説明

車載緊急通報装置および補助バッテリ装置

【課題】補助バッテリの不活性膜を除去することができ、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保する。
【解決手段】補助バッテリ装置3の制御部21は、温度センサ24を用いて補助バッテリ19の温度またはその周囲温度を検出し、演算周期ごとに、検出温度と当該演算周期と不活性膜の成長特性とから定まる不活性膜の成長量を積算する。この積算値が規定値を超えたときにリフレッシュフラグをセットする。制御部21は、セルフチェック要求時にリフレッシュフラグがセットされていると、放電指令信号を出力する。放電回路20は、放電指令信号によりスイッチ20aをオン駆動し、不活性膜を除去するのに十分な大きさの電流を補助バッテリ19に流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主バッテリと補助バッテリの何れかから供給される電力を動作電力として緊急通報動作を行う車載緊急通報装置および主バッテリに代わり車載装置に動作電力を供給する補助バッテリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載緊急通報装置は、交通事故が発生するなどして緊急通報が必要となったときに、サービスセンターに対し緊急通報信号を送信する。エアバッグが展開するような事故が発生すると、主バッテリが損傷して使用できなくなる虞があるので、車両にはバックアップ電源として補助バッテリ装置が搭載されている。車載緊急通報装置は、緊急通報が必要となったときに補助バッテリ装置に出力指令を与え、主バッテリの電圧と補助バッテリの電圧のうち何れか高い電圧を持つバッテリから電源の供給を受けて緊急通報動作を行うことができる。
【0003】
一般に、一次電池(例えばリチウム電池)および二次電池は、十分な大きさの電流を流さない状態に置かれると、内部電極の表面に徐々に不活性膜が形成されて内部抵抗が増大し、放電電圧が低下する。この不活性膜を除去するには、種類に応じて数ms〜数sの期間、十分な大きさのリフレッシュ電流(例えば1A程度)を流す必要がある。上記バックアップ電源である補助バッテリ装置は、残容量、異常の有無等を把握するため、例えばイグニッションスイッチがオンされる度に自己診断処理を行っている。しかし、この自己診断処理の際に流れる電流は微小であるため、上記不活性膜を除去するには不十分である。そこで、従来は、自己診断処理を実行する度に、或いは予め決められた時間が経過する度に定期的にリフレッシュ動作を実行していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−293799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極の不活性膜を除去するため、イグニッションスイッチがオンされる度に或いは定期的にリフレッシュ放電を実行すると、補助バッテリの残容量の低下が速まってしまう。その結果、緊急通報が必要となったときに緊急通報信号を送信するのに十分なバッテリ容量を長期間に亘り(例えば10年以上)確保することができなくなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、補助バッテリの不活性膜を除去することができ、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保することができる車載緊急通報装置および補助バッテリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した車載緊急通報装置は、緊急通報の開始トリガが発生したときに主バッテリと補助バッテリの何れかから供給される電力を動作電力として緊急通報動作を行う。バッテリに生じる不活性膜は、バッテリの保存条件(保存温度と保存時間)によって成長度合いが変化する。一般的には、温度が高くなるほど不活性膜の成長が速まり、時間が経過するほど不活性膜の成長量が増える傾向がある。
【0008】
そこで、温度検出手段を用いて補助バッテリ自体の温度または補助バッテリの周囲温度を検出する。リフレッシュ放電制御手段は、前回のリフレッシュ放電以降の経過時間と温度検出手段により検出された検出温度とを含む温度履歴情報を収集し、この温度履歴情報に基づいて放電指令信号の出力タイミングを決定する。放電手段は、この放電指令信号に従って、補助バッテリに生じる不活性膜を除くように補助バッテリをリフレッシュ放電する。
【0009】
