLD駆動回路10に出す(S170)。具体的には、LD駆動信号をLD駆動回路10に出力する。
次に、変更後の検知実行範囲からの反射光に対応する受光信号に基づいて、選択された測距IC21によって算出された距離データを抽出する(S180)。そして、選択された測距IC21からの距離データに基づいて物標情報を生成して(S190)終了する。
【0055】
その後、制御部のサブ処理として、生成された物標情報に基づいて障害物判定処理を行い、その判定結果を外部装置(例えば、ブレーキECU)に出力する。
また、S120で、例えば、取得された操舵角度が左回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断され、次に操舵角状態が右回りか否かを判断する(S140)。操舵角度が左回り操舵角度であるので、S140では操舵角状態が右回りでない(左回りである)と判断され、検知実行範囲を、図4(a)に示すように車両の直進方向を中心として該中心より左側の範囲(左側検知実行範囲)に設定する(S150)。S150以降は、S170〜S190の処理を行って終了する。
【0056】
一方、S120で、例えば、取得された操舵角度が右回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断され、次に操舵角状態が右回りか否かを判断する(S140)。操舵角度が右回り操舵角度であるので、S140では操舵角状態が右回りであると判断され、検知実行範囲を、車両の直進方向を中心として該中心より右側の範囲(右側検知実行範囲)に設定する(S160)。S160以降は、S170〜S190の処理を行って終了する。
[効果]
以上説明したように、本実施形態の車載レーザレーダ装置1によれば、取得されたステアリングの操舵角度に基づいて、物標情報生成処理に用いられる距離情報の提供元となる測距IC21を選択する。そして、設定された検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21から出力される距離データを使用して物標情報を求める。従って、測距IC21を選択することにより検知実行範囲を設定して物標情報を求めているので、ステアリング操作から特定されるさまざまな状況に的確に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【0057】
また、設定された検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21から出力される距離データを使用して物標情報を求めている。従って、制御部30での演算量の削減、および演算速度の向上を図ることができるため、検知実行範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることができる。
【0058】
つまり、制御部30の処理負荷低減によって、測定周期を短くすることが出来れば、物標の位置及び移動速度を迅速に取得可能となる。また演算速度の向上によって、検知実行範囲内に存在する物標にレーザ光を複数回射出することも可能になるため、受光して得られる反射光の積分処理の結果から、その物標をより正確に認識することができる。
【0059】
従って、例えば交差点で車両が右左折する状況のように、車両周囲の環境が大きく変化するような場合は、その変化に合わせて検知すべき範囲内の障害物等の物標に関する物標情報をより速やかに、また、より正確に求めることができる。
【0060】
また、操舵角度が左回り操舵角度である場合には、車両の直進方向を中心として、検知実行範囲を中心より左側の範囲(左検知実行範囲)に設定し、操舵角度が右回り操舵角度である場合には、検知実行範囲を中心より右側の範囲(右検知実行範囲)に設定している。
【0061】
従って、例えば、交差点で右折しようとしている状況においては、確実に車両の前方右側の範囲に検知実行範囲を設定し、左折しようとしている状況においては、確実に車両の前方左側の範囲に検知実行範囲が設定されるので、交差点を右左折しようとしている状況に的確に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【0062】
[第2の実施形態]
上記した第1の実施形態が測距IC21の数を受光素子16の数と同数にしているのに対し、本第2の実施形態では測距IC21の数を受光素子16の数より少なくしている点に特徴がある。
【0063】
なお、本第2の実施形態の車載レーザレーダ装置1は、第1の実施形態の車載レーザレーダ装置1と比較して異なるのは、測距部20の構成が異なるだけである。従って、以下では、構成の異なる部分を中心に図5を参照して説明する。
【0064】
<受光部>
受光部13は、レーザ光(水平ビーム)を反射した検知対象物からの反射光を集光する受光レンズ14と、受光レンズ14を介して反射光を受光し、その強度に応じた電圧値を有する受光信号を発生させる受光ユニット15と、受光ユニット15からの受光信号を増幅する増幅部17とを備えている。
【0065】
なお、受光素子16(A)〜16(G)は、それぞれ単位範囲(a)〜(g)に対応して設けられて、それぞれ単位範囲(a)〜(g)から反射された反射光を受光する。
