説明

軟骨形成に寄与する分子の阻害によるテンディノパシーの治療

本発明は、テンディノパシーの治療法を提供する。治療または予防される障害は、例えば、テンディニティス、テンドニティス、テンディノシス、パラテンディニティス、腱滑膜炎、腱酷使損傷および外傷、腱周囲炎、パラテノニティス、または他の腱変性障害を包含する。開示される治療法は、患者に対し、テンディノパシーを受けた腱における軟骨または繊維軟骨形成に関与する分子の阻害剤を腱変性障害の治療または予防に有効な量で投与することを含み、腱悪化を遅らせ、腱の健康な構造を復旧し、腱再生を刺激し、および/または腱質量および/または質を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の記載
先行出願
本出願は、2006年3月3日に出願された米国仮特許出願番号第60/779,165号に対して優先権を主張し、その内容は、出典明示により本明細書の一部とされる。
【0002】
発明の分野
本発明の技術分野は、損傷を受けた腱において、軟骨および/または繊維軟骨組織の産生を減少させることによるテンディノパシー(tendinopathy)の治療に関する。本発明は、さらに、損傷を受けた腱における軟骨および/または繊維軟骨組織の産生に関与する分子の阻害に関する。
【背景技術】
【0003】
テンディノパシーとは、種々の腱障害を表すために使用される一般用語である。「テンディニティス(tendinitis)」なる語は、「腱の炎症」を意味し、しばしば、腱で起きた問題を表すために使用されるが、炎症はめったに腱疼痛の原因とはならない。最も一般的には、腱疼痛は、実際、腱またはその周辺の結合組織における一連の微小断裂(microtear)の症状であり、より正式には、テンディノシス(tendinosis)と呼ばれる。他の腱障害は、繊維非配向性を伴うコラーゲン変性、腱におけるムコイド基質の増加、石灰化、腱の酷使、脈管化、加齢、および体の隆起部に対する腱の摩擦を原因とする腱疼痛を包含する。テンディノパシーは、益々多くの腱の専門家によって、これらの状態を表すために使用されており、しばしば、テンディニティス、テンディノシス、パラテンディニティス(paratendinitis)、腱滑膜炎、パラテノニティス(paratenonitis)、腱酷使損傷および外傷を総称するものとして特徴付けられる。Khan et al., Sports Med 27:393-408 (1999)。
【0004】
正常な腱組織は、高い引張強度を有する一次、二次および三次繊維束において同じ方向に走っているコラーゲン繊維の規則的に配列された束が高密度に詰め込まれた結合組織から成る。これらの繊維のなかに散在しているのは、I型コラーゲンが豊富な粘性の細胞外マトリックス(ECM)を合成する平坦で先細りした腱細胞である。I型コラーゲン束は、腱の柔軟性および構造的支えを提供する。健康な腱において、ECMの合成および分解の間に動的平衡が存在する。しかしながら、テンディノパシーは、この平衡に不利な影響を及ぼし、その結果、コラーゲン繊維の構造的な再配列および無秩序をもたらす。コラーゲン束の無秩序は、腱に軟骨を出現させる。繊維芽細胞、筋繊維芽細胞、新血管形成、およびECMにおけるグリコサミノグリカン(GAGs)の病理学的蓄積は、明らかに、テンディノパシーを患った組織において顕著である。Tallon et al., Med Sci Sports Exerc 33(12):1983-90 (2001); Khan et al., Sports Med 27(6):393-408 (1999)。損傷を受けた腱における代謝的および形態学的変化により、疼痛がもたらされ、また、断裂および破壊されやすくなる。
【0005】
現在、損傷を受けた腱のECMの分解およびリモデリングは、アグリカン、デコリンおよびビグリカンなどのマトリックス巨大分子を分解することのできる、内在結合組織細胞および侵入炎症細胞からのメタロプロテイナーゼの放出によって引き起こされると考えられている。これらのメタロプロテイナーゼは、MMPs(Matrix Metalloproteinases)、ADAMs(A Disintegrin And Metalloproteinase)およびADAMTs(A Disintegrin And Metalloproteinase with Thrombospondin Motifs、例えば、アグリカナーゼ)を包含する。Riley G., Expert Rev Mol Med 7(5):1-23 (2005); Rees et al., Biochem J 350:180-188 (2000)。しかしながら、MMPsの幅広いスペクトルの阻害剤に関する臨床試験は、テンディノパシーに対する病理学的類似性を有する骨関節炎の治療において不成功に終わった。Clark et al., Expert Opin Ther Targets 7(1):19-34 (2003)。したがって、メタロプロテイナーゼの阻害がテンディノパシーの治療に効果的であることはなさそうである。実際、棘上筋腱およびアキレス腱などの高応力下の腱において、腱に最適なレベルのECMを提供するために最小レベルのメタロプロテイナーゼ活性が必要とされるかもしれない。Riley G., Expert Rev Mol Med 7(5):1-23 (2005)。
【0006】
現在、種々の標準的な非手術的および手術的テンディノパシー治療が存在する。非手術的方法は、休息、凍結療法、活動修正、理学療法、非スイテロイド性抗炎症薬(NSAIDs)およびコルチコステロイドを包含する。休息および活動修正は、これらの病態のいくつかの患者を助けうるが、これらの療法では治療できない臨床的に有意な集団が残っている。経口抗炎症薬物療法は、使用の広がりにもかかわらず、比較研究において有用であることが証明されておらず、望ましくない副作用を有することがある。さらに、いくつかの研究では、非スイテロイド性薬物療法は、疼痛を緩和することによって、患者にテンディノパシーの初期症状を無視させるので、実際に、治癒過程に悪影響を与えうることを示唆する。
【0007】
コルチコステロイドは、通常、組織の炎症を減少させるために使用されるが、テンディノパシーの治療のためのかかる薬物の使用は、特に、コルチコステロイドがコラーゲン合成を阻害することから、勧められない。いくつかの研究では、コルチゾンで治療された患者において短期改善が観察されたが、1年以上患者を追跡すると、高い症状再発率および疑わしい有効率が明らかになった。コルチゾン注射は、また、腱破壊、感染、皮膚の色素脱失、および皮膚萎縮の危険性を有する。
【0008】
腱修復のための外科的方法は、損傷を受けた腱の創面切除および修復を包含する。しかしながら、観血手術または関節鏡視下手術は、深部感染、神経血管構造に対する損傷および瘢痕形成などの多くの合併症の可能性を有する。該手術はまた、費用がかかり、局所または全身麻酔に関連した付加的な危険性を有する。
【0009】
したがって、現存する治療法を越える腱関連傷害の治療プロトコールに対する要望が今だにある。柔軟性腱組織に対する傷害または他の損傷は、治癒が遅く、完全に修復するのに何ヶ月も、または何年もかかることがある。腱関連傷害は、社会に重大な影響を与えている。酷使による傷害は、米国における全腱関連外来診療の7パーセント近くを占める。Woodwell et al., Adv Data 346:1-44 (2004)。米国労働省労働統計局からの情報によれば、かかる傷害は、労働時間の重大な喪失につながっている(http://www.bls.gov/lif参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明は、テンディノパシーの治療に対する新規なアプローチを提供する。酷使されたラットの腱の転写プロファイリングを行うことによって、今回、アグリカン、バーシカン、Col2a1(II型コラーゲン)およびSox9などの軟骨特異的遺伝子の発現レベルが傷ついた腱において増加することが見出された。これらの結果は、酷使の結果として、傷ついた腱組織が繊維軟骨に変換されることを示唆する。主にI型コラーゲンからなる腱とは異なり、繊維軟骨は、II型コラーゲンおよび大きなプロテオグリカン、例えば、アグリカンおよびバーシカンを含有する。軟骨組織は、腱の密接に詰められたI型コラーゲン繊維を崩壊させるので、腱内での軟骨および繊維軟骨の形成は、腱修復に不利益である。該崩壊は、腱の引張強度および弾力性を減少させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、患者の腱組織における軟骨特異的プロテオグリカンの形成を減少させることによって、患者においてテンディノパシーを治療する方法を提供する。本発明は、また、テンディノパシーの治療のための医薬の製造のための軟骨特異的プロテオグリカンの形成を減少させる化合物の使用を提供する。
【0012】
いくつかの具体例において、該方法および使用は、患者の腱組織におけるアグリカンおよび/またはバーシカンの合成に関与する酵素の活性を減少させることを包含する。特定の具体例において、該方法および使用は、患者の腱組織におけるコンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(CS−GalNAcT−1)および/またはガラクトサミンポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(GalNT−1)の活性を減少させることを包含する。他の具体例において、該方法および使用は、限定するものではないが、UDP−D−キシロース:コアタンパク質β−D−キシロシルトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、コンドロイチン硫酸シンターゼ、およびヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼを包含する軟骨プロテオグリカン合成に関与する1以上の他の酵素の活性を減少させることを包含する。
【0013】
軟骨構造タンパク質の産生に関与する酵素および他のタンパク質の活性は、酵素または他のタンパク質の機能を直接または間接的に阻害することによって減少されうるか、または酵素または他のタンパク質自体の発現を阻害することによって減少されうる。
【0014】
本発明は、また、患者の腱組織における軟骨特異的構造タンパク質の発現を減少させることによって、患者においてテンディノパシーを治療する方法を提供する。本発明は、さらに、テンディノパシーを治療するための医薬の製造のための軟骨特異的構造タンパク質の発現を減少させる化合物の使用を提供する。いくつかの具体例において、例えば、限定するものではないが、アグリカン、シンデカン3(syn−3)、バーシカン、およびII型コラーゲンなどの軟骨特異的構造タンパク質の発現が直接阻害される。他の具体例において、軟骨特異的遺伝子の発現に関与する転写因子の活性が減少される。これらの転写因子およびシグナル変換タンパク質は、例えば、Sox9を包含する。
【0015】
他の具体例において、本発明は、試験化合物を治療の必要な対象に投与し、次いで、該薬物の、腱組織におけるグリコグリコサミノグリカン(GAGs)の合成に関与する酵素の活性を阻害する能力を測定することを特徴とする、テンディノパシーを治療するための化合物の同定方法を包含する。
【0016】
ある特定の具体例において、テンディノパシーを治療するための化合物の同定方法または治療の評価方法は、(1)Cs−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、ヘパラン硫酸(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1(Hs3st1)、GalNT−1およびSox9からなる群から選択される少なくとも1つの試料成分を提供し、(2)該試料を試験化合物と合わせ、(3)該試験化合物に応答する該試料成分の活性を測定し、次いで、(4)該試験化合物が該試料成分の活性を阻害するかどうかを決定することを含む。
【0017】
本発明の付加的な目的および利点は、一部、下記の記載に示され、一部、該記載から明らかであり、または本発明の実施によって分かるものである。本発明の目的および利点は、下記の詳細な記載および添付の特許請求の範囲において特に示される要素および組み合わせの手段によって実現し、達成されるであろう。
【0018】