本手段によれば、前回のリフレッシュ放電からの温度と時間の履歴(温度履歴情報)を種々の態様で収集する。例えば、温度と時間の入力情報、温度と時間との対応関係の記憶情報、温度の積分演算情報など種々の温度履歴情報を利用できる。そして、不活性膜が所定量以上成長したと判断される場合、不活性膜により補助バッテリの内部抵抗が所定値以上に増加したと判断される場合、不活性膜により補助バッテリの放電電圧が所定値以下に低下すると判断される場合など、補助バッテリを用いた緊急通報動作の実行に支障が生じる前に放電指令信号を出力するようにタイミングを決定する。これにより、補助バッテリに生じる不活性膜を除去することができるとともに、リフレッシュ放電の回数を極力減らして補助バッテリの消費を必要最小限に抑えることができるので、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保することができる。
【0010】
請求項2に記載した手段によれば、リフレッシュ放電制御手段は、温度履歴情報と補助バッテリの不活性膜の成長特性とに基づいて、不活性膜の成長に応じた補助バッテリの電圧低下を把握できる。そして、補助バッテリの不活性膜が成長して補助バッテリの放電電圧が緊急通報動作の実行に必要な下限電圧以下に低下する前に放電指令信号を出力する。これにより、補助バッテリの放電電圧が下限電圧以下に低下しない限りにおいて、リフレッシュ放電の実行間隔を広げることができる。その結果、補助バッテリの電圧不足を確実に防止しつつ、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保することができる。
【0011】
請求項3に記載した手段によれば、リフレッシュ放電制御手段は、所定の演算周期ごとに、当該演算周期と検出温度と補助バッテリの不活性膜の成長特性とから定まる不活性膜の成長量を積算し、その積算値に基づいて放電指令信号の出力タイミングを決定する。ここでの成長量は、不活性膜の質量、面積、厚さなどの直接的な物理量のみならず、補助バッテリの放電電圧低下の原因となる不活性膜の成長に係る種々のパラメータも含む。これにより、不活性膜の成長量の積分値が所定量を超えるまでリフレッシュ放電の実行を延期することが可能になり、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保することができる。
【0012】
請求項4に記載した手段によれば、リフレッシュ放電制御手段は、補助バッテリの不活性膜の成長特性に基づいて、検出温度が低いほど補助バッテリのリフレッシュ放電の間隔が長くなるように放電指令信号の出力タイミングを決定する。一般には温度が低いほど不活性膜の成長が遅くなる傾向があるので、検出温度が低いほど補助バッテリのリフレッシュ放電の間隔を長くすることができる。これにより、不必要なリフレッシュ放電の実行を抑止して、補助バッテリの残容量を長期間に亘り確保することができる。
【0013】
請求項5に記載した手段によれば、リフレッシュ放電制御手段は、補助バッテリの不活性膜が成長する温度帯と殆ど成長しない温度帯との境界域にしきい値温度を設定し、検出温度が当該しきい値温度以上である期間に温度履歴情報を収集する。これによれば、温度履歴情報を収集する処理負担が軽減される。
【0014】
請求項6に記載した手段によれば、リフレッシュ放電制御手段は、緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いか否かの判断情報に基づいて、当該確率が高いと判断された場合に放電指令信号を出力する。緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いと判断されるのは、降雨時または降雨が予想される場合、道路の凍結時または凍結が予想される場合、走行速度が速い場合、通り慣れていない道路を走行する場合、危険情報を受信した場合などである。これらの場合にはリフレッシュ放電が実行されて補助バッテリの不活性膜が除かれるので、緊急通報をより確実に行うことができる。
【0015】
請求項7に記載した補助バッテリ装置は、主バッテリに代わり車載装置に動作電力を供給するもので、請求項1に記載した構成と同様の構成を持つ補助バッテリ、温度検出手段、放電手段およびリフレッシュ放電制御手段を備えている。また、請求項8ないし11に記載した手段は、それぞれ請求項2ないし5に記載した手段と同様の構成を備えている。これらの手段によれば、請求項1ないし5記載の手段と同様の作用、効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す車載緊急通報システムの構成図
【図2】電源制御部の電気的構成図
【図3】補助バッテリ装置の電気的構成図
【図4】保存時間と不活性膜の成長との関係を示す図
【図5】保存時間と放電電圧との関係を示す図
【図6】温度と不活性膜の成長速度との関係を示す図
