説明

車載動力伝達システム

【課題】回転エネルギを力学的エネルギとして蓄えるフライホイール30、エンジン10、およびオルタネータ32の動力を分割するための動力分割機構24を備えるものにあって、フライホイールに蓄えられた回転エネルギを電気エネルギに適切に変換することが困難となるおそれがあること。
【解決手段】エンジン10と動力分割機構24を構成する遊星歯車機構のキャリアCとの間には、これらの機械的な連結を解除するクラッチ20と、キャリアCの回転を禁止するロック機構22とが設けられている。車両走行中にフライホイール30の回転エネルギをオルタネータ32によって電気エネルギに変換する際には、クラッチ20が解除され、キャリアCがロック機構22によってロックされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転エネルギを力学的エネルギとして蓄えるフライホイール、内燃機関、および回転電機の動力を分割するための動力分割機構を備える車載動力伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達システムとしては、例えば下記特許文献1に見られるように、駆動輪に連結された変速装置および内燃機関間の回転軸の動力と、フライホイールの動力と、発電機の動力とが遊星歯車機構によって分割されるものも提案されている。これによれば、駆動輪の回転力を変速装置を介してフライホイールや発電機に蓄えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/010819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記システムの場合、車両走行時において、フライホイールに蓄えられた回転エネルギを発電機によって電気エネルギに変換してバッテリを充電しようとしても、駆動輪の回転速度の影響を受けるため、充電を適切に行なうことができなくなるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転エネルギを力学的エネルギとして蓄えるフライホイール、内燃機関、および回転電機の動力を分割するための動力分割機構を備えるものにあって、フライホイールに蓄えられた回転エネルギを電気エネルギにより好適に変換することのできる車載動力伝達システムを提供することにある。より大きくは、本発明の目的は、回生エネルギをより好適に利用することのできる車載動力伝達システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項記載の発明は、第1の回転電機、駆動輪、および内燃機関の動力を分割して且つ、前記第1の回転電機に機械的に連結される回転体、前記駆動輪に機械的に連結される回転体および前記内燃機関に機械的に連結される回転体を各別に備える第1動力分割機構と、回転エネルギを力学的エネルギとして蓄えるフライホイール、第2の回転電機、および前記第1動力分割機構の動力を分割して且つ、前記フライホイールに機械的に連結される回転体、前記第2の回転電機に機械的に連結される回転体および前記第1動力分割機構の備える回転体に機械的に連結される回転体を各別に備える第2動力分割機構とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、第2動力分割機構やフライホイールを備えることで、第2動力分割機構を第2の回転電機に代える場合と比較して、回生エネルギを力学的エネルギのまま蓄えることができることから、回生エネルギの利用効率を向上させることができる。
【0009】
請求項記載の発明は、請求項記載の発明において、前記第1動力分割機構の前記3つの回転体のトルクは、互いに比例関係を有し、前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限する制限手段を更に備えることを特徴とする。
【0010】
内燃機関を停止させると、第1動力分割機構の上記3つの回転体のトルクが互いに比例関係にあるため、これら3つの回転体にトルクが加わらず、動力を伝達することができなくなる。上記発明では、この点に鑑み、制限手段を備えることで、内燃機関を停止させても内燃機関に機械的に連結される回転体にトルクを加えることが可能となり、ひいてはこれら3つの回転体を介した動力伝達が可能となる。
【0011】
請求項記載の発明は、請求項記載の発明において、車両の減速回生時において、前記フライホイールと前記第2の回転電機との間で動力循環が生じる場合、前記制限手段により前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限した状態で前記第1の回転電機による発電制御を行なうことを特徴とする。
【0012】
上記発明において、第2の回転電機とフライホイールとの間で動力循環が生じる場合には、回生制御のエネルギ効率が低下する。この点、上記発明では、こうした状況下、第1の回転電機によって発電制御を行う。ただし、この際、内燃機関が停止状態とされると、第1動力分割機構を介してトルクを伝達することができなくなるおそれがある。そこで上記発明では、制限手段を用いることで内燃機関と機械的に連結される回転体にトルクを付与することが可能となり、ひいては動力分割機構を介した動力の伝達が可能となる。
【0013】
なお、上記発明において、前記第2動力分割機構は、サンギア、キャリア、およびリングギアの3つの回転体を備える遊星歯車機構を備えて且つ、前記サンギアおよび前記リングギアに前記フライホイールおよび前記第2の回転電機が割り振られており、車両の減速回生時において、前記サンギア、キャリアおよびリングギアの回転速度を共線図に表現した場合に前記フライホイールに対応する回転速度を正として前記第2の回転電機の回転速度が規定値以下でないことを条件に、前記第2の回転電機を駆動することを特徴としてもよい。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、前記内燃機関の動力を用いることなく車両を走行させる状況下、前記フライホイールの回転速度に基づき、前記第2の回転電機を駆動するか否かを決定する決定手段を備えることを特徴とする。
【0015】
フライホイールの回転速度が小さい場合、フライホイールと第2の回転電機とによって車両を走行させることには、困難が生じたり不都合が生じたりするおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、第2の回転電機の駆動の有無を決定する。
【0016】
なお、上記発明において、前記第2動力分割機構は、サンギア、キャリア、およびリングギアの3つの回転体を備える遊星歯車機構を備えて且つ、前記サンギアおよび前記リングギアに前記フライホイールおよび前記第2の回転電機が割り振られていることを特徴としてもよい。
【0017】
請求項記載の発明は、請求項記載の発明において、前記決定手段は、前記第2の回転電機と前記フライホイールとの間で動力循環が生じると判断される場合、前記第2の回転電機を駆動しないことを決定することを特徴とする。
【0018】
