説明

車輪用軸受装置

【課題】軽量・コンパクト化を図りつつ、軸受部とフェイススプライン部の密封性を確保すると共に、組立作業性を向上させた車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪5と加締部13とで挟持された状態で保護シール27が固定され、この保護シール27が、鋼板からプレス加工によって形成され、内輪5の大端面5bに密着される円板部28aと、この円板部28aから軸方向に延びる円筒状の遮蔽部28bとを備えた芯金28と、この芯金28に加硫接着により一体に接合され、加締部13側に円弧状にカールされて形成されて外側継手部材14の肩部15の外周に所定の径方向シメシロを介して弾性接触される弾性リップ29aを一体に備えたシール部材29とからなり、フェイススプライン13a、15aの噛合部が密封されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の駆動車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置に関するもので、特に、軸受部と等速自在継手とをフェイススプラインを介して着脱自在にユニット化した車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達すると共に、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要があるため、エンジン側と駆動車輪側との間に介装されるドライブシャフトの一端を摺動型の等速自在継手を介してディファレンシャルに連結し、他端を固定型の等速自在継手を含む車輪用軸受装置を介して車輪に連結している。
【0003】
近年、省資源あるいは公害等の面から燃費向上に対する要求は厳しいものがある。自動車部品において、中でも車輪用軸受装置の軽量化はこうした要求に応える要因として注目され、強く望まれて久しい。従来から軽量化を図った車輪用軸受装置に関する提案は種々のものがあるが、それと共に自動車等の組立現場あるいは補修市場において、組立・分解作業を簡略化して低コスト化を図ることも重要な要因となっている。
【0004】
図8(a)に示す車輪用軸受装置は、こうした要求を満たした代表的な一例である。この車輪用軸受装置は、複列の転がり軸受51と等速自在継手52とを着脱自在にユニット化して構成されている。複列の転がり軸受51は、車体に取り付けるための車体取付フランジ53bを一体に有し、内周に複列の外側転走面53a、53aが形成された外方部材53と、一端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ55を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面53a、53aの一方に対向する内側転走面54aと、この内側転走面54aから軸方向に延びる円筒状の小径段部54bが形成されたハブ輪54、およびこのハブ輪54の小径段部54bに圧入され、外周に前記複列の外側転走面53a、53aの他方に対向する内側転走面56aが形成された内輪56からなる内方部材57と、両転走面間に保持器58を介して転動自在に収容された複列のボール59、59とを備えている。そして、内輪56は、小径段部54bの端部を塑性変形させて形成した加締部60によってハブ輪54に対して軸方向に固定されている。さらに、この加締部60の端面にフェイススプライン60aが形成されている。
【0005】
また、外方部材53と内方部材57との間に形成される環状空間の開口部にはシール61、62が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0006】
等速自在継手52は、外側継手部材63と図示しない継手内輪、ケージ、およびトルク伝達ボールとを備え、外側継手部材63は、カップ状のマウス部64と、このマウス部64の底部をなす肩部65と、この肩部65から軸方向に延びる中空状の軸部66を一体に有し、軸部66の内周には雌ねじ66aが形成されている。また、肩部65の端面にフェイススプライン65aが形成されている。このフェイススプライン65aは、加締部60の端面に形成されたフェイススプライン60aに噛合し、ドライブシャフト(図示せず)からの回転トルクが等速自在継手52および内方部材57を介して車輪取付フランジ55に伝達される。
【0007】
軸部66の雌ねじ66aには締結ボルト67が螺着され、この締結ボルト67によって外側継手部材62と内方部材57の対向する両フェイススプライン65a、60aが圧接支持され、複列の転がり軸受51と等速自在継手52とが着脱自在にユニット化されている。これにより、軽量・コンパクト化を図ることができると共に、分解・組立作業が簡素化される。
【0008】
ここで、シール62は、図8(b)に示すように、互いに対向配置された環状のシール板68とスリンガ69とからなる複合型のシールで構成されている。シール板68は外方部材53に装着される芯金70と、この芯金70に加硫接着により一体に接合されたシール部材71とからなる。シール部材71は、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ71aと、軸受外方側に傾斜して延びるグリースリップ71bとを有している。
【0009】
一方、スリンガ69は、内輪56の外径に圧入される円筒部69aと、この円筒部69aから径方向外方に延びる立板部69bとを備え、シール部材71のサイドリップ71aが立板部69bに摺接されると共に、グリースリップ71bが円筒部69aに摺接されている。スリンガ69の円筒部69aは重合して形成され、円筒部69aの端部からさらに軸方向に延び、内輪56の端面より突出して形成された端部脚辺69cを備え、その端部に弾性リップ72が一体に接合されている。そして、この弾性リップ72によってフェイススプライン65a、60aが、泥水等の異物の侵入に対して保護されている。したがって、シール62は、複列の転がり軸受51の内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止するだけでなく、フェイススプライン65a、60aの噛合部を密封するという付加機能も備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2009−543009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