【図7】リフレッシュ放電処理のフローチャート
【図8】セルフチェック処理のフローチャート
【図9】(a)本実施形態のリフレッシュ放電と(b)従来構成のリフレッシュ放電について季節の変化による不活性膜の成長を示す図
【図10】(a)本実施形態のリフレッシュ放電と(b)従来構成のリフレッシュ放電について季節の変化による放電電圧を示す図
【図11】本発明の第2の実施形態を示す図7相当図
【図12】本発明の第3の実施形態を示すセルフチェック処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図1ないし図10を参照しながら説明する。図1は、車載緊急通報システムの構成を示している。車載緊急通報装置1(車載装置)は、車両の衝突等により主バッテリ2が損傷した場合に備えてバックアップバッテリである補助バッテリ装置3を有している。車載緊急通報装置1は、事故等により緊急通報の開始トリガが生じると補助バッテリ装置3に対し電圧出力を指令する。そして、主バッテリ2の放電電圧と補助バッテリ装置3の出力電圧のうち高い方から供給される電力を動作電力として、サービスセンターに設置されているセンター装置4に対し緊急通報信号を送信する。
【0018】
車載緊急通報装置1は、補助バッテリ装置3、制御部5、無線通信部6、GPS測位部7、メモリ部8、LAN送受信部9、操作検出部10、表示部11、音声処理部12、電源制御部13および電源回路14を備えて構成されている。制御部5は、CPU、RAM、ROM、EEPROM、各種周辺回路などを含むマイクロコンピュータを主体として構成されており、緊急通報処理をはじめ車載緊急通報装置1が備える各構成要素の動作全般を制御する。後述するように、補助バッテリ装置3のリフレッシュ放電に係る制御は、補助バッテリ装置3が自ら実行する。
【0019】
無線通信部6は、制御部5から緊急通報指令信号を入力すると、緊急通報信号を通信網を介してセンター装置4に送信する。この場合、無線通信部6は、確立した回線によりデータ通信と音声通話を可能とする。データ通信により送信される緊急通報信号には、車載緊急通報装置1を識別するための装置識別情報や車両の位置情報など各種の情報が含まれている。また、乗員や救助者とサービスセンターに常駐するオペレータとの間で音声通話をすることができるので、乗員等は口頭で救援を要請し、事故の状況を知らせることができる。
【0020】
GPS測位部7は、GPS衛星から送信されたGPS信号を受信し、その受信したGPS信号からパラメータを抽出して位置情報を演算する。メモリ部8は、フラッシュメモリやEEPROMなどの不揮発性メモリから構成されており、各種データを記憶している。LAN送受信部9は、ナビゲーションシステム15から車両の現在の位置情報や経路情報などの走行環境情報を受信する。操作検出部10は、乗員等による緊急通報ボタンの操作を検出すると、制御部5に操作検出信号を出力する。表示部11は、制御部5から出力された表示指令信号に応じた表示情報を表示する。音声処理部12は、マイクロホン16へ入力された送話音声やスピーカ17へ出力する受話音声を音声処理する。
【0021】
エアバッグシステム18は、エアバッグが展開されると、制御部5に対しエアバッグ展開信号を出力する。制御部5は、操作検出信号の入力およびエアバッグ展開信号の入力を緊急通報の開始トリガとして緊急通報処理を開始する。制御部5は、上述した装置識別情報、GPS測位部7が取得した位置情報、LAN送受信部9がナビゲーションシステム15から受信した位置情報などを含む緊急通報信号とともに緊急通報指令信号を無線通信部6に対し出力する。
【0022】
電源制御部13は、図2に示すように、カソードが共通に接続されアノードがそれぞれ主バッテリ2の正極端子、補助バッテリ装置3の出力端子に接続されたダイオード13a、13bから構成されている。この構成により、主バッテリ2と補助バッテリ装置3のうち高い方の電圧を電源回路14に対し出力する。電源回路14は、入力したバッテリ電圧を降圧、安定化し、車載緊急通報装置1が備える各構成要素に供給する。
【0023】
補助バッテリ装置3は、車載緊急通報装置1の筺体内または筺体とは別体として設けられている。別体の場合、補助バッテリ装置3は車室内、トランク内、センターコンソール内などに設けられる。図3は、補助バッテリ装置3の電気的構成を示している。補助バッテリ19は、例えば一次電池であるリチウム電池から構成されている。リチウム電池は、十分な大きさの電流を流さない状態に置かれると、内部電極の表面に徐々に不活性膜が形成され、内部抵抗が増大して放電電圧が低下する。
【0024】