上記の一般的な記載および下記の詳細な記載の両方は、単なる例示であって説明のためのものであり、主張されるように、本発明を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0019】
添付の図面は、本明細書中に組み込まれ、その一部を成すものであるが、本発明のいくつかの具体例を説明し、明細書の記載と一緒になって、本発明の原理を説明するために役立つものである。
【0020】
図面の簡単な説明
図1〜7において、SSTは棘上筋腱を示し、PTは膝蓋腱非傷害内部対照を示し、Rは酷使プロトコールに付された動物を示し(Soslowsky et al., J. Shoulder Elbow Surg. 9:79-84 (2000))、Cは酷使プロトコールに付されなかった対照動物を示し、時間的経過は、1、2および4週であり、BMは骨髄を示す。
【0021】
図1は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるCol2a1(II型コラーゲン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図1A)。Col2a1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図1B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Col2a1が高く発現されることを示す。
【0022】
図2は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるAgc1(アグリカン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図2A)。Agc1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図2B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Agc1が高く発現されることを示す。
【0023】
図3は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるSox9(sry型高移動度群box9)の遺伝子発現プロファイルを示す(図3A)。Sox9遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図3B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Sox9が高く発現されることを示す。
【0024】
図4は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるCspg2(バーシカン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図4A)。バーシカン遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図4B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、バーシカンが高く発現されることを示す。
【0025】
図5は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるコンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(CS−GalNAcT−1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図5A)。CS−GalNAcT−1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図5B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、CS−GalNAcT−1が高く発現されることを示す。
【0026】
図6は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるGalNT−1(GalNT1−UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチド−N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図6A)。GalNT−1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図6B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、酷使した腱組織において、GalNT−1が高く発現されることを示す。
【0027】
図7は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるHs3st1(ヘパラン硫酸(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図7A)。Hs3st1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図7B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、酷使した腱組織において、および正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織において、Hs3st1が高く発現されることを示す。
【0028】
配列の簡単な記載
CS−GalNAcT−1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_018371);マウス(NM_172753);およびラット(XM_224757)。
【0029】
CS−GalNAcT−2のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_018590);マウス(NM_030165);およびラット(XM_232316)。
【0030】
GalNT−1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_020474);マウス(NM_013814);およびラット(NM_124373)。
【0031】
アグリカンのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_001135);マウス(NM_007427);およびラット(NM_022190)。
【0032】
Col2a1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_001844);マウス(NM_031163)およびラット(NM_012929)。
【0033】
Sox9のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_000346);マウス(NM_011448);およびラット(XM_343981)。
【0034】
バーシカンのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_004385);マウス(XM_488510)およびラット(XM_215451)。
【0035】
ヘパラン硫酸(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、下記の受入番号の下、Genbankから入手可能である。ヒト(NM_005114)、マウス(NM_010474)、およびラット(NM_053391)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
発明の詳細な記載
本発明は、腱組織における軟骨および/または繊維軟骨形成に関与する1以上の分子の活性を減少させることによって、テンディノパシーを治療する方法を提供する。
【0037】
本発明がより容易に理解されために、まず、ある特定の用語を定義付ける。付加的な定義は、本発明の詳細な記載を通して示される。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「テンディノパシー」なる語は、限定するものではないが、テンディニティス、テンドニティス、テンディノシス、パラテンディニティス、腱滑膜炎、腱酷使傷害および外傷、腱周囲炎(perintendinitis)、およびパラテノニティスを包含する、腱および腱周辺で起きる全ての病状を包含する。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「腱欠陥」なる語は、限定するものではないが、テンディノパシーを包含するいずれかの腱障害を示す。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「損傷を受けた腱」なる語は、テンディノパシーまたは腱欠陥を罹患している腱組織を示す。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「酷使」なる語は、直接的な外傷とは対照的に、酷使の結果として腱欠陥またはテンディノパシーを罹患している腱を示す。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「患者」または「対象」なる語は、腱欠陥に罹りやすい、腱欠陥に罹患している、または腱欠陥からの回復過程にあって、治療が必要ないずれかのヒトまたは動物を示す。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「テンディニティス」なる語は、テンドニティス(もう一つ別の綴り)、テンディノパシーまたは腱の炎症を示す。
【0044】
本明細書中で使用される場合、「テンディノシス」なる語は、腱を弱くする微小断裂(microtear)が腱において起こるテンディノパシーまたはいずれかの変性状態を示し、しばしば、疼痛、凝り、力の喪失を引き起こす。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「腱傷害」なる語は、腱組織が欠陥または変性状態になるテンディノパシーまたはいずれかの状態を示す。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「小型分子」なる語は、生物学的プロセスに影響を及ぼすように作用することができる、ポリペプチドおよび核酸以外のいずれかの化学基または他の基を包含する。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「治療する」または「治療」なる語は、ヒトを包含する哺乳動物における疾患のための医療のいずれかの適用または応用を示し、疾患を阻害することを包含する。それは、例えば、退行を引き起こすこと、喪失した、失われた、または欠陥のある機能を復旧または修復すること、または効果のない過程を刺激することによって、疾患発症を阻止すること、および疾患を軽減することを包含する。
【0048】
本明細書中で使用される場合、「活性」なる語は、種々の手段によって阻害、減少または干渉されることのできる酵素またはタンパク質の生物学的機能を示す。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「酵素活性」なる語は、酵素に関連した1以上の生理学的、触媒的、調節的または酵素的活性を示す。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「有効量」なる語は、意義のある患者の利益、すなわち、テンディノパシーの治癒または症状の治癒および改善率の増加を示すのに十分な本発明の各阻害剤の全量を意味する。
【0051】
I.腱および軟骨の成分
腱は、少量のIII型コラーゲン、繊維芽細胞様腱細胞および軟骨細胞様繊維軟骨細胞が間に散らばったI型コラーゲンの正しく並べられた層からなる。I型コラーゲンは、緻密なコラーゲン繊維中に詰められており、これは、付着した筋肉によって腱が引き伸ばされ、引っ張られる間、強度および剛性を腱に提供する。対照的に、軟骨は、II型コラーゲンおよびプロテオグリカンからなり、圧縮には抵抗するが、引っ張りには抵抗しないように設計されている。繊維軟骨は、腱および軟骨組織の混合物であり、主として、腱と骨との間の中間面で見出される。腱内での軟骨および繊維軟骨の形成は、密接に詰められたI型コラーゲン繊維を破壊し、腱の引張強度を減少させるので、腱の機能に有害である。したがって、損傷を受けた、または傷ついた腱組織における軟骨および/または繊維軟骨の形成を防ぐ、または減少させるために、本発明の方法を用いてもよい。
