車輪および走行装置
【課題】床面を走行する際には何らの障害も無く、段差や障害物を越える際には、車輪を上方に持ち上げつつ前進動作も行える車輪および走行装置を提供する。
【解決手段】本発明の車輪15は、回転可能な駆動軸20と、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材16と、第1車輪部材16の回転により回転する第2車輪部材17と、を備え、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材16は、第1車輪部材16の内部から、第1車輪部材16の外周の外部へ突出可能な爪部を有する。
【解決手段】本発明の車輪15は、回転可能な駆動軸20と、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材16と、第1車輪部材16の回転により回転する第2車輪部材17と、を備え、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材16は、第1車輪部材16の内部から、第1車輪部材16の外周の外部へ突出可能な爪部を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な機構で、障害物を乗り越えることのできる車輪およびこの車輪を備えた走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子、歩行器、車輪付きロボットなどの走行装置は、車輪を備えており、この車輪の回転動作によりこれらの走行装置は、前進および後退動作をする。図17は、従来技術における走行装置の模式図である。
【0003】
走行装置801は、台座802、台座802を支えつつ走行装置801の前進および後退動作を実現する車輪803を備えている。車輪803は、床面804の上を回転し、走行装置801を前進および後退させる。ここで、床面804には段差805(階段や障害物など)が存在することがある。
【0004】
このような段差805があると、車輪803はその回転動作だけで段差805を超えることができず、使用者にとって非常な不便であった。一般に、車輪直径の3分の1以上の段差や障害物を、車輪は越えることができないといわれている。
【0005】
このような段差や障害物を越える車輪について、いくつかの技術提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0006】
特許文献1は、車輪の回転が停止すると、ラチェットが飛び出して車輪を上方に持ち上げて、車輪が段差を超える技術を開示する。
【0007】
特許文献2は、車輪が段差や障害物に衝突すると、モータが車輪の周りを公転し、車輪を持ち上げるジャッキアップを起動する技術を開示する。
【0008】
特許文献3は、種々の形状を有する車輪を備えることで、段差や障害物を乗り越える技術を開示する。
【特許文献1】特開2008−132908号公報
【特許文献2】特開2007−69803号公報
【特許文献3】特開昭51−61932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には次のような問題があった。
【0010】
特許文献1の車輪は、車輪にラチェットが仕込まれており、車輪の回転が停止するとラチェットが飛び出して車輪を上方に持ち上げる。しかし、特許文献1は、(1)車輪の回転は止まったままなので、上方に持ち上げられた後での車輪の回転動作がなく、段差や障害物に対して前進する動作が弱い、(2)ラチェットは車輪を上方に持ち上げる機能を有するが、段差や障害物に引っかかりを与える機能をほとんど有さない、との問題を有し、段差や障害物を乗り越えつつ前進する(あるいは後退する)ことが十分ではない。
【0011】
特許文献2の車輪は、モータの公転によってジャッキアップが行われて車輪が持ち上がる。このようなジャッキアップであると、特許文献1の有する(1)、(2)の問題に加えて、段差に対して上昇する機能はあっても段差を前進したり後退したりする機能が弱い。また、ラチェットやジャッキアップであると、車輪からの飛び出しや車輪への格納に時間がかかり、段差や障害物を越えるのに時間がかかる問題がある。
【0012】
このように、特許文献1、2で開示される技術では、車輪が段差や障害物に衝突すると、車輪の機能が停止して車輪を持ち上げる機能だけに移り変わってしまう。このため、特許文献1、2の技術は、(A)段差や障害物を越える、(B)越えつつ段差や障害物の上を前進あるいは後退して進む、との2つの機能を十分に発揮できず、段差や障害物を越える走行装置に用いる車輪としては不十分である。
【0013】
また、特許文献3の技術は、星型や角型などの円形ではない車輪を予め備えることで、段差や障害物を乗り越える技術を開示する。段差を乗り越えることだけを意図するのであれば、このような円形ではない特殊な形状を有する車輪でよいが、通常の床面や地面を走行する際には不便である。
【0014】
また、特許文献3の第7図は、偏心カムを用いて爪が飛び出す車輪を開示するが、このような車輪は、平坦な床面を走行中でも上方に爪が突出するので、使い勝手が非常に悪い。勿論、車輪の回転数が高くなる(すなわち、走行動作が高速になる)と飛び出した爪が床面に当たる問題も生じる。特許文献3に開示される車輪や走行装置は、例えば玩具に使われる程度であれば使用上の不便は少ないが、車椅子や歩行器などの実用製品においては不向きである。
【0015】
このように、特許文献1〜3の技術は、(A)段差や障害物を越える、(B)越えつつ段差や障害物の上を前進あるいは後退して進む、との2つの機能を同時に備えておらず、床面を走行するときの車輪としての機能および段差や障害物を乗り越える際の車輪も持ち上げ機能、をそれぞれ択一的に発揮することしかできない問題を有していた。
【0016】
本発明は、上記の問題を解決しつつ、床面を走行する際には何らの障害も無く、段差や障害物を越える際には、車輪を上方に持ち上げつつ前進動作も備える車輪および走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明の車輪は、回転可能な駆動軸と、駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、第1車輪部材と第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方は、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車輪は、通常の床面を走行する際には、駆動軸からの回転を受けて第1車輪部材および第2車輪部材によって走行する。走行中に車輪が、段差や障害物に衝突すると第2車輪部材の回転に阻害要因が生じて、爪が突出し、この爪が(a)車輪を上方に持ち上げ、(b)段差や障害物に引っかかりを生じさせ、(c)駆動軸からの動力によって自立的に回転する第1車輪部材の前進動作が加わって、段差や障害物をスムーズに乗り越える。
【0019】
また、複数の爪が突出することで、車輪を持ち上げたり、段差や障害に引っかかりを加えたりする複数の機能を同時に実現できる。
【0020】
このような車輪を用いる走行装置は、車椅子、歩行器、車輪付きロボットなどの幅広い分野への利用ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の発明に係る車輪は、回転可能な駆動軸と、駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、第1車輪部材と第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方は、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する。
【0022】
この構成により、車輪は、段差や障害物を容易に乗り越える。
【0023】
本発明の第2の発明に係る車輪では、第1の発明に加えて、第2車輪部材の回転に阻害要因が生じる場合に、爪部が突出する。
【0024】
本発明の第3の発明に係る車輪では、第1または第2の発明に加えて、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数と、に差が生じる場合に、爪部が突出する。
【0025】
これらの構成により、車輪が段差や障害物に衝突したことを、第2車輪部材と第1車輪部材との回転数の差によって検知でき、衝突したところで、爪が突出する。突出した爪は、車輪を持ち上げたり段差への引っ掛かりを生じさせたりするので、車輪は段差や障害物を容易に乗り越えることができる。
【0026】
本発明の第4の発明に係る車輪では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2車輪部材は、第1車輪部材の外周を覆う。
【0027】
この構成により、第1車輪部材は第2車輪部材を駆動する役割を担い、第2車輪部材は、実際の走行および爪を突出させる契機を生じさせる役割を担う。また、第2車輪部材が第1車輪部材の外周を覆うことで、車輪の幅方向を小型化できる。
【0028】
本発明の第5の発明に係る車輪では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2車輪部材は、第1車輪部材の側面に配置される。
【0029】
この構成により、第1車輪部材は第2車輪部材を駆動する役割を担い、第2車輪部材は、実際の走行および爪を突出させる契機を生じさせる役割を担う。また、第2車輪部材が第1車輪部材の側面に配置されることで、第2車輪部材の外周に爪の突出用の開放部を設けなくても良い。
【0030】
本発明の第6の発明に係る車輪では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、爪部は、第1車輪部材の外周において、異なる位置へ突出可能な複数の爪を有する。
【0031】
この構成により、車輪が段差や障害物を乗り越えやすくなる。
【0032】
本発明の第7の発明に係る車輪では、第6の発明に加えて、複数の爪は、相互に90度以上の交差角を有する。
【0033】
この構成により、ある爪は車輪を上方に持ち上げ、別の爪は段差への引っ掛かりを生じさせる。これら2つの機能が相まって、車輪は、段差や障害物を乗り越えやすくなる。
【0034】
本発明の第8の発明に係る車輪では、第6から第7のいずれかの発明に加えて、複数の爪の少なくとも一部は、滑り止めを有している。
【0035】
この構成により、爪は、段差や障害物を捕まえやすくなる。また床面に対して逆すべりをしにくくなり、車輪の空回りを防止できる。
【0036】
本発明の第9の発明に係る車輪では、第6から第8のいずれかの発明に加えて、複数の爪の少なくとも一つは、その先端にテーパー部を有している。
【0037】
この構成により、車輪の空回りを防止できる。
【0038】
本発明の第10の発明に係る車輪では、第6から第9のいずれかの発明に加えて、複数の爪の内、第1車輪部材の接地面に向けて突出する爪は、第1車輪部材を接地面より上昇させ、複数の爪の内、第1車輪部材の進行方向に向けて突出する爪は、進行方向に位置する障害物への引っ掛かりを生じさせる。
【0039】
この構成により、車輪は、容易に段差や障害物を乗り越えつつ前進できる。
【0040】
本発明の第11の発明に係る車輪では、第1車輪部材は、先端より爪を押し出すカム機構を有し、カム機構は、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数とに差が生じる場合に、爪を押し出す。
【0041】
この構成により、爪は第1車輪部材と第2車輪部材との回転数の差によって確実に突出できる。
【0042】
以下、図面を用いて説明する。
【0043】
なお、本明細書で車輪とは、車椅子、歩行器、自転車、自動車、輸送機器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、車輪付き計測装置など、車輪によって走行する走行装置に使用される車輪を幅広く含む。タイヤでも金属製の車輪でも木製や樹脂製の車輪でも幅広く含む。
【0044】
また、走行装置とは、車輪によって床面や地面を走行(手動と自動とを問わない)する装置を幅広く含む。
【0045】
また、第1車輪部材および第2車輪部材における「第1」、「第2」の用語は、便宜上用いるものである。
【0046】
(実施の形態1)
まず、全体概要を説明する。
【0047】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における走行装置の模式図である。図1は、車輪を備える走行装置1を示している。走行装置1の説明により、実施の形態1の車輪の概要を説明する。
【0048】
走行装置1は、台座2と、台座2から伸びるシャフト5と、シャフト5の先端に回転可能に接続された前輪3と後輪4とを備える。前輪3と後輪4とは、シャフト5の先端に設けられる駆動軸(図示せず)の駆動によって回転して、走行装置1の前進および後退を行わせる。
【0049】
前輪3と後輪4とは、後述するように、第1車輪部材と第2車輪部材とを備え、第1車輪部材が外部へ突出する爪部を有する車輪である。なお、爪部は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれが有していても良い。
【0050】
床面10が平坦状態である場合には、前輪3と後輪4とは、床面上を普通に回転して走行装置1を前進させる。このとき、前輪3と後輪4とは、円形の形状を有したままで回転する。具体的には、回転する駆動軸に接続されて駆動軸の回転によって第1車輪部材が回転し、この第1車輪部材は、その回転によって第2車輪部材を回転させる。床面10が平坦な状態では、第1車輪部材は駆動軸からの回転力によって回転し、第2車輪部材は第1車輪部材の回転によってそのまま回転させる。床面が平坦であるので、第1車輪部材と第2車輪部材との回転に阻害要因が生じないからである。
【0051】
ここで、走行装置1が、段差11と衝突する。具体的には前輪3が段差11と衝突する。前輪3の備える第1車輪部材は駆動軸からの駆動力を受けるので回転が継続するが、第2車輪部材は、第1車輪部材の回転によって回転するので、段差11に衝突することで第2車輪部材の回転は低減する。このように、第2車輪部材は、段差11への衝突によって回転動作に阻害要因を受ける。言い換えると、第1車輪部材と第2車輪部材とに回転数の差が生じる。
【0052】