然しながら、こうした従来のシール62では、スリンガ69の円筒部69aが大きく折り曲げて重合されているため、組立性が低下すると共に、円筒部69aの精度を確保することが難しく、シール部材71とのシメシロがばらついて耐泥水性の低下やシールトルクが通常のシールに比べて大きくなる恐れがある。
【0012】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、軽量・コンパクト化を図りつつ、軸受部とフェイススプライン部の密封性を確保すると共に、組立作業性を向上させた車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、複列の転がり軸受と等速自在継手が着脱自在にユニット化された車輪用軸受装置であって、前記複列の転がり軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、雌ねじが形成された円筒状の軸部とを一体に有する外側継手部材を備え、この外側継手部材の肩部と前記加締部の端面にそれぞれフェイススプラインが形成され、前記ハブ輪のアウター側の端面に当接して前記軸部の雌ねじに螺着された締結ボルトによって前記フェイススプラインが圧接支持され、前記複列の転がり軸受と等速自在継手とがトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に結合された車輪用軸受装置において、前記内輪と加締部とで挟持された状態で保護シールが固定され、この保護シールが、芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記外側継手部材の肩部に弾性接触される弾性リップを一体に備えたシール部材とからなり、前記フェイススプラインの噛合部が密封されている。
【0014】
このように、ハブ輪の小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により内輪がハブ輪に固定されると共に、外側継手部材の肩部と加締部の端面にそれぞれフェイススプラインが形成され、ハブ輪のアウター側の端面に当接して軸部の雌ねじに螺着された締結ボルトによって両フェイススプラインが圧接支持され、複列の転がり軸受と等速自在継手とがトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に結合された車輪用軸受装置において、内輪と加締部とで挟持された状態で保護シールが固定され、この保護シールが、芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、外側継手部材の肩部に弾性接触される弾性リップを一体に備えたシール部材とからなり、フェイススプラインの噛合部が密封されているので、軽量・コンパクト化を図りつつ、軸受部とフェイススプラインの噛合部の密封性を確保すると共に、組立の作業性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0015】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記芯金が鋼板からプレス加工によって形成され、前記内輪の大端面に密着される円板部と、この円板部から軸方向に延びる円筒状の遮蔽部とを備え、この遮蔽部の端部に前記シール部材が接合されていれば、軸受部のシール性能を確保しつつ、軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明のように、前記弾性リップが前記加締部側に円弧状にカールされて形成され、前記外側継手部材の肩部の外周に所定の径方向シメシロを介して弾性接触されていれば、組立時に弾性リップが捲れ込んで反転するのを防止することができ、品質向上を図って信頼性を高めることができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明のように、前記弾性リップが径方向外方に傾斜して延び、前記外側継手部材の肩部に軸方向シメシロを介して弾性接触されていれば、組立時に弾性リップが捲れ込んで反転するのを防止することができると共に、保護シールに浸入してきた泥水を効果的に路面側に流出させることができ、軸受部とフェイススプラインの噛合部の密封性を一層向上させることができる。
【0018】
また、請求項5に記載の発明のように、前記内輪の大端面に段差部が形成され、この段差部に密着された状態で前記芯金の円板部が固定されていれば、加締部の押し込み強度を確保した状態で保護シールを安定して固定することができる。
【0019】
また、請求項6に記載の発明のように、前記内輪の端部内径に凹部が形成され、この凹部に嵌合される鍔部を前記芯金が備えていれば、保護シールを内輪に嵌合固定した状態で加締加工をすることができ、保護シールを安定して固定することができると共に、組立作業性を一層向上させることができる。
【0020】
また、請求項7に記載の発明のように、前記シール部材が前記芯金の外表面を覆う被覆部を備えていれば、芯金の材質としてステンレス鋼板等の高価な鋼板を使用しなくても加工性が良好な冷間圧延鋼板を使用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0021】
また、請求項8に記載の発明のように、前記シール部材が前記内輪の大端面に弾性接触する被覆部を備えていれば、保護シールと内輪の大端面との密着部から泥水等の異物が侵入するのを防止して気密性を向上させることができる。
【0022】
また、請求項9に記載の発明のように、前記芯金がZAM鋼板から形成されていれば、低コストで高耐食性を得ることができる。
【0023】