ここで、増幅部17は、図5に示すように受光素子16ごとに設けられた増幅器18(本実施形態では7つ)と複数のスイッチ部33a〜33c(本実施形態では3つ)を備えて構成されている。各スイッチ部33a〜33cは2入力1出力の構成である。
【0066】
図5の例では、スイッチ部33aの入力端子a,eにはそれぞれ受光素子16(A),16(E)が接続され、スイッチ部33bの入力端子b,fにはそれぞれ受光素子16(B),16(F)が接続され、スイッチ部33cの入力端子c,gにはそれぞれ受光素子16(C),16(G)が接続されている。
【0067】
例えば、右側検知実行範囲を設定するときには、スイッチ部33aでは入力端子aを選択し、33bでは入力端子bを選択し、33cでは入力端子cを選択するようにスイッチング制御すればよい。
【0068】
このスイッチング制御は制御部30からのスイッチ制御信号により行われる。図5の例では、各スイッチ部33はそれぞれ入力端子a、入力端子b、入力端子cを選択するようにスイッチングされている。このように選択することにより、受光素子A,B,Cからの受光信号が測距IC21に出力される。
【0069】
なお、スイッチとしては、半導体スイッチ素子が用いられ、例えば、アナログスイッチ,マルチプレクサ等が用いられる。
<測距部>
測距部20は、図5に示すように受光素子の数(本実施形態では7つ)より少ない複数の測距IC21a〜21d(本実施形態では4つ)からなり、測距IC21a〜21cがそれぞれスイッチ部33a〜33cに接続され、測距IC21dが直接増幅器18に接続されている。
【0070】
各測距IC21は、受光信号に基づいてレーザ光が照射されてから受光素子16が受光するまでに要した時間を計測し、その計測結果を距離に換算した距離データを生成し、該生成された距離データを制御部30に出力する。
【0071】
図5の例では、測距IC21が受光素子16(A),16(B),16(C),16(D)からの受光信号に基づいてレーザ光が照射されてから各受光素子16(A)〜16(D)が受光するまでに要した時間を計測し、その計測結果を距離に換算した距離データを生成する。なお、上記した測定の周期は一定ではなく、制御部30の処理負荷に応じて可変できる。
【0072】
<制御部>
制御部30は、操舵角度センサ22で取得された操舵角度に基づいて決定される検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16を選択するためのスイッチ制御信号を各スイッチ部33に出力する。
【0073】
例えば、操舵角度が右回り操舵角度である場合には、右側検知実行範囲からの反射光を受光する各受光素子16(A〜C)を選択するためのスイッチ制御信号をそれぞれ各スイッチ部33a〜33cに出力する。スイッチ制御信号を受けた各スイッチ部33a〜33cは、受光素子16(A〜C)を選択するようにスイッチングする。
【0074】
そして、制御部30は、選択された受光素子に対応する測距ICおよび直接受光素子に接続された測距ICから出力される距離データを使用して物標情報を生成する。
[効果]
以上説明したように、本実施形態の車載レーザレーダ装置1によれば、検知実行範囲を構成する単位範囲の数の複数の測距IC21と、該測距IC21に接続する受光素子16を選択する複数のスイッチ部33を備え、各スイッチ部33の設定を切り替えることにより検知実行範囲を設定している。
【0075】
つまり、スイッチ部33にて選択された受光素子16、即ち、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16について測距IC21で距離情報が生成され、その生成された一部の受光素子に基づく距離データを使用して物標情報が生成される。
【0076】
従って、制御部30での演算量の削減、および演算速度の向上を図ることができるため、検知実行範囲内に存在する物標に関する物標情報を効率良く求めることができる。
また、測距IC21の数を受光素子16の数より少なくすることができるため、測距IC21の数が検知可能範囲を構成する単位範囲の数(受光素子と同数)だけ必要な場合と比較して装置の小型化を図ることができる。
【0077】
[第3の実施形態]
上記した第1の実施形態では、制御部30が、操舵角度センサ22で取得された操舵角度に基づいて測距IC21を選択するための測距選択信号を測距部20に出力する処理を行っていたのに対し、本実施形態では、操舵角度センサ22で取得された操舵角度に加えて車速センサ23で取得された車速も考慮して測距選択信号を測距部20に出力する処理を行っている点に特徴がある。
【0078】
なお、本実施形態の車載レーザレーダ装置1において、第1の実施形態の車載レーザレーダ装置1と比較して異なるのは、車速センサ23で取得された車速の情報が、操舵角度センサ22で取得された操舵角度に加えて入力される点と、制御部30の処理内容とが異なるだけである。従って、以下では、異なる部分を中心に図6を参照して説明する。
【0079】
なお、検知実行範囲は、左検知実行範囲と、正面検知実行範囲と、右検知実行範囲のほかに(a)〜(g)で構成される検知可能な全範囲も含めることとする。
<制御部>