ここで、第1車輪部材は、内部から第1車輪部材の外周の外部へ突出する爪部6を有している。爪部6は、第2車輪部材の回転に阻害要因が生じ(第1車輪部材と第2車輪部材との回転数とに差が生じる)、第2車輪部材だけが停止し第1車輪部材だけが回転するようになると、この回転力によって突出する。
【0053】
第1車輪部材および第2車輪部材の一方は、爪部6を突出させるカム機構を備え、他方は、カム機構によって爪部6の突出の際の案内通路となるガイドレールを備えている。第1車輪部材と第2車輪部材とは、カム機構とガイドレールとを分担して有することで、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数の差が生じる場合に、爪部6を突出させる。なお、第1車輪部材と第2車輪部材とは、カム機構とガイドレールを分担して備えればよく、爪部6は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されても良い。また、爪部6は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれかに格納されていなくても、カム機構を通じて、カム機構を備える車輪と接続されていればよい。
【0054】
突出した爪部6は、段差11に引っかかりを生じさせると共に前輪3を持ち上げる。結果として前輪3は、段差11を乗り越える。なお、後輪4も前輪3と同じ構成を有しており、後輪4も段差11に衝突すると爪部6を突出させて段差11を乗り越える。
【0055】
このように、前輪3と後輪4とが爪部6を用いて段差11を乗り越えることで、走行装置1が、段差11を乗り越える。
【0056】
(車輪と車輪の動作について)
次に、図2、図3を用いて、車輪の構成および車輪の動作について説明する。図2、図3は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図2、図3は、車輪を横方向から見た図を示している。なお、図2は、第2車輪部材から第1車輪部材の内部を透視した状態を示している。
【0057】
車輪15は、図1の前輪3および後輪4に用いられる。
【0058】
車輪15は、回転可能な駆動軸20と、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材16と、第1車輪部材16の回転により回転する第2車輪部材17とを備える。第1車輪部材16と第2車輪部材17とは独立して回転可能であって、図2、図3では、第1車輪部材16の外周を第2車輪部材17が覆う。
【0059】
また、第1車輪部材16は、爪18を突出させるカム機構を備え、第2車輪部材17は、爪18の突出を案内するガイドレールを備える。爪18は、カム機構によって、第1車輪部材16と接続される。
【0060】
第1車輪部材16は、爪部を備え、爪部は複数の爪18を有しており、複数の爪18は、第1車輪部材16の内部から第1車輪部材16の外周の外部へ突出可能である。複数の爪18の突出により、車輪15は、段差や障害物を越えることができる。なお、爪部は複数の爪18を有しているが、単数の爪を有していても良い。なお、図2、図3では、第1車輪部材16が爪18を備えている構成でも良い。
【0061】
爪18は、通常の走行時には、第1車輪部材16の内部に格納されており、車輪15が段差や障害物を越える際に第1車輪部材16の外部へ突出する。図2、図3に示される車輪15は、第1車輪部材16の外周を覆う第2車輪部材17を備えているので、爪18は、第1車輪部材16の外周を起点に第2車輪部材17の外周から突出する。
【0062】
車輪15は、平坦な床面や地面を走行中においては、図2に示されるように爪18を突出させない。駆動軸20は、第1車輪部材16に回転力を与えて第1車輪部材16が回転する。第2車輪部材17は、第1車輪部材16の外周を覆っているので、第2車輪部材17は、第1車輪部材16の回転によって与えられる回転力によって回転する。ここで、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、回転力の伝導のために弾性体19で接続されている。弾性体19は、第1車輪部材16の回転力(ここでは前進する際の回転力)を、外周を覆う第2車輪部材17に伝導するすなわち、第1車輪部材16は、前進する際の回転を、弾性体19を介して第2車輪部材17に与える
床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16の回転はそのまま第2車輪部材17に与えられ、第2車輪部材17が床面や地面を前進する。すなわち、床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16と第2車輪部材17とのそれぞれの回転数に差は生じず、第1車輪部材16と第2車輪部材17とが一体となって床面や地面に対して前進動作を行う。この場合には、爪18が第1車輪部材より突出することはない。
【0063】
ここで、車輪15が段差や障害物に衝突すると、床面や地面に実際に接する第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じる。一方で、第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受けているので、回転への阻害要因は生じない。特に、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、駆動軸20を基準にして独立して回転可能なので、第2車輪部材17の回転が低減したり停止したりしたとしても、第1車輪部材16は駆動軸20から受ける回転力に従った回転を続ける。
【0064】
すなわち、車輪15が段差や障害物に衝突すると、車輪15において、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。
【0065】
ここで、爪18は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差で突出する。第1車輪部材16は、爪18に接続するカム機構を備え、第2車輪部材17は、爪18を突出させる案内通路となるガイドレールを備える。爪18は、第1車輪部材16の前進方向への回転力によって飛び出そうとし、第2車輪部材17の前進方向への回転によって格納されようとする構成(第1車輪部材16に備えられるカム機構と接続されることで実現できる)を有している。このため、第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じ、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる場合に、爪18はガイドレールを通じて外部へ突出する。図3は、このように外部へ爪18が突出した状態を示している。なお、図では、第1車輪部材16から第2車輪部材17を経由して、第2車輪部材17の外周から突出する状態を示している。
【0066】
爪18は、外部へ突出することで、車輪15を上方に持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。この結果、車輪15は、段差や障害物を乗り越えると共に段差や障害物の上を前進する。結果として、走行面に段差(階段など)や障害物がある場合でも車輪15は、これらを乗り越えて前進を続けることができる。
【0067】
なお、図2、図3では、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う形態について説明したが、第2車輪部材17が第1車輪部材16の側面に配置される形態であっても良い。
【0068】
図4は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。第1車輪部材と第2車輪部材とがそれぞれ側面同士に接続されている状態が示されている。
【0069】
第1車輪部材16は、駆動軸20に接続されており、駆動軸20の回転力をうけて回転する。第1車輪部材16は、その側面に第2車輪部材17を接続しており、第1車輪部材16自身の回転力を第2車輪部材17に伝えて第2車輪部材17を回転させる。第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で接続されており、第1車輪部材16は、この弾性体19によって第2車輪部材17に回転力を伝導する。なお、弾性体でなくとも、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、接続部材で接続されていればよい。
【0070】
ここで、第2車輪部材17の直径は第1車輪部材16の直径よりも大きく、第1車輪部材16からの回転力によって回転する第2車輪部材17が、実際の床面や地面に接して車輪15を走行させる。
【0071】
図4の車輪15の場合も、図2、図3の車輪と同様に段差や障害物に衝突すると、第2車輪部材17の回転が阻害される。第2車輪部材17の回転が阻害されても第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転を継続する。このため車輪15が段差や障害物に衝突すると、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。第1車輪部材16は、第2車輪部材17が回転を停止しても前進方向に回転を継続するので、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じる。第1車輪部材16は、カム機構を有し、第2車輪部材17は、ガイドレールを有する。第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じると、第1車輪部材16の有するカム機構が作動する。カム機構は、爪18と接続しており、爪18は、停止状態にある第2車輪部材17の備えるガイドレールに従って突出する。この結果、第2車輪部材17から爪18が外部へ突出する。
【0072】
外部へ爪18が突出すると、爪18は、床面や地面から車輪15を上方に押し上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。また、このとき第1車輪部材16は回転を継続しているので、段差や障害物の上に乗り上げた車輪15は、第1車輪部材16の回転力を用いて段差や障害物の上を回転して前進する。前進する結果、第2車輪部材17の回転への阻害要因が消滅すれば、第1車輪部材16からの回転力によって第2車輪部材17も回転して、車輪15はそのまま前進を継続する。
【0073】
以上のように、図4に示されるように、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、側面同士で接続されていてもよい。実施の形態1における車輪は、図2、図3に示されるように、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う形態であっても、図4に示されるように第1車輪部材16と第2車輪部材17とが側面同士で接続される形態であっても、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じることで爪18を突出させる。爪18は、車輪15を持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。更にこの場合でも、第1車輪部材16は、回転を停止しないので、前進方向への力も生じさせる。これらが相まって、車輪15は、段差や障害物を容易に乗り越える。勿論、乗り越えた後では、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数が均衡するので、爪18は格納され、床面や地面での走行に悪影響は生じない。
【0074】
(車輪の詳細図面)
図5〜図10に、車輪の構造図を示す。図5〜図10は、いずれも図2、図3と同様に、第2車輪部材が第1車輪部材の外周を覆う構造を有する車輪を示す。
【0075】
図5は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図5は、爪18の突出していない車輪15を側面から見た状態を示している。
【0076】
第1車輪部材16は、駆動軸20の回転力を受けるように、駆動軸20に接続している。第1車輪部材16は、駆動軸20の回転によって回転する。第1車輪部材16は、内部に爪18を格納する。第1車輪部材16は、カム機構を内蔵し、カム機構の動作によって、爪18が押し出される。カム機構は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じると、爪18を外部に突出させる。第2車輪部材17は、ガイドレール30を備えている。ガイドレール30は、爪18の突出を案内する。
【0077】
第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で接続されている。弾性体19は、バネ、ゴム、弾性素材でできた棒状体、紐、いたばね、つるまきバネなどである。弾性体19は、前進動作において、第1車輪部材16が第2車輪部材17に回転動作を伝える。このため、第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じると、第1車輪部材16が回転を継続し、第2車輪部材17が回転を停止して、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じる。ただし、爪18が突出して第2車輪部材17が回転すると、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、回転するようになって、第1車輪部材16の空転も無くなる。
【0078】
弾性体19によって、床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16は第2車輪部材17に回転を伝えて、第1車輪部材16の回転数と同じ回転数で、第2車輪部材17が回転する。
【0079】
図6は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。図6は、図5の車輪を正面から見た状態を示している。
【0080】
図6も、車輪15が通常状態にあって、爪18を突出させていない。
【0081】
図7は、本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。図7は、図5、図6の車輪を斜めから見た状態を示している。図7も、爪18が突出する前の車輪15を示している。
【0082】
図5〜図7から明らかな通り、車輪15は、内周側の第1車輪部材16と外周の第2車輪部材17とを備え、第1車輪部材16が第2車輪部材17を回転させて、車輪15が走行する。