上記発明において、第2の回転電機とフライホイールとの間で動力循環が生じる場合には、回生制御のエネルギ効率が低下する。この点、上記発明では、決定手段によってこうした事態が生じることを抑制または回避することができる。
【0019】
なお、上記発明において、前記第2動力分割機構は、サンギア、キャリア、およびリングギアの3つの回転体を備える遊星歯車機構を備えて且つ、前記サンギアおよび前記リングギアに前記フライホイールおよび前記第2の回転電機が割り振られており、前記内燃機関の動力を用いることなく車両を走行させる状況下、前記サンギア、キャリアおよびリングギアの回転速度を共線図に表現した場合に前記フライホイールに対応する回転速度を正として前記第2の回転電機の回転速度が規定値以下でないことを条件に、前記第2の回転電機を駆動することを特徴としてもよい。
【0020】
請求項記載の発明は、請求項4または5記載の発明において、前記第1動力分割機構の前記3つの回転体のトルクは、互いに比例関係を有し、前記決定手段により前記第2の回転電機を駆動しないことが決定される場合、前記制限手段により前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限しつつ前記第1の回転電機による力行制御を行なうことを特徴とする。
【0021】
上記発明では、内燃機関が停止状態とされると第1動力分割機構を介してトルクを伝達することができなくなるおそれがあることに鑑み、制限手段を用いることで内燃機関と機械的に連結される回転体にトルクを付与することが可能となり、ひいては動力分割機構を介した動力の伝達が可能となる。
【0022】
請求項記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記フライホイールに機械的に連結される回転体と前記フライホイールとの機械的な連結を解除するクラッチを更に備えることを特徴とする。
【0023】
上記発明では、フライホイールとの機械的な連結を解除するクラッチを備えることで、動力分割機構とフライホイールとの間の動力の伝達を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる動力分割機構が備える回転体の回転速度の共線図。
【図3】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図4】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図5】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図6】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図7】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】第7の実施形態にかかるシステム構成図。
【図9】同実施形態にかかる動力分割機構が備える回転体の回転速度の共線図。
【図10】同実施形態にかかる回生制御時の共線図。
【図11】同実施形態にかかる回生制御の処理手順を示す流れ図。
【図12】同実施形態にかかるEV走行時の共線図。
【図13】同実施形態にかかるEV走行時の処理手順を示す流れ図。
【図14】同実施形態にかかる動力分割機構が備える回転体の回転速度の共線図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる車載動力伝達システムを車載主機として内燃機関のみを搭載する車両に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0027】
図示されるように、エンジン10は、車載主機としての内燃機関である。エンジン10のクランク軸10aは、変速装置12やディファレンシャル14を介して駆動輪16に機械的に連結されている。なお、クランク軸10aには、これに初期回転を付与する初期回転付与手段(スタータ18)が設けられている。
【0028】
エンジン10のクランク軸10aのうち変速装置12に連結されない側は、クラッチ20およびロック機構22を介して動力分割機構24に機械的に連結されている。ここで、動力分割機構24は、互いに連動して回転する回転体であって且つ、エンジン10、フライホイール30およびオルタネータ32間の動力を分割する複数の動力分割用回転体を備える。詳しくは、動力分割機構24は、1つの遊星歯車機構によって構成されており、そのサンギアSにフライホイール30が機械的に連結され、キャリアCにエンジン10が機械的に連結され、リングギアRにオルタネータ32が機械的に連結されている。なお、図1(b)に、動力分割機構24の断面構成等を示す。
【0029】
上記フライホイール30は、入力される回転エネルギを運動エネルギのまま蓄えるエネルギ蓄積手段である。オルタネータ32は、スタータ18等の車載補機の電源としての機能や補機バッテリ36を充電する機能等を有する発電手段である。クラッチ20は、エンジン10と動力分割機構24(キャリアC)との機械的な連結を解除することで、エンジン10と動力分割機構24(キャリアC)との間の動力伝達を遮断する遮断手段である。ロック機構22は、エンジン10に機械的に連結される回転体(キャリアC)の回転を禁止するための機構である。ロック機構26は、フライホイール30に機械的に連結される回転体(サンギアS)の回転を禁止する機構である。クラッチ28は、フライホイール30と動力分割機構24(サンギアS)との機械的な連結を解除することで、フライホイール30と動力分割機構24(サンギアS)との間の動力伝達を遮断する遮断手段である。
【0030】
制御装置34は、車両を制御対象とする制御装置である。詳しくは、エンジン10、スタータ18、クラッチ20、ロック機構22、ロック機構26、クラッチ28およびオルタネータ32等を操作することで、車両の駆動力等を制御する。
【0031】
図2に、制御装置34によって実現される動力分割機構24の3つの回転体(サンギアS、キャリアCおよびリングギアR)の回転速度の共線図を、エンジン10の回転速度とともに示す。なお、矢印は、トルクの向きを示すものである。トルクの向きは、回転速度と同様、図中上側を正としており、これにより、動力分割機構24にエネルギが入力される場合の回転エネルギを正と定義している。以下、図2(a)〜図2(f)の順に説明していく。
【0032】
図2(a):車両の停止時
車両停止時であってフライホイール30に回転エネルギが十分ある場合(i)には、こ
の回転エネルギをオルタネータ32によって電気エネルギに変換して補機バッテリ36に入力させる。この際、エンジン10は、停止状態とされており、先の図1に示したクラッチ20は遮断状態である。このため、ロック機構22によってキャリアCの回転を禁止している。これは、キャリアCにトルクを付与するための処理である。すなわち、遊星歯車機構のサンギアSのトルクTs、キャリアCのトルクTcおよびリングギアRのトルクTrの関係は、リングギアRのギア数Zrに対するサンギアSのギア数Zsの比ρ(Zs/Zr)を用いて、以下の式(c1)、(c2)にて表現される。
【0033】
Tr=−Tc/(1+ρ) …(c1)