制御部30は、操舵角度センサ22で取得された操舵角度および車速センサ23で取得された車速に基づいて測距IC21を選択するための測距選択信号を測距部20に出力する。例えば、低速走行中で操舵角度が左回り操舵角度である場合には、車両の左側の範囲を検知実行範囲(左検知実行範囲)として検出できるように対応する受光素子に接続された測距IC21を選択するための測距選択信号を測距部20に出力する。この検知実行範囲を変更する処理については後述する。
【0080】
<<メイン制御>>
以下、変形例2におけるメイン制御について、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
【0081】
本処理が起動すると、まず、車速センサ23から車速を取得するとともに操舵角度センサ22から操舵角度を取得する(S310)。そして、取得された車速に基づいて車両が低速走行か否かを判断する(S320)。ここで、取得された車速に基づいて車両が低速走行であると判断された場合には、その後、取得された操舵角度に基づいて車両が直進方向か否かを判断する(S330)。
【0082】
ここで、取得された操舵角度が0度であった場合には、車両が直進方向であると判断され、検知実行範囲を検知可能範囲(全範囲)に設定する(S350)。
次に、設定された検知実行範囲へレーザ光を一括照射させるための指示をLD駆動回路10に出す(S170)。具体的には、LD駆動信号をLD駆動回路10に出力する。
【0083】
その後は、上記した第1の実施形態のS170〜S190と同様の処理を行い(S410〜S430)、終了する。
S330で、例えば、取得された操舵角度が左回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断され、次に車両が左折状態か否かを判断する(S360)。具体的には、操舵角状態が左回りか否かを判断する。上記したように、操舵角度が左回り操舵角度であるので、S360では車両が左折状態であると判断され、左検知実行範囲に設定する(S380)。S380以降は、S410〜S430と同様の処理を行って終了する。
【0084】
一方、S330で、例えば、取得された操舵角度が右回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断される。そして、操舵角度が右回り操舵角度であるので、S360では車両が右折状態であると判断され、右検知実行範囲に設定する(S390)。S390以降は、S410〜S430と同様の処理を行って終了する。
【0085】
また、S320で、取得された車速に基づいて車両が高速走行であると判断された場合には、その後、取得された操舵角度に基づいて車両が直進方向か否かを判断する(S340)。
【0086】
ここで、取得された操舵角度が0度であった場合には、車両が直進方向であると判断され、正面検知実行範囲に設定する(S400)。S400以降は、S410〜S430と同様の処理を行って終了する。
【0087】
S340で、例えば、取得された操舵角度が左回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断され、次に車両が左車線変更状態か否かを判断する(S360)。車両が左車線変更状態であると判断された場合には、左検知実行範囲に設定する(S380)。
【0088】
一方、S340で、例えば、取得された操舵角度が右回り操舵角度であった場合には、車両が直進方向でないと判断され、S360で車両が右車線変更状態であると判断された場合には、右検知実行範囲に変更する(S380)。S380以降は、S410〜S430と同様の処理を行って終了する。
【0089】
なお、S380の処理において、検知実行範囲を、車両の直進方向を中心として該中心より左側(右側)の範囲に設定することは低速の場合と同じであるが、その範囲は上記した低速の場合より狭くするようにするとよい。高速走行中における車線変更の場合には低速の左折(右折)に比べて検知範囲を広くする場面が少ないからである。
[効果]
以上説明したように、本実施形態に係る車載レーザレーダ装置1によれば、操舵角度の情報のみならず車速センサ23から取得された車速の情報も加えて検知実行範囲が設定されるので、車両の状況のバリエーションを増やすことができ、検知実行範囲の制御のバリエーションを増やすことができ、より的確にさまざまな状況に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【0090】
また、車両が低速走行の時には検知実行範囲を所定の広角範囲に設定し、車両が高速走行の時には検知実行範囲を所定の狭角範囲に設定しているので、低速時、高速時の状況に的確に対応して検知対象物の検知を行うことができる。
【0091】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
例えば、上記した第1の実施形態に係る車載レーザレーダ装置1については、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21を選択し、その選択された測距IC21から出力される距離データを使用して物標情報を生成していたが、制御部30が、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21を動作させ、それ以外の測距IC21の動作を停止させるように制御させてもよい。
【0092】