【0083】
図8は、図5〜図7に示される車輪15が段差や障害物に衝突して、爪18を突出させている状態を示す。
【0084】
図8は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図8は、第1車輪部材16から爪18が突出している状態を側面から示している。車輪15が平坦な床面や地面から段差や障害物に衝突すると、外周を覆う第2車輪部材17の回転が阻害される。第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受け続けるので、第2車輪部材17の内部において回転を継続する。このため、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。
【0085】
第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で前進方向に接続されているので、第2車輪部材17の回転が低減あるいは停止すると、弾性体19が伸びて第1車輪部材16内部に格納されているカム機構を動作させる。カム機構は爪18を接続している。カム機構が動作することで、爪18がガイドレール30を通して押し出される。カム機構は、板カム、共役カム、端面カムなど、様々なカムが含まれる。カム機構は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差分で動作する。すなわち、カム機構は、一種のセンサーの役割を担っているともいえる。
【0086】
第2車輪部材17は、爪18の突出する位置に開放部21を備えており、爪18は第1車輪部材16あるいは第2車輪部材17の内部からこの開放部21を経由して外部に突出する。図8では、第1車輪部材16は、4つの爪18を備えており、4つの爪18が、それぞれ所定の位置から突出する。このように、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う構造を有する場合には、第2車輪部材17は、爪18が突出できる開放部21を備えておき、爪18は、この開放部21を経由して外部に突出する。
【0087】
図9は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。図9は、図8の車輪を正面から見た状態を示している。図8と同じく、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じ、第1車輪部材16の内部から、外周の外部へ爪18が突出している。
【0088】
図10は、本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。図10は、図8の車輪を斜めから見た状態を示している。やはり、爪18が突出している。
【0089】
図8〜10から明らかな通り、車輪15が段差や障害物に衝突すると、第2車輪部材17の回転が阻害される。この阻害の結果、第1車輪部材16の回転数と第2車輪部材17の回転数に差が生じ、第1車輪部材16の内部のカム機構が、爪18を押し出して、ガイドレール30および開放部21を経由して、爪18が外部に突出する。
【0090】
以上のように、実施の形態1における車輪は、段差や障害物に衝突しても回転動作を続ける第1車輪部材と、段差や障害物に衝突すると回転動作を低減する第2車輪部材とを備えることで、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数とに差が生じると、第1車輪部材が爪を突出させる。この爪が、車輪を上方に持ち上げるとともに段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。更には、第1車輪部材は回転を継続しているので、段差や障害物に乗り上げた後でも前進走行を継続して、結果的には、車輪が段差や障害物を乗り越えて走行できる。
【0091】
次に、各部の詳細について説明する。
【0092】
(第1車輪部材)
第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転する。また、第1車輪部材16は、爪18に接続されるカム機構を備える。
【0093】
第1車輪部材16は、ゴムタイヤ、鉄による車輪、木や樹脂による車輪など、幅広く含む。
【0094】
第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転するが、駆動軸20が例えばモータやエンジンなど自動で回転する駆動部によって回転する場合であっても、駆動軸20が手動で回転する場合であっても、駆動軸20からの回転力で回転する。例えば、車輪15が、おもちゃのラジコン、ロボット、電動車椅子、電動歩行器など、モータやエンジンなどの駆動部を有する走行装置に取り付けられている場合には、モータやエンジンからの駆動力によって、駆動軸20が回転する。一方、車輪15が、車椅子、手動のおもちゃ、手動歩行器など、手動で駆動する走行装置に取り付けられている場合には、手動によって与えられる駆動力によって駆動軸20が回転する。この駆動軸20の回転によって、第1車輪部材16は、回転する。
【0095】
このように、第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受けることで回転を行う。
【0096】
第1車輪部材16は、第2車輪部材17の内側に設けられてもよく、第2車輪部材17の側面に設けられても良い。また、第1車輪部材16は、駆動部20からの回転力を第2車輪部材17に与える機能を有し、第1車輪部材16そのものは、床面や地面に接して走行する機能を有さない。
【0097】
第1車輪部材16は、第2車輪部材17に回転力を伝えるために、第2車輪部材17と接続する。これは、第2車輪部材17が障害物に衝突して回転を停止する場合に、第1車輪部材16は駆動軸20からの回転を受けて空転することによって第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差を生じさせるためである。勿論、第2車輪部材17が爪18の働きによって障害物において動作し始めれば、第1車輪部材16と第2車輪部材17とが揃って回転するようになる。
【0098】
一例として、弾性体19によって、第1車輪部材16は第2車輪部材17と接続され、第1車輪部材16の回転が第2車輪部材17にそのまま与えられている状態では、弾性体19は定常状態にあり、第1車輪部材16の回転が第2車輪部材17に伝わる際に阻害要因が生じていれば、弾性体19は伸びた状態となる。このように、第1車輪部材16と第2車輪部材17とを接続する弾性体19は、第1車輪部材16の回転力を第2車輪部材17に伝えると共に、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差を検知できる。この検知によって、カム機構が作動し、爪18を突出させる。
【0099】
なお、第1車輪部材16は、駆動軸20の回転力を第2車輪部材17に伝える機能を有すればよいので、円形のみならず楕円形や多角形であってもよい。
【0100】
(第2車輪部材)
第2車輪部材17は、実際に床面や地面に接して車輪15を走行させる。また、第2車輪部材17は、爪18を突出させる案内通路となるガイドレール30を備える。
【0101】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16の外周を覆うように形成されてもよいし、第1車輪部材16の側面に形成されても良い。第2車輪部材17は、第1車輪部材16からの回転力を受けて回転し、床面や地面の上を走行する。
【0102】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16と同じ回転軸を有するが(すなわち、駆動軸20を基準に回転動作する)、第1車輪部材16とは独立して回転できる。すなわち、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、同じ回転数で回転する場合と、異なる回転数で回転する場合とが生じる。後者の場合には、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じて、後述の通り第1車輪部材16から爪18が突出する。
【0103】
第2車輪部材17も第1車輪部材16と同じく、ゴムタイヤ、鉄による車輪、木や樹脂による車輪など、幅広く含む。床面や地面を走行できればよいので、その材質・構造・製造方法の別を問うものではない。
【0104】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16と同じく楕円形や多角形でもよいが、床面や地面に接して走行するので、円形であることが好ましい。また、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う構成の場合には、第1車輪部材16から突出する爪18を通すための開放部21を備えている。
【0105】
また、図4のように第1車輪部材16の側面に第2車輪部材17が設置される構成の場合には、第2車輪部材17の直径は、第1車輪部材16の直径よりも大きいことが接地の点から好適である。
【0106】
なお、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、「第1」、「第2」なる用語によって特段に区別されるものではなく、それぞれで必要な機能を分担できればよい。
【0107】
(爪)
次に、爪18について説明する。
【0108】
第1車輪部材16は、段差や障害物を乗り越えるための爪部を備え、この爪部は、単数または複数の爪18を備える。
【0109】
図11を用いて爪の詳細について説明する。
【0110】
図11は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図11は、爪が突出した車輪15が、段差を越えようとしている状態を示している。
【0111】
第1車輪部材16は、第1車輪部材16の外周において異なる位置へ突出できる複数の爪18を備えていることも好適である。
【0112】
爪18は、車輪15を上方に持ち上げる役割と、段差に引っかかりを与える役割とを有する。爪18が単数であると、これらのいずれかの役割しか同時にはできない。このため、段差や障害物が大きいと、車輪15が十分に段差や障害物を越えられない問題もある。
【0113】
図11では、第1車輪部材16が4つの爪18を備えている。
【0114】
この4つの爪18の内、爪18aは、車輪15の下方(すなわち床面50)に対して突出し、床面50から車輪15を上方に持ち上げる。一方、同時に突出している爪18bは、車輪15の前進方向に突出し、段差51に引っかかりを与える。4つの爪18は、第1車輪部材16の異なる位置へ突出するが、異なる位置に同時に突出することで、ある爪18aは、車輪15を持ち上げる役割を担い、他の爪18bは、車輪15を段差51に引っ掛ける役割を担う。
【0115】
ここで、複数の爪18は、相互に90度以上の交差角を有することが好適である。90度以上の交差角を有することで、車輪15を上方に持ち上げる爪と車輪15を段差51に引っ掛ける爪との役割分担が可能となるからである。なお、爪同士が90度未満の交差角を有する場合には、車輪15の前進方向(段差51に向けた方向)に突出する爪18が段差51に引っかかりを与える際に、床面50の斜め前方に突出する爪18が存在することになる。このようになると、車輪15を持ち上げるよりも押し戻す力が発生するので、車輪15が段差51を超えにくくなる。このような点からも、爪18は、相互に90度以上の交差角を有していることが好ましい。
【0116】
また、爪18の一部は、滑り止めを備えていることも好適である。
【0117】
例えば、爪18の先端、あるいは表面もしくは裏面の少なくとも一部に、摩擦体や摩擦面が設けられていることが好適である。爪18は、床面50から車輪15を持ち上げたり、段差51に車輪15を引っ掛けたりする。この際に、爪18が滑り止めを有していることで、床面50や段差51に対してすべりにくくなり、段差51に衝突した車輪15が空回りすることを防止できる。
【0118】
滑り止めは、爪18に直接加工が施されていたり、滑り止め材が塗布されたり、貼付されたりすればよい。
【0119】
また、爪18の少なくとも一つは、先端にテーパー部40を有していることも好適である。テーパー部40を有していることで、床面50を爪18が蹴り上げる際に障害が少なくなるメリットがある。
【0120】
テーパー部40を有しない場合には、床面50に略垂直に爪18が突出する際に、床面50と爪18の先端との接地面積が大きくなる。このようになると、爪18は床面50に垂直に立設してしまい、車輪50を前進方向にも後退方向にも動かそうとするベクトルを生じさせてしまう。このようになると、車輪15は、段差51に衝突したところで空回りしやすい。これに対して、テーパー部40を備えていると、爪18が床面50に略垂直に立設する場合でも、爪18が床面50と接する面積が小さいので、立設する爪18は、車輪15を後退させるベクトルを生じさせにくい。更に、図11に示されるように、テーパー部が、車輪15の前進方向に形成されていることで、図11の爪18aが床面50に略垂直に立設する際に、テーパー部40が車輪15の前進方向であることで、爪18aを基準に、車輪15は前進方向に不安定となって車輪15が前方に回転する。この結果、車輪15が段差51に衝突した際でも前進方向への走行力を継続できるので、車輪15が空回りしにくくなる。
【0121】
また、爪18は、図11に示される以外の個数、形状であってもよい。また、車輪15から突出する量は、車輪の仕様や走行装置に求める性能などによって、適宜定められればよい。例えば、車輪15は、2つや3つの爪18を備えていても良い。なお、5以上の爪18を備えることを排除するものではない。
【0122】
また、爪18は、第1車輪部材16や第2車輪部材17と同一の素材で形成されてもよく、異なる素材で形成されても良い。また、段差51への引っかかりや車輪15の持ち上げなどに必要となる種々の公知技術が利用されれば良い。
【0123】
なお、爪18は、第1車輪部材16に格納されても第2車輪部材17に格納されても良い。
【0124】