Ts=−ρTc/(1+ρ) …(c2)
このため、ロック機構22をロックしない場合には、キャリアCのトルクTcがゼロとなることから、リングギアRおよびサンギアSにトルクが付与されない。そしてこの場合には、リングギアRおよびサンギアS間で動力を伝達することができなくなる。これに対し、ロック機構22によってキャリアCをロックすることで、オルタネータ32がリングギアRに付与するトルクによってフライホイール30からオルタネータ32へと伝達される回転エネルギを制御することができる。ちなみに、サンギアS,キャリアCおよびリングギアRの回転速度は一直線上に並ぶため、キャリアCの回転速度をゼロに固定する場合、フライホイール30(サンギアS)の回転速度によってオルタネータ32(リングギアR)の回転速度が一義的に定まる。
【0034】
一方、車両の停止時であってフライホイール30の回転速度がゼロである場合(ii)には、動力分割機構24の3つの回転体は、すべて停止状態となる。
【0035】
図2(b):エンジン10の始動時
エンジン10の始動に際してフライホイール30の回転エネルギが十分である場合(i
)には、スタータ18を用いることなく、フライホイール30の回転エネルギを利用してエンジン10のクランク軸10aに初期回転を付与する。この際オルタネータ32を発電制御する。これは、上記の式(c1)、(c2)の関係より、動力分割機構24を介した動力伝達を可能とするための処理である。
【0036】
これに対し、エンジン10の始動に際してフライホイール30の回転エネルギが不十分である場合(ii)には、スタータ18によってエンジン10を始動させる。この際、オルタネータ32による発電は行なわない。このため、動力分割機構24を介した動力伝達はなされない。なお、この際、クラッチ28を解除状態として且つロック機構26によってサンギアSをロックする。これは、クラッチ28を締結する際にその入力側と出力側との回転速度の相違が大きくなることを回避するためのものである。なお、クラッチ28を締結状態として且つロック機構26を解除状態としてもよい。
【0037】
図2(c):発進・軽負荷走行時(EV走行)
フライホイール30に回転エネルギが十分にある場合(i)、エンジン10を使用せず
フライホイール30の回転エネルギを利用して走行する。この際、オルタネータ32の発電制御を行なうことでリングギアRにトルクが付与されることから、動力分割機構24を介した動力伝達が可能となる。
【0038】
これに対し、フライホイール30の回転エネルギが不十分である場合(ii)には、上記ロック機構26によってサンギアSをロックして且つオルタネータ32の発電制御を行いつつ、エンジン10の駆動力で走行する。ここで、ロック機構26を用いるのは、エンジン10の回転エネルギがフライホイール30に供給されることを回避した状態で動力分割機構24を介した動力伝達を可能とし、ひいてはオルタネータ32の発電制御を可能とするための設定である。これに対し、ロック機構26を用いない場合には、エンジン10の回転エネルギの一部がフライホイール30に供給されることとなる。なお、オルタネータ32の発電制御を停止している場合には、ロック機構26によるサンギアSのロック処理を行わなくてもよい。これは、動力分割機構24を介した動力伝達が不可能となるためである。
【0039】
図2(d):定常走行時
フライホイール30に回転エネルギを蓄える場合(i)、エンジン10を駆動しつつオ
ルタネータ32を発電させる。ここでオルタネータ32の発電は、エンジン10の回転エネルギを動力分割機構24を介してフライホイール30に伝達させるために不可欠である。
【0040】
これに対し、フライホイール30へのエネルギの蓄積およびフライホイール30からのエネルギの放出のいずれも行なわない場合(ii)、上記ロック機構26によってサンギアSをロックして且つオルタネータ32の発電制御を行いつつ、エンジン10の駆動力で走行する。ここで、ロック機構26を用いるのは、エンジン10の回転エネルギがフライホイール30に供給されることを回避した状態で動力分割機構24を介した動力伝達を可能とし、ひいてはオルタネータ32の発電制御を可能とするための設定である。なお、オルタネータ32の発電制御を停止している場合には、ロック機構26によるサンギアSのロック処理を行わなくてもよい。これは、動力分割機構24を介した動力伝達が不可能となるためである。
【0041】
また、エンジン10の駆動力によって車両を走行させた状態でフライホイール30のエネルギをオルタネータ32によって電気エネルギに変換する場合(iii)、ロック機構2
2によってキャリアCをロックしつつオルタネータ32による発電制御を行なう。この際、クラッチ20を解除状態とすることで、エンジン10側と動力分割機構24側との動力伝達を遮断する。ここで、ロック機構22によってキャリアCをロックするのは、フライホイール30の回転エネルギを動力分割機構24を介してオルタネータ32に伝達可能とするための設定である。
【0042】
図2(e):加速時
エンジン10の回転エネルギに加えてフライホイール30の回転エネルギを利用する場合(i)、オルタネータ32の発電制御を行なう。ここで、オルタネータ32の発電制御
は、フライホイール30の回転エネルギを動力分割機構24を介して伝達させるうえで必要である。
【0043】
これに対し、フライホイール30の回転エネルギを利用しない場合(ii)、上記ロック機構26によってサンギアSをロックして且つオルタネータ32の発電制御を行いつつ、エンジン10の回転エネルギで走行する。ここで、ロック機構26を用いるのは、動力分割機構24を介したエネルギの伝達を可能とするための設定である。このため、オルタネータ32の発電制御を停止する場合には、ロック機構26によるロック制御を行なわなくてもよい。
【0044】
図2(f):回生時
この場合、エンジン10を停止させ、オルタネータ32の発電制御を行なう。これにより、キャリアCに入力された回転エネルギは、サンギアSおよびリングギアRのそれぞれからフライホイール30およびオルタネータ32のそれぞれに出力される。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0046】
(1)エンジン10と車両の駆動輪16との間で動力の伝達がなされる状況下、動力分割機構24を介してフライホイール30からオルタネータ32に回転エネルギを伝達する際(図2(d),(iii))、動力分割機構24とエンジン10との間の動力の伝達を遮
断するクラッチ20を備えた。これにより、フライホイール30の回転エネルギを電気エネルギにより好適に変換することができる。
【0047】
(2)エンジン10に機械的に連結される回転体(キャリアC)を固定するロック機構22を備えた。これにより、クラッチ20を解除状態とした場合であっても、動力分割機構24を介した回転エネルギの伝達が可能となる。
【0048】
(3)フライホイール30に機械的に連結される回転体(サンギアS)とフライホイール30との機械的な連結を解除するクラッチ28を備えた。これにより、動力分割機構24とフライホイール30との間の動力の伝達を遮断することができる。
【0049】
