説明

軟カプセル剤皮膜組成物

【課題】 植物性の基剤からなり、水に対する溶解性が良く、低温・低湿度下での強度が改善し、更に耐熱性に優れて変形や付着(連球)しにくいシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物を得ること。
【解決手段】 植物性の基剤としてデキストリンと寒天を用いるとともに、基剤に混合するゲル化剤としてカラギーナンを用いたシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物であって、デキストリンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で11%重量部以下、寒天の配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.5〜1.5%重量部、カラギーナンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.3〜1.6%重量部であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟カプセル剤皮膜組成物に関する。シームレスカプセルは医薬品、食品、化粧品、医薬部外品など幅広い分野で応用されている。本発明はシームレスカプセルの皮膜組成物の基剤として、植物性の基剤(デキストリン、寒天)を用いたものである。
【背景技術】
【0002】
シームレスカプセルの製法は、外側がカプセル皮膜液、内側がカプセル内容物からなる二層性の液流を、一定間隔で切断しながら疎水性の油液等に導入することにより、球体となる皮膜液により内容液を包んで充填カプセルを作り、次いでその充填カプセルを乾燥して皮膜液と内容液から水分を取り除き、乾燥された軟カプセルを得る。
【0003】
従来から、シームレスカプセル用皮膜組成物の基剤として、特許文献1、2に記載の如く、ゼラチン、デキストリン、寒天等が用いられている。
【特許文献1】特開平9-25228
【特許文献2】特開2004-167084
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(1)シームレスカプセル用皮膜組成物の基剤として現在最も多く用いられているのはゼラチンである。ゼラチンは主にウシ、ブタ等の骨、皮を原料として作られており、近年のBSEの問題により植物性の基剤を用いたシームレスカプセル用皮膜組成物の提供が望まれている。
【0005】
(2)寒天をシームレスカプセル用皮膜組成物の単一基剤として用いたカプセル皮膜は水に対する溶解性が悪く、そのため用途が限られ特に医薬用としての利用は不可能であり、その改善が必要である。
【0006】
(3)シームレスカプセル用皮膜組成物の基剤としてデンプンやデキストリンも用いられているが、これらを用いたカプセル皮膜は低温・低湿度下での強度が極端に低下する。これを防ぐためにグリセリン等の可塑剤を大量に添加したカプセル皮膜は耐熱性が低下し、変形や付着(連球:カプセル同士が溶着した状態)し易くなってしまう。
【0007】
本発明の課題は、植物性の基剤からなり、水に対する溶解性が良く、低温・低湿度下での強度が改善し、更に耐熱性に優れて変形や付着(連球)しにくいシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、植物性の基剤としてデキストリンと寒天を用いるとともに、基剤に混合するゲル化剤としてカラギーナンを用いたシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物であって、デキストリンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で11%重量部以下、寒天の配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.5〜1.5%重量部、カラギーナンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.3〜1.6%重量部であるようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記基剤に混合する可塑剤としてグリセリンを用い、グリセリンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で1.6〜4.8%であるようにしたものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記基剤に混合するゲル化促進剤としてカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩から選ばれる1種以上を含むようにしたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の皮膜組成物からなる皮膜に内容物を装填したシームレスカプセルである。
尚、前記基剤としてプルランを用いることもできる。
【0012】
また、前記基剤に混合するゲル化剤であるカラギーナンとして、カッパカラギーナン、イオタカラギーナンを用いることができる。
【0013】
また、前記基剤に混合する可塑剤として、グリセリンの他、白糖、トレハロース等の二糖類を用い、カプセル皮膜強度の向上、カプセル皮膜崩壊時間の短縮を実現できる。
【0014】
また、前記基剤に混合する安定化剤として、グリセリン脂肪酸エステルを用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物性の基剤からなり、水に対する溶解性が良く、更に低温・低湿度下においても十分な強度を持ち、耐熱性にも優れたシームレスカプセル用の軟カプセル皮膜組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(A)皮膜液ボール(内容液非装填)の製造実験(表1〜表10)
比較例1、2及び実施例1〜36に示す皮膜処方によりカプセル皮膜液を調製し、この皮膜液を液温度約80℃にて油液中に滴下し皮膜液ボールを製造し、その成形性(ゲル化性、球状化性、弾力性、粘性等)を評価した。
【0017】
比較例1、2においては基剤に寒天のみを用いて皮膜液ボールを製造した。どちらの処方においても皮膜液ボールは成形された。比較例1においては弾力性の少ない、やや弱いゲルとなった。
【0018】
実施例1〜3、実施例10〜12においては基剤にデキストリン、寒天を用い、ゲル化剤としてカッパカラギーナンを用いた。更に、ゲル化促進剤として塩化カリウムを添加した。
【0019】
実施例1〜3では精製水の量を徐々に増加して皮膜液の粘度を下げたが、ゲル化性、球状化性及び弾力性とも良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0020】
実施例4〜6においては、塩化カリウムの量を徐々に増加したが、良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0021】
実施例7〜9、実施例17〜20においては、寒天の量を徐々に増加したが、良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0022】
実施例13〜16においては、固形分中の寒天、カラギーナンの配合割合を徐々に増加したが、良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0023】
実施例21〜24においては、グリセリン脂肪酸エステルを添加した。やや不透明な皮膜液ボールとなったが、その他の点については良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0024】
実施例25〜27においては、ゲル化剤にカッパカラギーナンとイオタカラギーナンを用いた。イオタカラギーナンの添加に伴ない、やや弱いゲルとなったが、その他の点においては良好な皮膜液ボールが製造できた。カリウム塩及びカルシウム塩を調整することにより、ゲルの強度は改善できるものと思われる。
【0025】
実施例28〜30においては、寒天の配合割合をカラギーナンより増やした処方とした。この場合においても、良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0026】
実施例31〜36においては、基剤としてプルランを添加した。この場合においても、良好な皮膜液ボールが製造できた。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
【表8】