【0052】
腱における軟骨形成の1つの兆候は、組織におけるプロテオグリカンレベルの増加の存在であり、しばしば、これらのプロテオグリカンのグリコサミノグリカン(GAG)側鎖の存在によって検出される。プロテオグリカンは、1以上の線状GAG鎖を有するコアタンパク質によって特徴付けられる糖タンパク質のファミリーであり、反復二糖単位によってできている。アグリカンおよびバーシカンなどのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンは、軟骨特異的である。アグリカンは、軟骨の主要な構造成分であり、軟骨の圧縮強度および弾力性の原因となる。アグリカン分子の水和および凝集は、軟骨組織における圧縮荷重を吸収する粘性ゲルを創り出す。Watanabe et al., J. Biochem 124(4):687-93 (1998)。軟骨組織に存在する他のプロテオグリカンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、例えば、シンデカン3(syn−3)を包含する。Kirn-Safran et al., Birth Defects Res 72(Part C):69-88 (2004)。
【0053】
II.軟骨および繊維軟骨形成を促進する分子
本発明は、一部、軟骨特異的遺伝子(例えば、アグリカン、バーシカンおよびII型コラーゲン)の発現が傷ついた腱において増加するという知見に基づく。該結果は、Soslowsky et al., J Shoulder Elbow Surg. 9:79-84 (2000)において記載されるラット腱酷使モデルにおいて得られた遺伝子発現プロファイルを用いて、酷使の結果として、傷ついた腱が繊維軟骨に変換することを示唆する。
【0054】
本発明は、また、一部、軟骨特異的プロテオグリカンのグリコサミノグリカン(GAG)側鎖の合成に関与する酵素の発現が酷使した腱において増加するという知見に基づく。軟骨特異的酵素が損傷を受けた腱においてアップレギュレートされるという知見は、激しく損傷を受けた腱において観察されるGAGの蓄積のためのメカニズムを提供する。Khan et al., Sports Med 27:393-408 (1999) および Tallon et al., Med Sci Sports Exerc 33(12):1983-90 (2001)。これらの増加したGAGレベルは、アグリカン、バーシカンおよびsyn−3などのプロテオグリカンのレベルが損傷を受けた腱において増加することを示す。かくして、テンディノパシーは、軟骨特異的プロテオグリカンの産生の原因である酵素の活性を減少させることにより、これらのプロテオグリカンの蓄積を防ぐことによって、治療することができる。
【0055】
A.軟骨形成を促進する分子はテンディノパシーにおいてアップレギュレートされる。
Affymetrix GeneChip(登録商標)システムは、正常な腱および酷使プロトコールに付された腱の間の遺伝子発現における差異を同定するために使用された。遺伝子発現プロファイルは、酷使後の棘上筋腱において差別的にレギュレートされている400個を超える遺伝子を生じた。4週間の酷使によって、107個の遺伝子がアップレギュレートされ、27個の遺伝子がダウンレギュレートされた。最も高くアップレギュレートされた遺伝子のいくつかは、軟骨特異的遺伝子であり、コラーゲン2型アルファ−1鎖(Col2a1)、Sox9、バーシカンおよびアグリカンを包含する。他のアップレギュレートされた遺伝子は、軟骨プロテオグリカン上のGAG側鎖の形成に関与するものを包含し、CS−GalNAcT−1、GalNT−1およびHs3st1を包含する。これらの結果に基づくと、これらの分子自体、あるいはこれらの分子の活性またはこれらの分子をコードしている遺伝子の発現の開始または維持に関与する他の分子は、酷使された腱における軟骨および/または繊維軟骨の形成に関与しうるようである。これらの分子は、下記に列挙するような酵素、転写因子およびシグナル変換因子を包含しうる。
【0056】
1.酵素
腱組織における軟骨または繊維軟骨の産生を阻害する一の方法は、プロテオグリカン合成に関与する酵素の発現または活性を阻害することである。プロテオグリカンGAG鎖合成に関与する酵素の完全なリストのために、Silbert et al., IUBMB Life 54:177-186 (2002) および Sugahara et al., IUBMB Life 54:163-175 (2002)を参照のこと。これらの酵素は、その発現が酷使された腱において増加するタンパク質を包含する(実施例1)。したがって、本発明の一の具体例は、下記の酵素のいずれか1つの発現または活性を阻害することを含む。
【0057】
コンドロイチン硫酸GAG側鎖の開始および伸長に関与するCS−GalNAcT−1およびCS−GalNAcT−2(EC 2.4.1.174およびEC 2.4.1.175)。CS−GalNAcT−1は、コンドロイチンGAGsの開始および伸長に関与し、一方、CS−GalNAcT−2は、同じコンドロイチンGAGsの伸長に関与する。これらの酵素の詳細な記載に関しては、Uyama et al., J. Biol. Chem. 277(11):8841-8846 (2002); Gotoh et al., J. Biol. Chem. 277(41):38189-38196 (2002); Sato et al. J. Biol. Chem. 278(5):3063-3071 (2003); Uyama et al., J. Biol. Chem. 278(5):3072-3078 (2003)を参照のこと。
【0058】
GAG側鎖合成の第一工程の一つである、最初のXyl基のプロテオグリカンコアタンパク質上への付加に関与するUDP−D−キシロース:コアタンパク質β−D−キシロシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.2.269)。
【0059】
新規なGAG側鎖のXyl基上へのガラクトース残基の付加に関与するGalトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.133およびEC 2.4.1.134)。
【0060】
新規なGAG側鎖のガラクトース残基上へのGlcA基の付加に関与するGlcAトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.135、EC 2..4.1.226、およびEC 2.4.1.225)。
【0061】
CS−GalNAcT酵素によって付加されたコンドロイチン硫酸GAGsのGalNAc基へのGlcNAc基の付加に関与するGlcNAcトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.223およびEC 2.4.1.224)。
【0062】
コンドロイチン硫酸GAGs上の硫酸残基の移動に関与するスルホトランスフェラーゼ(EC 2.8.2.5およびEC 2.8.2.1)。
【0063】
コンドロイチン硫酸GAGsへの硫酸残基の最初の付加に関与するコンドロイチン硫酸シンターゼ(EC 3.1.6.4およびEC 3.1.6.12)。
【0064】
GalNT−1(E.C.2.4.1.41)は、糖タンパク質上のO−結合型オリゴ糖側鎖の形成における第一工程を触媒する。White et al., J Biol Chem 270(41):24156-65 (1995)。
【0065】
Hs3st1(EC 2.8.2.23)は、ヘパラン硫酸GAGs上への硫酸残基の付加を触媒する。Shworak et al., J Biol Chem 272(44):28008-19 (1997)。
【0066】
直接的または間接的に、これらの酵素のいずれか1つの活性を阻害することは、プロテオグリカンの形成を減少させるであろう。これらの酵素の阻害方法は、下記に論述する。
【0067】
2.遺伝子発現
軟骨および/または線維軟骨の形成を防ぐための別法は、損傷を受けた腱組織における軟骨特異的タンパク質の発現を直接的または間接的に防ぐことである。例えば、バーシカンまたはアグリカン、軟骨特異的プロテオグリカンの発現は、アグリカンまたはバーシカンをコードしている遺伝子の転写または翻訳を防ぐこと、または、アグリカンまたはバーシカン遺伝子の発現に関与する転写因子の発現または機能を防いで、その結果、これらの遺伝子の転写を防ぐことを包含するいくつかの方法によって減少されうる。
【0068】
プロテオグリカンおよびII型コラーゲンを包含する多くの軟骨特異的因子は、機能的関節軟骨および他の組織の重要な要素なので、本発明を実施する場合、軟骨特異的因子の阻害が損傷を受けた腱に局在することを確実にすることが重要である。
【0069】
腱組織における軟骨および/または繊維軟骨の形成を阻害するための一の方法は、軟骨構造タンパク質の発現に関与する非酵素的タンパク質の活性または発現を阻害することである。これらの遺伝子の発現または活性を阻害することによって、軟骨および/または繊維軟骨組織を構成するタンパク質の発現を間接的に阻害することができる。軟骨構造タンパク質の発現に関与するタンパク質は、限定するものではないが、Sox9を包含する。
【0070】
腱組織における軟骨または繊維軟骨の形成を阻害するための他の方法は、主要な軟骨構造タンパク質、例えば、アグリカン、バーシカン、およびII型コラーゲンの発現(活性とは対照的に)を直接的に阻害することを含む。下記の遺伝子は、損傷を受けた腱組織においてアップレギュレートされることが分かっており、軟骨形成に関連する。
【0071】
a)Sox9
Sox9(sry−型高移動度群box9)は、軟骨の発生に関与する転写因子である。Sox9は、軟骨細胞において発現し、コラーゲンアルファ1(II)遺伝子(Col2a1)の発現と一致する。Sox9は、II型コラーゲンなどの軟骨構造タンパク質を発現する遺伝子の転写を活性化または増加することによって、軟骨形成を調節する。Shum et al., Arthritis Res. 4(2):94-106 (2002); Bi et al., Nat. Genet. 22(1):85-9 (1999)。
【0072】
b)Col2a1
Col2a1は、軟骨の主要成分であるII型コラーゲンのアルファ1鎖をコードする。Cheah et al., Proc Natl Acad Sci U S A 82(9):2555-9 (1985)。
【0073】
c)Agc1
Agc1は、アグリカンプロテオグリカンのコアタンパク質をコードする。Doege et al., Extracellular Matrix Genes (Sandel, L. J.; Boyd, C. D., eds.) Academic Press (New York) 137-152 (1990)。本明細書中で使用する場合、「アグリカン」なる語は、軟骨組織に特異的な大きなプロテオグリカンを示す。アグリカンは、多数のコンドロイチン硫酸GAG基で被覆されたタンパク質コアからなる。アグリカンは、軟骨の主要な構造成分であり、水と結合して粘性ゲル様物質を形成することができる。この水和は、軟骨組織に弾力性および圧縮強度を提供する。
【0074】
d)Cspg2
Cspg2は、バーシカンプロテオグリカンのコアタンパク質をコードする。バーシカンは、多数のコンドロイチン硫酸側鎖を有する別の大きなプロテオグリカンである。アグリカンと同様に、バーシカンは水と結合して、組織の強度および弾力性を増加する粘性ゲルを形成する。Knudson et al., Sem Cell Dev Biol 12:69-78 (2001)。
【0075】
B.軟骨形成を促進する分子の阻害によるテンディノパシーの治療
本発明は、上記に挙げた分子の発現および/または活性を減少させることによるテンディノパシーの治療または予防方法を提供する。さらに、本発明は、テンディノパシーを治療または予防するために、上記に挙げた分子の阻害剤を投与する方法を提供する。
【0076】
1.治療法