(4)フライホイール30に機械的に連結される回転体(サンギアS)を固定するロック機構26を備えた。これにより、クラッチ28を解除状態とした場合であっても、動力分割機構24を介した動力の伝達が可能となる。
【0050】
(5)エンジン10のクランク軸10aのうち駆動輪16との接続側ではない側を動力分割機構24に機械的に連結した。これにより、エンジン10および駆動輪16間と動力分割機構24とを機械的に連結させる場合と比較して構成を簡素化することができる。
【0051】
(6)動力分割機構24に機械的に連結される回転電機をオルタネータ32とし、動力分割機構24を備えた。これにより、車載主機をエンジン10のみとする通常の車両におけるエネルギ利用効率を向上させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0053】
図3に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図3において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0054】
図示されるように、本実施形態では、スタータ18を、リングギアRに機械的に連結する。これにより、フライホイール30の回転エネルギを利用することなくエンジン10を始動させる場合、ロック機構26によってサンギアSをロックさせた状態でスタータ18を起動しエンジン10に初期回転を付与することができる。ちなみに、リングギアRおよびキャリアCの回転速度は、図2(b)(ii)に示したものと同様となる。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0056】
(7)オルタネータ32に機械的に連結される回転体(リングギアR)にスタータ18
を機械的に連結した。これにより、スタータ18を稼動させることで、オルタネータ32が機械的に連結される回転体の入力回転エネルギを正とすることができるため、回生時においてリングギアRが取りうる回転速度領域を拡大することなどにより、エネルギ利用効
率を向上させることができる。
【0057】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0058】
図4に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図4において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0059】
図示されるように、本実施形態では、動力分割機構24とフライホイール30との間に、動力分割機構24側の回転速度を増大させてフライホイール30側に出力する増速機構40を備えた。ここで、増速機構40は、1つの遊星歯車機構にて構成されており、そのキャリアCが動力分割機構24側に機械的に連結され、サンギアSがフライホイール30側に機械的に連結されている。そして、リングギアRは固定されている。
【0060】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0061】
(8)フライホイール30に機械的に連結される回転体(リングギアR)とフライホイール30との間に、増速機構40を介在させた。これにより、同一のエネルギをフライホイール30に蓄える場合に増速機構40を備えない場合と比較してフライホイール30を小型化することができる。
【0062】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0063】
図5に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図5において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0064】
図示されるように、本実施形態では、エンジン10と変速装置12とを連結する回転軸に動力分割機構24を機械的に連結する。すなわち、動力分割機構24によって、エンジン10および駆動輪16間の動力と、フライホイール30の動力と、オルタネータ32の動力とを分割する。さらに、クラッチ20に加えて、エンジン10と変速装置12との機械的な連結を解除するクラッチ42を備える。
【0065】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0066】
(9)エンジン10と駆動輪16との間に動力分割機構24を機械的に連結した。これにより、エンジン10を介すことなく回生エネルギをフライホイール30やオルタネータ32に伝達させることができる。
【0067】
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0068】
図6に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図6において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0069】
図示されるように、本実施形態では、オルタネータ32が機械的に連結される回転体(リングギアR)に、さらにオルタネータ32以外の車載補機を機械的に連結する。詳しくは、車載空調装置のコンプレッサ44と、真空ポンプ45とを機械的に連結する。ここで、真空ポンプ45は、クラッチ46を介してリングギアRに機械的に連結される。真空ポンプ45は、フライホイール30が周囲の気体から受ける抵抗を低減すべく、フライホイール30のハウジングと回転体との間の空間の圧力を減圧するものである。
【0070】
こうした構成によれば、回生エネルギが大きいにもかかわらずオルタネータ32のトルクの制約から回生エネルギを十分に動力分割機構24に伝達させることができない場合等において、オルタネータ32がリングギアRに付与するトルクを真空ポンプ45等によってアシストすることができる。このため、フライホイール30に入力される単位時間当たりの回転エネルギを増大させることができる。
【0071】
なお、回生エネルギを回収するうえでリングギアRに付与することが要求されるトルクがオルタネータ32の最大トルク以下である場合等においては、クラッチ46を解除状態とし、動力分割機構24から真空ポンプ45への動力伝達を遮断してもよい。
【0072】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0073】
(10)オルタネータ32に機械的に連結される回転体(リングギアR)に、オルタネータ32以外の車載補機を機械的に連結した。これにより、リングギアRを、車載補機の駆動源とすることができる。
【0074】
(11)車載補機に、フライホイール30のハウジング内部を減圧するための真空ポンプ45を含めた。これにより、回生エネルギをより好適に蓄積することができる。
【0075】
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0076】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図7において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0077】
