説明

転がり軸受の保持器およびその設計方法

【課題】 保持器外径面のうちポケット幅を除く幅寸法を設定し、保持器外径面と軌道輪内径面の潤滑状態を向上することで、保持器および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることが可能な転がり軸受の保持器およびその設計方法を提供する。
【解決手段】 求めた接触力と釣り合う最小油膜厚さhを、流体潤滑理論に基づき求め、保持器外径面11Aと、この保持器外径面11Aに対峙する外輪軌道面14との合成表面粗さσを求め、最小油膜厚さhが合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法b1を求め、円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法b1以上に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンロッド大端部で使用される転がり軸受の保持器およびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の保持器案内形式には、ボールまたはころからなる転動体で案内する転動体案内方式、内輪または外輪で案内する軌道輪案内方式がある。軌道輪案内方式では、保持器と軌道輪は滑り接触している。この軌道輪案内方式において、遠心力等によって保持器が軌道輪に強く押し付けられる場合、十分な油膜が形成されず、保持器および軌道輪の接触部が摩耗し、不具合を生じることがある。この対策として、例えば保持器の一部に油溜まりを設け、接触部に十分な潤滑油を供給する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−167135号公報
【非特許文献1】村木・木村 潤滑油のトラクション特性に関する研究(第2報),潤滑,28,10(1983)753-760.
【非特許文献2】R. S. Zhou and M. R. Hoeprich Torque of Tapered Roller Bearings, Trans. ASME, J. Trib., 113, 7(1991) 590.
【非特許文献3】山本・兼田 トライボロジー ,理工学社(1998) 88
【非特許文献4】橋本 基礎から学ぶトライボロジー ,森北出版(2006) 94
【非特許文献5】日本規格協会 JISハンドブック 機械要素,日本規格協会(1997)1165-1166
【非特許文献6】村木・木村 潤滑油のトラクション特性に関する研究(第1報),潤滑,28,1(1983)67-73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記軌道輪案内方式では、保持器の一部に油溜まりを設けたものであっても、遠心力等によって保持器が軌道輪に強く押し付けられる場合、十分な油膜が形成されず、保持器および軌道輪の接触部が摩耗し、不具合を生じることがある。
【0004】
この発明の目的は、保持器外径面のうちポケット幅を除く幅寸法を設定し、保持器外径面と軌道輪内径面の潤滑状態を向上することで、保持器および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることが可能な転がり軸受の保持器およびその設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の第1の発明の転がり軸受の保持器は、コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記保持器外径面と外輪軌道面との間の接触力を式(1)で定義し、
【数4】


この式(1)で求めた接触力と釣り合う最小油膜厚さhを、流体潤滑理論に基づき求め、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、前記最小油膜厚さhが前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法b1を求め、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法b1以上に設定したものである。
前記合成表面粗さとは、保持器外径面の二乗平均表面粗さ(Rq)を二乗した値に、外輪軌道面の二乗平均表面粗さ(Rq)に二乗した値を加えた合計値を求め、この合計値の平方根をとり算出した粗さと同義である(以下、第2の発明について同じ)。
【0006】
この構成によると、最小油膜厚さhを求め、この最小油膜厚さhが合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法b1を求め、この最小幅寸法b1を円筒面の幅寸法bの下限値に設定したため、油膜形成性が向上し、保持器および軌道輪の摩耗を抑え、軸受の長寿命化を図ることができる。すなわち、最小油膜厚さhを合成表面粗さσで除した値が1より小さくなる条件、つまりh/σ<1で摩耗量が急増するという村木らの報告(非特許文献1参照)を基に、1≦h/σとなるように設定した。また、従来の保持器の一部に油溜まりを設けた場合よりも、保持器の構成を簡単化し、かつ設計の自由度を高めることができる。したがって、製造コストの低減を図ることができる。
【0007】
この発明の第2の発明の転がり軸受の保持器は、コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記最小油膜厚さhとクランク軸の回転速度との関係を式(2)で表し、
【数5】