【0035】
【表9】

【0036】
【表10】

【0037】
(B)シームレスカプセルの製造実験(表11〜16)
比較例3〜7、実施例37〜47に記載の皮膜処方によりカプセル皮膜液を調製し、シームレス式カプセル充填機によりシームレスカプセルを製造した。製造したシームレスカプセルの製剤性(球状化性、弾力性等)及び水に対する溶解性(日本薬局方第14改正崩壊試験法による)を評価した。また、冷却テスト、過乾燥テスト及び付着性テストを実施し、低温・低湿度での強度及び加温時の耐熱性等についても同時に評価した。
【0038】
冷却テスト:カプセル30球をガラスビンに入れ密栓した後、−13℃以下で7日間保
管し、カプセル皮膜の低温下での割れの有無を確認する。
【0039】
過乾燥テスト:カプセル30球をシャーレに入れ(開放)、約20%RHで7日間保
管し、カプセル皮膜の低湿度下での割れの有無を確認する。
【0040】
付着性テスト:カプセルをガラスビン(6号規格ビン)に3分目程度入れ密栓した後、
60℃で7日間保管し、カプセル皮膜の耐熱性、カプセル皮膜の変形(へ
こみ)及び付着(溶着)(連球)の有無を確認する。
【0041】
比較例3は皮膜組成物がデキストリン、カッパカラギーナン、可塑剤(グリセリン、ソルビトール)、塩化カリウムからなるカプセルである。このカプセルは低温・低湿度において割れが発生した。
【0042】
比較例4では可塑剤として用いられているソルビトールを配合せず(ソルビトールは低温・低湿度下ではカプセル皮膜を硬化させる性質があるため)、更にカプセル皮膜の柔軟性を増すためにグリセリン量を増加した。低温時の割れの改善はできたが、低湿度下での割れは改善できなかった。逆に、耐熱性が低下し、付着テストにおいて変形・付着が発生した。
【0043】
比較例5においては、更にグリセリン量を増加して低湿度下での割れを改善したが、耐熱性は更に低下してしまった。
【0044】
比較例6は皮膜組成物が寒天、可塑剤(グリセリン)からなるカプセルである。このカプセルは低温・低湿度下での割れは発生しなかったが、水に対する溶解性が悪く崩壊性試験不適合であった。
【0045】
比較例7は皮膜組成物が寒天、カッパカラギーナン、可塑剤(グリセリン)からなるカプセルである。水に対する溶解性が良く、低温・低湿度での強度も優れているがグリセリン量が多いことにより、カプセル皮膜が非常に柔らかいため軽く抑えただけで簡単に変形してしまい、加温するとカプセル皮膜に大きなへこみが発生した。
【0046】
本発明に係る実施例37〜47で得られたカプセル皮膜は水に対する溶解性に優れ、低温・低湿度での割れも発生せず、更に加温時での耐熱性にも優れていた(変形・付着も発生しなかった)。寒天の配合量が多い皮膜処方(実施例40)ではカプセル皮膜率(カプセルの全重量に占める皮膜重量の割合)が20%を超えると水に対する溶解性が低下したが、寒天の配合量が多い皮膜処方でも白糖を添加することにより溶解性は改善された(実施例44)。
【0047】
【表11】