放電回路20は、この補助バッテリ19の電極に生じる不活性膜を除くように補助バッテリ19をリフレッシュ放電する放電手段である。放電回路20は、補助バッテリ19の両端子間に直列に接続されたスイッチ20aと抵抗20bから構成されている。スイッチ20aは半導体スイッチまたはリレーからなり、制御部21から出力される放電指令信号に従ってオンオフ動作する。抵抗20bの抵抗値は、スイッチ20aがオンしたときに不活性膜を除去するのに十分な大きさの電流が流れるように定められている。
【0025】
電源回路22は、補助バッテリ19の電圧を入力し、制御部21の電源電圧を生成している。制御部21は、CPU、RAM、ROM、EEPROM、各種周辺回路などを含むマイクロコンピュータを主体として構成されている。制御部21は、制御部5から電圧出力指令信号を受信すると、補助バッテリ19の正極端子と補助バッテリ装置3の出力端子との間に介在するPチャネル型MOSFET23をオン駆動する。
【0026】
補助バッテリ19の近傍にはサーミスタからなる温度センサ24が配置されている。この温度センサ24は、補助バッテリ19自体の温度または補助バッテリ19の周囲温度を検出する温度検出手段である。制御部21は、前回のリフレッシュ放電以降の経過時間と温度センサ24により検出された検出温度とを含む温度履歴情報を収集し、この温度履歴情報に基づいて放電指令信号の出力タイミングを決定するリフレッシュ放電制御手段である。
【0027】
続いて、図4ないし図6を参照しながらバッテリの不活性膜の成長特性とリフレッシュ放電について説明する。図4は、補助バッテリ19の保存温度が一定の場合における保存時間と不活性膜の成長との関係を示している。補助バッテリ19が十分な電流を流さないまま保存されると、内部電極の表面に徐々に不活性膜が成長する。リフレッシュ放電が実行されると、不活性膜は若干の残存分を除いて除去される。図中の破線は、リフレッシュ放電をしない場合の不活性膜の成長特性を示している。
【0028】
図5は、補助バッテリ19の保存温度が一定の場合の保存時間と放電電圧との関係を示している。不活性膜が成長すると、内部抵抗が増加して放電電圧が低下する。リフレッシュ放電が実行されて不活性膜が除去されると、放電電圧は前回のリフレッシュ放電直後の電圧値近くまで復活する。図中の破線は、リフレッシュ放電をしない場合の放電電圧を示している。また、一点鎖線は、補助バッテリ19から動作電力を得た車載緊急通報装置1が緊急通報動作を実行可能となる補助バッテリ19の下限電圧VBminを示している。
【0029】
この不活性膜の成長速度は、補助バッテリ19の保存温度に依存している。図6は、温度と不活性膜の成長速度との関係を示している。しきい値温度Tth[℃]は、高温になるほど急速に不活性膜が成長する温度帯(例えば60℃以上)と不活性膜が殆ど成長しない温度帯(例えば40℃以下)との境界域に設定されている。この図6から、不活性膜の成長特性はバッテリの種類に応じた温度と時間との関数になることが分かる。従って、この成長特性を参照すれば、補助バッテリ19の保存温度と保存時間に関する温度履歴情報を用いて、不活性膜の成長度合い、補助バッテリ19の内部抵抗、補助バッテリ19の放電電圧などを推定することが可能となる。
【0030】
次に、図7ないし図10を参照しながら本実施形態の作用について説明する。制御部5は、緊急通報の開始トリガが発生すると、補助バッテリ装置3に対し電圧出力指令信号を出力するとともに緊急通報動作を開始する。補助バッテリ装置3の制御部21は、電圧出力指令信号を受信すると直ちにMOSFET23をオン駆動し、出力端子から補助バッテリ19の放電電圧を出力する。また、制御部5は、車両のイグニッションスイッチがオンされるごとに、補助バッテリ装置3に対しセルフチェック信号を出力する。セルフチェックの処理内容は後述する。
【0031】
補助バッテリ装置3の制御部21は、制御部5からの指令ではなく、自ら有するリフレッシュ放電処理プログラムに従って補助バッテリ19のリフレッシュ放電を実行する。図7は、制御部21が実行するリフレッシュ放電処理のフローチャートである。この処理は無限ループを構成しており、補助バッテリ装置3を製造した後の検査工程で最終的にシステムリセット処理が行われた後は繰り返して実行される。
【0032】
制御部21は、はじめにタイマ値を入力する(ステップS1)。ここで用いるタイマは、タイマ値がリセットされた時点からの経過時間を計時している。タイマ値が所定の演算周期(例えば1時間、1日、1週間などの決められた周期)以上となったか否かを判断し(ステップS2)、演算周期未満の場合にはNOと判断してステップS1に戻る。演算周期以上の場合には、温度センサ24から温度検出信号を入力し、補助バッテリ19の温度またはそれに近似する温度を検出する(ステップS3)。
【0033】