本発明は、一部、対照組織と比較した場合、酷使した腱組織において、アグリカン、バーシカン、Sox9、II型コラーゲン、CS−GalNAcT−1、GalNT−1およびHS3st1をコードしている遺伝子の発現レベルが有意に増加するという知見に基づく(図1〜7)。該結果は、プロテオグリカン合成経路に関与する酵素または他の分子の増加した発現が、傷ついた腱組織の軟骨および/または繊維軟骨への変換を導くことを示す。したがって、一の具体例において、本発明は、軟骨および/または繊維軟骨の合成に関与する酵素または他の分子の活性、発現または蓄積を阻害することによって、腱組織における軟骨および/または繊維軟骨の形成を減少させることを特徴とするテンディノパシーの治療方法を包含する。
【0077】
腱における軟骨または繊維軟骨形成に関与する酵素または他の分子の活性を遮断することのできる阻害剤は、本発明において有用である。本発明の方法において有用な阻害剤は、グリコシル化、peg化、または別の非タンパク性ポリマーに連結されていてもよい。阻害剤は、改変された(すなわち、元の、または天然のグリコシル化パターンから改変された)グリコシル化パターンを有するように修飾されていてもよい。本明細書中で使用される場合、「改変された」なる語は、元の阻害剤と比べて、1以上の炭水化物部分が付加または欠失されていること、および/または1以上のグリコシル化部位が付加または欠失されていることを意味する。グリコシル化部位の阻害剤への付加は、当該分野でよく知られたグリコシル化部位コンセンサス配列を含有するようにアミノ酸配列を改変することによって達成されうる。炭水化物部分の数を増加させる別の手法は、阻害剤のアミノ酸残基にグリコシドを化学的または酵素的にカップリングすることによる。これらの方法は、WO 87/05330、およびAplin et al., Crit Rev Biochem 22:259 306 (1981)に記載されている。基質上に存在するいずれかの炭水化物部分の除去は、Sojar et al., Arch Biochem Biophys 259:52-57 (1987); Edge et al., Anal Biochem 118:131-137 (1981); および by Thotakura et al., Meth Enzymol 138:350-359 (1987)によって記載されているように、化学的または酵素的に達成されうる。
【0078】
また、例えば、ペプチド、小型分子および核酸を包含するタンパク質性および非タンパク質性阻害剤を本発明の方法に使用してもよい。
【0079】
a)ペプチドおよび小型分子
本発明の方法に有用な阻害剤は、小型有機ペプチドおよび分子ならびに小型無機分子を包含する。これらのペプチドおよび小型分子は、合成および精製天然阻害剤を包含する。目的のタンパク質を特異的に標的とするペプチドおよび小型分子を同定する方法は、当該分野でよく知られている。例えば、標的タンパク質の酵素的および/または生物学的機能のアッセイを用いて、ペプチドおよび/または小型分子ライブラリーを標的タンパク質、例えば、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1および/またはSox9の阻害についてスクリーンしてもよい。別の具体例において、小型分子および/またはペプチドライブラリーを標的タンパク質、例えば、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1および/またはSox9の競合的放射性リガンド結合アッセイにおいて、それらの基質またはリガンドを用いてスクリーンしてもよい。
【0080】
別法では、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づくアッセイ、例えば、時間分解FRET(TR−FRET)アッセイを、阻害剤を同定するために用いてもよい。例示的具体例において、プロテオグリカンのコアタンパク質をHisまたはGSTタグで標識し、ユーロピウム、フルオロフォアに結合した抗−HisまたはGST抗体を用いてタンパク質を標識する。別法では、コアタンパク質は、リジンまたはシステイン残基上で、非特異的にユーロピウムで標識される。ドナー糖分子は、Cy5、蛍光染料で標識する。該アッセイにおいて有用なドナーおよびアクセプター分子のリストは、Uyama et al., J Biol Chem 278(5):3072-78 (2003)の表Iに見出すことができる。
【0081】
アクセプターおよびドナー分子は、標的酵素と共に、および標的酵素を伴わずに、種々の比率で合わせられる。TR−FRETアッセイは、340nmで系を励起し、各々、615および665nmでユーロピウムおよびCy5の発光を測定し、次いで、ユーロピウム発光に対するCy5発光の比を計算することによって行われる。
【0082】
酵素が存在しない場合、ドナーおよびアクセプター分子は、互いに近接にならず、Cy5およびユーロピウム分子の個々の蛍光の消光もなく、その結果、ベースラインレベル比がもたらされる。標的酵素をアッセイ系に加えた場合、ドナー糖分子がアクセプタータンパク質に移動し、系の蛍光が消光する。Cy5のユーロピウム蛍光に対する比は、移動した糖分子の量に伴って、最大まで増加する。
【0083】
標的酵素の阻害剤を同定するために、ペプチドまたは小型分子を該アッセイ系に加える。試験化合物が糖のタンパク質への移動を阻害できる場合、蛍光の消光が減少する。試験化合物が酵素の移動活性の100%を阻害することができるならば、ユーロピウム発光に対するCy5発光の比は、ベースラインレベルにある。該アッセイにおいて酵素活性の少なくとも50%を阻害する化合物は、次いで、GAG合成を減少する能力について評価するための、細胞ベースの系において評価される(下記)。
【0084】
本発明は、また、例えば、上記に詳述したアッセイを用いて腱の形態に対するかかる分子の影響をさらに同定するために、付加的なスクリーニングアッセイ、例えば、二次および三次アッセイの使用を提供する。
【0085】
b)ドミナント・ネガティブ変異体
本発明のある特定の具体例において、変異CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1またはSox9タンパク質を本発明の方法において阻害剤として用いてもよい。例えば、イン・ビボおよびイン・ビトロの両方で上記の分子の活性に対しドミナント・ネガティブ効果を有する天然の変種または人工改変ホモログは、本発明の方法において使用されうる。
【0086】
c)核酸
上記で挙げた標的分子の活性を遮断することのできる核酸は、本発明において有用である。かかる阻害剤は、例えば、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1またはSox9と相互作用するタンパク質をコードしうる。別法では、かかる阻害剤は、標的分子(例えば、GalNAc)の基質またはリガンドと干渉することのできるタンパク質をコードしていてもよく、コード化されたタンパク質が標的分子のその基質またはリガンドへの結合を遮断する場合、または標的分子の結合後に基質またはリガンドの活性を遮断する場合、本発明の方法において有用でありうる。もちろん、阻害剤は、標的分子およびその基質またはリガンドと同時に相互作用するタンパク質をコードしていてもよい。かかる核酸は、例えば、本発明の方法において有用なCS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、Hs3st1、GalNT−1またはSox9阻害剤を発現するために使用することができる。
【0087】
本発明の方法は、また、上記した分子またはそのタンパク質結合パートナーのいずれかの発現を減少させるために、限定するものではないが、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)および短鎖二本鎖RNA(sdsRNA)を包含する干渉RNA(RNAi)の使用を包含する。RNAiは、核酸分子、例えば、合成短鎖干渉siRNAまたはRNA干渉剤を導入して、標的遺伝子の発現を阻害またはサイレントにすることによって開始することができる。例えば、米国特許公報第2003/0153519号および第2003/01674901号および米国特許第6,506,559号および第6,573,099号を参照のこと。
【0088】
siRNAは、化学的に合成してもよく、イン・ビトロ転写によって製造してもよく、または宿主細胞内で生産してもよい。典型的には、siRNAは、少なくとも15〜50ヌクレオチド長、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長である。siRNAは、約19、20、21または22ヌクレオチド長を包含する約15〜約40ヌクレオチド長、例えば、約15〜約28ヌクレオチド長の二本鎖RNA(dsRNA)であってもよく、各鎖において約0、1、2、3、4、5、または6ヌクレオチド長の3’および/または5’オーバーハンドを含有していてもよい。siRNAは、転写的サイレンシングによって標的遺伝子を阻害しうる。好ましくは、siRNAは、標的メッセンジャーRNAの分解または特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)によって、RNA干渉を促進することができる。
【0089】
本発明の方法において用いられるsiRNAはまた、小型ヘアピンRNAs(shRNAs)を包含する。shRNAは、約5〜約9ヌクレオチドのヌクレオチドループが次に続く短い(例えば、約19〜25ヌクレオチド)アンチセンス鎖、およびその類似のセンス鎖からなる。別法では、センス鎖は、ヌクレオチドループ構造の前にあってもよく、アンチセンス鎖が後ろに続いてもよい。これらのshRNAは、プラスミドおよびウイルス性ベクター中に含有されていてもよい。
【0090】
siRNA分子の標的領域は、所定の標的配列から選択されうる。例えば、ヌクレオチド配列は、開始コドンの約25〜100ヌクレオチド下流から開始することができる。ヌクレオチド配列は、5’または3’非翻訳領域、ならびに開始コドンに近い領域を含有することができる。siRNA分子の設計および調製方法は、当該分野でよく知られており、RNAi試薬としての配列を選択するための種々の規則を包含する。例えば、Boese et al., Methods Enzymol 392:73-96 (2005)を参照のこと。
【0091】
siRNAは、Hannon et al., Nature 418:244 251 (2002); McManus et al., Nat Reviews 3:737 747 (2002); Heasman et al., Dev Biol 243:209 214 (2002); Stein et al., J Clin Invest, 108:641 644 (2001); および Zamore et al., Nat Struct Biol 8(9):746 750 (2001)に記載されるような標準的な技術を用いて製造すればよい。好ましいsiRNAは、5’リン酸化されている。
【0092】
siRNA阻害剤は、例えば、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1、Sox9、Agc1、Cspg1またはCol2a1、または上記の他の分子、ならびにその基質またはリガンドを標的とするために使用することができる。
【0093】
核酸は、その天然環境から、実質的に純粋または均一な形態で取得、単離および/または精製されうる。種々の異なる宿主細胞におけるポリペプチドのクローニングおよび発現のための系は、よく知られている。適当な宿主細胞は、細菌、哺乳動物細胞、酵母、およびバキュロウイルス系を包含する。異種ポリペプチドの発現のために当該分野で入手可能な哺乳動物細胞系統は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NS0マウスメラノーマ細胞等を包含する。核酸からタンパク質を製造するのに適当な他の細胞については、Gene Expression Systems, Eds. Fernandez et al., Academic Press (1999)を参照のこと。RNAi分子は、化学的に合成してもよく、またはsiRNAまたはshRNA配列をコード化したDNA配列から発現させてもよい。
【0094】