前記最小油膜厚さhを式(2)に基づき求め、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求め、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定したものである。
【0008】
この構成によると、上記式(2)では、円筒面の幅寸法bが最小油膜厚さhの陰関数の形で表現されている。最小油膜厚さhに対して陽関数の形で表現することができないため、特定の条件下の最小油膜厚さhを求めるには、収束計算をする必要があるが、例えば数値計算プログラム等により油膜圧力を計算するよりも、最小油膜厚さhを容易に推定することができる。また、最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、この最小幅寸法bmin.を円筒面の幅寸法の下限値に設定したため、油膜形成性が向上し、保持器および軌道輪の摩耗を抑え、軸受の長寿命化を図ることができる。
ここで、1≦h/σ≦3において、h/σが大きくなるほど摩耗量は低減するが、3<h/σにおいて摩耗量は殆んど変化しない。幅寸法bを増やすと、ころ長さが減少し軸受の負荷容量が低下する。3<h/σにおいては、摩耗量低減のメリットは無く、負荷容量低下のデメリットしかないため、最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求め、この最大幅寸法bmax.を円筒面の幅寸法の上限値に設定した。その他第1の発明と同様の作用、効果を奏する。
【0009】
前記保持器をアキシアル平面で切断して視た断面が、略門形または略M字形であっても良い。前記略門形の断面形状にした場合、柱強度に優れ且つころ落ちしない保持器を実現できる。前記略M字形の断面形状にした場合、形状を簡単化でき、且つころ落ちしない保持器を実現できる。
【0010】
プレス加工により、リング状部材にポケットを打ち抜き製作される保持器としても良い。プレス加工により、帯状部材にポケットを打ち抜き、この帯状部材の長手方向一端部と他端部とを対向させてリング状に丸め、前記長手方向一端部と他端部とを溶接接合して製作される保持器としても良い。これらの場合、保持器の製造コストの低減を図ることができる。なお、保持器外径面の仕上げ工程では、研削加工を用いても良い。
【0011】
保持器の少なくとも前記円筒面に、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施しても良い。軟質金属としては、銀や銅などがよく用いられる。樹脂被膜としは、ポリアミドイミドなどが耐熱性や耐摩耗性の点で好ましい。前記円筒面に、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施した場合、保持器外径面と外輪軌道面間のなじみ性(表面粗さの改善性)に優れるため、保持器外径部の摩耗が問題になるようなアプリケーションでは特に有効である。
【0012】
この発明の保持器の設計方法は、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成され、クランク運動する保持器の設計方法において、この略円筒状の保持器外径面のうち、前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記最小油膜厚さhと、クランク半径rcrおよびクランク角速度wcrとの関係を式(3)で表し、
【数6】


前記最小油膜厚さhを式(3)に基づき求める過程と、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求める過程と、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求める過程と、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定し、これら最小幅寸法bmin.および最大幅寸法bmax.を出力する過程とを有するものである。
【0013】
この構成によると、特に、式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求めて、円筒面の幅寸法の下限値および上限値を設定したため、油膜形成性が向上し、保持器および軌道輪の摩耗を抑え、軸受の長寿命化を図ることができ、かつ軸受の負荷容量の低下を最小に抑えることができる。その他第1,第2の発明と同様の作用、効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の第1の発明の転がり軸受の保持器は、コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記保持器外径面と外輪軌道面との間の接触力を式(1)で定義し、
【数7】


この式(1)で求めた接触力と釣り合う最小油膜厚さhを、流体潤滑理論に基づき求め、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、前記最小油膜厚さhが前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法b1を求め、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法b1以上に設定し、保持器外径面と軌道輪内径面の潤滑状態を向上することで、保持器および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることができる。
【0015】
この発明の第2の発明の転がり軸受の保持器は、コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記最小油膜厚さhとクランク軸の回転速度との関係を式(2)で表し、
【数8】


前記最小油膜厚さhを式(2)に基づき求め、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求め、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定したため、軸受の負荷容量の低下を抑えつつ、保持器外径面と軌道輪内径面の潤滑状態を向上することで、保持器および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることが可能となる。
【0016】
この発明の保持器の設計方法は、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成され、クランク運動する保持器の設計方法において、この略円筒状の保持器外径面のうち、前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、前記最小油膜厚さhと、クランク半径rcrおよびクランク角速度ωcrとの関係を式(3)で表し、
【数9】