図示されるように、本実施形態では動力分割機構24のうちのオルタネータ32に機械的に連結される回転体(リングギアR)にトルクを負荷するトルク付加機構47を備える。さらに、トルク付加機構47がリングギアRにトルクを負荷する際に生じる熱エネルギをエンジン10の冷却系によって回収する。なお、トルク付加機構47は、例えば摩擦板などのブレーキ等で容易に構成することができる。
【0078】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0079】
(12)オルタネータ32に機械的に連結される回転体(リングギアR)にトルクを付加するトルク付加機構47を備えた。これにより、補機バッテリ36が満充電となるなど、オルタネータ32の発電制御ができない状況下において、回生エネルギをフライホイール30に選択的に供給することができる。
【0080】
(13)トルク付加機構47の熱エネルギを冷却系によって回収した。これにより、例えば回生制御中にオルタネータ32の発電制御を停止し、これに機械的に連結される回転体(リングギアR)の回転を止める側にトルク付加機構47によってトルクを付加する場合等に生じる大きな熱エネルギを有効利用することができる。なお、この熱エネルギは、例えば車両の暖房に用いることができる。
【0081】
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0082】
図8(a)に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図8において、先の図1に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0083】
本実施形態では、パラレルシリーズハイブリッド車においてフライホイール30を新たに搭載することで、回収された回転エネルギを電気エネルギに変換することなく回転エネルギとして利用する機会を設ける。
【0084】
図8(a)に示されるように、第1動力分割機構54には、エンジン10、第1モータジェネレータ50aおよび第2動力分割機構58が機械的に連結されている。詳しくは、動力分割機構54は、1つの遊星歯車機構よりなり、そのサンギアSに第1モータジェネレータ50aが機械的に連結され、キャリアCにロック機構56を介してエンジン10が機械的に連結され、リングギアRに第2動力分割機構58が機械的に連結されている。また、リングギアRには、ディファレンシャル14を介して駆動輪16が機械的に連結されている。
【0085】
第2動力分割機構58には、第1動力分割機構54に加えて、第2モータジェネレータ50bおよびフライホイール30が機械的に連結されている。詳しくは、第2動力分割機構58は、1つの遊星歯車機構からなり、そのサンギアSにクラッチ60および増速機構40を介してフライホイール30が機械的に連結され、キャリアCに第1動力分割機構54が機械的に連結され、リングギアRに第2モータジェネレータ50bが機械的に連結されている。図8(b)に、第1動力分割機構54や第2動力分割機構58等の断面構成を示す。
【0086】
上記第1モータジェネレータ50aおよび第2モータジェネレータ50bは、それぞれインバータ52a,52bを介して高電圧バッテリ70に電気的に接続されている。ここで、高電圧バッテリ70は、その端子電圧が、補機バッテリ36の電圧(例えば数V〜十数V)よりも高電圧(例えば数百V)であるものである。そして、制御装置34では、インバータ52a,52bを操作することで、第1モータジェネレータ50aおよび第2モータジェネレータ50bの制御量を制御する。ちなみに、第1モータジェネレータ50a、第2モータジェネレータ50b、インバータ52a,52b、および高電圧バッテリ70は、車載低電圧システムから絶縁された車載高電圧システムを構成している。このため、制御装置34は、フォトカプラ等の絶縁手段を介してインバータ52a,52bを操作する。
【0087】
ここで、第2動力分割機構58、フライホイール30および第2モータジェネレータ50bは、回転エネルギを電気エネルギに変換することなく蓄えることを可能とするための機械的回生システムMRSである。このシステムを、第2モータジェネレータ50bに置き換えることで、従来のパラレルシリーズハイブリッド車となる。
【0088】
図9に、制御装置34によって実現される第1動力分割機構54および第2動力分割機構58のそれぞれの3つの回転体(サンギアS、キャリアCおよびリングギアR)の回転速度の共線図を示す。なお、矢印は、トルクの向きを示すものである。トルクの向きは、回転速度と同様、図中上側を正としており、これにより、動力分割機構24にエネルギが入力される場合の回転エネルギを正と定義している。
【0089】
車両停止時
この場合、第1動力分割機構54の回転体は停止している。一方、フライホイール30に回転エネルギが蓄えられ、その回転速度がゼロでないため、第2モータジェネレータ50bは非駆動状態であるにもかかわらずその回転速度もゼロではない。これは、第2動力分割機構58のサンギアS,キャリアCおよびリングギアRの回転速度が共線図において一直線上に並ぶこと、および駆動輪16に機械的に連結される回転体(キャリアC)の回転速度がゼロとされることのためである。
【0090】
発進・軽負荷走行時(EV走行)
この場合、第1モータジェネレータ50aおよびエンジン10は非駆動状態とされ、第1動力分割機構54は回転エネルギの伝達に寄与しない。ここでは、第2モータジェネレータ50bが電動機となり、その回転エネルギとフライホイール30の回転エネルギとによって、駆動輪16に回転エネルギが付与される。
【0091】
定常走行時
ここでは、エンジン10を駆動し、第1モータジェネレータ50aを発電機、第2モータジェネレータ50bを電動機として機能させる。ここで、第2モータジェネレータ50bのトルクによって、フライホイール30から駆動輪16へと供給される単位時間当たりの回転エネルギ量を制御することができる。なお、第1モータジェネレータ50aの回転速度を共線図において負の領域とすることで、第1モータジェネレータ50aを電動機とすることもできる。
【0092】
加速時
ここでも、エンジン10を駆動し、第1モータジェネレータ50aを発電機、第2モータジェネレータ50bを電動機として機能させる。ここでは、駆動輪16は、主にエンジン10によって駆動されることとなるが、状況に応じて第2モータジェネレータ50bやフライホイール30によってアシストされる。なお、第2モータジェネレータ50bの出力が大きくなるほど、高電圧バッテリ70の電力消費を補うべく、第1モータジェネレータ50aの発電量を増量することが望ましい。
【0093】
回生時
ここでは、第1モータジェネレータ50aおよびエンジン10は非駆動状態とされ、第1動力分割機構54は回転エネルギの伝達に寄与しない。ここでは、第2モータジェネレータ50bと、フライホイール30とが、回生エネルギを回収する。
【0094】