以上のように、実施の形態1における車輪は、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数との差分が生じる場合に、外周の外部へ爪を突出させて、車輪を床面から持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。このため、車輪は、まず段差の上に乗り上げる。更には第1車輪部材の回転が継続しているので、車輪は、段差の上を前進してやがて段差を乗り越える。段差を乗り越えた車輪における第1車輪部材と第2車輪部材との回転数は、再び同じになるので、爪は第1車輪部材の内部に格納され、平坦な床面を車輪は走行する。
【0125】
なお、実施の形態1においては、爪は第1車輪部材から突出することを基に説明したが、第1車輪部材が駆動軸によって回転すると共にカム機構を有しており、第2車輪部材内部が爪を格納している場合には、第1車輪部材のカム機構によって、第2車輪部材内部から爪が突出する。爪は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されていてもよく、第1車輪部材と第2車輪部材とは、(1)、(2)の役割分担が決められているだけである。
【0126】
(1)第1車輪部材は、駆動軸からの回転で回転し、回転力を第2車輪部材に伝える。
【0127】
(2)第2車輪部材は、第1車輪部材の回転により回転する。
【0128】
この(1)、(2)以外の役割である、(3)爪を押し出すカム機構、(4)爪を格納し突出するガイドレールを、第1車輪部材と第2車輪部材のいずれが有するかは仕様に応じて適宜定められる。但し、役割(3)と役割(4)とは、第1車輪部材と第2車輪部材とで異なって有する必要がある。
【0129】
この状態で、第1車輪部材が役割(3)を有し、第2車輪部材が役割(4)を有していれば、爪は、第2車輪部材から突出し、第1車輪部材が役割(4)を有し、第2車輪部材が役割(3)を有していれば、爪は、第1車輪部材から突出する。
【0130】
以上のように、第1車輪部材と第2車輪部材とは、役割上区別される便宜上の用語であって、役割分担に応じた動作を行えば、いずれがどの役割を担っても良い。
【0131】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0132】
実施の形態2は、実施の形態1で説明された車輪を用いた走行装置について説明する。
【0133】
実施の形態1で説明した車輪は、車輪を使って走行するあらゆる装置に適用できる。すなわち、実施の形態1で説明した車輪と、車輪の持つ駆動軸に駆動力を与える駆動手段と、車輪を取り付ける台座とを備える走行装置は、実施の形態1で説明した車輪を用いて、段差や障害物を容易に乗り越えることができる。
【0134】
走行装置は、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、室内走行機器など、様々なものである。
【0135】
車輪付きロボットの例としては、ペットロボット、掃除ロボット、イベントやショッピングセンターなどでの案内ロボット、家事ロボット、運搬ロボットなどである。
【0136】
図12〜15を用いて、走行装置および走行装置の動作について説明する。
【0137】
図12、13、14、15は、本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【0138】
図12は、走行装置60が障害物のない平坦な床面を走行している状態を示している。図13は、図12に続く図面で、走行装置60が段差70に衝突した状態を示している。図14は、図13に続く状態で、走行装置60が段差70に衝突した後、車輪15から爪18が突出し始めた状態を示している。図15は、図14に続く状態で、爪18によって車輪15が段差70を乗り越え始める状態を示している。
【0139】
走行装置60は、4つの車輪15と、4つの車輪15を取り付ける台座61と、を備えている。また、駆動部20は、車輪15に含まれる第1車輪部材へ回転力を与える。なお、図12〜15では、駆動軸20に駆動力を与える駆動手段を図示していないが、モータなどの駆動手段を走行装置60が備え、駆動手段が自動で駆動力を駆動軸20に与える構成でもよい。
【0140】
なお、車輪15は、実施の形態1で説明したように、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材を備えている。図12〜15では、図面の都合上、図示していない。また、第1車輪部材は、第1車輪部材の外周の外部へ突出できる爪も備えている。
【0141】
また、台座61は、4つの車輪15を取り付けると共に、走行装置60の基台を構成する。更に、必要に応じて駆動手段を備えていても良い。
【0142】
なお、実施の形態2における走行装置60は、実施の形態1で説明した車輪15を備えることで段差や障害物を容易に乗り越える装置であるので、駆動方法やその他の動作など、走行装置にとって公知の技術については、必要に応じて用いられればよい。これらの公知技術については、説明を省略する。但し、実施の形態1の車輪を用いた走行装置の趣旨を逸脱しない公知技術を追加した種々の走行装置を、実施の形態2の走行装置は含むものである。
【0143】
図12〜15の順序で、走行装置60の動作を説明する。
【0144】
(図12の段階)
走行装置60は、平坦な床面を走行している。床面が平坦であるので、走行装置60は、車輪15の回転によって前進する。車輪15は、第1車輪部材と第2車輪部材とを備えているが、床面が平坦であるので、第2車輪部材の回転には阻害要因がなく、第1車輪部材からの回転力は全て第2車輪部材に伝わる。結果として、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数は同じである。
【0145】
第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差がないので、第1車輪部材から爪18が突出することなく車輪15は、平坦な床面の上を回転する。車輪15が床面を回転することで、走行装置60が床面上を前進する。このとき、爪18が突出しないので、走行装置60の走行に阻害は生じない。
【0146】
(図13の段階)
床面において段差70が存在することがある。図13では平坦な床面を走行してきた走行装置60が段差70に衝突している。
【0147】
車輪15は、段差70に衝突して、外輪である第2車輪部材の回転が低減もしくは停止する。
【0148】
(図14の段階)
第2車輪部材の回転が阻害されるが、第1車輪部材は駆動軸20からの回転力を受け続けるので、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差が生じる。
【0149】
ここで、第1車輪部材および第2車輪部材の一方は外部へ突出可能な爪18を備えている。爪18は、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差が生じると作動するカム機構によって、突出する。図14は、爪18の突出の様子を示している。
【0150】
(図15の段階)
爪18は複数であって、爪18の突出が進むと、ある爪18は、車輪15の下方に向けて突出して、車輪15を床面から上方に持ち上げる。また別の爪18は、車輪15の前方に向けて突出して段差70への引っ掛かりを生じさせる。すなわち、前方に突出する爪18は、段差70を捉える。
【0151】
これら2つの動作が組み合わさることで、車輪15は、段差70を登り始める。図15に示されるとおりである。
【0152】
さらに、車輪15の内部で第1車輪部材は回転を続けているので、段差70の上で車輪15は前進動作も行う。この前進動作が相まって、走行装置60は、段差70を超えると共に前進も行って、段差70を乗り越える。
【0153】
以上のように、実施の形態2における走行装置60は、段差や障害物を乗り越えて前進することができる。このような走行装置60が、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、室内走行機器などに幅広く適用されることで、使用者の便益が高まる。
【0154】
次に、実験例について説明する。
【0155】
(実験例)
発明者は、図16に示される試作機を製作し、実際に床面を走行させて実験を行った。図16は、本発明の実験例で試作された走行装置の模式図である。
【0156】
試作機は、次のスペックを有する走行装置である。
【0157】
(1)全長・全幅・全高 = 650mm x 400mm x 320mm
(2)重量 7.1kg
(3)モータ タミヤ製 ギヤードモータ 品番「540K300」
(4)バッテリ タミヤ製 ニッケル水素バッテリ 7.2V(ボルト) 品番「3700HV」
(5)プロポ 双葉電子工業製 品番「4EX」
(6)アンプ 双葉電子工業製 品番「MC330CR」
(7)車輪直径 150mm
(8)車輪幅 40mm
(9)爪の幅 32.5mm
この走行装置を床面で走行させ、<条件1>高さ70mmの段差、<条件2>高さ140mmの段差、の条件による床面の段差を、速度約0.3m/secにて走行させた。
【0158】
実験結果としてはいずれの条件においても、走行装置は、段差を乗り越えることができた。<条件2>の結果からは、車輪直径150mmの93%に相当する140mmの段差を超えることができることがわかる。通常の車輪では、車輪直径の3分の1程度の段差を超えるのが限界であるといわれていることを考慮すると、本発明の趣旨に従って試作された走行装置は、非常に顕著で優れた効果を奏することが分かる。
【0159】
なお、実験例は、実施の形態2における走行装置の一例であって、実施の形態1の車輪や実施の形態2の走行装置の性能の限界を示すものではない。
【0160】
また、実験例の走行装置は、車輪、駆動手段、台座だけで構成されているので、これに筐体や外部装置をつけることで、様々な走行装置に応用できる。
【0161】
なお、実施の形態2においては、爪は第1車輪部材から突出することを基に説明したが、第1車輪部材が駆動軸によって回転すると共にカム機構を有しており、第2車輪部材内部が爪を格納している場合には、第1車輪部材のカム機構によって、第2車輪部材内部から爪が突出する。爪は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されていてもよく、第1車輪部材と第2車輪部材とは、(1)、(2)の役割分担が決められているだけである。
【0162】
(1)第1車輪部材は、駆動軸からの回転で回転し、回転力を第2車輪部材に伝える。
【0163】
(2)第2車輪部材は、第1車輪部材の回転により回転する。
【0164】
この(1)、(2)以外の役割である、(3)爪を押し出すカム機構、(4)爪を格納し突出するガイドレールを、第1車輪部材と第2車輪部材のいずれが有するかは仕様に応じて適宜定められる。但し、役割(3)と役割(4)とは、第1車輪部材と第2車輪部材とで異なって有する必要がある。
【0165】
この状態で、第1車輪部材が役割(3)を有し、第2車輪部材が役割(4)を有していれば、爪は、第2車輪部材から突出し、第1車輪部材が役割(4)を有し、第2車輪部材が役割(3)を有していれば、爪は、第1車輪部材から突出する。
【0166】
以上のように、第1車輪部材と第2車輪部材とは、役割上区別される便宜上の用語であって、役割分担に応じた動作を行う。実施の形態2の走行装置は、このような第1車輪部材と第2車輪部材を備える車輪によって走行する。
【0167】
以上、実施の形態1〜2で説明された車輪および走行装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の実施の形態1における走行装置の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図12】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図13】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図14】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図15】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図16】本発明の実験例で試作された走行装置の模式図である。
【図17】従来技術における走行装置の模式図である。
【符号の説明】
【0169】
1 走行装置
2 台座
3 前輪
4 後輪
5 シャフト
6 爪
15 車輪
16 第1車輪部材
17 第2車輪部材
18 爪
19 弾性体
20 駆動軸
21 開放部
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な機構で、障害物を乗り越えることのできる車輪およびこの車輪を備えた走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子、歩行器、車輪付きロボットなどの走行装置は、車輪を備えており、この車輪の回転動作によりこれらの走行装置は、前進および後退動作をする。図17は、従来技術における走行装置の模式図である。
【0003】
走行装置801は、台座802、台座802を支えつつ走行装置801の前進および後退動作を実現する車輪803を備えている。車輪803は、床面804の上を回転し、走行装置801を前進および後退させる。ここで、床面804には段差805(階段や障害物など)が存在することがある。
【0004】
このような段差805があると、車輪803はその回転動作だけで段差805を超えることができず、使用者にとって非常な不便であった。一般に、車輪直径の3分の1以上の段差や障害物を、車輪は越えることができないといわれている。
【0005】
このような段差や障害物を越える車輪について、いくつかの技術提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0006】
特許文献1は、車輪の回転が停止すると、ラチェットが飛び出して車輪を上方に持ち上げて、車輪が段差を超える技術を開示する。
【0007】
特許文献2は、車輪が段差や障害物に衝突すると、モータが車輪の周りを公転し、車輪を持ち上げるジャッキアップを起動する技術を開示する。
【0008】
特許文献3は、種々の形状を有する車輪を備えることで、段差や障害物を乗り越える技術を開示する。
【特許文献1】特開2008−132908号公報
【特許文献2】特開2007−69803号公報
【特許文献3】特開昭51−61932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には次のような問題があった。
【0010】