前記最小油膜厚さhを式(3)に基づき求める過程と、前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求める過程と、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求める過程と、前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定し、これら最小幅寸法bmin.および最大幅寸法bmax.を出力する過程とを有するため、保持器外径面のうちポケット幅を除く幅寸法を設定し、軸受の負荷容量の低下を抑えつつ、保持器外径面と軌道輪内径面の潤滑状態を向上することで、保持器および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図1ないし図8と共に説明する。
本実施形態は、コンロッド大端部で使用されるニードル軸受(針状ころ軸受)に適用される。この実施形態では、ニードル軸受の保持器を適用したが、ニードル軸受の保持器だけに必ずしも限定されるものではない。例えば円筒ころ軸受の保持器に適用することも可能である。なお、以下の説明は、保持器の設計方法についての説明をも含む。
このニードル軸受は、保持器15A(15B)と複数個の転動体Tとを有する。本実施形態に係るニードル軸受NJは、図2に示すように、コンロッド大端部CRの嵌合孔CRaに設けられる。この嵌合孔CRaを形成したコンロッド大端部CRが軌道輪つまり外輪となり、前記嵌合孔CRaの内径面が外輪軌道面に相当する。本実施形態に係るニードル軸受は、軌道輪を構成要件としていない。ただし、コンロッド以外の用途において、軌道輪を構成要件としても良い。前記保持器15A(15B)をアキシアル平面で切断して視た断面が、図1(A)に示すように略M字形、または図1(B)に示すように略門形となる。ただし、前記略M字形はM字形を含み、前記略門形は門形を含む。
【0018】
クランク運動下の保持器は、遠心力によって保持器外径面がコンロッド大端部内径と接触する。この時の接触力を下記の仮定条件(i)ないし(ix)の下、後述する動力学計算プログラムで算出した結果、図3に示すように保持器と外輪間の干渉力Fは、下記式(1)に略等しくなることが明らかになった。図3においては、ニードル軸受の寸法が、内径円径φ26mm、外径円径φ33mm、幅13.8mm、ころ16本、エンジン諸元:排気量125cc、単気筒における干渉力Fを表す。前記干渉力Fは、摩擦力成分を含めた互いに干渉しあう力と同義である。
【0019】
仮定条件について説明する。
(i)ころ、保持器およびコンロッドは、3自由度(2並進変位、および1角変位の自由度)を持つ。
(ii)ピストンは、往復運動方向の並進自由度のみを持つ。ただし、コンロッドとは、滑らかな回転ジョイントによりその小端部で結合される。
(iii)クランクの中心は固定とし、一定角速度で回転する。
(iv)ピストンへは筒内圧力による荷重が作用する。
(v)保持器の弾性変形を考慮する。ただし軸受中心のラジアル平面に対して面対称な変形モードのみを考慮する。
(vi)ころ-軌道面間、ころ-保持器間、および保持器-軌道面間の各干渉部での接触力は、弾性接触理論に準じる。
(vii)トラクション特性は村木らの計算式に準じる(非特許文献1参照)。
(viii)ころと軌道面との接触部にはEHL油膜による転がり粘性抵抗(非特許文献2参照)が存在する。
(ix)保持器外径部-外輪軌道間、および保持器柱-ころ間の接触部潤滑モードは、境界潤滑と仮定する。
【0020】
【数10】