このように、本実施形態では、回生エネルギを第2モータジェネレータ50bによって電気エネルギに変換するのに加えて、フライホイール30によって回転エネルギのまま蓄積する。このため、その後の発進時等において、フライホイール30の回転エネルギを駆動力として利用することで、回生エネルギの利用効率を向上させることができる。
【0095】
これは、第2モータジェネレータ50bを機械的回生システムMRSに置き換えたために実現したものである。ただし、機械的回生システムMRS内で動力循環が生じる場合には、エネルギのロスが増大し、エネルギ利用効率が低下する懸念が生じる。そこで本実施形態では、図10〜図13に示す処理を行なう。
【0096】
図10は、回生時の処理である。すなわち、回生制御が継続される場合、図10(a)に示す状態から図10(b)に示す状態に移行する。回生制御が継続されると、フライホイール30の回転速度が上昇する一方、第2モータジェネレータ50bの回転速度が低下していくと考えられる。ここで、第2モータジェネレータ50bの回転速度の符号が変化すると、第2モータジェネレータ50bは、力行制御となる。このため、第2モータジェネレータ50bの出力する回転エネルギがフライホイール30に蓄えられる動力循環が生じる。
【0097】
こうした事態を回避すべく、図10(b)に示すように、フライホイール30の回転速度を正として、第2モータジェネレータ50bの回転速度が規定速度NL以下となることで、第2モータジェネレータ50bを非駆動状態とし、第1モータジェネレータ50aを回生制御する。ここで、第2モータジェネレータ50bを非駆動状態とすることで、第2動力分割機構58は動力伝達に寄与しなくなる。なお、この際、ロック機構56によって第1動力分割機構54のキャリアCがロックされるが、これは、エンジン10を非稼動状態としつつも、第1動力分割機構54を介した動力伝達を可能とするための設定である。
【0098】
図11に、本実施形態にかかる回生制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置34によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0099】
この一連の処理では、まずステップS10において、回生モードであるか否かを判断する。そして回生モードであると判断される場合、ステップS12において、第2モータジェネレータ50bの回転速度Nm2を検出する。続くステップS14では、回転速度Nm2が規定速度NL以下であるか否かを判断する。この処理は、機械的回生システムMRS内で動力循環が生じ、これを用いたのではエネルギの利用効率が低下するか否かを判断するものである。なお、上記規定速度NLは、ゼロ又は負の値に設定される。
【0100】
そして規定速度NL以下でない場合には、ステップS16に移行し、第1モータジェネレータ50aを駆動状態とし、フライホイール30等によって回生エネルギを回収する。
【0101】
これに対し、ステップS14において規定速度NL以下であると判断される場合には、ステップS18において、エンジン10の回転速度Neを検出する。続くステップS20では、回転速度Neがゼロであるか否かを判断する。そして、回転速度Neがゼロとなることで、ステップS22に移行し、ロック機構56をロックさせ第1モータジェネレータ50bを回生制御させる。
【0102】
なお、ステップS10,S20において否定判断される場合や、ステップS16,S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0103】
図12は、エンジン10を用いずに車両を走行させるEV走行時を示す。ここで、第2モータジェネレータ50bおよびフライホイール30の回転エネルギを利用して車両を走行させると、これらの回転速度は図12(a)に示す状態から図12(b)に示す状態へと推移する。車両を走行させることで、第2モータジェネレータ50bやフライホイール30の回転速度が低下していく。ここで、第2モータジェネレータ50bの回転速度の符号が反転すると、第2モータジェネレータ50bが回生制御となり、フライホイール30の回転エネルギが第2モータジェネレータ50bに供給される動力循環が生じる。
【0104】
そこで、図12(b)に示すように、力行時の回転速度を正として、第2モータジェネレータ50bの回転速度が規定速度Nmth以下となる場合、第2モータジェネレータ50bを非駆動状態とする。さらに、第1モータジェネレータ50aを力行制御することで、車両を駆動させる。
【0105】
図13に、上記処理の手順を示す。この処理は、制御装置34によって例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0106】
この一連の処理では、まずステップS30において、EV走行時であるか否かを判断する。そして、EV走行時であると判断される場合、ステップS32において、フライホイール30の回転速度Nfを検出する。続くステップS34では、回転速度Nfが規定速度Nfth以上であるか否かを判断する。この処理は、フライホイール30の回転エネルギを車両の駆動エネルギとして利用することが可能か否かを判断するためのものである。そして規定速度Nfth以上であると判断される場合、フライホイール30の回転エネルギを車両の駆動エネルギとして利用可能と判断し、ステップS36に移行する。ステップS36においては、第2モータジェネレータ50bの回転速度Nm2を検出する。続くステップS38においては、回転速度Nm2が規定速度Nmth以下であるか否かを判断する。この処理は、第2モータジェネレータ50bを駆動することでエネルギの利用効率が低下するか否かを判断するものである。そして、規定速度Nmth以下でないと判断される場合、ステップS40において、第2モータジェネレータ50bを駆動し、フライホイール30の回転エネルギを車両の駆動エネルギとして利用する。
【0107】
これに対し、ステップS38において規定速度Nmth以下であると判断される場合、ステップS42においてエンジン10の回転速度Neを検出する。続くステップS44では、回転速度Neがゼロであるか否かを判断する。そして、ゼロであると判断される場合、ステップS46に移行し、ロック機構56をロックさせる。次にステップS48に移行し、第1モータジェネレータ50aによる力行制御を行なう。
【0108】
なお、ステップS30、S44において否定判断される場合や、ステップS40,S48の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0109】
なお、本実施形態にかかる制御は、先の図9に示したもの等に限らず、例えば図14に示すものもある。
【0110】
図14(a)は、車両停止時間が長い場合の処理である。この場合、フライホイール30の回転エネルギが徐徐に減衰することを回避すべく、第2モータジェネレータ50bを回生制御する。なお、第2動力分割機構58のキャリアCは、駆動輪16がブレーキによって固定されるため固定されている。
【0111】