また、請求項10に記載の発明のように、前記シール部材が合成ゴムからなり、このシール部材の温度TR10が−35℃以下に設定されていれば、低温雰囲気でも弾性リップの追従性を維持することができ、耐泥水性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る車輪用軸受装置は、複列の転がり軸受と等速自在継手が着脱自在にユニット化された車輪用軸受装置であって、前記複列の転がり軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、雌ねじが形成された円筒状の軸部とを一体に有する外側継手部材を備え、この外側継手部材の肩部と前記加締部の端面にそれぞれフェイススプラインが形成され、前記ハブ輪のアウター側の端面に当接して前記軸部の雌ねじに螺着された締結ボルトによって前記フェイススプラインが圧接支持され、前記複列の転がり軸受と等速自在継手とがトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に結合された車輪用軸受装置において、前記内輪と加締部とで挟持された状態で保護シールが固定され、この保護シールが、芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記外側継手部材の肩部に弾性接触される弾性リップを一体に備えたシール部材とからなり、前記フェイススプラインの噛合部が密封されているので、軽量・コンパクト化を図りつつ、軸受部とフェイススプラインの噛合部の密封性を確保すると共に、組立の作業性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のシール部を示す要部拡大図である。
【図3】図2の保護シールの変形例を示す要部拡大図である。
【図4】図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図5】同上、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図6】同上、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図7】同上、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図8】(a)は、従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図、(b)は、(a)のシール部を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
複列の転がり軸受と等速自在継手が着脱自在にユニット化された車輪用軸受装置であって、前記複列の転がり軸受が、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、雌ねじが形成された円筒状の軸部とを一体に有する外側継手部材を備え、この外側継手部材の肩部と前記加締部の端面にそれぞれフェイススプラインが形成され、前記ハブ輪のアウター側の端面に当接して前記軸部の雌ねじに螺着された締結ボルトによって前記フェイススプラインが圧接支持され、前記複列の転がり軸受と等速自在継手とがトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に結合された車輪用軸受装置において、前記内輪と加締部とで挟持された状態で保護シールが固定され、この保護シールが、鋼板からプレス加工によって形成され、前記内輪の大端面に密着される円板部と、この円板部から軸方向に延びる円筒状の遮蔽部とを備えた芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記加締部側に円弧状にカールされて形成されて前記外側継手部材の肩部の外周に所定の径方向シメシロを介して弾性接触される弾性リップを一体に備えたシール部材とからなり、前記フェイススプラインの噛合部が密封されている。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のシール部を示す要部拡大図、図3は、図2の保護シールの変形例を示す要部拡大図、図4は、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図、図5は、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図、図6は、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図、図7は、図2の保護シールの他の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0028】
この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と複列の転がり軸受2がユニット化された所謂第3世代と称される構成を備え、これに等速自在継手3が軸方向に着脱自在に連結されている。複列の転がり軸受2は、外方部材7と内方部材8と複列の転動体(ボール)9、9とを備えている。
【0029】
外方部材7はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、外周に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ7bを一体に有し、内周には複列の外側転走面7a、7aが一体に形成されている。そして、少なくとも複列の外側転走面7a、7aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に所定の硬化層が形成されている。
【0030】
一方、内方部材8は、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入固定された内輪5とからなり、前記した外方部材7の外側転走面7a、7aに対向する複列の内側転走面1a、5aが形成されている。これら複列の内側転走面1a、5aのうち一方(アウター側)の内側転走面1aがハブ輪1の外周に直接形成されると共に、他方(インナー側)の内側転走面5aが内輪5の外周に形成されている。そして、複列の転動体9、9がこれら両転走面間にそれぞれ収容され、保持器10、10によって転動自在に保持されている。また、外方部材7と内方部材8との間に形成される環状空間の開口部にはシール11、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0031】
ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成されている。このハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、内側転走面1aをはじめ、アウター側のシール11のシールランド部となる車輪取付フランジ4のインナー側の基部4aから小径段部1bに亙る外周面に高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、後述する加締部13は、鍛造加工後の硬さ(13〜30HRC)のままとされている。これにより、シールランド部の耐摩耗性が向上するばかりでなく、車輪取付フランジ4に負荷される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、ハブ輪1の耐久性が一層向上する。なお、内輪5および転動体9はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0032】
内輪5はハブ輪1の小径段部1bに所定のシメシロを介して圧入され、小径段部1bの端部を塑性変形(揺動加締)させて形成した加締部13によって所望の軸受予圧が付与された状態で軸方向に固定されている。そして、加締部13の端面には、揺動加締時にフェイススプライン13aが塑性加工によって形成されている。なお、ここでは、転動体9にボールを使用した複列のアンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず、転動体9に円錐ころを使用した複列の円錐ころ軸受であっても良い。
【0033】
等速自在継手3は、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなる外側継手部材14と、図示しない継手内輪とケージおよびトルク伝達ボールからなる。外側継手部材14は、図示しないカップ状のマウス部の底部をなす肩部15と、この肩部15から軸方向に延びる円筒状の軸部16を有し、肩部15の端面には加締部13のフェイススプライン13aに噛合するフェイススプライン15aが外側継手部材14の冷間鍛造後に揺動加工などの冷間塑性加工、または切削加工等の機械加工によりにより形成されると共に、軸部16の内周には雌ねじ16aが形成されている。
【0034】
これらの複列の転がり軸受2および等速自在継手3は、軸部16の雌ねじ16aに締結ボルト17が円錐コイルばね等の弾性部材18を介して螺着されることによって、外側継手部材14の肩部15とハブ輪1の加締部13との対向する両フェイススプライン15a、13aが圧接支持され、着脱自在にユニット化されている。
【0035】
シール11、12のうちアウター側のシール11は、固定側部材となる外方部材7のアウター側端部の内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金19と、この芯金19に接合されたシール部材20とからなる一体型のシールで構成されている。芯金19は、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略L字状に形成されている。
【0036】
一方、シール部材20はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、車輪取付フランジ4のインナー側の側面に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップ20aと、この内径側で、径方向外方に傾斜して延び、断面が円弧状に形成された基部4aに所定の軸方向シメシロを介して摺接するダストリップ20bと、軸受内方側に傾斜して延び、基部4aに所定の径方向すきまを介して対向するグリースリップ20cを有している。なお、シール部材20の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0037】
また、インナー側のシール12は、図2に拡大して示すように、互いに対向配置された環状のシール板21とスリンガ22とからなる複合型のシール、所謂パックシールで構成されている。シール板21は外方部材7に装着される芯金23と、この芯金23に加硫接着により一体に接合されたシール部材24とからなる。
【0038】
芯金23は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略L字状に形成され、外方部材7に圧入され、端部が僅かに縮径されて薄肉に形成された円筒状の嵌合部23aと、この嵌合部23aから径方向内方に延びる内径部23bとを備えている。
【0039】
シール部材24は、NBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ24aと、軸受内方側に二股状に傾斜して延びるグリースリップ24cとダストリップ24bとを有している。そして、芯金23の嵌合部23aの端部外表面から内径部23bの内縁まで回り込んで固着され、気密性の向上を図っている。なお、シール部材24の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPM、EPDM等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0040】
一方、スリンガ22は断面略L字状に形成され、内輪5の外径に圧入される円筒部22aと、この円筒部22aから径方向外方に延びる立板部22bとを備えている。そして、シール部材24のサイドリップ24aが立板部22bに所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、グリースリップ24cとダストリップ24bが円筒部22aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。さらに、スリンガ22における立板部22bは、シール板21と僅かな径方向すきまを介して対峙し、ラビリンスシール25が構成されている。
【0041】
また、立板部22bの側面に磁気エンコーダ26が加硫接着等で一体に接合されている。この磁気エンコーダ26は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向等配で交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。そして、シール板21のインナー側の端面と磁気エンコーダ26の端面とが面一に設定されている。これにより、シール組立時に所定のシメシロを維持した状態でシール板21とスリンガ22を同時に外方部材7と内輪5に圧入することができ、組立作業性が向上すると共に、シール12の位置決め精度を高めることができる。ここで、前記「略面一」の略とは、各部材の出来具合や接合時の誤差程度のものも含む意味であり、具体的には±0.1mm程度である。