特許文献1の車輪は、車輪にラチェットが仕込まれており、車輪の回転が停止するとラチェットが飛び出して車輪を上方に持ち上げる。しかし、特許文献1は、(1)車輪の回転は止まったままなので、上方に持ち上げられた後での車輪の回転動作がなく、段差や障害物に対して前進する動作が弱い、(2)ラチェットは車輪を上方に持ち上げる機能を有するが、段差や障害物に引っかかりを与える機能をほとんど有さない、との問題を有し、段差や障害物を乗り越えつつ前進する(あるいは後退する)ことが十分ではない。
【0011】
特許文献2の車輪は、モータの公転によってジャッキアップが行われて車輪が持ち上がる。このようなジャッキアップであると、特許文献1の有する(1)、(2)の問題に加えて、段差に対して上昇する機能はあっても段差を前進したり後退したりする機能が弱い。また、ラチェットやジャッキアップであると、車輪からの飛び出しや車輪への格納に時間がかかり、段差や障害物を越えるのに時間がかかる問題がある。
【0012】
このように、特許文献1、2で開示される技術では、車輪が段差や障害物に衝突すると、車輪の機能が停止して車輪を持ち上げる機能だけに移り変わってしまう。このため、特許文献1、2の技術は、(A)段差や障害物を越える、(B)越えつつ段差や障害物の上を前進あるいは後退して進む、との2つの機能を十分に発揮できず、段差や障害物を越える走行装置に用いる車輪としては不十分である。
【0013】
また、特許文献3の技術は、星型や角型などの円形ではない車輪を予め備えることで、段差や障害物を乗り越える技術を開示する。段差を乗り越えることだけを意図するのであれば、このような円形ではない特殊な形状を有する車輪でよいが、通常の床面や地面を走行する際には不便である。
【0014】
また、特許文献3の第7図は、偏心カムを用いて爪が飛び出す車輪を開示するが、このような車輪は、平坦な床面を走行中でも上方に爪が突出するので、使い勝手が非常に悪い。勿論、車輪の回転数が高くなる(すなわち、走行動作が高速になる)と飛び出した爪が床面に当たる問題も生じる。特許文献3に開示される車輪や走行装置は、例えば玩具に使われる程度であれば使用上の不便は少ないが、車椅子や歩行器などの実用製品においては不向きである。
【0015】
このように、特許文献1〜3の技術は、(A)段差や障害物を越える、(B)越えつつ段差や障害物の上を前進あるいは後退して進む、との2つの機能を同時に備えておらず、床面を走行するときの車輪としての機能および段差や障害物を乗り越える際の車輪も持ち上げ機能、をそれぞれ択一的に発揮することしかできない問題を有していた。
【0016】
本発明は、上記の問題を解決しつつ、床面を走行する際には何らの障害も無く、段差や障害物を越える際には、車輪を上方に持ち上げつつ前進動作も備える車輪および走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明の車輪は、回転可能な駆動軸と、駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、第1車輪部材と第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方は、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車輪は、通常の床面を走行する際には、駆動軸からの回転を受けて第1車輪部材および第2車輪部材によって走行する。走行中に車輪が、段差や障害物に衝突すると第2車輪部材の回転に阻害要因が生じて、爪が突出し、この爪が(a)車輪を上方に持ち上げ、(b)段差や障害物に引っかかりを生じさせ、(c)駆動軸からの動力によって自立的に回転する第1車輪部材の前進動作が加わって、段差や障害物をスムーズに乗り越える。
【0019】
また、複数の爪が突出することで、車輪を持ち上げたり、段差や障害に引っかかりを加えたりする複数の機能を同時に実現できる。
【0020】
このような車輪を用いる走行装置は、車椅子、歩行器、車輪付きロボットなどの幅広い分野への利用ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の発明に係る車輪は、回転可能な駆動軸と、駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、第1車輪部材と第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方は、第1車輪部材および第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する。
【0022】
この構成により、車輪は、段差や障害物を容易に乗り越える。
【0023】
本発明の第2の発明に係る車輪では、第1の発明に加えて、第2車輪部材の回転に阻害要因が生じる場合に、爪部が突出する。
【0024】
本発明の第3の発明に係る車輪では、第1または第2の発明に加えて、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数と、に差が生じる場合に、爪部が突出する。
【0025】
これらの構成により、車輪が段差や障害物に衝突したことを、第2車輪部材と第1車輪部材との回転数の差によって検知でき、衝突したところで、爪が突出する。突出した爪は、車輪を持ち上げたり段差への引っ掛かりを生じさせたりするので、車輪は段差や障害物を容易に乗り越えることができる。
【0026】
本発明の第4の発明に係る車輪では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2車輪部材は、第1車輪部材の外周を覆う。
【0027】
この構成により、第1車輪部材は第2車輪部材を駆動する役割を担い、第2車輪部材は、実際の走行および爪を突出させる契機を生じさせる役割を担う。また、第2車輪部材が第1車輪部材の外周を覆うことで、車輪の幅方向を小型化できる。
【0028】
本発明の第5の発明に係る車輪では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第2車輪部材は、第1車輪部材の側面に配置される。
【0029】
この構成により、第1車輪部材は第2車輪部材を駆動する役割を担い、第2車輪部材は、実際の走行および爪を突出させる契機を生じさせる役割を担う。また、第2車輪部材が第1車輪部材の側面に配置されることで、第2車輪部材の外周に爪の突出用の開放部を設けなくても良い。
【0030】
本発明の第6の発明に係る車輪では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、爪部は、第1車輪部材の外周において、異なる位置へ突出可能な複数の爪を有する。
【0031】
この構成により、車輪が段差や障害物を乗り越えやすくなる。
【0032】
本発明の第7の発明に係る車輪では、第6の発明に加えて、複数の爪は、相互に90度以上の交差角を有する。
【0033】
この構成により、ある爪は車輪を上方に持ち上げ、別の爪は段差への引っ掛かりを生じさせる。これら2つの機能が相まって、車輪は、段差や障害物を乗り越えやすくなる。
【0034】
本発明の第8の発明に係る車輪では、第6から第7のいずれかの発明に加えて、複数の爪の少なくとも一部は、滑り止めを有している。
【0035】
この構成により、爪は、段差や障害物を捕まえやすくなる。また床面に対して逆すべりをしにくくなり、車輪の空回りを防止できる。
【0036】
本発明の第9の発明に係る車輪では、第6から第8のいずれかの発明に加えて、複数の爪の少なくとも一つは、その先端にテーパー部を有している。
【0037】
この構成により、車輪の空回りを防止できる。
【0038】
本発明の第10の発明に係る車輪では、第6から第9のいずれかの発明に加えて、複数の爪の内、第1車輪部材の接地面に向けて突出する爪は、第1車輪部材を接地面より上昇させ、複数の爪の内、第1車輪部材の進行方向に向けて突出する爪は、進行方向に位置する障害物への引っ掛かりを生じさせる。
【0039】
この構成により、車輪は、容易に段差や障害物を乗り越えつつ前進できる。
【0040】
本発明の第11の発明に係る車輪では、第1車輪部材は、先端より爪を押し出すカム機構を有し、カム機構は、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数とに差が生じる場合に、爪を押し出す。
【0041】
この構成により、爪は第1車輪部材と第2車輪部材との回転数の差によって確実に突出できる。
【0042】
以下、図面を用いて説明する。
【0043】
なお、本明細書で車輪とは、車椅子、歩行器、自転車、自動車、輸送機器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、車輪付き計測装置など、車輪によって走行する走行装置に使用される車輪を幅広く含む。タイヤでも金属製の車輪でも木製や樹脂製の車輪でも幅広く含む。
【0044】
また、走行装置とは、車輪によって床面や地面を走行(手動と自動とを問わない)する装置を幅広く含む。
【0045】
また、第1車輪部材および第2車輪部材における「第1」、「第2」の用語は、便宜上用いるものである。
【0046】
(実施の形態1)
まず、全体概要を説明する。
【0047】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における走行装置の模式図である。図1は、車輪を備える走行装置1を示している。走行装置1の説明により、実施の形態1の車輪の概要を説明する。
【0048】
走行装置1は、台座2と、台座2から伸びるシャフト5と、シャフト5の先端に回転可能に接続された前輪3と後輪4とを備える。前輪3と後輪4とは、シャフト5の先端に設けられる駆動軸(図示せず)の駆動によって回転して、走行装置1の前進および後退を行わせる。
【0049】
前輪3と後輪4とは、後述するように、第1車輪部材と第2車輪部材とを備え、第1車輪部材が外部へ突出する爪部を有する車輪である。なお、爪部は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれが有していても良い。
【0050】
床面10が平坦状態である場合には、前輪3と後輪4とは、床面上を普通に回転して走行装置1を前進させる。このとき、前輪3と後輪4とは、円形の形状を有したままで回転する。具体的には、回転する駆動軸に接続されて駆動軸の回転によって第1車輪部材が回転し、この第1車輪部材は、その回転によって第2車輪部材を回転させる。床面10が平坦な状態では、第1車輪部材は駆動軸からの回転力によって回転し、第2車輪部材は第1車輪部材の回転によってそのまま回転させる。床面が平坦であるので、第1車輪部材と第2車輪部材との回転に阻害要因が生じないからである。
【0051】
ここで、走行装置1が、段差11と衝突する。具体的には前輪3が段差11と衝突する。前輪3の備える第1車輪部材は駆動軸からの駆動力を受けるので回転が継続するが、第2車輪部材は、第1車輪部材の回転によって回転するので、段差11に衝突することで第2車輪部材の回転は低減する。このように、第2車輪部材は、段差11への衝突によって回転動作に阻害要因を受ける。言い換えると、第1車輪部材と第2車輪部材とに回転数の差が生じる。
【0052】
ここで、第1車輪部材は、内部から第1車輪部材の外周の外部へ突出する爪部6を有している。爪部6は、第2車輪部材の回転に阻害要因が生じ(第1車輪部材と第2車輪部材との回転数とに差が生じる)、第2車輪部材だけが停止し第1車輪部材だけが回転するようになると、この回転力によって突出する。
【0053】
第1車輪部材および第2車輪部材の一方は、爪部6を突出させるカム機構を備え、他方は、カム機構によって爪部6の突出の際の案内通路となるガイドレールを備えている。第1車輪部材と第2車輪部材とは、カム機構とガイドレールとを分担して有することで、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数の差が生じる場合に、爪部6を突出させる。なお、第1車輪部材と第2車輪部材とは、カム機構とガイドレールを分担して備えればよく、爪部6は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されても良い。また、爪部6は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれかに格納されていなくても、カム機構を通じて、カム機構を備える車輪と接続されていればよい。
【0054】
突出した爪部6は、段差11に引っかかりを生じさせると共に前輪3を持ち上げる。結果として前輪3は、段差11を乗り越える。なお、後輪4も前輪3と同じ構成を有しており、後輪4も段差11に衝突すると爪部6を突出させて段差11を乗り越える。
【0055】
このように、前輪3と後輪4とが爪部6を用いて段差11を乗り越えることで、走行装置1が、段差11を乗り越える。
【0056】
(車輪と車輪の動作について)
次に、図2、図3を用いて、車輪の構成および車輪の動作について説明する。図2、図3は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図2、図3は、車輪を横方向から見た図を示している。なお、図2は、第2車輪部材から第1車輪部材の内部を透視した状態を示している。
【0057】
車輪15は、図1の前輪3および後輪4に用いられる。
【0058】
車輪15は、回転可能な駆動軸20と、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材16と、第1車輪部材16の回転により回転する第2車輪部材17とを備える。第1車輪部材16と第2車輪部材17とは独立して回転可能であって、図2、図3では、第1車輪部材16の外周を第2車輪部材17が覆う。
【0059】
また、第1車輪部材16は、爪18を突出させるカム機構を備え、第2車輪部材17は、爪18の突出を案内するガイドレールを備える。爪18は、カム機構によって、第1車輪部材16と接続される。
【0060】
第1車輪部材16は、爪部を備え、爪部は複数の爪18を有しており、複数の爪18は、第1車輪部材16の内部から第1車輪部材16の外周の外部へ突出可能である。複数の爪18の突出により、車輪15は、段差や障害物を越えることができる。なお、爪部は複数の爪18を有しているが、単数の爪を有していても良い。なお、図2、図3では、第1車輪部材16が爪18を備えている構成でも良い。
【0061】
爪18は、通常の走行時には、第1車輪部材16の内部に格納されており、車輪15が段差や障害物を越える際に第1車輪部材16の外部へ突出する。図2、図3に示される車輪15は、第1車輪部材16の外周を覆う第2車輪部材17を備えているので、爪18は、第1車輪部材16の外周を起点に第2車輪部材17の外周から突出する。