制御部21は、演算周期(前回のリフレッシュ放電以降の経過時間に相当)と検出温度からなる温度履歴情報と、予めROMに記憶されている補助バッテリ19の不活性膜の成長特性データとに基づいて、直近の1演算周期における不活性膜の成長量を求め、それをEEPROMに記憶されているこれまでの成長量に加算して積算値を求める(ステップS4)。ここでの成長量とは、不活性膜の質量、面積、厚さなどの直接的な物理量に限られず、補助バッテリ19の電圧低下の原因となる不活性膜の成長に係る種々のパラメータであってもよい。また、不活性膜の成長特性データとしては、例えば保存温度と保存時間に対応させて成長量を数値で示したテーブル等が用いられる。その後、タイマ値をリセットする(ステップS5)。
【0034】
制御部21は、求めた成長量の積算値に基づいてリフレッシュ放電が必要か否かを判断する(ステップS6)。具体的には、積算値が規定値を超えた場合にリフレッシュ放電が必要と判断する。この規定値は、補助バッテリ9の放電電圧が下限電圧VBminとなるときの積算値に適当な余裕値を加えた値に設定されている。ここでリフレッシュ放電が必要(YES)と判断すると、リフレッシュフラグを1にセットし(ステップS7)、EEPROMに記憶された積算値をクリアする(ステップS8)。一方、リフレッシュ放電が必要でない(ステップS6;NO)と判断すると、積算値を保持したままステップS1に戻る。
【0035】
実際にリフレッシュ放電が実行されるのは割り込みによるセルフチェック処理内である。図8は、セルフチェック処理のフローチャートである。制御部21は、はじめにリフレッシュフラグが1にセットされているか否かを判断し(ステップI1)、セットされている場合には放電指令信号を出力する(ステップI2)。これにより放電回路20のスイッチ20aがオンするので、補助バッテリ19に不活性膜を除去するのに十分な大きさの電流が流れる。電流を流す時間は、例えば0.1秒〜0.2秒程度である。リフレッシュ放電の終了後、リフレッシュフラグを0にリセットする(ステップI3)。
【0036】
ステップI1でリフレッシュフラグが1にセットされていない場合には、ステップI2、I3の処理をスキップする。その後、制御部21は、補助バッテリ19の放電電圧、残容量などの種々の状態についてセルフチェックを実行し(ステップI4)、チェック結果を制御部5に送信して(ステップI5)処理を終える。
【0037】
この不活性膜の成長度合いに基づくリフレッシュ放電によれば、従来の定期的なリフレッシュ放電とは異なり、補助バッテリ19の温度に応じてリフレッシュ放電の実行周期が変化する。補助バッテリ19の温度は、主として季節の温度変化によって変わるが、補助バッテリ装置3の車両内の設置位置、車両の使用地域、車庫の設置環境などによっても変わる。図9および図10は、単純化して補助バッテリ19の温度が季節の温度変化によってのみ変化すると仮定したときの、補助バッテリ19の不活性膜の成長および放電電圧の時間変化を示している。紙面の都合上、季節ごとに1〜3回程度のリフレッシュ放電の様子のみを表している。両図とも(a)は本実施形態による場合であり、(b)は従来構成による場合である。
【0038】
本実施形態の場合、補助バッテリ19の温度が高くなる夏には不活性膜の成長速度が速まるので(図6参照)、リフレッシュ放電の実行周期が短くなる。一方、補助バッテリ19の温度が低くなる冬には不活性膜の成長速度が遅くなるので、リフレッシュ放電の実行周期が長くなる。
【0039】
その結果、図9(a)に示すように年間を通じてリフレッシュ放電直前の不活性膜の成長量の差が小さくなり、図10(a)に示すようにリフレッシュ放電直前の放電電圧が下限電圧VBminに対しほぼ一定の余裕値を持った値となる。従って、不活性膜の成長量が少なく放電電圧が下限電圧VBminに対し過大な余裕を持っている状態でのリフレッシュ放電を抑止できる。なお、夏よりも冬の方がリフレッシュ放電直前の不活性膜の成長量が少ないにもかかわらず、リフレッシュ放電直前の放電電圧が季節によらずほぼ一定になるのは、バッテリは温度が低いほど放電電圧が低下する傾向を持つからである。
【0040】
これに対し、従来構成では不活性膜の成長にかかわらず一定周期でリフレッシュ放電を実行する。従って、気温の低い季節では、図9(b)に示すように不活性膜の成長量が少なく、図10(b)に示すように放電電圧が下限電圧VBminに対し十分に高いにもかかわらず、無駄なリフレッシュ放電が実行されていることが分かる。
【0041】
以上説明した本実施形態によれば、車載緊急通報装置1が備える補助バッテリ装置3は、温度センサ24を用いて補助バッテリ19の温度またはその周囲温度を検出し、演算周期ごとに、検出温度と当該演算周期と不活性膜の成長特性とから定まる不活性膜の成長量を積算する。そして、この積算値が規定値を超えたときにリフレッシュ放電を許可するように放電タイミングを決定する。