上記した分子のドミナント・ネガティブ変異体の製造のために、適当な調節配列を含有し、プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、選択またはマーカー遺伝子および適宜、他の配列を含む適当なベクターを選択または構築することができる。ベクターは、適宜、プラスミドまたはウイルス性、例えば、ファージ、またはファージミドであってもよい。さらなる詳細については、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrook et al., 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を参照のこと。例えば、核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、DNAの細胞中への導入および遺伝子発現、およびタンパク質の分析において、核酸を扱うための多くの既知の技術およびプロトコールは、Current Protocols in Molecular Biology, Eds. Ausubel et al., 2nd ed., John Wiley & Sons (1992)において詳細に記載されている。
【0095】
核酸は、付加的なポリペプチド配列をコードしている他の配列、例えば、マーカーまたはレポーターとして機能する配列に融合することができる。マーカーまたはレポーター遺伝子の例は、ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン(G418)耐性の原因)、ジヒドロホレートレダクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、lacZ(ガラクトシダーゼをコード化している)、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)、ルシフェラーゼを包含する。その他、多くが当該分野で知られている。
【0096】
2.酵素的活性の阻害
本発明の特定の具体例において、テンディノパシーを治療する方法は、プロテオグリカンの生合成に関与する酵素、例えば、アグリカンおよび/またはバーシカンへのコンドロイチン硫酸GAGsの付加に関与する酵素の活性を減少、阻害またはダウンレギュレートすることを含む。これらの酵素は、例えば、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、UDP−D−キシロース:コアタンパク質β−D−キシロシルトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、コンドロイチン硫酸シンターゼ、Hs3st1およびGalNT−1を包含する。
【0097】
例示的具体例において、本発明は、損傷を受けた腱におけるCS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、および/またはHs3st1酵素の活性を減少、阻害またはダウンレギュレートする方法を包含する。他の具体例において、本発明は、損傷を受けた腱におけるXylトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GalNAcトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、またはコンドロイチン硫酸シンターゼ活性を減少、阻害またはダウンレギュレートする方法を包含する。上記のペプチドまたは小型分子阻害剤は、これらの方法を実施するために使用してもよい。
【0098】
a)酵素活性の阻害剤の同定
本発明は、さらに、損傷を受けた腱組織において、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1、Xylトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GalNAcトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、および/またはコンドロイチン硫酸シンターゼの阻害剤として作用することのできる薬剤の効力を同定および評価する方法を含む。
【0099】
かかる阻害剤は、腱における軟骨または繊維軟骨形成に関与する酵素の活性を遮断または減少させる。これらの阻害剤は、修飾された可溶性基質、タンパク質、小型分子および核酸を包含する。
【0100】
テンディノパシーを治療するための薬剤を同定する方法は、上記の酵素に対する個々の薬剤の効果、上記の酵素の酵素活性、タンパク質−標的相互作用、またはタンパク質−タンパク質相互作用をアッセイすることを含む。種々のイン・ビボまたはイン・ビトロアッセイをテンディノパシーの治療における阻害剤の効力を決定するために用いてもよい。一の例示的具体例において、小型分子は、上記の酵素への影響力、例えば、上記の酵素の酵素活性、標的結合、またはタンパク質−タンパク質相互作用への影響力をハイスループットスクリーニング(HTS)のような方法によってアッセイすることによって、その治療的有用性の可能性をイン・ビトロで評価される。
【0101】
典型的なHTSアッセイにおいて、候補化合物の、例えば、酵素活性、リガンド−レセプター結合などに対する阻害効果は、既知濃度の候補物質の存在下におけるアッセイの終点を、候補物質の不在下および/または既知阻害化合物の存在下において実施した対照と比較することによって測定することができる。一般に、従来の染料、蛍光または放射性分子を用いて、候補化合物の影響をモニターする。かくして、例えば、リガンドとそのレセプターとの結合を阻害するか、または酵素活性を阻害し、それにより、酵素過程のターンオーバーを減少させる候補化合物を同定することができる。
【0102】
本発明の例示的具体例は、(1)CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、およびHs3st1からなる群から選択される少なくとも1つの試料を提供し、(2)試験薬剤と該試料成分を合わせ、(3)該試験薬剤に応答した該試料成分の活性を測定し、次いで、(4)該試験薬剤が該試料成分の活性を阻害するかどうかを決定することを含む、テンディノパシーを治療するための薬剤を同定するイン・ビトロでの方法を提供する。
【0103】
一の例示的具体例において、テンディノパシーを治療するための薬剤を同定するイン・ビトロでの方法は、軟骨外植片、初代軟骨細胞ペレット培養、または軟骨細胞系統をBMP−2タンパク質またはBMP−2タンパク質を発現しているアデノウイルスで処理することを含む。BMP−2は、ECMおよびGAG合成を刺激する。次いで、試験化合物を培養物に加え、GAG合成に対する阻害剤の効果を、GAG側鎖中への35Sの組込みを測定することによって、および/またはDMMBアッセイによって評価する。試験化合物の効果は、適当なビヒクル対照と比較する。
【0104】
可能性のある酵素阻害剤のイン・ビボアッセイは、(1)試験阻害剤を哺乳動物(例えば、Sprague−Dawleyラット)に少なくとも2、4、6または8週間、繰り返し投与し、(2)該哺乳動物を17m/分にて1時間/日、5日間/週で下り坂ランニングプロトコールに付し(実施例1)、次いで、(3)該阻害剤の棘上筋腱に対する効果をDMMBまたはABアッセイによって、または遺伝子発現プロファイリングによって決定することを含んでいてもよく、ここに、腱変性(例えば、細胞および形態学的異常)の減速は、該阻害剤に起因すると考えられ、該阻害剤が腱変性障害の治療に有効であることを示す。
【0105】
本発明の方法において有用な試験阻害剤は、腱変性障害の1以上の動物モデルおよび/またはヒトにおいて評価されうることが理解されよう。
【0106】
イン・ビボおよびイン・ビトロでの阻害剤の存在下で酵素活性を測定するための種々のアッセイが当該分野で知られている。より頻繁に使用されるアッセイのいくつかの例は、分光光度法、蛍光分光分析、円偏光二色性、自動分光光度および蛍光分光法、共役アッセイ、酸または塩基の自動滴定、放射能法、無標識光学的検出、および酵素阻害アッセイを包含する。例示的具体例において、CS−GalNAcT−1および/またはCSGalNAcT−2の酵素活性は、Uyama et al., J Biol Chem 277(11):8841-46 (2002)に記載されているように測定される。別の例示的具体例において、GalNT−1の酵素活性は、White et al., J Biol Chem 270 (41):24156-65 (1995)に記載されているように測定される。
【0107】
本発明の方法において有用な酵素阻害剤は、例えば、それらが阻害する酵素と相互作用しうる。別法では、阻害剤は、例えば、酵素基質(例えば、GalNAc)または他の結合パートナーと相互作用しうる。阻害剤は、酵素の基質への結合を遮断する場合、および/または酵素の結合後に基質の活性を遮断する場合、本発明において有効でありうる。もちろん、阻害剤は、酵素および第2因子、例えば、基質の両方と相互作用しうる。この点において、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、および/またはHs3st1阻害剤は、例えば、修飾された可溶性基質、他のタンパク質(酵素に結合するもの、および/または酵素基質を包含する)、修飾された形態の酵素またはそのフラグメント、プロペプチド、ペプチド、およびこれらの阻害剤全ての模倣物を包含する。
【0108】
酵素阻害剤は、例えば、直接的酵素阻害剤であってもよく、酵素に結合して酵素活性を中和してもよく、酵素発現レベルを減少させてもよく、前駆体分子の活性な成熟形態への安定性または変換に影響を及ぼしてもよく、酵素の1以上の基質への結合を干渉してもよく、または酵素の細胞内機能を干渉してもよい。
【0109】
3.転写因子活性の阻害
本発明の方法において有用な転写因子の阻害剤は、結合することによって直接的に、またはタンパク質−タンパク質相互作用および/または結合性を干渉することによって間接的に、因子の活性を阻害または減少しうる。この点において、Sox9の阻害剤は、修飾された可溶性リガンドまたは標的分子、小型分子、および核酸を包含しうる。
【0110】
イン・ビボおよびイン・ビトロで阻害剤の存在下においてSox9活性を測定するためのアッセイは、当該分野で知られている。より頻繁に使用されるSox9阻害剤に関するアッセイのいくつかの例は、酵母2ハイブリッドシステム、ルシフェラーゼリポーター遺伝子、Sox9阻害剤の存在下で軟骨細胞特異的遺伝子(例えば、Col2a1、Agc1)の発現レベルを決定するためのPCRアッセイ、Sox9または軟骨細胞特異的遺伝子のウェスタンブロット分析、一時的トランスフェクション、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)アッセイ、およびノーザンブロット分析を包含する。
【0111】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づいた種々のタンパク質−タンパク質またはタンパク質−核酸相互作用アッセイを、Sox9とその結合パートナーとの相互作用に対する阻害剤の影響をアッセイするために利用してもよい。例えば、AlphaScreenTM(登録商標)増幅ルミネセンス近接均一アッセイ(PerkinElmer)を用いることができ、またはバイオルミネセンス共鳴エネルギー移動(PerkinElmerのBRETTM)を用いて、Sox9結合相互作用に干渉する阻害剤についてイン・ビトロでアッセイを行ってもよい。
【0112】
一の具体例において、本発明は、(1)ドナー蛍光発生分子と融合した上記の標的分子を提供し、(2)該標的分子を試験薬剤と合わせ、(3)アクセプター蛍光性分子に融合した該標的分子の結合パートナーを加え、(4)該標的分子とその結合パートナーとの間の蛍光エネルギー移動レベルを測定し、次いで、(5)該試験薬剤が該標的分子とその結合パートナーとの相互作用を阻害したかどうかを決定することを含む、テンディノパシーを治療するための薬剤を同定するためのイン・ビトロアッセイの方法を提供する。
【0113】
阻害剤は、標的分子のその結合パートナーへの結合を干渉することができ、次いで、その2物質間のFRETレベルに影響を及ぼすことができる。したがって、FRET測定は、種々の効力の阻害剤を同定するために用いることができる。いったん標的分子の阻害剤がイン・ビトロで同定されたならば、さらにイン・ビボでの試験を行って、腱における軟骨および線維軟骨の形成の防止における阻害剤の効力および利用性を決定することができる。