【0021】
前記動力学計算プログラム等について説明する。
3次元での転がり軸受の保持器応力の動力学解析システムは、各種転がり軸受に適用可能である。しかしながら、3次元での動力学解析では、各部品の6自由度ならびに保持器の3次元的な弾性変形の自由度の全てを同時に数値積分するため、計算コストは高い。ところで、ニードル軸受や円筒ころ軸受などでは、ラジアル平面上の物体の挙動のみを取り扱いたい場合がある。この場合に上記の3次元全ての自由度を考慮する動力学解析では効率的でない。また、剛体部品の運動の自由度の拘束は容易にできるが、弾性体として取り扱う保持器の軸方向変位、ならびに自転を除く2軸周りの角変位を拘束するのは難しい。
【0022】
そこで、本実施形態に係る転がり軸受の保持器応力の動力学解析プログラムでは、保持器の弾性変形の自由度を2次元上に限定し、かつ転動体や軌道輪の運動の自由度も2次元上に限定することで、数値積分の必要処理量を減少させている。これにより、転がり軸受の保持器応力を、3次元解析で行った場合よりも短時間で計算を完了させ得る。
図4に示すように、前記動力学解析プログラムが格納される保持器の応力解析システム1は、入力手段2と演算手段3と出力手段4とを含む。前記演算手段3は、軸受構成部品を剛体とみなした転がり軸受の動力学解析モデルが定められ、この動力学解析モデルに、保持器の動的な弾性変形の特性をモード合成法に基づき入力可能な解析モデル設定部3aと、前記解析モデル設定部3aで入力される弾性変形の自由度と、予め定める軸受構成部品の運動の自由度とを同時に数値積分することで、変形の動特性を含む保持器の変形履歴を算出し、該算出される変形履歴を応力分布に変換する応力演算部3bと、前記応力演算部3bで変換された保持器応力を前記出力手段4へ出力する出力処理部3cと、を有し、保持器の弾性変形ならびに転動体、軌道輪ならびに保持器の剛体モードの運動の自由度を2次元上に限定する構成となっている。
【0023】
図4(A),(B)は、本発明の実施形態に係る応力解析システムの電気的構成を表すブロック図である。応力解析システム1は、主に、入力手段2と、演算手段3と、出力手段4とを有する。入力手段2は、たとえばキーボードやポインティングデバイスなどによって実現される。演算手段3は、解析モデル設定部3aと、応力演算部3bと、出力処理部3cとからなる。解析モデル設定部3aは、前述の動力学解析モデルを設定し、この動力学解析モデルに、保持器の動的な弾性変形の特性(固有変形モードおよびその周波数)を、モード合成法に基づき入力可能としたものである。
【0024】
応力演算部3bは、解析モデル設定部3aで入力される弾性変形の自由度と、予め定める軸受構成部品(ころ)の運動の自由度とを同時に数値積分することで、変形の動特性を含む保持器の変形履歴を算出する変形履歴算出部3baと、該算出される変形履歴を応力分布に変換する応力分布変換部3bbとを有する。出力処理部3cは、応力分布変換部3bbで変換した応力分布を出力手段4へ出力する。演算手段3は、たとえば、中央演算処理装置5(略称CPU:Central Processing Unit)、リードオンリーメモリ6(略称ROM: Read Only Memory)、およびランダムアクセスメモリ7(略称RAM: Random Access Memory)を含むマイクロコンピュータと、バス8と、入出力インターフェース9と、出力手段4を駆動するための駆動回路10とを有する。
【0025】
入出力インターフェース9には、バス8を介してCPU5,ROM6,RAM7がそれぞれ電気的に接続されている。入出力インターフェース9に、入力手段2が電気的に接続されるうえ、駆動回路10を介して出力手段4が電気的に接続されている。出力手段4は、たとえば表示出力可能なディスプレイやプリンタなどによって実現される。たとえばROM6に、前述の変形の動特性を含む保持器の変形履歴を算出し、該算出される変形履歴を応力分布に変換するためのプログラムが格納される。RAM7には、入力値、算出される値などが一時的に記憶される。CPU5を制御主体として、演算が実行される。
【0026】
この構成によると、動力学解析モデルに保持器の動的な弾性変形の特性をモード合成法に基づき導入し、弾性変形の自由度と、軸受構成部品の運動の自由度とを同時に数値積分することで、変形の動特性を含む保持器の変形履歴を得ることができる。該変形履歴に基づいて保持器応力を得ることができる。特に、保持器の弾性変形ならびに転動体、軌道輪ならびに保持器の剛体モードの運動の自由度を2次元上に限定する構成により、3次元解析で行った場合よりも短時間で保持器応力の計算結果を得ることが可能となる。
【0027】
次に、保持器外径部の油膜厚さの計算方法について説明する。
図1に示すように、保持器外径部11は、円周方向に一定間隔おきに形成される、換言すれば断続したポケット柱部12と、円周方向に連続した円筒部13とに分類される。油膜圧力をレイノズル方程式に基づき求める数値計算プログラムを用いて、前記ポケット柱部12に生じる油膜を計算したが、その効果は認められなかった。
これに対して、前記円筒部13で生じる油膜は比較的大きな負荷能力が認められた。よって、円周方向に連続した円筒部13での最小油膜厚さのみに着目して、この円筒部13の幅寸法bを決定すればよい。この幅寸法bは、円筒部13の円筒面のうち、面取部13cの幅寸法Lcを除く残余の幅寸法である。
【0028】
上記のように数値計算プログラムの援用により、流体潤滑理論に基づく油膜による力が式(1)の保持器外径部11への荷重と釣り合う最小油膜厚さhを求めることができる。この最小油膜厚さhが、保持器外径面11Aとこれに対峙する外輪軌道面14との合成表面粗さσに等しくなる幅寸法b1を求める。この幅寸法b1を最小幅寸法として設定すれば、油膜が支持する荷重の割合が増えることから、保持器外径面11Aの摩耗を軽減できる。
前記合成表面粗さσは、保持器外径面11Aの二乗平均表面粗さ(Rq)を二乗した値に、外輪軌道面14の二乗平均表面粗さ(Rq)に二乗した値を加えた合計値を求め、この合計値の平方根をとり算出した粗さである。具体的に、保持器外径面11Aの二乗平均表面粗さ(Rq)がα(μm)、外輪軌道面14の二乗平均表面粗さ(Rq)がβ(μm)とすると、合成表面粗さσは、√(α+β)により求められる。
なお、後述のように、クランク回転速度が上昇すると、保持器外径面11Aの最小油膜厚さhが減少することから、クランク回転速度としては最も厳しい条件の使用限界速度を用いて、保持器幅寸法を決定すればよい。
【0029】
ところで、一般的には保持器における本円筒部13の幅径比が小さい。つまり、保持器の全幅寸法Lに占める円筒部13の幅寸法の比率は小さい。その場合、無限小幅軸受理論(非特許文献3参照)に基づき、油膜による力すなわち最小油膜厚さhを計算できると考えられる。油膜による力は、以下の式(2)により表される。なお、該無限小幅軸受理論の適用条件は、保持器直径寸法Dに対する幅寸法の比が0.25以下の場合である(非特許文献3参照)。
【0030】
【数11】