【0042】
これにより、補助バッテリ19の放電電圧が下限電圧VBmin以下に低下する前に、補助バッテリ19の内部電極に生じる不活性膜を除去することができ、放電電圧を下限電圧VBminよりも高く維持することができる。不活性膜の成長を考慮してリフレッシュ放電の周期を変化させることにより、不活性膜の成長量が少ない時点、すなわち放電電圧が下限電圧VBminよりも十分に高い時点での無駄なリフレッシュ放電を抑止できる。その結果、リフレッシュ放電の回数を極力減らして補助バッテリ19の消費電力を必要最小限に抑えることができ、補助バッテリ19の残容量を長期間に亘り確保することができる。例えば、従来構成では5年程度で交換が必要であった補助バッテリ19の寿命を10年程度にまで延命できる。
【0043】
一般に、バッテリの不活性膜は温度が高くなるほど成長速度が速まるので、補助バッテリ装置3は、気温が高い夏よりも気温が低い冬の方がリフレッシュ放電の間隔が長くなるように制御する。また、不活性膜の成長特性に加えて、温度が低いほど放電電圧が低下するバッテリの放電電圧特性に基づいて、検出温度が低いほど比較判断に用いる規定値を小さく設定するとよい。
【0044】
補助バッテリ装置3は、積算値が規定値を超えた場合にリフレッシュ放電を許可するリフレッシュフラグをセットし、その後イグニッションスイッチがオンされたときにリフレッシュ放電を実行する。緊急通報が必要となる事故は、イグニッションスイッチのオンによりエンジンやモータが動作している期間に生じる可能性が高いからである。これにより、車両が使われていない期間におけるリフレッシュ放電を抑止し、補助バッテリ19の残容量をより長く確保することができる。ただし、イグニッションスイッチがオフされている期間でも、補助バッテリ19の放電電圧が下限電圧VBmin以下に低下する虞があるときは、その前にリフレッシュ放電を実行する。
【0045】
(第2の実施形態)
図11は、制御部21が実行するリフレッシュ放電処理のフローチャートである。この第2の実施形態は、上述した第1の実施形態に対し、図7に示すステップS7をステップS9に置き換えた点が異なっている。すなわち、制御部21がステップS6でリフレッシュ放電が必要と判断すると、イグニッションスイッチのオンを待たずに直ちに放電指令信号を出力してリフレッシュ放電を実行する。本実施形態のセルフチェック処理は、図8においてステップI1〜I3を除いた処理となる。本実施形態によれば、積算値が規定値を超えた場合にはイグニッションスイッチのオンオフ状態にかかわらず直ちにリフレッシュ放電が実行される点を除き、第1の実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について図12を参照しながら説明する。車載緊急通報装置1が実際に緊急通報を行うのは、事故等が発生したときである。そこで、制御部5は、事故等による緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いか否かを判断し、当該確率が高いと判断された場合には補助バッテリ装置3に対しセルフチェック信号を出力する。緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いと判断されるのは、例えば以下の(a)〜(e)の場合である。
【0047】
(a)降雨時または降雨が予測される場合
ワイパー作動時、レインセンサが降雨を検知した時、車載通信モジュールやラジオ等で降雨情報を受信した場合
(b)道路の凍結時または凍結が予測される場合
外気温センサが一定温度(例えば0℃)以下を検知した場合、ABS(Anti-lock Brake System)が作動した場合、車載通信モジュールやラジオ等で凍結情報を受信した場合、車両の位置情報等から橋や高架道路を走行する可能性がある場合または走行中の場合
(c)走行速度が速い場合
車速パルス等から一定速度(例えば80km/m)以上の速度で走行していることを検知した場合、ナビゲーションシステム15の位置情報等から高速道路を走行する可能性がある場合または走行中の場合
(d)通り慣れていない道路を走行する場合
ナビゲーションシステム15の目的地設定情報等から、普段通り慣れていない道路を走行する可能性がある場合または走行中の場合
(e)危険情報を受信した場合
車載通信モジュールやラジオ等で走行に危険があるとの情報を受信した場合
【0048】