図14(b)は、車両の停止時において、補機バッテリ36や高電圧バッテリ70の残存容量(SOC)が少ない場合の制御である。この場合、エンジン10を駆動状態とし、その回転エネルギを第1モータジェネレータ50aの回生制御によって回収する。なお、こうして回収されるエネルギは高電圧バッテリ70を充電するものであるが、補機バッテリ36の残存容量が少ない場合には、図示しない降圧コンバータを用いて高電圧バッテリ70の電力を補機バッテリ36に供給すればよい。
【0112】
図14(c)は、フライホイール30の回転エネルギが不十分である場合にエンジン10を始動する制御である。この場合、第1モータジェネレータ50aを力行制御することで、エンジン10のクランク軸10aに初期回転を付与する。
【0113】
図14(d)は、車両の後退時の制御である。ここでは、エンジン10を停止しロック機構56によって第1動力分割機構54のキャリアCをロックした状態で第1モータジェネレータ50aを力行制御する。これにより、第1動力分割機構54のリングギアRの回転速度を駆動輪16の後退側の速度とすることができる。
【0114】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0115】
(14)第1モータジェネレータ50aおよび第2モータジェネレータ50bとエンジン10との動力を1つの遊星歯車機構によって分割するパラレルシリーズハイブリッド車における第2モータジェネレータ50bを機械的回生システムMRSに置換した。これにより、回生エネルギを力学的エネルギのまま蓄えることができることから、回生エネルギの利用効率を向上させることができる。
【0116】
(15)エンジン10に機械的に連結される回転体(キャリアC)を固定するロック機構56を備えた。これにより、エンジン10を非稼動状態とした場合であっても、第1動力分割機構54を介した動力伝達が可能となる。
【0117】
(16)フライホイール30と第2モータジェネレータ50bとの間で動力循環が生じる場合、第2モータジェネレータ50bを停止させ、ロック機構56によって第1動力分割機構54のキャリアCをロックした状態で第1モータジェネレータ50aによって回生制御を行った。これにより、エネルギ利用効率の低下を抑制することができる。
【0118】
(17)EV走行時、フライホイール30の回転速度に基づき、第2モータジェネレータ50bを駆動するか否かを決定した。これにより、フライホイール30の回転エネルギを好適に利用することができる。
【0119】
(18)EV走行時、フライホイール30と第2モータジェネレータ50bとの間で動力循環が生じる場合、第2モータジェネレータ50bを停止させ、ロック機構56によって第1動力分割機構54のキャリアCをロックした状態で第1モータジェネレータ50aによって力行制御を行った。これにより、エネルギ利用効率の低下を抑制することができる。
【0120】
(19)フライホイール30に機械的に連結される回転体(サンギアS)とフライホイール30との機械的な連結を解除するクラッチ60を備えた。これにより、第2動力分割機構58とフライホイール30との間の動力の伝達を遮断することができる。
【0121】
(20)フライホイール30に機械的に連結される回転体(サンギアS)とフライホイール30との間に、増速機構40を介在させた。これにより、同一のエネルギをフライホイール30に蓄える場合に増速機構40を備えない場合と比較してフライホイール30を小型化することができる。
【0122】
(第1〜第6の実施形態特有の変形例)
<動力分割機構24とフライホイール30との機械的な連結態様について>
上記各実施形態では、フライホイール30、エンジン10、およびオルタネータ32のそれぞれに動力分割機構24を構成する遊星歯車機構のサンギアS、キャリアCおよびリングギアRを機械的に連結したがこれに限らない。例えば、オルタネータ32、エンジン10、およびフライホイール30のそれぞれに動力分割機構24を構成する遊星歯車機構のサンギアS、キャリアCおよびリングギアRを機械的に連結してもよい。
<動力分割機構24の構成について>
動力分割機構24としては、1つの遊星歯車機構によって構成されるものに限らない。例えば、先の図8に示した第1動力分割機構54と第2動力分割機構58とを備えて構成してもよい。この場合であっても、第1動力分割機構54と第2動力分割機構58との間にクラッチを備えるなら、上記第1の実施形態の上記(1)の効果等を得ることができる。また例えば、一対の遊星歯車機構のうちの一方のサンギア、キャリアおよびリングギアのいずれか2つと他方のサンギア、キャリアおよびリングギアのいずれか2つとが機械的に連結されるものであってもよい。この場合、共線図上において互いに相違する回転速度となりうる回転体が4つあることになるが、そのうちの3つに、フライホイール30、エンジン10、およびオルタネータ32をそれぞれ機械的に連結すればよい。なお、この際、上記4つの回転体のうちの3つの回転体のみを用いるものに限らず、例えば4つの回転体のうちの2つの回転体のそれぞれに各別の発電機を機械的に連結するようにしたり、各別のフライホイールを機械的に連結するようにしてもよい。この場合において、例えば、特定の遊星歯車機構の回転体にフライホイールおよび2つのオルタネータを機械的に連結することで、ロック機構22を備えなくても上記特定の動力分割機構を介してフライホイール30およびオルタネータ間で動力を伝達させることが可能となる。また例えば、4つの回転体のうちの特定の遊星歯車機構の3つの回転体に各別の発電機およびエンジン10を割り振る場合には、ロック機構26を備えなくても、動力分割機構を介してエンジン10とオルタネータとの間で動力を伝達させることができる。
【0123】
動力分割機構24としては、遊星歯車機構を備えて構成されるものに限らず、例えばデフギアを備えて構成されるものであってもよい。
<動力分割機構24を動力源とする補機について>
動力分割機構24を動力源とする補機としては、車載空調装置の備えるコンプレッサ44および真空ポンプ45に限らない。例えば、これらのうちの一方であってもよい。また例えば、エンジン10の冷却水を循環させるウォーターポンプであってもよい。さらに例えば、変速装置12の潤滑油を循環させるためのオイルポンプであってもよい。
<動力分割機構24による動力分割の対象となる回転電機について>
この種の回転電機としては、オルタネータ32やスタータ18に限らない。モータジェネレータであってもよい。この場合、エンジン始動時や、EV走行時、加速時、回生時等において、モータジェネレータを力行制御してもよい。このモータジェネレータとしては、補機バッテリ36から絶縁された車載高電圧バッテリの電圧が印加されるものであることが望ましい。
<そのほか>
・上記第1〜4,6の実施形態において、エンジン10および動力分割機構24間に変速装置12を備えるようにしてもよい。
【0124】
・上記第1の実施形態に対する第2の実施形態の変更点によって、第3〜6の実施形態を変更してもよい。
【0125】
・上記第1の実施形態に対する第3の実施形態の変更点によって、第4〜6の実施形態を変更してもよい。
【0126】
・上記第1の実施形態に対する第4の実施形態の変更点によって、第5,6の実施形態を変更してもよい。
【0127】