【0048】
【表12】

【0049】
【表13】

【0050】
【表14】

【0051】
【表15】

【0052】
【表16】

【0053】
(C)作用
皮膜組成物に植物性素材であるデキストリン、寒天、カラギーナン及びゲル化促進剤(カリウム塩等)、可塑剤(グリセリン等)を用いることにより、水に対する溶解性が良く、低温・低湿度下での強度があり、更に耐熱性にも優れたシームレスカプセルを得ることができる。この皮膜組成物には、白糖、トレハロース等の二糖類を添加することによりカプセル強度を向上し、カプセル崩壊時間を短縮することもできる。
【0054】
デキストリンの配合量は11%重量部以下であることが好ましい(実施例11、13)。配合量が11%重量部以上では皮膜液粘度が高くカプセル成形性が低下する。
【0055】
寒天の配合量は0.5〜1.5%重量部であることが好ましい(実施例20、36)。更に好ましくは0.6〜1.3%重量部である。配合量0.5%重量部以下では低温・低湿度下での強度を保つことができない。また、配合量1.5%重量部以上では水に対する溶解性が低下し、皮膜液粘度も高くカプセル成形性が低下する。
【0056】
カラギーナンの配合量は0.3〜1.6%重量部であることが好ましい(実施例15、26)。更に好ましくは0.8〜1.4%重量部である。配合量0.3%重量部以下ではゲル化が起こらずカプセル製造ができない。また、配合量1.6%重量部以上では皮膜液粘度が高くカプセル成形性が低下する。
【0057】
グリセリンの配合量は1.6〜4.8%重量部であることが好ましい(実施例1、30、37、40)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性の基剤としてデキストリンと寒天を用いるとともに、基剤に混合するゲル化剤としてカラギーナンを用いたシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物であって、
デキストリンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で11%重量部以下、寒天の配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.5〜1.5%重量部、カラギーナンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で0.3〜1.6%重量部であるシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物。
【請求項2】
前記基剤に混合する可塑剤としてグリセリンを用い、グリセリンの配合量が乾燥前の皮膜液段階で1.6〜4.8%である請求項1に記載のシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物。
【請求項3】
前記基剤に混合するゲル化促進剤としてカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩から選ばれる1種以上を含む請求項1又は2に記載のシームレスカプセル用の軟カプセル剤皮膜組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の皮膜組成物からなる皮膜に内容物を装填したシームレスカプセル。

【公開番号】特開2007−161653(P2007−161653A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361046(P2005−361046)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(391010976)富士カプセル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】