【0062】
車輪15は、平坦な床面や地面を走行中においては、図2に示されるように爪18を突出させない。駆動軸20は、第1車輪部材16に回転力を与えて第1車輪部材16が回転する。第2車輪部材17は、第1車輪部材16の外周を覆っているので、第2車輪部材17は、第1車輪部材16の回転によって与えられる回転力によって回転する。ここで、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、回転力の伝導のために弾性体19で接続されている。弾性体19は、第1車輪部材16の回転力(ここでは前進する際の回転力)を、外周を覆う第2車輪部材17に伝導するすなわち、第1車輪部材16は、前進する際の回転を、弾性体19を介して第2車輪部材17に与える
床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16の回転はそのまま第2車輪部材17に与えられ、第2車輪部材17が床面や地面を前進する。すなわち、床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16と第2車輪部材17とのそれぞれの回転数に差は生じず、第1車輪部材16と第2車輪部材17とが一体となって床面や地面に対して前進動作を行う。この場合には、爪18が第1車輪部材より突出することはない。
【0063】
ここで、車輪15が段差や障害物に衝突すると、床面や地面に実際に接する第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じる。一方で、第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受けているので、回転への阻害要因は生じない。特に、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、駆動軸20を基準にして独立して回転可能なので、第2車輪部材17の回転が低減したり停止したりしたとしても、第1車輪部材16は駆動軸20から受ける回転力に従った回転を続ける。
【0064】
すなわち、車輪15が段差や障害物に衝突すると、車輪15において、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。
【0065】
ここで、爪18は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差で突出する。第1車輪部材16は、爪18に接続するカム機構を備え、第2車輪部材17は、爪18を突出させる案内通路となるガイドレールを備える。爪18は、第1車輪部材16の前進方向への回転力によって飛び出そうとし、第2車輪部材17の前進方向への回転によって格納されようとする構成(第1車輪部材16に備えられるカム機構と接続されることで実現できる)を有している。このため、第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じ、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる場合に、爪18はガイドレールを通じて外部へ突出する。図3は、このように外部へ爪18が突出した状態を示している。なお、図では、第1車輪部材16から第2車輪部材17を経由して、第2車輪部材17の外周から突出する状態を示している。
【0066】
爪18は、外部へ突出することで、車輪15を上方に持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。この結果、車輪15は、段差や障害物を乗り越えると共に段差や障害物の上を前進する。結果として、走行面に段差(階段など)や障害物がある場合でも車輪15は、これらを乗り越えて前進を続けることができる。
【0067】
なお、図2、図3では、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う形態について説明したが、第2車輪部材17が第1車輪部材16の側面に配置される形態であっても良い。
【0068】
図4は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。第1車輪部材と第2車輪部材とがそれぞれ側面同士に接続されている状態が示されている。
【0069】
第1車輪部材16は、駆動軸20に接続されており、駆動軸20の回転力をうけて回転する。第1車輪部材16は、その側面に第2車輪部材17を接続しており、第1車輪部材16自身の回転力を第2車輪部材17に伝えて第2車輪部材17を回転させる。第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で接続されており、第1車輪部材16は、この弾性体19によって第2車輪部材17に回転力を伝導する。なお、弾性体でなくとも、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、接続部材で接続されていればよい。
【0070】
ここで、第2車輪部材17の直径は第1車輪部材16の直径よりも大きく、第1車輪部材16からの回転力によって回転する第2車輪部材17が、実際の床面や地面に接して車輪15を走行させる。
【0071】
図4の車輪15の場合も、図2、図3の車輪と同様に段差や障害物に衝突すると、第2車輪部材17の回転が阻害される。第2車輪部材17の回転が阻害されても第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転を継続する。このため車輪15が段差や障害物に衝突すると、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。第1車輪部材16は、第2車輪部材17が回転を停止しても前進方向に回転を継続するので、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じる。第1車輪部材16は、カム機構を有し、第2車輪部材17は、ガイドレールを有する。第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じると、第1車輪部材16の有するカム機構が作動する。カム機構は、爪18と接続しており、爪18は、停止状態にある第2車輪部材17の備えるガイドレールに従って突出する。この結果、第2車輪部材17から爪18が外部へ突出する。
【0072】
外部へ爪18が突出すると、爪18は、床面や地面から車輪15を上方に押し上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。また、このとき第1車輪部材16は回転を継続しているので、段差や障害物の上に乗り上げた車輪15は、第1車輪部材16の回転力を用いて段差や障害物の上を回転して前進する。前進する結果、第2車輪部材17の回転への阻害要因が消滅すれば、第1車輪部材16からの回転力によって第2車輪部材17も回転して、車輪15はそのまま前進を継続する。
【0073】
以上のように、図4に示されるように、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、側面同士で接続されていてもよい。実施の形態1における車輪は、図2、図3に示されるように、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う形態であっても、図4に示されるように第1車輪部材16と第2車輪部材17とが側面同士で接続される形態であっても、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じることで爪18を突出させる。爪18は、車輪15を持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。更にこの場合でも、第1車輪部材16は、回転を停止しないので、前進方向への力も生じさせる。これらが相まって、車輪15は、段差や障害物を容易に乗り越える。勿論、乗り越えた後では、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数が均衡するので、爪18は格納され、床面や地面での走行に悪影響は生じない。
【0074】
(車輪の詳細図面)
図5〜図10に、車輪の構造図を示す。図5〜図10は、いずれも図2、図3と同様に、第2車輪部材が第1車輪部材の外周を覆う構造を有する車輪を示す。
【0075】
図5は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図5は、爪18の突出していない車輪15を側面から見た状態を示している。
【0076】
第1車輪部材16は、駆動軸20の回転力を受けるように、駆動軸20に接続している。第1車輪部材16は、駆動軸20の回転によって回転する。第1車輪部材16は、内部に爪18を格納する。第1車輪部材16は、カム機構を内蔵し、カム機構の動作によって、爪18が押し出される。カム機構は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じると、爪18を外部に突出させる。第2車輪部材17は、ガイドレール30を備えている。ガイドレール30は、爪18の突出を案内する。
【0077】
第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で接続されている。弾性体19は、バネ、ゴム、弾性素材でできた棒状体、紐、いたばね、つるまきバネなどである。弾性体19は、前進動作において、第1車輪部材16が第2車輪部材17に回転動作を伝える。このため、第2車輪部材17の回転に阻害要因が生じると、第1車輪部材16が回転を継続し、第2車輪部材17が回転を停止して、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差が生じる。ただし、爪18が突出して第2車輪部材17が回転すると、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、回転するようになって、第1車輪部材16の空転も無くなる。
【0078】
弾性体19によって、床面や地面が平坦である場合には、第1車輪部材16は第2車輪部材17に回転を伝えて、第1車輪部材16の回転数と同じ回転数で、第2車輪部材17が回転する。
【0079】
図6は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。図6は、図5の車輪を正面から見た状態を示している。
【0080】
図6も、車輪15が通常状態にあって、爪18を突出させていない。
【0081】
図7は、本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。図7は、図5、図6の車輪を斜めから見た状態を示している。図7も、爪18が突出する前の車輪15を示している。
【0082】
図5〜図7から明らかな通り、車輪15は、内周側の第1車輪部材16と外周の第2車輪部材17とを備え、第1車輪部材16が第2車輪部材17を回転させて、車輪15が走行する。
【0083】
図8は、図5〜図7に示される車輪15が段差や障害物に衝突して、爪18を突出させている状態を示す。
【0084】
図8は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図8は、第1車輪部材16から爪18が突出している状態を側面から示している。車輪15が平坦な床面や地面から段差や障害物に衝突すると、外周を覆う第2車輪部材17の回転が阻害される。第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受け続けるので、第2車輪部材17の内部において回転を継続する。このため、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じる。
【0085】
第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、弾性体19で前進方向に接続されているので、第2車輪部材17の回転が低減あるいは停止すると、弾性体19が伸びて第1車輪部材16内部に格納されているカム機構を動作させる。カム機構は爪18を接続している。カム機構が動作することで、爪18がガイドレール30を通して押し出される。カム機構は、板カム、共役カム、端面カムなど、様々なカムが含まれる。カム機構は、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差分で動作する。すなわち、カム機構は、一種のセンサーの役割を担っているともいえる。
【0086】
第2車輪部材17は、爪18の突出する位置に開放部21を備えており、爪18は第1車輪部材16あるいは第2車輪部材17の内部からこの開放部21を経由して外部に突出する。図8では、第1車輪部材16は、4つの爪18を備えており、4つの爪18が、それぞれ所定の位置から突出する。このように、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う構造を有する場合には、第2車輪部材17は、爪18が突出できる開放部21を備えておき、爪18は、この開放部21を経由して外部に突出する。
【0087】
図9は、本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。図9は、図8の車輪を正面から見た状態を示している。図8と同じく、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じ、第1車輪部材16の内部から、外周の外部へ爪18が突出している。
【0088】
図10は、本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。図10は、図8の車輪を斜めから見た状態を示している。やはり、爪18が突出している。
【0089】
図8〜10から明らかな通り、車輪15が段差や障害物に衝突すると、第2車輪部材17の回転が阻害される。この阻害の結果、第1車輪部材16の回転数と第2車輪部材17の回転数に差が生じ、第1車輪部材16の内部のカム機構が、爪18を押し出して、ガイドレール30および開放部21を経由して、爪18が外部に突出する。
【0090】