・上記第1の実施形態に対する第5の実施形態の変更点によって、第6の実施形態を変更してもよい。
【0128】
・クラッチ28を備えなくても上記第1の実施形態の上記(1)の効果等を得ることはできる。
【0129】
・先の図2(a)の(i)では、車両停止時においてフライホイール30に回転エネル
ギが蓄積されている場合には、オルタネータ32によって電気エネルギに変換することとしたが、これに限らない。例えば車両の次回の発進処理までの時間が短いと予測される場合には、オルタネータ32によって電気エネルギに変換しないようにしてもよい。これにより、回転エネルギを電気エネルギに変換する際等に生じるエネルギロスを回避して、フライホイール30の回転エネルギを駆動輪16の駆動力として利用することができる。ちなみに車両停止時であってもオルタネータ32による発電制御を行なわないのに適した状況としては、アイドルストップ制御を行なう機能を有する車両において、エンジン10の自動停止処理がなされる状況がある。
【0130】
(第7の実施形態特有の変形例)
<第2動力分割機構58とフライホイール30等の連結態様について>
例えばサンギアSに第2モータジェネレータ50bを機械的に連結して且つ、リングギアRにフライホイール30を機械的に連結してもよい。
<第1動力分割機構54と第1モータジェネレータ50a等の連結態様について>
例えばサンギアSに第2動力分割機構58を機械的に連結して且つ、リングギアRに第1モータジェネレータ50aを機械的に連結してもよい。
<第1動力分割機構54および第2動力分割機構58について>
動力分割機構としては、遊星歯車機構を備えて構成されるものに限らず、例えばデフギアを備えて構成されるものであってもよい。
<そのほか>
・クラッチ60と第2動力分割機構58との間にロック機構を備えるようにしてもよい。これにより、フライホイール30の回転を禁止する状況下、第2動力分割機構58を介した動力の伝達が可能となる。
【0131】
・クラッチ60を備えなくてもよい。
【0132】
・増速機構40を備えなくてもよい。
【0133】
・第1動力分割機構54および第2動力分割機構58間にクラッチを設けてもよい。
【0134】
・先の図10(a)に示した回生制御の初期においても、第1動力分割機構54のキャリアCをロック機構56によってロックしてもよい。これにより、エンジン10が第1動力分割機構54のキャリアCによってつれまわされることを回避することができる。
【0135】
・先の図12(a)に示すEV走行初期においても、第1動力分割機構54のキャリアCをロック機構56によってロックしてもよい。これにより、エンジン10が第1動力分割機構54のキャリアCによってつれまわされることを回避することができる。
【0136】
(第1〜第7の実施形態に共通の変形例)
<増速手段について>
1つの遊星歯車機構によって構成される増速手段としては、リングギアRが固定されるものに限らず、例えばキャリアが固定されるものであってもよい。この場合、フライホイールをサンギアに機械的に連結することが望ましい。
【0137】
また、増速手段としては、1つの遊星歯車機構にて構成されるものに限らず、例えば1つのデフギアにて構成されるもの等であってもよい。
<遊星歯車機構について>
遊星歯車機構としては、リングギアRおよびサンギアSの回転速度がゼロで無いとの条件下、キャリアCの回転速度がゼロとなるための必要条件が、リングギアRの回転速度およびサンギアSの回転速度の符号が互いに相違するとの条件となるものに限らない。例えば、リングギアRの回転速度およびサンギアSの回転速度の符号が互いに同一であるとの条件となるものであってもよい。この遊星歯車機構は、いわゆるダブル遊星ギアタイプの遊星歯車機構(例えば特開2001−108073号公報参照)によって実現できる。
【符号の説明】
【0138】
10…エンジン、16…駆動輪、24…動力分割機構、30…フライホイール、32…オルタネータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転電機、駆動輪、および内燃機関の動力を分割して且つ、前記第1の回転電機に機械的に連結される回転体、前記駆動輪に機械的に連結される回転体および前記内燃機関に機械的に連結される回転体を各別に備える第1動力分割機構と、
回転エネルギを力学的エネルギとして蓄えるフライホイール、第2の回転電機、および前記第1動力分割機構の動力を分割して且つ、前記フライホイールに機械的に連結される回転体、前記第2の回転電機に機械的に連結される回転体および前記第1動力分割機構の備える回転体に機械的に連結される回転体を各別に備える第2動力分割機構とを備えることを特徴とする車載動力伝達システム。
【請求項2】
前記第1動力分割機構の前記3つの回転体のトルクは、互いに比例関係を有し、
前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限する制限手段を更に備えることを特徴とする請求項記載の車載動力伝達システム。
【請求項3】
車両の減速回生時において、前記フライホイールと前記第2の回転電機との間で動力循環が生じる場合、前記制限手段により前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限した状態で前記第1の回転電機による発電制御を行なうことを特徴とする請求項記載の車載動力伝達システム。
【請求項4】
前記内燃機関の動力を用いることなく車両を走行させる状況下、前記フライホイールの回転速度に基づき、前記第2の回転電機を駆動するか否かを決定する決定手段を備えることを特徴とする請求項2または3記載の車載動力伝達システム。
【請求項5】
前記決定手段は、前記第2の回転電機と前記フライホイールとの間で動力循環が生じると判断される場合、前記第2の回転電機を駆動しないことを決定することを特徴とする請求項記載の車載動力伝達システム。
【請求項6】
前記第1動力分割機構の前記3つの回転体のトルクは、互いに比例関係を有し、
前記決定手段により前記第2の回転電機を駆動しないことが決定される場合、前記制限手段により前記内燃機関に機械的に連結される回転体の回転を制限しつつ前記第1の回転電機による力行制御を行なうことを特徴とする請求項4または5記載の車載動力伝達システム。
【請求項7】
前記フライホイールに機械的に連結される回転体と前記フライホイールとの機械的な連結を解除するクラッチを更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車載動力伝達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−46179(P2012−46179A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213732(P2011−213732)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【分割の表示】特願2009−254231(P2009−254231)の分割
【原出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】