【0114】
4.タンパク質発現の阻害
別の具体例において、テンディノパシーを治療するための方法は、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1、Col2a1、Cspg1、Agc1、および/またはSox9などの遺伝子およびそのコード化されたポリペプチドまたはタンパク質の発現および/または蓄積を減少、阻害またはダウンレギュレートすることを含む。これらの遺伝子の発現を阻害するのに有用な組成物は、例えば、上記セクションII(B)(1)(c)に記載した干渉RNA分子を包含する。
【0115】
これらの阻害剤は、いずれの方法で投与してもよいが、特定の具体例において、RNA阻害剤を発現しているDNAをアデノウイルスベクター中に組み込み、次いで、それを腱修復を必要とする患者に注射する。例示的具体例において、Wahdwa et al., Curr Opin Mol Ther 6(4):367-72 (2004)に記載されているように、RNAiをコードしているヌクレオチド配列をpolIIプロモーターの下流に配置する。siRNAおよびshRNAのアデノウイルスベクター中への挿入方法は、当該分野でよく知られており、例えば、Krom et al., BMC Biotech 6(11):[印刷前に電子出版された]に記載されている。別法では、Schiffelers et al., Arthritis & Rheumatism 52(4):1314-18 (2005)に記載されるように、RNAi阻害剤は、傷ついた腱組織中に直接注射され、エレクトロポレーションによって細胞中に輸送される。
【0116】
5.テンディノパシー病
本発明の方法は、ヒト、霊長類、サル、齧歯類、ヒツジ、ウサギ、イヌ、モルモット、ウマ、ウシ、およびネコを包含する治療を必要とするいずれかの哺乳動物においてテンディノパシーを治療または予防するために用いられうる。治療または予防され得る障害は、例えば、テンディニティス、テンドニティス、テンディノシス、パラテンディニティス、腱滑膜炎、腱酷使傷害、腱外傷、腱周囲炎、パラテノニティス、および「テンディノパシー」病のファミリーにおけるいずれか他の状態を包含する。
【0117】
テンディノパシーは、酷使および反復運動、突発的な傷害(軽度〜重度)、徐々の変性、または加齢によって引き起こされうる。ほとんどの腱傷害は、腱を弱くし、それにより、しばしば疼痛、凝り、および力の喪失を引き起こす回復が遅い一連の微小断裂からなる。テンディノパシーは、通常、数週間の治療、活動の減少または修正、および休息を必要とする。傷ついた腱をあまりにも早くに再び使用すると、より多くの腱損傷を引き起こし、それにより、損傷を受けた腱が断裂または破壊を受けやすくなる。したがって、本発明によって治療または予防される障害は、酷使、スポーツまたは事故に関連した傷害および外傷、栄養不足、および高齢に関連した急性および慢性の両方の腱変性障害を包含する。
【0118】
テンディノパシーの一の例は、外側上顆炎であり、「テニス肘」としても知られており、よく知られたスポーツ医学および整形外科障害である。該障害の基礎となる病理は、肘の短橈側手根伸筋の酷使および微小断裂化に関連する。体はこれらの微小断裂を修復しようとするが、多くの場合、治癒過程が不完全である。慢性外側上顆炎のための手術を受けた患者の病理組織標本は、損傷を受けた腱における無秩序な血管繊維芽細胞形成異常を示す。修復におけるこの不完全な試みは、変性し、未成熟で、かつ脈管化した組織をもたらす。不完全に修復された組織は、正常な腱組織よりも弱く、正常に機能するための力に欠けている。この弱くなった組織は、また、疼痛を引き起こし、生活の質に負の影響を与えることによって、患者を制限する。同様の不完全な修復は、他の型の腱関連傷害または損傷、例えば、膝蓋骨腱炎(ジャンパーのひざ)、アキレス腱炎(ランナーに一般的)、および腱板腱炎(野球の投手のような「オーバーヘッド」アスリートにおいて見られる)において存在しうる。
【0119】
テンディノパシーは、また、例えば、高齢、食事不足、スポーツ活動、外傷、傷害、またはペフロキサシン(pefloxacin)などの薬物によって引き起こされうる。例えば、プロスタグランジンE1(PEG1)−、プロスタグランジンE2(PGE2)−またはペフロキサシン−誘導性テンディノパシーは、ヒトのテンディノパシーのよく確立された動物モデルである。一の具体例において、本発明は、個体における薬物誘導性テンディノパシー、例えば、ペフロキサシン誘導性テンディノパシーの治療または予防方法を提供する。他の例示的具体例において、本発明は、酷使、スポーツまたは事故に関連した傷害および外傷、栄養不足、および高齢によって誘導されるテンディノパシーを治療または予防する方法を提供する。
【0120】
本発明は、さらに、哺乳動物に、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Xylトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GalNAcトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、コンドロイチン硫酸シンターゼ、Col2a1、アグリカン、バーシカン、Hs3st1、および/またはSox9などの分子の活性および/または発現の阻害剤を、テンディノパシーに罹患した組織におけるかかる分子の活性および/または発現を予防または減少させるのに有効な量で投与することによる、腱変性障害を治療または予防する、腱の悪化を遅らせる、腱の質を復旧する、腱の健康を維持する、腱組織の低酸素変性を治療または予防する、腱組織のヒアリン変性を治療または予防する、腱組織のムコイドまたはミクソイド(myxoid)変性を治療または予防する、腱組織のフィブリノイド変性を治療または予防する、腱組織のリポイド変性を治療または予防する、腱組織の石灰化を治療または予防する、腱組織の繊維軟骨および骨化生を治療または予防する、腱の微小構造無欠性を維持する、腱の繊維構造を維持する、腱の繊維配列を維持する、正常な腱血管質を維持する、腱組織における正常な細胞性を維持する、腱組織における正常なECM含量を復旧する、腱組織におけるGAGの病理学的蓄積を減少させる、および/または腱質量、引張強度および/または柔軟性を維持するための方法を提供する。
【0121】
6.治療および動物モデルの評価
本発明の方法は、腱組織におけるテンディノパシーまたは微小欠陥を治療するために使用されうる。治療後または治療の間の腱の質は、例えば、腱の微小構造無欠性、腱コラーゲン染色性、腱組織細胞性における変化、腱血管化、および/またはGAG含量を評価することによって決定することができる。治療後または治療の間の腱の健康を評価する方法は、当該分野で知られており、限定するものではないが、磁気共鳴画像(MRI)、超音波検査、および機能および/または疼痛の評価を包含する。別法では、腱の健康は、腱組織におけるGAGのレベルを評価することによって測定されうる。
【0122】
腱のGAG含量を決定するための一のアッセイは、腱における硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)濃度の測定のための1,9−ジメチルメチレンブルー(DMMB)アッセイである。腱のGAG含量を決定するための別のアッセイは、腱組織におけるGAG量の増加を検出するために使用できる組織学的アルシアンブルー(Alcian blue(AB))染色である。
【0123】
III.治療方法および医薬組成物
本発明の方法において有用な阻害剤は、局所、経口、静脈内、腹膜内、筋内、腔内、皮下、埋め込み、または経皮手段によって局所的または全身的に投与されうる。
【0124】
例示的具体例において、個体への阻害剤の投与は、また、阻害剤をコードしている核酸配列をイン・ビボで患者に投与する遺伝子療法の手段によって達成されうる。例示的具体例において、プロモーター配列および本発明の方法において有用な核酸阻害剤をコードしている配列を含む核酸をアデノウイルス発現ベクター中に挿入する。次いで、該アデノウイルスを患者の腱に直接注射し、ここで、核酸阻害剤が発現される。腱組織への核酸のアデノウイルス媒介性デリバリーの例は、例えば、Mehta et al., J Hand Surg 30A(1):136-41 (2005); Lou et al., J Orthoped Res 19:1199-1202 (2001)およびLou, Clin Orthopaed Rel Res 379S:S252-55 (2000)に記載されている。
【0125】
他の例示的具体例において、核酸阻害剤は、他のウイルス性発現ベクター、例えば、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルス中に組み込まれる。適当なベクターは、初代腱細胞における各型のウイルスのイン・ビトロでの感染性を評価することによって選択されうる。
【0126】
別法では、Schiffelers et al., Arthritis & Rheumatism 52(4):1314-18 (2005)に記載されるように、核酸阻害剤を腱組織中に直接注射し、エレクトロポレーションによって細胞中に移動させる。
【0127】
他の例示的具体例において、本発明の方法において有用なペプチドまたは小型分子阻害剤は、Paoloni et al., J Bone Joint Surg 86A(5):916-22 (2004)に記載されているように、経皮パッチ上にコーティングされ、腱組織を覆う皮膚に直接塗布されてもよい。
【0128】
テンディノパシーの治療のための分子の投与方法は、当該分野で知られている。「投与」は、いずれかの特定のデリバリー系に限定されず、限定するものではないが、非経口(皮下、静脈内、髄内、関節内、筋内、腔内、または腹膜内注射を包含する)、直腸、局所、経皮、または経口(例えば、カプセル、懸濁液または錠剤において)を包含しうる。個体への投与は、単回投与または連続もしくは断続的反復投与において、種々の生理学上許容される塩形態のいずれかにおいて、および/または医薬組成物(上記)の一部としての許容される医薬担体および/または添加剤と共に、局所的または全身的に行ってもよい。生理学上許容される塩形態および標準的な医薬処方技術および賦形剤は、当業者によく知られている。例えば、Physicians' Desk Reference (PDR) 2003, 57th ed., Medical Economics Company, 2002; and Remington: The Science and Practice of Pharmacy, eds. Gennado et al., 20th ed, Lippincott, Williams & Wilkins, 2000)を参照のこと。
【0129】
本発明の方法において有用な阻害剤は、症状の重篤度および疾患の進行度にもよるが、約1μg/kg〜約20mg/kgの投与量で投与されうる。適当な有効投与量は、治療している臨床医によって、例えば、下記の範囲:約1μg/kg〜約20mg/kg、約1μg/kg〜約10mg/kg、約1μg/kg〜約1mg/kg、約10μg/kg〜約1mg/kg、約10μg/kg〜約100μg/kg、約100μg/kg〜約1mg/kg、および約500μg/kg〜約1mg/kgから選択される。
【0130】
別の例示的具体例において、阻害剤は、例えば、テンディノパシーの治療のために、少なくとも2、4、6、8、10、12、20、または40週の期間、または少なくとも1、1.5または2年間あるいは対象の寿命まで、繰り返し投与される。本発明の別の具体例において、阻害剤は、例えば、腱の正常な構造および組成の復旧を刺激するために、単回投与量において投与することができる。
【0131】
一般に、本発明の方法において有用な阻害剤は、10〜8および10〜7;10〜7および10〜6;10〜6および10〜5;または10〜5および10〜4g/kgの投与量で投与されうる。一の動物モデルにおいて達成される治療上有効投与量は、ヒトを包含する別の動物において使用するために、当該分野で知られた換算係数を用いて換算することができる。例えば、Freireich et al., Cancer Chemother Reports 50(4):219 244 (1966)を参照のこと。