制御部5は、補助バッテリ装置3に対し、電圧出力指令信号、イグニッションオンによるセルフチェック信号および緊急通報の発生確率が高いときのセルフチェック信号の3種類の信号を出力する。図12は、緊急通報の発生確率が高いときの割り込みによるセルフチェック処理のフローチャートである。
【0049】
制御部21は、放電指令信号を出力してリフレッシュ放電を実行し(ステップI6)、積算値をクリアする(ステップI7)。その後、制御部21は、補助バッテリ19の放電電圧、残容量などの種々の状態についてセルフチェックを実行し(ステップI8)、チェック結果を制御部5に送信する(ステップI9)。
【0050】
制御部5は、イグニッションスイッチがオンされると、イグニッションスイッチがオフされるまでの期間において、上記何れかの事象が発生した時に一度だけセルフチェック信号を出力する。上記事象が発生している期間中に繰り返してセルフチェック信号を出力すると、リフレッシュ放電が頻繁に実行され、補助バッテリ19の消費電力が増大するからである。
【0051】
本実施形態によれば、補助バッテリ装置3は、上述した第1または第2の実施形態において緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いと判断された場合にも追加的にリフレッシュ放電を実行するので、事前に補助バッテリの不活性膜が除かれ、緊急通報をより確実に行うことができる。
【0052】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形、拡張を行うことができる。
【0053】
図7、図11において、制御部21は、検出温度がしきい値温度Tth(例えば40℃)未満である場合には、不活性膜の成長量が非常に小さいので積算値を計算するステップS4をスキップしてもよい。すなわち、制御部21は、検出温度がしきい値温度Tth以上である期間に限り温度履歴情報を収集するようにしてもよい。これにより、温度履歴情報の収集処理および積算値の計算処理が軽減される。
【0054】
温度履歴情報は、補助バッテリ19の温度とその温度に保たれている時間とを含む情報である。この温度履歴情報は、検出温度と時間(実施形態では演算周期)の入力情報に限られず、温度と時間との対応関係のメモリへの記憶情報、温度の積分演算情報など種々の態様または種々に加工された履歴情報であってもよい。
【0055】
制御部21は、演算周期ごとに不活性膜の成長量を積算し、その積算値が規定値を超えた場合にリフレッシュ放電が必要と判断した。これに限らず、検出温度の積分値、検出温度に不活性膜の成長特性による補正係数を乗算して得た値の積分値などを演算し、その演算値を規定値と比較してリフレッシュ放電の必要性を判断してもよい。
【0056】
第3の実施形態では、ナビゲーションシステム15から得た経路情報により、経路案内開始時の経路総長または予測される所要時間が所定値以上の場合、搭載されたカメラ画像から悪天候(雨天、積雪、路面凍結)などがあると判断した場合などに、緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いと判断してもよい。
【0057】
電源制御部13は、主バッテリ2の電圧がしきい値電圧(例えば8V)を超えていれば、主バッテリ2から供給される電力を電源回路14に供給し、主バッテリ2の電圧がしきい値電圧以下であれば、補助バッテリ装置3から供給される電力を電源回路14に供給してもよい。
【0058】
補助バッテリ装置3は、車載緊急通報装置1以外の種々の車載装置に対し主バッテリ2に代わり電力を供給してもよい。
補助バッテリ19は、種々の電池、例えば塩化チオニルリチウム電池などの一次電池や二次電池であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
図面中、1は車載緊急通報装置(車載装置)、2は主バッテリ、3は補助バッテリ装置、19は補助バッテリ、20は放電回路(放電手段)、21は制御部(リフレッシュ放電制御手段)、24は温度センサ(温度検出手段)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助バッテリを備え、緊急通報の開始トリガが発生したときに主バッテリと補助バッテリの何れかから供給される電力を動作電力として緊急通報動作を行う車載緊急通報装置であって、
前記補助バッテリ自体の温度または前記補助バッテリの周囲温度を検出する温度検出手段と、
放電指令信号に従って、前記補助バッテリに生じる不活性膜を除くように前記補助バッテリをリフレッシュ放電する放電手段と、
前回のリフレッシュ放電以降の経過時間と前記温度検出手段により検出された検出温度とを含む温度履歴情報を収集し、この温度履歴情報に基づいて前記放電指令信号の出力タイミングを決定するリフレッシュ放電制御手段とを備えていることを特徴とする車載緊急通報装置。