【0031】
クランクピンは転がり軸受の内輪軌道に相当し、内輪軌道はクランク軸と共にクランク軸回転速度ωcrで回転する。通常、内輪回転する転がり軸受の保持器は、およそ内輪0.4倍の速度で回転することから、コンロッド大端のニードル軸受の保持器も、慣性系でおよそクランク軸回転速度ωcrに0.4を乗じた0.4ωcrで回転する。
ところで、保持器15A(15B)と軌道輪の接触は、遠心力のため絶えずクランク中心から半径方向外方側の保持器外径部11で生じるため、慣性座標系を基準とすると、クランク角速度ωcrで回転していることになる。保持器外径面11Aと外輪軌道面14との接触位置を基準として見ると、保持器15A(15B)はおよそ−0.6ωcrで移動し、外輪16は−ωcrで移動する。
【0032】
上記式(2)において、保持器外径部11の油膜の力は表面速度の和に比例するため、軸回転数N´=1.6ωcr/2πとすればよい。
上記式(2)に対して、軸受幅Lに保持器15A(15B)の幅寸法b、軸受半径R(図示せず)に保持器外径Dの2分の1、N´=1.6ωcr/2πならびに油膜力に上記式(1)による保持器荷重の2分の1を代入すれば、保持器15A(15B)における軸方向片側の連続した円筒部13と、軌道輪である外輪16との間に存在する最小油膜厚さとクランク軸の回転速度との関係が得られ、下記式(3)となる。
【0033】
【数12】