以上のように、実施の形態1における車輪は、段差や障害物に衝突しても回転動作を続ける第1車輪部材と、段差や障害物に衝突すると回転動作を低減する第2車輪部材とを備えることで、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数とに差が生じると、第1車輪部材が爪を突出させる。この爪が、車輪を上方に持ち上げるとともに段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。更には、第1車輪部材は回転を継続しているので、段差や障害物に乗り上げた後でも前進走行を継続して、結果的には、車輪が段差や障害物を乗り越えて走行できる。
【0091】
次に、各部の詳細について説明する。
【0092】
(第1車輪部材)
第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転する。また、第1車輪部材16は、爪18に接続されるカム機構を備える。
【0093】
第1車輪部材16は、ゴムタイヤ、鉄による車輪、木や樹脂による車輪など、幅広く含む。
【0094】
第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力によって回転するが、駆動軸20が例えばモータやエンジンなど自動で回転する駆動部によって回転する場合であっても、駆動軸20が手動で回転する場合であっても、駆動軸20からの回転力で回転する。例えば、車輪15が、おもちゃのラジコン、ロボット、電動車椅子、電動歩行器など、モータやエンジンなどの駆動部を有する走行装置に取り付けられている場合には、モータやエンジンからの駆動力によって、駆動軸20が回転する。一方、車輪15が、車椅子、手動のおもちゃ、手動歩行器など、手動で駆動する走行装置に取り付けられている場合には、手動によって与えられる駆動力によって駆動軸20が回転する。この駆動軸20の回転によって、第1車輪部材16は、回転する。
【0095】
このように、第1車輪部材16は、駆動軸20からの回転力を受けることで回転を行う。
【0096】
第1車輪部材16は、第2車輪部材17の内側に設けられてもよく、第2車輪部材17の側面に設けられても良い。また、第1車輪部材16は、駆動部20からの回転力を第2車輪部材17に与える機能を有し、第1車輪部材16そのものは、床面や地面に接して走行する機能を有さない。
【0097】
第1車輪部材16は、第2車輪部材17に回転力を伝えるために、第2車輪部材17と接続する。これは、第2車輪部材17が障害物に衝突して回転を停止する場合に、第1車輪部材16は駆動軸20からの回転を受けて空転することによって第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差を生じさせるためである。勿論、第2車輪部材17が爪18の働きによって障害物において動作し始めれば、第1車輪部材16と第2車輪部材17とが揃って回転するようになる。
【0098】
一例として、弾性体19によって、第1車輪部材16は第2車輪部材17と接続され、第1車輪部材16の回転が第2車輪部材17にそのまま与えられている状態では、弾性体19は定常状態にあり、第1車輪部材16の回転が第2車輪部材17に伝わる際に阻害要因が生じていれば、弾性体19は伸びた状態となる。このように、第1車輪部材16と第2車輪部材17とを接続する弾性体19は、第1車輪部材16の回転力を第2車輪部材17に伝えると共に、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数の差を検知できる。この検知によって、カム機構が作動し、爪18を突出させる。
【0099】
なお、第1車輪部材16は、駆動軸20の回転力を第2車輪部材17に伝える機能を有すればよいので、円形のみならず楕円形や多角形であってもよい。
【0100】
(第2車輪部材)
第2車輪部材17は、実際に床面や地面に接して車輪15を走行させる。また、第2車輪部材17は、爪18を突出させる案内通路となるガイドレール30を備える。
【0101】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16の外周を覆うように形成されてもよいし、第1車輪部材16の側面に形成されても良い。第2車輪部材17は、第1車輪部材16からの回転力を受けて回転し、床面や地面の上を走行する。
【0102】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16と同じ回転軸を有するが(すなわち、駆動軸20を基準に回転動作する)、第1車輪部材16とは独立して回転できる。すなわち、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、同じ回転数で回転する場合と、異なる回転数で回転する場合とが生じる。後者の場合には、第1車輪部材16と第2車輪部材17との回転数に差が生じて、後述の通り第1車輪部材16から爪18が突出する。
【0103】
第2車輪部材17も第1車輪部材16と同じく、ゴムタイヤ、鉄による車輪、木や樹脂による車輪など、幅広く含む。床面や地面を走行できればよいので、その材質・構造・製造方法の別を問うものではない。
【0104】
第2車輪部材17は、第1車輪部材16と同じく楕円形や多角形でもよいが、床面や地面に接して走行するので、円形であることが好ましい。また、第2車輪部材17が第1車輪部材16の外周を覆う構成の場合には、第1車輪部材16から突出する爪18を通すための開放部21を備えている。
【0105】
また、図4のように第1車輪部材16の側面に第2車輪部材17が設置される構成の場合には、第2車輪部材17の直径は、第1車輪部材16の直径よりも大きいことが接地の点から好適である。
【0106】
なお、第1車輪部材16と第2車輪部材17とは、「第1」、「第2」なる用語によって特段に区別されるものではなく、それぞれで必要な機能を分担できればよい。
【0107】
(爪)
次に、爪18について説明する。
【0108】
第1車輪部材16は、段差や障害物を乗り越えるための爪部を備え、この爪部は、単数または複数の爪18を備える。
【0109】
図11を用いて爪の詳細について説明する。
【0110】
図11は、本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。図11は、爪が突出した車輪15が、段差を越えようとしている状態を示している。
【0111】
第1車輪部材16は、第1車輪部材16の外周において異なる位置へ突出できる複数の爪18を備えていることも好適である。
【0112】
爪18は、車輪15を上方に持ち上げる役割と、段差に引っかかりを与える役割とを有する。爪18が単数であると、これらのいずれかの役割しか同時にはできない。このため、段差や障害物が大きいと、車輪15が十分に段差や障害物を越えられない問題もある。
【0113】
図11では、第1車輪部材16が4つの爪18を備えている。
【0114】
この4つの爪18の内、爪18aは、車輪15の下方(すなわち床面50)に対して突出し、床面50から車輪15を上方に持ち上げる。一方、同時に突出している爪18bは、車輪15の前進方向に突出し、段差51に引っかかりを与える。4つの爪18は、第1車輪部材16の異なる位置へ突出するが、異なる位置に同時に突出することで、ある爪18aは、車輪15を持ち上げる役割を担い、他の爪18bは、車輪15を段差51に引っ掛ける役割を担う。
【0115】
ここで、複数の爪18は、相互に90度以上の交差角を有することが好適である。90度以上の交差角を有することで、車輪15を上方に持ち上げる爪と車輪15を段差51に引っ掛ける爪との役割分担が可能となるからである。なお、爪同士が90度未満の交差角を有する場合には、車輪15の前進方向(段差51に向けた方向)に突出する爪18が段差51に引っかかりを与える際に、床面50の斜め前方に突出する爪18が存在することになる。このようになると、車輪15を持ち上げるよりも押し戻す力が発生するので、車輪15が段差51を超えにくくなる。このような点からも、爪18は、相互に90度以上の交差角を有していることが好ましい。
【0116】
また、爪18の一部は、滑り止めを備えていることも好適である。
【0117】
例えば、爪18の先端、あるいは表面もしくは裏面の少なくとも一部に、摩擦体や摩擦面が設けられていることが好適である。爪18は、床面50から車輪15を持ち上げたり、段差51に車輪15を引っ掛けたりする。この際に、爪18が滑り止めを有していることで、床面50や段差51に対してすべりにくくなり、段差51に衝突した車輪15が空回りすることを防止できる。
【0118】
滑り止めは、爪18に直接加工が施されていたり、滑り止め材が塗布されたり、貼付されたりすればよい。
【0119】
また、爪18の少なくとも一つは、先端にテーパー部40を有していることも好適である。テーパー部40を有していることで、床面50を爪18が蹴り上げる際に障害が少なくなるメリットがある。
【0120】
テーパー部40を有しない場合には、床面50に略垂直に爪18が突出する際に、床面50と爪18の先端との接地面積が大きくなる。このようになると、爪18は床面50に垂直に立設してしまい、車輪50を前進方向にも後退方向にも動かそうとするベクトルを生じさせてしまう。このようになると、車輪15は、段差51に衝突したところで空回りしやすい。これに対して、テーパー部40を備えていると、爪18が床面50に略垂直に立設する場合でも、爪18が床面50と接する面積が小さいので、立設する爪18は、車輪15を後退させるベクトルを生じさせにくい。更に、図11に示されるように、テーパー部が、車輪15の前進方向に形成されていることで、図11の爪18aが床面50に略垂直に立設する際に、テーパー部40が車輪15の前進方向であることで、爪18aを基準に、車輪15は前進方向に不安定となって車輪15が前方に回転する。この結果、車輪15が段差51に衝突した際でも前進方向への走行力を継続できるので、車輪15が空回りしにくくなる。
【0121】
また、爪18は、図11に示される以外の個数、形状であってもよい。また、車輪15から突出する量は、車輪の仕様や走行装置に求める性能などによって、適宜定められればよい。例えば、車輪15は、2つや3つの爪18を備えていても良い。なお、5以上の爪18を備えることを排除するものではない。
【0122】
また、爪18は、第1車輪部材16や第2車輪部材17と同一の素材で形成されてもよく、異なる素材で形成されても良い。また、段差51への引っかかりや車輪15の持ち上げなどに必要となる種々の公知技術が利用されれば良い。
【0123】
なお、爪18は、第1車輪部材16に格納されても第2車輪部材17に格納されても良い。
【0124】
以上のように、実施の形態1における車輪は、第1車輪部材の回転数と第2車輪部材の回転数との差分が生じる場合に、外周の外部へ爪を突出させて、車輪を床面から持ち上げると共に段差や障害物への引っ掛かりを生じさせる。このため、車輪は、まず段差の上に乗り上げる。更には第1車輪部材の回転が継続しているので、車輪は、段差の上を前進してやがて段差を乗り越える。段差を乗り越えた車輪における第1車輪部材と第2車輪部材との回転数は、再び同じになるので、爪は第1車輪部材の内部に格納され、平坦な床面を車輪は走行する。
【0125】
なお、実施の形態1においては、爪は第1車輪部材から突出することを基に説明したが、第1車輪部材が駆動軸によって回転すると共にカム機構を有しており、第2車輪部材内部が爪を格納している場合には、第1車輪部材のカム機構によって、第2車輪部材内部から爪が突出する。爪は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されていてもよく、第1車輪部材と第2車輪部材とは、(1)、(2)の役割分担が決められているだけである。
【0126】
(1)第1車輪部材は、駆動軸からの回転で回転し、回転力を第2車輪部材に伝える。
【0127】
(2)第2車輪部材は、第1車輪部材の回転により回転する。
【0128】
この(1)、(2)以外の役割である、(3)爪を押し出すカム機構、(4)爪を格納し突出するガイドレールを、第1車輪部材と第2車輪部材のいずれが有するかは仕様に応じて適宜定められる。但し、役割(3)と役割(4)とは、第1車輪部材と第2車輪部材とで異なって有する必要がある。
【0129】
この状態で、第1車輪部材が役割(3)を有し、第2車輪部材が役割(4)を有していれば、爪は、第2車輪部材から突出し、第1車輪部材が役割(4)を有し、第2車輪部材が役割(3)を有していれば、爪は、第1車輪部材から突出する。
【0130】
以上のように、第1車輪部材と第2車輪部材とは、役割上区別される便宜上の用語であって、役割分担に応じた動作を行えば、いずれがどの役割を担っても良い。
【0131】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0132】
実施の形態2は、実施の形態1で説明された車輪を用いた走行装置について説明する。
【0133】
実施の形態1で説明した車輪は、車輪を使って走行するあらゆる装置に適用できる。すなわち、実施の形態1で説明した車輪と、車輪の持つ駆動軸に駆動力を与える駆動手段と、車輪を取り付ける台座とを備える走行装置は、実施の形態1で説明した車輪を用いて、段差や障害物を容易に乗り越えることができる。
【0134】
走行装置は、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、室内走行機器など、様々なものである。
【0135】
車輪付きロボットの例としては、ペットロボット、掃除ロボット、イベントやショッピングセンターなどでの案内ロボット、家事ロボット、運搬ロボットなどである。
【0136】
図12〜15を用いて、走行装置および走行装置の動作について説明する。
【0137】
図12、13、14、15は、本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【0138】
図12は、走行装置60が障害物のない平坦な床面を走行している状態を示している。図13は、図12に続く図面で、走行装置60が段差70に衝突した状態を示している。図14は、図13に続く状態で、走行装置60が段差70に衝突した後、車輪15から爪18が突出し始めた状態を示している。図15は、図14に続く状態で、爪18によって車輪15が段差70を乗り越え始める状態を示している。
【0139】
走行装置60は、4つの車輪15と、4つの車輪15を取り付ける台座61と、を備えている。また、駆動部20は、車輪15に含まれる第1車輪部材へ回転力を与える。なお、図12〜15では、駆動軸20に駆動力を与える駆動手段を図示していないが、モータなどの駆動手段を走行装置60が備え、駆動手段が自動で駆動力を駆動軸20に与える構成でもよい。
【0140】