【0132】
本発明の方法において使用されるべき阻害剤の正確な投与量は、所望の成果に基づいて経験的に決定される。例示的成果は、(1)腱変性障害が治療または予防されること、(2)腱悪化が遅くなること、(3)腱の質が復旧すること、(4)腱の健康が維持されること、(5)腱の低酸素変性が治療または予防されること、(6)腱のヒアリン変性が治療または予防されること、(7)腱のムコイドまたはミクソイド変性が治療または予防されること、(8)腱のフィブリノイド変性が治療または予防されること、(9)腱のリポイド変性が治療または予防されること、(10)腱の石灰化が治療または予防されること、(11)腱の繊維軟骨および骨化生が治療または予防されること、(12)腱の繊維構造が維持されること、(13)腱の繊維配列が維持されること、(14)腱の正常な血管質が維持されること、(15)腱の正常な細胞性が維持されること、(16)腱に含有される正常なECMが復旧されること、および/または(17)腱質量、引張強度および/または柔軟性が維持されることを包含する。例えば、阻害剤は、腱の悪化(例えば、腱質量、構造構成の喪失および/または微小断裂および疼痛になりやすいこと)を少なくとも20、30、40、50、100、200、300、400または500%遅らせるのに有効な量で投与される。
【0133】
いくつかの具体例において、本発明の方法において用いられる組成物は、さらに、医薬上許容される賦形剤を含む。本明細書中で使用される場合、「医薬上許容される賦形剤」なる語は、医薬投与に適合するいずれか、および全ての溶媒、分散培地、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを示す。医薬上活性な物質に対するかかる培地および薬剤の使用は、当該分野でよく知られている。組成物は、また、補足的、付加的または強化した治療的機能を提供する他の活性な化合物を含有していてもよい。医薬組成物は、また、投与説明書と共に、容器、パックまたはディンスペンサー中に含まれていてもよい。
【0134】
本発明の方法と関連して投与されるべき医薬組成物は、その意図された投与経路と適合性になるように処方されるべきである。かかる処方の例は、ありのまま提供される、または生物分解性ポリマー(例えば、PEG、PLGA)と組み合わせて提供される結晶性タンパク質処方を包含する。
【0135】
本発明の方法において有用な阻害剤は、担体ゲルおよびマトリックスまたは誘導骨再生および/または骨置換のために使用される他の組成物と共に、医薬組成物として投与してもよい。かかるマトリックスの例は、合成ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシアパタイト、コラーゲンおよびフィブチンベースのマトリックス、Tisseelフィブリン接着剤などを包含する。
【0136】
ある特定の具体例において、阻害剤は、他の治療化合物、例えば、NSAIDs、コルチコステロイド、一酸化窒素、テストステロン、エストロゲン、成長因子(例えば、BMP−12、BMP−13およびMP52)と共に、または同時に投与してもよい。
【0137】
本発明の方法において有用な阻害剤は、腱傷害の治療または予防を促進するように、腱インプラント、マトリックスおよびデポー系にコーティングしてもよく、またはこれらの中に組み込んでもよい。
【実施例】
【0138】
実施例1:ラット棘上筋腱は、酷使した軟骨マーカーを表示する。
ラット棘上筋腱の酷使に対する応答を、転写プロファイリングを用いて分子レベルで研究した。腱酷使のラットモデルは、以前に記載されている。Soslowsky et al., J Shoulder Elbow Surg 9:79-84 (2000)。該モデルでは、炎症および血管新生マーカーが変化することが分かっているが(Perry et al., J Shoulder Elbow Surg 14:79S-83S (2005))、酷使傷害の周囲の事象を理解するために、より幅広いアプローチが行われた。
【0139】
24匹の雄性Sprague−Dawleyラット(400−450g)を棘上筋腱(SST)酷使プロトコールに1週間(n=8)、2週間(n=8)、および4週間(n=8)付した。該プロトコールは、17m/分にて1時間/日、5日間/週の下り坂ランニング(10%勾配)からなる。さらに6匹のラットをケージ活動対照として用いた(時間0)。各時点で、さらに2匹のランニングしていないラットを年齢をマッチさせた群対照として用いた。
【0140】
検死にて、各肩由来の棘上筋腱および各膝由来の膝蓋腱(PT)を摘出した。膝蓋腱は、該プロトコールを用いた酷使の著しい兆候を示さないので、運動の影響の内部対照となった。採取した腱の重量を量り、液体窒素中で即座に凍結させた。該組織を凍結切断し、TRIzol試薬(Invitrogen)で抽出した。RNeasyキット(QIAGEN)を用いて、抽出物の水層からRNAを単離した。RNA濃度は、分光光度計を用いて決定した。30,000を越える転写物の発現レベルをモニターするための転写プロファイリングを、Affymetrixラットゲノム230 2.0アレイを用いて行った。全てのアレイ画像を欠陥および質について視覚的に調べた。高いバックグラウンド、低いシグナル強度または重大な欠陥を有するアレイをさらなる分析から排除した。シグナル値は、Gene Chip Operating System 1.0(GCOS,Affymetrix)を用いて決定した。各アレイについて、統計値を平均シグナル強度値100に標準化した。デフォルトGCOS統計値を全ての分析に用いた。いずれかの組織における平均発現が100シグナル単位を越え、GCOSデフォルトセッティングによって決定されたプレゼント(P)コールを有する試料のパーセンテージが66%以上である場合、遺伝子は、検出可能と考えられた。標準化されたシグナル値は、対数の底10に変換された。ANOVA試験由来のp値が<0.01であり、ランニングと対照との間の差異がいずれかの時点で少なくとも2倍である場合、遺伝子は差別的に発現されたと考えられた。
【0141】
400個を越える遺伝子が酷使後の棘上筋腱において差別的に調節された。4週間のランニングによって、107個の遺伝子がアップレギュレートされ、27個の遺伝子がダウンレギュレートされた。最高にアップレギュレートされた遺伝子のうち多くは、コラーゲンII型アルファ1、バーシカンおよびアグリカンを包含する軟骨組織において高く発現される。これらの結果は、酷使した腱が繊維軟骨表現型に変換されていることを示唆した。これらの同じ遺伝子は、走らされた動物の膝蓋腱においてアップレギュレートされなかった(図1〜7参照)。
【0142】
実施例2:siRNA阻害剤の調製
siRNAは、CS−GalNAcT−1、GalNT−1またはHs3st1のヌクレオチド配列を、特異的siRNAを設計するための商業的ウェブサイト(例えば、sirnawizard.comまたはAmbion siRNA Target Finder)中に入力することによって選択される。配列選択ガイドラインがこれらのツールに埋め込まれている。
【0143】
siRNAの効力は、それをC−20/A4および/またはC−28/I2軟骨細胞中にトランスフェクトし、CS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1の発現をリアルタイムRT−PCRによってモニターすることによって測定される。同じヌクレオチド組成を有する適当なスクランブルsiRNAは、実験対照として用いられる。
【0144】
実施例3:プロテオグリカン合成の阻害剤のためのイン・ビトロアッセイ系
siRNAがC−20/A4および/またはC−28/I2軟骨細胞におけるCS−GalNAcT−1、GalNT−1またはHs3st1の発現を減少させることができる場合、次いでそれを、プロテオグリカンGAG側鎖の産生を減少させる能力について試験する。C−20/A4および/またはC−28/I2軟骨細胞は、細胞外マトリックスおよびGAG合成を刺激するためにBMP−2タンパク質またはBMP−2を発現しているアデノウイルスで処理される。siRNA、または別法では、小型分子、GAG合成の阻害剤を培養物に加え、阻害剤の存在下または不在下におけるプロテオグリカン中への35Sの組み込みを比較することによって、阻害剤の効果を評価する。別法では、Arai et al., Osteoarthritis and Cartilage 12:599-613 (2004)に記載されているように、阻害剤の存在下または不在下におけるGAGレベルをDMMBアッセイによって比較することによって、阻害剤の効果を評価する。
【0145】
実施例4:CS−GalNAcT−1、GalNT−1またはHs3st1のsiRNA阻害によるテンディノパシーの治療のためのプロトコール
トレッドミル酷使プロトコール(実施例1)またはPGE1、PGE2もしくはペフロキサシン(300mg/ml)の週に5回、1週間の局所注射のいずれかを用いて、ラットにおいてテンディノパシーを誘導する。
【0146】
一旦、siRNAがCS−GalNAcT−1、GalNT−1またはHs3st1のイン・ビトロ活性を減少させることが見出されたならば、例えば、Krom et al., BMC Biotech 6(11):[電子出版]に記載されるように、それをshRNAに変換し、shRNA配列をクローン化し、アデノウイルス中に挿入する。アデノウイルスは、shRNAのイン・ビボ発現、および続く、CS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1の発現の阻害のために使用される。感染方法は、初代腱細胞において最適化される。
【0147】
shRNAを発現している機能的アデノウイルスは、傷ついた腱中に直接注射されて(Mehta et al., J Hand Surg 30A(1):136-41 (2005))、CS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1遺伝子の発現を局所的に減少させる。スクランブル配列は、実験対照として含まれる。腱における軟骨組織形成量は、GAGレベルを評価することによって求められる。組織学的アルシアンブルー染色を用いて、腱組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)の増加した量を検出する。DMMB試薬を用いて、腱から抽出された硫酸化GAGの量を定量する。
【0148】
CS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1の阻害のテンディノパシーに対する効果のイン・ビボ評価は、組織学によって、および腱強度の機械的または機能的試験によって決定される。非処理対照と比べてGAGレベルが有意に減少する場合、および/または正常な損傷を受けていない腱と類似のレベルまで減少する場合、阻害剤は有効であると考えられる。別法では、機能的または機械的試験が非処理対照と比べて、改善された機能および/または減少した疼痛を明らかにする場合、阻害剤は有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】図1は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるCol2a1(II型コラーゲン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図1A)。Col2a1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図1B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Col2a1が高く発現されることを示す。
【図2】図2は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるAgc1(アグリカン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図2A)。Agc1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図2B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Agc1が高く発現されることを示す。