式(3)において、幅寸法bのみを左辺に残すよう整理すると、式(4)を得る。
【数13】

【0034】
上記式(4)では、幅寸法bが最小油膜厚さhの陰関数の形で表現されている。最小油膜厚さhに対して陽関数の形で式を表現することができないため、特定の条件下の最小油膜厚さhを求めるには収束計算をする必要がある。しかし、上記式(4)によれば、前述の数値計算プログラムによる油膜圧力を計算するよりも、容易に最小油膜厚さhを推定することができる。よって、幅寸法bを容易に求めることが可能となる。求めた幅寸法bは、図4の出力手段4により出力される。
【0035】
上記式(4)によるクランク回転速度に対する保持器外径部11の最小油膜厚さhの計算例を図5に示す。図1も参照しつつ説明する。クランク回転速度の増加により保持器外径面11Aの荷重が増加するため、最小油膜厚さhは減少する。また保持器外径面11Aの連続した円筒部13の幅寸法bが大きいと、最小油膜厚さhが大きいこともわかる。具体的に、潤滑油粘度グレード ISO VG22 130℃、保持器外径面11A、外輪軌道面14間の半径すきま 0.1mmの条件下で、たとえばクランク回転速度が2000rpmの場合、幅寸法bが1.0mmのものは、最小油膜厚さhが約0.26μmとなる。同一条件下で、クランク回転速度が2000rpmの場合、幅寸法bが2.0mmのものは、最小油膜厚さhが約0.74μmとなる。
よって、クランク軸の最高回転速度において、保持器15A(15B)の適切な幅寸法bを選定すれば、保持器15A(15B)と外輪16との間に常に油膜が存在し、保持器15A(15B)および外輪16の摩耗を軽減することが可能と考えられる。
【0036】
上記式(4)の妥当性について説明する。
エンジンを模擬したクランク運動する試験装置にて、保持器15Bの幅寸法bをいくつか変更して、保持器外径面11Aの摩耗を目視確認した結果を図6、図7および表1に示す。運転条件は、回転速度5000rpm、試験時間1時間、潤滑油粘度グレードISO VG22を適用した。試験に供した保持器15Bは、いずれも鋼製で表面被膜なしの状態である。試験個数は、同一幅寸法bにつき各2個づつである。
【表1】

【0037】
円環幅つまり保持器15Bの幅寸法bが図6(a)に示すように2.2mmのものは、保持器外径面11Aに摩耗痕が全く認められなかった。この状態を表1において、保持器摩耗状態として「◎」と表記した。幅寸法bが1.8mmのものは、軽微な摩耗が認められ、この状態を表1において、保持器摩耗状態として「○」と表記した。幅寸法bが1.5mmのものは、部分的に凝着摩耗が認められ、この状態を表1において、保持器摩耗状態として「△」と表記した。幅寸法bが1mmのものは、円環部のほぼ全幅にわたって激しい凝着摩耗が認められ、この状態を表1において、保持器摩耗状態として「×」と表記した。
この試験結果によると、保持器15Bの幅寸法bの増加に伴い、保持器外径面11Aにおいて目視確認できる摩耗痕が減少した。本実験から、実際のコンロッド大端用ニードル軸受の保持器15A(15B)においても、保持器15A(15B)の幅寸法bの増加により、保持器外径面11Aの油膜厚さの増加が確認できる。
【0038】
また、外輪静止条件下で保持器単体を運転し、その間の金属接触率を測定したところ、図8のようになった。図8において、横軸の膜厚比は、上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhを、実測した保持器外径面11Aと外輪軌道面14との合成粗さσで除算したものである。縦軸の金属接触率は、印加電圧をVI、外輪と保持器間の電位差をVBとし、