なお、車輪15は、実施の形態1で説明したように、駆動軸20の回転により回転する第1車輪部材と、第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材を備えている。図12〜15では、図面の都合上、図示していない。また、第1車輪部材は、第1車輪部材の外周の外部へ突出できる爪も備えている。
【0141】
また、台座61は、4つの車輪15を取り付けると共に、走行装置60の基台を構成する。更に、必要に応じて駆動手段を備えていても良い。
【0142】
なお、実施の形態2における走行装置60は、実施の形態1で説明した車輪15を備えることで段差や障害物を容易に乗り越える装置であるので、駆動方法やその他の動作など、走行装置にとって公知の技術については、必要に応じて用いられればよい。これらの公知技術については、説明を省略する。但し、実施の形態1の車輪を用いた走行装置の趣旨を逸脱しない公知技術を追加した種々の走行装置を、実施の形態2の走行装置は含むものである。
【0143】
図12〜15の順序で、走行装置60の動作を説明する。
【0144】
(図12の段階)
走行装置60は、平坦な床面を走行している。床面が平坦であるので、走行装置60は、車輪15の回転によって前進する。車輪15は、第1車輪部材と第2車輪部材とを備えているが、床面が平坦であるので、第2車輪部材の回転には阻害要因がなく、第1車輪部材からの回転力は全て第2車輪部材に伝わる。結果として、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数は同じである。
【0145】
第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差がないので、第1車輪部材から爪18が突出することなく車輪15は、平坦な床面の上を回転する。車輪15が床面を回転することで、走行装置60が床面上を前進する。このとき、爪18が突出しないので、走行装置60の走行に阻害は生じない。
【0146】
(図13の段階)
床面において段差70が存在することがある。図13では平坦な床面を走行してきた走行装置60が段差70に衝突している。
【0147】
車輪15は、段差70に衝突して、外輪である第2車輪部材の回転が低減もしくは停止する。
【0148】
(図14の段階)
第2車輪部材の回転が阻害されるが、第1車輪部材は駆動軸20からの回転力を受け続けるので、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差が生じる。
【0149】
ここで、第1車輪部材および第2車輪部材の一方は外部へ突出可能な爪18を備えている。爪18は、第1車輪部材と第2車輪部材との回転数に差が生じると作動するカム機構によって、突出する。図14は、爪18の突出の様子を示している。
【0150】
(図15の段階)
爪18は複数であって、爪18の突出が進むと、ある爪18は、車輪15の下方に向けて突出して、車輪15を床面から上方に持ち上げる。また別の爪18は、車輪15の前方に向けて突出して段差70への引っ掛かりを生じさせる。すなわち、前方に突出する爪18は、段差70を捉える。
【0151】
これら2つの動作が組み合わさることで、車輪15は、段差70を登り始める。図15に示されるとおりである。
【0152】
さらに、車輪15の内部で第1車輪部材は回転を続けているので、段差70の上で車輪15は前進動作も行う。この前進動作が相まって、走行装置60は、段差70を超えると共に前進も行って、段差70を乗り越える。
【0153】
以上のように、実施の形態2における走行装置60は、段差や障害物を乗り越えて前進することができる。このような走行装置60が、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器、車輪付きロボット、車輪付き玩具、室内走行機器などに幅広く適用されることで、使用者の便益が高まる。
【0154】
次に、実験例について説明する。
【0155】
(実験例)
発明者は、図16に示される試作機を製作し、実際に床面を走行させて実験を行った。図16は、本発明の実験例で試作された走行装置の模式図である。
【0156】
試作機は、次のスペックを有する走行装置である。
【0157】
(1)全長・全幅・全高 = 650mm x 400mm x 320mm
(2)重量 7.1kg
(3)モータ タミヤ製 ギヤードモータ 品番「540K300」
(4)バッテリ タミヤ製 ニッケル水素バッテリ 7.2V(ボルト) 品番「3700HV」
(5)プロポ 双葉電子工業製 品番「4EX」
(6)アンプ 双葉電子工業製 品番「MC330CR」
(7)車輪直径 150mm
(8)車輪幅 40mm
(9)爪の幅 32.5mm
この走行装置を床面で走行させ、<条件1>高さ70mmの段差、<条件2>高さ140mmの段差、の条件による床面の段差を、速度約0.3m/secにて走行させた。
【0158】
実験結果としてはいずれの条件においても、走行装置は、段差を乗り越えることができた。<条件2>の結果からは、車輪直径150mmの93%に相当する140mmの段差を超えることができることがわかる。通常の車輪では、車輪直径の3分の1程度の段差を超えるのが限界であるといわれていることを考慮すると、本発明の趣旨に従って試作された走行装置は、非常に顕著で優れた効果を奏することが分かる。
【0159】
なお、実験例は、実施の形態2における走行装置の一例であって、実施の形態1の車輪や実施の形態2の走行装置の性能の限界を示すものではない。
【0160】
また、実験例の走行装置は、車輪、駆動手段、台座だけで構成されているので、これに筐体や外部装置をつけることで、様々な走行装置に応用できる。
【0161】
なお、実施の形態2においては、爪は第1車輪部材から突出することを基に説明したが、第1車輪部材が駆動軸によって回転すると共にカム機構を有しており、第2車輪部材内部が爪を格納している場合には、第1車輪部材のカム機構によって、第2車輪部材内部から爪が突出する。爪は、第1車輪部材および第2車輪部材のいずれに格納されていてもよく、第1車輪部材と第2車輪部材とは、(1)、(2)の役割分担が決められているだけである。
【0162】
(1)第1車輪部材は、駆動軸からの回転で回転し、回転力を第2車輪部材に伝える。
【0163】
(2)第2車輪部材は、第1車輪部材の回転により回転する。
【0164】
この(1)、(2)以外の役割である、(3)爪を押し出すカム機構、(4)爪を格納し突出するガイドレールを、第1車輪部材と第2車輪部材のいずれが有するかは仕様に応じて適宜定められる。但し、役割(3)と役割(4)とは、第1車輪部材と第2車輪部材とで異なって有する必要がある。
【0165】
この状態で、第1車輪部材が役割(3)を有し、第2車輪部材が役割(4)を有していれば、爪は、第2車輪部材から突出し、第1車輪部材が役割(4)を有し、第2車輪部材が役割(3)を有していれば、爪は、第1車輪部材から突出する。
【0166】
以上のように、第1車輪部材と第2車輪部材とは、役割上区別される便宜上の用語であって、役割分担に応じた動作を行う。実施の形態2の走行装置は、このような第1車輪部材と第2車輪部材を備える車輪によって走行する。
【0167】
以上、実施の形態1〜2で説明された車輪および走行装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の実施の形態1における走行装置の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における車輪の正面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における車輪の斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態1における車輪の側面図である。
【図12】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図13】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図14】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図15】本発明の実施の形態2における走行装置の模式図である。
【図16】本発明の実験例で試作された走行装置の模式図である。
【図17】従来技術における走行装置の模式図である。
【符号の説明】
【0169】
1 走行装置
2 台座
3 前輪
4 後輪
5 シャフト
6 爪
15 車輪
16 第1車輪部材
17 第2車輪部材
18 爪
19 弾性体
20 駆動軸
21 開放部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な駆動軸と、
前記駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、
前記第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、
前記第1車輪部材と前記第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、
前記第1車輪部材および前記第2車輪部材の少なくとも一方は、前記第1車輪部材および前記第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する車輪。
【請求項2】
前記第2車輪部材の回転に阻害要因が生じる場合に、前記爪部が突出する請求項1記載の車輪。
【請求項3】
前記第1車輪部材の回転数と前記第2車輪部材の回転数と、に差が生じる場合に、前記爪部が突出する請求項1または2記載の車輪。
【請求項4】
前記第2車輪部材は、前記第1車輪部材の外周を覆う請求項1から3のいずれか記載の車輪。
【請求項5】
前記第2車輪部材は、前記第1車輪部材の側面に配置される請求項1から3のいずれか記載の車輪。
【請求項6】
前記爪部は、前記第1車輪部材の外周において、異なる位置へ突出可能な複数の爪を有する請求項1から5のいずれか記載の車輪。
【請求項7】
前記複数の爪は、相互に90度以上の交差角を有する請求項6記載の車輪。
【請求項8】
前記複数の爪の少なくとも一部は、滑り止めを有している請求項6から7のいずれか記載の車輪。
【請求項9】
前記複数の爪の少なくとも一つは、その先端にテーパー部を有している請求項6から8のいずれか記載の車輪。
【請求項10】
前記複数の爪の内、前記第1車輪部材の接地面に向けて突出する爪は、前記第1車輪部材を接地面より上昇させ、
前記複数の爪の内、前記第1車輪部材の進行方向に向けて突出する爪は、進行方向に位置する障害物への引っ掛かりを生じさせる請求項6から9のいずれか記載の車輪。
【請求項11】
前記第1車輪部材は、先端より前記爪を押し出すカム機構を有し、
前記カム機構は、前記第1車輪部材の回転数と前記第2車輪部材の回転数とに差が生じる場合に、前記爪を押し出す請求項6から10のいずれか記載の車輪。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか記載の複数の車輪と、
前記駆動軸に駆動力を与える駆動手段と、
前記複数の車輪を取り付ける台座と、を備える走行装置。
【請求項13】
前記走行装置は、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器および車輪付きロボットのいずれかである請求項12記載の走行装置。
【請求項1】
回転可能な駆動軸と、
前記駆動軸の回転により回転する第1車輪部材と、
前記第1車輪部材の回転により回転する第2車輪部材と、を備え、
前記第1車輪部材と前記第2車輪部材とは、独立して回転可能であり、
前記第1車輪部材および前記第2車輪部材の少なくとも一方は、前記第1車輪部材および前記第2車輪部材の少なくとも一方の外周へ突出可能な爪部を有する車輪。
【請求項2】
前記第2車輪部材の回転に阻害要因が生じる場合に、前記爪部が突出する請求項1記載の車輪。
【請求項3】
前記第1車輪部材の回転数と前記第2車輪部材の回転数と、に差が生じる場合に、前記爪部が突出する請求項1または2記載の車輪。
【請求項4】
前記第2車輪部材は、前記第1車輪部材の外周を覆う請求項1から3のいずれか記載の車輪。
【請求項5】
前記第2車輪部材は、前記第1車輪部材の側面に配置される請求項1から3のいずれか記載の車輪。
【請求項6】
前記爪部は、前記第1車輪部材の外周において、異なる位置へ突出可能な複数の爪を有する請求項1から5のいずれか記載の車輪。
【請求項7】
前記複数の爪は、相互に90度以上の交差角を有する請求項6記載の車輪。
【請求項8】
前記複数の爪の少なくとも一部は、滑り止めを有している請求項6から7のいずれか記載の車輪。
【請求項9】
前記複数の爪の少なくとも一つは、その先端にテーパー部を有している請求項6から8のいずれか記載の車輪。
【請求項10】
前記複数の爪の内、前記第1車輪部材の接地面に向けて突出する爪は、前記第1車輪部材を接地面より上昇させ、
前記複数の爪の内、前記第1車輪部材の進行方向に向けて突出する爪は、進行方向に位置する障害物への引っ掛かりを生じさせる請求項6から9のいずれか記載の車輪。
【請求項11】
前記第1車輪部材は、先端より前記爪を押し出すカム機構を有し、
前記カム機構は、前記第1車輪部材の回転数と前記第2車輪部材の回転数とに差が生じる場合に、前記爪を押し出す請求項6から10のいずれか記載の車輪。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか記載の複数の車輪と、
前記駆動軸に駆動力を与える駆動手段と、
前記複数の車輪を取り付ける台座と、を備える走行装置。
【請求項13】
前記走行装置は、車椅子、電動車椅子、歩行器、電動歩行器および車輪付きロボットのいずれかである請求項12記載の走行装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−234870(P2010−234870A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82849(P2009−82849)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、 知的クラスター創成事業(第2期) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、 知的クラスター創成事業(第2期) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]