【図3】図3は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるSox9(sry型高移動度群box9)の遺伝子発現プロファイルを示す(図3A)。Sox9遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図3B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、Sox9が高く発現されることを示す。
【図4】図4は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるCspg2(バーシカン)の遺伝子発現プロファイルを示す(図4A)。バーシカン遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図4B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、バーシカンが高く発現されることを示す。
【図5】図5は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるコンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(CS−GalNAcT−1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図5A)。CS−GalNAcT−1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図5B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織および酷使した腱組織の両方において、CS−GalNAcT−1が高く発現されることを示す。
【図6】図6は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるGalNT−1(GalNT1−UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチド−N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図6A)。GalNT−1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図6B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、酷使した腱組織において、GalNT−1が高く発現されることを示す。
【図7】図7は、Affymetrix RAE230 2.0遺伝子チップを用いて4週間にわたる酷使した腱におけるHs3st1(ヘパラン硫酸(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1)の遺伝子発現プロファイルを示す(図7A)。Hs3st1遺伝子の発現レベルは、また、示される正常な筋骨格組織においても測定された(図7B)。発現プロファイルは、正常な腱組織と比べた場合、酷使した腱組織において、および正常な腱組織と比べた場合、軟骨組織において、Hs3st1が高く発現されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腱組織において軟骨特異的プロテオグリカンの形成を減少させることを特徴とする、患者においてテンディノパシーを治療する方法。
【請求項2】
患者がヒトである請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が霊長類、サル、齧歯類、ヒツジ、ウサギ、イヌ、モルモット、ウマ、ウシおよびネコからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項4】
患者の腱組織においてアグリカン、バーシカン、およびシンデカン−3からなる群から選択されるプロテオグリカンの合成に関与する酵素の活性を減少させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者の腱組織において、コンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(CS−GalNAcT−1)および/またはガラクトサミンポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(GalNT−1)の活性を減少させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、Hs3st1、および/またはGalNT−1の酵素活性を阻害することによって活性を減少させる請求項1記載の方法。
【請求項7】
CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、Hs3st1、および/またはGalNT−1遺伝子の発現を阻害することによって活性を減少させる請求項1記載の方法。
【請求項8】
軟骨産生に関与する転写因子の活性を減少させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
Sox9の活性を減少させることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
Sox9の軟骨特異的遺伝子の発現を増加させる能力を阻害することによって活性を減少させる請求項9記載の方法。
【請求項11】
Sox9遺伝子の発現を阻害することによって活性を減少させる請求項8記載の方法。
【請求項12】
軟骨特異的タンパク質の発現を減少させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
アグリカン、バーシカン、およびシンデカン−3からなる群から選択されるプロテオグリカンの発現を減少させることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
Col2a1の発現を減少させることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
テンディノパシーがテンディニティスである請求項1記載の方法。
【請求項16】
テンディノパシーがテンディノシスである請求項1記載の方法。
【請求項17】
テンディノパシーが腱傷害である請求項1記載の方法。
【請求項18】
患者において腱組織に対し、CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、GalNT−1、Hs3st1、および/またはSox9の阻害剤を投与することを特徴とする、患者においてテンディノパシーを治療する方法。
【請求項19】
阻害剤がCS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1の酵素活性を減少させる請求項18記載の方法。
【請求項20】
阻害剤がCS−GalNAcT−1および/またはGalNT−1の発現を減少させる請求項18記載の方法。
【請求項21】
阻害剤を局所的に投与する請求項18記載の方法。
【請求項22】
阻害剤が干渉RNA分子を含む請求項18記載の方法。
【請求項23】
阻害剤が小型分子を含む請求項18記載の方法。
【請求項24】
患者の腱組織において軟骨特異的タンパク質の発現を減少させることを特徴とする、患者においてテンディノパシーを治療する方法。
【請求項25】
アグリカン、バーシカン、および/またはII型コラーゲンの発現を阻害することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
Sox9の発現を阻害することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項27】
Sox9の活性を阻害することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項28】
試験薬剤を治療の必要な対象に投与し、次いで、該薬剤の腱組織におけるグリコグリコサミノグリカン(GAGs)の生合成に関与する酵素の活性を阻害する能力を測定することを特徴とする、テンディノパシーの治療剤を同定する方法。
【請求項29】
試験化合物を治療の必要な対象に投与し、次いで、該化合物の腱組織におけるグリコグリコサミノグリカンの合成に関与する酵素の活性を阻害する能力を測定することを特徴とする、テンディノパシーの治療に有用な化合物を同定する方法。
【請求項30】
さらに、
(a)CS−GalNAcT−1、CS−GalNAcT−2、ヘパリン硫酸塩(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1、GalNT−1およびSox9からなる群から選択される少なくとも1つの試料成分を提供し、
(b)該試料を試験化合物と合わせ、
(c)該試験化合物に応答した該試料成分の活性を測定し、
(d)該試験化合物が該試料成分の活性を阻害するかどうかを決定する
工程を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
テンディノパシーを治療するための医薬の製造における軟骨特異的プロテオグリカンの形成を減少させる化合物の使用。
【請求項32】
化合物が軟骨の合成に関与する酵素または他のタンパク質の活性を減少させる請求項31記載の使用。
【請求項33】
化合物が酵素またはタンパク質の機能を直接的または間接的に阻害する請求項32記載の使用。
【請求項34】
化合物が酵素またはタンパク質の発現を阻害する請求項32または33記載の使用。
【請求項35】
酵素がUDP−D−キシロース:コアタンパク質β−D−キシロシルトランスフェラーゼ、Galトランスフェラーゼ、GlcAトランスフェラーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、コンドロイチン硫酸シンターゼ、およびヘパリン硫酸スルホトランスフェラーゼからなる群から選択される請求項32〜34のいずれか1項記載の使用。
【請求項36】
酵素がコンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(CS−GalNAcT−1)、コンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(CS−GalNAcT−2)、ガラクトサミンポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(GalNAcT−1)、およびヘパリン硫酸(グルコサミン)3−O−スルホトランスフェラーゼ1(Hs3st1)からなる群から選択される請求項35記載の使用。
【請求項37】
化合物が軟骨特異的構造タンパク質の発現を減少させる請求項31記載の使用。
【請求項38】
化合物が軟骨特異的構造タンパク質の発現に関与する転写因子の活性を減少させる請求項31記載の使用。
【請求項39】
転写因子がSox9である請求項38記載の使用。
【請求項40】
プロテオグリカンがアグリカン、バーシカン、シンデカン−3およびII型コラーゲンからなる群から選択される請求項31〜39のいずれか1項記載の使用。
【請求項41】
テンディノパシーがテンドニティス、テンディニティス、テンディノシス、パラテンディニティス、腱滑膜炎、腱損傷、腱外傷、腱周囲炎およびパラテノニティスからなる群から選択される請求項31〜40のいずれか1項記載の使用。
【請求項42】
霊長類、サル、齧歯類、ヒツジ、ウサギ、イヌ、モルモット、ウマ、ウシおよびネコからなる群から選択される患者に対し、医薬を投与する請求項31〜41のいずれか1項記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−533321(P2009−533321A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558476(P2008−558476)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/063177
【国際公開番号】WO2007/103787
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】