【請求項2】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記温度履歴情報と前記補助バッテリの不活性膜の成長特性とに基づいて、前記補助バッテリの不活性膜が成長して前記補助バッテリの電圧が前記緊急通報動作の実行に必要な下限電圧以下に低下する前に前記放電指令信号を出力することを特徴とする請求項1記載の車載緊急通報装置。
【請求項3】
前記リフレッシュ放電制御手段は、所定の演算周期ごとに、当該演算周期と前記検出温度と前記補助バッテリの不活性膜の成長特性とから定まる不活性膜の成長量を積算し、その積算値に基づいて前記放電指令信号の出力タイミングを決定することを特徴とする請求項1または2記載の車載緊急通報装置。
【請求項4】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記補助バッテリの不活性膜の成長特性に基づいて、前記検出温度が低いほど前記補助バッテリのリフレッシュ放電の間隔が長くなるように前記放電指令信号の出力タイミングを決定することを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の車載緊急通報装置。
【請求項5】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記補助バッテリの不活性膜が成長する温度帯と殆ど成長しない温度帯との境界域にしきい値温度を設定し、前記検出温度が当該しきい値温度以上である期間に前記温度履歴情報を収集することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の車載緊急通報装置。
【請求項6】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記緊急通報の開始トリガが発生する確率が高いか否かの判断情報に基づいて、当該確率が高いと判断された場合に前記放電指令信号を出力することを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の車載緊急通報装置。
【請求項7】
主バッテリに代わり車載装置に動作電力を供給する補助バッテリ装置であって、
補助バッテリと、
前記補助バッテリ自体の温度または前記補助バッテリの周囲温度を検出する温度検出手段と、
放電指令信号に従って、前記補助バッテリに生じる不活性膜を除くように前記補助バッテリをリフレッシュ放電する放電手段と、
前回のリフレッシュ放電以降の経過時間と前記温度検出手段により検出された検出温度とを含む温度履歴情報を収集し、この温度履歴情報に基づいて前記放電指令信号の出力タイミングを決定するリフレッシュ放電制御手段とを備えていることを特徴とする補助バッテリ装置。
【請求項8】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記温度履歴情報と前記補助バッテリの不活性膜の成長特性とに基づいて、前記補助バッテリの不活性膜が成長して前記補助バッテリの電圧が前記緊急通報動作の実行に必要な下限電圧以下に低下する前に前記放電指令信号を出力することを特徴とする請求項7記載の補助バッテリ装置。
【請求項9】
前記リフレッシュ放電制御手段は、所定の演算周期ごとに、当該演算周期と前記検出温度と前記補助バッテリの不活性膜の成長特性とから定まる不活性膜の成長量を積算し、その積算値に基づいて前記放電指令信号の出力タイミングを決定することを特徴とする請求項7または8記載の補助バッテリ装置。
【請求項10】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記補助バッテリの不活性膜の成長特性に基づいて、前記検出温度が低いほど前記補助バッテリのリフレッシュ放電の間隔が長くなるように前記放電指令信号の出力タイミングを決定することを特徴とする請求項7ないし9の何れかに記載の補助バッテリ装置。
【請求項11】
前記リフレッシュ放電制御手段は、前記補助バッテリの不活性膜が成長する温度帯と殆ど成長しない温度帯との境界域にしきい値を設定し、前記検出温度が当該しきい値以上である期間に前記温度履歴情報を収集することを特徴とする請求項7ないし10の何れかに記載の補助バッテリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−95181(P2013−95181A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237157(P2011−237157)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】