のように定義される。
この膜厚比が「3」以上では金属接触率は10%以下でほぼ一定だったが、膜厚比が「3」を下回ると金属接触率は急増し、且つ膜厚比に対して大きなばらつき無く、ほぼ直線的な変化を呈した。合成表面粗さσは、表面粗さの突起高さの標準偏差であり、最小油膜厚さhが合成表面粗さσの3倍を超えると確率論的に殆んど保持器15A(15B)と外輪16とが接触しなくなるはずである。金属接触率の測定結果は、この知見ともよく合致する。
図6,7、図8に示す2つの試験結果より、保持器外径面11Aの油膜厚さは上記式(4)にほぼ合致すると考えられる。
【0039】
上記式(4)では、円筒面の幅寸法bが最小油膜厚さhの陰関数の形で表現されている。最小油膜厚さhに対して陽関数の形で表現することができないため、特定の条件下の最小油膜厚さhを求めるには、収束計算をする必要があるが、例えば数値計算プログラム等により油膜圧力を計算するよりも、最小油膜厚さhを容易に推定することができる。
【0040】
上記式(4)により求めた最小油膜厚さhが、合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(4)により求めた最小油膜厚さhが、合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求める。保持器15A(15B)の円筒面の幅寸法bを、前記最小幅寸法bmin.以上とすれば、油膜で支持する荷重が増加し、摩耗が軽減され、前記最大幅寸法bmax.以下に設定すれば、油膜でほぼ完全に荷重を支持し、かつ軸受の負荷容量の低下を最小に抑えることができ、軸受の長寿命化を図ることができる。なお、クランク回転速度が上昇すると、保持器外径面11Aの最小油膜厚さhが減少することから、クランク回転速度は使用限界速度を用いて最小幅寸法bmin.を決定しなければならない。
【0041】
以上説明した保持器15A(15B)は、鋼製で表面被膜等が施されていないものについて説明した。この発明の他の実施形態として、保持器表面に、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施しても良い。軟質金属としては、銀や銅などが適用される。たとえば、保持器表面に銅めっきを施した外径φ32.9mm、軸受幅13.8mm、幅寸法b=1.475mm、表面粗さおよそ0.4μmの保持器をコンロッド大端に組み込み、クランク回転数10000rpmで5時間運転した後の保持器外径部11およびコンロッド大端内径の接触部の粗さは、それぞれおよそ0.15μm、0.07μmとなった。したがって、合成表面粗さσは、√(0.15+0.07)=0.17μmと求められる。
【0042】
軟質金属めっきは、接触によりその表面粗さが容易に小さくなるため、製造時の粗さとは無関係に保持器外径面11Aの最小油膜厚さhが0.17μmとなる幅寸法bを下限値bmin.とする。幅寸法bの上限値bmax.として無限小幅軸受理論の適用限界である0.25Dを採用する。または幅寸法bの上限値bmax.として、合成表面粗さσとして求めた0.17μmの3倍となる「0.51」を採用する。このような幅寸法bの下限値、上限値を採用すると、耐摩耗性の点で好ましい。
【0043】
樹脂被膜としては、ポリアミドイミドなどが耐熱性や耐摩耗性の点で好ましい。ただし、樹脂被膜はポリアミドイミドに限定されるものではない。
以上説明したように、保持器15A(15B)に軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施した場合、保持器外径面11Aと外輪軌道面14間のなじみ性つまり表面粗さの改善性に優れる。このため、保持器外径部11の摩耗が問題になるようなアプリケーションでは特に有効である。この実施形態では、保持器15A(15B)全体に軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施しているが、この形態に限定されるものではない。たとえば、保持器外径面11Aの円筒面だけに、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施してもよい。図1に示すように、保持器側面11Bおよび前記円筒面に、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施してもよい。このような場合であっても、上記と同様の効果を奏する。
【0044】
図1(A)に示すように、保持器15Aを略M字形の断面形状にした場合、形状を簡単化でき、且つころ落ちしない保持器を実現できる。図1(B)に示すように、保持器15Bを略門形の断面形状にした場合、柱強度に優れ且つころ落ちしない保持器を実現できる。
この保持器15A(15B)は、プレス加工によりリング状部材からポケットPtを打ち抜き製作されるものとしても良い。プレス加工により、帯状部材にポケットPtを打ち抜き、この帯状部材の長手方向一端部と他端部とを対向させてリング状に丸め、前記長手方向一端部と他端部とを溶接接合して製作される保持器としても良い。また、必要に応じて削り加工を用いて製造しても良い。これらの場合、保持器の製造コストの低減を図ることができる。なお、保持器外径面11Aの仕上げ工程では、研削加工を用いても良い。
以上説明した転がり軸受の保持器15A(15B)を、コンロッド大端部以外のクランク運動する箇所に設けても良い。この場合、保持器15A(15B)および軌道輪の摩擦および摩耗を低減でき、かつ適用可能な運転限界の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(A)この発明の一実施形態に係る略M字形の断面形状の保持器の断面図であり、(B)この発明の一実施形態に係る略門形の断面形状の保持器の断面図である。
【図2】同保持器が組込まれるコンロッドの平面図である。
【図3】クランク軸回転速度に対する保持器外径面の干渉力を表す図である。
【図4】(A)本発明の実施形態に係る応力解析システムの電気的構成を概略表すブロック図、同応力解析システムの演算手段を主に表すブロック図である。
【図5】クランク軸回転速度に対する保持器外径面の最小油膜厚さを表す図である。
【図6】クランク運動下での保持器円環幅の試験後外観を表す図であり、図6(a)は円環幅2.2mmの外観を表す図、図6(b)は円環幅1.8mmの外観を表す図である。
【図7】クランク運動下での保持器円環幅の試験後外観を表す図であり、図7(a)は円環幅1.5mmの外観を表す図、図7(b)は円環幅1mmの外観を表す図である。
【図8】外輪静止下での保持器外径部の計算による膜厚比と、金属接触率との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0046】
11…保持器外径部
11A…保持器外径面
13…円筒部
14…外輪軌道面
15A,15B…保持器
16…外輪
b…幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、
この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、
前記保持器外径面と外輪軌道面との間の接触力を式(1)で定義し、
【数1】