【0042】
ここで、本実施形態では、保護シール27が内輪5の大端面5bと加締部13との間に挟持された状態で固定されている。この保護シール27は、芯金28と、この芯金28に加硫接着により一体に接合されたシール部材29とからなる。芯金28はオーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板、あるいは、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの緻密な三元共晶組織からなる高耐食性溶融めっき鋼板(ZAM鋼板と呼称されている)等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略L字状に形成され、内輪5の大端面5bに密着される円板部28aと、この円板部28aから軸方向に延びる円筒状の遮蔽部28bとを備えている。なお、芯金28は、防錆能を有する鋼板に限らず、例えば、冷間圧延鋼板にカチオン電着塗装等の塗装が施されたものであっても良い。
【0043】
シール部材29はNBR等の合成ゴムからなり、加締部13側に円弧状にカールされた弾性リップ29aを備えている。そして、この弾性リップ29aは、外側継手部材14の肩部15の外周に所定の径方向シメシロを介して弾性接触されている。このように、弾性リップ29aが加締部13側に円弧状にカールされているので、組立時に弾性リップ29aが捲れ込んで反転するのを防止することができ、品質向上を図って信頼性を高めることができる。
【0044】
また、本実施形態では、シール部材29の低温弾性回復率10%を示す温度TR10(ゴムの弾性を表わす指標)が−35℃以下に設定されている。これにより、低温雰囲気でもリップ追従性を維持することができ、耐泥水性を発揮することができる。なお、シール部材29の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPM、EPDM等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0045】
このように、本実施形態では、保護シール27が、加締部13によって一体に固定され、その弾性リップ29aが外側継手部材14の肩部15の外周に弾性接触されているので、軽量・コンパクト化を図りつつ、軸受部とフェイススプライン13a、15aの噛合部の密封性を確保すると共に、組立の作業性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0046】
図3に示す保護シール30は、前述した保護シール27の変形例である。なお、この保護シール30は、芯金28’と、この芯金28’に加硫接着により一体に接合されたシール部材29とからなる。芯金28’はオーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板、あるいは、ZAM鋼板等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略L字状に形成され、内輪5’の大端面に形成された段差部31に密着される円板部28a’と、この円板部28a’から軸方向に延びる円筒状の遮蔽部28bとを備えている。
【0047】
本実施形態では、保護シール30の芯金28’が内輪5’の段差部31に密着された状態で固定されているので、加締部13の押し込み強度を確保した状態で保護シール30を安定して固定することができる。
【0048】
図4に示す保護シール32は、前述した保護シール27の他の変形例である。なお、この保護シール32は、芯金33と、この芯金33に加硫接着により一体に接合されたシール部材29とからなる。芯金33はオーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板、あるいは、ZAM鋼板等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて断面略L字状に形成され、内輪5”の端部内径に形成された凹部34に嵌合される鍔部33aと、この鍔部33aから径方向外方に延び、内輪5”の大端面5bに密着される円板部28aと、この円板部28aから軸方向に延びる円筒状の遮蔽部28bとを備えている。
【0049】
本実施形態では、保護シール32の芯金33が内輪5”の凹部34に嵌合される鍔部33aを備えているので、保護シール32を内輪5”に嵌合固定した状態で加締加工をすることができ、保護シール32を安定して固定することができると共に、組立作業性を一層向上させることができる。
【0050】
図5に示す保護シール35は、前述した保護シール27の他の変形例である。なお、この保護シール35は、芯金28と、この芯金28に加硫接着により一体に接合されたシール部材36とからなる。シール部材36はNBR等の合成ゴムからなり、円弧状にカールされた弾性リップ29aと、芯金28の外表面を覆い、内輪5の大端面5bに一部弾性接触する被覆部36aを備えている。これにより、保護シール35と内輪5の大端面5bとの密着部から泥水等の異物が侵入するのを防止して気密性を向上させることができると共に、芯金28の材質としてステンレス鋼板等の高価な鋼板を使用しなくても加工性が良好な冷間圧延鋼板を使用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0051】
図6に示す保護シール37は、前述した保護シール27の他の変形例である。なお、この保護シール37は、芯金28と、この芯金28に加硫接着により一体に接合されたシール部材29、および内輪5の大端面5bに弾性接触する被覆部38を備えている。被覆部38はNBR等の合成ゴムからなり、保護シール37と内輪5の大端面5bとの密着部から泥水等の異物が侵入するのを防止することができる。
【0052】