このようにすれば、検知実行範囲からの反射光を受光する受光素子16に対応する測距IC21を動作させ、それ以外の測距IC21の動作を停止させているので、車載レーザレーダ装置1の消費電力の削減を図ることができる。
【0093】
また、上記実施形態における検知実行範囲の設定については、操蛇角度センサ22(67)で取得された操蛇角度に基づいて行っているが、操蛇角度センサ22(67)とともに、例えば、車両の挙動を検出するヨ−レートセンサを設けてもよい。
【0094】
ヨ−レートセンサに検出された車両の挙動情報は外部の各種ECU(例えばブレーキECU)に出力され、ブレーキECUは該挙動情報に基づいて車両の挙動が異常であると判断した場合にはブレーキをかける等の制御を行う。
【0095】
従って、安全性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0096】
1…車載レーザレーダ装置、9…照射部、10…レーザダイオード(LD)駆動回路、11…レーザダイオード(LD)、12…発光レンズ、13…受光部、14…受光レンズ、16…受光素子、20…測距部、22…操舵角度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車載レーザレーダ装置であって、
検知可能範囲の全体にレーザ光を一括して照射する照射部と、
前記検知可能範囲に存在する検知対象物からの反射光を個別に受光するように配置された複数の受光素子からなる受光部と、
前記受光素子毎に設けられ、それぞれが、前記照射部によってレーザ光が照射されてから前記受光素子が反射光を受光するまでに要した時間を測定し、当該測定結果を距離情報として出力する複数の測距ユニットからなる測距部と、を有する距離測定手段と、
前記距離測定手段にて求められた前記距離情報に従って前記検知対象物に関する情報を生成する物標情報生成手段と、
ステアリングの操舵角度を取得する操舵角度取得手段と、
当該操舵角度取得手段で取得された操舵角度に基づいて、前記物標情報生成手段にて用いられる前記距離情報の提供元となる前記測距ユニットの一部を選択することで、検知実行範囲を設定する検知実行範囲制御手段と、を備えた
ことを特徴とする車載レーザレーダ装置。
【請求項2】
車両に搭載される車載レーザレーダ装置であって、
検知可能範囲の全体にレーザ光を一括して照射する照射部と、
前記検知可能範囲に存在する検知対象物からの反射光を個別に受光するように配置された複数の受光素子からなる受光部と、
前記受光素子毎に対応して設けられ、それぞれが、前記照射部によってレーザ光が照射されてから前記受光素子が反射光を受光するまでに要した時間を測定し、当該測定結果を距離情報として出力する複数の測距ユニットからなる測距部と、
前記測距ユニットと前記受光素子との接続を選択する選択部と、を有する距離測定手段と、
前記距離測定手段にて求められた前記距離情報に従って前記検知対象物に関する情報を生成する物標情報生成手段と、
ステアリングの操舵角度を取得する操舵角度取得手段と、
当該操舵角度取得手段で取得された操舵角度に基づいて、前記選択部の設定を切り替えることで、検知実行範囲を設定する検知実行範囲制御手段と、を備えた
ことを特徴とする車載レーザレーダ装置。
【請求項3】
前記測距ユニットの数は前記受光素子の数よりも少ないことを特徴とする請求項2に記載の車載レーザレーダ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載レーザレーダ装置において、
ステアリングの中立位置を基準として、該ステアリングを左回りに回転させたときの操舵角度を左回り操舵角度とし、右回りに回転させたときの操舵角度を右回り操舵角度とし、
前記検知実行範囲制御手段は、
前記操舵角度取得手段で取得された操舵角度が前記左回り操舵角度である場合に、車両の直進方向を中心として、前記検知実行範囲を、前記左回り操舵角度に基づいて前記中心より左側の範囲に設定し、
前記操舵角度取得手段で取得された操舵角度が前記右回り操舵角度である場合に、前記検知実行範囲を、前記右回り操舵角度に基づいて前記中心より右側の範囲に設定する
ことを特徴とする車載レーザレーダ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車載レーザレーダ装置において、
車両の速度を取得する車速取得手段を備え、
前記状況情報は車速取得手段で取得された車両の速度を含む
ことを特徴とする車載レーザレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車載レーザレーダ装置において、
前記検知実行範囲制御手段は、車両の速度が低速の時には前記検知実行範囲を所定の広角範囲に設定し、車両の速度が高速の時には前記検知実行範囲を所定の狭角範囲に設定する
ことを特徴とする車載レーザレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242218(P2012−242218A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111559(P2011−111559)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】