この式(1)で求めた接触力と釣り合う最小油膜厚さhを、流体潤滑理論に基づき求め、
前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、
前記最小油膜厚さhが前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法b1を求め、
前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法b1以上に設定した転がり軸受の保持器。
【請求項2】
コンロッド大端に組み込まれる転がり軸受の保持器であって、転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成された保持器において、
この略円筒状の保持器外径面のうち前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、
前記最小油膜厚さhとクランク軸の回転速度との関係を式(2)で表し、
【数2】


前記最小油膜厚さhを式(2)に基づき求め、
前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求め、
上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、
上記式(2)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求め、
前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定した転がり軸受の保持器。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記保持器をアキシアル平面で切断して視た断面が、略門形または略M字形である転がり軸受の保持器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、プレス加工により、リング状部材にポケットを打ち抜き製作される転がり軸受の保持器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、プレス加工により、帯状部材にポケットを打ち抜き、この帯状部材の長手方向一端部と他端部とを対向させてリング状に丸め、前記長手方向一端部と他端部とを溶接接合して製作される転がり軸受の保持器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、保持器の少なくとも前記円筒面に、軟質金属めっき処理または樹脂被膜処理を施した転がり軸受の保持器。
【請求項7】
転動体を保持する複数のポケットを有する略円筒状に形成され、クランク運動する保持器の設計方法において、
この略円筒状の保持器外径面のうち、前記ポケットの保持器軸方向両側に形成された、周方向に連続した円筒面の片側の幅寸法をbとし、前記円筒面と、この円筒面に対峙する外輪軌道面との間の最小油膜厚さをhとし、
前記最小油膜厚さhと、クランク半径rcrおよびクランク角速度ωcrとの関係を式(3)で表し、
【数3】


前記最小油膜厚さhを式(3)に基づき求める過程と、
前記保持器外径面と、この保持器外径面に対峙する外輪軌道面との合成表面粗さσを求める過程と、
上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσに等しくなる最小幅寸法bmin.を求め、上記式(3)に基づき求めた最小油膜厚さhが、前記合成表面粗さσの3倍となる最大幅寸法bmax.を求める過程と、
前記円筒面の幅寸法bを、最小幅寸法bmin.以上最大幅寸法bmax.以下に設定し、これら最小幅寸法bmin.および最大幅寸法bmax.を出力する過程と、
を有する保持器の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−150434(P2009−150434A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326948(P2007−326948)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】