図7に示す保護シール39は、前述した保護シール27の他の変形例である。なお、この保護シール39は、芯金28と、この芯金28に加硫接着により一体に接合されたシール部材40とからなる。シール部材40はNBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びる弾性リップ40aを備えている。この弾性リップ40aは、外側継手部材14の肩部15に軸方向シメシロを介して弾性接触されているので、前述した弾性リップと同様、組立時に弾性リップ40aが捲れ込んで反転するのを防止することができると共に、保護シール39に浸入してきた泥水を効果的に路面側に流出させることができ、軸受部とフェイススプライン13a、15aの噛合部の密封性を一層向上させることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪と複列の転がり軸受とが加締部によってユニット化された第1世代乃至第3世代構造の軸受部と等速自在継手とがフェイススプラインを介して着脱自在に連結された車輪用軸受装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ハブ輪
1a、5a 内側転走面
1b 小径段部
2 複列の転がり軸受
3 等速自在継手
4 車輪取付フランジ
4a 車輪取付フランジのインナー側の基部
5、5’、5” 内輪
5b 内輪の大端面
7 外方部材
7a 外側転走面
7b 車体取付フランジ
8 内方部材
9 転動体
10 保持器
11 アウター側のシール
12 インナー側のシール
13 加締部
13a、15a フェイススプライン
14 外側継手部材
15 肩部
16 軸部
16a 雌ねじ
17 締結ボルト
18 弾性部材
19、23、28、28’、33 芯金
20、24、29、36、40 シール部材
20a、24a サイドリップ
20b、24b ダストリップ
20c 、24c グリースリップ
21 シール板
22 スリンガ
22a 円筒部
22b 立板部
23a 嵌合部
23b 内径部
25 ラビリンスシール
26 磁気エンコーダ
27、30、32、35、37、39 保護シール
28a、28a’ 円板部
28b 遮蔽部
29a、40a 弾性リップ
31 内輪の段差部
33a 鍔部
34 内輪の凹部
36a、38 被覆部
51 複列の転がり軸受
52 等速自在継手
53 外方部材
53a 外側転走面
53b 車体取付フランジ
54 ハブ輪
54a、56a 内側転走面
54b 小径段部
55 車輪取付フランジ
56 内輪
57 内方部材
58 保持器
59 ボール
60 加締部
60a、65a フェイススプライン
61、62 シール
63 外側継手部材
64 マウス部
65 肩部
66 軸部
66a 雌ねじ
67 締結ボルト
68 シール板
69 スリンガ
69a 円筒部
69b 立板部
69c 端部脚辺
70 芯金
71 シール部材
71a サイドリップ
71b グリースリップ
72 弾性リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転がり軸受と等速自在継手が着脱自在にユニット化された車輪用軸受装置であって、
前記複列の転がり軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、
前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、
前記等速自在継手が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、雌ねじが形成された円筒状の軸部とを一体に有する外側継手部材を備え、
この外側継手部材の肩部と前記加締部の端面にそれぞれフェイススプラインが形成され、前記ハブ輪のアウター側の端面に当接して前記軸部の雌ねじに螺着された締結ボルトによって前記フェイススプラインが圧接支持され、前記複列の転がり軸受と等速自在継手とがトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に結合された車輪用軸受装置において、
前記内輪と加締部とで挟持された状態で保護シールが固定され、この保護シールが、芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記外側継手部材の肩部に弾性接触される弾性リップを一体に備えたシール部材とからなり、前記フェイススプラインの噛合部が密封されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記芯金が鋼板からプレス加工によって形成され、前記内輪の大端面に密着される円板部と、この円板部から軸方向に延びる円筒状の遮蔽部とを備え、この遮蔽部の端部に前記シール部材が接合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記弾性リップが前記加締部側に円弧状にカールされて形成され、前記外側継手部材の肩部の外周に所定の径方向シメシロを介して弾性接触されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記弾性リップが径方向外方に傾斜して延び、前記外側継手部材の肩部に軸方向シメシロを介して弾性接触されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記内輪の大端面に段差部が形成され、この段差部に密着された状態で前記芯金の円板部が固定されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記内輪の端部内径に凹部が形成され、この凹部に嵌合される鍔部を前記芯金が備えている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記シール部材が前記芯金の外表面を覆う被覆部を備えている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記シール部材が前記内輪の大端面に弾性接触する被覆部を備えている請求項1または7に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記芯金がZAM鋼板から形成されている請求項1または2に記載された車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記シール部材が合成ゴムからなり、このシール部材の温度TR10が−35℃以下に設定されている請求項1に記載された車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187957(P2012−187957A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51405(P2011−51405)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】